説明

静電多極子型の偏向器・レンズの製造方法および偏向器・レンズ

【目的】本発明は、粒子線ビームを偏向あるいは集束・発散する静電多極子型の偏向器・レンズの製造方法および静電多極子型の偏向器・レンズに関し、作成が容易で失敗がなく熟練を要しなく、製造費用が極めて安く、治具と多電極子の精度により高精度を得ることを目的とする。
【構成】静電多極子を構成する各電極子について、軸方向の位置および軸方向と直角方向である半径方向の位置を所望の位置に固定する治具と、静電多極子を構成する各電極子を固定すると共に固定した各電極子に電圧を印加するためのパターンを設けたプリント基板とを備え、静電多極子を構成する各電極子を治具に固定して静電多極子の軸方向および半径方向の位置を所望の位置に保持した状態で、各電極子をプリント基板のパターンに固定した後、治具を解放して静電多極子をプリント基板上に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電多極子型の偏向器・レンズの製造方法および偏向器・レンズに関するものであって、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、収束イオンビーム装置(FIB)等の荷電粒子線の偏向や集束などを行う電子光学系に用いる静電多極子型の偏向器やレンズの製造方法および偏向器・レンズである。
【背景技術】
【0002】
従来、偏向器は図9に示す走査型電子顕微鏡(SEM)の鏡筒(EOC)のアライナーやスキャナーに用いられている。
【0003】
この際、アライナーやスキャナーを構成する各電極子を樹脂や碍子等の絶縁体で絶縁し、この絶縁体を座に固定してアライナーやスキャナーを構成しているが、その構造については極めて多様である。
【0004】
例えば、大まかに、電極子の固定には2通りがある。各電極子を精度よく作成した偏向器と絶縁体のアセンブリ(アライナーやスキャナー)をネジで固定する方法(図9の(a))または接着する方法(図9の(b))がある。各図では対向する軸対称な2つの電極子を、ここでは、説明を簡単にするために表現する(通常は例えば8つの電極子である)。
【0005】
図9は、従来の偏向器の組立例を示す。
【0006】
図9の(a)において、電極子81と一体の電極取り出し板83を絶縁体82に載せ、ネジ穴aに絶縁体82を嵌め込み、これらを座84にネジ穴aでネジ固定する。この時、衝Slと衝S2によって軸zと電極子81間は所定の距離rを保つ。省略するが、紙面垂直方向の精度及びz軸と平行方向の位置精度についても上記同様の衝を持つ構造を持たなければならないのは言うまでもない。座84はネジ穴bで外筒85にネジ固定して完成する。自明なので高さ方向の衝については省略する。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
図9の(a)において、衝Sl、衝S2が電極子81の軸zに対する主な精度を決める。しかしネジaを締め付けるとその精度は変わる弱点を持つ。即ち、精度の良いパーツを作成する必要があり、且つ組み上げ精度が良好な設計をする必要がある。
【0008】
しかしながら、パーツの製造精度の問題も含めると、その誤差を組み上げ時に吸収することになるので、ネジ止めで出来た偏向器の精度を計測しながらネジ絞めの再調整を余儀なくされることがもっぱらである。組み上げ時に電極位置を微調整できるようにしたものもあるが、その構造は複雑で非常に高価なものである。
【0009】
図9の(b)において、電極子81’と一体の電極棒83’を絶縁体(円筒柱)82’の内穴に通し、これを座84’の穴に通して、衝Sl’を保持したまま、電極棒83’と絶縁体82’の間および絶縁体82’と座84’との間を接着87する。この時、S1’面が衝となって軸zと電極81’間距離rを保つ。ここでは電極子81’および絶縁体82’および座84’が持つ衝S1’が電極子81’の軸に対する主な精度を決める。
【0010】
上記衝を持たずに、軸と同芯の位置合わせ治具を用いて電極81’を同芯に固定して接
着する例もある。
【0011】
電極子の配線の持つ電位は、軸z付近に不要な偏向電場を与え、軸zを通過する荷電粒子に不要な偏向をする。実際には電極座が電極子を覆うような静電シールド構造にするのが一般的であるが、用途によっては省略する場合もある。
【0012】
以上はいずれも組み立てに精巧な製造方法を用いなければならず、熟練と時間を要すという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、これらの問題を解決するため、複数の電極子を所定の位置に一括して固定する治具を用いて、複数の電極子をプリント板上の該当パターンの位置にそれぞれ展開してそれぞれ半田付けあるいはロウ付けして1段の偏向器あるいは更に、2段の偏向器、あるいはレンズを製造し、作成が容易で失敗がなく熟練を要しなく、製造費用が極めて安く、治具と多電極子の精度により高精度を得るようにしている。
【0014】
そのため、本発明は、粒子線ビームを偏向あるいは集束・発散する静電多極子型の偏向器・レンズの製造方法において、静電多極子を構成する各電極子について、軸方向の位置および軸方向と直角方向である半径方向の位置を所望の位置に固定する治具と、静電多極子を構成する各電極子を固定すると共に固定した各電極子に電圧を印加するためのパターンを設けたプリント基板とを備え、静電多極子を構成する各電極子を治具に固定して静電多極子の軸方向および半径方向の位置を所望の位置に保持した状態で、各電極子をプリント基板のパターンに固定した後、治具を解放して静電多極子をプリント基板上に形成するようにしている。
【0015】
この際、各電極子について軸方向と直角方向である半径方向の位置に加えて、各電極子間の回転角度に対応する所望の位置に固定する治具を備え、静電多極子を構成する各電極子を治具に固定して静電多極子の軸方向および半径方向の位置と各電極子間の回転角度に対応する所望の位置とに保持した状態で、各電極子を前記プリント基板のパターンに固定した後、治具を解放して静電多極子をプリント基板上に形成するようにしている。
【0016】
また、プリント基板を治具に位置あわせした後に、各電極子をプリント基板のパターンに固定するようにしている。
【0017】
また、固定として、半田付けあるいはロー付けで固定するようにしている。
【0018】
また、プリント基板を、金属製の取り付け板にプリント基板を固定した取り付け板とするようにしている。
【0019】
また、静電多極子を構成する各電極子を、治具の軸方向および半径方向に一括して押圧して固定する際に、各電極子の押圧する部分あるいは近傍に切込みを入れて切込みによる変形応力で各電極子を一定の押圧力で一括して、あるいは治具の各電極子を押圧する部分にバネを設けてバネを介して各電極子を一定の押圧力で一括して、治具にそれぞれ固定するようにしている。
【0020】
また、プリント基板あるいはプリント基板を固定した取り付け板を、電子光学系を形成する鏡筒に位置合わせして固定し、電子光学系の偏向器あるいはレンズを形成するようにしている。
【0021】
また、プリント基板の表側および裏側のいずれか一方あるいは両者に各電極子を固定するようにしている。
【0022】
また、電極子の数を、2の倍数とするようにしている。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、複数の電極子を所定の位置に一括して固定する治具を用いて、複数の電極子をプリント板上の該当パターンの位置にそれぞれ展開してそれぞれ半田付けあるいはロウ付けして1段の偏向器あるいは更に、2段の偏向器、あるいはレンズを製造することにより、作成が容易で失敗がなく熟練を要しなく、製造費用が極めて安く、治具と多電極子の精度により高精度を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明は、複数の電極子を所定の位置に一括して固定する治具を用いて、複数の電極子をプリント板上の該当パターンの位置にそれぞれ展開してそれぞれ半田付けあるいはロウ付けして1段の偏向器あるいは更に、2段の偏向器、あるいはレンズを製造し、作成が容易で失敗がなく熟練を要しなく、製造費用が極めて安く、治具と多電極子の精度により高精度を得ることを実現した。
【実施例1】
【0025】
まず、図1を用いて本発明が用いられる鏡筒(電子光学系)の概略について説明する。ここでは、鏡筒の例として、静電レンズ(発散、集束)、静電偏向系(アライナー、スキャナー)などを用いた走査型電子顕微鏡の鏡筒(電子光学系)の例を以下に説明する。他に、透過型電子顕微鏡、収束イオンビーム装置(FIB)等の鏡筒(電子光学系)がある。
【0026】
図1は、本発明の鏡筒例を示す。
【0027】
図1において、鏡筒1は、ここでは、走査型電子顕微鏡の電子光学系を模式的に表した要部の断面図であって、11〜19から構成されるものである。
【0028】
電子銃(イオン銃)11は、陰極から電子(あるいはイオン銃11の陽極からイオン(陽子))を引き出して、図示の下方に放射するものであって、熱電子銃、フィールドエミッション型電子銃、イオン銃などの電子、イオン(陽子)を放出する公知のものである。以下、電子銃11から放出された電子について、詳細に説明する。
【0029】
偏向器(アライナー)12は、偏向器であって、電子銃11から放出された電子を偏向して軸合わせ(アライナー)するものである。当該偏向器(アライナー)12により、電子銃11から放出された電子のビーム(電子ビーム)の軸と、後段のレンズ13などの軸(中心軸)に軸合わせし、電子ビームをレンズ13の軸上に走行させることが可能となる。
【0030】
レンズ13は、静電型のレンズ13であって、電子銃11から放出された電子ビームを集束するものである。
【0031】
電子ビーム14は、レンズ13で集束された後の電子ビームを示す。
【0032】
絞り15は、レンズ13で集束された後の電子ビームから、軸上の所定開き角度内のもののみを通過させる公知のものである。
【0033】
偏向器(スキャナー)16は、静電型の偏向器(スキャナー)であって、電子ビーム14を2段偏向し、試料19上に照射される電子ビームを走査(X方向およびY方向に面走査)するものである。
【0034】
レンズ17は、静電型の対物レンズであって、レンズ13で集束された電子ビームを試料19上に細く絞って照射するためのものである。
【0035】
検出器18は、細く絞った電子ビームを試料19に照射しつつ平面走査したときに放出される2次電子、反射電子などを捕集・増幅する公知のものである。
【0036】
試料19は、細く絞った電子ビームを照射しつつ平面走査し、そのときに放出された2次電子を検出器18で捕集・増幅してビデオ増幅器26によって増幅し、図示外の表示装置の画面上に拡大した画像(2次電子画像など)を表示する対象の試料(観察試料)である。
【0037】
軸(中心軸)20は、レンズ17などから構成される電子光学系(鏡筒1)の光軸を表す。
【0038】
ドライバ2は、鏡筒(電子光学系)1を動作させるための電源を供給したり、検出器18で検出した信号を増幅したりなどするドライバであって、21から26などから構成されるものである。
【0039】
電子銃電源21は、電子銃11に電源を供給し、当該電子銃11から電子を放出させるものであって、電子銃11が熱陰極型の場合にはフィラメントの加熱用の電流、フィラメントとグリッドとの間の負バイアス電圧、更に、電子を加速する正の加速電圧などを、電子銃11に供給する公知の電源である。
【0040】
アライナー電源22は、静電型の偏向器(アライナー)12に電圧を供給するものである。
【0041】
レンズ電源23は、静電型のレンズ13に電圧を供給するものである。
【0042】
スキャナー電源24は、偏向器(スキャナー)16に、電子ビームを2段偏向する電圧(指定された倍率に相当して電子ビームを2段変更する走査電圧)を供給するものである。
【0043】
レンズ電源25は、レンズ17に電圧を供給し、電子ビームを細く絞って試料19に照射するものである。
【0044】
ビデオ増幅器26は、検出器18により試料19から放出された2次電子あるいは反射した反射電子などの検出した信号を増幅し、図示外の表示装置の画面上に画像(2次電子画像、反射電子画像など)を表示するものである。
【0045】
次に、図2のフローチャートの順番に従い、図1の鏡筒例中の偏向器12,16に用いられる本発明の偏向器についてその製造方法を詳細に説明する
【0046】
図2は、本発明の製造フローチャートを示す。
【0047】
図2において、S1は、電極の製造を行う。これは、偏向器、レンズを構成する各電極子の製造として、例えば後述する図3の2段8極子の各電極子(極子)をそれぞれ製造(例えば板金のプレス加工又は切削で製造)を行う。
【0048】
S2は、プリント基板の製造を行う。これは、偏向器、レンズの各電極子を半田付けなどで固定するためのパターンを有するプリント基板の製造として、例えば後述する図4の8極子(8極の電極子)を半田付けなどで固定するためのパターンを有するプリント基板を製造する。
【0049】
S3は、治具の製造を行う。これは、S1で製造した各電極子を、軸方向および半径方向の所定位置(更に各電極子間の回転角度(位相)に対応する所定位置)に配置して、S2で製造したプリント基板のパターン上に半田付けなどで固定するための治具の製造を行う。例えば後述する図6、図7の治具の製造(例えば切削で製造)を行う。
【0050】
以上のS1からS3によって、偏向器、レンズを製造するために必要な各電極子、プリント基板、および治具を製造し、偏向器、レンズを製造する(組み立てる)準備が完了したこととなる。以下のS4以降で偏向器、レンズを製造する手順を詳細に説明する。
【0051】
S4は、ベース治具へのP板の装着である。これは、S2で製造したプリント基板を、S3で製造した治具のベースに嵌め込み固定し、治具に対してプリント基板の位置合わせを行う(軸方向および半径方向の治具に対するプリント基板の位置合わせを行う、図4から図7を用いて後述する)。
【0052】
S5は、中心合わせ治具の装着をする。これは、S4で治具のベースに固定したプリント基板について、更に、当該治具の中心合わせ用の治具を挿入して位置を合わせる(図3から図7を用いて後述する)。
【0053】
S6は、電極子の装着をする。これは、S4、S5で治具にプリント基板の位置を合わせした後、偏向器、レンズを構成する各電極子を装着し、その位置をそれぞれ合わせる(図3から図7を用いて後述する)。詳細には、電極子のピン部をP板(プリント基板)のTH(スルーホール)に入れ、次に、電極子を中心治具に嵌め込む。
【0054】
S7は、押させ治具の装着をする。これは、S4からS6でプリント基板を治具に装着し、更に、偏向器、レンズを構成する各電極子をプリント基板の該当スルーホールに入れると共に治具の該当箇所に装着した状態で、治具の押さえ具の装着を行う、例えば後述する図6の押させ治具を上から下方向にネジで各電極子を押圧し、軸方向および半径方向、更に各電極子間の回転角度(位相)の当該電極子の軸合わせを行う。具体的には、図6のC部で押させ、A,B部の衝を取る(A,B部の位置合わせを行う)。ここで、A部の衝は、電極子の高さを等位に固定する(各電極子の高さ方向(軸方向)の位置を同じ位置に固定して各電極子の軸方向の位置合わせを行った状態に固定する)。B部の衝は、電極子を中心軸対称かつ等位相に固定する(各電極子について、半径方向の位置合わせ(半径方向と回転方向(電極子と電極子との間の回転角度(位相))の両者の位置合わせ、以下同様)を行った状態に固定する)。
【0055】
S8は、電極子と基板間の半田付けする。これは、S6で各電極子のピン部をプリント基板のスルーホールに入れ、かつS7で各電極子を治具により軸方向および半径方向(各電極子間の角度(位相)を含む)に位置合わせを精度良好に行った状態で、各電極子とプリント基板のパターンとを半田付けで強固に固定する。尚、半田付けの他に、電極子をプリント基板のパターン(スルーホール)に強固に導電性を持たせて固定できるものであれば、ロー付け、導電性接着材などでも良い。
【0056】
S9は、シールドを基板に固定する。これは、各電極子を外部の外乱からシールドするためのシールド(覆い板)をプリント基板の該当パターンにネジ止めまたはスルーホールにピン部を挿入して捻り止める(シールを要する場合のみ)(図5参照)。そして、治具を取り外す。
【0057】
S10は、配線する。各電極子などを必要に応じて電気配線し、偏向器、レンズとして動作するように、配線を行う(尚、プリント基板上で予めパターンで配線されている部分は、不要である)。
【0058】
S11は、電極子アセンブリの固定する。これは、S1からS10で製造された複数の電極子をプリント基板に固定した偏向器、レンズ(電極子アセンブリ)を鏡筒(電子光学系)にネジ止めなどで固定する。
【0059】
以上によって、各電極子、プリント基板、治具を製造した後、プリント基板を治具に装着、各電極子をプリント基板および治具に装着した後、治具の押さえ部を押圧して精度良好に治具に各電極子を一定圧力で位置付けた状態で、プリント基板のパターンにそれぞれ半田付けして固定した後、治具を取り去ることにより、各電極子の軸方向および半径方向(回転方向(位相)も含む)の位置合わせを極めて精度良好かつ簡易な製造手順により実現した偏向器、レンズを製造することが可能となった。以下順次詳細に説明する。
【0060】
図3は、本発明の1例として2段8電極子の外観図を示す。図3の(a)は斜め上方向から見た図を示し、図3の(b)は更に上方から見た図を示す。一般的には、多電極子1段の電極数は2n電極子(nは1以上の整数)であるが、ここでは一例として、仕上がり外観としては8電極子2段の偏向器の外観を図3の(a),(b)に示し、その他では図および説明を簡単にするために、対向する2電極子で以下説明する。
【0061】
図4は、プリント基板の外観図を示す。
【0062】
図5は、電極子および要部の拡大図を示す。
【0063】
図6および図7は、治具を示す。
【0064】
ここで、図3は、P板32(プリント基板、以下同様)(図4)と1段目の8極の電極子31と2段目の8極の電極子31’(図5参照)を治具(図6の(a),(b)、図7の(c)、(d))で組み立てて8電極子2段の偏向器(レンズ)アセンブリとした完成図の例(図3)である。図3の33は半田付け部または銀ロウ付け部である。
【0065】
治具については、プリント基板の軸中心を得るベース治具61,61’(図6の(a),(b)参照)、電極子31,31’を軸対称に並べる中心合わせ治具62,62’(図6のの(a),(b)参照)と押え治具63,63’(図6の(a),(b)参照)である。以下、P板、電極子、治具の順に、図3から図7を用いて順次詳細に説明する。
【0066】
(1)P板32(図4参照)の例について:P板32はエポキシ樹脂製等の樹脂製絶縁基板や碍子(セラミックス)絶縁基板が一般的である。一般的な真空装置では、エポキシ基板を用い、超高真空を要する装置では、ベークアオウト可能な碍子基板を用いる。一般的にはエポキシ樹脂製絶縁基板にCu(銅)製パターン、碍子製絶縁基板にW/Cu合金製パターンがあり、電極子を接続・固定するとき、前者では半田付け、後者では銀ロウ付けを用いる(公知の技術であるので、省略する)。以上の金属は当然に非磁性体である。
【0067】
P板32の表裏には基板中心面に関する面対称の、且つ軸zに関する軸対称の、且つ軸zに関して等位相の導体パターンを持つ。P板32の内円孔42および外円周43は同芯で、同芯点(軸z)は紙面に垂直な軸である。表面にアース電位となる導体パターン44(図4参照)を有し、内円孔42も導体パターン44の一部である。パターン面上に、軸対称に放射状同位相に8筋のパターンがあり、この−筋に内側からアース電位
と絶縁45した4個のパターンがそれぞれ並ぶ。即ち内側から、
・2段目電極子用パターンpl
・l段目電極子用パターンp2
・2段目電極子用及びFT用パターンp3
・1段目電極子用及びFT用パターンp4
の順に並ぶ(図4)。
【0068】
各パターンには電極子31のピン52等を嵌め込むスルーホール(TH)tl〜t4を成し、表裏同パターンを接続している。両脇のTHt5,6はフィードスルー用配線を刺
す部分である。最終的に上記パターンplとp3間、P2とp4間は電極子を介して電位接続される。
【0069】
P板上のt7は、電極子31を静電シールドするシールド筒54又は蓋を半田付け又はロウ付けするピンの受け口である(図5の(e))。
【0070】
P板については、裏表パターンに加えて内部に配線を有する多層基板も一般的であり、これを用いれば、より多様な電極本数に対応できる。
【0071】
(2)電極子(図5)について:一定の板厚を持つ電極子を板に垂直な方向から見た1段目及び2段目の電極子31,31’を各々図5の(a),(d)に示す。1段目の電極子31は、P板32のTH(スルーホール)t2,t4に差し込んで半田付け又は銀ロウ付けすべきピン部52を有し、且つP板32、中心合わせ治具62(図6の(a))との衝をとる各々A部とB部と、押さえ治具63(図6の(a))との当たりとるC部を各々有する。
【0072】
1段目の8極の電極子について、同時に衝A,Bをとるため、当て面C付近に切り込み53(点線)を採用して、押し込み治具で各衝Cを押したときに、C部を少し変形させて多極子すべてのC部に圧力がかかるようにする場合もある(拡大図5の(b)、(c))。2段目電極子31’については、C部が変形し易いよう切れ込み方は異なる(切り欠き53’)。
【0073】
尚、C部の切り欠き53,53’を用いずに、図7の(d)の押え治具67を用いると、全ての電極子31のC面に治具67の当てバネ68を押して同様の効果を得られる。
【0074】
図5の(a),(d)の電極子で斜めになっている形状について、当て面C、C’以外の部分については斜めである必要はない。
【0075】
(3)治具について:治具の材料は金属製又は碍子製である。
【0076】
図6の(a)は治具でP板32及び一段目電極子31を組み立てて固定した図である(対向する2極のみ表示)。
【0077】
ベース治具61にP板32を装着してネジnl固定すると、衝Dl,D2により、P
板32はベース治具61に並行に且つ同芯に固定される。
【0078】
規則的な歯車状を断面とする中心合わせ治具62をワッシャ64を介してネジn2で固定すると、衝D3,D4によって本治具はベース治具61と同軸で垂直になる。
【0079】
電極子31を中心合わせ治具62の歯車凹部に嵌め込みつつP板32のピン部pをP板32のTHt2,t4に差し込む。
【0080】
押さえ治具63を中心合わせ治具62の外周部(衝D5)に嵌め込んでネジn3を締めると、これが電極子31のC部に当たり、電極子31はP板32の方向及び中心合わせ治具62の方向に押し、各々A部とB部で衝をとるにいたる。この状態で、電極子31のピン部52とP板32のパターンを半田付けする又はロウ付けする。治具を分解するとP板と1段目の8電極子のアセンブリが出来上がる。
【0081】
図6に示す様に1段目の電極子/P板アセンブリを天地に回転させて、ベース治具を6
1から61’に、中心合わせ治具を62から62’に、押し込み治具63から63’に変更して、2段目の8極子31’を組み立てる。ここで1段目と2段目の電極子31,31’は、治具62’によって同位相を保証される。
【0082】
かくして治具に固定された多電極子は半田付け又はロウ付けされて1段の又は2段の
偏向器もしくはレンズとなる。この基板・電極子アセンブリは基板の固定ネジ穴と介して外筒(図2)にまたはホルダーに固定され、鏡筒(電子光学系)のパーツとなる。
【0083】
図8は、本発明の外枠例を示す。これは、図2から図7で説明した製造したP板32の外円周部43を金属外枠にする例を示す。
【0084】
図8において、P板32を外枠71に取り付け、ネジn71を緩く締める。これをベース治具72に嵌め込み、ネジn72でを固定するとz軸動径方向の衝D2とz軸方向の衝D1を得る。芯出し治具73を、P板32及びベース治具72に嵌め込んでワッシャ64を介してネジn2を締めると、P板32の内円孔の衝D72、衝D73及び衝D74を得る。ここでネジn71を締めると、P板32と外枠71は一体となったアセンブリの衝D2、衝Dlが有効となる。このP板32と外枠71のアセンブリを枠付きP板として、図2から図7と全く同じ方法で偏向器アセンブリを作成する。
【0085】
以上のように、P板32を金属製の外枠71に事前に軸合わせして固定し、固定した外枠付のP板32を、既述した図2から図7で説明したP板32とすることにより、複数の電極子を組立たて固定した偏向器、レンズのアセンブリ(外枠が金属性)を精度良好かつ簡易な手順により製造し、図1の鏡筒(電子光学系)のパーツとして精度良好に組み込むことが可能となる。
【0086】
尚、以上説明した多極子静電偏向器と、更に多極子静電レンズとはその機能は異なるが同じ構造を有するので、全く同様の製造方法で作成できる。ここで、その機能の違いを以下簡単に説明する(公知である)。
【0087】
多極子静電偏向器および多極子静電レンズの極数は、それぞれ2n(n=1,2,3,4、5・・・)および2n(n=2,3,4,5・・・)である。一般的に前者は1段または2段で偏向器を構成し、後者は1段以上の段数でレンズを構成する。
【0088】
ここで、説明を簡単にするために、軸zに垂直な、相互に直交するx、y軸に置かれた4極子で説明する。前者は軸zを中心として相対する電極にはそれぞれ正負の電庄を印加して偏向電場を作って荷電粒子を曲げる(偏向する)。後者は相対する軸zに垂直なx軸方向の電極に正(又は負)の電圧およびy軸方向の電極に負(又は正)の電圧をそれぞれ印加し、軸zに垂直な方向のx方向発散(集束)電場とy方向集束(発散)電場を作り、荷電粒子はx方向で発散(集束)、y方向で集束(発散)する。
【0089】
例えば2段の4極子レンズ(2重4極子)の場合には、上記の1段目に加え、更に、2段目には逆のx方向集束(発散)電場とy方向発散(収束)電場を用い、結果(1段目と2段目とを合わせた結果)として、x、y方向とも集束させることができる。この場合、x方向とy方向では発散(集束)および集束(発散)する位置が異なるためにレンズの倍率(焦点距離)が異なる。3段(3重4極子)の場合は3段目を用いてx、y方向の倍率を同じとする集束レンズを構成できる。4段以上は集束・発散を繰り返しながら遠方まで荷電粒子を閉じ込めたまま移送する場合に用いられている(公知技術である)。
【0090】
また、4極子を含め多極子レンズの多段の組み合わせは、入射から集束までの荷電粒子
の光学的軌道長を加減出来るので、軸対称レンズの収差補正用レンズとしても用いられて
いる(公知技術である)。
【0091】
以上のように、多極子静電偏向器と、多極子静電レンズとは構造が同一であり(電極子の数が2の倍数であり)、各電極子に印加する電圧は両者で異なる(プリント基板上の各電極子への配線パターンが異なる)が、製造方法については、上述した偏向器の製造方法がそのまま静電レンズの製造方法に適用できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明は、複数の電極子を所定の位置に一括して固定する治具を用いて、複数の電極子をプリント基板上の該当パターンの位置にそれぞれ展開してそれぞれ半田付けあるいはロウ付けして1段の偏向器あるいは更に、2段の偏向器、あるいはレンズを製造し、作成が容易で失敗がなく熟練を要しなく、製造費用が極めて安く、治具と多電極子の精度により高精度を得ることが可能となる静電多極子型の偏向器・レンズの製造方法および偏向器・レンズに関するものである。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の鏡筒例である。
【図2】本発明の製造フローチャートである。
【図3】本発明の2段8電極子の外観図例である。
【図4】本発明のプリント基板例である。
【図5】本発明の電極子例である。
【図6】本発明の治具例(その1)である。
【図7】本発明の治具例(その2)である。
【図8】本発明の外枠例である。
【図9】従来の偏向器の組立例である。
【符号の説明】
【0094】
1:鏡筒(電子光学系)
12:偏向器(アライナー)
13、27:レンズ
16:偏向器(スキャナー)
31、31’:電極子
32:P板(プリント基板)
33:半田付け又は銀ロウ付け部
52:ピン
53、53’:切り欠き部
61、61’、72:ベース治具
62、62’:中心合わせ治具
63、63’:押さえ治具
71:外枠
73:芯出し治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子線ビームを偏向あるいは集束・発散する静電多極子型の偏向器・レンズの製造方法において、
前記静電多極子を構成する各電極子について、軸方向の位置および当該軸方向と直角方向である半径方向の位置を所望の位置に固定する治具と、
前記静電多極子を構成する各電極子を固定すると共に当該固定した各電極子に電圧を印加するためのパターンを設けたプリント基板とを備え、
前記静電多極子を構成する各電極子を前記治具に固定して当該静電多極子の軸方向および半径方向の位置を所望の位置に保持した状態で、当該各電極子を前記プリント基板の該当パターンに固定した後、治具を解放して当該静電多極子をプリント基板上に形成することを特徴とする静電多極子型の偏向器・レンズの製造方法。
【請求項2】
前記各電極子について軸方向と直角方向である半径方向の位置に加えて、各電極子間の回転角度に対応する所望の位置に固定する治具を備え、
前記静電多極子を構成する各電極子を前記治具に固定して当該静電多極子の軸方向および半径方向の位置と各電極子間の回転角度に対応する所望の位置とに保持した状態で、当該各電極子を前記プリント基板の該当パターンに固定した後、治具を解放して当該静電多極子をプリント基板上に形成することを特徴とする請求項1記載の静電多極子型の偏向器・レンズの製造方法。
【請求項3】
前記プリント基板を治具に位置あわせした後に、前記各電極子を前記プリント基板の該当パターンに固定したことを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の静電多極子型の偏向器・レンズの製造方法。
【請求項4】
前記固定として、半田付けあるいはロー付けで固定したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の静電多極子型の偏向器・レンズの製造方法。
【請求項5】
前記プリント基板を、金属製の取り付け板にプリント基板を固定した当該取り付け板としたことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の静電多極子型の偏向器・レンズの製造方法。
【請求項6】
前記静電多極子を構成する各電極子を、治具の軸方向および半径方向に一括して押圧して固定する際に、当該各電極子の押圧する部分あるいは近傍に切込みを入れて当該切込みによる変形応力で各電極子を一定の押圧力で一括して、あるいは治具の各電極子を押圧する部分にバネを設けて当該バネを介して各電極子を一定の押圧力で一括して、治具にそれぞれ固定することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の静電多極子型の偏向器・レンズの製造方法。
【請求項7】
プリント基板あるいは当該プリント基板を固定した取り付け板を、電子光学系を形成する鏡筒に位置合わせして固定し、当該電子光学系の偏向器あるいはレンズを形成したことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の静電多極子型の偏向器・レンズの製造方法。
【請求項8】
前記プリント基板の表側および裏側のいずれか一方あるいは両者に前記各電極子を固定したことを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の静電多極子型の偏向器・レンズの製造方法。
【請求項9】
前記電極子の数を2の倍数としたことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の静電多極子型の偏向器・レンズの製造方法。
【請求項10】
静電多極子を構成する各電極子を治具に固定して当該静電多極子の軸方向および半径方向の位置に保持した状態で、当該各電極子をプリント基板の該当パターンに固定した後、治具を解放してプリント基板上に形成した静電多極子型の偏向器・レンズ。

【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図3】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−119101(P2011−119101A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−274498(P2009−274498)
【出願日】平成21年12月2日(2009.12.2)
【出願人】(590002666)新日本電工株式会社 (7)
【出願人】(592191195)株式会社アプコ (9)
【Fターム(参考)】