説明

非水電解質二次電池の製造方法および非水電解質二次電池

【課題】 フィルター透過時におけるペーストの粘度の急上昇を抑制してペーストを電極芯材に好適に塗工することのできる非水電解質二次電池の製造方法および非水電解質二次電池を提供すること。
【解決手段】 負極活物質として,負極活物質の粒度分布が1つのピークをもつものを用いる。さらに,負極活物質の粒度分布は,0.90≦A/(D50)≦2.0および1.30≦B/(D50)≦3.0を満たす。ここで,(D50:メディアン径,A:粒度分布の半値幅,B:粒度分布の四半値幅)である。この粒度分布の負極活物質と,結着材と,増粘材とを溶媒に投入して,混練して負極用ペーストを作成する。この負極用ペーストを負極芯材NBに塗工して負極板Nを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,非水電解質二次電池の製造方法および非水電解質二次電池に関する。さらに詳細には,塗工液を電極芯材に好適に塗工することのできる非水電解質二次電池の製造方法および非水電解質二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池には,リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池の電極体は,電極芯材に塗工液を塗工して乾燥することにより作成される。塗工液には,正極用ペーストと負極用ペーストとがある。
【0003】
これらのペーストは,活物質や結着材等を溶媒に投入し,混練機により混練して作成される。このように作成したペーストを,塗布装置から電極芯材に塗工する前にフィルターにより濾過する。ペースト中の未分散の凝集塊を除去するためである。ペーストに凝集塊が含まれていると,ペーストを塗工する際に塗工層に塗工スジを生じることがあるからである。電極体に塗工スジのある電池では,所望の出力を発揮できないことがある。また,そのような電池では,塗工スジの箇所にリチウムが析出するおそれもある。
【0004】
そこで,塗工液から凝集塊を除去する種々の技術が開発されてきている。例えば,特許文献1には,攪拌翼を備える攪拌装置によりペーストを攪拌するとともに,フィルターを用いて未分散の凝集塊を除去する電池の製造方法が開示されている(特許文献1の請求項1および段落[0013]および図1等参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−213310号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで,ペーストがフィルターを透過する際には,メッシュの隙間を抜けるときにせん断力がペーストに加わる。せん断力がペーストに加わると,せん断力が加わっている期間内のみペーストの粘度が変化することがある。ペーストにせん断力が加わっている期間内のみ,ペーストの粘度が上昇することがある。このようにせん断力によりペーストの粘度が上昇する現象をダイラタンシーという。
【0007】
ペーストの粘度が急激に上昇すると,ペーストがフィルターを透過しにくくなる。つまり,単位時間当たりにフィルターを透過するペーストの量(流量)は,少なくなる。そうすると,塗布装置から流出するペーストの流量も減少する。これにより,電極体の生産性は低下する。また,ペーストの流量の減少により,規程の厚みと幅で塗工することができず,塗工不良となるおそれがある。そのため,ペーストのフィルター透過時における粘度の急上昇を抑制することが好ましい。
【0008】
本発明は,前述した従来の技術が有する問題点を解決するためになされたものである。すなわちその課題とするところは,フィルター透過時におけるペーストの粘度の急上昇を抑制してペーストを電極芯材に好適に塗工することのできる非水電解質二次電池の製造方法および非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題の解決を目的としてなされた本発明の一態様における非水電解質二次電池の製造方法は,負極活物質を含む負極用ペーストをフィルターの透過後に負極芯材に塗工して乾燥させることにより負極板とする負極板作成工程と,負極板と正極板とをこれらの間にセパレータを介して配置することにより電極体とする電極体作成工程と,電池容器に電極体および電解液を注入して封止する電池組立工程とを有する方法である。そして,負極板作成工程では,負極活物質の粒度分布が1つのピークをもつとともに,次の関係式
0.90 ≦ A/D50 ≦ 2.0
1.30 ≦ B/D50 ≦ 3.0
D50: メディアン径
A : 粒度分布の半値幅
B : 粒度分布の四半値幅
を満たす負極活物質を用いる。かかる非水電解質二次電池の製造方法では,負極用ペーストがフィルターをスムーズに透過する。そのため,塗工に際して,塗工不良が生じにくい。
【0010】
上記に記載の非水電解質二次電池の製造方法であって,フィルターとして,負極活物質のメディアン径の2.5〜7倍の孔径であるデプスフィルターを用いるとよい。負極用ペーストが,フィルターをよりスムーズに透過するからである。
【0011】
また,本発明の別の態様における非水電解質二次電池は,正極板と負極板とセパレータとを有し,負極板に含まれている負極活物質の粒度分布は,1つのピークをもつとともに,次の関係式
0.90 ≦ A/D50 ≦ 2.0
1.30 ≦ B/D50 ≦ 3.0
D50: メディアン径
A : 粒度分布の半値幅
B : 粒度分布の四半値幅
を満たすものである。かかる非水電解質二次電池では,負極板の塗工層に塗工ムラがほとんど生じていない。そのため,ロット毎に生じうる電池性能のばらつきが小さい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば,フィルター透過時におけるペーストの粘度の急上昇を抑制してペーストを電極芯材に好適に塗工することのできる非水電解質二次電池の製造方法および非水電解質二次電池が提供されている。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態に係る組電池の概略構成を説明するための斜視図である。
【図2】実施形態に係る電池の概略構成を説明するための断面図である。
【図3】実施形態に係る電池の捲回電極体を説明するための斜視図である。
【図4】実施形態に係る電池の捲回電極体の捲回構造を説明するための展開図である。
【図5】実施形態に係る電池の正極板(負極板)の断面構造を説明するための斜視断面図である。
【図6】実施形態に係る電池の製造方法に用いられる塗工装置を説明するための概略構成図である。
【図7】実施形態に係る電池の製造方法に用いられるフィルターとその前後の領域におけるペーストの透過速度を説明するための模式図である。
【図8】負極活物質の粒度分布を例示するグラフである。
【図9】負極活物質の粒度分布における半値幅および四半値幅を示すグラフである。
【図10】実施例に係る実験で用いた実験設備を説明するための概略構成図である。
【図11】実施例に係る実験で用いた負極活物質の粒度分布を示すグラフである。
【図12】実施例に係る実験で用いた負極活物質の粒度分布によるフィルターの透過速度の違いを説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下,本発明を具体化した実施の形態について,添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本形態は,リチウムイオン二次電池の製造方法について,本発明を具体化したものである。
【0015】
1.電池の構造
1−1.組電池
本形態の組電池BPは,図1に示すように,電池100を直列に接続した組電池である。電池100は,角型の単電池である。組電池BPでは,図1に示すように,電池100の正極端子と,その電池100に隣り合う電池100の負極端子とが,バスバー190を介して締結されている。この締結は,ボルトとナットによりなされている。
【0016】
1−2.単電池
電池100は,リチウムイオン二次電池の単電池である。電池100の概略構成を図2の断面図に示す。図2は,図1に示した組電池BPから電池100を取り出して描いたものである。電池容器110は,図2に示すように,電池容器本体120と,封口板130とを備えるものである。電池容器110の内部には,捲回電極体10が配置されている。この捲回電極体10は,実際に発電に寄与する発電要素である。封口板130は,電池容器本体120の開口部を塞ぐためのものである。そのため,電池容器本体120に接合されている。
【0017】
電池容器110の内部には,電解液が注入されている。この電解液は,有機溶媒に電解質を溶解させたものである。有機溶媒として例えば,プロピレンカーボネート(PC),エチレンカーボネート(EC),ジメチルカーボネート(DMC),ジエチルカーボネート(DEC),エチルメチルカーボネート(EMC),1,2−ジメトキシエタン,1,2−ジエトキシエタン,テトラヒドロフラン,2−メチルテトラヒドロフラン,ジオキサン,1,3−ジオキソラン,エチレングリコールジメチルエーテル,ジエチレングリコールジメチルエーテル,アセトニトリル,プロピオニトリル,ニトロメタン,N,N−ジメチルホルムアミド,ジメチルスルホキシド,スルホラン,γ−ブチロラクトン等の非水系溶媒またはこれらを組み合わせた溶媒を用いることができる。
【0018】
また,電解質である塩として,過塩素酸リチウム(LiClO)やホウフッ化リチウム(LiBF),六フッ化リン酸リチウム(LiPF),六フッ化砒酸リチウム(LiAsF),LiCFSO,LiCSO,LiN(CFSO,LiC(CFSO,LiIなどのリチウム塩を用いることができる。
【0019】
図2に示すように,電池100は,正極端子50と,負極端子60と,絶縁部材150と,絶縁部材160とを有している。絶縁部材150は,正極端子50と封口板130とを絶縁するための部材である。絶縁部材160は,負極端子60と封口板130とを絶縁するための部材である。
【0020】
図2に示すように,封口板130には注液孔140が設けられている。注液孔140は,封口板130を貫通する貫通孔である。注液孔140は,電解液を電池容器110の内部に注入するためのものである。蓋体170は,封口板130の注液孔140を塞ぐための注液孔用蓋体である。したがって,蓋体170は,注液孔140の開口部分を覆っている。蓋体170は,封口板130の外側から封口板130にシーム溶接されている。
【0021】
1−3.捲回電極体の構造
図3は,捲回電極体10を示す斜視図である。図3に示すように,捲回電極体10は扁平形状をしている。捲回電極体10の一方の端部には,正極端部30が突出している。正極端部30は,後述するように,正極板の正極芯材が突出している箇所である。捲回電極体10の他方の端部には,負極端部40が突出している。負極端部40は,後述するように,負極板の負極芯材が突出している箇所である。
【0022】
図4は,捲回電極体10の捲回構造を示す展開図である。捲回電極体10は,図4に示すように,内側から正極板P,セパレータS,負極板N,セパレータTの順に積み重ねた状態で捲回されたものである。すなわち,捲回電極体10は,正極板Pと負極板Nとをこれらの間にセパレータS,Tを介在させて交互に配置したものである。
【0023】
正極板Pは,正極芯材であるアルミ箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質を含む合材を塗布したものである。負極板Nは,負極芯材である銅箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な負極活物質を含む合材を塗布したものである。
【0024】
図4に示すように正極板Pには,正極塗工部P1と,正極非塗工部P2とがある。正極塗工部P1は,正極芯材に正極活物質等を含む正極合材層を形成した箇所である。正極非塗工部P2は,正極芯材に正極合材層を形成していない箇所である。負極板Nには,負極塗工部N1と,負極非塗工部N2とがある。負極塗工部N1は,負極芯材に負極活物質等を含む負極合材層を形成した箇所である。負極非塗工部N2は,負極芯材に負極合材層を形成していない箇所である。
【0025】
図4中の矢印Aは,正極板P,負極板N,セパレータS,Tの幅方向(図3でいえば横方向)を示している。図4中の矢印Bは,正極板P,負極板N,セパレータS,Tの長手方向(図3の捲回電極体10の周方向)を示している。
【0026】
セパレータS,Tは,ポリエチレンやポリプロピレン等の多孔性フィルムである。セパレータS,Tの厚みは,10〜50μm程度である。ここで,セパレータSとセパレータTとは同じ材質のものである。上記の捲回順の理解のために符号をS,Tとして区別しただけである。
【0027】
1−4.電極板の構造
図5は,正極板P(もしくは負極板N)の斜視断面図である。図5中の括弧外の各符号は,正極の場合の各部を,括弧内の各符号は,負極の場合の各部を示している。図5中の矢印Aが示す方向は,図4中の矢印Aが示す方向と同じである。すなわち,正極板P(もしくは負極板N)の幅方向である。図5中の矢印Bが示す方向は,図4中の矢印Bが示す方向と同じである。すなわち,正極板P(もしくは負極板N)の長手方向である。
【0028】
図5に示すように,正極板Pは,帯状の正極芯材PBの両面の一部に正極合材層PAが形成されたものである。図5中左側には,正極板Pの正極非塗工部P2が幅方向に突出している。正極非塗工部P2は,帯状に形成されている。正極非塗工部P2は,正極芯材PBの両面ともに正極活物質が塗布されていない領域である。したがって正極非塗工部P2では,正極芯材PBがむき出したままの状態にある。一方,図5中右側には,正極非塗工部P2に対応するような突出部はない。正極塗工部P1では,正極芯材PBの両面に一様の厚みで正極合材層PAが形成されている。
【0029】
正極合材層PAは,正極芯材PBであるアルミ箔にリチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極活物質の他に,導電材,結着材,増粘材を含む合材を塗布して形成された層である。正極活物質として,ニッケル酸リチウム(LiNiO),マンガン酸リチウム(LiMn),コバルト酸リチウム(LiCoO),LiNi1/3Co1/3Mn1/3等のリチウム複合酸化物などが用いられる。
【0030】
正極用の導電材として,カーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料を用いることができる。例えば,アセチレンブラック,ファーネスブラック,ケッチェンブラック等のカーボンブラック,グラファイト粉末,などのカーボン粉末である。
【0031】
正極用の結着材は,電解液に不溶性(または難溶性)であって,正極用ペーストに用いる溶媒に分散するポリマーであるとよい。例えば,ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP),エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂,酢酸ビニル共重合体,スチレンブタジエンゴム(SBR),アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス),アラビアゴム等のゴムを用いることができる。または,これらの組み合わせを用いてもよい。結着材は,必ずしも上記のポリマーに限定されない。
【0032】
正極用の増粘材として,カルボキシメチルセルロース(CMC),メチルセルロース(MC),酢酸フタル酸セルロース(CAP),ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC),ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等のセルロースが用いられる。ただし,必ずしも上記したようなセルロースに限らず用いることができる。
【0033】
溶媒として,水が挙げられる。その他に,N−メチル−2−ピロリドン(NMP,以下NMPという)を用いてもよい。また,その他の低級アルコールや低級ケトンを用いることもできる。
【0034】
図5の括弧内の符号で示すように,負極板Nは,帯状の負極芯材NBの両面の一部に負極合材層NAが形成されたものである。図5中左側には,負極板Nの負極非塗工部N2が幅方向に突出している。負極非塗工部N2は,帯状に形成されている。負極非塗工部N2は,負極芯材NBの両面ともに負極活物質が塗布されていない領域である。したがって負極非塗工部N2では,負極芯材NBがむき出したままの状態にある。一方,図5中右側には,負極非塗工部N2に対応するような突出部はない。負極塗工部N1では,負極芯材NBの両面に一様の厚みで負極合材層NAが形成されている。ただし,図4に示したように,捲回時には,正極非塗工部P2と負極非塗工部N2とは,反対側に突出した状態で捲回されることとなる。
【0035】
負極合材層NAは,負極芯材NBである銅箔に負極活物質,結着材,増粘材を含む合材を塗布して乾燥させた層である。負極活物質は,リチウムイオンを吸蔵・放出可能な物質である。負極活物質として,少なくとも一部にグラファイト構造を含む炭素系物質が用いられる。例えば,非晶質炭素,難黒鉛化炭素(ハードカーボン),易黒鉛化炭素(ソフトカーボン),黒鉛(グラファイト),またはこれらを組み合わせた構造を有する炭素材料を用いることができる。
【0036】
負極用の結着材は,電解液に不溶性(または難溶性)であって,負極用ペーストに用いる溶媒に分散するポリマーであるとよい。例えば,ポリフッ化ビニリデン(PVDF),ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA),テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP),エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等のフッ素系樹脂,酢酸ビニル共重合体,スチレンブタジエンゴム(SBR),アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス),アラビアゴム等のゴムを用いることができる。または,これらの組み合わせを用いてもよい。結着材は,必ずしも上記のポリマーに限定されない。
【0037】
負極用の増粘材として,カルボキシメチルセルロース(CMC),メチルセルロース(MC),酢酸フタル酸セルロース(CAP),ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC),ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)等のセルロースが用いられる。ただし,必ずしも上記したようなセルロースに限らず用いることができる。
【0038】
溶媒として,水が挙げられる。NMPを用いてもよい。また,その他の低級アルコールや低級ケトンを用いることもできる。
【0039】
2.塗工装置
続いて,本形態の電池の製造方法に用いられる塗工装置1000について説明する。塗工装置1000は,正極板Pの作成および負極板Nの作成のいずれにも用いることができるものである。ここでは,説明のために,負極板Nを例に挙げて説明する。本形態の塗工装置1000を図6に示す。図6に示すように,塗工装置1000は,混練装置1100と,第1フィルター1200と,バッファタンク1300と,第2フィルター1400と,弁1500と,ポンプ1600と,第3フィルター1700と,塗工用ダイ1800と,バックアップローラー1900とを有している。
【0040】
混練装置1100は,前述した,溶媒に,負極活物質と,結着材と,増粘材とを混入して混練することで負極用ペーストを作成するためのものである。第1フィルター1200は,混練した負極用ペーストから凝集塊を除去するためのものである。バッファタンク1300は,負極用ペーストを一時的に保管しておくためのものである。
【0041】
第2フィルター1400は,バッファタンク1300から送り出される負極用ペーストから凝集塊を除去するためのものである。弁1500は,負極用ペーストの流路の開閉を調整するためのものである。ポンプ1600は,負極用ペーストの流量を調整するためのものである。第3フィルター1700は,塗工用ダイ1800による塗工を行う前に,負極用ペーストから凝集塊を除去するためのものである。
【0042】
塗工用ダイ1800は,負極芯材NBに負極用ペーストを塗工するためのものである。バックアップローラー1900は,塗工用ダイ1800による塗工に際して,負極芯材NBに塗工する面の反対側の面から負極芯材NBを支持しつつ,負極芯材NBを搬送するためのものである。
【0043】
第1フィルター1200と,第2フィルター1400と,第3フィルター1700とは,同じ種類のフィルターである。これらは,デプスフィルターであるとよい。また,スクリーンフィルターであってもよい。そして,フィルターの孔径は,負極活物質のメディアン径の2.5〜7倍程度であるとよい。特に,負極活物質のメディアン径の3〜5倍程度であるとなおよい。メディアン径については,後述する。
【0044】
3.負極用ペーストの粘度の上昇
前述したように,これらのフィルター1200,1400,1700を負極用ペーストが透過する際に負極用ペーストの粘度が急激に上昇すると,フィルター1200,1400,1700を透過する負極用ペーストの透過量は少ない。特に,第3フィルター1700を透過する負極用ペーストの量が不足すると,狙いとする塗工幅および塗工厚で負極用ペーストを塗工することは困難である。また,塗工ムラ等の原因となることもある。したがって,フィルター1200,1400,1700を透過する際に粘度がそれほど上昇しないような負極用ペーストを作成することが好ましい。
【0045】
ここでいうダイラタンシー,すなわち急激な粘度の上昇とは,可逆的な粘度の変化のことである。ペーストがフィルターを透過する際に,せん断が加わる。このせん断が加わっている間のみ,ペーストの粘度は上昇するのである。そのため,フィルターを透過した後のペーストの粘度は,フィルターを透過させる前のペーストの粘度とほぼ等しい。このように,フィルターを透過するときのみ,粘度が上昇しているのである。なお,このダイラタンシー,すなわちフィルター透過時における粘度の急激な上昇は,ペースト中の固形分率が高いほど生じやすい。
【0046】
フィルター透過時におけるペーストの様子を図7に示す。図7は,フィルターのメッシュとその周辺を模式的に示す図である。実際には,フィルターは,メッシュのある箇所とない箇所とが交互に表れる多層構造を有している。図7からも明らかなように,フィルターのメッシュのある箇所(領域R2)では,粒子(負極活物質等)の通り道1201は狭い。フィルターのメッシュの前後の箇所(領域R1,R3)では,粒子が透過するのに障害となるものはない。
【0047】
ここで,ペーストがフィルターのメッシュを透過する前の領域R1におけるペーストの平均速度をV1とする。ペーストがフィルターのメッシュを透過している最中の領域R2におけるペーストの平均速度をV2とする。ペーストがフィルターのメッシュを透過した後の領域R3におけるペーストの平均速度をV3とする。すると,次の関係式が成り立つ。
V2 >> V1
V3 ≒ V1
【0048】
ここで,粒子は,フィルターのメッシュを透過する領域R2において,せん断力を受ける。そのせん断力を受けて,領域R2では粒子は速い平均速度V2で移動する。これらの原因により,ペーストの粘度は上昇する。前述のとおり,この粘度の上昇は,フィルター透過時にのみ生ずる。ペーストがフィルターを透過した後のペーストの粘度は,フィルターを透過する前のペーストの粘度とほぼ同じである。そして後述するように,負極活物質の粒度分布が異なっていると,この粘度の上昇の度合いも異なる。本形態では,ペーストの粘度がそれほど上昇しない粒度分布の負極活物質を用いるところに特徴点を有する。
【0049】
4.負極用ペーストの製造方法
本形態に係るリチウムイオン二次電池の製造方法は,負極用ペーストの製造方法に特徴のある方法である。そこで,負極用ペーストの製造方法について説明する。
【0050】
本形態では,用いる負極活物質の粒径に特徴がある。本形態では,粒度分布に1つのピークがある負極活物質を用いる。例えば,図8では,粒度分布X1,X2がこの条件を満たす。図8の粒度分布X3のように,粒度分布にダブルピークのある負極活物質を用いたペーストは,後述するように,フィルターを透過できない。
【0051】
そしてさらに,本形態における負極活物質の粒度分布は,次式(1),(2)を満たす。
0.90 ≦ A/D50 ≦ 2.0 ………(1)
1.30 ≦ B/D50 ≦ 3.0 ………(2)
D50: メディアン径
A : 粒度分布の半値幅
B : 粒度分布の四半値幅
ここでメディアン径とは,粒子の粒径を小さい順に並べた場合に,粒子の累積個数が全体の個数の半分(50%)となる径である。粒度分布の半値幅Aおよび四半値幅Bを図9に示す。図9に示すように,半値幅Aは,粒度分布のピーク値Hの半分の値H/2であるときの粒度分布の幅である。四半値幅Bは,ピーク値Hの1/4の値H/4であるときの粒度分布の幅である。
【0052】
本形態で用いる負極活物質は,次の条件を満たすものを用いる。
条件1: 粒度分布のピークが1つであること
条件2: 式(1),(2)を満たすこと
図8に示した粒度分布のうち,粒度分布X1が,条件1および条件2を満たしている。粒度分布X2は,条件1を満たすものの条件2を満たさない。そして,粒度分布X3は,ダブルピークであり,条件1すら満たしていない。
【0053】
本形態では,条件1および条件2を満たす負極活物質を用いる。詳細については実施例の項で後述するが,粒度分布がダブルピークをもつものを用いると,負極用ペーストはフィルター1200,1400,1700を透過することができない。そして,粒度分布が狭いシングルピークをもつもの,すなわち粒度の揃った負極活物質を用いると,負極用ペーストがフィルター1200,1400,1700を透過する際に,負極用ペーストの粘度が急激に上昇する。
【0054】
したがって,条件1および条件2を満たす負極活物質を用いると,フィルターを透過するとともに,フィルター透過時に急激なペーストの粘度上昇を抑制し,塗工用ダイ1800から適量のペーストを送出させることができる。もちろん,ペーストから凝集塊を除去することができる。これにより,生産性の高い電池の製造方法を実現することができる。
【0055】
5.電池の製造方法
本形態のリチウムイオン二次電池の製造方法には,前述の負極用ペーストの製造方法を採用することに特徴がある。そして,本形態のリチウムイオン二次電池の製造方法は,次に示す製造工程を有する。
(A)正極板作成工程
(B)負極板作成工程
(C)電極体作成工程
(D)電池組立工程
【0056】
5−1.(A)正極板作成工程
正極活物質と,導電材と,増粘材と,結着材とを,溶媒に混入し,混練して正極用ペーストを作成する。ここで用いる正極活物質等の各材料については,上記に示したものを用いればよい。
【0057】
そして,塗工装置1000を用いて正極芯材PBに正極用ペーストを塗工して正極用ペースト層とする。正極用ペースト層とは,正極合材層PAの乾燥前の層のことである。次に,正極用ペースト層の形成された正極芯材PBを乾燥炉の内部に搬送しつつその正極用ペースト層を乾燥させる。これにより,正極芯材PBに正極合材層PAが形成される。ここで,正極芯材PBの両面に正極合材層PAを形成することが好ましい。これにより,正極板Pが作成される。なお,正極板Pに適宜ロールプレス工程やスリット工程を施してもよい。
【0058】
5−2.(B)負極板作成工程
負極活物質と,結着材と,増粘材とを,溶媒に混入し,混練して負極用ペーストを作成する。ここで用いる負極活物質は,前述のとおり,条件1および条件2を満たすものである。そしてその他の材料については,前述したものを用いればよい。
【0059】
そして,塗工装置1000を用いて負極芯材NBに負極用ペーストを塗工する。そのため,負極用ペーストを第3フィルター1700の透過後に,負極芯材NBに塗工することとなる。そして,乾燥炉内で負極用ペースト層を乾燥させることで,負極板Nが作成される。
【0060】
5−3.(C)電極体作成工程
続いて,捲回電極体10を作成する。その際に,図4に示したように,正極板Pおよび負極板Nに,これらの間にセパレータS,Tを介在させて積み重ねた状態で捲回する。これにより,正極板Pおよび負極板Nの間にセパレータS,Tを介して配置した,円筒形状の捲回電極体が作成される。この円筒形状の捲回電極体を円筒の径方向から圧縮することにより,図3に示したような扁平形状の捲回電極体10が作成される。
【0061】
5−4.(D)電池組立工程
次に,捲回電極体10を電池容器本体120に収容する。また,封口板130を電池容器本体120に接合する。この接合にレーザ溶接を用いるとよい。もちろん,その他の接合方法を用いてもよい。そして,注液孔140から電池容器本体120の内部に電解液を注入する。次に,蓋体170を封口板130に接合することで封止する。これにより,電池100が組み立てられる。
【0062】
5−5.その他の工程
電池容器110の内部に電解液を注入した後,電解液は捲回電極体10の正極合材層PAおよび負極合材層NAに徐々に含浸していく。この電解液の含浸後に,初期充電工程や高温エージング工程等を施すこととするとよい。また,その他の各種の検査工程を行ってもよい。以上の工程を経ることにより,組電池BPが製造される。
【0063】
6.製造された電池
本形態の電池の製造方法により製造された電池100の負極板Nの塗工層を分解すると,負極板Nに含まれている負極活物質の粒度分布は,前述の式(1),(2)を満たすはずである。そして,本形態の電池の製造方法により製造された電池100では,電極芯材に塗工層が好適に塗工されており,塗工不良がほとんどない。塗工の段階で,電極芯材に好適にペーストが供給されているからである。また,塗工スジもほとんどみられない。
【0064】
7.まとめ
以上,詳細に説明したように,本実施の形態に係る電池の製造方法は,比較的広いシングルピークをもつ負極活物質を用いる方法である。つまり,負極活物質の粒度分布は,式(1),(2)を満たす。このような粒度分布の負極活物質を用いることで,固形分率を高いペーストを用いたとしても,好適に塗工することのできる非水電解質二次電池の製造方法および非水電解質二次電池が実現されている。
【0065】
なお,本実施の形態は単なる例示にすぎず,本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に,その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良,変形が可能である。例えば,電池であれば,二次電池に限らず,一次電池にも適用することができる。また,もちろん,電極体の形状によらない。
【実施例】
【0066】
A.実験方法
本実験では,粒度分布の異なる負極活物質を用いて負極用ペーストを作成した。この実験に際して,負極活物質として,天然黒鉛を用いた。増粘材として,カルボキシメチルセルロース(CMC)を用いた。結着材として,スチレンブタジエンゴム(SBR)を用いた。これらの粉体の混合比率は,重量パーセントで,負極活物質:CMC:SBR=98:1:1である。そして,最終的に得られたペーストの固形分率を重量比で54%とした。
【0067】
実験に際して用いた装置を図10に示す。図10に示すように,混練した負極用ペーストを第1タンク2100から第2タンク2300に移動させる。その際に,フィルター2200を透過させる。フィルターとして,負極活物質のメディアン径の3〜6倍の孔径であるデプスフィルターを用いた。このとき,第1タンク2100には,0.13MPaの圧力を加圧する。この圧力の値は,実施形態で説明した塗工装置1000においても,各フィルターの透過前に加えられる圧力の値と同じである。
【0068】
B.評価項目
本実験における評価項目は,前述のように,負極用ペーストがフィルター2200を透過する際の透過速度である。フィルター2200透過後における透過速度,すなわち負極用ペーストの流量(単位時間当たりに流れる負極用ペーストの量:g/sec)を測定する。このために,第2タンク2300の重量の時間変化を測定した。また,流量計を用いても測定することは可能である。
【0069】
C.実験結果
本実験では,図11のグラフに示すような粒度分布を持つ負極活物質を用いた。実施例1は,前述の条件1および条件2を満たす。比較例1は,条件1を満たすが,条件2を満たさない。比較例2は,ダブルピークを持つものであり,条件1すら満たさない。
【0070】
C−1.実施例1
表1に示すように,実施例1の場合における粒度分布の半値幅をYとした。そのため,実施例1の四半値幅や下記の比較例では,この半値幅Yを基準としている。実施例1の四半値幅は,1.48Yである。実施例1では,ペーストがフィルターを透過する速度(以下,「フィルター透過速度」という)は,21.7g/secであった。この透過速度は,十分な値である。フィルター透過時にせん断が加わるが,ペーストの粘度がそれほど上昇していないと考えられる。
【0071】
C−2.比較例1
表1に示すように,比較例1の場合における粒度分布の半値幅は0.72Yであった。比較例1の半値幅は,実施例1の半値幅Yの7割程度である。つまり,実施例1に比べて,粒度分布のピークは狭い。比較例1の四半値幅は,1.15Yであった。比較例1の四半値幅も,実施例1の四半値幅より狭い。比較例1では,フィルター透過速度は,5.8g/secであった。フィルター透過時にせん断が加わることにより,ペーストの粘度が急上昇し,透過速度が低いものとなっていると考えられる。
【0072】
C−3.比較例2
表1に示すように,比較例2では,二重粒径の粒度分布の負極活物質を用いた。比較例2では,ペーストはフィルターを透過しなかった。フィルターに目詰まり等が生じており,ペーストがフィルターを透過できなかったと考えられる。
【0073】
【表1】

【0074】
そこで,図12に示すように,フィルター透過速度が10g/sec以上であれば,良品であると判断することとする。フィルター透過速度が10g/sec未満であれば,不良品であると判断することとする。図12より,実施例1,比較例1,比較例2のうち,実施例1のみが,上記の条件を満たす。
【0075】
したがって,実施例1の粒度分布の負極活物質を用いれば,塗布装置によりペーストを好適に電極芯材に塗工できる。なお,表1に示したように,いずれの粒径分布の負極活物質を用いたとしても,せん断速度を速くするとペーストの粘度は低くなる傾向を示している。
【符号の説明】
【0076】
10…捲回電極体
30…正極端部
40…負極端部
50…正極端子
60…負極端子
100…電池
110…電池容器
120…電池容器本体
130…封口板
140…注液孔
150…絶縁部材
160…絶縁部材
170…蓋体
1000…塗工装置
1100…混練装置
1200…第1フィルター
1300…バッファタンク
1400…第2フィルター
1500…弁
1600…ポンプ
1700…第3フィルター
1800…塗工用ダイ
1900…バックアップローラー
BP…組電池
P…正極板
P1…正極塗工部
P2…正極非塗工部
N…負極板
N1…負極塗工部
N2…負極非塗工部
S,T…セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質を含む負極用ペーストをフィルターの透過後に負極芯材に塗工して乾燥させることにより負極板とする負極板作成工程と,
前記負極板と正極板とをこれらの間にセパレータを介して配置することにより電極体とする電極体作成工程と,
電池容器に前記電極体および電解液を注入して封止する電池組立工程とを有する非水電解質二次電池の製造方法であって,
前記負極板作成工程では,
前記負極活物質の粒度分布が1つのピークをもつとともに,次の関係式
0.90 ≦ A/D50 ≦ 2.0
1.30 ≦ B/D50 ≦ 3.0
D50: メディアン径
A : 粒度分布の半値幅
B : 粒度分布の四半値幅
を満たす負極活物質を用いることを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池の製造方法であって,
前記フィルターとして,
負極活物質のメディアン径の2.5〜7倍の孔径であるデプスフィルターを用いることを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項3】
正極板と負極板とセパレータとを有する非水電解質二次電池であって,
前記負極板に含まれている負極活物質の粒度分布は,
1つのピークをもつとともに,次の関係式
0.90 ≦ A/D50 ≦ 2.0
1.30 ≦ B/D50 ≦ 3.0
D50: メディアン径
A : 粒度分布の半値幅
B : 粒度分布の四半値幅
を満たすことを特徴とする非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2013−69633(P2013−69633A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209105(P2011−209105)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】