説明

非水系二次電池電極用バインダー組成物

【課題】集電体との密着性に優れ、充放電の繰り返しや、発熱による高温環境下にあっても高放電容量を保持した非水系二次電池を製造することが可能な非水系二次電池電極用バインダー組成物の提供。
【解決手段】樹脂微粒子分散体を含む非水系二次電池電極用バインダー組成物であって、
樹脂微粒子分散体が、エチレン性不飽和単量体の合計100重量%中、酸性基含有エチレン性不飽和単量体(A)10〜30重量%、及び、エチレン性不飽和単量体(A)以外のエチレン性不飽和単量体(B)70〜90重量%の割合で含む単量体を水中にて界面活性剤の存在下、ラジカル重合開始剤によって乳化重合してなり、樹脂微粒子分散体のpHが1〜5であることを特徴とする非水系二次電池電極用バインダー組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐電解液性、結着性、可とう性に優れた非水系二次電池電極用バインダー組成物に関する。更には充放電サイクル特性、高容量化に優れた非水系二次電池、更にはリチウムイオン二次電池に好適に使用することができる非水系二次電池電極用バインダー組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子技術の進歩により、電子機器の性能が向上して小型化、ポータブル化が進み、その電源としてエネルギ密度の高い二次電池の需要が高まっている。二次電池としては例えば、ニッケル水素二次電池、リチウムイオン二次電池などが挙げられ、これら二次電池も機器の小型化、軽量化から、高容量かつ高寿命品の開発が進められている。
【0003】
二次電池の電極は、電極活物質、導電助剤、更にはこれらを集電体に結着するバインダーより構成される。二次電池用バインダー樹脂には従来、正極、負極共にポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂が多く用いられてきた(非特許文献1、2)。しかし、二次電池は充放電時に正極又は負極が体積膨張や収縮を繰り返すため、活物質や導電剤の脱落が起こることで充放電サイクル寿命を短くする場合がある。そのため電極用バインダーには電極の膨潤、収縮に耐え得るクッション性が要求される。しかしフッ素樹脂では電極に追随し得るクッション性は不十分であった。又、フッ素樹脂はN−メチルピロリドン等の特定の溶剤にしか溶解しないという特徴もあり、電極作製時の異臭等、人体や環境に対する悪影響が問題であった。
【0004】
これらの問題に対して特許文献1では、バインダー樹脂として、溶剤に溶解させたアクリル樹脂に架橋剤を添加して、該樹脂と架橋剤とを電極作製時の加熱・圧着工程で反応させて三次元架橋構造体を得ることにより、電池充放電時の活物質や導電剤の脱落を防止している。しかしこの方法では電極作製時の加熱・圧着条件によって得られる三次元架橋構造体の架橋が不十分であるとともに、架橋のバラツキも生じやすく、十分なクッション性を発現できるものではない。更に、電極作製工程に精度が要求され、工程が煩雑になるという問題があった。更にはバインダー樹脂の種類によっては有機溶剤を除くことが難しく、臭気の問題も解決されていない。
【0005】
これらの問題を解決するために特許文献2では、有機系バインダーに加えて水系架橋ポリマーを用いている。水系架橋ポリマーを電極活物質と混練することで、電極活物質の凝集を防ぐスペーサーの役割をし、このためにサイクル性に優れた電極が形成できるものと推察している。特許文献2ではこのスペーサー効果を高めるために多孔ポリマー粒子、あるいは中空ポリマー粒子を用いているが、電極に対する密着性が不十分であるため、バインダーを多量に使用しなければならず、初期容量等の電池性能を悪化させるものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3066682号公報
【特許文献2】特許第3414039号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「電池ハンドブック」 電気書院刊 1980年
【非特許文献2】「工業材料」 日刊工業新聞社 2008年9月号(Vol.56、No.9)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、集電体との密着性に優れ、充放電の繰り返しや、発熱による高温環境下にあっても高放電容量を保持した非水系二次電池を製造することが可能な非水系二次電池電極用バインダー組成物の提供を目的とする。更に、電極活物質に対する影響が少なくかつ、集電性を確保し、その利用効率を向上させ、電池の充放電サイクル特性、高容量化を達成することが可能な非水系二次電池電極、及び該電極を用いた非水系二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、第1の発明は、樹脂微粒子分散体を含む非水系二次電池電極用バインダー組成物であって、
樹脂微粒子分散体が、エチレン性不飽和単量体の合計100重量%中、酸性基含有エチレン性不飽和単量体(A)10〜30重量%、及び、エチレン性不飽和単量体(A)以外のエチレン性不飽和単量体(B)70〜90重量%の割合で含む単量体を水中にて界面活性剤の存在下、ラジカル重合開始剤によって乳化重合してなり、樹脂微粒子分散体のpHが1〜5であることを特徴とする非水系二次電池電極用バインダー組成物に関する。
【0010】
また、第2の発明は、酸性基含有エチレン性不飽和単量体(A)が、2種以上の単量体を含むことを特徴とする第1の発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物に関する。
【0011】
また、第3の発明は、エチレン性不飽和単量体(B)として、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体(c)、N−メチロール基含有エチレン性不飽和単量体(d)、及び1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(e)からなる群より選ばれる少なくとも1種類の単量体を用いることを特徴とする第1または第2の発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物に関する。
【0012】
また、第4の発明は、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体(c)、N−メチロール基含有エチレン性不飽和単量体(d)、及び1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(e)からなる群より選ばれる少なくとも1種類の単量体を、エチレン性不飽和単量体全体の合計100重量%中に0.1〜5重量%含むことを特徴とする第3の発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物に関する。
【0013】
また、第5の発明は、第1〜第4いずれかの発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物を用いてなる非水系二次電池電極に関する。
【0014】
さらに、第6の発明は、第5の発明の非水系二次電池電極を用いてなる非水系二次電池に関する。
【0015】
さらにまた、第7の発明は、リチウムイオン二次電池であることを特徴とする第6の発明の非水系二次電池に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、耐電解液性に優れ、集電体との密着性に優れており、本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物を用いることにより、充放電の繰り返しや、発熱による高温環境下にあっても充放電サイクルにおける放電容量低下の低減が可能となる長寿命の非水系二次電池を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の非水系二次電池電極用バインダーは、酸性基を有するエチレン性不飽和単量体を特定の比率で共重合して得られる樹脂微粒子分散体を含み、その樹脂微粒子分散体のpHが1〜5であることを特徴とする。pHが5より大きいと、バインダーの水溶性が高まり、電極用バインダー組成物としたときの粘度が上昇することから、塗工適性が悪くなる。また、十分な充放電サイクル特性が得られない。樹脂微粒子分散体のpHが低いことにより、電池の充放電サイクル特性が向上する。これはpHが低いことで集電体に対する密着性が向上し、また、樹脂微粒子分散体と活物質とを混合した際の分散状態が最適化されるからであると考えられる。更に樹脂微粒子に架橋構造を導入することで、電解液への膨潤や溶出が抑制された優れた非水系二次電池電極用バインダー組成物を得ることができる。
【0018】
本発明における酸性基含有エチレン性不飽和単量体(A)について説明する。
酸性基としては、(f)カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体、(g)スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体、及び(h)リン酸基含有エチレン性不飽和単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することが好ましい。
なお、本願では、「(メタ)アクリロイル」、「(メタ)アクリル酸」、「(メタ)アクリレート」、及び「(メタ)アクリロイルオキシ」と表記した場合には、特に説明がない限り、それぞれ、「アクリロイル及び/又はメタクリロイル」、「アクリル酸及び/又はメタクリル酸」、「アクリレート及び/又はメタクリレート」、及び「アクリロイルオキシ及び/又はメタクリロイルオキシ」を表すものとする。
【0019】
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(f)としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、又は、これらのアルキルもしくはアルケニルモノエステル、フタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、イソフタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、テレフタル酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、コハク酸β−(メタ)アクリロキシエチルモノエステル、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、けい皮酸などが挙げられる。
【0020】
スルホン酸基含有エチレン性不飽和単量体(g)としては、例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ターシャリーブチルアクリルアミドスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸、(メタ)アクリル酸ブチル-4-スルホン酸、(メタ)アクリロオキシベンゼンスルホン酸などが挙げられる。
【0021】
リン酸基含有エチレン性不飽和単量体(h)としては、例えば、
ジフェニル(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、ジフェニル(2−メタクリロイルオキシエチル)ホスフェート、フェニル(2−アクリロイルオキシエチル)ホスフェート、アシッド・ホスホオキシエチル(メタ)アクリレート、アシッド・ホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、(メタ)アクロイル・オキシエチルアシッドホスフェート・モノエタノールアミン塩、3−クロロ−2−アシッド・ホスホオキシプロピル(メタ)アクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アシッド・ホスホオキシポリオキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、アリルアルコールアシッドホスフェート等が挙げられる。
【0022】
上記の酸性基含有エチレン性不飽和単量体は1種のみを使用しても良いが、2種以上を使用することで、電池の充放電サイクル特性を更に向上させることができる。2種以上使用するときの官能基の組合せは、カルボキシル基とスルホン酸基、スルホン酸基とリン酸基など異種同士を組合せても良いし、アクリル酸とメタクリル酸など、同じ酸性基を有する単量体の中から2種以上を組合せても良い。これらの酸性基含有エチレン性不飽和単量体(A)はエチレン性不飽和単量体の合計100重量%中、すなわち、エチレン性不飽和単量体(A)と、単量体(A)以外のエチレン性不飽和単量体(B)との合計100重量%中、10〜30重量%の範囲で含まれることが好ましい。より好ましくは10〜20%重量%である。酸性基含有エチレン性不飽和単量体(A)が上記範囲で含まれることにより、集電体との密着性や耐電解液性、充放電サイクル特性のバランスが向上する。該単量体が30重量%より多いと粒子の凝集力が高くなりすぎるため密着性が低下する。また、10重量%より少ないと十分な充放電サイクル特性が得られず、さらに耐電解液性も低下する。
【0023】
酸性基を含有しない、すなわち、単量体(A)には属さない、エチレン性不飽和単量体(B)としては、酸性基含有エチレン性不飽和単量体(A)と共重合可能な化合物であれば特に限定はされないが、
例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、ペンタデシル(メタ)アクリレート、ヘキサデシル(メタ)アクリレート、ヘプタデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、ノナデシル(メタ)アクリレート、イコシル(メタ)アクリレート、ヘンイコシル(メタ)アクリレート、ドコシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート等のアルキル(メタ)アクリレート;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、グリセロールモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシビニルベンゼン、1−エチニル−1−シクロヘキサノール、アリルアルコールなどの水酸基含有エチレン性不飽和単量体;
グリシジル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、グリシジルアリルエーテル、2,3−エポキシ−2−メチルプロピル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、4−ビニル−1−シクロヘキセン−1,2−エポキシド、グリシジルシンナメート、1,3−ブタジエンモノエポキサイド、セロキサイド2000(ダイセル化学工業株式会社製)などのエポキシ基含有不飽和単量体;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、メチルエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノスチレン、ジエチルアミノスチレン等のジアルキルアミノ基含有エチレン性不飽和単量体;
ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アクロレイン、N−ビニルホルムアミド、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシプロピルアクリレート、アセトアセトキシブチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセトアセトキシプロピルメタクリレート、アセトアセトキシブチルメタクリレートなどのカルボニル基含有不飽和単量体;
パーフルオロメチルメチル(メタ)アクリレート、パーフルオロエチルメチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロブチルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロオクチルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロイソノニルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロノニルエチル(メタ)アクリレート、2−パーフルオロデシルエチル(メタ)アクリレート、パーフルオロプロピルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルプロピル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルアミル(メタ)アクリレート、パーフルオロオクチルウンデシル(メタ)アクリレート等の炭素数1〜20のパーフルオロアルキル基を有するパーフルオロアルキル(メタ)アクリレート;
パーフルオロブチルエチレン、パーフルオロヘキシルエチレン、パーフルオロオクチルエチレン、パーフルオロデシルエチレン等のパーフルオロアルキルアルキレン類等のパーフルオロアルキル基含有エチレン性不飽和単量体;
ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、n−ペンタキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、プロポキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n−ブトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、n−ペンタキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリテトラメチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシテトラエチレングリコール(メタ)アクリレート、ヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシヘキサエチレングリコール(メタ)アクリレートなどのポリエーテル鎖を有するエチレン性不飽和単量体;
ラクトン変性(メタ)アクリレートなどのポリエステル鎖を有するエチレン性不飽和単量体;
(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチルメチルクロライド塩、トリメチル−3−(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)アンモニウムクロライド、トリメチル−3−(1−(メタ)アクリルアミドプロピル)アンモニウムクロライド、及びトリメチル−3−(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルエチル)アンモニウムクロライド等の四級アンモニウム塩基含有エチレン性不飽和単量体;
酢酸ビニル、酪酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ヘキサン酸ビニル、カプリル酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パルミチン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等の脂肪酸ビニル系単量体;
ブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等のビニルエーテル系化合物;
1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン等のα−オレフィン系単量体;
酢酸アリル、アリルベンゼン、シアン化アリル等のアリル単量体;
シアン化ビニル、ビニルシクロヘキサン、ビニルメチルケトン、スチレン、α−メチルスチレン、2−メチルスチレン、クロロスチレンなどのビニル単量体;
アセチレン、エチニルベンゼン、エチニルトルエン等のエチニル単量体が挙げられる。これらは1種類のみを使用してもよく、又は2種類以上を混合して使用することができる。
【0024】
更に、酸性基を含有しない、エチレン性不飽和単量体(B)として、(c)アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体、(d)N−メチロール基含有エチレン性不飽和単量体、および(e)1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を持つ単量体からなる群より選ばれる少なくとも1種類の単量体を使用した場合、これらの自己架橋型反応性官能基が、粒子内部架橋を形成させることで、電解液中でのバインダー樹脂の膨潤・溶解を抑制し、耐電解液性を向上させることができるため好ましい。
【0025】
アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体(c)としては、例えば、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリブトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ−アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、γ−アクリロキシメチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシランなどが挙げられる。
【0026】
N−メチロール基含有エチレン性不飽和単量体(d)としては、例えば、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ(メチロール)アクリルアミド、N−メチロール−N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド等のアルキロール(メタ)アクリルアミド類などが挙げられる。
【0027】
1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(e)としては、例えば、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸1−メチルアリル、(メタ)アクリル酸2−メチルアリル、(メタ)アクリル酸1−ブテニル、(メタ)アクリル酸2−ブテニル、(メタ)アクリル酸3−ブテニル、(メタ)アクリル酸1,3−メチル−3−ブテニル、(メタ)アクリル酸2−クロルアリル、(メタ)アクリル酸3−クロルアリル、(メタ)アクリル酸o−アリルフェニル、(メタ)アクリル酸2−(アリルオキシ)エチル、(メタ)アクリル酸アリルラクチル、(メタ)アクリル酸シトロネリル、(メタ)アクリル酸ゲラニル、(メタ)アクリル酸ロジニル、(メタ)アクリル酸シンナミル、ジアリルマレエート、ジアリルイタコン酸、(メタ)アクリル酸ビニル、クロトン酸ビニル、オレイン酸ビニル,リノレン酸ビニル、(メタ)アクリル酸2−(2’−ビニロキシエトキシ)エチルなどの、等価ではない複数のエチレン性不飽和基を有する不飽和カルボン酸エステル類;
ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸トリエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール、トリ(メタ)アクリル酸トリメチロールプロパン、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ジアクリル酸1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、トリアクリル酸1,1,1−トリスヒドロキシメチルエタン、1,1,1−トリスヒドロキシメチルプロパントリアクリル酸などの多官能(メタ)アクリル酸エステル類;
ジビニルベンゼン、アジピン酸ジビニルなどのジビニル類;
イソフタル酸ジアリル、フタル酸ジアリルなどのジアリル類などが挙げられる。
【0028】
単量体(c)、単量体(d)及び単量体(e)中のアルコキシシリル基、N−メチロール基、及びエチレン性不飽和基は、主に乳化重合をおこなう際にそれぞれが自己縮合、又は重合して、生成する樹脂粒子中に架橋構造を導入できるが、その一部が、乳化重合を終えた後にも粒子内部や表面に残存していても良い。残存したアルコキシシリル基、N−メチロール基、及びエチレン性不飽和基は、バインダー組成物の樹脂粒子の粒子間架橋に寄与する。特にアルコキシシリル基やN−メチロール基は集電体への密着性向上に寄与する効果があるため好ましい。
【0029】
本発明では、エチレン性不飽和単量体(B)として、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体(c)、N−メチロール基含有エチレン性不飽和単量体(d)、及び1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を持つ単量体(e)からなる群より選ばれる少なくとも1種類の単量体が、乳化重合に使用するエチレン性不飽和単量体全体の合計100重量%中に、すなわち、エチレン性不飽和単量体(A)と、単量体(A)以外のエチレン性不飽和単量体(B)との合計100重量%中、0.1〜5重量%使用することが好ましい。より好ましくは0.5〜3重量%である。0.1重量%未満であると粒子の架橋が十分でなくなり、耐電解液性が低下する場合がある。又、5重量%を超えると、乳化重合する際の重合安定性が低下したり、重合後の保存安定性が低下する場合があり、バインダーとしての密着性や充放電サイクル特性が低下する場合がある。
【0030】
本発明の樹脂微粒子分散体は、従来既知の乳化重合方法により合成される。
【0031】
本発明において乳化重合の際に用いられる乳化剤としては、界面活性剤が用いられ、エチレン性不飽和基を有する反応性界面活性剤やエチレン性不飽和基を有しない非反応性界面活性剤など、従来公知のものを任意に使用することができる。
【0032】
エチレン性不飽和基を有する反応性界面活性剤は更に大別して、アニオン系、非イオン系のノニオン系のものが例示できる。特にエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性界面活性剤若しくはノニオン性反応性界面活性剤を用いると、共重合体の分散粒子径が微細となるとともに粒度分布が狭くなるため、非水系二次電池電極用バインダーとして使用した際に耐電解液性を向上することができ好ましい。このエチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性界面活性剤若しくはノニオン性反応性界面活性剤は、1種を単独で使用しても、複数種を混合して用いても良い。
【0033】
エチレン性不飽和基を有するアニオン系反応性界面活性剤の一例として、以下にその具体例を例示するが、本願発明において使用可能とする界面活性剤は、以下に記載するもののみに限定されるものではない。前記界面活性剤としては、アルキルエーテル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンKH−05、KH−10、KH−20、株式会社ADEKA製アデカリアソープSR−10N、SR−20N、花王株式会社製ラテムルPD−104など);
スルフォコハク酸エステル系(市販品としては、例えば、花王株式会社製ラテムルS−120、S−120A、S−180P、S−180A、三洋化成株式会社製エレミノールJS−2など);
アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンH−2855A、H−3855B、H−3855C、H−3856、HS−05、HS−10、HS−20、HS−30、株式会社ADEKA製アデカリアソープSDX−222、SDX−223、SDX−232、SDX−233、SDX−259、SE−10N、SE−20N、など);
(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製アントックスMS−60、MS−2N、三洋化成工業株式会社製エレミノールRS−30など);
リン酸エステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製H−3330PL、株式会社ADEKA製アデカリアソープPP−70など)が挙げられる。
【0034】
本発明で用いることのできるノニオン系反応性界面活性剤としては、例えばアルキルエーテル系(市販品としては、例えば、株式会社ADEKA製アデカリアソープER−10、ER−20、ER−30、ER−40、花王株式会社製ラテムルPD−420、PD−430、PD−450など);
アルキルフェニルエーテル系もしくはアルキルフェニルエステル系(市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50、株式会社ADEKA製アデカリアソープNE−10、NE−20、NE−30、NE−40など);
(メタ)アクリレート硫酸エステル系(市販品としては、例えば、日本乳化剤株式会社製RMA−564、RMA−568、RMA−1114など)が挙げられる。
【0035】
本発明の樹脂微粒子分散体を乳化重合により得るに際しては、前記したエチレン性不飽和基を有する反応性界面活性剤とともに、必要に応じエチレン性不飽和基を有しない非反応性界面活性剤を併用することができる。非反応性界面活性剤は、非反応性アニオン系界面活性剤と非反応性ノニオン系界面活性剤とに大別することができる。
【0036】
非反応性ノニオン系界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類;
ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類;
ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリオレエートなどのソルビタン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートなどのポリオキシエチレンソルビタン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレンモノラウレート、ポリオキシエチレンモノステアレートなどのポリオキシエチレン高級脂肪酸エステル類;
オレイン酸モノグリセライド、ステアリン酸モノグリセライドなどのグリセリン高級脂肪酸エステル類;
ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン・ブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルなどを例示することができる。
【0037】
又、非反応性アニオン系界面活性剤の例としては、オレイン酸ナトリウムなどの高級脂肪酸塩類;
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩類;
ラウリル硫酸ナトリウムなどのアルキル硫酸エステル塩類;
ポリエキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類;
ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウムなどのポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類;
モノオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム、ポリオキシエチレンラウリルスルホコハク酸ナトリウムなどのアルキルスルホコハク酸エステル塩及びその誘導体類;
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル硫酸エステル塩類などを例示することができる。
【0038】
本発明において用いられる界面活性剤の使用量は、必ずしも限定されるものではなく、樹脂微粒子分散体が最終的に非水系二次電池電極用バインダーとして使用される際に求められる物性に従って適宜選択できる。例えば、エチレン性不飽和単量体の合計100重量部に対して、界面活性剤は通常0.1〜30重量部であることが好ましく、0.3〜20重量部であることがより好ましく、0.5〜10重量部の範囲内であることが更に好ましい。
【0039】
本発明の樹脂微粒子分散体を得るための乳化重合に際しては、水溶性保護コロイドを併用することもできる。水溶性保護コロイドとしては、例えば、部分ケン化ポリビニルアルコール、完全ケン化ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール類;
ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩などのセルロース誘導体;
グアガムなどの天然多糖類などが挙げられ、これらは、単独でも複数種併用の態様でも利用できる。水溶性保護コロイドの使用量としては、エチレン性不飽和単量体の合計100重量部当り0.1〜5重量部であり、更に好ましくは0.5〜2重量部である。
【0040】
本発明の樹脂微粒子分散体の乳化重合に際して用いられる水性媒体としては、水が挙げられ、親水性の有機溶剤も本発明の目的を損なわない範囲で使用することができる。
【0041】
本発明の樹脂微粒子分散体を得るに際して用いられる重合開始剤としては、ラジカル重合を開始する能力を有するものであれば特に制限はなく、公知の油溶性重合開始剤や水溶性重合開始剤を使用することができる。油溶性重合開始剤としては特に限定されず、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、tert−ブチルハイドロパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、tert−ブチルパーオキシ−3,5,5−トリメチルヘキサノエート、ジ−tert−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物;
2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1’−アゾビス−シクロヘキサン−1−カルボニトリルなどのアゾビス化合物を挙げることができる。これらは1種類のみを用いてもよく、又は2種類以上を混合して使用することができる。これら重合開始剤は、エチレン性不飽和単量体100重量部に対して、0.1〜10.0重量部の量を用いるのが好ましい。
【0042】
本発明においては水溶性重合開始剤を使用することが好ましく、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライドなど、従来既知のものを好適に使用することができる。又、乳化重合を行うに際して、所望により重合開始剤とともに還元剤を併用することができる。これにより、乳化重合速度を促進したり、低温において乳化重合を行ったりすることが容易になる。このような還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、エルソルビン酸、酒石酸、クエン酸、ブドウ糖、ホルムアルデヒドスルホキシラートなどの金属塩等の還元性有機化合物、チオ硫酸ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元性無機化合物、塩化第一鉄、ロンガリット、二酸化チオ尿素などを例示できる。これら還元剤は、全エチレン性不飽和単量体100重量部に対して、0.05〜5.0重量部の量を用いるのが好ましい。なお、前記した重合開始剤によらずとも、光化学反応や、放射線照射等によっても重合を行うことができる。重合温度は各重合開始剤の重合開始温度以上とする。例えば、過酸化物系重合開始剤では、通常70℃程度とすればよい。重合時間は特に制限されないが、通常2〜24時間である。
【0043】
更に必要に応じて、緩衝剤として、酢酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、重炭酸ナトリウムなどが、又、連鎖移動剤としてのオクチルメルカプタン、チオグリコール酸2−エチルヘキシル、チオグリコール酸オクチル、ステアリルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類が適量使用できる。
【0044】
樹脂微粒子分散体の樹脂微粒子中に存在する、エチレン性不飽和単量体(A)に由来する酸性官能基は、分散体のpHが1〜5の範囲となる限りにおいては、重合前や重合後に塩基性化合物で中和することができる。中和する際、アンモニアもしくはトリメチルアミン、トリエチルアミン、ブチルアミンなどのアルキルアミン類;
2−ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノールなどのアルコールアミン類;
モルホリンなどの塩基で中和することができる。ただし、乾燥性に効果が高いのは揮発性の高い塩基であり、好ましい塩基はアミノメチルプロパノール、アンモニアである。
【0045】
又、本発明においては樹脂微粒子分散体の粒子構造を多層構造、いわゆるコアシェル粒子にすることもできる。例えば、コア部又はシェル部に官能基を有する単量体を主に重合させた樹脂を局在化させたり、コアとシェルによってTgや組成に差を設けたりすることにより、硬化性、乾燥性、成膜性、バインダーの機械強度を向上させることができる。
【0046】
樹脂微粒子分散体の平均粒子径は、電極活物質の結着性や粒子の安定性の点から、10〜500nmであることが好ましく、30〜250nmであることがより好ましい。又、1μmを超えるような粗大粒子が多く含有されるようになると粒子の安定性が損なわれるので、1μmを超える粗大粒子は多くとも5重量%以下であることが好ましい。なお、本発明における平均粒子径とは、体積平均粒子径のことを表し、動的光散乱法により測定できる。
【0047】
動的光散乱法による平均粒子径の測定は、以下のようにして行うことができる。樹脂微粒子分散体は固形分に応じて200〜1000倍に水希釈しておく。該希釈液約5mlを測定装置[(株)日機装製 マイクロトラック]のセルに注入し、サンプルに応じた溶剤(本発明では水)及び樹脂の屈折率条件を入力後、測定を行う。この時得られた体積粒子径分布データ(ヒストグラム)のピークを本発明の平均粒子径とする。
【0048】
本発明の樹脂微粒子分散体を含む非水系二次電池電極用バインダー組成物には、成膜助剤、消泡剤、レベリング剤、防腐剤、pH調整剤、粘性調整剤などを必要に応じて配合できる。
【0049】
成膜助剤は、塗膜の形成を助け、塗膜が形成された後においては比較的速やかに蒸発揮散して塗膜の強度を向上させる一時的な可塑化機能を担うものであり、沸点が110〜200℃の溶媒が好適に用いられる。具体的には、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、カルビトール、ブチルカルビトール、ジブチルカルビトール、ベンジルアルコールなどが挙げられる。中でも、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテルは少量で高い成膜助剤効果を有するため特に好ましい。これら成膜助剤は、バインダー組成物中に0.5〜15重量%含まれることが好ましい。
【0050】
粘性調整剤は、樹脂微粒子分散体100重量部に対して1〜100重量部用いてもよい。粘性調整剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸(及びその塩)、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼインなどが挙げられる。
【0051】
本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、二次電池の正極、及び負極の形成に使用することができる。その他、エネルギーデバイス、即ち、キャパシタ、太陽電池等にも使用することができる。
【0052】
本発明の非水系二次電池電極用バインダー組成物は、樹脂微粒子分散体と電極活物質とを配合してなり、この非水系二次電池電極用バインダー組成物を集電体に塗布し、乾燥することにより、非水系二次電池電極を製造することができる。
【0053】
本発明において、樹脂微粒子分散体は、その固形分として、電極活物質100重量部に対して、通常0.1〜20重量部、好ましくは0.5〜10重量部用いられる。0.1重量部未満であると、電極活物質を集電体に結着させる力が不十分であり、電極活物質が脱落し電池の容量が低下する場合がある。一方、樹脂微粒子分散体が20重量部を超えると、電池内の抵抗が増して電池の容量が低下する場合がある。
【0054】
電極活物質としては、例えば、負極活物質としてフッ化カーボン、グラファイト、天然黒鉛、炭素繊維などの炭素質材料、ポリアセンなどの導電性高分子、リチウム金属、リチウム合金などのリチウム系金属などが挙げられる。又、正極活物質としては、マンガン、モリブデン、バナジウム、チタン、ニオブなどの酸化物、硫化物、又はセレン化物などが挙げられる。又、電極活物質と併用して導電性材料を使用することができる。
【0055】
電極活物質と併用する導電性材料としては、例えば、ニッケル粉末、酸化コバルト、酸化チタン、カーボンなどを挙げることができる。カーボンとしては、アセチレンブラック、ファーネスブラック、黒鉛、炭素繊維、フラーレン類を挙げることができる。導電性材料の使用量は、電極活物質100重量部に対して0.5〜10重量部が好ましい。0.5重量部未満では導電性が低く、二次電池の高いレートで充放電した場合の容量が低下する場合がある。集電体としては、二次電池電極に通常用いられているものであれば特に限定されず、例えば、パンチングメタル、エキスパンドメタル、金網、発泡金属、網状金属繊維焼結体などを挙げることができる。
【0056】
非水系二次電池電極を形成するには、前記非水系二次電池電極用バインダー組成物を、スラリー状にして集電体に塗布、加熱し、乾燥する。塗布方法としては、リバースロール法、コンマバー法、グラビヤ法、エアーナイフ法など任意のコーターヘッドを用いることができ、乾燥方法としては放置乾燥、送風乾燥機、温風乾燥機、赤外線加熱機、遠赤外線加熱機などが使用できる。
【0057】
本発明の非水系二次電池は、前記非水系二次電池電極用バインダー組成物を用いて製作された二次電池用電極を具えている。上記のようにして得られた非水系二次電池電極を用いて、非水系二次電池を作製する場合、例えば、電解液にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネートなどのカーボネート系溶剤を用い、電解質としてLiPF6などのリチウムイオン化合物を用いるリチウムイオン二次電池として使用するのが好ましい。更に、セパレーター、集電体、端子、絶縁板などの部品を用いて電池が構成される。セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン不織布、ポリプロピレン不織布、ポリアミド不織布及びそれらに親水性処理を施したものが挙げられる。
【実施例】
【0058】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例における「部」は「重量部」、「%」は「重量%」を表す。
【0059】
[樹脂微粒子水分散体の作成]
[実施例1−1]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水140部と界面活性剤としてアデカリアソープSR−10(株式会社ADEKA製)0.4部とを仕込み、別途、スチレン45部、2−エチルヘキシルアクリレート45部、メタクリル酸10部、イオン交換水80部及び界面活性剤としてアデカリアソープSR−10(株式会社ADEKA製)1.6部をあらかじめ混合しておいたプレエマルジョンのうちの5%を更に加えた。内温を70℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液6部を添加し重合を開始した。反応系内を70℃で5分間保持した後、内温を80℃に保ちながらプレエマルジョンの残りを3時間かけて滴下し、更に2時間攪拌を継続した。固形分測定にて転化率が98%超えたことを確認後、温度を30℃まで冷却して樹脂微粒子水分散体を得た。得られた樹脂微粒子水分散体を25℃に調整、pHを測定した。なお、固形分は、150℃20分焼き付け残分により求めた。
【0060】
[実施例1−2〜1−15及び比較例1−1〜1−2]
表1に示す配合組成で、実施例1−1と同様の方法で合成し、実施例1−2〜2−15、及び、比較例1−1〜1−2の樹脂微粒子水分散体を得た。
【0061】
[比較例1−3]
攪拌器、温度計、滴下ロート、還流器を備えた反応容器に、イオン交換水140部と界面活性剤としてアデカリアソープSR−10(株式会社ADEKA製)0.4部とを仕込み、別途、スチレン45部、2−エチルヘキシルアクリレート45部、メタクリル酸10部、イオン交換水80部及び界面活性剤としてアデカリアソープSR−10(株式会社ADEKA製)1.6部をあらかじめ混合しておいたプレエマルジョンのうちの5%を更に加えた。内温を70℃に昇温し十分に窒素置換した後、過硫酸カリウムの5%水溶液6部を添加し重合を開始した。反応系内を70℃で5分間保持した後、内温を80℃に保ちながらプレエマルジョンの残りを3時間かけて滴下し、更に2時間攪拌を継続した。固形分測定にて転化率が98%超えたことを確認後、温度を30℃まで冷却し、25%アンモニア水4部を添加して、pHを7.1とし、樹脂微粒子水分散体を得た。なお、固形分は、150℃20分焼き付け残分により求めた。
【0062】
【表1】

【0063】
[非水系二次電池電極用バインダー組成物及び非水系二次電池電極の作成]
(正極の作製)
実施例1−1〜1−15及び比較例1−1〜1−3で得られた樹脂微粒子水分散体の固形分100部に対して、正極活物質であるコバルト酸リチウム(LiCoO2 )を4700部、導電性材料としてアセチレンブラック100部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース100部を添加し、固形分50%になるようにイオン交換水を加えた後、混練して非水系二次電池電極用バインダー組成物を調整した。この非水系二次電池電極用バインダー組成物を集電体となる厚さ20μmのアルミ箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧加熱乾燥し、ロールプレスによる圧延処理を行い、厚さ50μmの正極合剤層を有する正極を作製した。
【0064】
(負極の作製)
実施例1−1〜1−15及び比較例1−1〜1−3で得られた樹脂微粒子水分散体の固形分100部に対して、負極活物質としてメソフェーズカーボン(MCMB 6−28、平均粒径5〜7μm、比表面積4m2/g大阪ガスケミカル社製)4800部、増粘剤としてカルボキシメチルセルロース100部を添加し、固形分50%になるようにイオン交換水を加えた後、混練して非水系二次電池電極用バインダー組成物を調整した。この非水系二次電池電極用バインダー組成物を集電体となる厚さ20μmの銅箔上にドクターブレードを用いて塗布した後、減圧加熱乾燥し、ロールプレスによる圧延処理を行い、厚さ50μmの負極合剤層を有する負極を作製した。
【0065】
<リチウム二次電池正極評価用セルの組み立て>
先に作製した正極を、直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極及び対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製 #2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1(重量比)の割合で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝仙社製 HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立てはアルゴンガス置換したグローボックス内で行い、セル組み立て後、所定の電池特性評価を行った。
【0066】
<リチウム二次電池負極評価用セルの組み立て>
先に作製した負極を、直径9mmに打ち抜き作用極とし、金属リチウム箔(厚さ0.15mm)を対極として、作用極及び対極の間に多孔質ポリプロピレンフィルムからなるセパレーター(セルガード社製 #2400)を挿入積層し、電解液(エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを1:1(重量比)の割合で混合した混合溶媒にLiPF6 を1Mの濃度で溶解させた非水電解液)を満たして二極密閉式金属セル(宝仙社製 HSフラットセル)を組み立てた。セルの組み立てはアルゴンガス置換したグロ−ボックス内で行い、セル組み立て後、所定の電池特性評価を行った。
【0067】
上記の方法で得られた二次電池電極及びリチウム二次電池電極評価用セルを用いて、密着性、耐電解液性、電池特性を評価した。
【0068】
(密着性)
電極表面にナイフを用いて、合剤層から集電体に達する深さまでの切込みを2mm間隔で縦横それぞれ6本入れて碁盤目の切込みを入れた。この切り込みに粘着テープを貼り付けて直ちに引き剥がし、活物質の脱落の程度を目視判定で判定した。評価基準を下記に示す。評価結果を表2に示す。
◎:「剥離なし」
○:「わずかに剥離(実用上問題のないレベル)」
△:「ほとんどの部分で剥離」
×:「完全に剥離」
【0069】
(耐電解液性)
作成した電極をプロピレンカーボネート液に70℃、24時間浸漬し、浸漬前後での膜の膨潤状態、樹脂の溶出状態を下記の通り算出し、比較評価した。
膨潤率 (%)=〔(浸漬後重量)/(浸漬前重量)〕×100
溶出率 (%)=〔1−(浸漬乾燥後重量)/(浸漬前重量)〕×100
膨潤率はその値が100%に近いほど、溶出率は0%に近いほど耐電解液性が高いことを示す。評価結果を表2に示す。
○:「膨潤率が110%未満。全く問題なし。」
△:「膨潤率が110%以上、120未満。実用上使用可。」
×:「膨潤率が120%以上。実用上問題あり。」
【0070】
○:「溶出率が1.0%未満。全く問題なし。」
△:「溶出率が1.0%以上、3.0%未満。実用上使用可。」
×:「溶出率が3.0%以上。実用上問題あり。」
【0071】
(電池特性評価)
上記で作製したリチウム二次電池電極評価用セルの充放電サイクル試験を行った。1回目の放電容量を100%として70℃、100時間後の放電容量を測定し変化率とした(100%に近いほど良好)。評価結果を表2に示す。
○:「変化率が90%以上。全く問題なし。」
△:「変化率が80%以上、90%未満。実用上使用可。」
×:「変化率が80%未満。実用上問題あり。」
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示すように、実施例1−1〜1−15で合成した樹脂微粒子分散体を含む非水系二次電池電極用バインダー組成物を用いた場合、耐電解液性、密着性のバランスが取れ、電池特性においても、70℃、100時間後も放電容量の低下が抑制されている。一方、比較例1−1〜1−3で合成した樹脂微粒子分散体を含む非水系二次電池電極用バインダー組成物を用いた場合、耐電解液性、密着性、電池特性の低下がみられてしまう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂微粒子分散体を含む非水系二次電池電極用バインダー組成物であって、
樹脂微粒子分散体が、エチレン性不飽和単量体の合計100重量%中、酸性基含有エチレン性不飽和単量体(A)10〜30重量%、及び、エチレン性不飽和単量体(A)以外のエチレン性不飽和単量体(B)70〜90重量%の割合で含む単量体を水中にて界面活性剤の存在下、ラジカル重合開始剤によって乳化重合してなり、樹脂微粒子分散体のpHが1〜5であることを特徴とする非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項2】
酸性基含有エチレン性不飽和単量体(A)が、2種以上の単量体を含むことを特徴とする請求項1記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項3】
エチレン性不飽和単量体(B)として、アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体(c)、N−メチロール基含有エチレン性不飽和単量体(d)、及び1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(e)からなる群より選ばれる少なくとも1種類の単量体を用いることを特徴とする請求項1または2記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項4】
アルコキシシリル基含有エチレン性不飽和単量体(c)、N−メチロール基含有エチレン性不飽和単量体(d)、及び1分子中に2つ以上のエチレン性不飽和基を有する単量体(e)からなる群より選ばれる少なくとも1種類の単量体を、エチレン性不飽和単量体全体の合計100重量%中に0.1〜5重量%含むことを特徴とする請求項3記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか記載の非水系二次電池電極用バインダー組成物を用いてなる非水系二次電池電極。
【請求項6】
請求項5記載の非水系二次電池電極を用いてなる非水系二次電池。
【請求項7】
リチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項6記載の非水系二次電池。

【公開番号】特開2012−185947(P2012−185947A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−47053(P2011−47053)
【出願日】平成23年3月4日(2011.3.4)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】