非接触通信媒体
【課題】 小型でかつ周囲の影響を受けにくく、長い通信距離が確保できる非接触通信媒体を提供すること。
【解決手段】 多層構造を有し、外部の装置との間で電磁誘導を利用して情報の送受信を行う機能を有する非接触通信媒体であって、前記情報の送受信を制御する機能を有するICと、そのICに接続されたアンテナコイル2と、アンテナコイル2及びICのいずれにも結線されていない共振コイル1と、共振コイル1に接続されたコンデンサと、磁性体3とを具備している。アンテナコイル2と、共振コイル1と、磁性体3とが、それぞれ別の層内に配置され、アンテナコイル2を有する層が、共振コイル1を有する層と磁性体3を有する層との間に配置され、アンテナコイル2と共振コイル1とが電磁的に結合している。
【解決手段】 多層構造を有し、外部の装置との間で電磁誘導を利用して情報の送受信を行う機能を有する非接触通信媒体であって、前記情報の送受信を制御する機能を有するICと、そのICに接続されたアンテナコイル2と、アンテナコイル2及びICのいずれにも結線されていない共振コイル1と、共振コイル1に接続されたコンデンサと、磁性体3とを具備している。アンテナコイル2と、共振コイル1と、磁性体3とが、それぞれ別の層内に配置され、アンテナコイル2を有する層が、共振コイル1を有する層と磁性体3を有する層との間に配置され、アンテナコイル2と共振コイル1とが電磁的に結合している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのICチップ、及びアンテナを有し、外部の装置との間で非接触で情報の送受信を行うことが可能な非接触通信媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報を記憶し、外部の装置との間で情報の送受信ができる非接触通信媒体は、情報の記憶と送受信を制御する機能を有するICと、電磁波の送受信を行うアンテナとからなり、ICカードやICタグとして広く普及している。このような非接触通信媒体による個体識別技術は、RFID(Radio Frequency IDentification)と呼ばれ、電磁誘導や電波を介して通信が行われる。その通信の無線周波数としては、電磁誘導で通信を行う場合は125kHz帯や13.56MHz帯が使用され、電波で通信を行う場合は800MHz帯から1000MHz帯、2400MHz帯などを使用したものが多い。特に、電磁誘導で13.56MHz帯を使用した非接触通信媒体は、電子マネーや交通乗車券などとして実用化されている。このような電磁誘導を利用したRFIDの技術の具体例が特許文献1などに開示されている。
【0003】
図11は従来の電磁誘導を利用した非接触通信媒体と外部の読取装置との間の通信の原理を説明する斜視図である。読取装置200に設置されたアンテナコイル201に電流が流れることにより、磁界が発生する。その発生した磁束50を介して、アンテナコイル201と非接触通信媒体100に設置されたアンテナコイル101とが電磁誘導により結合し、読取装置200から非接触通信媒体100への非接触での電力供給が可能となる。さらに、読取装置200のアンテナコイル201に流れる電流に変化を与えることで、磁界にも変化を与えることができるため、非接触通信媒体100へ信号を送信することが可能となる。また、非接触通信媒体100において、アンテナコイル101の負荷に変化を与えることにより、読取装置200のアンテナコイル201の負荷も変化するため、読取装置200でその負荷変動を検知することにより、非接触通信媒体100からの信号を受信することが出来る。
【0004】
このような電磁誘導を利用した非接触通信媒体においては、上述のように磁界を介しての通信となるため、周囲に金属が存在することにより通信が乱れるという問題がある。そこで非接触通信媒体に磁性体を組み合わせることによりこの問題を解決しようとする試みもなされており、このような技術の一例が特許文献2に開示されている。
【0005】
従来の非接触通信媒体は、たとえば、フィルム上に接着した金属箔をエッチングすることによりアンテナが形成されたアンテナシート上に、ICチップを接着剤で固定して電気的に接続し、そのアンテナシートの両面に樹脂シートを接着して型抜きするなどの方法で製造される。また、近年では、携帯端末にアンテナと非接触通信用のICチップを搭載し、携帯端末自体を非接触通信媒体として機能させる技術も実現されている。この技術を用いれば、携帯端末内にあらかじめ複数のアプリケーションを搭載したり、通信回線を通じて新しいアプリケーションをダウンロードしたりすることによって、1つの携帯端末を複数の通信媒体のように機能させることが可能になる。
【0006】
一方、非接触通信では、その電力供給能力や通信速度に制限があるため、より高速の通信が求められる場合や、ICを動作させるためにより大きな電力を必要とするような場合には、接触通信のための外部端子を設けた接触型の通信媒体が採用される。たとえば、セキュリティのため高度な暗号化を必要とする場合などにこのような接触型の通信媒体が使用され、金融機関のキャッシュカードやクレジットカードなどに採用されている。また、近年の携帯端末にはSIM(Subscriber Identify Module)カードと呼ばれる小型の接触通信媒体が搭載されており、SIMカード内のメモリに保持した番号により、通信事業者が加入者情報の識別をしている。非接触通信媒体には、上述のような接触通信用の外部端子を併せ持つものも存在しており、特許文献3などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−256089号公報
【特許文献2】特開平8−16745号公報
【特許文献3】特開昭60−179891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、電磁誘導により通信を行う非接触通信媒体は、媒体の周囲の環境によってその通信性能が影響を受け、特に金属が近づくと、通信距離が極端に短くなったり、もしくは通信できなくなってしまうという問題がある。さらに、アンテナの大きさが小さくなるにしたがって通信距離が短くなってしまうという問題もある。たとえば、電磁誘導を利用する場合、その通信は磁界を介して行われ、金属は磁界を妨げるため、アンテナと金属が密着すると通信はほとんど不可能となる。また、発生する磁界の強さはアンテナの大きさに依存するため、一般に用いられるICカードのサイズに比して媒体のサイズを大幅に小さくした場合にも、通信距離は著しく短くなってしまう。一方、非接触通信媒体に対しては、小型化の要求や、装置の内部などの金属が多い環境で使用したいという要求がある。また、SIMカードに適用する場合には、接触通信用の外部端子がアンテナに近接して配置されることとなる。
【0009】
そこで、本発明の課題は、小型でかつ周囲の影響を受けにくく、長い通信距離を確保できる非接触通信媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明による非接触通信媒体は、多層構造を有し、外部の装置との間で電磁誘導を利用して情報の送受信を行う機能を有する非接触通信媒体であって、前記情報の送受信を制御する機能を有するICと、前記ICに接続されたアンテナコイルと、前記アンテナコイル及び前記ICのいずれにも結線されていない共振コイルと、前記共振コイルに接続されたコンデンサと、磁性体とを具備し、前記アンテナコイルと、前記共振コイルと、前記磁性体とが、それぞれ別の層内に配置され、前記アンテナコイルを有する層が、前記共振コイルを有する層と前記磁性体を有する層との間に配置され、前記アンテナコイルと前記共振コイルとが電磁的に結合していることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記ICの内部または外部の少なくとも一方に前記アンテナコイルに接続されたコンデンサを有し、前記共振コイルと前記共振コイルに接続されたコンデンサにより構成される共振回路の共振周波数が、前記アンテナコイルと前記ICの内部または外部のコンデンサにより構成される共振回路の共振周波数より低いことが望ましい。
【0012】
また、前記共振コイルの外形の最大寸法及び最小寸法は、それぞれ前記アンテナコイルの外形の最大寸法及び最小寸法のそれぞれ90%〜110%であってもよい。
【0013】
また、前記アンテナコイルと前記共振コイルは、多層の導体層を有する基板のそれぞれ異なる導体層に形成されていてもよい。または、前記共振コイルと前記アンテナコイルとが、フレキシブルな基板に並置されて形成され、前記フレキシブルな基板を前記共振コイルと前記アンテナコイルとの間で折り曲げることにより、前記共振コイルと前記アンテナコイルとが互いに隣接する層に配置されていてもよい。
【0014】
ここで、全体の厚さが0.84mm以下であることが望ましい。
【0015】
また、外部端子を有し、前記外部端子への接触により外部の装置との間で情報の送受信を行う機能を有していてもよく、さらに、SIMカードとしての機能を有していてもよい。
【発明の効果】
【0016】
上記のように、本発明の非接触通信媒体は、磁性体、アンテナコイル、共振コイルをこの順にそれぞれ別の層に配置することにより、磁性体によって磁性体の外側にある金属が磁性体の内側のアンテナコイルに及ぼす影響を抑制し、さらに、共振コイルと共振コイルに接続されたコンデンサによる共振回路に磁界エネルギーを一度滞留させ、それとアンテナコイルを結合させることによって発生する磁界を強め、通信距離を拡大させる効果を有している。
【0017】
さらに、共振コイルと共振コイルに接続されたコンデンサにより構成される共振回路の共振周波数が、アンテナコイルとICの内部または外部のコンデンサにより構成される共振回路の共振周波数より低くなるようにすることにより、通信距離をより長くすることができる。
【0018】
また、非接触通信媒体を小型化する場合、その通信距離を最大化するためにはアンテナコイルは可能な限り大きくした方がよく、同様に共振コイルも可能な限り大きくした方がより高いQ値が得られること、さらに、アンテナコイルと共振コイルの結合を強くするためにもアンテナコイルと共振コイルは同様な形状であることが望ましいことから、アンテナコイルと共振コイルの外形はほぼ同じ寸法であることが望ましい。詳しくは、共振コイルの外形の最大寸法及び最小寸法は、それぞれアンテナコイルの外形の最大寸法及び最小寸法のそれぞれ90〜110%であることが望ましい。
【0019】
本発明による非接触通信媒体の製造方法を考える場合、アンテナコイルと共振コイルとが隣り合う層に配置されているので、それらを1つの多層基板内で形成することにより、製造の簡略化が図れる。また、1枚のフレキシブルな基板にアンテナコイルと共振コイルとを形成し、それを折り曲げることによりそれらを隣り合う層に配置でき、これによっても製造の簡略化が可能である。
【0020】
本発明による非接触通信媒体では、外部の金属の影響を抑制しているため、たとえば接触通信用の外部端子を有する場合でも、その外部端子を磁性体の外側に配置することにより、その金属部分の影響を受けにくくすることができる。また非接触通信媒体を装置内に搭載する場合、その装置内の他の回路による影響を抑制できる。たとえば携帯端末に用いられているSIMカード等に本発明を適用することにより、非接触通信機能を併せ持つSIMカードが得られる。
【0021】
以上のように、本発明によれば、小型でかつ周囲の影響を受けにくく、長い通信距離を確保できる非接触通信媒体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による非接触通信媒体の原理を説明するために示す模式的な断面図。
【図2】磁性体がない場合の磁束の変化を模式的に示す断面図。
【図3】本発明の実施例1の非接触通信媒体における多層構造の全体構成を示す斜視図。
【図4】本発明の実施例1の非接触通信媒体における共振コイルを有する層の斜視図。
【図5】本発明の実施例1の非接触通信媒体におけるアンテナコイルを有する層の斜視図。
【図6】本発明の実施例1の非接触通信媒体における磁性体の斜視図。
【図7】本発明の実施例1の非接触通信媒体におけるアンテナコイルによる共振回路の共振周波数と通信距離との関係を、共振コイルによる共振回路の共振周波数をパラメータとして示す図。
【図8】本発明の実施例2の非接触通信媒体におけるアンテナコイルを有する層と共振コイルを有する層の模式的な断面図。
【図9】本発明の実施例3の非接触通信媒体におけるアンテナコイルを有する層と共振コイルを有する層の模式的な断面図。
【図10】本発明の実施例4の非接触通信媒体の分解斜視図。
【図11】従来の電磁誘導を利用した非接触通信媒体と外部の読取装置との間の通信の原理を説明する斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明による非接触通信媒体の原理を説明するために示す模式的な断面図である。図1においてはICと共振コイルに接続されたコンデンサは省略して示しているが、図1のように、本発明の非接触通信媒体は、多層構造を有し、外部の装置との間で電磁誘導を利用して情報の送受信を行う機能を有する非接触通信媒体であって、前記情報の送受信を制御する機能を有するICと、そのICに接続されたアンテナコイル2と、アンテナコイル2及びICのいずれにも結線されていない共振コイル1と、共振コイル1に接続されたコンデンサと、磁性体3とを具備している。アンテナコイル2と、共振コイル1と、磁性体3とが、それぞれ別の層内に配置され、アンテナコイル2を有する層が、共振コイル1を有する層と磁性体3を有する層との間に配置され、アンテナコイル2と共振コイル1とが電磁的に結合している。なお、図1においては、磁性体3の外側に金属体40が近接して存在する場合を示している。
【0025】
図1において、共振コイル1が外部の読取装置と結合し、さらにアンテナコイル2がその共振コイル1と結合することによって、単にアンテナコイル2のみが読取装置と結合するよりも高い効率が得られる、すなわち通信距離が伸びるという効果がある。このような技術として、多段ループアンテナなどが知られているが、多段ループアンテナの場合、各段のループアンテナ間の距離は約1/4波長必要である。一方、本発明では、アンテナコイル2と共振コイル1間は、ほぼ密着していても効果があり、薄型化が可能となる。共振コイル1の作製方法としては、銅線を基材に埋めこんで形成する方法や基材上に金属箔を接着した後エッチングによって形成する方法がある。さらに、基材に導電性ペーストを印刷して形成してもよい。エッチングや印刷によって形成する場合、コイルの始点と終点を結線するためにコイル上を跨いで配線する場合は、基材の裏面にその配線部分を形成し、表面と裏面間はスルーホールや超音波かしめ等の方法で電気的に接続される。または、コイル上の配線部分の表面に絶縁性のレジストを設置した後、その上に配線を印刷してもよい。アンテナコイル2も共振コイル1と同様な作製方法で実現できる。
【0026】
本発明の非接触通信媒体では、磁性体3によって、その外側の金属の影響を抑制することが出来る。図1に示すように、金属体40が近接して置かれた場合でも、磁性体3があることにより、磁性体3内に磁路が生じるため、金属体40に入射する磁束が減り、結果として磁界強度の劣化を抑制できる。図2は磁性体がない場合の磁束の変化を模式的に示す断面図である。共振コイル1及びアンテナコイル2により発生した磁界の磁束50が金属体40にぶつかった場合、図2に示すように、金属体40上に渦電流51が発生し、熱となってエネルギーが消費されるため、磁束50の強度が弱くなってしまう。
【0027】
上述のように、本発明においては磁性体3があることにより磁界強度の劣化を抑制でき、この効果はアンテナコイル2と共振コイル1の両方に良好な作用をもたらすため、通信距離を伸張させる効果はより高まる。磁性体3としては、フェライトや可撓性のある磁性シートなどが使用できる。磁性体3は、コイルに電流が流れることによって生じる磁界に作用するため、コイル線の直下にある場合に最も大きい効果が得られる。よって、磁性体3の中央部分など、コイル線の直下以外の部分に穴を開けても磁束の劣化抑制の効果は保存されるので、その穴の部分にICや他の構成部品を配置することによって、媒体の厚みを小さくすることもできる。これにより、一般的に使用されている基板部材を用いても媒体の厚みを抑えることができ、たとえばISO/IEC 7810で規定されているICカードの厚さ0.68mm以上0.84mm以下の規格を満たすことができる。
【0028】
以上のように、本発明により、それぞれ別の層内に配置された、磁性体、アンテナコイル、共振コイルなどを具備することにより、小型でかつ周囲の影響を受けにくく、長い通信距離を確保できる非接触通信媒体が得られる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0030】
先ず、本発明による非接触通信媒体の実施例1について説明する。図3は、本発明の実施例1の非接触通信媒体における多層構造の全体構成を示す斜視図である。図4は本発明の実施例1の非接触通信媒体における共振コイルを有する層の斜視図、図5は本発明の実施例1の非接触通信媒体におけるアンテナコイルを有する層の斜視図、図6は本発明の実施例1の非接触通信媒体における磁性体の斜視図である。図3のように、実施例1では、共振コイルを有する層10、アンテナコイルを有する層20、磁性体30がこの順に積層されて構成されている。図4及び図5において、共振コイル11及びアンテナコイル21は、それぞれ、ポリイミドフィルムからなる基材13及び23の両面に接着された銅箔をエッチングして形成した。基材13及び23の厚みは50μm、大きさは30×40mmであり、銅箔の厚みは30μmである。共振コイル11のターン数は2ターン、アンテナコイル21のターン数は2ターンである。共振コイル11には、容量200pFのセラミックコンデンサ12を半田付けにより接続し、共振回路を形成する。一方、アンテナコイル21を設置した基材23には、アンテナコイル21と接続される通信制御用のIC22を設置する。IC22は、ISO/IEC 14443 Type−Aで規定される通信規約に準拠した2mm角のチップのICを採用し、アンテナコイル21とはフリップチップ実装によって接続した。通信に使用する無線周波数は13.56MHzである。図6において、磁性体30としては厚み200μm、比透磁率80のフェライト板を採用した。磁性体30には4mm角の穴31を開け、アンテナコイル用の基材23と磁性体30を貼り合わせた際に、IC22が穴31に入ることにより、全体の厚みを抑制し、突起部の無い構造とした。アンテナコイル用の基材23(図5)と磁性体30との貼り合わせ、及びアンテナコイル用の基材23と共振コイル用の基材13(図4)の貼り合わせには、厚み50μmの両面テープを使用した。さらに、この磁性体30の下には厚み150μmの両面テープ(図示せず)と厚み100μmの剥離紙60(図3)を設置し、実施例1の非接触通信媒体を物品に貼り付けて使用できるようにした。剥離紙60を加えた実施例1の非接触通信媒体の全体の厚さは約0.7mmとなった。
【0031】
実施例1の非接触通信媒体と従来の非接触通信媒体とを、電子機器の組み立てラインにおいて部品に貼り付けて使用し、製造管理用途における比較評価を行った。従来の非接触通信媒体は、その部品が組み立てられて電子機器のケースの中に入ってしまうと、機器内部の金属の影響と、部品からケースまでに10mm以上の距離が生じるために読み取りができなかった。一方、実施例1の非接触通信媒体は、機器を組み立てた後もケースの外側からの読み取りが可能であり、組み立て後の部品トレース管理が可能となった。
【0032】
また、本発明では、ICの内部または外部の少なくとも一方にアンテナコイルに接続されたコンデンサを有する。図7は、本発明の実施例1の非接触通信媒体におけるアンテナコイルとそれに接続されたコンデンサにより構成される共振回路の共振周波数と通信距離との関係を、共振コイルと共振コイルに接続されたコンデンサにより構成される共振回路の共振周波数をパラメータとして示す図である。なお、図7においては、共振コイルによる共振回路がない場合の結果も合わせて示している。実施例1においては、通信に使用する無線周波数13.56MHzに対して、アンテナコイルによる共振回路の共振周波数が21MHz、共振コイルによる共振回路の共振周波数が15MHzのときに最も長い通信距離が得られた。図7において、共振コイルによる共振回路を設置した場合は、共振コイルによる共振回路の共振周波数が20MHzの場合を除いて、共振コイルがない従来の非接触通信媒体の場合よりも長い通信距離が得られている。さらに、共振コイルによる共振回路の共振周波数とアンテナコイルによる共振回路の共振周波数が、無線周波数より高く、かつ、共振コイルによる共振回路の共振周波数がアンテナコイルによる共振回路の共振周波数より低いときに、通信距離を伸張する上でより大きな効果が得られることを見出した。
【0033】
なお、実施例1に係る非接触通信媒体において、図4及び図5のような共振コイル11やアンテナコイル21は、先に述べたような銅線や導電ペーストの印刷などの方法によっても形成できる。基材13及び23の材料としては、ガラスエポキシ基板や、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムなども採用できる。さらに、図6のような磁性体30としては、軟磁性材料を樹脂と混合して作製した磁性体も採用できる。
【0034】
次に、本発明による非接触通信媒体の実施例2について説明する。図8は、本発明の実施例2の非接触通信媒体におけるアンテナコイルを有する層と共振コイルを有する層の模式的な断面図である。図8において、共振コイル111及びアンテナコイル121は、ガラスエポキシからなる2層の基材層とそれらの層の表面及び間に配置された3層の金属層とからなる1枚の基板内に形成されている。共振コイル111は、基材113の表面にコイルパターンが形成され、アンテナコイル121は基材123の表面にコイルパターンが形成されている。共振コイル111及びアンテナコイル121は、コイルパターンの始点と終点を最終的に短絡する必要があるため、基材113と基材123の間の金属層に短絡用電極71を形成し、スルーホール70を介してそれぞれの基材の表面と裏面とを接続することで短絡している。この場合、図8のように、共振コイル111とアンテナコイル121のそれぞれの短絡用電極71が重ならないように配置をすることで、共振コイル111とアンテナコイル121で短絡用の金属層を共用し、1枚の基板内で共振コイル111とアンテナコイル121の両方を実現している。なお、磁性体はアンテナコイル121が設置された基材123の下側に配置される。
【0035】
図9は、本発明の実施例3の非接触通信媒体におけるアンテナコイルを有する層と共振コイルを有する層の模式的な断面図である。実施例3においては、共振コイル111及びアンテナコイル121を1枚のPETフィルムからなる基材43上に並置して形成し、その後、基材43を共振コイル111とアンテナコイル121の間で折り曲げることにより、共振コイル111とアンテナコイル121を隣り合う層に配置する構造を実現したものである。この方法によれば、必要な基材を減らすことが可能となり、また共振コイル111と接続されるセラミックコンデンサ12と、アンテナコイル121に接続されるIC22を同じ面に設置することができるため、自動マウント機でセラミックコンデンサ12とIC22を設置する際に、工程時間を短縮できるなどの利点がある。
【0036】
図10は、本発明の実施例4の非接触通信媒体の分解斜視図である。実施例4は外部の装置との間で接触通信を行う機能も有しており、そのための外部端子を有する非接触通信媒体である。図10において、実施例4は、共振コイルを有する層210、アンテナコイルを有する層220、磁性体230に加えて、裏面に接触通信用の外部端子81を設置した基板80から構成されている。基板80は基材83上に、アンテナコイル221と接続される非接触通信用のIC22と、接触通信用の外部端子81に接続される接触通信用のIC24とを設置している。外部端子81は、基材83のICの実装面の裏面に形成される。磁性体230の中央には穴231を設け、2つのICと磁性体230とが物理的に干渉しないように配置されている。また、アンテナコイル221が設けられた基材223には、接続用電極72が形成され、基材80上に設置した接続ピン73と接触することにより、アンテナコイル221が非接触通信用のIC22と電気的に接続される。なお、アンテナコイル221とIC22の接続は、アンテナコイル用の基材223にタブ状の端子部を形成し、これを基板80の部分で折り曲げて半田付け等の手段により接続してもよい。共振コイル211は基材213上に実施例1の共振コイルと同様な方法で形成されている。
【0037】
実施例4の非接触通信媒体において、接触通信用のIC24としてSIMカードの機能を有するICを搭載し、携帯電話用のSIMカードとして使用可能とした。この場合、上記のように構成した非接触通信媒体をプラスチックからなるケース90に封止した。これを携帯電話に搭載した状態で、外部の読取装置との間で通信が可能であることを確認し、その通信距離は30mmであった。
【0038】
以上のように、本発明の非接触通信媒体は、たとえば小型の金属製品に貼付して物品管理に利用することが可能になり、また、非接触通信機能を持つSIMカード等にも利用できる。
【0039】
なお、本発明の非接触通信媒体は、上記の実施例に示したものに限定されるものではないことはいうまでもなく、目的や用途に応じて設計変更可能である。例えば、アンテナコイルや共振コイルの形状、各層内での配置、それを搭載する基材の形状や材料、磁性体の形状や材料などは任意に設計変更可能である。また、実施例に記載した部材以外の部品や部材を、必要とする機能、性能、用途に応じて追加することも可能である。
【符号の説明】
【0040】
1、11、111、211 共振コイル
2、21,101,102、121、201、221 アンテナコイル
3、30、230 磁性体
10、210 共振コイルを有する層
12 セラミックコンデンサ
13、23、33、43、83、113、123、213、223 基材
20、220 アンテナコイルを有する層
22、24 IC
31、231 穴
40 金属体
50 磁束
51 渦電流
60 剥離紙
70 スルーホール
71 短絡用電極
72 接続用電極
73 接続ピン
80 基板
81 外部端子
90 ケース
100 非接触通信媒体
200 読取装置
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つのICチップ、及びアンテナを有し、外部の装置との間で非接触で情報の送受信を行うことが可能な非接触通信媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報を記憶し、外部の装置との間で情報の送受信ができる非接触通信媒体は、情報の記憶と送受信を制御する機能を有するICと、電磁波の送受信を行うアンテナとからなり、ICカードやICタグとして広く普及している。このような非接触通信媒体による個体識別技術は、RFID(Radio Frequency IDentification)と呼ばれ、電磁誘導や電波を介して通信が行われる。その通信の無線周波数としては、電磁誘導で通信を行う場合は125kHz帯や13.56MHz帯が使用され、電波で通信を行う場合は800MHz帯から1000MHz帯、2400MHz帯などを使用したものが多い。特に、電磁誘導で13.56MHz帯を使用した非接触通信媒体は、電子マネーや交通乗車券などとして実用化されている。このような電磁誘導を利用したRFIDの技術の具体例が特許文献1などに開示されている。
【0003】
図11は従来の電磁誘導を利用した非接触通信媒体と外部の読取装置との間の通信の原理を説明する斜視図である。読取装置200に設置されたアンテナコイル201に電流が流れることにより、磁界が発生する。その発生した磁束50を介して、アンテナコイル201と非接触通信媒体100に設置されたアンテナコイル101とが電磁誘導により結合し、読取装置200から非接触通信媒体100への非接触での電力供給が可能となる。さらに、読取装置200のアンテナコイル201に流れる電流に変化を与えることで、磁界にも変化を与えることができるため、非接触通信媒体100へ信号を送信することが可能となる。また、非接触通信媒体100において、アンテナコイル101の負荷に変化を与えることにより、読取装置200のアンテナコイル201の負荷も変化するため、読取装置200でその負荷変動を検知することにより、非接触通信媒体100からの信号を受信することが出来る。
【0004】
このような電磁誘導を利用した非接触通信媒体においては、上述のように磁界を介しての通信となるため、周囲に金属が存在することにより通信が乱れるという問題がある。そこで非接触通信媒体に磁性体を組み合わせることによりこの問題を解決しようとする試みもなされており、このような技術の一例が特許文献2に開示されている。
【0005】
従来の非接触通信媒体は、たとえば、フィルム上に接着した金属箔をエッチングすることによりアンテナが形成されたアンテナシート上に、ICチップを接着剤で固定して電気的に接続し、そのアンテナシートの両面に樹脂シートを接着して型抜きするなどの方法で製造される。また、近年では、携帯端末にアンテナと非接触通信用のICチップを搭載し、携帯端末自体を非接触通信媒体として機能させる技術も実現されている。この技術を用いれば、携帯端末内にあらかじめ複数のアプリケーションを搭載したり、通信回線を通じて新しいアプリケーションをダウンロードしたりすることによって、1つの携帯端末を複数の通信媒体のように機能させることが可能になる。
【0006】
一方、非接触通信では、その電力供給能力や通信速度に制限があるため、より高速の通信が求められる場合や、ICを動作させるためにより大きな電力を必要とするような場合には、接触通信のための外部端子を設けた接触型の通信媒体が採用される。たとえば、セキュリティのため高度な暗号化を必要とする場合などにこのような接触型の通信媒体が使用され、金融機関のキャッシュカードやクレジットカードなどに採用されている。また、近年の携帯端末にはSIM(Subscriber Identify Module)カードと呼ばれる小型の接触通信媒体が搭載されており、SIMカード内のメモリに保持した番号により、通信事業者が加入者情報の識別をしている。非接触通信媒体には、上述のような接触通信用の外部端子を併せ持つものも存在しており、特許文献3などに開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平4−256089号公報
【特許文献2】特開平8−16745号公報
【特許文献3】特開昭60−179891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、電磁誘導により通信を行う非接触通信媒体は、媒体の周囲の環境によってその通信性能が影響を受け、特に金属が近づくと、通信距離が極端に短くなったり、もしくは通信できなくなってしまうという問題がある。さらに、アンテナの大きさが小さくなるにしたがって通信距離が短くなってしまうという問題もある。たとえば、電磁誘導を利用する場合、その通信は磁界を介して行われ、金属は磁界を妨げるため、アンテナと金属が密着すると通信はほとんど不可能となる。また、発生する磁界の強さはアンテナの大きさに依存するため、一般に用いられるICカードのサイズに比して媒体のサイズを大幅に小さくした場合にも、通信距離は著しく短くなってしまう。一方、非接触通信媒体に対しては、小型化の要求や、装置の内部などの金属が多い環境で使用したいという要求がある。また、SIMカードに適用する場合には、接触通信用の外部端子がアンテナに近接して配置されることとなる。
【0009】
そこで、本発明の課題は、小型でかつ周囲の影響を受けにくく、長い通信距離を確保できる非接触通信媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明による非接触通信媒体は、多層構造を有し、外部の装置との間で電磁誘導を利用して情報の送受信を行う機能を有する非接触通信媒体であって、前記情報の送受信を制御する機能を有するICと、前記ICに接続されたアンテナコイルと、前記アンテナコイル及び前記ICのいずれにも結線されていない共振コイルと、前記共振コイルに接続されたコンデンサと、磁性体とを具備し、前記アンテナコイルと、前記共振コイルと、前記磁性体とが、それぞれ別の層内に配置され、前記アンテナコイルを有する層が、前記共振コイルを有する層と前記磁性体を有する層との間に配置され、前記アンテナコイルと前記共振コイルとが電磁的に結合していることを特徴とする。
【0011】
ここで、前記ICの内部または外部の少なくとも一方に前記アンテナコイルに接続されたコンデンサを有し、前記共振コイルと前記共振コイルに接続されたコンデンサにより構成される共振回路の共振周波数が、前記アンテナコイルと前記ICの内部または外部のコンデンサにより構成される共振回路の共振周波数より低いことが望ましい。
【0012】
また、前記共振コイルの外形の最大寸法及び最小寸法は、それぞれ前記アンテナコイルの外形の最大寸法及び最小寸法のそれぞれ90%〜110%であってもよい。
【0013】
また、前記アンテナコイルと前記共振コイルは、多層の導体層を有する基板のそれぞれ異なる導体層に形成されていてもよい。または、前記共振コイルと前記アンテナコイルとが、フレキシブルな基板に並置されて形成され、前記フレキシブルな基板を前記共振コイルと前記アンテナコイルとの間で折り曲げることにより、前記共振コイルと前記アンテナコイルとが互いに隣接する層に配置されていてもよい。
【0014】
ここで、全体の厚さが0.84mm以下であることが望ましい。
【0015】
また、外部端子を有し、前記外部端子への接触により外部の装置との間で情報の送受信を行う機能を有していてもよく、さらに、SIMカードとしての機能を有していてもよい。
【発明の効果】
【0016】
上記のように、本発明の非接触通信媒体は、磁性体、アンテナコイル、共振コイルをこの順にそれぞれ別の層に配置することにより、磁性体によって磁性体の外側にある金属が磁性体の内側のアンテナコイルに及ぼす影響を抑制し、さらに、共振コイルと共振コイルに接続されたコンデンサによる共振回路に磁界エネルギーを一度滞留させ、それとアンテナコイルを結合させることによって発生する磁界を強め、通信距離を拡大させる効果を有している。
【0017】
さらに、共振コイルと共振コイルに接続されたコンデンサにより構成される共振回路の共振周波数が、アンテナコイルとICの内部または外部のコンデンサにより構成される共振回路の共振周波数より低くなるようにすることにより、通信距離をより長くすることができる。
【0018】
また、非接触通信媒体を小型化する場合、その通信距離を最大化するためにはアンテナコイルは可能な限り大きくした方がよく、同様に共振コイルも可能な限り大きくした方がより高いQ値が得られること、さらに、アンテナコイルと共振コイルの結合を強くするためにもアンテナコイルと共振コイルは同様な形状であることが望ましいことから、アンテナコイルと共振コイルの外形はほぼ同じ寸法であることが望ましい。詳しくは、共振コイルの外形の最大寸法及び最小寸法は、それぞれアンテナコイルの外形の最大寸法及び最小寸法のそれぞれ90〜110%であることが望ましい。
【0019】
本発明による非接触通信媒体の製造方法を考える場合、アンテナコイルと共振コイルとが隣り合う層に配置されているので、それらを1つの多層基板内で形成することにより、製造の簡略化が図れる。また、1枚のフレキシブルな基板にアンテナコイルと共振コイルとを形成し、それを折り曲げることによりそれらを隣り合う層に配置でき、これによっても製造の簡略化が可能である。
【0020】
本発明による非接触通信媒体では、外部の金属の影響を抑制しているため、たとえば接触通信用の外部端子を有する場合でも、その外部端子を磁性体の外側に配置することにより、その金属部分の影響を受けにくくすることができる。また非接触通信媒体を装置内に搭載する場合、その装置内の他の回路による影響を抑制できる。たとえば携帯端末に用いられているSIMカード等に本発明を適用することにより、非接触通信機能を併せ持つSIMカードが得られる。
【0021】
以上のように、本発明によれば、小型でかつ周囲の影響を受けにくく、長い通信距離を確保できる非接触通信媒体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による非接触通信媒体の原理を説明するために示す模式的な断面図。
【図2】磁性体がない場合の磁束の変化を模式的に示す断面図。
【図3】本発明の実施例1の非接触通信媒体における多層構造の全体構成を示す斜視図。
【図4】本発明の実施例1の非接触通信媒体における共振コイルを有する層の斜視図。
【図5】本発明の実施例1の非接触通信媒体におけるアンテナコイルを有する層の斜視図。
【図6】本発明の実施例1の非接触通信媒体における磁性体の斜視図。
【図7】本発明の実施例1の非接触通信媒体におけるアンテナコイルによる共振回路の共振周波数と通信距離との関係を、共振コイルによる共振回路の共振周波数をパラメータとして示す図。
【図8】本発明の実施例2の非接触通信媒体におけるアンテナコイルを有する層と共振コイルを有する層の模式的な断面図。
【図9】本発明の実施例3の非接触通信媒体におけるアンテナコイルを有する層と共振コイルを有する層の模式的な断面図。
【図10】本発明の実施例4の非接触通信媒体の分解斜視図。
【図11】従来の電磁誘導を利用した非接触通信媒体と外部の読取装置との間の通信の原理を説明する斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0024】
図1は、本発明による非接触通信媒体の原理を説明するために示す模式的な断面図である。図1においてはICと共振コイルに接続されたコンデンサは省略して示しているが、図1のように、本発明の非接触通信媒体は、多層構造を有し、外部の装置との間で電磁誘導を利用して情報の送受信を行う機能を有する非接触通信媒体であって、前記情報の送受信を制御する機能を有するICと、そのICに接続されたアンテナコイル2と、アンテナコイル2及びICのいずれにも結線されていない共振コイル1と、共振コイル1に接続されたコンデンサと、磁性体3とを具備している。アンテナコイル2と、共振コイル1と、磁性体3とが、それぞれ別の層内に配置され、アンテナコイル2を有する層が、共振コイル1を有する層と磁性体3を有する層との間に配置され、アンテナコイル2と共振コイル1とが電磁的に結合している。なお、図1においては、磁性体3の外側に金属体40が近接して存在する場合を示している。
【0025】
図1において、共振コイル1が外部の読取装置と結合し、さらにアンテナコイル2がその共振コイル1と結合することによって、単にアンテナコイル2のみが読取装置と結合するよりも高い効率が得られる、すなわち通信距離が伸びるという効果がある。このような技術として、多段ループアンテナなどが知られているが、多段ループアンテナの場合、各段のループアンテナ間の距離は約1/4波長必要である。一方、本発明では、アンテナコイル2と共振コイル1間は、ほぼ密着していても効果があり、薄型化が可能となる。共振コイル1の作製方法としては、銅線を基材に埋めこんで形成する方法や基材上に金属箔を接着した後エッチングによって形成する方法がある。さらに、基材に導電性ペーストを印刷して形成してもよい。エッチングや印刷によって形成する場合、コイルの始点と終点を結線するためにコイル上を跨いで配線する場合は、基材の裏面にその配線部分を形成し、表面と裏面間はスルーホールや超音波かしめ等の方法で電気的に接続される。または、コイル上の配線部分の表面に絶縁性のレジストを設置した後、その上に配線を印刷してもよい。アンテナコイル2も共振コイル1と同様な作製方法で実現できる。
【0026】
本発明の非接触通信媒体では、磁性体3によって、その外側の金属の影響を抑制することが出来る。図1に示すように、金属体40が近接して置かれた場合でも、磁性体3があることにより、磁性体3内に磁路が生じるため、金属体40に入射する磁束が減り、結果として磁界強度の劣化を抑制できる。図2は磁性体がない場合の磁束の変化を模式的に示す断面図である。共振コイル1及びアンテナコイル2により発生した磁界の磁束50が金属体40にぶつかった場合、図2に示すように、金属体40上に渦電流51が発生し、熱となってエネルギーが消費されるため、磁束50の強度が弱くなってしまう。
【0027】
上述のように、本発明においては磁性体3があることにより磁界強度の劣化を抑制でき、この効果はアンテナコイル2と共振コイル1の両方に良好な作用をもたらすため、通信距離を伸張させる効果はより高まる。磁性体3としては、フェライトや可撓性のある磁性シートなどが使用できる。磁性体3は、コイルに電流が流れることによって生じる磁界に作用するため、コイル線の直下にある場合に最も大きい効果が得られる。よって、磁性体3の中央部分など、コイル線の直下以外の部分に穴を開けても磁束の劣化抑制の効果は保存されるので、その穴の部分にICや他の構成部品を配置することによって、媒体の厚みを小さくすることもできる。これにより、一般的に使用されている基板部材を用いても媒体の厚みを抑えることができ、たとえばISO/IEC 7810で規定されているICカードの厚さ0.68mm以上0.84mm以下の規格を満たすことができる。
【0028】
以上のように、本発明により、それぞれ別の層内に配置された、磁性体、アンテナコイル、共振コイルなどを具備することにより、小型でかつ周囲の影響を受けにくく、長い通信距離を確保できる非接触通信媒体が得られる。
【実施例】
【0029】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【0030】
先ず、本発明による非接触通信媒体の実施例1について説明する。図3は、本発明の実施例1の非接触通信媒体における多層構造の全体構成を示す斜視図である。図4は本発明の実施例1の非接触通信媒体における共振コイルを有する層の斜視図、図5は本発明の実施例1の非接触通信媒体におけるアンテナコイルを有する層の斜視図、図6は本発明の実施例1の非接触通信媒体における磁性体の斜視図である。図3のように、実施例1では、共振コイルを有する層10、アンテナコイルを有する層20、磁性体30がこの順に積層されて構成されている。図4及び図5において、共振コイル11及びアンテナコイル21は、それぞれ、ポリイミドフィルムからなる基材13及び23の両面に接着された銅箔をエッチングして形成した。基材13及び23の厚みは50μm、大きさは30×40mmであり、銅箔の厚みは30μmである。共振コイル11のターン数は2ターン、アンテナコイル21のターン数は2ターンである。共振コイル11には、容量200pFのセラミックコンデンサ12を半田付けにより接続し、共振回路を形成する。一方、アンテナコイル21を設置した基材23には、アンテナコイル21と接続される通信制御用のIC22を設置する。IC22は、ISO/IEC 14443 Type−Aで規定される通信規約に準拠した2mm角のチップのICを採用し、アンテナコイル21とはフリップチップ実装によって接続した。通信に使用する無線周波数は13.56MHzである。図6において、磁性体30としては厚み200μm、比透磁率80のフェライト板を採用した。磁性体30には4mm角の穴31を開け、アンテナコイル用の基材23と磁性体30を貼り合わせた際に、IC22が穴31に入ることにより、全体の厚みを抑制し、突起部の無い構造とした。アンテナコイル用の基材23(図5)と磁性体30との貼り合わせ、及びアンテナコイル用の基材23と共振コイル用の基材13(図4)の貼り合わせには、厚み50μmの両面テープを使用した。さらに、この磁性体30の下には厚み150μmの両面テープ(図示せず)と厚み100μmの剥離紙60(図3)を設置し、実施例1の非接触通信媒体を物品に貼り付けて使用できるようにした。剥離紙60を加えた実施例1の非接触通信媒体の全体の厚さは約0.7mmとなった。
【0031】
実施例1の非接触通信媒体と従来の非接触通信媒体とを、電子機器の組み立てラインにおいて部品に貼り付けて使用し、製造管理用途における比較評価を行った。従来の非接触通信媒体は、その部品が組み立てられて電子機器のケースの中に入ってしまうと、機器内部の金属の影響と、部品からケースまでに10mm以上の距離が生じるために読み取りができなかった。一方、実施例1の非接触通信媒体は、機器を組み立てた後もケースの外側からの読み取りが可能であり、組み立て後の部品トレース管理が可能となった。
【0032】
また、本発明では、ICの内部または外部の少なくとも一方にアンテナコイルに接続されたコンデンサを有する。図7は、本発明の実施例1の非接触通信媒体におけるアンテナコイルとそれに接続されたコンデンサにより構成される共振回路の共振周波数と通信距離との関係を、共振コイルと共振コイルに接続されたコンデンサにより構成される共振回路の共振周波数をパラメータとして示す図である。なお、図7においては、共振コイルによる共振回路がない場合の結果も合わせて示している。実施例1においては、通信に使用する無線周波数13.56MHzに対して、アンテナコイルによる共振回路の共振周波数が21MHz、共振コイルによる共振回路の共振周波数が15MHzのときに最も長い通信距離が得られた。図7において、共振コイルによる共振回路を設置した場合は、共振コイルによる共振回路の共振周波数が20MHzの場合を除いて、共振コイルがない従来の非接触通信媒体の場合よりも長い通信距離が得られている。さらに、共振コイルによる共振回路の共振周波数とアンテナコイルによる共振回路の共振周波数が、無線周波数より高く、かつ、共振コイルによる共振回路の共振周波数がアンテナコイルによる共振回路の共振周波数より低いときに、通信距離を伸張する上でより大きな効果が得られることを見出した。
【0033】
なお、実施例1に係る非接触通信媒体において、図4及び図5のような共振コイル11やアンテナコイル21は、先に述べたような銅線や導電ペーストの印刷などの方法によっても形成できる。基材13及び23の材料としては、ガラスエポキシ基板や、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムなども採用できる。さらに、図6のような磁性体30としては、軟磁性材料を樹脂と混合して作製した磁性体も採用できる。
【0034】
次に、本発明による非接触通信媒体の実施例2について説明する。図8は、本発明の実施例2の非接触通信媒体におけるアンテナコイルを有する層と共振コイルを有する層の模式的な断面図である。図8において、共振コイル111及びアンテナコイル121は、ガラスエポキシからなる2層の基材層とそれらの層の表面及び間に配置された3層の金属層とからなる1枚の基板内に形成されている。共振コイル111は、基材113の表面にコイルパターンが形成され、アンテナコイル121は基材123の表面にコイルパターンが形成されている。共振コイル111及びアンテナコイル121は、コイルパターンの始点と終点を最終的に短絡する必要があるため、基材113と基材123の間の金属層に短絡用電極71を形成し、スルーホール70を介してそれぞれの基材の表面と裏面とを接続することで短絡している。この場合、図8のように、共振コイル111とアンテナコイル121のそれぞれの短絡用電極71が重ならないように配置をすることで、共振コイル111とアンテナコイル121で短絡用の金属層を共用し、1枚の基板内で共振コイル111とアンテナコイル121の両方を実現している。なお、磁性体はアンテナコイル121が設置された基材123の下側に配置される。
【0035】
図9は、本発明の実施例3の非接触通信媒体におけるアンテナコイルを有する層と共振コイルを有する層の模式的な断面図である。実施例3においては、共振コイル111及びアンテナコイル121を1枚のPETフィルムからなる基材43上に並置して形成し、その後、基材43を共振コイル111とアンテナコイル121の間で折り曲げることにより、共振コイル111とアンテナコイル121を隣り合う層に配置する構造を実現したものである。この方法によれば、必要な基材を減らすことが可能となり、また共振コイル111と接続されるセラミックコンデンサ12と、アンテナコイル121に接続されるIC22を同じ面に設置することができるため、自動マウント機でセラミックコンデンサ12とIC22を設置する際に、工程時間を短縮できるなどの利点がある。
【0036】
図10は、本発明の実施例4の非接触通信媒体の分解斜視図である。実施例4は外部の装置との間で接触通信を行う機能も有しており、そのための外部端子を有する非接触通信媒体である。図10において、実施例4は、共振コイルを有する層210、アンテナコイルを有する層220、磁性体230に加えて、裏面に接触通信用の外部端子81を設置した基板80から構成されている。基板80は基材83上に、アンテナコイル221と接続される非接触通信用のIC22と、接触通信用の外部端子81に接続される接触通信用のIC24とを設置している。外部端子81は、基材83のICの実装面の裏面に形成される。磁性体230の中央には穴231を設け、2つのICと磁性体230とが物理的に干渉しないように配置されている。また、アンテナコイル221が設けられた基材223には、接続用電極72が形成され、基材80上に設置した接続ピン73と接触することにより、アンテナコイル221が非接触通信用のIC22と電気的に接続される。なお、アンテナコイル221とIC22の接続は、アンテナコイル用の基材223にタブ状の端子部を形成し、これを基板80の部分で折り曲げて半田付け等の手段により接続してもよい。共振コイル211は基材213上に実施例1の共振コイルと同様な方法で形成されている。
【0037】
実施例4の非接触通信媒体において、接触通信用のIC24としてSIMカードの機能を有するICを搭載し、携帯電話用のSIMカードとして使用可能とした。この場合、上記のように構成した非接触通信媒体をプラスチックからなるケース90に封止した。これを携帯電話に搭載した状態で、外部の読取装置との間で通信が可能であることを確認し、その通信距離は30mmであった。
【0038】
以上のように、本発明の非接触通信媒体は、たとえば小型の金属製品に貼付して物品管理に利用することが可能になり、また、非接触通信機能を持つSIMカード等にも利用できる。
【0039】
なお、本発明の非接触通信媒体は、上記の実施例に示したものに限定されるものではないことはいうまでもなく、目的や用途に応じて設計変更可能である。例えば、アンテナコイルや共振コイルの形状、各層内での配置、それを搭載する基材の形状や材料、磁性体の形状や材料などは任意に設計変更可能である。また、実施例に記載した部材以外の部品や部材を、必要とする機能、性能、用途に応じて追加することも可能である。
【符号の説明】
【0040】
1、11、111、211 共振コイル
2、21,101,102、121、201、221 アンテナコイル
3、30、230 磁性体
10、210 共振コイルを有する層
12 セラミックコンデンサ
13、23、33、43、83、113、123、213、223 基材
20、220 アンテナコイルを有する層
22、24 IC
31、231 穴
40 金属体
50 磁束
51 渦電流
60 剥離紙
70 スルーホール
71 短絡用電極
72 接続用電極
73 接続ピン
80 基板
81 外部端子
90 ケース
100 非接触通信媒体
200 読取装置
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多層構造を有し、外部の装置との間で電磁誘導を利用して情報の送受信を行う機能を有する非接触通信媒体であって、前記情報の送受信を制御する機能を有するICと、前記ICに接続されたアンテナコイルと、前記アンテナコイル及び前記ICのいずれにも結線されていない共振コイルと、前記共振コイルに接続されたコンデンサと、磁性体とを具備し、前記アンテナコイルと、前記共振コイルと、前記磁性体とが、それぞれ別の層内に配置され、前記アンテナコイルを有する層が、前記共振コイルを有する層と前記磁性体を有する層との間に配置され、前記アンテナコイルと前記共振コイルとが電磁的に結合していることを特徴とする非接触通信媒体。
【請求項2】
前記ICの内部または外部の少なくとも一方に前記アンテナコイルに接続されたコンデンサを有し、前記共振コイルと前記共振コイルに接続されたコンデンサにより構成される共振回路の共振周波数が、前記アンテナコイルと前記ICの内部または外部のコンデンサにより構成される共振回路の共振周波数より低いことを特徴とする請求項1に記載の非接触通信媒体。
【請求項3】
前記共振コイルの外形の最大寸法及び最小寸法は、それぞれ前記アンテナコイルの外形の最大寸法及び最小寸法のそれぞれ90%〜110%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非接触通信媒体。
【請求項4】
前記アンテナコイルと前記共振コイルは、多層の導体層を有する基板のそれぞれ異なる導体層に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非接触通信媒体。
【請求項5】
前記共振コイルと前記アンテナコイルとが、フレキシブルな基板に並置されて形成され、前記フレキシブルな基板を前記共振コイルと前記アンテナコイルとの間で折り曲げることにより、前記共振コイルと前記アンテナコイルとが互いに隣接する層に配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非接触通信媒体。
【請求項6】
全体の厚さが0.84mm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の非接触通信媒体。
【請求項7】
外部端子を有し、前記外部端子への接触により外部の装置との間で情報の送受信を行う機能を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の非接触通信媒体。
【請求項8】
SIMカードの機能を有することを特徴とする請求項7に記載の非接触通信媒体。
【請求項1】
多層構造を有し、外部の装置との間で電磁誘導を利用して情報の送受信を行う機能を有する非接触通信媒体であって、前記情報の送受信を制御する機能を有するICと、前記ICに接続されたアンテナコイルと、前記アンテナコイル及び前記ICのいずれにも結線されていない共振コイルと、前記共振コイルに接続されたコンデンサと、磁性体とを具備し、前記アンテナコイルと、前記共振コイルと、前記磁性体とが、それぞれ別の層内に配置され、前記アンテナコイルを有する層が、前記共振コイルを有する層と前記磁性体を有する層との間に配置され、前記アンテナコイルと前記共振コイルとが電磁的に結合していることを特徴とする非接触通信媒体。
【請求項2】
前記ICの内部または外部の少なくとも一方に前記アンテナコイルに接続されたコンデンサを有し、前記共振コイルと前記共振コイルに接続されたコンデンサにより構成される共振回路の共振周波数が、前記アンテナコイルと前記ICの内部または外部のコンデンサにより構成される共振回路の共振周波数より低いことを特徴とする請求項1に記載の非接触通信媒体。
【請求項3】
前記共振コイルの外形の最大寸法及び最小寸法は、それぞれ前記アンテナコイルの外形の最大寸法及び最小寸法のそれぞれ90%〜110%であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非接触通信媒体。
【請求項4】
前記アンテナコイルと前記共振コイルは、多層の導体層を有する基板のそれぞれ異なる導体層に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非接触通信媒体。
【請求項5】
前記共振コイルと前記アンテナコイルとが、フレキシブルな基板に並置されて形成され、前記フレキシブルな基板を前記共振コイルと前記アンテナコイルとの間で折り曲げることにより、前記共振コイルと前記アンテナコイルとが互いに隣接する層に配置されることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非接触通信媒体。
【請求項6】
全体の厚さが0.84mm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の非接触通信媒体。
【請求項7】
外部端子を有し、前記外部端子への接触により外部の装置との間で情報の送受信を行う機能を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の非接触通信媒体。
【請求項8】
SIMカードの機能を有することを特徴とする請求項7に記載の非接触通信媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−215953(P2012−215953A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−79148(P2011−79148)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】
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