説明

非分枝鎖状の非環式アクリル酸オクタトリエンの製造方法

本発明は、カルベンリガンドを有し、金属として元素の周期律表の第VIII副族の元素を含有する触媒の存在下で、1,3−ブタジエンを二量化することにより、1もしくは複数の非分枝鎖状の非環式オクタトリエンを製造する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,3−ブタジエンの二量化により1もしくは複数の非分枝鎖状の非環式オクタトリエンを製造する方法およびそのための触媒に関する。
【0002】
非分枝鎖状の非環式オクタトリエンは、変性ポリエチレンまたはポリプロピレンを製造するためのコモノマーである。これらは、モノオレフィンと、すくなくとも2の二重結合を有する炭化水素とを2:1のモル比で重合することにより得られるエラストマーであるターポリマーを製造するための成分として利用することができる。さらに非分枝鎖状の非環式オクタトリエンは相応するモノエポキシド、ジエポキシドまたはトリエポキシドへと反応させることができる。これらのエポキシドは、たとえばポリエーテルのための前駆体であってよい。
【0003】
線状のオクタトリエンはたとえば1,3−ブタジエンの二量化により製造することができる。1,3−ブタジエンの二量化の際に、高級オリゴマー、環式ダイマー、たとえば1,5−シクロオクタジエンおよびビニルシクロヘキス−4−エン、分枝鎖状および線状の非環式二量体ならびにこれらの混合物が生じうる。1,3−ブタジエンを線状二量体へと二量化するための触媒として、通常は元素の周期律表の第8副族の金属、たとえば鉄、コバルト、ロジウム、ニッケルまたはパラジウムの錯体を使用する。
【0004】
リガンドとして三価のリン化合物を有するニッケル錯体は、たとえばDD107894、DD102688およびUS3,435,088において触媒として使用されている。US4,593,140では、ニッケル−ホスフィット錯体が触媒として使用されており、この場合、OR基がアミノ基を有する。
【0005】
US3,691,249およびDD102376では、パラジウム−ホスフィン錯体が、US3,714,284では、パラジウム−ホスフィット錯体が、およびDE1668326では、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム−無水マレイン酸錯体が、触媒として使用されている。
【0006】
1,3−ブタジエンを二量化する前記の方法は、線状のオクタトリエンを部分的に極めて高い収率でもたらすが、しかし、経済的な工業的方法にとって触媒安定性および/または触媒活性が低すぎるかつ/または特定の触媒価格が高すぎるという欠点を伴っている。さらに、リン含有リガンドは、酸化に対して極めて敏感であるという欠点を有する。
【0007】
従って、従来技術の触媒系の1もしくは複数の欠点を有していない代替的な触媒系を提供するという課題が存在していた。
【0008】
意外なことに、触媒として、構造式Lの少なくとも1のカルベン、特に1,3−ビス−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−4,5−ジメチル−2−デヒドロ−3−ヒドロ−イミダゾールをリガンドとして有する、元素の周期律表の第8副族の金属の錯体を使用する場合に、第2級アルコールと塩基との存在下で、高い空時収率で1,3−ブタジエンを線状のオクタトリエンへと、しかもほぼ1,3,7−オクタトリエンのみへと、高い選択率で反応させることができることが判明した。この発見は予想外であった。というのも、たとえばDE10149348には、アルコールを用いたブタジエンの、1−アルコキシ−2,7−オクタジエンへのテロメリゼーションのために、特に触媒として、そのカルベン単位が同様に1,3,4,5−4置換された2−デヒドロ−3−ヒドロイミダゾールであるパラジウム−カルベン錯体が使用されているからである。
【0009】
従って本発明の対象は、1,3−ブタジエンから、または1,3−ブタジエンを含有する炭化水素混合物から線状のオクタトリエンを製造する方法であり、この方法は、1,3−ブタジエンの二量化を、第2級アルコールおよび塩基の存在下に行い、かつ触媒として、構造L
【化1】

[式中、R1およびR2は、C1〜C3−アルキル基であり、かつR3およびR4は、Hであるか、またはC1〜C3−アルキル基であり、その際、基R1およびR2もしくはR3およびR4は、同じであるか、または異なっていてよい]を有する少なくとも1のカルベンをリガンドとして有する、元素の周期律表の第8副族の金属の錯体を使用することを特徴とする。基R3およびR4は、3位、4位または5位でベンゼン環と結合していてもよい。有利には基R3およびR4は、4位でベンゼン環に結合している。
【0010】
同様に、本発明の対象は、本発明による方法により製造されるオクタトリエンの混合物ならびに線状のオクタトリエンを製造するための該混合物の使用である。
【0011】
さらに本発明の対象は、カルベン錯体触媒において、該触媒が、構造L
【化2】

[式中、R1およびR2は、C1〜C3−アルキル基であり、かつR3およびR4は、Hであるか、またはC1〜C3−アルキル基であり、その際、基R1およびR2もしくはR3およびR4は、同じであるか、または異なっていてよい]を有する少なくとも1のカルベンをリガンドとして有する、元素の周期律表の第8副族の金属のリガンド錯体であることを特徴とするカルベン錯体触媒である。
【0012】
本発明による方法の利点は、反応混合物が、沸点における明らかな違いに基づいて容易にオクタトリエン、原料、第2級アルコール、副生成物および触媒へと分離され、かつ分離された触媒は大部分、再びプロセスへ返送することができることである。このことにより安価な方法が生じる。というのも、分離コストも、触媒コストもわずかだからである。
【0013】
さらに本発明により使用されるリガンドの前駆体は、長期間にわたっても問題なく貯蔵可能であり、かつ酸化に対するリガンドの感受性がより低い。さらに本発明による方法は、80%を上回るブタジエンの反応率が得られ、かつ1,3,7−オクタトリエンの収率もまた75%を上回るという利点を有する。
【0014】
以下では本発明による方法を例示的に記載するが、特許請求の範囲および詳細な説明から生じる本発明、本発明の保護範囲はこれらに限定すべきではない。特許請求の範囲もまた、本発明の開示内容に属する。以下の記載で範囲もしくは有利な範囲が記載されている場合、これらの範囲にある全ての理論的に可能な部分的な範囲および個々の値もまた、本発明の開示内容に属すものであって、これらはより良好な理解のために明示的に記載されていないにすぎない。
【0015】
1,3−ブタジエンから、または1,3−ブタジエンを含有する炭化水素混合物から線状のオクタトリエンを製造する本発明による方法は、第2級アルコールおよび塩基の存在下で1,3−ブタジエンの二量化を行い、かつ触媒として、構造L
【化3】

[式中、R1およびR2は、C1〜C3−アルキル基であり、かつR3およびR4は、Hであるか、またはC1〜C3−アルキル基であり、その際、基R1およびR2もしくはR3およびR4は、同じであるか、または異なっていてよい]を有する少なくとも1のカルベンをリガンドとして有する、元素の周期律表の第8副族の金属の錯体を使用することを特徴とする。基R3およびR4は、3位、4位または5位でベンゼン環と結合していてよい。有利には基R3およびR4は、4位でベンゼン環と結合している。特に有利には本発明による方法では、1,3−ブタジエンを非分枝鎖状の非環式オクタトリエンへと二量化するための触媒として、少なくとも1の1,3−ビス−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−4,5−ジメチル−2−デヒドロ−3−ヒドロ−イミダゾール(構造L1)
【化4】

をリガンドとして有する、元素の周期律表の第8副族の金属の錯体を使用する。
【0016】
本発明による方法で使用される(錯体)触媒は、触媒金属として、元素の周期律表の第VIII副族の1もしくは複数の金属を有していてよい。有利には本発明により使用される触媒は、金属としてニッケルまたはパラジウム、特に有利にはパラジウムを含有する。
【0017】
1,3−ブタジエンの、線状オクタトリエンへの二量化を、少なくとも1の別のリガンドの存在下に実施することが有利でありうる。その際、反応速度を高めるか、線状オクタトリエンの形成の選択率を改善するか、触媒寿命を延長するか、またはその他の利点をもたらすようなリガンドを付加的に使用することが有利である。1,3−ブタジエンを二量化するための本発明による方法は、カルベンリガンドL以外に、少なくとも1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン(DVDS)が別のリガンドとして存在する場合に特に有利に実施することができる。場合により存在する別のリガンド、特にDVDSのリガンド対カルベンリガンドLの比率は、有利には0.1:1〜10:1、好ましくは0.5:1〜1.5:1、特に有利には0.9:1〜1.1:1およびとりわけ有利であるのは1:1である。
【0018】
本発明によるカルベン錯体中で、金属、特にパラジウムは有利には0および2の酸化数で存在していてよい。このようなカルベン錯体のための例は、特にパラジウム(0)カルベン−オレフィン錯体、パラジウムカルベンホスフィン錯体、パラジウム(0)ジカルベン錯体、パラジウム(2)ジカルベン錯体、パラジウム(0)カルベンジエン錯体、パラジウム(2)カルベンジエン錯体およびパラジウム(0)カルベンL−DVDS錯体である。
【0019】
本発明による方法で使用されるカルベン錯体は、種々の方法で製造することができる。容易な方法はたとえば金属化合物、特にパラジウム化合物へのカルベンLの付加、または金属錯体のリガンドと構造Lを有するカルベンとの交換である。
【0020】
触媒のための前駆体として特に金属塩、有利には有機酸またはハロゲン化水素酸の塩を使用することができる。パラジウムを含有する触媒のための前駆体として、パラジウム塩、たとえば酢酸パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、リチウムテトラクロロパラデート、アセチルアセトナトパラジウム(II)、パラジウム(0)ジベンジリデンアセトン錯体、プロピオン酸パラジウム(II)、パラジウム(II)クロリドビスアセトニトリル、パラジウム(II)ビストリフェニルホスファンジクロリド、パラジウム(II)クロリドビスベンゾニトリル、ビス(トリ−o−トリルホスフィン)パラジウム(0)およびその他のパラジウム(0)錯体およびパラジウム(II)錯体を使用することができる。
【0021】
ニッケルを含有する触媒の前駆体として、ニッケル化合物、たとえば[Ni(1,5−C8122]、(c−C552Ni、(Ph2P(CH23PPh22NiCl2、(PPh32NiBr、PPh3Ni(CO)2、アセチルアセトナトニッケル(II)、塩化ニッケル(II)または類似の、化学メーカーのカタログに記載されているニッケル化合物を使用することができる。
【0022】
パラジウムを含有する触媒の前駆体として、パラジウム化合物、たとえばパラジウム(II)ビストリフェニルホスファンジクロリド、パラジウム(II)クロリドビスベンゾニトリル、ビス(トリ−o−トリルホスフィン)パラジウム(0)およびその他のパラジウム(0)錯体およびパラジウム(II)錯体を使用することができる。
【0023】
カルベンLは、そのままで、または金属錯体として使用することができるか、あるいはまた前駆体から現場で製造することもできる。構造Lを有するカルベンおよびここから誘導される金属錯体は、一般構造S
【化5】

[式中、R1およびR2は、C1〜C3−アルキル基であり、かつR3およびR4は、Hであるか、またはC1〜C3−アルキル基であり、その際、基R1およびR2もしくはR3およびR4は、同じであるか、または異なっていてもよい]のイミダゾリウム塩、および塩基、特に金属化合物から現場で製造することができる。特に有利に使用されるカルベンである、1,3−ビス−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−4,5−ジメチル−2−デヒドロ−3−ヒドロ−イミダゾールおよびここから誘導される金属錯体はたとえば一般構造S1
【化6】

を有する1,3−ビス−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−4,5−ジメチル−3−ヒドロ−イミダゾリウム塩と、相応する塩基、特に相応する金属化合物とから現場で製造することができる。
【0024】
-の例はハロゲン化物イオン、硫酸水素イオン、硫酸イオン、スルホン酸イオン、アルキル硫酸イオン、アリール硫酸イオン、ホウ酸イオン、炭酸水素イオン、炭酸イオン、アルキルカルボン酸イオン、リン酸イオン、ホスホン酸イオンまたはアリールカルボン酸イオンである。構造SもしくはS1を有する塩から、カルベンLもしくはL1は有利には塩基との反応により遊離することができる。前駆体は公知の方法で、相応する置換されたアニリンと相応する置換された2,3−ブタンジオンおよびホルムアルデヒドとの反応により得られる。このような前駆体の製造はたとえばAnthony J. ArduengoおよびThomas Bannenbergの、"Nucleophilic Carbenes and their Applications in modern Complex Catalysis"、The Strem Chemiker、2002年6月、第XVIV巻、第1号に記載されている。
【0025】
触媒を現場でパラジウム化合物と、構造Sのカルベン前駆体とから製造する場合、塩基として有利には1,3−ブタジエンの二量化の際に使用される第2級アルコールのアルコラートを使用する。たとえばイソプロパノールを溶剤として使用する場合、イソプロピレートを塩基として使用することが有利である。有利にはアルカリ金属アルコラート、特にナトリウムアルコラートを使用する。場合によりアルコラート溶液の代わりに、アルカリ金属水酸化物およびアルコールからなる溶液を使用することもできる。
【0026】
本発明による方法では、触媒の濃度は、全質量に対する金属のppm(質量)で形式的に記載して、有利には0.01ppm〜1000ppm、好ましくは0.5〜100ppmおよび特に有利には1〜50ppmである。カルベンL対金属の比率(モル/モル)は、0.01/1〜250/1、有利には1/1〜100/1および特に有利には1/1〜50/1であってよい。
【0027】
本発明による方法では、1,3−ブタジエン二量化は有利には3〜20個の炭素原子を有する第2級アルコールの存在下に実施する。使用されるアルコールは脂環式または脂肪族であってよい。有利には第2級脂肪族アルコール、特に線状アルコールを使用する。2もしくは複数のアルコールからなる混合物を使用することもできる。さらに価数のより多い第2級アルコール、たとえばジオール、たとえば2,4−ジヒドロキシペンタン、トリオール、テトラオールなどを使用することもできる。有利に使用されるアルコールは、イソプロパノールおよびシクロヘキサノールである。
【0028】
特に有利には本発明による方法でイソプロパノールを使用する。
【0029】
アルコール対1,3−ブタジエンの質量比は、1/20〜20/1の範囲、有利には4/1〜1/2の範囲であってよい。均一な液相中で反応を行うべきであるため、これらの範囲内で、1,3−ブタジエンもしくは使用される1,3−ブタジエン含有炭化水素混合物がアルコールとの混合ギャップを有する場合にのみ、制限が生じる。
【0030】
場合により反応混合物は、その中で触媒および場合により使用される塩基が溶解する別の溶剤、たとえば高沸点物を含有していてもよい。
【0031】
本発明により1,3−ブタジエンの、線状オクタトリエンへの二量化は、遊離塩基(カルベンLの製造のために使用されない塩基)の存在下に行う。塩基として有利にはアルコラート、特に有利には使用されるアルコールのアルコラートを使用する。特に有利にはアルカリ金属アルコラート、特にナトリウムアルコラートを塩基として使用する。しかしまた、アルカリ金属水酸化物、たとえばNaOHまたはKOHを本発明による方法で塩基として使用することも可能である。
【0032】
塩基対1,3−ブタジエンの比率は、有利には1,3−ブタジエン100モルあたり、0.01モル〜10モル、特に0.1モル〜5モル、およびとりわけ有利には1,3−ブタジエン100モルあたり、0.2モル〜1モルである。
【0033】
1,3−ブタジエンの、線状オクタトリエンへの二量化を実施することができる温度は、有利には10〜180℃、好ましくは40〜100℃、および特に有利には40〜80℃である。反応圧力は有利には0.1〜30MPa、好ましくは0.1〜12MPa、特に有利には0.1〜6.4MPaおよびとりわけ有利には0.1〜2MPaである。
【0034】
1,3−ブタジエンの二量化は連続的に、または不連続的に行うことができ、かつ特定のタイプの反応器の使用に限定されない。二量化をその中で実施することができる反応器の例は、攪拌反応器、攪拌反応器カスケード、流れ管およびループ型反応器である。種々の反応器の組み合わせ、たとえば攪拌反応器と、後方接続された流れ管もまた可能である。
【0035】
高い空時収率を得るために、二量化は1,3−ブタジエンの完全な反応率まで実施する必要はない。反応率を最大で95%に、有利には最大で90%に限定することが有利である。
【0036】
本発明による方法のための原料は、純粋な1,3−ブタジエンであるか、または1,3−ブタジエンを含有する炭化水素流、有利には1,3−ブタジエンの富化された炭化水素流であってよい。原料として特にブタジエン含有C4留分を使用することができる。1,3−ブタジエン以外に、使用される炭化水素流は特にアレン不飽和化合物を含有していてよい。炭化水素流として、特にC4−炭化水素留分を使用することができる。炭化水素流は有利には1,3−ブタジエンと、その他のC4−およびC3−もしくはC5−炭化水素との混合物であってよい。このような混合物はたとえば、ラフィネートガス、ナフサ、ガス油、LPG(液化石油ガス)、NGL(天然ガス液)などが、その中で反応するエチレンおよびプロピレンを製造するための分解法で生じる。上記のプロセスで副生成物として生じるC4留分は、1,3−ブタジエン以外に、モノオレフィン(1−ブテン、シス−ブテ−2−エン、トランス−ブテ−2−エン、イソブテン)、飽和炭化水素(n−ブタン、イソブタン)、アセチレン不飽和化合物(エチルアセチレン、ビニルアセチレン、メチルアセチレン(プロピン))ならびにアレン不飽和化合物(主として1,2−ブタジエン)を含有していてよい。さらにこれらの留分は、少量のC3−炭化水素およびC5−炭化水素を含有していてよい。C4留分の組成は、そのつどの分解法、運転パラメータおよび原料に依存する。個々の成分の濃度は一般に以下の範囲である:
成分 質量%
1,3−ブタジエン 25〜70
1−ブテン 9〜25
2−ブテン 4〜20
イソブテン 10〜35
n−ブタン 0.5〜8
イソブタン 0.5〜6
Σアセチレン化合物 0.05〜4
1,2−ブタジエン 0.05〜2
本発明による方法では、1,3−ブタジエン含有率が35質量%より大きい炭化水素混合物が有利に使用される。
【0037】
使用炭化水素はしばしば痕跡量の酸素、窒素、硫黄、ハロゲン、特に塩素および重金属の化合物を含有しうるが、これらは本発明による方法で妨げとなる可能性がある。従ってこれらの物質をまず分離することが有利である。妨げとなる化合物はたとえば安定剤、たとえばt−ブチルピロカテキン(TBC)または二酸化炭素またはカルボニル化合物、たとえばアセトンまたはアセトアルデヒドでありうる。
【0038】
これらの不純物の分離はたとえば洗浄、特に水または水溶液を用いた洗浄により、または吸着剤により行うことができる。
【0039】
水洗浄により、親水性の成分、たとえば窒素成分を炭化水素混合物から完全に、または部分的に除去することができる。窒素成分の例は、アセトニトリルまたはN−メチルピロリドン(NMP)である。酸素化合物もまた部分的に水洗浄により除去することができる。水洗浄は直接、水を用いて実施するか、あるいはまた水性の溶液、たとえばNaHSO3のような塩を含有していてよい水溶液を用いて実施することができる(US3,682,779、US3,308,201、US4,125,568、US3,336,414またはUS5,122,236)。
【0040】
炭化水素混合物を水洗浄の後で、乾燥工程に供することが有利でありうる。乾燥は従来技術において公知の方法により実施することができる。溶解した水が存在する場合、乾燥はたとえば乾燥剤として分子ふるいを使用して、または共沸蒸留によって実施することができる。遊離の水はたとえば相分離、たとえばコアレッサーを用いた相分離により分離することができる。
【0041】
痕跡範囲の不純物を除去するために、吸着剤を使用することができる。これはたとえば、第二の方法工程において、すでに痕跡量の不純物と反応して明らかに活性が低下する貴金属触媒を使用するため有利でありうる。しばしば窒素または硫黄の化合物あるいはまたTBCを、前方接続された吸着剤によって除去する。吸着剤の例は、酸化アルミニウム、分子ふるい、ゼオライト、活性炭または金属で含浸したアルミナ(たとえばUS4,571,445またはWO02/53685)である。吸着剤は種々の会社から市販されており、たとえばAlcoa社からは商品名Selexsorb(登録商標)で、UOPから、またはAxensから、たとえば製品シリーズのSAS、MS、AA、TG、TGSまたはCMGで市販されている。
【0042】
使用される炭化水素流が、100質量ppmより高い割合のアセチレン不飽和化合物を含有している場合、まず精製されていてもよい炭化水素流から、本発明による方法で前方接続された工程でまず、アセチレン不飽和化合物を100質量ppm以下の含有率になるまで、有利には50質量ppm以下および特に有利には20質量ppm以下になるまで分離するか、もしくは除去し、次いで、該炭化水素流を二量化工程で使用することが有利でありうる。この分離/除去はたとえばアセチレン不飽和化合物を抽出または水素化することにより行うことができる。場合により存在するメチルアセチレンは、蒸留によって除去することもできる。
【0043】
抽出によるアセチレン化合物の分離は、以前から公知であり、かつ後処理工程として、1,3−ブタジエンを分解C4から得る多くの装置に統合された構成部分である。アセチレン不飽和化合物を分解C4から抽出により分離する方法はたとえば、Erdoel und Kohle−Erdgas−Petrochemie vereinigt mit Brennstoffchemie、第34巻、第8号、1981年8月、第343〜346頁に記載されている。この方法では、第一工程で水を含有するN−メチルピロリドン(NMP)を用いた抽出蒸留により、複数不飽和の炭化水素ならびにアセチレン不飽和化合物を、モノオレフィンおよび飽和炭化水素から分離する。NMP抽出液から不飽和炭化水素を蒸留によって分離し、かつ炭化水素蒸留液から水を含有するNMPを用いた第二の抽出蒸留によって4個の炭素原子を有するアセチレン不飽和化合物を分離する。分解C4の後処理の際に、第二の別の蒸留により純粋な1,3−ブタジエンを分離し、その際、副生成物として、メチルアセチレンおよび1,2−ブタジエンが生じる。本発明による方法の範囲では、この方法で得られた1,3−ブタジエンが、二量化のための原料であってよい。
【0044】
抽出により得られ、場合により1,2−ブタジエンおよび/または100質量ppmより少ないアセチレン化合物を含有する1,3−ブタジエンを含有する炭化水素流は、直接、または後処理の後で、有利には直接、二量化における原料として使用することができる。
【0045】
有利には使用される炭化水素流からのアセチレン不飽和化合物の除去を、アセチレン不飽和化合物の水素化により行う。収率の損失、特に1,3−ブタジエンの損失を回避するために、水素化法は極めて選択的でなくてはならない、つまり、線状ブテンへの1,3−ブタジエンの水素化およびブタンへのブテンの水素化は、できる限り完全に回避されなくてはならない。ジエンおよびモノオレフィンの存在下でのアセチレン化合物の選択的な水素化のために、たとえば銅を含有する触媒を使用することができる。同様に、元素の周期律表の第VIII族の貴金属、特にパラジウムを含有する触媒、または混合触媒を使用することができる。特に有利には銅を含有する触媒または、パラジウムと銅とを含有する触媒を使用することができる。
【0046】
ブタジエンを含有する原料から、アセチレン化合物を、水素化によらず、アルコールとの反応によって除去することもできる。相応する方法はたとえばUS4,393,249およびDD127082に記載されている。その際、アセチレン化合物の分離の際に、二量化の際と同じアルコールを使用することが有利でありうる。
【0047】
本発明による二量化からの反応搬出物はたとえば線状のオクタトリエンを主成分として、ならびに副生成物の「不活性C4炭化水素」、1,3−ブタジエン、第2級アルコールおよび触媒系(金属錯体、リガンド、塩基など)の残分もしくはこれらの後続の生成物および場合により添加された溶剤を含有していてよい。出発材料混合物に応じて、反応搬出物中には、1,2−ブタジエンが含有されていてよい。二量化の搬出物中に場合により存在するアレン、特に1,2−ブタジエンは、蒸留により分離することができる。
【0048】
本発明による二量化の搬出物の分離は、ごく一般的に公知の技術的な方法で、たとえば蒸留または抽出により行うことができる。たとえば以下の留分への蒸留による分離を行うことができる:n−ブタン、イソブタン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1,3−ブタジエン、1,2−ブタジエンおよび場合によりアルコールの一部を含有するC4−留分、
線状のオクタトリエンを含有する留分、
アルコールを含有する留分、
副生成物を含有する留分、
触媒を含有する留分
場合により溶剤留分。
【0049】
アルコールを含有する留分、溶剤を含有する留分ならびに触媒もしくは触媒系を含有する留分はそのつど、完全に、または部分的に二量化に返送するか、または後処理に供給することができる。
【0050】
目的生成物、つまり本発明による方法により製造される(線状)オクタトリエンの混合物は、有利には主として、つまり少なくとも90質量%まで、1,3,7−オクタトリエンからなる。1,3,7−オクタトリエンの両方の異性体(シスおよびトランス)は、たとえば約1/1.7の比率で存在していてよい。得られたオクタトリエンは、導入部で記載した生成物の製造のために、特に線状オクテンの製造のために使用することができる。さらに、ジエノフィルを有するオクタトリエンを相応するディールス・アルダー生成物へと反応させることができ、該生成物をポリオレフィンまたはポリエステルの変性のために使用することができる。さらに、1,3,7−オクタトリエンを1−オクテンの製造のための中間体として使用することができ、これは1−オクテンの製造と同様に1,3,6−オクタトリエンから行うことができる。その際、1,3,6−オクタトリエンから出発して、1−オクテンを以下の合成経路で製造する:
−アントラセンおよび1,3,6−オクタトリエンからのディールス・アルダー付加物の形成、その際、オクタトリエンの末端の二重結合が反応する、
−該付加物の側鎖中の両方の二重結合の水素化、
−水素化付加物の、アントラセンおよび1−オクテンへの分解(レトロ・ディールス・アルダー反応)。
【0051】
Research Disclosures中の"Process for preparing 1−Octene from Butadiene"、第476号、2003年12月、第1281頁に記載されている、これらの合成経路を介して、容易な方法でブタジエンからオクタトリエンを介して1−オクテンを製造することができる。
【0052】
さらに本発明により製造された線状オクタトリエンは、線状オクテンを製造するための前駆体であってよく、該オクテンは選択的な水素化により製造することができる。これらは自体、ほとんど分岐していないノナノールを(ヒドロホルミル化および水素化により)製造するための所望される中間体であり、これは特に可塑剤アルコールとして利用される。
【0053】
反応搬出物から分離したC4留分は、種々の方法で後処理することができる。一方では、C4留分からまず1,2−ブタジエンを、たとえば蒸留により分離し、かつ別の使用に供給することができる。他方、C4−留分を選択的水素化に供給し、ここで、ジエンを除去する、つまり1,3−ブタジエンおよび1,2−ブタジエンの残分を1−ブテンおよび2−ブテンへと反応させる。このような水素化は従来技術から公知であり、かつたとえばUS5475173、DE3119850およびF.Nierlich、F.Obenhaus、Erdoel & Kohle、Erdgas、Petrochemie(1986)39、第73〜78頁に記載されている。技術的には水素化は1工程でも複数工程でも実施することができる。有利には水素化を液相中、不均一系パラジウム担持触媒を使用して行う。C4−留分中に場合により存在するアルコールは、必要であれば、水素化の前または水素化後に、公知の方法で分離することができる。水中で易溶性のアルコール(たとえばイソプロパノール)は、たとえば水洗浄により除去することができる。C4−流を乾燥させるために、特に乾燥塔が有利であることが実証されている。こうして得られたほぼ1,3−ブタジエン、1,2−ブタジエンおよびアルコール不含のC4−炭化水素(ブタジエン含有率は有利には5000ppm以下)は、ほぼ市販のラフィネートIに相応し、かつ公知法に相応してラフィネートIと同様にさらに加工もしくは後処理することができる。たとえばこれはt−ブチルアルコール、ジイソブテン(またはイソオクタン)、メチル−t−ブチルエーテル、1−ブテンまたはC4−ダイマーおよびオリゴマーを製造するために使用することができる。
【0054】
以下の実施例は本発明を詳細に説明するためのものであり、詳細な説明および特許請求の範囲から生じる保護範囲を限定するものではない。
【0055】
例1:
1,3−ビス−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−4,5−ジメチル−3H−イミダゾリデニル−パラジウム(0)−DVDS錯体(パラジウム、リガンドL1および別のリガンドとしてDVDSからなる錯体)0.005モルを、イソプロパノール中のナトリウムイソプロピレートの0.5モル溶液33.3g中に溶解した。該混合物をアルゴン下に、容量100mlのステンレス製Parrオートクレーブ中に充填した。該オートクレーブを冷却浴を用いて−15℃に冷却した。引き続き、圧力シリンダーから、質量制御下に1,3−ブタジエン15.0g(2.77/10-1モル)を凝縮した。オートクレーブを閉じた後、70℃に加熱し、かつ温度を16時間、一定に維持した。次いで、オートクレーブを室温に冷却した。放圧の際に漏れるブタジエンを凝縮し、かつ秤量した。残留するオートクレーブ内容物に、イソオクタン5gを内部標準として添加した。線状オクタトリエンの収率を、ガスクロマトグラフィーによりHP6869A装置の使用下に測定した。線状1,3,7−オクタトリエンの収率は、95%の化学選択率(Chemoselektivitaet)で92%であった。化学選択率とは、オクタトリエンの収率を、テロマー、オクタトリエンおよび4−ビニルシクロヘキセンの収率の合計で割ったものに100をかけたものである。
【0056】
例2:
例2は、例1と同様に実施したが、ただし、第2級アルコールがシクロヘキサノールであり、かつ塩基がシクロヘキサノン酸ナトリウムであった点が異なっていた。線状の1,3,7−オクタトリエンの収率は、95%の化学選択率で83%であた。
【0057】
例3:
例3は、例1と同様に実施したが、ただし、錯体の代わりに1,3−ビス(2,6−ジイソプロピルフェニル)−4,5−ジメチル−3−ヒドロイミダゾリウムブロミドおよび0.005モル%の酢酸パラジウム(1.38×10-5モル)を4:1の比率で使用した点が異なっていた。線状の1,3,7−オクタトリエンの収率は、93%の化学選択率で83%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,3−ブタジエンから、または1,3−ブタジエンを含有する炭化水素混合物から、線状のオクタトリエンを製造する方法において、1,3−ブタジエンの二量化を、第2級アルコールと塩基との存在下で行い、かつ触媒として、構造L
【化1】

[式中、R1およびR2は、C1〜C3−アルキル基であり、かつR3およびR4は、Hであるか、またはC1〜C3−アルキル基であり、その際、基R1およびR2もしくはR3およびR4は、同じであるか、または異なっていてよい]を有する少なくとも1のカルベンをリガンドとして有する、元素の周期律表の第8副族の金属の錯体を使用することを特徴とする、線状のオクタトリエンの製造方法。
【請求項2】
前記触媒がカルベンリガンドとして、1,3−ビス−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−4,5−ジメチル−2−デヒドロ−3−ヒドロ−イミダゾール(構造式L1)を含有することを特徴とする、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記金属として、パラジウムまたはニッケルを含有する触媒を使用することを特徴とする、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記塩基として、アルコラートを使用することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記塩基として、アルカリ金属水酸化物を使用することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
第2級アルコールとして、イソプロパノールを使用することを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
第2級アルコールとして、シクロヘキサノールを使用することを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
構造Lを有するカルベンおよび該カルベンから誘導される金属錯体を、一般構造S
【化2】

[式中R1およびR2は、C1〜C3−アルキル基であり、かつR3およびR4は、Hであるか、またはC1〜C3−アルキル基であり、その際、基R1およびR2もしくはR3およびR4は、同じであるか、または異なっていてもよい]のイミダゾリウム塩と、金属化合物とから現場で製造することを特徴とする、請求項1から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
カルベンである1,3−ビス−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−4,5−ジメチル−2−デヒドロ−3−ヒドロイミダゾールおよびここから誘導される金属錯体を、一般構造S1を有する1,3−ビス−(2,6−ジイソプロピルフェニル)−4,5−ジメチル−3−ヒドロ−イミダゾリウム塩と、金属化合物とから、現場で製造することを特徴とする、請求項8記載の方法。
【請求項10】
原料として、ブタジエンを含有するC4留分を使用することを特徴とする、請求項1から9までのいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
触媒の濃度が、全質量に対する金属のppm(質量)で形式的に記載して、0.01ppm〜1000ppmであることを特徴とする、請求項1から10までのいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
カルベンL対金属の比率(モル/モル)を、0.01/1〜250/1の範囲に調整することを特徴とする、請求項1から11までのいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
カルベンリガンド以外に、少なくとも1の別のリガンドが存在していることを特徴とする、請求項1から12までのいずれか1項記載の方法。
【請求項14】
カルベンリガンド以外に、少なくとも1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサンが別のリガンドとして存在していることを特徴とする、請求項13記載の方法。
【請求項15】
別のリガンド対カルベンリガンドLの比率が、有利に0.1:1〜10:1であることを特徴とする、請求項13または14記載の方法。
【請求項16】
請求項1から15までのいずれか1項記載の方法により製造される、オクタトリエンの混合物。
【請求項17】
線状のオクテンを製造するための請求項16記載の混合物の使用。
【請求項18】
カルベン錯体触媒において、該触媒が、リガンドとして構造L
【化3】

[式中、R1およびR2は、C1〜C3−アルキル基であり、かつR3およびR4は、Hであるか、またはC1〜C3−アルキル基であり、その際、基R1およびR2もしくはR3およびR4は、同じであるか、または異なっていてもよい]を有する少なくとも1のカルベンを有する、元素の周期律表の第8副族の金属のリガンド錯体であることを特徴とする、カルベン錯体触媒。

【公表番号】特表2008−524156(P2008−524156A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545999(P2007−545999)
【出願日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【国際出願番号】PCT/EP2005/055419
【国際公開番号】WO2006/063892
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(398054432)エボニック オクセノ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (63)
【氏名又は名称原語表記】Evonik Oxeno GmbH
【住所又は居所原語表記】Paul−Baumann−Strasse 1, D−45764 Marl, Germany
【Fターム(参考)】