説明

非水電解質二次電池用正極及びその製造方法、並びに、当該正極を用いた非水電解質二次電池及びその製造方法

【課題】 正極集電体と正極活物質層との密着性を低下させることなく、正極活物質層の柔軟性を向上させ、これによって、信頼性及び生産性を高めることができる非水電解質二次電池用正極及びその製造方法、並びに、当該正極を用いた非水電解質二次電池及びその製造方法を提供することを目的としている。
【解決手段】 正極活物質としてのLiCoOと、結着剤としてのPVDFと、導電剤としてのアセチレンブラックと、LiCFSOとを含む正極活物質層が、正極集電体の表面に形成されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非水電解質二次電池の改良に関し、特に、正極の柔軟性を向上させ、高容量を特徴とする電池構成においても高い信頼性、生産性を引き出すことができる電池構造及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源としての電池にはさらなる高容量化が要求されている。この要求に応える二次電池として、リチウムイオンを吸蔵・放出し得る合金、若しくは炭素材料等を負極活物質とし、リチウム遷移金属複合酸化物を正極活物質とする非水電解質二次電池が、高エネルギー密度を有する電池として注目されている。
【0003】
ここで、従来の非水電解質二次電池の高容量化は、容量に関与しない電池缶、セパレータ、集電体(アルミ箔や銅箔)等の部材の薄型化や、活物質の高充填化(電極充填密度の向上)により図られていた。しかしながら、電極充填密度を向上させると、電極の柔軟性が低下してしまい、わずかな応力が加わっても電極に割れが生じたりして、電池の生産性が低下してしまう。また、容量に関与しないセパレータや集電体を削減して、容量及びコストメリットを引き出すためには、電極を厚く塗布する必要がある。しかしながら、電極を厚く塗布し圧延すると、極板は非常に硬くて柔軟性に乏しいため、捲回時に正極が破断する等の問題が生じる。このため、電池の生産性が大きく低下する。
【0004】
上記の問題を解決するため、平均粒子径の異なる2種類の正極活物質を用いることが提案されている(下記特許文献1及び特許文献2参照)。しかしながら、粒子径の異なる正極活物質が含まれると、反応性が異なるため、充放電反応が均一に起こらず、サイクル特性等の低下が生じるおそれがある。
【0005】
また、本発明においては、後述するように、特定のリチウム塩を正極の活物質層に含有させているが、このようなリチウム塩を電解液に添加することにより、保存特性またはサイクル特性が向上することが開示されている(下記特許文献3参照)。しかしながら、この先行技術には、正極の活物質層にリチウム塩を添加することについては何ら開示されておらず、またこれによって正極の柔軟性が向上することについても何ら開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−185887号公報
【特許文献2】特開2008−235157号公報
【特許文献3】特開平5−62690号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、正極集電体と正極活物質層との密着性を低下させることなく、正極活物質層の柔軟性を向上させ、これによって、信頼性及び生産性を高めることができる非水電解質二次電池用正極及びその製造方法、並びに、当該正極を用いた非水電解質二次電池及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために、正極活物質と、結着剤と、下記一般式(1)に示す化合物とを含む正極活物質層が、正極集電体の表面に形成されていることを特徴とする。
【0009】
【化1】

【0010】
上記構成の如く、アニオンにCFSOが用いられた電解質が正極活物質層に添加されていると、正極が柔軟性に富むことになる。したがって、捲回時に正極が破断する等の問題を抑制でき、正極を用いた非水電解質二次電池の信頼性及び生産性を高めることができる。ここで、この理由について定かではないが、以下に示す理由によるものと考えられる。上記アニオンは、電子吸引基であるCFを有しており、マイナスの電荷が局在化し難い。したがって、上記カチオンの解離度が高くなって、正極スラリー中で電解質とPVDFとが相互作用し、上記一般式(1)に示す化合物が結着剤粒子の成長を抑制する。このため、乾燥工程においてPVDFが微細に析出し、正極内の空隙が多くなる結果、極板の柔軟性が増すものと考えられる。このような理由であるので、正極の柔軟性を向上させるという目的を達成するには、カチオンの種類は問わない。
【0011】
尚、上記電解質は結着剤の粒子成長を抑制し過ぎることがないので、正極活物質層と正極集電体との密着性が低下するのを抑制できる。
【0012】
上記一般式(1)のM(カチオン)は、1A族元素、2A族元素、4A族元素、3B族元素、希土類元素から成る群から選択される少なくとも1種の金属元素であることが望ましい。
ここで、1A族元素としてはLi、Na、Kが例示され、2A族元素としてはMg、Ca、Srが例示され、4A族元素としてはTi、Zr、Hfが例示され、3B族元素としてはAl、Ga、Inが例示され、希土類元素としてはSc、Y、Laが例示される。これらのカチオンは安定な価数を取るため、電池内での副反応の発生を抑止できるからである。
【0013】
上記一般式(1)のMは、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、及びランタンから成る群から選択される少なくとも1種の金属元素であることが望ましい。
これらカチオンと、アニオンにCFSOが用いられた電解質は、安価で入手容易だからである。
【0014】
前記一般式(1)のMはリチウムであることが望ましい。
Mがリチウムであれば、電解質が電解液に溶解した後に充放電反応に寄与できるからである。
【0015】
上記結着剤がフッ化ビニリデン単位を有するフッ素樹脂であることが望ましい。
フッ化ビニリデン単位を有するフッ素樹脂は、結着性に優れるものの、結晶性の高いポリマーであるため、結着剤として用いた場合に柔軟性に欠ける。しかし、一般式(1)で示す化合物が含まれていれば、フッ化ビニリデン単位を有するフッ素樹脂の粒子成長が抑制されるので、正極が柔軟になる。尚、フッ化ビニリデン単位を有するフッ素樹脂としては、PVDFやPVDFの変性体等が例示できる。
【0016】
上記正極活物質に対する上記一般式(1)で示す化合物の割合が、0.01質量%以上5.0質量%以下であることが望ましく、特に、0.02質量%以上2.0質量%以下であることが望ましい。
一般式(1)で示す化合物の割合が少なすぎると、当該化合物の添加効果が十分に発揮されず、正極が柔軟になるという効果が得られなくなることがある。このため、当該化合物の割合は、0.01質量%以上であることが好ましく、より好ましくは0.02質量%以上である。
一方、当該化合物の割合が5.0質量%を超えると、正極が柔軟になるという効果は十分に発揮されるものの、正極活物質の割合を減らさざるを得ないことから、電池の高容量化を図ることが困難になる。また、本願において、当該化合物の割合は、より好ましくは2.0質量%以下であるが、これは、当該化合物の割合を2.0質量%よりも多くすると結着剤の粒子成長が抑制され過ぎるおそれがあり、よって、正極活物質層と正極集電体との密着性が低下するおそれがあるためである。
このようなことを考慮すると、正極活物質に対する当該化合物の割合は、0.02質量%以上2.0質量%以下であることが特に望ましい。
【0017】
また、本発明は上記目的を達成するために、上述した正極と、負極と、非水電解質とを備えることを特徴とする。
このような構成の非水電解質二次電池は、上述した作用効果を発揮できる他、放電負荷特性を向上させることができる。これは、電解液を注液する前の段階では、一般式(1)に示す化合物は正極活物質層内に存在するが、電解液の注液後は、当該化合物は電解液に溶解する。このように、当該化合物が電解液に溶解した場合、当該化合物が存在していた部位は空隙となり、当該空隙に電解液が侵入する。この結果、正極内における電解液量が多くなって、正極における反応均一性が向上するからである。
【0018】
正極活物質と、結着剤と、下記一般式(1)に示す化合物とを含む混合物を溶剤中で混練して正極活物質スラリーを調製するステップと、
【0019】
【化2】

【0020】
上記正極活物質スラリーを正極集電体の表面に塗布して、正極集電体の表面に正極活物質層を形成するステップと、
を有することを特徴とする。
【0021】
このような方法により、上述した正極を製造することができる。
尚、正極活物質スラリーを調製する際の溶剤としては、一般的に用いられているN−メチル−2−ピロリドン(NMP)が好ましい。また、上記一般式(1)に示す化合物は吸湿性が高いことから、水分管理された環境で使用することが好ましい。
【0022】
上記一般式(1)のMは、1A族元素、2A族元素、4A族元素、3B族元素、希土類元素から成る群から選択される少なくとも1種の金属元素であることが望ましく、特に、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、及びランタンから成る群から選択される少なくとも1種の金属元素であることが望ましく、それらの中でも、リチウムであることが望ましい。
ここで、リチウムが特に好ましいのは、以下に示す理由による。Mがリチウムの場合、上記一般式(1)に示す化合物はLiCFSOとなり、このLiCFSOは電解液の注液後に電解液に溶解する。したがって、LiCFSOが電解液の溶質として働くので、予め電解液に含まれているリチウム塩と共に充放電反応に寄与することができる。この結果、電池特性を向上させることができる。
【0023】
上記結着剤がフッ化ビニリデン単位を有するフッ素樹脂であることが望ましい。
また、正極活物質スラリーを調製するステップにおいて、上記正極活物質に対する上記一般式(1)に示す化合物の割合が0.01質量%以上5.0質量%以下であることが望ましく、特に、0.02質量%以上2.0質量%以下であることが望ましい。
【0024】
上述の方法で製造された正極と、負極と、これら正負極間に配置されるセパレータとを用いて電極体を作製するステップと、上記電極体と非水電解質とを外装体内に収納するステップと、を有することを特徴とする。
このような方法により、上述した電池を製造することができる。
【0025】
(その他の事項)
(1)本発明に用いる正極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出でき、その電位が貴な材料であれば特に制限なく用いることができる。例えば、層状構造、スピネル型構造、オリビン型構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物を使用することができる。中でも、高エネルギー密度の観点から、層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。このようなリチウム遷移金属複合酸化物としては、リチウム−ニッケルの複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルトの複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト−アルミニウムの複合酸化物、リチウム−ニッケル−コバルト−マンガンの複合酸化物、リチウム−コバルトの複合酸化物等が挙げられる。
【0026】
特に、結晶構造の安定性の観点からは、Al或いはMgが結晶内部に固溶されており、且つZrが粒子表面に固着されたコバルト酸リチウムが好ましい。
また、高価なコバルトの使用量を低減する観点からは、正極活物質中に含まれる遷移金属に占めるニッケルの割合が50モル%以上であるリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。特に、結晶構造の安定性の観点から、リチウムとニッケルとコバルトとアルミニウムを含有したリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
【0027】
(2)本発明に用いる負極活物質としては、リチウムを吸蔵、放出可能な材料であれば特に限定なく使用することができる。負極活物質としては、黒鉛及びコークス等の炭素材料、酸化錫等の金属酸化物、ケイ素及び錫等のリチウムと合金化してリチウムを吸蔵することができる金属、金属リチウム等が挙げられる。中でも黒鉛系の炭素材料は、リチウムの吸蔵、放出に伴う体積変化が少なく、可逆性に優れることから好ましい。
【0028】
(3)本発明に用いる溶媒としては、非水電解質二次電池に従来から用いられてきた溶媒を使用することができる。これらの中でも、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒が特に好ましく用いられる。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合比(環状カーボネート:鎖状カーボネート)を、1:9〜5:5の範囲内とすることが好ましい。上記環状カーボネートとしては、エチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート等が挙げられる。また、上記鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等が挙げられる。
【0029】
一方、本発明に用いる溶質としては、LiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(SOCF、LiN(SO、LiC(SOCF、LiC(SO3、LiClO等及びそれらの混合物が例示される。
また、電解質として、ポリエチレンオキシドやポリアクリロニトリル等のポリマーに、電解液を含浸したゲル状ポリマー電解質を用いてもよい。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、正極集電体と正極活物質層との密着性を低下させることなく、正極活物質層の柔軟性を向上させ、これによって、正極活物質層が厚くて高容量を特徴とする電池構成においても、信頼性と生産性とを格段に向上させることができるといった優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】正極を押圧した際の荷重と変位との関係を示すグラフ。
【図2】正極の柔軟性を評価する試験を説明するための模式的断面図。
【図3】正極の柔軟性を評価する試験を説明するための模式的断面図。
【図4】本発明正極a1〜a3及び比較正極z1〜z4におけるリチウム塩の添加量と極板硬さとの関係を示すグラフ。
【図5】本発明正極a1〜a3及び比較正極z1〜z4におけるリチウム塩の添加量と密着性との関係を示すグラフ。
【図6】塗膜bをSEM観察したときの写真。
【図7】塗膜yをSEM観察したときの写真。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、この発明に係る非水電解質二次電池を、以下に説明する。尚、この発明における非水電解質二次電池は、下記の形態に示したものに限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0033】
(正極の作製)
先ず、正極活物質であるLiCoO(Al及びMgがそれぞれ1.0mol%固溶されており、且つZrが0.05mol%表面に付着されたもの)と、導電剤であるAB(アセチレンブラック)と、結着剤であるPVDF(ポリフッ化ビニリデン)とを、溶剤であるNMP(N−メチル−ピロリドン)と共に混錬した。その後、リチウム塩であるLiCFSOが溶解したNMP溶液を更に加えて攪拌し、正極活物質スラリーを調製した。尚、正極活物質スラリーにおいて、LiCoOと、ABと、PVDFと、LiCFSOとの質量比は、94:2.5:2.5:1である。したがって、正極活物質に対するLiCFSOの割合は1.1質量%となっている。次に、上記正極活物質スラリーをアルミニウム箔から成る正極集電体の両面に塗布し、更に、乾燥、圧延して正極を作製した。尚、正極の充填密度は3.8g/ccとした。
【0034】
(負極の作製)
負極活物質としての黒鉛と、結着剤としてのSBR(スチレンブタジエンゴム)と、増粘剤としてのCMC(カルボキシメチルセルロース)とを水溶液中において混練し、負極活物質スラリーを調製した。この際、上記黒鉛と、上記SBRと、上記CMCとの割合は、質量比で、98:1:1となるように規定した。次に、この上記負極活物質スラリーを、銅箔からなる負極集電体の両面に塗布し、これを乾燥させた後、圧延することにより負極を作製した。
【0035】
(非水電解液の調製)
エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)とを体積比で3:7となるように混合した溶媒に、LiPFを1.0モル/リットルの割合で加えて、非水電解液を調製した。
【0036】
(電池の組立)
先ず、上記正極及び上記負極にそれぞれリード端子を取り付けた後、セパレータを介して渦巻状に巻き取り、更にこれをプレスして扁平状に押し潰すことにより電極体を作製した。次に、この電極体を、電池外装体としてのアルミニウムラミネート内に挿入した後、上記非水電解液を注入して試験用の電池を作製した。尚、当該電池を4.4Vまで充電した場合の設計容量は750mAhである。
【実施例】
【0037】
(実施例1)
実施例1の正極及び電池は、上記発明を実施するための形態で説明した方法と同様の方法で作製した。
このようにして作製した正極及び電池を、以下それぞれ、本発明正極a1及び本発明電池A1と称する。
【0038】
(実施例2)
正極活物質スラリーを調製する際、LiCoOと、ABと、PVDFと、LiCFSOとの質量比を94.5:2.5:2.5:0.5とした(即ち、正極活物質に対するLiCFSOの割合を0.5質量%とした)こと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。
このようにして作製した正極及び電池を、以下それぞれ、本発明正極a2及び本発明電池A2と称する。
【0039】
(実施例3)
正極活物質スラリーを調製する際、LiCoOと、ABと、PVDFと、LiCFSOとの質量比を94.9:2.5:2.5:0.1とした(即ち、正極活物質に対するLiCFSOの割合を0.1質量%とした)こと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。
このようにして作製した正極及び電池を、以下それぞれ、本発明正極a3及び本発明電池A3と称する。
【0040】
(実施例4)
正極活物質スラリーを調製する際、LiCFSOの代わりにNaCFSOを用いたこと以外は、上記実施例3と同様にして正極及び電池を作製した。
このようにして作製した正極及び電池を、以下それぞれ、本発明正極a4及び本発明電池A4と称する。
【0041】
(実施例5)
正極活物質スラリーを調製する際、LiCFSOの代わりにMg(CFSOを用いたこと以外は、上記実施例3と同様にして正極及び電池を作製した。
このようにして作製した正極及び電池を、以下それぞれ、本発明正極a5及び本発明電池A5と称する。
【0042】
(実施例6)
正極活物質スラリーを調製する際、LiCFSOの代わりにLa(CFSOを用いたこと以外は、上記実施例3と同様にして正極及び電池を作製した。
このようにして作製した正極及び電池を、以下それぞれ、本発明正極a6及び本発明電池A6と称する。
【0043】
(比較例1)
正極活物質スラリーを調製する際、リチウム塩として、LiCFSOの代わりにLiN(SOCFを用いたこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。
このようにして作製した正極及び電池を、以下それぞれ、比較正極z1及び比較電池Z1と称する。
【0044】
(比較例2)
正極活物質スラリーを調製する際、リチウム塩として、LiCFSOの代わりにLiN(SOCFを用いたこと以外は、上記実施例2と同様にして正極及び電池を作製した。
このようにして作製した正極及び電池を、以下それぞれ、比較正極z2及び比較電池Z2と称する。
【0045】
(比較例3)
正極活物質スラリーを調製する際、リチウム塩として、LiCFSOの代わりにLiN(SOCFを用いたこと以外は、上記実施例3と同様にして正極及び電池を作製した。
このようにして作製した正極及び電池を、以下それぞれ、比較正極z3及び比較電池Z3と称する。
【0046】
(比較例4)
正極活物質スラリーを調製する際、リチウム塩としてのLiCFSOを加えなかったこと以外は、上記実施例1と同様にして正極及び電池を作製した。尚、LiCoOと、ABと、PVDFとの質量比は95:2.5:2.5とした。
このようにして作製した正極及び電池を、以下それぞれ、比較正極z4及び比較電池Z4と称する。
【0047】
(比較例5)
ECとDECとを体積比で3:7となるように混合した溶媒に、LiPFを1.0モル/リットルの割合で加えた他に、LiCFSOを0.15モル/リットルの割合で加えたこと以外は、上記比較例4と同様にして電池容量を作製した。尚、電池内におけるLiCFSOの総量は、上記本発明電池A1と同量となっている。
このようにして作製した正極及び電池を、以下それぞれ、比較正極z5及び比較電池Z5と称する。
【0048】
(実験1)
実験1では、上記本発明正極a1〜a6及び比較正極z1〜z4を用いて、極板の柔軟性と密着性を測定した。
[柔軟性の評価方法]
上記本発明正極a1〜a6及び比較正極z1〜z4における柔軟性について、以下のようにして測定した。
先ず、正極を幅50mm×長さ20mmのサイズに切り出し、図2に示すように、切り出した正極1の両端を幅30mmのアクリル板2の端部に、両面テープを用いて貼り付けた。
【0049】
次に、押圧試験機(日本電産シンポ株式会社製、「FGS−TV」及び「FGP−0.5」)を用い、押圧力3で正極1の中央部1aを押圧した。押圧する速度は20mm/分の一定速度とした。
【0050】
図3は、押圧力3により、正極1の中央部1aに折れ込みが生じた状態を示す模式的断面図である。このような折れ込みが生じる直前の荷重を、荷重の最大値とした。
図1は、正極に印加した荷重と変位量の関係を示す図である。図1に示すように、荷重の最大値を最大荷重として求めた。測定した正極における最大荷重を柔軟性として、表1及び図4に示す。尚、表1及び図4においては、比較正極z4の最大荷重を100とした場合の指数で示しており、この値が小さい程、柔軟性に富む。
【0051】
[密着性の評価方法]
上記本発明正極a1〜a6及び比較正極z1〜z4における密着性について、90度剥離試験法を用いて測定した。
具体的には、70mm×20mmサイズの両面テープ(ニチバン株式会社製「ナイスタック NW−20」)を用いて、120mm×30mmサイズのアクリル板に正極を貼付し、貼り付けられた正極の端部を小型卓上試験機(日本電産シンポ株式会社製、「FGS−TV」及び「FGP−5」)で引っ張り、剥離時の強度を測定した。尚、引っ張り方向は正極活物質層表面に対して90度の方向であり、引っ張り速度は一定速度(50mm/min)であり、引っ張り量は55mmである。測定した正極における剥離時の強度を密着性として、表1及び図5に示す。尚、表1及び図5においては、比較正極z4の剥離時の強度を100とした場合の指数で示している。
【0052】
(実験2)
実験2では、上記本発明電池A1〜A6及び比較電池Z1〜Z5を用いて、各電池の放電容量と3.0Itでの負荷率(放電負荷特性)について測定した。但し、比較電池Z1〜Z3については、3.0Itでの負荷率については測定していない。
[放電容量の評価方法]
上記本発明電池A1〜A6及び比較電池Z1〜Z5を、1.0It(750mA)の電流で電池電圧4.4Vまで定電流充電を行った後、4.4V定電圧で電流が1/20It(37.5mA)となるまで充電を行い、更に、1.0It(750mA)の電流で電池電圧2.75Vまで定電流放電を行った。そして、各電池の放電容量を測定したので、その結果を表1に示す。
【0053】
[放電負荷特性の評価]
上記本発明電池A1〜A6及び比較電池Z4、Z5を、1.0It(750mA)の電流で電池電圧4.4Vまで定電流充電を行った後、4.4V定電圧で電流が1/20C(37.5mA)となるまで充電を行った。次に1.0It(750mA)の電流で電池電圧2.75Vまで定電流放電を行うことで、1.0Itでの放電容量を測定した。
次に、上記と同条件で電池を充電した後、3.0It(2250mA)の電流で電池電圧2.75Vまで定電流放電を行うことで、3.0Itでの放電容量を測定した。そして、下記式を用いて、3.0Itでの負荷率(%)を算出したので、その結果を表1に示す。
3.0Itでの負荷率(%)=
(3.0Itでの放電容量/1.0Itでの放電容量)×100
【0054】
【表1】

【0055】
[柔軟性の評価結果]
リチウム塩としてのLiCFSOが添加された本発明正極a1〜a3は、リチウム塩が添加されていない比較正極z4に比べて、最大荷重(極板硬さ)が大幅に低下しており、正極の柔軟性が大幅に向上したことが認められる。リチウム塩としてのLiN(SOCFが添加された比較正極z1〜z3と比べた場合、リチウム塩の添加量が同一であれば(例えば、リチウム塩の添加量が共に1.1質量%の本発明正極a1と比較正極z1とを比較すれば)、正極の柔軟性は略同等となっていることが認められる。
【0056】
また、正極に添加する電解質として、LiCFSOの代わりに、各々、NaCFSO、Mg(CFSO、La(CFSOを用いた本発明正極a4〜a6でも、最大荷重(極板硬さ)が大幅に低下し、正極の柔軟性が大幅に向上したことが認められた。このような結果となったのは、以下に示す理由によるものと考えられる。
【0057】
上記本発明正極a1〜a6において、正極に添加する電解質のアニオンにはCFSOが用いられている。このアニオンは、電子吸引基であるCFを有しており、マイナスの電荷が局在化し難い。したがって、上記カチオンの解離度が高くなり、正極スラリー中で電解質とPVDFとが相互作用して、LiCFSOが結着剤粒子の成長を抑制するため、乾燥工程においてPVDFが微細に析出する。この結果、LiCFSO等の電解質を添加しない場合に比べて、正極内の空隙が多くなって、極板の柔軟性が増すものと考えられる。このことを調べるべく、以下に示すように作製した2種類の塗膜をSEM観察した。
【0058】
・塗膜bの作製方法
先ず、PVDFが溶解したNMP溶液と、LiCFSOが溶解したNMP溶液とを混ぜて攪拌した。この溶液中におけるPVDFとLiCFSOとの質量比は100:20とした。次に、上記攪拌した溶液をアルミニウム箔の表面に塗布することにより、塗膜bを作製した。この塗膜bをSEM観察したときの写真を図6に示す。
【0059】
・塗膜yの作製方法
LiCFSOを加えなかった(即ち、PVDFが溶解したNMP溶液をアルミニウム箔の表面に塗布した)こと以外は、上記塗膜bと同様にして塗膜yを作製した。この塗膜yをSEM観察したときの写真を図7に示す。
【0060】
図7から明らかなように、PVDFのみから成る塗膜yでは、PVDFが緻密な膜を形成している。これに対して、図6から明らかなように、PVDFにLiCFSOを加えた塗膜bでは、空隙の多い膜となっていることが認められる。このように、LiCFSOが存在することで、PVDFの析出状態が変化し(PVDFが微細に析出し)、この結果、極板が柔軟になったものと考えられる。
【0061】
[密着性の評価結果]
本発明正極a1〜a3は、比較正極z4に比べると密着性が低下している。しかし、比較正極z1〜z3と比べた場合、リチウム塩の添加量が同一であれば、正極の密着性は大幅に向上していることが認められる。また、正極に添加する電解質(金属塩)を本発明正極a1〜a3と異ならしめた正極a4〜a6(尚、添加量は本発明正極a3と同量)は、本発明正極a3と比較した場合、密着性が若干低下している程度であり、電解質の種類は異なるが添加量は同等の正極z3よりも正極の密着性は大幅に向上していることが認められる。
【0062】
[放電容量の評価結果]
表1から明らかなように、本発明電池A1〜A3及び比較電池Z1〜Z4における放電容量は略同等で、殆ど差異がないことがわかる。また、正極に添加する電解質を本発明電池A1〜A3とは異ならしめた本発明電池A4〜A6も、本発明電池A1〜A3等と略同等の放電容量となっていることが認められる。
【0063】
[放電負荷特性評価結果]
表1から明らかなように、電解質を添加した本発明電池A1〜A6は、電解質を添加していない比較電池Z4と比べて、負荷率が高くなる(放電負荷特性が向上する)ことが認められる。
また、本発明電池A1〜A3を比較した場合、正極に添加するLiCFSOの量が増加するにしたがって、放電負荷特性が向上することが認められる。このことから、単に、電池内におけるリチウム塩の量を増加させれば、放電負荷特性が向上するとも考えられる。しかしながら、以下に示す2つの理由により、電池内におけるリチウム塩の量の増加が放電負荷特性の向上に直結するものではないと考えられる。
【0064】
(1)本発明電池A1と比較電池Z5とを比較した場合、両電池A1、Z5における電池内におけるリチウム塩(LiCFSO)の総量は等しいにも拘らず、本発明電池A1は比較電池Z5に比べて、放電負荷特性が向上している。
(2)リチウム塩でない電解質を添加した本発明電池A4〜A6の電池でも、リチウム塩を添加した比較電池Z5より放電負荷特性が向上していることが認められる。
以上のことから、放電負荷特性の向上は、単純に電解液中のリチウム塩濃度の増加によるものではないことが分かる。
【0065】
そこで、本発明電池A1〜A6の放電負荷特性が向上するのは、以下に示す理由によるものと考えられる。本発明電池A1〜A6においては、電池作製後に、正極に含まれていた電解質が電解液の溶媒中に溶出して、正極内に空隙が設けられるため、正極内における電解液の拡散が容易になる。これに対して、比較電池Z5では、このような溶出は生じないため、正極内における電解液の拡散が不十分となるからである。
【0066】
[総合評価]
以上、柔軟性、密着性、放電容量、放電負荷特性の評価結果を総合して考察すると、アニオンにCFSOが用いられた電解質を正極活物質層に添加すると、極板が柔軟となって、電池の生産性を高めることができる。加えて、上記添加した電解質は電解液に溶出するので、正極に空隙が設けられ、電解液の拡散が起こり易くなって、負荷特性を向上させることができる。
尚、上記電解質を正極活物質層に添加すると、密着性は若干低下するものの、問題となるレベルまで低下するものではなく、しかも、放電容量は従来電池と同等である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、例えば携帯電話、ノートパソコン、PDA等の移動情報端末の駆動電源や、HEVや電動工具といった高出力向けの駆動電源に展開が期待できる。
【符号の説明】
【0068】
1…正極
1a…中央部
2…アクリル板
3…押圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質と、結着剤と、下記一般式(1)に示す化合物とを含む正極活物質層が、正極集電体の表面に形成されていることを特徴とする非水電解質二次電池用正極。
【化1】

【請求項2】
上記一般式(1)のMは、1A族元素、2A族元素、4A族元素、3B族元素、希土類元素から成る群から選択される少なくとも1種の金属元素である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
上記一般式(1)のMは、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、及びランタンから成る群から選択される少なくとも1種の金属元素である、請求項2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記一般式(1)のMはリチウムである、請求項3に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
上記結着剤がフッ化ビニリデン単位を有するフッ素樹脂である、請求項1〜4の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項6】
上記正極活物質に対する上記一般式(1)に示す化合物の割合が、0.01質量%以上5.0質量%以下である、請求項1〜5の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項7】
上記正極活物質に対する上記一般式(1)に示す化合物の割合が、0.02質量%以上2.0質量%以下である、請求項6に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の正極と、負極と、非水電解質とを備えることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項9】
正極活物質と、結着剤と、下記一般式(1)に示す化合物とを含む混合物を溶剤中で混練して正極活物質スラリーを調製するステップと、
【化2】

上記正極活物質スラリーを正極集電体の表面に塗布して、正極集電体の表面に正極活物質層を形成するステップと、
を有することを特徴とする非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項10】
上記一般式(1)のMは、1A族元素、2A族元素、4A族元素、3B族元素、希土類元素から成る群から選択される少なくとも1種の金属元素である、請求項9に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項11】
上記一般式(1)のMは、リチウム、ナトリウム、マグネシウム、及びランタンから成る群から選択される少なくとも1種の金属元素である、請求項10に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項12】
前記一般式(1)のMはリチウムである、請求項11に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項13】
上記結着剤がフッ化ビニリデン単位を有するフッ素樹脂である、請求項9〜12の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項14】
正極活物質スラリーを調製するステップにおいて、上記正極活物質に対する上記一般式(1)に示す化合物の割合が0.01質量%以上5.0質量%以下である、請求項9〜13の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項15】
上記正極活物質に対する上記一般式(1)に示す化合物の割合が、0.02質量%以上2.0質量%以下である、請求項14に記載の非水電解質二次電池用正極の製造方法。
【請求項16】
請求項9〜15のいずれか1項に記載の方法で製造された正極と、負極と、これら正負極間に配置されるセパレータとを用いて電極体を作製するステップと、
上記電極体と非水電解質とを外装体内に収納するステップと、
を有することを特徴とする非水電解質二次電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−204670(P2011−204670A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283362(P2010−283362)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】