説明

非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期予測方法及び保守方法

【課題】予測精度の高い非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期予測方法と、この方法に基づくイオン交換樹脂装置の保守方法を提供することを目的とする。
【解決手段】カラム内にイオン交換を充填した非再生型イオン交換樹脂装置2の破過時期を予測する方法において、該カラムよりも小型のカラム内に該イオン交換樹脂と同じイオン交換樹脂を充填した小型樹脂カラム3A,3Bを該非再生型イオン交換樹脂装置2と並列に設置し、被処理水を該小型樹脂カラム3A,3Bに通水し、該小型樹脂カラムの処理水データに基づいて該非再生型イオン交換樹脂装置2の破過時期を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期を予測する方法と、この方法で予測された破過時期前に該非再生型イオン交換樹脂装置又はそのイオン交換樹脂を交換する保守方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高純度の純水、超純水が要求される液晶・半導体等の電子産業分野では、一次純水製造装置の末尾や二次純水製造装置において、極微量のイオンを除去するために非再生型イオン交換樹脂装置が設置されることが多い。非再生型イオン交換樹脂装置としては、混床式イオン交換樹脂装置が多く用いられるが、単床式や複床式のイオン交換樹脂装置も使用される。
【0003】
非再生型イオン交換樹脂装置は、ユースポイントの前段に設置されるため、非再生型イオン交換樹脂装置から万一イオンリークが発生すると生産設備の操業が停止される恐れがある。そのため、従来は非再生型イオン交換樹脂装置の交換を早目に行っており、非再生型イオン交換樹脂装置のイオン交換能を最大限に利用することが難しかった。
【0004】
特許文献1には、二次純水製造装置におけるイオン交換装置の前段で一次純水中のTOCが紫外線酸化装置において炭酸に分解されることから、非再生型イオン交換装置のイオン負荷の大部分が炭酸であるとみなし、イオン交換装置の炭酸負荷量を連続的に監視し、予め設定しておいたイオン交換装置の炭酸交換容量とこの炭酸負荷量とからイオン交換装置の交換時期を予測する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−101761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1においては、対象とするイオン交換装置の炭酸交換容量を予め定めるものとしている。しかしながら、炭酸交換容量は樹脂の種類や給水条件によって異なるという問題がある。非再生型イオン交換樹脂装置は、イオン負荷が極めて低い領域で使用されるため、予め実機の非再生型イオン交換樹脂装置と同等の条件で炭酸交換容量を求める試験を行うことは難しく、実機と異なる条件下での試験により求めた炭酸交換容量の値をそのまま適用すると実機との誤差が生じる恐れがあった。そうした場合、通常数年単位での樹脂交換頻度となる非再生型イオン交換装置において、イオン交換能を最大限に利用しうる樹脂交換時期の予測誤差が大きくなる。
【0007】
本発明は、予測精度の高い非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期予測方法と、この方法に基づくイオン交換樹脂装置の保守方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測方法は、カラム内にイオン交換を充填した非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期を予測する方法において、該カラムよりも小型の小型カラム内に該イオン交換樹脂と同じイオン交換樹脂を充填した小型樹脂カラムを該非再生型イオン交換樹脂装置と並列に設置し、該非再生型イオン交換樹脂装置に通水される被処理水と同一の被処理水を該小型樹脂カラムに通水し、該小型樹脂カラムの処理水データに基づいて該非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期を予測することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2の非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測方法は、請求項1において、前記小型樹脂カラムのイオン交換樹脂層高は、前記非再生型イオン交換樹脂装置のイオン交換樹脂層高の1/20〜1/2であることを特徴するものである。
【0010】
請求項3の非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測方法は、請求項1又は2において、前記非再生型イオン交換樹脂装置の通水SVの2〜200倍の通水SVで小型樹脂カラムに通水することを特徴とするものである。
【0011】
請求項4の非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記処理水データは、前記小型樹脂カラムの処理水の比抵抗値、導電率、イオンクロマトグラフィー分析結果又はICP分析結果であることを特徴とするものである。
【0012】
請求項5の非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測方法は、請求項1ないし4のいずれか1項において、小型樹脂カラムからの流出水中のイオン濃度の経時変化を表わす式を小型樹脂カラムの仕様及びパラメータを用いて表わしておき、このパラメータを小型樹脂カラムからの流出水のイオン濃度の経時変化の実測値に基づいて決定し、このパラメータと、非再生型イオン交換樹脂装置の仕様とに基づいて非再生型イオン交換樹脂装置からの流出水中のイオン濃度の経時変化を演算し、この演算値が基準値を超える時間を予測破過時間とすることを特徴とするものである。
【0013】
請求項6の非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測方法は、請求項1ないし5のいずれか1項において、前記小型樹脂カラムは、塔径、樹脂層高、及び通水SVのうち1以上を異ならせた複数本が並列に設置されていることを特徴とするものである。
【0014】
請求項7の非再生型イオン交換樹脂装置の保守方法は、請求項1ないし6のいずれか1項の非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測方法によって予測された破過時期の経過前に、前記非再生型イオン交換樹脂装置内のイオン交換樹脂又は前記非再生型イオン交換樹脂装置を交換することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、非再生型イオン交換樹脂装置と並列に、該非再生型イオン交換樹脂装置のイオン交換樹脂と同一のイオン交換樹脂を充填した小型樹脂カラムを設置する。そして、該非再生型イオン交換樹脂装置に通水される被処理水と同一の被処理水を小型樹脂カラムに通水し、この小型樹脂カラムの処理水データを取得し、この処理水データに基づいて非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期を予測する。
【0016】
小型樹脂カラムへの通水条件を非再生型イオン交換樹脂装置よりも破過が早く発生する条件とすることにより、非再生型イオン交換樹脂装置の破過に先行して小型樹脂カラムに破過が発生する。小型樹脂カラムの処理水データに基づいて非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期を予測する。
【0017】
具体的には、イオン交換カラムにおけるこのイオン交換樹脂と被処理水との吸着特性を表わすモデルを小型樹脂カラムの処理水データに基づいて設定し、このモデルを該非再生型イオン交換樹脂装置に適用する。これにより、この非再生型イオン交換樹脂装置に上記被処理水を通水した場合の破過時期を予測することができる。
【0018】
小型樹脂カラムとして、破過時期が異なるように構成された複数個のものに該被処理水を通水し、各小型樹脂カラムの処理水データからそれぞれモデルを設定し、各モデルから非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期を予測してもよい。このようにすれば、複数の予測データが得られるので予測破過時期の信頼性が向上する。
【0019】
非再生型イオン交換樹脂装置について予測された破過時期が到来する前に、非再生型イオン交換樹脂装置の交換又は非再生型イオン交換樹脂装置内のイオン交換樹脂の交換を行う。破過時期の予測精度が高いので、破過を生じさせることなく、非再生型イオン交換樹脂装置のイオン交換容量を最大限に利用することができる。
【0020】
なお、特許文献1では、炭酸が破過の律速となる場合にのみイオン交換装置の破過予測が可能であるが、本発明では炭酸以外のイオン(ナトリウム、ホウ素、シリカ等)が律速であっても破過予測が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】非再生型イオン交換樹脂装置の通水系統図である。
【図2】小型樹脂カラムにおけるイオン交換モデルを説明する模式図である。
【図3】シミュレーションの結果を示すグラフである。
【図4】破過曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して本発明についてさらに詳細に説明する。図1は実施の形態に係る非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測方法を示すフロー図である。被処理水は、水質計1を通って非再生型イオン交換樹脂装置2に通水され、処理水として流出する。非再生型イオン交換樹脂装置2は、カラムと、該カラムに充填されたイオン交換樹脂とを有する。
【0023】
水質計1を通った被処理水の一部は、小型樹脂カラム3A、流量計4A、流量調節バルブ5A、水質計6Aの第1予測系統と、小型樹脂カラム3B、流量計4B、流量調節バルブ5B、水質計6Bの第2予測系統とにそれぞれ通水される。なお、この系統数は1又は3以上であってもよい。
【0024】
小型樹脂カラム3A,3Bは、非再生型イオン交換樹脂装置2のカラムよりも小さいカラム内に非再生型イオン交換樹脂装置2のイオン交換樹脂と同一のイオン交換樹脂を充填したものである。なお、小型樹脂カラム3A,3Bは、塔径、樹脂層高、及び通水SVのうち1以上を異ならせてある。
【0025】
この非再生型イオン交換樹脂装置2と小型樹脂カラム3A,3Bとに同一の被処理水を通水し、小型樹脂カラム3A,3Bの処理水(流出水)中の対象イオンの濃度を水質計6A,6Bで検出する。そして、被処理水の水質と小型樹脂カラム3A,3Bの流出水の水質の経時変化とから、この被処理水とイオン交換樹脂カラムとの破過特性を表わすモデル(破過予測シミュレーションモデル)を決定し、このモデルを非再生型イオン交換樹脂装置2に適用して非再生型イオン交換樹脂装置2の破過時期を予測する。
【0026】
非再生型イオン交換樹脂装置2及び小型樹脂カラム3A,3Bの好適な構成と、破過時期の計算方法及びシミュレーションモデルについて次に説明する。
【0027】
<非再生型イオン交換樹脂装置>
非再生型イオン交換樹脂装置2は、一次純水製造装置の最終部や二次純水製造装置に設置され、その被処理水の水質は通常、炭酸イオン30μg/L as C以下、塩化物イオン1μg/L以下、ナトリウムイオン1μg/L以下、アンモニウムイオン0.1μg/L以下、ホウ素10μg/L as B以下、シリカ50μg/L as SiO以下のレベルである。
【0028】
非再生型イオン交換樹脂装置としては、H型の強カチオン交換樹脂とOH型の強アニオン交換樹脂を混合した混床式イオン交換樹脂装置が多く用いられる。混床式イオン交換樹脂装置のカチオン交換樹脂とアニオン交換樹脂の混合割合は、被処理水質によっても異なるが、カチオン交換樹脂/アニオン交換樹脂=0.2〜1.0であることが好ましい。通常の場合、本発明が対象とする混床式イオン交換樹脂装置の樹脂層高は0.3〜2m程度、塔径は0.3〜2m程度、樹脂量は0.02〜6m程度である。非再生型イオン交換樹脂装置の通水SVは30〜150程度である。
【0029】
<小型樹脂カラム>
小型樹脂カラム3A,3Bは円筒形のものが好ましい。カラムの両端は、イオン交換樹脂が漏れないように樹脂の粒子径よりも小さい径のメッシュを設けたものを用いるのが好ましい。
【0030】
小型樹脂カラム3A,3Bの樹脂層高は、低すぎると実機の非再生型イオン交換樹脂装置との構造差が大きくなりすぎるとともに、短期間の通水により破過が起こるため、非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測精度が悪くなる。また、樹脂層高が高すぎると破過までの時間が長くなりすぎて非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測に時間を要することとなる。従って、できるだけ短時間で精度良く破過時期を予測するためには、小型樹脂カラムの樹脂層高を、実機の非再生型イオン交換樹脂装置の樹脂層高の1/20〜1/2とするのが好ましく、1/15〜1/3とするのがより好ましく、1/10〜1/5とするのがさらに好ましい。
【0031】
小型樹脂カラムの塔径(内径)は、小さすぎるとカラム内壁を沿う水の流れの影響が大きくなり、大きすぎると破過までの時間が長くなりすぎて非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測に時間を要することとなる。その点で、小型樹脂カラムの塔径は、20〜100mmとするのが好ましく、25〜90mmとするのがより好ましく、30〜60mmとするのがさらに好ましい。
【0032】
小型樹脂カラムの通水SVは実機の非再生型イオン交換樹脂装置の2〜200倍とするのが好ましく、5〜100倍とするのがより好ましく、10〜50倍とするのがさらに好ましい。具体的には、900〜9000[1/h]とするのが好ましい。SVが小さすぎると破過までの時間が長くなりすぎて非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測に時間を要することとなる。また、大きすぎると短期間の通水により破過が起こるため、破過時期の予測精度が悪くなる。なお、本明細書において、SVは[通水量]/[充填樹脂容量]である。
【0033】
このように小型樹脂カラムに高SVで通水を行うため、小型樹脂カラムの処理水を回収し、当該非再生型イオン交換樹脂装置の前段の一次純水系又は二次純水系に返送するのが好ましい。
【0034】
本発明における小型樹脂カラムは、1本でも非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測は可能であるが、複数本設けることにより、より予測精度を向上させることができる。
【0035】
<処理水データ>
処理水データとしては、予め破過の律速となるイオン(対象イオン)を求めておき、処理水中のこのイオンの濃度を処理水データとするのが好ましい。
【0036】
具体的には、被処理水中の各種イオン濃度をイオンクロマトグラフィーやICPなどの分析手法により分析することにより、どのイオンが破過の律速になるのかを事前に把握しておくのが好ましい。即ち、炭酸、ナトリウム、アンモニア、ホウ素、シリカ等のうちから最も早く破過するイオンを対象イオンとする。通常の場合、HCOが対象イオンとなることが多い。
【0037】
なお、処理水データ取得用の小型樹脂カラムとは別に樹脂分析用の樹脂カラムを設け、当該樹脂カラムに所定の通水量だけ通水した後、当該樹脂カラムの塩型分析(H型カチオン樹脂やOH型アニオン樹脂がどのような塩型になっているのかの定量分析)を行うことにより破過の律速となる対象イオンを決定してもよい。被処理水のイオン濃度の変動が大きい場合には、被処理水のサンプリング数が多く必要となるために手間と経費がかさんだり、少数の各サンプリングにより水質の平均値をとると誤差が大きくなったりする虞がある。そのような場合には、樹脂分析用の樹脂カラムにより被処理水中のイオン種及びそれらの平均濃度を容易に測定することができる。
【0038】
炭酸濃度が高く、炭酸が律速となると判断される場合には、処理水の電気伝導率又は比抵抗率を測定し、それを特許文献1の段落0017〜0030に記載の原理で炭酸濃度に換算することができる。その他のイオンが律速になると判断される場合には、市販のイオンクロマトグラフィー装置やICP、ホウ素分析計、シリカ分析計を利用することができる。
【0039】
本発明では、比抵抗率計やオンラインイオンクロマトグラフィーを処理水ラインに設置して対象イオン濃度を直接測定してもよい。また、処理水のサンプリングを複数回行い、対象イオンの濃度を測定してもよい。
【0040】
<破過時期の予測>
本発明においては、小型樹脂カラムの破過までの時間と、小型樹脂カラムの仕様(樹脂層高、SV等)から非再生型イオン交換樹脂装置の破過までの時間を求める式を定式化することによって、実機の非再生型イオン交換樹脂装置の仕様における破過時期の予測を行ってもよい。例えば、複数の小型樹脂カラムの破過までの時間とSVの関係から、下記のような式を定式化することにより、非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測が可能である。
【0041】
【数1】

【0042】
ただし、樹脂層の仕様や通水条件によってイオン交換帯の形状が異なるため、上記式の補正係数Aの精度が正確に求められない場合もある。本発明では、後述の破過予測シミュレータを用いることにより、理論的にイオン交換樹脂充填層内における対象イオンのイオン交換樹脂内濃度qや液中濃度Cを取得し、上記式のような予測式を用いるよりも正確に破過時期を予測することができる。
【0043】
<破過予測シミュレーション>
破過予測シミュレータとしては、式(1)の物質収支式及び式(2)の吸着速度式を連立させることにより、イオン交換樹脂充填層内における対象イオンのイオン交換樹脂内濃度q及び液中濃度Cの経時変化を算定するモデルを用いることができる(参考:化学工学便覧(改訂第六版)丸善株式会社P.702〜703)。
【0044】
【数2】

ε:充填されたイオン交換樹脂の空隙率[−]
C:液中濃度[mol/L]
t:時間[h]
u:通水LV[m/h]
z:充填層入口からの距離[m]
γ:イオン交換樹脂の嵩密度([カラム内のイオン交換樹脂重量]/[カラム充填層容積])[kg/L]
q:イオン交換樹脂内濃度[mol/kg]
【0045】
【数3】

:総括物質移動容量係数[l/h]
C:qと平衡な液中濃度[mol/L]
【0046】
このモデルを図2に示す。図2の通り、小型樹脂カラム4内に充填されたイオン交換樹脂を充填層最上面から充填層最下面に向かって、F,F,F……………Fのn個の層状のフラクションよりなるものとする。フラクションの数nは多ければ多いほど精度が上がるが、nは50〜10000程度であればよい。
【0047】
上記式(1)は、任意のフラクションFにおける単位時間当りのイオンの流入量が該フラクションFからのイオンの流出量と該フラクションFに属するイオン交換樹脂へのイオン吸着量との和に等しいという物質収支を表わすものである。
【0048】
式(2)は、該フラクションFに属するイオン交換樹脂のイオン吸着量qの単位時間当りの増加量は、フラクションFに流入する水中のイオン濃度Cと、該qと平衡な液中イオン濃度Cとの差に比例することを表わす。
【0049】
対象イオン(破過律速イオン)がHCOの場合、qとCとの関係は次式にて表される。
【0050】
【数4】

【0051】
最下段のフラクションFの流出水は、小型樹脂カラム4からの流出水である。従って、(2)式を(1)式に代入し、Cをtで解くことにより、フラクションFのイオン濃度Cと通水開始からの経過時間tとの関係を表わす式がK,ε,γ,Q,KHCO3OH(上記(3)式の選択係数。以下、同様。),C,C,z,uを用いて表わされる。このうち、ε,γ,Q,C,z(充填層高)は既知である。C又はKHCO3OHは、平衡吸着試験で求めておくか、又はシミュレーションのフィッティングによって定める。
【0052】
次に、小型樹脂カラム3A又は3Bからの流出水のイオン濃度を経時的に測定し、フラクションFからの流出水濃度経時変化が実測値と合致するようにK,Cを定める。
【0053】
このようにして求めた式に非再生型イオン交換樹脂装置2のε,γ,z(充填層高),uの値を代入することにより、非再生型イオン交換樹脂装置2の処理水中のイオン濃度の経時変化が求められ、これから該装置2の破過時期が求められる。ε,γは小型樹脂カラムと同一値としてもよい。
【0054】
このように、小型樹脂カラムの処理水データに基づいて破過予測式を定め、非再生型イオン交換樹脂装置2にあてはめて非再生型イオン交換樹脂装置2の破過時期を予測することができる。その際に、1本の小型樹脂カラムの処理水データに基づいて破過予測式を定めることが可能であるが、破過時期が異なるように構成された複数本の小型樹脂カラムの処理水データにシミュレーション結果がフィッティングするように破過予測式を定めると、破過予測の精度を向上させることができる。
【0055】
なお、破過予測シミュレータとしては、適用するモデルにより予測精度は異なるが、各種のシミュレーションモデルを利用することができる。たとえば、下記の文献i)〜iii)に開示されるシミュレーションモデルを採用することが可能である。
i) 片岡,武藤,西機;ケミカルエンジニアリングVol.40 No.2 Page.144-147 (1995.02)
ii) Journal of Hazardous Materials 152(2008)241-249 “Prediction of ion-exchange column breakthrough curves by constant-pattern wave approach”
iii) Reactive & Functional Polymers 60(2004)121-135
【0056】
<非再生型イオン交換樹脂装置の樹脂交換>
上記破過時期に沿って、もしくは上記破過時期に所定の安全率をかけた時期に樹脂交換を行う。たとえば、破過時期が非再生型イオン交換樹脂装置への通水開始から26ヶ月と予測された場合には、2ヶ月の余裕を持って、24ヶ月経過した時点で樹脂交換を行うといった交換スケジュールの立案が可能となる。
【実施例】
【0057】
[実施例1]
液晶工場の二次純水製造装置における非再生型イオン交換樹脂装置の交換時期の予測を行った。
【0058】
図1のように、非再生型イオン交換樹脂装置2に並列で小型樹脂カラム3A,3Bを設置し、通水を行った。対象イオンはHCOイオンとし、水質計として比抵抗率計を用い、比抵抗率からHCO濃度を求めた。
【0059】
被処理水の水質は次の通りである。
【0060】
被処理水比抵抗率[MΩ・cm]:17.1
被処理水[HCO]濃度:6.91E−09
被処理水[HCO]濃度:2.70E−08
被処理水[H]濃度:1.14E−07
被処理水[OH]濃度:8.77E−08
被処理水pH:6.94
【0061】
小型樹脂カラムの仕様は次の通りである。
<小型樹脂カラム3A>
塔径[mm]:40
樹脂層高[mm]:100
通水SV[1/h]:4000(LV=400m/h)
樹脂層空隙率ε[−]:0.392
樹脂層嵩密度γ[g/L]:650
<小型樹脂カラム3B>
塔径[mm]:40
樹脂層高[mm]:200
通水SV[1/h]:1000(LV=200m/h)
樹脂層空隙率ε[−]:0.392
樹脂層嵩密度γ[g/L]:650
【0062】
小型樹脂カラム3A,3Bの処理水データ(比抵抗率の経時変化の測定結果)を図3にプロットした。このデータを用い、(1)〜(3)式を連立させてC,tについて解き、各小型樹脂カラムの上記仕様を入力し、下記条件で小型樹脂カラム3A、3Bの破過曲線に近くなるようシミュレーションパラメータを設定し、破過予測シミュレーション結果を図3に破線で示した。なお、図3のシミュレーションでは、KHCO3OHは8[−]、Kは13500[1/h]である。
【0063】
<小型樹脂カラム3A,3Bの仕様及びシミュレーション条件>
フラクション数n:100
計数ステップ数(時間刻み数):2000
時間刻み幅[h]:1.2
最大計算時間[h]:2400
【0064】
同じシミュレーションパラメータを用いて、非再生型イオン交換樹脂装置2について下記仕様及び条件で破過予測シミュレーションを行うことにより得られた破過曲線を図4に示す。図示の通り、破過点を18.0MΩ・cmとした場合、破過時期は、通水開始から800日後であると予測された。
<非再生型イオン交換樹脂装置2の仕様及びシミュレーション条件>
塔径[mm]:400
樹脂層高[mm]:500
通水SV[1/h]:200(LV=100m/h)
樹脂層分割数:100
計数ステップ数:2000
時間刻み幅[h]:21
最大計算時間[h]:42000
樹脂層空隙率ε[−]:0.392
樹脂層嵩密度γ[g/L]:650
被処理水比抵抗率[MΩ・cm]:17.1
被処理水[HCO]濃度:6.91E−09
被処理水[HCO]濃度:2.70E−08
被処理水[H]濃度:1.14E−07
被処理水[OH]濃度:8.77E−08
被処理水pH:6.94
【符号の説明】
【0065】
1,6A,6B 水質計
2 非再生型イオン交換樹脂装置
3A,3B 小型樹脂カラム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラム内にイオン交換を充填した非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期を予測する方法において、
該カラムよりも小型の小型カラム内に該イオン交換樹脂と同じイオン交換樹脂を充填した小型樹脂カラムを該非再生型イオン交換樹脂装置と並列に設置し、
該非再生型イオン交換樹脂装置に通水される被処理水と同一の被処理水を該小型樹脂カラムに通水し、
該小型樹脂カラムの処理水データに基づいて該非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期を予測することを特徴とする非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測方法。
【請求項2】
請求項1において、前記小型樹脂カラムのイオン交換樹脂層高は、前記非再生型イオン交換樹脂装置のイオン交換樹脂層高の1/20〜1/2であることを特徴する非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記非再生型イオン交換樹脂装置の通水SVの2〜200倍の通水SVで小型樹脂カラムに通水することを特徴とする非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、
前記処理水データは、前記小型樹脂カラムの処理水の比抵抗値、導電率、イオンクロマトグラフィー分析結果又はICP分析結果であることを特徴とする非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、
小型樹脂カラムからの流出水中のイオン濃度の経時変化を表わす式を小型樹脂カラムの仕様及びパラメータを用いて表わしておき、このパラメータを小型樹脂カラムからの流出水のイオン濃度の経時変化の実測値に基づいて決定し、
このパラメータと、非再生型イオン交換樹脂装置の仕様とに基づいて非再生型イオン交換樹脂装置からの流出水中のイオン濃度の経時変化を演算し、この演算値が基準値を超える時間を予測破過時間とすることを特徴とする非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測方法。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1項において、
前記小型樹脂カラムは、塔径、樹脂層高、及び通水SVのうち1以上を異ならせた複数本が並列に設置されていることを特徴とする非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測方法。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれか1項の非再生型イオン交換樹脂装置の破過時期の予測方法によって予測された破過時期の経過前に、前記非再生型イオン交換樹脂装置内のイオン交換樹脂又は前記非再生型イオン交換樹脂装置を交換することを特徴とする非再生型イオン交換樹脂装置の保守方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−154634(P2012−154634A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−11063(P2011−11063)
【出願日】平成23年1月21日(2011.1.21)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】