説明

非周期アレーアンテナ装置

【課題】グレーティングローブを抑圧するとともに、すべての素子アンテナの励振振幅を同一にした間引き処理により、素子配列に密度テーパを付けて低サイドローブ化を実現し、素子数を削減した非周期アレーアンテナ装置を得る。
【解決手段】非周期アレーアンテナ10の開口を同心円状に距離方向にN等分割し、N等分割された分割領域Yの各々がテイラー分布となるような分割領域の素子密度aを算出し、算出された素子密度aと一致するように、オフ素子数Mを用いて分割領域Yを角度方向にM等分割し、M等分割された分割領域Q内から1つの素子アンテナをランダムにオフして、オン/オフ制御によりテイラー分布に近い励振振幅分布を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、周期性を持たないように複数の素子アンテナが配列された非周期アレーアンテナ装置に関し、特に、個別の送受信モジュールを用いて個々の素子アンテナに対する振幅および位相を制御することにより、放射ビームの指向方向を最適化する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、複数の素子アンテナを配列したアレーアンテナは、レーダ装置または電波監視装置の空中線として多用されている。この種のアレーアンテナは、特に送信時において、空中線性能を向上させて、より遠くの目標を検出するために、より大きな有効放射電力が要求される。
【0003】
有効放射電力は、アンテナ利得と送信尖頭電力との積で定義されており、送信尖頭電力を増大させるためには、各素子アンテナに接続された送信モジュールの出力を増大させるか、または、開口径を大きくすることにより、アンテナ利得を増大させることが要求される。
【0004】
通常、アレーアンテナを平面的に配列する場合には、4角配列や3角配列が用いられる(たとえば、非特許文献1参照)。
このように配列されたアレーアンテナにおいては、各素子配列間隔を大きくすると、メインローブとは異なる方向に、メインローブとほぼ同一の利得を有する不要なグレーティングローブが発生することが知られている。
【0005】
したがって、グレーティングローブが発生しないように、素子配列間隔dを適切に設定する必要がある。
たとえば、4角配列とした場合には、光速c、周波数f、最大走査角θmに対して、以下の式(1)で示すように、素子配列間隔dを設定する必要がある。
【0006】
d≦{1/(1+|sinθm|)}(c/f) ・・・(1)
【0007】
また、3角配列とした場合には、以下の式(2)で示すように、素子配列間隔dを設定する必要がある。
【0008】
d≦{1/cos30°(1+|sinθm|)}(c/f) ・・・(2)
【0009】
また、帯域幅を有する場合、最も高い周波数でグレーティングローブが発生しない素子アンテナの間隔を決める必要がある。さらに、大開口径化にともない、素子アンテナの数が増大し、素子アンテナに接続される送受信モジュールの数も増大する。
一般に、送受信モジュールは高価なので、アンテナ全体における送受信モジュールの数を抑制することが望まれる。
【0010】
上述したグレーティングローブが発生すると、所望の方向のアンテナ利得が低下するとともに、所望の指向方向以外の方向からの到来電波を受信することになり、方位検出において、アンビギュイティが発生する。
したがって、グレーティングローブの発生を回避するための構成を実現したうえで、素子アンテナの数を低減することが望まれる。
【0011】
そこで、送受信モジュールの数を抑制する手法として、複数の素子アンテナをまとめてサブアレーを構成し、サブアレーごとに移相器を割り当てる方法が知られているが、この場合、一般的にグレーティングローブが発生する。
【0012】
そこで、グレーティングローブを抑圧するために、周期性を持たないようにサブアレーを配置した非周期アレーアンテナを用いる技術が提案されている(たとえば、非特許文献2、非特許文献3参照)。
上記非周期アレーアンテナによれば、周期アレーアンテナと比較して、サイドローブレベルが最大8.24[dB]だけ改善されることが知られている。
【0013】
また、アレーアンテナにおいては、グレーティングローブの抑圧のみならず、低サイドローブ化が要求されることが多い。そこで、従来から、周期アレーアンテナにおいては、低サイドローブ化を図るために、開口分布にテーパ状の振幅分布を設ける技術が提案されている(たとえば、非特許文献4参照)。
【0014】
また、非周期アレーアンテナに間引きを適用する例として、グレーティングローブを抑圧するために、GA(Genetic Algorithm)を用いた数値解析により、間引きを最適化する技術が提案されている(たとえば、非特許文献5参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】アンテナ工学ハンドブック、電子情報通信学会偏、H16−5−15
【非特許文献2】門口他;信学論(B)、VOL.J90−B,No.10,2007.
【非特許文献3】門口他;信学会通信ソサイエティ大,B−1−110(2008).
【非特許文献4】R.J.Mailloux,Phased Array Antenna Handbook.
【非特許文献5】T.G.Spence and D.H.Werner,IEEE AP−S,2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
従来の非周期アレーアンテナ装置は、素子アンテナの配列を実質的に最適化する手段を備えることが困難であり、グレーティングローブの抑圧および低サイドローブ化を図るには時間やコストが増大するという課題があった。
また、たとえば非特許文献4に記載のように、開口分布にテーパ状の振幅分布を設けた場合には、複雑な給電回路または複数種類の送受信モジュールが必要となることから、製造コストが増大するという課題があった。
【0017】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、素子アンテナの間隔が不規則で周期性を持たない非周期アレーアンテナ装置において、素子アンテナの配列に応じた適切な間引き処理(制御によりオン/オフ処理することも含む)を設定することにより、コストアップを招くことなく、グレーティングローブの抑圧および低サイドローブ化を実現した非周期アレーアンテナ装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明に係る非周期アレーアンテナ装置は、RF信号が入出力される給電回路と、給電回路に接続された複数の送受信モジュールと、複数の送受信モジュールに個別に接続され、各々が非周期的に配列された複数の素子アンテナからなる非周期アレーアンテナと、により構成され、複数の送受信モジュールの各々は、給電回路に接続された移相器と、移相器と個別の素子アンテナとの間に介在された送信用増幅器および受信用増幅器と、を備えた非周期アレーアンテナ装置において、複数の素子アンテナを間引く手段として、非周期アレーアンテナの開口を、N個の分割線K〜Kにより半径方向に等分割して、分割線の各隣接区間からなるN個の分割領域Y〜Yの各々に少なくとも1つの素子アンテナが存在するように分割領域を設定する半径方向分割手段と、分割領域Y(i=1、2、・・・、N)に存在する間引き素子数Iと分割領域の面積Sとの比を用いて、分割領域の素子密度aを、a=I/Sにより求める間引き素子数算出手段と、算出された間引き素子数Mが整数でない場合には、4捨5入により間引き素子数Mを整数にする整数化手段と、整数化された間引き素子数Mを用いて、分割領域Yを角度方向にM等分割して分割領域Qを設定する角度方向分割手段と、分割領域Q内からランダムに1つの素子アンテナを間引き操作する間引き処理手段と、分割領域Q内に、間引き操作が可能な素子アンテナが存在しない領域がある場合には、素子アンテナが存在しない領域の数Pを用いて再び角度方向にP等分割し、間引き処理手段により、P等分割された分割領域Q’の中からランダムに1つの素子アンテナを間引き操作し、分割領域QまたはQ’内に、間引き操作が可能な素子アンテナが存在しない領域がなくなるまで、間引き処理手段の処理を繰り返し実行する素子配列決定手段により、間引く素子アンテナを決定するものである。
【発明の効果】
【0019】
この発明によれば、非周期アレーアンテナの開口を同心円状に距離方向にN等分割し、N等分割された分割領域Yの各々がたとえばテイラー分布となるような分割領域の素子密度aを算出し、算出された素子密度と一致するように、オフ素子数Mを用いて分割領域Yを角度方向にM等分割し、M等分割された分割領域Q内から1つの素子アンテナをランダムにオフして、オン/オフ制御によりテイラー分布に近い励振振幅分布を実現することにより、グレーティングローブの抑圧および低サイドローブ化を安価に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】この発明の実施の形態1に係る非周期アレーアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】図1内の素子アンテナの配列状態を示す説明図である。
【図3】この発明の実施の形態1による素子アンテナの配列決定手順を示すフローチャートである。
【図4】この発明の実施の形態1による半径方向分割領域内の素子密度算出処理を示す説明図である。
【図5】この発明の実施の形態1による角度方向分割領域の分割処理を示す説明図である。
【図6】この発明の実施の形態1による分割領域内の素子アンテナのオフ処理を示す説明図である。
【図7】この発明の実施の形態1によるオフ操作(間引き処理)後の有効な素子アンテナの配列例を示す説明図である。
【図8】図7の配列例により形成される放射パターンを示す説明図である。
【図9】この発明の実施の形態2によるオフ操作(間引き処理)後の有効な素子アンテナの配列例を示す説明図である。
【図10】図9の配列例により形成される放射パターンを示す説明図である。
【図11】この発明の実施の形態3によるダイアモンドタイルを用いた場合の素子アンテナの配列状態を示す説明図である。
【図12】この発明の実施の形態3によるペンローズタイルを用いた場合の素子アンテナの配列状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施の形態1.
以下、図面を参照しながら、この発明について詳細に説明する。なお、各図において、同一または相当する部分については、同一符号を付して説明する。
図1はこの発明の実施の形態1に係る非周期アレーアンテナ装置の概略構成を示すブロック図である。
【0022】
図1において、非周期アレーアンテナ装置1は、複数(n個)の送受信モジュール2と、各送受信モジュール2に接続された複数(#1〜#n)の素子アンテナ7と、入出力コネクタ8と、入出力コネクタ8に接続されて各送受信モジュール2に給電を行う給電回路9とを備えている。
給電回路9は、複数の素子アンテナ7のオン/オフ処理によって実質的な配列を決定するための演算処理部9Aを備えており、後述の処理ルーチン(図3)を実行する。
【0023】
複数の素子アンテナ7は、後述するように非周期配列されており、非周期アレーアンテナ10を構成している。また、給電回路9内の演算処理部9Aは、素子アンテナ7の各々の配列をあらかじめ認識しているものとする。
【0024】
給電回路9は、送信時には各素子アンテナ7への送信信号のn分配を行い、受信時には各素子アンテナ7からの受信信号のn合成を行う。
同一構成からなる各送受信モジュール2は、給電回路9に接続された移相器3と、移相器3に接続された並列構成の送信用増幅器4および受信用増幅器5と、送信用増幅器4および受信用増幅器5と素子アンテナ7との間に挿入された3端子の送受切替部6と、により構成されている。
【0025】
移相器3は、送信用増幅器4の入力端に接続されるとともに、受信用増幅器5の入力端に接続される。
送信用増幅器4は送受切替部6の第1端に接続され、受信用増幅器5は送受切替部6の第2端に接続され、送受切替部6の第3端は素子アンテナ7に接続される。
【0026】
次に、図1に示した非周期アレーアンテナ装置1の動作について説明する。
まず、送信時において、外部回路(図示せず)から入出力コネクタ8を介して入力されたRF信号は、給電回路9を介してn分配され、n個の送受信モジュール2に供給される。
【0027】
送受信モジュール2内の各々において、移相器3は、入力されたRF信号に対して、所望方向にアンテナパターンが形成されるように位相を制御し、送信用増幅器4は、位相制御されたRF信号を増幅する。
【0028】
増幅されたRF信号は、送受切替部6を介して、送信信号として素子アンテナ7に入力される。
以下、各素子アンテナ7は、各送受信モジュール2からの送信信号を電波として空中に放射する。
【0029】
一方、受信時においては、上記送信時とは逆方向に、素子アンテナ7で受信された受信信号が、送受信モジュール2に入力され、送受信モジュール2内の送受切替部6を介して受信用増幅器5に入力される。受信用増幅器5で増幅された受信信号は、移相器3を介して給電回路9に入力される。
以下、給電回路9は、各送受信モジュール2からの受信信号をn合成し、入出力コネクタ8を介して、RF信号として外部回路に出力する。
【0030】
図2は図1内の非周期アレーアンテナ10(複数の素子アンテナ7)の具体的な配列状態を示す説明図であり、すべての素子アンテナ7が円形状に充填された場合の開口部を平面的に示している。
図2において、複数(n個)の素子アンテナ7は、ピンウィールタイル11、12により、非周期的に配列されて、非周期アレーアンテナ10を構成している。
【0031】
ピンウィールタイル11は、いくつかの素子アンテナ7によってサブアレーを構成するために、直角3角形の平面形状を有しており、図2内の拡大図に示すように、3辺の長さの比が「1:2:√5」となっている。
また、1つのピンウィールタイル11は、5分割された最小単位のピンウィールタイル12により構成されており、開口部(円形平面)上に非周期的に充填配列されている。
【0032】
最小単位のピンウィールタイル12は、ピンウィールタイル11と相似形であり、3辺の長さの比が同様に「1:2:√5」となっている。
最小単位のピンウィールタイル12内には、たとえば、8個の素子アンテナ7が任意に配置されている。
【0033】
非周期アレーアンテナ10は、基本周波数f(=3[GHz])の波長λの12倍の半径を有する円形の開口形状において、ピンウィールタイル11内に配列されたピンウィールタイル12により、非周期的かつフラクタル状に隙間なく充填(配列)された素子アンテナ7により構成されている。
【0034】
なお、この発明が適用可能な素子アンテナ7の種類は任意であり、パッチ、ダイポール、ホーン、テーパノッチ、スパイラル、ボウタイ、ログペリ、スロット、または、その他の素子アンテナおよびこれらの素子アンテナの変形形状など、すべて適用可能である。
また、図2においては、1つのピンウィールタイル12内の素子アンテナ7の配置数を「8」とした例を示したが、これに限定されることはなく、ピンウィールタイル12内に配置される素子アンテナ7の数(以下、「素子数」という)は任意に設定され得る。
【0035】
次に、図3〜図8を参照しながら、演算処理部9Aによる素子アンテナ7の配列決定手順について、具体的に説明する。図3はこの発明の実施の形態1による素子アンテナ7の配列決定手順を示すフローチャートである。
非周期アレーアンテナ装置1の素子アンテナ7の配列は、図3の処理によって決定される。
【0036】
初期状態において、非周期アレーアンテナ10内のすべての素子アンテナ7は、オン状態にあるものとする。
すべての素子アンテナ7がオン状態にある非周期アレーアンテナ10から、選択的に素子アンテナ7をオフすることにより、残された有効な素子アンテナ7の配列を決定する。
【0037】
図3において、素子アンテナ7の配列決定手順は、概して3段階の処理ステップST1〜ST3からなり、ステップST1においては、開口部(円形配列領域)の半径方向に任意にN等分割した領域の素子密度を求める。
【0038】
また、ステップST2においては、ステップST1でN等分割された分割領域Y内で角度方向にM等分割するための分割数Mを求め、ステップST3においては、ステップST2でM分割された領域からランダムに1つの素子アンテナ7をオフ操作(間引き処理)する。
【0039】
ステップST1は、後述する3段階のステップST11〜ST13を含み、ステップST2は、後述する5段階のステップST21〜ST25を含み、ステップST3は、後述する3段階のステップST31〜ST33を含む。
【0040】
図4は図3内のステップST1による半径方向分割領域内の素子密度算出処理を示す説明図である。
また、図5はステップST2による角度方向分割領域の分割処理を示す説明図であり、図6はステップST3による分割領域内の素子アンテナのオフ処理(間引き処理)を示す説明図である。
【0041】
図4において、分割線K〜Kは、開口部の半径方向に任意にN等分割し、リング状の複数の分割領域Y〜Yを形成している。各分割領域Y〜Yの面積は、中心部から順に、S〜Sで表される。
【0042】
図5においては、開口部の中心を頂点とする任意のテイラー分布25を一例として、テイラー分布25における分割領域Y〜Yごとの振幅A〜Aと中心部の振幅Aとを示している。
図5において、横軸は、各分割線K〜Kにより分割された分割領域Y〜Yの各区間を示しており、縦軸は、振幅A〜Aおよび振幅平均値X〜Xを示している。
各振幅平均値X〜Xは、黒丸点のレベルに対応しており、たとえば分割領域Y内においては、振幅AN−1〜Aから振幅平均値Xが求められる。
【0043】
図6においては、素子アンテナ7の実質的な配列決定用の間引き処理を行う際の、角度方向の分割領域Q、Q’、Q”(順次に拡大される)を示している。
すなわち、最初に、分割領域Yを角度方向にM等分割した分割領域Q内で間引き処理を行い、素子配列が決定しない場合には、分割領域YをP等分割(P<M)した分割領域Q’内で間引き処理を行い、さらに素子配列が決定しない場合には、分割領域YをP’等分割(P’<P)した分割領域Q”内で間引き処理を行う状態を示している。
【0044】
図6において、分割領域Yに対する最初の分割領域Qは、開口中心からの角度範囲が360/M[°](i=1、2、・・・、N)となり、次に、P等分割された分割領域Q’は、開口中心からの角度範囲が360/P[°]となり、P’等分割された分割領域Q”は、開口中心からの角度範囲が360/P’[°]となる。
【0045】
図3において、まず、ステップST1内のステップST11においては、図4に示すように、開口部を同心円状の分割線K〜Kで半径方向にN等分割し、分割線K〜Kによって任意にN等分割された分割領域Y〜Yを形成する。
【0046】
続いて、ステップST12においては、分割領域Y(i=1、2、・・・、N)内に素子アンテナ7が存在するか否かを判定し、分割領域Y内に素子アンテナ7が存在しない(すなわち、NO)と判定された場合にはステップST11に戻り、素子アンテナ7が存在する(すなわち、YES)と判定された場合にはステップST13に移行する。
なお、ステップST11に戻った最の再分割時には、任意の分割数Nを前回値よりも小さい値にして分割領域Yを拡大設定する。
【0047】
ステップST13においては、以下の式(3)に示すように、分割領域Yの各々に存在する素子アンテナ7の数I(以下「素子数I」という)と分割領域Yの各々の面積Sとを用いて、分割領域Y内の各素子密度aを求める。
【0048】
=I/S ・・・(3)
【0049】
次に、ステップST2に移行し、分割領域Y内においてオフ(間引き処理)される素子アンテナ7の数M(以下、「オフ素子数M」という)を算出する。
まず、ステップST2内のステップST21において、分割領域Yの振幅平均値X(図5参照)それぞれ求める。
【0050】
続いて、ステップST22においては、ステップST21で求めた振幅平均値Xのそれぞれを、中心部の分割領域Yの振幅平均値Xで規格化するとともに、中心領域Yの素子密度aを乗じた値Z(i=1、2、・・・、N)を、以下の式(4)のように求める。
【0051】
=a(X/X) ・・・(4)
【0052】
また、ステップST23においては、式(4)で求めたZと、分割領域Y内に配置されて存在する素子数Iとから、素子数Iの中からオフ(間引き処理)するオフ素子数Mを、以下の式(5)のように求める。
【0053】
=I−I・Z
=I−I・a(X/X) ・・・(5)
【0054】
続いて、ステップST24においては、式(4)で求めたオフ素子数Mが整数であるか否かを判定し、オフ素子数Mが整数である(すなわち、YES)と判定された場合にはステップST3に移行し、オフ素子数Mが整数でない(すなわち、NO)と判定された場合には、4捨5入処理を施して整数に変換し(ステップST25)、実際の間引き処理(ステップST3)に移行する。
【0055】
まず、ステップST3内のステップST31においては、全領域内から均等に間引き処理を行うために、ステップST2で求めたオフ素子数Mを用いて、分割領域Yごとに全体(360°)を角度方向にM等分割して、図6に示すように、分割領域Q(角度範囲が360/M[°])を設定する。
続いて、ステップST32においては、分割領域Q内からランダムに1つの素子アンテナ7をオフ操作して間引き処理を行う。
【0056】
次に、ステップST33においては、間引き処理後のすべての分割領域Q内に素子アンテナ7が1つ以上存在するか否かを判定し、素子アンテナ7が1つ以上存在する(すなわち、YES)と判定された場合には、ステップST32のオフ操作が可能な状態(素子アンテナ7の配列が決定)と見なして、図3の処理ルーチンを終了する。
【0057】
一方、ステップST33において、分割領域Q内に素子アンテナ7が存在しない(すなわち、NO)と判定された場合には、ステップST32のオフ操作が不可能な状態(素子アンテナ7の配列が未決定)と見なして、再び間引き処理を行うためにステップST32に戻る。
【0058】
ステップST32の再実行時においては、素子アンテナ7が存在しない(すなわち、NO)と判定された領域の数Pに応じて角度方向にP等分割し、P等分割された分割領域Q’(開口中心からの角度範囲360/P[°])内に存在する素子アンテナ7から、1つの素子アンテナ7をランダムにオフする。これにより、間引き処理の均一性を維持する。
【0059】
以下、ステップST33において、素子アンテナ7が存在しない(すなわち、NO)と判定される領域がなくなるまで、上記処理を繰り返し実行し、最終的な素子アンテナ7の配列を決定する。
【0060】
図7は、図3の手順によってオフ操作(間引き処理)された後の、有効な素子アンテナ7の配列例を示す説明図であり、非周期アレーアンテナ10の開口部を平面的に示している。
図7においては、一例として、半径方向の分割数Nを「12」とし、すべての素子アンテナ7がオン状態の非周期アレーアンテナ10(図2参照)の素子アンテナ7の数nを「1400」とした場合を示している。
【0061】
また、素子アンテナ7の数nを決定するテイラー分布25(図5参照)は、サイドローブレベル−25[dB]の「円形テイラー分布」(サイドローブ数=4の条件下)として、図3の操作手順にしたがって素子アンテナ7をオフすることにより、素子アンテナ7の配列を決定したものとする。
図7において、有効な素子アンテナ7の配列は、非周期的に分布することになり、かつ、開口部の中心部では素子密度が高く、外周部では素子密度が低くなるように分布する。
【0062】
図8は図7に示した素子アンテナ7の配列による放射パターンの解析値を示す説明図である。
図8においては、解析した基本周波数fを3[GHz]とし、放射パターンは、基本周波数fと基本周波数の2倍の周波数2fとで解析した結果である。
図8の放射パターンから分かるように、カット面において約−30[dB]の低いサイドローブレベルを得ることができる。
この発明の実施の形態1(図1〜図7)に係る非周期アレーアンテナ装置1によれば、図8の性能を有する素子配列を実現可能なことが分かる。
【0063】
以上のように、この発明の実施の形態1(図1〜図8)に係る非周期アレーアンテナ装置1は、RF信号が入出力される給電回路9と、給電回路9に接続された複数の送受信モジュール2と、複数の送受信モジュール2に個別に接続され、各々が非周期的に配列された複数の素子アンテナ7からなる非周期アレーアンテナ10と、により構成されている。
複数の送受信モジュール2の各々は、給電回路9に接続された移相器3と、移相器3と個別の素子アンテナ7との間に介在された送信用増幅器4および受信用増幅器5と、を備えている。
また、給電回路9は、複数の素子アンテナ7のオン/オフ処理によって実質的な配列を決定するための演算処理部9Aを備えている。
【0064】
演算処理部9Aは、非周期アレーアンテナ10の開口を、N個の分割線K〜Kにより半径方向に等分割して、分割線の各隣接区間からなるN個の分割領域Y〜Yの各々に少なくとも1つの素子アンテナが存在するように分割領域Y〜Yを設定する半径方向分割手段(ステップST11、ST12)を備えている。
【0065】
また、演算処理部9Aは、分割領域Y(i=1、2、・・・、N)に存在する素子数Iと分割領域の面積Sとの比を用いて、分割領域の素子密度aを、a=I/S(式(3))により求める素子密度算出手段(ステップST13)を備えている。
【0066】
また、演算処理部9Aは、分割領域の素子密度aの比が、分割領域の中心領域の振幅平均値Xで正規化した分割領域ごとの振幅平均値Xの比と一致するように、分割領域Y内でオフする素子アンテナの数を、オフ素子数Mとして、M=I−I・a(X/X)(式(5))により求めるオフ素子数算出手段(ステップST2、ST21〜ST23)と、算出されたオフ素子数Mが整数でない場合には、4捨5入によりオフ素子数Mを整数にする整数化手段(ステップST25)と、を備えている。
【0067】
また、演算処理部9Aは、整数化されたオフ素子数Mを用いて、分割領域Yを角度方向にM等分割して分割領域Qを設定する角度方向分割手段(ステップST31)と、分割領域Q内からランダムに1つの素子アンテナをオフ操作する間引き処理手段(ステップST32)と、を備えている。
【0068】
さらに、演算処理部9Aは、分割領域Q内に、オフ操作が可能な素子アンテナが存在しない領域がある場合には、素子アンテナが存在しない領域の数Pを用いて再び角度方向にP等分割し、間引き処理手段(ステップST32)により、P等分割された分割領域Q’の中からランダムに1つの素子アンテナをオフ操作し、分割領域QまたはQ’内に、オフ操作が可能な素子アンテナが存在しない領域がなくなるまで、間引き処理手段の処理を繰り返し実行する素子配列決定手段(ステップST33)を備えている。
【0069】
このように、グレーティングローブを抑圧するとともに、すべての素子アンテナ7の励振振幅を同一にしたオン/オフ操作(間引き処理)を行うことにより、素子配列に密度テーパを付けることができので、低サイドローブ化を実現して、実質的に有効な素子アンテナ7の数を削減することができる。
【0070】
すなわち、素子アンテナ7の配列に応じた適切な間引き処理で励振振幅分布を設定することにより、特にグレーティングローブや近軸での高レベルのサイドローブが問題となる高出力アクティブフェーズドアレーレーダなどにおいても、コストアップを招くことなく、グレーティングローブの抑圧および低サイドローブ化を実現することができる。
【0071】
なお、図1では、間引く素子を決定する手段として、給電回路9内に演算処理部9Aを設けたが、これに限定されることはなく、演算処理部9Aを給電回路9の外部に設けて、オフラインにより算出してもよい。
この場合、素子アンテナのオン/オフ制御は不要になり、あらかじめ算出したオフ制御の位置の素子アンテナを取り除くことができるので、低コスト化/軽量化を図りつつ、グレーティングローブの抑圧および低サイドローブ化を実現することができる。
【0072】
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図1〜図8)では、同心円状に12分割してサイドローブレベルが−25[dB]の円形テイラー分布の設定について説明したが、同心円状の分割数Nや、角度方向の分割数Mは、テイラー分布での所望のサイドローブレベルによって可変設定することができる。
また、ここでは、円形開口の例を示したが、この開口形状に限定されることはなく、長方形開口、楕円開口、多角形開口などの任意の開口形状であってもよい。
【0073】
図9はこの発明の実施の形態2による間引き処理(図3)後のオフされた素子配列例を示す説明図である。
図9においては、半径方向の分割数Nを「6」とし、素子アンテナ7をオフ操作(間引き処理)する前の非周期アレーアンテナ10の素子数nを「1400」とし、素子アンテナ7の数を決定するテイラー分布を、前述と同様のサイドローブレベル−35[dB]の「円形テイラー分布」とした場合を示している。
【0074】
図10は図9の素子配列による放射パターンの解析値を示す説明図である。
図10においては、解析した基本周波数fを3[GHz]とし、放射パターンは、基本周波数fおよび基本周波数の2倍の周波数2fで解析した結果を示している。
【0075】
図10から分かるように、カット面において約−30[dB]の低いサイドローブレベルを得ることができ、前述と同様の性能を有する素子配列を実現可能なことが分かる。
また、図9から明らかなように、この場合、前述(図7)と比べて、実質的に有効な素子アンテナ7の数が少なくて済むので、消費電力を軽減することもできる。
【0076】
実施の形態3.
なお、上記実施の形態1(図2)では、ピンウィールタイル11、12を用いて配置された非周期アレーアンテナ10に対してオフ操作(間引き処理)を実行したが、他のタイルを用いた非周期アレーアンテナに適用してもよい。
【0077】
たとえば、図11に示すようなダイアモンドタイル13や、図12に示すようなペンローズタイル14などを用いた非周期アレーアンテナ10A、10Bに対しても、前述と同様に、オフ操作(間引き処理)を適用可能であり、同様の作用効果を奏することは言うまでもない。
【0078】
図11はダイアモンドタイル13を非周期的に配列した非周期アレーアンテナ10Aを示す説明図であり、図12はペンローズタイル14を非周期的に配列した非周期アレーアンテナ10Bを示す説明図である。
【0079】
また、上記実施の形態1、2では、テイラー分布25を適用した場合を例にとって説明したが、これに限定されるものではなく、他の任意の分布を適用した場合であっても、グレーティングローブや近軸での高レベルのサイドローブが問題となる高出力アクティブフェーズドアレーレーダなどで利用可能であり、前述と同様の作用効果を奏することは言うまでもない。
【符号の説明】
【0080】
1 非周期アレーアンテナ装置、2 送受信モジュール、3 移相器、4 送信用増幅器、5 受信用増幅器、7 素子アンテナ、9A 演算処理部、9 給電回路、10、10A、10B 非周期アレーアンテナ、11、12 ピンウィールタイル、13 ダイアモンドタイル、14 ペンローズタイル、25 テイラー分布、a 素子密度、I 分割領域内の素子数、K、K〜K 分割線、M オフ素子数(分割数)、N 分割数、Q、Q’、Q”、Y、Y〜Y 分割領域、S 面積、ステップST11、ST12 半径方向分割手段、ST13 素子密度算出手段、ST21〜ST23 オフ素子数算出手段、ST25 整数化手段、ST31 角度方向分割手段、ST32 間引き処理手段、ST33 素子配列決定手段、X、X〜X 振幅平均値、Y 中心領域。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RF信号が入出力される給電回路と、
前記給電回路に接続された複数の送受信モジュールと、
前記複数の送受信モジュールに個別に接続され、各々が非周期的に配列された複数の素子アンテナからなる非周期アレーアンテナと、により構成され、
前記複数の送受信モジュールの各々は、
前記給電回路に接続された移相器と、
前記移相器と前記個別の素子アンテナとの間に介在された送信用増幅器および受信用増幅器と、
を備えた非周期アレーアンテナ装置において、
複数の素子アンテナを間引く手段として、
非周期的に配列された前記非周期アレーアンテナの開口を、N個の分割線K〜Kにより半径方向に等分割して、前記分割線の各隣接区間からなるN個の分割領域Y〜Yの各々に少なくとも1つの素子アンテナが存在するように前記分割領域を設定する半径方向分割手段と、
前記分割領域Y(i=1、2、・・・、N)に存在する素子数Iと前記分割領域の面積Sとの比を用いて、前記分割領域の素子密度aを、以下の式、
=I/S
により求める素子密度算出手段と、
前記分割領域の素子密度aの比が、前記分割領域の中心領域の振幅平均値Xで正規化した分割領域ごとの振幅平均値Xの比と一致するように、前記分割領域Y内で間引きする素子アンテナの数を、間引き素子数Mとして、以下の式、
=I−I・a(X/X
により求める間引き素子数算出手段と、
算出された前記間引き素子数Mが整数でない場合には、4捨5入により間引き素子数Mを整数にする整数化手段と、
整数化された間引き素子数Mを用いて、前記分割領域Yを角度方向にM等分割して分割領域Qを設定する角度方向分割手段と、
前記分割領域Q内からランダムに1つの素子アンテナを間引き操作する間引き処理手段と、
前記分割領域Q内に、間引き操作が可能な素子アンテナが存在しない領域がある場合には、素子アンテナが存在しない領域の数Pを用いて再び角度方向にP等分割し、前記間引き処理手段により、P等分割された分割領域Q’の中からランダムに1つの素子アンテナを間引き操作し、前記分割領域QまたはQ’内に、間引き操作が可能な素子アンテナが存在しない領域がなくなるまで、前記間引き処理手段の処理を繰り返し実行する素子配列決定手段により、
間引く素子アンテナを決定することを特徴とする非周期アレーアンテナ装置。
【請求項2】
RF信号が入出力される給電回路と、
前記給電回路に接続された複数の送受信モジュールと、
前記複数の送受信モジュールに個別に接続され、各々が非周期的に配列された複数の素子アンテナからなる非周期アレーアンテナと、により構成され、
前記複数の送受信モジュールの各々は、
前記給電回路に接続された移相器と、
前記移相器と前記個別の素子アンテナとの間に介在された送信用増幅器および受信用増幅器と、
を備えた非周期アレーアンテナ装置において、
前記給電回路は、前記複数の素子アンテナのオン/オフ処理によって実質的な配列を決定するための演算処理部を備え、
前記演算処理部は、
非周期的に配列された前記非周期アレーアンテナの開口を、N個の分割線K〜Kにより半径方向に等分割して、前記分割線の各隣接区間からなるN個の分割領域Y〜Yの各々に少なくとも1つの素子アンテナが存在するように前記分割領域を設定する半径方向分割手段と、
前記分割領域Y(i=1、2、・・・、N)に存在する素子数Iと前記分割領域の面積Sとの比を用いて、前記分割領域の素子密度aを、以下の式、
=I/S
により求める素子密度算出手段と、
前記分割領域の素子密度aの比が、前記分割領域の中心領域の振幅平均値Xで正規化した分割領域ごとの振幅平均値Xの比と一致するように、前記分割領域Y内でオフする素子アンテナの数を、オフ素子数Mとして、以下の式、
=I−I・a(X/X
により求めるオフ素子数算出手段と、
算出された前記オフ素子数Mが整数でない場合には、4捨5入によりオフ素子数Mを整数にする整数化手段と、
整数化されたオフ素子数Mを用いて、前記分割領域Yを角度方向にM等分割して分割領域Qを設定する角度方向分割手段と、
前記分割領域Q内からランダムに1つの素子アンテナをオフ操作する間引き処理手段と、
前記分割領域Q内に、オフ操作が可能な素子アンテナが存在しない領域がある場合には、素子アンテナが存在しない領域の数Pを用いて再び角度方向にP等分割し、前記間引き処理手段により、P等分割された分割領域Q’の中からランダムに1つの素子アンテナをオフ操作し、前記分割領域QまたはQ’内に、オフ操作が可能な素子アンテナが存在しない領域がなくなるまで、前記間引き処理手段の処理を繰り返し実行する素子配列決定手段と、
を含むことを特徴とする非周期アレーアンテナ装置。
【請求項3】
前記複数の素子アンテナは、ピンウィールタイル、ダイアモンドタイル、またはペンローズタイルのいずれかを用いて、非周期的に配列されたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非周期アレーアンテナ装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−182714(P2012−182714A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44960(P2011−44960)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】