説明

非接触ICカードの回路方式

【目的】 本発明の目的は、電磁結合によってリーダからトランスポンダに電力を供給する場合,複数個のキャパシタによってリアクタンス成分の相殺とインピーダンスの整合を行なうことによって電力供給効率を高めると共にトランスポンダにおいて高周波定電流源をオン,オフすることによってリーダへの信号伝送を効率よく行なうことのできる非接触ICカードの回路方式を提供することである。
【構成】 高周波電源1の内部抵抗(抵抗2)とリーダの1次コイル6の抵抗成分(抵抗5)とのインピーダンス整合をキャパシタ3,4により行うと共にとトランスポンダの2次コイル8の抵抗成分(抵抗9,10)と負荷(抵抗14)とのインピーダンス整合を行なうキャパシタ11,12,13より構成され,高周波定電流源が2次コイル8に並列に接続される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非接触ICカードシステムにおいて,リーダからトランスポンダに電力を供給して,トランスポンダに内蔵されている集積回路を作動させると共に,トランスポンダからリーダへの信号伝送を行う非接触ICカードの回路方式に関する。
【背景技術】
【0002】
人と物が移動する場合,これらの個体はトランスポンダを通して固定的に設置された情報処理システム(リーダ)と情報交換を行なう非接触ICカードを用いる改札システムは高い利便性を有する。このシステムは図1に示すように構成され,リーダには高周波電源31,電源内部インピーダンス32,トランス34の1次コイルとキャパシタ33よりなる並列共振回路が含まれ,トランスポンダにはトランス34の2次コイルとキャパシタ35よりなる並列共振回路,2次コイルの高周波電圧を整流するためのダイオード36,ダイオード36に接続される平滑キャパシタ37,及び集積回路38が含まれる。なお,トランス34は1次コイルと2次コイルの関係は固定されておらず,リーダとトランスポンダの位置関係により結合係数が変化する。従って,1次コイルで発生する高周波数磁界が2次コイルを貫通するようにトランスポンダをリーダに近づけることにより結合係数が増大し,リーダからトランスポンダへの供給電力が増大する。なお,従来の回路方式ではリーダおよびトランスポンダにおいてそれぞれの並列共振回路がリーダの送信周波数となるように設計されるので,トランスポンダコイルの高周波電圧は最大となる。しかし,共振回路では電力供給を最大にすることが困難であった。
【0003】
さらに集積回路38への供給電力を大きくするために,図1においてトランス34の2次コイル,キャパシタ35および37,ダイオード36,集積回路38より構成されるトランスポンダに代わって図2に示す全波整流形のものを用いる。なお,図2において,2次コイルに参照数字39を付してあり,他の部分には図1と同一の参照数字が用いられている。
【0004】
図1および図2には示されていないが,トランスポンダからリーダへの信号伝送を行なう従来方式は集積回路の電源に並列に抵抗負荷を接続し,この抵抗負荷をオンおよびオフすることにより生ずるリーダの高周波電源31の出力電流変化を検出することにより行なっている。しかし,トランスポンダが消費する電流変化がリーダの出力電流変化に大きく影響しない。これはトランスポンダの電流変化がリーダに効率よく伝送されないためである。すなわち,トランスポンダとリーダを含む回路のインピーダンス整合が不十分であり,さらにコイルのインダクタンスをキャパシタのキャパシタンスで相殺する条件が満足されていないためである。従って,従来の回路方式はインピーダンス整合に基づくものではないので,トランスポンダからリーダへの信号伝送効率を高めることは困難であった。
【0005】
この改善策として,インピーダンス整合の原理に基づいて,リーダからトランスポンダへの電力を供給すると共にトランスポンダでは全波整流によって高周波電力を直流電力に変換し,さらに高周波定電流源のオン・オフ制御によりトランスポンダからリーダへ信号を伝送することにより電力供給効率および信号伝送効率を高めることが可能となる。
【特許文献1】特開2003−224415号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
リーダとトランスポンダのそれぞれに高周波電源の周波数で共振する並列共振回路を用いる従来方式では,インピーダンス整合の配慮がなされないので電力供給効率の最大化は困難である。また,トランスポンダからリーダへの信号伝送を行なう場合においても,単に負荷を変化させるだけでは信号伝送効率を高めることができない。従って,電力供給効率および信号伝送効率を高めることが課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために,本発明の非接触ICカードの回路方式は,高周波電源の内部抵抗とリーダの1次コイルの抵抗とが整合するように2個のキャパシタを使用する。その内の1個は高周波電源と1次コイルと間に接続され,他は上記1次コイルと並列に接続される。キャパシタの数を3個使用することもできる。同様にトランスポンダにおいても,負荷抵抗と2次コイルの抵抗成分とが整合するように複数個(3個が望ましい)のキャパシタを使用する。もちろん,キャパシタを2個にすることもできる。
【0008】
リーダにおいては,上記複数個のキャパシタは1次コイルのインダクタンスによるリアクタンス分を相殺することにより無効電力の影響を排除して,電力供給効率を高める働きを有する。同様に,トランスポンダにおいても,上記複数個のキャパシタは2次コイルのインダクタンスによるリアクタンス分を相殺することにより無効電力の影響を排除して,電力供給効率を高める働きを有する。
【0009】
トランスポンダからリーダへの信号伝送効率を高めるためには2次コイルに信号電流を直接供給することが大切である。この場合,すでにインピーダンス整合が行なわれているので,信号電流は効率よくリーダに供給される。出力インピーダンスの高い定電流源を用いて信号電流を供給すると,インピーダンス整合状態に影響を及ぼすことがないので,高い信号伝送効率が得られる。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成された非接触ICカードの回路方式において,トランスの1次コイルおよび2次コイルのリアクタンスを複数個のキャパシタで相殺して無効電力の影響を排除すると共に高周波電源の内部インピーダンスと1次コイルの抵抗成分とのインピーダンス整合を行なうことにより,リーダにおける電力供給効率を高める。この原理をトランスポンダの回路方式に取り入れることにより2次コイルの抵抗成分と負荷抵抗とのインピーダンス整合を行ない,同時に無効電力の影響を排除することにより負荷への電力供給効率を高める。
【0011】
さらにトランスポンダからリーダへ信号伝送は,2次コイルに接続された高周波定電流源のオンおよびオフにより行なうことにより信号は効率よくリーダに伝送される。このことは集積回路が必要とする電力を少ない損失で供給できるため消費電力の低減に伴う動作の安定化,小型化,信頼性向上等の利点が生ずる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
リーダにおいては,高周波電源の内部インピーダンスは一次コイルの抵抗成分より高く,トランスポンダにおいては,負荷抵抗(全波整流回路の入力抵抗を意味する)は2次コイルの抵抗成分より高いので,リーダのインピーダンス整合は高周波電源に直列にキャパシタを接続すると共に別のキャパシタを1次コイルと並列に接続し,トランスポンダのインピーダンス整合は2次コイルに並列にキャパシタを接続すると共に別のキャパシタを負荷抵抗に直列に接続し,2次コイルの両端に高周波定電流源を接続して実現した。
【実施例】
【0013】
実施例について図面を参照して説明する。図3は本発明による非接触ICカードの回路方式について,インピーダンス整合の観点から動作原理を説明するための等価回路図であり,リーダとトランスポンダが含まれる。さらに,リーダは高周波電源1,高周波電源1の内部抵抗2,インピーダンス整合のためのキャパシタ3および4,1次コイル6,およびコイル6の抵抗成分に対応する抵抗5よりなる。トランスポンダは2次コイル8,2次コイル8の抵抗成分に対応する抵抗9および10,インピーダンス整合のためのキャパシタ11,12および13,および負荷抵抗14よりなる。従って,トランスポンダは平衡形四端子網を構成しており,後述のように全波整流を可能とするものである。
【0014】
まず,トランス7の結合係数について述べると,結合係数はリーダとトランスポンダとの位置関係によって変化するが,トランス7の結合係数を設計上の最小値において,高周波電源からの電力供給効率を最大にしておけば,上記結合係数が大きい場合にはより大きな電力を供給できる。このことから結合係数が設計上の最小値において電力供給効率を最大にすることが重要となる。結合係数が小さい場合には,リーダとトランスポンダのそれぞれを独立した回路で近似できる。すなわち,リーダにおいては,1次コイル6,キャパシタ3および4,抵抗2および5,高周波電源1のみで構成する。この回路の電力供給効率を最大にする条件は,1次コイル6のリアクタンスとキャパシタ3および4のリアクタンスを相殺する条件は(数1)で与えられる。さらに高周波電源の内部インピーダンス(抵抗2)とコイル6の抵抗成分(抵抗5)とのインピーダンス整合を行なう条件は(数2)および(数3)で与えられる。
【0015】
【数1】

【0016】
【数2】

【0017】
【数3】

【0018】
上式において,L,C,C,R,Rおよびωはそれぞれコイル6のインダクタンス,キャパシタ3のキャパシタンス,キャパシタ4のキャパシタンス,抵抗2の抵抗値,抵抗5の抵抗値,および角周波数を表す。
【0019】
次にトランスポンダの近似回路は2次コイル8,コイル8の抵抗成分(抵抗9および10),キャパシタ11,キャパシタ12および13,および負荷抵抗(抵抗14)より構成される。図には明記されていないが,トランスポンダへの電力供給は1次コイルを流れる高周波電流と相互インダクタンスにより行なう。リーダの場合と同様にトランスポンダの負荷(抵抗14)に供給される電力を最大に条件は次のようになる。
【0020】
【数4】

【0021】
【数5】

【0022】
【数6】

【0023】
上式において,L,C2,C,R,Rおよびωはそれぞれ2次コイル8の自己インダクタンス,キャパシタ11のキャパシタンス,キャパシタ12および13のキャパシタンス,負荷(抵抗14)の抵抗値,コイル8の抵抗成分を二分した抵抗9および10の抵抗値,および角周波数を表す。
【0024】
これまで述べたように高周波電源1の内部抵抗を示す抵抗2と1次コイル6の抵抗成分を示す抵抗5とのインピーダンス整合を行なうと共に2次コイル8の抵抗成分を示す抵抗9および10と負荷抵抗14とのインピーダンス整合が行なわれる。さらに1次コイル6の自己インダクタンスによるリアクタンスをキャパシタ3および4のリアクタンスで相殺することにより,高周波電源からの電力供給効率を高める。この原理をトランスポンダ回路にも適用して負荷抵抗14への電力供給効率を高める。
【0025】
次に図4を参照して高周波電圧を全波整流するための回路について説明すると,コイル8に電磁誘導される高周波電圧はキャパシタ12および13を通して全波整流回路に与えられる。全波整流回路はダイオード40,41,42,43と平滑キャパシタ37より構成される。ダイオード40,42の共通カソードから正の直流電圧が,ダイオード41,43の共通アノードから負の直流電圧が現れ,集積回路38に電力を供給する。主として集積回路で消費される電力に等価となるように抵抗14の抵抗値が選ばれる。図4は回路素子の接続を示すもので,2次コイル8の抵抗成分は示されていないが,図3のトランスポンダ等価回路と矛盾することはない。
【0026】
以上を要約すると,リーダのアンテナコイルに発生する高周波電磁界がトランスポンダコイルを突き抜けることにより、トランスポンダに電力を供給する非接触ICカードシステムにおいて、トランスポンダコイルに発生する高周波電圧がインピーダンス変換用キャパシタを通して全波整流回路に印加されるように構成した非接触ICカードの回路方式は電力供給効率を高める上で有用であることが分かる。
【0027】
次に図5(図4に直流電源印加端子14,高周波電流源15および16を付加したもの)を参照して,トランスポンダからリーダへ信号伝送について述べると,2次コイルに外部から高周波電流を供給するために2個の高周波電流源15および16を2次コイル8に接続すると,接続点におけるインピーダンスは低いので,高周波電流源15および16からの高周波電流は容易に2次コイル8を流れる。また,高周波電流源15および16の内部インピーダンスは非常に高いので,高周波電流源15および16の接続によって整合条件は変わることがない。このことはトランスポンダからリーダへの信号伝送効率は高周波電流源15および16の接続によって影響されることがないので,高くできることを意味する。なお,2次コイルに接続された高周波電流源のオンおよびオフを2値情報に対応させることによりリーダにおける信号受信が可能である。さらに,高周波電流源の位相がリーダの高周波電源の位相より約45度進んでいるときに信号伝送効率が最大となることが判明した。なお,図5には2個の高周波電流源が使用されているが,1個のOTA(Operational Transconductance Amplifier)を使用した高周波電流源をトランスポンダコイル8に並列に接続してもよい。以上の説明で明らかなようにトランスポンダコイルとインピーダンス変換用キャパシタの接続点に高周波電流源を接続して,リーダへの信号伝送を行なう非接触ICカードの回路方式の有用性が確かめられている。
【0028】
以上述べたように本発明によれば,複数個のキャパシタのリアクタンスとコイルのリアクタンスとを相殺させると共にインピーダンス整合を行ない,あらに全波整流回路を平衡形四端子網で構成することにより集積回路38への供給電圧を1ボルトから3ボルトに高めることができた。
【0029】
次にトランスポンダからリーダへの信号伝送特性について述べると,従来の方法(負荷を変化させる方法)と本発明による高周波電流源を用いる方法についての信号伝送特性をそれぞれ表1および表2に示す。表1は図3において負荷抵抗14を変化させて抵抗2および負荷抵抗14を流れる高周波電流の振幅を調べたものであり,表2は高周波電流源(振幅2mA)をキャパシタ11に並列に挿入した場合である。図3の他の素子の値は高周波電源1(振幅=8ボルト,周波数=13.56MHz),抵抗2=50Ω,キャパシ3=33pF,キャパシ4=105pF,抵抗5=2.8Ω,コイル6の自己インダクタンス=1uH,コイル8の自己インダクタンス=2uH,抵抗9,10=1.7Ω,キャパシタ11=60pF,キャパシタ12,13=19pFである。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
表1において,負荷抵抗14を180Ωから120Ωに変化させると負荷抵抗14を流れる電流1.9mA増加する。このときリーダの抵抗2を流れる電流は0.8mA減少することが分かる。一方,表2から高周波電流源をオン,オフした場合において,抵抗14を流れる電流変化は,その位相が高周波電源に対して45度進んでいるときに最大となり,その値は3.9mAに達する。このことからトランスポンダにおいて,2mA程度の電流変化を与えた場合,リーダにおける電流変化は従来の方法に比して本発明の方法は4倍程度大きくなることが分かる。従って,信号伝送特性が改善できれば,コイルのインダクタンス特に相互インダクタンスを小さくすることができるので,コイル寸法の小型化および消費電力の低減が可能となり,回路の安定動作,小型化,信頼性向上等の利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】従来の非接触ICカードの回路方式
【図2】従来のトランスポンダ部の回路方式
【図3】本発明の一実施例に等価回路
【図4】本発明の一実施例による全波整流回路
【図5】本発明の一実施例による高周波電流源のオン,オフによる信号伝送回路方式
【符号の説明】
【0034】
1は高周波電源
2は内部抵抗
3はキャパシタ
4はキャパシタ
5は抵抗
6は1次コイル
7はトランス
8は2次コイル
9,10は抵抗
11,12,13はキャパシタ
14は負荷抵抗
15は直流電圧印加端子
16,17は高周波電流源
31は高周波電源
32は抵抗
33はキャパシタ
35はキャパシタ
36はダイオード
37はキャパシタ
38は集積回路
40,41,42,43はダイオード


【特許請求の範囲】
【請求項1】
リーダのアンテナコイルに発生する高周波電磁界がトランスポンダコイルを突き抜けることにより、トランスポンダに電力を供給する非接触ICカードシステムにおいて、トランスポンダコイルに発生する高周波電圧がインピーダンス変換用キャパシタを通して全波整流回路に印加されるように構成した非接触ICカードの回路方式。
【請求項2】
請求項1記載の非接触ICカードの回路方式において、トランスポンダコイルとインピーダンス変換用キャパシタの接続点に高周波定電流源を接続して,リーダへの信号伝送を行なう非接触ICカードの回路方式。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−19792(P2006−19792A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−192687(P2004−192687)
【出願日】平成16年6月30日(2004.6.30)
【出願人】(392021115)
【Fターム(参考)】