説明

非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物

【課題】非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ表面への脂質吸着を抑制できる、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を提供する。
【解決手段】(A)ビタミンA類と、(B)アスパラギン酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを併用して、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの脂質吸着を抑制することができる、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に関する。また本発明は、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの脂質吸着を抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コンタクトレンズ(CL)の装用者が増えており、中でもソフトコンタクトレンズ(SCL)の装用者が増えている。一般的に、ソフトコンタクトレンズを装用した場合には、大気からの酸素供給量が低下し、その結果として角膜上皮細胞の分裂抑制や角膜肥厚につながる場合があることが指摘されている。そのため、より高い酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズの開発が進められてきた。
【0003】
シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、そのような背景の下、高酸素透過性を有するソフトコンタクトレンズとして近年開発されてきたものである。シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、ハイドロゲルにシリコーンを配合することにより、従来のハイドロゲルコンタクトレンズの数倍の酸素透過性を実現する。従って、ソフトコンタクトレンズの弱点である酸素供給不足を改善することができ、酸素不足に伴う角膜に対する悪影響を大幅に抑制できるものとして、大きく期待されている。
【0004】
一方、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズは、従来のハイドロゲルコンタクトレンズに比べて、涙液層や化粧品などに由来する脂質の汚れが付きやすいことが指摘されている(非特許文献1)。こうした脂質汚れは、レンズのくもりなどを誘発して装用者に不快感を与え、QOL(Quality of Life)を害することとなる。また、こうしたコンタクトレンズの汚れは、当該レンズが本来備えるべき視力矯正力にも悪影響を与えるおそれがある。さらに近年、このようなコンタクトレンズの脂質汚れが、角膜ステイニングと呼ばれる角膜上皮障害の発生に影響を与えることも指摘されている。
【0005】
また一般に、コンタクトレンズに使用される眼科組成物については、コンタクトレンズの種類に応じて、安全性等の影響を十分に考慮して設計することが不可欠である。特に、ソフトコンタクトレンズは、素材によってイオン性の有無や含水率の高低等が種々異なるため、ソフトコンタクトレンズに使用される眼科組成物は、対象となるソフトコンタクトレンズの特性に応じて製剤設計を行うことが肝要である。
【0006】
一方、ビタミンA類や、アスパラギン酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、及びこれらの塩は、眼細胞の新陳代謝や細胞呼吸等を促進して目の疲れを解消させたり、消炎作用を発揮させること等を目的として、これまでにも眼科用組成物に使用されている。しかしながら、これらの成分がシリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに及ぼす影響については明らかにされていない。ましてや、これらの中の特定の成分の組み合わせが、シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズに与える影響については、全く推認すらできないのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】塩谷浩、あたらしい眼科Vol.25、No.7、907〜912頁、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、各種ソフトコンタクトレンズの脂質吸着特性について種々検討を行ったところ、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ(以下、非イオン性SHCLと表記することもある)は、ソフトコンタクトレンズの中でも、脂質を著しく吸着し易いことを確認した。こうした著しい脂質汚れは、レンズのくもりなどを誘発して装用者のQOL(Quality of Life)を害し、またレンズの視力矯正力にも悪影響を与えかねない。更にこのような脂質汚れは、角膜ステイニングなどの角膜上皮障害を誘発する惧れもある。そのため、非イオン性SHCLへの脂質吸着を抑制することにより、レンズのくもりを防止して装用感を向上させ、また該レンズ本来の視力矯正力を維持し、さらに角膜上皮障害を予防して、快適且つ安全に非イオン性SHCLを使用することを可能にする手段の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、(A)ビタミンA類と、(B)アスパラギン酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを併用することにより、非イオン性SHCLへの脂質吸着を相乗的に著しく抑制できることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて、更に改良を重ねることにより完成したものである。
【0010】
即ち、本発明は、下記に掲げる非イオン性SHCL用眼科組成物を提供する。
項1-1.(A)ビタミンA類と、(B)アスパラギン酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-2.(A)成分として、レチノール、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-3.(A)成分を総量で1000〜300000 IU/100mL含有する、項1-1又は1-2に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-4.(B)成分として、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム、アミノエチルスルホン酸、及びイプシロン−アミノカプロン酸からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-1〜1-3のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-5.(B)成分を総量で0.001〜10.0w/v%含有する、項1-1〜1-4のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-6. 更に、界面活性剤を含有する、項1-1〜1-5のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-7. 界面活性剤として非イオン性界面活性剤を含む、項1-6に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-8. 界面活性剤を総量で0.001〜1.0w/v%含有する、項1-6又は1-7に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-9. 更に、緩衝剤を含有する、項1-1〜1-8のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-10. 緩衝剤としてホウ酸緩衝剤を含む、項1-9に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-11. 緩衝剤を総量で0.01〜10w/v%含有する、項1-9又は1-10に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-12. 更に、等張化剤を含有する、項1-1〜1-11のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-13. 等張化剤として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、グリセリン、及びプロピレングリコールからなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1-12に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-14. 等張化剤を総量で0.01〜10w/v%含有する、項1-12又は1-13に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
項1-15. 点眼剤である、項1-1〜1-14のいずれかに記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【0011】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの脂質の吸着を抑制する方法を提供する。
項2.(A)ビタミンA類と、(B)アスパラギン酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと接触させることを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの脂質の吸着を抑制する方法。
【0012】
また、本発明は、下記に掲げる非イオン性SHCL用眼科組成物に非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制する作用を付与する方法を提供する。
項3.非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に、(A)ビタミンA類と、(B)アスパラギン酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを配合することを特徴とする、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物に非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの脂質の吸着を抑制する作用を付与する方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLへの脂質吸着を顕著に抑制することができる。従って、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物によれば、非イオン性SHCLの脂質汚れを防止して、非イオン性SHCLのくもりなどを防止し、また非イオン性SHCL本来の視力矯正力を維持することができ、更に非イオン性SHCLへの脂質吸着により引き起こされる角膜ステイニングなどの角膜上皮障害を効果的に防止して、快適且つ安全に非イオン性SHCLを使用することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】参考試験例1において、各種ソフトコンタクトレンズにおける脂質の吸着特性を評価した結果を示す図である。
【図2】試験例1において、試験液(実施例1−3及び比較例1−6)について、非イオン性SHCLへの脂質の吸着に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【図3】試験例2において、試験液(実施例4−7及び比較例7)について、非イオン性SHCLへの脂質の吸着に及ぼす影響を評価した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
1.非イオン性SHCL用眼科組成物
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、ビタミンA類(以下、(A)成分と表記することもある)を含有する。
【0016】
ビタミンA類としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に限定されないが、具体的には、レチノール(ビタミンA1)、3‐デヒドロレチノール(ビタミンA2)、及びこれらの誘導体、並びにこれらの塩が挙げられる。
【0017】
また、ビタミンA類の誘導体の形態としては、例えばパルミチン酸レチノール、酢酸レチノール、酪酸レチノール、プロピオン酸レチノール、オクチル酸レチノール、ラウリル酸レチノール、オレイン酸レチノール、リノレン酸レチノール、レチナール、レチノイン酸、レチノイン酸メチル、レチノイン酸エチル、レチノイン酸レチノール、δ-トコフェリルレチノエート、α-トコフェリルレチノエート、及びβ−トコフェリルレチノエート等が挙げられる。これらの誘導体は1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0018】
また、ビタミンA類の塩の形態としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されないが、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)等]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらの塩は1種のものを選択して単独で使用してもよく、2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。
【0019】
これらのビタミンA類は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。これらのビタミンA類の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着をより一層有効に抑制するという観点から、好ましくは、レチノール、その誘導体、及びそれらの塩、更に好ましくは酢酸レチノール及びパルミチン酸レチノール、特に好ましくはパルミチン酸レチノールが挙げられる。
【0020】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、(A)成分の配合割合については、(A)成分の種類、該非イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、(A)成分が総量で1000〜300000 IU/100mL、好ましくは5000〜100000 IU/100mL、更に好ましくは10000〜50000 IU/100mLが例示される。
【0021】
ここでIUとは、当業者に通常理解され得る通り、ビタミンA類の量に関する国際単位であり、例えば、レチノールの場合、1 IU=約0.30μgのレチノールに対応し、酢酸レチノールの場合、1 IU=約0.34μgの酢酸レチノールに対応し、パルミチン酸レチノールの場合、1 IU=約0.55μgのパルミチン酸レチノールに対応することが周知である。
【0022】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、上記(A)成分に加えて、アスパラギン酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種(以下、(B)成分と表記することもある)を含有する。このように(A)及び(B)成分を併用することによって、非イオン性SHCLへの脂質吸着を顕著に抑制することが可能となる。
【0023】
(B)成分の内、アスパラギン酸は、2-アミノブタン二酸とも称される酸性アミノ酸として公知の化合物である。アスパラギン酸は、L体、D体、DL体のいずれであってもよいが、好ましくはL体である。
【0024】
アスパラギン酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。アスパラギン酸の塩としては、具体的には、有機酸塩[例えば、モノカルボン酸塩(酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、酪酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩等)、多価カルボン酸塩(フマル酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、マロン酸塩等)、オキシカルボン酸塩(乳酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等)、有機スルホン酸塩(メタンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、トシル酸塩等)等]、無機酸塩(例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩等)、有機塩基との塩(例えば、メチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、モルホリン、ピペラジン、ピロリジン、トリピリジン、ピコリン等の有機アミンとの塩等)、無機塩基との塩[例えば、アンモニウム塩;アルカリ金属(ナトリウム、カリウム等)、アルカリ土類金属(カルシウム、マグネシウム等)、アルミニウム等の金属との塩等]等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは無機塩基との塩、より好ましくはアルカリ金属及びアルカリ土類金属との塩、更に好ましくはアスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、及びアスパラギン酸マグネシウム・カリウム、特に好ましくはアスパラギン酸カリウムが挙げられる。
これらのアスパラギン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0025】
アスパラギン酸及びその塩の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはアスパラギン酸の無機塩基との塩、より好ましくはアスパラギン酸のアルカリ金属塩及び及びアルカリ土類金属塩、更に好ましくはアスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、及びアスパラギン酸マグネシウム・カリウム、特に好ましくはアスパラギン酸カリウムが挙げられる。
【0026】
また、(B)成分の内、アミノエチルスルホン酸は、タウリンとも称される公知の化合物である。
【0027】
アミノエチルスルホン酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。アミノエチルスルホン酸の塩として、具体的には、上記アスパラギン酸がとり得る塩と同形態のものが例示される。これらのアミノエチルスルホン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0028】
アミノエチルスルホン酸及びその塩の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはアミノエチルスルホン酸が挙げられる。
【0029】
(B)成分の内、イプシロン−アミノカプロン酸は、6−アミノヘキサン酸とも称される中性アミノ酸として公知の化合物である。
【0030】
イプシロン−アミノカプロン酸の塩としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。イプシロン−アミノカプロン酸の塩として、具体的には、上記アスパラギン酸がとり得る塩と同形態のものが例示される。これらのイプシロン−アミノカプロン酸の塩は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0031】
イプシロン−アミノカプロン酸及びその塩の中でも、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高めるという観点から、好ましくはイプシロン−アミノカプロン酸が挙げられる。
【0032】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、(B)成分は、アスパラギン酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、及びこれらの塩の中から1種のものを単独で使用してもよく、また2種以上のものを任意に組み合わせて使用してもよい。本発明で使用される(B)成分の好適な一例として、アスパラギン酸カリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム・カリウム、アミノエチルスルホン酸、及びイプシロン−アミノカプロン酸が挙げられ、特に好適な一例として、アスパラギン酸カリウム、アミノエチルスルホン酸、及びイプシロン−アミノカプロン酸が挙げられる。
【0033】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、(B)成分の配合割合は、(B)成分の種類、併用する(A)成分の種類、該非イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定されるが、一例として、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、(B)成分が総量で0.001〜10.0w/v%、好ましくは0.1〜3.0w/v%が例示される。より具体的には、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対する各(B)成分の配合割合として、以下の範囲が例示される。
(B)成分がアスパラギン酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.001〜5.0w/v%、好ましくは0.01〜2.0w/v%、更に好ましくは0.1〜1.5w/v%;
(B)成分がアミノエチルスルホン酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.001〜5.0w/v%、好ましくは0.01〜2.0w/v%、更に好ましくは0.1〜1.5w/v%;
(B)成分がイプシロン−アミノカプロン酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.01〜10.0w/v%、好ましくは0.05〜5.0w/v%、更に好ましくは0.1〜3.0w/v%。
【0034】
また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、(A)成分に対する(B)成分の比率については、特に制限されるものではないが、非イオン性SHCLへの脂質吸着抑制作用を一層高めるという観点から、(A)成分の総量10000 IU当たり、上記(B)成分の総量が0.0002〜10.0g、好ましくは0.02〜2.0gとなる範囲が例示される。より具体的には、(A)成分の総量10000 IU当たりの各(B)成分の比率として、以下の範囲が例示される:
(B)成分がアスパラギン酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.0002〜5.0g、好ましくは0.002〜2.0g、更に好ましくは0.02〜1.0g;
(B)成分がアミノエチルスルホン酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.0002〜5.0g、好ましくは0.002〜2.0g、更に好ましくは0.02〜1.0g;
(B)成分がイプシロン−アミノカプロン酸及び/又はその塩の場合:これらが総量で、通常0.002〜10.0g、好ましくは0.01〜5.0g、更に好ましくは0.02〜2.0g。
【0035】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、更に界面活性剤を含有していてもよい。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な界面活性剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されることを限度として特に制限されず、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0036】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な非イオン性界面活性剤としては、具体的には、モノラウリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート20)、モノパルミチン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート40)、モノステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート60)、トリステアリン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート65)、モノオレイン酸POE(20)ソルビタン(ポリソルベート80)等のPOEソルビタン脂肪酸エステル類;ポロクサマー407、ポロクサマー235、ポロクサマー188、ポロクサマー403、ポロクサマー237、ポロクサマー124等のPOE・POPブロックコポリマー類;POE(60)硬化ヒマシ油(ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60)等のPOE硬化ヒマシ油類;POE(9)ラウリルエーテル等のPOEアルキルエーテル類;POE(20)POP(4)セチルエーテル等のPOE-POPアルキルエーテル類;POE(10)ノニルフェニルエーテル等のPOEアルキルフェニルエーテル類等が挙げられる。なお、上記で例示する化合物において、POEはポリオキシエチレン、POPはポリオキシプロピレン、及び括弧内の数字は付加モル数を示す。また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な両性界面活性剤としては、具体的には、アルキルジアミノエチルグリシン等が例示される。また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な陽イオン性界面活性剤としては、具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等が例示される。また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合可能な陰イオン性界面活性剤としては、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、脂肪族α−スルホメチルエステル、αオレフィンスルホン酸等が例示される。
【0037】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、上記界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
上記の界面活性剤の中でも、好ましくは非イオン性界面活性剤;より好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類、POE硬化ヒマシ油類、又はPOE・POPブロックコポリマー類;更に好ましくはPOEソルビタン脂肪酸エステル類;特に好ましくはポリソルベート80が用いられる。
【0039】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に界面活性剤を配合する場合、該界面活性剤の配合割合については、該界面活性剤の種類、他の配合成分の種類や量、該非イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態等に応じて適宜設定できる。界面活性剤の配合割合の一例として、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、該界面活性剤が総量で、0.001〜1.0w/v%、好ましくは0.005〜0.7w/v%、更に好ましくは0.01〜0.5w/v%が例示される。
【0040】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、更に緩衝剤を含有していてもよい。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合できる緩衝剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる緩衝剤の一例として、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、酢酸緩衝剤、トリス緩衝剤、イプシロン−アミノカプロン酸、アスパラギン酸、アスパラギン酸塩等が挙げられる。これらの緩衝剤は組み合わせて使用しても良い。好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、リン酸緩衝剤、炭酸緩衝剤、及びクエン酸緩衝剤であり、より好ましい緩衝剤は、ホウ酸緩衝剤、及びリン酸緩衝剤であり、特に好ましい緩衝剤はホウ酸緩衝剤である。ホウ酸緩衝剤としては、ホウ酸、又はホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸アルカリ土類金属塩等のホウ酸塩が挙げられる。リン酸緩衝剤としては、リン酸、又はリン酸アルカリ金属塩、リン酸アルカリ土類金属塩等のリン酸塩が挙げられる。炭酸緩衝剤としては、炭酸、又は炭酸アルカリ金属塩、炭酸アルカリ土類金属塩等の炭酸塩が挙げられる。クエン酸緩衝剤としては、クエン酸、又はクエン酸アルカリ金属塩、クエン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。また、ホウ酸緩衝剤又はリン酸緩衝剤として、ホウ酸塩又はリン酸塩の水和物を用いてもよい。より具体的な例として、ホウ酸緩衝剤として、ホウ酸又はその塩(ホウ酸ナトリウム、テトラホウ酸カリウム、メタホウ酸カリウム、ホウ酸アンモニウム、ホウ砂等);リン酸緩衝剤として、リン酸又はその塩(リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸二カリウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム等);炭酸緩衝剤として、炭酸又はその塩(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素カリウム、炭酸マグネシウム等);クエン酸緩衝剤として、クエン酸又はその塩(クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸二水素ナトリウム、クエン酸二ナトリウム等);酢酸緩衝剤として、酢酸又はその塩(酢酸アンモニウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸ナトリウム等);トリス緩衝剤として、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン又はその塩(塩酸塩、酢酸塩、スルホン酸塩等);アスパラギン酸又はその塩(アスパラギン酸ナトリウム、アスパラギン酸マグネシウム、アスパラギン酸カリウム等)等が例示できる。これらの緩衝剤の中でも、ホウ酸緩衝剤は、より確実に本発明の効果を奏させることが期待されるため、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に好適に使用される。これらの緩衝剤は1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0041】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に緩衝剤を配合する場合、該緩衝剤の配合割合については、使用する緩衝剤の種類、他の配合成分の種類や量、該非イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、非イオン性SHCL用眼科組成物の総量に対して、該緩衝剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.1〜5w/v%、更に好ましくは0.5〜2w/v%となる割合が例示される。
【0042】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、更に等張化剤を含有していてもよい。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に配合できる等張化剤としては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容されるものであれば、特に制限されない。かかる等張化剤の具体例として、例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。これらの等張化剤の中でも、より確実に本発明の効果を奏させるという観点から、好ましくは、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、グリセリン、及びプロピレングリコールが挙げられる。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を任意に組み合わせて使用してもよい。
【0043】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物に等張化剤を配合する場合、該等張化剤の配合割合については、使用する等張化剤の種類等に応じて異なり、一律に規定することはできないが、例えば、該等張化剤が総量で0.01〜10w/v%、好ましくは0.05〜5w/v%、更に好ましくは0.1〜3w/v%となる割合が例示される。
【0044】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物のpHについては、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される範囲内であれば特に限定されるものではない。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物のpHの一例として、4.0〜9.5、好ましくは5.0〜9.0、更に好ましくは5.5〜8.5となる範囲が挙げられる。
【0045】
また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物の浸透圧については、生体に許容される範囲内であれば、特に制限されない。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物の浸透圧比の一例として、好ましくは0.5〜5.0、更に好ましくは0.6〜3.0、特に好ましくは0.7〜2.0となる範囲が挙げられる。浸透圧の調整は無機塩、多価アルコール、糖アルコール、糖類等を用いて、当該技術分野で既知の方法で行うことができる。浸透圧比は、第十五改正日本薬局方に基づき286mOsm(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液の浸透圧)に対する試料の浸透圧の比とし、浸透圧は日本薬局方記載の浸透圧測定法(氷点降下法)を参考にして測定する。なお、浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)は、塩化ナトリウム(日本薬局方標準試薬)を500〜650℃で40〜50分間乾燥した後、デシケーター(シリカゲル)中で放冷し、その0.900gを正確に量り、精製水に溶かし正確に100mLとして調製するか、市販の浸透圧比測定用標準液(0.9w/v%塩化ナトリウム水溶液)を用いる。
【0046】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、本発明の効果を妨げない限り、上記成分の他に、種々の薬理活性成分や生理活性成分を組み合わせて適当量含有してもよい。かかる成分は特に制限されず、例えば、一般用医薬品製造(輸入)承認基準2000年版(薬事審査研究会監修)に記載された眼科用薬における有効成分が例示できる。具体的には、眼科用薬において用いられる成分としては、次のような成分が挙げられる。
抗ヒスタミン剤:例えば、イプロヘプチン、塩酸ジフェンヒドラミン、マレイン酸クロルフェニラミン、フマル酸ケトチフェン、ペミロラストカリウム等。
充血除去剤:例えば、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、硫酸ナファゾリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸メチルエフェドリン等。
殺菌剤:例えば、セチルピリジニウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸クロルヘキシジン、グルコン酸クロルヘキシジン、塩酸ポリヘキサメチレンビグアニド等。
ビタミン類:例えば、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、シアノコバラミン、塩酸ピリドキシン、パンテノール、パントテン酸カルシウム等。
消炎剤:例えば、グリチルリチン酸二カリウム、プラノプロフェン、アラントイン、アズレン、アズレンスルホン酸ナトリウム、グアイアズレン、塩化ベルベリン、硫酸ベルベリン、塩化リゾチーム、甘草等。
収斂剤:例えば、亜鉛華、乳酸亜鉛、硫酸亜鉛等。
その他:例えば、クロモグリク酸ナトリウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、スルファメトキサゾール、スルファメトキサゾールナトリウム等。
【0047】
また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物には、発明の効果を損なわない範囲であれば、その用途や形態に応じて、常法に従い、様々な添加物を適宜選択し、1種又はそれ以上を併用して適当量含有させてもよい。それらの添加物として、例えば、医薬品添加物事典2007(日本医薬品添加剤協会編集)に記載された各種添加物が例示できる。代表的な成分として次の添加物が挙げられる。
担体:例えば、水、含水エタノール等の水性担体。
増粘剤:例えば、カルボキシビニルポリマー、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、アルギン酸、ポリビニルアルコール(完全、又は部分ケン化物)、ポリビニルピロリドン、マクロゴール等。
糖類:例えば、シクロデキストリン等。
糖アルコール類:例えば、キシリトール、ソルビトール、マンニトールなど。これらはd体、l体又はdl体のいずれでもよい。
防腐剤、殺菌剤又は抗菌剤:例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、安息香酸ナトリウム、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ビグアニド化合物(具体的には、ポリヘキサメチレンビグアニド等)、グローキル(ローディア社製 商品名)等。
pH調節剤:例えば、塩酸、ホウ酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、ホウ砂、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、硫酸、リン酸、ポリリン酸、プロピオン酸、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、乳酸、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム等。
安定化剤:例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、トロメタモール、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(ロンガリット)、トコフェロール、ピロ亜硫酸ナトリウム、モノエタノールアミン、モノステアリン酸アルミニウム、モノステアリン酸グリセリン等。
キレート剤:例えば、エチレンジアミン二酢酸(EDDA)、エチレンジアミン三酢酸、エチレンジアミン四酢酸(エデト酸、EDTA)、N-(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)等。
香料又は清涼化剤:例えば、メントール、アネトール、オイゲノール、カンフル、ゲラニオール、シネオール、ボルネオール、リモネン、リュウノウ等。これらは、d体、l体又はdl体のいずれでもよく、また精油(ハッカ油、クールミント油、スペアミント油、ペパーミント油、ウイキョウ油、ケイヒ油、ベルガモット油、ユーカリ油、ローズ油等)として配合してもよい。
【0048】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、所望量の上記(A)及び(B)成分、及び必要に応じて他の配合成分を所望の濃度となるように添加することにより調製される。
【0049】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、その剤型については、眼科分野で使用可能である限り特に制限されないが、例えば、液状、軟膏状等が挙げられる。これらの中でも、液状が好ましい。また液状の中でも水性液状が好ましい。本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物を水性液状にする場合、医薬上、薬理学的に(製薬上)又は生理学的に許容される水を水性担体として使用すればよく、このような水として、具体的には、蒸留水、常水、精製水、滅菌精製水、注射用水、注射用蒸留水等が例示される。これらの定義は第一五改正日本薬局方に基づく。ここで、水性液状とは、水を含有する液状の形態を意味し、通常は、非イオン性SHCL用眼科組成物中に水を1重量%以上、好ましくは5重量%以上、より好ましくは20重量%以上、更に好ましくは50重量%以上を含有するものを意味する。
【0050】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、眼科分野で用いられるものであって非イオン性SHCLに接触するように使用されるものであれば、その製剤形態については制限されない。例えば、非イオン性SHCL用点眼剤(非イオン性SHCLを装着したまま使用可能な点眼剤)、非イオン性SHCL用洗眼剤(非イオン性SHCLを装着したまま使用可能な洗眼剤)、非イオン性SHCL装着液、非イオン性SHCLケア用液剤(非イオン性SHCL消毒液、非イオン性SHCL保存液、非イオン性SHCL洗浄液、及び非イオン性SHCL洗浄保存液等)等を挙げることができる。これらの中でも、非イオン性SHCL用点眼剤は、非イオン性SHCL装用中に手軽に使用できるので、非イオン性SHCL装用中に脂質汚れが付着するのを効果的に抑制でき、非イオン性SHCL装用中のレンズのくもりや不快感を防止して快適に非イオン性SHCLを装用することを可能にするという点で好適である。そして点眼剤は、他の眼科組成物に比べて一般に1日当たりの使用頻度が高い製剤であるという点でも、本発明の効果をより一層有効に奏させ得る。これらの観点を総合的に鑑みれば、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物の好適な一例として、非イオン性SHCL用点眼剤が挙げられる。
【0051】
また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物の使用方法としては、該非イオン性SHCL用眼科組成物を非イオン性SHCLに接触させることとなる工程を有する公知の方法であれば、特に限定はない。例えば、非イオン性SHCL用点眼剤の場合、非イオン性SHCLの装着前又は装用中に、該点眼剤の適量を点眼すればよい。また、非イオン性SHCL用洗眼剤の場合も、非イオン性SHCLの装着前又は装用中、該洗眼剤の適量を洗眼に使用すればよい。なお、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物が非イオン性SHCL用点眼剤又は非イオン性SHCL用洗眼剤である場合、非イオン性SHCLを装用している時はもちろん、装用していない時でも点眼や洗眼の目的で使用することができる。また、非イオン性SHCL装着液の場合、非イオン性SHCLの装着時に非イオン性SHCLと該装着液の適量を接触させることより使用される。更に、非イオン性SHCLケア用液剤の場合であれば、適量の該ケア用液剤中に非イオン性SHCLを浸漬したり、該ケア用液剤に非イオン性SHCLを接触させて擦り洗いすること等によって使用される。
【0052】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物において、適用対象となる非イオン性SHCLの種類については特に制限されず、現在市販されている、或いは将来市販される全ての非イオン性SHCLを適用対象にできる。なお、ここで非イオン性とは、当業者が通常理解するように、米国FDA(米国食品医薬品局)基準に則り、素材中のイオン性成分含有率が1mol%未満であることをいう。また、適用対象となる非イオン性SHCLの含水率についても特に制限されず、例えば、90%以下、好ましくは60%以下、更に好ましくは50%以下が挙げられる。
【0053】
ここで非イオン性SHCLの含水率とは、非イオン性SHCL中の水の割合を示し、具体的には以下の計算式により求められる。
【0054】
含水率(%)=(含水した水の重量/含水状態の非イオン性SHCLの重量)×100
かかる含水率は、ISO18369-4:2006の記載に従って重量測定方法により測定され得る。
【0055】
本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、(A)及び(B)成分に基づいて、眼細胞の新陳代謝を促進して目の疲れを解消させる作用や消炎作用を発揮できるので、眼精疲労改善又は疲れ目改善の用途や抗炎症用途等に使用することができる。また、本発明の非イオン性SHCL用眼科組成物は、非イオン性SHCLへの脂質吸着が一因となって引き起こされる角膜ステイニング等の角膜上皮障害を効果的に防止できるので、角膜上皮障害の予防剤として用いられることもできる。
【0056】
2.非イオン性SHCLへの脂質吸着の抑制方法、及び非イオン性SHCLへの脂質吸着を抑制する作用の付与方法
前述するように、上記(A)及び(B)成分を併用することによって、非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制することができる。
【0057】
従って、本発明は、更に別の観点から、(A)ビタミンA類と、(B)アスパラギン酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する非イオン性SHCL用眼科組成物を、非イオン性SHCLと接触させることを特徴とする、非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制する方法を提供する。更には、非イオン性SHCL用眼科組成物に、(A)ビタミンA類と、(B)アスパラギン酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを配合することを特徴とする、非イオン性SHCL用眼科組成物に非イオン性SHCLへの脂質の吸着を抑制する作用を付与する方法を提供する。
【0058】
これらの方法において、(A)及び(B)成分の種類や配合割合、配合される他の成分の種類や配合割合、非イオン性SHCL用眼科組成物の製剤形態、適用対象となる非イオン性SHCLの種類等については、前記「1.非イオン性SHCL用眼科組成物」と同様である。
【実施例】
【0059】
以下に、実施例に基づいて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0060】
参考試験例1:各種ソフトコンタクトレンズの脂質吸着性の評価
表1に示す各種ソフトコンタクトレンズを用いて以下の実験を実施し、ソフトコンタクトレンズの脂質吸着性を評価した。なお、本試験に使用したソフトコンタクトレンズは、いずれも市販品である。
【0061】
【表1】

【0062】
まず、蛍光標識された脂質(N-(fluorescein-5-thiocarbamoyl)-1,2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine, triethylammonium salt;invitrogen製)を1mg/mlの濃度で含むクロロホルム溶液とメタノールとを1:4の容量比で混合した混合液500μLに、生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を加え、全量20mlにしたものを蛍光脂質溶液として用意した。各ソフトコンタクトレンズは一晩以上生理食塩水中に浸漬させて試験前処理を実施した。サンプル群は、24ウェルマイクロプレートにおいて蛍光脂質溶液1ml中に各ソフトコンタクトレンズを一枚ずつ浸漬させ、34℃で24時間振とう処理を行った。また、ブランク群として生理食塩水1ml中に各ソフトコンタクトレンズを一枚ずつ浸漬させ、サンプル群と同様の振とう処理を行った。24時間後、各ソフトコンタクトレンズを新しい生理食塩水1mlが入ったプレートに移し、蛍光プレートリーダー(Thermo Fisher Scientific Inc.製)を用いて、各ウェルの蛍光強度を測定した(励起波長:485nm、蛍光波長:538nm)。サンプル群の蛍光強度からブランク群の蛍光強度を減算した値を、吸着脂質量の指標として算出した。
【0063】
結果を図1に示す。図1より明らかなように、非イオン性SHCL(レンズA及びB)の脂質吸着量は、イオン性SHCL(レンズC)、及び従来のハイドロゲルレンズ(レンズD〜F)と比較して著しく多く、脂質汚れの問題が深刻であることが確認された。
【0064】
試験例1:非イオン性SHCL脂質吸着抑制評価(1)
上記参考試験例1で顕著な脂質吸着が認められた非イオン性SHCL(レンズA)を用い、下記表2に示す各試験液を使用して、非イオン性SHCLの脂質吸着に及ぼす影響について検討を行った。
【0065】
【表2】

【0066】
まず、蛍光標識された脂質(N-(fluorescein-5-thiocarbamoyl)-1,2-dihexadecanoyl-sn-glycero-3-phosphoethanolamine, triethylammonium salt;invitrogen製)の1mg/mlクロロホルム溶液とメタノールとを1:4の容量比で混合した混合液500μLに、生理食塩水(0.9w/v%塩化ナトリウム)を加え、全量20mlにしたものを蛍光脂質溶液として用意した。レンズAは一晩以上生理食塩水中に浸漬させて試験前処理を実施した。次いで、24ウェルマイクロプレートの各ウェルに1mLの各試験液(実施例1−3及び比較例1−6)を入れ、その中に試験前処理を終えたレンズAを一枚ずつ浸漬して34℃で24時間振とう処理を行った(サンプル群)。振とう処理を終えたレンズAを、蛍光脂質溶液1mlが入った24ウェルマイクロプレートに移して再度、34℃で24時間振とう処理を行った。また、ブランク群として、試験前処理を終えたレンズAを生理食塩水1ml中に一枚ずつ浸漬させ、34℃で24時間振とう処理を行った(ブランク群)。24時間後、振とう処理を終えたサンプル群とブランク群の各レンズAを新しい生理食塩水1mlが入ったプレートに移し、蛍光プレートリーダー(Thermo Fisher Scientific Inc.製)を用いて、各ウェルの蛍光強度を測定した(励起波長:485nm、蛍光波長:538nm)。各サンプル群の蛍光強度からブランク群の蛍光強度を減算した値を吸着脂質量の指標として求め、コントロール(比較例1)の吸着脂質量を100%とした場合の各試験液の吸着脂質量の相対値(%)を算出した。
【0067】
この結果を図2に示す。図2に示されるように、パルミチン酸レチノールと共に、アスパラギン酸カリウム、アミノエチルスルホン酸、又はイプシロン−アミノカプロン酸を組み合わせて用いた場合(実施例1−3)には、各成分を単独で用いた場合に比して、非イオン性SHCLへの脂質吸着を相乗的に著しく抑制できていた。
【0068】
試験例2:非イオン性SHCL脂質吸着抑制評価(2)
上記参考試験例1のレンズA(非イオン性SHCL)を用い、上記試験例1と同様の方法により、下記表3に示す各試験液について非イオン性SHCLに対する脂質吸着抑制効果について評価を行った。
【0069】
【表3】

【0070】
結果を、コントロール(比較例7)の吸着脂質量を100%とした場合の各試験液の吸着脂質量の相対値(%)として図3に示す。図3に示されるように、パルミチン酸レチノール、アスパラギン酸カリウム、アミノエチルスルホン酸、及びイプシロン−アミノカプロン酸の配合濃度や配合比率を変動させた場合にも、上記試験例1と同様に非イオン性SHCLに対して顕著な脂質吸着抑制効果が発揮されることが認められた(実施例4−7)。
【0071】
製剤例
表4に記載の処方で、非イオン性SHCL用点眼剤(実施例8−12)、非イオン性SHCL装着液(実施例13)、非イオン性SHCL装着兼点眼液(実施例14)、非イオン性SHCL用洗眼剤(実施例15)、及び非イオン性SHCL洗浄液(実施例16−17)が調製される。
【0072】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ビタミンA類と、(B)アスパラギン酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項2】
(A)成分として、レチノール、その誘導体、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項3】
点眼剤である、請求項1又は2に記載の非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物。
【請求項4】
(A)ビタミンA類と、(B)アスパラギン酸、アミノエチルスルホン酸、イプシロン−アミノカプロン酸、及びそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種とを含有する非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズ用眼科組成物を、非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズと接触させることを特徴とする、該非イオン性シリコーンハイドロゲルコンタクトレンズへの脂質吸着を抑制する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−111425(P2011−111425A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−270702(P2009−270702)
【出願日】平成21年11月27日(2009.11.27)
【出願人】(000115991)ロート製薬株式会社 (366)
【Fターム(参考)】