説明

非接触電圧検出装置

【課題】電線に取り付ける検出プローブの装着が容易に行え、測定電圧の変動が少なく信頼性が高い非接触電圧検出装置を提供する。
【解決手段】検出プローブ10は、電線15の絶縁被覆17の外面に密着させて巻き付け可能な可撓性を有する絶縁部材11中に、電線15側の大面積の第1電極12と、この第1電極12の一部に対向させる電圧検出用の小面積の第2電極13を、予め定めた間隔を保って配置すると共に、第2電極13に接続された測定線14を引き出して構成している。検出プローブ10の第1電極12と前記第2電極13間で形成する補助コンデンサ部分の静電容量は、電線15の芯線16と第1電極12間の静電容量に比べて十分小さくしている。電線15の絶縁被覆17の外周面に、検出プローブ10密着させて取り付け、補助コンデンサ部分に検出用コンデンサ及び電圧検出回路を接続し、電線15の芯線に印加される交流電圧を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非接触電圧検出装置に係り、特に絶縁被覆した電線の芯線に印加された電圧を、非接触で測定するのに好適な非接触電圧検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、芯線を絶縁被覆した電線を使用するとき、芯線に印加された交流電圧を、絶縁被覆を破らずに測定できると、安全に測定作業が行えるため有利であり、しかも簡便に測定できる利点がある。しかし、継続して芯線に印加された交流電圧を測定するには、電線の絶縁被覆上に検出プローブを配置する必要がある。
【0003】
検出プローブを、電線の絶縁被覆を損傷させずに固定するには、固定する手段を工夫せねばならないし、検出プローブの形状にも制約が生じている。このため、外側を絶縁部材とした検出プローブを使用し、安全性を確保できるようにすることが求められている。
【0004】
電線の絶縁被覆上から芯線に印加された交流電圧を計測する非接触電圧検出装置としては、特許文献1に記載された非接触電圧検出装置が知られている。この特許文献1の非接触電圧検出装置では、図4(a)に示す如く絶縁部材2内にシールド3と補助コンデンサ電極となる導電部材4とを設け、かつ絶縁部材2の外面に測定電極5を設けて平板状の検出プローブ1を構成し、導電部材4と測定電極5との間に所定の静電容量の補助コンデンサを形成するようにしている。
【0005】
この検出プローブ1は、図4(b)の等価回路に示す如く測定対象となる被測定電線8に配置し、測定電極5に検出用コンデンサを含む検出回路7Aと検出器7Bを有する電圧測定部6を接続して使用する。この配置では、被測定電線8の種類と測定電極5の形状によって、両者間の結合静電容量Cxは凡そ定まり、結合静電容量Cxの最大値程度である補助コンデンサの静電容量Caを直列に挿入することで、被測定電線8との結合静電容量Cxの変動値の影響を半分以下に抑えられるとされている。
【0006】
この等価回路の被測定電線8と検出回路7A間の合成静電容量Ctotalは、結合静電容量Cxの変動分Cyを考慮した以下の式で表される。そして、検出回路7Aの基準コンデンサと合成静電容量Ctotalとで被測定電圧が分圧され、電圧測定部1に印加される。
【0007】
[式1]

【0008】
ここで、結合静電容量Cxの変動分Cyを含めて1〜10PF、補助コンデンサの静電容量Caを10PFにして考えた場合、合成静電容量Ctotalの値は表1に示すようになる。つまり、見かけ上の結合した静電容量(合成静電容量Ctotal)の変化の程度は、0.91PFが最大5.0PFに変化するため、補助コンデンサの静電容量Caがない場合の1PFから10PFへの変化に比べて結合容量の変化は半分となる。
【0009】
【表1】

【0010】
ただし、変動分Cyを含む結合静電容量Cxの変化が、通常は最小値に対して最大値は10倍程度の開きが考えられるから、電圧測定部6の検出回路7Aで検知する信号のレベルは、検出回路7Aの静電容量と合成静電容量の比で決まる。そして、その変化分は最大で約5倍となり、検出電圧は結合静電容量の変動にかなり大きく依存することになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−214689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
通常、測定対象である被測定電線8は断面円形であるから、この被測定電線8上に従来のような平板状の検出プローブ1を押し当てるように取り付けると、平面での接触ではなく部分的な点接触或いは線接触となってしまうことになる。この結果、被測定電線8に局部的な力が掛かり絶縁被覆の変形等が懸念され、安全上好ましくないし、また測定電極5が被測定電線8の絶縁被覆に平均的に接近していないと、結合容量が十分確保できない、或いは不安定になる等の不具合が懸念される。
【0013】
更に、結合静電容量Cxは被測定電線8の線径や材質、検出プローブ1の取り付け状態などの条件により変わった値となるから、電圧の分圧比が変化することから測定電圧の信頼性が低くなる問題があった。
【0014】
しかも、上記した従来の検出プローブ1では、補助コンデンサを測定電極5と被測定電線8との間の結合静電容量の最大値程度にして直列に挿入している。この場合、測定電極5と被測定電線8間の結合静電容量が、補助コンデンサの静電容量の約10分の1からほぼ同容量であるが、上記した如く合成結合静電容量の最小値/最大値の比は5倍強の開きとなる。このため、電圧測定部の検出回路で検知する信号レベルの変化も同様に5倍強となり、測定電圧の変動が大きくなって信頼性が低くなる問題があった。
【0015】
また、芯線に印加されている電圧測定を継続して行うには、電線8の絶縁被覆上に検出プローブ1を設置しなければならないから、被測定電線8の絶縁被覆を傷めずに、かつ安全に電線に固定する手段が必要である。一般的に、電圧測定が必要な被測定電線8が収納されている配電盤の内部は、十分な空間的な余裕がないから、検出プローブ1は固定手段も含めて小形化し、取り付けの容易化を図ることが望まれている。
【0016】
本発明の目的は、電線に取り付ける検出プローブの装着が容易に行え、検出プローブに内蔵された検出電極と絶縁被覆された芯線との間に形成される結合静電容量を安定化でき、測定電圧の変動が少なく信頼性が高い非接触電圧検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の非接触電圧検出装置は、芯線に絶縁被覆を施した電線に、所定の静電容量の補助コンデンサを形成した検出プローブを取り付け、前記補助コンデンサに検出用コンデンサ及び電圧測定部を接続し、前記電圧測定部で前記電線の芯線に印加される交流電圧を測定する際、前記検出プローブは、前記電線の絶縁被覆の外面に密着させて巻き付け可能な可撓性を有する絶縁部材中に、前記電線側の大面積の第1電極と前記第1電極の一部に対向させる電圧検出用の小面積の第2電極とを予め定めた間隔を保って配置すると共に、前記第2電極に接続された測定線を引き出して一体に構成し、前記第1電極と前記第2電極間で作る補助コンデンサ部分の静電容量は、前記電線の芯線と前記第1電極間の静電容量に比べて十分小さくしたことを特徴としている。
【0018】
好ましくは、前記電線の芯線と前記第1電極間の静電容量は10〜100PFとし、前記第1電極と前記第2電極間の静電容量は、前記電線の芯線と前記第1電極間の静電容量の1/100〜1/10の値に設定したことを特徴とし、また前記絶縁部材はポリイミド樹脂材であることを特徴としている。
【0019】
また好ましくは、前記検出用コンデンサの静電容量は、前記第1電極と前記第2電極間の静電容量に対して100〜1000倍としたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0020】
本発明の非接触電圧検出装置によれば、検出プローブは可撓性があり薄くて軽量なため、電線の直径が異なっても装着が容易であり、電線に密着させて安定した状態で取り付けることができる。このため、検出プローブ内の電圧検出用の第2電極と絶縁被覆した電線の芯線間に形成される結合静電容量の安定化を図ることができ、静電容量の違いによって生じる検出電圧の変動が極めて少なくなり、高精度で信頼性の高い電圧測定が行える。また、電線に取り付ける検出プローブの装着が容易に行え、検出プローブに内蔵された検出電極と絶縁被覆された芯線との間に形成される結合静電容量を安定化できから、測定電圧の変動が少なく信頼性が高い非接触電圧検出装置とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】(a)は本発明の非接触電圧検出装置に用いる検出プローブを示す正面図、(b)は(a)のA−A線の断面図である。
【図2】(a)は図1の検出プローブを電線に装着した本発明の非接触電圧検出装置を示す縦断面図、(b)は(a)のB−B線の断面図、(c)は(a)の側面図である。
【図3】(a)は本発明の非接触電圧検出装置の概略構成図、(b)は(a)の等価回路図である。
【図4】(a)は従来の非接触電圧検出装置の検出プローブの概略構成図、(b)は(a)の等価回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の非接触電圧検出装置は、芯線に絶縁被覆を施した電線に、所定の静電容量の補助コンデンサを形成した検出プローブを取り付け、前記補助コンデンサに検出用コンデンサ及び電圧測定部を接続し、前記電圧測定部により前記電線の芯線に印加される交流電圧を測定するものである。しかも、前記検出プローブは、前記電線の絶縁被覆の外面に巻き付け可能な可撓性を有する絶縁部材中に、前記電線側の大面積の第1電極と前記第1電極の一部に対向させる電圧検出用の小面積の第2電極とを予め定めた間隔を保って配置すると共に、前記第2電極に接続された測定線を引き出して一体に構成している。このとき、前記第1電極と前記第2電極間で作る補助コンデンサ部分の静電容量は、前記電線の芯線と前記第1電極間の静電容量に比べて十分小さくしている。
【実施例1】
【0023】
以下、本発明の非接触電圧検出装置を、図1から図3を用いて説明する。本発明では図1(a)、(b)に示す構成の検出プローブ10を用い、図2(a)、(b)、(c)の如く電線15の絶縁被覆17の外周面に密着させて取り付け、電線15の芯線16に印加された交流電圧を測定する。
【0024】
検出プローブ10は、電線15の絶縁被覆17の外周面に巻き付けて取り付けることが可能な、可撓性を有する厚みが0.1〜1mmのごく薄い絶縁部材11を用いている。そして、電線15側に位置する絶縁部材11内に大面積の第1電極12を配置し、この第1電極12に対向するように電圧検出用の小面積とした小円形の第2電極13を配置し、第2電極13には測定線14が接続されて絶縁部材11外に引き出て検出プローブ10を一体に構成している。
【0025】
第2電極13は第1電極12との一部、例えば図1の如く中央の下部の位置で対向させる電圧検出用の小面積の第2電極を、予め定めた間隔を保って配置している。この間隔を維持する第1電極12と第2電極13の配置で、両者間で作る補助コンデンサ部分の静電容量を後述するような値に設定している。なお、第1電極12と第2電極13は、銅箔等の金属箔を用いることができる。
【0026】
また、絶縁部材11は、例えばポリイミド樹脂やポリエチレン樹脂製のフイルム或いはシートを積層して接着剤を介在させて一体に形成することができる。望ましくは、電気機器等に市販され一般的に使用されている厚さ100〜200μmのポリイミド樹脂製のフイルム材或いはシート材を用い、例えばフイルム材或いはシート材面に接着剤を塗布して積層し、第1電極12と第2電極13を予め定めた間隔を維持するように配置して一体にする。
【0027】
上記のように、検出プローブ10は絶縁部材11内に第1電極12と第2電極13の両者を対向配置して構成するものであるから、約0.2mm程度の厚みで、数g程度の質量で形成することができる。このため、直径の異なる電線15であっても、電圧測定時に検出プローブ10を絶縁部材11面に巻きつけて、例えば接着剤にて簡単な接着或いは絶縁物紐で軽く縛着することにより、絶縁被覆17の外周面上に密着させて容易に取り付けることができ、絶縁被覆17を損傷させる恐れもなく安全に使用できる。
【0028】
検出プローブ10は、電線15の絶縁被覆17側と対向する第1電極12の面積が、第2電極13の面積よりはるかに広く形成している。このことから、電線15の芯線16と第1電極12間の静電容量に比較して、第1電極12と第2電極13間で作る補助コンデンサ部分の静電容量が十分小さくなるよう構成される。具体的には、芯線16と第1電極12間の静電容量は10〜100PF、第1電極12と第2電極13間の補助コンデンサ部分の静電容量は、前記した10〜100PFの1/100〜1/10の値に設定する。
【0029】
検出プローブ10を用いて電線15の芯線16に印加される交流電圧を測定する際には、図3(a)に示すように検出プローブ10の第1電極12が電線15側となるようにして、絶縁被覆17の外周面の形状に沿うように密着させて取り付ける。そして、第2電極13に連なる測定線14に、所定の静電容量の検出用コンデンサ21、及び検出用コンデンサ21と並列接続する電圧検出回路22を設けて接続を実施する。この場合、検出用コンデンサ21の静電容量は、第1電極12と第2電極13間で作る補助コンデンサの静電容量に対して100〜1000倍にして電圧を測定する。
【0030】
図3(a)の如く構成した非接触電圧検出装置は、図3(b)の等価回路となる。この回路における電線15の芯線16と第1電極12間の静電容量をCs、第1電極12と第2電極13間の静電容量をCaとすれば、双方の静電容量Cs、Caを含めた検出プローブ10の合成静電容量Cpは、Cp=Cs×Ca/Cs+Caで表される。このとき、静電容量Cs≫Caであることから、Cp≒Caであってほぼ静電容量Caに等しい。
【0031】
この等価回路で、電圧検出回路22の入力電圧Vinは、被測定電圧をV、検出用コンデンサ21の静電容量をCinとすれば、Vin={Cp/(Cp+Cin)}Vで表される。Cin≫Ca、Cp≒Caであることから、Vin≒(Ca/Cin)Vとなり、電圧検出回路22の入力電圧Vinは、第1電極12と第2電極間の静電容量Caと検出用コンデンサ静電容量Cinとの比でほぼ決まり、結合静電容量Csには殆ど依存しないことになる。従って、測定される電線15の形状や材質等の条件によって、結合静電容量Csが変化したとしても、電圧検出回路22の入力電圧Vinの変化が殆どないため、芯線16に印加される交流電圧の電圧測定を高精度で行うことができる。
【0032】
本発明の図3に示す検出プローブ10と電圧検出回路22を用いた非接触電圧検出装置において、最適かつ妥当な(イ)静電容量の変動分を含む結合静電容量Cs、(ロ)第1電極−第2電極間静電容量Ca、(ハ)検出プローブの合成結合静電容量Cp、(ニ)検出用コンデンサの静電容量Cin、における電圧検出回路の入力電圧真値Vin(1)と同値の比、及び電圧検出回路の入力電圧近似値Vin(2)を求めた例を、表2に示している。
【0033】
【表2】

【0034】
この表2に示す如く、検出プローブ10の結合静電容量Csを10〜100PFと変化させてみると、これが10倍に変化しても電圧検出回路22の入力電圧真値Vin(1)の比が1対1.028であるため、電圧検出回路22の入力電圧近似値Vin(2)は3%以下の変化に抑えることができる。
【0035】
上記した本発明の非接触電圧検出装置は、検出プローブ10自体に柔軟性を持たせており、しかも小形で薄形化しているから、被測定電線の芯線に非接触で絶縁被覆上に容易に取り付けることができ、安全かつ簡便に精度の高い電圧測定が行える。このため、例えば工場等の配電線路毎の電力計測を行うために、電流センサーと合わせて用いる電圧センサーとしても使用することができ、活用の用途を広げることができる。
【符号の説明】
【0036】
10…検出プローブ、11…絶縁部材、12…第1電極、13…第2電極、14…測定線、 15…電線、16…芯線、17…絶縁被覆、21…検出用コンデンサ、22…電圧検出回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯線に絶縁被覆を施した電線に、所定の静電容量の補助コンデンサを形成した検出プローブを取り付け、前記補助コンデンサに検出用コンデンサ及び電圧測定部を接続し、前記電圧測定部で前記電線の芯線に印加される交流電圧を測定する非接触電圧検出装置において、前記検出プローブは、前記電線の絶縁被覆の外面に密着させて巻き付け可能な可撓性を有する絶縁部材中に、前記電線側の大面積の第1電極と前記第1電極の一部に対向させる電圧検出用の小面積の第2電極とを予め定めた間隔を保って配置すると共に、前記第2電極に接続された測定線を引き出して構成し、前記第1電極と前記第2電極間で作る補助コンデンサ部分の静電容量は、前記電線の芯線と前記第1電極間の静電容量に比べて十分小さくしたことを特徴とする非接触電圧検出装置。
【請求項2】
請求項1において、前記電線の芯線と前記第1電極間の静電容量は10〜100PFとし、前記第1電極と前記第2電極間の静電容量は、前記電線の芯線と前記第1電極間の静電容量の1/100〜1/10の値に設定したことを特徴とする非接触電圧検出装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記絶縁部材はポリイミド樹脂材であることを特徴とする非接触電圧検出装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかにおいて、前記検出用コンデンサの静電容量は、前記第1電極と前記第2電極間の静電容量に対して100〜1000倍としたことを特徴とする非接触電圧検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−163394(P2012−163394A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−22505(P2011−22505)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【出願人】(591001525)株式会社日立エレクトリックシステムズ (12)
【出願人】(504203572)国立大学法人茨城大学 (99)
【Fターム(参考)】