説明

非水電解液二次電池

【課題】捲回型電極群を備える非水電解液二次電池において、サイクル特性を向上させる。
【解決手段】リチウムイオンを吸蔵及び放出する正極活物質を含む正極、リチウムイオンを吸蔵及び放出する負極活物質を含む負極、及び正極と負極との間に介在するセパレータを含む積層体を捲回し、非水電解液を含浸させた捲回型電極群を備えた非水電解液二次電池であって、捲回型電極群は、捲回軸方向の両端部のそれぞれに各端部を覆う樹脂被覆膜を備える非水電解液二次電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液二次電池に関する。更に詳しくは、本発明は、捲回型電極群の非水電解液の保液性の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
負極活物質として合金系活物質を用いる合金系負極を備えた非水電解液二次電池(以下「合金系二次電池」とも称する)は、負極活物質として黒鉛を用いる黒鉛系負極を備えた従来の非水電解液二次電池よりも高い容量及びエネルギー密度を有していることが知られている。従って、合金系二次電池は、電子機器の電源としてだけでなく、輸送機器や工作機器等の主電源又は補助電源としても期待されている。合金系活物質としては、珪素、珪素酸化物等の珪素系活物質、錫、錫酸化物等の錫系活物質等が知られている。
【0003】
しかし、合金系活物質は、充電時にその粒子が著しく膨張して内部応力を生じる。その結果、負極活物質層の負極集電体からの脱落や負極の変形等を引き起こすことがある。
【0004】
合金系活物質が膨張する際に生じる内部応力を低減させるために、合金系活物質からなる、複数のミクロンサイズの柱状体を負極集電体の表面に形成させた負極が知られている(特許文献1参照)。このような負極では、隣り合う一対の柱状体同士の間に空隙が形成されている。そして、このような空隙により、合金系活物質が膨張した際の内部応力の発生が緩和される。すなわち、充電時に合金系活物質が著しく膨張したとしても、隣接する柱状体間に形成された空隙により応力の発生が抑制される。その結果、負極集電体から合金系活物質が脱落したり、負極が変形したりすること等が抑制される。
【0005】
特許文献2は、無機充填材と熱可塑性樹脂とからなり、保液性の高い多孔質膜をセパレータとして備える合金系二次電池を開示する。このようなセパレータを用いることにより、合金系活物質を含む負極の膨張によるサイクル特性の低下を抑制しようとしている。
【0006】
特許文献3は、捲回型電極群を扁平状に成形した電極群と、電極群の上部端部から導出された正極リード及び負極リードと、帯状基材層及びその幅方向両端に設けられた接着剤層を含んで電極群の下部端部を被覆する絶縁層と、を備えた非水電解液二次電池を開示している。絶縁層による下部端部の被覆は、より具体的には、帯状基材層の表面を電極群の下部端部に対向させるとともに、その両端の粘着剤層を電極群の下部端部に続く外周面に接着することにより行われている。このような構成により、電極群の下部端部からの非水電解液の含浸を妨げることなく、電極群と電池ケースとを絶縁している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO2008/026595号公報
【特許文献2】特開2005−228514号公報
【特許文献3】特開2010−073580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
捲回型電極群を備える非水電解液二次電池、特に合金系二次電池においては、充放電回数が増加すると、サイクル特性に顕著な低下が起こる場合があった。本発明者らは、この原因について検討を重ねた結果、次のような知見を得た。
【0009】
図7は、従来の、合金系負極を含む捲回型電極群(以下単に「電極群」とも称する)100の斜視模式図である。電極群100は正極と負極と正極と負極との間に介在されたセパレータとを含む積層体を捲回し、非水電解液を含浸させて形成されており、正極には正極リード17が、負極には負極リード16が接続されている。
【0010】
このような電極群100においては、初期の充電時に合金系負極が大きく膨張することにより、含浸されていた非水電解液が電極群100の上下から搾り出されて、矢印に示すように外部に押出されることが判明した。そして、電極群100の外部に搾り出された非水電解液の一部は、放電により合金系負極が収縮したときに、一部は電極群100の内部に吸収されて戻るが、残りは電極群100の外部に残留したままになることが判明した。
【0011】
電池のサイクル特性を高く維持するためには、電極群を構成する正極及び負極の各面内において、非水電解液が充分に保持されていることが好ましい。しかし、特に合金系負極を用いた場合には、上述したように、電極群100の内部から非水電解液が搾り出されて、非水電解液の分布のばらつきが生じたり、部分的に液枯れした領域が生じたりすることに気付いた。そして、その結果、電池のサイクル特性が低下しやすくなることが分かった。
【0012】
本発明は、合金系負極を含む捲回型電極群を備えた非水電解液二次電池において、非水電解液を捲回型電極群の内部に閉じ込めて、非水電解液の外部への流出を抑制することにより、サイクル特性を向上させた非水電解液二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の非水電解液二次電池は、リチウムイオンを吸蔵及び放出する正極活物質を含む正極、リチウムイオンを吸蔵及び放出する負極活物質を含む負極、及び正極と負極との間に介在するセパレータを含む積層体を捲回し、非水電解液を含浸させた捲回型電極群を備えた非水電解液二次電池であってリチウムイオンを吸蔵及び放出する正極活物質を含む正極及び負極と、正極と負極との間に介在するセパレータとを含む積層体を捲回し、非水電解液を含浸させた捲回型電極群を備えた非水電解液二次電池であって、捲回型電極群は、捲回軸方向の両端部のそれぞれに各端部を覆う樹脂被覆膜を備えることを特徴とする。このような捲回型電極群を備えた非水電解液二次電池によれば、充電時に電極群が大きく膨張しても、含浸されていた非水電解液が電極群から搾り出されて外部に流出することを抑制することができる。その結果、負極及び正極における非水電解液の分布を均質に維持することができるために、非水電解液二次電池のサイクル特性を向上させることができる。なお、捲回型電極群は積層体が高いテンションを掛けて捲回されているために、捲回の巻き終りの終端からは、非水電解液は漏出しにくい。
【0014】
上記非水電解液二次電池において、樹脂被覆膜の非水電解液に対する膨潤度は3%以下であることが好ましい。樹脂被覆膜の非水電解液に対する膨潤度がこのような範囲である場合には、樹脂被覆膜自身が非水電解液を吸収しすぎないために、負極及び正極における非水電解液の分布をより均質に維持することができる。
【0015】
また、樹脂被覆膜の25℃における引張弾性率は、0.1〜20GPaであることが、電極群の充電の際に起こる負極の膨張による電極群の直径の変化に追従するように伸びることができ、また、長期間にわたって強度を維持する点から好ましい。
【0016】
このような樹脂被覆膜を形成する樹脂の具体例としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド及びポリアミドよりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂材料が挙げられる。
【0017】
また、負極がリチウムイオンを吸蔵及び放出する合金系活物質を含み、特に、互いに離隔するように形成された複数の凸部を表面に有する負極集電体と、凸部の表面に支持されて合金系活物質からなる複数の柱状体を含む負極活物質層とを備える場合には、樹脂被覆膜を設けることによる効果が顕著になる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、サイクル特性に優れた非水電解液二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る実施形態の非水電解液二次電池1の縦断面模式図である。
【図2】非水電解液二次電池1の要素である捲回型電極群2の外観を示す斜視模式図である。
【図3】非水電解液二次電池1の製造方法を説明するための模式図である。
【図4】非水電解液二次電池1の製造方法を説明するための模式図である。
【図5】電子ビーム式真空蒸着装置の構成を示す説明図である。
【図6】実施例における合金系負極の構成を示す縦断面模式図である。
【図7】従来の合金系負極を備える捲回型電極群を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明に係る実施形態の非水電解液二次電池1の縦断面模式図である。非水電解液二次電池1(以下「電池1」とも称する)は、帯状の負極10、帯状の正極11及び帯状のセパレータ12の積層体を捲回し、図略の非水電解液を含浸させた捲回型電極群2と、電極群2の捲回軸方向の両端部4a,4bのそれぞれを覆う樹脂被覆膜3a,3bと、電極群2を収容する有底円筒型の電池ケース13と、電池ケース13の開口を封口する封口板14と、電池ケース13と封口板14とを絶縁するガスケット15と、負極10と負極端子としても機能する電池ケース13とを導通させる負極リード16と、正極11と正極端子としても機能する封口板14とを導通させる正極リード17と、を備える円筒型リチウムイオン二次電池である。負極10は、例えば、図略の負極集電体と、負極集電体の両面に支持された合金系活物質を含む負極活物質層からなる。また正極11は、図略の正極集電体と、正極集電体の両面に形成された正極活物質層からなる。
【0021】
本実施形態の電池1は、電極群2の捲回軸方向の両端部4a、4bに、両端部4a、4bを封止するように覆う樹脂被覆膜3a、3bを備えている。これにより、電極群2からの非水電解液の流出が抑制され、電極群2内における非水電解液の分布のばらつきや液枯れが生じにくくなる。その結果、サイクル特性に優れた電池1が得られる。
【0022】
図2は、樹脂被覆膜3a、3bが形成された捲回型電極群2の外観を示す斜視模式図である。図2に示すように、捲回型電極群2の捲回軸方向の両端部4a、4bは、それらを封止するように樹脂被覆膜3a、3bで覆われている。更に、正極リード17が樹脂被覆膜3aを厚み方向に貫通しており、負極リード16が樹脂被覆膜3bを厚み方向に貫通している。
【0023】
このような電極群2を備えた電池1の製造方法の一例を、図3を参照しながら説明する。本実施形態の電池1の製造方法においては、はじめに、図3(a)に示すような、正極リード17の一端が正極11の所定位置に接続され、負極リード16の一端が負極10の所定位置に接続された捲回型の電極群2を準備する。なお、正極リード17の正極11への接続、及び負極リード16の負極10への接続は、各電極が有する図略の集電体に対して、抵抗溶接、超音波溶接、プラズマ溶接等により接続される。負極リードとしては、例えば、銅リード、銅合金リード、ニッケルリード等を使用できる。正極リードとしては、例えば、アルミニウムリード等を使用できる。
【0024】
そして、図3(b)に示すように、電極群2の負極リード16が配設された側である端部4bを覆うように樹脂ペーストを塗布し、乾燥させることにより、樹脂被覆膜3bを形成する。このとき、次の工程で、電極群2を電池ケース13に挿入した後、負極リード16を電池ケース13に溶接等により接続するために、負極リード16の周囲には樹脂被覆膜3bが形成されていない隙間vを形成しておくことが好ましい。
【0025】
樹脂被覆膜の形成に用いられる樹脂材料としては、電極群に対して粘着性を示す樹脂成分であれば特に限定されず、具体的には、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ボリテトラフルオロエチレン、ポリイミド及びポリアミド等、または、これらの混合物等が挙げられる。これらの樹脂材料は、電池内で起る電気化学反応に対して不活性であり、電池内において化学的に比較的安定である。
【0026】
また、樹脂被覆膜は、非水電解液に対する膨潤度が5%以下、さらには3%以下であることが、樹脂被覆膜が非水電解液を吸収することによる非水電解液の量の変動が抑制される点から好ましい。樹脂被覆膜の非水電解液に対する膨潤度が高すぎる場合には、樹脂被覆膜に非水電解液が多く吸収されることにより非水電解液の量のばらつきや不足が生じるおそれがある。また、非水電解液が樹脂被覆膜を透過するおそれもある。
【0027】
樹脂被覆膜を形成する樹脂材料の非水電解液に対する膨潤度は、次のようにして測定される。まず、樹脂材料を有機溶媒に溶解させて樹脂溶液を調製し、この樹脂溶液を基板に塗布して乾燥することにより厚み100μmのシートを成形する。このシートを10mm×10mmに切り出し、試料とする。この試料を非水電解液とともに密閉容器に入れ、非水電解液に25℃で24時間浸漬する。そして、非水電解液への浸漬前の試料の質量(A)に対する、非水電解液への浸漬後の試料の質量(B)の増加率として、下記式に従い膨潤度を求める。
膨潤度(%)={(B−A)/A}×100
【0028】
また、樹脂被覆膜を形成する樹脂材料の25℃における引張弾性率は、0.1〜20GPa、さらには0.5〜15GPa、とくには1〜10GPaの範囲であることがある程度の強度を維持し、また、充電時に電極群が膨張し、電極群の直径が大きくなったときにも樹脂被覆膜が直径の変化に追従して電極群の両端部との密着が充分に維持される。樹脂被覆膜を形成する樹脂材料の引張弾性率が高すぎる場合には、樹脂被覆膜が伸びにくく、充電時の電極群の膨張に追従しにくくなり、破れや剥離が発生するおそれがある。また、引張弾性率が低すぎる場合には、充電時の電極群の膨張により、強度が低くなる傾向がある。なお、引張弾性率は、JIS K7162に準じた測定方法により測定される。
【0029】
樹脂被覆膜の厚みは、特に限定されないが、具体的には、例えば、0.1〜0.5mm程度であることが、長期的に耐久性や密着性が維持される点から好ましい。
【0030】
樹脂被覆膜の形成に用いられる樹脂ペーストは、樹脂材料を有機溶媒に溶解又は分散させることにより調製できる。樹脂ペーストの調製に用いられる有機溶媒としては、非水電解液に含まれる非水溶媒を特に限定なく使用できる。非水溶媒の具体例として、例えば、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアミン、アセトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。
【0031】
樹脂ペーストの粘度(25℃)は特に限定されないが、1000〜50000cps程度の範囲に調整することが好ましい。これにより、樹脂ペーストが負極とセパレータとの間や正極とセパレータとの間等に浸み込むことが抑制される。また、樹脂ペーストを塗布する際の作業性が低下しない。樹脂ペーストの粘度は、例えば、樹脂材料の非水溶媒への溶解量、樹脂材料の分子量等を変更することにより調整できる。
【0032】
樹脂ペーストの塗布方法は、特に限定されないが、例えば、ディッピング、ロールコーティング、刷毛塗り等が挙げられる。樹脂ペーストの乾燥温度は、樹脂ペーストに含有される樹脂材料及び非水溶媒の種類に応じて適宜選択されるが、60〜100℃程度であることが好ましい。また、樹脂ペーストの乾燥時間も、樹脂ペーストに含有される樹脂材料及び非水溶媒の種類に応じて適宜選択されるが、1〜6時間程度であることが好ましい。なお、乾燥温度が高すぎたり、乾燥時間が長すぎたりする場合には、セパレータを軟化又は溶融させたり、非水電解液が含浸されている場合には非水電解液が蒸発したりする点から好ましくない。
【0033】
そして、負極リード16側に樹脂被覆膜3bが形成された電極群2を、図3(c)に示すように、樹脂被覆膜3bが形成された端部4b側から電池ケース13に電極群2を挿入する。そして、負極リード16の他端を電池ケース13の底部に溶接等により接合し、同様に、正極リード17の他端を予め準備した封口板14に溶接等により接合する。また、このとき、必要に応じて、電池ケースの底部又は上部に、絶縁板を配置したり、電池ケース13内で電極群2を固定するための絞り溝を形成したりしてもよい。
【0034】
次に、負極リード16の溶接後、負極リード16の周囲に形成されている隙間vに、図4に示すように、電極群2の捲回軸に沿って形成されている空間Sから、樹脂ペーストを塗布し、乾燥させることにより、隙間vを樹脂ペーストで埋める。このようにして、端部4bを完全に封止した樹脂被覆膜3bが形成される。なお、隙間vを埋める方法としては、空間Sからディスペンサを挿入して、樹脂ペーストを隙間vにポッティングする方法等が挙げられる。
【0035】
次に、電池ケース13内に収容された電極群2の上部である端部4a側から、非水電解液を注入して含浸させる。このとき、電極群2の下部である端部4b側には樹脂被覆膜3bが形成されているために、非水電解液は電極群2の下部からは全く漏れないか殆ど漏れない。そして、電極群2に非水電解液を充分に含浸させた後、電極群2の正極リード17が配設された側である端部4aに樹脂ペーストを塗布し、乾燥させることにより、樹脂被覆膜3aを形成する。このようにして、図2に示したような、捲回軸方向の両端部4a,4bを封止する樹脂被覆膜3a,3bをそれぞれ備えた電極群2が形成される。
【0036】
電極群2に樹脂被覆膜3a,3bを形成した後は、通常の非水電解液二次電池の製造方法と同様の工程で電池1が製造される。具体的には、例えば、電池ケース13の開口に、封口板14と、電池ケース13と封口板14とを絶縁するガスケット15とを配設し、電池ケース13をかしめて密閉することにより電池1が得られる。
【0037】
次に、非水電解液二次電池1を構成するその他の構成要素について、詳しく説明する。
負極10は、負極集電体及び負極集電体に支持された負極活物質層を含む。負極集電体としては、従来から非水電解液二次電池の負極集電体として用いられている、無孔の箔、シート、フィルム等の導電性基板の他、メッシュ体、ネット体、パンチングシート、ラス体、多孔質体等が挙げられる。導電性基板の材質としては、ステンレス鋼、チタン、ニッケル、銅、銅合金等が特に限定なく用いられる。これらの中では、銅及び銅合金が好ましい。
【0038】
負極活物質層は、従来から非水電解液二次電池の負極活物質として用いられている、黒鉛系材料のような各種炭素材料や、珪素系活物質,錫系活物質のような負極活物質を含有する。負極活物質は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、負極活物質層は、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて、結着剤、導電剤、添加剤等を含んでもよい。なお、本発明においては、負極活物質として合金系活物質を用いた場合には、特に顕著な効果が奏される。
【0039】
合金系活物質は、負極電位下で充電時にリチウムと合金化することによりリチウムを吸蔵し、且つ放電時にリチウムを放出する。合金系活物質としては、珪素系活物質がとくに好ましい。
【0040】
珪素系活物質の種類は特に限定されないが、具体的には、例えば、珪素、珪素化合物、珪素の部分置換体、珪素化合物の部分置換体、珪素化合物の固溶体等が挙げられる。珪素化合物の具体例としては、式:SiOa(0.05<a<1.95)で表される珪素酸化物、式:SiCb(0<b<1)で表される珪素炭化物、式:SiNc(0<c<4/3)で表される珪素窒化物、珪素と異種元素Aとの合金である珪素合金等が挙げられる。珪素合金において、異種元素Aとしては、Fe、Co、Sb、Bi、Pb、Ni、Cu、Zn、Ge、In、Sn及びTiよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素が挙げられる。
【0041】
また、珪素の部分置換体は、珪素及び珪素化合物に含まれる珪素の一部を異種元素Bで置換した化合物である。異種元素Bの具体例としては、例えば、B、Mg、Ni、Ti、Mo、Co、Ca、Cr、Cu、Fe、Mn、Nb、Ta、V、W、Zn、C、N及びSn等が挙げられる。これらの珪素系活物質の中でも、珪素化合物が好ましく、珪素酸化物が更に好ましい。
【0042】
錫系活物質の具体例としては、錫、錫化合物、式SnOd(0<d<2)で表される錫酸化物、二酸化錫(SnO2)、錫窒化物、Ni−Sn合金、Mg−Sn合金、Fe−Sn合金、Cu−Sn合金、Ti−Sn合金等の錫合金、SnSiO3、Ni2Sn4、Mg2Sn等の錫化合物等が挙げられる。これらの錫系活物質の中でも、錫酸化物、錫合金、錫化合物等が好ましい。
【0043】
合金系活物質を含む負極活物質層としては、後述するような表面に多数の凸部を有する負極集電体に気相法により形成された柱状体の集合体からなる層や、気相法により負極集電体表面に形成された合金系活物質の薄膜や、合金系活物質の粒子を結着剤や導電剤と混合して得られた合剤を負極集電体表面に塗工及び圧延して形成された層等が挙げられる。これらの中では、気相法により形成された、柱状体の集合体からなる層や合金系活物質の薄膜が、高容量を維持できる点から好ましい。
【0044】
気相法の具体例としては、真空蒸着法、スパッタ法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法、化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法、溶射法等が挙げられる。これらの中では、真空蒸着法が特に好ましい。
【0045】
多数の凸部を有する負極集電体に形成された柱状体の集合体からなる層は、例えば3〜20μm程度の高さの複数の規則的に配列された凸部を有する負極集電体の表面に、各凸部ごとに合金系活物質からなる柱状体が形成された層である。なお、凸部の幅は好ましくは5〜20μmである。凸部の配列としては、千鳥格子配置、格子配置、最密充填配置等が挙げられる。
【0046】
気相法により負極集電体表面に形成された合金系活物質の薄膜としては、負極集電体表面に形成された合金系活物質からなる、例えば、膜厚が3〜50μmである非晶質又は低結晶性の薄膜が挙げられる。
【0047】
負極活物質層には、不可逆容量に相当する量のリチウムを吸蔵させてもよい。負極活物質層へのリチウムの吸蔵は、例えば、真空蒸着でリチウムの蒸気を負極活物質層表面に供給することにより行われる。
【0048】
正極11は、正極集電体及び正極集電体の表面に形成された正極活物質層を含む。正極集電体としては、従来から非水電解液二次電池の正極集電体として用いられている導電性基板が特に限定なく用いられる。導電性基板の具体例としては、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属材料、導電性樹脂等の導電性基板が挙げられる。導電性基板の形態としては、無孔の導電性基板の他、メッシュ体、ネット体、パンチングシート、ラス体、多孔質体等が挙げられる。無孔の導電性基板としては、箔、フィルム等が挙げられる。導電性基板の厚みは特に限定されないが、例えば1〜500μm、さらには5〜50μm程度のものが好ましく用いられうる。
【0049】
正極活物質層は、正極活物質を含み、必要に応じて導電剤や結着剤等を含む。正極活物質としては、従来から非水電解液二次電池の正極活物質として用いられている物質が特に限定なく用いられる。具体的には、例えば、リチウム含有複合酸化物やオリビン型リン酸リチウム等が挙げられる。正極活物質は1種のみを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
リチウム含有複合酸化物は、リチウムと遷移金属元素とを含む金属酸化物又は前記金属酸化物中の遷移金属元素の一部が異種元素によって置換された金属酸化物である。遷移金属元素としては、Sc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu及びCrよりなる群から選ばれる少なくとも1種の遷移金属元素が挙げられる。これらの遷移金属元素の中でも、Mn、Co、Niが好ましい。異種元素としては、Na、Mg、Zn、Al、Pb、Sb及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1種の異種元素が挙げられる。これらの異種元素の中でも、Mg、Al等が好ましい。
【0051】
リチウム含有複合酸化物の具体例としては、LiXCoO2、LiXNiO2、LiXMnO2、LiXComNi1-m2、LiXCom1-mn、LiXNi1-mmn、LiXMn24、LiXMn2-mn4(前記各式中、AはSc、Y、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Cr、Na、Mg、Zn、Al、Pb、Sb及びBよりなる群から選ばれる少なくとも1つの元素を示す。0<X≦1.2、m=0〜0.9、n=2.0〜2.3である)等が挙げられる。これらのリチウム含有複合酸化物の中でも、LiXCom1-mnが更に好ましい。なお、前記各式において、リチウムのモル比を示す値は正極活物質作製直後の値であり、充放電により増減する。
【0052】
オリビン型リン酸リチウムの具体例としては、LiYPO4、Li2YPO4F(前記各式中、YはCo、Ni、Mn及びFeよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を示す)等がある。
【0053】
導電剤としては、従来から非水電解液二次電池の導電剤として用いられている、天然黒鉛、人造黒鉛等のグラファイト類;アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等のカーボンブラック類;炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維;フッ化カーボン;アルミニウム等の金属粉末類;酸化亜鉛ウィスカー等の導電性ウィスカー;酸化チタン等の導電性金属酸化物;フェニレン誘導体等の有機導電性材料等が特に限定なく用いられる。
【0054】
結着剤としては、従来から非水電解液二次電池の結着剤として用いられている、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリロニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ヘキシル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ヘキシル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン等の樹脂材料;スチレンブタジエンゴム、変性アクリルゴム等のゴム材料;カルボキシメチルセルロース等の水溶性高分子化合物;等が特に限定なく用いられる。また、2種類以上のモノマー化合物を含有する共重合体を結着剤として使用できる。モノマー化合物としては、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエン等が挙げられる。結着剤は1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0055】
正極活物質層は、例えば、正極合剤スラリーを正極集電体表面に塗布し、得られた塗膜を乾燥及び圧延することにより形成される。正極合剤スラリーは、正極活物質及び必要に応じて導電剤、結着剤等を分散媒に溶解又は分散させることにより調製できる。分散媒としては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルアミン、アセトン、シクロヘキサノン等を使用できる。
【0056】
負極と正極との間に配置される、セパレータとしては、例えば、イオン透過性を有する多孔質シートを使用できる。多孔質シートの具体例としては、例えば、微多孔膜、織布、不織布等が挙げられる。セパレータの材料としては、耐久性、シャットダウン機能、電池の安全性等の点から、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが好ましい。セパレータの厚みは特に限定されないが、10〜300μm、さらには10〜40μm程度であることが好ましい。セパレータの空孔率は、好ましくは30〜70%である。空孔率とは、セパレータの体積に対する、細孔の総容積の百分率である。
【0057】
電極群に含浸される非水電解液は、リチウム塩と非水溶媒とを含み、更に添加剤を含んでいてもよい。リチウム塩の具体例としては、例えば、LiClO4、LiBF4、LiPF6、LiAlCl4、LiSbF6、LiSCN、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiB10Cl10、低級脂肪族カルボン酸リチウム、LiCl、LiBr、LiI、LiBCl4、ホウ酸塩類、イミド塩類等が挙げられる。リチウム塩は1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。リチウム塩の非水溶媒に対する溶解量は、好ましくは0.5〜2モル/Lである。
【0058】
非水溶媒としては、従来から非水電解液二次電池の非水溶媒として用いられているものが特に限定なく用いられる。具体的には、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状炭酸エステル;ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の鎖状炭酸エステル;γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステル;等が挙げられる。非水溶媒は1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
添加剤としては、ビニレンカーボネート、1又は2個の炭素数1〜3のアルキル基が置換したビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、ジビニルエチレンカーボネート、ハロゲン化エチレンカーボネート等の、負極上で分解してリチウムイオン伝導性の高い被膜を形成し、充放電効率を向上させるカーボネート化合物;、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテル等の、電池の過充電時に分解して電極表面に被膜を形成し、電池を不活性化するベンゼン化合物;等が挙げられる。
【0060】
電池ケース13及び封口板14は、鉄、ステンレス鋼等の金属材料を所定の形状に成形することにより作製できる。ガスケット15は、電気絶縁性材料、好ましくは樹脂材料又はゴム材料を所定の形状に成形することにより作製できる。
【0061】
本実施形態で説明した非水電解液二次電池1は、電極群2を含む円筒形電池であるが、それに限定されず、種々の形態を採ることができる。その具体例としては、例えば、電極群2を含む角形電池、電極群2を扁平状に成形した扁平状電極群を含む角形電池等が挙げられる。
【実施例】
【0062】
以下に実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されて解釈されるものではない。
【0063】
[実施例1]
(a)正極の作製
正極活物質(LiNi0.85Co0.15Al0.052)の粉末93g、アセチレンブラック(導電剤)3g、ポリフッ化ビニリデン(結着剤)4g及びN−メチル−2−ピロリドン50mlを混合し、正極合剤スラリーを調製した。得られた正極合剤スラリーを、厚み15μmのアルミニウム箔(正極集電体)の両面に塗布し、得られた塗膜を乾燥及び圧延し、総厚み130μm、幅29.5mm、長さ166mmの正極を作製した。この正極の両面の正極活物質層の一部(56mm×5mm)を切除し、集電体露出部を設けた。この集電体露出部にアルミニウムリードの一端を超音波溶接により接続した。
【0064】
(b)負極の作製
鍛鋼製ローラ(大同マシナリー(株)製、直径50mm、ロール幅100mm)の表面に、レーザ加工により、複数の凹部を形成した。複数の凹部は、互いに隣り合う一対の凹部の軸線間距離が20μmである最密充填配置にした。凹部の開口形状は、長い対角線が19.5μm、短い対角線が9.8μmのほぼ菱形であった。凹部の深さは8μmであり、その底部は中央がほぼ平面状であり、底部周縁と凹部の側面とが繋がる部分が丸みを帯びていた。このようにして、凸部用ローラを作製した。2つの凸部用ローラを、互いの軸線が平行になるように、線圧1t/cmで圧接させ、圧接ニップ部を形成した。
【0065】
一方、全量に対して0.03質量%の割合でジルコニウムを含有する合金銅箔(商品名:HCL−02Z、厚み20μm、日立電線(株)製)を、アルゴンガス雰囲気中、600℃で30分間加熱し、焼鈍した。この合金銅箔を圧接ニップ部に通過させて、合金銅箔を加圧成形し、図6に示すような負極集電体49を作製した。負極集電体49は、厚み方向の両側の表面に複数の凸部52を有していた。凸部52の平均高さは約8μmであった。凸部52の形状はほぼ菱形である。複数の凸部52は、負極集電体49の表面に最密充填配置されていた。なお、図6では、負極集電体49の片方の表面のみを示している。
【0066】
図5は、電子ビーム式真空蒸着装置40(以下「蒸着装置40」とも称する)の構成を模式的に示す説明図である。図5に示すような蒸着装置40を用い、負極集電体49の各凸部52の表面にそれぞれ1個の柱状体54を形成し、負極50を作製した。
【0067】
蒸着装置40は、負極集電体49が巻き付けられた送り出しローラ42と、搬送ローラ43a、43b、43c、43d、43e、43fと、蒸着源46a、46bと、各凸部52の表面に珪素系活物質の層が形成された負極集電体49を巻き取る巻き取りローラ45と、珪素系活物質蒸気の供給領域を規制する一対の遮蔽板47、48と、図略の酸素を供給する酸素ノズルと、図略の電子ビーム照射装置と、これらを収容するチャンバ41と、チャンバ41内を減圧状態にする真空ポンプ39と、を備えている。遮蔽板47は、遮蔽片47a、47b、47cを備える。遮蔽板48は、遮蔽片48a、48b、48cを備える。蒸着装置40では、負極集電体49の搬送方向において、遮蔽片47a、47b間に第1蒸着領域が設けられ、遮蔽片47b、47c間に第2蒸着領域が設けられ、遮蔽片48c、48b間に第3蒸着領域が設けられ、遮蔽片48b、48a間に第4蒸着領域が設けられている。
【0068】
珪素系活物質原料としては、スクラップシリコン(シリコン単結晶、純度99.9999%、信越化学工業(株)製)を用い、これを蒸着源46a、46bに収容した。チャンバ41内を真空ポンプ39により5×10-3Paまで排気した後、第1〜第4蒸着領域にそれぞれ設置した図略の酸素ノズルから、チャンバ41内に酸素を50sccmずつ供給した。次に、蒸着源46a、46bに電子ビーム(加速電圧:10kV、エミッション:500mA)を照射し、シリコン蒸気を発生させた。
【0069】
一方、送り出しローラ42から負極集電体49を送給速度2cm/分で送り出し、第1蒸着領域を走行する負極集電体49の各凸部52表面に、シリコン蒸気と酸素との混合物を蒸着させ、図6に示す塊54aを形成した。次に、第2蒸着領域を走行する負極集電体49の凸部52表面及び塊54a表面に塊54bを形成した。更に、第3及び第4蒸着領域においては、第1及び第2蒸着領域で塊54a、54bが形成された面とは反対側の面で、各凸部52表面に塊54a、54bを積層した。
【0070】
次に、送り出しローラ42及び巻き取りローラ45の回転方向を逆転させることにより、負極集電体49の送り方向を逆転させ、負極集電体49の両面の塊54a、54bの表面に、塊54c、54dを積層した。以下、同様にして1往復の蒸着を行った。このようにして、図6に示すような、負極集電体49凸部52表面に、塊54a、54b、54c、54d、54e、54f、54g、54hの積層体である柱状体54を形成した。このようにして負極50を得た。
【0071】
柱状体54は、凸部52の表面に支持され、負極集電体49の外方に延びるように成長していた。柱状体54の立体形状は、ほぼ円柱状であった。柱状体54の平均高さは20μm、平均幅は40μmであった。また、柱状体54に含まれる酸素量を燃焼法により定量したところ、柱状体54の組成はSiO0.25であった。
【0072】
このようにして得られた負極50の複数の柱状体54からなる負極活物質層53に、抵抗加熱真空蒸着装置を用いて、不可逆容量分のリチウムを補填した。蒸着装置は、帯状の負極50が予め巻き付けられた送り出しローラと、冷却装置が内部に配置されたキャンと、リチウムが補填された負極50を巻き取る巻き取りローラと、負極50を搬送する搬送ローラと、金属リチウムを収容するタンタル製蒸発源と、リチウム蒸気の負極50表面への供給を制限する遮蔽板と、これらを収容する耐圧チャンバと、を備えている。
【0073】
まず、蒸着装置のチャンバ内をアルゴン雰囲気に置換し、真空ポンプによりチャンバ内の真空度を1×10-1Paとした。次に、蒸発源に50Aの電流を通電してリチウム蒸気を発生させると共に、負極50を2cm/分の速度で送り出しローラから送り出し、負極50がキャン表面を通過する際に、負極50の負極活物質層表面に不可逆容量分のリチウムを蒸着させた。リチウムの蒸着は、負極50の両方の負極活物質層53に対して行った。このようにして、リチウムを補填された負極50(総厚 85μm、幅30.9mm、長さ 244mm)を作製した。なお、負極50の両面には予め負極活物質層を担持しない集電体露出部を設けていた。この集電体露出部に銅リードの一端を超音波溶接により接続した。
【0074】
(c)セパレータ
セパレータとしては、ポリエチレン微多孔膜(商品名:ハイポア、厚み20μm、旭化成イーマテリアルズ(株)製)を用いた。セパレータの寸法は、幅33.3mm、長さ328mmであった。このセパレータを第一セパレータ及び第二セパレータとして用いた。
【0075】
(d)非水電解液の調製
エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートとの体積比1:1の混合溶媒に、LiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解させ、非水電解液を調製した。
【0076】
(e)樹脂ペーストの調製
ポリイミド(非水電解液に対する膨潤度 2質量%、引張弾性率 2GPa) 10gをN−メチル−2−ピロリドン 10mlに溶解し、25℃における粘度が15000cpsである樹脂ペーストを調製した。
【0077】
(f)電池の組み立て及び樹脂被覆膜の作製
第一セパレータの上に、負極、第二セパレータ、正極の順に積層して積層体を形成し、第一セパレータを外側にしてこれらを捲回することにより捲回型電極群を作製した。そして、負極端子である銅リードが突出している端部に樹脂ペーストを刷毛塗りし、得られた塗膜を85℃で2時間乾燥させた。これにより、電極群の負極端子側の端部に樹脂被覆膜を形成した。銅リードと樹脂被覆膜との間には、わずかに隙間が形成されていた。得られた樹脂被覆膜の膜厚は0.1〜0.2mmの範囲であった。
【0078】
このようにして負極端子側の端部に樹脂被覆膜が形成された電極群を、銅リードが突出する側を下向きにして有底円筒型の鉄製電池ケースに収容した。そして、電池ケースの底部内面に銅リードの他端を接続した。そして、電池群中心の隙間から銅リードと樹脂被覆膜との間の隙間を埋めるようにして樹脂ペーストを塗布し、乾燥した。
【0079】
次に、安全弁を有するステンレス鋼製封口板に正極端子であるアルミニウムリードの他端を溶接した。そして、封口板の周縁部にポリプロピレン製ガスケットを装着し、この状態で、封口板を電池ケースの開口に装着した。
【0080】
電池ケースに収容した状態で、電極群を85℃で2時間乾燥させた。そして乾燥後、電極群の内部に非水電解液を注液し、減圧することにより充分に含浸させた。そして、アルミニウムリードが突出している正極端子側の端部に樹脂ペーストを刷毛塗りし、得られた塗膜を85℃で2時間乾燥させた。そして、電池ケースの開口端部を封口板に向けてかしめることにより、電池ケースを気密封口した。このようにして、外径14mm、高さ40mmの円筒型のリチウムイオン二次電池を作製した。
【0081】
(g)評価
得られたリチウムイオン二次電池を下記の評価方法に従い評価した。
[容量維持率]
リチウムイオン二次電池を25℃の恒温槽に収容し、以下の充放電条件で充電(定電流充電及びそれに続く定電圧充電)及び放電(定電流放電)の充放電を3サイクル繰返した。なお、充放電は、円筒型のリチウムイオン二次電池を立てて行った。
定電流充電:0.3C、充電終止電圧4.2V。
定電圧充電:4.2V、充電終止電流0.05C、休止時間20分。
定電流放電:0.2C、放電終止電圧2.5V、休止時間20分。
そして、リチウムイオン二次電池を、定電流放電の電流値を1Cにして、放電容量(1C容量)を求め、初期の電池容量とした。次に、300サイクルの充放電を繰り返し、300サイクル後の放電容量を求めた。そして、初期の電池容量に対する300サイクル後の放電容量の容量維持率(%)を求めた。結果を表1に示す。
【0082】
[非水電解液の漏れの有無]
容量維持率の測定の際のる300サイクル後のリチウムイオン二次電池を分解し、電極群からの非水電解液の漏れの有無を目視により調べた。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
[実施例2]
樹脂ペーストの樹脂材料としてポリイミドに代えてポリアミドイミド(非水電解液に対する膨潤度 1%、引張弾性率 12GPa)を用いた以外は、実施例1と同様にして、円筒型のリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0085】
[実施例3]
樹脂ペーストの樹脂材料としてポリイミドに代えてボリテトラフルオロエチレン(非水電解液に対する膨潤度 5%、引張弾性率 0.7GPa)を用いた以外は、実施例1と同様にして、円筒型のリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0086】
[実施例4]
樹脂ペーストの樹脂材料としてポリイミドに代えてポリフッ化ビニリデン(非水電解液に対する膨潤度 12%、引張弾性率 0.2GPa)を用いた以外は、実施例1と同様にして、円筒型のリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0087】
[実施例5]
樹脂ペーストの樹脂材料としてポリイミドに代えてボリフッ化ビニリデンとポリアミドイミドの混合物(重量比率が1:3、非水電解液に対する膨潤度 3%、引張弾性率 4GPa)を用いた以外は、実施例1と同様にして、円筒型のリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0088】
[比較例1]
電極群の両端部に樹脂被覆膜を形成しなかった以外は、実施例1と同様にして、円筒型のリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0089】
[比較例2]
電極群の銅リードが突出する端部のみに樹脂被覆膜を形成する以外は、実施例1と同様にして、円筒型のリチウムイオン二次電池を作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0090】
表1から、捲回型電極群の捲回軸方向の両端部に樹脂被覆層を形成した実施例1〜4のリチウムイオン二次電池は何れも容量維持率が高く、サイクル特性に優れていた。一方、樹脂被覆層を形成していない比較例1のリチウムイオン二次電池、電池ケースの底部に接続される銅リードが突出する負極側のみに樹脂被覆層を形成した比較例2のリチウムイオン二次電池は、容量維持率が低かった。また、容量維持率が特に高い実施例1及び実施例5のリチウムイオン二次電池においては、非水電解液の漏れが全く無かった。これは、樹脂被覆膜を形成する樹脂の非水電解液に対する膨潤度及び引張弾性率が適度であるために、液漏れを全く起こさなかったためであると思われる。一方、容量維持率がやや低い実施例2〜4のリチウムイオン二次電池においては、非水電解液の漏れがいくらか見られた。
【産業上の利用可能性】
【0091】
本発明の非水電解液二次電池は、従来の非水電解液二次電池と同様の用途に使用でき、特に、電子機器、電気機器、工作機器、輸送機器、電力貯蔵機器等の主電源又は補助電源として有用である。電子機器には、パーソナルコンピュータ、携帯電話、モバイル機器、携帯情報端末、携帯用ゲーム機器等がある。電気機器には、掃除機、ビデオカメラ等がある。工作機器には、電動工具、ロボット等がある。輸送機器には、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインHEV、燃料電池自動車等がある。電力貯蔵機器には、無停電電源等がある。
【符号の説明】
【0092】
1 非水電解液二次電池
2 捲回型電極群
3a、3b 樹脂被覆膜
4a、4b 捲回型電極群の端部
5 捲回軸
10、50 負極
11 正極
12 セパレータ
13 電池ケース
14 封口板
15 ガスケット
16 負極リード
17 正極リード
40 電子ビーム式真空蒸着装置
54 柱状体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを吸蔵及び放出する正極活物質を含む正極、リチウムイオンを吸蔵及び放出する負極活物質を含む負極、及び前記正極と前記負極との間に介在するセパレータを含む積層体を捲回し、非水電解液を含浸させた捲回型電極群を備えた非水電解液二次電池であって、
前記捲回型電極群は、捲回軸方向の両端部のそれぞれに各端部を覆う樹脂被覆膜を備えることを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項2】
前記樹脂被覆膜は前記電極群に含浸された前記非水電解液を前記各端部から流出させないように、前記各端部を覆っている請求項1に記載の非水電解液二次電池。
【請求項3】
前記樹脂被覆膜の前記非水電解液に対する膨潤度が3%以下である請求項1又は2に記載の非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記樹脂被覆膜の25℃における引張弾性率が、0.1〜20GPaである請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項5】
前記樹脂被覆膜が、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミド及びポリアミドよりなる群から選ばれる少なくとも1種の樹脂材料を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項6】
前記負極が、リチウムイオンを吸蔵及び放出する合金系活物質を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の非水電解液二次電池。
【請求項7】
前記負極が、互いに離隔するように形成された複数の凸部を表面に有する負極集電体と、前記各凸部に支持された前記合金系活物質からなる複数の柱状体を含む負極活物質層とを備える請求項6に記載の非水電解液二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−30431(P2013−30431A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167296(P2011−167296)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】