説明

非共焦点検出光学系、及び、それを備えた多光子励起顕微鏡

【課題】多光子励起顕微鏡の設定に応じて、非共焦点検出光学系を最適化する技術を提供する。
【解決手段】対物レンズOBの瞳Pを光検出器14に投影する非共焦点検出光学系は、交換可能に配置される第1レンズ群9と、第1レンズ群9と光検出器14の間に配置される第2レンズ群13と、を含む。多光子励起顕微鏡1の設定に応じて、第1レンズ群9を交換することで、非共焦点検出光学系は最適化される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非共焦点検出光学系に関し、特に、多光子励起顕微鏡に用いられる非共焦点検出光学系、及びそれを備えた多光子励起顕微鏡に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、2光子励起顕微鏡や3光子励起顕微鏡などの多光子励起顕微鏡が注目されている。
多光子励起顕微鏡では、非線形光学現象である多光子励起現象を利用することで焦点面からのみ蛍光が生じる。このため、共焦点顕微鏡で必要とされる共焦点絞りを用いることなく、焦点面からの蛍光のみが検出される。
【0003】
多光子励起顕微鏡は、励起光として比較的長い波長の光を利用して標本を励起するため、標本内で励起光の散乱が生じにくく励起光が深い部分まで届きやすいという特徴を有している。この特徴により、細胞単体に比べて大きく不透明な組織を深部まで照明して観察することができる。このため、多光子励起顕微鏡は、脳スライスの観察や、ショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ及びマウスなどの実験動物の観察に好適である。
【0004】
このような多光子励起顕微鏡は、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−008989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、多光子励起顕微鏡の検出光学系は、通常、対物レンズの瞳を光電子増倍管(PMT:Photomultiplier Tube)などの光検出器に投影する、非共焦点検出光学系として設計される。
【0007】
非共焦点検出光学系は、対物レンズの瞳を透過した光が光検出器に入射するように構成されればよいため、対物レンズの瞳と光検出器との共役関係は比較的緩やかであり、通常、高度な収差補正機能は要求されない。このため、多光子励起顕微鏡の非共焦点検出光学系は、設計上の制約が比較的少なく、設計を工夫することで異なる瞳位置や瞳径を有するさまざまな対物レンズに対応し得る。
【0008】
しかしながら、近年の多光子励起顕微鏡への注目の増加に伴い、多光子励起顕微鏡の対物レンズの種類も増加している。このため、すべての対物レンズに対して良好な性能を発揮する非共焦点検出光学系の設計は困難となっている。
【0009】
また、多光子励起顕微鏡の利用の拡大に伴い、例えば、2光子励起と3光子励起の選択的な利用や、照明光路と検出光路の共通化など、多光子励起顕微鏡へのさまざまな要求も顕在化している。このため、多光子励起顕微鏡が利用者の要求に応じてさまざまな設定で使用される機会は増加する傾向にあるが、すべての設定に対して良好な性能を発揮する非共焦点検出光学系の設計は困難である。
【0010】
以上のような実情を踏まえ、本発明では、多光子励起顕微鏡の設定に応じて、非共焦点検出光学系を最適化する技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、対物レンズの瞳を光検出器に投影する非共焦点検出光学系であって、交換可能に配置される第1レンズ群と、第1レンズ群と光検出器の間に配置される第2レンズ群と、を含む非共焦点検出光学系を提供する。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の非共焦点検出光学系において、さらに、第1レンズ群と第2レンズ群の間に配置される光路分割素子を含む非共焦点検出光学系を提供する。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1の態様または第2の態様に記載の非共焦点検出光学系において、さらに、第1レンズ群を交換する光学素子変更手段を含む非共焦点検出光学系を提供する。
本発明の第4の態様は、第1の態様乃至第3の態様のいずれか1つに記載の非共焦点検出光学系において、複数の第1レンズ群が光学素子変更手段に配置される非共焦点検出光学系を提供する。
【0014】
本発明の第5の態様は、第4の態様に記載の非共焦点検出光学系において、さらに、光学素子変更手段に配置されたミラーユニットを含み、第1レンズ群は、光学素子変更手段によりミラーユニットとともに交換される非共焦点検出光学系を提供する。
【0015】
本発明の第6の態様は、照明光を射出する光源と、照明光を標本に照射する対物レンズと、第1の態様乃至第5の態様のいずれか1つに記載の非共焦点検出光学系と、標本から射出される蛍光を検出する光検出器と、を含む多光子励起顕微鏡を提供する。
【0016】
本発明の第7の態様は、第6の態様に記載の多光子励起顕微鏡において、第1レンズ群の焦点距離をf1とし、対物レンズの瞳位置から第1レンズ群の主平面までの光軸に沿った距離をd1とするとき、以下の条件式
0.62<f1/d1<0.84
を満たす多光子励起顕微鏡を提供する。
【0017】
本発明の第8の態様は、第6の態様または第7の態様に記載の多光子励起顕微鏡において、第1レンズ群は、対物レンズの交換に応じて交換される多光子励起顕微鏡を提供する。
【0018】
本発明の第9の態様は、第6の態様または第7の態様に記載の多光子励起顕微鏡において、第1レンズ群は、蛍光の波長に応じて交換される多光子励起顕微鏡を提供する。
【0019】
本発明の第10の態様は、第6の態様または第7の態様に記載の多光子励起顕微鏡において、第1レンズ群は、標本に至る照明光の光路に応じて交換される多光子励起顕微鏡を提供する。
【0020】
本発明の第11の態様は、対物レンズの瞳を光検出器に投影する非共焦点検出光学系であって、光軸方向に移動可能に配置される第1レンズ群と、第1レンズ群と光検出器の間に配置される第2レンズ群と、を含む非共焦点検出光学系を提供する。
【0021】
本発明の第12の態様は、第11の態様に記載の非共焦点検出光学系において、さらに、第1レンズ群と第2レンズ群の間に配置される光路分割素子を含む非共焦点検出光学系を提供する。
【0022】
本発明の第13の態様は、照明光を射出する光源と、照明光を標本に照射する対物レンズと、第11の態様または第12の態様に記載の非共焦点検出光学系と、標本から射出される蛍光を検出する光検出器と、を含む多光子励起顕微鏡を提供する。
【0023】
本発明の第14の態様は、第13の態様に記載の多光子励起顕微鏡において、第1レンズ群の焦点距離をf1とし、対物レンズの瞳位置から第1レンズ群の主平面までの光軸に沿った距離をd1とするとき、以下の条件式
0.62<f1/d1<0.84
を満たす多光子励起顕微鏡を提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、多光子励起顕微鏡の設定に応じて、非共焦点検出光学系を最適化する技術を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】実施例1に係る非共焦点検出光学系を含む多光子励起顕微鏡の構成を例示する概略図である。
【図2】実施例2に係る非共焦点検出光学系を含む多光子励起顕微鏡の構成を例示する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0026】
図1は、本実施例に係る非共焦点検出光学系を含む多光子励起顕微鏡の構成を例示する概略図である。まず、図1に例示される多光子励起顕微鏡1の構成について説明する。
多光子励起顕微鏡1は、照明光を射出する第1の照明手段IL1及び第2の照明手段IL2と、照明光を標本Sに照射する対物レンズOB(対物レンズOB1、対物レンズOB2)と、ミラーMを含むミラーユニット7と、標本Sを観察する接眼部8と、標本Sから射出される蛍光を検出する複数の光検出器14(光検出器14a、光検出器14b、光検出器14c、光検出器14d)と、対物レンズOBの瞳P(瞳P1、瞳P2)を光検出器14に投影する非共焦点検出光学系と、を含んでいる。光検出器14としては、例えば、光電子増倍管(PMT)を使用することができる。
【0027】
第1の照明手段IL1は、多光子励起を生じさせるための照明手段であり、走査手段を用いて標本Sを照明する。第1の照明手段IL1は、照明光(レーザ光)を射出するレーザLS(光源)と、コレクタレンズ2と、標本Sを照明光で走査する走査手段であるガルバノミラー3と、瞳投影レンズ4と、結像レンズ5と、照明光を反射し蛍光を透過するダイクロイックミラーDM1を含むミラーユニット6と、を含んでいる。
【0028】
レーザLSは、例えば、近赤外パルスレーザであり、700nmから1100nm程度の波長の光を射出する。このため、2光子励起で生じる蛍光は、400nmから600nm程度の波長の可視光であり、3光子励起で生じる蛍光は、340nmから350nm程度の波長の紫外光(UV光)である。
【0029】
第2の照明手段IL2は、走査手段を用いることなく、標本S全体を同時に照明する照明手段である。第2の照明手段IL2は、照明光を射出する光源15と、照明レンズ16と、照明光を反射し蛍光を透過するダイクロイックミラーDM2とを含んでいる。光源15は、可視光域の光を射出する。また、第2の照明手段IL2は、近紫外線(UV光)によるUV励起に用いられても良い。
【0030】
接眼部8は、標本Sを目視観察するための観察手段である。接眼部8により標本Sを観察する際には、標本S全体が照明されて励起されることが望ましいため、通常、標本Sは第2の照明手段IL2により照明される。第2の照明手段IL2により標本Sを照明し、接眼部8で標本Sを観察する場合には、ミラーユニット7内には、ミラーMの代わりに蛍光を透過するダイクロイックミラーが配置される。なお、接眼部8により標本Sを観察する際に、第2の照明手段IL2により標本Sを照明しながら、第1の照明手段IL1により標本S上の任意の箇所を光刺激してもよい。
【0031】
非共焦点検出系及び光検出器14は、標本Sから射出される蛍光を検出するための検出手段である。光検出器14により蛍光を検出する際には、標本Sの各点が順番に照明されて励起されることが望ましいため、標本Sはガルバノミラー3を含む第1の照明手段IL1によって照明される。
【0032】
非共焦点検出光学系は、交換可能に配置される第1レンズ群9(第1レンズ群9a、第1レンズ群9b、第1レンズ群9c、第1レンズ群9d、第1レンズ群9e)と、第1レンズ群9と光検出器14の間に配置される複数の第2レンズ群13(第2レンズ群13a、第2レンズ群13b、第2レンズ群13c、第2レンズ群13d)と、第1レンズ群9と第2レンズ群13の間に配置される複数のミラーユニット(ミラーユニット10、ミラーユニット11、ミラーユニット12)と、を含んでいる。なお、ミラーユニット7も、非共焦点検出光学系の構成要素としてみなしてもよい。
【0033】
第1レンズ群9は、多光子励起顕微鏡1の設定に応じて交換される。第2レンズ群13は、光検出器14毎に設けられている。ミラーユニットの各々は、バリアフィルタ(バリアフィルタF3、バリアフィルタF4、バリアフィルタF5)とダイクロイックミラー(ダイクロイックミラーDM3、ダイクロイックミラーDM4、ダイクロイックミラーDM5)を含み、各光検出器14に所定の波長の蛍光を導く役割を担っている。ダイクロイックミラーは、第1レンズ群9と第2レンズ群13の間に配置されて、光路分割手段として機能する。
【0034】
図1に例示されるように、多光子励起顕微鏡1の非共焦点検出光学系は、第1レンズ群9と第2レンズ群13の2群で構成されることが望ましい。
多光子励起顕微鏡1は、近赤外光(つまり、長い波長の光)により標本Sを照明することで、標本Sに入射する照明光の散乱を抑制している。しかしながら、すでに上述したように、標本Sから射出される蛍光は可視光やUV光であるため、標本Sから射出される蛍光は散乱し易い。散乱した蛍光を光検出器14で効率良く検出するためには、光検出器14を対物レンズOBのできる限り近くに配置することが望ましい。また、対物レンズOBと光検出器14の間に配置される非共焦点検出光学系は、対物レンズOBの瞳を光検出器14へ投影するために必要最小限の構成を有することが望ましく、図1に例示されるような2群構成が望ましい。
【0035】
また、非共焦点検出光学系は、すでに上述したように、通常、高度な収差補正機能は要求されない。このため、レンズによる蛍光の吸収を抑制して効率良く蛍光を検出するために、必要最小限のレンズ枚数で各レンズ群を構成することが望ましく、図1に例示されるように、多光子励起顕微鏡1の非共焦点検出光学系の各レンズ群が単レンズで構成されることが最も望ましい。
【0036】
また、図1に例示されるように、多光子励起顕微鏡1の非共焦点検出光学系は、以下の条件式(1)を満たすことが望ましい。ただし、f1は、第1レンズ群9の焦点距離であり、d1は、対物レンズOBの瞳位置から第1レンズ群9の主平面までの光軸AXに沿った距離である。
0.62<f1/d1<0.84 ・・・(1)
【0037】
条件式(1)は、対物レンズOBの瞳Pを物点とし、光検出器14を像点とする蛍光の、第1レンズ群9と第2レンズ群13の間における、収斂状態を規定する式である。
【0038】
条件式(1)の上限値を上回ると、蛍光の収斂状態が弱すぎる。第1レンズ群9と第2レンズ群13の間には、ダイクロイックミラーやバリアフィルタなどの光学部材が配置されるが、収斂状態が弱すぎると、レンズ群間での蛍光の光束径が大きいため、光学部材が大型化してしまう。
【0039】
一方、条件式(1)の下限値を下回ると、蛍光の収斂状態が強すぎる。第1レンズ群9と第2レンズ群13の間には、光学部材を配置するためにある程度の距離が必要であるが、収斂状態が強すぎると、レンズ群間に十分な距離を確保することが困難になる。
【0040】
次に、多光子励起顕微鏡1が2光子励起顕微鏡として使用される場合の多光子励起顕微鏡1の作用について説明する。
レーザLSから射出される照明光である近赤外のレーザ光は、コレクタレンズ2、ガルバノミラー3、瞳投影レンズ4、結像レンズ5を介してミラーユニット6に入射し、ダイクロイックミラーDM1を反射する。ダイクロイックミラーDM1を反射したレーザ光は対物レンズOB1により標本Sに集光する。
【0041】
レーザ光の照射により標本Sでは2光子励起が生じ、レーザ光の集光位置からのみレーザ光の半波長よりも長い波長を有する蛍光が射出される。具体的には、射出される蛍光は、400nmから600nm程度の波長の可視光である。
【0042】
蛍光は、対物レンズOB1及びダイクロイックミラーDM1を通過して、ミラーMに入射する。ミラーMを反射した蛍光は、第1レンズ群9aに入射する。
第1レンズ群9aは、対物レンズOB1の瞳P1を物点とする蛍光を収斂光に変換して射出する。第1レンズ群9aから射出された蛍光は、ダイクロイックミラーDM2を通過して、複数のミラーユニットへ入射する。複数のミラーユニットは、入射した蛍光を波長の異なる複数の蛍光に分割して射出する。複数のミラーユニットから射出された蛍光は、それぞれ異なる第2レンズ群13に入射して、それぞれ異なる光検出器14で検出される。
【0043】
各光検出器14で検出される蛍光は標本S上の集光位置から生じた蛍光であるため、多光子励起顕微鏡1は、ガルバノミラー3で標本Sを走査して、焦点面の各位置から生じる蛍光を検出する。これにより、標本Sの蛍光画像を生成する。
【0044】
次に、多光子励起顕微鏡1の設定に応じて、非共焦点検出光学系を最適化する方法について、説明する。具体的には、対物レンズOB1を対物レンズOB2に交換する場合、標本Sの励起方法を2光子励起から3光子励起に変更する場合、第2の照明手段IL2で標本S全体を照明ながら、第1の照明手段IL1で標本Sに光刺激を与える場合について説明する。
【0045】
対物レンズOB1を対物レンズOB2に交換する場合、図1に例示されるように、対物レンズOBの瞳径がφ1からφ2に変化する。また、対物レンズOB1の瞳P1と対物レンズOB2の瞳P2では、瞳位置も異なる。このため、対物レンズOB1の瞳P1を光検出器14に投影するように設計されている第1レンズ群9aと第2レンズ群13との組み合わせでは、対物レンズOB2の瞳P2を光検出器14に適切に投影することができない。
【0046】
そこで、本実施例に係る多光子励起顕微鏡1は、第1レンズ群9aを、第2レンズ群13との組み合わせで対物レンズOB2の瞳P2を光検出器14に投影するように設計されている第1レンズ群9bに交換することで、非共焦点検出光学系を最適化する。これにより、多光子励起顕微鏡1は、対物レンズOB2を使用した場合であっても、対物レンズOB2の瞳P2を光検出器14に適切に投影することが可能であり、良好な検出性能を維持することができる。
【0047】
なお、第1レンズ群9bは、焦点距離が第1レンズ群9aと異なってもよく、主平面の位置が第1レンズ群9aと異なってもよい。
また、非共焦点検出光学系の第1レンズ群9の代わりに、第2レンズ群13を交換してもよい。ただし、第2レンズ群13は光検出器14と同数だけ存在するので、第2レンズ群13の交換は、第1レンズ群9の交換に比べて、最適化作業の負担が大きく、必要なレンズも多くなる。このため、複数ある光検出器14に対応して複数に分岐する前の光路中にある第1レンズ群9を交換して、非共焦点検出光学系を最適化することが望ましい。
【0048】
また、第1レンズ群9aが光軸方向に移動可能に配置されている場合には、第1レンズ群9aを第1レンズ群9bに交換する代わりに、第1レンズ群9aを光軸方向に移動することで、対物レンズOB2の瞳P2を光検出器14に投影してもよい。この場合にも、多光子励起顕微鏡1は、条件式(1)を満たすことが望ましい。
【0049】
標本Sの励起方法を2光子励起から3光子励起に変更すると、標本Sから生じる蛍光の波長はUV域を含む。一般的なガラス材料からなる第1レンズ群9aは、UV域の光の透過率が低いため、非共焦点検出光学系での蛍光の損失が大きくなる。
【0050】
そこで、本実施例に係る多光子励起顕微鏡1は、第1レンズ群9aを、UV域の光の透過率が高い材料からなる第1レンズ群9cに交換することで、非共焦点検出光学系を最適化する。これにより、多光子励起顕微鏡1は、3光子励起顕微鏡として使用する場合にも、蛍光を効率良く検出することができる。
【0051】
なお、第1レンズ群9cには、UV域の透過率が高い反射防止膜がコーティングされていることが望ましい。また、非共焦点検出光学系に含まれるミラーユニットも必要に応じて交換してもよい。例えば、UV域の蛍光の検出に適したバリアフィルタやダイクロイックミラーを含むミラーユニットに交換してもよい。
【0052】
第2の照明手段IL2で標本全体を照明ながら、第1の照明手段IL1で標本Sに光刺激を与える場合、第2の照明手段IL2から射出される照明光は、第1レンズ群9aを介して標本Sに照射される。第2の照明手段IL2による照明では、標本S上での各励起波長における照明むらを抑えるために色収差を良好に補正することが要求される。しかし、第1レンズ群9aは、第2レンズ群13との組み合わせで、ある程度の大きさを有する光検出器14の受光部に蛍光を入射させるように設計されているだけであり、高精度の収差補正機能を有していない。
【0053】
そこで、本実施例に係る多光子励起顕微鏡1は、第1レンズ群9aを、色収差を良好に補正することができる接合レンズからなる第1レンズ群9dに交換することで、非共焦点検出光学系を最適化する。これにより、多光子励起顕微鏡1は、照明むらを抑えた第2の照明手段IL2による良好な照明と、光検出器14による蛍光の検出とを、両立させることができる。
【0054】
なお、第1レンズ群9dは、第1レンズ群9aと同じ焦点距離を有してもよい。また、接眼部8で標本Sを観察するために、ミラーMの代わりに照明光を反射し蛍光を透過するダイクロイックミラーをミラーユニット7内に配置する場合、さらに、バリアフィルタをミラーユニット7内に配置して、接眼部8へのレーザ光の入射を防止することが望ましい。
【0055】
以上、本実施例によれば、第1レンズ群を交換することで、多光子励起顕微鏡1の設定に応じて、非共焦点検出光学系を最適化することができる。
なお、ここでは、多光子励起顕微鏡1の設定が変化する例として、多光子励起顕微鏡1の対物レンズの交換、励起方法の変更、照明方法の変更を例示したが、特にこれに限られない。多光子励起顕微鏡1の任意の設定変更に応じて第1レンズ群を交換して、非共焦点検出光学系を最適化してもよい。
【実施例2】
【0056】
図2は、本実施例に係る非共焦点検出光学系を含む多光子励起顕微鏡の構成を例示する概略図である。なお、図2に例示される多光子励起顕微鏡17では、図1に例示される多光子励起顕微鏡1と同様の構成要素に、同一符号が付されている。
【0057】
図2に例示される多光子励起顕微鏡17は、非共共焦点検出光学系が回転軸RX周りに回転するターレット18と第1レンズ群(第1レンズ群9a、第1レンズ群9d)毎に設けられたミラーユニット(ミラーユニット7、ミラーユニット19)とを含む点と、対物レンズOB1及び対物レンズOB2がレボルバ20に装着されている点が、図1に例示される多光子励起顕微鏡1と異なっている。
【0058】
ターレット18上には、複数の第1レンズ群と、複数のミラーユニットが配置されている。また、第1レンズ群と対応するミラーユニットは一体としてターレット18に配置されている。このため、ターレット18の回転により、第1レンズ群とミラーユニットは、同時に交換される。即ち、ターレット18は、第1レンズ群を交換する光学素子変更手段であり、非共共焦点検出光学系は、光学素子変更手段により第1レンズ群とミラーユニットを同時に交換することができる。
【0059】
なお、図2では、2つの第1レンズ群が例示されているが、特にこれに限られない。ターレット18上には、3つの以上の第1レンズ群が配置されてもよい。また、図2では、2つのミラーユニットが例示されているが、特にこれに限られない。ターレット18上には、3つの以上のミラーユニットが配置されてもよい。
【0060】
第1の照明手段IL1のみを用いて標本Sを照明する場合、ターレット18を回転させて、第1レンズ群9a及びミラーユニット7を光軸AX上に配置すればよい。
これにより、第1レンズ群9a及び第2レンズ群13の組み合わせを用いて、対物レンズOB1の瞳P1を光検出器14に適切に投影することができる。また、ミラーユニット7に含まれるミラーMがすべての蛍光を反射することで、より多くの蛍光を光検出器14で検出することができる。
【0061】
第2の照明手段IL2で標本S全体を照明しながら、第1の照明手段IL1で標本Sに光刺激を与える場合、ターレット18を回転させて、第1レンズ群9dとミラーユニット19を光軸AX上に配置すればよい。
【0062】
これにより、第2の照明手段IL2から射出される照明光は、接合レンズからなる第1レンズ群9dを介して標本Sに照射される。このため、標本Sでの各励起波長における照明むらを抑えることができる。また、標本Sからの蛍光は、ミラーユニット19に含まれるハーフミラーHMにより、分割されて接眼部8と光検出器14の両方に導かれるため、接眼部8での観察と光検出器14での検出を両立することができる。さらに、ミラーユニット19内には、バリアフィルタF6が含まれているため、接眼部8へのレーザ光の入射を防止して、安全に標本Sを観察することができる。
【0063】
なお、光検出器14での検出が不要な場合には、ミラーユニット19は、ハーフミラーHMの代わりに、照明光を反射し蛍光を透過するダイクロイックミラーを含むことが望ましい。
【0064】
以上、本実施例によっても、実施例1と同様に、第1レンズ群を交換することで、多光子励起顕微鏡1の設定に応じて、非共焦点検出光学系を最適化することができる。また、ターレット18上に第1レンズ群が配置されているため、ターレット18の回転により容易に非共焦点検出光学系を最適化することができる。また、ターレット18上に第1レンズ群とともにミラーユニットが配置されているため、ターレット18の回転により第1レンズ群とミラーユニットを同時に交換することができる。このため、さらに容易に非共焦点検出光学系を最適化することができる。
【0065】
なお、ターレット18は、レボルバ20と連動して動作してもよい。これにより、対物レンズOB1から対物レンズOB2への交換に応じて、レボルバ20に連動してターレット18が自動的に回転することで、非共焦点検出光学系を最適化することができる。また、ターレット18は、多光子励起顕微鏡17の設定に応じて、自動的に非共焦点検出光学系を最適化するために、多光子励起顕微鏡17の他の構成要素と連動して動作してもよい。また、図2では、光学素子変更手段としてターレット18が例示されているが、特にこれに限られない。非共焦点検出光学系は、例えば、ターレット18の代わりにスライダ方式で第1レンズ群を交換する光学素子変更手段を含んでもよい。
【符号の説明】
【0066】
1、17・・・多光子励起顕微鏡
2・・・コレクタレンズ
3・・・ガルバノミラー
4・・・瞳投影レンズ
5・・・結像レンズ
6、7、10、11、12、19・・・ミラーユニット
8・・・接眼部
9、9a、9b、9c、9d、9e・・・第1レンズ群
13、13a、13b、13c、13d・・・第2レンズ群
14、14a、14b、14c、14d・・・光検出器
15・・・光源
16・・・照明レンズ
18・・・ターレット
20・・・レボルバ
S・・・標本
OB、OB1、OB2・・・対物レンズ
P、P1、P2・・・瞳
IL1・・・第1の照明手段
IL2・・・第2の照明手段
LS・・・レーザ
M・・・ミラー
HM・・・ハーフミラー
DM1、DM2、DM3、DM4、DM5・・・ダイクロイックミラー
F3、F4、F5、F6・・・バリアフィルタ
AX・・・光軸
RX・・・回転軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
対物レンズの瞳を光検出器に投影する非共焦点検出光学系であって、
交換可能に配置される第1レンズ群と、
前記第1レンズ群と前記光検出器の間に配置される第2レンズ群と、を含む
ことを特徴とする非共焦点検出光学系。
【請求項2】
請求項1に記載の非共焦点検出光学系において、さらに、
前記第1レンズ群と前記第2レンズ群の間に配置される光路分割素子を含む
ことを特徴とする非共焦点検出光学系。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の非共焦点検出光学系において、さらに、
前記第1レンズ群を交換する光学素子変更手段を含む
ことを特徴とする非共焦点検出光学系。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の非共焦点検出光学系において、
複数の前記第1レンズ群が前記光学素子変更手段に配置される
ことを特徴とする非共焦点検出光学系。
【請求項5】
請求項4に記載の非共焦点検出光学系において、さらに、
前記光学素子変更手段に配置されたミラーユニットを含み、
前記第1レンズ群は、前記光学素子変更手段により前記ミラーユニットとともに交換される
ことを特徴とする非共焦点検出光学系。
【請求項6】
照明光を射出する光源と、
前記照明光を標本に照射する対物レンズと、
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の非共焦点検出光学系と、
前記標本から射出される蛍光を検出する光検出器と、を含む
ことを特徴とする多光子励起顕微鏡。
【請求項7】
請求項6に記載の多光子励起顕微鏡において、
前記第1レンズ群の焦点距離をf1とし、前記対物レンズの瞳位置から前記第1レンズ群の主平面までの光軸に沿った距離をd1とするとき、以下の条件式
0.62<f1/d1<0.84
を満たす
ことを特徴とする多光子励起顕微鏡。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の多光子励起顕微鏡において、
前記第1レンズ群は、前記対物レンズの交換に応じて交換される
ことを特徴とする多光子励起顕微鏡。
【請求項9】
請求項6または請求項7に記載の多光子励起顕微鏡において、
前記第1レンズ群は、前記蛍光の波長に応じて交換される
ことを特徴とする多光子励起顕微鏡。
【請求項10】
請求項6または請求項7に記載の多光子励起顕微鏡において、
前記第1レンズ群は、前記標本に至る前記照明光の光路に応じて交換される
ことを特徴とする多光子励起顕微鏡。
【請求項11】
対物レンズの瞳を光検出器に投影する非共焦点検出光学系であって、
光軸方向に移動可能に配置される第1レンズ群と、
前記第1レンズ群と前記光検出器の間に配置される第2レンズ群と、を含む
ことを特徴とする非共焦点検出光学系。
【請求項12】
請求項11に記載の非共焦点検出光学系において、さらに、
前記第1レンズ群と前記第2レンズ群の間に配置される光路分割素子を含む
ことを特徴とする非共焦点検出光学系。
【請求項13】
照明光を射出する光源と、
前記照明光を標本に照射する対物レンズと、
請求項11または請求項12に記載の非共焦点検出光学系と、
前記標本から射出される蛍光を検出する光検出器と、を含む
ことを特徴とする多光子励起顕微鏡。
【請求項14】
請求項13に記載の多光子励起顕微鏡において、
前記第1レンズ群の焦点距離をf1とし、前記対物レンズの瞳位置から前記第1レンズ群の主平面までの光軸に沿った距離をd1とするとき、以下の条件式
0.62<f1/d1<0.84
を満たす
ことを特徴とする多光子励起顕微鏡。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−242532(P2011−242532A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−113380(P2010−113380)
【出願日】平成22年5月17日(2010.5.17)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】