説明

非機能化された内因性グルコン酸トランスポーターを有する代謝を修飾したバクテリア系統

本発明は、ASA中間体に対する、炭素源の流量を増やすバクテリア宿主細胞内の異化経路の改造に関係する。特に、本発明は、内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子を失活させて、グルコン酸の利用率を増やすことにより、バクテリア細胞内のASA中間体の生産を増やすことに関係する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2003年5月22日に出願された、U.S. provisional Patent Application Serial No.60/473,310及び2003年6月11日に出願された、U.S. provisional Patent Application Serial No.60/473,310に対して優先権を主張する。
【0002】
本発明は、ポリオール及びそれらのケト誘導体の生産に用いられる炭素流量を高めるために、バクテリア宿主細胞の異化経路を改造することに関係する。より具体的には、本発明は、糖-ケト酸等のケトポリオールの生産を高めることに関係する。さらに具体的には、アスコルビン酸中間体に関係する。特に、本発明は、内因性グルコン酸トランスポーターを修飾することにより、パントエア(Pantoea)細胞内で、グルコン酸、2-ケト-D-グルコン酸(KDG又は2-KDG)、2,5-ジケトグルコン酸(DGK又は2-DKG)及び2-ケト-Lグロン酸(KLG又は2-KLG)の工業的生産を高めることに関係する。本発明はさらに、1以上の非機能的な内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子及び、失活させられた内因性グルコキナーゼ及び/又は内因性グルコキナーゼ遺伝子を有する、修飾されたパントエア(Pantoea)系統に関係する。
【背景技術】
【0003】
L-アスコルビン酸中間体等の商業的に注目されている多くの製品は、遺伝的に改造された宿主細胞内で、生物触媒的に生産される。L-アスコルビン酸(ビタミンC、ASA)は、通常、医薬品及び食品工業の分野で、ビタミン及び抗酸化剤として用いられ、相当の市場規模を有している。ASAの化学合成は専門的に高い価値を有し相当な注目を集めている。
【0004】
グルコースからASAを生産する化学的合成経路は、レイヒシュテイン-グルスナー(Reichstein-Grussner)方法として知られており、1934年に最初に開示された(Reichstein T. et al., (1934) Helv. Chim. Acta., 17 : 311-328 and Reichstein T. et al. (1933) Helv. Chim. Acta. 16: 561,1019)。ASA中間体である、2-KLGを生産するための生物学的転換方法は、Lazarus et al.によって開示された(1989, "Vitamin C: Bioconversion via a Recombinant DNA Approach", GENETICS AND MOLECULARBIOLOGY OF INDUSTRIAL MICROORGANISMS, American Society for Microbiology, Washington D. C. Edited by C. L. Hershberger)。炭素源からKLGへの生物学的転換は、各種中間体を含み、この酵素処理工程は2,5-DKG還元酵素活性(DKGR)に依存する共因子(co-factor)と関係する。加えて、組換えDNA技術が、単一の発酵工程を用いて、エルビニアヘルビコラ(Erwinia herbicola)内で、グルコースからKLGへの生物転換をすることに用いられてきた(Anderson, S. et al., (1985) Science 230: 144-149)。KLGからASAへの効果的な転換方法は、Crawford et al., ADVANCES IN CARBOHYDRATE CHEMISTRY AND BIOCHEMISTRY, 37: 79-155(1980)に開示されている。
【0005】
ASA中間体の生産を高めるために、バクテリア及び他の微生物を利用した多くの試みが行われてきた。このための方法には、遺伝子欠失、遺伝子添加、ランダム突然変異誘発を含む。具体的には、
(i)ASA経路中の特定の遺伝子の過剰発現(pathway(Anderson et al., (1985) Sci. 230:144-149, Grindley et al.,(1988)Appl. Environ. Microbiol. 54: 1770; and USP 5,376, 544);
(ii)糖分解酵素をエンコードしている遺伝子の突然変異(Harrod, et al. (1997)J. Ind. Microbiol. Biotechnol. 18 : 379-383; Wedlock, et al. (1989) J. Gen. Microbiol. 135: 2013-2018; and Walsh et al. (1983)J. Bacteriol. 154: 1002-1004);
(iii)グルコキナーゼを欠損した微生物宿主系統の使用(Japanese patent publication JP 4267860; Russell etal. (1989)Appl. Environ. Microbiol. 55: 294-297; Barredo et al. (1988) Antimicrob. Agents-Chemother 32 : 1061-1067; and DiMarco et al. (1985)Appl. Environ. Microbiol. 49: 151-157);
(iv)リン酸化を必要とする、例えば、グルコキナーゼ遺伝子(glkA)または、グルコノキナーゼ遺伝子(gntK)、を欠失させることにより、グルコース又はグルコン酸の代謝を減らす方法(WO 02/081440);及び
(V)グルコースリン酸化以降に用いられる炭素利用に用いられる酵素、例えば、リン酸グルコースイソメラーゼ、リン酸フルクトキナーゼ、グルコース-6-リン酸デハイドロゲナーゼ、6-リン酸グルコン酸デヒドロゲナーゼ、又は、6-リン酸グルコン酸デヒドロゲナーゼの操作により、代謝を減らすことを含む。
【0006】
このような試行錯誤にもかかわらず、異化代謝経路からASA中間体を分離することに関する問題が存在する。そして、この問題は、ASA中間体の効力及び生産全般を低くする。したがって、宿主細胞の代謝経路を組み合わされたASA中間体に対する生産方法を改善することは、いまだ必要とされている。
【0007】
ASA中間体の生産に含まれるグルコース、及び、グルコン酸等の炭素源は、炭素源を基質として利用する反応を行う場所から、細胞膜によって隔てられている。そのような基質及び合成機構が分離されている場合には、生産物を生成するために、基質を合成反応場所へ移動することが必要である。細胞内部で生成物が合成される場合には、細胞内から、生成物を移動することが必要である。それゆえ、基質輸送システムを修飾することが、特定の異化経路に対する基質の利用可能性を増やすあるいは、減らす結果となるのである。
【0008】
本発明は、グルコン酸トランスポーター分子を非機能的に修飾したバクテリア系統を提供する。このグルコン酸トランスポーター分子が、機能しないように修飾されたバクテリア系統は、ASA中間体等の所望の生産物の生産に用いられるグルコース等の炭素基質の量が高くなっている。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明の概要
本発明は、異化経路に提供される炭素基質を減らし、したがって、所望の生産物に対する宿主細胞の生産性を高めるように、遺伝子操作されたバクテリア宿主細胞を含む所望の生産物を生産する方法を提供する。そのように遺伝子操作されたバクテリア宿主細胞は、炭素源が存在する中で培養したときに、直接的に及び/又は間接的に測定することができる所望の生産物の生産性を高めることができる。
【0010】
第一の側面において、本発明は、グルコーストランスポーター活性を有する、パントエア(Pantoea)系統かから単離されたポリペプチドをエンコードしている単離ポリヌクレオチドを提供する。一の態様において、この単離ポリヌクレオチドは、配列番号1及び配列番号3有するグループから選択されるヌクレオチド配列と少なくとも40%の相同性を有するヌクレオチド配列を含む。第二の態様において、この単離されたポリヌクレオチドは、配列番号1及び配列番号3を有するグループから選択されるヌクレオチド配列と少なくとも80%の相同性を有するヌクレオチド配列を含む。第3の態様において、この単離ポリヌクレオチドは、配列番号1及び配列番号3を構成するグループから選択されるヌクレオチド配列を含む。第4の態様において、この単離ポリヌクレオチドは、配列番号2の配列に対して少なくとも40%の配列相同性を有するアミノ酸を含む。第5の態様において、この単離ポリヌクレオチドは、配列番号2の配列と少なくとも80%相同なアミノ酸配列を有するグルコン酸トランスポーターをエンコードする核酸配列を含む。第6の態様において、この単離ポリヌクレオチドは、配列番号4の配列と少なくとも80%相同なアミノ酸を有するグルコン酸トランスポーターをエンコードしている核酸配列を含む。第7の態様において、この単離されたポリヌクレオチドは、配列番号4の配列に対して、少なくとも90%のアミノ酸配列を有するグルコン酸トランスポーターをエンコードしている核酸配列を含む。第8の態様において、この単離ポリヌクレオチドは、配列番号2又は配列番号4の配列を有するグルコン酸トランスポーターをエンコードしている。
【0011】
他の側面において、本発明は、配列番号2で示されるアミノ酸配列を含む、あるいは、配列番号2と少なくとも80%の相同性を有するアミノ酸配列を含む、単離グルコン酸トランスポータータンパク質に関係する。第一の態様において、この単離されたグルコン酸トランスポータータンパク質は、パントエア(Pantoea)から単離される。第二の態様において、単離グルコン酸トランスポータータンパク質は、配列番号2で示される配列を有する。
【0012】
さらなる側面において、本発明は、配列番号4で示すアミノ酸配列、あるいは、配列番号4と少なくとも80%のアミノ酸配列の相同性を有するアミノ酸配列を含む、単離グルコン酸トランスポータータンパク質に関係する。第一の態様において、この単離されたグルコン酸トランスポータータンパク質は、パントエア(Pantoea)から単離される。第二の態様において、単離グルコン酸トランスポータータンパク質は、配列番号4で示される配列を有する。
【0013】
他の側面において、本発明は、内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子が、機能しないように修飾されていることを特徴とする、ASA中間体を生産する能力のある修飾されたバクテリア宿主細胞を得る工程と、この修飾されたバクテリア宿主細胞をASA中間体を生産させるために炭素源を有する好適な培養条件下で、培養する工程と、ASA中間体を得る工程、を含み、実質的に同じ条件下で、成長した、修飾されていないバクテリア宿主細胞の比較して、ASA中間体の生産レベルが、高められていることを特徴とするアスコルビン酸(ASA)中間体の生産レベルを高める方法を提供する。この方法のある態様では、内因性グルコン酸トランスポーターは、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも40%の配列相同性、あるいは、配列番号4のアミノ酸配列と少なくとも80%の配列相同性を有している。この方法の第二の態様において、このバクテリア宿主細胞は、2の非機能的なグルコン酸トランスポーター遺伝子を含むように修飾される。この方法の第三の態様において、グルコン酸トランスポーター遺伝子は、バクテリア宿主細胞染色体から欠失させられている。第四の態様において、この方法は、さらにASA中間体を単離する工程をさらに含む。第五の態様において、この工程は、さらにASAを第二生産物へ転換する工程をさらに含む。第六の態様において、このバクテリア宿主細胞は腸内細菌科に属する細胞である。本発明の第七の態様において、内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子は、配列番号2又は配列番号4の配列と少なくとも80%の配列相同性を有するタンパク質をエンコードしている。この方法の第八の態様において、トランスポーター遺伝子は、配列番号2のアミノ酸配列を有するGntUを意図したタンパク質をエンコードしている。この方法の第九の態様において、トランスポーター遺伝子は、配列番号4のアミノ酸配列を有するldnTを意図したタンパク質をエンコードしている。この方法の第10の態様において、該宿主細胞は、不活性化されたグルコキナーゼ(glk)遺伝子及び/又は不活性化されたグルコノキナーゼ(bntk)遺伝子を含む。第11番目の態様において、本発明は、前記方法により生産された修飾宿主細胞に関係する。
【0014】
さらなる側面において、本発明は、1以上の非機能化された内因性グルコン酸トランスポータータンパク質を含む組換え腸内細菌系統を提供する。1の態様において、この1以上の非機能的な内因性グルコン酸トランスポータータンパク質は、配列番号2又は配列番号4の配列と少なくとも80%相同であるアミノ酸配列を有する。この側面の更なる態様において、組換え腸内細菌系統はさらに、不活性化された内因性グルコキナーゼ遺伝子、不活性化された内因性エンコードグルコノキナーゼ遺伝子、及び/又は過剰発現されたDKG、あるいは、外来性DKGトランスポーター遺伝子を含む。好ましい態様において、この組換え系統は、パントエア(Pantoea)又は大腸菌(E.coli)系統である。
【0015】
さらなる側面において、本発明は、失活させられている内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子を含む組換えパントエア(Pantoea)細胞を提供する。前記失活しているグルコン酸トランスポーター遺伝子は、配列番号2で示されたアミノ酸配列、又は、これと少なくとも40%の相同性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質をエンコードする。通常、このトランス輸送されたグルコン酸により機能化されたタンパク質は、パントエア(Pantoea)細胞膜を通過して、細胞質に入ってゆく。ある態様において、この組換えパントエア(Pantoea)細胞は、不活性化された内因性グルコキナーゼ遺伝子を含む、そして、他の態様において、この組換えパントエア(Pantoea)細胞は、外来性DKGトランスポーター遺伝子を含む。
【0016】
他の側面において、この発明は、不活性化された内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子を含む変性パントエア(Pantoea)細胞を提供する。この不活性化させられたグルコン酸トランスポーター遺伝子は、配列番号4で示すアミノ酸配列あるいは、これと少なくとも80%相同なアミノ酸配列を含むグルコン酸トランスポータータンパク質をエンコードしている。輸送されたグルコン酸により機能化されたタンパク質はパントエア(Pantoea)細胞膜を通過して細胞質に入る。他の態様において、修飾パントエア(Pantoea)細胞は不活性化されたグルコキナーセ遺伝子を含み、他の態様において、修飾パントエア(Pantoea)細胞は、修飾されたDKGトランスポーター遺伝子を含む。
【0017】
さらなる側面において、本発明は、配列番号2で示すアミノ酸配列、配列番号4で示すアミノ酸配列、又は、配列番号2あるいは配列番号4と少なくとも40%相同なアミノ酸配列を有するグルコン酸トランスポータータンパク質をエンコードしている内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子を含むパントエア(Pantoea)宿主細胞を得る工程と、炭素源の存在下で、ASA中間体を生産する能力のあることを特徴とする、グルコン酸トランスポーター遺伝子を非機能化させることにより、パントエア(Pantoea)宿主細胞を修飾する工程と、炭素源が存在する適切な条件下で、修飾パントエア(Pantoea)宿主細胞を培養する工程、及び、この炭素源からASA中間体を生産させる工程を含む、炭素源からASA中間体の生産を高める方法を提供する。ここで、ASA中間体の生産は、実質的に同じ条件で培養したときの、非修飾パントエア(Pantoea)宿主細胞の生産量と比較して高いことを特徴とする。この方法の他の態様において、ASA中間体は、グルコン酸、2-ケト-D-グルコン酸、2,5-ジケト-D-グルコン酸、2-ケト-L-グロン酸、及び、L-イドン酸から成る群より選択される。第二の態様において、このASA中間体は、さらに、エリソルビン酸及び酒石酸に転換される。第三の態様において、このグルコン酸トランスポーター遺伝子は、配列番号1で示される核酸配列を有するgntU及び/又は、配列番号3で示される核酸配列を有するidnTである。
【0018】
さらなる側面において、本発明は、配列番号2で示すアミノ酸配列、配列番号4で示すアミノ酸配列又は、配列番号2あるいは配列番号4の配列と少なくとも40%の配列相同性を有するアミノ酸配列を有する、グルコン酸トランスポーターをエンコードしているグルコン酸トランスポーター遺伝子を含む、パントエア(Pantoea)宿主細胞を得る工程と、グルコースの存在下で、KLGを生産する能力を有することを特徴とする、パントエア(Pantoea)宿主細胞のグルコン酸トランスポーター遺伝子を非機能的に修飾する工程と、前記修飾パントエア(Pantoea)宿主細胞を炭素源の存在する適切な条件下で、培養する工程、及び、実質的に同じ条件下で培養したときの修飾されていないパントエア(Pantoea)宿主細胞のKLGと比較したときの、変性パントエア(Pantoea)宿主細胞のKLG生産が高いことを特徴とする、炭素源からKLGを生産させる工程を含む、パントエア(Pantoea)宿主細胞内で、KLG生産を高める方法を提供する。ある態様において、本発明は、上記方法で得られた変性パントエア(Pantoea)宿主細胞に関係する。さらなる態様において、本発明の方法は、非機能化されたグルコキナーゼ遺伝子、非機能化されたグルコノキナーゼ遺伝子及び/又は過剰発現されたDKGトランスポーター遺伝子を含むように、遺伝的に修飾されたパントエア(Pantoea)細胞を含む。
【0019】
更なる側面において、本発明は、配列番号2で示すアミノ酸配列、配列番号4で示すアミノ酸配列又は、配列番号2あるいは配列番号4の配列と少なくとも40%の配列相同性を有するアミノ酸配列を有する、グルコン酸トランスポーターをエンコードしているグルコン酸トランスポーター遺伝子を含む、パントエア(Pantoea)宿主細胞を得る工程と、グルコースの存在下でKLGを生産する能力を有することを特徴とする、パントエア(Pantoea)宿主細胞のグルコン酸トランスポーター遺伝子を非機能的に変性させる工程と、前記変性されたパントエア(Pantoea)宿主細胞を炭素源の存在する適切な条件下で培養する工程、及び、実質的に同じ条件下で培養したときの非変性パントエア(Pantoea)宿主細胞のKLGと比較したときの、変性パントエア(Pantoea)宿主細胞のKLG生産が高いことを特徴とする、炭素源からKLGを生産させる工程を含む、パントエア(Pantoea)宿主細胞の酸化経路において、グルコン酸の生産又は利用可能性を高める方法を提供する。ある態様において、本発明は、上記方法で得られた変性パントエア(Pantoea)宿主細胞に関係する。さらなる態様において、本発明の方法は、非機能化されたグルコキナーゼ遺伝子、非機能化されたグルコノキナーゼ遺伝子及び/又は過剰発現されたDKGトランスポーター遺伝子を含むように、遺伝的に改造されたパントエア(Pantoea)細胞を含む。
【0020】
本発明の他の側面は、配列番号2で示すアミノ酸配列、配列番号4で示すアミノ酸配列又は、配列番号2あるいは配列番号4の配列と少なくとも40%の配列相同性を有するアミノ酸配列を有する、グルコン酸トランスポーターをエンコードしているグルコン酸トランスポーター遺伝子を含む、パントエア(Pantoea)宿主細胞を得る工程と、グルコースの存在下で、KLGを生産する能力を有することを特徴とする、パントエア(Pantoea)宿主細胞のグルコン酸トランスポーター遺伝子を非機能的に変性させる工程と、前記変性されたパントエア(Pantoea)宿主細胞を炭素源の存在する適切な条件下で、培養する工程と、実質的に同じ条件下で培養したときの非変性パントエア(Pantoea)宿主細胞のKDGと比較したときの、変性パントエア(Pantoea)宿主細胞のKLG生産が高いことを特徴とする、炭素源から、KDGを生産させる工程を含む、パントエア(Pantoea)宿主細胞内で、KDGの生産を高める方法を提供する。ある態様において、本発明は、上記方法で得られた変性パントエア(Pantoea)宿主細胞に関係する。さらなる態様において、本発明の方法は、非機能化されたグルコキナーゼ遺伝子、非機能化されたグルコノキナーゼ遺伝子及び/又は過剰発現されたDKGトランスポーター遺伝子を含むように、遺伝的に改造されたパントエア(Pantoea)細胞を含む。
【0021】
さらなる他の側面において、本発明は、配列番号2で示すアミノ酸配列、配列番号4で示すアミノ酸配列又は、配列番号2あるいは配列番号4の配列と少なくとも40%の配列相同性を有するアミノ酸配列を有する、グルコン酸トランスポーターをエンコードしているグルコン酸トランスポーター遺伝子を含む、パントエア(Pantoea)宿主細胞を得る工程と、グルコースの存在下で、DKGを生産する能力を有することを特徴とする、パントエア(Pantoea)宿主細胞のグルコン酸トランスポーター遺伝子を非機能的に変性させる工程と、前記変性されたパントエア(Pantoea)宿主細胞を炭素源の存在する適切な条件下で培養する工程と、実質的に同じ条件下で培養したときの非変性Pantoea宿主細胞のDKGと比較したときの、変性パントエア(Pantoea)宿主細胞のDKG生産が高いことを特徴とする、炭素源から、DKGを生産させる工程を含む、パントエア(Pantoea)宿主細胞で、DKGの生産を高める方法を提供する。ある態様において、本発明は、上記方法で得られた修飾パントエア(Pantoea)宿主細胞に関係する。さらなる態様において、本発明の方法は、非機能化されたグルコキナーゼ遺伝子及び/又は非機能化されたグルコノキナーゼ遺伝子を含むように、遺伝的に改造されたパントエア(Pantoea)細胞を含む。
【0022】
更に他の側面において、本発明は、内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子が非機能的にされていることを特徴とする変性宿主細胞を得る工程と、ASA中間体を生産させるために、炭素源の存在する適した培養条件で変性宿主細胞を培養する工程と、ASA中間体が、2-ケト-グルコン酸(2-KDG)、2,5-ジケト-D-グルコン酸(2,5-DKG)、2-ケト-L-グロン酸(2-KLG)、5-ケト-D-グルコン酸(5-KDG)及びL-イドン酸から選択され、内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子が配列番号2のアミノ酸配列、配列番号4のアミノ酸配列、あるいは、配列番号2又は配列番号4と少なくとも80%相同なアミノ酸配列を有するグルコン酸トランスポーターをエンコードしていることを特徴とするASA中間体を得る工程を含む、アスコルビン酸(ASA)中間体の酸化経路に対するグルコン酸の利用率を高くする方法を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
発明の詳細な説明
組換えバクテリア宿主細胞は、ポリオール、特にケト-ポリオール及び、特にASA中間体を生産し、異化経路へ提供される炭素基質を減らすように構築されてきた。少なくとも1の酵素工程を含み、グルコースを細胞内の代謝に利用することができる、異化経路は、グルコース6リン酸、フルクトース、ソルビトール、グルコン酸6リン酸、イドネート、ソルボソン(sorbosone)、デオキシ-グルコン酸、2,5-ジ-ケトグルコン酸、及び、2-ケト-D-グルコン酸、5-ケト-D-グルコン酸、及び2-ケト-3-デオキシグルコン酸を形成する経路を意味するが、これらに限定されない(図1及び図2を参照のこと)。
【0024】
本発明の実施において、違った形で定義されない限り、当業者により用いられる遺伝子組み換え技術を含む、分子生物学、ミクロ生物学、細胞生物学、バイオテクノロジーの通常の技術が用いられる。そのような技術は、MOLECULAR CLONING : A LABORATORY MANUAL, second edition (Sambrook et al., 1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press; CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (F.M.Ausubel et al., eds., 1987 and annual updates)、 OLIGONUCLEOTIDE SYNTHESIS (M.J.Gait, ed., 1984)、 PCR: THE POLYMERASE CHAIN REACTION, (Mullis et al., eds., 1994)及び MANUAL OF INDUSTRIAL MICROBIOLOGY AND BIOTECHNOLOGY, Second Edition (A.L.Demain, et al., eds. 1999)等に記載されいている。
【0025】
定義
違った形で定義されない限り、全ての技術的及び科学的用語は、本発明の技術分野において、当業者に、通常理解されている意味と同じ意味に用いる。Singleton, et al., DICTIONARY OF MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY, 2D-ED., JohnWiley and Sons, New York (1994) 及び Hale and Marham, THE HARPER DICTIONARY OF BIOLOGY, Harper Perennial, New York (1991)は、本発明で用いられる多くの用語の一般的な辞書として用いる。
【0026】
本明細書で用いる「ポリオール」の語は、多くの水酸基を有するアルコール分子を意味する。「ケト-ポリ誘導体」の語は、ポリオール分子の中に、1以上のケト基を有するポリオールを意味する。ポリオールは、グルコース、フルクトース、マンノース、イドース、ガラクトース、ソルボース、リボース、アルトース、アラビノース、エリスロース、キシロース、キシルロース、マルトース、スクロース、エリスルロース、グルコン酸、イドネート、グロネート、ガラクチュロネート、マンニトール、ソルビトール、ソルボソン(sorbosone)、グリセロール、エリスリトール、アラビトール、DKG、KDG、KLG、グルオノラクトン及びマルチトールを含むがこれらに限定されない。これらの化合物は、D型又はL型のいずれかの構造を有する。
【0027】
ここで用いる、「アスコルビン酸(ASA)中間体」の語は、酵素学的又は化学的手段により、生物化学的に、ASAに転換されうるものを意味し、グルコン酸(GA)、2-ケト-D-グルコン酸(2-KDG又はKDG)、2,5-ジケト-D-グルコン酸(2,5-DKG又はDKG)、2-ケト-Lグロン酸(2KLG又はKLG)、5-ケト-D-グルコン酸(5-KDG)及びL-イドン酸(IA)を含むがこれらに限定されない。
【0028】
ここで用いる「炭素源」の語は、6炭糖等の微生物により使用される、適切な炭素源を意味し、グルコース(G)、グロース、ソルボース、フルクトース、イドース、ガラクトース、及びマンノースをいい、これらはD又はLのいずれかの構造を有する。あるいは、グルコース及びフルクトース等の、6炭糖の組み合わせ、及び/又は、2-ケト-L-グルコン酸、イドン酸(IA)、グルコニック酸(GA)、6-リン酸グルコン酸、2-ケト-D-グルコニック酸(KDG)、5-ケト-D-グルコニック酸、2-ケトリン酸グルコン酸、2,5-ジケト-L-グロン酸、2,3-L-ジケトグルコニック酸、デヒドロアスコルビン酸、エリスロビン酸(EA)及びD-マンノニック酸又はこれらの酵素誘導体を含む、6炭糖酸、を含むがこれらに限定されない。
【0029】
ここで用いる、「輸送システム」の語は、細胞膜に位置し、細胞膜を通り、細胞あるいは細胞成分の内外への炭素源等の化合物の輸送する、タンパク質等の少なくとも1の高分子を意味する。輸送システムは、2、3、4、5、6、又はそれ以上のタンパク質等の高分子を含む。これらのタンパク質は、基質により同時に、誘発される場合もあるが、同時に誘発されない場合もある(Saier M. et al., (1998) in ADVANCES IN MICROBIAL PHYSIOLOGY (Poole R. K. ed) p 81-136, Academic Press, San Diego, CA for a discussion of the classification of transporters参照のこと)。この文献において、輸送システムは、ときに、パーミアーゼのことを言う。例えば、大腸菌(E.coli)のグルコン酸パーミアーゼ(GntP)ファミリーは、gntP、gntT、gntU、gntW、ORFf449、dsdX 及びORFo454 7を含む7つのトランスポーター遺伝子によりエンコードされている(Peekhaus et al., (1997) FEMS Micro. Lett. 147: 233-238)及び Yamada et al., (1996) Biosci.参照のこと)。参考文献は、Yamada et al., (1996) Biosci. Biotech. Biochem., 60: 1548-1550 及びTsunedomi et al., (2003) J. Bacteriol. 185: 1783-1795である。ある態様において、ここで用いる、トランスポータータンパク質は、「シンポーター」である。シンポーターは、電気化学的勾配を利用して、連続する工程内で、同じ方向に向けて、2以上の基質あるいは、物質を一緒に輸送する、トランスポーターであると定義される。シンポーターの一例は、プロトン結合基質トランスポーターである。
【0030】
「グルコン酸トランスポーター」の語は、内部細胞膜を通って、細胞質内へのグルコン酸の輸送を触媒するタンパク質を言う。グルコン酸に加えて、グルコン酸トランスポーターは、細胞膜を通過する他の糖酸分子又は糖-ケト酸の輸送も促進する。
【0031】
「糖酸分子」の語は、1以上の酸基を有する糖分子を意味する。本出願に関する、グルコン酸トランスポーターによって、トランスポートされる、好ましい糖酸は、グルコン酸を含むが、イドン酸、ガラクチュロン酸、グルクロン酸、及び/又はグロン酸をも含む。
【0032】
「糖-ケト-酸」の語は、1以上のケト基と、1以上の酸基を有する糖分子であると定義される。本発明のグルコン酸トランスポーターは、2-ケト-D-グロン酸(2-KDG又はKDG)、2-ケト-L-グロン酸(KLG)、5-ケト-D-グロン酸(5-KDG)、D-タガチュロン酸及び/又はD-フルクチュロン酸等の糖-ケト-酸の輸送を触媒する。
【0033】
「KDGトランスポーター」の語は、細胞膜を通過する、KDGの輸送を触媒するタンパク質を意味する、より具体的には、KDGトランスポーターは、内部細胞膜を通過して、細胞質へ進入するKDGの輸送を促進する。
【0034】
「グルコーストランスポーター」の語は、細胞膜を通過してグルコースの輸送を触媒するタンパク質を意味する。より具体的には、グルコーストランスポーターは、内部細胞膜を通過し、細胞質へ進入するグルコースの輸送を促進する。
【0035】
「DKGトランスポーター」の語は、細胞膜を通過する、DKGのトランスポートを触媒するタンパク質を意味する。より具体的には、DKGトランスポーターは、内部細胞膜を通過し、細胞質へ進入するグルコースの輸送を促進する。
【0036】
「細胞質」又は「細胞質の」の語は、内部細胞膜の内側に存在するものを意味する。「細胞外の」、又は、「内部細胞膜の外側」の語は、細胞質に対して膜の反対側の位置を意味する。内部の、又は、細部膜の語は、(及びときどき、ペリプラズムの細胞膜を意味する)は、ペリプラズムから細胞質を分離するバリアを意味する。「細胞内」の語は、細胞質ゾルに最も近い膜側の細胞の一部を言う。「細胞内」の語は、細胞質ゾルを含む。
【0037】
「遺伝子」の語は、ポリペプチドを含むDAN断片を意味し、個々のコード断片(エキソン)間にある介在領域(イントロン)だけでなく、コード領域の前後を含む。本発明の明細書では、それらをエンコードしてる遺伝子及びタンパク質を表すときは、遺伝子の語については、小文字と下線で表す(すなわち、glkA)。タンパク質についての語は、イタリックを用いずに、最初の文字を大文字で表す(すなわち、GlkA)。
【0038】
「タンパク質」及び「ポリペプチド」の語は、本明細書では互換的に用いる。
【0039】
ここで用いる宿主細胞の「酸化経路」の語は、D-グルコース等の炭素源を酸化する、すくなくとも1の酵素と、その代謝物を含む、宿主細胞の経路を意味する。宿主細胞内の酸化経路は、1、2、3、又はそれ以上の酵素を含む。酸化経路の例は、グルコースデヒドラーゼの活性により、グルコースをグルコン酸に形成する過程である。酸化経路の他の例は、グルコースデヒドロゲナーゼ、グルコン酸デヒドロゲナーゼ及び2-KDGデヒドロゲナーゼの活性により、グルコースからDKGを形成する過程である。
【0040】
宿主細胞の「異化経路」の語は、少なくとも1の代謝中間体を生成する少なくとも1の酵素を含む宿主細胞を意味する。通常、代謝中間体の形成は、例えば、D-グルコース及び/又はその中間体等の炭素源のリン酸化によるATP、NADPH又はNADHの生成と連結している。宿主細胞内の細胞内異化経路は、宿主細胞細胞質ゾル内の少なくとも1の酵素の活性を含む宿主細胞を意味する。いくつかの態様において、異化経路は、2、3又はそれ以上の活性を含む。異化経路は、解糖系、ペントース回路、及びTCA回路を含むがこれらに限定されない(図1及び図2)。
【0041】
ここで用いる、「グルコキナーゼ」(E.C.-2.7.1.2)の語は、D−グルコース又はL−グルコースをその6炭糖にリン酸化する酵素を意味する。ここで用いる、「グルコキナーゼ」(E.C.-2.7.1.12)は、D-グルコン酸又はL-グルコン酸を6炭糖にリン酸化する酵素を意味する。
【0042】
遺伝子又はタンパク質に対して用いる「非機能的」、「不活性」又は「失活」の語は、遺伝子又はタンパク質の、通常知られている機能又は活性が排除されている、あるいは、その機能が大部分損失されいていることを意味する。例えば、グルコン酸トランスポーターの不活性化は、gntU及び/又はidnT染色体遺伝子の失活によりもたらされる。遺伝子又はタンパク質を非機能的にする、失活は、核酸配列の損失、変異、置換、阻害、又は挿入等の方法を含む。
【0043】
遺伝子の「欠失」の語は、コード配列全体の欠失、コード配列の部分的な欠失、調節領域の欠失、翻訳シグナルの欠失、あるいは、フランキング領域を含むコード領域の欠失を含む。
【0044】
核酸について用いる「変異」の語は、核酸が部分的又は全体的に失活されている生成物等の核酸中の任意の変更を意味する。「変異」の例は、ポイント変異、及びフレームシフト変異、及び、トランスポーターをエンコードしている遺伝子の一部又は全体の欠失を含むがこれらに限定されない。
【0045】
核酸又はポリヌクレオチドに対して用いる、「修飾」の語は、変異、核酸の一部又は全部の欠失、あるいは、これらを転写調節領域に作動可能に結合させることにより、野生型の核酸と比較して、変性させられている核酸を意味する。
【0046】
本発明の「修飾された宿主細胞又は系統」の語は、失活したグルコン酸トランスポーターを有する微生物の細胞を意味する。一の態様において、修飾された宿主細胞は、実質的に同じ成長条件下での、修飾されていないバクテリア宿主細胞の成長と比較して、同じ所望の生成物の生産レベルが高められている。他の態様においては、修飾された宿主細胞は、対応する修飾されていない、バクテリア宿主細胞と比較して、ASA中間体を生産するための、宿主細胞に利用される、グルコン酸利用率のレベルが高められている。
【0047】
「修飾されていない微生物宿主細胞又は系統」の語は、遺伝的には修飾された微生物宿主細胞又は系統に対応するけれども、本発明により包含される内因性グルコン酸トランスポーターエンコーディング遺伝子が、失活されておらず、その機能を保持するバクテリア細胞を意味する。
【0048】
「高められた生成物レベル」の語は、実質的に同じ条件で、培養した時に、修飾されていないバクテリア宿主細胞の生産と比較すると、所望の最終生成物又は基質の生産が高められていることを意味する。例えば、修飾されていない宿主細胞の生産性よりも、2%、5%、10%、15%、20%、30%、40%あるいは、それ以上に生産性が高められていることを意味する。生産性を表現するには、多くの方法があるけれども、重量%(生産物のグラム/基質のグラム)又は、時間当たりのgm/Lで表すことを含む。この高められた生成物レベルは、本発明に従って、グルコン酸トランスポーターをエンコードしている1以上の染色体遺伝子の失活に起因する。第一の態様では、この高められた生成物レベルは、グルコン酸トランスポーターをエンコードしている、1以上の染色体遺伝子の欠失に起因している。第二の態様では、この高められた生成物レベルは、グルコン酸トランスポーターをエンコードしている1以上の染色体遺伝子の挿入失活(阻害)に起因している。
【0049】
「染色体への組み込み」の語は、導入されるポリペプチドが、宿主細胞の染色体内へ取り込まれる過程を言う。この過程は、好ましくは、相同組込みにより起こる。
【0050】
ここで用いる、宿主細胞により生産されるタンパク質又は酵素活性の「修飾された」レベルは、培養中に生産される、タンパク質又は酵素活性のレベルを所望により、増加させたり、低減させたりして、調節することを言う。
【0051】
「転写調節の下で、」又は「転写的にコントロールされている」の語は、ポリヌクレオチド配列、通常DNA、の転写が、転写の開始又は促進に寄与するエレメントに作動可能に結合することに依存していることを示すことは、当該技術分野で理解されている。「作動可能に結合」の語は、該エレメントが機能を発揮するように配置されている位置の近接した位置にあることを言う。「転写制御」の語は、mRNAが形成された後に起こる調節プロセスを示す語であると当該技術分野で理解されている。「発現」は転写及び/又は翻訳を含む。「過剰発現」の語は、宿主細胞ゲノム内で同じ遺伝子が増幅され、多数複製されることを意味する。
【0052】
「対応する非修飾宿主細胞系統と比較して、ASA中間体の生産が、高められていることを特徴とする、炭素源からASA中間体を生産させること」は、好ましい最終生成物を生産させるために、修飾された宿主細胞系統と炭素源を接触させることを意味する。本発明のグルコン酸トランスポーターの変性により、修飾されたバクテリア宿主細胞は、所望の最終生成物の生産を高めることができる。
【0053】
「所望の最終生成物」又は「所望の生産物」の語は、炭素源から生物学的転換により生成される所望の化合物を意味する。所望の最終生成物は、実際に求める化合物、あるいは、他の経路における中間体である。採用される所望の化合物は、グルコン酸、2-ケト-D-グルコン酸、2,5-ジケト-D-グルコン酸、エリソルビン酸、5-ケト-D-グルコン酸、2-ケト-L-グルコン酸、酒石酸、D-リボース、リボフラビン、デオキシ-デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、ソルビトール、グリセロール、ソルボース、ジヒドロキシアセトン、芳香族アミノ酸、P-ヒドロキシ安息香酸、キノン、カテコール、インドール、インディゴ、没食子酸、ピロガロール、メラニン、アジピン酸、及びP-安息香酸等の芳香族化合物、ピリドキシン及びアスパルテームである。特に好ましい、所望の生成物は、ソルビトールのケト誘導体、グルコン酸のケト誘導体、及び、グリセロールのケト誘導体である。
【0054】
本明細書で用いる、「バクテリア」の語は、原核生物である、すなわち、膜結合性核、及び、オルガネラ(細胞小器官)の存在しない、顕微鏡下で観察し得る、有機体のグループをいう。すべての原核生物は、細胞内外への物質の輸送を調節する脂質膜で囲まれている。硬細胞壁は、完全に、バクテリアを取り巻き、膜の外に位置する。バクテリアには多数のタイプがあるが、バチスル(Bacillus), ストレプトマイシン(Streptomyces)シュードモナース(Pseudomonas)及び、腸内細菌科のファミリーの系統を含むがこれらに限定されない。
【0055】
本明細書で用いる、「腸内細菌科」のファミリーの語は、グラム陰性で、条件嫌気性の遺伝的特徴を有するバクテリア系統を意味する。ASA中間体の生産に関して、好ましい腸内細菌科は、D-グルコースを転換することができて、D-グルコース又は炭素源から2,5-ジケト-D-グルコン酸を生産することができるものである(Kageyama et al., International J. Sys. Bacteriol. 42: 203 (1992))。腸内細菌科のファミリーの中には、エルウィニア(Erwinia)、エンテロバクター(Enterobacter)、グルコノバクター(Gluconobacter)、クレブシエラ(Klebsiella)、エシェリキア(Escherichia) 及びパントエア(Pantoea)がある。本発明における、ASA中間体を生産するための、好ましい腸内細菌科は、パントエア(Pantoea)種である。パントエア(Pantoea)遺伝子は、パントエアアグロメランス(P. agglomerans)、パントエアディスペルサ(P. dispersa)、パントエアパンクタタ(P. punctata)、パントエアシトレア(P. citrea)、パントエアテレア(P. terrea)、パントエアアナアンス(P. ananas)及びパントエアステワルティ(P. stewartii)である。 特に好ましいのは パントエアシトレア(Pantoea citrea)である。パントエアシトレア(Pantoea citrea)は、例えば、ATCC No. 39140を有し、ATCC(マナッサ、バージニア)から入手することができる。パントエアシトレア(Pantoea citrea)は、エルウィニアヘルビコラ(Erwinia herbicola)又は、アセトバクターセレニウス(Acetobacter cerenius)とも言われる。従って、パントエア(Pantoea)遺伝子は、エルウィニアヘルビコラ(Erwinia herbicola)又は、アセトバクターセレニウス(Acetobacter cerenius)として分類されている種を含むがこれらに限定されない。
【0056】
本明細書で用いる、「バチルス(Bacillus)」ファミリーの語は、グラム陽性であり、酸素の存在下で、内因性胞子を生産する特徴を有する、棒状のバクテリア系統を言う。バチルスの例は、バシルススブチルス(B.subtilis)、バチルスリケニフォルミス(B.licheniformis)、バチルスレンタス(B. lentus)、バチルスサーキュランタス(B. circulans)、バチルスレンタス(B.lautus)、バチルスアミロリケファシエンス(B. amyloliquefaciens)、バチルススレアロセレモフィリス(B. stearothermopHilus)、バチルスアルカロフィリス(B. alkalopHilus)バチルスコアギュランタス(B. coagulans)バチルススリンギエンシス(B. thuringiensis) およびバチルスブレビス(B. brevis)を含む。
【0057】
ここで用いる、「組み換え」の語は、例えば、有機体中に自然発生することのない核酸の付加、あるいは、宿主細胞中に自然発生している核酸の修飾等により、遺伝子を改造した宿主細胞を言う。
【0058】
ここで用いる、「異種」のという語は、宿主細胞中に自然発生していない、核酸、又は、アミノ酸配列を言う。本明細書で用いる、「内因性の」という語は、宿主細胞中に自然発生する核酸または、アミノ酸配列を言う。
【0059】
「単離」または、「精製」の語は、本来関係のある、少なくとも1の成分を除去した、酵素、核酸、タンパク質、ペプチド、または、共因子を言う。本発明では、単離された核酸は、この核酸を有するベクターも含む。
【0060】
本明細書用いる、「ベクター」の語は、ある核酸を1種類以上の細胞へ導入することを意図して作成された、ポリペプチド構築体である。ベクターの語は、クローニングベクター、発現ベクター、シャトルベクター、プラスミドおよび同種のものを含む。
【0061】
ここでは、互換的に用いられる、「ポリヌクレオチド」および「核酸」の語は、リボヌクレオチドまたはデオキシリボヌクレオチドのどちらか一方の、任意の長さの、核酸の形態を有する、ポリヌクレオチドを言う。これらの言葉は、一本鎖、二本鎖、三本鎖NDA、ゲノムDNA、cDNA、RNA、DNA−RNAハイブリッド、または、プリンまたはピリミジン塩基を含むポリマー、あるいは、他の天然、化学的あるいは生化学的に修飾された、天然には存在しない、または、誘導された、核酸塩基を含む。ポリヌクレオチドの非限定的な例は、遺伝子、遺伝子断片、エキソン、イントロン、mRNA、tRNA、rRNA、リボザイム、cDNA、リコンビナントポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意配列の単離DNA、任意配列の単離RNA、核酸プローブまたはプライマーである。ポリヌクレオチドは、メチル化核酸、および、核酸アナログ等の、修飾されたヌクレオチド、ウラシル、他の糖および、フルオロリボースおよびチオネート等の結合基、および、分岐核酸を含む。このヌクレオチドの配列は、核酸以外の成分により阻害される。
【0062】
他の配列に対して、所定のパーセンテージ(例えば、40%、50%、60%、70%、80%、85%、90%、93%、95%、97%、または99%)の配列相同性を有するポリヌクレオチド、または、ポリペプチドとは、整列させて2の配列を比較したときに、所定の割合の同じ核酸または、同じアミノ酸を有するものを意味する。このアラインメントおよびホモロジーの相同性または、配列相同性は、例えば、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY (F. M. Ausubel et al., eds., 1987) Supplement 30, section 7.7.18.に記載されている、当業者によく知られているソフトウェアで検出することができる。好ましいアラインメントプログラムは、ALIGN plus(サイエンティフィックアンドエジュケーショマルソフトウエア、ペンシルバニア)であり、ミスマッチ=2、オープンギャップ=0、エクステンドギャップ=2のデフォルトパラメータを使用することが好ましい。用いることができる他の配列ソフトウエアは、TFastA Data Searching Program available in the Sequence Analysis Software Package Version 6.0 (ジェネティックコンピューターグループ、ウイスコンシン大学、マディソン、ウインスコンシン)である。
【0063】
糖の酸誘導体は、培地環境に依存して各種イオン状態で存在することが知られている。例えば、イドン酸の語は、分子そのものだけでなく、分子のすべてのイオン状態を含むことを意図する。したがって、例えば「イドン酸」、その環状化合物である「イドノラクトン」および、「イドネート」は、同じ有機化合物の一部を意味し、それぞれ別個のイオン状態あるいは、化学的形態を意味するものではない。
【0064】
本明細書で用いる、「培養」の語は、反応管の中で、炭素源を所望の最終生成物へ、発酵生物転換することを言う。生物転換の語は、炭素源を所望の最終生成物に転換させるために、微生物を炭素基質に接触させることを意味する。本明細書で用いる「ATCC」の語は、バージニア州マナッサにあるアメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection )を言う (ATCC, www/atcc.org)。
【0065】
「含む(comprising)」およびこれと同じ意味の語は、包含する意味に用いる、すなわち、「含む(includhing)」と同じ意味で用いる。
【0066】
「一の(a)(an)」および「この(the)」の語は、ほかに違った形で定義されない限り、複数も含めるものとする。
【0067】
好ましい態様
A. 遺伝子、タンパク質、およびベクター
本出願は、グルコン酸トランスポーターをエンコードしている単離核酸分子に関係する。一の態様において、グルコン酸トランスポーターをエンコードしている単離ポリヌクレオチドは、配列番号1で定義されている核酸と、または、配列番号1で定義されている核酸配列と少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、93%、95%、97%、98%および99%の配列相同性を有する核酸を有する。好ましくは、単離ポリヌクレオチドは、配列番号1で定義される核酸と、少なくとも40%、少なくとも80%、または少なくとも95%の配列相同性を有する。好ましくは、この単離ポリヌクレオチドは、パントエア(Pantoea)宿主細胞から得られる。
【0068】
他の態様において、グルコン酸トランスポーターをエンコードしている単離ポリヌクレオチドは、配列番号3で定義される核酸、または、これと少なくとも、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、93%、95%、97%、98%および99%の配列相同性を有する核酸を有する。好ましくは、単離ポリヌクレオチドは、配列番号3で定義される核酸と、少なくとも40%、少なくとも80%、または少なくとも95%の配列相同性を有する。好ましくは、この単離ポリヌクレオチドは、パントエア(Pantoea)宿主細胞から得られる。
【0069】
本発明に関する単離ポリヌクレオチドは、配列番号2で定義されるアミノ酸配列、または、配列番号2の配列と少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、93%、95%、97%、98%および99%の配列相同性を有するグルコン酸トランスポータータンパク質をエンコードする。好ましくは該単離ポリヌクレオチドは、配列番号2で定義される配列を有するグルコン酸トランスポータータンパク質、または、配列番号2の配列と少なくとも40%、少なくとも80%、または少なくとも95%の配列相同性を有するグルコン酸トランスポータータンパク質をエンコードしている。配列番号2で定義されるアミノ酸を有するグルコン酸トランスポータータンパク質は、GntUと表示する。
【0070】
本発明に関する単離ポリヌクレオチドは、配列番号4で定義されるアミノ酸配列または、配列番号4の配列と少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、93%、95%、97%、98%および99%の配列相同性を有する、グルコン酸トランスポータータンパク質をエンコードする。好ましくは、単離ポリヌクレオチドは、配列番号4で定義される配列を有するグルコン酸トランスポータータンパク質、または、配列番号4の配列と少なくとも80%、少なくとも95%の配列相同性を有するトランスポータータンパク質をエンコードする。配列番号4で定義されるアミノ酸配列を有するタンパク質は、IdnTと表示する。加えて、一の態様において、このグルコン酸トランスポーターおよびそれに対して、少なくとも80%の配列相同性を有するものは、宿主バクテリア細胞の内細胞膜を横切るイドネート(idonate)の輸送を促進することができる。
【0071】
遺伝コードの退縮および、1のアミノ酸は1以上のアミノ酸によりコードされることは当業者によく知られている。このことによる変形態様も本発明の一部である。
【0072】
本発明の更なる態様は、配列番号2で定義されるアミノ酸配列または、配列番号2で定義されるアミノ酸配列と少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、93%、95%、97%、98%および99%の配列相同性を有するアミノ酸配列を含む。一の態様において、グルコン酸トランスポーター遺伝子は、配列番号2で定義されるアミノ酸、または、これと少なくとも40%、少なくとも80%あるいは、少なくとも95%の配列相同性を有するアミノ酸を有する。この配列番号2で定義されるグルコン酸トランスポータータンパク質は、パントエア(Pantoea)から得られる。他の態様において、本発明は、配列番号4で定義されるアミノ酸配列または、配列番号4で定義されるアミノ酸配列と少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、93%、95%、97%、98%および99%の配列相同性を有するアミノ酸を含む、単離グルコン酸トランスポータータンパク質を含む。一の態様において、グルコン酸トランスポーター遺伝子は、配列番号4で定義されるアミノ酸配列、または、これと少なくとも80%の配列相同性を有するアミノ酸配列を有する。一の態様において、好ましいグルコン酸トランスポーターは、パントエア(Pantoea)系統から得られたトランスポーター、好ましくは、パントエアシトレア(P.citrea)またはパントエアアグロメランス(P. agglomerans)系統から得られたトランスポーターである。
【0073】
本発明に関するグルコン酸トランスポーターは、グルコン酸の輸送を触媒するだけでなく、糖−ケト酸、KDG、KLG、5−KDG、D-ガラクチュロン酸およびD-フルクチュロン酸の輸送も触媒する。さらに、本願発明のグルコン酸トランスポーターは、イドン酸、ガラクチュロン酸、グロン酸および/またはグルクロン酸等の糖酸の輸送も触媒する。
【0074】
本発明に関するグルコン酸トランスポーターは、トランスポーターのGntPファミリーのメンバーである。各種微生物から100を超えるグルコン酸トランスポーターが確立されている。これらの微生物は、エシェリキア(Escherichia)、バチルス(Bacillus)、ヘモフィリス(HaemopHilus)、シュードモナス(Pseudimonas)及びクロスチリジウム(Clostridium)を含む(Yamada et al., (1996) Biosci. Biotech. Biochem. 60: 1548-1550、Bausch et al., (1998) J. Bacteriol. 180 : 3701-3710; Reizer etal., (1991) Mol. Microbiol. 5: 1081-1089及び Peekhaus et al., (1997) FEMS Microbiol. Lett. 147: 233-238を参照のこと)。配列番号2で定義されたアミノ酸と、開示されたグルコン酸トランスポーターのいくつかとの全体の同一性は、約34%未満であり、配列番号4に対しては約76.3%である(図10)。
【0075】
自然発生するグルコン酸トランスポーターは、約12から約14の膜貫通領域を有し、通常、約400から450アミノ酸全長を有する。この態様において、好ましい単離グルコン酸トランスポーターは、パントエア(Pantoea) 特に パントエアシトレア(P. citrea)又は パントエアアグロメランス(P. agglomerans)系統である。
【0076】
パントエア(Pantoea)系統等の微生物中に見られるグルコン酸トランスポータータンパク質を同定するために有用な方法は、当業者によく知られており、組み換え技術を含む。したがって、例えば、図4または6で定義されるグルコン酸トランスポーター遺伝子、あるいはこれと相補的な遺伝子に、高ストリンジェンシー条件でハイブリダイズする核酸配列、も、また、グルコン酸トランスポーターとして機能するタンパク質をエンコードする。ハイブリダイゼーションは、塩基のペアリングを通して、相補的な鎖と、核酸の鎖が結合することによる工程を含む。高ストリンジェンシー条件は、当業者には良く知られており、Maniatis, et al., MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL, 2d Edition (1989) and SHORT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY, Ausubel et al.に開示されている。ストリンジェント条件は、配列依存であり、環境に依り異なる。より長い配列は、高い温度で特異的にハイブリダイズする。核酸のハイブリダイズに関する更なる文献は、Tijssen, TECHNIQUES IN BIOCHEMISTRY AND MOLECULAR BIOLOGY-HYBRIDIZATION WITH NUCLEIC ACID PROBES, Overview of Principles of Hybridization and the Strategy of Nucleic Acid Assays (1993)である。通常、ストリンジェント条件は、所定のイオン強度およびpHにおける、特定の配列に対する、熱溶融温度(Tm)よりも、約5から約10℃低くなるように選択される。Tmは、標的に相補的なプローブの50%が、平衡状態で、標的配列にハイブリダイズする温度である。ストリンジェント条件は、約1.0M未満のナトリウムイオン、通常、約0.01から1.0Mのナトリウムイオン濃度(又は他の塩)の塩濃度と、7.0から8.3のpH、および短いプローブ(例えば、10から50塩基)に対しては、少なくとも30℃、および、長いプローブ(例えば、50以上の塩基)に対しては、約60℃未満である。ストリンジェント条件は、ホルムアミド等の非安定剤の添加で達成することができる。他の態様において、より低いストリンジェントハイブリダイズ条件が用いられる。例えば、中から低いストリンジェント条件が用いられる。
【0077】
PCRもグルコン酸トランスポーターの相同配列の検出に用いられる。参考文献は、Chen et al., (1995) Biotechniques 18 (4): 609-612である。グルコン酸トランスポーター分子の検出に用いられる典型的なプローブオリゴヌクレオチドは、配列番号1または配列番号3で定義されるポリヌクレオチドまたはそれらのフラグメントを含む。これらのフラグメントは、配列番号1または配列番号3で参照される配列と、少なくとも、15、20、25、30、35、40、45、50、60、65、70、75、80、90またはより多くの同じヌクレオチドを含む。加えて、本発明に有用なオリゴヌクレオチドは、配列番号2または配列番号4のどちらかのアミノ酸残基、と、少なくとも5、10、15、20、25、30またはより多くの同じアミノ酸を有する、ポリペプチドをエンコードしている核酸配列を含む。他の方法は、核酸の検出および/または定量に対する、タンパク質バイオアッセイ、またはイムノアッセイ技術、膜ベース、溶液ベース、またはチップベース技術を含む。
【0078】
グルコン酸トランスポーター活性は、各種方法で検出することができる。例えば、グルコン酸取り込みアッセイおよび、実施例で説明されるように、HPLCを用いた、グルコン酸またはイドネートの代謝産物の検出方法がある。
【0079】
さらに、同じ種または同じ系統の細胞内では、1以上のグルコン酸トランスポータータンパク質は、細胞内へのグルコン酸の輸送内に含まれるということが信じられている。一の態様おいては、GntUまたはIdnTのグルコン酸トランスポータータンパク質のファミリーは、パントエア(Pantoea)細胞中に、グルコン酸トランスポートシステムを含むメンバーである。
【0080】
トランスポータータンパク質は、細胞膜を通過して、基質を移動することにより機能する。図2に示すように、グルコン酸トランスポーターの機能は、グルコン酸等の基質を、それが利用される細胞質内の場所に輸送することを促進することである。グルコン酸トランスポーターを不活性化して、細胞質内へのグルコン酸の輸送を減らすことにより、より多くの基質が、ケト糖およびASA中間体、および特に、KLGの生物生産物に対する、酸化物質に利用される。
【0081】
B.バクテリア宿主細胞
本発明の特に好ましいバクテリア宿主細胞は、腸内細菌細胞および特に大腸菌(E. coli)とパントエア(Pantoea)細胞である。特に好ましいパントエア(Pantoea)細胞は、パントエアシトレア(P. citrea)および パントエアアグロメランス(P. aggolmerans)(USP 5,032,514)である。バチルス(Bacillus sp.)種もまた宿主細胞とすることができる。
【0082】
一の態様において、本発明の修飾バクテリア宿主細胞は、少なくとも1の非機能化されている内因性グルコン酸トランスポーターを含む。一の実施例において、該修飾バクテリア宿主細胞は、対応する非変性宿主細胞内のグルコン酸トランスポーターが、配列番号2で定義されるアミノ酸配列をエンコードしているポリヌクレオチド、または配列番号2で定義されるアミノ酸配列と少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、98%、あるいは99%の配列相同性を有するアミノ酸配列を有するグルコン酸トランスポーターをエンコードしているポリヌクレオチドによって、エンコードされていることを特徴とする、非機能化されたグルコン酸トランスポーターを含んでいる。さらなる態様において、非修飾宿主細胞内の該グルコン酸トランスポーターは、配列番号1の配列と少なくとも80%、85%、90%、97%、98%および99%の配列相同性を有するポリヌクレオチドによってエンコードされている。
【0083】
他の実施例において、該修飾バクテリア宿主細胞は、非機能的グルコン酸トランスポーターを含んでいる。ここで対応する非修飾バクテリア細胞内のグルコン酸トランスポーターは、配列番号4で定義されるアミノ酸配列をエンコードしているポリヌクレオチド、または、配列番号4で定義されるアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%、98%、または99%相同なアミノ酸配列をエンコードしているポリヌクレオチドによってエンコードされている。更なる態様において、非修飾バクテリア細胞中のグルコン酸トランスポーターは、配列番号3で定義されるアミノ酸配列と少なくとも40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、97%、または99%相同な核酸を有するポリヌクレオチドによってエンコードされている。
【0084】
本発明の修飾バクテリア細胞は、1以上の非機能化されたグルコン酸トランスポーターを含んでいる。本発明の修飾細胞は、2、3、4またはそれ以上の非機能化されたグルコン酸トランスポータータンパク質を含む。一の態様において、少なくとも2のグルコン酸トランスポータータンパク質が、非機能化される。一の特定の実施例において、配列番号2の配列と少なくとも90%の配列相同性を有するグルコン酸トランスポーターおよび配列番号4の配列と少なくとも90%の配列相同性を有するグルコン酸トランスポーターが、宿主細胞内で非機能化される。第二の特定の実施例において、配列番号2の配列と少なくとも95%の配列相同性を有するグルコン酸トランスポーターおよび配列番号4の配列と少なくとも95%の配列相同性を有するグルコン酸トランスポーターが、バクテリア宿主細胞内で非機能化される。
【0085】
グルコン酸トランスポーターが非機能化されると、細胞内膜を通過する基質グルコン酸の輸送が相当少なくなり、いつくかのケースでは、グルコン酸は細胞内膜を通過しなくなる。グルコン酸の輸送が減少すると、ASA中間体の生産に用いられる酸化経路中のグルコン酸基質の利用率を増やす結果となる。
【0086】
C. グルコン酸トランスポーターを非機能化する方法
染色体遺伝子を非機能化する方法は、よく知られており、数多くの方法は、本願のグルコン酸トランスポーター分子を失活させるために用いることができる。本発明の変性バクテリア系統中では、グルコン酸トランスポーター遺伝子の失活は、安定であり、非失活状態には戻らないことが好ましい。このような方法のいくつかは、宿主細胞内へのDNAの取り込みを含み、参考文献は、Balbas et al., (1996), Gene, 172: 65-69 及び LeBorge et al., (1998), Gene, 223: 213-219.である。
【0087】
ある失活の好ましい態様は、グルコン酸トランスポーターをエンコードしている遺伝子の欠失である。遺伝子の欠失は、遺伝子の生物活性を有する染色体上の配列がとても短いときに有効である。本発明のグルコン酸トランスポーター遺伝子の欠失方法のひとつは、所望の配列をエンコードするトランスポーターの領域の相同なフランキング領域を含むべくターを構築することである。このベクターのフランキング領域は、5`または3`に約1bpから約500bpを含む。あるいは、このベクターのフランキング領域は、500bpより多いく、失活または欠失される遺伝子の領域内に、他の遺伝子を含まないことが好ましい。ベクター構築物は、例えば形質転換によって、バクテリア宿主細胞内に導入され、バクテリア宿主細胞染色体に組み込まれる。最終的には、導入されたDNAは、内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子の欠失を引き起こす。
【0088】
他の態様において、失活は挿入により行われる。挿入による失活は、染色体コード領域の阻害を含む。例えば、gntUが失活される遺伝子であるとき、DNA構築物は、選択的マーカーにより阻害されるgntU核酸配列を含む。この選択マーカーは、gntUコード配列の区分に隣接する両側に配置される。該DNA構築物は、バクテリア宿主細胞染色体中のgntU遺伝子と実質的に同じ配列に整列する。そして、二重交叉がおきたときに、gntU遺伝子は、選択マーカーの挿入により失活する。選択マーカーとは、ベクターを含むバクテリア宿主細胞の選択を容易にするために、宿主細胞微生物内で、発現できる遺伝子を意味する。そのような選択マーカーの例は、エリスロマイシン、カナマイシン、クロラムフェニコールおよびテトラサイクリン等の抗生物質耐性遺伝子を含むがこれらに限定されない。
【0089】
他の態様において、失活は、ベクターとしての、プラスミドを用いて、一重交叉中の挿入により行われる。例えば、gntU等のグルコン酸トランスポーター染色体遺伝子は、gntU遺伝子または、所定の配列をコードしている遺伝子または選択マーカーの一部を含むプラスミドと整列する。この選択マーカーは、配列をコードしている遺伝子内、あるいは、遺伝子を分離したプラスミドの一部の上に位置する。ベクターはバクテリアの染色体内に取り込まれ、遺伝子はコード配列内のベクターの挿入により失活する。
【0090】
失活は遺伝子の変異によっても引き起こすことができる。変異遺伝子の方法は、当該技術分野でよく知られており、化学変異誘発、部分変異誘発、ランダム変異誘発、および 二本鎖開裂アプローチ(gapped-duplex approaches)を含むがこれらに限定されない。(USP 4,760, 025、Moring et al., Biotech. 2: 646 (1984)及びKramer et al., Nucleic Acids Res. 12: 9441 (1984)参照のこと)。化学変異誘発は、アクリジン色素等のDNA複製に影響を与える化学物質だけでなく、HNOおよびNH2OH等のDNA複製に影響を与えない化学物質の使用を含む。放射線および化学物質を用いた、突然変異体の特定作成方法は、本技術分野でよく知られている。T.D.Brock in BIOTECHNOLOGY : A TEXTBOOK OF INDUSTRIAL MICROBIOLOGY, 2nd Ed. (1989) Sinauer Associates, Inc. Sunderland, MA参照のこと。所望の性質を有する変異体は、突然変異後に、選択培地上でのランダムスクリーニング、または、選択的単離等の各種方法で選別される。
【0091】
いくつかの態様において、発現ベクターは、核酸操作の容易にするために、ベクターに特異的な、少なくとも1の制限エンドヌクレアーゼを好ましくは含む、マルチプルクローニングカセットを含むように構築される。好ましい態様において、このベクターは、1以上の選択マーカーを含む。他の好ましい態様において、グルコン酸トランスポーター遺伝子は、相同体組み換えにより、欠失させられる。
【0092】
例えば、図7に示すように、失活カセットは、グルコン酸トランスポーター遺伝子、gntUを含む、第一DNAクローニングフラグメントによりベクター内で構築される。gntU遺伝子を失活させるために、抗生物質耐性遺伝子(例えばクロラムフェニコール、Cm遺伝子)、はグルコン酸トランスポーター遺伝子内に見られる、特異的な制限部位内へ、挿入される。この抗生物質マーカーのgntU遺伝子への挿入は、通常のコーディング配列を阻害する。不活性カセットは、pGP704 (Miller et al. (1988) J. Bacteriol. 170: 2575-2583)のような非複製R6Kベクターを用いた相同組み換えによりバクテリア宿主細胞染色体に輸送される。バクテリア宿主細胞染色体内へのカセットの輸送は、バクテリア宿主細胞による、CmRの包含により選択される。一旦、gntU遺伝子の失活が、確立されると、失活しているコード領域内で、阻害スペーサー(この例の場合は、loxPサイト)を除いて、CmRは、gntUコード領域から分離される。同じような工程は、内因性idnT遺伝子の失活を説明する図8に見られる。2のフラグメントを用いる例においては、loxP-CmR−idnTカセットを含むものと、idnDカセットを含むものを、互いに結合し、バクテリア宿主細胞に転送し、イドネート脱水酵素をエンコードしているグルコン酸トランスポーター、idnTおよびidnD遺伝子の阻害を引き起す。
【0093】
バクテリア有機体の中で宿主細胞として使用することができるプラスミドは、よく知られており、参考文献は、Maniatis, et al., MOLECULAR CLONING、A LABORATORY MANUAL, 2d Edition (1989) AND MOLECULAR CLONING、A LABORATORY MANUAL, second edition (Sambrook et al., 1989) 及び Bron. S, Chapter 3, Plasmids, in MOLECULAR BIOLOGY METHODS FOR BACILLUS, Ed. Harwood and Cutting, (1990) JohnWiley & Sons Ltd.である。
【0094】
腸内細菌の系統内で、非自然発生タンパク質または酵素をエンコードしているポリヌクレオチドの組み換え導入に対する好ましいプラスミドは、RSF1010である(Frey et al., 1989, The Molecular Biology of IncQ Plasmids. In: Thomas (Ed.), PROMISCUOUS PLASMIDS OF GRAM NEGATIVE BACTERIA. Academic Press, London, pp.79-94)。このプラスミドは固定化されているが、グラム陰性およびグラム陽性バクテリアを含む幅広いバクテリア宿主細胞の中で複製することができる自己複製的プラスミドではない。Freyらは、RSF1010の固定化タンパク質に影響する3つの領域について報告している。(Frey et al., (1992) Gene 113: 101-106).
更なる態様において、失活または欠失遺伝子の発現産物は、このタンパク質が変化した生物活性を有する限り、短縮(truncated)タンパク質である。この生物学的活性の変化は、修飾された活性となるが、好ましくは生物学的活性の減少である。
【0095】
D. 付加的な遺伝子修飾
一の態様において、本発明の修飾バクテリア細胞は、さらなる染色体遺伝子の修飾を含んでいる。これらのバクテリア宿主細胞に対する修飾は、1以上のグルコン酸トランスポーター遺伝子の失活の前に、または、同時に、または、後で、行われる。この染色体の修飾は、内因性染色体遺伝子の欠失または阻害等の失活、内因性染色体遺伝子の発現を増やす修飾、および異種遺伝子の包含を含む。特に本発明の修飾宿主細胞を変性する修飾の特定の例は、
(i) グルコン酸トランスポーター遺伝子の付加による修飾
(ii) グルコン酸トランスポーターをエンコードしている遺伝子の修飾
(iii) KDGトランスポーターをエンコードしている遺伝子に対する修飾
(iv) prmA、prmB、 PE6、PE1 および YiaX2 等のDKGトランスポーター(DKGパーミアーゼ遺伝子)をエンコードしている遺伝子に対する修飾(WO 02/12468、WO 02/12481及びWO 02/12528参照のこと)。
【0096】
(v) 例えば、脱水素酵素をエンコードしている、DKGパーミアーゼ遺伝子またはaroZ遺伝子の過剰発現のような、特定の遺伝子の過剰発現となる、遺伝子の修飾
(vi) D-グルコース、またはD−グルコン酸を6番目の炭素原子において、リン酸化する酵素、より具体的には、ヘキソキナーゼ遺伝子、グルコキナーゼ遺伝子または、グルコノキナーゼ遺伝子(すなわち、gntK、および/またはglkA)の失活等により、代謝経路を酸化経路から切り離すポリヌクレオチドの修飾
を含むが、これらに限定されない。
【0097】
ある好ましい態様において、本発明の修飾バクテリア系統は、失活したgntKおよび/またはglkA遺伝子を含む。他の好ましい態様において、本発明の修飾されたバクテリア系統は、過剰発現されたDKGのパーミアーゼを含む。
【0098】
ある態様において、修飾バクテリア系統は、2失活遺伝子、3失活遺伝子、4失活遺伝子、5失活遺伝子、6失活遺伝子またはそれ以上を統合する。失活した遺伝子は、宿主細胞染色体中で、他のものと隣接しているかまたは、離れた領域に位置している。失活した染色体遺伝子は、特定の条件下で、必須機能を有しているけれども、この遺伝子は実験室の環境下においては、バクテリア系統の生育可能性について必須ではない。好ましい実験環境は、醗酵槽、振套フラスコ、培地プレート、あるいは同種のものの中での成長することができる環境を含むがこれらに限定されない。
【0099】
いくつかの態様において、修飾されたバクテリア細胞は、配列番号2と少なくとも80%、90%、95%の配列相同性を有するグルコン酸トランスポーターをエンコードするのに先立って失活させた第一失活内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子、配列番号4と少なくとも80%、90%、95%の配列相同性を有するグルコン酸トランスポーターをエンコードするのに先立って失活させた、第二失活内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子、および失活させた内因性グルコキナーゼ遺伝子を含む、組み換えパントエア(Pantoea)細胞である。いくつかの態様において、該失活させたグルコン酸トランスポーター遺伝子は、修飾バクテリア宿主細胞から欠失している。
【0100】
他の態様において、バクテリア宿主細胞は、それらを含むと知られている有機体から、グルコース又は他の代謝物を、2,5−DKGまたは2−KLGへ転換することができる酵素をエンコードしている、遺伝子を誘発するように遺伝的に改造されている。他の代謝物を2,5−DKGまたは2−KLGへの転写に影響すると知られている酵素の例は、
D−グルコースデヒドロゲナーゼ(D-glucose dehydrogenase) (参考文献はAdachi,O. et al., (1980)Agric. Biol.Chem., 44:301-308、Ameyama, M. et al., (1981) Agric. Biol. Chem. 45:851-861、 Smith et al. (1989)Biochem. J. 261:973、及びNeijssel et al., (1989) Antonie Van Leauvenhoek 56(1):51-61。)
D-グルコン酸デヒドロゲナーゼ(D-gluconate dehydrogenase)(参考文献はMctntire, W. et al., (1985) Biochem. J. , 231: 651-654、Shinagawa, E.et al., (1976) Agric. Biol. Chem. 40: 475-483、Shinagawa, E. et al., (1978) Agric. Biol.Chem. 42: 1055-1057及びMatsushitaet al. (1979), J. Biochem. 85:1173。)
5−ケト-D−グルコン酸デヒドロゲナーゼ(5-keto-D-gluconate dehydrogenase)および2−ケトーD-グルコン酸デヒドロゲナーゼ(2-keto-D-gluconate dehydrogenase )(参考文献は、Shinagawa, E. et al., (1981) Agric. Biol.Chem., 45: 1079-1085及びStroshane (1977) Biotechnol. BioEng. 19 (4) 459)
2,5-ジケト-D-グルコン酸リダクターゼ(2, 5-diketo-D-gluconic acid reductase) (参考文献はUSP Nos: 5,795,761、5,376,544、5,583,025、4,757,012、4,758,514、5,008,193、5,004,690及び5,032,514)である。
【0101】
本発明に関する好ましい、修飾バクテリア系統は、大腸菌(E. coli)、バチルス(Basillus)またはパントエア(Pantoea)系統であり、特に好ましいのは、パントエアシトレア(P. citrea)等のパントエア(Pantoea) 系統である。好ましくは、該修飾バクテリア系統は、失活グルコン酸トランスポーター遺伝子および、
a) 失活内因性グルコキナーゼ遺伝子、
b) 失活内因性グルコノキナーゼ遺伝子、
c) 失活内因性グリセロールキナーゼ遺伝子、
d) 過剰発現されたDKGトランスポーター遺伝子、および
e) 失活または阻害された、フォスフォエノールピルビン酸グルコースフォスフォトランスフェラーゼシステム等の、グルコース輸送システム(PTS)
の中の1以上を含む。
【0102】
一の態様において、KLGが所望の中間体である場合、2,5 DKGリダクターゼ(DKGR)をエンコードしている核酸は、組み換えによりバクテリア宿主細胞醗酵系統へ導入される。コリネバクテリア(Corynebacterium)、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)及びアルスロバクター(Arthrobacte)を含む、コリネバクテリアの(Coryneform)グループのメンバーの多くは、DKRGを含むことが知られている。更なる態様において、コリネバクテリア(Corynebacterium)、SHS752001系統のDKGR(Grindley et al., 1988, Applied and Environmental Microbiology 54:1770-1775)は、パントエア(Pantoea)宿主系統等の宿主系統に組み換え的に導入される。エルウィニアヘルビコラ(Erwinia herbicola)による組み換え2,5DKGリダクターゼの生産は、USP No. 5,008,193に開示されている。バクテリア細胞に遺伝子導入する技術はよく知られており、これらの技術は、形質転換、形質誘発、結合、および細胞質融合を含む。遺伝子輸送は、外性の付加的なDNAを、バクテリウムにより取り込むことを特徴とする、遺伝子またはポリヌクレオチドを細胞へ輸送する工程である。遺伝子形質転換の手順は、CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULARBloLoGY (vol. 1, edited by Ausubel et al., JohnWiley & Sons, Inc. 1987, Chapter 9)に示唆されており、カルシウムリン酸法、EDTAデキストランおよびエレクトロポレーションを含む。所定のバクテリア宿主細胞に核酸を導入するための各種方法が、当業者に知られている(USP 5,032,514、Potter H. (1988) Anal. Biochem 174: 361-373、 Sambrook,J. et al., MOLECULAR CLONING : A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)及び Ferrari et al., Genetics, pgs 57-72 in BACILLUS, Harwood et al., Eds. Plenum Publishing Corpを参照のこと)。
【0103】
バクテリア宿主細胞の形質転換体は、挿入された核酸が存在することを示唆するマーカー遺伝子の発現の有無により検出することができる。しかしながら、挿入された核酸の発現も確認されなければならない。例えば、もし、グルコン酸トランスポーターをエンコードしている核酸が、マーカー遺伝子配列内に挿入されたなら、この挿入により得られる組み換え遺伝子は、マーカー遺伝子の機能を欠くことにより同定することができる。代替的に、マーカー遺伝子は、シングルプロモーターの制御下で、トランスポーターをエンコードしている核酸と縦に並べて配置することができる。誘発または選択に反応する、このマーカー遺伝子の発現は、その上、タンパク質または酵素の発現も示唆する。上で説明された転換を行うことができるバクテリア微生物が一旦確立されると、組み換えタンパク質および宿主細胞の成長特性に対する、構築された発現ベクターの性質に応じて、各種方法を実施することができる。
【0104】
E.細胞培養および醗酵
バクテリア細胞の維持および成長に適した方法はよく知られており、参考文献は、the MANUAL OF METHODS OF GENERAL BACTERIOLOGY, Eds. P. Gerhardt et al., American Society for Microbiology, Washington DC (1981)及びT. D. Brock in BIOTECHNOLOGY : A TEXTBOOK OF INDUSTRIAL MICROBIOLOGY, 2nd ed. (1989) Sinauer Associates, Sunderland, MA.である。
【0105】
細胞の前培養、通常、細胞の培養は、25から32℃、好ましくは、28から29℃で、適した培地中で、行われる。本発明に有用な成長培地の例は、広く商業的に調製されている培地であって、例えば、Luria Bertani(LB)培養液、サブローデキストロース(SD)培養液、又は酵母培地(YM)等である。これらは、例えば、ギブコ(GIBCO/BRL) (ゲイザーズバーグ、 メリーランド)から入手することができる。用いられる他の所定の培地または合成培地および特定のバクテリア微生物の成長に適した培地は、微生物学または醗酵化学の当業者によく知られている。発酵に適したpHの幅は、pH5からpH8である。種フラスコ(seed flask)についてはpH7乃至pH7.5であり、及び、反応容器についてはpH5乃至pH6である。本発明の方法の実行可能性について説明するうえで、発酵微生物の分野の当業者は、アスコルビン酸中間体の生産量を最大にするために、発酵工程に影響する多くの因子を最適化する必要があることを理解している。これらの因子の多く(例えば、pH、炭素源の濃度、及び溶存酸素量など)は、アスコルビン酸中間体の生産に用いられる細胞タイプに応じて酵素工程に影響を与え得る。
【0106】
ASA中間体の生産は、醗酵環境すなわち、インビボ環境、あるいは、非醗酵環境すなわち、インビトロ環境、あるいは、インビボ環境とインビトロ環境の組み合わせにおいて、実施される。醗酵またはバイオリアクターは、バッチ工程、フェドバッチ工程、または連続工程で行われる。
【0107】
インビボ生体触媒環境
本発明の修飾宿主細胞の培養による生体触媒反応は、適切な炭素源を用いた環境で、通常、腸内細菌または他の細菌系統を用いる。適切な炭素源は、例えば、六炭糖(例えばグルコース等)、又は六炭糖酸、或いは、六炭糖及び/又は六炭糖酸の組合せを含む。その他の炭素源には、ガラクトース、ラクトース、フルクトース、又はそれらの酵素誘導体が含まれるが、これらに限定されるものではない。
【0108】
加えて、醗酵培地は、適切な炭素源、グルコース等の単糖類、ラクトースやスクロース等のオリゴ糖、澱粉やセルロース等の多糖類、及び、再生可能な供給原料(例えば、乳清透過物、コーンスティップリカー、甜菜の糖蜜、及び大麦の麦芽)に由来する未精製混合物が含まれる(ただし、これらに限定されるものではない)。さらに、当該炭素源には、炭素等の一炭素基質も含まれ得る。本発明に用いられる炭素源は、種々の炭素含有基質を包含することができ、それは微生物の選択によってのみ制限されることを考慮すると、好ましい炭素基質にはグルコース及び/又はフルクトース、及びそれらの混合物が含まれる。本明細書に記載の修飾ゲノムと組合せてグルコースとフルクトースの混合物を用い、さらに、異化経路を酸化経路と切り離すことによって、宿主細胞の代謝の要求を満たすためにフルクトースを用いつつも、所望のアスコルビン酸中間体の収率及び転化率の向上のためにグルコースを用いることができる。
【0109】
当該炭素基質の濃度は、約55重量%乃至約75重量%である。好ましくは、当該濃度は約60乃至約70重量%である。最も好ましくは、60重量%乃至67重量%が用いられる。
【0110】
適切な炭素源に加えて、発酵培地は、アスコルビン酸中間体の生産に必須な酵素経路の促進、及び成長又は培養に適した、適切なミネラル、塩類、ビタミン類、補因子、及びバッファーを含有する必要がある。
【0111】
バッチ、フェドバッチ、および連続培養
本発明は、バッチ醗酵方法、フェドバッチプロセスといわれる変性バッチ方法、または、連続醗酵プロセスを用いる。
【0112】
古典的なバッチ培養は、閉鎖系であり、発酵の開始時点に培養液の組成が決定され、当該発酵の間は人為的な変更は受けない。従って、発酵の開始時点において、所望の微生物が培養液に接種されると、当該発酵の系には何も添加できない。しかしながら、典型的には、「バッチ」発酵は炭素源の添加に関するバッチであり、pHや酸素濃度等の因子を制御することは頻繁になされる。バッチ方式では、当該方式の代謝物及びバイオマス組成物は、発酵が停止されるまで定常的に変化する。バッチ培養においては、細胞は、静的誘導期を経て高成長対数期に緩和され、最終的には、成長速度が減少又は停止する静止期に至る。培養液が未処理の場合には、当該静止期の細胞は、最終的には死滅する。一般に、対数期の細胞が、最終生成物又は中間体の生産の大部分を担う。
【0113】
標準的なバッチ方式におけるバリエーションの1つは、フェドバッチ方式である。フェドバッチ発酵工程も本発明に適しており、基質が発酵の進行と共に増加して添加されること以外は典型的なバッチ方式からなる。フェドバッチ方式は、異化の抑制が細胞の代謝を阻害する傾向にあり、培養液における基質の量を制限するのが望ましい場合に有用である。フェドバッチ方式における実測基質濃度の測定は困難であり、それゆえ、例えば、pH、溶存酸素量、及び廃ガス(例えば、CO2)の分圧等の測定可能な因子の変化に基づいて推測される。バッチ及びフェドバッチ発酵は、当該技術分野において広く周知であり、その例はBrockの文献(T. D. Brock in BIOTECHNOLOGY : A TEXTBOOK OF INDUSTRIAL MICROBIOLOGY, Second Edition (1989) Sinauer Associates, Inc. Sunderland,MA)に記載されている。
【0114】
連続発酵は開放系であり、所定の発酵培養液が連続的にバイオリアクターへ添加され、それと同時に、同量のならし培養液(conditioned media)が工程から除去される。一般に、連続発酵では、培地は一定の高密度に維持され、細胞は主として対数期成長にある。
【0115】
連続発酵により、細胞の成長又は最終生成物の濃度に影響を与える1又はそれ以上の因子の調節が可能となる。例えば、1の方法は、栄養分(例えば、炭素源)又は固定速度の窒素量の制限を維持し、その他全ての因子の緩和を可能にする。別の方式では、培養液の濁度により測定される細胞濃度を一定に保ちつつも、成長に影響する多くの因子を連続的に変化させることができる。連続方式は定常状態の成長条件を維持することに努め、従って、排出される培養液に依存する細胞の損失は、発酵における細胞成長速度に対して均衡になる必要がある。連続発酵工程における栄養分及び成長因子を調節する方法は、生成物の生成速度を最大化する技術と同様に、工業的微生物学の分野において周知であり、種々の方法が前記Brockの文献に記載されている。
【0116】
インビボのパントエア(Pantoea)経路についての1の例では、D-グルコースは、酵素転化を経る一連の膜酸化工程を受け、それらには、GA、KDG、及びDKGを含む(ただし、これらに限定されるものではない)中間体を与えるための酵素であるD-グルコースデヒドロゲナーゼ、D-グルコン酸デヒドロゲナーゼ、及び2-ケト-D-グルコン酸デヒドロゲナーゼが含まれる(図1および図2参照)。これらの中間体は、酵素転換を経る一連の細胞内還元工程を受け、それらには、KLG及びIAを含む(ただし、これらに限定されるものではない)最終生成物を与えるための酵素である2,5-ジケト-D-グルコン酸還元酵素(DKGR)、2-ケト還元酵素(2-KR)、及び5-ケト還元酵素(5-KR)が含まれる。ASA中間体生産のためのインビボ環境の好ましい実施態様では、グルコン酸は、細胞膜を通過して輸送されずに、酸化経路に輸送される。ことからグルコン酸の利用率が増える。
【0117】
F. ASA中間体の回収、同定、および精製
ASA中間体、ASA、L-アスコルビン酸、D-アラボアスコルビン酸(エリソルビン酸)、L-アラボアスコルビン酸、及びD-キシロアスコルビン酸等のASA 異性体の検出方法は、2,6-ジクロロインドフェノール又はその他の適切な試薬を用いる酸化還元滴定(Burton et al. (1979) J. Assoc. Pub. Analysts 17:105)、アニオン交換を用いる高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、及び電気的酸化還元方法(Pachia, Anal, Chem., 48:363 (1976))の使用が含まれる。当業者は、これらの検出法を用いる際の調整について十分知識を有する。本発明の方法により生産されるKLGは、当該技術分野における当業者に公知の手段によよって、さらにアスコルビン酸及びエリソルビン酸塩に転化され得る(例えば、Reichstein and Grussner, Helv. Chim. Acta., 17,311-328 (1934)を参照)。
【0118】
G. ASA経路からの所望の生産物の生産量の増加
ASA中間体生産に関する、グルコン酸またはイドネート(idonate)の利用率を高めるために、異化経路はASA酸化経路から切り離される。図1および図2に示すように、グルコン酸は細胞内膜を通じて、細胞質に輸送される。グルコン酸は、その後リン酸化されて、例えばグルコン酸6-リン酸になり、ペントース経路の代謝に利用される。加えて、グルコン酸は、細胞質内で、5-KGD、2-KDGへと酵素的に還元される。グルコン酸トランスポーターをエンコードしている核酸の失活による、本願発明のグルコン酸トランスポーターの失活または修飾のレベルは、所望の最終生成物になる、酸化ASA中間経路に利用されるグルコン酸の量を増加させる結果となる。イドネート(idonate)もまたグルコン酸トランスポーターにより、細胞内膜を通じて、細胞質に輸送され、連続する酵素的工程を通じて、グルコン酸へ転換される。このグルコン酸はその後、上で述べたように、リン酸化される。グルコン酸トランスポーターをエンコードしている核酸の失活による、本願発明のグルコン酸トランスポーターの失活または修飾のレベルは、イドネート(idonate)を、2-KLGへの転換に利用されるイドネート(idonate)の量を増加させる結果となる(図1および図2)。
【0119】
本発明の態様において、代謝経路は、KDGの生産を増やすために、酸化経路から切り離される。グルコン酸トランスポーターの失活は、細胞内膜を横切るグルコン酸の輸送を減少させ、キナーゼによるリン酸化に用いられるグルコン酸の利用率を減らす。グルコン酸トランスポーターの失活またはグルコン酸トランスポーターのレベルを修飾することは、例えば、KDG等の所望の生産物を増やす結果となる。
【0120】
他の態様において、異化経路は、DKGの生産を増やすために、生産的酸化経路から切り離される。グルコン酸トランスポーターをエンコードしている核酸またはポリペプチドの修飾によるグルコン酸トランスポーターの失活または修飾のレベルは、所望の生成物、例えば、DKGを増やす結果となる。
【0121】
他の態様において、異化経路は、KLGの生産を増やすために、生産的酸化経路から切り離される。グルコン酸トランスポーターをエンコードしている核酸またはポリペプチドの修飾によるグルコン酸トランスポーターの失活または修飾のレベルは、所望の生成物、例えば、KLGを増やす結果となる。
【0122】
他の態様において、代謝経路は、エリスロビン酸の生産を増やすために、生産的酸化経路から切り離される。グルコン酸トランスポーターをエンコードしている核酸またはポリペプチドの修飾によるグルコン酸トランスポーターの失活または修飾のレベルは、エリスロビン酸の合成における中間体となるDKG生産を増やす結果となる。
【0123】
一般実験方法
細胞:以下の実施例で用いた全ての市販細胞は、ATCCから入手したものであり、本明細書ではATCC番号で特定する。ATCC39140由来の組換えパントエアシトレア(P.citrea)細胞を用いた(Truesdell et al.,(1991) J. Bacteriol. 173: 6651-6656を参照のこと)。
【0124】
細菌培養物の維持及び成長に適切な物質及び方法は、Manual of Methods for General Bacteriology (Phillipp Gerhardt, R.G.E.Murray, Ralph N.Costilow, Eugene W.Nester、Willis A.Wood, Noel R.Krieg, and G.Briggs Phillips eds.)pp.210-213、American Society for Microbiology, Washington, DC. 又はThomas D.Brock、Biotechnology: A Textbook of Industrial Microbiology, second edition (1989), Sinauer Associates, Inc., Sunderland, Massに記載されている。細菌細胞及びその成長に用いた全ての試薬及び材料は、特に示さない限り、ディフコラボラトリーズ(Diffco Laboratories)(テトロイト、ミシガン)、アルドリッヒケミカルズ(Aldrich Chemicals)(ミルウォーキー、ウィスコンシン)、又はシグマケミカルカンパニー(Sigma Chemical Company)(セントルイス、ミズリー)から入手した。
【0125】
アスコルビン酸中間体解析:アスコルビン酸中間体(例えば、2-KLG)の存在は、HPLC分析によって確認した。発酵反応器の試料をタンクから流出させ、Waters2690分離モジュールとWaters410示差屈折計(ミルフォード、マサチューセッツ)と連結したDionex(サニーベール、カリフォルニア、製品番号043118)Ion Pac AS 10カラム(4mm x 250mm)に装填した。
【0126】
当該技術分野における当業者は、以下の実施例を参照することで、本発明の実施における方法及び手順をより完全に理解し得る。以下の実施例は、本発明及びそれに関する請求項の範囲を制限することを意図するものではない。本明細書において参照する全ての文献及び特許公報は、引用により本明細書中に取込まれる。
【実施例】
【0127】
実施例1.パントエアシトレア(Pantoea citrea)のグルコン酸トランスポーターをエンコードするgntU ORFの失活
gntKUオペロンのクローニング
パントエアシトレア(Pantoea citrea)由来のgntKおよびgntU構造遺伝子を含む、1934bpのDNAフラグメントを、標準技術(Sambrook et al., MOLECULAR CLONING : A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989) 2nd Ed.)による、GntKUF1 (配列番号5)及び GntKUR1 (配列番号6)のプライマーペアを用いたPCRにより増幅した。構造遺伝子に加えて、このPCR断片は、gntKの27bp上流およびgntUの23bp下流を運ぶ(図7)。このPCR産物は、pCL-GntKU2(6489-bp)となる、pCL1920ベクターのHindII部位内でクローンされる(Lerner et al., (1990) Nucleic Acids Res. 18:4631)。これは、大腸菌TOP10系統(インビトロジェン、カールスバッド、カリフォルニア)内で構築され、EcoR1およびPstl制限酵素を用いて、正確に挿入され、伸長しているかを調べる。
【0128】
gntUの失活に用いるプラスミドの構築
ベクターを用いて、相同体組み込みにより遺伝子を失活させる方法は、以前より確立されており、参考文献は、Miller et al., (1988) J. Bacteriol. 170:2575-2583である。この一般的な方法を、gntU の失活に用いた。
【0129】
pCL-GntKU2プラスミドを、染色体gntUの失活に用いた。gntU遺伝子の中間から、435bpを除去するためにNsil酵素(ロシュアプライドサイエンス(Roche Applied Science))を用いて、pCL-GntKU2を消化する。Cat-loxP、1080-bpカセット(Palmeros et al., (2000) Gene 247: 255-264)を、この構築体に挿入し、プラスミドpCLKUCat1 (7131-bp)とした。cat-loxP カセットの伸長を Scal1 + Spel 制限酵素を用いて確認した。2580-bp のgntKU+cat-loxP 領域を、GntKUF1 (配列番号5) および GntKUR1 (配列番号6)を用いた, PCRで増幅し、複製起源である最小R6Kを含む502-bp DNA フラグメントを用いて配列させた。この特定のDNAを、プラスミドpGP704を用いたPCRで伸長した。PCR基質として、
R6K1(TGTCAGCCGTTAAGTGTTCCTGTG) (配列番号18) および
R6K2(CAGTTCAACCTGTTGATAGTACG) (配列番号19)
プライマーを用いた。
【0130】
結合産物はプラスミドpKUCatR6-1 (3087-bp)を生産するために、大腸菌(E. coli)PIR1 系統(インビトロジェン、カールスバッド、カリフォルニア)を形質転換させた。このプラスミドは、gntU遺伝子を失活させるために用いる。この構築物の650bp及び850bpの相同領域は、それぞれ、gntU遺伝子の5`末端および3`末端におけるパントエアシトレア(P.citorea)染色体の相同組み換えに利用することができる。この組み換えイベントは、gntKUオペロン内のgntK遺伝子に影響しない。
【0131】
パントエアシトレア(P.citrea)系統の形質転換
Aafll+Acci制限酵素を用いてpKUCatR6-1を調べた後に、このプラスミドは、パントエアシトレア(P.citrea)のMDP4系統の形質転換に用いる。すべての形質転換は、標準的なエレクトロポレーションにより行った(Sambrook et al., MOLECULAR CLONING : A LABORATORY MANUAL, Cold Spring Harbor Laboratory Press(1989) 2nd Ed.)。形質転換体は、LA+Cm12プレート(LAは LB に寒天を加えたものであり、プレートは12ppmクロラムフェニコール(Cm)を含む。)上で選択した。数百のクロラムフェニコール耐性(CmR)コロニーが出現した。4のコロニーを、上で述べたように、PCR解析で調べた。
【0132】
gntU修飾系統の確認
一重交差および二重交差を区別するために、結合ポイントを、1の外部プライマーと1の特定のcatプライマーを用いて調べた。GntKUF3 (外部プライマー) (配列番号7) + cat4 (配列番号11) および GntKUF4 (外部プライマー) (配列番号8) + cat4 (配列番号11) プライマーペアを用いて、4の形質転換体を、それぞれ、0.99kbおよび0.95kbフラグメントに増幅した。cat3 (配列番号10)+GntKUR3(外部プライマー) (配列番号9)を用いて、No. 2 およびNo. 4の形質転換体のみが、想定される1.45-kbまで増幅された。したがって、No. 2 およびNo. 4の形質転換体が、gntUが欠失していることを特徴とする、二重交差イベントを受けていた。対照的に、No.1およびNo.3の形質転換体は、gntUの遺伝子座において、gntUが相互作用をすることを特徴とする一重交差イベントを受けていた。GntKUF4+cat4 (配列番号8 + 配列番号11) および cat3+GntKUR3 (配列番号10 + 配列番号9) プライマーペアにより得られた1.5-kb および1.0-kb PCR 産物は、これらの系統のgntUが確実に行われていることを立証するために Bglll およびPstl 酵素で、それぞれ、消化された。予想される消化パターンが両酵素から得られた。
【0133】
No.2の形質転換体を、MDP41U2と称し、以下の実験に用いた。
【0134】
MDP41U2からのクロラムフェニコールマーカー(CmR)の除去
CmRマーカーを、MDP41U2系統から、Palmeros et al. (2000) Gene 247: 255-264に開示の方法に従い、バクテリオファージP1Creリコンビナーゼを用いて、除去した。簡単に言うと、IPTG-誘発 Cre リコンビナーゼを発現している プラスミドpJW168をエレクトロポレーションにより MDP41U2 系統に導入した。CmRマーカーの除去は、抗生物質無添加LAプレート上のクロラムフェニコール感受形質(CmS)に対するコロニーのスクリーニングにより確認し、次いで、PCRで確認した。最終的に、プラスミドpJW168を、非許容温度(non-permissible temperature)でこの系統を生育して、カルベニシリン感受形質(CarbS)の確認することによって、 CmS 系統と区別した。このマーカーが除去されたgntU欠失系統は、MD41UFと称され、idnT欠失に用いた。
【表1】

【0135】
実施例2.パントエアシトレア(Pantoea citrea)におけるグルコン酸トランスポーターをエンコードしているidnT ORFの失活
idnDT欠失プラスミドの構築
PcldnT-1 (配列番号12) およびPcldnT-2 (配列番号13)プライマー はidnT遺伝子(配列番号3)の約1kb上流および1kb 下流 を標的としている。PCRにより、1437bpに増幅されたPCR産物を、pUniBluntV5-His- Topo (Echo Cloning System from Invitrogen)内で、クローニングした。得られたプラスミドは 大腸菌(E.coli) PIR1 系統 (Invitrogen, Carlsbad, CA)を形質転換した。適切な制限酵素を用いて、この遺伝子が正確に伸長されていることを確認した。
【0136】
idnT 遺伝子を、Bgll酵素で消化し、さらにcat-loxP(1080-bp) カセット (Palmeros etal., (2000) Gene 247: 255-264)を挿入して阻害することによって、pEkldnTCat2 (4813-bp)プラスミドを得た。実施例1で述べたように、cat-loxP(1080-bp) カセットの伸長は、適切な制限酵素により確認された。
【0137】
以下の2のプライマー、PcldnD5 (配列番号14) +PcldnD6 (配列番号15)を、idnT遺伝子の上流である、IdnD遺伝子の増幅に用いた。IdnD遺伝子を含む1891bpを、既知のPCR技術で増幅し、pUniBluntV5-His-Topo (Echo Cloning Systems, Invitrogen)内でクローン化して、 pldnD56-1と称されるプラスミドを得た。
【0138】
最終プラスミドpEkldnDTCat2を得るためのpEkldnD56-1 およびpEkldnTCat2 の構築
pEkldnTCat2を、BssHII および Nsil酵素を用いて、R6Kの1833-bp領域および、一部のKm耐性遺伝子を除去するために消化した。IdnT遺伝子の残りの2930bpとcat-loxPカセットを、以下の方法で、精製し、IndD遺伝子に結合した。
【0139】
pldnD56-1を、BssHIIおよびNsil酵素で消化し、R6Kori領域にIdnD遺伝子を含む2576bp断片に精製してから、2930bpのIdnT遺伝子とcat-loxPカセットに結合させた。続いて、idnDT欠失に用いられる最終プラスミドである、pEkldnDTCat2(5506bp)を生産するために、大腸菌PIR1系統内で形質転換させた。pEkldnDT Cat2プラスミドは Ncol+Bgl II 酵素を用いて確認した。
【0140】
pEkldnDT Cat2 のパントエアシトレア(P. citrea) MDP41UF 系統への形質転換
pEkidnDTCat2プラスミドはパントエアシトレア(P.citrea) MDP41U2 系統内で、実施例1で述べた方法を用いて、形質転換され、そして、形質転換体を LA+Cm12上で選択した。数百の CmR コロニーが 得られ、LA +Cm12および LA + Kan50プレート上で カナマイシン感受性コロニー(KanS) をスクリーニングするために、ピッキング(picking )およびパッチング(patching)を同時に行った。本明細書で述べたようにidnDT 領域の欠失について、7の(CmRKanS) コロニーがPCR を、適切なプライマーを用いて調べ、1のコロニーが MDP41UDT図8)と名づけられた。
【0141】
MDP41UDTにおける idnDT 欠失の確認
PcidnD7 (配列番号17) +PcidnT4 (配列番号. 16)のプライマーセットがidnDT欠失を確認するために用いた。他のアウトサイドプライマーと1の cat遺伝子特異プライマー(pcldnD7 (配列番号19) + Cat4 (配列番号11) ) &(PcldnT4 (配列番号16) + Cat3 (配列番号10) )のセットは、cat−loxP領域との交点を確認するために用いた。
【0142】
pD92-A (14.2-kb) プラスミドはpD92 (12.6-kb)プラスミド由来である。pD92 は、コリネバクテリウム種(Corynebacterium sp.) (Grindley et al., (1988)Appl. Environ. Microbiol. 54: 1770-1775)からp143(USP 5,008,193)への2, 5-ジケト-D-グルコン酸リダクターゼBに対する構造遺伝子のクローニングによって構築した。WO 02/12468、WO 02/12528 および WO 02/12481 に開示されている、permA 遺伝子に対する構造遺伝子を、プラスミドpD92の特異的Notl部位に導入した。この部位は、ストレプトマイシン耐性遺伝子(StrepR)の構造遺伝子中に位置し、permAのクローニングはこの部位を失活させる。pD92-Aプラスミドにおいて、permA遺伝子の発現は、野生型プロモーターによりもたらされる。pD92-Aプラスミドは MDP41UDT 系統内で形質転換され、MDP41UDT/pD92-Aとなった。
【表2】

【0143】
実施例3.振謄フラスコ実験
3のパントエアシトレア(Pantoea citrea)系統がこの実験に使用された。
【0144】
(1) 139-2A/pD92系統は対照として使用された。
(2) WO02/081440に開示されているMDP41/pD92A系統 は glkAが阻害されている。
【0145】
(3) MDP41 UDT/pD92-A (実施例1および2で開示) はglkAの阻害 およびgntUおよびidnTの欠失を含む。
【0146】
これらの系統を、 (KH2PO4 (12.0 g/L);K2HP04 (4.0 g/L) ;MgS04-7H20 (2.0 g/L);ディフコソイトン(Difco Soytone)(2.0 g/L); クエン酸ナトリウム(0.1g/L); フルクトース (5.0 g/L);(NH4) 2SO4(1. 0 g/L); ニコチンアミド (0.02 g/L);FeCI36H2O (に対して5 mL/L (0.4 g/L 貯蔵溶液)) および微量塩(5 mL/L (0.58 g/LのZnS047H20、 0.34 g/LのMnS04H20、及び0.48 g/LのNa2MoO42H20の組成溶液)) の培地で育成した。炭素源としてフルクトースまたは 混合炭素源(フルクトース,グルコン酸およびDKG)を 0.1 %から 1.0%.の幅で含む。細胞は、20-37℃(好ましくは30℃未満)およびpH7.0(5.0から8.0のpHでも可)で育成した。
【0147】
グルコン酸の取り込みの生物化学的アッセイ
上で説明した系統の細胞を含む醗酵ブロスのサンプルは、個々の振とうフラスコから集められ、氷水の浴槽で冷やした。この醗酵ブロスを、冷凍条件下で遠心分離し、上澄みを廃棄した。細胞のペレットは、0.95%の冷蔵生理食塩水で洗浄し、グルコン酸取り込み解析用の緩衝液(10 mM フルクトースを含む、100 mM 冷凍 リン酸カリウム, pH 6.9)で2回洗浄した。細胞を同じ緩衝液で懸濁した。550nmにおける光学密度は、12であった。その後、室温、好ましくは28℃でインキュベートした。グルコン酸取り込みアッセイは、細胞懸濁溶液と、C14ラジオアイソトープラベルされたグルコン酸を混合することにより開始される。グルコン酸取り込みの経時的変化の解析は、凍結グルコン酸取り込み緩衝液を用いた冷却バキューム/フィルターを用いて行った。グルコン酸取り込み測定は、細胞内へのラジオアイソトープの取り込みを測定することにより行い、グルコン酸取り込み率を示すために時間に対するデータがプロットされた(図9を参照のこと)。
【0148】
試験結果は、gntUおよびidnTの欠失により、グルコン酸の取り込みが低くなったことを示した。この実験において、対照(139-2A/pD92)およびMDP41/pD92-A系統のグルコン酸の取り込み率は、同じであった。glkA阻害、gntU および idnTの欠失を含むMDP41 UDT/pD92-Aのグルコン酸取り込み率は、対照と比較して70%までに低められた。
【0149】
実施例4. qntU および idnT欠失を有するパントエアシトレア(Pantoea citrea)宿主細胞の醗酵実験
シードトレイン(seed train):液体窒素中に保存した培養液のガラス瓶を空気中で解凍し、500 mlの種培地を含有する2リットルの無菌三角フラスコへ0.75 mlを添加した。フラスコを29℃、250 rpmで12時間培養した。移転の指標は、2.5より大きなOD550である。
【0150】
種フラスコ培養液: 培養液の組成は、KH2PO4(12.0 g/L)、K2HPO4(4.0 g/L)、MgSO4・7H2O(2.0 g/L)、ディフコソイトン(Difco Soytone)(2.0 g/L)、クエン酸ナトリウム(0.1 g/L)、フルクトース(5.0 g/L)、(NH4)2SO4(1.0 g/L)、 ニコチン酸(0.02 g/L)、FeCl3・6H2O(5 mL/L(0.4 g/L保存溶液))、微量塩(5mL/L(0.58g/LのZnSO4・7H2O、0.34g/LのMnSO4・H2O、0.48g/LのNa2MoO4・2H2O)である。
【0151】
当該培養液のpHを、20%NaOHを用いて7.0±0.1に調節した。20 mg/L(10 g/Lの保存溶液の2 mL/L)の最終濃度まで、テトラサイクリンHClを添加した。その後、得られた培養液を、0.2μのフィルターでろ過無菌化(filter sterilized)をした。その後、当該培養液を高圧滅菌(オートクレーブ)し、500mLの高圧滅菌培養液を2リットルの三角フラスコに添加した。
【0152】
生産発酵槽
無菌化前における反応容器への添加物は、KH2PO4(3.5 g/L)、MgSO4・7H2O(1.0 g/L)、(NH4)2SO4(0.92 g/L)、グルタミン酸ナトリウム(15.0 g/L)、ZnSO4・7H2O(5.79 g/L)、MnSO4・H2O(3.44 g/L)、Na2MoO4・2H2O(4.70 g/L)、FeCl3・6H2O(2.20 g/L)、及び、塩化コリン(0.112 g/L)、Mazu DF-204(0.167 g/L)である。
【0153】
上記構成要素の培養液を121℃で45分間無菌化した。タンクの無菌化の後、ニコチン酸(16.8 mg/L)、パントテン酸Ca(3.36 mg/L)、グルコース(25 g/L)及びフルクトース(25 g/L)を発酵槽に添加した。
【0154】
無菌化及び無菌化後成分の添加の後の最終的な容量は、6.0Lであった。このように調製した槽と培養液を前述した種フラスコの全容量と接種し、容量は6.5Lとなった。
【0155】
成長条件は、29℃及びpH6.0であった。攪拌速度、背圧、及び風量は、溶存酸素が0より大きくなるように調節した。最初にバッチに添加された糖が使い果たされたとき、本明細書で用いるフェドバッチ方法を用いた。この実験において、グルコースおよびフルクトースは、1の基質が用いられる標準的フェドバッチ方法とは対象的に、基質として使用された。
【0156】
以下の表3に示すように、MDP41 UDT/pD92-A内で得られた KLG は 対照MDP41/pD92-Aで得られた産出量より多かった。
【表3】

【0157】
MDP41/pD92-Aは、glkA阻害を有する対照である。MDP41UDT/pD92-Aは、MDP41/pD92由来で、glaA、gntU欠失及びidnT欠失を含んでいる。
【0158】
更なる予期せぬ結果は、IAの形成と比較して、KLGの生産が増加していたことである。KLGは、上で説明する一般的な実験方法で測定することができる。典型的なKLGは、系統内で、イドン酸を生産するためにさらに還元される。醗酵が終わると、空気を醗酵槽内に循環させ、膜はIAをKLGに酸化させるデヒドロゲナーゼに結合する。gntUおよびidnT欠失体を用いると、IAに対するKLGの割合が増える。したがって、IAからKLGへの戻し転換に要する時間を減らすことができる。図2を参照されたい。
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0159】
【図1】図1は、アスコルビン酸(ASA)の生成に対する酸化経路を表す。E1は、グルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、E2は、グルコン酸デヒドロゲナーゼ(GADH)、E3は、2-ケト、D-グルコン酸デヒドロゲナーゼ(KDGH)、及び、E4は、2,5-ジケト-D-グルコン酸リダクターゼ(2,5DKGH)示す。
【図2】図2は、パントエアシトレア(Pantoea citrate)等のバクテリア宿主細胞内での、グルコース同化に含まれる幾つかの代謝経路を概説した図である。以下の略語が、本明細書中で用いられる。グルコースデヒドロゲナーゼ=(GDH)、グルコン酸デヒドロゲナーゼ=(GADH)、2-ケト-D-グルコン酸=(2-DKG又はKDG)、2-ケト-D-グルコン酸デヒドロゲナーゼ=(2-KDGH又はKDGH)、2,5-ジケトグルコン酸=(2,5-DKG又はDKG)、2,5-ジケト-D-グルコン酸リダクターゼ=(2,5-DKGR)、2-ケト-L-グルコン酸=(2-KLG又はKLG)、2-ケトリダクターゼ=(2-KR又はKR)、2-ケトリダクターゼ=(2-KR又はKR)、5-ケトリダクターゼ=(5-KR又はKR)、5-ケト-D-グルコン酸=(5-KDG)、イドネートデヒドロゲナーゼ=(IADH)、グルコキナーゼ=(GlKA又はGlk)、及び、グルコノキナーゼ=(GntK)。Tが付された箱は、想定されるトランスポーター及びEが付された箱は、想定される拡散システムである。1又は2が付された箱は、本発明の想定されるグルコン酸トランスポーターを表す。図2に示すように、微生物細胞内には、解糖系、ペントース経路、トリカルボン酸(TCA)サイクル、及び、ASA中間体生産経路等の、酸化と代謝経路の間の多様な連絡部がある。図で示すように、グルコン酸トランスポーター(1)及び(2)の発明は、グルコン酸のエンントリーをブロックして、ペントース同化経路で、GntKによるリン酸化に利用されるグルコン酸の量を減らし、細胞質内で、5-KR又は2-KRによる酵素的還元に利用されるグルコン酸の量を減らす。さらに、グルコン酸トランスポーター(1)の不活性化も、また、イドネート(idonate)が、細胞質内に入ることをブロックし、それゆえ、KLG当のASA中間体の生産に利用される基質が増える、ことも、図を見て理解することができる。
【図3】図3は、パントエアシトレア(Pantoea citrea)グルコン酸トランスポーター遺伝子(gntU)の核酸配列(配列番号1)を示す。
【図4】図4は、パントエアシトレア(Pantoea citrea)グルコン酸トランスポータータンパク質(GntU)のアミノ酸配列(配列番号2)を示す。
【図5】図5は、パントエアシトレア(Pantoea citrea)グルコン酸トランスポーター遺伝子(idnT)の核酸配列(配列番号3)を示す。
【図6】図6は、パントエアシトレア(Pantoea citrea)グルコン酸トランスポータータンパク質(IdnT)にアミノ酸配列(配列番号3)を示す。
【図7】図7は、非複製R6Kベクターを用いた、相同体組換えによるパントエアシトレア(Pantoea citrea)系統内の染色体上のグルコン酸トランスポーター遺伝子を失活させるためにもちいられる、一般的なプロセスとベクターを概説する。ここで、gntUは、グルコン酸トランスポータータンパク質をエンコードしている遺伝子、gntKは、グルコキナーゼに対するコード遺伝子、Nsilは、制限部位、loxPは、リコンビナーゼ認識配列、及び、CmRは、クロラムフェニコール選択マーカーに対する遺伝子である。実施例1を参照のこと。
【図8】図8は、非複製(non-replicating)R6Kベクターを用いた、相同体組換えによるパントエアシトレア(Pantoea citrea)系統内のグルコン酸トランスポーター染色体遺伝子を失活させるためにもちいられる、一般的なプロセスとベクターを概説する。ここで、idnDは、イドネートデヒドロゲナーゼに対するコード遺伝子、idnTは、グルコン酸トランスポータータンパク質をエンコードしている遺伝子、Nsil及びBgllは、制限部位、loxPは、リコンビナーゼ認識配列、及び、CmRは、クロラムフェニコール選択マーカーに対する遺伝子である。プラスミド、pEkldnDTcat2は、パントエア(Pantoea)宿主細胞の形質転換に用いる。実施例2を参照のこと。
【図9】図9は、3の異なるパントエアシトレア(P.citrate)系統に対するグルコン酸の取り込み実験の結果を示す(nmole/OD/秒)。ATCC登録No.39140の139-2A/pD92系統は対照である。MDP41/pD92-A系統は、139-2A/pD92由来の系統であり、glkAが阻害されている。MDP41UDT/pD92-A系統は、MDP41/pD92-A(実施例1及び2に記載の方法により得た)由来の系統であり、glkAが阻害されており、glkA及びidnTが欠失している。
【図10】図10は、10グルコン酸トランスポーターの間の配列相同性のパーセンテージを表す。配列番号.2で定義されるアミノ酸配列は、Pc-gntUを表す。Pc-gntUと他のグルコン酸トランスポーターとの間の、相同性のパーセンテージは、34%以下である。配列番号.4で定義されるアミノ酸配列は、Pc-idnTである。Pc-idnTと他のアミノ酸配列との相同性は、76.3%以下である。配列番号2と配列番号4のアミノ酸配列の相同性のパーセンテージは、33%である。グルコン酸トランスポーター、Ec-yjhF、Ec-dsdX、Ec-gntP、Ec-gntT、Ec-gntU、Ec-idnT 及び Ec-0454は、大腸菌(E.coli)から得る。Bs-gntPは、バチルス(Bacillus)から得た。
【図11】図11は、商業的に利用されている、各種ポリオールの合成に含まれるいくつかの代謝経路を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスコルビン酸(ASA)中間体の生産のレベルを高める方法であって、
a) ASA中間体を生産する能力を修飾したバクテリア宿主細胞を得る工程であって、宿主細胞の内因性グルコーストランスポーター遺伝子を、機能しないように修飾することを特徴とする工程と、
b) ASA中間体の生産をさせるために、炭素源を有する適切な培養条件で、宿主細胞を培養する工程と、
c) ASA中間体を得る工程、を含み、
修飾された宿主細胞内のASA中間体の生産レベルは、同じ条件で培養した場合の、修飾されていない宿主細胞のASA中間体の生産レベルと比べて、高くなることを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法であって、さらに、ASA中間体を単離する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法であって、ASA中間体が、グルコン酸、2-ケト-D-グルコン酸(2-KDG)、2,5-ジケト-D-グルコン酸(2,5-DKG)、2-ケト-L-グルコン酸(2-KLG)、5-ケト-D-グルコン酸(5-KDG)、及び、L-イドン酸(IA)からなる群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、ASA中間体が、2-KDGであることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項3に記載の方法であって、ASA中間体が、2-KLGであることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法であって、ASA中間体をエリソルビン酸に転換する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1に記載の方法であって、内因性グルコーストランスポーター遺伝子が、a)配列番号2のアミノ酸配列、b)配列番号2と少なくとも40%相同なアミノ酸配列、c)配列番号4のアミノ酸配列、あるいは、d)配列番号4と少なくとも80%相同なアミノ酸配列、を有するグルコン酸トランスポーターをエンコードしていることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1に記載の方法であって、少なくとも配列番号2で同定される配列と90%以上の相同性を有する第一グルコン酸トランスポーター遺伝子と、少なくとも配列番号4で同定される配列と90%以上の相同性を有する第二グルコン酸トランスポーター遺伝子の、2の内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子を不活性化することを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法であって、修飾されたバクテリア宿主細胞がパントネア細胞(Pantonea cell)あるいは、大腸菌細胞(E.coli cell)であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項9に記載の方法であって、パントネア細胞(Pantonea cell)が、パントネアシトレア(P. citrea)細胞であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1の方法に従って得られた修飾バクテリア宿主細胞。
【請求項12】
請求項9に記載の方法であって、内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子が、配列番号2、配列番号4、あるいは、配列番号2又は配列番号4のいずれか一方と少なくとも80%の相同なアミノ酸配列を有することを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項1に記載の方法であって、炭素源が、グルコース、グルコン酸、フルクトース、ガラクトース及びそれらの組み合わせから成る群より選択されることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項1に記載の方法であって、内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子を、欠失させることにより、該遺伝子を機能しないように修飾していることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項1に記載の方法であって、修飾された宿主細胞がさらに、不活性化された内因性グルコキナーゼ遺伝子を含むことを特徴とする方法。
【請求項16】
アスコルビン酸(ASA)中間体を生産するための改良バクテリア系統を得る方法であって、
a) ASA中間体を生産する能力のあるバクテリア宿主細胞を得る工程と、
b) 配列番号2と少なくとも40%以上相同なアミノ酸配列を有するか、あるいは、配列番号4と少なくとも80%以上相同なアミノ酸配列を有するもののうち、少なくとも1の内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子を失活させる工程と、
c) ASA中間体を生産させるために、バクテリア宿主細胞を、炭素源を有する適切な培養条件下で培養する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項16に記載の方法であって、内因性グルコーストランスポーター遺伝子が、欠失していることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項16の方法に従って得られた改良バクテリア系統。
【請求項19】
請求項17の方法に従って得られた、改良バクテリア系統。
【請求項20】
請求項18の改良バクテリア系統であって、前記系統が、パントエア(Pantoea)系統であることを特徴とするバクテリア系統。
【請求項21】
1以上の不活性化された内因性グルコン酸トランスポータータンパク質を有する、修飾された腸内細菌系統であって、
1以上の失活された内因性グルコン酸トランスポータータンパク質が、配列番号2のアミノ酸配列、配列番号2と少なくとも80%相同なアミノ酸配列、配列番号4のアミノ酸配列及び配列番号4と少なくとも80%相同なアミノ酸配列から成る群から選択されることを特徴とする腸内細菌系統。
【請求項22】
請求項21の修飾された腸内細菌系統であって、1以上の不活性化された内因性グルコン酸トランスポータータンパク質が、2の失活しているグルコン酸トランスポータータンパク質を有することを特徴とする腸内細菌系統。
【請求項23】
請求項21に記載の修飾された腸内細菌系統であって、1以上の不活性化された内因性グルコン酸トランスポータータンパク質が、1以上の内因性グルコン酸トランスポータータンパク質をエンコードしている遺伝子の欠失によって、機能を失っていることを特徴とする、腸内細菌系統。
【請求項24】
請求項21に記載の方法であって、腸内細菌系統が、パントエア(Pantoea)、グルコノバクター(Gluconobacter)、エルウィニア(Erwinia)、クレブシエラ(Klebsiella)及び、エシェリキア(Escherichia)系統から選択されることを特徴とする、腸内細菌系統。
【請求項25】
請求項24に記載の修飾された腸内細菌系統であって、さらに、不活性化されたグルコキナーゼを含み、この不活性化により、グルコキナーゼが活性化するのを防ぐ、ことを特徴とする方法。
【請求項26】
組換えパントエア(Pantoea)系統であって、
a) 配列番号2と少なくとも90%の相同性を有するグルコン酸トランスポーターをエンコードしている第一グルコン酸トランスポーター遺伝子を失活させて得た、第一の不活性内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子と、
b) 配列番号4と少なくとも90%の相同性を有するグルコン酸トランスポーターをエンコードしている第二グルコン酸トランスポーター遺伝子を失活させて得た、第二の不活性内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子と、
c) 不活性化された内因性グルコキナーゼ遺伝子を、
含むことを特徴とする組換えパントエア(Pantoea)系統。
【請求項27】
請求項26の組換えパントエア(Pantoea)系統であって、第一の不活性化内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子及び第二の不活性化グルコン酸トランスポーター遺伝子が欠失していることを特徴とする、組換えパントエア(Pantoea)系統。
【請求項28】
アスコルビン酸中間体を生産するために、酸化経路におけるグルコン酸の利用可能性を高める方法であって、
a) 内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子を機能しないように修飾することを特徴とする、修飾されたバクテリア宿主細胞を得る工程と、
b) ASA中間体を生産するために、炭素源の存在下で、適切な培養条件で、該宿主細胞を培養する工程と、
c) ASA中間体を得る工程を含み、
ASA中間体が、2-ケト-D-グルコン酸(2-KDG)、2,5-ジケト-D-グルコン酸(2,5-DKG)、2-ケト-L-グロン酸(2-KLG)、5-ケト-D-グルコン酸(5-KDG)及びL-イドン酸(IA)から成る群より選択され、内因性グルコン酸トランスポーター遺伝子が、配列番号2、配列番号4、あるいは、配列番号2又は配列番号4と少なくとも80%の相同な配列を有するグルコン酸トランスポーターをエンコードしていることを特徴とする方法。
【請求項29】
請求項28に記載の方法であって、修飾された宿主細胞がパントエア(Pantoea)細胞あるいは、大腸菌(E. coli)細胞であることを特徴とする方法。
【請求項30】
単離されたポリヌクレオチドであって、
a) 配列番号2のアミノ酸配列、
b) 配列番号2と少なくとも40%相同なアミノ酸配列、
c) 配列番号4のアミノ酸配列、又は、
d) 配列番号4と少なくとも80%相同なアミノ酸配列
を有する、グルコン酸トランスポーターをエンコードしている、単離ポリヌクレオチド。
【請求項31】
請求項30の単離ポリヌクレオチドであって、配列番号1、配列番号3、あるいは、配列番号1又は3のいずれかと、少なくとも80%相同な核酸配列を有する単離ポリヌクレオチド。
【請求項32】
請求項30の単離ポリヌクレオチドであって、配列番号2あるいは配列番号4で定義されるアミノ酸配列とすくなくとも95%相同なグルコン酸トランスポーターをエンコードしている単離ポリヌクレオチド。
【請求項33】
配列番号2、配列番号4で定義されるアミノ酸配列、あるいは、配列番号2又は4のどちらか一方と少なくとも80%の相同なアミノ酸配列を有する、グルコン酸トランスポーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公表番号】特表2007−525186(P2007−525186A)
【公表日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−514337(P2006−514337)
【出願日】平成16年5月10日(2004.5.10)
【国際出願番号】PCT/US2004/014590
【国際公開番号】WO2005/017099
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(500284580)ジェネンコー・インターナショナル・インク (67)
【Fターム(参考)】