説明

非水系電解液電池

【課題】 サイクル・保存等の耐久特性や負荷特性が改善された非水系電解液電池を提供すること。
【解決手段】 リチウム塩とこれを溶解する非水系溶媒を含有してなる非水系電解液と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極、並びに正極を備えた非水系電解液電池であって、該正極が、特定のリチウム遷移金属系化合物粉体を含み、電解液が、特定の化合物を含有することを特徴とする、非水系電解液電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解液二次電池に関し、詳しくは、電解質として三重結合を有する特定の環状化合物を含有する非水系電解液電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン等のいわゆる携帯電子機器用電源から自動車用等の駆動用車載電源や定置用大型電源等に至るまでの広範な電源としてリチウム二次電池等の非水系電解液二次電池が実用化されつつある。しかしながら、近年の電子機器の高性能化や駆動用車載電源や定置用大型電源への適用等に伴い、適用される二次電池への要求はますます高まり、二次電池の電池特性の高性能化、例えば高容量化、高温保存特性、サイクル特性等の向上を高い水準で達成することが求められている。
【0003】
非水系電解液リチウム二次電池に用いる電解液は、通常、主として電解質と非水溶媒とから構成されている。非水溶媒の主成分としては、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネート等の環状カーボネート;ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネート;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステルなどが用いられている。
【0004】
また、これらの非水系電解液を用いた電池の負荷特性、サイクル特性、保存特性、低温特性等の電池特性を改良するために、種々の非水溶媒や電解質、助剤等も提案されている。例えば、負極に炭素材料を用いた非水電解質において、ビニレンカーボネート及びその誘電体や、ビニルエチレンカーボネート誘導体を使用することにより、二重結合を有する環状カーボネートが負極と優先的に反応して負極表面に良質の被膜を形成し、これにより電池の保存特性とサイクル特性が向上することが特許文献1および2に開示されている。
また、特許文献3には、コバルトの比率を低減したリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物が、正極材料として低コストでありながら、種々の電池特性バランスに優れることが記載されている。また、特許文献4には、リチウムニッケルコバルト系複合酸化物が、正極材料としてエネルギー密度に優れることが記載されている。しかし、これらの正極活物質は組成中におけるニッケル成分の割合が高いために活物質のアルカリ度が高く、電解液と副反応を起こし易いためにガス発生が多いという課題を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−45545号公報
【特許文献2】特開平4−87156号公報
【特許文献3】特開2006−253119号広報
【特許文献4】特開2010−40383号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように近年の二次電池の高性能化への要求が高まる中ではリチウム二次電池の特性の向上、すなわち、高容量化、高温保存特性、サイクル特性等の向上が求められている。このような背景の下、特許文献1、2に記載されている電解液を用いた非水電解液電池では、充電状態の電池を高温で放置したり、連続充放電サイクルを行うと、正極上で不飽和環状カーボネートまたはその誘導体が酸化分解して炭酸ガスを発生するという問題があった。このような使用環境下で炭酸ガスが発生すると、例えば、電池の安全弁が作動したり、電池が膨張する等により電池自体が使用不能になる場合がある。
【0007】
また、正極上での不飽和環状カーボネートの酸化分解は、炭酸ガスの発生以外にも固体状の分解物の生成という問題も生じる。このような固形分解物の生成は、電極層やセパレータの目詰まりを引き起こしてリチウムイオンの移動を阻害したり、あるいは電極活物質表面に残存してリチウムイオンの挿入脱離反応を阻害する場合がある。このような条件下では、例えば、連続充放電サイクル時に充放電容量が徐々に低下したり、電池の高温保存または連続充放電サイクル後に充放電容量が初期に比べて低下する、あるいは負荷特性が低下する場合がある。
【0008】
また、これらの正極上での不飽和環状カーボネートの酸化分解は、近年の高性能な二次電池設計の下では特に深刻な問題となる。すなわち、この酸化分解は、正極活物質がリチウムを挿入脱離する電位がリチウムの酸化還元電位が上昇すると顕著になる傾向にある。例えば、現在市販されている満充電時の電池電圧を4.2Vの電池よりも高電圧で動作させようとすると、これらの酸化反応は特に顕著に引き起こされる。
【0009】
また、非水系電解液電池を高容量化する別法として限られた電池体積の中にできるだけ多くの活物質を詰めることが検討されているが、このように電極の活物質層を加圧して高密度化したり、電池内部に占める活物質以外の体積を極力少なくするよう設計された電池では、電池内部の空隙は減少し、酸化分解による少量のガス発生によっても電池内圧は顕著に上昇して、安全弁の作動や電池の膨張等により電池自体が使用不能になる場合がある。
【0010】
そこで、本発明は、近年の二次電池に要求性能に対して発現する上記の種々の問題を解消し、特に、サイクル・保存等の耐久特性や負荷特性が改善された非水系電解液電池を提供すること、および、この非水系電解液電池に好適な非水系電解液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、非水系電解液電池に使用する非水系電解液中に、下記一般式(1)で表される化合物よりなる群の中から少なくとも一種以上を含有することにより、サイクル・保存等の耐久特性や負荷特性が改善された非水系電解液電池が実現できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明の要旨は以下の通りである。
【0012】
(1)リチウム塩とこれを溶解する非水系溶媒を含有してなる非水系電解液と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極、並びに正極を備えた非水系電解液電池であって、該正極が、以下の(A)で表される条件のリチウム遷移金属系化合物粉体を含み、電解液が、下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする、非水系電解液電池。
(A)層状構造に帰属する結晶構造を含んで構成され、組成が下記組成式(I)で示されるリチウム遷移金属系化合物粉体。
LixNiM1M21-y-z 2-δ (I)
〔式(I)中、xは、1≦x≦1.3であり、yは、0.4≦y≦0.9であり、zは、0≦z≦0.6、0≦1−y−z≦0.3であり、M1は、Co及び/またはMnを示し、M2は、Fe、Cr、V、Ti、Cu、Ga、Bi、Sn、B、P、Zn、Mg、Ge、Nb、W、Ta、Be、Al、Ca、Sc及びZrから選択される少なくとも一種の元素を示し、δは、−0.1≦δ≦0.1の数を表す。〕
【0013】
【化1】

【0014】
(式中、XとZはCR、C=O、C=N−R、C=P−R、O、S、N−R、P−Rを表し、同一でも異なっていても良い。YはCR、C=O、S=O、S(=O)、P(=O)―R、P(=O)−ORを表す。式中、R及びRは水素、ハロゲン、または、官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基であり、互いに同一であっても異なっていても良い。Rは官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基である。Rは、Li、NRまたは、官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基である。Rは官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基であり、互いに同一であっても異なっていても良い。nおよびmは0以上の整数を表す。また隣接する環内の炭素が互いにさらなる結合を作り、当該炭素のRが各ひとつずつ減っていても良い。Wは上記Rをあらわす。)
(2)(I)式中、xが1<x≦1.2であることを特徴とする(1)に記載の非水系電解液電池。
(3)上記一般式(1)で表される化合物が、(2)式で表される化合物であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の非水系電解液電池。
【0015】
【化2】

【0016】
(YはC=O、S=O、S(=O)、P(=O)―R、P(=O)−ORを表す。Rは官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基である。Rは、Li、NRまたは、官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基である。Rは官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基であり、互いに同一であっても異なっていても良い。)
(4)一般式(1)であらわされる化合物の配合量が、非水系電解液100質量%中、0.001質量%以上、5質量%以下であることを特徴とする、(1)ないし(3)の何れか1項に記載の非水系電解液電池。
(5)上記非水系電解液が、二重結合を有する環状カーボネート及びフッ素原子を有する環状カーボネートから選ばれる群の中から少なくとも一種以上を含有することを特徴とする、(1)ないし(4)の何れか1項に記載の非水系電解液電池。
(6)上記リチウム遷移金属系化合物粉体のBET比表面積が0.5m/g以上、3m/g以下であることを特徴とする(1)ないし(5)のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
(7)上記リチウム遷移金属系化合物粉体のメジアン径は2μm以上、20μm以下であることを特徴とする(1)ないし(6)のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
(8)上記正極の極板密度が2g/cm以上であることを特徴とする(1)ないし(7)のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
(9)(1)ないし(8)の何れか1項に記載の非水系電解液電池に使用される非水系電解液。
【0017】
本発明は、三重結合が他の官能基やヘテロ元素を介することなく、単結合にて環構造に結合した化合物を非水系電解液電池に使用することを特徴の一つとしている。通常、特許文献1〜2に代表されるように、電極表面を保護して保存特性やサイクル特性等の電池耐久性を向上させる材料の多くは環状構造の化合物であり、更に多重結合性部位を有している。本発明者等はこの点に着目し、環構造中の官能基やヘテロ元素の結合部位、多重結合が環構造に結合する部位、および多重結合部分の電子軌道の混成状態について詳細に検討を行ったところ、例えば、環状化合物を構成する環骨格の一部が二重結合である化合物よりも、二重結合が環構造に結合をされている化合物の方が正極との安定性に優れること、加えて、三重結合性の置換基が環構造に結合している方が、二重結合よりも耐久特性に優れた効果が得られ、上記の課題が解決できる知見を得た。また本発明者等は、特に、本発明の効果は、負極、正極、セパレーターなどの電池構成部材との組み合わせにより、より効果を発現することを見出した。一例としては、本願発明のように層状構造に帰属する結晶構造を含んで構成され、組成が下記組成式(I)で示されるリチウム遷移金属系化合物粉体との組み合わせにより、より効果を発現することも見出した。
【0018】
〈本発明が効果を奏する理由〉
本発明の非水系電解液電池が、効果を奏する理由は、未だ定かではないが、以下のように推察される。
つまり、本発明で規定する電解液に含有される一般式(1)で表される化合物の三重結合の部位が、組成式(I)で表されるリチウム遷移金属系化合物表面におけるダングリングボンドなどの活性点と結合して活性を失わせ、電解液との副反応を抑制するために、高温保存特性が向上しているものと推察される。
すなわち、このように、本発明を用いることで、特に高電圧化や高容量化されたリチウム二次電池設計において電池の負荷特性や、サイクル・保存等の耐久特性が改善された非水系電解液電池および該非水系電解液に使用される非水系電解液が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではなく、任意に変形して実施することができる。
1.非水系電解液
1−1.電解質
<リチウム塩>
電解質としては、通常、リチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、この用途に用いることが知られているものであれば特に制限がなく、任意のものを用いることができ、具体的には以下のものが挙げられる。
【0020】
例えば、LiPF、LiBF、LiClO、LiAlF、LiSbF、LiTaF、LiWF等の無機リチウム塩;
LiPOF、LiPO等のフルオロリン酸リチウム類;
LiWOF等のタングステン酸リチウム類;
HCOLi、CHCOLi、CHFCOLi、CHFCOLi、CFCOLi、CFCHCOLi、CFCFCOLi、CFCFCFCOLi、CFCFCFCFCOLi等のカルボン酸リチウム塩類;
FSOLi、CHSOLi、CHFSOLi、CHFSOLi、CFSOLi、CFCFSOLi、CFCFCFSOLi、CFCFCFCFSOLi等のスルホン酸リチウム塩類;
LiN(FCO)、LiN(FCO)(FSO)、LiN(FSO、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiN(CFSO)(CSO)等のリチウムイミド塩類;
LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO等のリチウムメチド塩類;
リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート等のリチウムオキサラトボレート塩類;
リチウムテトラフルオロオキサラトフォスフェート、リチウムジフルオロビス(オキサラト)フォスフェート、リチウムトリス(オキサラト)フォスフェート等のリチウムオキサラトフォスフェート塩類;
その他、LiPF(CF、LiPF(C、LiPF(CFSO、LiPF(CSO、LiBFCF、LiBF、LiBF、LiBF(CF、LiBF(C、LiBF(CFSO、LiBF(CSO等の含フッ素有機リチウム塩類;等が挙げられる。
【0021】
中でも、LiPF、LiBF、LiSbF、LiTaF、LiPO、FSOLi、CFSOLi、LiN(FSO、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO、リチウムビスオキサラトボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビスオキサラトフォスフェート、LiBFCF、LiBF、LiPF(CF、LiPF(C等が出力特性やハイレート充放電特性、高温保存特性、サイクル特性等を向上させる効果がある点から特に好ましい。
【0022】
これらのリチウム塩は単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合の好ましい一例は、LiPF6とLiBF4や、LiPFとFSOLi、LiPFとLiPO等の併用であり、負荷特性やサイクル特性を向上させる効果がある。これらの中では、LiPFとFSOLi、LiPFとLiPOの併用がその効果が顕著である理由から好ましく、その中でもLiPFとLiPOの併用が微量の添加で著しい効果が発現する為に特に好ましい。
【0023】
LiPF6とLiBF4、LiPFとFSOLiを併用する場合、非水系電解液全体100重量%に対するLiBF4或いはFSOLiの濃度は配合量に制限は無く、本発
明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の非水系電解液に対して、通常、0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上であり、一方その上限は通常30重量%以下、好ましくは20重量%以下である。一方、LiPFとLiPOの併用の場合においても非水系電解液全体100重量%に対するLiPOの濃度は配合量に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、本発明の非水系電解液に対して、通常0.001重量%以上、好ましくは0.01重量%以上であり、一方その上限は、通常10重量%以下、好ましくは5重量%以下である。この範囲であれば、出力特性、負荷特性、低温特性、サイクル特性、高温特性等の効果が向上する。一方で多すぎる場合は、低温において析出して電池特性を低下させる場合があり、少なすぎる場合は、
低温特性やサイクル特性、高温保存特性等の向上効果が低下する場合がある。
【0024】
ここで、LiPOを電解液中に含有させる場合の電解液の調製は、別途公知の手法で合成したLiPOをLiPFを含む電解液に添加する方法や後述する活物質や極板等の電池構成要素中に水を共存させておき、LiPFを含む電解液を用いて電池を組み立てる際に系中でLiPOを発生させる方法が挙げられ、本発明においてはいずれの手法を用いても良い。
【0025】
上記の非水系電解液、および非水系電解液電池中におけるLiPOの含有量を測定する手法としては、特に制限がなく、公知の手法であれば任意に用いることができるが、具体的にはイオンクロマトグラフィーや、F核磁気共鳴分光法(以下、NMRと省略する場合がある)等が挙げられる。
また、他の一例は、無機リチウム塩と有機リチウム塩との併用であり、この両者の併用は、高温保存による劣化を抑制する効果がある。有機リチウム塩としては、CFSOLi、LiN(FSO、LiN(FSO)(CFSO)、LiN(CFSO、LiN(CSO、リチウム環状1,2−パーフルオロエタンジスルホニルイミド、リチウム環状1,3−パーフルオロプロパンジスルホニルイミド、LiC(FSO、LiC(CFSO、LiC(CSO、リチウムビスオキサラトボレート、リチウムジフルオロオキサラトボレート、リチウムテトラフルオロオキサラトホスフェート、リチウムジフルオロビスオキサラトフォスフェート、LiBFCF、LiBF、LiPF(CF、LiPF(C等であるのが好ましい。この場合には、非水系電解液全体100重量%に対する有機リチウム塩の割合は、好ましくは0.1重量%以上、特に好ましくは0.5重量%以上、好ましくは30重量%以下、特に好ましくは20重量%以下である。
【0026】
非水系電解液中のこれらのリチウム塩の濃度は、本発明の効果を損なわない限り、その含有量は特に制限されないが、電解液の電気伝導率を良好な範囲とし、良好な電池性能を確保する点から、非水系電解液中のリチウムの総モル濃度は、好ましくは0.3mol/L以上、より好ましくは0.4mol/L以上、さらに好ましくは0.5mol/L以上であり、また、好ましくは3mol/L以下、より好ましくは2.5mol/L以下、さらに好ましくは2.0mol/L以下である。この範囲であれば、低温特性、サイクル特性、高温特性等の効果が向上する。一方でリチウムの総モル濃度が低すぎると、電解液の電気伝導率が不十分の場合があり、一方、濃度が高すぎると、粘度上昇のため電気伝導度が低下する場合があり、電池性能が低下する場合がある。
【0027】
1−2.溶媒
非水溶媒としては、飽和環状カーボネート、フッ素原子を有する環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状及び鎖状カルボン酸エステル、エーテル化合物、スルホン系化合物等を使用することが可能である。
<飽和環状カーボネート>
飽和環状カーボネートとしては、炭素数2〜4のアルキレン基を有するものが挙げられる。
【0028】
具体的には、炭素数2〜4の飽和環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。中でも、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートがリチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から特に好ましい。
飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0029】
飽和環状カーボネートの配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、1種を単独で用いる場合の配合量の下限は、非水溶媒100体積%中、5体積%以上、より好ましくは10体積%以上である。この範囲とすることで、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性、負極に対する安定性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなる。また上限は、95体積%以下、より好ましくは90体積%以下、さらに好ましくは85体積%以下である。この範囲とすることで、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水系電解液二次電池の負荷特性を良好な範囲としやすくなる。
【0030】
また、飽和環状カーボネートの2種以上を任意の組み合わせで用いる場合の好ましい組合せの一つは、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートに組み合わせである。この場合のエチレンカーボネートとプロピレンカーボネートの容量比は、99:1〜40:60が好ましく、特に好ましくは95:5〜50:50である。更に、非水溶媒全体に占めるプロピレンカーボネートの量を、0.1容量%以上、好ましくは1容量%以上、より好ましくは2容量%以上、また上限は、通常20容量%以下、好ましくは8容量%以下、より好ましくは5容量%以下である。この範囲でプロピレンカーボネートを含有すると、エチレンカーボネートとジアルキルカーボネート類との組み合わせの特性を維持したまま、更に低温特性が優れるので好ましい。
【0031】
<フッ素原子を有する環状カーボネート>
フッ素原子を有する環状カーボネート(以下、「フッ素化環状カーボネート」と略記する場合がある)としては、フッ素原子を有する環状カーボネートであれば、特に制限はない。
フッ素化環状カーボネートとしては、炭素原子数2〜6のアルキレン基を有する環状カーボネートの誘導体が挙げられ、例えばエチレンカーボネート誘導体である。エチレンカーボネート誘導体としては、例えば、エチレンカーボネート又はアルキル基(例えば、炭素原子数1〜4個のアルキル基)で置換されたエチレンカーボネートのフッ素化物が挙げられ、中でもフッ素原子が1〜8個のものが好ましい。
【0032】
具体的には、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(ジフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(トリフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−4−フルオロエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−5−フルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5,5−ジメチルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0033】
中でも、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート及び4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチ
ルエチレンカーボネートよりなる群から選ばれる少なくとも1種が、高イオン伝導性を与え、かつ好適に界面保護被膜を形成する点でより好ましい。
フッ素化環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。フッ素化環状カーボネートの配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、非水系溶媒100体積%中、好ましくは0.01体積%以上、より好ましくは0.1体積%以上、さらに好ましくは0.2体積%以上であり、また、好ましくは95体積%以下、より好ましくは90体積%以下であ
る。この範囲であれば、非水系電解液二次電池が十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、高温保存特性の低下や、ガス発生量の増加により、放電容量維持率が低下することを回避しやすい。
【0034】
尚、フッ素原子を有する環状カーボネートは、溶媒のみならず下記1−3に記載の助剤としても有効な機能を発現する。フッ素原子を有する環状カーボネート溶媒兼助剤として用いる場合の配合量に明確な境界は存在せず、前記[0034]にて記載した配合量をそのまま踏襲できる。
【0035】
<鎖状カーボネート>
鎖状カーボネートとしては、炭素数3〜7のものが好ましい。
具体的には、炭素数3〜7の鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n−プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネート、n−ブチルメチルカーボネート、イソブチルメチルカーボネート、t−ブチルメチルカーボネート、エチル−n−プロピルカーボネート、n−ブチルエチルカーボネート、イソブチルエチルカーボネート、t−ブチルエチルカーボネート等が挙げられる。
【0036】
中でも、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−n−プロピルカーボネート、ジイソプロピルカーボネート、n−プロピルイソプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチル−n−プロピルカーボネートが好ましく、特に好ましくはジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネートである。
また、フッ素原子を有する鎖状カーボネート類(以下、「フッ素化鎖状カーボネート」と略記する場合がある)も好適に用いることができる。フッ素化鎖状カーボネートが有するフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下であり、好ましくは4以下である。フッ素化鎖状カーボネートが複数のフッ素原子を有する場合、それらは互いに同一の炭素に結合していてもよく、異なる炭素に結合していてもよい。フッ素化鎖状カーボネートとしては、フッ素化ジメチルカーボネート誘導体、フッ素化エチルメチルカーボネート誘導体、フッ素化ジエチルカーボネート誘導体等が挙げられる。
【0037】
フッ素化ジメチルカーボネート誘導体としては、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロ)メチルカーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート等が挙げられる。
フッ素化エチルメチルカーボネート誘導体としては、2−フルオロエチルメチルカーボネート、エチルフルオロメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルメチルカーボネート、2−フルオロエチルフルオロメチルカーボネート、エチルジフルオロメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルフルオロメチルカーボネート、2−フルオロエチルジフルオロメチルカーボネート、エチルトリフルオロメチルカーボネート等が挙げられる。
【0038】
フッ素化ジエチルカーボネート誘導体としては、エチル−(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル−(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル−(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、2,2−ジフルオロエチル−2’−フルオロエチルカーボネート、ビス(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル−2’−フルオロエチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル−2’,2’−ジフルオロエチルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。
【0039】
鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
鎖状カーボネートの配合量は、非水溶媒100体積%中、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは15体積%以上である。このように下限を設定することにより、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、イオン伝導度の低下を抑制し、ひいては非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。また、鎖状カーボネートは、非水溶媒100体積%中、90体積%以下、より好ましくは85体積%以下であることが好ましい。このように上限を設定することにより、非水系電解液の誘電率の低下に由来する電気伝導率の低下を回避し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。
【0040】
特定の鎖状カーボネートに対して、エチレンカーボネートを特定の配合量で組み合わせることにより、電池性能を著しく向上させることができる。
例えば、特定の鎖状カーボネートとしてジメチルカーボネート、またはエチルメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートを選択した場合、エチレンカーボネートの配合量が10体積%以上、80体積%以下、ジメチルカーボネート、またはエチルメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートの配合量が20体積%以上、90体積%以下であることが好ましい。このような配合量を選択することで、電解質の低温析出温度を低下させながら、非水系電解液の粘度も低下させてイオン伝導度を向上させ、低温でも高出力を得ることができる。
【0041】
特定の鎖状カーボネートを2種類以上併用することも好ましい。特定の鎖状カーボネートにジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを併用して用いる場合、エチレンカーボネートの配合量が10体積%以上、60体積%以下、ジメチルカーボネートの配合量が10体積%以上、70体積%以下、エチルメチルカーボネートの配合量が10体積%以上、80体積%以下であるものが特に好ましい。また、特定の鎖状カーボネートにジメチルカーボネートとジエチルカーボネートを併用して用いる場合、エチレンカーボネートの配合量が10体積%以上、60体積%以下、ジメチルカーボネートの配合量が10体積%以上、70体積%以下、ジエチルカーボネートの配合量が10体積%以上、70体積%以下であるものが特に好ましい。更に、特定の鎖状カーボネートにエチルメチルカーボネートとジエチルカーボネートを併用して用いる場合、エチレンカーボネートの配合量が10体積%以上、60体積%以下、エチルメチルカーボネートの配合量が10体積%以上、80体積%以下、ジエチルカーボネートの配合量が10体積%以上、70体積%以下であるものが特に好ましい。
【0042】
<環状カルボン酸エステル>
環状カルボン酸エステルとしては、その構造式中の全炭素原子数が3〜12のものが挙げられる。
具体的には、ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトン、ガンマカプロラクトン、イプシロンカプロラクトン等が挙げられる。中でも、ガンマブチロラクトンがリチウムイオン解離度の向上に由来する電池特性向上の点から特に好ましい。
【0043】
環状カルボン酸エステルの配合量は、通常、非水溶媒100体積%中、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上である。このように下限を設定することにより、非水系電解液の電気伝導率を改善し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を向上させやすくなる。また、環状カルボン酸エステルの配合量は、好ましくは50体積%以下、より好ましくは40体積%以下で
ある。このように上限を設定することにより、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、電気伝導率の低下を回避し、負極抵抗の増大を抑制し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を良好な範囲としやすくなる。
【0044】
<鎖状カルボン酸エステル>
鎖状カルボン酸エステルとしては、その構造式中の全炭素数が3〜7のものが挙げられる。
具体的には、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸−n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸−t−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸−n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸−n−ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸−t−ブチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸−n−プロピル、酪酸イソプロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸−n−プロピル、イソ酪酸イソプロピル等が挙げられる。
【0045】
中でも、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸−n−プロピル、酢酸−n−ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸−n−プロピル、プロピオン酸イソプロピル、酪酸メチル、酪酸エチル等が、粘度低下によるイオン伝導度の向上の点から好ましい。
鎖状カルボン酸エステルの配合量は、通常、非水溶媒100体積%中、好ましくは10体積%以上、より好ましくは15体積%以上である。このように下限を設定することで、非水系電解液の電気伝導率を改善し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性を向上させやすくなる。また、鎖状カルボン酸エステルの配合量は、非水溶媒100体積%中、好ましくは60体積%以下、より好ましくは50体積%以下である。このように上限を設定することで、負極抵抗の増大を抑制し、非水系電解液二次電池の大電流放電特性、サイクル特性を良好な範囲としやすくなる。
【0046】
<エーテル系化合物>
エーテル系化合物としては、一部の水素がフッ素にて置換されていても良い炭素数3〜10の鎖状エーテル、及び炭素数3〜6の環状エーテルが好ましい。
炭素数3〜10の鎖状エーテルとしては、
ジエチルエーテル、ジ(2−フルオロエチル)エーテル、ジ(2,2−ジフルオロエチル)エーテル、ジ(2,2,2−トリフルオロエチル)エーテル、エチル(2−フルオロエチル)エーテル、エチル(2,2,2−トリフルオロエチル)エーテル、エチル(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)エーテル、(2−フルオロエチル)(2,2,2−トリフルオロエチル)エーテル、(2−フルオロエチル)(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)エーテル、(2,2,2−トリフルオロエチル)(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)エーテル、エチル−n−プロピルエーテル、エチル(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、エチル(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、エチル(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、エチル(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、2−フルオロエチル−n−プロピルエーテル、(2−フルオロエチル)(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、(2−フルオロエチル)(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(2−フルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(2−フルオロエチル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、2,2,2−トリフルオロエチル−n−プロピルエーテル、(2,2,2−トリフルオロエチル)(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、(2,2,2−トリフルオロエチル)(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(2,2,2−トリフルオロエチル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、1,1,2,2−テトラフルオロエチル−n−プロピルエーテル、(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテ
ル、(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ−n−プロピルエーテル、(n−プロピル)(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、(n−プロピル)(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(n−プロピル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(n−プロピル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ(3−フルオロ−n−プロピル)エーテル、(3−フルオロ−n−プロピル)(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(3−フルオロ−n−プロピル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(3−フルオロ−n−プロピル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)エーテル、(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(3,3,3−トリフルオロ−n−プロピル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテル、(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ−n−ブチルエーテル、ジメトキシメタン、メトキシエトキシメタン、メトキシ(2−フルオロエトキシ)メタン、メトキシ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)メタンメトキシ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)メタン、ジエトキシメタン、エトキシ(2−フルオロエトキシ)メタン、エトキシ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)メタン、エトキシ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)メタン、ジ(2−フルオロエトキシ)メタン、(2−フルオロエトキシ)(2,2,2−トリフルオロエトキシ)メタン、(2−フルオロエトキシ)(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)メタンジ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)メタン、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)メタン、ジ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)メタン、ジメトキシエタン、メトキシエトキシエタン、メトキシ(2−フルオロエトキシ)エタン、メトキシ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン、メトキシ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン、ジエトキシエタン、エトキシ(2−フルオロエトキシ)エタン、エトキシ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン、エトキシ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン、ジ(2−フルオロエトキシ)エタン、(2−フルオロエトキシ)(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン、(2−フルオロエトキシ)(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン、ジ(2,2,2−トリフルオロエトキシ)エタン、(2,2,2−トリフルオロエトキシ)(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン、ジ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)エタン、エチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。
【0047】
炭素数3〜6の環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、2−メチル−1,3−ジオキサン、4−メチル−1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン等、及びこれらのフッ素化化合物が挙げられる。
中でも、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタン、エチレングリコールジ−n−プロピルエーテル、エチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジ(1,1,2,2−テトラフルオロエトキシ)メタン、(1,1,2,2−テトラフルオロエチル)(2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−n−プロピル)エーテル、ジ(2,2,3,3−テトラフルオロ−n−プロピル)エーテルが、リチウムイオンへの溶媒和能力が高く、イオン解離性を向上させる点で好ましく、特に好ましくは、粘性が低く、高いイオン伝導度を与えることから、ジメトキシメタン、ジエトキシメタン、エトキシメトキシメタンである。
【0048】
エーテル系化合物の配合量は、通常、非水溶媒100体積%中、好ましくは5体積%以上、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは15体積%以上、また、好ましくは70体積%以下、より好ましくは60体積%以下、さらに好ましくは50体積%以下である。この範囲であれば、鎖状エーテルのリチウムイオン解離度の向上と粘度低下に由来するイオン伝導度の向上効果を確保しやすく、負極活物質が炭素質材料の場合、鎖状エーテルがリチウムイオンと共に共挿入されて容量が低下するといった事態を回避しやすい。
【0049】
<スルホン系化合物>
スルホン系化合物としては、炭素数3〜6の環状スルホン、及び炭素数2〜6の鎖状スルホンが好ましい。1分子中のスルホニル基の数は、1又は2であることが好ましい。
環状スルホンとしては、モノスルホン化合物であるトリメチレンスルホン類、テトラメチレンスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類;ジスルホン化合物であるトリメチレンジスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類等が挙げられる。中でも誘電率と粘性の観点から、テトラメチレンスルホン類、テトラメチレンジスルホン類、ヘキサメチレンスルホン類、ヘキサメチレンジスルホン類がより好ましく、テトラメチレンスルホン類(スルホラン類)が特に好ましい。
【0050】
スルホラン類としては、スルホラン及び/又はスルホラン誘導体(以下、スルホランも含めて「スルホラン類」と略記する場合がある)が好ましい。スルホラン誘導体としては、スルホラン環を構成する炭素原子上に結合した水素原子の1以上がフッ素原子やアルキル基で置換されたものが好ましい。
中でも、2−メチルスルホラン、3−メチルスルホラン、2−フルオロスルホラン、3−フルオロスルホラン、2,2−ジフルオロスルホラン、2,3−ジフルオロスルホラン、2,4−ジフルオロスルホラン、2,5−ジフルオロスルホラン、3,4−ジフルオロスルホラン、2−フルオロ−3−メチルスルホラン、2−フルオロ−2−メチルスルホラン、3−フルオロ−3−メチルスルホラン、3−フルオロ−2−メチルスルホラン、4−フルオロ−3−メチルスルホラン、4−フルオロ−2−メチルスルホラン、5−フルオロ−3−メチルスルホラン、5−フルオロ−2−メチルスルホラン、2−フルオロメチルスルホラン、3−フルオロメチルスルホラン、2−ジフルオロメチルスルホラン、3−ジフルオロメチルスルホラン、2−トリフルオロメチルスルホラン、3−トリフルオロメチルスルホラン、2−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)スルホラン、3−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)スルホラン、4−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)スルホラン、5−フルオロ−3−(トリフルオロメチル)スルホラン等がイオン伝導度が高く入出力が高い点で好ましい。
【0051】
また、鎖状スルホンとしては、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、n−プロピルメチルスルホン、n−プロピルエチルスルホン、ジ−n−プロピルスルホン、イソプロピルメチルスルホン、イソプロピルエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、n−ブチルメチルスルホン、n−ブチルエチルスルホン、t−ブチルメチルスルホン、t−ブチルエチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホン、ジフルオロメチルメチルスルホン、トリフルオロメチルメチルスルホン、モノフルオロエチルメチルスルホン、ジフルオロエチルメチルスルホン、トリフルオロエチルメチルスルホン、ペンタフルオロエチルメチルスルホン、エチルモ・BR>Mフルオロメチルスルホン、エチルジフルオロメチルスルホン、エチルトリフルオロメチルスルホン、パーフルオロエチルメチルスルホン、エチルトリフルオロエチルスルホン、エチルペンタフルオロエチルスルホン、ジ(トリフルオロエチル)スルホン、パーフルオロジエチルスルホン、フルオロメチル−n−プロピルスルホン、ジフルオロメチル−n−プロピルスルホン、トリフルオロメチル−n−プロピルスルホン、フルオロメチルイソプロピルスルホン、ジフルオロメチルイソプロピルスルホン、トリフルオロメチルイソプロピルスルホン、トリフルオロエチル−n−プロピルスルホン、トリフルオロエチルイソプロピルスルホン、ペンタフルオロエチル−
n−プロピルスルホン、ペンタフルオロエチルイソプロピルスルホン、トリフルオロエチル−n−ブチルスルホン、トリフルオロエチル−t−ブチルスルホン、ペンタフルオロエチル−n−ブチルスルホン、ペンタフルオロエチル−t−ブチルスルホン等が挙げられる。
【0052】
中でも、ジメチルスルホン、エチルメチルスルホン、ジエチルスルホン、n−プロピルメチルスルホン、イソプロピルメチルスルホン、n−ブチルメチルスルホン、t−ブチルメチルスルホン、モノフルオロメチルメチルスルホン、ジフルオロメチルメチルスルホン、トリフルオロメチルメチルスルホン、モノフルオロエチルメチルスルホン、ジフルオロエチルメチルスルホン、トリフルオロエチルメチルスルホン、ペンタフルオロエチルメチルスルホン、エチルモノフルオロメチルスルホン、エチルジフルオロメチルスルホン、エチルトリフルオロメチルスルホン、エチルトリフルオロエチルスルホン、エチルペンタフルオロエチルスルホン、トリフルオロメチル−n−プロピルスルホン、トリフルオロメチルイソプロピルスルホン、トリフルオロエチル−n−ブチルスルホン、トリフルオロエチル−t−ブチルスルホン、トリフルオロメチル−n−ブチルスルホン、トリフルオロメチル−t−ブチルスルホン等がイオン伝導度が高く入出力が高い点で好ましい。
【0053】
スルホン系化合物の配合量は、通常、非水溶媒100体積%中、好ましくは0.3体積%以上、より好ましくは0.5体積%以上、さらに好ましくは1体積%以上であり、また、好ましくは40体積%以下、より好ましくは35体積%以下、さらに好ましくは30体積%以下である。この範囲であれば、サイクル特性や保存特性等の耐久性の向上効果が得られやすく、また、非水系電解液の粘度を適切な範囲とし、電気伝導率の低下を回避することができ、非水系電解液二次電池の充放電を高電流密度で行う場合に、充放電容量維持率が低下するといった事態を回避しやすい。
【0054】
1−3.一般式(1)で表される化合物
本発明は、下記一般式(1)で表される化合物よりなる群から少なくとも一種以上を非水系電解液中に含有することを特徴としている。
【0055】
【化3】

【0056】
(式中、XとZはCR、C=O、C=N−R、C=P−R、O、S、N−R、P−Rを表し、同一でも異っていても良い。YはCR、C=O、S=O、S(=O)、P(=O)―R、P(=O)−ORを表す。式中、R及びRは水素、ハロゲン、または、官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基であり、互いに同一であっても異っていても良い。Rは官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基である。Rは、Li、NRまたは、官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基である。Rは官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基であり、互いに同一であっても異っていても良い。nおよびmは0以上の整数を表す。また隣接する環内の炭素が互いにさらなる結合を作り、当該炭素のRが各ひとつずつ減っていても良い。Wは上記Rをあらわす。)
<一般式(1)で表される化合物>
式中、XとZは、一般式(1)に記載の範囲であれば特に限定されないが、好ましくは、CR、O、S、N−Rがより好ましい。また、Yも一般式(1)に記載の範囲であれば特に限定されないが、好ましくは、C=O、S=O、S(=O)、P(=O)―R、P(=O)−ORがより好ましい。RとRは、一般式(1)に記載の範囲であれば特に限定されないが、好ましくは、水素、フッ素、置換基を有しても良い飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有しても良い不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基があげられる。
【0057】
およびRは、一般式(1)に記載の範囲であれば特に限定されないが、好ましくは、置換基を有しても良い飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有しても良い不飽和脂肪族炭化水素、置換基を有しても良い芳香族炭化水素・芳香族ヘテロ環があげられる。
は、一般式(1)に記載の範囲であれば特に限定されないが、好ましくは、Li、置換基を有しても良い飽和脂肪族炭化水素、置換基を有しても良い不飽和脂肪族炭化水素、置換基を有しても良い芳香族炭化水素・芳香族ヘテロ環があげられる。
【0058】
置換基を有しても良い飽和脂肪族炭化水素、置換基を有しても良い不飽和脂肪族炭化水素、置換基を有しても良い芳香族炭化水素・芳香族ヘテロ環の、置換基としては特に限定はされないが、好ましくは、ハロゲン、カルボン酸、炭酸、スルホン酸、リン酸、亜リン酸等の置換基を有しても良い飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有しても良い不飽和脂肪族炭化水素基、置換基を有しても良い芳香族炭化水素基のエステル等があげられ、さらに好ましくは、ハロゲン、最も好ましくはフッ素が好ましい。
【0059】
好ましい飽和脂肪族炭化水素として、具体的には、メチル基、エチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、1−フルオロエチル基、2−フルオロエチル基、1,1−ジフルオロエチル基、1,2−ジフルオロエチル基、2,2−ジフルオロエチル基、1,1、2−トリフルオロエチル基、1,2、2−トリフルオロエチル基、2、2、2−トリフルオロエチル基フェニル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基が好ましい。
【0060】
好ましい不飽和脂肪族炭化水素としては、具体的には、エテニル基、1−フルオロエテニル基、2−フルオロエテニル基、1−メチルエテニル基、2−プロペニル基、2−フルオロ−2−プロペニル基、3−フルオロ−2−プロペニル基、エチニル基、2−フルオロエチニル基、2−プロピニル基、3−フルオロ−2プロピニル基、が好ましい。
好ましい芳香族炭化水素としては、フェニル基、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、2、4−ジフルオロフェニル基、2、6−ジフルオロフェニル基、3、5−ジフルオロフェニル基、2、4、6−トリフルオロフェニル基、が好ましい。
【0061】
好ましい芳香族ヘテロ環としては、2−フラニル基、3−フラニル基、2−チオフェニル基、3−チオフェニル基、1−メチル−2−ピロリル基、1−メチル−3−ピロリル基、が好ましい。
これらの中でも、メチル基、エチル基、フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2−フルオロエチル基、2、2、2−トリフルオロエチル基、エテニル基、エチニル基、フェニル基、が好ましい。
【0062】
さらに好ましくは、メチル基、エチル基、エチニル基、が好ましい。
nおよびmは一般式(1)に記載の範囲であれば特に限定されないが、好ましくは、0または1であり、さらに好ましくは、n=m=1またはn=1、m=0である。
また、分子量は、好ましくは、50以上である。また、好ましくは、500以下である。この範囲であれば、非水系電解液に対する不飽和環状カーボネートの溶解性を確保しやすく、本発明の効果が十分に発現されやすい。これら好ましい化合物の具体例としては
【0063】
【化4】

【0064】
【化5】

【0065】
【化6】

【0066】
【化7】

【0067】
【化8】

【0068】
【化9】

【0069】
【化10】

【0070】
【化11】

【0071】
【化12】

【0072】
【化13】

【0073】
【化14】

【0074】
【化15】

【0075】
【化16】

【0076】
【化17】

【0077】
【化18】

【0078】
【化19】

【0079】
【化20】

【0080】
【化21】

【0081】
【化22】

【0082】
【化23】

【0083】
【化24】

【0084】
【化25】

【0085】
【化26】

【0086】
【化27】

【0087】
【化28】

【0088】
【化29】

【0089】
【化30】

【0090】
【化31】

【0091】
【化32】

【0092】
【化33】

【0093】
【化34】

【0094】
【化35】

【0095】
【化36】

【0096】
【化37】

【0097】
【化38】

【0098】
【化39】

【0099】
【化40】

【0100】
【化41】

【0101】
【化42】

【0102】
【化43】

【0103】
【化44】

【0104】
【化45】

【0105】
【化46】

【0106】
【化47】

【0107】
【化48】

【0108】
【化49】

【0109】
【化50】

【0110】
【化51】

【0111】
【化52】

【0112】
【化53】

【0113】
【化54】

【0114】
【化55】

【0115】
【化56】

【0116】
が、等があげられる。
これらの中でも、その反応性と安定性の両面からRが水素、フッ素またはエチニル基であることが好ましい。他の置換基である場合、反応性が低下し、期待する特性が低下する恐れが有る。また、フッ素以外のハロゲンで有る場合は、反応性が高すぎて副反応が増加する恐れが有る。
【0117】
また、Rにおけるフッ素またはエチニル基の数は合わせて2つ以内で有ることが好ましい。これらの数が多すぎると、電解液との相溶性が悪化する恐れがあり、また、反応性が高すぎて副反応が増加する恐れが有る。
また、これらの中でも、n=1、m=0が好ましい。双方が0である場合、環のひずみから安定性が悪化し、反応性が高くなりすぎて副反応が増加する恐れが有る。また、n=2以上、またはn=1であっても、m=1以上で有る場合、環状より鎖状である方が安定となる恐れがあり、初期の特性を示さない恐れが有る。
【0118】
さらに、式中、XとZは、CRまたはOがより好ましい。これら以外の場合、反応性が高すぎて副反応が増加する恐れが有る。
また、分子量は、より好ましくは100以上であり、また、より好ましくは200以下である。この範囲であれば、非水系電解液に対する一般式(1)の溶解性をさらに確保しやすく、本発明の効果が十分にさらに発現されやすい。
【0119】
これらさらに好ましい化合物の具体例としては
【0120】
【化57】

【0121】
【化58】

【0122】
【化59】

【0123】
【化60】

【0124】
【化61】

【0125】
が、あげられる。
さらに好ましくは、Rが全て水素である場合である。この場合、期待される特性を維持しつつ、副反応が最も抑制される可能性が高い。また、YがC=OまたはS=Oの場合、XおよびZのいずれか一方がOである事が、YがS(=O)、P(=O)―R、P(=
O)−ORの場合XとZが共にOまたはCHであるか、XとZのいずれか一方がOで
あり、もう一方がCHで有ることが好ましい。YがC=OまたはS=Oの場合、XとZが共にCHであると、反応性が高すぎて副反応が増加する恐れが有る。
【0126】
これらの化合物として具体的には
【0127】
【化62】

【0128】
があげられる。
一方、一般式(2)であらわされる化合物が、工業的な製造の容易さの観点から、好ましい。
【0129】
【化63】

【0130】
(YはC=O、S=O、S(=O)、P(=O)―R、P(=O)−ORを表す。Rは官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基である。Rは、Li、NRまたは、官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基である。Rは官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基であり、互いに同一であっても異っていても良い。)
これら、好ましい条件を持つ化合物としては、具体的には
【0131】
【化64】

【0132】
があげられる。
一般式(1)であらわされる化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み
合わせ及び比率で併有してもよい。また、一般式(1)であらわされる化合物の配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。一般式(1)であらわされる化合物の配合量は、非水系電解液100質量%中、好ましくは、0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。この範囲であれば、非水系電解液二次電池が十分なサイクル特性向上効果を発現しやすく、また、高温保存特性が低下し、ガス発生量が多くなり、放電容量維持率が低下するといった事態を回避しやすい。一方で少なすぎると、本発明における効果が十分に発揮しにくい場合があり、また多すぎると、抵抗が増加して出力や負荷特性が低下する場合がある。
【0133】
1−4.助剤
本発明の非水系電解液電池において、一般式(1)の化合物以外に、目的に応じて適宜助剤を用いても良い。助剤としては、以下に示される不飽和結合を有する環状カーボネート、フッ素原子を有する環状カーボネート、フッ素原子を有する不飽和環状カーボネート、過充電防止剤、その他の助剤、等が挙げられる。
(C)炭素−炭素不飽和結合またはフッ素原子の少なくとも1つを有するカーボネート
本発明の非水系電解液は、一般式(1)で表される化合物とともに、炭素−炭素不飽和結合またはフッ素原子の少なくとも1つを有するカーボネート(以下、(C)の化合物ともいう)を含有することを特徴とする。(C)の化合物は、炭素−炭素不飽和結合またはフッ素原子を有するカーボネートであれば特に限定されず、鎖状であっても、環状であってもよい。ただし、一般式(1)で表される化合物はこれに含まれないものとする。
【0134】
<不飽和環状カーボネート>
炭素−炭素不飽和結合を有する環状カーボネート(以下、不飽和環状カーボネートともいう)としては、環状カーボネートの骨格内に不飽和結合を有するビニレンカーボネート類、或いは芳香環または炭素−炭素不飽和結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類、フェニルカーボネート類、ビニルカーボネート類、アリルカーボネート類、カテコールカーボネート類等が挙げられる。
【0135】
ビニレンカーボネート類としては、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、4,5−ジフェニルビニレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、4,5-ビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート、4,5-ジアリルビニレンカーボネート等が挙げられる。
【0136】
芳香環または炭素−炭素不飽和結合を有する置換基で置換されたエチレンカーボネート類の具体例としては、ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−メチル−5−ビニルエチレンカーボネート、4−アリル−5−ビニルエチレンカーボネート、フェニルエチレンカーボネート、4,5−ジフェニルエチレンカーボネート、4−フェニル−5−ビニルエチレンカーボネート、4−アリル−5−フェニルエチレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4−メチル−5−アリルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0137】
不飽和環状カーボネートとしては、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、4,5−ジメチルビニレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、4,5-ビニルビニレンカーボネート、アリルビニレンカーボネート、4,5-ジアリルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−メチル−5−ビニルエチレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4−メチル−5−アリルエチレンカーボネート、4−アリル−
5−ビニルエチレンカーボネートが好ましく、ビニレンカーボネート及びビニルエチレンカーボネートが特に好ましい。これらは安定な界面保護被膜を形成するので、より好適に用いられる。
また、不飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0138】
<不飽和鎖状カーボネート>
炭素−炭素不飽和結合を有する鎖状カーボネート(以下、不飽和鎖状カーボネートともいう)としては、炭素−炭素不飽和結合を有する鎖状カーボネート類、或いは芳香環を有する置換基で置換された鎖状カーボネート類等が挙げられる。
【0139】
炭素−炭素不飽和結合を有する鎖状炭化水素を有する鎖状カーボネート類としては、メチルビニルカーボネート、エチルビニルカーボネート、ジビニルカーボネート、メチル−1−プロペニルカーボネート、エチル−1−プロペニルカーボネート、ジ−1−プロペニルカーボネート、メチル(1−メチルビニル)カーボネート、エチル(1−メチルビニル)カーボネート、ジ(1−メチルビニル)カーボネート、メチル−2−プロペニルカーボネート、エチル−2−プロペニルカーボネート、ジ(2−プロペニル)カーボネート、1−ブテニルメチルカーボネート、1−ブテニルエチルカーボネート、ジ(1−ブテニル)カーボネート、メチル(1−メチル−1−プロペニル)カーボネート、エチル(1−メチル−1−プロペニル)カーボネート、ジ(1−メチル−1−プロペニル)カーボネート、メチル−1−エチルビニルカーボネート、エチル−1−エチルビニルカーボネート、ジ−1−エチルビニルカーボネート、メチル(2−メチル−1−プロペニル)カーボネート、エチル(2−メチル−1−プロペニル)カーボネート、ジ(2−メチル−1−プロペニル)カーボネート、2−ブテニルメチルカーボネート、2−ブテニルエチルカーボネート、ジ−2−ブテニルカーボネート、メチル(1−メチル−2−プロペニル)カーボネート、エチル(1−メチル−2−プロペニル)カーボネート、ジ(1−メチル−2−プロペニル)カーボネート、メチル(2−メチル−2−プロペニル)カーボネート、エチル(2−メチル−2−プロペニル)カーボネート、ジ(2−メチル−2−プロペニル)カーボネート、メチル(1,2−ジメチル−1−プロペニル)カーボネート、エチル(1,2−ジメチル−1−プロペニル)カーボネート、ジ(1,2−ジメチル−1−プロペニル)カーボネート、エチニルメチルカーボネート、エチルエチニルカーボネート、ジエチニルカーボネート、メチル−1−プロピニルカーボネート、エチル−1−プロピニルカーボネート、ジ−1−プロピニルカーボネート、メチル−2−プロピニルカーボネート、エチル−2−プロピニルカーボネート、ジ−2−プロピニルカーボネート、1−ブチニルメチルカーボネート、1−ブチニルエチルカーボネート、ジ−1−ブチニルカーボネート、2−ブチニルメチルカーボネート、2−ブチニルエチルカーボネート、ジ−2−ブチニルカーボネート、メチル(1−メチル−2−プロピニル)カーボネート、エチル(1−メチル−2−プロピニル)カーボネート、ジ(1−メチル−2−プロピニル)カーボネート、3−ブチニルメチルカーボネート、3−ブチニルエチルカーボネート、ジ−3−ブチニルカーボネート、メチル(1,1−ジメチル−2−プロピニル)カーボネート、エチル(1,1−ジメチル−2−プロピニル)カーボネート、ジチル(1,1−ジメチル−2−プロピニル)カーボネート、メチル(1,3−ジメチル−2−プロピニル)カーボネート、エチル(1,3−ジメチル−2−プロピニル)カーボネート、ジチル(1,3−ジメチル−2−プロピニル)カーボネート、メチル(1,2,3−トリメチル−2−プロピニル)カーボネート、エチル(1,2,3−トリメチル−2−プロピニル)カーボネート、ジチル(1,2,3−トリメチル−2−プロピニル)カーボネート、等が挙げられる。
【0140】
芳香環を有する置換基で置換された鎖状カーボネート類としては、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネート、フェニルビニルカーボネート、アリルフェニルカーボネート、エニチルフェニルカーボネート、2−プロペニルフェニルカーボネート、
ジフェニルカーボネート、メチル(2−メチルフェニル)カーボネート、エチル(2−メチルフェニル)カーボネート、(2−メチルフェニル)ビニルカーボネート、アリル(2−メチルフェニル)カーボネート、エニチル(2−メチルフェニル)カーボネート、2−プロペニル(2−メチルフェニル)カーボネート、ジ(2−メチルフェニル)カーボネート、メチル(3−メチルフェニル)カーボネート、エチル(3−メチルフェニル)カーボネート、(3−メチルフェニル)ビニルカーボネート、アリル(3−メチルフェニル)カーボネート、エニチル(3−メチルフェニル)カーボネート、2−プロペニル(3−メチルフェニル)カーボネート、ジ(3−メチルフェニル)カーボネート、メチル(4−メチルフェニル)カーボネート、エチル(4−メチルフェニル)カーボネート、(4−メチルフェニル)ビニルカーボネート、アリル(4−メチルフェニル)カーボネート、エニチル(4−メチルフェニル)カーボネート、2−プロペニル(4−メチルフェニル)カーボネート、ジ(4−メチルフェニル)カーボネート、ベンジルメチルカーボネート、ベンジルエチルカーボネート、ベンジルフェニルカーボネート、ベンジルビニルカーボネート、べンジル−2−プロペニルカーボネート、ベンジルエチニルカーボネート、ベンジル−2−プロピニルカーボネート、ジベンジルカーボネート、メチル(2−シクロヘキシルフェニル)カーボネート、メチル(3−シクロヘキシルフェニル)カーボネート、メチル(4−シクロヘキシルフェニル)カーボネート、エチル(2−シクロヘキシルフェニル)カーボネート、ジ(2−シクロヘキシルフェニル)カーボネート、等が挙げられる。
【0141】
不飽和鎖状カーボネートとしては、上記の中でも、メチルビニルカーボネート、エチルビニルカーボネート、ジビニルカーボネート、アリルメチルカーボネート、アリルエチルカーボネート、ジアリルカーボネート、2−プロピニルメチルカーボネート、2−プロピニルエチルカーボネート、1−メチル−2−プロピニルメチルカーボネート、1−メチル−2−プロピニルエチルカーボネート、1,1−ジメチル−2−プロピニルメチルカーボネート、ジプロピニルカーボネート、2−ブチニルメチルカーボネート、1−メチル−2−ブチニルメチルカーボネート、1,1−ジメチル−2−ブチニルメチルカーボネート、ジブチニルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネート、フェニルビニルカーボネート、アリルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ベンジルメチルカーボネート、ベンジルエチルカーボネート、ベンジルフェニルカーボネート、アリルベンジルカーボネート、ジベンジルカーボネート、2−プロピニルフェニルカーボネート、2−ブチニルフェニルカーボネートが好ましく、メチルビニルカーボネート、エチルビニルカーボネート、ジビニルカーボネート、アリルメチルカーボネート、アリルエチルカーボネート、ジアリルカーボネート、2−プロピニルメチルカーボネート、1−メチル−2−プロピニルメチルカーボネート、1,1−ジメチル−2−プロピニルメチルカーボネート、ジプロピニルカーボネート、2−ブチニルメチルカーボネート、1−メチル−2−ブチニルメチルカーボネート、1,1−ジメチル−2−ブチニルメチルカーボネート、ジブチニルカーボネート、メチルフェニルカーボネート、エチルフェニルカーボネート、ジフェニルカーボネートが特に好ましい。これらは安定な界面保護被膜を形成するので、より好適に用いられる。
また、不飽和鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0142】
<フッ素化飽和カーボネート>
フッ素原子を有する飽和カーボネートとして、フッ素原子を有する飽和鎖状カーボネート(以下、フッ素化飽和鎖状カーボネートともいう)、及びフッ素原子を有する飽和環状カーボネート(以下、フッ素化飽和環状カーボネートともいう)のどちらも用いることができる。
【0143】
フッ素化飽和鎖状カーボネートのフッ素原子の数は、1以上であれば特に制限されないが、通常6以下であり、好ましくは4以下である。フッ素化飽和鎖状カーボネートが複数
のフッ素原子を有する場合、それらは互いに同一の炭素に結合していてもよく、異なる炭素に結合していてもよい。フッ素化飽和鎖状カーボネートとしては、フッ素化ジメチルカーボネート誘導体、フッ素化エチルメチルカーボネート誘導体、フッ素化ジエチルカーボネート誘導体等が挙げられる。
【0144】
フッ素化ジメチルカーボネート誘導体としては、フルオロメチルメチルカーボネート、ジフルオロメチルメチルカーボネート、トリフルオロメチルメチルカーボネート、ビス(フルオロメチル)カーボネート、ビス(ジフルオロ)メチルカーボネート、ビス(トリフルオロメチル)カーボネート等が挙げられる。
【0145】
フッ素化エチルメチルカーボネート誘導体としては、2−フルオロエチルメチルカーボネート、エチルフルオロメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルメチルカーボネート、2−フルオロエチルフルオロメチルカーボネート、エチルジフルオロメチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、2,2−ジフルオロエチルフルオロメチルカーボネート、2−フルオロエチルジフルオロメチルカーボネート、エチルトリフルオロメチルカーボネート等が挙げられる。
【0146】
フッ素化ジエチルカーボネート誘導体としては、エチル−(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル−(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、ビス(2−フルオロエチル)カーボネート、エチル−(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート、2,2−ジフルオロエチル−2’−フルオロエチルカーボネート、ビス(2,2−ジフルオロエチル)カーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル−2’−フルオロエチルカーボネート、2,2,2−トリフルオロエチル−2’,2’−ジフルオロエチルカーボネート、ビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネート等が挙げられる。
【0147】
フッ素化飽和鎖状カーボネートとしては、特に2,2,2−トリフルオロエチルメチルカーボネート、及びビス(2,2,2−トリフルオロエチル)カーボネートが好ましい。
また、フッ素化飽和鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0148】
フッ素化飽和環状カーボネートとしては、炭素原子数2〜6のアルキレン基を有する飽和環状カーボネートの誘導体が挙げられ、例えばエチレンカーボネート誘導体である。エチレンカーボネート誘導体としては、例えば、エチレンカーボネート又はアルキル基(例えば、炭素原子数1〜4個のアルキル基)で置換されたエチレンカーボネートのフッ素化物が挙げられ、中でもフッ素原子が1〜8個のものが好ましい。
【0149】
具体的には、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−メチルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−メチルエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(ジフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(トリフルオロメチル)−エチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−4−フルオロエチレンカーボネート、4−(フルオロメチル)−5−フルオロエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5,5−ジメチルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0150】
フッ素化飽和環状カーボネートとしては、モノフルオロエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロエチレンカーボネート、4,5-ジフルオロエチレンカーボネート及び4,
5−ジフルオロ−4,5−ジメチルエチレンカーボネートよりなる群から選ばれる少なく
とも1種が特に好ましい。これらは高イオン伝導性を与え、かつ好適に界面保護被膜を形成する。
また、フッ素化飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0151】
<フッ素化不飽和環状カーボネート>
炭素−炭素不飽和結合及びフッ素原子の両方を有する環状カーボネート(以下、フッ素化不飽和環状カーボネートともいう)としては、フッ素化ビニレンカーボネート誘導体、芳香環又は炭素−炭素不飽和結合を有する置換基で置換されたフッ素化エチレンカーボネート誘導体等が挙げられる。
【0152】
フッ素化ビニレンカーボネート誘導体としては、4−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−メチルビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−フェニルビニレンカーボネート、4−アリル−5−フルオロビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルビニレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルビニレンカーボネート、4−アリル−5−フルオロビニレンカーボネート、等が挙げられる。
【0153】
芳香環又は炭素−炭素不飽和結合を有する置換基で置換されたフッ素化エチレンカーボネート誘導体としては、4−フルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−アリルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−アリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−フェニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−フェニルエチレンカーボネート等が挙げられる。
【0154】
フッ素化不飽和環状カーボネートとしては、4−フルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−ビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−5−アリルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−ビニルエチレンカーボネート、4,4−ジフルオロ−5−アリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−ビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4−アリルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4−フルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジビニルエチレンカーボネート、4,5−ジフルオロ−4,5−ジアリルエチレンカーボネートが好ましい。これらは安定な界面保護被膜を形成するので、より好適に用いられる。
また、フッ素化不飽和環状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0155】
<フッ素化不飽和鎖状カーボネート>
炭素−炭素不飽和結合及びフッ素原子の両方を有する鎖状カーボネート(以下、フッ素化不飽和鎖状カーボネートともいう)としては、1−フルオロビニルメチルカーボネート、2−フルオロビニルメチルカーボネート、1,2−ジフルオロビニルメチルカーボネート、エチル−1−フルオロビニルカーボネート、エチル−2−フルオロビニルカーボネート、エチル−1,2−ジフルオロビニルカーボネート、ビス(1−フルオロビニル)カーボネート、ビス(2−フルオロビニル)カーボネート、ビス(1,2−ジフルオロビニル
)カーボネート、1−フルオロ−1−プロペニルメチルカーボネート、2−フルオロ−1−プロペニルメチルカーボネート、3−フルオロ−1−プロペニルメチルカーボネート、1、2−ジフルオロ−1−プロペニルメチルカーボネート、1,3−ジフルオロ−1−プロペニルメチルカーボネート、2,3−ジフルオロ−1−プロペニルメチルカーボネート、3,3−ジフルオロ−1−プロペニルメチルカーボネート、1−フルオロ−2−プロペニルメチルカーボネート、2−フルオロ−2−プロペニルメチルカーボネート、3−フルオロ−2−プロペニルメチルカーボネート、1,1−ジフルオロ−2−プロペニルメチルカーボネート、1,2−ジフルオロ−2−プロペニルメチルカーボネート、1,3−ジフルオロ−2−プロペニルメチルカーボネート、2,3−ジフルオロ−2−プロペニルメチルカーボネート、フルオロエチニルメチルカーボネート、3−フルオロ−1−プロピニルメチルカーボネート、1−フルオロ−2−プロピニルメチルカーボネート、3−フルオロ−2−プロピニルメチルカーボネート、等があげられる。
また、フッ素化不飽和鎖状カーボネートは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
【0156】
(C)の化合物の分子量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、50以上、250以下が好ましい。不飽和環状カーボネートの場合、より好ましくは80以上、150以下、フッ素化不飽和環状カーボネートの場合は、より好ましくは100以上、200以下である。この範囲であれば、非水系電解液に対する炭素−炭素不飽和結合を有する環状カーボネートの溶解性を確保しやすく、本発明の効果が十分に発現されやすい。
【0157】
(C)の化合物は、1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併有してもよい。
炭素−炭素不飽和結合を少なくとも1つを有するカーボネートの場合の配合量は、非水系溶媒100質量%中、好ましくは、0.001質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上であり、また、好ましくは5質量以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
フッ素原子を少なくとも1つを有するカーボネートを用いる場合の配合量は、非水系電解液100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、また好ましくは90質量%以下、より好ましくは85質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0158】
特にフッ素原子を少なくとも1つを有するカーボネートに、溶媒としての役割を果させる場合、その配合量は非水系電解液100質量%中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、また好ましくは90質量%以下、より好ましくは70質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。この範囲内であれば、電池を高電圧動作させた際に非水系電解液の副分解反応を抑制でき、電池耐久性を高めることができると共に、非水系電解液の電気伝導率の極端な低下を防ぐことができる。溶媒的に用いる場合は、フッ素原子を少なくとも1つを有するカーボネートの中でも、フッ素化飽和カーボネートであることが好ましい。
【0159】
一方、フッ素原子を少なくとも1つを有するカーボネートに、助剤としての役割を果たさせる場合、その配合量は、非水系電解液100質量%中、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、また好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下である。この範囲内であれば、電荷移動抵抗を過度に増加させずに耐久性を向上できるため、高電流密度での充放電耐久性を向上させることができる。助剤的に用いる場合は、フッ素原子を少なくとも1つを有するカーボネートとしては、フッ素化飽和カーボネート、フッ素化不飽和環状カーボネート、フッ素化不飽和鎖状カーボネートの何れも用いることが
できる。
【0160】
更に、フッ素原子を少なくとも1つを有するカーボネートを2種以上併用する場合であっても、上記の範囲内で調整することが好ましい。
尚、フッ素原子を少なくとも1つ有するカーボネートの溶媒および助剤としての役割について上述したが、実際に用いる場合は溶媒あるいは助剤に明確な境界線は存在せず、任意の割合で非水系電解液を調製できるものとする。
【0161】
また、一般式(1)で表される化合物と(C)の化合物の配合量の割合は、特に限定されないが、(C)の化合物が不飽和結合を有するカーボネートの場合、不飽和結合を有するカーボネートの合計含有質量を[M]、一般式(1)で表される化合物の合計含有質量を[M(1)]としたときに、通常、[M(1)]/[M]が100〜0.01、より好まし
くは20〜0.05、さらに好ましくは10〜0.1である。
【0162】
<過充電防止剤>
本発明の非水系電解液において、非水系電解液二次電池が過充電等の状態になった際に電池の破裂・発火を効果的に抑制するために、過充電防止剤を用いることができる。
過充電防止剤としては、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物;2−フルオロビフェニル、o−シクロヘキシルフルオロベンゼン、p−シクロヘキシルフルオロベンゼン等の上記芳香族化合物の部分フッ素化物;2,4−ジフルオロアニソール、2,5−ジフルオロアニソール、2,6−ジフルオロアニソール、3,5−ジフルオロアニソール等の含フッ素アニソール化合物等が挙げられる。中でも、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の芳香族化合物が好ましい。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。2種以上併用する場合は、特に、シクロヘキシルベンゼンとt−ブチルベンゼン又はt−アミルベンゼンとの組み合わせ、ビフェニル、アルキルビフェニル、ターフェニル、ターフェニルの部分水素化体、シクロヘキシルベンゼン、t−ブチルベンゼン、t−アミルベンゼン等の酸素を含有しない芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種と、ジフェニルエーテル、ジベンゾフラン等の含酸素芳香族化合物から選ばれる少なくとも1種を併用するのが過充電防止特性と高温保存特性のバランスの点から好ましい。
【0163】
過充電防止剤の配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。過充電防止剤は、非水系電解液100質量%中、好ましくは、0.1質量%以上であり、また、5質量%以下である。この範囲でれば、過充電防止剤の効果を十分に発現させやすく、また、高温保存特性等の電池の特性が低下するといった事態も回避しやすい。過充電防止剤は、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上、特に好ましくは0.5質量%以上であり、また、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは2質量%以下である。
【0164】
<その他の助剤>
本発明の非水系電解液には、公知のその他の助剤を用いることができる。その他の助剤としては、エリスリタンカーボネート、スピロ−ビス−ジメチレンカーボネート、メトキシエチル−メチルカーボネート等のカーボネート化合物;無水コハク酸、無水グルタル酸、無水マレイン酸、無水シトラコン酸、無水グルタコン酸、無水イタコン酸、無水ジグリコール酸、シクロヘキサンジカルボン酸無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物及びフェニルコハク酸無水物等のカルボン酸無水物;2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、3,9−ジビニル−2,4,8,10−テトラオキサスピ
ロ[5.5]ウンデカン等のスピロ化合物;エチレンサルファイト、1,3−プロパンスルトン、1−フルオロ−1,3−プロパンスルトン、2−フルオロ−1,3−プロパンスルトン、3−フルオロ−1,3−プロパンスルトン、1−プロペン−1,3−スルトン、1−フルオロ−1−プロペン−1,3−スルトン、2−フルオロ−1−プロペン−1,3−スルトン、3−フルオロ−1−プロペン−1,3−スルトン、1,4−ブタンスルトン、1−ブテン−1,4−スルトン、3−ブテン−1,4−スルトン、フルオロスルホン酸メチル、フルオロスルホン酸エチル、メタンスルホン酸メチル、メタンスルホン酸エチル、ブスルファン、スルホレン、ジフェニルスルホン、N,N−ジメチルメタンスルホンアミド、N,N−ジエチルメタンスルホンアミド等の含硫黄化合物;1−メチル−2−ピロリジノン、1−メチル−2−ピペリドン、3−メチル−2−オキサゾリジノン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン及びN−メチルスクシンイミド等の含窒素化合物;ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘプタン等の炭化水素化合物、フルオロベンゼン、ジフルオロベンゼン、ヘキサフルオロベンゼン、ベンゾトリフルオライド等の含フッ素芳香族化合物等が挙げられる。これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの助剤を添加することにより、高温保存後の容量維持特性やサイクル特性を向上させることができる。
【0165】
その他の助剤の配合量は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。その他の助剤は、非水系電解液100質量%中、好ましくは、0.01質量%以上であり、また、5質量%以下である。この範囲であれば、その他助剤の効果が十分に発現させやすく、高負荷放電特性等の電池の特性が低下するといった事態も回避しやすい。その他の助剤の配合量は、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、また、より好ましくは3質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。
【0166】
以上に記載してきた非水系電解液は、本発明に記載の非水系電解液電池の内部に存在するものも含まれる。具体的には、リチウム塩や溶媒、助剤等の非水系電解液の構成要素を別途合成し、実質的に単離されたものから非水系電解液を調整し、下記に記載する方法にて別途組み立てた電池内に注液して得た非水系電解液電池内の非水系電解液である場合や、本発明の非水系電解液の構成要素を個別に電池内に入れておき、電池内にて混合させることにより本発明の非水系電解液と同じ組成を得る場合、更には、本発明の非水系電解液を構成する化合物を該非水系電解液電池内で発生させて、本発明の非水系電解液と同じ組成を得る場合も含まれるものとする。
【0167】
2.電池構成
本発明の非水系電解液電池は、非水系電解液電池の中でも二次電池用、例えばリチウム二次電池用の電解液として用いるのに好適である。以下、本発明の非水系電解液を用いた非水系電解液電池について説明する。
本発明の非水系電解液二次電池は、公知の構造を採ることができ、典型的には、イオン(例えば、リチウムイオン)を吸蔵・放出可能な負極及び後述する正極と、上記の本発明の非水系電解液とを備える。
【0168】
2−1.正極 〈リチウム遷移金属化合物〉
〈結晶構造〉
本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体は、層状構造に帰属する結晶構造を含んで構成されるリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物または、リチウムニッケルコバルトアルミ系複合酸化物を主成分としたものであることを特徴としている。
ここで、層状構造に関してさらに詳しく述べる。層状構造を有するものの代表的な結晶系としては、LiCoO、LiNiOのようなα−NaFeO型に属するものがあり、これらは六方晶系であり、その対称性から空間群
【0169】
【数1】

【0170】
(以下「層状R(−3)m構造」と表記することがある。)に帰属される。
ただし、層状LiMeOとは、層状R(−3)m構造に限るものではない。これ以外にもいわゆる層状Mnと呼ばれるLiMnOは斜方晶系で空間群Pm2mの層状化合物であり、また、いわゆる213相と呼ばれるLiMnOは、Li[Li1/3Mn2/3]Oとも表記でき、単斜晶系の空間群C2/m構造であるが、やはりLi層と[Li1/3Mn2/3]層及び酸素層が積層した層状化合物である。
【0171】
〈組成〉
また、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体は、下記組成式(I)で示されるリチウム遷移金属系複合酸化物粉体であることを特徴としている。
LixNiM1M21-y-z 2-δ (I)
〔式(I)中、xは、1≦x≦1.3であり、yは、0.4≦y≦0.95であり、zは、0≦z≦0.6、0≦1−y−z≦0.3であり、M1は、Co及び/またはMnを示し、M2は、Fe、Cr、V、Ti、Cu、Ga、Bi、Sn、B、P、Zn、Mg、Ge、Nb、W、Ta、Be、Al、Ca、Sc及びZrから選択される少なくとも一種の元素を示し、δは、−0.1≦δ≦0.1の数を表す。〕 より具体的には、M1は、Co及び/またはMnを示す。
【0172】
M2は、Fe、Cr、V、Ti、Cu、Ga、Bi、Sn、B、P、Zn、Mg、Ge、Nb、W、Ta、Be、Al、Ca、Sc及びZrから選択される少なくとも一種の元素を示す。これらの中でも、好ましくはFe、Ti、Cu、Bi、Sn、B、P、Zn、Mg、Nb、W、Ta、Al、CaおよびZrであり、さらに好ましくはB、P、Nb、W、Ta、AlおよびZrであり、特に好ましくはB,WおよびAlである。
xは、1以上、好ましくは1.001以上、さらに好ましくは1.01以上、特に好ましくは1.05以上であり、1.3以下、好ましくは1.25以下、さらに好ましくは1.2以下、特に好ましくは1.18以下である。xがこの範囲内であれば遷移金属中のLiが不足することなく、負荷特性が向上するため、好ましい。また、Liが1以上の余剰分については、遷移金属相に取り込まれても粒子表面や結晶粒界などに存在しても良い。
【0173】
yは、0.4以上、好ましくは0.41以上、さらに好ましくは0.42以上、特に好ましくは0.43以上であり、0.95以下、好ましくは0.90以下、さらに好ましくは0.88以下、特に好ましくは0.85以下である。yがこの範囲内であれば結晶構造が安定化し、寿命特性が向上するため、好ましい。
zは、通常0以上、好ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.05以上、特に好ましくは0.10以上であり、0.65以下、好ましくは0.63以下、さらに好ましくは0.60以下、特に好ましくは0.58以下である。zがこの範囲内であれば活物質の理論容量が増加し、エネルギー密度が高くなるため、好ましい。
【0174】
1−y−zは、通常0以上、好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.02以上、特に好ましくは0.03以上であり、0.3以下、好ましくは0.25以下、さらに好ましくは0.22以下、特に好ましくは0.2以下である。1−y−zがこの範囲の下限を下回ると添加した効果が十分得られず、この範囲を上回ると容量が低下するため、この範囲内であることが好ましい。
【0175】
なお、上記組成式(I)においては、酸素量の原子比、多少の不定比性があってもよい
。この不定比性がある場合についてをδを用いて表している。δは、通常−0.1以上、好ましくは−0.08以上、さらに好ましくは−0.05以上、特に好ましくは−0.02以上であり、0.1以下、好ましくは0.08以下、さらに好ましくは0.05以下、特に好ましくは0.02以下である。zがこの範囲内であれば結晶構造が安定であり、寿命特性が向上するため、好ましい。
【0176】
また、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体は、リチウム遷移金属系複合酸化物の結晶構造内に取り込まれず、その粒子表面や結晶粒界などに単体もしくは化合物として偏在しているような異元素が導入されてもよい。異元素としては、B,Na,Mg,Al,Si,P,K,Ca,Ti,V,Cr,Fe,Cu,Zn,Ga,Ge,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,In,Sn,Sb,Te,Ba,Ta,W,Re,Os,Ir,Pt,Au,Pb,Bi,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,N,F,P,S,Cl,Br,Iの何れか1種以上の中から選択される。これらの中でも、添加元素として用いて、粒子表面に濃化させることにより、負荷特性や寿命特性が向上するため、B、P、Zr、Mo、W、Biなどが好ましく、これらの中でも、B、Bi、W、Moが特に好ましい。これらの異元素は、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の結晶構造内に取り込まれていてもよく、あるいは、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物の結晶構造内に取り込まれず、その粒子表面や結晶粒界などに単体もしくは化合物として偏在していてもよい。
【0177】
〈メジアン径及び90%積算径(D90)〉
本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体のメジアン径は通常2μm以上、好ましくは2.5μm以上、より好ましくは3μm以上、更に好ましくは3.5μm以上、最も好ましくは4μm以上で、通常20μm以下、好ましくは19μm以下、より好ましくは18μm以下、更に好ましくは17μm以下、最も好ましくは15μm以下である。メジアン径がこの下限を下回ると、正極活物質層形成時の塗布性に問題を生ずる可能性があり、上限を超えると電池性能の低下を来たす可能性がある。
【0178】
また、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体の二次粒子の90%積算径(D90)は通常30μm以下、好ましくは25μm以下、より好ましくは22μm以下、最も好ましくは20μm以下で、通常3μm以上、好ましくは4μm以上、より好ましくは5μm以上、最も好ましくは6μm以上である。90%積算径(D90)が上記上限を超えると電池性能の低下を来たす可能性があり、下限を下回ると正極活物質層形成時の塗布性に問題を生ずる可能性がある。
【0179】
なお、本発明において、平均粒子径としてのメジアン径及び90%積算径(D90)は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって、屈折率1.24を設定し、粒子径基準を体積基準として測定されたものである。本発明では、測定の際に用いる分散媒として、0.1重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散(出力30W、周波数22.5kHz)後に測定を行った。
【0180】
〈平均一次粒子径〉
本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体の平均径(平均一次粒子径)としては、特に限定されないが、下限としては、好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.2μm以上、最も好ましくは0.3μm以上、また、上限としては、好ましくは2μm以下、より好ましくは1.5μm以下、さらに好ましくは1μm以下、最も好ましくは0.9μm以下である。平均一次粒子径が、上記上限を超えると、粉体充填性に悪影響を及ぼしたり、比表面積が低下したりするために、レート特性や出力特性等の電池性能が低下する可能性が高くなる可能性がある。上記下限を下回ると結晶が未発達であるために充放電の可逆性が劣る等の問題を生ずる可能性がある。
【0181】
なお、本発明における平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した平均径であり、30,000倍のSEM画像を用いて、10〜30個程度の一次粒子の粒子径の平均値として求めることができる。
【0182】
〈BET比表面積〉
本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体はまた、BET比表面積が、通常0.5m/g以上、好ましくは0.6m/g以上、更に好ましくは0.8m/g以上、最も好ましくは1.0m/g以上で、通常3m/g以下、好ましくは2.8m/g以下、更に好ましくは2.5m/g以下、最も好ましくは2.0m/g以下である。BET比表面積がこの範囲よりも小さいと電池性能が低下しやすく、大きいと嵩密度が上がりにくくなり、正極活物質形成時の塗布性に問題が発生しやすくなる可能性がある。
【0183】
なお、BET比表面積は、公知のBET式粉体比表面積測定装置によって測定できる。本発明では、大倉理研製:AMS8000型全自動粉体比表面積測定装置を用い、吸着ガスに窒素、キャリアガスにヘリウムを使用し、連続流動法によるBET1点式法測定を行った。具体的には粉体試料を混合ガスにより150℃の温度で加熱脱気し、次いで液体窒素温度まで冷却して混合ガスを吸着させた後、これを水により室温まで加温して吸着された窒素ガスを脱着させ、その量を熱伝導検出器によって検出し、これから試料の比表面積を算出した。
【0184】
〈水銀圧入法による細孔特性〉
本発明のリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体は、好ましくは水銀圧入法による測定において、特定の条件を満たす。
本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体の評価で採用する水銀圧入法について以下に説明する。
【0185】
水銀圧入法は、多孔質粒子等の試料について、圧力を加えながらその細孔に水銀を浸入させ、圧力と圧入された水銀量との関係から、比表面積や細孔径分布などの情報を得る手法である。
具体的には、まず、試料の入った容器内を真空排気した上で、容器内に水銀を満たす。水銀は表面張力が高く、そのままでは試料表面の細孔には水銀は浸入しないが、水銀に圧力をかけ、徐々に昇圧していくと、径の大きい細孔から順に径の小さい孔へと、徐々に細孔の中に水銀が浸入していく。圧力を連続的に増加させながら水銀液面の変化(つまり細孔への水銀圧入量)を検出していけば、水銀に加えた圧力と水銀圧入量との関係を表す水銀圧入曲線が得られる。
【0186】
ここで、細孔の形状を円筒状と仮定し、その半径をr、水銀の表面張力をδ、接触角をθとすると、細孔から水銀を押し出す方向への大きさは−2πrδ(cosθ)で表される(θ>90°なら、この値は正となる)。また、圧力P下で細孔へ水銀を押し込む方向への力の大きさはπrPで表されることから、これらの力の釣り合いから以下の数式(1)、数式(2)が導かれることになる。
【0187】
−2πrδ(cosθ)=πrP …(1)
Pr=−2δ(cosθ) …(2)
【0188】
水銀の場合、表面張力δ=480dyn/cm程度、接触角θ=140°程度の値が一般的に良く用いられる。これらの値を用いた場合、圧力P下で水銀が圧入される細孔の半径は以下の数式(3)で表される。
【0189】
【数2】

【0190】
すなわち、水銀に加えた圧力Pと水銀が浸入する細孔の半径rとの間には相関があることから、得られた水銀圧入曲線に基づいて、試料の細孔半径の大きさとその体積との関係を表す細孔分布曲線を得ることができる。例えば、圧力Pを0.1MPaから100MPaまで変化させると、7500nm程度から7.5nm程度までの範囲の細孔について測定が行えることになる。
【0191】
なお、水銀圧入法による細孔半径のおおよその測定限界は、下限が約2nm以上、上限が約200μm以下であり、後述する窒素吸着法に比べて、細孔半径が比較的大きな範囲における細孔分布の解析に向いていると言える。
水銀圧入法による測定は、水銀ポロシメータ等の装置を用いて行うことができる。水銀ポロシメータの具体例としては、Micromeritics社製オートポア、Quantachrome社製ポアマスター等が挙げられる。
【0192】
本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体は、水銀圧入法による水銀圧入曲線において、圧力3.86kPaから413MPaまでの昇圧時における水銀圧入量が、0.1cm/g以上、1.5cm/g以下であることが好ましい。水銀圧入量はより好ましくは0.15cm/g以上、最も好ましくは0.2cm/g以上であり、より好ましくは1.4cm/g以下、更に好ましくは1.3cm/g以下、最も好ましくは1.2cm/g以下である。この範囲の上限を超えると空隙が過大となり、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体を正極材料として用いる際に、正極板への正極活物質の充填率が低くなってしまい、電池容量が制約されてしまう。一方、この範囲の下限を下回ると、粒子間の空隙が過小となってしまうため、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体を正極材料として電池を作製した場合に、粒子間のリチウム拡散が阻害され、負荷特性が低下する。
【0193】
また、本発明に係る細孔分布曲線が有する、細孔半径1600nm以上、3000nm以下にピークトップが存在するピークの細孔容量は、好適には、通常0.10cm/g以上、好ましくは0.15cm/g以上、より好ましくは0.18cm/g以上、最も好ましくは0.20cm/g以上、また、通常0.4cm/g未満、好ましくは0.39cm/g以下、より好ましくは0.35cm/g以下、さらに好ましくは0.32cm/g以下、最も好ましくは0.30cm/g以下である。この範囲の上限を超えると空隙が過大となり、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体を正極材料として用いる際に、正極板への正極活物質の充填率が低くなってしまい、電池容量が制約されてしまう可能性がある。一方、この範囲の下限を下回ると、粒子間の空隙が過小となってしまうため、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体を正極材料として電池を作製した場合に、二次粒子間のリチウム拡散が阻害され、負荷特性が低下する可能性がある。
【0194】
〈サブピーク〉
本発明に係る細孔分布曲線は、上述のメインピークに加えて、複数のサブピークを有していてもよく、特には80nm以上、1600nm未満の細孔半径の範囲内にピークトップが存在するサブピークを有することが好ましい。 サブピークのピークトップは、細孔
半径が通常80nm以上、より好ましくは100nm以上、最も好ましくは120nm以上、また、通常1600nm未満、好ましくは1400nm以下、より好ましくは1200nm以下、更に好ましくは1000nm以下、最も好ましくは800nm以下の範囲に存在する。この範囲内であれば、電解液が粒子内部に浸透し、レート特性が向上する。細孔半径がこれを越えて大きい場合、容積も大きくなり、嵩密度の低下を招いてしまう可能
性がある。
【0195】
本発明に係る細孔分布曲線が有する細孔半径80nm以上、1600nm未満にピークトップが存在するサブピークの細孔容量は、好適には、通常0.001cm/g以上、好ましくは0.003cm/g以上、より好ましくは0.005cm/g以上、最も好ましくは0.007cm/g以上、また、通常0.20cm/g以下、好ましくは0.18cm/g以下、より好ましくは0.16cm/g以下、最も好ましくは0.15cm/g以下である。この範囲の上限を超えると二次粒子間の空隙が過大となり、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体を正極材料として用いる際に、正極板への正極活物質の充填率が低くなってしまい、電池容量が制約されてしまう可能性がある。一方、この範囲の下限を下回ると、二次粒子間の空隙が過小となってしまうため、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体を正極材料として電池を作製した場合に、二次粒子間のリチウム拡散が阻害され、負荷特性が低下する可能性がある。
【0196】
なお、本発明においては、水銀圧入法による細孔分布曲線が、細孔半径1600nm以上、3000nm以下にピークトップが存在するメインピークを少なくとも1つ以上有し、かつ細孔半径80nm以上、1600nm未満にピークトップが存在するサブピークを有するリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体が好ましいものとして挙げられる。
【0197】
本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体は、上述の水銀圧入法によって細孔分布曲線を測定した場合に、通常、以下に説明する特定のメインピークが現れる。
なお、本明細書において「細孔分布曲線」とは、細孔の半径を横軸に、その半径以上の半径を有する細孔の単位重量(通常は1g)当たりの細孔体積の合計を、細孔半径の対数で微分した値を縦軸にプロットしたものであり、通常はプロットした点を結んだグラフとして表す。特に本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体を水銀圧入法により測定して得られた細孔分布曲線を、以下の記載では適宜「本発明にかかる細孔分布曲線」という。
【0198】
また、本明細書において「メインピーク」とは、細孔分布曲線が有するピークの内で最も大きいピークをいい、「サブピーク」とは、細孔分布曲線が有するメインピーク以外のピークを表す。
また、本明細書において「ピークトップ」とは、細孔分布曲線が有する各ピークにおいて縦軸の座標値が最も大きい値をとる点をいう。
【0199】
〈メインピーク〉
本発明に係る細孔分布曲線が有するメインピークは、そのピークトップが、細孔半径が通常1600nm以上、より好ましくは1700nm以上、最も好ましくは1800nm以上、また、通常3000nm以下、好ましくは2900nm以下、より好ましくは2800nm以下、更に好ましくは2700nm以下、最も好ましくは2600nm以下の範囲に存在する。この範囲の上限を超えると、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体を正極材料として電池を作成した場合に、正極材内でのリチウム拡散が阻害され、又は導電パスが不足して、負荷特性が低下する可能性がある。一方、この範囲の下限を下回ると、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体を用いて正極を作製した場合に、導電材や結着剤の必要量が増加し、正極板(正極の集電体)への活物質の充填率が制約され、電池容量が制約される可能性がある。また、微粒子化に伴い、塗料化時の塗膜の機械的性質が硬く、又は脆くなり、電池組立て時の捲回工程で塗膜の剥離が生じ易くなる可能性がある。
【0200】
また、本発明に係る細孔分布曲線が有する、細孔半径1600nm以上、3000nm以下にピークトップが存在するピークの細孔容量は、好適には、通常0.1cm/g以上、好ましくは0.15cm/g以上、より好ましくは0.18cm/g以上、最も
好ましくは0.20cm/g以上、また、通常0.8cm/g以下、好ましくは0.7cm/g以下、より好ましくは0.6cm/g以下、最も好ましくは0.5cm/g以下である。この範囲の上限を超えると空隙が過大となり、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体を正極材料として用いる際に、正極板への正極活物質の充填率が低くなってしまい、電池容量が制約されてしまう可能性がある。一方、この範囲の下限を下回ると、粒子間の空隙が過小となってしまうため、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体を正極材料として電池を作製した場合に、二次粒子間のリチウム拡散が阻害され、負荷特性が低下する可能性がある。
【0201】
〈サブピーク〉
本発明に係る細孔分布曲線は、上述のメインピークに加えて、複数のサブピークを有していてもよく、特には80nm以上、1600nm未満の細孔半径の範囲内にピークトップが存在するサブピークを有することが好ましい。
また、特に、細孔半径1600nm以上、3000nm以下にピークトップが存在するメインピークを有する場合、細孔半径80nm以上、1600nm未満にピークトップが存在するサブピークを有することが好ましい。
【0202】
本発明に係る細孔分布曲線が有する細孔半径80nm以上、1600nm未満にピークトップが存在するサブピークの細孔容量は、好適には、通常0.001cm/g以上、好ましくは0.003cm/g以上、より好ましくは0.005cm/g以上、最も好ましくは0.007cm/g以上、また、通常0.3cm/g以下、好ましくは0.25cm/g以下、より好ましくは0.20cm/g以下、最も好ましくは0.18cm/g以下である。この範囲の上限を超えると二次粒子間の空隙が過大となり、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体を正極材料として用いる際に、正極板への正極活物質の充填率が低くなってしまい、電池容量が制約されてしまう可能性がある。一方、この範囲の下限を下回ると、二次粒子間の空隙が過小となってしまうため、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体を正極材料として電池を作製した場合に、二次粒子間のリチウム拡散が阻害され、負荷特性が低下する可能性がある。
【0203】
なお、本発明においては、水銀圧入法による細孔分布曲線が、細孔半径1600nm以上、3000nm以下にピークトップが存在するメインピークを少なくとも1つ以上有し、かつ細孔半径80nm以上、1600nm未満にピークトップが存在するサブピークを有するリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体が好ましいものとして挙げられる。
また、水銀圧入法による細孔分布曲線が、細孔半径1600nm以上、3000nm以下にピークトップが存在するメインピークを少なくとも1つ以上有し、かつ細孔半径80nm以上、1600nm未満にピークトップが存在するサブピークを有するリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体も好ましいものとして挙げられる。
【0204】
〈嵩密度〉
本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体の嵩密度は通常1.2g/cc以上、好ましくは1.3g/cc以上、より好ましくは1.4g/cc以上、最も好ましくは1.5g/cc以上で、通常3.0g/cc以下、好ましくは2.9g/cc以下、より好ましくは2.8g/cc以下、最も好ましくは2.7g/cc以下である。嵩密度がこの上限を上回ることは、粉体充填性や電極密度向上にとって好ましい一方、比表面積が低くなり過ぎる可能性があり、電池性能が低下する可能性がある。嵩密度がこの下限を下回ると粉体充填性や正極調製に悪影響を及ぼす可能性がある。
なお、本発明では、嵩密度は、リチウム遷移金属系化合物粉体5〜10gを10mlのガラス製メスシリンダーに入れ、ストローク約20mmで200回タップした時の粉体充填密度(嵩密度)g/ccとして求める。
【0205】
〈体積抵抗率〉
本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体を40MPaの圧力で圧密した時の体積抵抗率の値は、下限としては、1×10Ω・cm以上がさらに好ましく、3×10Ω・cm以上がさらに好ましく、5×10Ω・cm以上が最も好ましい。上限としては、1×10Ω・cm以下が好ましく、8×10Ω・cm以下がより好ましく、5×10Ω・cm以下がさらに好ましく、3×10Ω・cm以下が最も好ましい。この体積抵抗率がこの上限を超えると電池とした時の負荷特性が低下する可能性がある。一方、体積抵抗率がこの下限を下回ると、電池とした時の安全性などが低下する可能性がある。
【0206】
なお、本発明において、リチウム遷移金属系化合物粉体の体積抵抗率は、四探針・リング電極、電極間隔5.0mm、電極半径1.0mm、試料半径12.5mmで、印加電圧リミッタを90Vとして、リチウム遷移金属系化合物粉体を40MPaの圧力で圧密した状態で測定した体積抵抗率である。体積抵抗率の測定は、例えば、粉体抵抗測定装置(例えば、ダイアインスツルメンツ社製、ロレスターGP粉体抵抗測定システム)を用い、粉体用プローブユニットにより、所定の加圧下の粉体に対して行うことができる。
【0207】
また、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体は、正極活物質の結晶性を高めるために酸素含有ガス雰囲気下で高温焼成を行って焼成されたものであることが好ましい。焼成温度の下限は特に、上記組成式(I)で示される組成を持つリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物においては、通常900℃以上、好ましくは920℃以上、より好ましくは940度以上、更に好ましくは950℃以上、最も好ましくは960℃以上であり、上限は1200℃以下、好ましくは1180℃以下、更に好ましくは1160℃以下、最も好ましくは1150℃以下である。焼成温度が低すぎると異相が混在し、また結晶構造が発達せずに格子歪が増大する。また比表面積が大きくなりすぎる。逆に焼成温度が高すぎると一次粒子が過度に成長し、粒子間の焼結が進行し過ぎ、比表面積が小さくなり過ぎる。
【0208】
〈含有炭素濃度C〉
本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体の含有炭素濃度C(重量%)値は、通常0.005重量%以上、好ましくは0.01重量%以上、更に好ましくは0.015重量%以上、最も好ましくは0.02重量%以上であり、通常0.25重量%以下、好ましくは0.2重量%以下、より好ましくは0.15重量%以下、更に好ましくは0.1重量%以下、最も好ましくは0.07重量%以下である。この下限を下回ると電池性能が低下する可能性があり、上限を超えると電池とした時のガス発生による膨れが増大したり電池性能が低下したりする可能性がある。
【0209】
本発明において、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体の含有炭素濃度Cは、後述の実施例の項で示すように、酸素気流中燃焼(高周波加熱炉式)赤外吸収法による測定で求められる。
なお、後述の炭素分析により求めたリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体の含有炭素成分は、炭酸化合物、特に炭酸リチウムの付着量についての情報を示すものとみなすことができる。これは、炭素分析により求めた炭素量を、全て炭酸イオン由来と仮定した数値と、イオンクロマトグラフィーにより分析した炭酸イオン濃度が概ね一致することによる。
一方、電子伝導性を高めるための手法として導電性カーボンと複合化処理をしたりする場合には、前記規定範囲を超えるC量が検出されることがあるが、そのような処理が施された場合におけるC値は、前記規定範囲に限定されるものではない。
【0210】
[リチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体の製造方法]
本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体を製造する方法は、特定の製法に限定されるものではないが、リチウム化合物と、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuから選ばれる少なくとも1種類以上の遷移金属化合物と、必要に応じてFe、Cr、V、Ti、Cu、Ga、Bi、Sn、B、P、Zn、Mg、Ge、Nb、W、Ta、Be、Al、Ca、Sc及びZrから選ばれる少なくとも1種類以上の化合物とを、液体媒体中で粉砕し
、これらを均一に分散させたスラリーを得るスラリー調製工程と、得られたスラリーを噴霧乾燥する噴霧乾燥工程と、得られた噴霧乾燥体を焼成する焼成工程を含む本発明のリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体の製造方法により、好適に製造される。
【0211】
例えば、リチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体を例にあげて説明すると、リチウム化合物、ニッケル化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、並びに添加剤1と添加剤2を液体媒体中に分散させたスラリーを噴霧乾燥して得られた噴霧乾燥体を、酸素含有ガス雰囲気中で焼成して製造することができる。
【0212】
以下に、本発明の好適態様であるリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体の製造方法を例にあげて、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体の製造方法について詳細に説明する。
【0213】
〈スラリー調製工程〉
本発明の方法により、リチウム遷移金属系化合物粉体を製造するに当たり、スラリーの調製に用いる原料化合物のうち、リチウム化合物としては、LiCO、LiNO、LiNO、LiOH、LiOH・HO、LiH、LiF、LiCl、LiBr、LiI、CHOOLi、LiO、LiSO、ジカルボン酸Li、クエン酸Li、脂肪酸Li、アルキルリチウム等が挙げられる。これらリチウム化合物の中で好ましいのは、焼成処理の際にSO、NO等の有害物質を発生させない点で、窒素原子や硫黄原子、ハロゲン原子を含有しないリチウム化合物であり、また、焼成時に分解ガスを発生する等して、噴霧乾燥粉体の二次粒子内に分解ガスを発生するなどして空隙を形成しやすい化合物であり、これらの点を勘案すると、LiCO、LiOH、LiOH・HOが好ましく、特にLiCOが好ましい。これらのリチウム化合物は1種を単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0214】
また、ニッケル化合物としては、Ni(OH)、NiO、NiOOH、NiCO、2NiCO・3Ni(OH)・4HO、NiC・2HO、Ni(NO
・6HO、NiSO、NiSO・6HO、脂肪酸ニッケル、ニッケルハロゲン化物等が挙げられる。この中でも、焼成処理の際にSO、NO等の有害物質を発生させない点で、 Ni(OH)、NiO、N iOOH、NiCO、2NiCO・3Ni(OH)・4HO、NiC・2HOのようなニッケル化合物が好ましい。また、更に工業原料として安価に入手できる観点、及び反応性が高い、という観点からNi(OH)、NiO、NiOOH、NiCO、さらに焼成時に分解ガスを発生する等して、噴霧乾燥粉体の二次粒子内に空隙を形成しやすい、という観点から、特に好ましいのはNi(OH)、NiOOH、NiCOである。これらのニッケル化合物は1種を単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0215】
また、マンガン化合物としてはMn、MnO、Mn等のマンガン酸化物、MnCO、Mn(NO、MnSO、酢酸マンガン、ジカルボン酸マンガン、クエン酸マンガン、脂肪酸マンガン等のマンガン塩、オキシ水酸化物、塩化マンガン等のハロゲン化物等が挙げられる。これらのマンガン化合物の中でも、MnO、Mn、Mn、MnCOは、焼成処理の際にSO、NO等のガスを発生せず、更に工業原料として安価に入手できるため好ましい。これらのマンガン化合物は1種を単独で
使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0216】
また、コバルト化合物としては、Co(OH)、CoOOH、CoO、Co、Co、Co(OCOCH・4HO、CoCl、Co(NO・6HO、Co(SO・7HO、CoCO等が挙げられる。中でも、焼成工程の際にSO、NO等の有害物質を発生させない点で、Co(OH)、CoOOH、CoO、Co、Co、CoCOが好ましく、更に好ましくは、工業的に安価に入手できる点及び反応性が高い点でCo(OH)、CoOOHである。加えて焼成時に分解ガスを発生する等して、噴霧乾燥粉体の二次粒子内に空隙を形成しやすい、という観点から、特に好ましいのはCo(OH)、CoOOH、CoCOである。これらのコバルト化合物は1種を単独で使用しても良く、2種以上を併用しても良い。
【0217】
また、上記のLi、Ni、Mn、Co原料化合物以外にも他元素置換を行って前述の異元素を導入したり、後述する噴霧乾燥にて形成される二次粒子内の空隙を効率よく形成させたりすることを目的とした化合物群を使用することが可能である。なお、ここで使用する、二次粒子の空隙を効率よく形成させることを目的として使用する化合物の添加段階は、その性質に応じて、原料混合前又は混合後の何れかを選択することが可能である。特に、混合工程によって機械的剪断応力が加わるなどして分解しやすい化合物は混合工程後に添加することが好ましい。
【0218】
原料の混合方法は特に限定されるものではなく、湿式でも乾式でも良い。例えば、ボールミル、振動ミル、ビーズミル等の装置を使用する方法が挙げられる。原料化合物を水、アルコール等の液体媒体中で混合する湿式混合は、より均一な混合が可能であり、かつ焼成工程において混合物の反応性を高めることができるので好ましい。
混合の時間は、混合方法により異なるが、原料が粒子レベルで均一に混合されていれば良く、例えばボールミル(湿式又は乾式)では通常1時間から2日間程度、ビーズミル(湿式連続法)では滞留時間が通常0.1時間から6時間程度である。
【0219】
なお、原料の混合段階においてはそれと並行して原料の粉砕が為されていることが好ましい。粉砕の程度としては、粉砕後の原料粒子の粒径が指標となるが、平均粒子径(メジアン径)として通常0.7μm以下、好ましくは0.6μm以下、さらに好ましくは0.55μm以下、最も好ましくは0.5μm以下とする。粉砕後の原料粒子の平均粒子径が大きすぎると、焼成工程における反応性が低下するのに加え、組成が均一化し難くなる。ただし、必要以上に小粒子化することは、粉砕のコストアップに繋がるので、平均粒子径が通常0.01μm以上、好ましくは0.02μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上となるように粉砕すれば良い。このような粉砕程度を実現するための手段としては特に限定されるものではないが、湿式粉砕法が好ましい。具体的にはダイノーミル等を挙げることができる。
【0220】
なお、本発明においてスラリー中の粉砕粒子のメジアン径は、公知のレーザー回折/散乱式粒度分布測定装置によって、屈折率1.24を設定し、粒子径基準を体積基準に設定して測定されたものである。本発明では、測定の際に用いる分散媒として、0.1重量%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を用い、5分間の超音波分散(出力30W、周波数22.5kHz)後に測定を行った。
【0221】
〈噴霧乾燥工程〉
湿式混合後は、次いで通常乾燥工程に供される。乾燥方法は特に限定されないが、生成する粒子状物の均一性や粉体流動性、粉体ハンドリング性能、乾燥粒子を効率よく製造できる等の観点から噴霧乾燥が好ましい。
【0222】
(噴霧乾燥粉体)
本発明のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体等のリチウム遷移金属系化合物粉体の製造方法においては、原料化合物と添加剤1及び添加剤2とを湿式粉砕して得られたスラリーを噴霧乾燥することにより、一次粒子が凝集して二次粒子を形成してなる粉体を得る。一次粒子が凝集して二次粒子を形成してなる噴霧乾燥粉体は、本発明品の噴霧乾燥粉体の形状的特徴である。形状の確認方法としては、例えば、SEM観察、断面SEM観察が挙げられる。
【0223】
本発明のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体等のリチウム遷移金属系化合物粉体の焼成前駆体でもある噴霧乾燥により得られる粉体のメジアン径(ここでは超音波分散をかけずに測定した値)は通常25μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは18μm以下、最も好ましくは16μm以下となるようにする。ただし、あまりに小さな粒径は得にくい傾向にあるので、通常は3μm以上、好ましくは4μm以上、より好ましくは5μm以上である。噴霧乾燥法で粒子状物を製造する場合、その粒子径は、噴霧形式、加圧気体流供給速度、スラリー供給速度、乾燥温度等を適宜選定することによって制御することができる。
【0224】
即ち、例えば、リチウム化合物、ニッケル化合物、マンガン化合物、及びコバルト化合物と添加剤1と添加剤2とを液体媒体中に分散させたスラリーを噴霧乾燥後、得られた粉体を焼成してリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体を製造するに当たり、噴霧乾燥時のスラリー粘度をV(cp)、スラリー供給量をS(L/min)、ガス供給量をG(L/min)とした際、スラリー粘度Vが、50cp≦V≦10000cpであって、かつ、気液比G/Sが、500≦G/S≦10000となる条件で噴霧乾燥を行う。
【0225】
スラリー粘度V(cp)が低すぎると一次粒子が凝集して二次粒子を形成してなる粉体を得にくくなる虞があり、高過ぎると供給ポンプが故障したり、ノズルが閉塞する虞がある。従って、スラリー粘度V(cp)は、下限値として通常50cp以上、好ましくは100cp以上、更に好ましくは300cp以上、最も好ましくは500cpであり、上限値としては通常10000cp以下、好ましくは7500cp以下、更に好ましくは6500cp以下、最も好ましくは6000cp以下である。
【0226】
また、気液比G/Sが上記下限を下回ると二次粒子サイズが粗大化したり、乾燥性が低下しやすくなるなどして、上限を超えると生産性が低下する虞がある。従って、気液比G/Sは、下限値として通常400以上、好ましくは600以上、更に好ましくは700以上、最も好ましくは800以上であり、上限値としては通常10000以下、好ましくは9000以下、更に好ましくは8000以下、最も好ましくは7500以下である。
【0227】
スラリー供給量Sやガス供給量Gは、噴霧乾燥に供するスラリーの粘度や用いる噴霧乾燥装置の仕様等によって適宜設定される。
本発明の方法においては、前述のスラリー粘度V(cp)を満たし、かつ用いる噴霧乾燥装置の仕様に適したスラリー供給量とガス供給量を制御して、前述の気液比G/Sを満たす範囲で噴霧乾燥を行えばよく、その他の条件については、用いる装置の種類等に応じて適宜設定されるが、更に次のような条件を選択することが好ましい。
【0228】
即ち、スラリーの噴霧乾燥は、通常、50℃以上、好ましくは70℃以上、更に好ましくは120℃以上、最も好ましくは140℃以上で、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、更に好ましくは230℃以下、最も好ましくは210℃以下の温度で行うことが好ましい。この温度が高すぎると得られた造粒粒子が中空構造の多いものとなる可能性があり、粉体の充填密度が低下する虞がある。一方、低すぎると粉体出口部分での水分結
露による粉体固着・閉塞等の問題が生じる可能性がある。
【0229】
<焼成工程>
このようにして得られた焼成前駆体は、次いで焼成処理される。
ここで、本発明において「焼成前駆体」とは、噴霧乾燥粉体を処理して得られる焼成前のリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物等のリチウム遷移金属系化合物の前駆体を意味する。例えば、前述の焼成時に分解ガスを発生又は昇華して、二次粒子内に空隙を形成させる化合物を、上述の噴霧乾燥粉体に含有させて焼成前駆体としてもよい。
【0230】
この焼成条件は、組成や使用するリチウム化合物原料にも依存するが、傾向として、焼成温度が高すぎると一次粒子が過度に成長し、粒子間の焼結が進行し過ぎ、比表面積が小さくなり過ぎる。逆に低すぎると異相が混在し、また結晶構造が発達せずに格子歪が増大する。また比表面積が大きくなりすぎる。焼成温度としては、通常1050℃以上、好ましくは1060℃以上、より好ましくは1070℃以上、更に好ましくは1080℃以上、最も好ましくは1090℃以上であり、上限は1200℃以下、好ましくは1190℃以下、更に好ましくは1180℃以下、最も好ましくは1170℃以下である。
【0231】
焼成には、例えば、箱形炉、管状炉、トンネル炉、ロータリーキルン等を使用することができる。焼成工程は、通常、昇温・最高温度保持・降温の三部分に分けられる。二番目の最高温度保持部分は必ずしも一回とは限らず、目的に応じて二段階又はそれ以上の段階をふませてもよく、二次粒子を破壊しない程度に凝集を解消することを意味する解砕工程又は、一次粒子或いはさらに微小粉末まで砕くことを意味する粉砕工程を挟んで、昇温・最高温度保持・降温の工程を二回又はそれ以上繰り返しても良い。
【0232】
焼成を二段階で行う場合、一段目はLi原料が分解し始める温度以上、融解する温度以下で保持することが好ましく、たとえば炭酸リチウムを用いる場合には一段目の保持温度は400℃以上が好ましく、より好ましくは450℃以上、さらに好ましくは500℃以上、最も好ましくは550℃以上が好ましく、通常850℃以下、より好ましくは800℃以下、さらに好ましくは780℃以下、最も好ましくは750℃以下である。
【0233】
最高温度保持工程に至る昇温工程は通常1℃/分以上15℃/分以下の昇温速度で炉内を昇温させる。この昇温速度があまり遅すぎても時間がかかって工業的に不利であるが、あまり速すぎても炉によっては炉内温度が設定温度に追従しなくなる。昇温速度は、好ましくは2℃/分以上、より好ましくは3℃/分以上で、好ましくは10℃/分以下、より好ましくは8℃/分以下である。
【0234】
最高温度保持工程での保持時間は、温度によっても異なるが、通常前述の温度範囲であれば30分以上、好ましくは1時間以上、更に好ましくは2時間以上、最も好ましくは3時間以上で、50時間以下、好ましくは25時間以下、更に好ましくは20時間以下、最も好ましくは15時間以下である。焼成時間が短すぎると結晶性の良いリチウム遷移金属系化合物粉体が得られ難くなり、長すぎるのは実用的ではない。焼成時間が長すぎると、その後解砕が必要になったり、解砕が困難になったりするので、不利である。
【0235】
降温工程では、通常0.1℃/分以上15℃/分以下の降温速度で炉内を降温させる。降温速度があまり遅すぎても時間がかかって工業的に不利であるが、あまり速すぎても目的物の均一性に欠けたり、容器の劣化を早めたりする傾向にある。降温速度は、好ましくは1℃/分以上、より好ましくは3℃/分以上で、好ましくは10℃/分以下、より好ましくは8℃/分以下である。
【0236】
焼成時の雰囲気は、得ようとするリチウム遷移金属系化合物粉体の組成によって適切な
酸素分圧領域があるため、それを満足するための適切な種々ガス雰囲気が用いられる。ガス雰囲気としては、例えば、酸素、空気、窒素、アルゴン、水素、二酸化炭素、及びそれらの混合ガス等を挙げることができる。本発明において具体的に実施しているリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体については、空気等の酸素含有ガス雰囲気を用いることができる。通常は酸素濃度が1体積%以上、好ましくは10体積%以上、より好ましくは15体積%以上で、100体積%以下、好ましくは50体積%以下、より好ましくは25体積%以下の雰囲気とする。
【0237】
このような製造方法において、本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体、例えば前記特定の組成を有するリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体を製造するには、製造条件を一定とした場合には、リチウム化合物、ニッケル化合物、マンガン化合物、及びコバルト化合物と、添加剤1と添加剤2とを液体媒体中に分散させたスラリーを調製する際、各化合物の混合比を調整することで、目的とするLi/Ni/Mn/Coのモル比を制御することができる。
このようにして得られたリチウムニッケルマンガンコバルト系複合酸化物粉体等の本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体によれば、容量が高く、低温出力特性、保存特性に優れた、性能バランスの良いリチウム二次電池用正極材料が提供される。
【0238】
[リチウム二次電池用正極]
本発明のリチウム二次電池用正極は、本発明のリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体及び結着剤を含有する正極活物質層を集電体上に形成してなるものである。
正極活物質層は、通常、正極材料と結着剤と更に必要に応じて用いられる導電材及び増粘剤等を、乾式で混合してシート状にしたものを正極集電体に圧着するか、或いはこれらの材料を液体媒体中に溶解又は分散させてスラリー状にして、正極集電体に塗布、乾燥することにより作成される。
【0239】
正極集電体の材質としては、通常、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ、チタン、タンタル等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が用いられる。中でも金属材料が好ましく、アルミニウムが特に好ましい。また、形状としては、金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜、エキスパンドメタル、パンチメタル、発泡メタル等が、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。中でも、金属薄膜が、現在工業化製品に使用されているため好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成しても良い。
【0240】
正極集電体として薄膜を使用する場合、その厚さは任意であるが、通常1μm以上、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、また通常100mm以下、好ましくは1mm以下、より好ましくは50μm以下の範囲が好適である。上記範囲よりも薄いと、集電体として必要な強度が不足する可能性がある一方で、上記範囲よりも厚いと、取り扱い性が損なわれる可能性がある。
【0241】
正極活物質層の製造に用いる結着剤としては、特に限定されず、塗布法の場合は、電極製造時に用いる液体媒体に対して安定な材料であれば良いが、具体例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、芳香族ポリアミド、セルロース、ニトロセルロース等の樹脂系高分子、SBR(スチレン・ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム)、フッ素ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン・プロピレンゴム等のゴム状高分子、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体)、スチレン・エチレン・ブタジエン・エチレン共重合体、スチレン・イソプレンスチレンブロック共重合体及びその水素添加物等の熱可塑性エラストマ
ー状高分子、シンジオタクチック−1,2−ポリブタジエン、ポリ酢酸ビニル、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・α−オレフィン共重合体等の軟質樹脂状高分子、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン・エチレン共重合体等のフッ素系高分子、アルカリ金属イオン(特にリチウムイオン)のイオン伝導性を有する高分子組成物等が挙げられる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0242】
正極活物質層中の結着剤の割合は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、更に好ましくは5重量%以上であり、通常80重量%以下、好ましくは60重量%以下、更に好ましくは40重量%以下、最も好ましくは10重量%以下である。結着剤の割合が低すぎると、正極活物質を十分保持できずに正極の機械的強度が不足し、サイクル特性等の電池性能を悪化させてしまう可能性がある一方で、高すぎると、電池容量や導電性の低下につながる可能性がある。
【0243】
正極活物質層には、通常、導電性を高めるために導電材を含有させる。その種類に特に制限はないが、具体例としては、銅、ニッケル等の金属材料や、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛(グラファイト)、アセチレンブラック等のカーボンブラック、ニードルコークス等の無定形炭素等の炭素材料などを挙げることができる。なお、これらの物質は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。正極活物質層中の導電材の割合は、通常0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは1重量%以上であり、また、通常50重量%以下、好ましくは30重量%以下、更に好ましくは20重量%以下である。導電材の割合が低すぎると導電性が不十分になることがあり、逆に高すぎると電池容量が低下することがある。
【0244】
スラリーを形成するための液体媒体としては、正極材料であるリチウム遷移金属系化合物粉体、結着剤、並びに必要に応じて使用される導電材及び増粘剤を溶解又は分散することが可能な溶媒であれば、その種類に特に制限はなく、水系溶媒と有機系溶媒のどちらを用いても良い。水系溶媒の例としては水、アルコールなどが挙げられ、有機系溶媒の例としてはN−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、ジメチルエーテル、ジメチルアセタミド、ヘキサメチルホスファルアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、キシレン、キノリン、ピリジン、メチルナフタレン、ヘキサン等を挙げることができる。特に水系溶媒を用いる場合、増粘剤に併せて分散剤を加え、SBR等のラテックスを用いてスラリー化する。なお、これらの溶媒は、1種を単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用しても良い。
【0245】
正極活物質層中の正極材料としての本発明のリチウム遷移金属系化合物粉体の含有割合は、通常10重量%以上、好ましくは30重量%以上、更に好ましくは50重量%以上であり、通常99.9重量%以下、好ましくは99重量%以下である。正極活物質層中のリチウム遷移金属系化合物粉体の割合が多すぎると正極の強度が不足する傾向にあり、少なすぎると容量の面で不十分となることがある。
【0246】
また、正極活物質層の厚さは、通常10〜200μm程度である。
正極のプレス後の極板密度としては、下限としては、通常、2g/cm以上、好ましくは2.2g/cm以上、特に好ましくは2.4g/cm以上、上限としては、通常、4.2g/cm以下、好ましくは4.0g/cm以下、特に好ましくは3.8g/cm以下である。
なお、塗布、乾燥によって得られた正極活物質層は、正極活物質の充填密度を上げるために、ローラープレス等により圧密化することが好ましい。
かくして、本発明のリチウム二次電池用正極が調製できる。
【0247】
2−2.負極
負極は通常、正極と同様に、負極集電体上に負極活物質層を形成して構成される。
負極集電体の材質としては、銅、ニッケル、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼等の金属材料や、カーボンクロス、カーボンペーパー等の炭素材料が用いられる。中でも金属材料の場合、金属箔、金属円柱、金属コイル、金属板、金属薄膜等が、炭素材料の場合、炭素板、炭素薄膜、炭素円柱等が挙げられる。中でも、金属薄膜が、現在工業化製品に使用されていることから好ましい。なお、薄膜は適宜メッシュ状に形成しても良い。負極集電体として金属薄膜を使用する場合、その好適な厚さの範囲は、正極集電体について上述した範囲と同様である。
【0248】
<負極活物質>
負極活物質層は、負極活物質を含んで構成される。負極活物質としては、電気化学的にリチウムイオンを吸蔵・放出可能なものであれば、その種類に他に制限はないが、通常は安全性の高さの面から、リチウムを吸蔵、放出できる炭素材料が用いられる。
炭素材料としては、その種類に特に制限はないが、人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛(グラファイト)や、様々な熱分解条件での有機物の熱分解物が挙げられる。有機物の熱分解物としては、石炭系コークス、石油系コークス、石炭系ピッチの炭化物、石油系ピッチの炭化物、或いはこれらピッチを酸化処理したものの炭化物、ニードルコークス、ピッチコークス、フェノール樹脂、結晶セルロース等の炭化物等及びこれらを一部黒鉛化した炭素材、ファーネスブラック、アセチレンブラック、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。中でも黒鉛が好ましく、特に好適には、種々の原料から得た易黒鉛性ピッチに高温熱処理を施すことによって製造された、人造黒鉛、精製天然黒鉛、又はこれらの黒鉛にピッチを含む黒鉛材料等であって、種々の表面処理を施したものが主として使用される。これらの炭素材料は、それぞれ1種を単独で用いても良いし、2種以上を組み合わせて用いても良い。
【0249】
負極活物質として黒鉛材料を用いる場合、学振法によるX線回折で求めた格子面(002面)のd値(層間距離:d002)が、通常0.335nm以上、また、通常0.34nm以下、好ましくは0.337nm以下であるものが好ましい。
また、黒鉛材料の灰分が、黒鉛材料の重量に対して通常1重量%以下、中でも0.5重量%以下、特に0.1重量%以下であることが好ましい。
【0250】
更に、学振法によるX線回折で求めた黒鉛材料の結晶子サイズ(Lc)が、通常30nm以上、中でも50nm以上、特に100nm以上であることが好ましい。
また、レーザー回折・散乱法により求めた黒鉛材料のメジアン径が、通常1μm以上、中でも3μm以上、更には5μm以上、特に7μm以上、また、通常100μm以下、中でも50μm以下、更には40μm以下、特に30μm以下であることが好ましい。
【0251】
また、黒鉛材料のBET法比表面積は、通常0.5m/g以上、好ましくは0.7m/g以上、より好ましくは1.0m/g以上、更に好ましくは1.5m/g以上、また、通常25.0m/g以下、好ましくは20.0m/g以下、より好ましくは15.0m/g以下、更に好ましくは10.0m/g以下である。
更に、黒鉛材料についてアルゴンレーザー光を用いたラマンスペクトル分析を行った場合に、1580〜1620cm−1の範囲で検出されるピークPの強度Iと、1350〜1370cm−1の範囲で検出されるピークPの強度Iとの強度比I/Iが、0以上0.5以下であるものが好ましい。また、ピークPの半価幅は26cm−1以下が好ましく、25cm−1以下がより好ましい。
【0252】
なお、上述の各種の炭素材料の他に、リチウムの吸蔵及び放出が可能なその他の材料の負極活物質として用いることもできる。炭素材料以外の負極活物質の具体例としては、酸化錫や酸化ケイ素などの金属酸化物、Li2.6Co0.4Nなどの窒化物、リチウム単体やリチウムアルミニウム合金等のリチウム合金などが挙げられる。これらの炭素材料以外の材料は、それぞれ1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いても良い。また、上述の炭素材料と組み合わせて用いても良い。
【0253】
負極活物質層は、通常は正極活物質層の場合と同様に、上述の負極活物質と、結着剤と、必要に応じて導電材及び増粘剤とを液体媒体でスラリー化したものを負極集電体に塗布し、乾燥することにより製造することができる。スラリーを形成する液体媒体や結着剤、増粘剤、導電材等としては、正極活物質層について上述したものと同様のものを使用することができる。
【0254】
2−3.セパレータ
正極と負極との間には、短絡を防止するために、通常はセパレータを介在させる。この場合、本発明の非水系電解液は、通常はこのセパレータに含浸させて用いる。
セパレータの材料や形状については特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。中でも、本発明の非水系電解液に対し安定な材料で形成された、樹脂、ガラス繊維、無機物等が用いられ、保液性に優れた多孔性シート又は不織布状の形態の物等を用いるのが好ましい。
【0255】
樹脂、ガラス繊維セパレータの材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、芳香族ポリアミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテルスルホン、ガラスフィルター等を用いることができる。中でも好ましくはガラスフィルター、ポリオレフィンであり、さらに好ましくはポリオレフィンである。これらの材料は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0256】
セパレータの厚さは任意であるが、通常1μm以上であり、5μm以上が好ましく、8μm以上がさらに好ましく、また、通常50μm以下であり、40μm以下が好ましく、30μm以下がさらに好ましい。セパレータが、上記範囲より薄過ぎると、絶縁性や機械的強度が低下する場合がある。また、上記範囲より厚過ぎると、レート特性等の電池性能が低下する場合があるばかりでなく、非水系電解液二次電池全体としてのエネルギー密度が低下する場合がある。
【0257】
さらに、セパレータとして多孔性シートや不織布等の多孔質のものを用いる場合、セパレータの空孔率は任意であるが、通常20%以上であり、35%以上が好ましく、45%以上がさらに好ましく、また、通常90%以下であり、85%以下が好ましく、75%以下がさらに好ましい。空孔率が、上記範囲より小さ過ぎると、膜抵抗が大きくなってレート特性が悪化する傾向がある。また、上記範囲より大き過ぎると、セパレータの機械的強度が低下し、絶縁性が低下する傾向にある。
【0258】
また、セパレータの平均孔径も任意であるが、通常0.5μm以下であり、0.2μm以下が好ましく、また、通常0.05μm以上である。平均孔径が、上記範囲を上回ると、短絡が生じ易くなる。また、上記範囲を下回ると、膜抵抗が大きくなりレート特性が低下する場合がある。
一方、無機物の材料としては、例えば、アルミナや二酸化ケイ素等の酸化物、窒化アルミや窒化ケイ素等の窒化物、硫酸バリウムや硫酸カルシウム等の硫酸塩が用いられ、粒子形状もしくは繊維形状のものが用いられる。
【0259】
形態としては、不織布、織布、微多孔性フィルム等の薄膜形状のものが用いられる。薄膜形状では、孔径が0.01〜1μm、厚さが5〜50μmのものが好適に用いられる。上記の独立した薄膜形状以外に、樹脂製の結着剤を用いて上記無機物の粒子を含有する複合多孔層を正極及び/又は負極の表層に形成させてなるセパレータを用いることができる。例えば、正極の両面に90%粒径が1μm未満のアルミナ粒子を、フッ素樹脂を結着剤として多孔層を形成させることが挙げられる。
【0260】
2−4.電池設計
<電極群>
電極群は、上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介してなる積層構造のもの、及び上記の正極板と負極板とを上記のセパレータを介して渦巻き状に捲回した構造のもののいずれでもよい。電極群の体積が電池内容積に占める割合(以下、電極群占有率と称する)は、通常40%以上であり、50%以上が好ましく、また、通常90%以下であり、80%以下が好ましい。
【0261】
電極群占有率が、上記範囲を下回ると、電池容量が小さくなる。また、上記範囲を上回ると空隙スペースが少なく、電池が高温になることによって部材が膨張したり電解質の液成分の蒸気圧が高くなったりして内部圧力が上昇し、電池としての充放電繰り返し性能や高温保存等の諸特性を低下させたり、さらには、内部圧力を外に逃がすガス放出弁が作動する場合がある。
【0262】
<集電構造>
集電構造は、特に制限されないが、本発明の非水系電解液による高電流密度の充放電特性の向上をより効果的に実現するには、配線部分や接合部分の抵抗を低減する構造にすることが好ましい。この様に内部抵抗を低減させた場合、本発明の非水系電解液を使用した効果は特に良好に発揮される。
【0263】
電極群が上記の積層構造のものでは、各電極層の金属芯部分を束ねて端子に溶接して形成される構造が好適に用いられる。一枚の電極面積が大きくなる場合には、内部抵抗が大きくなるので、電極内に複数の端子を設けて抵抗を低減することも好適に用いられる。電極群が上記の捲回構造のものでは、正極及び負極にそれぞれ複数のリード構造を設け、端子に束ねることにより、内部抵抗を低くすることができる。
【0264】
<外装ケース>
外装ケースの材質は用いられる非水系電解液に対して安定な物質であれば特に制限されない。具体的には、ニッケルめっき鋼板、ステンレス、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム合金等の金属類、又は、樹脂とアルミ箔との積層フィルム(ラミネートフィルム)が用いられる。軽量化の観点から、アルミニウム又はアルミニウム合金の金属、ラミネートフィルムが好適に用いられる。
【0265】
金属類を用いる外装ケースでは、レーザー溶接、抵抗溶接、超音波溶接により金属同士を溶着して封止密閉構造とするもの、若しくは、樹脂製ガスケットを介して上記金属類を用いてかしめ構造とするものが挙げられる。上記ラミネートフィルムを用いる外装ケースでは、樹脂層同士を熱融着することにより封止密閉構造とするもの等が挙げられる。シール性を上げるために、上記樹脂層の間にラミネートフィルムに用いられる樹脂と異なる樹脂を介在させてもよい。特に、集電端子を介して樹脂層を熱融着して密閉構造とする場合には、金属と樹脂との接合になるので、介在する樹脂として極性基を有する樹脂や極性基を導入した変成樹脂が好適に用いられる。
【0266】
<保護素子>
保護素子として、異常発熱や過大電流が流れた時に抵抗が増大するPTC(Positive Temperature Coefficient)、温度ヒューズ、サーミスター、異常発熱時に電池内部圧力や内部温度の急激な上昇により回路に流れる電流を遮断する弁(電流遮断弁)等を使用することができる。上記保護素子は高電流の通常使用で作動しない条件のものを選択することが好ましく、保護素子がなくても異常発熱や熱暴走に至らない設計にすることがより好ましい。
【0267】
<外装体>
本発明の非水系電解液二次電池は、通常、上記の非水系電解液、負極、正極、セパレータ等を外装体内に収納して構成される。この外装体は、特に制限されず、本発明の効果を著しく損なわない限り、公知のものを任意に採用することができる。具体的に、外装体の材質は任意であるが、通常は、例えばニッケルメッキを施した鉄、ステンレス、アルミニウム又はその合金、ニッケル、チタン等が用いられる。
また、外装体の形状も任意であり、例えば円筒型、角形、ラミネート型、コイン型、大型等のいずれであってもよい。
【0268】
〈満充電状態における正極の充電電位〉
本発明のリチウム二次電池は、以下の実施例においては、満充電状態における正極の充電電位が4.2V(vs.Li/Li)程度となるように設計されている電池で効果を証明している。しかし、本発明のリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系複合酸化物粉体は、より高い充電電位で充電するように設計されたリチウム二次電池に使用した場合においても、本願発明の効果を有効に発揮する。
【0269】
以上、本発明のリチウム二次電池の一般的な実施形態について説明したが、本発明のリチウム二次電池は上記実施形態に制限されるものではなく、その要旨を超えない限りにおいて、各種の変形を加えて実施することが可能である。
【実施例】
【0270】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
[負極の作製]
炭素質材料としてのグラファイト98質量部に、増粘剤及びバインダーとして、それぞれ、カルボキシメチルセルロースナトリウムの水性ディスパージョン(カルボキシメチルセルロースナトリウムの濃度1質量%)100質量部及びスチレン−ブタジエンゴムの水性ディスパージョン(スチレン−ブタジエンゴムの濃度50質量%)1質量部を加え、ディスパーザーで混合してスラリー化した。得られたスラリーを厚さ10μmの銅箔に塗布して乾燥し、プレス機で圧延したものを、活物質層のサイズとして幅30mm、長さ40mm、及び幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出し、それぞれ実施例1〜2及び比較例1〜2に用いる負極とした。
【0271】
[正極の作製]
(実施例1および比較例1)
LiCO、NiCO、Mn、CoOOH、HBO、WOを、Li:Ni:Mn:Co:B:W=1.15:0.45:0.45:0.10:0.0025:0.015のモル比となるように秤量し、混合した後、これに純水を加えてスラリーを調製した。このスラリーを攪拌しながら、循環式媒体攪拌型湿式粉砕機を用いて、スラリー中の固形分をメジアン径0.50μmに粉砕した。
【0272】
次に、このスラリーを、二流体ノズル型スプレードライヤー(大川原化工機(株)製:LT−8型)を用いて噴霧乾燥した。この時の乾燥ガスとして空気を用い、乾燥入り口温
度は150℃とした。スプレードライヤーにより噴霧乾燥して得られた粒子状粉末、約15gをアルミナ製るつぼに仕込み、空気雰囲気下、1100℃で2時間焼成(昇降温速度15℃/min.)した後、解砕して、層状構造を有するリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を得た。また、(Ni,Mn,Co)トータルのモル比を1とした時、B及びWの含有モル比率はそれぞれ0.25モル%、1.5モル%であった。メジアン径は7μm、嵩密度は1.6g/cc、BET比表面積は1.4m/gであった。
なお、この粉体物性は、表1に示すとおりである。
【0273】
これを正極活物質として85質量%と、導電材としてのアセチレンブラック10質量%と、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVdF)5質量%とを、N−メチルピロリドン溶媒中で混合して、スラリー化した。得られたスラリーを、厚さ15μmのアルミ箔に塗布して乾燥し、プレス機で圧延したものを、活物質層のサイズとして幅30mm、長さ40mm、及び幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出し、実施例1および比較例1に用いる正極とした。極板密度は、2.4g/cmであった。
【0274】
(実施例2および比較例2)
Ni(OH)、CoOOH、AlOOHを、Ni:Co:Al=0.8:0.15:0.05のモル比となるように秤量し、混合した後、これに純水を加えてスラリーを調製した。このスラリーを攪拌しながら、循環式媒体攪拌型湿式粉砕機を用いて、スラリー中の固形分を粉砕した。
【0275】
次に、このスラリーを、二流体ノズル型スプレードライヤー(大川原化工機(株)製:LT−8型)を用いて噴霧乾燥した。この時の乾燥ガスとして空気を用い、乾燥入り口温度は150℃とした。スプレードライヤーにより噴霧乾燥して得られた粒子状粉末、約15gをアルミナ製るつぼに仕込み、LiOHをLi:Ni:Co:Al=1.13:0.8:0.15:0.05空気雰囲気下、で焼成した後、解砕して、層状構造を有するリチウムニッケルコバルトアルミ複合酸化物を得た。メジアン径は7μm、嵩密度は1.7〜2.0g/cc、BET比表面積は0.5〜0.7m/gであった。
また、正極活物質としてLiNi0.80Co0.15Al0.05を用いた以外は上記と同様に作製した正極を、実施例2および比較例2に用いる正極とした。なお、極板密度は、2.4g/cmであった。
【0276】
[電解液の製造]
乾燥アルゴン雰囲気下、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)およびエチルメチルカーボネート(EMC)との混合物(体積比30:30:40)に乾燥したLiPFを1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この基本電解液を比較例2に用いる電解液とした。また、この基本電解液にビニレンカーボネート(VC)を1wt%の割合で添加た電解液を比較例1に用いる電解液とした。また、この基本電解液にYがC=0である式(2)に記載の化合物を1wt%の割合で混合した
電解液を、実施例2に用いる電解液とした。また、この基本電解液にビニレンカーボネートおよびYがC=0である式(2)に記載の化合物をそれぞれ1wt%、0.2wt%の割合で添加した電解液を実施例1に用いる電解液とした。
【0277】
[リチウム二次電池の製造]
上記の正極、負極、及びポリエチレン製のセパレータを、負極、セパレータ、正極の順に積層して電池要素を作製した。この電池要素をアルミニウム(厚さ40μm)の両面を樹脂層で被覆したラミネートフィルムからなる袋内に正極と負極の端子を突設させながら挿入した後、表1に記載の電解液をそれぞれ袋内に注入し、真空封止を行い、シート状電池を作製し、それぞれ実施例1〜2及び比較例1〜2に用いる電池とした。
【0278】
[慣らし運転]
リチウム二次電池を、電極間の密着性を高めるためにガラス板で挟んだ状態で、25℃において0.2Cに相当する定電流で慣らし運転を行った。
[高温保存特性の評価]
慣らし運転が終了した電池を25℃において0.2Cの低電流で4.2V(V.S. Li/Li)まで充電した後、85℃で3日間放置し、室温まで冷却した後、発生したガス量を測定した。保存後に発生したガス量は、エタノール浴中に電池を沈めた際の浮力を高温保存前後で比較することにより算出した。実施例1および比較例1の評価結果を表1に、実施例2および比較例2の評価結果を表2に示す。なお、比較例のガス発生量から実施例のガス発生量を差し引いたガス発生量の差をΔとした。
【0279】
【表1】

【0280】
【表2】

【0281】
表1から明らかなように、本発明に係る非水系電解液を用いた電池(実施例1〜2)は、本発明に係る非水系電解液でないものを用いなかった電池(比較例1〜2)に比べて、高温保存時のガス発生量が低い。また、本発明の化合物の添加量が1wt%以下と少なかったり、ビニレンカーボネートとの併用添加を行っても、その効果を発揮することが分かる。
【0282】
<実施例3、4、及び比較例3〜5>
[正極の作製]
正極活物質として上述の実施例1の化合物を85質量%と、導電材としてのアセチレンブラック10質量%と、結着材としてのポリフッ化ビニリデン5質量%とを、N−メチルピロリドン溶媒中で混合して、スラリー化した。得られたスラリーを、予め導電助剤を塗布した厚さ15μmのアルミ箔に塗布して乾燥し、プレス機で圧延したものを、活物質層のサイズとして幅30mm、長さ40mm、及び幅5mm、長さ9mmの未塗工部を有する形状に切り出し、実施例3、4、及び比較例3〜5に用いる正極とした。

【0283】
[電解液の製造]
乾燥アルゴン雰囲気下、モノフルオロエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートとの混合物(体積比30:30:40)に乾燥したLiPFを1mol/Lの割合となるように溶解して基本電解液を調製した。この基本電解液に、表3に記載の割合で化合物を混合し、実施例3、4、及び比較例3〜5に用いる電解液とした。
【0284】
[リチウム二次電池の製造]
上記正極並びに上記基本電解液を使用した以外、上記実施例と同様にしてシート状電池を作製した。
【0285】
[サイクル特性の評価]
リチウム二次電池を、電極間の密着性を高めるためにガラス板で挟んだ状態で、25℃において0.2Cに相当する定電流で容量確認を行った後、60℃において、2Cの定電流で充電後、2Cの定電流で放電する過程を1サイクルとして、300サイクル実施した。(300サイクル目の放電容量)÷(1サイクル目の放電容量)×100の計算式から、放電容量維持率を求めた。
【0286】
【表3】

【0287】
表3から明らかなように、本発明に係る非水系電解液を用いた電池(実施例3、4)は、本発明に係る非水系電解液でない非水系電解液を用いた電池(比較例3〜6)と比較して、サイクル容量維持率に優れる。このように、一般式(1)で表される化合物であれば、どのような化合物を用いてもサイクル容量維持率に優れることがわかる。
一方で、環外に炭素−炭素二重結合を持つ化合物である比較例4や、環内に多重結合を持つ化合物である比較例3では、仮に(C)の化合物と共に導入しても、耐久性向上効果は発現しない。
【0288】
この理由としては、一般式(1)で表される化合物と共に(C)の化合物を導入した場合、一般式(1)で表される化合物が形成する電極保護層に(C)の化合物が取り込まれ、高度に架橋することで電極表面耐久性が著しく向上し、結果として上記のような優れた電池耐久性能の向上効果が発揮されるが(実施例3、4)、一般式(1)で表される範囲
に含まれない化合物を用いた場合では、電極保護層の安定性が低いためと推測される (比較例3、4)。
【0289】
さらに、電池電圧がさらにより高い状態であっても、本発明の効果は顕著に示されている。以上のことから、本発明に係る非水系電解液を用いると、如何なる電極設計であっても耐久性向上効果を発現することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0290】
本発明の非水系電解液二次電池は高温保存特性を改善できる。
そのため、本発明の非水系電解液二次電池は、公知の各種の用途に用いることが可能である。具体例としては、例えば、ノートパソコン、ペン入力パソコン、モバイルパソコン、電子ブックプレーヤー、携帯電話、携帯ファックス、携帯コピー、携帯プリンター、ヘッドフォンステレオ、ビデオムービー、液晶テレビ、ハンディークリーナー、ポータブルCD、ミニディスク、トランシーバー、電子手帳、電卓、メモリーカード、携帯テープレコーダー、ラジオ、バックアップ電源、モーター、自動車、バイク、原動機付自転車、自転車、照明器具、玩具、ゲーム機器、時計、電動工具、ストロボ、カメラ、負荷平準化用電源、自然エネルギー貯蔵電源等が挙げられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム塩とこれを溶解する非水系溶媒を含有してなる非水系電解液と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な負極、並びに正極を備えた非水系電解液電池であって、該正極が、以下の(A)で表される条件のリチウム遷移金属系化合物粉体を含み、電解液が、下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする、非水系電解液電池。
(A)層状構造に帰属する結晶構造を含んで構成され、組成が下記組成式(I)で示されるリチウム遷移金属系化合物粉体。
LixNiM1M21-y-z 2-δ (I)
〔式(I)中、xは、1≦x≦1.3であり、yは、0.4≦y≦0.9であり、zは、0≦z≦0.6、0≦1−y−z≦0.3であり、M1は、Co及び/またはMnを示し、M2は、Fe、Cr、V、Ti、Cu、Ga、Bi、Sn、B、P、Zn、Mg、Ge、Nb、W、Ta、Be、Al、Ca、Sc及びZrから選択される少なくとも一種の元素を示し、δは、−0.1≦δ≦0.1の数を表す。〕
【化1】

(式中、XとZはCR、C=O、C=N−R、C=P−R、O、S、N−R、P−Rを表し、同一でも異なっていても良い。YはCR、C=O、S=O、S(=O)、P(=O)―R、P(=O)−ORを表す。式中、R及びRは水素、ハロゲン、または、官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基であり、互いに同一であっても異なっていても良い。Rは官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基である。Rは、Li、NRまたは、官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基である。Rは官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基であり、互いに同一であっても異なっていても良い。nおよびmは0以上の整数を表す。また隣接する環内の炭素が互いにさらなる結合を作り、当該炭素のRが各ひとつずつ減っていても良い。Wは上記Rをあらわす。)
【請求項2】
(I)式中、xが1<x≦1.2であることを特徴とする請求項1に記載の非水系電解液電池。
【請求項3】
上記一般式(1)で表される化合物が、(2)式で表される化合物であることを特徴とする、請求項1または2に記載の非水系電解液電池。
【化2】

(YはC=O、S=O、S(=O)、P(=O)―R、P(=O)−ORを表す。R
は官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基である。Rは、Li、NRまたは、官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基である。Rは官能基を有しても良い炭素数1から20の炭化水素基であり、互いに同一であっても異なっていても良い。)
【請求項4】
一般式(1)であらわされる化合物の配合量が、非水系電解液100質量%中、0.001質量%以上、5質量%以下であることを特徴とする、請求項1ないし3の何れか1項に記載の非水系電解液電池。
【請求項5】
上記非水系電解液が、二重結合を有する環状カーボネート及びフッ素原子を有する環状カーボネートから選ばれる群の中から少なくとも一種以上を含有することを特徴とする、請求項1ないし4の何れか1項に記載の非水系電解液電池。
【請求項6】
上記リチウム遷移金属系化合物粉体のBET比表面積が0.5m/g以上、3m/g以下であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
【請求項7】
上記リチウム遷移金属系化合物粉体のメジアン径は2μm以上、20μm以下であることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
【請求項8】
上記正極の極板密度が2g/cm以上であることを特徴とする請求項1ないし7のいずれか1項に記載の非水系電解液電池。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れか1項に記載の非水系電解液電池に使用される非水系電解液。

【公開番号】特開2012−64573(P2012−64573A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−179697(P2011−179697)
【出願日】平成23年8月19日(2011.8.19)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】