説明

非水系電池用電極群およびその製造方法並びに円筒形非水系二次電池およびその製造方法

【課題】電解液の含浸性に優れ、且つ、生産性および信頼性に優れた非水系電池用電極群、および円筒形非水系二次電池を提供する。
【解決手段】正極板2は、集電用芯材72の中央部に形成された芯材露出部78に正極集電リード70が接続され、負極板3は、集電用芯材12の両面に活物質層13および多孔性保護膜28が形成された両面塗工部14と、芯材露出部18と、両面塗工部14と芯材露出部18との間であって、集電用芯材12の片面にのみ活物質層13および多孔性保護膜28が形成された片面塗工部17とを有している。両面塗工部14には複数の溝部10が形成され、片面塗工部17には溝部10が形成されておらず、芯材露出部18には、負極集電リード20が接続され、芯材露出部18を巻き終端として負極板3が巻回されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、非水系電池用電極群およびその製造方法、並びに、円筒形非水系二次電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用電子機器や通信機器などの駆動電源として利用が広がっているリチウム二次電池は、一般に、負極板には、リチウムの吸蔵・放出が可能な炭素質材料を用い、正極板には、LiCoOなどの遷移金属とリチウムの複合酸化物を活物質として用いており、これによって高電位で高放電容量の二次電池になっている。そして、電子機器および通信機器の多機能化に伴って、さらなる高容量化が望まれている。
【0003】
高容量のリチウム二次電池を実現するために、例えば、正極板と負極板の電池ケース内での占有体積を増やして、電池ケース内における電極板のスペース以外の空間を減らすことによって、一層の高容量化を図ることができる。また、正極板および負極板の構成材料を塗料化した合剤ペーストを集電用芯材上に塗布乾燥して活物質層を形成した後、この活物質層をプレスで高加圧して規定の厚みまで圧縮して、活物質の充填密度を高くすることによって、一層の高容量化が可能となる。
【0004】
ところが、電極板の活物質の充填密度が高くなると、電池ケース内に注液した比較的粘性の高い非水電解液を、正極板と負極板の間にセパレータを介して高密度に積層または渦巻状に巻回されてなる電極群の小さな隙間に浸透させることが難しくなるため、所定量の非水電解液を含浸させるまでに長い時間を要するという問題がある。しかも、電極板の活物質の充填密度を高くしたことによって、電極板中の多孔度が小さくなって電解液が浸透し難くなるため、電極群への非水電解液の含浸性が格段に悪くなり、その結果、電極群中での非水電解液の分布が不均一となるという問題がある。
【0005】
そこで、負極活物質層の表面に、非水電解液の浸透方向に、電解液を案内する溝部を形成することによって、負極全体に非水電解液を浸透させ、溝部の幅や深さを大きくすれば、含浸時間を短縮することができるが、逆に、活物質の量が減るため、充放電容量が低下したり、極板間の反応が不均一になって電池特性が低下するため、これらを考慮して、溝部の幅や深さは所定の値に設定される方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
しかし、負極活物質層の表面に形成された溝部は、電極板を巻回して電極群を形成する際、電極板を破断させる要因となり得る。そこで、含浸性を向上しつつ、電極板の破断を防止する方法として、電極板の表面に、電極板の長手方向に対して傾斜角をなすように溝部を形成することによって、電極板を巻回して電極群を形成する際に、電極板の長手方向に働く張力を分散させることができ、これにより極板の破断を防止する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0007】
また、電解液の含浸性を向上させる目的ではないが、過充電による過熱を抑制するために、正極板または負極板に対向する面に、表面が部分的に凸部を有する多孔膜を設け、多孔膜の凸部と電極板との間に生じる隙間に、他の部位よりも多くの非水電解液を保持することによって、この部位において過充電反応を集中的に進行させることによって、電池全体として過充電の進行を抑制し、過充電による過熱を抑制することができる方法も提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
一方、上記のような手段により高容量化を図ったリチウム二次電池においては、例えば、何らかの原因で異物が電池内部に混入することによってセパレータが損傷し、これにより、正極板と負極板とが内部短絡を起こした場合、短絡部位に集中して電流が流れることによって急激な発熱が生じ、これに起因して、正極および負極材料の分解や、電解液の沸騰又は分解によるガス発生等が起きるおそれがある。このような内部短絡に起因する問題に対して、負極活物質層又は正極活物質層の表面に多孔性保護膜を被覆することによって、内部短絡の発生を抑制する方法が提案されている(例えば、特許文献4,5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−298057号公報
【特許文献2】特開平11−154508号公報
【特許文献3】特開2006−12788号公報
【特許文献4】特開平7−220759号公報
【特許文献5】国際公開第2005/029614号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した特許文献2に示される従来技術では、溝がない電極板より注液時間が短縮できるものの、電極板の片側のみに溝が形成されているため注液時間の短縮効果が大幅に改善されず、注液時間がかかることで電解液の蒸発量を最小限に抑制する効果が低く、大幅な電解液のロスを減少させることは困難である。さらに片側のみの溝が成形されていることで電極板にストレスがかかり、溝がない側に丸まりやすい課題があった。
【0011】
また、上述した特許文献3に示される従来技術では、正極板と負極板とをセパレータを介して巻回して電電極群を構成すると電極群電池反応に寄与しない無駄な無反応部分が存在し、電池ケース内の空間体積を有効に活用でき、電池の高容量化を図ることが困難となる。
【0012】
ここで、電極板の両面に形成された活物質層の両面に溝部を形成する方法として、表面に複数の突条部が形成された一対のローラを電極板の上下にそれぞれ配置し、この一対のローラを電極板の両面に押圧しながら回転・移動させて溝部加工を行う方法(以下、「ロールプレス加工」という。)は、電極板の両面に複数の溝部を同時に形成することができるため、量産性に優れる。
【0013】
さらに本願発明者等は、上述した特許文献4,5に示される従来技術を踏まえて、電解液の含浸性を向上させる目的で、ロールプレス加工を用いて、活物質層の両面に溝部を形成した電極板を種々検討していたところ、以下のような課題があることを見出した。
【0014】
図8(a)〜(d)は、電極板103の製造工程を示した斜視図である。まず、図8(a)に示すように、帯状の集電用芯材112の両面に活物質層113が形成された両面塗工部114と、集電用芯材112の片面にのみ負極活物質層113が形成された片面塗工部117と、活物質層113が形成されていない芯材露出部118とからなる極板構成部119を有する電極板フープ材111を形成する。その後、図8(b)に示すように、活物質層113の表面に多孔性保護膜128を被覆する。
【0015】
次に、図8(c)に示すように、ロールプレス加工により、多孔性保護膜128および活物質層113の表面に複数の溝部110を形成した後、図8(d)に示すように、両面塗工部114と芯材露出部118との境界に沿って電極板フープ材111を切断し、然る後、芯材露出部118に集電リード120を接合することによって、負極板103が製造される。しかしながら、図9に示すように、両面塗工部114と芯材露出部118との境界に沿って電極板フープ材111を切断したとき、芯材露出部118とこれに続く片面塗工部117とが大きく湾曲状に変形するという問題が生じた。
【0016】
これは、ロールプレス加工が、負極板フープ材111をローラ間の隙間を連続的に通過させながら行われるため、両面塗工部114における多孔性保護膜128および活物質層113の両面に溝部110が形成されるのに引き続き、片面塗工部117における多孔性保護膜128および活物質層113の表面にも溝部110が形成されたことに起因するものと考えられた。すなわち、溝部110が形成されることによって負極活物質層113は延ばされるが、両面塗工部114では、両面の活物質層113が同程度に延ばされるのに対して、片面塗工部117では、活物質層113は片面においてのみ延ばされるため、活物質層113の引っ張り応力により、片面塗工部117が、活物質層113の形成されていない側に大きく湾曲して変形したものと考えられる。
【0017】
電極板フープ材111の切断によって、電極板103の端部(芯材露出部118とこれに続く片面塗工部117)が湾曲状に変形すると、電極板103を巻回して電極群を構成する際、巻きずれを起こすおそれがある。また、電極板103を積層して電極群を構成する場合においても、折れ曲がり等が発生するおそれがある。さらに、電極板103の搬送時に、電極板103の端部を確実にチャックできずに、搬送に失敗したり、活物質の脱落が起きるおそれがある。そのため、生産性が低下するだけでなく、電池の信頼性の低下を招くおそれもある。
【0018】
本発明は上記従来の課題を鑑みて成されたもので、電解液の含浸性に優れ、且つ、生産性および信頼性の高い非水系電池用電極群およびその製造方法、並びに、円筒形非水系二次電池およびその製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の非水系電池用電極群は、正極板および負極板がセパレータを介して巻回されてなる電極群であって、正極板は、正極の集電用芯材の両面に正極活物質層が形成された両面塗工部と、正極の集電用芯材の長手方向における中央部であって、正極活物質層が形成されていない芯材露出部とを有し、正極板の芯材露出部には、正極の集電リードが接続されており、負極板は、負極の集電用芯材の両面に負極活物質層および多孔性保護膜が形成された両面塗工部と、負極の集電用芯材の端部であって、負極活物質層および多孔性保護膜が形成されていない芯材露出部と、両面塗工部と芯材露出部との間であって、負極の集電用芯材の片面にのみ負極活物質層および多孔性保護膜が形成された片面塗工部とを有し、負極板の両面塗工部の両面に複数の溝部が形成され、かつ、負極板の片面塗工部には溝部が形成されておらず、溝部は、多孔性保護膜の表面から活物質層の表面に及んで活物質層表面にも形成され、かつ、多孔性保護膜の膜厚は、溝部の深さよりも小さく、負極板の芯材露出部には、負極の集電リードが接続されており、負極板の芯材露出部を巻き終端として負極板が巻回されている。
【0020】
このような構成により、電解液の含浸性を向上させることができるので、含浸時間を短縮させることが可能である。また、電池反応に寄与しない無駄な部分を排除することができる上、片面塗工部に形成された負極活物質層による引っ張り応力を緩和できるため、芯材露出部とこれに続く片面塗工部とが大きく湾曲状に変形するのを防止することができる。さらに、電極群の形状を真円に近づけることができるので、電極群において負極板と正極板との間の極板間距離が均一になり、サイクル特性を向上させることができる。さらに、正極の集電リードは、正極板の長手方向における中央部に位置しているので、電池反応により正極板の両端で発生した電気の集電効果を向上させることができる。加えて、多孔性保護膜により負極板の絶縁性を高めることができるため、内部短絡の発生を抑制することができる。
【0021】
本発明の非水系電池用電極群では、多孔性保護膜は、無機酸化物を主成分とする材料からなることが好ましい。これにより、負極板の絶縁性をより向上させることができる。さらに、多孔性保護膜の主成分である無機酸化物は、アルミナおよび/またはシリカを主成分とすることが好ましい。これにより、耐熱性及び電解液への耐溶解性に優れた、より信頼性の高い高絶縁性の負極板を得ることができる。
【0022】
本発明の非水系電池用電極群では、負極板の両面塗工部の両面に形成された溝部は、位相が対称になっていることが好ましい。これにより、負極板に溝部を形成する際の負極板へのダメージを最小限に抑えることができ、負極板を巻回して電極群を形成する際に負極板が破断することを抑制することが可能となる。
【0023】
本発明の非水系電池用電極群では、負極板の両面塗工部の両面に形成された溝部の深さは、4μm〜20μmの範囲にあることが好ましい。これにより、電解液の注液性が向上する上、活物質の脱落を防止することができる。
【0024】
本発明の非水系電池用電極群では、負極板の両面塗工部の両面に形成された溝部は、負極板の長手方向に沿って、100μm〜200μmのピッチで形成されていることが好ましい。これにより、負極板に溝部を成形する際の負極板へのダメージを最小限に抑えることが可能となる。また、負極板の両面塗工部の両面に形成された溝部は、負極板の幅方向に対して、一端面から他端面に貫通して形成されていることが好ましい。これにより、電解液が電極群の端面から含浸しやすくなり、よって、含浸時間を短縮させることが可能となる。また、負極板の両面塗工部の両面に形成された溝部は、負極板の長手方向に対して、互いに異なる方向に45°の角度に傾斜して形成され、且つ、互いに直角に立体交差していることが好ましい。これにより、負極板が破断しやすい方向に溝部が形成されることを回避できるため、応力の集中を防止でき、よって、負極板の破断を防ぐことが可能となる。
【0025】
本発明の非水系電池用電極群では、負極の集電リードと負極板の片面塗工部における活物質層および多孔性保護膜とは、集電用芯材に対して互いに反対側に位置していることが好ましい。これにより、電極群の形状を真円に近づけることができるので、電極群において負極板と正極板との間の極板間距離が均一になり、よって、サイクル特性を向上させることができる。
【0026】
本発明の非水系電池用電極群の製造方法は、セパレータを介して上記正極板および上記負極板を捲回する工程を備え、正極板と負極板とを捲回する工程では、負極板の芯材露出部を巻き終端として負極板を捲回する。
【0027】
本発明の円筒形非水系二次電池は、電池ケース内に、本発明の非水系電池用電極群が収容されるとともに、所定量の非水電解液が注液され、かつ、電池ケースの開口部が密閉状態に封口されている。
【0028】
本発明の円筒形非水系二次電池の製造方法は、本発明の非水系電池用電極群を作製する工程と、電池ケース内に電極群および非水電解液を収容して、電池ケースを封口する工程とを備えている。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、両面塗工部の両面には、多孔性保護膜の表面から活物質層の表面に及び溝部が形成されており、片面塗工部には、溝部が形成されていない。よって、電解液の含浸性を向上させることができるとともに、負極板の芯材露出部とこれに続く片面塗工部とが大きく湾曲状に変形するのを防止することができる。
【0030】
また、負極の集電リードが接続された負極の集電用芯材の芯材露出部を巻き終端として巻回するので、電極群を構成したときの外周側に位置する負極活物質層を電池反応に寄与しない無駄な部分として排除し、これにより、電池ケース内の空間体積を有効に活用でき、その分だけ電池の高容量化を図ることができる。また、電極群の最内周側に負極の集電リードの出っ張りがないため、形成された電極群の形状を真円に近づけることが可能となる。これにより、電極群において正極と負極との間の極板間距離が均一になるので、サイクル特性を向上させることができる。
【0031】
さらに、正極の集電リードが正極板の長手方向における中央に位置しているので、電池反応により正極板の両端で発生した電気の集電効果を向上させることができる。
【0032】
加えて、集電用芯材の表面に形成された活物質層を多孔性保護膜で被覆しているので、負極板の絶縁性を高めることができるため、内部短絡の発生を抑制することができる。
【0033】
以上のことから、電解液の含浸性に優れ、且つ、生産性および信頼性に優れた非水系電池用電極群及び円筒形非水系二次電池を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施の形態における円筒形非水系二次電池の構成を示した縦断面図
【図2】(a)本発明の一実施の形態における電池用負極板の製造工程の集電用芯材に負極活物質を塗工した斜視図、(b)同工程における負極活物質層の表面に多孔性保護膜を形成した状態を示した斜視図、(c)同工程の両面塗工部に溝部を形成した斜視図、(d)同工程の負極フープから切り離した負極板を示した斜視図
【図3】本発明の一実施の形態における電池用正極板を示した斜視図
【図4】本発明の一実施の形態における電池用電極群の一部横断面図
【図5】本発明の一実施の形態における電池用負極板の一部拡大平面図
【図6】図5のA−A線に沿った拡大断面図
【図7】本発明の一実施の形態における両面塗工部の表面に溝部を形成する方法を示した斜視図
【図8】(a)従来の製造工程に係る電池用負極板の製造工程の集電用芯材に負極活物質を塗工した斜視図、(b)同工程における負極活物質層の表面に多孔性保護膜を形成した状態を示した斜視図、(c)同工程の両面塗工部に溝部を形成した斜視図、(d)同工程の負極フープから切り離した負極板を示した斜視図
【図9】従来の電池用負極板における課題を説明した斜視図
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本発明の一実施の形態について図を参照にしながら詳細に説明する。以下の図面においては、説明の簡略化のため、実質的に同一の機能を有する構成要素を同一の参照符号で示す。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0036】
図1は、本発明の一実施形態における円筒形非水系二次電池を模式的に示した縦断面図である。この円筒形非水系二次電池は、複合リチウム酸化物を活物質とする正極板2と、リチウムを保持できる材料を活物質とする負極板3とが、これらの間に多孔質絶縁体であるセパレータ4を介在させて渦巻状に巻回された電極群1を備えている。
【0037】
この電極群1は、有底円筒状の電池ケース7内に収容され、電池ケース7内に所定量の非水溶媒からなる電解液(図示せず)が注液されて電極群1に含浸されている。電池ケース7の開口部は、ガスケット8を周縁に取り付けた封口板9を挿入した状態で、電池ケース7の開口部を径方向の内方に折り曲げてかしめ加工することにより、密閉状態に封口されている。この円筒形非水系二次電池では、負極板3の両面に、多数の溝部10が互いに立体交差するように形成されており、この溝部10を通して電解液を浸透させることにより、電解液の電極群1への含浸性の向上を図っている。加えて、活物質層の表面に多孔性保護膜28を被覆することによって、内部短絡の発生の抑制を図っている。
【0038】
図2(a)〜(d)は、負極板3の製造工程を示した斜視図である。図2(a)は、個々の負極板3に分割する前の負極板フープ材11を示しており、10μmの厚みを有する長尺帯状の銅箔からなる集電用芯材12の両面に、負極合剤ペーストを塗布・乾燥した後、総厚が200μmとなるようにプレスして圧縮することにより負極活物質層13を形成し、これを約60mmの幅になるようにスリット加工したものである。ここで、負極合剤ペーストは、例えば、人造黒鉛を活物質とし、スチレン−ブタジェン共重合体ゴム粒子分散体を結着材とし、カルボキシメチルセルロースを増粘剤として、これらを適量の水でペースト化したものが用いられる。
【0039】
この負極板フープ材11は、集電用芯材12の両面に負極活物質層13が形成された両面塗工部14と、集電用芯材12の片面のみに負極活物質層13が形成された片面塗工部17と、集電用芯材12に負極活物質層13が形成されていない芯材露出部18とで一つの電極板構成部19が構成されており、この電極板構成部19が長手方向に連続して形成されている。なお、このような負極活物質層13を部分的に設ける電極板構成部19は、周知の間欠塗工法により負極活物質層13を塗着形成することによって容易に形成することができる。
【0040】
図2(b)は、負極活物質層13の表面に、無機添加剤に少量の水溶性高分子の結着材を加えて混練した塗布剤を塗布した後、乾燥して、多孔性保護膜28を形成した状態を示した図である。なお、電池反応に寄与しない芯材露出部18には、多孔性保護膜28は形成しない。これにより、多孔性保護膜28が存在しない分だけ電池容量が増大し、また、後述する工程(図2(d)を参照)で、集電リード20を芯材露出部18に溶接により取り付ける際、芯材露出部18の集電リード20を溶接する箇所から多孔性保護膜28を剥離する工程を省くことができ、生産性が向上する。
【0041】
この多孔性保護膜28は、図1に示した構成の電池において、内部短絡の発生を抑制する保護機能を発揮するとともに、多孔性を備えているため、電池本来の機能、すなわち、電解液中の電解質イオンとの電極反応を妨げることがない。ここで、無機添加剤としては、シリカ材および/またはアルミナ材を用いるのが好ましい。これは、シリカ材およびアルミナ材が、耐熱性、非水系二次電池の使用範囲内における電気化学的安定性や電解液への耐溶解性に優れ、且つ、塗料化に適した材料であり、これを用いることにより信頼性の高い電気絶縁性を有する多孔性保護膜28を得ることができる。また、結着材としては、ポロフッ化ビニリデンを用いるのが好ましい。
【0042】
図2(c)は、負極板フープ材11に対し、片面塗工部17の負極活物質層13に溝部10を形成しないで、両面塗工部14における両面側の負極活物質層13の表面にのみ溝部10を形成した状態を示している。
【0043】
ここで、多孔性保護膜28の膜厚は特に制限されないが、後述する溝部10の深さよりも小さい方が好ましい。例えば、溝部10の深さ(多孔性保護膜28および負極活物質層13の両方を含む溝部の深さ)を4〜10μmとした場合、多孔性保護膜28の膜厚は、2〜4μmとすることが好ましい。なお、膜厚が2μm未満とすると、内部短絡を防止する保護機能が不足するため好ましくない。
【0044】
この溝部10を形成した負極板フープ材11を、図2(d)に示すように、芯材露出部18の集電用芯材12に集電リード20を溶接により取り付けて、集電リード20を絶縁テープ21で被覆したのち、両面塗工部14に隣接した芯材露出部18をカッターで切断して電極板構成部19毎に分離して円筒形非水系二次電池の負極板3が出来上がる。
【0045】
このようにして作製された負極板3は、図2(d)に示すように、負極の集電用芯材12の両面に負極活物質層13および多孔性保護膜28が形成された両面塗工部14と、負極の集電用芯材12の片面のみに負極活物質層13および多孔性保護膜28が形成された片面塗工部17と、芯材露出部18とを有している。両面塗工部14の両面には、多孔性保護膜28の表面から負極活物質層13の表面に及ぶ複数の溝部10(負極活物質層13の表面にも溝部10が形成されている)が形成されている一方、片面塗工部17には、溝部10が形成されていない。芯材露出部18は、負極板3の端部(具体的には負極板3の長手方向における端部)に位置しており、負極の集電リード20は、芯材露出部18に接続されている。
【0046】
図3は、正極板2を示した斜視図で、図4は、電極群1の一部横断面図である。なお、図4において、負極活物質層13の表面に形成された多孔性保護膜28は省略している。
【0047】
正極板2は、次に示す方法に従って作製される。負極板3と同様の工程で正極フープ材(図示せず)を作製する。次に、集電リード70を芯材露出部78の集電用芯材72に溶接してから、集電リード70を絶縁テープ71で被覆する。その後、両面塗工部74を所定の長さにカッターで切断して電極板構成部79毎に分離する。
【0048】
このようにして作製された正極板2は、図3に示すように、両面塗工部74と芯材露出部78とを有している。芯材露出部78は、正極板2の長手方向における中央部に位置しており、正極の集電リード70は、芯材露出部78に接続されている。
【0049】
このような正極板2と上記負極板3との間にセパレータ4を介在させてから矢印Y(図2(d)および図3を参照)方向へ渦巻き状に巻回することにより、本実施の形態における電極群1を形成することができる。
【0050】
なお、集電用芯材12の両面塗工部14に負極活物質層13を形成した後、負極活物質層13の表面に溝部10を形成し、然る後、溝部10が形成された負極活物質層13の表面に多孔性保護膜28を形成する工程も考えられるが、この場合、負極活物質層13の表面に形成された溝部10が、多孔性保護膜28によって埋もれてしまい、溝部10の実質的な深さが小さくなってしまうため、電解液の含浸性の向上を十分に図ることができない。
【0051】
負極板3を上記のように構成することによって、以下のような効果が得られる。
【0052】
すなわち、この負極板3と正極板2とをセパレータ4を介して渦巻状に巻回して電極群1を構成する際、図4に示すように、集電リード20を取り付けた芯材露出部18を巻き終端として巻回されるが、巻回された電極群1は、負極板3の片面塗工部17における負極活物質層13が存在しない面が外周面として配置される。この片面塗工部17の外周面は、電池として機能したときに電池反応に寄与しない箇所であるため、かかる部位に負極活物質層13を形成する無駄を排除することによって、電池ケース7内の空間体積を有効に活用することができ、その分だけ電池としての高容量化を図ることができる。
【0053】
また、片面塗工部17の負極活物質層13および多孔性保護膜28には溝部10を形成していないため、図2(d)で示した負極板フープ材11の切断において、負極板3の芯材露出部18とこれに続く片面塗工部17とが大きく湾曲状に変形するのを防止することができる。これにより、正極板2および負極板3を巻回して電極群1を構成する際の巻きずれを防止することができる。また、負極板3を巻回機で巻き取る際に、大きく湾曲状に変形するのを防止しているためチャックに失敗する搬送時のトラブルや、負極活物質13の脱落を防止するができる。その結果、電解液の含浸性に優れ、且つ、生産性および信頼性に優れた電池用負極板を実現することが可能となる。
【0054】
さらに、負極板3の芯材露出部18に接合した負極の集電リード20は、片面塗工部17の負極活物質層13が形成された面と反対面に位置し、巻き終端としたことで、内周側に負極の集電リード20の出っ張りがなく、巻回した形状を真円に近づけることができ、電池ケース7内に電極群1として構成された際にも収納しやすく、また負極板3と正極板2の間の極間距離が均一になるのでサイクル特性を向上することができる。なお、負極板の芯材露出部を積層終端としてつづら折りに積層して電極群1を構成する場合においても同様の効果が得られる。負極の集電リード20を設けた芯材露出部を積層終端としてつづら折りに積層することで、電池ケース7内の空間体積を有効に活用することができ、チャックに失敗する搬送時のトラブルや負極活物質13の脱落を防止が可能な上、内周側に負極の集電リード20の出っ張りがなく、積層した形状が変形してしまうことを避けることができ、電池ケース7内に電極群1として構成された際にも収納しやすく、また負極板3と正極板2の間の極間距離が均一になるのでサイクル特性を向上し、電解液の含浸性に優れ、且つ、生産性および信頼性に優れた電池用電極群を実現することが可能となる。
【0055】
加えて、負極の集電リード20が電極群1の最外周面に位置していれば、負極の集電リード20を電池ケース7の底面に溶接させる際に集電リード20の先端を曲げても、負極の集電リード20と負極板3とが剥離することを防止できる。よって、負極の集電リード20と集電用芯材12との溶接部分にそれほどストレスをかけることなく負極の集電リード20を電池ケース7の底面に溶接させることができる。
【0056】
正極板2を上記のように構成することによって、以下のような効果が得られる。
【0057】
正極板2の芯材露出部78は、正極板2の長手方向における中央部に位置している。よって、正極板の芯材露出部が正極板の長手方向における端部に位置している場合に比べて、正極板2の長手方向における両端部と正極の集電リード70との距離を短くすることができる。よって、効果的に集電することができる。例えば、電池反応により正極板の両端で発生した電気の集電効果を向上させることができる。従って、集電効果の向上が可能となる。
【0058】
図5は、一実施の形態における負極板3の部分拡大平面図である。両面塗工部14の両面側の多孔性保護膜28および負極活物質層13にそれぞれ形成される各溝部10は、負極板3の長手方向に対して両面側で互いに異なる方向に45°の傾斜角度αで形成され、互いに直角に立体交差している。また、両面側の双方の溝部10は、共に同一のピッチで互い平行の配置で形成されており、何れの溝部10も多孔性保護膜28および負極活物質層13の幅方向(長手方向に対し直交方向)の一端面から他端面に通じるように貫通している。なお、多孔性保護膜28および負極活物質層13の幅方向の一端面に溝部10の一方が通じていれば、もう一方は他端面に通じない溝部10でも構わない。なお、上記傾斜角度αは45°に限定されず、30°〜90°の範囲でもよい。この場合、両面塗工部14の両面に形成された溝部10は、互いに位相が対称になって立体交差している。
【0059】
次に、図6を用いて溝部10について詳細に説明する。図6は、図5のA−A線に沿って切断した拡大断面図で、溝部10の断面形状および配置パターンを示したものである。溝部10は、両面塗工部14の何れの面においても、170μmのピッチPで形成されている。また、溝部10は、断面形状がほぼ逆台形状に形成されている。本実施形態における溝部10は、深さDが8μmで、両側の溝部10の壁は、120°の角度βをもって傾斜し、底面と両側の溝部10の壁との境界である溝部10の底隅部は、30μmの曲率Rを有する円弧状の断面形状をなしている。
【0060】
溝部10のピッチPが小さい方が溝部10の形成数が多くなって溝部10の総断面積が大きくなり、電解液の注液性が向上する。これを検証するために、深さDが8μmで、ピッチPが80μm,170μmおよび260μmの溝部10を形成した3種類の負極板3を形成し、これらの負極板3を用いた3種類の電極群1を電池ケース7内に収容して電解液の注液時間を比較した。その結果、ピッチPが80μmの場合の注液時間は約20分、ピッチPが170μmの場合の注液時間は約23分、ピッチPが260μmの場合の注液時間は約30分となり、溝部10のピッチPが小さい程、電解液の電極群1への注液性が向上することが判明した。
【0061】
ところで、溝部10のピッチPを100μm未満に設定すると、電解液の注液性が向上する反面、多くの溝部10による負極活物質層13の圧縮箇所が多くなって、活物質の充填密度が高くなり過ぎるとともに、負極活物質層13の表面に溝部10の存在しない平面が少なくなり過ぎて、隣接する各二つの溝部10間が潰れ易い突条形状となってしまい、この突条形状の部分が搬送工程でのチャッキング時に潰れると、負極活物質層13の厚みが変化する不具合が生じる。
【0062】
一方、溝部10のピッチPが200μmを超える大きさに設定すると、集電用芯材12に延びが発生して負極活物質層13に大きなストレスがかかるとともに、活物質の集電用芯材12からの耐剥離強度が低下して活物質が脱落し易くなる。
【0063】
以下、溝部10のピッチPが大きくなった場合の耐剥離強度の低下について詳述する。
【0064】
同一の溝加工ローラ22,23間を負極板フープ材11が通過するときに、両面塗工部14の多孔性保護膜28および負極活物質層13に溝加工ローラ22,23の溝加工用突条22a,23aが食い込んで溝部10が同時に形成される際、溝加工用突条22a,23aによる荷重が同一位置で同時に受けることによって相殺される箇所は、溝加工用突条22a,23aが互いに立体交差する箇所、換言すれば、両面塗工部14の表面に形成される溝部10が互いに立体交差する部位のみであり、その他の箇所は、溝加工用突条22a,23aによる荷重を集電用芯材12のみで受けることになる。
【0065】
従って、両面塗工部14の溝部10を互いに直交するように形成する場合には、溝部10のピッチPが大きくなると、溝加工用突条22a,23aによる荷重を受けるスパンが長くなって集電用芯材12への負担が大きくなるため、集電用芯材12が延ばされてしまい、その結果、負極活物質層13内において活物質が剥離したり、活物質が集電用芯材12から剥離したりして、負極活物質層13の集電用芯材12に対する耐剥離強度が低下する。
【0066】
溝部10のピッチPが大きくなるのに伴って耐剥離強度が低下ことを検証するために、深さDが8μmの溝部10を、460μm,260μm,170μmおよび80μmのピッチPで形成した4種類の負極板3を形成して、これら負極板3の耐剥離試験を行ったところ、耐剥離強度は、ピッチPの大きい順に、約4N/m、約4.5N/m、約5N/mおよび約6N/mという結果となり、溝部10のピッチPが大きくなるに従って、耐剥離強度が低下して活物質が脱落し易くなることが実証された。
【0067】
さらに、溝部10を形成した後に、負極板3の断面の観察を行ったところ、260μmの長いピッチPで溝部10を形成した負極板3では、集電用芯材12の曲がりや活物質の一部が集電用芯材12から僅かに剥がれて浮いた状態になっていることが確認できた。
【0068】
以上のことから、溝部10のピッチPは、100μm以上で200μm以下の範囲内に設定するのが好ましい。
【0069】
溝部10は、両面塗工部14において互いに立体交差するように形成しているため、溝加工用突条22a,23aが多孔性保護膜28および負極活物質層13に食い込むときに、多孔性保護膜28および負極活物質層13に発生する歪みが互いに打ち消される利点がある。さらに、同一ピッチPで溝部10を形成する場合には、各溝部10の立体交差点における隣接する溝部10間の距離が最も短くなるため、集電用芯材12にかかる負担が小さくて済み、活物質の集電用芯材12からの耐剥離強度が高くなって活物質の脱落を効果的に防止することができる。
【0070】
また、溝部10は、両面塗工部14において互いに位相が対称となるパターンで形成されているため、溝部10を形成することにより発生する多孔性保護膜28および負極活物質層13の伸びは、両面側の各多孔性保護膜28および負極活物質層13に同等に発生し、溝部10を形成した後に歪みが残らない。
【0071】
さらに、両面塗工部14の両面に溝部10を形成したことにより、片面のみに溝部10を形成する場合に比較して、多くの電解液を均一に保持することができることから、長いサイクル寿命を確保することができる。
【0072】
続いて、図6を用いて溝部10の深さDについて説明する。電解液の電極群1への注液性と含浸性は、溝部10の深さDが大きくなるにしたがって向上する。これを検証するために、両面塗工部14の多孔性保護膜28および負極活物質層13に、ピッチPを170μmとして、深さDがそれぞれ3μm,8μmおよび25μmの溝部10を形成した3種類の負極板3を形成して、これら負極板3および正極板2をセパレータ4を介して巻回することにより3種類の電極群1を製作し、これら電極群1を電池ケース7内に収容して電解液が電極群1に浸透していく注液時間を比較した。その結果、溝部10の深さDが3μmの負極板3では注液時間が約45分、溝部10の深さDが8μmの負極板3では注液時間が約23分、溝部10の深さDが25μmの負極板3では注液時間が約15分となった。これにより、溝部10の深さDが大きくなるに従って電解液の電極群1への注液性が向上し、溝部10の深さDが4μm未満に小さくなると、電解液の注液性向上の効果は殆ど得られないことが判明した。
【0073】
一方、溝部10の深さDが大きくなると、電解液の注液性が向上するが、溝部10が形成された箇所の活物質が異常に圧縮されてしまうため、リチウムイオンが自由に移動できなくなって、リチウムイオンの受け入れ性が悪くなり、リチウム金属が析出し易くなるおそれが生じる。また、溝部10の深さDが大きくなれば、それに伴って負極板3の厚みが増加するとともに、負極板3の延びが増大するため、多孔性保護膜28および負極活物質層13が集電用芯材12から剥がれ易くなる。さらに、負極板3の厚みが増加すると、電極群1を形成する巻回工程において、多孔性保護膜28および負極活物質層13が集電用芯材12から剥離したり、電極群1を電池ケース7内に挿入する際に、負極板3の厚みの増加に伴って直径が大きくなった電極群1が電池ケース7の開口端面に擦れて挿入し難くなる等の生産トラブルが発生する。加えて、多孔性保護膜28および負極活物質層13が集電用芯材12から剥がれ易い状態になると、導電性が悪くなって電池特性が損なわれる。
【0074】
ところで、多孔性保護膜28および負極活物質層13の集電用芯材12からの耐剥離強度は、溝部10の深さDが大きくなるに従って低下していくと考えられる。すなわち、溝部10の深さDが大きくなるのに伴って、負極活物質層13の厚みが増大していくが、この厚みが増大することは集電用芯材12から活物質を剥がす方向に大きな力が作用するため、耐剥離強度が低下する。
【0075】
これを検証するために、ピッチPが170μmで、深さDが25μm,12μm,8μmおよび3μmの溝部10を形成した4種類の負極板3を形成して、これら負極板3の耐剥離試験を行ったところ、耐剥離強度は、深さDの大きい順に、約4N/m、約5N/m、約6N/mおよび約7N/mという結果となり、溝部10の深さDが大きくなるにしたがって耐剥離強度が低下していくことが実証された。
【0076】
以上のことから、溝部10の深さDについて、次のことが言える。すなわち、溝部10の深さDを4μm未満に設定した場合、電解液の注液性と含浸性が不十分となり、一方、溝部10の深さDを20μmを超える大きさに設定した場合、活物質の集電用芯材12からの耐剥離強度が低下するため、電池容量の低下や、脱落した活物質がセパレータ4を貫通して正極板2に接触して内部短絡が発生するおそれがある。従って、溝部10は、深さDを可及的に小さくして、形成数を多くすれば、不具合の発生を防止して良好な電解液の注液性が得られることになる。そのため、溝部10の深さDは、4μm以上で20μm以下の範囲内に設定する必要があり、好ましくは5〜15μmの範囲内、より好ましくは6〜10μmの範囲内に設定する。
【0077】
さらにこれを検証するために、深さDが8μmの溝部10を、170μmのピッチPで両面塗工部14の両面に形成した負極板3と、片面のみに溝部10を形成した負極板3と、両面とも溝部10を形成していない3種類の負極板3を形成して、これら負極板3を用いて構成した3種類の電極群1を電池ケース7内に収容した電池を複数個ずつ作製し、各電池に所定の液量の電解液を注液して真空引きした状態で含浸させた後、各電池を分解して負極板3への電解液の含浸状態を観察した。
【0078】
その結果、注液直後の時点において、溝部10を両面とも形成していない場合、負極板3に電解液が含浸していた面積は全体の60%に留まり、片面にのみに溝部10を形成した場合、溝部10が形成された面では、電解液が含浸していた面積は全体の100%であったが、溝部10が形成されていない面では、電解液が含浸していた面積は全体の80%程度であった。これに対して、溝部10を両面に形成した場合には、両面とも電解液が含浸していた面積は全体の100%であった。
【0079】
次に、注液完了後に、電解液が負極板3全体に含浸するまでの時間を把握するために、1時間経過毎に各電池を分解して観察した。その結果、両面に溝部10を形成した負極板3では、注液直後に電解液が両面共に100%含浸したのに対し、片面のみに溝部10を形成した負極板3では、溝部10が形成されていない面では2時間経過後に電解液が100%含浸された。また、両面とも溝部10を形成していない負極板3では、5時間経過後に電解液が両面共に100%含浸していたが、注液直後に含浸した箇所では電解液の含浸量が少なく、電解液が不均一な分布状態になっていた。このことから、溝部10の深さDが同じである場合、両面に溝部10を形成した負極板3は、片面のみに溝部10を形成した負極板3に比較して、電解液の含浸が完了するまでの時間が1/2程度に短縮できるとともに、電池としてのサイクル寿命が長くなることが確認できた。
【0080】
さらに、サイクル試験中の電池を分解し、片面のみに溝部10を形成した負極板3に対して電解液の分布を調べて、非水電解液の主成分であるEC(エチレンカーボネイト)が極板の単位面積当たりどのくらい抽出されたかで、サイクル寿命の検証を行った。その結果、サンプリング部位に拘らず、何れも溝部10が形成された面の方が、溝部10が形成されていない面よりもECが0.1〜0.15mg程度多く存在していた。すなわち、両面に溝部10を形成した場合には、極板の表面に最も多くECが存在し、電解液の偏在がなく均一に含浸されるが、溝部10を形成しなかった面では、電解液の液量が少なくなるために、内部抵抗が上昇し、サイクル寿命が短くなる。
【0081】
また、溝部10は、多孔性保護膜28および負極活物質層13の幅方向の一端面から他端面に通じる貫通形状に形成することにより、電解液の電極群1への注液性が格段に向上して、注液時間を大幅に短縮することができる。これに加えて、電解液の電極群1への含浸性が格段に向上したことで、電池としての充放電時に液枯れ現象の発生を効果的に抑制することができるとともに、電極群1での電解液の分布が不均一になるのを抑制することができる。また、溝部10を負極板3の長手方向に対し傾斜した角度で形成したことにより、電解液の電極群1への含浸性が向上するとともに、電極群1を形成する巻回工程におけるストレスの発生を抑制することができ、負極板3の極板切れを効果的に防止することができる。
【0082】
ここで正極板2について述べる。図3は負極板3と同様の工程で製作された正極フープ(図示せず)に、芯材露出部78の集電用芯材72に集電リード70を溶接により取り付けて、集電リード70を絶縁テープ71で被覆したのちに、両面塗工部74の中央部を所定の長さとしてカッターで切断し電極板構成部79毎に分離して、円筒形非水系二次電池の正極板2が出来上がる。
【0083】
上記負極板3と上記正極板2とをセパレータ4を介在させて矢印Y方向へ渦巻状に巻回することにより電極群1を構成する。
【0084】
正極板2を上記のように構成することによって、以下のような効果が得られる。
【0085】
正極板2の芯材露出部78が正極板2の中央部に位置することにより、芯材露出部78に取り付けられた集電リード70から正極活物質層73の芯材露出部78が設けられている箇所と対向する位置にある正極板2の端部への距離が、正極板2の端部に芯材露出部78が設けられているときよりも近くなるので、より効果的に集電することができるので、集電効果の向上が可能となる。
【0086】
次に、負極板3の両面塗工部14の表面に溝部10を形成する方法について、図7を参照しながら説明する。
【0087】
図7に示すように、一対の溝加工ローラ22,23を所定の間隙で配置し、この溝加工ローラ22,23間の間隙に、図2(a)に示した負極板フープ材11を通過させることにより、負極板フープ材11における両面塗工部14の両面側の多孔性保護膜28および負極活物質層13に、所定の形状の溝部10を形成することができる。
【0088】
溝加工ローラ22,23は、共に同一のものであって、軸芯方向に対し45°の捩じれ角となる方向に多数の溝加工用突条22a,23aを形成したものである。溝加工用突条22a,23aは、鉄製のローラ母体の表面全周に酸化クロムを溶射してコーティングしてセラミック層を形成した後、セラミック層にレーザを照射して所定のパターンになるように部分的に溶かすことにより、容易に、且つ、高精度に形成することができる。この溝加工ローラ22,23は、一般に印刷で使用されるセラミック製レーザ彫刻ローラと呼称されるものとほぼ同様のものである。このように溝加工ローラ22,23を酸化クロム製としたことにより、硬さはHV1150以上あり、かなり硬い材質であることから、摺動や磨耗に強く、鉄製ローラに比較して、数10倍以上の寿命を確保できる。
【0089】
このように、多数の溝加工用突条22a,23aが形成された溝加工ローラ22,23の間隙に負極板フープ材11を通過させれば、図5に示したように、負極板フープ材11の両面塗工部14の両面側の多孔性保護膜28および負極活物質層13に、互いに直角に立体交差する溝部10を形成することができる。
【0090】
なお、溝加工用突条22a,23aは、図6に示した断面形状を有する溝部10を形成することのできる断面形状、つまり先端部の角度βが120°で、曲率Rが30μmの円弧状となった断面形状を有している。先端部の角度βを120°に設定しているのは、120°未満の小さな角度に設定すると、セラミック層が破損し易くなるためである。また、溝加工用突条22a,23aの先端部の曲率Rを30μmに設定しているのは、溝加工用突条22a,23aを多孔性保護膜28および負極活物質層13に押し付けて溝部10を形成する際に、多孔性保護膜28および負極活物質層13にクラックが発生するのを防止するためである。また、溝加工用突条22a,23aの高さは、形成すべき溝部10の最も好ましい深さDが6〜10μmの範囲内であるから、20〜30μm程度に設定される。これは、溝加工用突条22a,23aの高さが低過ぎると、溝加工ローラ22,23の溝加工用突条22a,23aの周面が多孔性保護膜28に接触して、多孔性保護膜28および負極活物質層13から剥がれた物質が溝加工ローラ22,23の周面に付着するので、形成すべき溝部10の深さDよりも大きな高さに設定する必要があるためである。
【0091】
溝加工ローラ22,23の回転駆動は、サーボモータなどによる回転力が一方の溝加工ローラ22に伝達され、この溝加工ローラ23の回転が、溝加工ローラ22,23の各々のローラ軸にそれぞれ軸着されて互いに噛合する一対のギヤ24,27を介して他方の溝加工ローラ23に伝達され、溝加工ローラ22,23が同一の回転速度で回転するようになっている。
【0092】
ところで、多孔性保護膜28および負極活物質層13に溝加工ローラ22,23の溝加工用突条22a,23aを食い込ませて溝部10を形成する方法として、溝加工ローラ22,23間のギャップによって形成すべき溝部10の深さDを設定する定寸方式と、溝加工用突条22a,23aに対する加圧力と形成される溝部10の深さDとに相関があることを利用して、回転駆動力が伝達される溝加工ローラ23を固定とし、且つ、上下動可能に設けた溝加工ローラ22に付与する加圧力を調整して形成すべき溝部10の深さDを設定する定圧方式とがあるが、本発明における溝部形成には、定圧方式を用いることが好ましい。
【0093】
その理由は、定寸方式の場合、溝部10の深さDを決定するための溝加工ローラ22,23間の隙間を1μm単位で精密に設定するのが困難であるのに加えて、溝加工ローラ22,23の芯振れがそのまま溝部10の深さDに現れてしまう。これに対し、定圧方式の場合は、負極活物質層13における活物質の充填密度に若干左右されるものの、両面塗工部14の厚みのバラツキに対して溝加工ローラ22を押圧する圧力(例えば、エアーシリンダのエアー圧力)を常に一定となるように自動的に可変調節することで容易に対応でき、これにより、所定の深さDを有する溝部10を再現性よく形成することができるからである。
【0094】
ただし、定圧方式で溝部10を形成する場合には、負極板フープ材11における片面塗工部17の多孔性保護膜28および負極活物質層13に対し、溝部10を形成することなく負極板フープ材11が溝加工ローラ22,23の隙間を通過できるようにする必要がある。これに対しては、溝加工ローラ22,23間にストッパを設けて、溝加工ローラ22を片面塗工部17に対して非押圧状態に保持することで対応することができる。ここで、「非押圧状態」とは、片面塗工部17に溝部10を形成しない程度に当接した状態(非接触状態も含む)をいう。
【0095】
また、薄い負極板3の場合には、両面塗工部14の厚みが200μm程度しかなく、このような薄い厚みの両面塗工部14に深さDが8μmの溝部10を形成するに際しては、溝部形成の加工精度を上げる必要がある。そこで、溝加工ローラ22,23の軸受け部は、ベアリングが回転するために必要な隙間だけとし、ローラ軸とベアリング間は、隙間が存在しない嵌め合い形態とし、そのベアリングとそのベアリングを保持するベアリングホルダとの間も隙間が存在しない嵌め合い形態に構成するのが好ましい。これにより、溝加工ローラ22,23は、ガタツキを生じることなく各々の間隙に負極板フープ材11を通過させることができるから、負極板フープ材11を、両面塗工部14の両面側の各負極活物質層13に溝部10を高精度に形成しながらも、片面塗工部17には溝部10を形成することなく、各々の間隙をスムーズに通過させることができる。
【0096】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。例えば、本実施形態では、電極群1として、正極板2および負極板3をセパレータ4を介して巻回された構成のものを用いたが、正極板2および負極板3をセパレータ4を介してつづら折りに積層して構成した電極群1についても、同様の効果を得ることができる。
【0097】
次に以下、本発明の実施例に関わる電池用電極群とそれを用いた円筒形の非水系二次電池の製造方法およびその製造装置について図を参照しながら詳細に説明する。
【0098】
なお本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0099】
負極活物質として、人造黒鉛を100重量部、結着材としてスチレンーブタジェン共重合体ゴム粒子分散体(固形分40重量%)を活物質100重量部に対して2.5重量部(結着材の固形分換算で1重量部)、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを活物質100重量部に対して1重量部、および適量の水とともに練合機で攪拌して、負極合剤ペーストを作製した。この負極合剤ペーストを、厚さが10μmの銅箔からなる集電用芯材12に塗布乾燥し、総厚が約200μmとなるようにプレスしたのち、粒子径が約1.2μm程度のアルミナ材に少量の結着材を加えて混練したものを、ローラ方式の間欠塗工装置を用いて、負極活物質層13の表面に約5μmの厚さに塗工し、乾燥することにより多孔性保護膜28を形成した。その後、スリッタ機で公称容量2550mAhの直径18mmで高さが65mmの円筒形リチウム二次電池の負極板3の幅である約60mm幅に切断して、負極板フープ材11を作製した。
【0100】
次に、溝加工ローラ22,23として、ローラ外径が100mmのローラ本体のセラミック製の外周面に、先端角が120°で、高さHが25μmの溝加工用突条22a,23aを、円周方向に対する捩じれ角が45°となる配置で170μmのピッチで形成したものを用いた。この溝加工ローラ22,23間に負極板フープ材11を通過させて、負極板フープ材11の両面塗工部14の両面に溝部10を形成した。溝加工ローラ22,23のローラ軸に固着されたギヤ27,24を噛合させて、溝加工ローラ23をサーボモータで回転駆動することにより、溝加工ローラ22,23を同一の回転速度で回転するようにした。
【0101】
溝加工ローラ22は、エアーシリンダで加圧されており、このエアーシリンダのエアー圧力を調整して形成する溝部10の深さDを調整した。この際、溝加工ローラ22,23の最小隙間として設定した100μmを越えて溝加工ローラ22が溝加工ローラ23に近接するのをストッパで阻止して、片面塗工部17に溝部10が形成されないようにした。ストッパの調整は溝加工ローラ22,23間の隙間が100μmになるように設定した。
【0102】
また、溝加工ローラ22への加圧力は、溝部10の深さDが8μmとなるように、エアーシリンダのエアー圧力を、負極板フープ材11の幅方向1cm当たり30kgfになるように調整した。また、溝加工ローラ22,23間の隙間を負極板フープ材11が移送する速度を毎分5mとした。以上のような構成を用いて負極板フープ材11の両面塗工部14の両面に溝部10を形成し、負極活物質層13の溝部10の深さDを輪郭測定器で測定したところ平均8.5μmであり、片面塗工部17の負極活物質層13には溝部10が形成されていないのを確認した。また、レーザ顕微鏡を用いて負極活物質層13のクラックの発生の有無を確認したが、クラックは全く見られなかった。なお、負極板3の厚みの増加は約0.5μmで、1セル当たりの長手方向の延びは約0.1%であった。
【0103】
正極活物質として、組成式LiNiCo0.1A10.05で代表されるリチウムニッケル複合酸化物を用いた。NiSO水溶液に、所定の比率のCoおよびAlの硫酸を加え、飽和水溶液を調製した。この飽和水溶液を攪拌しながら水酸化ナトリウムを溶解したアルカリ溶液をゆっくり滴下して、中和することによって3元系の水酸化ニッケルNi0.8Co0.15Al0.05(OH)を沈殿により生成させた。この沈殿物を濾過・水洗し、80℃で乾燥を行った。得られた水酸化ニッケルは平均粒系が約10μmであった。
【0104】
そして、Ni,Co,Alの原子数の和とLiの原子数の比が1:1.03になるように水酸化リチウム水和物を加え、800℃の酸素雰囲気中で10時間の熱処理を行うことにより、目的とするLiNi0.8Co0.15Al0.05を得た。得られたリチウムニッケル複合酸化物は、粉末X線回折により単一相の六方晶相状構造であるとともに、CoおよびAlが固溶していることを確認した。そして、粉砕、分級の処理を経て正極活物質粉末とした。
【0105】
活物質100質量部に導電材としてのアセチレンブラックを5質量部を加えて、この混合部にN−メチルピロリドン(NMP)の溶剤に結着材としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)を溶解した溶液を混練してペースト状とした。なお、加えたPVdF量は活物質100質量部に対して5質量部となるように調製した。このペーストを、15μmのアルミニウム箔からなる集電用芯材72の両面に塗工して、乾燥後に圧延して厚みが約200μmで幅が約60mmの正極板フープ材を製作した。
【0106】
次に、両極板フープ材を乾燥して余分な水分を取り除いた後に、ドライエアールームで両極板フープ材を、厚さが約30μmのポリエチレン微多孔フィルムからなるセパレータ4と重ね合わせた状態で巻回して電極群1を構成した。両極板フープ材のうち負極板フープ材11は、両面塗工部14と片面塗工部17との中間にある芯材露出部18を切断したが、溝加工ローラ22,23を片面塗工部17の負極活物質層13に溝部10が形成されないように設定したことにより、切断後の芯材露出部18および片面塗工部17には湾曲状の変形が発生せず、巻回機での稼働低下が生じなかった。なお、集電リード20は、巻回機に備えている溶接部を用いて負極板フープ材11の状態で巻回前に取り付けた。
【0107】
なお、比較例として、溝加工ローラ30を溝加工用突条を有しないフラットローラに交換して、溝加工ローラ31と溝加工ローラ30との隙間を100μmに設定し、負極板3の幅1cm当たり31kgの荷重がかかるように調整して、両面塗工部14における一方側の負極活物質層13のみに深さDが約8μmの溝部10を形成し、負極板(比較例1)を作製した。また、両面塗工部14の両面側の負極活物質層13の双方に溝部を形成しない負極板(比較例2)を作製した。
【0108】
このようにして作製した電極群1を電池ケース7に収容したのちに、電解液を注液して注液性の検証を行った。
【0109】
電解液の注液性の評価を行うに際して、約5gの電解液を電池ケース7に供給し、真空に引いて含浸させる注液方式を採用した。なお、電解液を数回に分けて電池ケース7内に供給しても構わない。
【0110】
所定量の電解液を注液したのち、真空ブースに入れて真空引きすることにより電極群1の中の空気を排出し、続いて真空ブース内を大気に導き、電池ケース7内と大気との差圧によって電解液を電極群1中に強制的に注液するようにした。真空引きは、真空度が−85kpaで、真空吸引を行った。この工程の注液時の注液時間を測定して、注液性を比較するための注液時間のデータとした。
【0111】
実際の電池の製造工程では、複数セルの電池ケース7に同時に電解液を供給し、−85kpaの真空度で一挙に真空引きして脱気したのち、大気に開放して電解液を電極群中に強制的に浸透させる工程を行い、電解液の注液を終了させる方式を採用した。注液完了の見極めは、電池ケース7を真上から覗き込んで電極群の上から電解液が完全に無くなったことで判断するが、複数セルに対して同時に注液し、平均値の注液時間を生産に使えるデータとする。検証結果は、表1の通りである。
【0112】
【表1】

【0113】
表1の結果から明らかなように、多孔性保護膜28の表面から負極活物質層13の表面に及んだ約8μmの溝部10を形成した負極板3を用いた電極群1の場合には、注液時間が22分17秒であり、多孔性保護膜28のみで溝部10が無い負極板3を用いた電極群1の場合には、注液時間が69分13秒となった。この結果から、両面塗工部14の両面側の負極活物質層13に溝部10を形成した負極板(実施例1)では、両面側の負極活物質層13のいずれにも溝部10を形成していない負極板(比較例2)と比較して、電解液の注液性が大幅に向上することが判明した。
【0114】
また、両面塗工部14の一方の負極活物質層13のみの片面塗工部17の領域に至るまで溝部10を形成した負極板(比較例1)では、巻回時に巻きずれが発生し、片面塗工部17において、負極活物質層13からの負極活物質の脱落が見られた。そのため、注液検証を途中で中止した。これは、負極板フープ材11の両面塗工部14に隣接する芯材露出部18を切断した際、片面塗工部17に溝部10を加工時に発生した内部応力が発散することで、図9のように湾曲したため、巻回時に極板の変形か原因で巻きずれを起こし、また、極板搬送時にチャック等で確実な状態で掴むことが出来なかったため、負極活物質の脱落が発生した。なお、巻きずれと負極活物質の脱落があった負極板(比較例1)を注液した場合、注液時間は30分であった。
【0115】
また、試験用の電池の試作においても所定量の電解液を注液し、真空引きしたのちに大気に開放する工程を経て電解液を電極群中に注液する方式を採用した。このとき、実施例のものは、注液時間が短縮されたために、注液中での電解液の蒸発が低減でき、注液性向上により注液時間も大幅に短縮されることから、電解液の蒸発量を最小限に抑制して、電池ケースの開口部を封口部材で密閉状態にできる。このことは、電解液の注液性や含浸性が向上することに伴って大幅な電解液のロスを減らすことが可能になったことを示している。
【0116】
さらに、多孔性保護膜28の表面に溝部10を設けた負極板3を用いて構成された電極群1を、電池ケース7に収容し、EC(エチレンカーボネート)、DMC(ジメチルカーボネート、MEC(メチルエチルカーボネート)混合溶媒に、1MのLiPFと、3重量部のVC(ビニレンカーボネート)と溶解させた電解液を、約5g注液した後、電池ケース7を封口して、公称容量2550mAh、公称電圧3.7V、電池直径18mm、高さ65mmの円筒形リチウム電池を作製した。
【0117】
作製した電池に対して、クラッシュ試験、釘刺し試験および外部短絡試験を行ったところ、発熱や膨張が無いことを確認した。また、過充電試験では、漏空き、発熱および発煙が無いことを確認した。さらに、150℃加熱試験においても、膨張、発熱および発煙が無いことを確認した。これにより、多孔性保護膜28に溝加工を施したにもかかわらず、アルミナ材の多孔性保護膜28が有効に作用して熱暴走しないことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明の電池用電極群は、電解液の含浸性に優れ、且つ、内部短絡の発生を抑制した生産性および信頼性の高いもので、この電極群を用いて構成された円筒形の非水系二次電池は、携帯用電子機器や通信機器などの駆動電源等に有用である。
【符号の説明】
【0119】
1 電極群
2 正極板
3 負極板
4 セパレータ
7 電池ケース
8 ガスケット
9 封口板
10 溝部
11 負極板フープ材
12 集電用芯材
13 負極活物質層
14 両面塗工部
17 片面塗工部
18 芯材露出部
19 極板構成部
20 集電リード
21 絶縁テープ
22,23 溝加工ローラ
22a,23a 溝加工用突条
24,27 ギヤ
28 多孔性保護膜
70 集電リード
71 絶縁テープ
72 集電用芯材
73 正極活物質層
74 両面塗工部
78 芯材露出部
79 極板構成部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極板および負極板がセパレータを介して巻回されてなる非水系電池用電極群であって、
前記正極板は、
正極の集電用芯材の両面に正極活物質層が形成された両面塗工部と、
前記正極の集電用芯材の長手方向における中央部であって、前記正極活物質層が形成されていない芯材露出部と
を有し、
前記正極板の前記芯材露出部には、正極の集電リードが接続されており、
前記負極板は、
負極の集電用芯材の両面に負極活物質層および多孔性保護膜が形成された両面塗工部と、
前記負極の集電用芯材の端部であって、前記負極活物質層および多孔性保護膜が形成されていない芯材露出部と、
前記両面塗工部と前記芯材露出部との間であって、前記負極の集電用芯材の片面にのみ前記負極活物質層および多孔性保護膜が形成された片面塗工部と
を有し、
前記負極板の前記両面塗工部の両面に複数の溝部が形成され、かつ、前記負極板の前記片面塗工部には溝部が形成されておらず、
前記溝部は、前記多孔性保護膜の表面から前記活物質層の表面に及んで該活物質層表面にも形成され、かつ、前記多孔性保護膜の膜厚は、前記溝部の深さよりも小さく、
前記負極板の前記芯材露出部には、負極の集電リードが接続されており、
前記負極板の前記芯材露出部を巻き終端として前記負極板が巻回されていることを特徴とする非水系電池用電極群。
【請求項2】
前記多孔性保護膜は、無機酸化物を主成分とする材料からなることを特徴とする請求項1に記載の非水系電池用電極群。
【請求項3】
前記多孔性保護膜の主成分である無機酸化物は、アルミナおよび/またはシリカを主成分とすることを特徴とする請求項2に記載の非水系電池用電極群。
【請求項4】
前記両面塗工部の両面に形成された溝部は、位相が対称になっていることを特徴とする請求項1に記載の非水系電池用電極群。
【請求項5】
前記負極板の両面塗工部の両面に形成された溝部の深さは、4μm〜20μmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の非水系電池用電極群。
【請求項6】
前記負極板の両面塗工部の両面に形成された溝部は、前記負極板の長手方向に沿って、100μm〜200μmのピッチで形成したことを特徴とする請求項1に記載の非水系電池用電極群。
【請求項7】
前記負極板の両面塗工部の両面に形成された溝部は、前記負極板の幅方向に対して、一端面から他端面に貫通して形成されていることを特徴とする請求項1に記載の非水系電池用電極群。
【請求項8】
前記負極板の両面塗工部の両面に形成された溝部は、前記負極板の長手方向に対して、互いに異なる方向に45°の角度に傾斜して形成され、且つ、互いに直角に立体交差していることを特徴とする請求項1に記載の非水系電池用電極群。
【請求項9】
前記負極の集電リードと前記負極板の片面塗工部における前記活物質層および多孔性保護膜とは、前記集電用芯材に対して互いに反対側に位置していることを特徴とする請求項1に記載の非水系電池用電極群。
【請求項10】
請求項1に記載の非水系電池用電極群を製造する方法であって、
前記セパレータを介して前記正極板および前記負極板を捲回する工程を備え、
前記正極板と前記負極板とを捲回する工程では、前記負極板の前記芯材露出部を巻き終端として前記負極板を捲回することを特徴とする非水系電池用電極群の製造方法。
【請求項11】
電池ケース内に、請求項1に記載の前記電極群が収容されるとともに、所定量の非水電解液が注液され、かつ、前記電池ケースの開口部が密閉状態に封口されていることを特徴とする円筒形非水系二次電池。
【請求項12】
請求項11に記載の円筒形非水系二次電池の製造方法であって、
請求項9に記載の方法に従って前記電極群を作製する工程と、
前記電池ケース内に前記電極群および前記非水電解液を収容して、前記電池ケースを封口する工程とを備えていることを特徴とする円筒形非水系二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−186741(P2010−186741A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259090(P2009−259090)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【特許番号】特許第4527191号(P4527191)
【特許公報発行日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】