説明

静電粉体塗装装置及び塗装方法

【課題】
摩擦材が絶縁性材料で形成されている場合でも、導電処理を施すことなく、被塗物をアース電位に維持して静電塗装できるようにする。
【解決手段】
被塗面となる上面の少なくとも一部が導電性材料で形成された被塗物(W)と静電塗装機(T)との間に静電界を形成し、前記静電塗装機(T)により噴霧される粉体塗料(P)を被塗物(W)に静電付着させる静電粉体塗装装置(1)が、
静電塗装機(T)を絶縁体で形成されたステージ(4)の上方に配し、被塗物(W)を粉体塗料の反対極性に維持する給電端子(9)を、ステージ(4)に載置された被塗物(W)の上面の導電性を有する部分に上方から押し当てられる針状接触子で形成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被塗物と静電塗装機との間に静電界を形成し、前記静電塗装機により噴霧される粉体塗料を被塗物に静電付着させる静電粉体塗装装置に関し、特に、自動車、二輪車のブレーキパッドを塗装する静電粉体塗装装置に用いて好適である。
【背景技術】
【0002】
粉体塗装は、有機溶剤塗料や水系塗料などの液体塗料に比して塗膜性能に優れ、オーバースプレイ塗料の回収も容易でVOC(揮発性有機溶剤)による環境負荷もないというメリットがあることから、大量の需要が見込まれる自動車部品についても盛んに用いられている。
【0003】
例えば、金属支持板の片面側に摩擦材が取り付けられたディスクブレーキ用のブレーキパッドは、ブレーキングにより生じた発熱を逃がしやすいように外部に開放されたタイヤホイール内に露出して装着されていることから、走行中に風雨に曝されるだけでなく、寒冷地では粉塵を含む泥雪などに曝され、また、ブレーキングによる高温度や冬季の低温度に曝される。
このように使用環境が特に厳しい自動車部品を液体塗料による塗装した場合、塗膜が弱いため商品劣化が進み易いだけでなく、量産品を塗装することによる環境負荷の増大も懸念されることから、粉体塗料により塗装するようにしている。
【0004】
そして、粉体塗装を行う場合、非静電粉体塗装よりも塗装効率に優れる静電粉体塗装を行いたいという要請があり、被塗物となるブレーキパッドの金属支持板を上に向け、摩擦材を給電コンベアに載せてアース電位に維持し、粉体塗料を負極性に帯電させることにより、金属支持板の露出面全面と摩擦材の側面をコーティングするようにしている。
【0005】
この種の静電粉体塗装装置は、例えば特許文献1に記載されているように、被塗物を載せる絶縁性の無端搬送ベルトの表面に所定間隔で接触端子が設けられた給電コンベアを用い、各接触端子を覆うようにブレーキパッドを載置する。
この種のブレーキパッドは、金属支持板の片面側にそれより面積の小さい摩擦材が取り付けられており、その摩擦材自体が導電性材料で形成され、あるいは、その表面に導電処理が施されている。
【0006】
したがって、塗装する必要のない摩擦材底面側を無端搬送ベルトに形成された接触端子の上に載せることにより被塗物となるプレーキパッドをアース電位に維持することができる。
これにより、その上方に配された静電粉体塗装機から粉体塗料を負極に帯電させて噴霧させれば、金属支持板より面積の小さい摩擦材側面まで回りこむような電界が形成されるので、粉体塗料は反対極であるアース電位に維持された被塗物表面に満遍なく均一に付着される。
【0007】
しかしながら、摩擦材としてわざわざ導電性材料を使用したり、導電処理をしたりすることは、面倒なだけでなく、加工コストが嵩むため、最終的に販売価格に転嫁され、商品価格が高価になってしまう。
非導電性の摩擦剤を使用すれば、加工時間、加工コストが圧縮されるため、商品価格も低廉に抑えることができるが、給電コンベアでは被塗物をアース電位に維持することができなくなるため、静電塗装を行うことができず、塗装効率が低下すると共に、塗膜の均一性が損なわれ、金属支持板の側面や背面、摩擦材の側面に粉体塗料を付着させることが困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平6−320067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、摩擦材が絶縁性材料で形成されている場合でも、導電処理を施すことなく、被塗物をアース電位に維持して、静電塗装できるようにすることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決するために、本発明は、被塗面となる上面の少なくとも一部に導電性材料で形成された導電部を有する被塗物と静電塗装機との間に静電界を形成し、前記静電塗装機により噴霧される粉体塗料を被塗物に静電付着させる静電粉体塗装装置において、
前記静電塗装機が、絶縁体で形成されたステージの上方に配され、前記被塗物を粉体塗料の反対極性に維持する給電端子が、前記ステージに載置された被塗物の前記導電部に上方から押し当てられる針状接触子で形成されたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0011】
本発明の静電粉体塗装装置によれば、例えばアース電位の針状接触子が、被塗物の上面の導電性を有する部分に上方から押し当てられ、これにより、被塗物の上面の少なくとも一部がアース電位に維持される。
次いで、静電塗装機により負極に帯電させた粉体塗料を噴霧すれば、導電性領域は粉体塗料が静電付着され、非導電性領域は、導電性領域からはみ出て付着した粉体塗料が導電性領域に付着された粉体塗料とブリッジ現象を起こして順次アース電位となるため、これによって導電性領域に変化するので、被塗物の全面に静電付着させることができる。
【0012】
特に、金属支持板の裏面側にそれより面積の小さい摩擦板が取り付けられたブレーキパッドを塗装する場合は、摩擦版を下向きにして絶縁性ステージの上に載せ、アースに接続された針状接触子をその上面から押し当てれば金属支持板がアース電位に維持される。
この状態で、負極に帯電させた粉体塗料を吹き付ければ、静電塗装機との間に静電界が形成されている金属支持板の上面、側面及び裏面に粉体塗料が静電付着される。
【0013】
摩擦板は、導電性を有していれば金属支持板を介してアース電位に維持されるので、静電塗装機との間に静電界が形成されている摩擦板の側面に粉体塗料が静電付着される。
また、導電性を有していない場合は、金属支持板の裏面に回り込んだ塗料の一部が摩擦材側面にオーバースプレーされ、これが、金属支持板の裏面に付着した粉体塗料とブリッジ現象を生じて電気的に導通されるとその部分が導電性領域となってアース電位に維持され、粉体塗料が静電付着される。このように非導電性の摩擦材を使用した場合であっても、導電性領域が摩擦材の側面全体に広がっていくため、その側面に粉体塗料を静電付着させることができる。
【0014】
静電塗装が終了した時点で、針状接触子を上昇させて金属支持板から離し、粉体塗料を焼き付ければ均一な塗膜が形成される。
このとき、針状接触子を上昇させたときに、被塗物の上面に付着された粉体塗料に針状接触子の接触痕が形成されるが、高温で焼き付けるときに粉体塗料が液状化されて表面が均一になるため、接触痕は消失し、均一な塗膜が形成される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る静電粉体塗装装置の一例を示す説明図。
【図2】その要部を示す説明図。
【図3】本発明による塗装工程を示す説明図。
【図4】本発明による塗装工程を示す説明図。
【図5】本発明による塗装工程を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本例では、摩擦材が絶縁性材料で形成されている場合でも、導電処理を施すことなく、被塗物をアース電位に維持して静電塗装できるようにするという目的を達成するために、被塗面となる上面の少なくとも一部に導電性材料で形成された導電部を有する被塗物と静電塗装機との間に静電界を形成し、前記静電塗装機により噴霧される粉体塗料を被塗物に静電付着させる静電粉体塗装装置において、前記静電塗装機が、絶縁体で形成されたステージの上方に配され、前記被塗物を粉体塗料の反対極性に維持する給電端子を、前記ステージに載置された被塗物の前記導電部に上方から押し当てられる針状接触子で形成した。
【実施例1】
【0017】
図1及び2に示す静電粉体塗装装置1は、被塗面となる上面の少なくとも一部が導電性材料で形成されたブレーキパッド(被塗物)Wと静電塗装機Tとの間に静電界を形成し、静電塗装機Tにより噴霧される粉体塗料PをブレーキパッドWに静電付着させるものである。
ブレーキパッドWは、金属支持板2の裏面にそれより面積の小さい絶縁性の摩擦材3が一体的に固着されて成る。
【0018】
静電粉体塗装装置1は、ブレーキパッドWを所定速度で搬送する絶縁コンベア(ステージ)4と、その搬送方向に対して、前後上下左右の直交三軸方向に塗装機Tを移送する塗装ロボット5を備えている。
絶縁コンベア4は、その上に載置されたブレーキパッドWが電気的に導通されないように無端コンベアベルト4aが絶縁材料で形成されている。
【0019】
塗装ロボット5は、左右一対の塗装機T、Tを搬送コンベア(ステージ)4の上方でその搬送方向に対して左右方向に往復移動させる左右方向レシプロケータ6と、左右方向レシプロケータ6を昇降させて塗装機Tの高さを調整する昇降装置7と、昇降装置7を絶縁コンベア4の搬送方向に往復移動させることにより塗装機TをブレーキパッドWと等速で移動させる前後方向レシプロケータ8を備えている。
【0020】
左右方向レシプロケータ6の左右両端には、ブレーキパッドWを粉体塗料の反対極性に維持する給電端子9を所定のストロークで昇降する給電端子昇降機10、10が設けられている。
昇降機10、10は、例えば上下方向に伸縮可能なピストン11を備えたシリンダで形成され、そのピストン11の先端に給電端子9が取り付けられている。
【0021】
給電端子9は、絶縁コンベア4に載置されたブレーキパッドWの金属支持板2に上方から押し当てられる針状接触子で形成されており、その針状接触子は、一端が前記ピストン11に支持された固定端9aとなり、他端が自由端9bとなるカンチレバーを構成している。
そして、固定端9aが粉体塗料の噴霧領域の外側に位置し、自由端9bが噴霧領域の内側に位置するように水平に伸びてその先端が下向きに折曲形成されている。
【0022】
これにより、ピストン11を伸張させて給電端子9の先端をブレーキパッドWの上面に接触させたときに絶縁コンベア4などから振動が伝わる場合でも、給電端子9がブレーキパッドWの上面で跳ねないように、カンチレバーのスプリング作用により加圧状態で給電端子9をブレーキパッドWに確実に押し当てることができる。
【0023】
なお、本例では、給電端子9を回動させて必要に応じて粉体塗料の噴霧領域外に退避させる進退機構12がピストン11の先端に配されている。
また、静電塗装機Tは噴霧する粉末塗料に負極性の高電圧を印加し得るように高電圧発生器13に接続され、給電端子9はアースに接続されている。
【0024】
以上が本発明の一構成例であって、次にこれを用いた塗装方法について説明する。
まず、塗装機T、Tを取り付けた左右方向レシプロケータ6の高さを昇降装置7により調整しておき、前後方向レシプロケータ8により所定の塗装開始位置に待機させておく。
そして、例えば、ブレーキパッドWを前後所定間隔で左右二列に並べて絶縁コンベア4により一定の速度で搬送する。
【0025】
ブレーキパッドWが塗装開始位置に到来すると、これに同期して塗装ロボット5が起動され、前後方向レシプロケータ8が絶縁コンベア4と等速度で前進すると同時に、給電端子昇降機10、10のピストン11が伸張されて給電端子9の先端がブレーキパッドWに押し当てられ、これによりブレーキパッドWがアース電位に維持される(図3(a)(b)参照)。
これにより、高電圧発生器13に接続された静電塗装機TとブレーキパッドWの間に静電界が形成され、静電塗装機T、Tを左右方向レシプロケータ6により所定のストロークで往復移動させながら、負極に帯電された粉体塗料Pを噴霧する。(図3(c)参照)。
【0026】
粉体塗料が付着していない状態では、ブレーキパッドWの金属支持板2のみがアースされているので、帯電された粉体塗料は、まず、静電界に沿ってブレーキパッドWの金属支持板2の上面2a、側面2b、裏面2cに静電付着される(図4(a)参照)。
そして、裏面2cに回り込んだ粉体塗料Pの一部が摩擦材3の側面に付着して、既に金属支持板2の裏面2cに付着した粉体塗料Pとブリッジ現象を生じて電気的に導通されると、摩擦材3の側面に粉体塗料Pが付着した部分が導電性領域となってアース電位に維持され、粉体塗料が静電付着される(図4(b)参照)。
この導電性領域が摩擦材2の側面全体に広がっていくため、その側面に粉体塗料を静電付着させることができる(図4(c)参照)。
【0027】
そして、所定の塗装終了位置まで搬送されたところで、給電端子昇降機10、10のピストン11が収縮されて給電端子9が上昇されると、図5(a)に示すようにその先端がブレーキパッドWから離され、塗装機T,Tは前後方向レシプロケータにより塗装開始位置まで戻り、引き続き後続のブレーキパッドWに対して上記の塗装作業を繰り返す。
【0028】
また、給電端子9を上昇させたときに、ブレーキパッドWの上面に付着している粉体塗料には、図5(b)に示すように給電端子9となる針状接触子の接触痕14が形成されるが、高温で焼き付けるときに粉体塗料が液状化されて表面が均一になるため、図5(c)に示すように、その時点で接触痕14は消失し均一な塗膜15が形成される。
【0029】
なお、上述の説明では、塗装機Tを左右方向/前後方向(搬送方向)に所定ストロークで往復移動させながら塗装する場合について説明したが、本発明はこれに限らず、例えば被塗物Wを絶縁コンベア4で搬送しながら、定位置に設置された塗装機Tで塗装しても良い。
この場合、被塗物Wと同期的に搬送コンベア4の搬送方向に沿って所定のストロークで往復移動する前後方向レシプロケータ(図示せず)に給電端子9を取り付ければよく、前後方向レシプロケータは高電圧が印加される静電塗装機Tから離して設置することができるので、給電端子9の絶縁がとりやすいと言うメリットがある。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、被塗物と静電塗装機との間に静電界を形成し、前記静電塗装機により噴霧される粉体塗料を被塗物に静電付着させる静電粉体塗装装置及び塗装方法に適用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 静電粉体塗装装置
W ブレーキパッド(被塗物)
T 静電塗装機
P 粉体塗料
2 金属支持板
3 摩擦材
4 絶縁コンベア(ステージ)
5 塗装ロボット
6 左右方向レシプロケータ
7 昇降装置
8 前後方向レシプロケータ
9 給電端子




【特許請求の範囲】
【請求項1】
被塗面となる上面の少なくとも一部に導電性材料で形成された導電部を有する被塗物と静電塗装機との間に静電界を形成し、前記静電塗装機により噴霧される粉体塗料を被塗物に静電付着させる静電粉体塗装装置において、
前記静電塗装機が、絶縁体で形成されたステージの上方に配され、前記被塗物を粉体塗料の反対極性に維持する給電端子が、前記ステージに載置された被塗物の前記導電部に上方から押し当てられる針状接触子で形成されたことを特徴とする静電粉体塗装装置。
【請求項2】
前記針状接触子が、粉体塗料の噴霧領域の外側から内側に伸び、先端が下向きに折曲形成されたカンチレバーで形成され、そのカンチレバーが所定のストロークで昇降される請求項1記載の静電粉体塗装装置。
【請求項3】
前記カンチレバーを粉体塗料の噴霧領域外に退避させる進退機構が配された請求項2記載の静電粉体塗装装置。
【請求項4】
前記ステージは、被塗物を所定速度で搬送する絶縁コンベアで形成され、
前記針状接触子が、当該絶縁コンベアの搬送方向に沿って被塗物と同期的に所定ストロークで往復移動される請求項2又は3記載の静電粉体塗装装置。
【請求項5】
前記塗装機が前記絶縁コンベアの搬送方向及び/又は前記絶縁コンベアの幅方向に所定ストロークで往復移動される請求項4記載の静電粉体塗装装置。
【請求項6】
被塗面となる上面の少なくとも一部に導電性材料で形成された導電部を有する被塗物と静電塗装機との間に静電界を形成し、前記静電塗装機により噴霧される粉体塗料を被塗物に静電付着させる静電粉体塗装方法において、
絶縁体で形成されたステージに被塗物を載置し、
針状接触子で形成された給電端子を前記ステージに載置された被塗物の前記導電部に対し上方から押し当てて前記被塗物を粉体塗料の反対極性に維持した状態で、
前記静電塗装機から帯電された粉体塗料を静電付着させることを特徴とする静電粉体塗装方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−236169(P2012−236169A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107725(P2011−107725)
【出願日】平成23年5月13日(2011.5.13)
【出願人】(591013986)株式会社メサック (4)
【Fターム(参考)】