説明

非侵襲型生体血糖値測定装置および非侵襲型生体血糖値測定方法

【課題】 非侵襲で、装置が小さく、比較的安価で提供でき、かつ、使用手順が簡単な非侵襲型生体血糖値測定装置を提供する。
【解決手段】 被験者があらかじめ電子スピンラベル薬剤を服用しておく。被験者の測定部位を試料共振器10に導入させ、マイクロ波発信手段22により電子スピンラベルに対して共鳴条件となる周波数帯域のマイクロ波を照射し、磁場印加手段23により掃引磁場を与え、磁場変調手段24により変調磁場を印加し、電子スピンラベル検知部20により電子スピン共鳴スペクトルの信号強度を非侵襲にて観測する。血糖値推定部30により電子スピン共鳴スペクトルの信号強度や信号減衰量により被験者の血糖値を推定する。血糖値と電子スピンラベルの服用量と服用後の経過時間に応じて観測されるべき電子スピン共鳴スペクトル信号強度や信号減衰のモデルを用いて推定精度を上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非侵襲な方法で人体を傷つけることなく、人体測定部位の外表面から血管内の血糖値を測定することができる非侵襲型生体血糖値測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖尿病は罹患者が多い生活習慣病であり根治療が難しく、患者は定期的に採血して血糖値を測定しつつ生活しなければならないことが多い。現在の血糖値監視法は、指先などを医療用の針で突き刺し、血液を生体外に採取した上で血液を直接分析器にかけたり、薬剤を用いて化学的な処理を施したりするなどの手順を経て血糖値を測定するものであった。血液の採取は被験者に苦痛を伴うものであり、消毒や医療用の針の取り扱いなどの手順が煩雑で時間がかかるものであった。特に指先から出血させる方法は、痛みを伴い、何回も突くことにより皮膚が傷み、高齢者(特に糖尿病により視力が低下した人)にとって扱いにくいものとなっている。そこで非侵襲でかつ使用手順が簡単な血糖値の監視手段が求められていた。
【0003】
【特許文献1】特開2007−330509号公報
【特許文献2】特開2007−130451号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来技術において非侵襲で安価かつ使用手順が簡単な血糖値の監視手段として適当なものがないのが現状である。被験者の体表面外部から生体内の血流における血糖値が測定できることが理想的である。
【0005】
従来の血管や組織の化学物質を非侵襲にてモニターする手段として、陽電子イメージング(PET)による診断方法が知られている。陽電子イメージング(PET)は、主にがん組織の存在を発見するために利用される診断方法であるが、非侵襲にて血液内の糖分にラベルした造影剤を撮像するものとして参考となる。陽電子イメージング(PET)は18Fのついたグルコースを測定の約30分前に被験者に注射し、がん組織に集積した陽電子を放出する糖分からの放射線をトモグラフィーの手法で撮像するものである。
このように、体表面外部から生体に非侵襲な方法で血糖値が測定できれば患者に苦痛を与えなくて済む。
【0006】
しかし、これら装置は筐体が大きく、周辺機器も含めるとかなり大きな装置規模となってしまう。また、価格も高価であり数億円規模のコストがかかってしまうという問題点がある。また、使用手順が複雑で医療関係者の操作が必要である。糖尿病患者には若年者や壮年者もいるが老齢者も多い。血糖値測定は日々定期的に行う場合が多く、その測定手順が簡単で、測定時間が短いことが望ましい。
【0007】
上記問題点に鑑み、本発明は、非侵襲で、装置が小さく、比較的安価で提供でき、かつ、使用手順が簡単な非侵襲型生体血糖値測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明では、被験者に試薬を服用させ、非侵襲の方法にて電子スピン共鳴現象を利用して生体内での血糖値を推定する。
第1の方法は、グルコースに電子スピンを付加してラベル化した試薬(例えば、グルコースにTEMPOを付加してラベル化したもの)を服用させ、グルコースの多寡を直接観測する方法である。
ここで、付加する物質としては、例えば、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル:C9H18NO)、TEMPOL(4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル:C9H18NO2)、TEMPONE(4-オキシ-2,2,6,6,-テトラメチルl-4-ピペリジン-1-オキシル:C9H17NO2)等が挙げられる。
この第1の方法は、被験者に当該試薬をあらかじめ服用させておき、被験者の指など非侵襲の方法にて電子スピン共鳴を起こすマイクロ波を照射してエネルギー吸収の信号強度を観測することにより、血糖値を推定する。グルコースをラベル化しているのでその電子スピン共鳴によるエネルギー吸収の信号強度を測ることによりグルコース(血糖)の量を推定することができる。
なお、血糖値の推定精度を高めるために、エネルギー吸収信号強度のみでなくエネルギー吸収信号強度の減衰速度も用いることにより推定精度を上げることができる。ここで、グルコースTEMPOのスピンラベル信号の減衰速度を用いて血糖値推定を行う際には、血液中のインシュリンの助けによる消費と、赤血球のアスコルビン酸など還元剤による還元の2つの作用でスピンラベル信号は消失してゆくことを考慮して血糖値を推定することに留意する必要がある。
【0009】
第2の方法は、水溶性で経時変化にて血液中の物質により還元されて不対電子が消失してゆく試薬(例えば、TEMPO)を服用し、血糖により還元が促進されて不対電子が消失してゆく減衰速度を観測することで血糖値の多寡を間接的に観測する方法である。
この第2の方法は、被験者の指など非侵襲の方法にて電子スピン共鳴を起こすマイクロ波を照射してエネルギー吸収の信号強度の減衰速度を観測することにより、血糖値を推定する。糖分自体をラベル化しているわけではないので、そのエネルギー吸収信号強度そのものでは血糖値を推定できないが、血液中のTEMPOは血糖値の量によりその還元・消失速度が変わるので、電子スピン共鳴によるエネルギー吸収の信号強度の減衰速度を測ることにより間接的に血糖値を推定することができる。
【0010】
上記の第1の方法を実現する装置として、本発明の非侵襲型生体血糖値測定装置は、被験者の測定部位を導入する測定キャビティである試料共振器と、前記被験者があらかじめ服用しておくことにより血液中に含まれている電子スピンラベルに対して共鳴条件となる周波数帯域のマイクロ波と、掃引磁場と、変調磁場とを前記試料共振器に導入されている前記被験者の測定部位に印加し、前記電子スピンラベルによる電子スピン共鳴スペクトルの信号強度を非侵襲にて観測する生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部と、前記生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部により検知した電子スピン共鳴スペクトルの信号強度を基に前記被験者の血糖値を推定する血糖値推定部を備えたものとする。
【0011】
ここで、前記電子スピンラベルは、不対電子を持つ窒素原子を含有し、人体に無害な物質であり、グルコースをラベル化する物質であることが好ましい。例えば、グルコースにTEMPOを付加してラベル化したものが挙げられる。
上記構成において、前記生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部が、前記試料共振器に導入された前記被験者の前記測定部位に対して前記周波数帯域のマイクロ波を照射するマイクロ波発信手段と、前記試料共振器内に掃引磁場を与える磁場掃引手段と、前記試料共振器内に変調磁場を与える磁場変調手段と、前記電子スピン共鳴スペクトルを測定する電子スピン共鳴スペクトル測定部とを備えたものであることが好ましい。
【0012】
また、前記血糖値推定部が、生体中の血糖値レベルと前記電子スピンラベルの服用量と服用後の経過時間に応じて前記生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部において検出されるべき電子スピン共鳴スペクトル信号強度をモデル化した血糖値−電子スピン共鳴スペクトル信号強度モデルを記憶するモデル記憶部を備え、
前記生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部により検知した電子スピン共鳴スペクトル信号強度と前記血糖値−電子スピン共鳴スペクトル信号強度モデルとを比較し、前記被験者の血糖値を推定するものであることが好ましい。
【0013】
上記構成により、本発明の非侵襲型生体血糖値測定装置は、電子スピン共鳴(ESR)を利用し、非侵襲で装置が小さく比較的安価で使用手順が簡単なものとして提供することができる。
【0014】
次に、上記第2の方法を実現する装置として、本発明の非侵襲型生体血糖値測定装置は、被験者の測定部位を導入する測定キャビティである試料共振器と、前記被験者があらかじめ服用しておくことにより血液中に含まれている電子スピンラベルに対して共鳴条件となる周波数帯域のマイクロ波と、掃引磁場と、変調磁場とを前記試料共振器に導入されている前記被験者の測定部位に印加し、前記電子スピンラベルによる電子スピン共鳴スペクトルの信号強度を非侵襲にて観測する生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部と、前記生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部により検知した電子スピン共鳴スペクトルの信号強度とその減衰速度を基に前記被験者の血糖値を推定する血糖値推定部とを備えたものとする。
【0015】
ここで、前記電子スピンラベルが、不対電子を持つ窒素原子を含有し、人体に無毒な水溶性の物質であり、経時変化にて血液中の物質により還元されて不対電子が消失してゆく物質(例えばTEMPO)であることが好ましい。
なお、水溶性ラベルであるTEMPOなどは還元のみで消失してゆき、尿に自然に排出される。
【0016】
上記構成において、前記生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部が、前記試料共振器に導入された前記被験者の前記測定部位に対して前記周波数帯域のマイクロ波を照射するマイクロ波発信手段と、前記試料共振器内に掃引磁場を与える磁場掃引手段と、前記試料共振器内に変調磁場を与える磁場変調手段と、前記電子スピン共鳴スペクトルを測定する電子スピン共鳴スペクトル測定部とを備えたものであることが好ましい。
【0017】
また、前記血糖値推定部が、生体中の血糖値レベルと前記電子スピンラベルの服用量と服用後の経過時間に応じて前記生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部において検出されるべき電子スピン共鳴スペクトル信号強度とその減衰速度をモデル化した血糖値−電子スピン共鳴スペクトル信号強度減衰モデルを記憶するモデル記憶部を備え、前記生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部により検知した電子スピン共鳴スペクトル信号強度とその信号減衰速度と、前記血糖値−電子スピン共鳴スペクトル信号強度減衰モデルとを比較し、前記被験者の血糖値を推定するものであることが好ましい。
上記構成により、本発明の第2の非侵襲型生体血糖値測定装置としても、電子スピン共鳴(ESR)を利用し、非侵襲で装置が小さく比較的安価で使用手順が簡単なものとして提供することができる。
【0018】
なお、上記の本発明の第1の非侵襲型生体血糖値測定装置、第2の非侵襲型生体血糖値測定装置のいずれにおいても、前記測定部位が前記被験者の指であり、前記試料共振器が前記指を挿入するに適した窪みとすることができる。
つまり、被験者は指を装置所定のキャビティ内に挿入するだけで血糖値を簡単に測定することができる。
【0019】
次に、本発明の第1の非侵襲型生体血糖値測定方法は、被験者の測定部位に対して、前記被験者があらかじめ服用しておくことにより血液中に含まれている電子スピンラベルに対して共鳴条件となる周波数帯域のマイクロ波と、掃引磁場と、変調磁場とを印加し、前記電子スピンラベルによる電子スピン共鳴スペクトルの信号強度を非侵襲にて観測し、検知した電子スピン共鳴スペクトルの信号強度を基に前記被験者の血糖値を推定する非侵襲型生体血糖値測定方法である。
【0020】
なお、前記血糖値の推定方法が、生体中の血糖値レベルと前記電子スピンラベルの服用量と服用後の経過時間に応じて検出されるべき前記電子スピン共鳴スペクトルの信号強度をモデル化した電子スピン共鳴スペクトル信号強度モデルと、前記検知した電子スピン共鳴スペクトル信号強度とを比較し、前記被験者の血糖値を推定する方法であることが好ましい。
【0021】
上記本発明の第1の非侵襲型生体血糖値測定方法により、電子スピン共鳴(ESR)を利用し、非侵襲で装置が小さく比較的安価で使用手順が簡単な方法にて血糖値を測定することができる。
【0022】
次に、本発明の第2の非侵襲型生体血糖値測定方法は、被験者の測定部位に対して、前記被験者があらかじめ服用しておくことにより血液中に含まれている電子スピンラベルに対して共鳴条件となる周波数帯域のマイクロ波と、掃引磁場と、変調磁場とを前記試料共振器に導入されている前記被験者の測定部位に印加し、前記電子スピンラベルによる電子スピン共鳴スペクトルの信号強度を非侵襲にて観測し、検知した電子スピン共鳴スペクトルの信号強度とその減衰速度を基に前記被験者の血糖値を推定する非侵襲型生体血糖値測定方法である。
【0023】
なお、前記血糖値推定方法が、生体中の血糖値レベルと前記電子スピンラベルの服用量と服用後の経過時間に応じて検出されるべき前記電子スピン共鳴スペクトルの信号強度とその減衰速度をモデル化した電子スピン共鳴スペクトル信号強度減衰モデルと、前記検知した電子スピン共鳴信号強度とその減衰速度とを比較し、前記被験者の血糖値を推定する方法であることが好ましい。
【0024】
上記本発明の第2の非侵襲型生体血糖値測定方法により、電子スピン共鳴(ESR)を利用し、非侵襲で装置が小さく比較的安価で使用手順が簡単な方法にて血糖値を測定することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の非侵襲型生体血糖値測定装置および検出方法によれば、電子スピン共鳴(ESR)を利用し、非侵襲で装置が小さく比較的安価で使用手順が簡単なものとして提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、図面を参照しつつ、本発明の非侵襲型生体血糖値測定装置および非侵襲型生体血糖値測定方法の実施形態を説明する。ただし、本発明の技術的範囲は以下の実施形態に示した具体的な用途や形状・寸法などには限定されない。
たとえば、以下の実施例において、被験者の測定部位は手の指として説明するが、本発明の非侵襲型生体血糖値測定装置および非侵襲型生体血糖値測定方法では測定部位は手の指でなくとも適用はできるものである。
【実施例1】
【0027】
以下、実施例1にかかる本発明の非侵襲型生体血糖値測定装置および非侵襲型生体血糖値測定方法について説明する。
【0028】
本発明における電子スピン共鳴現象を利用した血糖値測定原理の概略は、被験者が血糖値測定に先立ち、あらかじめ服用した電子スピンラベルが観測部位に行き渡った後、その電子スピンラベルに対して掃引磁場および変調磁場の印加状態にてマイクロ波を照射して電子スピン共鳴現象を起こさせ、その測定結果から血糖値を推定するものである。
【0029】
本発明の非侵襲型生体血糖値測定装置は、様々な血糖値の推定アルゴリズムに対応することが可能である。ここでは血糖値の推定方法の例として以下の2通りの方法を説明する。
【0030】
第1の方法は、グルコースをラベル化した試薬を服用させ、グルコースの多寡を直接観測する方法である。この第1の方法は、被験者に当該試薬をあらかじめ服用させておき、被験者の指など非侵襲の方法にて電子スピン共鳴を起こすマイクロ波を照射してエネルギー吸収の信号強度を観測することにより、血糖値を推定する。グルコースをラベル化しているのでその電子スピン共鳴によるエネルギー吸収の信号強度を測ることによりグルコース(血糖)の量を推定することができる。なお、血糖値の推定精度を高めるために、エネルギー吸収信号強度のみでなくエネルギー吸収信号強度の減衰速度も用いることにより推定精度を上げることができる。
【0031】
なお、上記第1の血糖値推定方法における推定精度を上げるため、人体への電子スピンラベルの服用量と服用後の経過時間に応じて検出される「電子スピン共鳴スペクトルの信号強度モデル」を備え、被験者から測定された電子スピン共鳴スペクトルの信号強度と比較することにより血糖値を測定する工夫を行っている。
なお、試薬としては、例えば、グルコースにTEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル:C9H18NO)、TEMPOL(4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-1-オキシル:C9H18NO2)、TEMPONE(4-オキシ-2,2,6,6,-テトラメチルl-4-ピペリジン-1-オキシル:C9H17NO2)等を付加したもの用いることができる。ここではたとえばグルコースにTEMPOを付加したものを用いる。
【0032】
次に、第2の方法は、水溶性で経時変化にて血液中の物質により不対電子が還元されて消失してゆく試薬を服用させ、血糖により還元が促進され消失してゆく減衰速度を観測することで血糖値の多寡を間接的に観測する方法である。この第2の方法は、被験者の指など非侵襲の方法にて電子スピン共鳴を起こすマイクロ波を照射してエネルギー吸収の信号強度の減衰速度を観測することにより、血糖値を推定する。糖分自体をラベル化しているわけではないので、そのエネルギー吸収信号強度そのものでは血糖値を推定できないが、血液中のTEMPOは血糖値の量によりその還元・消失速度が変わるので、電子スピン共鳴によるエネルギー吸収の信号強度の減衰速度を測ることにより間接的に血糖値を推定することができる。
【0033】
なお、上記の第2の血糖値推定方法における推定精度を上げるため、人体への電子スピンラベルの服用量と服用後の経過時間に応じて検出される電子スピン共鳴スペクトルの信号強度と減衰速度をまとめた「血糖値−電子スピン共鳴信号強度減衰モデル」を備え、被験者から測定された電子スピン共鳴スペクトルの信号強度とその減衰速度と比較することにより血糖値を測定する工夫を行っている。
【0034】
なお、電子スピンラベルとしては、不対電子を持つ窒素原子を含有し、人体が服用可能な水溶性の物質であり、経時変化にて血液中の物質により還元されて電子スピンが消失してゆく物質とする。例えば、TEMPO、TEMPOL、TEMPONE等を用いることができる。ここではTEMPOを用いる。なお、これらスピンラベルは血液中のアスコルビン酸などの物質により還元されてゆき、検出される電子スピン共鳴スペクトルの信号強度が減少してゆくが、グルコースは代謝を促進させるので還元速度を速めることとなる。つまり、グルコースTEMPOを用いる場合、血液中のインシュリンの助けによる消費と、赤血球のアスコルビン酸など還元剤による還元の2つの作用でスピンラベル信号は消失してゆくことを考慮して血糖値を推定することに留意する必要がある。
【0035】
本発明の非侵襲型生体血糖値測定装置100の構成例を示す。
図1は非侵襲型生体血糖値測定装置100の装置外観を模式的に示す図、図2は本発明の非侵襲型生体血糖値測定装置100の構成を模式的に示すブロック図である。
【0036】
図2に示すように、本発明の非侵襲型生体血糖値測定装置100は、試料共振器10、電子スピンラベル検知部20、血糖値推定部30を備えている。ここで、電子スピンラベル検知部20は表面コイル21、マイクロ波発信手段22、磁場印加手段23、磁場変調手段24、電磁波エネルギー吸収スペクトル検知手段25を備えた構成となっている。
【0037】
試料共振器10は、被験者の測定部位を導入し、試料に対して共振周波数となるマイクロ波を与える測定キャビティとなる部分である。ここでは、例えば、測定部位は被験者の手の指であるので、試料共振器10は被験者の手の指が挿入できるために適した大きさ、形状のキャビティとなっている。図1に示した例ではたとえば直径1.5cmから2.5cm程度、深さ4cmから8cm程度の円筒形のキャビティとなっている。なお、キャビティの形状は必ずしもこの形状に限定されない。
【0038】
電子スピンラベル検知部20は、周波数帯域のマイクロ波を被験者の測定部位に照射し、電子スピンラベルにおける電子スピン共鳴信号を測定する部分である。
マイクロ波発信手段22によりマイクロ波が試料共振器10内に発信される。この構成例では試料共振器10の内部に表面コイル21が組み込まれた例となっており、表面コイル21を介してマイクロ波発信手段22によりマイクロ波が試料共振器10内に発信される仕組みとなっている。
ここでは、マイクロ波は、被験者があらかじめ服用しておくことにより血液中に含まれている電子スピンラベルの電子スピン共鳴に対して共鳴条件となる周波数帯域、例えば、Xバンド(10GHz)とする。
【0039】
磁場印加手段23は、変調をかける基本の磁場を印加する手段であり、ここでは、直線状に増える掃引磁場とする。
磁場変調手段24は、磁場印加手段23により印加した基本の掃引磁場に対して変動分となる磁場を加えて磁場を変調させるものである。
【0040】
ここで、マイクロ波のエネルギーと比較すれば、電子スピン共鳴による吸収強度は弱いためマイクロ波の吸収(信号強度)をそのまま増幅してもS/N比が悪く、実用可能なスペクトルを得ることは困難である。そのため時間的に直線状に増える掃引磁場に対して、狭い幅で速く振動する変調磁場(例えば100kHz)を重ね合わせ、掃引磁場を中心とする振動磁場を印加し、電磁波エネルギー吸収スペクトル検知手段25により、吸収信号の微分に比例した振動信号を得る。
電磁波エネルギー吸収スペクトル検知手段25は、この信号を狭帯域増幅し、変調磁場と同期して検波すると雑音を著しく減少させることができ、後述する図4に示すような吸収曲線の一次微分曲線に相当するスペクトルを得る(位相敏感検波)。
【0041】
なお、磁場印加手段23により印加する基本となる掃引磁場の強さ、磁場変調手段24により加える磁場変調の大きさは、用いる電子スピンラベルの種類、電子スピンラベルの服用量、想定される服用後の経過時間、グルコース内での電子スピンラベルの状態などにより観察される信号強度に応じて設計しておく必要がある。
【0042】
血糖値推定部30は、電子スピンラベル検知部20により検知した測定結果を基に被験者の血糖値を推定する部分である。
血糖値推定部30は、血糖値の推定精度を向上させるため、モデル記憶部31を備え、電子スピンラベル検知部20により検知した測定結果とモデルとを比較し、被験者の血糖値を推定する。
【0043】
図2に示すように、ここではモデル記憶部31は、非侵襲型生体血糖値測定装置の第1の血糖値推定方法に対応する「血糖値−電子スピン共鳴信号強度モデル32a」と、非侵襲型生体血糖値測定装置の第2の血糖値推定方法に対応する「血糖値−電子スピン共鳴信号強度減衰モデル32b」の2つのモデルを搭載している。
【0044】
血糖値−電子スピン共鳴信号強度モデル32aは、生体中の血糖値レベルとグルコースをラベル化した試薬の服用量と服用後の経過時間に応じて電子スピンラベル検知部20において検出されるべき電子スピン共鳴の信号強度をモデル化したものである。
【0045】
「血糖値−電子スピン共鳴信号強度モデル」32aは、縦軸が電子スピン共鳴信号強度、横軸は電子スピンラベル服用後の経過時間となっており、各血糖値別に曲線が与えられたモデルとなっており、血糖値推定部30は、血糖値−電子スピン共鳴信号強度モデル32aを用いて第1の血糖値推定方法により処理を行う場合、被験者が入力した電子スピンラベル服用後の経過時間と、電子スピンラベル検知部20により検知した信号強度を基に、モデル記憶部31が保持している血糖値−電子スピン共鳴信号強度モデル32aを参照し、被験者の血糖値を推定する。
【0046】
「血糖値−電子スピン共鳴信号強度減衰モデル」32bは、生体中の血糖値レベルと電子スピンラベルの服用量と服用後の経過時間に応じて電子スピンラベル検知部20において検出されるべき電子スピン共鳴の信号強度の減衰速度をモデル化したものである。
【0047】
「血糖値−電子スピン共鳴信号強度減衰モデル」32bは、縦軸が電子スピン共鳴信号強度、横軸は電子スピンラベル服用後の経過時間となっており、各血糖値別に曲線が与えられたモデルとなっており、血糖値推定部30は、血糖値−電子スピン共鳴信号強度減衰モデル32bを用いて第2の血糖値推定方法により処理を行う場合、被験者が入力した電子スピンラベル服用後の経過時間と、電子スピンラベル検知部20により検知した信号強度の減衰速度を基に、モデル記憶部31が保持している血糖値−電子スピン共鳴信号強度減衰モデル32bを参照し、被験者の血糖値を推定する。
【0048】
なお、この「血糖値−電子スピン共鳴信号強度減衰モデル」32bには水溶性TEMPOのスピンラベルの減衰速度をモデル化したもの、グルコースにTEMPOを付加したスピンラベルの減衰速度をモデル化したものなど、用いるスピンラベルにより用意しておくことが好ましい。
【0049】
血糖値推定部30は、上記第1の方法を用いる場合には、試薬服用後の経過時間と電子スピンラベル検知部20により検知した信号強度を基に、モデル記憶部31が保持している「血糖値−電子スピン共鳴信号強度モデル」32aを参照し、被験者の血糖値を推定する。上記第2の方法を用いる場合には、試薬服用後の経過時間と電子スピンラベル検知部20により検知した信号強度の減衰速度を基に、モデル記憶部31が保持している「血糖値−電子スピン共鳴信号強度減衰モデル」32bを参照し、被験者の血糖値を推定する。
【0050】
表示部40は、血糖値推定部30が推定した血糖値を利用者にわかるように表示する部分である。血糖値は数値で表されるものであるので、例えば、数字が表示できるものがある。
【0051】
操作部50は、電子スピンラベル薬剤の服用後の時間やタイミングを入力したり、利用者の識別情報を入力したりする操作部分である。図1に示した構成例ではボタンによるオンオフ操作となっている。
【0052】
以下、本発明の非侵襲型生体血糖値測定手順を追いつつ説明する。
図3は非侵襲型生体血糖値測定手順の概略を示すフローチャートである。
まず、被験者が服用する電子スピンラベルとして、グルコースにTEMPOを付与した電子スピンラベル試薬(グルコースTEMPO)を用いた場合の手順を説明する。
【0053】
[手順1](図3のステップS1)
手順1は、被験者が血糖値測定に先立ち、グルコースTEMPOの水溶液を服用する。
必要な入力データがあれば図1に示すような外部インタフェースとなる操作部を通じてデータを入力する。
【0054】
なお、電子スピンラベルは血糖値測定後、消費、還元、分解が進み、腎臓で濾し取られ尿として膀胱に集まり体外に排出されるものであることが好ましい。
なお、スピンラベルしたグルコースの服用量は信号が観測可能な程度の少量で良い。血糖としてスピンラベルしたグルコースが一定割合で含まれれば血糖値が幾らであるか推定することができる(5mM以上試薬水溶液100ml程度を服用)。
【0055】
服用後、スピンラベルしたグルコースが全身に行き渡るまで所定時間を待った後で測定する。なお、時間が経過するとスピンラベルしたグルコースの消費と還元が進み、血管内の血流中に残存するスピンラベル量が低下してゆくので、どの程度の時間が経過しているかは重要である。例えば30分程度の経過時間であれば、スピンラベルしたグルコースが全身に行き渡り、かつ、スピンラベルしたグルコースの消費と還元が多くはなく、血糖値測定には適している経過時間と言える。
【0056】
[手順2](図3のステップS2)
手順2は、被験者が手の指などの測定部位に対して、所定周波数帯域のマイクロ波を照射する。例えば、照射するマイクロ波は、Lバンド帯 (1〜2GHz)またはXバンド帯 (10GHz)の周波数のものを用いる。生体の計測であるため水分による誘電損失を考慮することが好ましい。ここでは例えばXバンド帯の10GHzのマイクロ波とする。
【0057】
[手順3](図3のステップS3)
手順3として、掃引磁場に対して磁気変調を加えて走査する。
本実施例1では、マイクロ波の周波数を一定とし、印加する磁場に磁場変調をかけて可変にする方式とする。
【0058】
磁場がかかった状態で電子スピンラベルにゼーマン分裂と同じ値のエネルギーのマイクロ波が照射されると電子スピン共鳴が起こりESR信号が発生する。ここではマイクロ波が一定周波数であるが磁場変調がかかり、変化する磁場においてスピンラベルしたグルコースのゼーマン分裂エネルギーと照射されたマイクロ波のエネルギーが一致した状態で電子スピン共鳴が起こり、エネルギーが吸収される。
【0059】
なお、電子スピン共鳴は、原理的には磁場を一定とし、マイクロ波の周波数を変調して走査しても可能であり、また、マイクロ波を一定とし、磁場を変調して走査しても可能であるが、試料共振器のQのためマイクロ波の周波数を変化させるのは容易ではないので、ここではマイクロ波の周波数を一定とし、印加する磁場を変調して走査して可変にする方式とする。
【0060】
[手順4](図3のステップS4)
手順4として、電磁波の吸収スペクトルを観察し、エネルギー吸収の信号レベルが大きくなる磁場を検出する。つまり、ゼーマン分裂を起こす磁場の共鳴周波数を検出する。手順3で説明したように、血液中に存在するスピンラベルしたグルコースにおける電子スピンラベルの化学結合状態に応じてゼーマン分裂のエネルギーが決まるが、変化する磁場においてゼーマン分裂エネルギーと照射されたマイクロ波のエネルギーが一致した状態で電子スピン共鳴が起こり、マイクロ波のエネルギーが吸収される。そのエネルギー吸収をマイクロ波のスペクトルを観察することにより検出する。
【0061】
図4(a)は、電子スピン共鳴スペクトルの信号レベルを模式的に示す図である。図4(a)において、縦軸はマイクロ波の吸収レベル、横軸は磁場の強さである。図4(a)に見るように、特定の磁場H0の強さにおいてマイクロ波のエネルギーが吸収されており、電子スピン共鳴が起こっていることが検出できる。
【0062】
図4(b)は、電子スピンラベルとしてグルコースTEMPOを用いた場合に観察される電子スピン共鳴スペクトルの信号レベルを模式的に示す図である。電子スピン共鳴スペクトルの信号レベルにおいて窒素原子核に由来する3つの山と谷が観察される。
【0063】
[手順5](図3のステップS5)
手順5として、電子スピン共鳴によりエネルギー吸収のピーク値に共鳴磁場を固定し、エネルギー吸収強度の時間変化を観測する。手順4で検出した電子スピン共鳴によりエネルギー吸収のピーク値となる磁場、つまり、電子スピン共鳴が起こる共鳴磁場に固定し、電子スピン共鳴によるエネルギー吸収強度の時間変化を観測する。時間経過とともに電子スピンラベルが消費しまた還元し、消失してゆくので、電子スピン共鳴スペクトルの信号レベルが低下してゆく。つまり、被験者の血糖値に応じて観測されるエネルギー信号強度や減衰速度が変化する。
【0064】
[手順6](図3のステップS6)
手順6として、電子スピン共鳴により観測される信号強度や減衰速度から血糖値を推定する。吸収されたエネルギーの信号レベルが大きいほど残存スピンラベル量が多いこととなり、つまり、血糖値に含まれているスピンラベルしたグルコース量が多く血糖値が高いこととなる。
【0065】
ここでは、モデル記憶部に保持されている「血糖値−電子スピン共鳴信号強度モデル」32aと、「血糖値−電子スピン共鳴信号強度減衰モデル」32bの両者を参照し、血糖値を推定する。
【0066】
図5は、水溶性スピンラベルTEMPOを用いたときの血糖値と時間経過に応じて観測される電子スピン共鳴の信号強度の関係を模式的に示したものである。横軸は経過時間、縦軸は信号強度となっている。図5の例では3つの血糖値について示している。
【0067】
なお、血糖値と電子スピン共鳴信号強度の関係は、Aexp(−t/T)で表される減衰曲線となることが想定される。図5の例ではA=5としている。血糖値に応じて時定数であるTが決まるが、例えば、Tは600秒〜1000秒あたりとなる。このように被験者の血糖値が異なれば減衰曲線が異なるので、電子スピンラベルの服用量と服用後の経過時間と電子スピン共鳴の信号強度が得られれば、血糖値−電子スピン共鳴信号強度モデル32aを参照することにより被験者の血糖値を精度良く推定することができる。
【0068】
また、電子スピン共鳴の信号レベルは図5に示したようにAexp(−t/T)の曲線で減衰してゆくので、その減衰速度は、信号強度曲線が分かれば、上の式をコンピューターフィットして計算できる。このように被験者の血糖値が異なれば電子スピンラベル信号強度の減衰速度が異なるので、電子スピンラベルの服用量と服用後の経過時間とその間の電子スピン共鳴の信号強度の減衰速度を得れば、血糖値−電子スピン共鳴信号強度減衰モデルを参照することにより被験者の血糖値を精度良く推定することができる。
【0069】
以上の手順から電子スピン共鳴現象を利用した血糖値測定が可能となる。
次に、被験者が服用する電子スピンラベルとして、水溶性TEMPOを電子スピンラベル試薬として用いた場合の手順を説明する。
図3の非侵襲型生体血糖値測定手順の概略を示すフローチャートにおいて、手順1のステップ1から手順5のステップS5までは同様である。
【0070】
手順5において、電子スピン共鳴により観測されるエネルギー吸収強度の時間変化は、水溶性で経時変化にて血液中の物質により還元されて消失してゆく減衰速度が観測できる。グルコースは還元速度を速めることが多い。
【0071】
手順6として、電子スピン共鳴により観測される信号強度の減衰速度から血糖値を推定する。減衰速度が大きい方が試薬の還元に関与するグルコース量が多く血糖値が高いこととなる。
【0072】
ここでは、モデル記憶部に保持されている水溶性TEMPOに関する「血糖値−電子スピン共鳴信号強度減衰モデル」32bを参照し、血糖値を推定する。
なお、ここでも、電子スピン共鳴の信号レベルは図5に示したようにAexp(−t/T)の曲線で減衰してゆくので、その減衰速度は、信号強度曲線が分かれば、上の式をコンピューターフィットして計算できる。このように被験者の血糖値が異なれば電子スピンラベル信号強度の減衰速度が異なるので、電子スピンラベルの服用量と服用後の経過時間とその間の電子スピン共鳴の信号強度の減衰速度を得れば、血糖値−電子スピン共鳴信号強度減衰モデルを参照することにより被験者の血糖値を精度良く推定することができる。
【0073】
以上の手順から電子スピン共鳴現象を利用した血糖値測定が可能となる。
以上、本発明の非侵襲型生体血糖値測定手順によれば、被験者があらかじめ服用した電子スピンラベルに対して掃引磁場および変調磁場の印加状態にてマイクロ波を照射して電子スピン共鳴現象を起こさせ、エネルギー吸収がピークとなる磁場周波数を検出し、当該磁場周波数に合わせて、電子スピン共鳴現象を通じて血糖値を測定することができる。
【0074】
以上、本発明の非侵襲型生体血糖値検出装置における好ましい実施形態を図示して説明してきたが、本発明の技術的範囲を逸脱することなく種々の変更が可能であることは理解されるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は多様なメーカーの非侵襲型の生体血糖値検出装置に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】非侵襲型生体血糖値測定装置100の装置外観を模式的に示す図
【図2】本発明の非侵襲型生体血糖値測定装置100の構成を模式的に示すブロック図
【図3】非侵襲型生体血糖値測定手順の概略を示すフローチャート
【図4】電子スピン共鳴スペクトルの信号レベルを模式的に示す図
【図5】血糖値−電子スピン共鳴信号強度の観測例を模式的に示した図
【符号の説明】
【0077】
10 試料共振器
20 生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部
21 表面コイル
22 マイクロ波発信手段
23 磁場印加手段
24 磁場変調手段
25 電磁波エネルギー吸収スペクトル検知手段
30,30a 血糖値推定部
31,31a モデル記憶部
40 表示部
50 操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の測定部位を導入する検知部である試料共振器と、
前記被験者があらかじめ服用しておくことにより血液中に含まれている電子スピンラベルに対して共鳴条件となる周波数帯域のマイクロ波と、掃引磁場と、変調磁場とを前記試料共振器に導入されている前記被験者の測定部位に印加し、前記電子スピンラベルによる電子スピン共鳴スペクトルの信号強度を非侵襲にて観測する生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部と、
前記生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部により検知した電子スピン共鳴スペクトルの信号強度を基に前記被験者の血糖値を推定する血糖値推定部とを備えた非侵襲型生体血糖値測定装置。
【請求項2】
前記生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部が、
前記試料共振器に導入された前記被験者の前記測定部位に対して前記周波数帯域のマイクロ波を照射するマイクロ波発信手段と、
前記試料共振器内に掃引磁場を与える磁場掃引手段と、
前記試料共振器内に変調磁場を与える磁場変調手段と、
前記電子スピン共鳴スペクトルを測定する電子スピン共鳴スペクトル測定部とを備えたものである請求項1に記載の非侵襲型生体血糖値測定装置。
【請求項3】
前記血糖値推定部が、生体中の血糖値レベルと前記電子スピンラベルの服用量と服用後の経過時間に応じて前記生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部において検出されるべき電子スピン共鳴スペクトル信号強度をモデル化した血糖値−電子スピン共鳴スペクトル信号強度モデルを記憶するモデル記憶部を備え、
前記生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部により検知した電子スピン共鳴スペクトル信号強度と前記血糖値−電子スピン共鳴スペクトル信号強度モデルとを比較し、前記被験者の血糖値を推定する請求項1または2に記載の非侵襲型生体血糖値測定装置。
【請求項4】
前記電子スピンラベルが、不対電子を持つ窒素原子を含有し、人体が服用可能な物質であり、グルコースをラベル化したものであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の非侵襲型生体血糖値測定装置。
【請求項5】
被験者の測定部位を導入する測定キャビティである試料共振器と、
前記被験者があらかじめ服用しておくことにより血液中に含まれている電子スピンラベルに対して共鳴条件となる周波数帯域のマイクロ波と、掃引磁場と、変調磁場とを前記試料共振器に導入されている前記被験者の測定部位に印加し、前記電子スピンラベルによる電子スピン共鳴スペクトルの信号強度を非侵襲にて観測する生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部と、
前記生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部により検知した電子スピン共鳴スペクトルの信号強度とその減衰速度を基に前記被験者の血糖値を推定する血糖値推定部とを備えた非侵襲型生体血糖値測定装置。
【請求項6】
前記生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部が、
前記試料共振器に導入された前記被験者の前記測定部位に対して前記周波数帯域のマイクロ波を照射するマイクロ波発信手段と、
前記試料共振器内に掃引磁場を与える磁場掃引手段と、
前記試料共振器内に変調磁場を与える磁場変調手段と、
前記電子スピン共鳴スペクトルを測定する電子スピン共鳴スペクトル測定部とを備えたものである請求項5に記載の非侵襲型生体血糖値測定装置。
【請求項7】
前記血糖値推定部が、生体中の血糖値レベルと前記電子スピンラベルの服用量と服用後の経過時間に応じて前記生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部において検出されるべき電子スピン共鳴スペクトル信号強度とその減衰速度をモデル化した血糖値−電子スピン共鳴スペクトル信号強度減衰モデルを記憶するモデル記憶部を備え、
前記生体血糖値検出用電子スピンラベル検知部により検知した電子スピン共鳴スペクトル信号強度とその信号減衰速度と、前記血糖値−電子スピン共鳴スペクトル信号強度減衰モデルとを比較し、前記被験者の血糖値を推定する請求項5または6に記載の非侵襲型生体血糖値測定装置。
【請求項8】
前記電子スピンラベルが、不対電子を持つ窒素原子を含有し、人体が服用可能な水溶性の物質であり、経時変化にて血液中の物質により還元されて不対電子が消失してゆく物質であることを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載の非侵襲型生体血糖値測定装置。
【請求項9】
前記測定部位が前記被験者の指であり、前記試料共振器が前記指を挿入するに適した窪みであることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の非侵襲型生体血糖値測定装置。
【請求項10】
被験者の測定部位に対して、前記被験者があらかじめ服用しておくことにより血液中に含まれている電子スピンラベルに対して共鳴条件となる周波数帯域のマイクロ波と、掃引磁場と、変調磁場とを印加し、前記電子スピンラベルによる電子スピン共鳴スペクトルの信号強度を非侵襲にて観測し、
検知した電子スピン共鳴スペクトルの信号強度を基に前記被験者の血糖値を推定する非侵襲型生体血糖値測定方法。
【請求項11】
前記血糖値の推定方法が、生体中の血糖値レベルと前記電子スピンラベルの服用量と服用後の経過時間に応じて検出されるべき前記電子スピン共鳴スペクトルの信号強度をモデル化した電子スピン共鳴スペクトル信号強度モデルと、前記検知した電子スピン共鳴スペクトル信号強度とを比較し、前記被験者の血糖値を推定する請求項10に記載の非侵襲型生体血糖値測定方法。
【請求項12】
被験者の測定部位に対して、前記被験者があらかじめ服用しておくことにより血液中に含まれている電子スピンラベルに対して共鳴条件となる周波数帯域のマイクロ波と、掃引磁場と、変調磁場とを前記試料共振器に導入されている前記被験者の測定部位に印加し、前記電子スピンラベルによる電子スピン共鳴スペクトルの信号強度を非侵襲にて観測し、
検知した電子スピン共鳴スペクトルの信号強度とその減衰速度を基に前記被験者の血糖値を推定する非侵襲型生体血糖値測定方法。
【請求項13】
前記血糖値推定方法が、生体中の血糖値レベルと前記電子スピンラベルの服用量と服用後の経過時間に応じて検出されるべき前記電子スピン共鳴スペクトルの信号強度とその減衰速度をモデル化した電子スピン共鳴スペクトル信号強度減衰モデルと、前記検知した電子スピン共鳴信号強度とその減衰速度とを比較し、前記被験者の血糖値を推定する請求項12に記載の非侵襲型生体血糖値測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−169396(P2010−169396A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−335862(P2008−335862)
【出願日】平成20年12月31日(2008.12.31)
【出願人】(510113298)特定非営利活動法人 アガペ甲山医学研究所 (1)
【Fターム(参考)】