説明

非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法

【課題】低い加圧力で、かつ小さな加圧面積(接合面積)で、更により低い加熱温度で、より強度の高いばらつきのない良好な接合結果を得ること。
【解決手段】巻線型コイルは銅芯線1bに絶縁膜1aを施した銅電線で作製し、そのリード部1をICチップ2の接続端子3の最外層の金膜3a上に、その二つの平行な辺と直交状態に載置し、そのリード部1の上にこれに直交状態で加熱・加圧手段5を当接させ、加圧を開始し、続いて電流を流して発熱させつつ更に加圧する。巻線型コイルの線径:φ70μm±3μm(絶縁膜1a:ポリウレタン皮膜)、ICチップ2:□1000μm、接続端子3:100μmの正方形、金膜3aの厚さ18μm、加熱・加圧手段5:タングステン製、当接面4:長辺の長さ250μmで短辺の幅70μm、溶接電圧:1.8V、通電時間:加圧開始0.1秒後から0.3秒間、加圧力:80g、加圧時間:0.8秒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多くのサービス産業、物品販売業、製造業、物流業及び金融業等の種々の分野で、物品や人物に関する個体の自動認識の手段として用いられる非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップの接続端子とを接続するその接続方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
絶縁被覆を施してある銅製の巻線型コイルのリード部と最外層に金膜を施してあるICチップの接続端子との接続方法に関しては、いくつかの提案がある。
【0003】
特許文献1は、巻線型コイルのリード部をICチップの出力端子に形成したバンプ上に配置し、該巻線型コイルのリード部上に加熱ヘッドを押し付け、該加熱ヘッドの熱で該リード部の絶縁被覆を除去すると共に、これによって露出した該リード部の芯線とバンプとを溶融接合する巻線型コイルのリード部と出力端子のバンプとの接続方法である。
【0004】
なお、前記巻線型コイルはその芯線が銅製であり、加熱によって溶融する絶縁被覆を施してあるものである。また前記出力端子のバンプは、表面に金めっきを施したニッケル製の構成要素である。その実施例としてはこのような場合に使用可能な加圧力では塑性流動が事実上不可能なフラッシュメッキが採用されている。
【0005】
前記押し付けがどの程度の加圧力によるか、或いはどのような加圧が行われるのかは不明であるが、いずれにしても溶融して接合する技術であり、両者の界面付近には合金ができるとされているが、上記のように、溶融するものであるから、常温に温度降下する過程で、両者の界面付近には、脆性を有する規則格子が生成すると思われる。良好な接合を得るのは困難であると思われる。また接合面を溶融温度まで上げることによりICチップに与えられるダメージは測り知れないものがある。
【0006】
特許文献2は、熱圧着により巻線型コイルのリード部とICの接続表面(接続端子)とを接合する技術を示しており、これは、ICの接続表面に該巻線型コイルのリード部を載せ、その上から半田ごての先(こて先)で加熱加圧するものである。加熱により、先ずリード部の絶縁性の鞘の該当部位が消失し、該リード部の素線が若干変形される程度の加圧力により、該リード部と接続表面とが接合するとされる。加熱温度は500℃程度が採用され、接続表面は貴金属層を採用することが適当であり、金層を用いることもあるとされる。貴金属の種類によって著しく条件が変わるはずの加圧力の大きさ、加圧の態様、加圧する半田ごての先(こて先)の形状等の詳細は全く不明である。
【0007】
□100μm以下程度の接続表面(接続端子)の上に載ったφ70〜20μm程度の巻線型コイルのリード部を適切に加熱加圧可能な程に小型の半田ごての先(こて先)が存在するか極めて疑問であるが、上記のように加圧の態様及び半田ごての先(こて先)の形状も不明であり、銅との間で脆性を有する金属間化合物を生ずる貴金属層との組み合わせもあり、良好な接合が可能であるか不明である。リード部芯線と接続表面(接続端子)の界面の状態も不明である。
【0008】
特許文献3は、本件出願人の技術であり、銅(Cu)製の巻線型コイルのリード部をICチップの最外層が金(Au)で構成された接続端子に、前者を後者上に載せ、かつ前者の上から加熱しながら加圧し、両者の界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させることにより、直接接合する、非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法である。
【0009】
その加圧は、塑性変形後の巻線型コイルのリード部の該当部位の厚さtと変形前の線径Dとの比率t/Dが、0.1を越え、かつ0.8以下となるように設定したものであり、かつ加熱は、該巻線型コイルのリード部の絶縁膜を溶融させうる温度以上で金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲である。
【0010】
従ってこの特許文献3は、これまでにない優れた技術であり、リード部と金膜との界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させて、良好な接合結果を得ることができる筈のものであったが、その後、接合強度のばらつきが大きくなることがあるという弱点が見いだされた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2002−92578号公報
【特許文献2】特表平07−506919号公報(p5右下欄6〜22行)
【特許文献3】特開2007−280015号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Max Hansen、Constitution of Bibary Alloys、Second Edition、U.S.A.、1958、p.198-203
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
以上のように、特許文献1及び2の技術では、非接触ID識別装置用の銅製の巻線型コイルのリード部とICチップの最外層が金膜に構成されている接続端子とを、十分に高い強度で接続できるか全く不明であるが、特許文献3の技術では概ね良好な結果が得られることが分かっている。特許文献3は、以上のように優れた技術であるが、これによって得られる接合部の強度及び信頼性が時としてばらつくことがあり、本発明は、その原因を明らかにし、該特許文献3の技術を更に改良して、より低い加圧力で、かつより小さな加圧面積(接合面積)で、更により低い加熱温度で、より強度の高い良好な接合結果をばらつきなく得ることができる非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法を提供することを解決の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の1は、銅(Cu)製の巻線型コイルのリード部をICチップの最外層が金(Au)膜で構成された接続端子上に載せ、かつ該リード部の上から、該リード部の長さ方向に交差する向きで、長辺が該接続端子の該リード部と交差する辺の長さを越えるほぼ長方形の当接面を有する加熱・加圧手段で、加熱しながら、該接続端子が平面視で正方形の場合は、該リード部に生じるほぼ方形の圧痕の辺の内の長い方の辺及び短い方の辺の寸法を該接続端子の一辺の寸法で、該接続端子が長方形の場合は、圧痕の長い方の辺の寸法を接続端子のそれと平行な辺の寸法で、圧痕の短い方の辺の寸法を接続端子のそれと平行な辺の寸法で、それぞれ除して得られる値がいずれも1.1を越えることのない加圧力で加圧し、該巻線型コイルのリード部と該金膜とを、その界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させることにより、直接接合する非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法である。
【0015】
本発明の2は、本発明の1の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法において、前記加熱・加圧手段による加熱を前記巻線型コイルの絶縁膜を溶融させ得る温度以上で規則格子の生成を避けるため拡散の少ない400℃以下の温度で行うこととしたものである。
【0016】
本発明の3は、本発明の1又は2の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法において、前記加熱・加圧手段による加熱・加圧時間を0.1〜1.0秒の範囲で行うこととしたものである。
【0017】
本発明の4は、本発明の1、2又は3の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法において、前記加熱を、前記加熱・加圧手段による加圧の開始後、その加圧力が最大値の10〜60%に達した時点で開始することとしたものである。
【0018】
本発明の5は、本発明の1、2、3又は4の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法において、前記加熱・加圧手段の当接面の長辺の長さを前記接続端子の前記リード部と交差する辺の長さの1.5倍を越えるように構成したものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明の1の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法は、加熱加圧が、接続端子の金膜上に載せた巻線型コイルのリード部の上に、その長さ方向と交差する向きで載せた加熱・加圧手段によって行われるものであり、かつ該加熱・加圧手段として、その長辺が、該接続端子の該リード部と交差する辺の長さを越える長さであるほぼ長方形の当接面を有するそれを採用したものである。
【0020】
加圧が、以上のように、長辺が前記接続端子の所定の辺の長さを越える長方形状の当接面を備えた前記加熱・加圧手段によって行われるものであるため、これによって生じる圧痕はリード部の長さ方向に交差する方向に十分に長い長方形状(ただし、接続端子の一辺(接続端子が長方形の場合は短辺の長さの1.1倍以下に規制)となるものである。このような加圧の時点で、リード部には、その長さ方向に直交する方向で、該接続端子の上面に平行な方向に自由空間があるため、その方向に塑性流動が生じることになる。すなわち、リード部と金膜の界面付近で該リード部を構成する銅及び接続端子の最外層を構成する金膜の、その界面に平行又はこれに近似する方向の塑性流動が極めて良好に行われ、その結果、前者の銅及び後者の金の原子の相互に相手方金属中への拡散が良好に行われることになる。これによって、前記のように、該界面付近に良好にAu/Cu全率固溶体を形成することができることになる。確実な接合が確保できる訳である。
【0021】
ちなみに、前記特許文献3の図2等の従来技術に見られるように、圧痕がリード部の該当部位に、円形又は四辺形等のスポット状に生じるような円柱状又は角柱状等の加熱・加圧手段で行われる場合には、塑性流動は、該リード部においては、金膜との界面付近でも当然生じるが、加熱・加圧手段の当接面の直下付近では、下向きに生じ、その周囲付近では、加熱・加圧手段の当接面の外側を上昇するような態様で生じることとなり、すなわち、該当接面の外側上方に自由空間があり、その自由空間に向かって上昇することとなり、上記界面付近にAu/Cu全率固溶体を生成させるのに有効な塑性流動が十分でなくなる可能性が高くなる。それ故、当然、該界面付近にAu/Cu全率固溶体の十分な生成が得られず、その部位の接合強度が不十分となる。
【0022】
また、前記のように、該加熱・加圧手段による加圧力は、前記接続端子が平面視で正方形の場合は、前記巻線型コイルのリード部に生じるほぼ方形の圧痕の辺の内の長い方の辺及び短い方の辺の寸法を該接続端子の一辺の寸法で、該接続端子が長方形の場合は、圧痕の長い方の辺の寸法を該接続端子のそれと平行な辺の寸法で、圧痕の短い方の辺の寸法を該接続端子のそれと平行な辺の寸法で、それぞれ除して得られる値がいずれも1.1を越えることのないように設定するものであり、それ故、接合過程におけるICチップの不良率が低下し、歩留まりを向上させることができる。なお、ICチップの不良率は、圧痕の短い方の辺の寸法を端子部の該辺と平行な辺の寸法の60〜80%にすることで更に低減することができる。
【0023】
また本発明の1の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法は、前記の加圧・加熱手段の構成、その巻線型コイルのリード部に対する加圧の態様、及び加圧力の程度のそれぞれの作用の結果として、巻線型コイルのリード部と接続端子の金膜との接合強度のばらつきの少ない良好な接合結果を得ることができる。
【0024】
本発明の2の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法によれば、上限温度を400℃以下に抑えたため、原子の拡散速度が必要以上に速くならない。それ故、脆い規則格子を生成させる恐れを低下させ、他方、低すぎない適切な温度範囲での接合であるため、加熱・加圧手段による加圧の際に、巻線型コイルのリード部と接続端子の最外層の金膜との界面付近での塑性流動が良好に行い得られ、両金属の機械的エネルギーによる相互拡散の促進が極めて良好に行われることになる。それ故、両者の界面付近にAu/Cu全率固溶体が良好に生成し、強度の高い接合が得られる。
【0025】
本発明の3の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法によれば、加熱・加圧時間を十分に確保したため、加熱・加圧手段による加熱・加圧の際に、絶縁膜の加熱溶融と加圧による両金属表面相互の接触のタイミングを一致させることが可能となり、固体の又は半溶融状態の絶縁膜による接触に対する障害が排除され、巻線型コイルのリード部と接続端子の最外層の金膜との界面付近での両金属の相互拡散が極めて良好に行われることになる。それ故、両者の界面付近にAu/Cu全率固溶体が良好に生成し、強度の高い接合が得られることになる。
【0026】
本発明の4の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法によれば、巻線型コイルのリード部と接続端子の金膜への加熱が、必要なタイミングで適切に加えられ、該リード部の絶縁膜の溶融除去のタイミングと、該リード部への加圧のタイミングがほぼ一致し、前者の銅と後者の金の塑性流動を良好に生じさせることができる。
なお、この加熱は、前記加熱・加圧手段を適切な硬度と適切な電気抵抗を有する金属で作成し、これに電流を供給してそれ自体を発熱させ、その熱を加熱対象に伝える傍熱型抵抗溶接で行うのが適当であり、この場合は、前記時点で所定の電流の供給を開始し、全加圧時間の1/3程度の時間だけその供給を継続すれば、前記タイミングで前記リード部の絶縁膜の溶融を完了させ得ると共に、該リード部と接続端子の金膜との界面付近に加えるべき十分な熱量を発生させることも可能である。
【0027】
本発明の5の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法によれば、該加熱・加圧手段を従来のそれのような棒状又は柱状に構成したものと比べて、機械的強度(曲げ強さ)において、更に大きくかつ安定したものにさせ得、該加熱・加圧手段を、円形断面の細い巻線型コイルのリード部上に、滑落等をすることなく更に安定して当接させ得るものにでき、該加熱・加圧手段の断面積を一層大きくし、更に熱伝達特性を良好にすることができる等の利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施の形態を示す説明用斜視図。
【図2】本発明の一実施の形態を示す断面説明図。
【図3】本発明の一実施の形態で得た接合部の平面説明図。
【図4】図3のA−A線概略断面説明図。
【図5】図3のB−B線概略断面説明図。
【図6】圧痕の長辺の長さと接続端子の短辺の長さとの関係と接合部の接合強度及びチップ不良率との関係を示す表図。
【図7】加圧・加熱手段である電極で加える加圧力と電極に加える加熱電流のタイミングを示す表図。
【図8】本発明と比較例の圧痕面積比と接合強度の関係を示す表図。
【図9】本発明の加熱加圧による金と銅との塑性流動の様子を示す説明図。
【図10】(a)は比較例のスポット加熱・加圧による圧痕を示す図、(b)は(a)の比較例のスポット加熱・加圧による金と銅との塑性流動の様子を示すX−X線断面部の説明図、(c)は(a)の比較例のスポット加熱・加圧による金と銅との塑性流動の様子を示すY−Y線断面部の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法は、図1〜図5に示すように、銅(Cu)製の巻線型コイルのリード部1をICチップ2の最外層が金(Au)膜3aで構成された接続端子3上に載せ、かつ該リード部1の上から、該リード部1の長さ方向に交差する向きで、長辺が該接続端子3の該リード部1と交差する辺の長さを越えるほぼ長方形の当接面4を有する加熱・加圧手段5で、加熱しながら、該接続端子3が平面視で正方形の場合は、該リード部1に生じるほぼ方形の圧痕6の辺の内の長い方の辺及び短い方の辺の寸法を該接続端子3の一辺の寸法で、該接続端子3が長方形の場合は、圧痕6の長い方の辺の寸法を接続端子3のそれと平行な辺の寸法で、圧痕6の短い方の辺の寸法を接続端子3のそれと平行な辺の寸法で、それぞれ除して得られる値がいずれも1.1を越えることのない加圧力で加圧し、該巻線型コイルのリード部1と該金膜3aとを、その界面付近にAu/Cu全率固溶体の合金層7を形成させることにより、直接接合するものである。
【0030】
前記巻線型コイルは銅製の電線で作成するもので、そのリード部1は、該巻線型コイルをそのまま延長した部分であり、当然、該巻線型コイルと全く同一の構成の銅製の電線からなる。この銅製の電線は、通常、銅芯線1bを絶縁膜1aで被覆したものであり、それ故、該銅製電線は、その銅芯線1bが、云うまでもなく、実質的に銅製である電線を称するものとする。従って、意図の有無を問わず導電率が純銅のそれの±10%以内となる少量の不純物を含む銅芯線1bを備えた銅製電線も当然この範疇に属する。なお前記絶縁膜1aは、種々の単層又は多層の熱可塑性樹脂によって構成されている。
【0031】
前記ICチップ2の接続端子3は、前記したように、その最外層が金膜3aで構成されている必要があるが、中間層3b及び最下層3cの金属の種類は限定されない。この技術分野でよく知られているように、概ね、最下層3cはチップ2とのオーミック接合を確保する趣旨で、中間層3bは金膜3aと最下層3cとの相互拡散を阻止する趣旨で素材が選択される。この種の接続端子3を構成するメタライゼーションは、前記したように、最下層からTi−W−Auの順で、Cr−Ni−Agの順で、或いはCr−Ni−Auの順で、それぞれ積層被覆したもの等が供給されているが、これらの内では、Ti−W−Auの順で積層被覆したもの又はCr−Ni−Auの順で積層被覆したものが採用可能である。
【0032】
なお最外層の金(Au)は、通常、カラット法で云う24金が採用されるが、その純度は99.99%以上である。もっともここで云う金は、このような純度のものに限定されるわけではなく、実質的に金と称することができる純度のそれの全てを指すものである。
【0033】
前記非接触ID識別装置は、マイクロプロセッサを含む、または含まないICチップを内蔵するカード型又はタグ型等のID識別装置であって、該ICチップと外部のリーダとの間の電力の授受及び情報の交換を前記巻線型コイルを介して非接触で行うID識別装置を云うものとする。
【0034】
前記のように、本発明の接続方法は、銅製の巻線型コイルのリード部1とICチップ2の接続端子3との接合を、図1等に示すように、該巻線型コイルのリード1をICチップ2の接続端子3上に載せ、その上、すなわちリード部1の上から前記加熱・加圧手段5で加熱・加圧することにより行う。
【0035】
このとき、該巻線型コイルのリード部1は、図1及び図3に示すように、接続端子3上に、基本的に、その二組の平行な辺のいずれかにほぼ直交する状態に載置する。ICチップ2の接続端子3は、平面視で長方形又は正方形である場合が多いが、いずれの場合でも該リード部1は、その二組の平行な辺のいずれかにほぼ直交する状態に載置して良い。もっとも接続端子3が長方形の場合は、長辺に直交する状態で載置する方が、前記加熱・加圧手段5の加熱・加圧によって生じる圧痕6の、その接続端子3の長辺に沿った辺を長く形成することが可能であり、より強力な接合が可能となる。
【0036】
またこのとき、前記加熱・加圧手段5は、前記し、かつ図1に示すように、接続端子3上に載っている巻線型コイルのリード部1の長さ方向に交差する向きでこれに対して加熱・加圧を行う。なるべく直交状態が良いが、完全に直交する向きでなくても良い。また該加熱・加圧手段5は、前記し、図1に示すように、その下端部5bが長方形の当接面4を有する板状の構成となっており、該下端部5bの下端面である当接面4は、その長辺をなるべく長く構成するのが良い。該当接面4の長辺は、最低限度で、接続端子3に載っている巻線型コイルのリード部1と交差する該接続端子3の辺(該当接面4の長辺と平行な接続端子3の辺)の長さの1.5倍を越える長さであるべきであり、それより、なるべく長く構成することが望ましい。
【0037】
なお、下端部5bは、上記のように、基本的に板状に構成するが、当接面4が実質的にほぼ長方形でさえあれば、上記板状の構成に代えて、横断面が楕円形等の別の形状であっても差し支えないことは云うまでもない。
【0038】
該加熱・加圧手段の当接面4の長辺を長くする趣旨は、先に述べたように、巻線型コイルのリード部1の接続端子3の金膜3aとの界面付近の銅素材を強制的にかつ適切な流動方向で塑性流動させることによって前者の銅原子と後者の金原子との相互拡散を促進することがその最も重要な点であり、更に、このように構成することによって、該加熱・加圧手段5の下端部5bを従来のそれのような棒状又は柱状に構成したものと比べて、機械的強度(曲げ強さ)において、大きくかつ安定したものにさせ得ること、該加熱・加圧手段5の下端部5bを、円形断面の細い巻線型コイルのリード部1上に、滑落等をすることなく安定して当接させ得るものにできること、更に該加熱・加圧手段5の下端部5bを、断面積を大きくし、熱伝達特性を良好にすることができること等の利点があることである。
【0039】
またこの加熱・加圧手段5は、例えば、図2に示すように、傍熱型抵抗溶接を採用し、これを電極に構成し、電極に構成した該加熱・加圧手段5の下端部5bで、接続端子3上に載置した巻線型コイルのリード部1を、矢印a3に示すように、加圧しながら、該加熱・加圧手段5に、矢印a1に示すように電流を流して発熱させ、その熱を矢印a2に示すように該加熱・加圧手段5の下端部5bから巻線型コイルのリード部1及びその下の接続端子3に伝えるプロセスを採用することができる。
【0040】
これを採用する場合は、加熱・加圧手段5を比較的に高抵抗で耐熱性の良い、例えば、タングステン(W)やモリブデン(Mo)等の金属で適切に構成すれば、実用レベルの電流で、所望の高温度を容易に発生し得、ICチップ2の接続端子3上に配した巻線型コイルのリード部1に必要な加圧と共に加熱を行うことができる。
【0041】
加熱と加圧のタイミングは、該加熱を、前記加熱・加圧手段5による加圧の開始後、その加圧力が最大値の、例えば、10%〜60%に達した時点で開始することとするのが適当である。これによって、加熱・加圧手段5の加圧力が最大値になりそれを継続している最大加圧時間帯の大部分を、巻線型コイルのリード部1の絶縁膜1aの溶融完了後の時間帯となるようにすることができる。
【0042】
加熱・加圧手段5を、前記のような構成の電極に構成した場合は、図7に示すように、前記時点(加圧力が最大値の10〜60%に達した時点)で電流の供給を開始し、全加圧時間の1/3程度の時間だけその供給を継続すれば良い。これによって、以上のように、巻線型コイルのリード部1の絶縁膜1aの溶融完了のタイミングを以上に述べた加圧のタイミングに同期させることができる。また、これで、十分に必要な熱量を発生させることが可能でもある。
【0043】
また以上の加熱・加圧手段5による加熱・加圧時間は、全体として、0.1〜1.0秒の範囲で行うこととするのが適当である。加熱・加圧時間を0.1秒未満にすると、巻線型コイルのリード部1の絶縁膜1aの溶融完了と、必要な加圧力による加圧のタイミングを同期させるのが困難になり、また1.0秒を越えると、生産性が著しく低下するからである。
【0044】
また以上の加熱・加圧手段5による加熱温度は、前記巻線型コイルのリード部1の絶縁膜1aを溶融させ得る温度以上で400℃以下の温度で行うこととするのが適当である。
これは、加熱温度の上限を400℃以下に抑えて原子の拡散速度を適切に抑えることにより脆い規則格子の生成を抑制し、他方、加熱温度を低過ぎない適切な範囲に保持することにより、加熱・加圧手段5による加圧の際に、巻線型コイルのリード部1と接続端子3の最外層の金膜3aとの界面付近における塑性流動が良好に行われて、両金属(銅と金)の機械的エネルギーによる相互拡散の促進を極めて良好に行われ得るようにする趣旨である。更にこれによって、両者(巻線型コイルのリード部1の銅芯線1bと接続端子3の金膜3a)の界面付近にAu/Cu全率固溶体の合金7が良好に生成し、強度の高い接合が得られるようにする趣旨である。
【0045】
前記加熱・加圧手段5による加圧力は、各々の融点以下の比較的低い温度、前記のように、巻線型コイルのリード部1の絶縁膜1aを溶融させうる温度以上で400℃以下の温度における金と銅の原子の相互拡散を、該巻線型コイルのリード部1の銅芯線1bと接続端子3の金膜3aの界面近傍における適切な流動方向の塑性流動によって助長・促進させるものでなければならない。またその加圧力は、同時に、ICチップ2に悪影響を与えないものでなければならない。
【0046】
すなわち、該加熱・加圧手段5による加圧力は、前記接続端子3が平面視で正方形の場合は、前記巻線型コイルのリード部1に生じるほぼ方形の圧痕6の辺の内の長い方の辺及び短い方の辺の寸法を該接続端子3の一辺の寸法で、該接続端子3が長方形の場合は、圧痕6の長い方の辺の寸法を該接続端子3のそれと平行な辺の寸法で、圧痕6の短い方の辺の寸法を該接続端子3のそれと平行な辺の寸法で、それぞれ除して得られる値がいずれも1.1を越えることのないように設定すべきものである。なお、圧痕の短い方の辺の寸法を端子部の該辺と平行な辺の寸法の60〜80%にすることが更に好ましい。このようにすることにより、ICチップ2の不良率を一層低減することができる。
【0047】
図6に示すように、該加熱・加圧手段5の下端部5bの当接面4が当接して加圧することによって直接に生じる圧痕6の辺が長くなり、その長辺の接続端子3の辺の寸法に対する割合が大きくなるにつれて、巻線型コイルのリード部1と接続端子3の金膜3aとの接合強度はほぼ直線的に大きくなるが、割合が1の直前で鈍化し、1になった後に低下することになる。またICチップ2の損傷を生じる割合であるチップ不良率は、前記割合が1になるまでは、徐々に大きくなるが、該チップ不良率は0.0001より十分小さな値を保持し、割合が1.1となる付近から該チップ不良率は急に上昇し、0.0001を上回るようになる。これは加熱・加圧手段5の下端部5bを通じて加わる加圧力によりICチップ2の接続端子3の外周に近接した領域が損傷を受けることになるからである。従って、前記のように、前記加熱・加圧手段5の加圧力は、上記割合が1.1を越えることのないそれに設定すべきである。
【0048】
また該加熱・加圧手段5の下端部5bの当接面4の形状又は加圧によって形成される圧痕6と、これによって接合される巻線型コイルのリード部1と接続端子3の金膜3aの接合強度との関係をここで述べておくことにする。
【0049】
前記し、図1に示すように、本発明の加熱・加圧手段5は、その下端部5bが最下端に長方形の当接面4を備えた全体として板状の部材であり、かつ該当接面4の長辺が、前記接続端子3のこれに載せたリード部1と交差する辺の長さを越える寸法、好ましくは、その1.5倍を越える寸法を有するものである。ここでは、本発明の加熱・加圧手段5の下端部5bで、該接続端子3の金膜3a上にその二つの平行な辺に直交する向きで載っている巻線型コイルのリード部1をその長さ方向に直交する向きの状態で加熱・加圧する場合(本発明の場合)と、従来の角柱状等の加熱・加圧手段で、同様に接続端子3の金膜3a上に載っている巻線型コイルのリード部1を加熱・加圧する場合(比較例の場合)とを比較する。なお、この比較例の場合も加圧の際の加熱開始のタイミングは本発明の場合と同様に行う。以下同様である。比較例は、この加熱開始のタイミングの点でのみ従来例と異なる従来例より若干優れた技術になっている。
【0050】
先ずそれぞれの場合の塑性流動の仕方を比較検討する。
先ず本発明の場合の流動の仕方を検討する。
図9は、図3のB−B線断面に相当する説明図であるが、同図に2点鎖線で示した、接続端子3上の加圧前の円形断面の巻線型コイルのリード部1は、加熱・加圧手段5の下端部5bによる加熱・加圧動作により、同図に実線で示すように、塑性変形し、その内部では、同図の変形後のリード部1の断面内に記した矢印に示すように、原子の流動が生じている。すなわち、本発明の場合は、加熱・加圧手段5の加熱・加圧に伴って、その当接面4による強制力により、先ず下向きの流動が生じ、これが途中から、リード部1の長さ方向には、該加熱・加圧手段5の当接面4の両側から自由空間のある上部に移動し該リード部1の該部位を膨出させる塑性流動となり、該リード部1の両側方向には、その方向に自由空間があるため、該加熱・加圧手段5の当接面4の直下での下向きの流動が、その両側方向に向きを変え、それぞれその方向に向かって流動することになる。巻線型コイルのリード部1の銅芯線1bと接続端子3の金膜3aの界面付近では、以上の両側方向への流動が該界面にほぼ平行な流動となる。
【0051】
従って、本発明の場合は、上記巻線型コイルのリード部1の両側方向への塑性流動が良好に作用し、該リード部1の銅芯線1bと接続端子3の金膜3aとの相互の間で互いに相手方金属中への金属原子の拡散が良好に生じることになる。
【0052】
次に比較例の場合の流動の仕方を検討する。これは、角柱状の加熱・加圧手段15で接続端子3の金膜3a上に載っている巻線型コイルのリード部1を加熱・加圧する場合に関するものである。
図10(a)に示すように、この比較例の場合は、該加熱・加圧手段15の当接面の形状に近似する角形の圧痕16が生じる。図10(b)は、(a)のX−X線断面の説明図であるが、この場合は、加熱・加圧手段15の加熱・加圧動作により、巻線型コイルのリード部1の被加圧部位には塑性変形が生じ、同図中のその断面中に矢印で示したように、該加熱・加圧手段15の下方では、下向きの流動が生じ、次いでその下方に流動した素材の多くの部分が前後の自由空間である上方に流動することになる。従って巻線型コイルのリード部1の銅芯線1bと接続端子3の金膜3aの界面に平行な塑性流動は少ない。
【0053】
図10(c)は、(a)のY−Y線断面の説明図であるが、この場合は、同図中のその断面中に矢印で示したように、該加熱・加圧手段15の下方では、やはり下向きの流動が生じ、次いでその下方に流動した素材の一部が両側の下方に流動して、該巻線型コイルのリード部1の両側下部を僅かに膨出させ、他の一部は両側の自由空間である上方に流動して、該巻線型コイルのリード部1の両側上部に膨出させることになる。従ってやはり巻線型コイルのリード部1の銅芯線1bと接続端子3の金膜3aの界面に平行な塑性流動は少ない。
【0054】
すなわち、比較例の場合は、巻線型コイルのリード部1の銅芯線1bと接続端子3の金膜3aとの相互の間で、確実に、互いに相手方金属中への金属原子の拡散が良好に生じるとは云えない。
【0055】
それ故、図8に示すように、本発明の場合は、実用的に十分に有効な大きな接合強度が得られ、しかも、その接合強度は、接続端子3の面積に対する圧痕6の面積の割合が大きくなると、若干のばらつきはあるが、後者の前者に対する面積の割合が80〜90%までは、圧痕6の面積の割合の増大にほぼ比例して向上するものとなっている。他方、前記のように、圧痕6の短い方の辺の寸法を端子部3のその辺と平行な辺の寸法の60〜80%の寸法に設定すれば、ICチップ2の不良率を低減することができる。それ故、圧痕6の面積を増大させながらその短い方の辺の寸法を以上のように設定すれば、必要な接合強度を維持しつつICチップ2の不良率を安定して小さく保つことができる。
【0056】
これに対して、比較例の場合は、図8に示すように、その接合強度はばらつきが大きく不安定で実用的に全く不十分な場合があり、またその接合強度は、接続端子3の面積に対する圧痕6の面積の割合が大きくなると、徐々に大きくはなるが、その強度向上は小さく、100%に至っても本発明の場合より著しく小さく、やはり強度のばらつきも大きくて信頼性の点でも全く比較にならない。
【0057】
従って本発明の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法によれば、接合強度の高いその接合を従来と殆ど異ならない工数で容易に得ることが可能であり、しかも接合過程におけるICチップの不良率が低下し、歩留まりを著しく向上させることができる。
【実施例1】
【0058】
図1及び図2に示すように、巻線型コイルとして銅芯線1bに絶縁膜1aを施した銅電線で作製したそれを採用し、該巻線型コイルを延長したリード部1を、ICチップ2の接続端子3の最外層の金膜3a上に、その二対の平行な辺の一方の一対の平行な辺に直交状態に載置した上で、そのリード部1の上から電極である加熱・加圧手段5の下端部5bの当接面4を当接させ、該加熱・加圧手段5で加圧を開始し、引き続いて電流を流して発熱させつつ更に加圧し、該リード部1上に70×100μmの圧痕6を生じさせた。
【0059】
<接続対象>
巻線型コイルの線径:φ70μm±3μm(絶縁膜1a:ポリウレタン皮膜)
ICチップ2:□1000μm、接続端子3:□100μmの正方形(Ti−W−Au 、金膜3aの厚さ:18μm)
<加熱・加圧手段>
加熱・加圧手段5:W(タングステン)製、
当接面4の寸法:長辺の長さ250μm、短辺の幅70μm
傍熱型
<溶接条件>
溶接電圧:1.8V
通電時間:加圧開始の0.1秒後から0.3秒間
加圧力 :80g
加圧時間:0.8秒
【0060】
以下の表1に、実施例1による接合部と比較例1、2の接合部との引張試験の結果を示す。
【0061】
なお、比較例1は、加熱・加圧手段として、その最下端の当接面が70μm×90μmの四辺形(長方形)である従来型の柱状のそれを用い、加圧力を72gとした他は、実施例1と同一条件で接合工程を実施したものであり、比較例2は、加熱・加圧手段として、その最下端の当接面が100μm×100μmの四辺形(正方形)である従来型の柱状のそれを用い、加圧力を115gとした他は、実施例1と同一条件で接合工程を実施したものである。
比較例1、2は、以上のような構成であり、その結果、比較例1では、圧痕は加熱・加圧手段の当接面の形状に対応する長方形(70×90μm)となり、比較例2では、圧痕は同様に加熱・加圧手段の当接面の形状に対応する正方形(100×100μm)となっている。
なおまた、以上の比較例1、2の加圧力は、以上のように、実施例1のそれと圧痕6の単位面積あたりでほぼ同一となるように設定してある。
以上のように、比較例1、2は、基本的に従来例の構成であるが、加圧の際の加熱のタイミングのみは本発明の技術をそのまま用いている。比較例1、2は、従来技術を加熱のタイミングの面で若干改良したものと云うことができる。このような比較例1、2は、比較対象としてより適切であると考える。後に示す比較例3もこの観点では同様である。


























【0062】
【表1】

【0063】
<表1の試験方法>
感度1Nのデジタル・テンション・ゲージを用い、ICチップ2を固定した状態で、室温に於いて、巻線型コイルのリード部1を接続端子3の面に垂直な方向に引っ張って、該リード部1と該接続端子3の接合部が剥がれるか又はリード部1が切れた時のゲージの読みをその接続部の接着強度とした。表中の数値の後に(切)がある場合は、リード部1が切れたときのゲージの読みを示している。
なお、表1中のA、Bは、ICチップ2上の二つの接続端子3を区別するための符号であるが、その一方のAは、ICチップ2の端面に近い方を指し示し、Bは遠い方を指し示しているに過ぎない便宜的なものである。
【0064】
実施例1の接続端子3と巻線型コイルのリード部1との接合部の断面のEPMAの2次電子線像(図示していない)を作成し、これを検討してみると、銅芯線1bと接続端子3の金膜3aとの界面付近に金属間化合物層は認められない。即ち、図4及び図5に示した合金層7は、実施例1では、合金が全率固溶体であり、Cu、Auの濃度は連続的に変化している。それ故、該2次電子線像では、肉眼的にはCu層及びAu層との境界は明確な境界層として区別することはできない。このことから、非特許文献1に示されているような平衡状態に於いて生成するとされているCuSn、CuAu、CuAu等の規則格子(一種の金属間化合物)の生成は、この実施例1では認められず、接続部が脆化する虞もないと判断した。
【0065】
図示しない前記2次電子線像上のリード部1と接続端子3の金膜3aとの界面をほぼ直交するライン上のEPMAによる元素線分析で得たAu濃度(図示していない)は、接続端子3の金膜3aと巻線型コイルのリード部1の銅芯線1bとの界面付近で、前者のAu100%の濃度を示すレベルから後者のAu0%のレベルに向かって下向き傾斜で段差なく滑らかな曲線を描いて下降している。また同一ライン上のEPMAによる元素線分析で得たCu濃度は、逆に、接続端子3の金膜3aと巻線型コイルのリード部1の銅芯線1bとの界面付近で、前者のCu0%の濃度を示すレベルから後者のCu100%の濃度を示すレベルに向かって上向き傾斜で段差なく滑らかな曲線を描いて上昇している。これらによって、実施例1では、図4及び図5に示した規則格子を含まない合金層7が、接続端子3の金膜3aと巻線型コイルのリード部1の銅芯線1bとの界面付近に生成していることが確認できる。
【実施例2】
【0066】
巻線型コイルとして銅芯線1bに絶縁膜1aを施した銅電線で作製したそれを採用し、該巻線型コイルを延長したリード部1とICチップ2の接続端子3の最外層の金膜3aとの接続を、実施例1と同様の態様で行った。
【0067】
<接続対象>
巻線型コイルの線径:φ60μm±3μm(絶縁膜1a:ポリウレタン+ポリイミド被膜)
ICチップ2:□900μm、接続端子3:□80μm×90μmの長方形(Cr−Ni−Au、金膜3aの厚さ:15μm)
<加熱・加圧手段>
加熱・加圧手段5:Mo(モリブデン)製、傍熱型
当接面の寸法:長辺200μm、短辺60μm
<溶接条件>
溶接電圧:1.3V
通電時間:加圧開始の0.1秒後から0.6秒間
加圧力 :70g
加圧時間:1.0秒
【実施例3】
【0068】
加熱・加圧手段5として、「当接面の寸法:長辺200μm、短辺80μm」のそれを用いた点及び加圧力を95gにした点のみが実施例2と異なり、それ以外は全て実施例2と同様である。
【0069】
以下の表2に、実施例2、3による接合部と比較例3の接合部との引張試験の結果を示す。
【0070】
なお、比較例3は、加熱・加圧手段として、その最下端の当接面が60μm×50μmの四辺形(長方形)である柱状のそれを用い、加圧力を40gとした他は、実施例2、3と同一条件で接合工程を実施したものである。この比較例3の加圧力は、実施例2のそれと単位面積あたりでほぼ同一となるように設定してある。






【0071】
【表2】

【0072】
表2の試験方法は、表1の試験方法と同様である。
また表2中のA、Bも、表1と同様であり、ICチップ2上の二つの接続端子3を区別するための符号であり、その一方のAは、ICチップ2の端面に近い方を指し示し、Bは遠い方を指し示しているに過ぎない便宜的なものである。
【0073】
前記表1、2を参照しながら実施例1〜3と比較例1〜3とを比較する。
まず、実施例1、2、3の間での接合強度を比較すると、実施例1が最も接合強度の高いよい結果を得ており、実施例2、3はこれより若干接合強度が低い結果となっているが、実施例2、3相互間では殆ど差がない。実施例2、3の間では、圧痕6のリード部1の長さ方向と平行な辺の長さでは前者(60μm)が短く後者(80μm)が長いが、リード部1の長さ方向に交差する方向の辺の長さは同一(90μm)である。また実施例1の圧痕6のリード部1の長さ方向と平行な辺の長さは70μmで、リード部1の長さ方向に交差する方向の辺の長さは100μmである。そうしてみると、圧痕6の部の長さ方向に平行な方向の辺の長さは接合強度にあまり影響を与えず、リード部1の長さ方向に交差する方向の辺の長さが強く影響を与えている、と理解できる。これは、先に塑性流動に関して行った説明と合致するものである。
【0074】
比較例1と3とは、実用に供することができないほどに接合強度が弱い結果となっている。実施例1、2、3の圧痕6と比較例1、3の圧痕16の面積を比較してみると、比較例3はかなり小さいが、比較例1は、実施例2より大きい。それにもかかわらず、比較例1は、全く使用に耐えないほど接合強度が弱い結果となっている。比較例3も同様である。比較例2は、圧痕16の面積が、実施例1、2、3のいずれの圧痕6よりも大きい。比較例2の接合強度は使用に耐えるレベルであるが、10回の試験結果の中で0.12〜0.48Nと接合強度のばらつきが大きい。ちなみに、実施例1では、接合強度は10回の試験結果の中で0.35〜0.50Nであり、実施例2では、0.21〜0.34Nであり、実施例3では、0.200.30Nであって、比較例2と比べてばらつきの幅が遙かに小さい。
【0075】
比較例1、2、3の接合強度が大きくないこと、及びばらつきが大きいことは先に説明したことと符合する。また実施例1、2、3の接合強度が大きくそのばらつきが小さいことも先に説明したところと符合する。
いずれにしても以上の実施例1、2、3によって接続したICチップ2の接続端子3と巻線型コイルのリード部1との接合部は、比較例1、2、3の接合部の接合強度と比較して、接合強度それ自体及びそのばらつきの両面で非常に良い結果を得ており、これによって本発明の有効性が理解される。
【0076】
また実施例1、2、3はいずれもチップ不良率が0.0001%未満という良好な結果を示している。これは、本発明の1における加熱・加圧手段5の適切な加圧力を得るための圧痕6の各辺と端子部3の各辺とに関する寸法条件を満足させている結果である。
【0077】
なお、実施例2、3についても実施例1と同様に、接続部に於けるAu−Cu全率固溶体の形成も確認された。
【符号の説明】
【0078】
1 巻線型コイルのリード部
1a 絶縁膜
1b 銅芯線
2 ICチップ
3 接続端子
3a 金膜
3b 中間層
3c 最下層
4 当接面
5 加熱・加圧手段
5b 加熱・加圧手段の下端部
6 圧痕
7 Au/Cu全率固溶体の合金層
15 加熱・加圧手段
16 圧痕
a1 電流の流れる方向を示す矢印
a2 熱の伝達方向を示す矢印
a3 加圧方向を示す矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅(Cu)製の巻線型コイルのリード部をICチップの最外層が金(Au)膜で構成された接続端子上に載せ、かつ該リード部の上から、該リード部の長さ方向に交差する向きで、長辺が該接続端子の該リード部と交差する辺の長さを越えるほぼ長方形の当接面を有する加熱・加圧手段で、加熱しながら、該接続端子が平面視で正方形の場合は、該リード部に生じるほぼ方形の圧痕の辺の内の長い方の辺及び短い方の辺の寸法を該接続端子の一辺の寸法で、該接続端子が長方形の場合は、圧痕の長い方の辺の寸法を接続端子のそれと平行な辺の寸法で、圧痕の短い方の辺の寸法を接続端子のそれと平行な辺の寸法で、それぞれ除して得られる値がいずれも1.1を越えることのない加圧力で加圧し、該巻線型コイルのリード部と該金膜とを、その界面付近にAu/Cu全率固溶体を形成させることにより、直接接合する非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。
【請求項2】
前記加熱・加圧手段による加熱を前記巻線型コイルの絶縁膜を溶融させ得る温度以上で400℃以下の温度で行うこととした請求項1の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。
【請求項3】
前記加熱・加圧手段による加熱・加圧時間を0.1〜1.0秒の範囲で行うこととした請求項1又は2の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。
【請求項4】
前記加熱を、前記加熱・加圧手段に電流を流してそれ自体に発熱させこの熱を加熱対象に伝える傍熱型抵抗溶接で行うこととし、該加熱のための電流の供給を、該加熱・加圧手段による加圧の開始後、その加圧力が最大値の40〜60%に達した時点で、開始することとした請求項1、2又は3の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。
【請求項5】
前記加熱・加圧手段の当接面の長辺の長さを前記接続端子の前記リード部と交差する辺の長さの1.5倍を越えるように構成した請求項1、2、3又は4の非接触ID識別装置用の巻線型コイルとICチップとの接続方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2012−48419(P2012−48419A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188863(P2010−188863)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【特許番号】特許第4676573号(P4676573)
【特許公報発行日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(594133858)スターエンジニアリング株式会社 (20)
【Fターム(参考)】