説明

非水電解液二次電池用正極

【課題】電池のサイクル特性を向上させ得る非水電解液二次電池用正極を提供すること。
【解決手段】非水電解液二次電池用正極は、正極活物質として、主成分である第1の含Li遷移金属複合酸化物と、副成分である第2の含Li遷移金属複合酸化物とを含む。第2の含Li遷移金属複合酸化物としてLi(LixMn2xCo1-3x)O2(式中、0<x<1/3である)を用いた。第1及び第2の含Li遷移金属複合酸化物の合計量に対し、第1の含Li遷移金属複合酸化物の配合量が50重量%以上でかつ99重量%以下であり、第2の含Li遷移金属複合酸化物の配合量が1重量%以上でかつ50重量%未満であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池などの非水電解液二次電池に用いられる正極に関する。また本発明は、該正極を備えた非水電解液二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池の負極活物質には、一般にグラファイトが使用されている。しかし、近年の電子機器の多機能化に伴いその消費電力が著しく増加しており、大容量の二次電池がますます必要となっていることから、グラファイトを用いている限り、近い将来そのニーズに応えるのは困難である。そこで、グラファイトよりも高容量の材料であるSn系物質やSi系物質等の合金系の材料からなる負極活物質の開発が活発になされている。
【0003】
上述の合金系の材料からなる負極活物質は一般的に不可逆容量が大きく、また、充放電を繰り返すと、負極にリチウムが蓄積され、容量が次第に低下していく。したがって、これら負極活物質が有する高容量の特性を活用するためには、これら負極活物質を、高容量でありかつ適切な不可逆容量を有する正極活物質と組み合わせて使用する必要がある。
【0004】
上述の合金系の材料からなる負極活物質については、これに予め不可逆容量を与えておくことで、電池のサイクル特性を向上させることが可能である。そのための手段としてリチウムを予めドープした負極活物質を有する負極を用い、これを電池に組み込むことが考えられる。しかし、この手段を採用する場合には、電池の組み立て等の操作を不活性ガス雰囲気下で行う必要があり、操作が煩雑になる。そこで、組み立て後の電池における負極活物質に、不可逆容量としてのリチウムをドープすることができれば有利である。
【0005】
ところで本出願人は先に、層状構造を有するコバルト酸リチウムのコバルトが3Co3+←→2Mn4++Li+に従ってマンガンとリチウムで置換され、化学式がLi(LixMn2xCo1-3x)O2(0<x<1/3)で表されるリチウム二次電池用正極材料を提案した(特許文献1参照)。特許文献1に記載の正極材料を用いることで、充放電サイクル特性を向上させ得るという有利な効果が奏される。しかし特許文献1においては、この正極材料と組み合わせて用いられる負極材料は金属リチウムなので、上述した初回充電時の不可逆容量の問題は生じない。したがって、特許文献1に記載の正極材料を、不可逆材料の大きな負極活物質であるSn系物質やSi系物質からなる合金系の材料と組み合わせて用いた場合に、どのような効果が奏されるかは、同文献の記載からは明らかでない。従来から多く使用されている正極活物質であるLiCoO2等と比べて、前記のLi(LixMn2xCo1-3x)O2の容量は低いことから、高容量の電池設計を目指すSn系物質やSi系物質からなる負極活物質とLi(LixMn2xCo1-3x)O2との組み合わせは想定されていなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平8−273665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、Sn系物質やSi系物質からなる負極活物質が有する高容量の特性を十分に活用し得る非水電解液二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、正極活物質として、主成分である第1の含Li遷移金属複合酸化物と、副成分である第2の含Li遷移金属複合酸化物とを含み、第2の含Li遷移金属複合酸化物としてLi(LixMn2xCo1-3x)O2(式中、0<x<1/3である)を用いたことを特徴とする非水電解液二次電池用正極を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の正極を用いて電池を構成すると、初回充電時に正極から十分な量の不可逆容量が負極に与えられるので、2回目以降の充放電のサイクル特性が向上する。したがって本発明の正極は、不可逆容量の大きな負極活物質を有する負極と組み合わせて用いられることが特に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の正極は、例えば集電体の少なくとも一面に正極活物質層が形成されてなるものである。正極活物質層には活物質が含まれている。この活物質として、本発明においては、主成分である第1の含Li遷移金属複合酸化物(以下、「第1正極活物質」ともいう)と、副成分である第2の含Li遷移金属複合酸化物(以下、「第2正極活物質」ともいう)とを含むものが用いられる。そして第2正極活物質として、本発明においては、下記の式(1)で表される化合物が用いられる。
Li(LixMn2xCo1-3x)O2 (1)
(式中、0<x<1/3、好ましくは0.01≦x≦0.2、更に好ましくは0.03≦x≦0.1である。)
【0011】
この2種類の正極活物質の組み合わせを用いる本発明の正極から電池を構成すると、初回充電時に十分な量の不可逆容量(具体的には正極活物質に含まれるリチウムイオン)を負極活物質に与えることが可能となり、それに起因して電池のサイクル特性が向上する。具体的には、初回充電時に、式(1)で表される正極活物質に含まれるリチウムの一部が負極活物質に供給される。そして、供給されたリチウムの一部が不可逆容量として負極活物質に蓄積される。したがって初回充電よりも後の充放電は、負極活物質にリチウムが吸蔵された状態から開始されるので、初回充電よりも後の充放電はほぼ100%可逆的に行われるようになる。この理由は、負極活物質中のリチウムと安定的に合金化するサイトが、初回充電におけるリチウムの吸蔵に優先的に使用されるので、2回目以降の充電時には、リチウムを容易に吸蔵・放出できるサイトにリチウムが吸蔵されるためである。
【0012】
初回充電時に十分な量の不可逆容量を負極活物質に与えることが可能であることは、特に、本発明の正極を、不可逆容量が大きな物質であるSi又はSnを含む負極活物質を有する負極と組み合わせて電池を構成する場合に極めて有利となる。第1正極活物質のみを用い、充放電終止電圧を制御することで負極に与える不可逆容量を増加させることが可能な場合もある。しかし、LiCoO2等の一般に用いられる正極活物質では、十分な不可逆容量を与えることは容易ではない。また、放電容量の減少につながる場合もある。これに対して本発明においては、第1正極活物質に加えて、第2正極活物質を添加剤的に用い、初回の充電終止電圧のみを高く設定することで(例えばLi/Li+基準で4.6Vに設定することで)、負極に十分な不可逆容量を与えることができる。
【0013】
不可逆容量の程度は、正極から供給されたリチウムのうち、放電によって正極に戻らずに負極活物質に蓄積した量が、負極活物質の理論容量に対して9〜50%、特に9〜40%、とりわけ10〜30%となるような程度であることが好ましい。負極活物質に蓄積したリチウムの量の上限値を、負極活物質の理論容量に対して50%とすることで、負極活物質の初回以降の充放電で利用可能な容量を維持し、また負極活物質の膨張に起因する体積エネルギー密度の低下を抑制し、炭素材料からなる従来の負極活物質に比較して、エネルギー密度を十分に高くすることが可能になる。特に、負極活物質に蓄積したリチウムの量の上限値を、負極活物質の理論容量に対して30%とすることで、前記のエネルギー密度に関する利点に加えて、初回充電時に正極活物質から放出されるリチウムの量と初回充電以降の充放電時に正負極間を可逆的に移動するリチウムの量とのバランスが良好になる。このバランスをとることによって、初回充電以降の充放電時に正負極間を可逆的に移動するリチウムの量が十分になる。なお予備充電時に多量のリチウムを負極活物質に与えすぎると、初回充電以降の充放電時に正負極間を可逆的に移動するリチウムの量が減少する傾向にある。なお、本発明における不可逆容量とは、初回充電時に正極から負極へ移動するリチウム量に相当する容量から、初回充電に引き続く初回放電時に負極から正極に戻るリチウム量に相当する容量を減じた容量のことを言う。
【0014】
前記の不可逆容量に関連して、初回充電によって正極から負極へ供給されるリチウムの量は、放電によって正極へ戻る量を考慮して、負極活物質の理論容量の50〜90%とすることが好ましい。この理由は、初回充電によって、負極活物質中のリチウムと合金化するサイトが、該活物質の全体にわたって形成されやすくなり、初回以降の充電において負極活物質の全体、ひいては負極活物質層のほぼ全域が、満遍なくリチウムを容易に吸蔵できる状態になるからである。負極の理論容量とは、リチウムを対極とした2極セルを作製し、この2極セルを0.01Vまで充電した後に1.5Vまで放電したときに得られる放電容量のことである。負極活物質の理論容量を測定するときの再現性を高める観点から、前記の充電においては、定電流モード、レート0.05Cの条件を採用し、セルの電圧が0.01Vに達した時点で定電圧モードに切り替え、電流値が定電流モード時の1/5に減少するまで充電を行うことが好ましい。同様の観点から、放電条件は、定電流モード、レート0.05Cを採用することが好ましい。
【0015】
負極の理論容量に関連して、正極の理論容量とは、次の方法で測定される値のことである。すなわち、後述する実施例1に記載の方法で作製した正極と、金属リチウム負極とを用い、同実施例に記載の方法でコイン電池を作製する。充放電条件を次のとおりとし、得られた放電容量を正極の理論容量とする。
充電:0.2C(5時間率)の定電流で4.3Vまで充電後、4.3Vからは定電位とし、電流値が先の定電流値の1/10に達すると終了。
放電:0.2Cの定電流で3.0Vに達すると終了。
【0016】
リチウムの一部を不可逆容量として負極活物質に蓄積させることには次の利点もある。即ち、初回充電後に行う各回の放電時には、負極活物質中にリチウムが常時吸蔵された状態になっているので、その電子伝導性が常に良好な状態にあり、負極の分極が小さくなる。これによって、放電末期における負極の電圧の急激な低下が起こりにくくなる。このことは、負極活物質として電子伝導性の低い材料であるSi系の材料、特にSi単体を用いる場合に特に有利である。
【0017】
主成分である第1正極活物質は、リチウムを含む遷移金属の複合酸化物からなり、かつ第2正極活物質であるLi(LixMn2xCo1-3x)O2とは異なる物質である。第1正極活物質に含まれる遷移金属としては、例えばCo、Mn、Ni、V、Fe、Ti、Sc、Yなどの1種又は2種以上が挙げられる。例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiCrO2、LiVO2、LiFeO2、LiTiO2、Li(CoaMnbNic)O2(a、b、cは正数であり、a+b+c=1である。)などが挙げられる。これらの含Li遷移金属複合酸化物のうち、Co、Mn又はNiのうちの少なくとも1種を含むものが、容量、サイクル特性及び経済性等の観点から特に好ましく用いられる。具体的には、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、Li(CoaMnbNic)O2(a、b、cは前記に同じである。)などが挙げられる。第1正極活物質は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0018】
式(1)で表される第2正極活物質は、層状構造を有する化合物であるコバルト酸リチウム(LiCoO2)のコバルトを、3Co3+←→2Mn4++Li+に従ってマンガンとリチウムで置換して、ホスト構造の安定化を図ったものである。詳細には、三価のコバルトを、四価のマンガンで置換することによって、式(1)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物にリチウムイオンがインターカレート及びデインターカレートするときの結晶格子の膨張や収縮が抑制される。式(1)で表される化合物である限り、第2正極活物質は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
式(1)において、Mnの量を示す係数である2xは、0.02≦2x≦0.4(すなわち0.01≦x≦0.2)の範囲が特に好適であることが、本発明者らの検討の結果判明した。Mnの量がこの範囲内であると、式(1)で表される第2正極活物質の結晶構造が強固になるので(Co−O距離が短くなって)、充電のカット・オフ電圧を高めても結晶構造が破壊されにくくなる(このことを「耐電圧が高い」とも言う。)。
【0020】
式(1)で表されるリチウム第2正極活物質が、従来の正極活物質、例えば第1正極活物質などと比較して耐電圧が高いことは、例えば図1に示す測定結果から支持される。図1は、式(1)で表される第2正極活物質としてLi(Li0.03Mn0.06Co0.91)O2(以下、「LMCO」とも言う。)を用い、かつ第1正極活物質は用いないで、後述する実施例1に記載の方法に準じて作製した正極と、リチウム金属負極とを用い、同実施例に記載の方法で作製した電池を用いての測定結果である。比較として、Li(Li0.03Mn0.06Co0.91)O2に代えてLiCoO2(以下、LCOという)を用いた電池の測定結果も示されている。測定手順は次のとおりである。初回充電の電圧を4.6V又は4.3Vに設定し、次いで3.0Vまで放電した電池を解体し、正極を取り出して、XAFSを用い、正極活物質におけるMnの配位数(つまりMn周囲のOの配位数、但しLMCOの場合のみ)、Co−O距離、Coの配位数(つまりCo周囲のOの配位数)及びMn−O距離(LMCOの場合のみ)を測定した。
【0021】
図1に示す結果から明らかなように、LMCOは、予備充電の深度を深くするとMnの配位数が減少している。これに対してCoの配位数については、LMCOは、予備充電の深度を深くしても、配位数に変化はみられない。このことは、LMCOは、充電の際にMnの周囲のOを放出して酸素欠損を生じることで電荷補償を行っていることを意味する。その結果、LMCOは、予備充電の深度を深くするとCo−O距離が短くなる。Co−O距離が短くなることで結合力が増し、LMCOは予備充電の深度を深くしても破壊されにくくなる。つまり高耐電圧が発現する。その結果、LMCOを正極活物質として用いた二次電池はサイクル特性が優れたものになる。これに対してLCOは、予備充電の深度を深くするとCo−O距離が伸長する。その結果、結合力が低下するので、耐電圧を高くすることができない。このような理由により、LMCOは、これをLCO等とともに用い、高容量の負極活物質、例えばSiやSnを含む活物質と組み合わせて使用することが非常に有利である。
【0022】
図1に示す結果から導かれる、「LMCOは充電の際にMnの周囲に酸素欠損が生じて電荷を補償し、Co−O距離が短くなることで結合力が増す。」という結論は、「充電の際にMnの価数変化は起こらない。」ということが前提である。この前提が正しいことを確認することを目的として、充電時におけるLMCO中のMn及びCoの価数変化をXAFSで測定した。その結果を図2に示す。同図の測定結果は、LMCOとしてLi(Li0.03Mn0.06Co0.91)O2に代えてLi(Li0.2Mn0.4Co0.4)O2を用いる以外は、図1に示す測定結果と同様の手順で得られたものである。LMCOとしてLi(Li0.2Mn0.4Co0.4)O2を用いた理由は、Li(Li0.03Mn0.06Co0.91)O2よりも、Mnの配位数やMn−O距離の測定の感度が高いからである。図2に示す結果は、満充電状態となるまで充電を行い、次いで完全放電状態となるまで放電を行う過程におけるLMCO中のMn及びCoの配位数並びにMn−O距離及びCo−O距離を示したものである。同図に示す結果から、Mnは、充電/放電過程において、配位数が大きく変化しており、かつその変化が不可逆的であることが判る。このことは、Mnの周囲に酸素欠損が生じていることを意味している。また、Mn−O距離に変化が認められないことも判る。このことは、Mnに価数変化が起こっていないことを意味している。一方、Coについては、充電/放電過程において、配位数に変化がないことが判る。このことは、Coの周囲に酸素欠損が生じていないことを意味している。また、満充電状態においてCo−O距離が最小になっていることが判る。このことは、Coに価数変化(酸化)が起こっていることを意味している。
【0023】
以上の観点から、耐電圧の高い正極活物質である第2正極活物質を含む本発明の正極を備えた電池の充電を行うときに、該電池を組み立てた後に初めて行う充電のカット・オフ電圧を、該充電より後の充電のカット・オフ電圧よりも高く設定して行うことが有利である。この場合、電池を組み立てた後に初めて行う充電のカット・オフ電圧を、4.4V(対Li/Li+)以上、特に4.4〜5.0V、とりわけ4.5〜5.0Vに設定して行うことが特に有利である。
【0024】
また、電池を組み立てた後に初めて行う充電より後の充電のカット・オフ電圧における正極の容量に対する、負極の理論容量が1.1〜3.0倍となるように、使用する正負極の活物質それぞれの量を設定し、電池を組み立てた後に初めて行う充電のカット・オフ電圧を、該充電より後の充電のカット・オフ電圧よりも高い電圧に設定して、負極の理論容量の9〜50%の不可逆容量を、該負極に蓄積させることが、負極全体が活性化する観点から好ましい。換言すれば、電池を組み立てた後に初めて行う充電よりも後の充電におけるカット・オフ電圧は、電池を組み立てた後に初めて行う充電のカット・オフ電圧よりも低く設定することが好ましい。尤も、カット・オフ電圧を低くし過ぎると、従来の正極活物質を用いたリチウム二次電池と同様の条件で充放電を行うことになり、式(1)で表される第2正極活物質を用いた利点を十分に生かせないことになる。一方、カット・オフ電圧を高くし過ぎると、非水電解液がダメージを受ける傾向となる。したがって電池を組み立てた後に初めて行う充電よりも後の充電におけるカット・オフ電位は、Li/Li+を基準として4.3〜5.0V、特に4.35〜4.5Vとすることが好ましい。
【0025】
充電においては、従来のリチウム二次電池と同様に、定電流制御方式や定電流定電圧制御方式を採用することが好ましい。あるいは、電池を組み立てた後に初めて行う充電に定電流定電圧制御方式を採用し、それよりも後の充電に定電流制御方式を採用してもよい。
【0026】
充電条件と異なり、放電条件は、電池の性能に臨界的な影響を及ぼすものではなく、従来のリチウム二次電池と同様の条件を採用することができる。具体的には二次電池における放電のカット・オフ電圧は、2.0〜3.5V、特に2.5〜3.0Vとすることが好ましい。
【0027】
式(1)で表される第2正極活物質は、例えば以下の方法によって好適に製造される。原料としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム等のリチウム塩と、二酸化マンガン、炭酸マンガン、オキシ水酸化マンガン、硫酸マンガン等のマンガン化合物と、酸化コバルト、炭酸コバルト、水酸化コバルト、硫酸コバルト等のコバルト化合物を用いることができる。これらの原料を所定の混合比(但しリチウム化合物のみ過剰とする)にて混合し、大気あるいは酸素雰囲気中で800〜1100℃で焼成する。これにより目的とする固溶体が得られる。
【0028】
本発明において、第1正極活物質は主成分として用いられ、第2正極活物質は副成分として用いられる。主成分とは、配合量が相対的に最も多い成分をいう。副成分とは、主成分よりも配合量が相対的に少ない成分をいう。第1正極活物質は、主として正極を高容量とするために用いられる。一方、第2正極活物質は、主としてサイクル特性を向上させるために用いられる。第2正極活物質はサイクル特性の向上の点からは有利な材料ではあるものの、第1正極活物質と比較して容量や真密度、レート特性が低いので、その使用量を過度に多くすることは有利でなく、サイクル特性の向上とのバランスで使用量が決定される。この観点から、本発明における第1正極活物質の配合量は、第1及び第2正極活物質の合計量に対して50重量%以上でかつ99重量%以下、特に60重量%以上でかつ95重量%以下、とりわけ80重量%以上でかつ95重量%以下であることが好ましい。一方、第2正極活物質の配合量は、第1及び第2正極活物質の合計量に対して1重量%以上でかつ50重量%以下、特に5重量%以上でかつ40重量%以下、とりわけ5重量%以上でかつ20重量%以下であることが好ましい。第1及び第2正極活物質の配合量のこの範囲内に設定することで、体積当たりのエネルギー密度やレート特性を高く保ちつつ、電池のサイクル特性を向上させることが可能となる。第1正極活物質として2種以上の活物質を用いる場合には、それらの合計量が前記の範囲内となればよい。同様に、第2正極活物質として2種以上の活物質を用いる場合には、それらの合計量が前記の範囲内となればよい。
【0029】
本発明の正極は、第1正極活物質及び第2正極活物質を、アセチレンブラック等の導電剤及びポリフッ化ビニリデン等の結着剤とともに適当な溶媒に懸濁し、正極合剤を作製し、これをアルミニウム箔等からなる集電体の少なくとも一面に塗布、乾燥した後、ロール圧延、プレスすることにより得られる。
【0030】
本発明の正極は、非水電解液二次電池の負極として従来知られているものと組み合わせて用いられ、二次電池となされる。負極としては、初回充電時の不可逆容量が大きい負極活物質を有するものを用いることが、本発明の正極の有する利点を最大限に発揮し得る点から好ましいが、そのような負極との組み合わせに制限されるものではない。初回充電時の不可逆容量が大きい負極活物質を有する負極としては、例えばSi又はSnを含む負極活物質を有する負極が挙げられる。
【0031】
Siを含む負極活物質はリチウムイオンの吸蔵放出が可能なものである。その例としては、シリコン単体、シリコンと金属との合金、シリコン酸化物、シリコン窒化物、シリコンホウ化物などを用いることができる。これらの材料はそれぞれ単独で、あるいはこれらを混合して用いることができる。前記の合金に用いられる金属としては、例えばCu、Ni、Co、Cr、Fe、Ti、Pt、W、Mo及びAuからなる群から選択される1種類以上の元素が挙げられる。これらの金属のうち、Cu、Ni、Coが好ましく、特に電子伝導性に優れる点、及びリチウム化合物の形成能の低さの点から、Cu、Niを用いることが望ましい。特に好ましいSiを含む負極活物質は、リチウム吸蔵量の高さの点からシリコン単体又はシリコン酸化物であり、とりわけシリコン単体が好ましい。
【0032】
一方、Snを含む負極活物質の例としては、スズ単体、スズと金属との合金などを用いることができる。これらの材料はそれぞれ単独で、あるいはこれらを混合して用いることができる。スズと合金を形成する前記の金属としては、例えばCu、Ni、Co、Cr、Fe、Ti、Pt、W、Mo及びAuからなる群から選択される1種類以上の元素が挙げられる。これらの金属のうち、Cu、Ni、Coが好ましい。合金の一例として、Sn−Co−C合金が挙げられる。
【0033】
負極活物質層は、例えば、前記の負極活物質からなる連続薄膜層であり得る。この場合、化学気相蒸着法、物理気相蒸着法、スパッタリング法等の各種薄膜形成手段によって、集電体の少なくとも一面に薄膜からなる負極活物質層が形成される。この薄膜をエッチングしてその厚み方向に延びる空隙を多数形成してもよい。エッチングには、水酸化ナトリウム水溶液等を用いた湿式エッチング法の他、ドライガスやプラズマ等を用いた乾式エッチング法が採用できる。連続薄膜層の形態以外に、負極活物質層は、前記の負極活物質の粒子を含む塗膜層、前記の負極活物質の粒子を含む焼結体層等であり得る。
【0034】
特に好ましい負極活物質層の構造は、Si又はSnを含む活物質の粒子を含有し、該粒子の表面の少なくとも一部がリチウム化合物の形成能の低い金属材料で被覆されていると共に、該金属材料で被覆された該粒子どうしの間に空隙が形成されている構造のものである。このような構造の負極活物質層を採用することで、充放電による体積変化に起因して活物質の粒子に加わる応力で、該粒子が微粉化して活物質層から脱落することが効果的に防止される。また、活物質層の電子伝導性を高めることができる。
【0035】
活物質の粒子の表面を被覆する金属材料は、該粒子の構成材料と異なる材料である。該金属材料は、リチウムイオンを含む非水電解液が粒子へ到達可能なような隙間を確保した状態で該粒子の表面を被覆している。各粒子は他の粒子と直接ないし金属材料を介して接触している。「リチウム化合物の形成能の低い」とは、リチウムと金属間化合物若しくは固溶体を形成しないか、又は形成したとしてもリチウムが微量であるか若しくは非常に不安定であることを意味する。
【0036】
前記の金属材料は導電性を有するものであり、その例としては銅、ニッケル、鉄、コバルト又はこれらの金属の合金などが挙げられる。特に金属材料は、活物質の粒子が膨張収縮しても該粒子の表面の被覆が破壊されにくい延性の高い材料であることが好ましい。そのような材料としては銅を用いることが好ましい。
【0037】
前記の金属材料は、活物質層の厚み方向全域にわたって活物質の粒子の表面に存在していることが好ましい。そして金属材料のマトリックス中に活物質の粒子が存在していることが好ましい。これによって、充放電によって該粒子が膨張収縮することに起因して微粉化しても、その脱落が起こりづらくなる。また、金属材料を通じて活物質層全体の電子伝導性が確保されるので、電気的に孤立した活物質の粒子が生成すること、特に活物質層の深部に電気的に孤立した活物質の粒子が生成することが効果的に防止される。金属材料が活物質層の厚み方向全域にわたって活物質の粒子の表面に存在していることは、該金属材料を測定対象とした電子顕微鏡マッピングによって確認できる。
【0038】
前記の金属材料は、粒子の表面を連続に又は不連続に被覆している。金属材料が粒子の表面を連続に被覆している場合には、金属材料の被覆に、非水電解液の流通が可能な微細な空隙を形成することが好ましい。金属材料が粒子の表面を不連続に被覆している場合には、粒子の表面のうち、金属材料で被覆されていない部位を通じて該粒子へ非水電解液が供給される。
【0039】
活物質の粒子の表面を被覆している金属材料は、その厚みの平均が好ましくは0.05〜2μm、更に好ましくは0.1〜0.25μmという薄いものである。つまり金属材料は最低限の厚みで以て活物質の粒子の表面を被覆している。これによって、エネルギー密度を高めつつ、充放電によって粒子が膨張収縮して微粉化することに起因する脱落を防止している。ここでいう「厚みの平均」とは、活物質の粒子の表面のうち、実際に金属材料が被覆している部分に基づき計算された値である。したがって活物質の粒子の表面のうち金属材料で被覆されていない部分は、平均値の算出の基礎にはされない。
【0040】
金属材料で被覆された粒子間に形成された空隙は、リチウムイオンを含む非水電解液の流通の経路としての働きを有している。この空隙の存在によって非水電解液が活物質層の厚み方向へ円滑に流通するので、サイクル特性を向上させることができる。更に、粒子間に形成されている空隙は、充放電で活物質の粒子が体積変化することに起因する応力を緩和するための空間としての働きも有する。充電によって体積が増加した活物質の粒子の体積の増加分は、この空隙に吸収される。その結果、該粒子の微粉化が起こりづらくなり、また負極の著しい変形が効果的に防止される。
【0041】
負極活物質層に形成されている空隙について本発明者らが検討したところ、該活物質層の空隙率を好ましくは15〜45%、更に好ましくは20〜40%、一層好ましくは25〜35%に設定すると、活物質層内における非水電解液の流通が極めて良好になり、また活物質の粒子の膨張収縮に伴う応力緩和に極めて有効であることが判明した。特に、上限を35%とすることで活物質層内の導電性の向上と強度維持に極めて効果的であり、下限を25%とすることで電解液の選択の幅を広げることができる。この範囲の空隙率は、従来の負極活物質層における空隙率よりも高い値である。このような高空隙率の活物質層を備えた負極を用いることで、例えば、従来は用いることが困難であると考えられてきた高粘度の非水電解液を用いることが可能になる。
【0042】
負極活物質層の空隙量は、水銀圧入法(JIS R 1655)で測定される。水銀圧入法は、固体中の細孔の大きさやその容積を測定することによって、その固体の物理的形状の情報を得るための手法である。水銀圧入法の原理は、水銀に圧力を加えて測定対象物の細孔中へ圧入し、その時に加えた圧力と、押し込まれた(浸入した)水銀体積の関係を測定することにある。この場合、水銀は負極活物質層内に存在する大きな空隙から順に浸入していく。
【0043】
本発明においては、圧力90MPaで測定した空隙量を全体の空隙量とみなしている。本発明において、負極活物質層の空隙率(%)は、前記の方法で測定された単位面積当たりの空隙量を、単位面積当たりの活物質層12の見かけの体積で除し、それに100を乗じることにより求める。
【0044】
負極においては、水銀圧入法で測定された活物質層の空隙量から算出された空隙率が前記の範囲内であることに加えて、10MPaにおいて水銀圧入法で測定された活物質層の空隙量から算出された空隙率が10〜40%であることが好ましい。また、1MPaにおいて水銀圧入法で測定された活物質層の空隙量から算出された空隙率が0.5〜15%であることが好ましい。更に、5MPaにおいて水銀圧入法で測定された活物質層の空隙量から算出された空隙率が1〜35%であることが好ましい。上述したとおり、水銀圧入法よる測定では、水銀の圧入条件を次第に高くしていく。そして低圧の条件下では大きな空隙に水銀が圧入され、高圧の条件下では小さな空隙に水銀が圧入される。したがって圧力1MPaにおいて測定された空隙率は、主として大きな空隙に由来するものである。一方、圧力10MPaにおいて測定された空隙率は、小さな空隙の存在も反映されたものである。大きな空隙は、主として活物質の粒子の膨張収縮に起因する応力を緩和するための空間としての働きを有している。一方、小さな空隙は、主として非水電解液を活物質の粒子に供給する経路としての働きを有している。これら大きな空隙と小さな空隙の存在量をバランスさせることで、電池のサイクル特性が向上する。
【0045】
負極の活物質層は、好適には活物質の粒子及び結着剤を含むスラリーを集電体上に塗布し乾燥させて得られた塗膜に対し、所定のめっき浴を用いた電解めっきを行い、該粒子間に金属材料を析出させることで形成される。該金属材料の析出の程度は、上述した空隙率の値に影響を及ぼす。活物質層の空隙率を前記の範囲内とするためには、前記の塗膜内にめっき液を十分浸透させることが好ましい。これに加えて、該めっき液を用いた電解めっきによって金属材料を析出させるための条件を適切なものとすることが好ましい。めっきの条件にはめっき浴の組成、めっき浴のpH、電解の電流密度などがある。めっき浴のpHに関しては、これを7超11以下、特に7.1以上11以下に調整することが好ましい。pHをこの範囲内とすることで、活物質の粒子の溶解が抑制されつつ、該粒子の表面が清浄化されて、粒子表面へのめっきが促進され、同時に粒子間に適度な空隙が形成される。pHの値は、めっき時の温度において測定されたものである。
【0046】
めっきの金属材料として銅を用いる場合には、ピロリン酸銅浴を用いることが好ましい。また該金属材料としてニッケルを用いる場合には、例えばアルカリ性のニッケル浴を用いることが好ましい。特に、ピロリン酸銅浴を用いると、活物質層を厚くした場合であっても、該活物質層の厚み方向全域にわたって、前記の空隙を容易に形成し得るので好ましい。また、活物質の粒子の表面には金属材料が析出し、且つ該粒子間では該金属材料の析出が起こりづらくなるので、該粒子間の空隙が首尾良く形成されるという点でも好ましい。ピロリン酸銅浴を用いる場合、その浴組成、電解条件及びpHは次のとおりであることが好ましい。
・ピロリン酸銅三水和物:85〜120g/l
・ピロリン酸カリウム:300〜600g/l
・硝酸カリウム:15〜65g/l
・浴温度:45〜60℃
・電流密度:1〜7A/dm2
・pH:アンモニア水とポリリン酸を添加してpH7.1〜9.5になるように調整する。
【0047】
ピロリン酸銅浴を用いる場合には特に、P27の重量とCuの重量との比(P27/Cu)で定義されるP比が5〜12であるものを用いることが好ましい。P比が5未満のものを用いると、活物質の粒子を被覆する金属材料が厚くなる傾向となり、該粒子間に所望の空隙を形成させづらい場合がある。また、P比が12を超えるものを用いると、電流効率が悪くなり、ガス発生などが生じやすくなることから生産安定性が低下する場合がある。更に好ましいピロリン酸銅浴として、P比が6.5〜10.5であるものを用いると、活物質の粒子間に形成される空隙のサイズ及び数が、活物質層12内での非水電解液の流通に非常に有利になる。
【0048】
アルカリ性のニッケル浴を用いる場合には、その浴組成、電解条件及びpHは次のとおりであることが好ましい。
・硫酸ニッケル:100〜250g/l
・塩化アンモニウム:15〜30g/l
・ホウ酸:15〜45g/l
・浴温度:45〜60℃
・電流密度:1〜7A/dm2
・pH:25重量%アンモニア水:100〜300g/lの範囲でpH8〜11となるように調整する。
このアルカリ性のニッケル浴と前述のピロリン酸銅浴とを比べると、ピロリン酸銅浴を用いた場合の方が活物質層内に適度な空隙が形成される傾向があり、負極の長寿命化を図りやすいので好ましい。
【0049】
負極における集電体としては、非水電解液二次電池用負極の集電体として従来用いられているものと同様のものを用いることができる。集電体は、リチウム化合物の形成能の低い金属材料から構成されていることが好ましい。特に、銅、ニッケル、ステンレス等からなることが好ましい。また、コルソン合金箔に代表されるような銅合金箔の使用も可能である。集電体の厚みは、負極の強度維持と、エネルギー密度向上とのバランスを考慮すると、9〜35μmであることが好ましい。なお、集電体として銅箔を使用する場合には、クロメート処理や、トリアゾール系化合物及びイミダゾール系化合物などの有機化合物を用いた防錆処理を施しておくことが好ましい。
【0050】
本発明で好適に用いられる負極の製造方法の一例を図3(a)ないし(d)を参照しながら説明する。本製造方法では、活物質の粒子及び結着剤を含むスラリーを用いて集電体上に塗膜を形成し、次いでその塗膜に対して電解めっきを行う。
【0051】
先ず図3(a)に示すように集電体11を用意する。そして集電体11上に、活物質の粒子12aを含むスラリーを塗布して塗膜15を形成する。集電体11における塗膜形成面の表面粗さは、輪郭曲線の最大高さで0.5〜4μmであることが好ましい。最大高さが4μmを超えると塗膜15の形成精度が低下する上、凸部に浸透めっきの電流集中が起こりやすい。最大高さが0.5μmを下回ると、活物質層12の密着性が低下しやすい。活物質の粒子12aとしては、好適にはSi又はSnを含む粒子を用いる。
【0052】
スラリーは、活物質の粒子の他に、結着剤及び希釈溶媒などを含んでいる。またスラリーはアセチレンブラックやグラファイトなどの導電性炭素材料の粒子を少量含んでいてもよい。特に、活物質の粒子12aがSiを含む材料から構成されている場合には、該活物質の粒子12aの重量に対して導電性炭素材料を1〜3重量%含有することが好ましい。導電性炭素材料の含有量が1重量%未満であると、スラリーの粘度が低下して活物質の粒子12aの沈降が促進されるため、良好な塗膜15及び均一な空隙を形成しにくくなる。また導電性炭素材料の含有量が3重量%を超えると、該導電性炭素材料の表面にめっき核が集中し、良好な被覆を形成しにくくなる。
【0053】
結着剤としてはスチレンブタジエンラバー(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエチレン(PE)、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)などが用いられる。希釈溶媒としてはN−メチルピロリドン、シクロヘキサンなどが用いられる。スラリー中における活物質の粒子12aの量は30〜70重量%程度とすることが好ましい。結着剤の量は0.4〜4重量%程度とすることが好ましい。これらに希釈溶媒を加えてスラリーとする。
【0054】
形成された塗膜15は、粒子12a間に多数の微小空間を有する。塗膜15が形成された集電体11を、リチウム化合物の形成能の低い金属材料を含むめっき浴中に浸漬する。めっき浴への浸漬によって、めっき液が塗膜15内の前記微小空間に浸入して、塗膜15と集電体11との界面にまで達する。その状態下に電解めっきを行い、めっき金属種を粒子12aの表面に析出させる(以下、このめっきを浸透めっきともいう)。浸透めっきは、集電体11をカソードとして用い、めっき浴中にアノードとしての対極を浸漬し、両極を電源に接続して行う。
【0055】
浸透めっきによる金属材料の析出は、塗膜15の一方の側から他方の側に向かって進行させることが好ましい。具体的には、図3(b)ないし(d)に示すように、塗膜15と集電体11との界面から塗膜の表面に向けて金属材料13の析出が進行するように電解めっきを行う。金属材料13をこのように析出させることで、活物質の粒子12aの表面を金属材料13で首尾よく被覆することができると共に、金属材料13で被覆された粒子12a間に空隙を首尾よく形成することができる。しかも、該空隙の空隙率を前述した好ましい範囲にすることが容易となる。
【0056】
前述のように金属材料13を析出させるための浸透めっきの条件には、めっき浴の組成、めっき浴のpH、電解の電流密度などがある。このような条件については既に述べたとおりである。
【0057】
図3(b)ないし(d)に示されているように、塗膜15と集電体11との界面から塗膜の表面に向けて金属材料13の析出が進行するようにめっきを行うと、析出反応の最前面部においては、ほぼ一定の厚みで金属材料13のめっき核からなる微小粒子13aが層状に存在している。金属材料13の析出が進行すると、隣り合う微小粒子13aどうしが結合して更に大きな粒子となり、更に析出が進行すると、該粒子どうしが結合して活物質の粒子12aの表面を連続的に被覆するようになる。
【0058】
浸透めっきは、塗膜15の厚み方向全域に金属材料13が析出した時点で終了させる。このようにして、図3(d)に示すように、目的とする負極が得られる。
【0059】
本発明の正極を用いて構成される二次電池においては、上述した正極及び負極に加えて、セパレータ及び非水電解液が用いられる。セパレータとしては、合成樹脂製不織布、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン、又はポリテトラフルオロエチレンの多孔質フィルム等が好ましく用いられる。電池の過充電時に生じる電極の発熱を抑制する観点からは、ポリオレフィン微多孔膜の片面又は両面にフェロセン誘導体の薄膜が形成されてなるセパレータを用いることが好ましい。セパレータは、突刺強度が0.2N/μm厚以上0.49N/μm厚以下であり、巻回軸方向の引張強度が40MPa以上150MPa以下であることが好ましい。充放電に伴い大きく膨張・収縮する負極活物質であるSi系又はSn系の物質を用いても、セパレータの損傷を抑制することができ、内部短絡の発生を抑制することができるからである。
【0060】
非水電解液は、支持電解質であるリチウム塩を有機溶媒に溶解した溶液からなる。リチウム塩としては、CF3SO3Li、(CF3SO2)NLi、(C25SO22NLi、LiClO4、LiA1Cl4、LiPF6、LiAsF6、LiSbF6、LiCl、LiBr、LiI、LiC49SO3等が例示される。これらは単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのリチウム塩のうち、耐水分解性が優れている点から、CF3SO3Li、(CF3SO2)NLi、(C25SO22NLiを用いることが好ましい。有機溶媒としては、例えばエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。特に、非水電解液全体に対し0.5〜5重量%のビニレンカーボネート及び0.1〜1重量%のジビニルスルホン、0.1〜1.5重量%の1,4−ブタンジオールジメタンスルホネートを含有させることが、充放電サイクル特性を更に向上させる観点から好ましい。その理由について詳細は明らかでないが、1,4−ブタンジオールジメタンスルホネートとジビニルスルホンが段階的に分解して、正極上に被膜を形成することにより、硫黄を含有する被膜がより緻密なものになるためであると考えられる。
【0061】
本発明の正極を用いて構成される二次電池においては、正極と負極との間がセパレータを介して非水電解液で満たされている。二次電池は、これら基本構成部材を備えた円筒型、角型、コイン型等の形態であり得る。しかしこれらの形態に制限されるものではない。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」及び「部」はそれぞれ「重量%」及び「重量部」を意味する。
【0063】
〔実施例1〕
(1)正極の製造
(1−1)第1正極活物質の製造
炭酸リチウム、二酸化マンガン、オキシ水酸化コバルト、水酸化ニッケルを、Li:Mn:Co:Ni=1.07:0.31:0.31:0.31(モル比)となるように秤量して混合した。この混合物に、分散媒として水を添加し、湿式微粉砕機でスラリー化した。得られたスラリーを、スプレードライヤで乾燥し造粒した。この造粒粉を950℃で24時間焼成し、Li(Li0.07Co0.31Mn0.31Ni0.31)O2で表される第1正極活物質を得た。
【0064】
(1−2)第2正極活物質の製造
炭酸リチウム、二酸化マンガン、水酸化コバルトをLi:Mn:Co=1.2:0.4:0.4(モル比)となるように秤量して混合した。この混合物に、分散媒として水を添加し、湿式微粉砕機でスラリー化した。得られたスラリーを、スプレードライヤで乾燥し造粒した。この造粒粉を950℃で24時間焼成し、Li(Li0.2Co0.4Mn0.4)O2で表される第2正極活物質を得た。
【0065】
(1−3)正極の製造
第1正極活物質と第2正極活物質とを、重量比で86:14に混合した。更にこの混合物に、導電剤としてアセチレンブラック(AB)、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、混合物:AB:PVdF=88:6:6(重量比)となるように加えた。更に分散媒としてN−メチルピロリドン(NMP)を加えて混練した。得られたスラリーを、厚さ20μmのアルミ箔上に、アプリケータを用いて塗工した。塗工量は、放電容量が3.5mAh/cm2となるような量とした。塗膜を120℃で乾燥し、乾燥後の塗膜に対してロールプレスによって0.5ton/cmの荷重を加えた。得られた正極における活物質層の厚みは約73μmであった。得られた負極を直径13mmの大きさに打ち抜いた。
【0066】
(2)負極の製造
厚さ18μmの電解銅箔からなる集電体を室温で30秒間酸洗浄した。処理後、15秒間純水洗浄した。集電体の両面上にSiからなる粒子を含むスラリーを膜厚15μmになるように塗布し塗膜を形成した。スラリーの組成は、粒子:スチレンブタジエンラバー(結着剤):アセチレンブラック=100:1.7:2(重量比)であった。粒子の平均粒径D50は2.5μmであった。平均粒径D50は、日機装(株)製のマイクロトラック粒度分布測定装置(No.9320−X100)を使用して測定した。
【0067】
塗膜が形成された集電体を、以下の浴組成を有するピロリン酸銅浴に浸漬させ、電解により、塗膜に対して銅のめっきを行い、活物質層を形成した。電解の条件は以下のとおりとした。陽極にはDSEを用いた。電源は直流電源を用いた。
・ピロリン酸銅三水和物:105g/l
・ピロリン酸カリウム:450g/l
・硝酸カリウム:30g/l
・浴温度:50℃
・電流密度:3A/dm2
・pH:アンモニア水とポリリン酸を添加してpH8.2になるように調整した。
【0068】
電解めっきは、塗膜の厚み方向全域にわたって銅が析出した時点で終了させた。このようにして目的とする負極を得た。活物質層の縦断面のSEM観察によって該活物質層においては、活物質の粒子は、平均厚み240nmの銅の被膜で被覆されていることを確認した。得られた負極を直径14mmの大きさに打ち抜いた。
【0069】
(3)リチウム二次電池の製造
このようにして得られた正極及び負極を、20μm厚のポリエチレン製多孔質フィルムからなるセパレータを挟んで対向させた。電解液として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートの1:1体積比混合溶媒に1mol/lのLiPF6を溶解した溶液に対して、ビニレンカーボネートを2体積%外添したものを用いた。これによって2032型コイン電池を製造した。
【0070】
〔実施例2〕
実施例1において、第1正極活物質と第2正極活物質とを、重量比で76:24に混合して正極を得る以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を得た。正極の活物質層の厚みは78μmであった。
【0071】
〔比較例1〕
実施例1において、第2正極活物質を用いず、第1正極活物質のみを用いて正極を得る以外は、実施例1と同様にしてリチウム二次電池を得た。正極の活物質層の厚みは68μmであった。
【0072】
〔評価〕
実施例及び比較例で得られた二次電池について、サイクル特性及び体積容量を以下の方法で測定した。その結果を表1に示す。サイクル特性については図4にも結果を示す。なお、表1における初回不可逆容量は、初回充電容量と初回放電容量との差である。
【0073】
〔サイクル特性〕
実施例及び比較例で得られた電池について、充放電を行った。充放電条件は以下のとおりである。なお、比較例1については、以下の条件で充放電を行った場合(比較例1−1)と、初回の充電終止電圧を4.2Vに下げて充放電を行った場合(比較例1−2)の2つの充放電を行った。なお、図4の縦軸は、容量が安定した状態である13サイクル目の放電容量を1としたときの相対表示(すなわち容量維持率(%))で表されている。
・初回の充電:終止電圧4.5V、定電流/定電圧、電流0.23mA(終止電流0.046mA)
・初回の放電:終止電圧:2.7V、定電流、電流0.23mA
・2回目以降の充電:終止電圧:4.2V、定電流/定電圧、電流2.3mA(終止電流0.46mA)
・2回目以降の放電:終止電圧:2.7V、定電流、電流2.3mA
【0074】
〔体積容量〕
2回目の放電容量を、正極活物質層の体積で除して、体積容量を算出した。
【0075】
【表1】

【0076】
表1に及び図4に示す結果から明らかなように、第1及び第2正極活物質の組み合わせを用いた正極を備えた実施例の電池では、体積容量の大きな低下を伴うことなく、初回不可逆容量(つまり初回充電時に負極に与えた不可逆容量)の値を大きくすることができ、サイクル特性が向上することが判る。特に、第2正極活物質の量が14重量%である実施例1の正極を用いると、第2正極活物質の量が24重量%である実施例2の正極よりも、体積容量が増加し、かつサイクル特性も向上することが判る。これに対して実施例と同様の充放電条件、すなわち初回の充電終止電圧が通常よりも高く設定された条件で充放電された比較例1−1の電池では、負極に与えた不可逆容量の値が実施例よりも小さく、サイクル特性の改善効果が小さいことが判る。また初回の充電終止電圧が通常と同様に設定された条件で充放電された比較例1−2の電池では、負極に与えた不可逆容量の値が比較例1−1よりも小さく、サイクル特性の改善効果が一層小さいことが判る。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】Li(Li0.03Mn0.06Co0.91)O2及びLiCoO2を正極活物質として用いた電池の充電時におけるこれらの物質の挙動を示すXAFS測定結果である。
【図2】Li(Li0.2Mn0.4Co0.4)O2を正極活物質として用いた電池の充電時におけるこれらの物質の挙動を示すXAFS測定結果である。
【図3】本発明で好適に用いられる負極の製造方法を示す工程図である。
【図4】実施例及び比較例で得られた二次電池おける充放電のサイクル特性を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質として、主成分である第1の含Li遷移金属複合酸化物と、副成分である第2の含Li遷移金属複合酸化物とを含み、第2の含Li遷移金属複合酸化物としてLi(LixMn2xCo1-3x)O2(式中、0<x<1/3である)を用いたことを特徴とする非水電解液二次電池用正極。
【請求項2】
第1及び第2の含Li遷移金属複合酸化物の合計量に対し、第1の含Li遷移金属複合酸化物の配合量が50重量%以上でかつ99重量%以下であり、第2の含Li遷移金属複合酸化物の配合量が1重量%以上でかつ50重量%未満である請求項1記載の非水電解液二次電池用正極。
【請求項3】
第1の含Li遷移金属複合酸化物が、遷移金属としてCo、Ni又はMnの少なくとも一種を含むものである請求項1又は2記載の非水電解液二次電池用正極。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の正極を備えることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項5】
負極として、Si又はSnを含む負極活物質層を有する負極を用いた請求項4記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
前記負極活物質層が、Si又はSnを含む活物質の粒子を含有し、該粒子の表面の少なくとも一部がリチウム化合物の形成能の低い金属材料で被覆されていると共に、該金属材料で被覆された該粒子どうしの間に空隙が形成されている請求項5記載の非水電解液二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−158320(P2009−158320A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−335764(P2007−335764)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(000006183)三井金属鉱業株式会社 (1,121)
【Fターム(参考)】