説明

非天然ホスホリパーゼA2分解性脂質誘導体を含有する脂質ベースの薬剤送達系およびその治療的使用

本発明は、プロドラッグの形態で存在するリゾ脂質誘導体を投与するための脂質ベースの薬剤送達系に関する。ただし、該プロドラッグはさらに、有機基は加水分解により切断除去されうるがリゾ脂質誘導体の脂肪族基は実質的に影響を受けない状態で残存する範囲内で細胞外ホスホリパーゼA2に対する基質であり、該系は、系の表面上に親水性鎖を提示するように系内に組み込まれたリポポリマーまたは糖脂質を有する。とくに興味深い脂質誘導体は、ヘッド基がC−2位に結合されかつ有機基(薬剤物質)がグリセロール部分のC−3位に共有結合された脂質である。薬剤送達系を含む医薬組成物は、種々の障害、たとえば、癌、感染性病状、炎症性病状など、すなわち、罹患組織における細胞外PLA活性レベルの増大を伴うかまたはそれが原因で生じる障害および疾患の診断およびターゲッティング治療に使用することが可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、種々の障害、たとえば、癌、感染性病状、炎症性病状など、すなわち、罹患組織における細胞外PLA活性レベルの増大を伴うかまたはそれが原因で生じる障害および疾患の治療に使用される脂質ベースの医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
モノエーテルリゾリン脂質およびアルキルホスホコリンは、有効な抗癌剤であることが知られている(たとえば、US 3,752,886およびより最近の参考文献を参照されたい)。十分に研究されたモノエーテルアルキルホスホコリンの一特定例は、1−O−オクタデシル−2−O−メチル−sn−グルセロ−3−ホスホコリン(ET18−OCH)である。
【0003】
癌細胞に対するエーテル脂質の毒性作用に関して、癌細胞におけるアルキル切断酵素の不足が関与するいくつかの機序が提案されている。これにより細胞膜中にエーテル脂質が蓄積されて、膜欠陥を生じたり場合によりそれに続いて溶解を生じたりする。可能性のある他の作用機序は、細胞内タンパク質リン酸化および脂質代謝破壊に対する作用を含む。正常細胞は、典型的には、アルキル切断酵素を有しており、それによりエーテル脂質の毒性作用を回避することが可能である。しかしながら、いくつかの正常細胞、たとえば、赤血球は、癌細胞のように、エーテル脂質の破壊作用を回避する手段を有していない。したがって、エーテル脂質の治療的使用では、毒性作用から正常細胞を保護しつつ罹患組織にエーテル脂質を送達しうる有効な薬剤送達系が必要である。
【0004】
US 5,985,854、US 6,077,837、US 6,136,796、およびUS 6,166,089には、細胞内への浸透性が強化されたプロドラッグが記載されている。これは、ヒトにおいて過常細胞内酵素活性に関連付けられる病状または疾患を治療するのにとくに有用である。プロドラッグは、リゾリン脂質のC−2エステルでありうる。そのような薬剤は、細胞内ホスホリパーゼAにより切断されるようにデザインされる。
【0005】
以上の点を考慮した場合でさえも、新規な薬剤送達系、特定的には、癌や炎症のような病状を治療または軽減しうる薬剤物質をターゲッティング送達するための薬剤送達系に対する需要が増大している。癌の治療剤が組織全般にとくに有害でありうるという事実に基づいて、罹患組織以外の部位における1種もしくは複数種の薬剤物質の遊離を抑制することは、とくに重要である。
【発明の開示】
【0006】
発明の簡単な説明
本発明は、細胞外PLA活性の局在化活性により特徴付けられる疾患の治療または軽減にとくに有用である薬剤送達系に関する。
【0007】
細胞外PLAによるリポソーム薬剤ターゲッティングを行うための本出願に記載の新しい原理には、図1に示されるような脂質ベースのプロドラッグが関与する。この場合、ポリマー鎖またはポリサッカリド鎖が「グラフト」された担体リポソームに特定の脂質類似化合物を組み込んで、細胞外ホスホリパーゼを介する加水分解により活性薬剤に変換されるプロドラッグとして作用させることが可能である。利用可能な例は、抗癌活性を呈することが確認されている特定のモノエーテル脂質でありうる。C−3位にエステル結合された長い脂肪酸鎖とC−2位に結合されたヘッド基とにより脂質が修飾されている場合、したがって、本発明に記載されるように標的部位において細胞外PLAにより加水分解可能である場合、担体リポソームを構成するこれらの修飾モノエーテル脂質は、プロドラッグとして作用であろう。最後に指摘すべき点として、抗癌剤アドリアマイシン(ドキソルビシンはその誘導体である)のような特定の薬剤は、それ自体、酵素のカルシウム必要量を減少させることにより細胞外PLA活性を刺激することが知られている。
【0008】
細胞外ホスホリパーゼA2(PLA)による薬剤のターゲッティング、放出、および吸収の原理(図1に示される)は、脂質ベースのプロドラッグが関与する場合にも適用可能である。この場合、脂質誘導体は、担体リポソームの成分であり、罹患標的組織中に高濃度で存在する細胞外PLAを介する加水分解により活性薬剤(たとえば、エーテル脂質)に変換されるプロドラッグとして作用する。特定例は、抗癌活性を呈する特定のモノエーテル脂質のプロドラッグである。これは、C−3位でリン脂質にエステル結合された治療活性化合物(たとえば、調節性脂肪酸誘導体)でありうる。したがって、脂質誘導体は、細胞外PLAに対する基質になっている。モノエーテル脂質が、たとえば、C−3位でエステル結合誘導体により修飾されている場合、したがって、標的部位において細胞外PLAにより加水分解可能である場合、担体リポソームを構成するこれらの脂質誘導体は、標的部位において細胞外PLAにより加水分解されて薬剤に変換された状態になるプロドラッグとして作用するであろう。このようにすれば、治療活性物質、たとえば、モノエーテル脂質およびエステル結合誘導体は、所望の標的部位で遊離されるであろう。さらに、加水分解生成物は、生成された抗癌剤を細胞内に輸送するのを促進する局所浸透エンハンサーとして作用しうる。脂質ベースの系を含有する医薬組成物は、治療に、たとえば、癌、感染性病状、および炎症性病状の治療に使用可能である。
【0009】
本発明は、グリセロール主鎖上の1位にアルキル結合またはアシル結合およびC−3位にアシル結合または他のPLA分解性結合(たとえば、PLA加水分解性エステルの生物学的等価体)を含有しかつC−2位でそれにグラフトされたポリマー鎖またはポリサッカリド鎖を有するグリセロリン脂質のような新規な非天然脂質二重層形成脂質で構成された脂質ベースの担体(たとえば、リポソームまたはミセル)の形態でそのような送達系を提供する。それに加えて、担体系は、血管循環時間の増加および結果として罹患標的組織への蓄積を引き起こす脂質二重層安定化成分、たとえば、リポポリマー、糖脂質、およびステロールを含有しうる。担体が治療作用の標的部位(たとえば、癌細胞)に達したとき、アシル結合のPLA触媒加水分解により治療活性成分(典型的には、リゾエーテル脂質およびエステル結合誘導体)が放出される。癌細胞内にはほとんど存在しないアルキル切断酵素とは対照的に、細胞外PLA活性は、癌組織内で増大される。それに加えて、細胞外PLA活性は、炎症組織のような罹患領域内でも増大される。
【0010】
したがって、本発明は、リゾ脂質誘導体から選択される活性薬剤物質を投与するための脂質ベースの薬剤送達系を提供する。ただし、該活性薬剤物質は、プロドラッグの形態で脂質ベースの系内に存在し、該プロドラッグは、(a)少なくとも3炭素原子長の脂肪族基および少なくとも3個の炭素原子を有する有機基と(b)親水性部分とを有する脂質誘導体であり、該プロドラッグはさらに、有機基は加水分解により切断除去されうるが脂肪族基は実質的に影響を受けない状態で残存する範囲内で細胞外ホスホリパーゼA2に対する基質であり、それにより活性薬剤物質がリゾ脂質誘導体の形態で遊離され、該系は、系の表面上に親水性鎖を提示するように系内に組み込まれたリポポリマーまたは糖脂質を有する。
【0011】
本発明はまた、第2の薬剤物質を投与するための脂質ベースの薬剤送達系を提供する。ただし、該第2の薬剤物質は、系内に組み込まれ、該系は、(a)少なくとも3炭素原子長の脂肪族基および少なくとも3個の炭素原子を有する有機基と(b)親水性部分とを有する脂質誘導体を含み、該脂質誘導体はさらに、有機酸フラグメントまたは有機アルコールフラグメントとリゾ脂質フラグメントとを生じるように、有機基が加水分解により切断除去されうる程度に細胞外ホスホリパーゼA2に対する基質であり、該系は、系の表面上に親水性鎖を提示するように系内に組み込まれたリポポリマーまたは糖脂質を有する。
【0012】
したがって、本発明は、細胞外ホスホリパーゼにより特異的かつ部分的にのみ切断可能でありかつそれと同時にリポポリマーまたは糖脂質を含む脂質誘導体が組み込まれたリポソーム(およびミセル)が、哺乳動物細網内皮系に認識されることなくかつ細胞壁に浸透することなく、細胞外PLA活性の増大された標的組織に達するのに十分な程度に長い間にわたり血流中を循環する性質を有し、それにより、リポソームの脂質誘導体が、所望の部位で治療活性成分を遊離するように細胞外PLAにより特異的に切断されるという驚くべき発見を利用するものである。
【0013】
本発明はまた、本明細書に記載の薬剤送達系の成分としてとくに有用である一群の新規な脂質誘導体を提供する。
【表1】

【0014】
発明の詳細な説明
本発明の重要な特徴の1つは、特定の脂質誘導体が哺乳動物罹患組織の細胞外部位で明確に規定された形で細胞外PLAにより切断されるということを具現化したことである。細胞外PLAは、モノエーテル/モノエステル脂質誘導体を切断することにより、単独でまたは他の活性化合物と組み合わせて治療効果を呈するモノエーテルリゾ脂質誘導体を生成しうることが見いだされた。
【0015】
脂質誘導体
したがって、本発明に係る薬剤送達系(リポソームまたはミセル)は、(a)少なくとも3炭素原子長の脂肪族基および少なくとも3個の炭素原子を有する有機基と(b)親水性部分とを有する脂質誘導体に基づくものであり、該プロドラッグはさらに、有機基は加水分解により切断除去されうるが脂肪族基は実質的に影響を受けない状態で残存する範囲内で細胞外ホスホリパーゼA2に対する基質であり、それにより活性薬剤物質がリゾ脂質誘導体の形態で遊離され、該系は、系の表面上に親水性鎖を提示するように系内に組み込まれたリポポリマーまたは糖脂質を有する。
【0016】
「脂質」および「リゾ脂質」という用語は(リン脂質との関連で)当業者には周知の用語であろうが、強調すべき点として、本明細書内および本特許請求の範囲内では、「脂質」という用語は、次式:
【化1】

【0017】
〔式中、RおよびRは、脂肪酸部分(C9〜30−アルキル/アルキレン/アルキルジエン/アルキルトリエン/アルキルテトラエン−C(=O)−)であり、そしてRは、ホスファチジン酸(PO−OH)またはホスファチジン酸の誘導体もしくはホスファチジン酸の生物学的等価体である〕
で示されるグリセロールトリエステルを意味することが意図される。したがって、R基およびR基は、エステル結合を介してグリセロール骨格に結合される。
【0018】
「リゾ脂質」という用語は、R脂肪酸基が不在である(たとえば、加水分解により切断除去されている)脂質、すなわち、Rは水素であるが他の置換基は実質的に影響を受けないときの上記の式で示されるグリセロール誘導体を意味することが意図される。脂質からリゾ脂質への変換は、酵素の作用下で、特定的には、細胞PLAおよび細胞外PLAの作用下で行うことが可能である。
【0019】
「脂質誘導体」および「リゾ脂質誘導体」という用語は、それぞれ、「脂質」群および「リゾ脂質」群に属する上記の利用可能な化合物の利用可能な誘導体を包含することが意図される。生物学的に活性な脂質誘導体およびリゾ脂質誘導体の例は、Houlihan, et al., Med. Res. Rev., 15, 3, 157-223に与えられている。したがって、自明なことであろうが、「誘導体」という拡張語は、最も広義に解釈されるべきものである。
【0020】
しかしながら、本出願の範囲内では、脂質誘導体およびリゾ脂質は、特定の機能条件(上記参照)および/または構造要件を満たすものでなければならない。とくに注目に値する点として、好適な脂質誘導体は、(a)少なくとも3炭素原子長、好ましくは少なくとも9炭素原子長の脂肪族基および少なくとも3個の炭素原子を有する有機基と(b)親水性部分とを有するものである。自明なことであろうが、脂肪族基および有機基は、通常の脂質中の2つの脂肪酸部分に対応し、親水性部分は、(リン)脂質またはその生物学的等価体のホスフェート部分に対応するであろう。
【0021】
したがって、本発明を裏付ける一般的概念は、哺乳動物の身体の局所領域(特定的には罹患組織)において増大された細胞外PLA活性レベルを活用することであるので、本発明の範囲内で利用しうる脂質誘導体は、細胞外PLAに対する基質でなければならない。すなわち、脂質誘導体は、脂質中の脂肪酸の3位に対応する有機基の酵素的加水分解切断を受けるものでなければならない。細胞外PLAは、酵素群(EC)3.1.1.4に属することが知られている。したがって、(細胞外)PLAとは、脂質中の脂肪酸の2位に対応する有機基の加水分解切断を引き起こしうるこの群に属するすべての細胞外酵素(たとえばリパーゼ)であると解釈すべきである。脂質ベースの薬剤送達系(リポソームおよびミセルとして)のとくに有利な点の1つは、低分子基質と比較して組織化基質のほうが細胞外PLA活性が有意に増大されるということである。
【0022】
細胞外PLAによる加水分解性に対する要件を考えれば、好ましくは、細胞外PLAにより切断されうるエステル官能基を介して有機基(たとえば脂肪族基)が結合され、好ましくは、結果として切断除去される基がカルボン酸であることは明らかである。
【0023】
さらに、脂質誘導体(すなわち、細胞外PLAによる切断後のリゾ脂質誘導体)の脂肪族基(脂質中の脂肪酸の1位に対応する基)が細胞外PLAの作用により実質的に影響を受けないことは、本発明の重要な特徴である。「実質的に影響を受けない」とは、脂肪族基の一体性が保持され、かつ細胞外PLAの作用下で切断される脂肪族基(1位の脂肪族基)が1モル%未満、好ましくは0.1mol%未満であることを意味する。
【0024】
本発明に係る薬剤送達系に組み込むのに好ましい一群の脂質誘導体は、次式:
【化2】

【0025】
〔式中、
XおよびZは、独立して、OC(O)、O、CH、NH、NMe、S、S(O)、OS(O)、S(O)、OS(O)、OP(O)、OP(O)O、OAs(O)、およびOAs(O)Oから、好ましくは、O、NH、NMe、およびCH、特定的には、OおよびCHから選択され;
Yは、OC(O)、OC(O)O、OC(O)N、OC(S)、SC(O)、SC(S)、CHC(O)O、NC(O)Oから選択され、その場合、Yは、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、またはカルボニル炭素原子のいずれかを介して、好ましくはカルボニル炭素原子を介してRに結合され;
は、式Yで示される脂肪族基であり;
は、少なくとも2個の炭素原子を有する有機基、たとえば、少なくとも2炭素原子長、好ましくは少なくとも9炭素原子長を有する脂肪族基、好ましくは式Yで示される基であり;
{ここで、Yは、−(CHn1−(CH=CH)n2−(CHn3−(CH=CH)n4−(CHn5−(CH=CH)n6−(CHn7−(CH=CH)n8−(CHn9であり、かつn1+2n2+n3+2n4+n5+2n6+n7+2n8+n9の合計は、2〜29の整数であり;n1は、ゼロまたは1〜29の整数であり、n3は、ゼロまたは1〜20の整数であり、n5は、ゼロまたは1〜17の整数であり、n7は、ゼロまたは1〜14の整数であり、かつn9は、ゼロまたは1〜11の整数であり;かつn2、n4、n6、およびn8のそれぞれは、独立して、ゼロまたは1であり;そしてYは、CH、OH、SH、S(O)OH、P(O)OH、OP(O)OH、NH、またはCOHであり;ただし、それぞれのY−Yは、独立して、ハロゲンおよび脂肪族置換基で置換されていてもよいが、好ましくは、Y−Yは無置換である}
は、ホスファチジン酸(PO−OH)、ホスファチジン酸の誘導体、ならびにリン酸に対する生物学的等価体、たとえば、P(O)O、P(O)CH、S(O)O、S(O)CH、C(O)O、C(O)N、C(S)O、P(S)O、S(O)CH、およびそれらの誘導体(とくに、親水性ポリマーまたはポリサッカリドが共有結合されたホスファチジン酸誘導体)から選択される〕
で表すことが可能である。
【0026】
以上で述べたように、好ましい実施形態によれば、Yは、−OC(O)−であり、この場合、Yは、カルボキシル原子を介してRに結合される。最も好ましい実施形態によれば、XおよびZは、Oであり、かつYは、−OC(O)−であり、この場合、Yは、カルボキシル原子を介してRに結合される。このことは、脂質誘導体が1−モノエーテル−2−モノエステル−リン脂質型の化合物であることを意味する。
【0027】
他の好ましい一群の脂質誘導体は、X基がSであるものである。
【0028】
一実施形態では、RおよびRは、式Yで示される脂肪族基である。ただし、Yは、CH、OH、SH、S(O)OH、P(O)OH、OP(O)OH、NH、またはCOHであるが、好ましくはCHであり、そしてYは、(CHn1(CH=CH)n2(CHn3(CH=CH)n4(CHn5(CH=CH)n6(CHn7(CH=CH)n8(CHn9であり;n1+2n2+n3+2n4+n5+2n6+n7+2n8+n9の合計は、2〜29の整数である(すなわち、脂肪族基Yは、2〜29炭素原子長である)。n1は、ゼロに等しいかまたは1〜23の整数であり;n3は、ゼロに等しいかまたは1〜20の整数であり;n5は、ゼロに等しいかまたは1〜17の整数であり;n7は、ゼロに等しいかまたは1〜14の整数であり;n9は、ゼロに等しいかまたは1〜11の整数であり;かつn2、n4、n6、およびn8のそれぞれは、独立して、ゼロまたは1に等しい。
【0029】
脂肪族基は不飽和であってもよく、さらにはハロゲン(フルオロ、クロロ、ブロモ、ヨード)置換やC1〜10基置換(すなわち、分枝状脂肪族基を生じる)が行われていてもよいが、一実施形態では、RおよびRとしての脂肪族基は、好ましくは、飽和かつ非分枝状である。すなわち、それらは、好ましくは、隣接する炭素原子間に二重結合を有しておらず、この場合、n2、n4、n6、およびn8のそれぞれは、ゼロに等しい。したがって、Yは、好ましくは(CHn1である。より好ましくは(この実施形態では)、RおよびRは、それぞれ独立して、(CHn1CH、最も好ましくは、(CH17CHまたは(CH15CHである。他の選択肢の実施形態では、これらの基は、1つ以上の二重結合を有しうる。すなわち、それらは、不飽和で、n2、n4、n6、およびn8の1つ以上が1に等しい状態をとりうる。たとえば、不飽和炭化水素が1つの二重結合を有する場合、n2は、1に等しく、n4、n6、およびn8は、それぞれ、ゼロに等しく、かつYは、(CHn1CH=CH(CHn3である。n1は、ゼロに等しいかまたは1〜21の整数であり、かつn3は、同様に、ゼロであるかまたは1〜20の整数であり、n1またはn3の少なくとも一方は、ゼロに等しくない。
【0030】
特定の一実施形態では、脂質誘導体は、XおよびZがOであり、RおよびRが、独立して、アルキル基(CHCH(ここで、nは、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、または29、好ましくは、14、15、または16、特定的には、14である)から選択され;Yが−OC(O)−である(この場合、Yは、カルボニル炭素原子を介してRに結合される)ときのモノエーテル脂質である。
【0031】
に対応する親水性部分(多くの場合、「ヘッド基」として知られる)に関して、ホスファチジン酸(PO−OH)、ホスファチジン酸の誘導体、ならびにリン酸に対する生物学的等価体およびその誘導体に対応する多種多様な基が使用可能であると考えられる。自明なことであろうが、Rに対するきわめて重要な要件は、この基が細胞外PLAによるR基(たとえば、R−C(=O)またはR−OH)の酵素的切断を許容するものでなければならないことである。「ホスファチジン酸に対する生物学的等価体およびその誘導体」とは、実際には、そのような基が(ホスファチジン酸のときと同様に)細胞外PLAによる酵素的切断を許容するものでなければならないことを意味する。
【0032】
は、典型的には、ホスファチジン酸(PO−OH)、ホスファチジルコリン(PO−O−CHCHN(CH)、ホスファチジルエタノールアミン(PO−O−CHCHNH)、N−メチル−ホスファチジルエタノールアミン(PO−O−CHCHNHCH)、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、およびホスファチジルグリセロール(PO−O−CHCHOHCHOH)から選択される。ホスファチジン酸の他の利用可能な誘導体は、グルタル酸、セバシン酸、コハク酸、および酒石酸のようなジカルボン酸が、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトールなどの末端窒素に連結されたものである。
【0033】
脂質誘導体の一部分がリポポリマーまたは糖脂質でもある特定の実施形態では、親水性ポリマーまたはポリサッカリドは、典型的には、脂質誘導体のホスファチジル部分に共有結合される。他の特定の脂質誘導体は、脂質のヘッド基に結合されたアシル鎖を含む。
【0034】
リポポリマーを形成するように本発明に係る脂質誘導体に適切に組み込みうる親水性ポリマーは、易水溶性であり、小胞形成性脂質に共有結合可能であり、かつ毒性作用を示すことなくin vivoで耐容性である(すなわち、生体適合性である)ものである。好適なポリマーとしては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ乳酸(ポリラクチドとも呼ばれる)、ポリグリコール酸(ポリグリコリドとも呼ばれる)、ポリ乳酸−ポリグリコール酸コポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン(polymethoxazoline)、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、および誘導体化セルロース(たとえば、ヒドロキシメチルセルロースまたはヒドロキシエチルセルロース)が挙げられる。
【0035】
好ましいポリマーは、約100ダルトン〜約10,000ダルトン、より好ましくは約300ダルトン〜約5,000ダルトンの分子量を有するものである。とくに好ましい実施形態では、ポリマーは、約100〜約5,000ダルトンの分子量、より好ましくは約300〜約5,000ダルトンの分子量を有するポリエチレングリコールである。とくに好ましい実施形態では、ポリマーは、750ダルトンのポリエチレングリコール(PEG(750))である。ポリマーはまた、含まれるモノマーの数により定義することも可能であり、本発明に係る好ましい実施形態では、少なくとも約3個のモノマーよりなるポリマー、たとえば、3個のモノマーよりなるPEGポリマー(約150ダルトン)が利用される。
【0036】
脂質誘導体の一部分が糖脂質またはリポポリマーを表す場合、そのような脂質誘導体(ポリマー鎖またはポリサッカリド鎖を有する脂質誘導体)は、典型的には、脱水された脂質ベースの系全体の1〜80mol%、たとえば、2〜50mol%または3〜25mol%を構成する。しかしながら、ミセル組成物の場合、この部分は、さらに多くてもよく、たとえば、脱水された脂質ベースの系全体の1〜100mol%(たとえば、10〜100mol%)であってもよい。
【0037】
ホスファチジル部分に共有結合される(たとえば、ホスファチジルエタノールアミンの末端窒素を介して)好ましいポリマーは、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリラクチド(polyactide)、ポリグリコール酸、ポリラクチド(polyactide)−ポリグリコール酸コポリマー、およびポリビニルアルコールである。
【0038】
本発明のきわめて興味深い一態様は、R基を改変することにより脂質誘導体の医薬作用を調整できる可能性である。当然のことながら、Rは、少なくとも2個の炭素原子を有する有機基(たとえば、特定の長さ(少なくとも2個、好ましくは9個の炭素原子)を有する脂肪族基)でなければならないが、高い多様性をもたせることが可能である。たとえば、Rは、必ずしも長鎖残基であることが必要とされるわけではなく、より複雑な構造を表すことが可能である。
【0039】
一般的には、Rは、それが細胞外PLAにより遊離されうる環境に対してかなり不活性でありうるか、あるいはRは、典型的にはリゾ脂質誘導体および/または環境中に存在する任意の他の(第2の)薬剤物質に対する補助薬剤物質としてまたは効力調整剤として有効な医薬的役割を果たしうると考えられる。
【0040】
いくつかの実施形態では、R基およびR基は、長鎖残基、たとえば、脂肪酸残基(この脂肪酸は、Y基に由来するカルボニルを含むであろう)であろう。これについては、以上に詳細に記載されている。この部分群に属するRとしての補助薬剤物質の興味深い例は、ポリ不飽和酸、たとえば、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸(linonleic)であり、さらにはアラキドン酸誘導体がプロスタグランジン類、トロンボキサン類、およびロイコトリエン類(leukotrines)の作用をはじめとするホルモン作用の公知の調節剤であることから、アラキドノイルの誘導体(Yに由来するカルボニルを含む)、たとえば、プロスタグランジンEのようなプロスタグランジンである。Rとしての効力調整剤の例は、標的細胞膜の浸透性を向上させ、さらには細胞外PLAまたは活性薬剤物質または任意の第2の薬剤物質の活性を向上させるものである。この例は、短鎖(C8〜12)脂肪酸である。
【0041】
しかしながら、他の基が有機基Rとして有用である可能性もあると予想される。その例としては、ビタミンD誘導体、ステロイド誘導体、レチノイン酸(all−trans−レチノイン酸、all−cis−レチノイン酸、9−cis−レチノイン酸、13−cis−レチノイン酸を包含する)、コレカルシフェロール類似体およびトコフェロール類似体、薬理活性カルボン酸類、たとえば、分枝鎖状脂肪族カルボン酸類(たとえば、バルプロ酸およびWO 99/02485に記載のもの)、サリチル酸類(たとえば、アセチルサリチル酸)、ステロイド系カルボン酸類(たとえば、リセルグ酸およびイソリセルグ酸)、モノヘテロ環式カルボン酸類(たとえば、ニコチン酸)およびポリヘテロ環式カルボン酸類(たとえば、ペニシリン類およびセファロスポリン類)、ジクロフェナク、インドメタシン、イブプロフェン、ナプロキセン、6−メトキシ−2−ナフチル酢酸が挙げられる。
【0042】
利用可能なR基の種々の例が基の名称ではなく個々の種の名称により参照されることを理解する必要がある。さらに、利用可能な例には有機基を脂質骨格に連結させる結合(上記の式中の「Y」に対応する)のカルボニル基またはオキシ基が含まれうることを理解する必要がある。このことは、もちろん当業者であればわかるであろう。
【0043】
本発明の範囲内で使用される脂質誘導体の好適な例に対する一般式では特定的に示されていないが、たとえば、細胞外PLAによる切断速度を調整するためにまたは単に脂質誘導体を含むリポソームの性質を調整するために、脂質誘導体のグリコール部分を置換しうることを理解する必要がある。
【0044】
以上で定義した脂質誘導体のいくつかは、すでに公知である可能性もあるが、そのいくつかの部分群は、独自性を有して新規な化合物類であると考えられる。
【0045】
特定の一群の新規な化合物は、次式:
【化3】

【0046】
〔式中、
XおよびZは、独立して、OC(O)、O、CH、NH、NMe、S、S(O)、OS(O)、S(O)、OS(O)、OP(O)、OP(O)O、OAs(O)、およびOAs(O)Oから、好ましくは、O、NH、NMe、およびCH、特定的には、OおよびCHから選択され;
Yは、OC(O)、OC(O)O、OC(O)N、OC(S)、SC(O)、SC(S)、CHC(O)O、NC(O)Oから選択され、その場合、Yは、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、またはカルボニル炭素原子のいずれかを介して、好ましくはカルボニル炭素原子を介してRに結合され;
は、式Yで示される脂肪族基であり;
は、少なくとも2個の炭素原子を有する有機基であり;
{ここで、Yは、−(CHn1−(CH=CH)n2−(CHn3−(CH=CH)n4−(CHn5−(CH=CH)n6−(CHn7−(CH=CH)n8−(CHn9であり、かつn1+2n2+n3+2n4+n5+2n6+n7+2n8+n9の合計は、2〜29の整数であり;n1は、ゼロまたは1〜29の整数であり、n3は、ゼロまたは1〜20の整数であり、n5は、ゼロまたは1〜17の整数であり、n7は、ゼロまたは1〜14の整数であり、かつn9は、ゼロまたは1〜11の整数であり;かつn2、n4、n6、およびn8のそれぞれは、独立して、ゼロまたは1であり;そしてYは、CH、OH、SH、S(O)OH、P(O)OH、OP(O)OH、NH、またはCOHであり;ただし、それぞれのY−Yは、独立して、ハロゲンまたはC1〜4−アルキルで置換されていてもよいが、好ましくは、Y−Yは無置換である}
は、親水性ポリマーまたはポリサッカリドが結合されたホスファチジン酸誘導体から選択される。親水性ポリマーまたはポリサッカリドは、典型的にはかつ好ましくは、ポリエチレングリコール、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)−ポリ(グリコール酸)コポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン(polymethoxazoline)、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、および誘導体化セルロースから、特定的には、ポリエチレングリコール、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)−ポリ(グリコール酸)コポリマー、およびポリビニルアルコールから選択される。〕
で示される脂質誘導体である。
【0047】
特定の部分群は、XおよびZがOであり、RおよびRが独立してアルキル基(CHCH(ここで、nは、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、または29、好ましくは14または16である)から選択され;Yが−OC(O)−である(この場合、Yは、カルボニル炭素原子を介してRに結合される)ものである。
【0048】
特定の一群の化合物は、100〜10000ダルトン、特定的には300〜5000ダルトンの分子量のPEG部分を有するポリエチレンオキシド−1−O−パルミチル−sn−2−パルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE−PEG)およびポリエチレンオキシド−1−O−ステアリル−sn−2−ステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE−PEG)である。
【0049】
さらに、本発明は、製薬上許容される担体と以上で定義したような脂質誘導体とを含む医薬組成物を提供する。好ましくは、そのような組成物中の脂質誘導体は、リポソームの形態で分散される(下記参照)。
【0050】
また、本発明は、医薬として使用するためのそのような脂質誘導体(好ましくは、医薬組成物中に存在する)と、哺乳動物組織における細胞外ホスホリパーゼA2活性の局所的増加を伴う疾患または病状を治療するための医薬を調製するための以上で定義したような脂質誘導体の使用と、に関する。そのような疾患または病状は、典型的には、癌、たとえば、脳癌、乳癌、肺癌、大腸癌、もしくは卵巣癌、または白血病、リンパ腫、肉腫、癌腫、および炎症性病状から選択される。本組成物および本使用は、細胞外PLA活性の増加が対象組織(この組織は、哺乳動物とくにヒトの組織である)における活性の正常レベルと比較して少なくとも25%である症例にとくに適用可能である。
【0051】
プロドラッグとしての脂質誘導体
以上に記載したように、本発明は、リゾ脂質誘導体から選択される活性薬剤物質を投与するための脂質ベースの薬剤送達系を提供する。ただし、該活性薬剤物質は、プロドラッグの形態で脂質ベースの系内に存在し、該プロドラッグは、(a)少なくとも3炭素原子長の脂肪族基および少なくとも3個の炭素原子を有する有機基と(b)親水性部分とを有する脂質誘導体であり、該プロドラッグはさらに、有機基は加水分解により切断除去されうるが脂肪族基は実質的に影響を受けない状態で残存する範囲内で細胞外ホスホリパーゼA2に対する基質であり、それにより活性薬剤物質がリゾ脂質誘導体の形態で遊離され、該系は、系の表面上に親水性鎖を提示するように系内に組み込まれたリポポリマーまたは糖脂質を有する。
【0052】
「活性薬剤物質」という用語は、哺乳動物、特定的にはヒトの身体において予防効果または治療効果を提供する任意の化学物質を意味する。したがって、本発明は、主に、治療分野に関する。
【0053】
「プロドラッグ」という用語は、通常の意味で、すなわち、目標の薬剤物質への変換(典型的には切断によるが、in vivo化学変換によるものもある)を目的としてマスキングまたは保護された薬剤として解釈されるべきものである。当業者であれば、「プロドラッグ」という用語の範囲はわかるであろう。
【0054】
活性薬剤物質は、リゾ脂質誘導体から選択される。また、特許請求の範囲の添付された本明細書から明らかなように、本発明の範囲内の適合するリゾ脂質誘導体は、少なくとも、リゾ脂質誘導体を遊離しうる細胞外PLA活性レベルを哺乳動物の身体の局部が有している疾患および病状に関して、治療効果を有するであろう。
【0055】
特許請求の範囲の添付された本明細書から明らかなように、脂質誘導体は、多くの場合、以上で言及したプロドラッグを構成するであろう。そのため、リゾ脂質誘導体は、活性薬剤物質、多くの場合、モノエーテルリゾ脂質誘導体を構成するであろう。しかしながら、当然のことではあるが、これにより、本発明に係る薬剤送達系において第2の薬剤物質として言及される他の薬剤物質を含む可能性が除外されるわけでもなければ、細胞外PLAの作用により加水分解切断されうる有機基が特定の医薬作用(たとえば、本明細書中に別記されるような補助薬剤物質または効力調整剤として)を有する可能性が除外されるわけでもない。さらに、第2の薬剤物質が含まれる場合、「活性薬剤物質」すなわちリゾ脂質誘導体の医薬作用は、最も優位である必要はなく、実際には、他の主要な実施形態(下記の「薬剤送達系としての脂質誘導体リポソーム」を参照されたい)で明らかになるように、第2の薬剤物質の作用が最も優位である可能性も十分にある。
【0056】
プロドラッグ(脂質誘導体)からの活性薬剤物質(リゾ脂質誘導体)の放出は、以下の例:
【化4】

に示されるように起こると考えられる。
【0057】
さらに、置換基Rは、活性薬剤物質に対する補助薬剤物質または効力調整剤を構成するものであってもよく、以下のように細胞外PLAの作用下で同時に放出されるであろう。
【化5】

【0058】
活性薬剤物質に関連して、たとえば、補助薬剤物質または効力調整剤(たとえば、浸透調整剤または細胞溶解調整剤)として、R基がどのように種々の個別効果または相乗効果を有しうるかについては、以上のRの定義のところに記載した。Rに対応する基(たとえば、R−OHまたはR−COOH)がリゾ脂質誘導体(活性薬剤物質)の作用に対して優位な医薬作用を有しうることを心に留めておく必要がある。
【0059】
リポソームとして製剤化される脂質誘導体
「脂質ベースの薬剤送達系」という用語は、主成分として脂質または脂質誘導体を含む巨大分子構造を包含するものとする。この好適な例は、リポソームおよびミセルである。現時点ではリポソームが最も広い適用範囲を提供すると考えられるので、以下にはそれについて最も詳細に記載されている。リポソームは現在のところ好ましい脂質ベースの系であると考えられるが、ミセルの系もまた、本発明の範囲内の興味深い実施形態を提供すると考えられる。
【0060】
本明細書に記載の実施形態と有利に組み合わせうる重要な一変形形態では、脂質誘導体(たとえば、プロドラッグ)は、唯一の成分としてまたは(より一般的には)他の成分(他の脂質、ステロールなど)と組み合わせてリポソームに組み込まれる。したがって、本明細書に記載の脂質ベースの系は、好ましくは、リポソームの形態をとり、このリポソームは、脂質誘導体(たとえば、プロドラッグ)を含む層で構築される。
【0061】
「リポソーム」は、1つ以上の脂質二重層を含む自己集合構造として知られ、それぞれの脂質二重層は、水性区画を包囲し、両親媒性脂質分子の2つの対向する単層を含む。両親媒性脂質(すなわち脂質誘導体)は、1個もしくは2個の非極性(疎水性)脂肪族基(脂質誘導体中のRおよびRに対応する)に共有結合された極性(親水性)ヘッド基領域(脂質誘導体中の置換基Rに対応する)を含む。疎水性基と水性媒体との間のエネルギー的に不利な接触が起こると、極性ヘッド基は水性媒体の方向を向いて配向され、一方、疎水性基は二重層の内部の方向を向いて再配向されるように、脂質分子の再配列が引き起こされると一般に考えられる。疎水性基が水性媒体に接触することがないように効果的に遮蔽されたエネルギー的に安定な構造が形成される。
【0062】
リポソームは、単一の脂質二重層(ユニラメラリポソーム(「ULV」))または複数の脂質二重層(マルチラメラリポソーム(「MLV」))を有することが可能であり、さまざまな方法により作製することが可能である(総説については、たとえば、Deamer and Uster, Liposomes, Marcel Dekker, N.Y., 1983, 27-52を参照されたい)。これらの方法としては、マルチラメラリポソーム(MLV)を作製するためのBanghamの方法;実質的に等しいラメラ間溶質分布を有するMLVを作製するためのLenk、Fountain、およびCullisの方法(たとえば、US 4,522,803、US 4,588,578、US 5,030,453、US 5,169,637、およびUS 4,975,282を参照されたい);およびオリゴラメラリポソームを調製するためのPapahadjopoulosらの逆相蒸発法(US 4,235,871)が挙げられる。ULVは、超音波処理(Papahadjopoulos et al., Biochem. Biophys. Acta, 135, 624 (1968)を参照されたい)または押出し(US 5,008,050およびUS 5,059,421)のような方法によりMLVから作製することが可能である。本発明に係るリポソームは、これらの開示(その内容は、参照により本明細書に組み入れられるものとする)のいずれかの方法により作製することが可能である。
【0063】
超音波処理、ホモジナイゼーション、フレンチプレス利用、およびミリングのような種々の方法を用いて、より大きいリポソームからより小さいサイズのリポソームを調製することが可能である。押出し(US 5,008,050を参照されたい)を用いて、加圧下でリポソームを規定の選択されたサイズのフィルターポアに通すことにより、リポソームのサイズを減少させることが可能である。すなわち、あらかじめ決められた平均サイズを有するリポソームを作製することが可能である。また、接線流動濾過(WO 89/08846参照)を用いて、リポソームのサイズを調整することが可能である。すなわち、より少ないサイズ不均一性およびより均一な規定サイズ分布を有するリポソーム集団を有するリポソームを作製することが可能である。これらの文献の内容は、参照により本明細書に組み入れられるものとする。また、準電気光散乱(quasi-electric light scattering)のようないくつかの技術により、Nicomp(登録商標)粒径分析計などのような当業者が十分に入手しうる範囲内の機器を用いて、リポソームのサイズを決定することが可能である。
【0064】
この系がリポソームの系であったとしても、本発明に係る脂質誘導体が脂質ベースの系の主要部分を構成しうることに注目してみることは、きわめて興味深いことである。この事実は、本発明に係る脂質誘導体と脂質との間の構造的類似性(ただし、機能的類似性ではない)に起因する。したがって、本発明に係る脂質誘導体は、リポソームの唯一の成分でありうると考えられる。すなわち、脱水された全リポソームの100モル%までを脂質誘導体により構成しうると考えられる。このことは、リポソームの副次部分を構成しうるにすぎないET18−OCH3のような公知のモノエーテルリゾ脂質とは対照的である。
【0065】
典型的には、以下に詳細に記載されるように、リポソームは、有利には、他の成分を含む。この成分は、医薬作用を有していてもいなくてもよいが、リポソーム構造をより安定なものにしたり(もしくは他の選択肢としてより不安定なものにしたり)またはクリアランスからリポソームを保護して循環時間を増大させたりすることにより、リポソームを含む医薬品の全体的効率を改善するであろう。
【0066】
これについて述べると、特定の脂質誘導体は、典型的には、脱水された全リポソームを基準にして5〜100mol%、たとえば50〜100mol%、好ましくは75〜100mol%、特定的には90〜100mol%を構成するであろうと考えられる。
【0067】
リポソームは、ユニラメラであってもマルチラメラであってもよい。いくつかの好ましいリポソームは、ユニラメラであり、約400nm未満、より好ましくは約40nm超〜約400nm未満の直径を有する。
【0068】
リポソームは、典型的には(当技術分野で公知のように)、(a) 脂質誘導体を有機溶媒に溶解させる工程と;(b) 工程(a)の脂質誘導体溶液から有機溶媒を除去する工程と;(c) リポソームを形成するように工程(b)の生成物を水性溶媒で水和させる工程と;を含む方法により調製される。
【0069】
本方法は、工程(a)の有機溶媒または工程(c)の水性相に第2の薬剤物質(下記参照)を添加する工程をさらに含みうる。
【0070】
続いて、本方法は、特定のサイズ(たとえば100nm)のリポソームを作製するように、工程(c)で生成されたリポソームをフィルターに通して押し出す工程を含みうる。
【0071】
以上で述べた技術に従って、広範にわたるサイズの脂質ベースの粒子系(すなわち、リポソームおよびミセル)を調製することが可能である。投与経路にもよるが、医薬用途に好適なサイズは、通常は20〜10,000nmの範囲内、特定的には30〜1000nmの範囲内であろう。50〜200nmの範囲内のサイズが一般に好ましい。なぜなら、このサイズ範囲内のリポソームは、より大きいリポソームのときよりも長い時間にわたり哺乳動物の血管系中を循環すると一般に考えられるからである。より大きいリポソームは、哺乳動物の細網内皮系(「RES」)によってより迅速に認識され、より迅速に循環から除去される。血管循環がより長い時間にわたれば、より多くのリポソームをその目標の作用部位(たとえば、腫瘍または炎症)に到達させることにより、治療の効力を向上させることが可能になる。
【0072】
本明細書中の実施形態に規定されるような薬剤送達系(静脈内および筋肉内の注射を介して投与するように適合化される)では、リポソームは、好ましくは、約100nmの平均粒子サイズを有するものでなければならないと考えられる。この場合、粒子サイズは、一般的には、40〜400nmの範囲内でなければならない。
【0073】
さらに、皮下注射を介して投与するように適合化される薬剤送達系では、リポソームは、好ましくは、100〜5000nmの平均粒子サイズを有するものでなければならない。その場合、リポソームは、単層型または多層型でありうる。
【0074】
リポソーム中に脂質誘導体を組み込むことにより得られる利点の1つは、とくに以下に記載されるように安定化された場合、リポソーム構造が個別化合物としての脂質誘導体よりもはるかに長い血管循環時間を有することである。さらに、リポポリマーまたは糖脂質が組み込まれたリポソーム中に「充填」された場合、脂質誘導体は、多かれ少なかれ不活性になったりまたはさらには「隠れた状態」になったりするであろう。このことは、不利な作用(たとえば、溶血作用)の可能性があっても抑制されうることを意味する。
【0075】
好ましくは、リポソームは、対象の領域、たとえば、癌、感染、または炎症の領域または組織に達するまで不活性成分として作用する必要がある。以下に記載されるように、リポソームは、いくつかの他の成分を含みうる。特定的には、本発明に係る薬剤送達系は、任意の第2の薬剤物質、細胞外PLA活性制御剤、または浸透エンハンサーの放出を制御する成分、たとえば、短鎖脂質およびリポポリマー/糖脂質をさらに含有しうる。
【0076】
調整剤としてリポソームに組み込まれる2つの非常に重要な化合物群は、安定化剤化合物のリポポリマーおよび糖脂質であり、例としては、分子量100〜10000ダルトンのPEGを有するリポポリマー(たとえば、ポリエチレンオキシド−ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン(DPPE−PEG)、ポリエチレンオキシド−ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン(DSPE−PEG))が挙げられる。リポポリマーは、リポソームに対する安定化剤として機能し(すなわち、リポポリマーは、循環時間を増大させる)かつ本発明に関連してきわめて興味深いことに細胞外PLAに対するアクチベーターとして機能することが明らかにされている。安定化作用については、以下に記載する。
【0077】
リポソームの外表面は、哺乳動物の循環系内ではオプソニンのような血清タンパク質で被覆された状態になると考えられる。いかなる形であれなんら特定の理論により限定しようとするものではないが、リポソームへの血清タンパク質の結合がほぼ阻害されるようにリポソームの外表面を改質することにより、リポソームのクリアランスを抑制しうると考えられる。有効な表面改質、すなわち、オプソニン化およびRES内取込みの阻害を引き起こすリポソームの外表面改質は、哺乳動物の循環系内におけるリポソームの薬動学的挙動が改変され細胞外PLAの活性がリポポリマーに関連して以上に記載したごとく増大されるようにリポソームへの血清タンパク質の結合を阻害しうる化学部分を結合させることにより極性ヘッド基が誘導体化されている脂質をリポソーム二重層中に組み込むことにより達成されると考えられる。
【0078】
急速なRES内取込みを回避して血流中における半減期を増大させたリポソーム調剤が考案されている。STEALTH(登録商標)リポソーム(Liposome Technology Inc., Menlo Park, Calif.)は、脱水された全リポソームの約5mol%の量でポリエチレングリコール(PEG)グラフト脂質を含む。リポソーム外表面上にポリマーが存在すると、RESの器官によるリポソームの取込みが低減される。リポソーム膜は、その中に含まれる界面活性剤の破壊作用に耐えるように構築可能である。たとえば、親水性(すなわち水溶性)ポリマーで誘導体化された脂質を成分として含有するリポソーム膜は、通常、増大された安定性を有する。脂質二重層のポリマー成分は、RESによる取込みからリポソームを保護し、ひいては血流中のリポソームの循環時間を延長させる。
【0079】
リポポリマーに使用するのに好適な親水性ポリマーは、易水溶性であり、小胞形成性脂質に共有結合可能であり、かつ毒性作用を示すことなくin vivoで耐容性である(すなわち、生体適合性である)ものである。好適なポリマーとしては、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリ乳酸(ポリラクチドとも呼ばれる)、ポリグリコール酸(ポリグリコリドとも呼ばれる)、ポリ乳酸−ポリグリコール酸コポリマー、およびポリビニルアルコールが挙げられる。好ましいポリマーは、約100または120ダルトン〜約5,000または10,000ダルトン、より好ましくは約300ダルトン〜約5,000ダルトンの分子量を有するものである。とくに好ましい実施形態では、ポリマーは、約100〜約5,000ダルトンの分子量、より好ましくは約300〜約5,000ダルトンの分子量を有するポリエチレングリコールである。とくに好ましい実施形態では、ポリマーは、750ダルトンのポリエチレングリコール(PEG(750))である。ポリマーはまた、含まれるモノマーの数により定義することも可能であり、本発明に係る好ましい実施形態では、少なくとも約3個のモノマーよりなるポリマー、たとえば、3個のモノマーよりなるPEGポリマー(約150ダルトン)が利用される。本発明に使用するのに好適であると思われる他の親水性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン(polymethoxazoline)、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、および誘導体化セルロース(たとえば、ヒドロキシメチルセルロースまたはヒドロキシエチルセルロース)が挙げられる。
【0080】
糖脂質は、親水性ポリサッカリド鎖が共有結合された脂質である。現在のところリポポリマーが最も有望な結果を呈するが、リポポリマーに類似した糖脂質を利用しうることはわかるであろう。
【0081】
リポポリマーの含有率は、脱水された全リポソームを基準にして、有利には1〜50mol%、たとえば2〜25%、特定的には2〜15mol%の範囲内であろうと一般に考えられる。
【0082】
リポソームの二重層または多重層はまた、他の成分、たとえば、他の脂質、ステロール系化合物、安定化剤としてのポリマー−セラミド、ターゲッティング化合物などをも含有しうる。
【0083】
脂質誘導体を含むリポソームは、(原理的には)排他的に脂質誘導体で構成することが可能である。しかしながら、リポソームを改変するために、「他の脂質」を組み込むことが可能である。他の脂質は、すべての脂質成分が密に充填されて二重層からの脂質誘導体の放出が抑制されるように、二重層の脂質誘導体成分と相溶可能な充填コンフォメーションに適合する能力を有するものが選択される。相溶可能な充填コンフォメーションに寄与する脂質関連因子は、当業者に周知であり、例としては、アシル鎖長および不飽和度さらにはヘッド基のサイズおよび電荷が挙げられるが、これらに限定されるものではない。したがって、当業者であれば、過度の実験を行わなくとも、卵ホスファチジルエタノールアミン(「EPE」)やジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(「DOPE」)のような種々のホスファチジルエタノールアミン(「PE」)をはじめとする好適な他の脂質を選択することが可能である。脂質は、種々の方法により、たとえば、グルタル酸、セバシン酸、コハク酸、および酒石酸のようなジカルボン酸でヘッド基を誘導体化することにより、修飾可能であり、好ましくは、ジカルボン酸は、グルタル酸(「GA」)である。したがって、好適なヘッド基誘導体化脂質としては、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン−グルタル酸(「DPPE−GA」)、パルミトイルオレオイルホスファチジルエタノールアミン−グルタル酸(「POPE−GA」)、およびジオレオイルホスファチジルエタノールアミン−グルタル酸(「DOPE−GA」)のようなホスファチジルエタノールアミン−ジカルボン酸が挙げられる。最も好ましくは、誘導体化脂質は、DOPE−GAである。
【0084】
「他の脂質」の全含有率は、脱水された全リポソームを基準にして、典型的には0〜30mol%、特定的には1〜10mol%の範囲内であろう。
【0085】
リポソームに組み込まれるステロール系化合物は、一般的には、脂質二重層の流動性に影響を及ぼしうる。その結果、一般的には、ステロールと周囲の炭化水素基との相互作用により二重層からのこれらの基の遊出が抑制される。リポソームに組み込まれるステロール系化合物(ステロール)の例は、コレステロールであるが、さまざまな他のステロール系化合物が利用可能である。ステロール系化合物が存在する場合、その含有率は、脱水された全リポソームを基準にして、0〜25mol%、特定的には0〜10mol%、たとえば0〜5mol%の範囲内であろうと一般に考えられる。
【0086】
ポリマー−セラミドは、血管循環時間を改善する安定化剤である。その例は、セラミドのポリエチレングリコール誘導体(PEG−セラミド)、特定的にはポリエチレングリコールの分子量が100〜5000であるものである。ポリマー−セラミドの含有率は、脱水された全リポソームを基準にして0〜30mol%、特定的には0〜10mol%の範囲内であろうと一般に考えられる。
【0087】
さらに他の成分は、脱水された全リポソームを基準にして0〜2mol%、特定的には0〜1mol%を構成しうる。
【0088】
本発明の実施形態によれば、リポソームの脂質二重層は、PEG鎖が脂質二重層の内表面からリポソームによりカプセル化された内部空間内に伸長しかつ脂質二重層の外面から周囲環境中に伸長するようにポリエチレングリコール(PEG)で誘導体化された脂質を含有する(たとえば、US 5,882,679および図1を参照されたい)。
【0089】
ポリエチレングリコールのような生体適合性親水性ポリマーで誘導体化された小胞形成性脂質を調製するためのさまざまな連結方法が当技術分野で公知である(たとえば、US 5,213,804; US 5,013,556を参照されたい)。
【0090】
本発明に係るリポソームの誘導体化脂質成分は、選択的病態生理学的条件下で、たとえば、罹患部位で過剰発現されたペプチダーゼ酵素もしくはエステラーゼ酵素の存在下でまたは還元剤の存在下で切断されうる反応活性な(labile)脂質−ポリマー結合、たとえば、ペプチド結合、エステル結合、またはジスルフィド結合を追加的に含みうる。ポリマーをリン脂質に連結するためにそのような結合を使用すると、投与後数時間にわたるそのようなリポソームの高血中レベルが達成可能になり、続いて、可逆的結合の切断および外側リポソーム二重層からのポリマーの除去が可能になる。次に、ポリマーなしのリポソームは、RES系による急速な取込みを受ける(たとえば、US 5,356,633を参照されたい)。
【0091】
このほかに、本発明に係るリポソームは、リポソームの外側に結合された非ポリマー分子、たとえば、ハプテン、酵素、抗体もしくは抗体フラグメント、サイトカイン、およびホルモン(たとえば、US 5,527,528を参照されたい)、ならびに他の低分子タンパク質、ポリペプチド、単一糖ポリサッカリド部分、またはリポソームに特定の酵素認識特性もしくは表面認識特性を付与する非タンパク質分子を含有しうる。公開PCT出願WO 94/21235を参照されたい。リポソームを特定の器官または細胞型に優先的にターゲッティングする表面分子は、本明細書中では「ターゲッティング分子」と記され、例としては、特定の抗原(糖部分に対するレセプター)を保有する特定の細胞にリポソームをターゲッティングする抗体および糖部分、たとえば、ガングリオシドまたはマンノースおよびガラクトースをベースとするものが挙げられる。表面分子をリポソームに連結する技術は、当技術分野で公知である(たとえば、US 4,762,915を参照されたい)。
【0092】
リポソームは、その内容物の実質的部分が保持されるように、脱水、貯蔵、および次に再構成を行うことが可能である。リポソームの脱水を行うには、一般的には、リポソーム二重層の内表面および外表面の両方でジサッカリド糖のような親水性乾燥保護剤を使用することが必要である(US 4,880,635参照)。この親水性化合物は、乾燥手順の間かつ後続の再水和の終了時までサイズおよび含有率が保持されるように、リポソーム内における脂質の再配列を防止すると一般に考えられる。そのような乾燥保護剤に求められる適切な品質は、強い水素結合アクセプターであることかつリポソーム二重層成分の分子内間隔を保持する立体化学的特徴を有することである。他の選択肢として、リポソーム調製物が脱水前に凍結されずかつ脱水後の調製物中に十分な水が残存するのであれば、乾燥保護剤を省略することが可能である。
【0093】
薬剤担体系としての脂質誘導体リポソーム
以上で述べたように、本発明に係る脂質誘導体を含むリポソームはまた、第2の薬剤物質を含みうる。特定の実施形態では、以上に記載した脂質ベースの薬剤送達系は、第2の薬剤物質の組み込まれたリポソームの形態をとる。当然のことながら、第2の薬剤物質は、脂質誘導体およびリゾ脂質誘導体と組み合わせて個別的医薬効果または相乗的医薬効果を有しうる医薬活性成分を含みうる。「第2の」という用語は、第2の薬剤物質の医薬作用がプロドラッグから誘導される活性薬剤物質などの医薬作用と比べて必ずしも劣っていることを意味するわけではなく、単に2つの物質群を区別するために使用されるにすぎない。
【0094】
これについて述べると、本発明はまた、リポソームの形態をとりかつ第2の薬剤物質の組み込まれた薬剤送達系を提供する。
【0095】
利用可能な「第2の薬剤物質」は、哺乳動物、好ましくはヒトに投与しうる任意の化合物または組成物(composition of matter)である。そのような薬剤は、哺乳動物において生物学的活性を有しうる。リポソームと一体化されうる第2の薬剤物質としては、抗ウイルス剤、たとえば、アシクロビル、ジドブジン、およびインターフェロン;抗細菌剤、たとえば、アミノグリコシド、セファロスポリン、およびテトラサイクリン;抗真菌剤、たとえば、ポリエン抗生物質、イミダゾール、およびトリアゾール;抗代謝剤、たとえば、葉酸ならびにプリン類似体およびピリミジン類似体;抗新生物剤、たとえば、アントラサイクリン抗生物質および植物アルカロイド;ステロール、たとえば、コレステロール;炭水化物、たとえば、糖およびデンプン;アミノ酸、ペプチド、タンパク質、たとえば、細胞レセプタータンパク質、免疫グロブリン、酵素、ホルモン、神経伝達物質、および糖タンパク質;色素;放射性標識、たとえば、放射性同位体および放射性同位体標識化合物;放射線不透過性化合物;蛍光性化合物;散瞳性化合物;気管支拡張剤;局所麻酔剤;などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0096】
第2の薬剤物質を含むリポソーム製剤は、薬剤の毒性を低減させることにより第2の薬剤物質の治療指数を向上させる。リポソームはまた、第2の薬剤物質が哺乳動物の血管循環から除去される速度を減少させることが可能である。したがって、第2の薬剤物質を含むリポソーム製剤は、所望の効果を達成するために投与する必要のある薬剤がより少量であることを意味しうる。
【0097】
リポソームを調製するために使用される脂質相または水相に薬剤を可溶化させることにより、1種以上の第2の薬剤物質をリポソームに担持させることが可能である。他の選択肢として、最初に、リポソームを形成し、pH勾配などを介して最外リポソーム二重層を横切る電気化学ポテンシャルを確保し、次に、リポソームの外部の水性媒体にイオン化可能な第2の薬剤物質を添加することにより、イオン化可能な第2の薬剤物質をリポソーム中に担持させることが可能である(たとえば、US 5,077,056およびWO 86/01102を参照されたい)。
【0098】
リポソーム製剤またはミセル製剤に好適な親油性薬剤誘導体の調製方法は、当技術分野で公知である(たとえば、リン脂質の脂肪酸鎖に治療剤を共有結合させることが記載されているUS 5,534,499およびUS 6,118,011を参照されたい)。タキソールのミセル製剤については、Alkan-Onkyuksel et al., Pharmaceutical Research, 11:206 (1994)に記載されている。
【0099】
したがって、第2の薬剤物質は、任意の多種多様な公知のかつ利用可能な医薬活性成分でありうるが、好ましくは、治療活性物質および/または予防活性物質である。本発明に係るリポソームの分解に関与する機序に基づいて、第2の薬剤物質は、細胞外PLA活性の局所的増加を伴う疾患および/または病状に関連するものであることが好ましい。
【0100】
とくに興味深い第2の薬剤物質は、(i)抗腫瘍剤、たとえば、アントラサイクリン(anthracyline)誘導体、シスプラチン、パクリタキセル、5−フルオロウラシル、エキシスリンド、cis−レチノイン酸、スリンダク(suldinac)スルフィド、ビンクリスチン、インターロイキン、オリゴヌクレオチド、ペプチド、タンパク質、およびサイトカイン、(ii)抗生物質および抗真菌剤、ならびに(iii)抗炎症剤、たとえば、ステロイドおよび非ステロイドから選択される。特定的には、ステロイドはまた、リポソームに対して安定化作用を有しうる。
【0101】
また、ペプチドおよびタンパク質誘導体のような活性薬剤、たとえば、インターフェロン、インターロイキン、およびオリゴヌクレオチドをPLA分解性の脂質ベースの担体に組み込むことが可能である。
【0102】
本発明に係る担体中にカプセル化した場合、広範にわたる抗癌剤の細胞傷害作用が改善されるであろう。さらに、担体が罹患組織で局所的に破壊されたときに、その結果として、加水分解生成物、すなわち、モノエーテルリゾ脂質および/またはエステル結合リゾ脂質誘導体は、標的膜を横切る薬剤浸透に対する吸収エンハンサーとして放出された脂肪酸誘導体と共に作用することが期待される。
【0103】
第2の薬剤物質は、その親水性に基づいてリポソーム中に分布するであろうと予想される。すなわち、親水性の第2の薬剤物質は、リポソームの空隙中に存在する傾向があり、疎水性の第2の薬剤物質は、疎水性二重層中に存在する傾向があるであろう。第2の薬剤物質を組み込む方法は、以上で明らかにしたように、当技術分野で公知である。
【0104】
以上のことから当然のことながら、脂質誘導体は、プロドラッグまたは個別成分として、医薬活性を有しうる。しかしながら、特定の実施形態では、本発明はさらに、第2の薬剤物質を投与するための脂質ベースの薬剤送達系に関する。ただし、該第2の薬剤物質は、系内に組み込まれ(たとえば、第2の薬剤物質は、リポソームの内部もしくはリポソームの膜部分またはミセルのコア領域にカプセル化される)、該系は、(a)少なくとも3炭素原子長の脂肪族基および少なくとも3個の炭素原子を有する有機基と(b)親水性部分とを有する脂質誘導体を含み、該脂質誘導体はさらに、有機酸フラグメントまたは有機アルコールフラグメントとリゾ脂質フラグメントとを生じるように、有機基は加水分解により切断除去されうるが脂肪族基は実質的に影響を受けない状態で残存する範囲内で細胞外ホスホリパーゼA2に対する基質であり、該系は、系の表面上に親水性鎖を提示するように系内に組み込まれたリポポリマーまたは糖脂質を有する。
【0105】
他の実施形態に係る系に関連して以上で述べたように、加水分解により切断除去しうる有機基は、第2の薬剤物質に対する補助薬剤物質または効力調整剤でありうる。当然のことながら、脂質誘導体は、以上でさらに定義したような脂質誘導体である。典型的には、脂質誘導体は、脱水された全(リポソーム)系の5〜100mol%、たとえば50〜100mol%を構成する。
【0106】
以上のことから明らかなように、本発明はまた、製薬上許容される担体と以上に記載した脂質ベースの薬剤送達系のいずれかとを含む医薬組成物を提供する。この組成物については、以下に詳細に記載する。
【0107】
本発明はまた、医薬としての本明細書に記載の脂質ベースの薬剤送達系のいずれかの使用と、哺乳動物組織における細胞外ホスホリパーゼA2活性の局所的増加を伴う疾患または病状を治療するための医薬を調製するための本明細書に記載の脂質ベースの薬剤送達系のいずれかの使用と、に関する。そのような疾患または病状は、典型的には、癌、たとえば、脳癌、乳癌、肺癌、大腸癌、もしくは卵巣癌、または白血病、リンパ腫、肉腫、癌腫、および炎症性病状から選択される。また、予防的使用も包含される。本組成物および本使用は、細胞外PLA活性の増加が対象組織(この組織は、哺乳動物とくにヒトの組織である)における活性の正常レベルと比較して少なくとも25%である症例にとくに適用可能である。
【0108】
述べておくべき点として、細胞による細胞内取込みの増大を引き起こし罹患標的細胞内で過剰発現された細胞内PLAに有利な基質になる遊離薬剤として新規かつ非天然の脂質類似体を非微粒子状形態で投与することが可能である。
【0109】
医薬調剤および治療的使用
同様に本発明により提供されるのは、製薬上許容される担体と本発明に係る脂質誘導体(たとえば、リポソームとして)とを含む医薬組成物である。
【0110】
本明細書中で使用される「製薬上許容される担体」とは、哺乳動物(ヒトを包含する)への脂質およびリポソーム(リポソーム薬剤製剤を包含する)の投与に関連して一般に使用に供しうる媒体のことである。製薬上許容される担体は、一般的には、当業者が決定および説明を十分に行いうる範囲内のいくつかの因子、たとえば、使用される特定の活性薬剤物質および/または第2の薬剤物質、リポソーム調製物、その濃度、安定性、および意図される生物学的利用能;リポソーム組成物で治療される疾患、障害、または病状;被験者、その年齢、背格好、および全身状態;ならびに組成物の意図される投与経路(たとえば、経鼻、経口、経眼、皮下、乳房内、腹腔内、静脈内、または筋肉内)(ただし、これらに限定されるものではない)に基づいて製剤化される。非経口薬剤投与に使用される典型的な製薬上許容される担体としては、たとえば、D5W(5重量/体積%のデキストロースを含有する水溶液)および生理食塩水が挙げられる。製薬上許容される担体は、追加の成分、たとえば、保存剤や抗酸化剤のように含まれる活性成分の安定性を向上させる成分を含有しうる。
【0111】
リポソームまたは脂質誘導体は、典型的には、分散媒、たとえば、製薬上許容される水性媒体を用いて製剤化される。
【0112】
抗癌有効量の脂質誘導体、典型的には哺乳動物の体重1kgあたり約0.1〜約1000mgの脂質誘導体を含む量の組成物が、好ましくは静脈内に投与される。本発明の目的では、リポソーム脂質誘導体の「抗癌有効量」とは、脂質誘導体の投与された哺乳動物において1種以上の癌の確立、増殖、転移、または浸潤の抑制、改善、軽減、または予防を行うのに有効な量のことである。抗癌有効量は、一般的には、いくつかの因子、たとえば、被験者の年齢、背格好、および全身状態、治療される癌、ならびに意図される投与経路に基づいて選択され、さまざまな手段、たとえば、当業者に周知であり本発明の教示を考慮すれば当業者により容易に実施される用量範囲探索試験により決定される。本発明に係るリポソーム薬剤/プロドラッグの抗新生物有効量は、遊離非リポソーム薬剤/プロドラッグの該量とほぼ同じであり、たとえば、脂質誘導体については約0.1mg/kg(治療される哺乳動物の体重)〜約1000mg/kgである。
【0113】
好ましくは、投与されるリポソームは、約50nm〜約200nmの平均直径を有するユニラメラリポソームである。抗癌治療法は、リポソーム薬剤に加えて1種以上の第2の薬剤物質の投与を含みうる。これらの追加の薬剤は、脂質誘導体と同一のリポソーム中に組み込まれる。リポソームの内部区画内に閉じ込めたりまたは脂質二重層中に隔絶したりすることが可能な第2の薬剤物質は、好ましくは抗癌剤であるが、必ずしもそうである必要はない。
【0114】
医薬組成物は、好ましくは、従来型の非毒性の製薬上許容される担体および佐剤を含有する製剤または好適な送達デバイスもしくはインプラントなどの投与形態で、注射、注入、または埋植(静脈内、筋肉内、関節内、皮下など)により、非経口投与される。
【0115】
そのような組成物の処方および調製については、医薬製剤の当業者に周知である。「Remington's Pharmaceutical Sciences」という題名の教科書中に特定の処方を見いだしうる。
【0116】
したがって、本発明に係る医薬組成物は、滅菌注射剤の形態で活性薬剤物質を含みうる。そのような組成物を調製するために、好適な活性薬剤物質は、懸濁化剤、可溶化剤、安定化剤、pH調整剤、および/または分散剤を便宜に応じて含みうる非経口的に許容される液状媒体中に分散される。利用しうる許容される媒体には、水、適正量の塩酸、水酸化ナトリウム、または好適な緩衝液を添加することによって好適なpHに調整された水、1,3−ブタンジオール、リンゲル溶液、および等張塩化ナトリウム溶液が包含される。水性製剤はまた、1種以上の保存剤、たとえば、メチル、エチル、またはn−プロピルのp−ヒドロキシベンゾエートを含有しうる。
【0117】
腫瘍または新生物の治療が望まれる場合、血流を介してリポソームカプセル化薬剤の効果的な送達を行うには、腫瘍に血液を供給する血管を取り囲む連続した(ただし「漏出性」の)内皮層および下側基底膜にリポソームが浸透しうることが必要である。より小さいサイズのリポソームほど、毛細血管と腫瘍細胞とを分離する内皮細胞障壁および下側基底膜を介する腫瘍中への血管外遊出がより効果的に行われることが確認されている。
【0118】
本明細書中で使用する場合、「固形腫瘍」とは、血流以外の解剖学的部位で増殖する腫瘍のことである(白血病のよう
な血液由来の腫瘍とは対照的)。固形腫瘍は、増殖性腫瘍組織に栄養供給するための小血管および毛細血管の形成を必要とする。
【0119】
本発明によれば、最適な抗腫瘍剤または抗新生物剤が、本発明に係るリポソーム内に閉じ込められ;リポソームは、内皮障壁および基底膜障壁に浸透することがわかっているサイズになるように製剤化される。得られたリポソーム製剤は、そのような治療を必要とする被験者に好ましくは静脈内投与により非経口投与することが可能である。腫瘍増殖領域における血管系の浸透性の急激な増加により特徴付けられる腫瘍は、本方法で治療するのにとくに適している。リポソームは、最終的には、腫瘍部位でリパーゼの作用を受けて分解するであろう。または、たとえば熱照射もしくは超音波照射により浸透性にすることが可能である。次に、薬剤は、生物学的に利用可能かつ輸送可能な可溶化形態で放出される。そのほかに、罹患組織でしばしば見られるような温度のわずかな上昇により、細胞外PLAへの刺激がさらに増大されうる。
【0120】
炎症の部位特異的治療が望まれる場合、薬剤の効果的なリポソーム送達を行うには、リポソームが長い血中半減期を有し、炎症の部位に隣接する血管を取り囲む連続した内皮細胞層および下側基底膜に浸透しうることが必要である。より小さいサイズのリポソームほど、内皮細胞障壁を介する関連炎症領域中への血管外遊出がより効果的に行われることが確認されている。しかしながら、従来型の小リポソーム調剤の薬剤運搬能力が限られているので、そのような目的ではその有効性が制限される。
【0121】
本発明によれば、最適な抗炎症剤が、本発明に係るリポソーム内に閉じ込められ;リポソームは、内皮障壁および基底膜障壁に浸透することがわかっているサイズになるように製剤化される。得られたリポソーム製剤は、そのような治療を必要とする被験者に好ましくは静脈内投与により非経口投与することが可能である。炎症領域における血管系の浸透性の急激な増加により特徴付けられる炎症領域は、本方法で治療するのにとくに適している。
【0122】
細胞外PLAの活性は、癌、炎症などに罹患した哺乳動物体の領域で異常に高いことが知られている。本発明は、この事実を活用する方法を提供した。また、細胞外PLA活性は、比較正常領域と比べて身体の疾患領域で少なくとも25%高くなるはずである(細胞外環境中で測定した場合)と考えられる。しかしながら、細胞外PLA活性レベルは、かなり高いことが多く、たとえば少なくとも100%、たとえば少なくとも200%、たとえば少なくとも400%であると予想される。このことは、「正常」な細胞外PLA活性レベルを有する組織にほとんど影響を及ぼすことなく、治癒または軽減を目的とした治療を必要とする哺乳動物の治療を行いうることを意味する。このことは、とくに、かなり刺激の強い薬剤(第2の薬剤物質)を必要とすることの多い癌の治療では、きわめて重要である。
【0123】
したがって、本発明を裏付ける知見に基づいて、本発明は、該当する領域における正常活性と比較して少なくとも25%高い細胞外ホスホリパーゼA2(細胞外PLA)活性を有する罹患領域、たとえば、新生物細胞を含む領域、たとえば、哺乳動物体、好ましくはヒトの体内の領域に選択的に薬剤をターゲッティングする方法を提供する。本方法は、それを必要とする哺乳動物に有効量の本明細書中で定義された薬剤送達系を投与することにより行われる。
【0124】
また、癌、たとえば、脳癌、乳癌、肺癌、大腸癌、もしくは卵巣癌、または白血病、リンパ腫、肉腫、癌腫を患った哺乳動物を治療する方法を提供する。本方法は、本発明に係る医薬組成物を哺乳動物に投与することを含む。リポソームの形態の脂質誘導体および/または第2の薬剤物質は、腫瘍細胞に対して選択的細胞傷害性であると考えられる。
【0125】
新規かつ非天然の脂質で構成される脂質ベースの担体による皮膚中の罹患部位へのターゲッティング
新規なターゲッティングリポソームプロドラッグおよび薬剤送達系は、細胞外PLAレベルの増大を伴うかまたはそれが原因で生じる皮膚の障害の治療または軽減に有用である。特定的には、脂質ベースのプロドラッグおよび薬剤送達系は、細胞外PLAに対する基質である脂質プロドラッグのエーテルリゾ脂質および/または脂肪酸誘導体から選択される活性薬剤物質を投与するのに有用である。
【0126】
PLAにより可撓性リポソーム担体が分解されると、癌や炎症のような種々のタイプの皮膚疾患の治療に奏効するようにデザインされたリゾ脂質および/または脂肪酸誘導体が放出される。それに加えて、新規なプロドラッグリポソーム担体は、高レベルのPLAを伴う皮膚の罹患領域に従来型の薬剤をターゲッティング送達するために使用することが可能である。
【0127】
皮膚特異的である皮膚疾患、たとえば、癌、炎症、乾癬、および湿疹、または全身性疾患の症状である皮膚疾患は、いずれも、多数存在する。皮膚または粘膜に限局するいくつかのこれらの疾患は、適用の結果として活性成分の効率的な取込みが起こるのであれば、医薬製剤の部分的局所適用により治癒または軽減が可能である。多くの製剤は、治療または予防の目的で皮膚に局所適用される。しかしながら、皮膚は、外来物質に対する身体の最も効果的な障壁の一つであるので、皮膚不浸透性が原因となって、たとえ皮膚が標的器官であったとしても、多くの治療剤は、経口的または非経口的に適用しなければならない。
【0128】
リポソーム製剤は、多くの薬剤を皮膚に送達する形態として広範な研究の焦点になっている。局所投与では、新世代の可撓性リポソームが他の製剤よりも優れたいくつかの利点を呈することが次第に明らかになってきている。そのような利点としては、投与薬剤の高い全身的吸収に関連付けられる副作用の減少、所望の標的における投与薬剤の蓄積の増大、および多種多様な薬剤(親水性薬剤および疎水性薬剤のいずれについても)を皮膚に投与する能力が挙げられる。
【0129】
皮膚の主要な物理化学的障壁は、皮膚の最外角化層(角質層)に局在している。角質層中および下張り構造体中のポアは、通常は非常に細いので、皮膚は、400ダルトン未満の物質を通過させるにすぎない。しかしながら、超可撓性リポソームは、30nm未満の皮膚中のポアを通過しうることが明らかにされている(Cevc et al. (Biochem Biophys Acta (1998) 1368, p 201-215, US Patent 6.180.353)。
【0130】
主に関連細胞が医薬活性成分に暴露されるように保証する問題は、物質を皮膚に導入ことと同程度に重要である。新規なターゲッティングプロドラッグ系は、主に関連細胞が薬剤に暴露されるように保証する重要な問題と、「エッジ活性物質」を含有する非常に可撓性の高いリポソームだけが角質層を通過して高レベルのPLAを有する皮膚の罹患領域中に深く進入しうるという事実と、の両方に対処する。プロドラッグリポソームが皮膚を介する血液中への薬剤の適用を意図したものではないことを理解することが重要である。
【0131】
細胞外ホスホリパーゼA(PLA)の活性は、いくつかの皮膚炎症性疾患で、最も注目すべきは乾癬(psoreasis)および湿疹で、増大されることが確認にされている(Forster et al. (1985) Br J Dermatol 112:135-47; Forster et al. (1983) Br J Dermatol 108:103-5)。細胞外PLAは、プロドラッグ脂質誘導体を切断することにより、単独でまたは他の活性化合物と組み合わせて効果を呈するエーテルリゾ脂質誘導体を生成しうることがさらに見いだされた。したがって、新しいプロドラッグリポソームは、増大されたPLA活性を部位特異的トリガー機序として用いて、医薬活性エーテルリゾ脂質を皮膚中の標的細胞に特異的に送達できるように保証する。それに加えて、PLA加水分解により活性薬剤に変換される特定の脂肪酸誘導体を新規な非天然脂質で構成される脂質ベースの担体のC−3位に結合させることが可能である。利用可能な例としては、ポリ飽和脂肪酸および他の親油性基、たとえば、ビタミンD誘導体、ステロイド誘導体、レチノイル誘導体、およびトコフェロール類似体が挙げられる。これらは、C−3位にエステル結合させることが可能であり、したがって、ダブルプロドラッグ脂質がPLAに対する基質になる。そのほかに、従来型の薬剤物質を組み込んで、新規な脂質ベースの担体により罹患部位に特異的に輸送することが可能である。
【0132】
したがって、新しい担体リポソームは、無傷の皮膚への浸透の問題と、増大されたPLAレベルにより特徴付けられる皮膚中の細胞、組織、または組織の一部分への特異的ターゲッティングの問題と、の両方に対する解決策を提供する。
【0133】
新規かつ非天然の脂質で構成される造影担体による罹患組織のイメージング
新規な脂質ベースの担体系は、細胞外PLA活性の局在および増大により特徴付けられる疾患、たとえば、癌、感染症、および炎症のターゲッティング診断に有用である。漏出性毛細血管を介する血管外遊出によりマイクロ微粒子が罹患組織に蓄積されるという観測結果とPLA活性の増大とを組み合わせることにより、強調イメージング用の造影剤マイクロ担体を用いる基礎が提供される。
【0134】
したがって、新規な診断系は、PLA活性の増大された標的組織に達するのに十分な時間にわたり血流中を循環するように、細胞外PLAにより特異的に分解されうるリポソーム(およびミセル)をデザインすることも可能であるという事実を利用する。罹患部位において、リポソームの脂質誘導体は、画像強調剤を遊離するようにPLAにより切断される。
【0135】
診断イメージングは、医療に広く使用される。罹患組織と正常周囲組織とを区別するために、対象の領域からの信号の適切な強度が達成される必要がある。イメージングでは、対象の領域の3つの空間次元と、診断剤の薬動学的挙動および画像を取得するのに必要な時間の両方に関連する第4の次元(時間)と、の関係が必要になる。画像信号を生成するために使用しうる物理的性質としては、たとえば、放射線の放出または吸収、核磁気モーメントおよび緩和、ならびに超音波の透過または反射が挙げられる。通常、多くの病変の早期発見および位置特定を行うためのさまざまな器官および組織のイメージングは、適切な造影剤を用いないかぎり首尾よく達成することができない。
【0136】
イメージング造影剤は、特定のタイプの信号を周囲組織よりもかなり強く吸収しうる物質に関連する。造影剤は、それぞれのイメージング技術に特有なものであり、適切なイメージング技術を適用した場合、特定の対象罹患部位への蓄積の結果として、該当部位を視覚化することが可能である。首尾よくイメージングを行うために達成しなければならない組織中濃度は、診断技術によって異なる。
【0137】
罹患領域内への造影剤の蓄積を促進するために、造影剤用の担体として種々のマイクロ微粒子が提案されてきた。それらのマイクロ担体のうち、リポソームは、性質の制御が容易であることから特別な注目を集めている。ほぼ20年間にわたり、リポソームは、次の理由により薬剤用および診断剤用の有望な担体であるとみなされてきた。(1) リポソームは、完全に生体適合性である;(2) それらは、化合物の物理化学的性質に応じて実際上任意の薬剤または診断剤を内部水区画内または膜自体中に閉じ込めることが可能である;(3) リポソームに組み込まれた化合物は、体内で不活性化作用から保護され、しかもそれと同時に望ましくない副反応を起こさない;(4) リポソームはまた、細胞内またはさらには内部の個別細胞区画内に医薬または診断剤を送達する特有の機会を提供する。さまざまなin vivo送達の目的を達成すべく、単にさまざまな脂質を組み込むことによりおよび/または調製方法を変更することにより、リポソームのサイズ、電荷、および表面特性を容易に変化させることが可能である。
【0138】
新しい造影剤充填リポソームの重要な潜在用途の一領域は、腫瘍イメージングである。PLAが悪性細胞により分泌されることは十分に認識されている。また、膵臓癌、乳癌、および胃癌をはじめとする種々の癌の免疫組織化学的染色により、PLAレベルの増大が明らかにされている。PLAの発現および分泌の増大はまた、IL−6のようなインターロイキンにより刺激されるいくつかの癌細胞系で見いだされる。それに加えて、炎症組織および感染組織でも高い細胞外PLA活性が報告されている。
【0139】
腫瘍中へのリポソーム蓄積の主要な機序は、漏出性腫瘍毛細血管を介する間質空間中への血管外遊出によるものある。長期循環性ポリマー被覆リポソームを用いることにより、腫瘍への蓄積を有意に増大させることが可能である。
【0140】
炎症部位および感染部位を可視化するために、脂質ベースのマイクロ担体を使用することも可能である。癌組織に関して知られていることと同様に、PLA活性の増大により特徴付けられる感染部位および炎症部位を可視化するためのマイクロ微粒子イメージング剤の使用は、漏出性毛細血管を介する血管外遊出により蓄積するマイクロ微粒子の能力に基づく。
【0141】
新規な診断系の重要な特徴の1つは、PLA活性の増大により特徴付けられる罹患哺乳動物組織の特定の細胞外部位で明確に規定された形で細胞外PLAにより特定の脂質誘導体が切断されることである。細胞外PLAは、診断標識を関連罹患組織中にターゲッティングするようにモノエーテル/モノエステル脂質誘導体を切断しうることが見いだされた。PLAにより脂質誘導体およびリポソームが分解されると、罹患組織において診断造影剤の部位特異的放出が起こる。
【0142】
新規かつ非天然の脂質で構成される脂質ベースの担体による感染組織へのターゲッティング
ターゲッティング送達系の重要な特徴の1つは、単核食細胞系(MPS)の細胞によるin vivoにおけるリポソームの急速な取込みである。MPSは、リポソームをはじめとする外来粒子のクリアランスに関与する免疫系の最も重要な成分の1つであるマクロファージを包含する。マクロファージは、種々の器官および組織、たとえば、脾臓および肝臓に存在し(Kupffer細胞)、骨髄およびリンパ節では遊離マクロファージおよび固定マクロファージとして存在する。
【0143】
プロドラッグ脂質で構成される新規な脂質ベースの系は、感染組織におけるリポソームの蓄積およびプロドラッグ切断PLA酵素レベルの増大に基づいて、寄生生物を保有する罹患肝臓または罹患脾臓に種々の脂質プロドラッグおよびカプセル化薬剤を直接送達することが可能である。そのほかに、脂質ベースの薬剤送達系のとくに有利な点の1つは、プロドラッグリポソームのような組織化脂質基質に対する細胞外PLA活性が低分子脂質基質のときと比較して有意に増大されることである。
【0144】
PLAの作用により生成される放出エーテル脂質類似体は、リーシュマニア(Leishmania)やトリパノソーマ(Trypanosoma)のような寄生生物中の主要な調節酵素の撹乱を引き起こすことが明らかにされており(Lux et al. Biochem. Parasitology 111 (2000) 1-14)、したがって、十分量で投与すれば寄生生物に対して毒性をもつ。肝臓、脾臓、および骨髄は、高濃度のマクロファージが見いだされる可能性のある器官および組織であるので、これらの器官に生息する寄生生物への毒性薬剤のターゲッティング送達を達成することが可能である。そのほかに、マラリアを引き起こす寄生生物のようにPLAレベルの増大により特徴付けられる寄生生物感染症もまた、新規なプロドラッグリポソームによる治療の標的となる。寄生生物の熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium Falciparum)により引き起こされるマラリア感染症におけるPLAレベルの増大については、たとえば、Vadas et al. (Infection and Immunity, 60 (1992) 3928-3931 and Am. J. Trop. Hyg. 49 (1993) 455-459)に記載されている。
【0145】
正常細胞は、典型的には、エーテル切断酵素を有しており、それによりエーテル脂質の毒性作用を回避することが可能である。しかしながら、赤血球のようないくつかの正常細胞は、癌細胞のように、エーテル脂質の破壊作用を回避する手段を有していない。したがって、エーテル脂質の治療的使用では、毒性作用から正常細胞を保護しつつ罹患組織にエーテル脂質を直接送達しうる有効な薬剤送達系が必要である。
【0146】
したがって、新規なターゲッティングプロドラッグ送達系は、感染組織におけるPLAレベルの増大により特徴付けられる寄生生物感染症を治療するために使用することが可能である。これは、細胞外PLAに対する基質である脂質プロドラッグの形態で活性薬剤物質が存在する有効量(1kgあたり約1000mgまで)のリポソームを投与することにより達成される。それに加えて、プロドラッグリポソームは、カプセル化された従来型の抗寄生生物剤をターゲッティング輸送するための候補物質である。この場合、PLAにより生成されるリゾ脂質および/または脂肪酸誘導体と組み合わせて、従来型の薬剤の有効性の強化を行うことが可能である。
【0147】
毒性
脂質誘導体を含むリポソームの毒性は、化合物の溶血誘導と腫瘍細胞の増殖を阻害するその能力との関係から誘導される数値である治療濃度域「TW」を決定することにより評価可能である。TW値は、HI/GI50として定義される(ただし、「HI」は、培養物中で赤血球の5%の溶血を引き起こす化合物の濃度に等しく、「GI50」は、薬剤に暴露された細胞集団で50パーセントの増殖阻害を引き起こす化合物の用量に等しい)。薬剤のHI値が大きいほど、薬剤の溶血性は小さくなり、HIがより大きいということは、化合物が5%溶血を引き起こすのに、より高い濃度の化合物を存在させる必要があることを意味する。したがって、化合物は、そのHIが大きいほど、治療上有益である。なぜなら、より低いHIを有する薬剤と同一量の溶血を引き起こす前に、それをより多く与えることができるからである。これとは対照的に、GI50がより小さいということは、より良好な治療剤であることを意味する。GI50値がより小さいということは、50%増殖阻害に必要とされる薬剤の濃度がより低いことを意味する。したがって、化合物の薬剤治療特性は、そのHI値が大きいほどかつそのGI50値が小さいほど、良好である。
【0148】
一般的には、薬剤のTWが1未満である場合、それを治療剤として効果的に使用することはできない。すなわち、薬剤のHI値が十分に小さくかつそのGI50値が十分に大きいので、一般的には、許容できない溶血レベルに達することなく十分な腫瘍増殖阻害レベルを達成するのに必要な薬剤を投与することができない。脂質誘導体リポソームは、血流における細胞外PLA活性が罹患組織における活性と比較して低いという利点を利用するものであるので、TWは、通常のモノエーテルリゾ脂質のときよりも大きいと考えられる。活性の変動は数桁程度であるので、かつ高い細胞外PLA活性を有する組織中にリポソームが「トラップ」されるであろうから、一般的には、本発明に係るリポソームのTWは、約3超、より好ましくは約5超、さらに好ましくは約8超であろうと考えられる。
【0149】
以下の実施例により本発明について具体的に説明するが、この実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0150】
グリセロール部分のC−2位に結合されたホスホコリンヘッド基およびホスホグリセロールヘッド基を有する新型かつ非天然型の脂質類似体を合成し、示差走査熱量測定を用いて熱力学的脂質膜挙動を調べた。熱容量測定から、おそらく低温秩序化ゲル相においてヘッド基の中央位置がより良好な充填性を提供することに基づいて、通常は脂質膜相挙動を特徴付ける前転移が消失することが観測された。ユニラメラリポソーム膜上で分泌ホスホリパーゼA2(PLA2)の活性を測定したところ、非天然リン脂質がPLA2触媒加水分解に対する優れた基質であることが判明した。このことは、主相転移温度レジームにおける最小のPLA2遅延時間および広い温度範囲にわたる高い脂質加水分解度として顕在化された。得られた結果から、リン脂質の分子構造と前転移を支配する脂質膜充填束縛との間の相互関係に関する新しい情報が提供される。それに加えて、PLA2活性の測定は、PLA2の触媒部位の分子の詳細をより深く洞察するのに有用である。また、組み合わされた結果から、罹患組織において過剰発現されたPLA2によりトリガー活性化を起こしうるリポソーム薬剤担体を合理的にデザインするための新しい手法が提案される。
【0151】
飽和リン脂質で構成される完全水和脂質膜は、生体膜の機能挙動に関連すると考えられるいくつかのサーモトロピック相転移を起こす可能性がある[1,2,3]。それに加えて、相転移を起こすリン脂質膜の構造生体材料特性は、改善された治療効果を有する新しい脂質ベースの薬剤送達系にとって重要である[3,4,5,6,7]。最も広範囲に研究された脂質膜の相転移は、ゲルから流体への鎖融解転移である。この転移は、主に秩序化コンフィギュレーションをとるアシル鎖を有する低温ゲル相から高無秩序化コンフォメーションをとるアシル鎖を有する流体相に膜を変化させる[1,5]。10〜30nmの範囲内の周期性を有する脂質膜平面内のコルゲーションにより特徴付けられるリップル相(Pβ’)は、前転移と主転移との間の温度範囲内に存在する[8,9]。リップル相は、より興味深い秩序化ラメラ相の1つであり、その構造挙動は、フリーズフラクチャー電子顕微鏡法、示差走査熱量測定法、および原子間力顕微鏡法をはじめとする多数の実験技術により広範囲に研究されてきた[10,11,12,13,14,15]。リップルは、脂質膜の法線に対して傾斜したアシル鎖を有する非対称鋸歯状プロファイルを有する[10]。リップル形成の分子的起源は、伝統的には、脂質ヘッド基領域に関連付けられてきた。このため、リン脂質は、通常、リップル形成脂質と非リップル形成脂質とに分けられる。最も広範囲に研究されたリップル形成脂質ファミリーの1つは、ホスファチジルコリン脂質である[9,10,14]。脂質膜におけるリップル相形成の理由を説明すべく、いくつかの試みがなされた。コルゲート(corrugated)脂質膜構造を形成するうえで重要な役割を果たすものとして提案されてきた分子的機序のいくつかの例は、水分子と極性脂質ヘッド基との間の静電結合[16]および膜湾曲と分子傾斜[17]との連動を含むものである。他のモデルは、嵩高いヘッド基の断面積と長い無極性テールの断面積との間の関係が特定の閾値を超えた場合は常に発生する充填フラストレーションを緩和するためにリップルが形成されると仮定するものである[18,19]。
【0152】
本発明を実証するために、我々は、ホスホコリン(PC)ヘッド基およびホスホグリセロール(PG)ヘッド基がC−2位に結合されかつアルキル鎖がリン脂質のグリセロール骨格のC−1位にエーテル結合された新しい一群の非天然リン脂質類似体を合成した。示差走査熱量測定を用いて、我々は、熱力学的相挙動を調べ、通常は天然のPCリン脂質およびPGリン脂質の熱力学的脂質膜相挙動を特徴付ける前転移が非天然リン脂質類似体では消失することを明らかにした。そのほかに、PLA2活性の測定から、これらの非天然リン脂質がPLA2触媒加水分解に対する優れた基質として作用することがわかった。これらの知見は、1,3−ジアシル−sn−2−ホスホコリンを用いて行われた以前の熱力学的試験およびPLA2活性測定と一致する[20,21,22,23,24,25]。そのほかに、新規な1−O−DPPC’リポソームおよび1−O−DPPG’リポソームを用いて我々の行ったPLA2活性の測定から、ゲルから流体への転移領域における最小の遅延時間および広い温度範囲にわたる高い加水分解度を有することが判明した。負荷電のPGリン脂質またはDSPE−PEG2000ポリマー脂質を少量組み入れたところ、負荷電ポリマー脂質を含有するポリマーグラフトDPPC脂質膜を用いた以前の結果と一致して、PLA2遅延時間が減少した[26]。それに加えて、ヒト分泌PLA2は、1−O−DPPG’脂質により形成されたリポソームに対して高い活性を示した。
【0153】
新しいリン脂質類似体の化学合成とそれに続く脂質膜相挙動の熱力学的バルク試験とを含む我々の組合せ手法から、脂質膜におけるリップル形成に重要なリン脂質の分子の詳細がわかる新しいストラテジーが提案される。そのほかに、その結果から、PLA2の触媒活性部位のコンフォメーションの詳細を記述するために、たとえば、今後の分子動力学シミュレーションと組み合わせて、使用しうるPLA2の非選択的触媒挙動に関する情報が提供される。それに加えて、非天然脂質は、罹患組織において過剰発現されたPLA2により特異的に分解されうるリポソーム薬剤担体系のような軟質の脂質ベースの複合生体材料を合理的にデザインする新しい方法を提供する[26,27,28,29,30]。
【0154】
図2に示されるように、汎用性のある出発原料として(S)−O−ベンジルグリシドールを利用して、グリセロール部分のC−2位に結合されたホスホコリンヘッド基およびホスホグリセロールヘッド基を有する非天然のPCリン脂質およびPGリン脂質(1−O−DPPC’、1−O−DPPG’)を合成した[27,28]。二量化を最小限に抑える溶媒系としてTHF/DMF(1:1)を用いて塩基性条件下でエポキシド1の開環を行うことにより、カラムクロマトグラフィーにより精製した後、71%の収率で2を得た。CHCl中でオキシ塩化リンを用いてリン酸化を行い[27]、65%の収率で3を得た。触媒としてPd/Cを用いてH雰囲気下で脱ベンジル化を行い、続いて、パルミトイルクロリドを用いて単純なアシル化を行うことにより、目標の1−O−DPPC’脂質を得た。リン酸化試薬として(i−Pr)NPClOMeを用いて2から1−O−DPPG’の合成を行った[31]。脂質結合時、塩基としてTMPを用い、続いて、弱いプロトン供与体としての5−フェニル−1H−テトラゾールと共に(R)−イソプロピリデングリセロールを用いて、リン酸化を行い、酸化後、保護されたリン脂質4を67%の収率で得た。脱ベンジル化を行い、続いて、DCCを用いてアシル化することにより、92%の収率で5を得た。MeNを用いて脂質5の脱保護を行ってメチル保護基を除去し、続いて、CHCl/MeOH/0.5M HCl(65:25:4)中で攪拌することにより、イソプロピリデン基を除去した。最後に、NaHCOを用いてホスフェート上のプロトンをナトリウムと交換することにより、カラムクロマトグラフィーによる精製後、70%の収率で所望の1−O−DPPG’を得た。単純な脱保護により、AEL−43およびAEL−44を得た。触媒としてPd/Cを用いてH下で3の脱ベンジル化を行うことにより、定量的収率でAEL43を得た。以上に記載したように、MeN、CHCl/MeOH/0.5M HCl(65:25:4)を用いて4の脱保護を行い、続いて、H−Pd/Cを用いて脱ベンジル化を行うことにより、71%の収率でAEL44を得た。
【0155】
そのほかに、C−1位のエステル結合をエーテル結合に置き換えることにより、これらの非天然リン脂質を新規なプロドラッグ抗癌脂質として使用し、PLA2により活性抗癌リゾエーテル脂質に分解されうるリポソームマイクロ担体を作製することが可能である[27]。先に記載したように、脂質プロドラッグ類似体(1−O−DPPCおよび1−O−DPPG)を合成した[27,28]。1,2−ジパルミトイル−sn−グルセロ−3−ホスホコリン(DPPC)、1,2−ジパルミトイル−sn−グルセロ−3−ホスホグリセロール(DPPG)、および1,2−ジステアロイル−sn−グルセロ−3−ホスホエタノールアミンポリ(エチレングリコール)2000(DSPE−PEG2000)は、Avanti Polar Lipids, AL, USAから購入したものである。以前の研究で報告したように、HEPES緩衝溶液(10mM HEPES、110mM KCl、1mM NaN3、30μM CaCl2、10μM NaEDTA、pH7.5)中でマルチラメラリポソームおよびユニラメラリポソームを水和させて調製した[26,27]。マルチラメラリポソームを用いて20℃/hのスキャン速度でアップスキャンモードで示差走査熱量測定を行った[26,27]。少量の1−O−DPPG’脂質またはDSPE−PEG2000脂質と組み合わされた1−O−DPPC’ユニラメラリポソームを用いてPLA2遅延時間の測定をゲルから流体への主相転移範囲内で行い、HPLC法を用いて脂質加水分解度を分析した[26,27,28]。
【0156】
一成分の1−O−DPPC’マルチラメラリポソームおよび1−O−DPPG’マルチラメラリポソームに対して示差走査熱量測定を用いて得られた熱容量(C)曲線を図3に示す。C曲線は、40.1℃および40.6℃にメインピークを示す。これらは、それぞれ、1−O−DPPC’脂質膜および1−O−DPPG’脂質膜のゲルから流体への鎖無秩序化主相転移を反映している。C曲線により明確に示されるように、通常は天然のDPPC脂質およびDPPG脂質の脂質膜相挙動を特徴付ける前転移(図3Aおよび3B)は、非天然の1−O−DPPC’脂質および1−O−DPPG’脂質では消失する。これにより、主転移の積分融解エンタルピーの増加を付随して生じる主転移が開始されるまで支配的である低温秩序化・非コルゲートゲル相(Lβ)が形成される(表1)。1−O−DPPC’脂質および1−O−DPPG’脂質は、リップル相を経由することなく低温非コルゲートゲル相の秩序化コンフィギュレーションから高温流体相の無秩序化コンフィギュレーションへの転移を起こすので、積分融解エンタルピーは、非コルゲートゲル相よりも高いエネルギーを有するリップル相から流体相への転移を起こす天然のDPPCリップル相形成脂質およびDPPGリップル相形成脂質のときよりも高いと予想される。C−1位にエーテル結合を有することが原因となってリップル転移が消失した可能性を除外するために、我々はまた、1−O−DPPCマルチラメラリポソームおよび1−O−DPPGマルチラメラリポソームを用いて得られたC曲線を図3に示した。明らかに、これらのC曲線は、主相転移ピークよりも数度低い前転移を有する天然のDPPC脂質およびDPPG脂質と同一の特徴的相挙動を示す。このことから、リップル形成にきわめて重要であるのは、天然のリン脂質上のC−3位のホスフェートヘッド基の位置であることが明確に示される。したがって、天然のDPPC脂質およびDPPG脂質では嵩高い親水性ヘッド基が長い無極性アシル鎖に対してフランキング位置に存在することが原因で生じる充填フラストレーションを緩和するためにリップルが形成されることが我々の結果から示唆され、一方、ヘッド領域およびテール領域の断面積のアンバランス[18,19]ならびに水分子および極性脂質ヘッド基の間の静電相互作用[16]は、1,3−ジアシル−ホスホコリン脂質を用いて以前報告した結果と一致して、リップル形成にそれほど重要ではないように思われる[20,21]。
【0157】
1−O−DPPC’ユニラメラリポソームおよび1−O−DPPG’ユニラメラリポソームに対して40℃で得られた典型的なPLA2(A.ピスシボルス・ピスシボルス(A. piscivorus piscivorus))加水分解時間経過プロファイルを図4に示す。図4Aに示される遅延時間τは、急速な脂質加水分解が開始されるまでPLA2を脂質懸濁液に添加した後の経過時間に基づいて誘導される。PLA2活性の急速な増加は、内因性PLA2トリプトファン蛍光強度の急激な上昇に反映され[32,33]、続いて、多量のリン脂質が非二重層形成リゾ脂質および遊離脂肪酸に変換されたときに脂質系のモルフォロジーの変化により引き起こされる90°静的光散乱の付随する減少に反映される[32,33]。この遅延時間は、PLA2の突然の活性化を引き起こすのに必要とされる閾値量のリゾ脂質および脂肪酸加水分解生成物を脂質膜中に徐々に蓄積するのに必要な時間を反映していることについては以前議論した[32]。蛍光データおよび光散乱データのいずれからも、非天然リン脂質がPLA2触媒加水分解に対する優れた基質であることが明確に示される。明らかに、これらの合成脂質は、PLA2によって容易に分解可能である。このことは、とくに、負荷電1−O−DPPG’リポソームの場合にみられ(図4B)、ヒト涙液由来のPLA2を懸濁液に添加したときに即時に加水分解が観測される。ヒトPLA2を活性化させるのに閾値量の負荷電脂質が必要であることを示す以前の結果と一致して、これらの負荷電リポソームに対するヒト分泌PLA2の活性は高いと予想される[42]。図5は、ユニラメラ1−O−DPPC’リポソームのゲルから流体への転移範囲内における温度の関数として遅延時間τを示している。ゲルから流体への相転移の遅延時間に極小が現れるのは、ホスホコリン脂質膜に関連して以前報告したように、ゆらぎのあるゲルドメインおよび流体ドメインで構成される不均一膜構造の形成が原因である可能性が最も高い[26,27,33,34]。そのほかに、図5の結果は、リポソームに組み込まれる負荷電1−O−DPPG’脂質の量の増加に伴ってPLA2活性が増加することを示している。
【0158】
我々の目標の1つは、PLA2トリガー薬剤送達に使用しうる新しいリポソーム担体を開発することであったので[27,28]、我々はまた、PLA2分解に及ぼすDSPE−PEG2000ポリマー脂質の影響を試験した。薬剤送達の目的では、十分な血液循環時間を得るために少量のDSPE−PEG2000脂質を組み込むことが必要である[3]。5mol%のDPPE−PEG2000リポポリマーを1−O−DPPC’リポソームに組み込んだ場合、DSPE−PEG2000脂質と組み合わせて天然のDPPCリポソームを用いた類似の試験[26]と一致して、図5に示されるように非常に短い遅延時間が観測される。図6Aは、0mol%、2mol%、および10mol%の1−O−DPPG’脂質ならびに5mol%のDPPE−PEG2000ポリマー脂質を含有する非天然1−O−DPPC’リン脂質の場合のバースト発生の1000秒後におけるPLA2脂質加水分解度を示している。広い温度範囲にわたり著しく高い脂質加水分解度が観測されることから、PLA2が非天然の1−O−DPPC’リン脂質および1−O−DPPG’リン脂質を加水分解しうることが明確に実証される。そのほかに、ヒト分泌PLA2に対する優れた基質である負荷電1−O−DPPG’脂質では、PLA2を脂質懸濁液に添加した後の時間の関数として脂質加水分解度を決定する(図6B)。PLA2は、天然リン脂質のC−2位のエステル結合の加水分解を特異的に触媒しうる酵素として分類されるが、1,3−ジアシル−ホスホコリン脂質[22,23,24]を用いて行った以前の研究と一致して、ホスフェートヘッド基がC−2位に結合されかつ加水分解可能なアシル鎖がC−3位に結合された場合、触媒活性が維持されることが我々の結果から実証される。1,3−ジアシル−ホスホコリン脂質では、アシル鎖は両方とも、天然の1,2−ジアシル−ホスホコリン脂質基質中のC−2アシル鎖と同様に、脂質膜中で屈曲コンフォメーションをとり、PLA2加水分解に重要なのは、この屈曲であることが以前示唆された[20]。Chupinおよび共同研究者[43]は、C−2位に結合されたホスフェートヘッド基を有する血小板活性化因子類似体の合成でPLA2を活用した。
【0159】
今後の研究では、PLA2の活性部位の分子の詳細がさらにわかるように、たとえば、分子動力学シミュレーションと組み合わせて、非天然リン脂質を加水分解するPLA2の能力を有利に使用することが可能である[35,36]。そのほかに、天然/非天然のリン脂質に対するPLA2の非選択的挙動は、なぜ天然脂質がリップル形成脂質としてデザインされているかに関する興味深い問題を提起する。我々の結果は、モデル脂質膜を用いて得られたものであるが、リップル構造を形成するリン脂質の能力が、局所的に秩序化され分化した脂質領域を有する細胞膜の脂質膜部分の機能挙動および構造挙動に重要である可能性があると推測したくなる[37]。興味深いことに、PLA2は、いくぶんフラットな非コルゲートゲル相と比較して波状のリップル相に対して増大された活性を呈することが最近実証された[38]。
【0160】
より広い視野に立って、以上で提示された結果は、生体膜の脂質膜部分の構造相挙動および物理的性質の改変による酵素活性の調節についてより深く理解するうえで重要な意味をもつと思われる。そのほかに、脂質膜の機能生体材料特性に及ぼすリン脂質組成物の影響についての基本的理解は、高いPLA2レベルを有する罹患部位[29,30]でトリガー活性化[39,40]を起こしうるリポソーム薬剤担体系の合理的な改変および最適化を行ううえで意義がある。それに加えて、抗癌リゾ脂質[27,28]のプロドラッグ脂質として我々がデザインした非天然リン脂質は、PLA2に媒介される分解および活性化[29,30]を起こしうる新規なリポソームプロドラッグ・薬剤送達系を作製するための好適な構築ブロックとして使用可能である。
【0161】
HT−29大腸癌細胞に対する細胞傷害性に関して、抗癌エーテル脂質AEL−43および44を試験した。さまざまな細胞傷害性実験間で絶対値を比較することは、非常に難しい。したがって、AEL−1、2、5、および6と共にAEL−43および44を試験した(図7)。これらの参照化合物は、我々が以前見いだした値と比較してより高いIC50値を示した。このきわめて大きい差異を説明することは、困難である。しかしながら、それは、実験を開始するときのより高い細胞濃度(我々は、これが実験に影響を及ぼすことを見いだした)の結果でありうる。実験を2回行ったが、類似の結果が得られた。非常に興味深いことに、AEL−43および44は、AEL−1および2のときの1/2〜1/3のIC50値を有することが判明した。ET18−OCHおよびHePCは、通常、約1/3のIC50値を有するので、この結果は、非常に興味深い[41]。
【0162】
略号: DPPC、1,2−ジパルミトイル−sn−グルセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グルセロ−3−ホスホコリン;DPPG、1,2−ジパルミトイル−sn−グルセロ−3−ホスホグリセロール、1,2−ジヘキサデカノイル−sn−グルセロ−3−ホスホグリセロール;1−O−DPPC’、(S)−1−O−ヘキサデシル−3−ヘキサデカノイル−グリセロ−2−ホスホコリン;1−O−DPPG’、(S)−1−O−ヘキサデシル−3−ヘキサデカノイル−グリセロ−2−ホスホグリセロール;1−O−DPPC、1−O−ヘキサデシル−2−ヘキサデカノイル−sn−グルセロ−3−ホスホコリン;1−O−DPPG、1−O−ヘキサデシル−2−ヘキサデカノイル−sn−グルセロ−3−ホスホグリセロール;PLA2、ホスホリパーゼA2;DSPE−PEG2000、1,2−ジステアロイル−sn−グルセロ−3−ホスホエタノールアミンポリ(エチレングリコール)2000;AEL1、1−O−ヘキサデシル−2−リゾ−sn−グルセロ−3−ホスホコリン;AEL2、1−O−ヘキサデシル−2−リゾ−sn−グルセロ−3−ホスホ−(S)−グリセロール;AEL5、1−O−オクタデシル−2−リゾ−sn−グルセロ−3−ホスホコリン;AEL6、1−O−オクタデシル−2−リゾ−sn−グルセロ−3−ホスホ−(S)−グリセロール;AEL−43、(R)−1−O−ヘキサデシル−3−リゾグリセロ−2−ホスホコリン;AEL−44、(R)−1−O−ヘキサデシル−3−リゾグリセロ−2−ホスホ−(S)−グリセロール。
【0163】
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【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】多孔性罹患組織内へのリポソーム薬剤担体の蓄積ならびにそれに続く細胞外PLA活性を介する薬剤放出および標的膜を横切る輸送が関与する脂質ベースの薬剤ターゲッティングおよび薬剤トリガリングの原理を示す概略図。
【0165】
(I) 漏出性毛細血管を有する病的組織
(II) プロドラッグおよび薬剤を運搬するリポソーム
(III) 標的細胞および標的細胞膜
(IV) 新規かつ非天然の脂質類似体、たとえば、プロドラッグ(脂質)、プロエンハンサー(脂質)、プロアクチベーター(脂質)
(V) 薬剤(リゾ脂質および脂肪酸誘導体)、エンハンサー(リゾ脂質+脂肪酸)、PLA2アクチベーター(リゾ脂質+脂肪酸)。
【図2】(S)−O−ベンジルグリシドールからのC−2位にホスフェートを有する新規なリン脂質類似体1−O−DPPC’および1−O−DPPG’の合成。(a) C1633OH、NaH、DMF/THF(71%);(b)i. POCl、EtN、DCM、ii. ピリジン、コリントシレート(65%);(c) H、Pd/C、MeOH(99%);(d) C1531COOH、DMAP、EtN、DCM(83%);(e) (i−Pr)NP(OMe)Cl、TMP、DCM;(f)i. (R)−イソプロピリデングリセロール、フェニル−1H−テトラゾール、DCM、ii. t−BuOOH(2段階合計で67%);(g) H、Pd/C、MeOH(99%);(h) パルミチン酸、DMAP、DCC、DCM(92%);(i)i. CHCN、イソプロパノール、MeN、DCM、ii. HCl、MeOH、DCM、HO、iii. NaHCO、DCM(70%)。
【図3】0.15mMマルチラメラリポソームに対して20℃/hの走査速度で示差走査熱量測定を用いて得られた熱容量C:(A) 1−O−DPPC’(左)、DPPC(中央)、および1−O−DPPC(右)。(B) 1−O−DPPG’(左)、DPPG(中央)、および1−O−DPPG(右)。
【図4】ユニラメラのPLA2加水分解に対する40℃における特徴的な反応時間プロファイル。(A) 150nM PLA2(A. piscivorus piscivorus)と共にインキュベートされた0.15mM 1−O−DPPC’リポソーム。(B) 20μLの新たに調製されたヒト涙液に由来するヒト分泌PLA2と共にインキュベートされた0.15mM 1−O−DPPG’リポソーム[42](B)。酵素からの内因性蛍光(実線)および脂質懸濁液からの90°静的光散乱(破線)により、PLA2加水分解反応をモニタリングする。平衡化リポソーム懸濁液にPLA2を添加した後、触媒活性の急激な増加が起こる前、特徴的な遅延時間(τ)が続く(A)。この遅延時間は、中性荷電1−O−DPPC’リポソームでは観測されるが、添加直後に酵素が活性になる負荷電1−O−DPPG’リポソーム(B)では観測されない。
【図5】0mol%(黒四角)、2mol%(上向きの黒三角)、および10mol%(白丸)の1−O−DPPG’脂質、ならびに5mol%(下向きの黒三角)のDSPE−PEG2000ポリマー脂質と組み合わされた1−O−DPPC’ユニラメラリポソームの加水分解に対する温度の関数としてのPLA2(A. piscivorus piscivorus)遅延時間τ。リポソームの濃度は0.15mMであり、PLA2の濃度は150nMであった。
【図6】(A) 0mol%(黒四角)、2mol%(上向きの黒三角)、および10mol%(白丸)の1−O−DPPG’脂質、ならびに5mol%(下向きの黒三角)のDSPE−PEG2000ポリマー脂質を含有する1−O−DPPC’リポソームのPLA2(A. piscivorus piscivorus)加水分解(HPLCにより測定[28])。脂質加水分解パーセントは、バースト発生の1000秒後に測定されたものである。リポソームの濃度は0.15mMであり、PLA2の濃度は150nMであった。(B) 1−O−DPPG’ユニラメラリポソームの加水分解(HPLCにより測定[28])。PLA2触媒脂質加水分解は、20μLの新たに調製されたヒト涙液[42]を0.15mM 1−O−DPPG’リポソームに添加した後の時間の関数として測定される。
【図7】AEL 43および44の細胞傷害活性を示すグラフ。それらの活性をHT−29大腸癌細胞系でAEL−1、2、5、および6と比較した。細胞を化合物に72時間暴露し、MTT法(Carmichael et al. Cancer Res 1987;47:936)により細胞傷害活性を評価した。
【0166】
AEL−1、1−O−ヘキサデシル−2−リゾ−sn−グルセロ−3−ホスホコリン;AEL−2、1−O−ヘキサデシル−2−リゾ−sn−グルセロ−3−ホスホ−(S)−グリセロール;AEL−5、1−O−オクタデシル−2−リゾ−sn−グルセロ−3−ホスホコリン;AEL−6、1−O−オクタデシル−2−リゾ−sn−グルセロ−3−ホスホ−(S)−グリセロール;AEL−43、(R)−1−O−ヘキサデシル−3−リゾ−グリセロ−2−ホスホコリン;AEL−44、(R)−1−O−ヘキサデシル−3−リゾ−グリセロ−2−ホスホ−(S)−グリセロール。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤物質を投与するための脂質ベースの薬剤送達系であって、該薬剤物質が、該系内に組み込まれ、該系が、(a)少なくとも7炭素原子長の脂肪族基および少なくとも7個の炭素原子を有する有機基と(b)親水性部分とを有する脂質誘導体を含み、該脂質誘導体がさらに、該有機基が加水分解により切断除去されうる程度に細胞外ホスホリパーゼA2に対する基質であり、該系が、該系の表面上に親水性鎖を提示するように該系内に組み込まれたリポポリマーまたは糖脂質を有する、上記脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項2】
前記脂肪族基が、実質的に影響を受けない状態で残存し、結果として、有機酸フラグメントまたは有機アルコールフラグメントとリゾ脂質フラグメントとが生成される、請求項1に記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項3】
前記リポポリマーまたは前記糖脂質が、前記脂質誘導体の一部分により構成される、請求項1に記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項4】
前記リポポリマーのポリマーが、ポリエチレングリコール、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)−ポリ(グリコール酸)コポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、および誘導体化セルロースから選択される、請求項1〜3のいずれかに記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項5】
加水分解により切断除去しうる前記有機基が、第2の薬剤物質に対する補助薬剤物質または効力調整剤である、請求項1〜4のいずれかに記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項6】
前記脂質誘導体が、次式:
【化1】

〔式中、
XおよびZは、独立して、O、CH、NH、NMe、S、S(O)、OS(O)、S(O)、OS(O)、OP(O)、OP(O)O、OAs(O)、およびOAs(O)Oから選択され;
Yは、OC(O)、OC(O)O、OC(O)N、OC(S)、SC(O)、SC(S)、CHC(O)O、NC(O)Oから選択され、その場合、Yは、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、またはカルボニル炭素原子のいずれかを介してRに結合され;
は、式Yで示される脂肪族基であり;
は、少なくとも2個の炭素原子を有する有機基であり;
{ここで、Yは、−(CHn1−(CH=CH)n2−(CHn3−(CH=CH)n4−(CHn5−(CH=CH)n6−(CHn7−(CH=CH)n8−(CHn9であり、かつn1+2n2+n3+2n4+n5+2n6+n7+2n8+n9の合計は、2〜29の整数であり;n1は、ゼロまたは1〜29の整数であり、n3は、ゼロまたは1〜20の整数であり、n5は、ゼロまたは1〜17の整数であり、n7は、ゼロまたは1〜14の整数であり、かつn9は、ゼロまたは1〜11の整数であり;かつn2、n4、n6、およびn8のそれぞれは、独立して、ゼロまたは1であり;そしてYは、CH、COH、SH、S(O)OH、P(O)OH、OP(O)OH、OH、NHであり;ただし、Y−Yのそれぞれの炭素は、独立して、ハロゲンおよび脂肪族置換基で置換されていてもよい}
は、ホスファチジン酸(PO−OH)、ホスファチジン酸の誘導体、ならびにリン酸に対する生物学的等価体およびその誘導体から選択される〕
で示される脂質誘導体である、請求項1〜5のいずれかに記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項7】
が、少なくとも7炭素原子長の脂肪族基である、請求項6に記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項8】
が、式Yで示される基である、請求項7に記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項9】
前記脂質の少なくとも一部分が、請求項7に定義される式で示され、Rが、ポリエチレングリコール、ポリ(乳酸)、ポリ(グリコール酸)、ポリ(乳酸)−ポリ(グリコール酸)コポリマー、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリメトキサゾリン(polymethoxazoline)、ポリエチルオキサゾリン、ポリヒドロキシプロピルメタクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリジメチルアクリルアミド、および誘導体化セルロースから選択されるポリマーが共有結合されたホスファチジン酸の誘導体である、請求項1〜8のいずれかに記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項10】
前記脂質誘導体が、脱水された全系の5〜100mol%を構成する、請求項1〜9のいずれかに記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項11】
前記リポポリマーが、脱水された全系の2〜50mol%を構成する、請求項1〜10のいずれかに記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項12】
前記系がリポソームの形態をとる、請求項1〜11のいずれかに記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項13】
前記第2の薬剤物質が、(i)抗腫瘍剤、(ii)抗生物質および抗真菌剤、ならびに(iii)抗炎症剤から選択される治療活性物質および/または予防活性物質である、請求項1〜12のいずれかに記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の脂質ベースの薬剤送達系と、場合により、製薬上許容される担体と、を含む医薬組成物。
【請求項15】
医薬として使用するための、請求項1〜13のいずれかに記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項16】
哺乳動物組織における細胞外ホスホリパーゼA2活性の局所的増加を伴う疾患または病状を治療するための医薬を調製するための、請求項1〜13のいずれかに記載の薬剤送達系の使用。
【請求項17】
前記疾患または前記病状が、炎症性病状および癌よりなる群から選択される、請求項16に記載の使用。
【請求項18】
前記癌のタイプが、脳癌、乳癌、肺癌、大腸癌、卵巣癌、白血病、リンパ腫、肉腫、および癌腫よりなる群から選択される、請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記細胞外ホスホリパーゼA2活性の増加が、対象の組織における活性の正常レベルと比較して少なくとも25%である、請求項17〜18のいずれかに記載の使用。
【請求項20】
前記脂質誘導体が、次式:
【化2】

〔式中、
X=Y;
Yは、OC(O)、OC(O)O、OC(O)N、OC(S)、SC(O)、SC(S)、CHC(O)O、NC(O)Oから選択され、その場合、Yは、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、またはカルボニル炭素原子のいずれかを介してRに結合され;
Zは、O、CH、NH、NMe、S、S(O)、OS(O)、S(O)、OS(O)、OP(O)、OP(O)O、OAs(O)、およびOAs(O)Oから選択され;
は、式Yで示される脂肪族基であり;
は、少なくとも2個の炭素原子を有する有機基であり;
{ここで、Yは、−(CHn1−(CH=CH)n2−(CHn3−(CH=CH)n4−(CHn5−(CH=CH)n6−(CHn7−(CH=CH)n8−(CHn9であり、かつn1+2n2+n3+2n4+n5+2n6+n7+2n8+n9の合計は、2〜29の整数であり;n1は、ゼロまたは1〜29の整数であり、n3は、ゼロまたは1〜20の整数であり、n5は、ゼロまたは1〜17の整数であり、n7は、ゼロまたは1〜14の整数であり、かつn9は、ゼロまたは1〜11の整数であり;かつn2、n4、n6、およびn8のそれぞれは、独立して、ゼロまたは1であり;そしてYは、CH、COH、SH、S(O)OH、P(O)OH、OP(O)OH、OH、NHであり;ただし、Y−Yのそれぞれの炭素は、独立して、ハロゲンおよび脂肪族置換基で置換されていてもよい}
は、ホスファチジン酸(PO−OH)、ホスファチジン酸の誘導体、ならびにリン酸に対する生物学的等価体およびその誘導体から選択される〕
で示される脂質誘導体である、請求項1〜5のいずれかに記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項21】
が、少なくとも7炭素原子長の脂肪族基である、請求項20に記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項22】
が、式Yで示される基である、請求項7に記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項23】
前記系がリポソームの形態をとる、請求項1または22に記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項24】
前記薬剤物質が、(i)抗腫瘍剤、(ii)抗生物質および抗真菌剤、ならびに(iii)抗炎症剤から選択される治療活性物質および/または予防活性物質である、請求項1〜5および20〜23のいずれかに記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項25】
請求項1〜5、20〜24のいずれかに記載の薬剤送達系と、場合により、製薬上許容される担体と、を含む医薬組成物。
【請求項26】
医薬として使用するための、請求項1〜5、20〜24のいずれかに記載の脂質ベースの薬剤送達系。
【請求項27】
哺乳動物組織における細胞外ホスホリパーゼA2活性の局所的増加を伴う疾患または病状を治療するための医薬を調製するための、請求項1〜5、20〜24のいずれかに記載の薬剤送達系の使用。
【請求項28】
前記疾患または前記病状が、炎症性病状および癌よりなる群から選択される、請求項27に記載の使用。
【請求項29】
前記癌のタイプが、脳癌、乳癌、肺癌、大腸癌、卵巣癌、白血病、リンパ腫、肉腫、および癌腫よりなる群から選択される、請求項28に記載の使用。
【請求項30】
前記細胞外ホスホリパーゼA2活性の増加が、対象の組織における活性の正常レベルと比較して少なくとも25%である、請求項27〜28のいずれかに記載の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2008−518886(P2008−518886A)
【公表日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−538271(P2007−538271)
【出願日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【国際出願番号】PCT/DK2005/000700
【国際公開番号】WO2006/048017
【国際公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【出願人】(502279870)リプラサム ファーマ アー/エス (2)
【Fターム(参考)】