説明

非水電解質二次電池及び非水電解質二次電池の製造方法

【課題】正極電極の一部が負極電極と非対向であっても発熱を防止することのできる,非水電解質二次電池,及びその製造方法を提供する。
【解決手段】負極電極と,少なくとも一部で,前記負極電極と対向するように配置された正極電極と,前記正極電極と前記負極電極との間に介在し,空孔を有する多孔性のセパレータとを具備し,前記正極電極は,前記負極電極と対向する対向領域と,前記負極電極と対向しない非対向領域とを有し,前記セパレータにおける前記非対向領域に対応する領域の全域には,前記空孔が閉塞された空孔閉塞部が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,非水電解質二次電池及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再充電可能な二次電池として,非水電解質二次電池が知られている。特にリチウムイオン二次電池は,高エネルギー密度,高電池容量を有することから注目を集めている。非水電解質二次電池は,少なくとも一部の正極集電体上に正極活物質層が設けられた正極電極と,少なくとも一部の負極集電体上に負極活物質層が設けられた負極電極とが,セパレータを介して対向した構造を有している。
【0003】
非水電解質二次電池において,充電中には,電解質中の金属イオンが負極電極上に析出することがある。例えば,リチウムイオン二次電池では,樹枝(デンドライト)状のリチウムとして析出することがある。負極電極上に析出した金属(例えば,樹枝状リチウム)が対向する正極電極に接触すると,内部短絡や化学反応により電池が発熱する。この発熱により,電池の温度が上昇し,最悪な場合は電池が破裂・発火に至る可能性がある。
【0004】
リチウムの電析を抑制するための技術が,特許文献1(特開平6−76860号公報)に記載されている。この特許文献1には,正極板の周縁部に対面しているセパレータ部分の孔が潰されていることを特徴とする二次電池が記載されている。これにより,セパレータの膜抵抗が大きくなり,極板周縁部の充放電反応が抑制され,負極におけるリチウムの電析が抑制されると記載されている。
【0005】
また,特許文献2(特開2007−250319号公報)には,電極を覆うセパレータが破断し,内部短絡の生じることのない信頼性に優れた積層型二次電池を提供することを課題とした技術が記載されている。この特許文献2の積層型二次電池においては,正極電極又は負極電極の少なくとも一方が,両面がセパレータで覆われるとともにそのセパレータの正極電極または負極電極の周縁部に対向する部分に空孔閉塞部を有することを特徴としている。その空孔閉塞部は二枚のセパレータを間欠的に溶着接合することで形成され,これによりしわの発生を防いで袋状のセパレータを作成することができることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平6−76860号公報
【特許文献2】特開2007−250319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常,非水電解質二次電池中において,正極電極と負極電極とは,概ね一致する形状に作成され,概ね電極末端同士の位置を揃えて対向している。但し,完全に位置を揃えて対向しているのではなく,正極電極が負極電極からはみ出し正極電極が負極電極と対向していない領域を有していることもある。このような非水電解質二次電池を充電する場合,正極電極から供給される金属イオンが負極電極の許容する電気容量に対して部分的に過剰となり,負極電極に金属が析出することがある。
【0008】
図1A,図1B,図1C,図2A,図2B及び図2Cは,非水電解質二次電池が正極電極と負極電極とが対向していない領域を有している場合に負極電極上に金属が析出する様子を説明するための説明図である。図1A〜図1Cに示されるように,この非水電解質二次電池中においては,正極電極101と負極電極102とがセパレータ103を介して対向して配置されている。尚,正極電極101と負極電極102との間は非水電解質で満たされている。セパレータ103としては,非水電解質中の金属イオンが透過できるように,多孔性のものが用いられる。正極電極101は少なくとも一部で負極電極102からはみ出ており,負極電極102と対向する対向領域と,負極電極102と対向していない非対向領域とを有している。
【0009】
このような非水電解質二次電池を充電すると,正極電極から電解質中へ金属イオンが供給され,非水電解質中の金属イオンは負極電極102側へ移動する。この際,負極電極の少なくとも一部では負極容量に対して金属イオンが過剰になり,負極電極102の端部に金属104が析出することがある。そのため,負極電極102の端部では金属104が発生又は成長し易い。その結果,図2A,図2B及び図2Cに示されるように,金属104がセパレータ103を貫通して正極電極101と接触してしまうことがある。負極電極102に析出した金属104が正極電極101と接触すると,既述のように発熱する。
【0010】
従って,本発明の目的は,正極電極と負極電極とが対向していない領域を有していても,負極電極から析出する金属の成長,又は負極電極から析出する金属と正極電極の接触を防止することのできる,非水電解質二次電池,及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以下に,[発明を実施するための形態]で使用する括弧付き符号を用いて,課題を解決するための手段を説明する。これらの符号は,[特許請求の範囲]の記載と[発明を実施するための形態]の記載との対応関係を明らかにするために付加されたものであり,[特許請求の範囲]に記載されている発明の技術的範囲の解釈に用いてはならない。
【0012】
本発明に係る非水電解質二次電池は,負極電極(2)と,空孔を有する多孔性のセパレータ(3)を介して,少なくとも一部において負極電極(2)と対向する正極電極(1)とを具備する。正極電極(1)は,負極電極(2)と対向する対向領域(1−3)と,負極電極(2)と対向しない非対向領域(1−4)とを有する。セパレータ(3)における非対向領域に対応する領域の全域には,空孔が閉塞された空孔閉塞部(32)が形成されている。
この発明によれば,正極電極(1)と負極電極(2)との積層位置がずれることにより,非対向領域(1−4)が生じても,非対向領域(1−4)から一部分の負極電極が許容する電気容量に対して過剰の金属イオンが供給されてしまうことを防止できる。
さらに,非対向領域により負極電極(2)に金属(4)が析出したとしても,空孔閉塞部(32)により,析出した金属(4)が正極電極(1)側へ達してしまうことが防止される。従って,負極電極から析出する金属の成長又は負極電極から析出する金属と正極電極の接触を防止することができる。
【0013】
正極電極(1)は,少なくとも一部の正極集電体(1−1)上に正極活物質層(1−2)が形成された部分である。正極集電体(1−1)は,対向領域(1−3)から対向領域(1−1)の外部に向かって延びる正極タブ(11)を有している。このとき,非対向領域(1−4)は,正極タブ(11)における対向領域(1−3)との境界部分に形成され,対向領域(1−3)に確実に正極活物質層(1−2)を設けるためのマージンとして設けられた余剰領域(1−5)である。
正極タブ(11)にマージンとして正極活物質層(1−2)の形成された部分を設ければ,製造時において,確実に正極活物質層(1−2)を対向領域(1−3)に形成しやすくなる。この余剰領域(1−5)が負極電極(2)と非対向となったとしても,空孔閉塞部(32)により金属(4)の成長が遮断されるので問題ない。すなわち,電池の発熱を防止することができる。
【0014】
対向領域(1−3)は矩形状であることが好ましい。
【0015】
正極電極(1)及び負極電極(2)は,シート状であることが好ましい。
【0016】
空孔閉塞部(32)は,正極電極(1)の外周部の全周に対応する位置に設けられていることが好ましい。
この発明によれば,正極電極(1)と負極電極(2)との積層位置がずれることにより,非対向領域(1−4)が生じても,負極電極(2)に析出する金属(4)の成長を遮断することができる。
【0017】
セパレータ(3)は,正極電極(1)又は負極電極(2)の両面を被覆する袋状であることが好ましい。また,セパレータ(3)は,正極電極(1)又は負極電極(2)の主面側を被覆する第1シート(33)と,正極電極(1)又は負極電極(2)の裏面側を被覆する第2シート(34)とを備え,第1シート(33)と第2シート(34)とは,袋状となるように外周部同士が溶着されており,空孔閉塞部(32)は,第1シート(33)と第2シート(34)との溶着部分に設けられていることが好ましい。
【0018】
本発明に係る非水電解質二次電池の製造方法は,正極集電体上(1−1)に,正極活物質層(1−2)を形成する工程と,当該工程の後に,正極活物質層(1−2)と正極集電体(1−1)と正極タブ(11)とを含む形状に切断して,正極電極(1)を作製する工程と,負極電極(2)を作製する工程と,多孔性のセパレータ(3)の一部に,空孔が閉塞された空孔閉塞部(32)を形成する工程と,セパレータ(3)を介して正極電極(1)と負極電極(2)とが対向するように積層する工程とを具備する。正極電極(5)を作成製する工程は,第1辺(41)が正極電極予定部(12)の端部よりも内側に位置し,正極電極予定部(12)の端部である第2辺(42)が正極タブ(11)を横切るように,切断する工程を含む。積層する工程は,正極タブ(11)において第1辺(41)と第2辺(42)の間に形成される余剰領域(1−5)が空孔閉塞部(32)と対向するように,正極電極(2)をセパレータ(3)と対向させる工程を含む。
この発明によれば,正極電極(1)を切断し製造することができるので,効率よく生産できる。また,正極タブ予定領域(13)を第2辺(42)が横切るように正極集電体(1−1)を切断することにより,切断位置などがずれたとしても,確実に対向予定領域に正極活物質層(1−2)を形成することができる。ここで,確実に対向予定領域に正極活物質層(1−2)が形成される一方,余剰領域(1−5)が負極電極(2)と非対向となるので,金属(4)が析出し易くなる。しかし,余剰領域(1−5)が空孔閉塞部(32)と対向していることにより,負極電極(2)に析出した金属を空孔閉塞部(32)により遮断することができ,正極電極(1)と負極電極(2)の内部短絡が防止される。
【0019】
上記の非水電解質二次電池の製造方法において,対向領域(1−3)は矩形状であることが好ましい。
【0020】
空孔閉塞部(32)を形成する工程は,空孔閉塞部(32)を,正極(1)の外周部の全周に対向する予定の位置に形成する工程を含むことが好ましい。
【0021】
また,空孔閉塞部(32)を形成する工程は,正極電極(1)又は負極電極(2)の両面に,セパレータ(3)を,外周部がはみ出すように配置する工程と,セパレータ(3)の外周部を,全域にわたって空孔が閉塞されるように溶着する工程とを含み,積層する工程は,両面にセパレータ(3)が配置された正極電極(1)又は負極電極(2)を,負極電極(2)又は正極電極(1)と積層する工程を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば,正極電極と負極電極との積層位置がずれることにより,非対向領域が生じても,負極電極から析出する金属の成長又は負極電極から析出する金属と正極電極の接触を防止することのできる,非水電解質二次電池,及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1A】非対向領域における金属の析出を説明するための説明図である。
【図1B】非対向領域における金属の析出を説明するための説明図である。
【図1C】非対向領域における金属の析出を説明するための説明図である。
【図2A】非対向領域における金属の析出を説明するための説明図である。
【図2B】非対向領域における金属の析出を説明するための説明図である。
【図2C】非対向領域における金属の析出を説明するための説明図である。
【図3A】電極積層体を示す斜視図である。
【図3B】電極積層体を示す斜視図である。
【図3C】電極積層体を示す斜視図である。
【図3D】電極積層体を示す斜視図である。
【図4A】正極電極と負極電極との位置関係を示す平面図である。
【図4B】正極電極と負極電極との位置関係を示す平面図である。
【図4C】正極電極と負極電極との位置関係を示す平面図である。
【図4D】正極電極と負極電極との位置関係を示す平面図である。
【図4E】正極電極と負極電極との位置関係を示す平面図である。
【図5A】正極電極の製造方法を説明するための説明図である。
【図5B】正極電極の製造方法を説明するための説明図である。
【図5C】正極電極の製造方法を説明するための説明図である。
【図6A】セパレータと正極電極との位置関係を示す平面図である。
【図6B】セパレータと正極電極との位置関係を示す平面図である。
【図6C】セパレータと正極電極との位置関係を示す平面図である。
【図7】図6AのAA’に沿った断面図である。
【図8A】セパレータの張り合わせ部分を説明するための説明図である。
【図8B】セパレータの張り合わせ部分を説明するための説明図である。
【図9A】セパレータの張り合わせ部分を説明するための説明図である。
【図9B】セパレータの張り合わせ部分を説明するための説明図である。
【図9C】セパレータの張り合わせ部分を説明するための説明図である。
【図10】金属が遮断される様子を説明するための説明図である。
【図11】本発明の実施形態にかかる非水電解質二次電池を充電したときの充電時間と温度との関係を示すグラフである。
【図12】比較用の非水電解質二次電池を充電したときの充電時間と温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に,図面を参照しつつ本発明の実施形態を説明する。本実施形態に係る非水電解質二次電池は,非水電解質(図示略)と接している電極積層体を備えている。図3A〜図3Dは,その電極積層体の構造の一例を概略的に示す斜視図である。その電極積層体は,複数の正極電極1と,複数の負極電極2とが交互に積層された構造体である。負極電極2と正極電極1とはセパレータ3を介して対向している。複数の正極電極1の各々には正極タブ11が設けられている。複数の負極電極2の各々には,負極タブ21が設けられている。正極タブ11及び負極タブ21は,電極積層体の電力を外部に取り出すために設けられている。この電極積層体は,セパレータ3を介して正極電極1と負極電極2とを,交互に重ねて積層することにより得られる。
【0025】
図4A〜図4Eは,正極電極1と負極電極2との位置関係を示すための平面図である。尚,説明の便宜上,図4A〜図4Eにおけるセパレータ3の図示は省略されている。
【0026】
正極電極1は,正極集電体1−1と,少なくとも一部の正極集電体上に形成された正極活物質層1−2とを備えている。正極集電体1−1の少なくとも一部において正極活物質層1−2の設けられたものを,以下,正極電極1と定義する。正極集電体1−1としては,例えばアルミニウム,クロム,モリブデン,ニッケル,鉄,チタン又はステンレス鋼などのこれらを含む合金が用いられる。また,正極活物質層1−2としては,例えば,LiCoNi1−x(0≦x≦1),LiNiO,LiMnNiCo1−x−y,LiCoNiAl1−x−y,LiFePO,LiVPOF,LiMnPO,LiCoPO,LiTiPO,LiAlO,LiMnO,LiMn,MnO,LiCoO,V,V13,Li,Cr,Cr,LiFeO,FeF,FeVOなどの金属酸化物,TiS,MoSなどの金属硫化物,有機硫黄系化合物,ポリアニリン,ポリピロール又はこれらが含まれる物質などが用いられる。
負極電極2は,負極集電体と2−1と,少なくとも一部の負極集電体上に形成された負極活物質層2−2とを備えている。負極集電体2−1の少なくとも一部において負極活物質層2−2の設けられたものを,以下,負極電極2と定義する。負極集電体2−1としては,例えば,銅や銅を含む合金が用いられる。負極活物質2−2としては,例えば,黒鉛系材料,易黒鉛化性炭素,難黒鉛化性炭素,CNTなどの炭素質材料,Nb2O5,LiTi,スズ複合酸化物,SiOなどの酸化物,TiSi,Sn,Si,Li,Cu,Ni,La,Ce,Pr,Nb,Co又はこれらを含む合金などが用いられる。
【0027】
正極電極1は,負極電極2と対向している領域を有する。以下では,正極電極1上において,負極電極2と対向している領域を,対向領域1−3と記載する。
【0028】
正極集電体1−1は,正極電極1のある辺(第1辺41)から,対向領域1−3の外側へ向かって延びる正極タブ11を形成している。正極タブ11は,正極活物質層1−2が形成されていない部分を有する。但し,正極タブ11には製造上の都合により,正極活物質層1−2が形成されている。正極タブ11において正極活物質層1−2の形成された部分を,以下,余剰領域1−5と記載する。
【0029】
正極電極1と同様に,負極電極2においても,負極集電体2−1から負極タブ21が対向領域1−2の外側へ向かって延びている。但し,負極タブ21は,正極タブ11と負極タブ21とが重ならないように配置されている。従って,正極タブ11は負極電極2と対向していない領域を有する。その結果,余剰領域1−5では,負極電極2と非対向である領域を有することにより,既述したように充電時における負極電極2から析出する金属4の成長又は負極電極2から析出する金属4と正極電極1の接触が懸念される。
【0030】
ここで,余剰領域1−5が形成される理由について説明するため,図5A〜図5Cを参照しつつ正極電極1の製造過程を説明する。
正極電極1を作製するにあたって,まず,正極集電体1−1を用意する。そして,この正極集電体1−1の両面に正極活物質層1−2を形成する。図5A〜図5C中,正極活物質層1−2の設けられた部分が,正極電極予定部12と記載されている。また,正極集電体1−1上において正極活物質層1−2を設けられていない部分が,タブ予定部13と記載される。さらに,正極電極予定部12とタブ予定部13との境界が,第2辺42と記載する。
正極電極予定部12の形成後,正極タブ予定部13と正極電極予定部12を含む領域を切断し,正極電極1が得られる。ここで,正極タブ11には正極活物質層1−2が形成されている必要はない。逆に,対向領域1−3では確実に正極活物質層1−2が設けられている必要がある。従って,切断する際には,正極電極1の第1辺41が,第2辺42に重なるように切断することが理想的である。しかしながら,正極活物質層1−2を正極集電体1−1の両面の全く同じ位置に形成することは難しく,切断位置を精度良く制御することも難しい。そのため,これらの位置ずれ量を考慮して,第1辺41が,若干(例示;0〜5mm),正極電極予定部12の端部よりも正極活物質層1−2が設けられている側に位置するように,切断する。すなわち,第2辺42が正極タブ11を横切るように切断する。これにより,形成された正極電極1では,正極タブ11の一部にまで正極活物質層1−2が設けられていることになる。この正極タブ11において正極活物質層1−2の形成されている領域が,余剰領域1−5となる。すなわち,余剰領域1−5は,対向領域1−3に確実に正極活物質層を設けるためのマージンとして形成された領域である。
【0031】
尚,負極電極2も,正極電極1と同様に,負極集電体2−1上に負極活物質層2−2が形成された後,所定領域が切断されることによって製造される。
【0032】
続いて,正極電極1又は負極電極2を被覆するセパレータ3について説明する。
【0033】
セパレータ3は,正極電極1又は負極電極2を覆うような構造であり,正極電極1と負極電極2の接触を防ぐために設けられている。但し,非水電解質中の金属イオンはセパレータ3を透過できなければならない。従って,セパレータ3としては,微細な空孔を有する多孔性のものが用いられる。また,セパレータ3としては,熱溶融性を有するものが用いられる。このようなセパレータ3の材質としては,例えば,ポリプロピレン,ポリエチレンなどの有機樹脂又はこれらの混合物や,前記有機樹脂や前記有機樹枝の混合物中にセラミックスなどの無機化合物を混合したものなどを用いることができる。
【0034】
図6A〜図6Cはセパレータ3の構造を説明するための平面図であり,図7は図6AのAA’に沿った断面図である。セパレータ3は,正極電極1又は負極電極2の片面側を覆う第1シート33と,正極電極1又は負極電極2の裏面側を覆う第2シート34とを備えている。第1シート33及び第2シート34は,その外周部の全周が負極電極2からはみ出している。負極電極2からはみ出した部分では,負極タブ21と重なっている領域を除いて,第1シート33と第2シート34は溶着されている。第1シート33と第2シート34との溶着部分は,全域にわたり,空孔の潰された空孔閉塞部32となっている。一方,負極電極2と対向している部分は,空孔がそのまま残った空孔部となっている。
【0035】
空孔閉塞部32は,二枚のシート(33,34)を貼り合わせる際に形成される。具体的には,まず,正極電極1又は負極電極2の主面及び裏面側に,多孔性の第1シート33及び第2シート34を配置する。そして,第1シート33及び第2シート34の外周部同士に熱を加える。これにより,第1シート33と第2シート34とが熱溶融して,空孔が閉塞され,空孔閉塞部32が形成される。
ここで,二枚のシートを熱溶融により接着する場合,通常であれば,シワ発生を防止する目的などから,二枚のシートの接着部分が間欠的に位置するように,熱が加えられる。例えば,図8A〜図8Bに示されるように,接合部分が網目状となるように,二枚のシートが貼りあわされる。これにより,部分的に非接着部分が形成され,接着によるシワ発生が防止できる。
これに対して,本実施形態では,図9Aに示されるように,二枚のシートが,接着部がセパレータ外周部の全域となるように,熱溶着される。すなわち,非接着部分は存在していない。これは,外周部の全域を接着して空孔を閉塞することで,負極電極2に析出した金属がセパレータ3を突き抜けることを防止するためである。尚,空孔閉塞部32は,図9B〜図9Cに示されるように,少なくとも余剰領域1−5に対向する部分に設けられていてもよい。
【0036】
図6A及び図7に戻り,セパレータ3と正極電極1との位置関係について説明する。セパレータ3は,正極電極1と所定の位置で対向している。ここで,正極電極1とセパレータ3とは,余剰領域1−5が空孔閉塞部32に重なるように,対向している。
【0037】
続いて,図10を参照して,本実施形態の作用について説明する。上述した構成の非水電解質二次電池を充電する時,負極電極2と対向していない余剰領域1−5から,過剰の金属イオンが供給され,負極電極2の端部にリチウムが析出したとする。しかし,余剰領域1−5に対応する位置には空孔閉塞部32が設けられているので,析出した金属4がセパレータ3を貫通してしまうことがない。空孔閉塞部32によって金属4を遮断することができ,負極電極から析出する金属の成長又は負極電極から析出する金属と正極電極の接触を防止することができる。
【0038】
尚,本実施形態においては,空孔閉塞部32がセパレータ3の外周部の全周に形成されている場合について説明したが,必ずしも外周部の全周に設けられている必要はなく,正極電極1の余剰領域1−5に対向する位置に設けられていればよい。但し,本実施形態のようにセパレータ3の外周部の全周に空孔閉塞部32を設ければ,正極電極15と負極電極2とを積層する際の位置ずれなどにより,余剰領域1−5以外の部分で正極電極1が負極電極2からはみ出したとしても,金属4がセパレータ3を貫通してしまうことを防止できる。
【0039】
また,本実施形態においては,正極電極1と負極電極2とが概ね矩形状である場合について説明した。但し,正極電極1と負極電極2との形状は矩形状に限定されず,その他の形状であってもよい。
【0040】
また,本実施形態では,複数のシート状の正極と複数のシート状の負極とが交互に積層された積層型の非水電解質二次電池について説明した。しかし,本発明を,シート状の正極と負極とを重ねて捲回した捲回型の非水電解質二次電池や,シート状の正極と負極とを積層して更に折りたたんだ折り畳み型の非水電解質二次電池に対して適用しても,既述した作用を奏することができる。
【0041】
続いて,本実施形態の作用をより具体的に説明するため,本発明者らによって実施された実験結果について説明する。図11は,本実施形態で説明したリチウムイオン電池に関する,充電時間と電池温度との関係を示している。一方,図12は,比較用に作成した非水電解質二次電池に関する,充電時間と電池温度の関係を示している。比較用の非水電解質二次電池としては,図8A〜図8Bに示したようにセパレータ3の外周部が間欠的に熱溶着されたものを用いた。その他の点については,本実施形態の非水電解質二次電池と同様である。
【0042】
図12に示されるように,比較用の非水電解質二次電池では,充電開始すると電池温度が急激に上昇している。これは,負極電極2から析出する金属4の発生,負極電極2から析出する金属4の成長及び負極電極2から析出する金属4と正極電極1の接触が生じたからであると考えられる。実際に,実験終了後に比較用の非水電解質二次電池を分解し,セパレータ3と負極電極2の様子を観察したところ,正極電極1の余剰領域1−5に対応する位置において金属4がセパレータ3を貫通していることが確認された。
これに対して,図11に示される,本実施形態の非水電解質二次電池を用いた実験では,充電を開始しても電池温度の急激な上昇は見られず,比較用の非水電解質二次電池と比較して温度上昇が抑制された。更に,比較用の非水電解質二次電池と同様に,実験終了後に電池を分解してセパレータ3と負極電極2の様子を観察したところ,余剰領域1−5に対応する位置でも金属4はセパレータを貫通しておらず,空孔閉塞部32を設けたことによる効果が確認された。
【符号の説明】
【0043】
1 正極電極
1−1 正極集電体
1−2 正極活物質層
1−3 対向領域
1−4 非対向領域
1−5 余剰領域
2 負極電極
2−1 負極集電体
2−2 負極活物質層
3 セパレータ
4 金属
11 正極タブ
12 正極電極予定部
13 タブ予定部
21 負極タブ
31 空孔部
32 空孔閉塞部
33 第1シート
34 第2シート
41 第1辺
42 第2辺
51 正極電極末端及び外周部の全周
101 正極電極
102 負極電極
103 セパレータ
104 金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部の正極集電体上に正極活物質層が設けられた正極電極と少なくとも一部の負極集電体上に負極活物質層が設けられた負極電極とが交互に積層された非水電解質二次電池において,
前記正極電極は少なくとも一部において前記負極電極と,空孔を有する多孔性のセパレータを介して対向しており,
前記正極集電体上の前記正極活物質層は,前記セパレータを介して前記負極集電体上の前記負極活物質層と対向する対向領域と,前記負極活物質層と対向しない非対向領域とを有し,
前記セパレータにおける前記非対向領域に対応する領域の全域は,前記空孔が閉塞された空孔閉塞部が形成されている
非水電解質二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載された非水電解質二次電池であって,
前記正極集電体は,前記対向領域の外部へ向かって延びる正極タブを有しており,
前記正極タブの少なくとも一部が前記対向領域である,
非水電解質二次電池。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された非水電解質二次電池であって,
前記負極電極は矩形状であり,前記対向領域は矩形状である,
非水電解質二次電池。
【請求項4】
請求項1又は請求項2又は請求項3に記載された非水電解質二次電池であって,
前記正極集電体及び前記負極集電体は,シート状である
非水電解質二次電池。
【請求項5】
請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4に記載された非水電解質二次電池であって,
前記空孔閉塞部は,前記正極電極の外周部と対向している前記セパレータの全周に対応する位置に設けられている
非水電解質二次電池。
【請求項6】
請求項1又は請求項2又は請求項3又は請求項4又は請求項5に記載された非水電解質二次電池であって,
前記セパレータは,前記正極電極又は前記負極電極の両面を被覆する袋状である
非水電解質二次電池。
【請求項7】
請求項6に記載された非水電解質二次電池であって,
前記セパレータは,前記正極電極の主面側を被覆する第1シートと,前記正極電極の裏面側を被覆する第2シートとを備え,
前記第1シートと前記第2シートとは,袋状となるように外周部同士が溶着されており,
前記空孔閉塞部は,前記第1シートと前記第2シートとの溶着部分に設けられている
非水電解質二次電池。
【請求項8】
請求項6に記載された非水電解質二次電池であって,
前記セパレータは,前記負極電極の主面側を被覆する第1シートと,前記負極電極の裏面側を被覆する第2シートとを備え,
前記第1シートと前記第2シートとは,袋状となるように外周部同士が溶着されており,
前記空孔閉塞部は,前記第1シートと前記第2シートとの溶着部分に設けられている
非水電解質二次電池。
【請求項9】
正極集電体上に,正極活物質層を形成する工程と,
当該工程の後に,前記正極活物質層と前記正極集電体と正極タブとを含む形状に切断して正極電極を作製する工程と,
負極集電体上に,負極活物質層を形成する工程と,
当該工程の後に,前記負極活物質層と前記負極集電体と負極タブをと含む形状に切断して負極電極を作製する工程と,
多孔性のセパレータの一部に,空孔が閉塞された空孔閉塞部を形成する工程と,
前記正極電極と前記負極電極とがセパレータを介して対向するように交互に積層する工程とを具備し,
前記積層する工程は,前記正極活物質層の端部を含む周縁部が前記空孔閉塞部と対向するように,前記正極電極を前記セパレータと対向させる工程を含む
非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載された非水電解質二次電池の製造方法であって,
前記負極は矩形状であり,前記対向領域は矩形状である
非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は請求項10に記載された非水電解質二次電池の製造方法であって,
前記空孔閉塞部を形成する工程は,前記空孔閉塞部を,前記正極電極の外周部の全周に対向する予定の位置に形成する工程を含む
非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項12】
請求項11に記載された非水電解質二次電池の製造方法であって,
前記空孔閉塞部を形成する工程は,
前記正極電極の両面に,前記セパレータを,外周部がはみ出すように配置する工程と,
前記セパレータの外周部を,外周部の全域にわたって空孔が閉塞されるように溶着する工程とを含み,
前記積層する工程は,両面に前記セパレータが配置された前記正極電極を,前記負極電極と積層する工程を含む
非水電解質二次電池の製造方法。
【請求項13】
請求項11に記載された非水電解質二次電池の製造方法であって,
前記空孔閉塞部を形成する工程は,
前記負極電極の両面に,前記セパレータを,外周部がはみ出すように配置する工程と,
前記セパレータの外周部を,外周部の全域にわたって空孔が閉塞されるように溶着する工程とを含み,
前記積層する工程は,両面に前記セパレータが配置された前記負極電極を,前記正極電極と積層する工程を含む
非水電解質二次電池の製造方法。

【図1A】
image rotate

【図1B】
image rotate

【図1C】
image rotate

【図2A】
image rotate

【図2B】
image rotate

【図2C】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図3C】
image rotate

【図3D】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図4C】
image rotate

【図4D】
image rotate

【図4E】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図5C】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図6C】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8A】
image rotate

【図8B】
image rotate

【図9A】
image rotate

【図9B】
image rotate

【図9C】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2012−204335(P2012−204335A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−71155(P2011−71155)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【Fターム(参考)】