説明

非水電解液二次電池用電極板、非水電解液二次電池および電池パック

【課題】出入力特性の優れた非水電解液二次電池用電極板を提供し、また上記非水電解液二次電池用電極板を正極板および/または負極板に用いた非水電解液二次電池並びに電池パックを提供することを目的とする。
【解決手段】集電体と、上記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用電極板において、上記電極活物質層に、活物質粒子およびリチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子を結着物質粒子として含有させ、且つ、上記活物質粒子の平均粒径よりも、上記金属酸化物の平均粒径が小さくなるよう構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に用いられる電極板、非水電解液二次電池および電池パックに関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池は、高エネルギー密度、高電圧を有し、また充放電時におけるメモリ効果(完全に放電させる前に電池の充電を行なうと次第に電池容量が減少していく現象)が無いことから、携帯機器、及び大型機器など様々な分野で用いられている。
【0003】
また、現在、世界規模でCO排出抑制の取り組みが行われており、石油依存度を低減し、低環境負荷で走行可能とすることで、CO削減に大いに寄与することができるプラグインハイブリッド自動車、電気自動車に代表される次世代クリーンエネルギー自動車の開発・普及が急務とされている。これらの次世代クリーンエネルギー自動車の開発・普及には、ガソリンに依存しない駆動力が必須である。上記駆動力としてリチウムイオン二次電池に代表される非水電解液二次電池が期待されている。
【0004】
上記非水電解液二次電池は、正極板、負極板、セパレータ、及び有機電解液から構成される。そして上記正極板及び負極板としては、金属箔などの集電体表面に、電極活物質層形成液を塗布して形成された電極活物質層を備えるものが一般に用いられている。
【0005】
上記電極活物質層形成液は、リチウムイオン挿入脱離反応を示すことにより充放電可能な活物質粒子、樹脂製結着材、及び導電材(但し活物質が導電効果も発揮する場合などには、導電材は省略される場合がある)、あるいはさらに、必要に応じてその他の材料を用い、有機溶媒中で攪拌及び/又は分散させて、スラリー状の電極活物質層形成液に調製される。そして電極活物質層形成液を集電体表面に塗布し、次いで乾燥して集電体上に塗膜を形成し、必要に応じてプレスすることにより電極活物質層を備える電極板を製造する方法が一般的である(例えば特許文献1段落[0019]乃至[0026]、特許文献2[請求項1]、段落[0051]乃至[0055])。
【0006】
このとき、電極活物質層形成液に含有される活物質粒子は、該形成液中に分散される粒子状の化合物であって、集電体表面に塗布されただけでは該集電体表面に固着され難い材料である。したがって樹脂製結着材を含まない電極活物質層形成液を集電体に塗布して乾燥して塗膜を形成しても、該塗膜は集電体から容易に剥離してしまう。そのため、従来の電極板における電極活物質層は、樹脂製結着材を介して、活物質粒子を集電体上に固着させて、形成されることが一般的であり、該樹脂製結着材は実質的には、必須の構成物質であった。例えば、特許文献3に記載の発明においても、大粒径活物質と小粒径活物質とを用いて電極活物質層を構成する発明が開示されているが、その実施例をみるといずれも樹脂製結着材(ポリフッ化ビニリデン)が使用されており、活物質粒子の大小あるいはその組み合わせにかかわらず、樹脂製結着材を使用することが必要であることが理解される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−310010号公報
【特許文献2】特開2006−107750号公報
【特許文献3】特開2009−146788号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述するとおり、非水電解液二次電池は、次世代クリーンエネルギーの駆動力としての利用が期待されている。しかしながら、自動車やパワーツールなどに対してはもちろんのこと、携帯電話等の比較的小型の装置に用いられる場合であっても、装置が多機能化される傾向にあるために、高出入力特性において、まだまだ改良が求められている。
【0009】
また、出入力特性とは別に、電極板の放電容量(本明細書において、「電極容量」ともいう)の増大についても、非水電解液二次電池用電極板の重要な課題の1つであり、さらなる高容量化が求められている。
【0010】
尚、本発明者らは、非水電解液二次電池用電極板の出入力特性を向上させるために鋭意検討し、電極活物質層中における樹脂製結着材の存在に着目した。上述のとおり、これまで樹脂製結着材は、実質的に電極活物質層を形成するための必須の構成成分として用いられていた。しかし、活物質粒子間、および集電体と活物質粒子間に樹脂性結着材が存在することにより、電極板の電気抵抗が高くなり、リチウムイオン及び電子の移動の妨げとなっていることが推察された。
【0011】
本発明は上記の実状に鑑みて成し遂げられた。即ち、本発明は、出入力特性および電極容量の優れた非水電解液二次電池用電極板を提供し、また、上記電極板を用いた非水電解液二次電池および電池パックの提供を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、活物質粒子を、結着物質粒子である金属酸化物粒子の存在によって集電体表面に固着させて電極活物質層を構成可能であることを見出した。しかも、上記金属酸化物粒子を、リチウムオン挿入脱離反応を示すものと特定することにより、活物質粒子のみならず、上記金属酸化物粒子においても、充放電反応を生じさせ得ることができ、また、該金属酸化物粒子の平均粒径が、上記活物質粒子の平均粒径より小さいものとすることにより、電極容量を増大させることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)集電体と、上記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用電極板であって、上記電極活物質層が、活物質粒子および結着物質粒子を含有しており、上記結着物質粒子が、リチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子であって、上記結着物質粒子の平均粒径が、上記活物質粒子の平均粒径より小さいことを特徴とする非水電解液二次電池用電極板、
(2)上記電極活物質層は、隣り合う結着物質粒子同士の一部において、結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含むことを特徴とする上記(1)に記載の非水電解液二次電池用電極板、
(3)上記活物質粒子の平均粒径が、上記結着物質粒子の平均粒径の5倍以上であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載の非水電解液二次電池用電極板、
(4)上記金属酸化物粒子が、リチウム複合酸化物であることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用電極板、
(5)上記金属酸化物粒子が、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、及びチタンの中から選択される、いずれか1種以上の金属とリチウムとの複合酸化物であることを特徴とする上記(1)から(4)のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用電極板、
(6)上記活物質粒子と、上記金属酸化物粒子が同一の化合物であることを特徴とする上記(1)から(5)のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用電極板、
(7)上記電極活物質層は、結着物質粒子により、活物質粒子同士が互いに固着されるとともに、結着物質粒子により、活物質粒子が上記集電体に固着されて構成されていることを特徴とする上記(1)から(6)のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用電極板、
(8)複数の結着物質粒子が、活物質粒子の表面の少なくとも一部を覆っていることを特徴とする上記(1)から(7)のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用電極板、
(9)集電体と、上記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用電極板であって、上記電極活物質層は、電極活物質層中に分散する複数の核体と、上記核体を包囲する包囲体とを有し、上記包囲体は、複数の粒子から構成され、これらの複数の粒子のうち、隣接する粒子同士の少なくとも一部が互いに繋がっており、上記包囲体を構成する粒子のうち集電体近傍の粒子が集電体の表面に繋がっており、上記核体が活物質粒子であり、上記包囲体を構成する粒子がリチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子であり、上記包囲体を構成する結着物質粒子の平均粒径が、上記核体である活物質粒子の平均粒径より小さいことを特徴とする非水電解液二次電池用電極板、
(10)上記核体と上記核体を包囲する包囲体を構成する粒子との界面において、上記核体の結晶格子と上記包囲体を構成する粒子の結晶格子とが不連続に接合している領域が存在していることを特徴とする上記(9)に記載の非水電解液二次電池用電極板、
(11)包囲体を構成する複数の粒子のうち、隣接する粒子同士の少なくとも一部が互いに繋がっている上記包囲体において、上記隣接する粒子同士の一部において、結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含むことを特徴とする上記(9)または(10)に記載の非水電解液二次電池用電極板、
(12)正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であって、上記正極板または負極板のいずれか一方、あるいは両方が、上記(1)から(11)のいずれか1つに記載の非水電解液二次電池用電極板であることを特徴とする非水電解液二次電池、
(13)収納ケースと、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、上記収納ケースに上記非水電解液二次電池および上記保護回路が収納されて構成される電池パックにおいて、上記非水電解液二次電池が、正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であり、上記正極板または負極板のいずれか一方、あるいは両方が、上記(1)から(11)のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用電極板であることを特徴とする電池パック、
を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、電極活物質層中における活物質粒子を、リチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子により集電体上に固着させることを可能とし、これによって、非常に高い出入力特性を示す非水電解液二次電池用電極板の提供を可能とした。しかも、本発明では、結着物質粒子である金属酸化物粒子の平均粒径は、活物質粒子の平均粒径よりも小さいものであるため、電極活物質層中における活物質粒子の充填効率が上がり、実質的に電極容量を増大させることができ、高出入力、高容量の非水電解液二次電池用電極板の提供を可能とした。
【0015】
また、本発明の電極板を、正極板および/または負極板として使用する、本発明の非水電解液二次電池および本発明の電池パックは、本発明の電極板の出入力特性の向上にともない、非水電解液二次電池自体の出入力性能、および電池パック自体の出入力性能を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】リチウム挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子を用いたサイクリックボルタンメトリー試験の結果を示すサイクリックボルタモグラムである。
【図2】リチウム挿入脱離反応を示さない金属酸化物粒子を用いたサイクリックボルタンメトリー試験の結果を示すサイクリックボルタモグラムである。
【図3】本発明の電極板を集電体面に略垂直に切断した際の断面を示す模式図である。
【図4】本発明のリチウムイオン二次電池の一形態における概略断面図である。
【図5】本発明の電池パックの一実施態様における概略分解図である。
【図6】6A〜6Dは、本発明に用いられる集電体の例示的態様を示す概略断面図である。
【図7】7Aは、実施例1を集電体面に対し略垂直に切断した際の電極活物質層の断面の一部を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率1万倍)であり、7Bは、実施例1を集電体面に対し略垂直に切断した際の電極活物質層の断面の一部を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率5万倍)である。
【図8】実施例2を集電体面に対し略垂直に切断した際の電極活物質層の断面の一部を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率5万倍)である。
【図9】比較例1を集電体面に対し略垂直に切断した際の電極活物質層の断面の一部を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率1万倍)である。
【図10】比較例1を集電体面に対し略垂直に切断した際の集電体および電極活物質層の断面の一部を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率5万倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の非水電解液二次電池用電極板(以下、単に「電極板」という場合がある)、非水電解液二次電池用電極板の製造方法、および非水電解液二次電池を実施するための形態について、順に説明する。
【0018】
[非水電解液二次電池用電極板]
本発明の非水電解液二次電池用電極板は、図3に本発明の一実施態様である非水電解液二次電池用電極板10として示すとおり、集電体1と、上記集電体1の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層2とを備える。電極活物質層2は、活物質粒子21および結着物質粒子22が含まれている。活物質粒子21同士は、結着物質粒子22により固着されており、また活物質粒子21は、結着物質粒子22により集電体1表面に固着されている。特に本発明は、活物質粒子21の平均粒径が、結着物質粒子22の平均粒径より大きいことを特徴とする。そして本発明における電極活物質層は、従来の電極板のように樹脂製結着材のみを使用して活物質粒子を集電体上に固着させるのではなく、リチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子によって活物質粒子が集電体上に固着されてなるものである。また、本発明の電極板の多くの実施形態では、電極活物質層は、結着物質粒子の存在により直接に集電体上に積層されているため、電極活物質層と集電体との間における電子の移動が非常にスムーズである。
【0019】
本発明の電極板は、出入力特性に優れる。かかる高出入力化を可能とした要因の少なくとも1つは、当該電極板における電極活物質層が、結着物質粒子である金属酸化物粒子により活物質粒子が集電体上に固着されて構成されることにあると考えられる。
【0020】
また、本発明において、上記結着物質粒子である金属酸化物粒子の平均粒径は、上記活物質粒子の平均粒径よりも小さいものであるため、電極活物質層中における活物質粒子の充填効率が上がり、実質的に電極容量を増大させることができる。しかも、本発明は、リチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子の結着作用を利用して、活物質粒子が集電体上に固着される。そのため、当該金属酸化物粒子は、結着物質粒子として作用するとともに、リチウムイオンの出し入れにも関与することから活物質としても作用することか可能である。したがって、従来の電極活物質層においては樹脂製結着材は単に結着作用しか期待できなかったところ、本発明では、結着物質粒子においても活物質として作用が見込まれ得ることから、その分、電極容量を増大させることが可能である。
【0021】
尚、本発明を説明する場合、あるいは本発明の一態様において、結着物質により固着される、という場合には、以下の2つの態様を含む。即ち、上記固着の態様は、被固着物間(例えば、活物質粒子間、活物質粒子と集電体表面との間、あるいは導電材を使用する場合には、導電材と活物質粒子間、導電材粒子間など)に、結着物質粒子である金属酸化物粒子が介在して両者を固着させる場合(以下、「固着態様1」)と、被固着物同士が直接接触し、接触部分を囲んで結着物質粒子が存在することによって被固着物同士を固着させる場合(以下、「固着態様2」)とを含む。本発明の多くの実施形態では、上述する固着態様1および2のいずれか、あるいは両方が、電極活物質層中に存在する。特に、本発明における結着物質粒子である金属酸化物粒子は、活物質粒子よりも平均粒径が小さいため、電極活物質層中における活物質粒子の充填率を高め、且つ、活物質粒子間に多数の金属酸化物粒子が充填した状態とすることができ、このとき、金属酸化物粒子同士は互いに接着しながら活物質粒子を覆い、集電体上に活物質粒子を固着させることができる。
【0022】
本発明は、電極活物質層において、上記固着態様1および2のいずれか、あるいは両方を含んで構成される場合には、導電性の向上の点で優れた効果を発揮する。上記効果を理解するために、導電材粒子を含む電極活物質層において、特に導電材粒子間の固着に着目する。導電材粒子同士が、上記固着態様1によって固着されている場合、本発明の結着物質粒子が金属酸化物粒子であるため、従来の樹脂製結着材のみを使用した電極板に比べて、導電材粒子間での電子のやりとりの障害となり難い。またさらに、導電材粒子同士が、上記固着態様2によって導電材粒子同士が固着されている場合には、粒子同士は直接に接しているため、当然に電子の流れがスムーズであり、優れた導電性が確保される。上記効果は、導電材粒子と活物質粒子間との固着に関しても、同様のことが言える。加えて、集電体と電極活物質層との境界においても、集電体面と活物質粒子や導電材粒子とが、結着物質粒子を介して固着されるか、あるいはこれらが直接に接触して接触部分の周囲に結着物質粒子が存在することによって固着される。そのため、上述と同様の理由で、集電体と電極活物質層間の電子の流れがスムーズである。即ち、本発明の電極板は、金属酸化物粒子が結着物質粒子として電極活物質層中に存在し、且つ、固着態様1および/または2によって種々の構成材料を固着させていることにより電気抵抗を低く保つことが可能であり、特に固着態様1および2が混在することが好ましい。
【0023】
また、本発明の電極板は、電極活物質層に含有される結着物質粒子に関し、隣り合う結着物質粒子同士の少なくとも一部において、結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含んでいてもよい。上述のとおり、本発明における結着物質粒子は、活物質粒子を集電体上に固着させるものである。このとき、本発明は、結着物質粒子同士の少なくとも一部において互いに結晶格子が連続していることにより、電極活物質層の膜密着性が向上することが推察された。この膜密着性の向上が、電極板の出入力特性の向上に有効に寄与すると思われる。電極活物質層の膜密着性を向上させるという観点からは、隣り合う結着物質粒子同士の結晶格子が連続する部分は、電極活物質層に有意に存在することがより望ましい。尚、本発明において結着物質粒子同士の結晶格子が連続するか否は、透過型電子顕微鏡で電極活物質層における隣り合う結着物質の断面の結晶格子を観察することによって確認することができる。
【0024】
本発明の電極活物質層において、隣り合う結着物質粒子同士における結晶格子が連続する箇所を含むよう構成するためには、後述する本発明の製造方法に従い本発明の電極板を製造することが望ましい。即ち、本発明の製造方法は、電極活物質層形成液を集電体上に塗布して塗膜を形成し、加熱などの手段を実施することによって該塗膜から電極活物質層を形成する。その際、該集電体上において、活物質粒子の周囲に存在する金属元素含有化合物が熱分解、酸化などの反応を起こして、活物質粒子の周囲に結着物質粒子である金属酸化物粒子が生成される。このとき、隣接する結着物質粒子同士(あるいはその前駆体)の一部が接合していると、該接合部分において、両者の結晶成長が同時に進行し易い。上記接合部分において結晶成長が同時に進行する結果、本発明の電極活物質層において、隣り合う結着物質粒子同士における結晶格子が連続する箇所を含むよう構成される。
【0025】
本発明の電極板は、非水電解液二次電池の正極板、負極板のいずれか一方として用いることができ、あるいは正極板及び負極板の両方に本発明の電極板を用いてもよい。
【0026】
本発明の電極板は、正極板として使用する場合には、樹脂製結着材のみを用いた場合と比較して出入力性能が高い。その上、本発明の電極板は、結着物質粒子を活物質としても作用させるよう設計することにより電極中における活物質の割合を実質的に多くすることが可能であるので、電極容量を増大させることが可能となる点で非常に優れている。またさらに、本発明の電極板は、多くの金属酸化物粒子が適用できるという点で用途範囲が広く、加えて、従来の負極板と合わせて使用できるので好ましい。
【0027】
また、本発明の電極板は、本発明の電極板を負極板として使用する場合には、上記正極板と同様に出入力性能が高く、且つ、電極容量を増大させることが可能な点で優れている。加えて、本発明の電極板は、銅やアルミなどの金属基板と金属酸化物粒子との密着性が優れ、さらには負極活物質粒子の周囲に存在する金属酸化物粒子膜がSEI(solid electrolyte interface)として機能し、その結果、サイクル特性が良好になるという観点から好ましい。
【0028】
また特に、本発明の電極板は、正負両極に用いられた場合には、高速充放電が可能な上、サイクル特性が良好になるなどの望ましい効果が発揮される。本発明の形態の説明において、必要に応じて本発明を正極板と負極板とに分けて説明するが、特に断りがない場合には、本発明の電極板とは、正極板および負極板のいずれも含み、また活物質粒子とは、正極活物質粒子および負極活物質粒子のいずれも含む意味で用いられる。
【0029】
次に、電極活物質層が、該電極活物質層中に分散する複数の核体と、上記核体を包囲する包囲体とを有する、本発明の電極板、および本発明における電極活物質層の構造について、図3を用いて説明する。尚、核体と包囲体とから構成される本発明において、上記核体は、活物質粒子であり、上記包囲体は、リチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子である結着物質粒子から構成される。したがって、核体である活物質粒子が、包囲体を構成する結着物質粒子に包囲されることによって、集電体上に存在することから、出入力特性の向上、あるいはさらに、電極容量の増大という効果については、上述する本発明の電極板と同様である。また核体と包囲体とを有する本発明の電極板は、包囲体のうち、集電体近傍の包囲体を構成する結着物質粒子が集電体の表面に繋がっていることから、電極活物質層と集電体との間における電子の移動がスムーズである点についても同様である。
【0030】
本発明における電極活物質層の構造は、図3に示すとおり、電極活物質層2内に分散する複数の核体6である活物質粒子21と、この複数の核体6の周囲に存在し、核体6を包囲する包囲体7を構成する結着物質粒子22により構成される二重構造をなす。また集電体1近傍に存在する、包囲体7を構成する結着物質粒子22は、集電体1表面と繋がっており、これによって集電体1上に、直接に、電極活物質層2を備える本発明の電極板10が完成される。尚、電極活物質層2には、図示省略する空隙が随所に存在しており、これによって電極板10を用いて電池を構成した際に、非水電解液が電極活物質層2に浸透可能である。
【0031】
上述するとおり、上記核体を包囲する包囲体は、複数の結着物質粒子から構成されており、該包囲体に複数の核体が包囲されている。これら包囲体を構成する結着物質粒子のうち、隣接する結着物質粒子同士の一部が互いに繋がっていてよい。このように、核体が包囲体に包囲されることによって構成される本発明の電極板は、該包囲体がリチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子である結着物質粒子から構成され、核体が、活物質粒子であることにより、出入力特性に優れる。
【0032】
尚、包囲体に包囲される活物質粒子は、1次粒子であってもよいし、2次粒子であってもよいし、これらが混在していてもよい。上記包囲体を構成する結着物質粒子の平均粒径は、核体である活物質粒子の平均粒径よりも小さいものであることが特定される。
【0033】
本発明の一態様において、包囲体を構成する結着物質粒子のうち、隣り合う結着物質粒子同士の繋がりが、結晶格子が連続する箇所を含む場合には、電極活物質層の膜密着性が向上し、これによって出入力特性の向上に寄与するため望ましい。包囲体を構成する結着物質粒子同士の少なくとも一部において結晶格子が連続するか否かは、上述する隣接する結着物質粒子同士において結晶格子が連続するか否かの確認方法と同様であるため、ここでは割愛する。
【0034】
また、上記構造の電極活物質層中に含まれる物質として、さらに導電材、樹脂材料などの任意の物質が含まれていてもよい。
【0035】
以上に説明する電極活物質層の構造は、核体と、包囲体とからなる、謂わば、二重構造により構成される。上記二重構造の一例は、後述する実施例1の走査型電子顕微鏡写真図7Aから理解される。また上記二重構造は、本発明を製造する方法の一態様からも理解することができる。即ち、本発明を製造する方法の一態様では、電極活物質層形成液を集電体上に塗布して塗膜を形成し、該塗膜を加熱などの手段によって電極活物質層を形成する。その際、該集電体上において、既存の活物質粒子を核体とし、これを包囲するよう存在する金属酸化物前駆体である金属元素含有化合物が熱分解などの反応を起こして金属元素が酸化し、核体の周囲に包囲体を構成する金属酸化物粒子が生成される。この結果、上記二重構造が完成する。またこのとき、包囲体を構成する結着物質粒子同士の結晶格子が連続する箇所を含んだ電極活物質層が形成されうる。
【0036】
核体と包囲体とからなる上記二重構造について、特に核体と包囲体との界面について着眼すると、1つの特徴が存在する。核体をなす物質である活物質粒子は、結晶性の金属化合物である。また、包囲体を構成する結着物質粒子も、リチウムイオン挿入脱離反応を示すことから、結晶性であることは明らかである。ここで、本発明の電極板は、結晶性の核体を結晶性の粒子から構成される包囲体が包囲したとき形成される両者の界面において、両者の結晶格子が連続する領域と、不連続な領域とが存在する態様とすることができる。上記態様には、特に、核体の結晶格子と、包囲体を構成する結着物質粒子の結晶格子が異なる場合には、両者の界面全域において、両者の結晶格子は不連続となる態様が含まれる。尚、上記結晶格子の連続性については、透過型電子顕微鏡により、その結晶格子を観察することにより、確認することができる。これらの態様を示す本発明は、以下に述べる優れた性質を備える。
【0037】
即ち、本発明者らは、上述する結晶格子が不連続な領域の存在が、サイクル特性の向上に寄与するということを推察した。即ち、非水電解液二次電池は、リチウムイオンなどのアルカリイオンが活物質の結晶構造に繰り返し挿入脱離するうちに、該結晶構造が劣化し、あるいはさらに破壊され、サイクル特性が低下する。上述する結晶構造の劣化・破壊は、結晶構造の連続する結晶格子に沿って発生すると考えられる。ところが本発明の電極板は、上述するとおり、核体である活物質粒子と、リチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物である結着物質粒子から構成される包囲体とからなる二重構造の界面において、両者の結晶格子が不連続な領域が存在する。このため、核体、包囲体それぞれで生じた結晶構造の劣化が、上記不連続な領域では互いに影響を及ぼさないと考えられた。したがって、サイクル特性が低下し難く、換言すると、上記二重構造が、良好なサイクル特性の発揮に寄与すると推察された。実際にも、上記二重構造の示されない従来の電極板と比較して、本発明のサイクル特性の向上が確認されており、後述する実施例1においても、サイクル特性が良好であるという結果が示された。
【0038】
(集電体)
本発明に用いられる集電体は、一般的に非水電解液二次電池用正極板における正極集電体あるいは非水電解液二次電池用負極板における負極集電体として用いられるものであれば、特に限定されない。例えば、アルミニウム箔、ニッケル箔、銅箔などの単体又は合金から形成されているもの、もしくはカーボンシート、カーボン板、及びカーボンテキスタイル等の高い導電性を有する箔ものが好ましく用いられる。尚、本発明に用いられる集電体は、必要に応じて、電極活物質層の形成が予定される面において、表面加工処理がなされている集電体であってもよい。表面加工処理がなされている集電体としては、導電性物質が積層されているもの、化学研磨処理、コロナ処理、酸素プラズマ処理などの表面処理がなされていてもの等が挙げられる。あるいは、上記集電体は、物理的に任意の凹凸などが表面に設けられていてもよい。
【0039】
上記集電体としては、例えば、図6Aに示すとおり、非水電解液二次電池用電極板20に用いられる集電体1として、それ自体が集電機能を有する金属箔などの集電基材3のみを用いることができる。集電基材3としては、上述するアルミニウム箔、ニッケル箔、カーボンシートなどが例示される。かかる場合には、集電基材3の表面101の少なくとも一部に電極活物質層2が設けられる。
【0040】
また、異なる集電体の例としては、図6Bに示すとおり、非水電解液二次電池用電極板20’に用いられる集電体1’として、それ自体が集電機能を有する集電基材3の上面に、導電性を有する任意の導電性層4が設けられてなる集電体1’を用いることができる。導電性層4は、電極活物質層2と集電基材3と間の電子の移動を妨げない程度の導電性を示すものであればよい。例えば、導電性層4は、銅または銅合金からなる積層層、あるいは任意の導電性微粒子がメッキあるいはスパッタリングなどにより堆積されてなる層、あるいは一枚以上の導電性薄膜が設けられてなる層などであってよく、またこれらの例に限定されない。集電体1’において、導電性層4の表面が、集電体1’の表面102となり、電極活物質層2は、表面102の少なくとも一部に設けられる。尚、図6Bでは、任意の導電性層4が1層である態様を示した。しかし、集電体1’の構成はこれに限定されず、導電性層4は、2以上の任意の導電性層が積層された積層構成であってもよい。
【0041】
また、異なる集電体の例としては、図6Cに示すとおり、非水電解液二次電池用電極板20’’に用いられる集電体1’’として、それ自体が集電機能を有する集電基材3の上面に、断続的に形成された任意の断続層5が設けられてなる集電体を用いることができる。断続層5は、上述する導電性層4と同じく導電性の層であってもよいし、あるいは導電性を示さない層であってもよい。即ち、非水電解液二次電池用電極板20’’では、集電体1’’の表面は、断続層5の表面である表面103と、断続層5が設けられておらず集電基材3自体の表面である表面103’とからなる。このとき、電極活物質層2は、表面103および表面103’のいずれとも接するよう形成することができる。非水電解液二次電池用電極板20’’では、断続層5は、導電性を有していても、有していなくてもよい。断続層5が導電性を有していない層であっても、集電体1’’の表面103’において電極活物質層2と集電基材3とが直接接するため、電極活物質層2と集電体1’’との間において電子の移動が確保される。ただし、非水電解液二次電池用電極板20’’自体の電気抵抗をより小さいものにするという観点からは、断続層5も、導電性を示すことが好ましい。
【0042】
また、断続層5が導電性を示す場合、図6Dに示すように、集電体1’’の表面であって断続層5上にのみ、選択的に電極活物質層2’を設けて、非水電解液二次電池用電極板20’’’を構成してもよい。即ち、集電体1’’の表面のうち、表面103の少なくとも一部に、選択的に電極活物質層2’を設けても良い。あるいは、図示しないが、断続層5が導電性を示さない場合、集電体1’’の表面103’の少なくとも一部に選択的に電極活物質層2’を設けてもよい。
【0043】
尚、上述する集電体の説明は、本発明に用いられる集電体を何ら限定するものではない。本発明に用いられる集電体は、以上に例示するとおり、集電機能を有する集電基材のみであってもよく、かかる態様では、電極活物質層が設けられる集電体の表面とは、該集電基材の表面を指す。あるいは、本発明において、集電体とは、集電機能を有する集電基材と、該集電基材上に設けられる任意の積層層を有していてもよい。かかる態様では、電極活物質層が設けられる集電体の表面とは、集電基材と電極活物質層との間の少なくとも一領域で電子の移動が確保される範囲において、上記積層層の表面、あるいは、積層層が設けられていない集電基材表面、あるいは、上記積層層の表面および積層層が設けられていない集電基材表面の両方を指す。
【0044】
本発明に用いられる集電体は、耐熱温度が800℃以下、さらには600℃以下、特には400℃以下のものを選択することが可能である。かかる集電体の選択は、後述する本発明の電極板を製造する方法における電極活物質層形成工程における温度条件などとの関係によって決定される。本発明の電極板を製造する方法では、電極活物質層形成工程が加熱工程である場合に、例えば400℃以下の加熱温度で集電体上に直接に電極活物質層を形成することができる。したがって、上記集電体は、耐熱温度が800℃以下、さらには600℃以下、特には400℃以下のものを選択することができ、該集電体上に直接に電極活物質層が形成されてなる本発明の電極板を提供することができる。尚、400℃以下の耐熱性の低い集電体上に直接に設けられた電極活物質層は、活物質粒子と、結着物質粒子とが同じ化合物からなる組み合わせであることが望ましいが、これに限定されない。
【0045】
上記集電体の厚みは、一般に非水電解液二次電池用正極板または負極板の集電体として使用可能な厚みであれば特に限定されないが、10〜200μmであることが好ましく、15〜50μmであることがより好ましい。
【0046】
(電極活物質層)
本発明における電極活物質層は、少なくとも、活物質粒子と、結着物質粒子として、リチウムイオン挿入脱離反応を示し、上記活物質粒子の平均粒径よりも小さい平均粒径である金属酸化物粒子とを含んで構成される。
【0047】
本発明の電極板において、電極活物質層の厚みは、当該電極板に求められる電極容量や出入力特性を勘案して、適宜設計することができる。一般的には、電極活物質層の厚みは、200μm以下、より一般的には100μm以上かつ150μm以下の厚みで設計される。ただし、本発明においては、電極活物質層を非常に薄く形成することが可能である。そのため、用いられる活物質粒子の粒子径にもよるが、電極活物質層の厚みが、300nm以上200μm以下の電極活物質層を形成することができる。出入力特性を向上させつつも電極容量を向上させ得るという観点からは、特に電極活物質層の膜厚を300nm以上150μm以下にすることが好ましく、500nm以上100μm以下とすることがより好ましい。即ち、電極活物質層の厚みが、上述の範囲のように薄い場合には、用いられる活物質粒子は粒子径が小さいものであり、少なくとも電極活物質層の膜厚以下の粒子径であることを意味する。また、電極活物質層の厚みが、上述の範囲のように薄い場合には、電極活物質層内における活物質粒子と集電体との距離が、短くなるので、電極板の抵抗を下げることができる。尚、本発明において電極活物質層の膜厚の下限は、主として用いられる活物質粒子の粒子径に依存し、使用可能な活物質粒子の粒子径の縮小化に伴い、さらに膜厚を薄くすることが可能である。
【0048】
活物質粒子:
本発明の正極板における電極活物質層に含有される正極活物質粒子としては、一般的に非水電解液二次電池用正極板において用いられるリチウムイオン挿入脱離反応を示す活物質粒子であれば、特に限定されない。上記正極活物質の具体的な例としては、例えばLiCoO、LiMn、LiNiO、LiFeO、LiTiO、LiFePOなどのリチウム複合酸化物などを挙げることができる。また、本発明の負極板における電極活物質層に含有される負極活物質粒子としては、一般的に非水電解液二次電池用負極板において用いられるリチウムイオン挿入脱離反応を示す活物質粒子であれば、特に限定されない。上記負極活物質の具体的な例としては、例えばグラファイトやLiTi12などを挙げることができる。
【0049】
本発明に用いられる活物質粒子の粒子径は、特に限定されず、任意の大きさのものを適宜選択して使用することができる。特に、粒子径の小さい活物質粒子を用いる態様の本発明によれば、電極活物質層中における活物質粒子の表面面積の総量を増大させることができるとともに、1つの活物質粒子内におけるリチウムの移動距離を短縮することが可能であるため、飛躍的に出入力特性を向上させることができる。したがって、より高い出入力特性を求める場合には、粒子径の寸法の小さいものを選択することが望ましい。具体的には、用いる活物質粒子の粒子径は、好ましくは10μm未満、より好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下である。従来の、樹脂製結着材を用いたスラリー状の電極活物質層形成液では、用いる活物質粒子径が10μm未満となると塗工適性が不良になる傾向にあり、5μm以下であると該形成液の流動性が著しく悪くなり、印刷機などの量産設備に適用が困難となり、さらに1μm以下であると、活物質粒子を形成液中に分散すること自体が困難になる傾向にあった。
【0050】
また本発明において、電極活物質層中に含有される活物質粒子の平均粒径は、結着物質粒子である金属酸化物粒子との関係では、該金属酸化物粒子の平均粒径よりも大きい必要がある。望ましくは、電極活物質層中に含まれる活物質粒子の平均粒径は、結着物質粒子である金属酸化物粒子の平均粒径の5倍以上、好ましくは、10倍以上、より好ましくは、50倍以上である。以上のとおり、活物質粒子の平均粒径が、結着物質粒子の平均粒径よりも著しく大きい場合には、電極活物質層中において、活物質粒子の充填率を充分に大きくすることができ、且つ、活物質粒子間に存在する空間に多数の結着物質粒子が充填された状態が可能となり、電極容量の増大効果に優れる。
【0051】
上記、電極活物質層中に含有される活物質粒子の平均粒径、あるいは、後述する結着物質である金属酸化物粒子の平均粒径は、電子顕微鏡観察結果を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(例えば株式会社マウンテック製、MAC VIEWなど)を用いて任意に選択された複数(例えば30ケ程度)の活物質粒子の最長径を測定し、その平均値を算出することにより求めることができる。
【0052】
金属酸化物粒子:
上記電極活物質層中に含有される金属酸化物粒子は、リチウムイオン挿入脱離反応を示し、平均粒径が、活物質粒子の平均粒径よりも小さいものであって、金属元素に結合する酸素元素を有する化合物であればよく、このような条件を満たす限り、一般的に金属と理解される元素の酸化物であれば、特に限定されない。より具体的には、上記金属酸化物粒子は、Li、Be、Na、Mg、Al、Si、K、Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Rb、Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Cs、Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg、Tl、Pb、Bi、Fr、Ra、およびCeなどの金属元素の1種の金属酸化物粒子、または2種以上の金属元素を含む複合金属酸化物粒子とすることができる。本発明における金属酸化物としては、リチウム複合酸化物を選択することによって、リチウムイオン二次電池の電極板として、好適に使用し得るために望ましい。中でも上記金属酸化物が、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、およびチタンの中から選択される、いずれか1種以上の金属とリチウムとの複合酸化物である場合には、リチウムイオン二次電池に好適な電極板を提供することができるため好ましい。より具体的には、リチウムイオン二次電池用電極板における電極活物質層において、該金属酸化物を結着物質として作用させるとともに、活物質としても作用させ得るため、出入力特性が向上し、且つ電極容量が増大した電極板を提供可能となるため好ましい。
【0053】
上述で列挙する金属元素の酸化物とは、上述する金属元素のうちのいずれか1つに酸素が結合した金属酸化物粒子、あるいは上述する金属元素から選択される2以上の金属元素を含む複合金属酸化物粒子のいずれであってもよい。尚、2以上の金属元素が含有される複合金属酸化物粒子であって、本発明の正極用の電極板における金属酸化物粒子の例としては、LiCoO、LiMn、LiNiO、LiFeO、LiTiO、LiFePO、LiMnPO4、、LiTi12などを挙げることができる。また、同様に、本発明の負極用の電極板における金属酸化物粒子の例としては、LiTi12、SiOなどを挙げることができる。特に、導電性を有するLiCoO、LiMnなどの金属酸化物粒子が、平均粒径が活物質粒子よりも小さい結着物質粒子として、活物質粒子表面あるいは活物質粒子間に存在することによって、電極活物質層内における導電性をも向上させることができるため、特に出入力特性の向上効果が高い。また、結着物質にも導電性を求められるため、別途添加される導電材の添加量を低減させることができるため、体積あたりの活物質粒子量を増加させることができ、この結果、電極容量の増大を図ることができる。尚、上述の例示のとおり、本発明における金属酸化物は、金属元素含有リン酸化合物を含む。
【0054】
電極活物質層中において、結着物質粒子の平均粒径と、活物質粒子の平均粒径との関係は、上述するとおりである。特に、結着物質粒子の平均粒径が10nm以上1μm未満、より好ましくは100nmを上回り、1μm未満であることにより、活物質粒子の平均粒径に対し、結着物質粒子の平均粒径を有意に小さくなるよう設計しやすく、望ましい。結着物質粒子の平均粒径が1μm以上であることを禁止する趣旨ではないが、1μm以上とすることは製造上の困難点があり、また、1μm未満とすることによって、活物質粒子間の隙間に結着物質粒子を充填させた状態にすることが容易であって、電極容量の増大効果が望ましく発揮されやすい。また、結着物質粒子の平均粒径が10nm未満である場合には、理由は明らかではないが、該結着物質粒子が電極板において活物質の作用を発揮しうる金属酸化物であったとしても、電極容量増大効果が得られ難い傾向にある。特に、結着物質粒子の平均粒径が100nmを上回る場合に、本発明の効果である、出入力特性の向上が顕著に発揮され好ましい。
【0055】
上述に例示するように、本発明における金属酸化物粒子はリチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子であって、活物質としての作用も発揮し得る。活物質粒子と、これを集電体上に固着させるための結着物質粒子である金属酸化物粒子との組み合わせの観点では、正極活物質粒子と、正極活物質となり得る金属酸化物粒子との組み合わせ、あるいは、負極活物質粒子と、負極活物質となり得る金属酸化物粒子との組み合わせが好ましい。
【0056】
特に、正極活物質粒子を構成する金属酸化物粒子材料と、上記結着物質粒子としての金属酸化物粒子とが同一の化合物である態様、および、負極活物質粒子を構成する金属酸化物粒子材料と、上記結着物質粒子としての金属酸化物粒子とが同一の化合物である態様は、電極容量の増大の観点から非常に好ましい。また中でも、活物質粒子としてマンガン酸リチウム粒子を用い、且つ、結着物質粒子としてもマンガン酸リチウム粒子である組み合わせが、出入力特性の向上などの観点も含め、最も望ましい。即ち、電池を用いて作動される装置には、装置ごとの電圧の規格がある。一方、電池における電極板にも固有の電位(電位差)が存在し、当該電位は、主として電極活物質層中に含有される活物質の電位により決定される。ここで本発明は、電極活物質層中に活物質粒子と、活物質となりうる金属酸化物粒子(結着物質粒子)とが存在する。そして、上記活物質粒子と上記金属酸化物粒子とが同一の化合物である態様は、示される電位も等しいものとなる。その結果、上記金属酸化物粒子も活物質として、上記活物質粒子と同様に充放電時においてリチウムイオンの出し入れに関与することとなり、電極容量が、実質的に増大される。一方、上記活物質粒子と、上記金属酸化物粒子とが異なる化合物であり、したがって電位も異なる態様は、上記金属酸化物の電位と、当該電池が用いられる装置の電圧の規格によって、該金属酸化物が活物質として作用する場合としない場合とがある。
【0057】
本発明において、活物質粒子と、結着物質粒子である金属酸化物粒子とが同一の化合物であるとは、両者が同じ組成を示す化合物であることを意味する。このとき、活物質粒子および金属酸化物粒子の化学組成に示される組成比率は、完全に同じものだけでなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において異なっていてもよい。また、活物質粒子である化合物および金属酸化物粒子である化合物のいずれか一方、あるいは両方に、任意の元素が本発明の趣旨を逸脱しない程度に置換されている場合にも、両化合物は同一と理解することができる。
【0058】
また活物質粒子と、金属酸化物粒子とが同一の化合物であることを、化学組成の分析以外の別な手段で判断する方法として、化合物の結晶構造を確認してもよい。即ち、透過型電子顕微鏡で、活物質粒子である化合物と、金属酸化物粒子である化合物とを観察し、2つの化合物の結晶構造が同じであれば、両者は同一の化合物を判断することができる。ここで結晶構造が同一とは、結晶構造が同一の結晶相に含まれる場合を意味する。換言すると、活物質粒子と金属酸化物粒子とが同一でないという場合は、両者の結晶構造が、それぞれ異なる結晶相に位置する場合をいい、結晶格子の対照性の差異に基づく狭義の否同一性を意図しない。
【0059】
例えば、本発明の電極板を用いて作製された電池において、活物質粒子の電位が3.7V、結着物質粒子である金属酸化物粒子の電位が4.5Vである例について示す。当該電池を、電圧の規格が3.7Vの装置に用いた場合には、上記金属酸化物粒子がリチウムイオンの挿入脱離を示す電圧まで至らないため当該金属酸化物粒子は充放電に貢献しない(即ち、活物質として作用しない)。一方、本発明の電極板を用いて作製された電池において、活物質粒子の電位が3.7V、結着物質粒子である金属酸化物粒子の電位が3.4Vである例について示す。当該電池を、電圧の規格が3.7Vの装置に用いた場合には、上記金属酸化物粒子がリチウムイオンの挿入脱離を示し充放電に貢献する(即ち、活物質として作用する)。ただし、後者の例は、活物質粒子の電位と金属酸化物粒子の電位の差だけ、電力のロスが発生する。したがって電池の放電容量(尚、本明細書において、電池の放電容量を単に「電池容量」ともいう)増大の観点からは、本発明の電極板における結着物質粒子である金属酸化物粒子は、リチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子であって、活物質粒子以下の電位を示す金属酸化物粒子であることが好ましく、特に、活物質粒子と等しい電位を示す金属酸化物粒子であることがより好ましい。
【0060】
また、上述のとおり、電池としたときに活物質の働きを示す結着物質粒子は、電池容量を増大させる効果に加え、さらに電池の初期充放電効率をも増大させることが可能であることが本発明者らの鋭意検討により見出された。ここで、一般的にリチウムイオン二次電池では、初期充放電効率の低下の問題が存在する。即ち、初期充電における充電容量を100%としたときに、続いて行われる放電では、放電容量が100%未満に低下するという問題があった。上記放電容量の低下は、90%を下回る場合もあった。これは、一般的に、初期充電時において、正極活物質粒子から負極活物質粒子へと移動したリチウムイオンの一部が、負極活物質粒子表面で損失してしまい、続く放電時に、充電量のリチウムイオン100%を負極活物質粒子から正極活物質粒子に提供できないためと考えられている。
【0061】
これに対し、本発明における電極活物質層に含まれる1つの活物質粒子に着目した場合に、本発明の一態様として、複数の結着物質粒子である金属酸化物粒子が、該活物質粒子の表面の少なくとも一部を覆い、且つ、非水電解液と接触可能な露出面を有している状態で存在してもよい。これは、上記固着態様1あるいは2において、一部の表面が、非水電解液に接触可能に露出している結着物質粒子、および、他の活物質粒子、導電材、集電体などには接しておらず、1つの活物質粒子の表面の一部のみを覆っている複数の結着物質粒子を含む。本発明の電極板を使用する電池を動作させる場合に、活物質粒子の表面の少なくとも一部を覆い、且つ、非水電解液と接触可能な露出面を有している結着物質粒子は、活物質粒子に先んじて、あるいは活物質粒子と平行して、リチウムの挿入脱離反応が生じ得る。また特に、結着物質粒子の平均粒径に比べて、活物質粒子の平均粒径が著しく大きい場合には、活物質粒子間の隙間に多数の結着物質粒子が充填された状態となり、活物質粒子に接触せずに、結着部物質粒子同士で接合しているものも存在する。かかる態様では、結着物質粒子における非水電解液と接触可能な露出面が増大し、該結着物質粒子における活物質作用の効果が増大する。
【0062】
そして、本発明の電極板において、活物質粒子の表面の少なくとも一部を覆い、あるいはさらに、非水電解液と接触可能な露出面を有している結着物質粒子が、活物質として作用する場合に、当該結着物質粒子により、充電時に損失したリチウムイオンを補填することができると本発明者らは推測する。このようなリチウムイオン補填効果を確認するために、以下のような実施例と参考例とを実施することができる。即ち、本発明の電極板について、結着物質粒子も活物質として換算し、電極活物質層における体積当たりの活物質量をXg/cmと設計する。一方、参考例の電極板について、金属酸化物粒子である結着物質粒子を含まない従来の電極活物質層における体積当たりの活物質量をXg/cmと設計する。上記実施例と比較例とを比較した場合、本発明の電極板の方が、初期充放電効率が高くなることがわかる。このことから、上記実施例における初期充放電効率の向上は、活物質の作用を発揮する結着物質粒子の存在によることが理解される。何故、複数の結着物質粒子が活物質粒子の表面を覆って存在することにより、このような効果が発揮されるのかは不明であるが、本発明者らは、活物質粒子の表面を覆う複数の結着物質粒子は、活物質粒子に比べて小粒径であるため、粒子内のリチウムイオンの移動距離が短く、また、特に活物質粒子の表面に接し、あるいは接近している活物質粒子では、非水電解液側にも、接触する活物質粒子側にもリチウムイオンの出入りが非常にし易く、このため、損失したリチウムイオンを容易に補填することができるのではないかと推測している。本発明の電極板は、単位面積あたり略同量の活物質粒子を含む樹脂結着材のみを用いた従来の電極板と比較して、初期充放電効率を向上させることが可能であり、好ましくは、初期充電容量100%に対し、続く放電容量を90%以上、より好ましくは、95%以上とすることが可能である。
【0063】
尚、上述で記載する金属酸化物粒子の例は、本発明における金属酸化物粒子を何ら限定するものではない。本発明において、集電体上で活物質粒子の結着物質粒子として働きうる金属酸化物粒子とは、リチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子であって、平均粒径が、活物質粒子の平均粒径よりも小さく、その存在により、活物質粒子を集電体上に固着させることのできるものであれば、いずれのものであってもよい。
【0064】
本発明において、結着物質粒子である金属酸化物粒子が、リチウムイオン挿入脱離反応を示すものであるか否かは、電気化学測定(サイクリックボルタンメトリー)法により確認することができる。
【0065】
具体的には、金属酸化物の適切な電圧範囲において、電極電位が設定され、測定が実施される。例えば金属酸化物粒子が、LiMnであれば3.0Vから4.3Vまで掃引したのち、再び3.0Vまで戻す作業を3回程度繰り返すものである。走査速度は1mV/秒が好ましい。例えば金属酸化物粒子が、LiMnであれば、サイクリックボルタモグラムにおいて、約3.9V付近にLiMnのLi脱離反応に相当する酸化ピークが出現し、約4.1V付近にLi挿入反応に相当する還元ピークが出現する。上記ピークの出現によって、LiMnのリチウムイオンの挿入脱離反応が確認される。LiMnを用いた際のサイクリックボルタモグラムにおいて2回目のサイクル結果を図1に示す。尚、適切な電圧範囲とは、サイクリックボルタンメトリー試験において、試験に用いられる金属酸化物粒子におけるリチウムイオンの挿入脱離を示すピークの有無が確認できる程度の電圧範囲を意味する。
【0066】
一方、リチウムイオンの挿入脱離反応を示さない金属酸化物粒子の例として、酸化鉄を用いて同様にサイクリックボルタンメトリー試験を実施した場合には、サイクリックボルタモグラムには、ピークが検出されない。酸化鉄を用いた際のサイクリックボルタモグラムにおいて2回目のサイクル結果を図2に示す。
【0067】
尚、本発明の電極板を製造するにあたり、電極活物質層中に含有が予定される金属酸化物粒子のリチウムイオン挿入脱離反応の有無は、上述のとおり確認することができる。したがって、予め確認した上で、リチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子が、電極活物質層中における結着物質粒子として決定される。一方、すでに完成された電極板における電極活物質層中にリチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子が含有されているか否かは、例えば、以下のとおり確認することができる。即ち、電極活物質層を削ってサンプルを作成し、該サンプルの組成分析を実施することにより、サンプル中に、いかなる金属酸化物粒子が含有されているかを推定することができる。そして、推定された金属酸化物粒子よりなる塗膜を、ガラスなどの基板上に形成し、これをサイクリックボルタンメトリー試験に供することにより、当該金属酸化物粒子がリチウムイオン挿入脱離反応を示すか示さないかを確認することができる。あるいはまた、既に完成された電極板における電極活物質層を透過型電子顕微鏡で観察し、結着物質粒子である金属酸化物粒子の結晶格子が、従来公知の活物質として知られる化合物の結晶格子と同様であれば、該結着物質粒子である金属酸化物粒子は、リチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子であると判断することができる。
【0068】
本発明において、電極活物質層中における活物質粒子と金属酸化物粒子の配合比率は特に特定されず、使用される活物質粒子の種類や大きさ、金属酸化物粒子の種類、電極に求められる機能などを勘案して適宜決定することができる。ただし、本発明における金属酸化物粒子は、上述のとおり、リチウムイオン挿入脱離反応を示すものであることから、活物質粒子を集電体上に固着させるための結着物質粒子としての役割のみならず、活物質としての役割も果たしうる。その観点から、電極活物質層中において、結着物質粒子である金属酸化物粒子の占める割合は、3重量%以上、30重量%以下であることが好ましい。
【0069】
その他の材料:
上記電極活物質層は、上述する活物質粒子および結着物質粒子である金属酸化物粒子のみから構成することが可能であるが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、さらなる添加剤が含有されていてもよい。たとえば、本発明の電極板は、導電材を使用することなく良好な導電性を発揮させることが可能であるが、より優れた導電性が望まれる場合や、活物質粒子の含有量を増大させたい場合などには、導電材を使用することが望ましい。
【0070】
上記導電材としては、通常、非水電解液二次電池用電極板に用いられるものを使用することができ、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック等の炭素材料が例示されるが、これに限定されるものではない。導電材の平均粒径は20nm〜50nm程度であることが好ましい。また異なる導電材としては炭素繊維(VGCF)が公知である。上記平均粒径は、活物質粒子の平均粒径を測定する方法と同様に、電子顕微鏡による実測から求められる算術平均により求められる。
【0071】
導電材を電極活物質層に含有させる場合には、その含有量は特に限定されないが、一般的には、活物質粒子100重量部、あるいは活物質粒子および結着物質粒子の総量100重量部に対して、導電材の割合が5重量部以上20重量部以下となるようにすることが望ましい。
【0072】
また本発明は、樹脂製結着材を使用せずとも活物質粒子を集電体上に固着させることができるものであるが、これは電極活物質層に樹脂成分が含有されることを禁止する趣旨ではない。たとえば、電極板を用いて電池を組み立てる場合には、電解液を電極の細孔内部へしみこませる必要があり、この際、電解液の浸透性を向上させるために電極活物質層中に、樹脂成分を1〜10%ほど含有させる場合がある。このように、必要に応じて、本発明においても電極活物質層中に少量の樹脂材料を含有させてもよい。あるいは、結着物質として、金属酸化物に加え、樹脂製結着材も電極活物質層中に含有されていてもよい。
【0073】
(直流抵抗測定)
本発明において、電極板の出入力特性は、製造された電極板の直流抵抗値(Ω)を測定することにより、評価することができる。即ち、電極板の直流抵抗値が、低くなるということは出力が高くなることを意味し、その結果、出入力特性が向上したと理解することができる。上記直流抵抗値は、以下に示す方法で測定することができる。
【0074】
直流抵抗値の測定は、試験セルを用いて、次のように算出する。2種類の放電レート(たとえば放電レート1Cと5C)で放電試験を実施した場合において、放電開始後10秒後の電圧値(mV)を測定する。たとえば、放電レート1Cの条件での放電試験を実施した場合については電圧値(V1)(mV)、放電レート5Cの条件での放電試験を実施した場合についても、放電開始後10秒後の電圧値(V5)(mV)を測定する。そして、これらの測定値(V1,V5)と、放電レート1C、5Cそれぞれに対応する定電流値(I1,I5)(mA)に基づき、数1に示す式により、直流抵抗値(Ω)が算出される。尚、この試験で抵抗値が小さいときは、電子とリチウムイオンの流れがスムーズであり、作用板の出入力特性が向上していると評価される。
【数1】

【0075】
[非水電解液二次電池用電極板を製造する方法]
次に、本発明の非水電解液二次電池用電極板を製造する方法以下、(以下、「本発明の製造方法」ともいう)の例について説明する。本発明の製造方法は、まず結着物質粒子である金属酸化物粒子の前駆体となる金属元素含有化合物および活物質粒子、あるいはさらに任意の添加剤を含む、電極活物質層形成液を調製する。そして上記本発明の製造方法は、上記電極活物質層形成液を集電体表面の所望の領域に塗布して塗膜を形成する塗布工程と、上記塗膜より電極活物質層を形成する電極活物質層形成工程と、を順に備える。
【0076】
上記電極活物質層形成工程は、上記塗膜に含まれる溶媒を除去するとともに、上記塗膜中に含有される金属元素含有化合物を反応させて金属酸化物粒子を生成し、該金属酸化物粒子によって上記活物質粒子を上記集電体上に固着させることによって、上記集電体上に該金属酸化物粒子と上記活物質粒子とを含有する電極活物質層を形成する工程であってよい。
【0077】
あるいは、本発明における電極活物質層形成工程は、塗布工程と上記電極活物質層形成工程との間に、任意の工程を設け、塗膜中の溶媒を除去した後に、電極活物質層形成工程を実施してもよい。即ち、電極活物質層形成工程は、予め溶媒の除去された塗膜中に含有される金属元素含有化合物を反応させて金属酸化物粒子を生成し、該金属酸化物によって上記活物質粒子を上記集電体上に固着させることによって、上記集電体上に該金属酸化物粒子と上記活物質粒子とを含有する電極活物質層を形成する工程であってもよい。
【0078】
尚、上記方法は、正極板を製造する場合には、正極活物質層を集電体上に積層形成するために、電極活物質層形成液には、正極活物質粒子およびこれに適した金属元素含有化合物を添加し、また負極板を製造する場合には、負極活物質層を集電体上に積層形成するために、電極活物質層形成液には、負極活物質粒子およびこれに適した金属元素含有化合物を添加する。ただし、本発明の製造方法において、「正極」および「負極」を、まとめて「電極」として示す場合がある。
【0079】
上記電極活物質層形成工程は、例えば、加熱工程、減圧乾燥工程、減圧加熱工程、あるいはこれらの組み合わせなどが例示されるが、これらに限定されず、集電体上に塗布された電極活物質層形成溶液により形成された塗膜を電極活物質層として形成可能な手段を実施する工程であればよい。例えば、上記電極活物質層形成工程は、上記塗膜中に含有される溶媒を除去する手段を実施し、次いで金属元素含有化合物を反応させる手段を実施するなど、2以上の手段を含んでもよい。
【0080】
上記電極活物質層形成工程が、加熱手段を実施する加熱工程である場合には、本発明の電極板は、上記電極活物質層形成液を集電体上に塗布し、該金属元素含有化合物の熱分解開始温度以上の温度で加熱して熱分解させ、これに含まれる金属元素を酸化せしめてリチウム挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子を生成し、該金属酸化物粒子によって活物質粒子を集電体上に固着させ、電極活物質層を形成することによって製造することができる。このとき、活物質粒子の平均粒径よりも生成される金属酸化物粒子の平均粒径の方が小さくなるように、加熱温度・加熱時間などの製造条件を適宜決定する。上記電極活物質層形成液中に含まれる活物質粒子や導電材粒子は、上記固着態様1に加え、固着態様2として示すように、粒子同士の直接の接触を良好に保って固着される態様が含まれる。このように、固着態様1および2に示されるような固着の状態を可能とするのは、本発明の電極板を製造する方法において、金属元素含有化合物が溶媒に溶解され、且つ、活物質粒子等を混合した電極活物質層形成液を集電体上に塗布して電極活物質層を形成する際に、加熱などの手段により溶媒が除去され、生成される金属酸化物粒子(結着物質粒子)が、粒子間、あるいは粒子同士が直接に接触する接触部分の周囲に生成されるからである。この結果、上記方法は、導電性が良好で電気抵抗を低く保つことが可能な電極板を製造することができる。尚、本発明の製造方法において、電極活物質層形成溶液中に含まれる金属元素含有化合物は、溶媒に溶解した状態のものも含めて金属元素含有化合物と呼ぶ。
【0081】
活物質粒子:
上記電極活物質層形成液に含有される活物質粒子は、上述において既に説明した正極活物質粒子、あるいは負極活物質粒子と同様であるため、ここではその説明を割愛する。
【0082】
金属元素含有化合物:
上記電極活物質層形成液中に溶解される金属元素含有化合物は、電極活物質層中に含有され、結着物質粒子として活物質粒子同士を固着させ、また、活物質粒子を集電体上に固着させ、且つ、リチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子の前駆体である。したがって、上記金属元素含有化合物は、溶液中に溶解された状態で基板上に塗布され、熱分解開始温度以上で加熱されたときに、上述する金属酸化物粒子を生成することができるものであればよい。尚、使用する金属元素含有化合物から生成される金属酸化物粒子が、リチウムイオン挿入脱離反応を示すか否かは、予備実験において、金属元素含有化合物が含有される溶液を基板上に塗布してこれを加熱することによって金属酸化物粒子を形成し、上述するサイクリックボルタンメトリー法により確認することができる。
【0083】
たとえば、上記金属元素含有化合物の例としては、リチウム元素含有化合物と、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄またはチタンから選択されるいずれかの金属元素を含む金属元素含有化合物の1種あるいは2種以上との組み合わせが挙げられる。また本発明において用いられる金属元素含有化合物は、当該化合物内に炭素が含まれていない、無機金属元素含有化合物であってもよいし、あるいは当該化合物内に炭素が含まれて構成される有機金属元素含有化合物であってもよい。本発明および本明細書において、無機金属元素含有化合物及び有機金属含有化合物をあわせて、単に金属元素含有化合物という場合がある。
【0084】
また金属元素含有化合物としては、リチウム元素あるいはコバルト等の他の金属元素の塩化物、硝酸塩、硫酸塩、過塩素酸塩、酢酸塩、リン酸塩、臭素酸塩、炭酸塩等を挙げることができる。中でも、本発明においては、塩化物、硝酸塩、酢酸塩は汎用品として入手が容易なので、使用することが好ましい。とりわけ、硝酸塩は広範囲の種類の集電体に対して製膜性がよいので、好ましく使用される。
【0085】
例えば、集電体上に金属酸化物粒子として、LiCoOを生成するための金属元素含有化合物としては、Li元素含有化合物、及びCo元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を上記主原料と組み合わせて用いることもできる。上記Li元素含有化合物としては、例えば、クエン酸リチウム四水和物、過塩素酸リチウム三水和物、酢酸リチウム二水和物、硝酸リチウム、及びりん酸リチウム等が挙げられ、また、Co元素含有化合物としては、例えば、塩化コバルト(II)六水和物、蟻酸コバルト(II)二水和物、コバルト(III)アセチルアセトナート、コバルト(II)アセチルアセトナート二水和物、酢酸コバルト(II)四水和物、しゅう酸コバルト(II)二水和物、硝酸コバルト(II)六水和物、塩化コバルト(II)アンモニウム六水和物、亜硝酸コバルト(III)ナトリウム、及び硫酸コバルト(II)七水和物、炭酸リチウム等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びCo元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Co=X:1)は、特に限定されないが、1≦X<2であることが好ましく、1≦X≦1.2であることがより好ましい。
【0086】
また例えば、集電体上に金属酸化物粒子として、LiNiOを生成するための金属元素含有化合物としては、Li元素含有化合物、及びNi元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を上記主原料と組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物の例は、上述するLiCoOを生成する場合と同様であり、また、Ni元素含有化合物としては、例えば、塩化ニッケル(II)六水和物、酢酸ニッケル(II)四水和物、過塩素酸ニッケル(II)六水和物、臭化ニッケル(II)三水和物、硝酸ニッケル(II)六水和物、ニッケル(II)アセチルアセトナート二水和物、次亜りん酸ニッケル(II)六水和物、及び硫酸ニッケル(II)六水和物、炭酸ニッケル等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びNi元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Ni=X:1)は、特に限定されないが、1≦X<2であることが好ましく、1≦X≦1.2であることがより好ましい。
【0087】
また例えば、集電体上に金属酸化物粒子としてLiMnを生成するための金属元素含有化合物としては、Li元素含有化合物、及びMn元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を上記主原料と組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物の例は、上述するLiCoOを生成する場合と同様であり、また、Mn元素含有化合物としては、例えば、酢酸マンガン(III)二水和物、硝酸マンガン(II)六水和物、硫酸マンガン(II)五水和物、しゅう酸マンガン(II)二水和物、及びマンガン(III)アセチルアセトナート、炭酸マンガン等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びMn元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Mn=X:1)は、特に限定されないが、0.5≦X<1であることが好ましく、0.5≦X≦0.6であることがより好ましい。
【0088】
また例えば、集電体上に金属酸化物粒子としてLiFeOを生成するための金属元素含有化合物としては、Li元素含有化合物、及びFe元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を上記主原料と組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物の例は、上述するLiCoOを生成する場合と同様であり、また、Fe元素含有化合物としては、例えば、塩化鉄(II)四水和物、クエン酸鉄(III)、酢酸鉄(II)、しゅう酸鉄(II)二水和物、硝酸鉄(III)九水和物、乳酸鉄(II)三水和物、及び硫酸鉄(II)七水和物等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びFe元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Fe=X:1)は、特に限定されないが、1≦X<2であることが好ましく、1≦X≦1.2であることがより好ましい。
【0089】
また例えば、集電体上に金属酸化物粒子としてLiTi12を生成するための金属元素含有化合物としては、Li元素含有化合物、及びTi元素含有化合物を主原料として組み合わせて用いることができ、さらに、必要に応じてその他の原料を上記主原料と組み合わせて用いることもできる。Li元素含有化合物の例は、上述するLiCoOを生成する場合と同様であり、また、Ti元素含有化合物としては、例えば、四塩化チタン、及びチタンアセチルアセトナート、チタンキレート剤等が挙げられる。主原料として用いるLi元素含有化合物、及びTi元素含有化合物の組み合わせ割合(Li:Ti=X:1)は、特に限定されないが、0.8≦X<2であることが好ましく、0.8≦X≦1であることがより好ましい。
【0090】
尚、電極活物質層中における活物質粒子の平均粒径よりも、生成される金属酸化物粒子の平均粒径が小さくなるよう製造するための1つの態様として、先駆体として選択される金属元素含有化合物を、酢酸リチウム2水和物と酢酸マンガン(II)4水和物の組み合わせ、あるいは、酢酸リチウム2水和物と酢酸コバルト(II)4水和物の組み合わせ、あるいは、酢酸リチウム2水和物と酢酸ニッケル(II)4水和物の組み合わせで選択することが望ましい。ただし、選択される金属元素含有化合物はこれに限定されない。
【0091】
上述する電極活物質層形成液において、溶媒中における、添加される1種または2種以上の金属元素含有化合物の添加量の合計の比率は、0.01〜5mol/L、特に0.1〜2mol/Lが好ましい。上記濃度が0.01mol/L以上であることにより、集電体と該集電体表面で生成される電極活物質層とが良好に密着し、活物質粒子の固着が図られる。また、上記濃度が、5mol/L以下であることにより、上記電極活物質層形成液は集電体表面へ良好に塗布できる程度の良好な粘度を維持することができ、均一な塗膜が形成される。
【0092】
(その他の添加剤)
また上記電極活物質層形成液には、上述する活物質粒子および金属元素含有化合物以外にも、導電材あるいは、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、その他の添加剤を添加してもよい。上記導電材及びその他の添加剤は、本発明の電極活物質層の説明において記載した内容と同様のものを用いることができる。
【0093】
導電材を電極活物質層形成液に添加する場合には、集電体表面上において生成される活物質粒子、あるいは活物質粒子および形成が予定される金属酸化物の総量100重量部に対して、導電材の添加量が5重量部〜20重量部であることが望ましい。尚、上述は、20重量を超えて導電材を添加することを除外する趣旨ではない。
【0094】
(溶媒)
上記電極活物質層形成液を調製するために用いられる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、水、あるいは、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール、アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のジケトン類、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類、トルエン、あるいはこれらの2種以上の組み合わせからなる混合溶媒等を挙げることができる。
【0095】
尚、上記電極活物質層形成液は、集電体上に形成が予定される電極活物質層における活物質粒子、金属酸化物粒子、あるいはさらに必要に応じて導電材などのその他の添加剤を必要量含まれるように勘案して、これらの配合量が決定される。その際、溶媒に添加される溶質(即ち、活物質粒子、金属元素含有化合物および任意の添加剤)の比率は、塗布工程において集電体上への塗布性及び、電極活物質層形成工程における溶媒の除去を勘案し、適宜調整する。一般的には、電極活物質層形成液を100重量%としたときに、含有される溶質の総量は、30〜70重量%となるよう調整される。
【0096】
次に、以上のとおり調製された電極活物質層形成液を、集電体上に塗布して塗膜を形成する。尚、本発明の電極板を製造する方法において用いられる集電体は、上記非水電解液二次電池用電極板に用いられる集電体と同様であるため、ここではその説明を割愛する。
【0097】
本発明の電極板を製造する方法における塗布工程では、形成液の塗布方法として公知の塗布方法を、適宜選択して実施することができる。たとえば、印刷法、スピンコート、ディップコート、バーコート、スプレーコート等によって、集電体表面の任意の領域に上記電極活物質層形成液を塗布して塗膜を形成することができる。また、集電体表面が多孔質であったり、凹凸が多数設けられていたり、三次元立体構造を有したりする場合には、塗布方法は、上記方法以外であって手動で塗布することも可能である。尚、本発明において使用する集電体は、必要に応じて、予めコロナ処理や酸素プラズマ処理等を行うことで、電極活物質層の製膜性をさらに改善することができるため好ましい。
【0098】
上記電極活物層形成液の集電体への塗布量は、製造される電極板の用途等に応じて任意に決めることができるが、本発明における電極活物質層は、上述のとおり非常に薄く形成することが可能であるため、薄膜化を図りたい場合には、最終的な電極活物質層の厚みが300nm〜150μm、特には500nm〜100μm程度となるように薄く塗布してよい。以上の通り、基板に電極活物質層形成液を塗布することにより、結着物質粒子である金属酸化物粒子の前駆体である金属元素含有化合物が含有される電極活物質層形成用の塗膜が形成される。
【0099】
上記塗布工程と、電極活物質層形成工程との間、あるいは、電極活物質層形成工程の後には、さらにプレス工程を実施してもよい。上記プレス工程は、集電体上に形成された上記電極活物質層形成用塗膜を、必要に応じて乾燥させて溶媒を除去し、その後、プレスすることによって実施することができる。したがって、プレス工程後に電極活物質層形成工程を実施する場合には、該電極活物質層形成工程前に予め、塗膜中の溶媒の一部または全部が除去されていてよい。プレス方法は、従来の樹脂製結着材が含まれるスラリー状の電極活物質層形成液を集電体上に塗布して乾燥させ、次いで実施されるプレスと同様の方法で実施することができるが、これに限定されない。このように本発明の電極板を製造する方法は、プレス工程を実施することによって、最終的に製造される電極板における電極活物質層の空隙率を調整し、また体積当たりのエネルギー密度を増加させることができる。
【0100】
次に、上記塗布工程において形成された塗膜から電極活物質層を形成するための電極活物質層形成工程について、該塗膜を加熱する加熱工程を例に説明する。本加熱工程は、上記塗膜中に存在する金属元素含有化合物を熱分解するとともに酸化させ、且つ、該塗膜中に含まれる溶媒を除去することを目的に行われる(ただし、加熱工程前にプレス工程を実施する場合には、溶媒は実質的にはプレスにおける乾燥で予め除去されている)。加熱方法としては、後述する加熱温度で、塗膜を加熱することができる加熱方法あるいは加熱装置であれば、特に限定されず、適宜選択して実施することができる。具体的な例としては、ホットプレート、オーブン、加熱炉、赤外線ヒーター、ハロゲンヒーター、熱風送風機等のいずれかを使用するか、あるいは2以上を組み合わせて使用する方法を挙げることができる。用いられる集電体が平面状である場合には、加熱工程は、ホットプレート等を使用することが好ましい。尚、ホットプレートを用いて加熱する場合には、塗膜面側が、ホットプレート面と接しない向きに設置して加熱することが好ましい。上記加熱温度は用いられる金属元素含有化合物の種類によって異なるが、上記塗膜を通常150℃〜800℃の温度範囲において加熱することにより良好に金属元素含有化合物の熱分解が行われ、速やかに金属酸化物粒子が生成される。生成された金属酸化物粒子は、リチウムイオン挿入脱離反応を示すことから、結晶性(微結晶を含む)の金属酸化物粒子であると理解される。
【0101】
ここで一般的に、結晶性の金属酸化物粒子を生成する場合には、少なくとも約800℃以上の温度で上記塗膜を加熱する必要がある。これに対し、本発明の製造方法において、700℃以下、さらには600℃以下、特には、400℃以下という低い加熱温度においても、結晶性あるいは微結晶性の金属酸化物粒子が生成されるのは、本発明の製造方法の特徴的な点の1つといえる。尚、上記結晶性の金属酸化物には、微結晶状態のものも含まれる。本発明者らの研究によれば、活物質粒子が含まれない以外は、電極活物質層形成液と同様に調整した試験溶液を用いて、本発明の製造方法における塗布工程、および加熱工程を実施した場合にも、リチウムイオン挿入脱離反応を示す結晶性、あるいは微結晶性の金属酸化物粒子(以下、金属酸化物粒子A)が生成されることがわかった。また、これに加え、活物質粒子が含まれる電極活物質層形成液を用いて、集電体上に電極活物質層を形成した場合には、該電極活物質層中に含まれる結着物質粒子である金属酸化物粒子(以下、本段落において「金属酸化物粒子B」)は、リチウムイオン挿入脱離反応を示すとともに、上記金属酸化物粒子Aよりも優れた放電容量(μAh)を示すことを見出した。金属酸化物粒子Bに示される放電容量(μAh)は、金属酸化物粒子Bの理論値に極めて近い値まで示される傾向にある。700℃以下、さらには600℃以下、特には、400℃以下という低い加熱温度において、このように放電容量の高い(即ち、結晶性の優れた)金属酸化物粒子を生成することができるという点は、本発明の製造方法の特筆すべき有利な点である。上述する加熱温度と、生成される金属酸化物粒子の結晶性の発達との関係は、以下のとおり推測される。即ち、電極活物質層形成液中に、活物質粒子が含有されているため、生成される金属酸化物粒子は、該活物質粒子の結晶性に追従して、700℃以下、さらには600℃以下、特には、400℃以下の加熱温度であってもリチウム挿入脱離反応が可能で、結晶性の高い金属酸化物粒子となるとと推測される。特に、生成される金属酸化物粒子と混合される活物質粒子の化学組成が同じ場合には、この追従作用が顕著であると推測される。
【0102】
上記加熱工程は、加熱温度を400℃以下で実施することにより、集電体の選択範囲が広がり、種々の集電体上に電極活物質層を直接に形成することができる点、および、実施温度が低いということによりコストメリットが向上する点など種々の効果が発揮されるため、好ましい。
【0103】
尚、上記加熱温度は、予備的に、使用が予定される金属元素含有化合物が配合される溶液を適当な基板上に塗布して加熱し、基板上に積層される膜を削って試料とし、組成分析を行い、金属元素と酸素の含有比率を測定することによって、金属酸化物粒子が形成されているかどうかを判断することができる。そして、金属酸化物粒子が生成されていた場合には、用いられた金属元素含有化合物が、基板上で熱分解開始温度以上の温度で加熱されたことが確認される。即ち、本発明において「金属元素含有化合物の熱分解開始温度」とは、加熱により金属元素含有化合物が分解され、金属元素の酸化が開始する温度、と理解することができる。
【0104】
また、上記加熱工程において、加熱温度を決定する際には、さらに、用いられる集電体、活物質粒子、導電材などの耐熱性も勘案することが望ましい。たとえば、一般的に正極板の集電体として用いられるアルミ箔の耐熱性は、660℃前後であるため、上記加熱温度が660℃を超える場合には、集電体を損傷するおそれがある。したがって、用いられる集電体、活物質粒子などを先に決定し、これらの耐熱性を勘案して、これらの耐熱温度と熱分解開始温度とを勘案して、金属元素含有化合物を選択してもよい。また、活物質粒子の平均粒径よりも、生成される金属酸化物粒子の平均粒径が小さくなるよう、予備実験を行い、適宜加熱温度を決定してよい。尚、本発明の製造方法に関し、「加熱温度」とは、加熱工程における最高温度を意味する。また加熱工程における加温の態様は、例えば、除々に昇温し、あるいは、一定の温度で加熱し、あるいは、段階的な温度で加熱してよく、任意に決定することができる。
【0105】
尚、上記加熱工程における加熱雰囲気は、特に限定されない。上記加熱雰囲気は、生成される金属酸化物や用いられる集電体の種類などを勘案して、適宜、決定される。上記加熱雰囲気は、例えば、空気、酸素、水素、不活性ガス(窒素・アルゴン)などのいずれかのガスを使用するか、あるいはこれらから選択される2種以上のガスを組み合わせてなるガスを用いて調整することができるが、これに限定されない。任意の加熱雰囲気で加熱工程を実施するために、雰囲気焼成炉が好適に使用される。
【0106】
本発明の電極板は、上述のとおり製造された電極活物質層に、さらに樹脂成分を含有させてもよい。電極活物質層にさらに樹脂成分を含有させる方法は、例えば、樹脂混合液を、電極活物質層の表面に塗布し、あるいは、樹脂混合液槽に電極板を浸漬させて、該樹脂混合液を電極活物質層の空隙に浸透させ、次いで、乾燥させることによって、電極活物質層に含浸する上記樹脂混合液の溶媒を除去し、樹脂成分だけを、電極活物質層の内部に残留させる方法が挙げられる。このように、電極活物質層中に樹脂成分を含有する本発明の電極板であれば、樹脂成分の存在により、電極板の曲げ耐性が向上し、加工特性を向上させることが可能である。また、特に上記樹脂成分が、従来使用されていた樹脂製結着材である場合には、集電体に対する電極活物質層の膜密着性をより向上させることができる。
【0107】
上記樹脂混合液に含まれる樹脂材料として、例えば、PVDFなどの従来の樹脂製結着材、スチレンブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメトキシセルロース(CMC)や、上記粘度調整剤に挙げるものなどを選択することができるが、これに限定されない。また上記樹脂材料は、電極活物質層における空隙内に浸透可能なサイズを適宜選択する。また、樹脂混合液の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、プロパノール、ブタノール等の総炭素数が5以下の低級アルコール、アセチルアセトン、ジアセチル、ベンゾイルアセトン等のジケトン類、アセト酢酸エチル、ピルビン酸エチル、ベンゾイル酢酸エチル、ベンゾイル蟻酸エチル等のケトエステル類、Nーメチルピロリドン(NMP)などのピロリドン類、トルエン、およびこれらの混合溶媒、水等などを用いることができ、該溶媒に、樹脂材料を混合させて、樹脂混合液を調製することができる。
【0108】
電極活物質層中に含有される樹脂成分の量は、電極板の出入力性能などを低下させない程度に調整することが望ましい。即ち、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、樹脂成分を電極活物質層中に含ませてよい。
【0109】
[非水電解液二次電池]
本発明の非水電解液二次電池の一実施態様としては、図4に示すように、集電体55の一方面側に電極活物質層54が設けられてなる正極板50及びこれに組み合わされる集電体1の一方面側に電極活物質層2が設けられてなる電極板10(即ち、図4中、電極板10は負極板である)と、これらの間にポリエチレン製多孔質フィルムのようなセパレータ70とが設けられる。そして、これらが外装81、82内に収納され、且つ、外装81、82内に非水電解液90が充填された状態で密封されて製造されて、非水電解液二次電池100が構成される。
【0110】
(電極板)
本発明の非水電解液二次電池は、特に、正極板及び負極板の少なくとも一方が、上述する本発明の非水電解液二次電池用電極板を用いることを特徴とする。
【0111】
特に、従来、負極板が炭素質材料より構成される場合には、これにあわせて正極板の導電性を上げるために正極板に導電材料を多量に添加することが一般的であったが、このために正極板の空隙率が低下し、電解液の浸透性が低下することにより電池の出入力を増大させることが困難であった。しかしながら本発明の電極板は高出入力可能な電極板であるので、これを正極板として用いた場合には、従来のように導電材を多量に用いることなく、あるいは導電材を全く用いることなく、良好な導電性及び高出入力化を可能とする。
【0112】
また非水電解液二次電池は、負極板に用いられる負極活物質として、グラファイトなどの炭素質材料ではなく、金属リチウム及びその合金、スズ、ケイ素、及びそれらの合金等、リチウムイオンを挿入脱離可能な材料を用い、負極板を構成する態様も含む。かかる態様の電池においては、本発明の電極板を負極として積極的に使用して、非水電解液二次電池を製造することができる。
【0113】
また本発明の電極板を、正極板および負極板の両方に用いて非水電解液二次電池を構成することもできる。
【0114】
尚、本発明の非水電解液二次電池において、正極板または負極板のいずれか一方において、本発明の電極板を用いる場合には、他方の電極板は、非水電解液二次電池において使用される従来公知の電極板を適宜使用することができる。
【0115】
従来公知の正極板としては、一般的には本発明の電極板において用いられる集電体と同様の集電体表面上の少なくとも一部に、正極活物質粒子、導電材、樹脂製結着材などが添加された正極活物質層形成液を塗布して、乾燥し、必要に応じてプレスすることにより形成されたものが使用される。
【0116】
一方、従来公知の負極板としては、集電体として厚み5〜50μm程度の電解銅箔や圧延銅箔等の銅箔を用い、上記集電体表面の少なくとも一部に、負極活物質層形成液を塗布して、乾燥し、必要に応じてプレスすることにより形成されたものが使用される。上記負極活物質層形成液には、一般的に、天然グラファイト、人造グラファイト、アモルファス炭素、カーボンブラック、またはこれらの成分に異種元素を添加したもののような炭素質材料からなる活物質粒子、あるいは、金属リチウム及びその合金、スズ、ケイ素、及びそれらの合金等の、リチウムイオン挿入脱離可能な材料などからなる活物質粒子、および樹脂製結着材、必要に応じて導電材などの他の添加剤が混合されることが一般的である。
【0117】
(非水電解液)
本発明に用いられる非水電解液は、一般的に、非水電解液二次電池用の非水電解液として用いられるものであれば、特に限定されないが、リチウム塩を有機溶媒に溶解させた非水電解液が好ましく用いられる。
【0118】
上記リチウム塩の例としては、LiClO、LiBF、LiPF、LiAsF、LiCl、及びLiBr等の無機リチウム塩;LiB(C、LiN(SOCF、LiC(SOCF、LiOSOCF、LiOSO、LiOSO、LiOSO11、LiOSO13、及びLiOSO15等の有機リチウム塩;等が代表的に挙げられる。
【0119】
リチウム塩の溶解に用いられる有機溶媒としては、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートなどの環状エステル類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどの鎖状エステル類、テトラヒドロフラン、アルキルテトラヒドロフランなどの環状エーテル類、及び1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタンなどの鎖状エーテル類等が挙げられるが、これに限定されない。
【0120】
上記正極板、負極板、セパレータ、非水電解液を用いて製造される本発明の非水電解液二次電池の構造としては、従来公知の構造を適宜選択して採用することができる。例えば、正極板及び負極板を、ポリエチレン製多孔質フィルムのようなセパレータを介して渦巻状に巻き回して、電池容器内に収納する構造が挙げられる。また別の態様としては、所定の形状に切り出した正極板及び負極板がセパレータを介して積層されて固定され、これを電池容器内に収納する構造を採用してもよい。いずれの構造においても、例えば、正極板及び負極板を電池容器内に収納後、正極板に取り付けられたリード線を外装容器に設けられた正極端子に接続し、一方、負極板に取り付けられたリード線を外装容器内に設けられた負極端子に接続し、さらに電池容器内に非水電化液を充填した後、密閉することによって非水電解液二次電池が製造される。
【0121】
[電池パック]
本発明の電極板を正極板および/または負極板として用いる非水電解液二次電池は、所謂、電池パックに用いられる非水電解液二次電池として使用することができる。即ち、本発明の電池パックは、本発明の電極板を正極板および/または負極板として用い、且つ、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と過放電保護機能を有する保護回路とが収納ケースに収納されて構成される。本発明の電池パックは、例えば、過充電、過放電、過電流、電池周辺回路の短絡、正負電極間の短絡などから電池を保護するための保護機能を非水電解液二次電池自体に装備するとともに、過充電や過放電を防止するための保護回路を該非水電解液二次電池と共に収納ケースに収容して一体化されてなる電池パックであってよい。本発明の電池パックは、ノートパソコン、カメラ、携帯電話等の携帯機器など、装置の規模に対して消費電力が大きい装置の電池電源装置として好適に使用することができる。
【0122】
図5に、本発明の電池パックの一態様として、本発明の電極板が用いられて構成されるリチウムイオン二次電池31を用いた本発明の電池パック30の概略分解図を示す。電池パック30は、リチウムイオン二次電池31が樹脂容器36a、樹脂容器36b、および端部ケース37に収納されて構成される。このとき、リチウムイオン二次電池31の一端面であって、正極端子32および負極端子33を備える面と、端部ケース37との間には、過充電や過放電を防止するための保護回路基板34が、設けられる。保護回路基板34は、外部接続コネクタ35を備えており、外部接続コネクタ35は、樹脂容器36aに設けられた外部接続用窓38aおよび、端部ケース37に設けられた外部接続用窓38bに挿入され、外部端子と接続される。また、保護回路基板34には、図示しない、充放電を制御するための充放電安全回路、外部接続端子とリチウムイオン二次電池31とを導通させるための配線回路などが搭載されている。尚、電池パック30は、本発明の電極板が用いられたリチウムイオン二次電池31を用いること以外は、従来公知の電池パックの構成を適宜採用することができる。図示省略するが、電池パック30は、リチウムイオン二次電池31と端部ケース37との間に、正極端子32と接続する正極リード板、負極端子33と接続する負極リード板、絶縁体などを、適宜備えてよい。
【0123】
尚、本発明の電極板を用いた本発明の非水電解液二次電池は、電池パックへの使用態様以外に、上記保護回路に、さらに、過大電流の遮断、電池温度モニター等の機能を備え、且つ、該保護回路を二次電池自体に一体化させて取り付けられる態様に用いられてもよい。かかる態様では、電池パックを構成することなく、保護機能および保護回路を備える二次電池として使用することができ、汎用性が高い。尚、上述するいくつかの態様は、例示に過ぎず、本発明の電極板、あるいは本発明の非水電解液二次電池の使用を何ら限定するものではない。
【実施例】
【0124】
(実施例1)
<非水電解液二次電池用正極板の作製>
非水電解液二次電池用正極板における電極活物質層を形成するための正極活物質層形成液を以下のとおり調製した。
まず金属元素含有化合物として、Li(CHCOO)・2HO(関東化学(株)製)を1.1g及びMn(CHCOO)・4HO(関東化学(株)製)を4.9g用い、これらをメタノール10gに加えて溶解させ、さらに、正極活物質粒子として平均粒径8μmのマンガン酸リチウム粒子を10g、導電材としてアセチレンブラックHS−100を1g、VGCF(昭和電工(株)製)を0.2g加え、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で7000rpmの回転数で20分間、攪拌することによって正極活物質層形成液を得た。上記正極活物質粒子の平均粒径は、レーザー回折/散乱式粒度分布測定により測定される平均粒径(体積中位粒径:D50)で求めた値である。以下に示す実施例および比較例に用いる活物質粒子の平均粒径についても同様である。尚、本実施例で用いた導電材の粒径は、約50nm〜約100nm程度である。
【0125】
次に、正極集電体である厚さ15μmのアルミ箔を準備し、当該正極集電体の一面側に、上記にて調製した正極活物質層形成液を、乾燥後の電極活物質層の重さが100g/mとなるように、アプリケーターで塗布し、その後、90℃、10分間、乾燥して集電体上に塗膜を形成した。尚、塗布量は、表2に示す。次いで、ロールプレス機を用いて、プレスして塗膜の厚みを調整した(塗膜の厚みは、プレス前は約100μm、プレス後は約80μmであった)。次に、上記塗膜を有する正極集電体を、大気雰囲気の電気炉(高温雰囲気ボックス炉、光洋サーモシステム(株)、KB8610N−VP)内に設置し、室温から480℃まで2時間かけて徐々に加熱し、その後、480℃に温度を維持したまま10時間加熱して、正極集電体上に正極活物質層を形成し本発明の正極板を得た。上記正極板を室温になるまで放置した後、大気開放して取り出し、所定の大きさ(15mmφ)に裁断し、これを実施例1とした。尚、マイクロメーターを用いて上記正極活物質層の厚みを、任意の箇所で10点測定し、平均値を算出したところ、80μmであった。また、使用した活物質粒子量などから、実施例1における単位面積当たりの活物質粒子の含有量(15.2mg/1.77cm)を算出し、表3に示した。
【0126】
膜形成性評価:
実施例1を作成するにあたり、上述で得られた正極板を所望のサイズの円板形状に繰り抜く加工を行ったが、当該加工作業において、正極活物質層が剥離するなどの不具合なく、加工することができた。このことから、正極活物質層の膜形成性が良好であることを確認した。
以下に示す実施例および比較例においても、上述するように、不具合なく電極板を円板状に繰り抜く加工ができた場合には、電極活物質層の膜形成性が良好であると評価する。一方、上記繰り抜き加工において電極活物質層の一部が剥がれ、あるいは活物質粒子が集電体上から落下するなどして、加工が不良であり、後述する三極式コインセルの作用極として使用に耐える円板が形成されなかった場合には、電極活物質層の膜形成性が不良であると評価する。
【0127】
電極活物質層の密着性評価:
実施例1における電極活物質層の密着性試験は引張試験機(テンシロン)を用い、JIS規格 K6854−1に従い行った。即ち、得られた実施例1から測定用テストピース(巾15mm、長さ200mm)を作成し、着材の粘着テープ(ナイスタック ニチバン社製 NW−25 幅 25mm)にテストピースを貼り、試験片1とした。引張試験機(テンシロン)に試験片1をセットし、チャック間距離150mm、テストスピード100mm/minの条件で90度剥離試験を行い、引張強度を測定した。測定結果は表2に示す。
【0128】
サイクリックボルタンメトリー試験(CV試験):
また、実施例1における電極活物質層中に含有される結着物質粒子である金属酸化物粒子が、リチウムイオン挿入脱離反応を示すか否かを予め確認するために、以下のとおり試験を行った。即ち、正極活物質粒子であるマンガン酸リチウム粒子を用いない以外は、実施例1に用いた上記正極活物質層形成液と同様に溶液を調整し、これを用いて、実施例1の作製方法と同様の方法で積層体を作成し、これを参考例1とした。そして、上記参考例1を用いてCV試験を行った。具体的には、まず電極電位を3.0Vから4.3Vまで掃引したのち、再び3.0Vまで戻す作業を3度繰り返した。走査速度は1mV/秒とした。2回目のサイクル結果を示すサイクリックボルタモグラムにおいて、3.9V付近にLiMnのLi脱離反応に相当する酸化ピークが、4.1V付近にLi挿入反応に相当する還元ピークが確認された。これによって、電極活物質層中に含有される金属酸化物粒子が、リチウムオン挿入脱離反応を示すことが確認された。尚、上記CV試験は、Bio Logic社製のVMP3を用いて実施した。
【0129】
活物質粒子および結着物質粒子の平均粒径の算出:
実施例1を、集電体面に略垂直に切断した切断面を走査型電子顕微鏡で観察した。倍率1万倍の写真を図7Aに、倍率5万倍の写真を図7Bに示す。図7Aから、実施例1の電極板における電極活物質層が、核体である活物質粒子と、包囲体を構成する金属酸化物粒子とにより、二重構造をなしていることが確認された。図7Bに示す電子顕微鏡写真に写される金属酸化物粒子をランダムに30個選択して、電子顕微鏡観察結果を画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(株式会社マウンテック製、MAC VIEW)を用いて、その最長径を測定し、算術平均により、実施例1における結着物質粒子である金属酸化物粒子の平均粒径を求めた。また図7Aを用いたこと以外は上記結着物質粒子の粒径測定方法と同様に、使用した活物質粒子の平均粒径を確認的に測定した。結果は、表2に示す。尚、図7Bからは、電極活物質層における結着物質粒子と導電材粒子および導電材繊維が視認された。
【0130】
<三極式コインセルの作製>
エチレンカーボネート(EC)/ジメチルカーボネート(DMC)混合溶媒(体積比=1:1)に、溶質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を加えて、当該溶質であるLiPFの濃度が、1mol/Lとなるように濃度調整して、非水電解液を調製した。正極板として上述のとおり作製した実施例1を作用極板として用い、対極板及び参照極板として金属リチウム板を用い、電解液として上記にて作製した非水電解液を用い、三極式コインセルを組み立て、これを実施例試験セル1とした。そして実施例試験セル1を下記充放電試験に供した。
【0131】
<充放電試験>
上述のとおり作成した三極式コインセルである実施例試験セル1において、作用極板の放電試験を実施するために、まず実施例試験セル1を下記充電試験のとおり満充電させた。
【0132】
(充電試験)
実施例試験セル1を、25℃の環境下で、電圧が4.3Vに達するまで定電流(1390μA)で定電流充電し、当該電圧が4.3V(満充電電圧)に達した後は、電圧が4.3Vを上回らないように、当該電流(放電レート:1C)が5%以下となるまで減らしていき、定電圧で充電を行ない、満充電させた後、10分間休止させた。尚、ここで、上記「1C」とは、上記三極式コインセルを用いて定電流放電して、1時間で放電終了となる電流値(放電終止電圧に達する電流値)のことを意味する。また上記定電流は、実施例試験セル1における作用極板において、1時間で放電可能な容量(実施例1におけるマンガン酸リチウムであれば、90mAh/g)を、この充放電試験において1時間で放電完了させるよう設定された電流値である。
【0133】
(放電試験)
その後、満充電された実施例試験セル1を、25℃の環境下で、電圧が4.3V(満充電電圧)から3.0V(放電終止電圧)になるまで、定電流(1390μA)(放電レート:1C)で定電流放電し、縦軸にセル電圧(V)、横軸に放電時間(h)をとり、放電曲線を作成し、正極用電極板の放電容量(mAh)を求め、当該正極用電極板(15mmφ試験セル)の電極容量(μAh)を求めた。結果は、表3に示す。尚、上記1Cにおける充放電試験において測定した電極板の放電容量も、電極容量(μAh)として、表3に示した。
【0134】
直流抵抗値の測定:
実施例1の直流抵抗値を以下のとおり測定した。即ち、実施例試験セル1を用いて、次のように正極板の直流抵抗値を算出した。放電レート1Cの条件で放電試験を実施した場合において、放電開始後10秒後の電圧値(V1)(mV)を測定した。さらに、放電レート5Cの条件で放電試験を実施した場合についても、放電開始後10秒後の電圧値(V5)(mV)を測定した。そして、これらの測定値(V1,V5)と、放電レート1C、5Cそれぞれに対応する定電流値(I1,I5)(mA)に基づき、数2に示す式によって、直流抵抗値(Ω)を算出した。結果は、表3に示す。
【数2】

【0135】
初期充放電効率:
実施例1の初期充放電効率を下記のとおり求めた。即ち、上記充電試験において、縦軸に印加電流(mA)、横軸に充電時間(h)をとり、充電曲線を作成し、その面積(電流×時間の計算により求めた面積)から正極用電極板の充電容量(μAh)を求め、また上記放電試験において同様に正極用電極板の放電容量(μAh)の実測値を求め、(正極板の実測放電容量(μAh))/(正極板の実測充電容量(μAh))×100なる式から、初期充放電効率を算出した。結果を表3に示す。
【0136】
(サイクル特性試験)
実施例試験セル1を用いて、サイクル特性試験を行なった。サイクル特性試験は、放電レートが10C(定電流:13.95mA)である場合についての充放電試験によって実施された。充放電試験は、1回の充電試験および放電試験の組み合わせを1サイクルとして、これを100サイクル繰り返して実施した。そして、実施例1のサイクル特性を、100サイクル放電容量維持率(%)の値に基づき次のような評価基準で評価した。なお、100サイクル放電容量維持率(%)は、100サイクル後の放電容量(mAh)を1サイクル後の放電容量(mAh)で除して100を掛けることで算出される値である。結果を表3に示す。
【0137】
(サイクル特性の評価基準)
100サイクル容量維持率が80%以上100%以下・・・・◎(極めて良好)
100サイクル容量維持率が50%以上80%未満・・・・・○(良好)
100サイクル容量維持率が50%未満・・・・・・・・・・×(不良)
【0138】
(実施例2乃至5)
活物質粒子、金属元素含有化合物、および溶媒を表1に示す内容にしたこと以外は、実施例1と同様に、正極活物質層形成液を調製した。そして、表1に示す加熱条件にしたこと及び表2に示す塗布量にしたこと以外は、実施例1と同様に、正極板を作成し、それぞれ実施例2乃至5とした。尚、本発明に関する実施例および比較例の加熱雰囲気は、表1に特段の記載がない場合には、大気雰囲気下において加熱を行った。
【0139】
(実施例6)
実施例1と同様に正極板を作成した。そして、以下のとおり調製した樹脂混合液の満たされた浸漬槽に実施例1を浸漬させ、実施例1の空隙に上記樹脂混合液を充分に浸透させた。その後、実施例1と上記浸漬層から取りだし、140℃に加温したオーブン内に設置して15分間乾燥させて、樹脂混合液の溶媒を除去し、さらに140℃にて5分間、真空乾燥させた。これによって、電極活物質層中に、樹脂製結着材が残留する正極板を作成し、これを実施例6とした。尚、上記樹脂混合液は、樹脂材料として、PVDF樹脂を用い、PVDFの濃度が0.1%となるようNMP溶媒に混合させて調製した。
【0140】
(実施例7)
PVDF樹脂の濃度が10%となるよう調整したこと以外は実施例6と同様に正極板を作成し、これを実施例7とした。
【0141】
(比較例1)
非水電解液二次電池用正極板における正極活物質層を形成するための正極活物質層形成液を以下のとおり調製した。まず、正極活物質粒子である平均粒径8μmのマンガン酸リチウム粒子を10g、導電材としてアセチレンブラックHS−100を1g、VGCF(昭和電工(株)製)を0.2g、樹脂製結着材としてPVDF(クレハ社製、KF#1100)を1.5gに、溶媒としてNMP(三菱化学社製)20gを加えて分散させ、エクセルオートホモジナイザー(株式会社日本精機製作所)で7000rpmの回転数で15分間攪拌して、スラリー状の正極活物質層形成液を得た。
上記にて調製した正極活物質層形成液を、正極集電体である厚さ15μmのアルミ箔上に、乾燥後の正極活物質層形成液の塗工量が112g/mとなるように塗布し、その後、140℃で加温したオーブン内で15分間の乾燥を行ない、正極活物質層を形成した。さらに、正極活物質層の厚さが80μmとなるように(プレス前の正極活物質層の厚みは約100μm)、ロールプレス機を用いてプレスした後、所定の大きさ(15mmφ)に裁断し、140℃にて5分間、真空乾燥させて正極用電極板を作製し、比較例1とした。
【0142】
上述する実施例2乃至7および比較例1についても、実施例1と同様に形成された電極活物質層の膜厚の測定、および膜形成性評価、電極活物質層の密着性評価を行った。結果は表2に示す。また、実施例2乃至7および比較例1について、実施例1と同様に顕微鏡観察を行った。そして実施例2乃至7および比較例1について、活物質粒子および結着物質粒子である金属酸化物粒子の平均粒径を、実施例1と同様に求めた。結果は表2に示す。実施例2の断面の走査型電子顕微鏡写真を図8(倍率5万倍)として、比較例1の断面の走査型電子顕微鏡写真を図9(倍率1万倍)、図10(倍率5万倍)として示す。
【0143】
上述する実施例2乃至7および比較例1についても、実施例1に関する参考例1と同様に、活物質粒子を除いた以外は、同様の方法で各実施例、および比較例の参考例を作成し、上述と同様にCV試験を行い、形成される結着物質粒子である金属酸化物粒子(比較例は樹脂製結着材)のリチウムイオン挿入脱離反応の有無を確認した。結果は、ピークが確認されてリチウム挿入脱離反応を示した場合には「有」とし、ピークが確認されずリチウム挿入脱離反応を示さなかった場合には「無」として、表2に「結着物質粒子のLiの挿入脱離反応」としてまとめて示した。
【0144】
また上述する実施例2乃至7および比較例1についても、上記実施例試験セル1と同様に、実施例試験セル2乃至7および比較例試験セル1を作成し、表3に示す固有の定電流値及び満充電電圧値、放電終止電圧値に変更した以外は、上述と同様に充放電試験を行い、電極容量を求めた。結果は、表3に示す。
【0145】
また、実施例2乃至7、比較例1について、実施例1と同様に直流抵抗値および初期充放電効率を求めた。結果は、表3に示す。
【0146】
比較例1を用い、実施例試験セル1と同様に試験セルを作成し、比較例試験セル1とした。そして、比較利試験セル1を用いたこと以外は実施例1と同様に、サイクル特性試験を行った。結果は、表3に示す。
【0147】
(実施例考察)
表2に示すとおり、実施例1乃至7は、いずれも樹脂製結着材を用いずに電極活物質層を形成したが、いずれも膜形成性が良好であり、樹脂製結着材を使用した比較例1と同等に集電体との密着性が良好であることが確認された。したがって、電極活物質層中に形成された金属酸化物粒子が結着物質粒子として作用していることが確認された。また、実施例1乃至8について、活物質粒子を除いて作成した参考例が、いずれもリチウムイオン挿入脱離反応を示すことが確認され、電極活物質層中に存在する結着物質粒子である金属酸化物粒子が、リチウムイオン挿入脱離反応を示すものであることが確認された。
【0148】
また、表3に示すとおり、実施例1乃至7における単位面積当たりの活物質粒子の量と比較例1の電極活物質層における単位面積当たりの活物質粒子の量が、ほぼ同等であるにもかかわらず、電極板の出入力性能を示す直流抵抗値において、実施例1乃至7は、比較例1に対し、いずれも小さい値を示しており、出入力性能が向上していた。
【0149】
また、実施例1乃至7と比較例1とは、同等量の活物質粒子を用いて作成されているにもかかわらず、電極容量は、いずれも実施例の方が高かった。この結果から、本発明の電極板においては、電極活物質層中に生成された金属酸化物粒子が、結着物質粒子として作用するとともに、リチウムイオン挿入脱離反応を生じることによって、活物質としても作用し、実質的に電極容量を増大させる効果を発揮することが確認された。
【0150】
また、従来の非水電解液二次電池において問題であった、初期充放電効率について、比較例1が93%であったのに対し、実施例はいずれも98%以上であり、本願発明の電極板は、初期充放電効率の改善効果があることが示された。
【0151】
また、電極活物質層に樹脂材料を残留させたこと以外は実施例1と同様に作成された実施例6および7は、放電容量、直流抵抗値、初期充放電維持率の点で、他の実施例と同様、性能の向上が確認された。したがって、電極活物質層中に適度な樹脂材料を含有させた場合には、電極性能を落とさずに、電極板の加工特性を向上させ得ることが示された。
【0152】
また、実施例1乃至7は、電極板自体の出入力特性等を評価したものであるが、いずれも出入力性能等が高いことから、これらの電極板のどちらか一方、あるいは両方を用いてリチウムイオン二次電池を作成した場合には、当然に、電池の出入力性能、電池容量、初期充放電効率などが向上することが示唆された。また、上記実施例1乃至7の電極板を正極板および/または負極板として用いる非水電解液二次電池および電池パックについても、出入力特性および電池容量が向上することが示唆された。
【0153】
【表1】

【0154】
【表2】

【0155】
【表3】

【符号の説明】
【0156】
1、1’、1’’、55 集電体
2、54 電極活物質層
3 集電基材
4 導電性層
5 断続層
6 核体
7 包囲体
10、20、20’、20’’、20’’’ 非水電解液二次電池用電極板
21 活物質粒子
22 結着物質粒子
30 電池パック
31 リチウムイオン二次電池
32 正極端子
33 負極端子
34 保護回路基板
35 外部接続コネクタ
36a、36b 樹脂容器
37 端部ケース
38a、38b 外部接続用窓
50 非水電解液二次電池用電極板(正極板)
70 セパレータ
81、82 外装
90 非水電解液
100 リチウムイオン二次電池
101、102、103、103’ 表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、上記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用電極板であって、
上記電極活物質層が、活物質粒子および結着物質粒子を含有しており、
上記結着物質粒子が、リチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子であって、
上記結着物質粒子の平均粒径が、上記活物質粒子の平均粒径より小さいことを特徴とする非水電解液二次電池用電極板。
【請求項2】
上記電極活物質層は、隣り合う結着物質粒子同士の一部において、結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含むことを特徴とする請求項1に記載の非水電解液二次電池用電極板。
【請求項3】
上記活物質粒子の平均粒径が、上記結着物質粒子の平均粒径の5倍以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の非水電解液二次電池用電極板。
【請求項4】
上記金属酸化物粒子が、リチウム複合酸化物であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用電極板。
【請求項5】
上記金属酸化物粒子が、コバルト、ニッケル、マンガン、鉄、及びチタンの中から選択される、いずれか1種以上の金属とリチウムとの複合酸化物であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用電極板。
【請求項6】
上記活物質粒子と、上記金属酸化物粒子が同一の化合物であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用電極板。
【請求項7】
上記電極活物質層は、結着物質粒子により、活物質粒子同士が互いに固着されるとともに、結着物質粒子により、活物質粒子が上記集電体に固着されて構成されていることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用電極板。
【請求項8】
複数の結着物質粒子が、活物質粒子の表面の少なくとも一部を覆っていることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用電極板。
【請求項9】
集電体と、上記集電体の表面の少なくとも一部に形成される電極活物質層とを備える非水電解液二次電池用電極板であって、
上記電極活物質層は、電極活物質層中に分散する複数の核体と、上記核体を包囲する包囲体とを有し、
上記包囲体は、複数の粒子から構成され、これらの複数の粒子のうち、隣接する粒子同士の少なくとも一部が互いに繋がっており、
上記包囲体を構成する粒子のうち集電体近傍の粒子が集電体の表面に繋がっており、
上記核体が活物質粒子であり、
上記包囲体を構成する粒子がリチウムイオン挿入脱離反応を示す金属酸化物粒子であり、
上記包囲体を構成する結着物質粒子の平均粒径が、上記核体である活物質粒子の平均粒径より小さいことを特徴とする非水電解液二次電池用電極板。
【請求項10】
上記核体と上記核体を包囲する包囲体を構成する粒子との界面において、上記核体の結晶格子と上記包囲体を構成する粒子の結晶格子とが不連続に接合している領域が存在していることを特徴とする請求項9に記載の非水電解液二次電池用電極板。
【請求項11】
包囲体を構成する複数の粒子のうち、隣接する粒子同士の少なくとも一部が互いに繋がっている上記包囲体において、上記隣接する粒子同士の一部において、結晶格子が連続することにより繋がっている箇所を含むことを特徴とする請求項9または10に記載の非水電解液二次電池用電極板。
【請求項12】
正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であって、
上記正極板または負極板のいずれか一方、あるいは両方が、請求項1から11のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用電極板であることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項13】
収納ケースと、正極端子および負極端子を備える非水電解液二次電池と、過充電および過放電保護機能を有する保護回路とを少なくとも備え、上記収納ケースに上記非水電解液二次電池および上記保護回路が収納されて構成される電池パックにおいて、
上記非水電解液二次電池が、正極板と、負極板と、上記正極板と上記負極板との間に設けられるセパレータと、非水溶媒を含む電解液とを少なくとも備えた非水電解液二次電池であり、
上記正極板または負極板のいずれか一方、あるいは両方が、請求項1から11のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池用電極板であることを特徴とする電池パック。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−79447(P2012−79447A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−221260(P2010−221260)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】