説明

非水電解質二次電池用正極活物質および非水電解質二次電池

【課題】
過放電特性に優れ、高充放電容量の正極活物質および非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】
非水電解質二次電池用正極活物質は、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、非結晶質な部分を有し、(003)結晶性は、0Åより大きく1000Å以下である。
非水電解質二次電池は、少なくともスピネル構造および/または層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第一の活物質と、非結晶質な部分を有し、(003)結晶性が、0Åより大きく1000Å以下である、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第二の活物質と、正極集電体とを有する正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、またはリチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物からなる負極活物質と、負極集電体とを有する負極と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はリチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」ともいう。)および非水電解質二次電池に関する。詳しくは、過放電特性に優れ、高充放電容量のリチウム遷移金属複合酸化物を有する正極活物質および非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、従来のニッケルカドミウム二次電池などに比べて作動電圧が高く、かつエネルギー密度が高いという特徴を有しおり、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラ等のモバイル電子機器の電源等として広く利用されている。この非水電解質二次電池の正極活物質としてはLiCoO、LiNiO、LiMn等に代表されるリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられるが、中でも、モバイル電子機器にはLiCoOが従来用いられており、十分な電池特性が得られていた。
【0003】
ところで、リチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池においては、従来、過放電を防止するため、電池内部に保護回路が組み込まれているが、この保護回路をなくすことができれば、そのスペースに活物質を入れることにより、高容量化することができる。また、保護回路を省略して、製造コストを下げることができる。したがって、保護回路をなくす手段が検討されている。
【0004】
保護回路をなくすためには、過放電が起こった場合であっても、種々の問題が起こらないようにする必要がある。一般に、過放電が起こると、負極の電位が上昇し、負極の集電体として用いられている金属(例えば、銅(Cu))が溶出してしまい、電池特性が著しく劣化してしまう。以下、金属としてCuを例に挙げて、溶出する理由を具体的に説明する。
図1は、リチウムイオン二次電池の充放電サイクル時の正極および負極の電位の変化を模式的に示すグラフである。図1に示されるように、従来例において、電池を充電すると、正極の電位は矢印aの経路で上昇し、負極の電位は矢印bの経路で下降する。
充電後、放電すると、負極の電位は上昇するが、負極にはリテンション(リチウムイオンが放出されないで残存する現象)が生じるため、その経路は矢印cのようになる。一方、正極の電位は矢印dの経路で下降する。したがって、点Aで正極と負極の電位が等しくなる。ここで、点Aの電位が、負極集電体として用いられるCuが溶出する電位より高いため、Cuが溶出してしまうのである。
【0005】
特許文献1には、正極活物質がアモルファスLiCoOであることを特徴とするリチウム二次電池が記載されている。そして、これにより充放電初期から充放電効率が高いリチウム二次電池を提供することができることが記載されている。
しかしながら、このリチウム二次電池では、上記の過放電特性を改善することができなかった。
【0006】
【特許文献1】特開平5−21066号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、優れた電池特性、特に過放電特性に優れ、高充放電容量の非水電解質二次電池用正極活物質および非水電解質二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の(1)〜(6)を提供する。
【0009】
(1)少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、非晶質な部分を有し、
(003)結晶性は、0Åより大きく1000Å以下である、非水電解質二次電池用正極活物質。
【0010】
(2)前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物および/またはリチウムニッケル複合酸化物である上記(1)に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【0011】
(3)少なくともスピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、非晶質な部分を有し、
(400)結晶性は、0Åより大きく1000Å以下である、非水電解質二次電池用正極活物質。
【0012】
(4)前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムマンガン複合酸化物である上記(3)に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【0013】
(5)少なくともスピネル構造および/または層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第一の活物質と、非晶質な部分を有し、(003)結晶性が、0Åより大きく1000Å以下である、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する副活物質とを有する第二の活物質と、正極集電体とを有する正極と、
リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、またはリチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物からなる負極活物質と、負極集電体とを有する負極と、を具備する非水電解質二次電池。
【0014】
(6)少なくともスピネル構造および/または層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第一の活物質と、非晶質な部分を有し、(400)結晶性が、0Åより大きく〜1000Å以下である、少なくともスピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する副活物質とを有する第二の活物質と、正極集電体とを有する正極と、
リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、またはリチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物からなる負極活物質と、負極集電体とを有する負極と、を具備する非水電解質二次電池。
【発明の効果】
【0015】
一般に、非水電解質二次電池は、過放電防止用の保護回路を有しない場合、過放電により電池電圧が0V付近まで低下すると、負極の電位が上昇し、負極集電体(例えばCu、Ni等)が溶出するため、電池特性が著しく劣化する。
(1)に記載の正極活物質は、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有し、このリチウム遷移金属複合酸化物が、非晶質な部分を有し、(003)結晶性は、0Åより大きく1000Å以下である。そのため、初期充電容量が大きく、初期放電容量が著しく小さくなり、不可逆容量が発生する。この正極活物質を用いることにより正極と負極のリテンションの量の差をなくし、電池電圧が上昇するのを抑制することができる。
図1において、充電後、放電すると、本発明例の負極の電位は従来例と同様に矢印cの経路で上昇するが、正極の電位は矢印eの経路で下降する。したがって、点Bで正極と負極の電位が等しくなる。ここで、点Bの電位が、負極集電体として用いられる金属、例えば、Cuが溶出する電位より低いため、Cuの溶出が抑制されるのである。即ち、本発明の正極活物質を用いた非水電解質二次電池は、過放電特性に優れる。
【0016】
(2)に記載の正極活物質においては、リチウム遷移金属複合酸化物が、リチウムコバルト複合酸化物および/またはリチウムニッケル複合酸化物であるのが好ましい。これにより、エネルギー密度の向上した正極活物質となる。
【0017】
(3)に記載の正極活物質は、少なくともスピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有し、このリチウム遷移金属複合酸化物は、非晶質な部分を有し、(400)結晶性は、0Åより大きく1000Å以下である。そのため、初期充電容量が大きく、初期放電容量が著しく小さくなり、不可逆容量が発生する。この正極活物質を用いることにより正極と負極のリテンションの量の差をなくし、電池電圧が上昇するのを抑制することができる。したがって、図1を用いて上述したのと同様に負極集電体として用いられる金属の溶出が抑制される。即ち、本発明の正極活物質を用いた非水電解質二次電池は、過放電特性に優れる。
【0018】
(4)に記載の正極活物質においては、リチウム遷移金属複合酸化物が、リチウムマンガン複合酸化物であるのが好ましい。これにより出力特性にも優れた正極活物質となる。
【0019】
(5)に記載の非水電解質二次電池は、少なくともスピネル構造および/または層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第一の活物質と、非晶質な部分を有し、(003)結晶性が、0Åより大きく1000Å以下である、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第二の活物質と、正極集電体とを有する正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、またはリチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物からなる負極活物質と、負極集電体とを有する負極と、を具備する。
第二の活物質は、非晶質な部分を有し、(003)結晶性が、0Åより大きく1000Å以下である、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する。そのため、初期充電容量が大きく、初期放電容量が著しく小さくなり、不可逆容量が発生する。この第二の活物質を用いることにより正極と負極のリテンションの量の差をなくし、電池電圧が上昇するのを抑制することができる。
本発明の構成を具備する非水電解質二次電池を、充電後、放電すると、図1において、本発明例の負極の電位は従来例と同様に矢印cの経路で上昇するが、正極の電位は矢印eの経路で下降する。したがって、点Bで正極と負極の電位が等しくなる。ここで、点Bの電位が、負極集電体として用いられる金属、例えば、Cuが溶出する電位より低いため、Cuの溶出が抑制されるのである。即ち、本発明の非水電解質二次電池は、過放電特性に優れる。
【0020】
(6)に記載の非水電解質二次電池は、少なくともスピネル構造および/または層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第一の活物質と、非晶質な部分を有し、(400)結晶性が、0Åより大きく1000Å以下である、少なくともスピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第二の活物質と、正極集電体とを有する正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、またはリチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物からなる負極活物質と、負極集電体とを有する負極と、を具備する。
第二の活物質は、非晶質な部分を有し、(400)結晶性が、0Åより大きく1000Å以下である、少なくともスピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する。そのため、初期充電容量が大きく、初期放電容量が著しく小さくなり、不可逆容量が発生する。この第二の活物質を用いることにより正極と負極のリテンションの量の差をなくし、電池電圧が上昇するのを抑制することができる。したがって、図1を用いて上述したのと同様に負極集電体として用いられる金属の溶出が抑制される。即ち、本発明の正極活物質を用いた非水電解質二次電池は、過放電特性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明に係る非水電解質二次電池用正極活物質および非水電解質二次電池を具体的に説明する。初めに、本発明の正極活物質について説明する。
【0022】
本発明の正極活物質においては、リチウム遷移金属複合酸化物の形態は、特に限定されない。リチウム遷移金属複合酸化物の形態としては、粒子、膜等が挙げられる。
本発明においては、リチウム遷移金属複合酸化物が粒子の形態であることが好ましい。後述する非晶質な部分が、リチウム遷移金属複合酸化物中に均一に分散されるようになるため、電池特性が更に優れたものとなる。
また、本発明においては、リチウム遷移金属複合酸化物が、一次粒子およびその凝集体である二次粒子の一方または両方からなる粒子の形態で存在してもよい。即ち、リチウム遷移金属複合酸化物は、粒子の形態で存在し、その粒子は、一次粒子のみからなっていてもよく、一次粒子の凝集体である二次粒子のみからなっていてもよく、一次粒子と二次粒子の両者からなっていてもよい。
【0023】
本発明の第1の態様の正極活物質は、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物からなる。層状構造とは、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造が層状であることを意味する。
図2は、層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造を示す模式図である。
層状構造は、特に限定されず、例えば、層状岩塩構造、ジグザグ層状岩塩構造が挙げられる。中でも、層状岩塩構造が好ましい。
【0024】
層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物は特に限定されない。例えば、コバルト酸リチウム等のリチウムコバルト複合酸化物、ニッケル酸リチウム等のリチウムニッケル複合酸化物、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム等のリチウムニッケルコバルト複合酸化物、クロム酸リチウム、バナジン酸リチウム、マンガン酸リチウム、である。好ましくは、リチウムコバルト複合酸化物、リチウムニッケル複合酸化物、リチウムニッケルコバルト複合酸化物である。好適には、コバルト酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウムおよびニッケルコバルトマンガン酸リチウムが挙げられる。
【0025】
コバルト酸リチウムのLi、CoおよびOの組成比を一般式LiCoOで表したときに、xが0.95≦x≦1.10を満たす数を表し、yが1.8≦y≦2.2を満たす数を表すのが好ましい。
ニッケルコバルト酸リチウムのLi、Ni、CoおよびOの組成比を一般式LiNiCoで表したときに、kが0.95≦k≦1.10を満たす数を表し、mが0.1≦m≦0.9を満たす数を表し、pが0.1≦p≦0.9を満たす数を表し、rが1.8≦r≦2.2を満たす数を表すのが好ましい。
ニッケルコバルトアルミン酸リチウムのLi、Ni、Co、AlおよびOの組成比を一般式LiNiCoAl(1−m−p)で表したときに、kが0.95≦k≦1.10を満たす数を表し、mが0.1≦m≦0.9を満たす数を表し、pが0.1≦p≦0.9を満たす数を表し、m+pがm+p≦1を満たす数を表し、rが1.8≦r≦2.2を満たす数を表すのが好ましい。
ニッケルコバルトマンガン酸リチウムのLi、Ni、Co、MnおよびOの組成比を一般式LiNiCoMn(1−m−p)で表したときに、kが0.95≦k≦1.10を満たす数を表し、mが0.1≦m≦0.9を満たす数を表し、pが0.1≦p≦0.9を満たす数を表し、m+pがm+p≦1を満たす数を表し、rが1.8≦r≦2.2を満たす数を表すのが好ましい。
【0026】
本発明の第1の態様の正極活物質は、非結晶質な部分を有する。
本発明において、非結晶質とは、結晶質以外の状態、すなわち、非晶質(アモルファス)に加えて、準結晶質も包含する意味である。準結晶とは、回折点を与える非周期構造を持つ結晶を意味する。結晶質では、決まった方向に決まった周期で同じ構造が表れるのに対し、方向や周期は一定しないが、ある一定の距離内に同じ構造が表れる状態が準結晶状態である。代表的な準結晶では、結晶質の金属や金属間化合物には見られない、5回または10回の回転対称性を有する。すなわち、準結晶は、長距離方位規則性と準周期的並進対称性を持ち、結晶とは異なって点対称性(回転対称性)を示すため、鋭い斑点からなる電子回折像を与えるので、電子顕微鏡の高分解能像や暗視野像の観察等から判別することができる。
【0027】
本発明の第1の態様の正極活物質は、(003)結晶性が、0Åより大きく1000Å以下である。10Å以上であるのが好ましく、30Å以上であるのがより好ましく、また、800Å以下であるのが好ましく、600Å以下であるのがより好ましい。
(003)結晶性は、本発明の正極活物質の第1の態様が、非結晶質でない部分が存在していることを示している。本発明の第1の態様の正極活物質においては、リチウム遷移金属複合酸化物が非結晶質な部分を有し、(003)結晶性が、0Åより大きく1000Å以下であることで、過放電特性が向上する。
本発明において、(003)結晶性は、空間群R3mの構造を有する結晶の(003)結晶性を意味する。なお、本明細書において「R3m」という表記は、「R3バーm」を意味する。
(003)結晶性は、X線回折法により測定する。
X線回折法は、例えば、管電流40mA、管電圧40kVの条件で行うことができる。X線回折法で求められた(003)面に起因する回折ピークより、下記式(1)で表されるシェラーの式によって、結晶性が算出される。
【0028】
D=Kλ/(βcosθ) (1)
【0029】
上記式中、Dは(003)結晶性(Å)を表し、Kはシェラー定数(Kは、光学系調整用焼結Si(理学電気社製)を使用し、(003)面に起因する回折ピークが1000Åとなる値を使用する。)を表し、λはX線源の波長(CuKα1の場合は、1.540562Å)を表し、βはβ=By(Bは観測プロフィルムの幅を意味し、yはy=0.9991−0.019505b−2.8205b+2.878b−1.0366bにより算出される。ここで、bは装置定数プロファイルの幅を意味する。)により算出され、θは回折角(degree)を表す。
【0030】
以下、本発明の第1の態様の正極活物質に好適に用いられるリチウム遷移金属複合酸化物を例示する。
【0031】
(1)コバルト酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウムおよびニッケルコバルトマンガン酸リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種
リチウム遷移金属複合酸化物がコバルト酸リチウムまたはニッケルコバルト酸リチウムの場合、サイクル特性を更に向上させ、優れた負荷特性、低温特性および熱安定性の非水電解質二次電池用正極活物質となる。したがって、この正極活物質を用いた非水電解質二次電池を、携帯電話やノートパソコン等の用途に好適に用いることができる。
リチウム遷移金属複合酸化物がニッケルコバルトアルミン酸リチウムの場合、更に負荷特性、低温特性、出力特性、サイクル特性および熱安定性が向上した非水電解質二次電池用正極活物質になる。したがって、この正極活物質を用いた非水電解質二次電池を電気自動車、携帯電話およびノートパソコン等の用途に好適に用いることができる。
リチウム遷移金属複合酸化物がニッケルコバルトマンガン酸リチウムの場合、更に負荷特性、低温特性、出力特性およびサイクル特性が向上し、より熱安定性が向上した非水電解質二次電池用正極活物質になる。したがって、この正極活物質を用いた非水電解質二次電池を携帯電話、電動工具および電気自動車等の用途に好適に用いることができる。
【0032】
ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウムおよびニッケルコバルトマンガン酸リチウムは、コバルト酸リチウムと同様の層状構造の結晶構造を有する。
しかしながら、これらには、従来、コバルト酸リチウムに比べて、ガスが多量に発生し、放電時の電位も低くなるという問題があった。
本発明においては、これらの結晶子界面の少なくとも一部にジルコニウムを存在させるため、原料中の残留リチウムが減少し、充電時のガスの発生を防止することができると考えられる。
また、界面抵抗が減少し、これにより常温下および低温下での負荷時の放電電位が高くなり、負荷時の容量維持率が向上する。即ち、負荷特性および低温特性が向上すると考えられる。
更に、充電時において負極にリチウムが局所的に析出するのを抑えることができると考えられる。このため、充電時にガスが発生することを抑制し、ドライアウトを防止することができるためサイクル特性が向上すると考えられる。
更に、結晶子界面の少なくとも一部にジルコニウムが存在することにより、酸素の脱離が抑制され熱安定性が向上すると考えられる。
したがって、リチウム遷移金属複合酸化物が、その結晶子界面の少なくとも一部にジルコニウムを有する、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウムおよびニッケルコバルトマンガン酸リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、態様は有用である。
【0033】
(2)コバルトと同一でない遷移金属、周期表の2族、13族および14族の元素、ハロゲン元素ならびに硫黄からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む、コバルト酸リチウム
これらの元素を含むことで、負荷特性、低温特性、サイクル特性および熱安定性が更に向上する。
中でも、コバルト酸リチウムが、一般式LiCoO(式中、xは0.95≦x≦1.10を満たす数を表し、yは1.8≦y≦2.2を満たす数を表す。)で表されるのが好ましい。
好適な具体例として、一般式がLiCo1−b(式中、Mはコバルトと同一でない遷移金属ならびに周期表の2族、13族および14族の元素からなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、Xはハロゲン元素から選ばれる少なくとも1種を表し、aは0.95≦a≦1.10を満たす数を表し、bは0<b≦0.10を満たす数を表し、cは1.8≦c≦2.2を満たす数を表し、dは0≦d≦0.10を満たす数を表し、eは0≦e≦0.015を満たす数を表す。)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。
【0034】
(3)ニッケルおよびコバルトと同一でない遷移金属、周期表の2族、13族および14族の元素、ハロゲン元素ならびに硫黄からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む、ニッケルコバルト酸リチウム;ニッケルおよびコバルトと同一でない遷移金属、周期表の2族、アルミニウムと同一でない13族および14族の元素、ハロゲン元素ならびに硫黄からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む、ニッケルコバルトアルミン酸リチウム;または、ニッケル、コバルトおよびマンガンと同一でない遷移金属、周期表の2族、13族および14族の元素、ハロゲン元素ならびに硫黄からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む、ニッケルコバルトマンガン酸リチウム
これらの元素を含むことで、負荷特性、低温特性、出力特性、サイクル特性および熱安定性の更なる向上を実現することができる。したがって、この正極活物質を用いた非水電解質二次電池を電動工具、電気自動車、携帯電話、ノートパソコン等の用途に好適に用いることができる。
【0035】
中でも、CoおよびNiと同一でない遷移金属(下記式においてZがMnの場合はCo、NiおよびMnと同一でない遷移金属)、周期表の2族、13族(下記式においてZがAlの場合はAlと同一でない13族の元素)および14族の元素、ハロゲン元素ならびにSからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む、一般式がLiNiCo(1−m−p)(式中、ZはAlまたはMnを表し、kは0.95≦k≦1.10を満たす数を表し、mは0.1≦m≦0.9を満たす数を表し、pは0.1≦p≦0.9を満たす数を表し、m+pはm+p≦1を満たす数を表し、rは1.8≦r≦2.2を満たす数を表す。)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物が好ましい。
【0036】
好適な具体例として、一般式がLiNiCo(1−m−p)(式中、ZはAlまたはMnを表し、kは0.95≦k≦1.10を満たす数を表し、mは0.1≦m≦0.9を満たす数を表し、pは0.1≦p≦0.9を満たす数を表し、m+pはm+p≦1を満たす数を表し、rは1.8≦r≦2.2を満たす数を表す。)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。
【0037】
(4)チタン、アルミニウム、バナジウム、ジルコニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよび硫黄からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む、コバルト酸リチウム
これらの元素が存在することによってピラー効果が生じ、結晶構造が安定することによりサイクル特性が向上すると考えられる。また、表面修飾によりサイクル特性が向上すると考えられる。
より好ましくはチタン、アルミニウム、ジルコニウムおよびマグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むことである。チタン、アルミニウム、ジルコニウムおよびマグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むことにより、更にサイクル特性が向上する。またマグネシウムを含むことによりこれらの効果に加えて、更に熱安定性が向上する。
【0038】
態様(4)においては、硫黄の存在により電子の通りやすさが向上するため、更に、サイクル特性および負荷特性が向上すると考えられる。
硫黄の含有量は、リチウム遷移金属複合酸化物と硫黄の合計に対して、0.03〜0.7重量%であるのが好ましい。0.03重量%より少ないと、電子の移動抵抗が低減しにくい場合がある。0.7重量%より多いと、水分吸着によりガス発生が生じる場合がある。
【0039】
態様(4)においては、硫黄はどのような形で存在していてもよい。例えば、硫酸根の形で存在していてもよい。
硫酸根は、硫酸イオン、硫酸イオンからその電子を除いた原子の集団およびスルホ基を含む。アルカリ金属の硫酸塩、アルカリ土類金属の硫酸塩、有機硫酸塩ならびに有機スルホン酸およびその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種に基づくのが好ましい。
中でも、アルカリ金属の硫酸塩およびアルカリ土類金属の硫酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種に基づくのが好ましく、アルカリ金属の硫酸塩に基づくのがより好ましい。これらは、強酸強塩基の結合からなるため、化学的に安定だからである。
【0040】
態様(4)においては、硫酸根はリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面に存在していることが好ましい。粒子の表面に硫酸根を有することにより、硫酸根が電子を通りやすくすると考えられる。そのため、さらに負荷特性が向上する。
硫酸根がリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面の全体を被覆している場合であっても、硫酸根がリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面の一部を被覆している場合であっても、さらに負荷特性が向上する。
【0041】
態様(4)においては、コバルト酸リチウムのLi、CoおよびOの組成比を一般式LiCoOで表したときに、xが0.95≦x≦1.10を満たす数を表し、yが1.8≦y≦2.2を満たす数を表すのが好ましい。
【0042】
(5)リチウム遷移金属複合酸化物が、一般式LiCo1−b(MはTi、Al、V、Zr、Mg、CaおよびSrからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を表し、Xはハロゲン元素から選ばれる少なくとも1種を表し、aは0.95≦a≦1.10を満たす数を表し、bは0≦b≦0.10を満たす数を表し、cは1.8≦c≦2.2を満たす数を表し、dは0≦d≦0.10を満たす数を表し、eは0≦e≦0.015を満たす数を表す。)で表される態様。
態様(4)と同様の理由により好ましい。
【0043】
(5)チタン、アルミニウム、バナジウム、ジルコニウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよび硫黄からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含む、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウムおよびニッケルコバルトマンガン酸リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種
これらの元素が存在することによってピラー効果が生じ、結晶構造が安定することによりサイクル特性が向上すると考えられる。また表面修飾によりサイクル特性が向上すると考えられる。
より好ましくはチタン、アルミニウム、ジルコニウムおよびマグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むことである。チタン、アルミニウム、ジルコニウムおよびマグネシウムからなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むことにより、更にサイクル特性が向上する。またマグネシウムを含むことによりこれらの効果に加えて、更に熱安定性が向上する。
【0044】
態様(5)においては、硫黄の存在により電子の通りやすさが向上するため、更に、サイクル特性および負荷特性が向上すると考えられる。
硫黄の含有量は、リチウム遷移金属複合酸化物と硫黄の合計に対して、0.03〜0.7重量%であるのが好ましい。0.03重量%より少ないと、電子の移動抵抗が低減しにくい場合がある。0.7重量%より多いと、水分吸着によりガス発生が生じる場合がある。
【0045】
態様(5)においては、硫黄はどのような形で存在していてもよい。例えば、硫酸根の形で存在していてもよい。
硫酸根は、硫酸イオン、硫酸イオンからその電子を除いた原子の集団およびスルホ基を含む。アルカリ金属の硫酸塩、アルカリ土類金属の硫酸塩、有機硫酸塩ならびに有機スルホン酸およびその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種に基づくのが好ましい。
中でも、アルカリ金属の硫酸塩およびアルカリ土類金属の硫酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種に基づくのが好ましく、アルカリ金属の硫酸塩に基づくのがより好ましい。これらは、強酸強塩基の結合からなるため、化学的に安定だからである。
【0046】
態様(5)においては、硫酸根はリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面に存在していることが好ましい。粒子の表面に硫酸根を有することにより、硫酸根が電子を通りやすくすると考えられる。そのため、さらに負荷特性が向上する。
硫酸根がリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面の全体を被覆している場合であっても、硫酸根がリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面の一部を被覆している場合であっても、さらに負荷特性が向上する。
【0047】
態様(5)においては、ニッケルコバルト酸リチウムのLi、Ni、CoおよびOの組成比を一般式LiNiCoで表したときに、kが0.95≦k≦1.10を満たす数を表し、mが0.1≦m≦0.9を満たす数を表し、pが0.1≦p≦0.9を満たす数を表し、rが1.8≦r≦2.2を満たす数を表すのが好ましい。
【0048】
態様(5)においては、ニッケルコバルトアルミン酸リチウムのLi、Ni、Co、AlおよびOの組成比を一般式LiNiCoAl(1−m−p)で表したときに、kが0.95≦k≦1.10を満たす数を表し、mが0.1≦m≦0.9を満たす数を表し、pが0.1≦p≦0.9を満たす数を表し、m+pがm+p≦1を満たす数を表し、rが1.8≦r≦2.2を満たす数を表すのが好ましい。
【0049】
態様(5)においては、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムのLi、Ni、Co、MnおよびOの組成比を一般式LiNiCoMn(1−m−p)で表したときに、kが0.95≦k≦1.10を満たす数を表し、mが0.1≦m≦0.9を満たす数を表し、pが0.1≦p≦0.9を満たす数を表し、m+pがm+p≦1を満たす数を表し、rが1.8≦r≦2.2を満たす数を表すのが好ましい。
【0050】
本発明の正極活物質において、リチウム遷移金属複合酸化物は、ニッケルコバルト酸リチウムとニッケルコバルトアルミン酸リチウムの混合物であっても、ニッケルコバルト酸リチウムとニッケルコバルトマンガン酸リチウムの混合物であっても、ニッケルコバルトアルミン酸リチウムとニッケルコバルトマンガン酸リチウムの混合物であってもよい。また、これらとコバルト酸リチウムとの混合物であってもよい。
【0051】
本発明の第2の態様の正極活物質は、少なくともスピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物からなる。 スピネル構造とは、複酸化物でAB型の化合物(AとBは金属元素)にみられる代表的結晶構造型の一つである。
図3は、スピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造を示す模式図である。図3において、リチウム原子6は8aサイトの四面体サイトを占有し、酸素原子7は32eサイトを占有し、遷移金属原子8(および、場合により過剰のリチウム原子)は16dサイトの八面体サイトを占有している。
【0052】
スピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物としては、リチウムマンガン複合酸化物、リチウムチタン複合酸化物、リチウム・マンガン・ニッケル複合酸化物、リチウム・マンガン・コバルト複合酸化物等が挙げられる。中でも、リチウムマンガン複合酸化物が好ましい。
【0053】
本発明の第2の態様の正極活物質は、非結晶質な部分を有する。
本発明において、非結晶質とは、上述した第1の態様の正極活物質における非結晶質と同様の意味である。
【0054】
本発明の第2の態様の正極活物質は、(400)結晶性が、0Åより大きく1000Å以下である。10Å以上であるのが好ましく、30Å以上であるのがより好ましく、また、800Å以下であるのが好ましく、600Å以下であるのがより好ましい。
(400)結晶性は、本発明の正極活物質の第2の態様が、非結晶質でない部分が存在していることを示している。本発明の第2の態様の正極活物質においては、リチウム遷移金属複合酸化物が非結晶質な部分を有し、(400)結晶性が、0Åより大きく1000Å以下であることで、過放電特性が向上する。
本発明において、(400)結晶性は、空間群Fd3mの構造を有する結晶の(400)結晶性を意味する。なお、本明細書において「Fd3m」という表記は、「Fd3バーm」を意味する。
(400)結晶性は、X線回折法により測定する。
X線回折法は、例えば、管電流100mA、管電圧40kVの条件で行うことができる。X線回折法で求められた(400)面に起因する回折ピークより、下記式(1)で表されるシェラーの式によって、結晶性が算出される。
【0055】
D=Kλ/(βcosθ) (1)
【0056】
上記式中、Dは(400)結晶性(Å)を表し、Kはシェラー定数(Kは、光学系調整用焼結Si(理学電気社製)を使用し、(400)面に起因する回折ピークが1000Åとなる値を使用する。)を表し、λはX線源の波長(CuKα1の場合は、1.540562Å)を表し、βはβ=By(Bは観測プロフィルムの幅を意味し、yはy=0.9991−0.019505b−2.8205b+2.878b−1.0366bにより算出される。ここで、bは装置定数プロファイルの幅を意味する。)により算出され、θは回折角(degree)を表す。
【0057】
以下、本発明の第2の態様の正極活物質に好適に用いられるリチウム遷移金属複合酸化物を例示する。
【0058】
(1)リチウム遷移金属複合酸化物が、アルミニウムおよび/またはマグネシウムとを有するリチウムマンガン複合酸化物である態様。
【0059】
アルミニウムおよび/またはマグネシウムを含有すると、結晶構造が安定化するため、保存特性、負荷特性および出力特性を損なわずに、サイクル特性が優れたものになり、かつ、電池の膨れをさらに抑制することができる。
【0060】
態様(1)においては、リチウムマンガン複合酸化物のLi、MnおよびOの組成比を一般式Li1+aMn2−a4+dで表したときに、aが−0.2≦a≦0.2を満たす数を表し、dが−0.5≦d≦0.5を満たす数を表すのが好ましい。後述する態様(2)、態様(4)、態様(6)、態様(8)、および態様(10)においても同様である。
aは、0より大きいのが好ましく、また、0.15以下であるのが好ましい。化学量論比よりも過剰量のリチウムと、アルミニウムおよび/またはマグネシウムとの相乗効果によって、さらに、結晶構造の安定化が図られ、さらに、サイクル特性が向上すると考えられる。
【0061】
(2)リチウム遷移金属複合酸化物が、アルミニウムおよび/またはマグネシウムと、ホウ素とを有するリチウムマンガン複合酸化物である態様。
【0062】
ホウ素はフラックスとして作用し、結晶成長を促進させ、さらに、サイクル特性および保存特性を向上させる。
【0063】
(3)リチウム遷移金属複合酸化物が、一般式Li1+aMn2−a−b4+d(Mはアルミニウムおよび/またはマグネシウムを表し、aは−0.2≦a≦0.2を満たす数を表し、bは0≦b≦0.2を満たす数を表し、cは0≦c≦0.02を満たす数を表し、dは−0.5≦d≦0.5を満たす数を表す。)で表される態様。
【0064】
態様(3)は、サイクル特性、負荷特性、保存特性および充放電容量に優れ、かつ、電池の膨れが少ない。
態様(3)において、aは、0より大きいのが好ましい。リチウムでマンガンの一部を置換することにより、サイクル特性が向上すると考えられる。
態様(3)において、bは、0より大きいのが好ましく、0.05以上であるのがより好ましい。アルミニウムおよび/またはマグネシウムを含有すると、結晶構造が安定化するため、保存特性、負荷特性および出力特性を損なわずに、サイクル特性が優れたものになり、かつ、電池の膨れを更に抑制することができる。bは0.15以下であるのが好ましい。bが大きすぎると、放電容量が低下する。
態様(3)において、cは、0より大きいのが好ましく、0.001以上であるのがより好ましい。ホウ素はフラックスとして作用し、結晶成長を促進させ、さらに、サイクル特性および保存特性を向上させる。cは0.01以下であるのが好ましい。cが大きすぎると、サイクル特性が低下する。
【0065】
(4)リチウム遷移金属複合酸化物が、アルミニウムおよび/またはマグネシウムと、ホウ素と、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種とを有するリチウムマンガン複合酸化物である態様。
【0066】
チタン、ジルコニウムおよびハフニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を有することで、リチウムマンガン複合酸化物粒子の単位格子の格子定数は上昇し、粒子内のリチウムイオンの易動度は上昇しインピーダンスを低減することができると考えられる。このため保存特性、負荷特性およびサイクル特性を損なわずに、かつ、電池の膨れの抑制を損なわずに、出力特性がさらに向上すると考えられる。
態様(4)において、チタン、ジルコニウムおよびハフニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種以外の元素を有する理由は、態様(1)〜(3)と同様である。
【0067】
(5)リチウム遷移金属複合酸化物が、一般式Li1+aMn2−a−b4+d(Mはアルミニウムおよび/またはマグネシウムを表し、Dはチタン、ジルコニウムおよびハフニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、aは−0.2≦a≦0.2を満たす数を表し、bは0≦b≦0.2を満たす数を表し、cは0≦c≦0.02を満たす数を表し、dは−0.5≦d≦0.5を満たす数を表し、hは0≦h≦0.1を満たす数を表す。)で表される態様。
【0068】
態様(5)において、hは、0より大きいのが好ましい。態様(4)の場合と同様の理由による。
また、hは0.01以上であるのがより好ましく、0.03以上であるのがさらに好ましく、0.08以下であるのがより好ましく、0.05以下であるのがさらに好ましい。この範囲のとき、リチウムイオンの易動度が上昇することにより、インピーダンスが低減すると考えられる。hが大きすぎると、電池特性がほとんど変化せず好ましくない。
その他の点については、態様(4)の場合と同様である。
【0069】
(6)リチウム遷移金属複合酸化物が、アルミニウムおよび/またはマグネシウムと、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種と、ホウ素とを有するリチウムマンガン複合酸化物である態様。
【0070】
ハロゲン元素はリチウムマンガン複合酸化物の粉末を球状で粒度の揃った粉末にする効果がある。これにより、サイクル特性、保存特性、負荷特性および出力特性を損なうことなく、表面の平滑性に優れ、内部抵抗が低く、かつ、結着性に優れる正極塗布面を形成させることができる。ハロゲン元素としては、フッ素および/または塩素が好ましい。
【0071】
(7)リチウム遷移金属複合酸化物が、一般式Li1+aMn2−a−c・Li(Mはアルミニウムおよび/またはマグネシウム、Xはフッ素、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、aは0<a≦0.1を満たす数を表し、bは0≦b≦0.1を満たす数を表し、cは0<c≦0.2を満たす数を表し、dは0<d≦0.05を満たす数を表し、eは0<e≦0.02を満たす数を表し、fは0≦f<0.1を満たす数を表す。)で表される態様。
【0072】
態様(7)においては、リチウム遷移金属複合酸化物が、Li1+aMn2−a−cで表される立方晶スピネル型リチウムマンガン複合酸化物と、Liで表される、1種以上の化合物からなる不純物相とで構成されるのが好ましい。
態様(7)において、aは、0.02以上であるのが好ましく、また、0.08以下であるのが好ましい。態様(3)の場合と同様の理由による。
態様(7)において、Xは、フッ素および/または塩素であるのが好ましい。dは、0.01以上であるのが好ましく、また、0.03以下であるのが好ましい。態様(6)の場合と同様の理由による。
態様(7)において、eは0.001以上であるのが好ましく、また、0.01以下であるのが好ましい。態様(3)の場合と同様の理由による。
【0073】
(8)リチウム遷移金属複合酸化物が、アルミニウムおよび/またはマグネシウムと、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種と、ホウ素と、硫黄とを有するリチウムマンガン複合酸化物である態様。
【0074】
態様(8)においては、硫黄の存在により電子の通りやすさが向上するため、さらに、サイクル特性および負荷特性が向上すると考えられる。
硫黄の含有量は、リチウム遷移金属複合酸化物と硫黄の合計に対して、0.03〜0.3重量%であるのが好ましい。0.03重量%より少ないと、電子の移動抵抗が低減しにくい場合がある。0.3重量%より多いと、水分吸着により電池の膨れが生じる場合がある。
【0075】
硫黄はどのような形で存在してもよい。例えば、硫酸根の形で存在していてもよい。
硫酸根は、硫酸イオン、硫酸イオンからその電荷を除いた原子の集団およびスルホ基を含む。アルカリ金属の硫酸塩、アルカリ土類金属の硫酸塩、有機硫酸塩ならびに有機スルホン酸およびその塩からなる群から選ばれる少なくとも1種に基づくのが好ましい。
中でも、アルカリ金属の硫酸塩およびアルカリ土類金属の硫酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種に基づくのが好ましく、アルカリ金属の硫酸塩に基づくのがより好ましい。これらは、強酸強塩基の結合からなるため、化学的に安定だからである。
【0076】
態様(7)において、硫黄以外の元素を含有する理由は、態様(1)〜(6)と同様である。
態様(7)においては、上記各元素を含有することで、各元素の相乗効果により、高い充放電容量を有し、かつ、結着性および表面の平滑性に優れる正極板を得ることができる。
【0077】
リチウム遷移金属複合酸化物は、少なくとも粒子の表面に硫酸根を有していてもよい。
硫酸根がリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面に存在することにより、粒子の周りの電子の移動抵抗が極めて小さくなり、その結果、電子の通りやすさが向上し、サイクル特性および負荷特性が向上すると考えられる。
また、本発明の正極活物質を用いて高電圧電池(例えば、リチウム遷移金属複合酸化物としてLiMn1.5Ni0.5を用いた電池)とした場合、従来の高電圧電池において問題であった充電時における電解質の分解が抑制され、その結果、サイクル特性が向上する。電解質の分解反応は、リチウム遷移金属複合酸化物の粒子と電解質との界面において、リチウム遷移金属複合酸化物が触媒として起こると考えられているが、電解質を分解させる働きのない硫酸根でリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面の全部または一部が被覆されることにより、電解質と触媒との接触面積が減り、上記反応が抑制されると考えられる。
【0078】
本発明において、硫酸根はリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面にどのような形で存在していても本発明の効果を発揮する。例えば、硫酸根がリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面の全体を被覆している場合であっても、硫酸根がリチウム遷移金属複合酸化物の粒子表面の一部を被覆している場合であっても、サイクル特性および負荷特性が向上する。
【0079】
また、硫酸根は、少なくとも粒子の表面に存在していればよい。したがって、硫酸根の一部が粒子の内部に存在していてもよい。
硫酸根がリチウム遷移金属複合酸化物の粒子の表面に存在しているかどうかは、種々の方法によって解析することができる。例えば、オージェ電子分光法、X線光電子分光法で解析することができる。
また、硫酸根の定量としては、種々の方法を用いることができる。例えば、ICP発光分光分析法、滴定法で定量することができる。
【0080】
(9)リチウム遷移金属複合酸化物が、一般式Li1+aMn2−a−b4+f(Mはアルミニウムおよび/またはマグネシウムを表し、Dはチタン、ジルコニウムおよびハフニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、Xはフッ素、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、aは−0.2≦a≦0.2を満たす数を表し、bは0<b≦0.2を満たす数を表し、cは0≦c≦0.05を満たす数を表し、dは0<d≦0.02を満たす数を表し、eは0≦e≦0.1を満たす数を表し、fは−0.5≦f≦0.5を満たす数を表し、hは0≦h≦0.1を満たす数を表す。)で表される態様。
【0081】
態様(9)において、eは、0より大きいのが好ましい。態様(8)の場合と同様の理由による。
また、eは0.0017以上であるのがより好ましく、また、0.02以下であるのが好ましい。eが小さすぎると、電子の移動抵抗が低くなる場合がある。eが大きすぎると、水分吸着により電池の膨れが生じる場合がある。
その他の点については、態様(8)の場合と同様である。
【0082】
(10)リチウム遷移金属複合酸化物が、アルミニウムおよび/またはマグネシウムと、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種と、ホウ素と、硫黄と、ナトリウムおよび/またはカルシウムとを有するリチウムマンガン複合酸化物である態様。
【0083】
態様(10)においては、ナトリウムおよび/またはカルシウムを含有することにより、ホウ素(好ましくは、ホウ素と硫黄)との相乗効果により、マンガンイオンの溶出をさらに抑制することができ、実用レベルの優れたサイクル特性を実現することができる。
態様(10)において、ナトリウムおよび/またはカルシウム以外の元素を含有する理由は、態様(1)〜(9)と同様である。
【0084】
(11)リチウム遷移金属複合酸化物が、一般式Li1+aMn2−a−b4+f(Mはアルミニウムおよび/またはマグネシウムを表し、Dはチタン、ジルコニウムおよびハフニウムからなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、Xはフッ素、塩素、臭素およびヨウ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を表し、Aはナトリウムおよび/またはカルシウムを表し、aは−0.2≦a≦0.2を満たす数を表し、bは0<b≦0.2を満たす数を表し、cは0≦c≦0.05を満たす数を表し、dは0<d≦0.02を満たす数を表し、eは0≦e≦0.1を満たす数を表し、fは−0.5≦f≦0.5を満たす数を表し、gは0.00004≦g≦0.015を満たす数を表し、hは0≦h≦0.1を満たす数を表す。)で表される態様。
【0085】
態様(11)が好ましい理由は、態様(10)と同様である。
態様(11)において、eは、0.0017以上であるのが好ましく、また、0.02以下であるのが好ましい。eが小さすぎると、電子の移動抵抗が低くなる場合がある。eが大きすぎると、水分吸着により電池の膨れが生じる場合がある。
その他の点については、態様(10)の場合と同様である。
【0086】
リチウム遷移金属複合酸化物は、鉄の含有量が25ppm以下であるのが好ましく、20ppm以下であるのがより好ましく、18ppm以下であるのがさらに好ましい。鉄の含有量が多すぎると、電池の内部短絡の原因になる場合がある。
【0087】
本発明の正極活物質は、製造方法を特に限定されないが、例えば、以下の(1)および(2)のようにして製造することができる。
【0088】
(1)原料混合物の作製
後述する化合物を各構成元素が所定の組成比となるように混合して、原料混合物を得る。原料混合物に用いられる化合物は、目的とする組成を構成する元素に応じて選択される。
混合の方法は、特に限定されず、例えば、水および/または有機溶媒を用いてスラリー状として混合した後、乾燥させて原料混合物とする方法;上述した化合物の水溶液を混合して沈殿させ、得られた沈殿物を乾燥させて原料混合物とする方法;これらを併用する方法が挙げられる。
【0089】
以下に、原料混合物に用いられる化合物を例示する。
リチウム化合物は、特に限定されないが、例えば、LiCO、LiOH、LiOH・HO、LiO、LiCl、LiNO、LiSO、LiHCO、Li(CHCOO)、フッ化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム、過酸化リチウムが挙げられる。中でも、LiCO、LiOH、LiOH・HO、LiO、LiCl、LiNO、LiSO、LiHCO、Li(CHCOO)が好ましい。
【0090】
コバルト化合物は、特に限定されないが、例えば、酸化コバルト、水酸化コバルト、炭酸コバルト、塩化コバルト、ヨウ化コバルト、硫酸コバルト、臭素酸コバルト、硝酸コバルトが挙げられる。中でも、CoSO・7HO、Co(NO・6HOが好ましい。
【0091】
ニッケル化合物は、特に限定されないが、例えば、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、ギ酸ニッケルが挙げられる。中でも、NiSO・6HO、Ni(NO・6HOが好ましい。
【0092】
アルミニウム化合物は、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、炭酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウムが挙げられる。中でも、Al(SO、Al(NO、Al、Al(OH)が好ましい。
【0093】
マンガン化合物は、特に限定されないが、例えば、酸化マンガン、水酸化マンガン、炭酸マンガン、塩化マンガン、ヨウ化マンガン、硫酸マンガン、硝酸マンガンが挙げられる。中でも、MnSO、MnClが好ましい。
【0094】
バナジウム化合物は、特に限定されないが、例えば、酸化バナジウム、水酸化バナジウム、塩化バナジウム、硫酸バナジウムが挙げられる。中でも、V、VClが好ましい。
【0095】
ストロンチウム化合物は、特に限定されないが、例えば、酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、塩化ストロンチウム、硫酸ストロンチウムが挙げられる。中でも、SrO、Sr(OH)が好ましい。
【0096】
カルシウム化合物は、特に限定されないが、例えば、酸化カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウムが挙げられる。中でも、CaO、CaCOが好ましい。
【0097】
硫黄含有化合物は、特に限定されないが、例えば、硫化物、ヨウ化硫黄、硫化水素、硫酸とその塩、硫化窒素が挙げられる。中でも、LiSO、MnSO、(NHSO、Al(SO、MgSOが好ましい。
【0098】
ハロゲン元素を含む化合物は、特に限定されないが、例えば、フッ化水素、フッ化酸素、フッ化水素酸、塩化水素、塩酸、酸化塩素、フッ化酸化塩素、酸化臭素、フルオロ硫酸臭素、ヨウ化水素、酸化ヨウ素、過ヨウ素酸が挙げられる。中でも、NHF、NHCl、NHBr、NHI、LiF、LiCl、LiBr、LiI、MnF、MnCl、MnBr、MnIが好ましい。
【0099】
マグネシウム化合物は、特に限定されないが、例えば、MgO、MgCO、Mg(OH)、MgCl、MgSO、Mg(NO、Mg(CHCOO)、ヨウ化マグネシウム、過塩素酸マグネシウムが挙げられる。中でも、MgSO、Mg(NOが好ましい。
【0100】
チタン化合物は、特に限定されない。例えばフッ化チタン、塩化チタン、臭化チタン、ヨウ化チタン、酸化チタン、硫化チタン、硫酸チタン等が挙げられる。中でもTiO、TiO、Ti、TiCl、Ti(SOが好ましい。
【0101】
ジルコニウム化合物は、特に限定されない。例えば、フッ化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、臭化ジルコニウム、ヨウ化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、硫化ジルコニウム、炭酸ジルコニウム等が挙げられる。中でもZrF、ZrCl、ZrCl、ZrBr、ZrI、ZrO、ZrO、ZrS、Zr(OH)等が好ましい。
【0102】
ホウ素化合物は、特に限定されないが、例えば、B(融点460℃)、HBO(分解温度173℃)、リチウムホウ素複合酸化物、オルトホウ酸、酸化ホウ素、リン酸ホウ素等が用いられる。中でも、HBO、Bが好ましい。
【0103】
セリウム化合物は、特に限定されない。例えば、フッ化セリウム、塩化セリウム、臭化セリウム、ヨウ化セリウム、酸化セリウム、硫化セリウム、炭酸セリウム等が挙げられる。中でもCeF、CeCl、CeBr、CeI、CeO、CeO、CeS等が好ましい。
【0104】
ハフニウム化合物は、特に限定されない。例えば、フッ化ハフニウム、塩化ハフニウム、臭化ハフニウム、ヨウ化ハフニウム、酸化ハフニウム、炭酸ハフニウム等が挙げられる。中でもHfF、HfCl、HfBr、HfO、Hf(OH)、HfS等が好ましい。
【0105】
ナトリウム化合物は、特に限定されないが、例えば、NaCO、NaOH、NaO、NaCl、NaNO、NaSO、NaHCO、CHCONaが挙げられる。
【0106】
カルシウム化合物は、特に限定されないが、例えば、CaO、CaCO、Ca(OH)、CaCl、CaSO、Ca(NO、Ca(CHCOO)が挙げられる。
【0107】
ニオブ化合物は、特に限定されないが、例えば、酸化ニオブ、塩化ニオブ、酸化硫酸ニオブ、フッ化ニオブ等が挙げられる。中でも、NbO、Nbが好ましい。
また、上述した各元素の2種以上を含有する化合物を用いてもよい。
【0108】
以下に、原料混合物を得る好適な方法を、具体的に説明する。
(i)上述したコバルト化合物、ジルコニウム化合物およびマグネシウム化合物から調製した。所定の組成比のコバルトイオン、ジルコニウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する水溶液を、攪拌している純水中に滴下する。 ついで、pH7〜11となるように水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、40〜80℃、回転数500〜1500rpmで攪拌し反応させる。所定の組成比のコバルトイオン、ジルコニウムイオンおよびマグネシウムイオンを含有する水溶液の滴下を終了させた後、水酸化ナトリウム水溶液のみをpH9〜10になるまで滴下しつづけ、コバルト、ジルコニウムおよびマグネシウムの沈殿物を得る。なお、水酸化ナトリウム水溶液の代わりに、炭酸水素アンモニウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液等のアルカリ溶液を用いることもできる。
【0109】
つぎに、水溶液をろ過して沈殿物を採取し、採取した沈殿物を水洗し、熱処理した後、上述したリチウム化合物と混合して、原料混合物を得る。
【0110】
(ii)上述したコバルト化合物、ニッケル化合物、マンガン化合物、ジルコニウム化合物から調製した。所定の組成比のコバルトイオン、ニッケルイオン、マンガンイオンおよびジルコニウムイオンを含有する水溶液を、攪拌している純水中に滴下する。 ここに、pH8〜11となるように水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、40〜80℃、回転数500〜1500rpmで攪拌し反応させる。所定の組成比のコバルトイオン、ニッケルイオン、マンガンイオンおよびジルコニウムイオンを含有する水溶液の滴下を終了させた後、水酸化ナトリウム水溶液のみをpH9〜10になるまで滴下しつづけ、コバルト、ニッケル、マンガンおよびジルコニウムの沈殿物を得る。なお、水酸化ナトリウム水溶液の代わりに、炭酸水素アンモニウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液等のアルカリ溶液を用いることもできる。
【0111】
つぎに、水溶液をろ過して沈殿物を採取し、採取した沈殿物を水洗し、熱処理した後、上述したリチウム化合物と混合して、原料混合物を得る。
【0112】
(iii)上述したコバルト化合物、ニッケル化合物、アルミニウム化合物、ジルコニウム化合物から調製した。所定の組成比のコバルトイオン、ニッケルイオン、アルミニウムイオンおよびジルコニウムイオンを含有する水溶液を、攪拌している純水中に滴下する。ここに、pH8〜11となるように水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、40〜80℃、回転数500〜1500rpmで攪拌し反応させる。所定の組成比のコバルトイオン、ニッケルイオン、アルミニウムイオンおよびジルコニウムイオンを含有する水溶液の滴下後、水酸化ナトリウム水溶液のみをpH9〜10になるまで滴下しつづけ、コバルト、ニッケル、マンガンおよびジルコニウムの沈殿物を得る。なお、水酸化ナトリウム水溶液の代わりに、炭酸水素アンモニウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液等のアルカリ溶液を用いることもできる。
【0113】
つぎに、水溶液をろ過して沈殿物を採取し、採取した沈殿物を水洗し、熱処理した後、上述したリチウム化合物と混合して、原料混合物を得る。
【0114】
(iv)上述したマンガン化合物およびマグネシウム化合物から調製した、所定の組成比のマンガンイオンおよびマグネシウムイオンを含有する水溶液を、攪拌している純水中に滴下する。
ついで、炭酸水素アンモニウム水溶液を滴下し、マンガンおよびマグネシウムを沈殿させ、マンガンおよびマグネシウムの塩を得る。なお、炭酸水素アンモニウム水溶液の代わりに、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸水素ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液等のアルカリ溶液を用いることもできる。
【0115】
つぎに、水溶液をろ過して沈殿物を採取し、採取した沈殿物を水洗し、熱処理した後、上述したリチウム化合物、ジルコニウム化合物、ホウ素化合物およびニオブ化合物と混合して、原料混合物を得る。
【0116】
(2)原料混合物の焼成
ついで、原料混合物を焼成する。焼成の温度、時間、雰囲気等は、特に限定されず、目的に応じて適宜決定することができる。
焼成温度は、400℃以上であるのが好ましく、700℃以上であるのがより好ましい。焼成温度が低すぎると、未反応の原料が正極活物質中に残留し、正極活物質の本来の特徴を生かせない場合がある。また、焼成温度は、1200℃以下であるのが好ましく、1150℃以下であるのがより好ましく、1100℃以下であるのがさらに好ましい。焼成温度が高すぎると、副生成物が生成しやすくなり、単位重量当たりの放電容量の低下、サイクル特性の低下、作動電圧の低下を招く。
焼成の時間は、1時間以上であるのが好ましく、6時間以上であるのがより好ましい。上記範囲であると、混合物の粒子間の拡散反応が十分に進行する。
また、焼成の時間は、36時間以下であるのが好ましく、30時間以下であるのがより好ましい。上記範囲であると、合成が十分に進む。
【0117】
焼成の雰囲気は、例えば、大気、酸素ガス、これらと窒素ガス、アルゴンガス等の不活性ガスとの混合ガス、酸素濃度(酸素分圧)を制御した雰囲気、弱酸化雰囲気が挙げられる。
【0118】
(3)粉砕
焼成後、所望により、らいかい乳鉢、ボールミル、遊星ボールミル、振動ミル、ピンミル、ジェットミル等を用いて粉砕する。
らいかい乳鉢、ボールミル、遊星ボールミル、振動ミルにおいては、粉砕時間が1分以上100時間以下であるのが好ましい。1時間以上であるのがより好ましく、5時間以上であるのがさらに好ましく、また、60時間以下であるのがより好ましく、50時間以下であるのがさらに好ましい。
焼成後、高速攪拌混合機に充填し、処理してもよい。この場合、処理時間は、1分以上100時間以下であるのが好ましい。1時間以上であるのがより好ましく、5時間以上であるのがさらに好ましく、また、60時間以下であるのがより好ましく、50時間以下であるのがさらに好ましい。
本発明で得られる過放電特性の向上は、粉砕時のエネルギーによって、結晶歪みが生じ、リチウム遷移金属複合酸化物の一部に非結晶質な部分を生じさせたことにより、得られるものと考えられる。
【0119】
本発明の正極活物質は、後述する本発明の非水電解質二次電池に好適に用いられる。
【0120】
つぎに、本発明の非水電解質二次電池について説明する。
本発明の第1の態様の非水電解質二次電池は、少なくともスピネル構造および/または層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第一の活物質と、非結晶質な部分を有し、(003)結晶性が、0Åより大きく1000Å以下である、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第二の活物質と、正極集電体とを有する正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、またはリチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物からなる負極活物質と、負極集電体とを有する負極と、を具備する。
本発明の第2の態様の非水電解質二次電池は、少なくともスピネル構造および/または層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第一の活物質と、非結晶質な部分を有し、(400)結晶性が、0Åより大きく1000Å以下である、少なくともスピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第二の活物質と、正極集電体とを有する正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、またはリチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物からなる負極活物質と、負極集電体とを有する負極と、を具備する。
【0121】
本発明の非水電解質二次電池において、正極活物質は、少なくともスピネル構造および/または層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第一の活物質と、リチウムを含むスピネル構造からなるコバルトおよび/またはニッケル複合酸化物を有する第二の活物質とを有する。
第一の活物質は、少なくともスピネル構造および/または層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有していれば特に限定されない。
【0122】
層状構造とは、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造が層状であることを意味する。層状構造は、特に限定されず、例えば、層状岩塩構造、ジグザグ層状岩塩構造が挙げられる。中でも、層状岩塩構造が好ましい。
スピネル構造とは、複酸化物でAB型の化合物(AとBは金属元素)にみられる代表的結晶構造型の一つである。
【0123】
リチウム遷移金属複合酸化物としては、1種類のリチウム遷移金属複合酸化物に限定されない。
本発明の第一の活物質において、リチウム遷移金属複合酸化物は、コバルト酸リチウム、マンガン酸リチウム、ニッケル酸リチウム、ニッケルコバルト酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムおよびニッケルコバルトアルミン酸リチウム、ニッケルマンガン酸リチウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であるのが好ましい。
これにより、過放電特性、サイクル特性、負荷特性の向上だけでなく、更に充放電容量が上昇し、出力特性にも優れた非水電解質二次電池を得ることができる。
リチウム遷移金属複合酸化物は、2種以上の組み合わせからなる場合、コバルト酸リチウムとマンガン酸リチウム、コバルト酸リチウムとニッケルコバルトマンガン酸リチウム、コバルト酸リチウムとニッケルコバルトアルミン酸リチウム、コバルト酸リチウムとニッケルマンガン酸リチウム、マンガン酸リチウムとニッケルコバルトマンガン酸リチウム、マンガン酸リチウムとニッケルコバルトアルミン酸リチウム、マンガン酸リチウムとニッケルマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムとニッケルコバルトアルミン酸リチウム、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムとニッケルマンガン酸リチウム、ニッケルコバルトアルミン酸リチウムとニッケルマンガン酸リチウムからなる群から選ばれる1種であるのが好ましい。
【0124】
コバルト酸リチウムとしては、一般式Li1+xCoO(xは−0.5≦x≦0.5を満たす数を表す。)で表されるコバルト酸リチウムが好ましい。このコバルト酸リチウムは、その一部がマグネシウム、アルミニウム、カルシウム、バナジウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデンおよびスズからなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。
【0125】
マンガン酸リチウムとしては、一般式LiMn3−a4+f(aは0.8≦a≦1.2を満たす数を表し、fは−0.5≦f≦0.5を満たす数を表す。)、および一般式Li1+xMnO(xは−0.5≦x≦0.5を満たす数を表す。)で表されるマンガン酸リチウムが好ましい。このマンガン酸リチウムは、その一部がマグネシウム、アルミニウム、カルシウム、バナジウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデンおよびスズからなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。
【0126】
ニッケル酸リチウムとしては、一般式Li1+xNiO(xは−0.5≦x≦0.5を満たす数を表す。)で表されるニッケル酸リチウムが好ましい。このニッケル酸リチウムは、その一部がマグネシウム、アルミニウム、カルシウム、バナジウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデンおよびスズからなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。
【0127】
リチウム・ニッケル・コバルト複合酸化物としては、一般式LiNiCo(1−y−z)(XはAlまたはMnを表し、xは0.95≦x≦1.10を満たす数を表し、yは0.1≦y≦0.9を満たす数を表し、zは0.1≦z≦0.9を満たす数を表し、wは1.8≦w≦2.2を満たす数を表す。)で表されるリチウム・ニッケル・コバルト複合酸化物が好ましい。このリチウム・ニッケル・コバルト複合酸化物は、その一部がマグネシウム、アルミニウム、カルシウム、バナジウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ストロンチウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデンおよびスズからなる群から選ばれる少なくとも1種で置換されていてもよい。
【0128】
本発明の第一の活物質において、リチウム遷移金属複合酸化物は、マンガン酸リチウムの量をAとし、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウムおよびリチウム・ニッケル・コバルト複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の量をBとした場合に0.2≦B/(A+B)≦0.8の範囲になるように混合するのが好ましい。
これにより、過放電特性、サイクル特性および負荷特性の向上だけでなく、さらに出力特性が向上した正極活物質を得ることができる。
特に、0.4≦B/(A+B)≦0.6の範囲になるように混合するのがより好ましい。この範囲であれば、負荷特性、出力特性の向上が著しいからである。
【0129】
第二の活物質は、上述した本発明の正極活物質である。
【0130】
本発明の非水電解質二次電池における第二の活物質の量は、正極活物質の量に対して、1〜30重量%であるのが好ましい。第二の活物質の量は、3重量%以上であるのがより好ましく、また、15重量%以下であるのがより好ましい。第二の活物質の量が少なすぎると第二の活物質による効果が充分に発揮されず過放電時に負極集電体であるCu等の溶出が起こる。第二の活物質の量が多すぎるとゲル化等が生じるため取り扱いが困難となる。
【0131】
第一の活物質は、製造方法を特に限定されないが、例えば、以下のようにして製造することができる。
【0132】
化合物を各構成元素が所定の組成比となるように混合して、原料混合物を得る。原料混合物に用いられる化合物は、目的とする組成を構成する元素に応じて選択される。
混合の方法は、特に限定されず、例えば、粉末状の化合物をそのまま混合して原料混合物とする方法;水および/または有機溶媒を用いてスラリー状として混合した後、乾燥させて原料混合物とする方法;上述した化合物の水溶液を混合して沈降させ、得られた沈殿物を乾燥させて原料混合物とする方法;これらを併用する方法が挙げられる。
ついで、原料混合物を焼成し、主活物質が得られる。焼成の温度、時間、雰囲気等は、特に限定されず、目的に応じて適宜決定することができる。
焼成後、所望により、らいかい乳鉢、ボールミル、振動ミル、ピンミル、ジェットミル等を用いて粉砕し、目的とする粒度の粉体とすることもできる。
【0133】
本発明の正極活物質は、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンポリマー二次電池等の非水電解質二次電池に好適に用いられる。
非水電解質二次電池は、従来公知の非水電解質二次電池において、正極活物質の少なくとも一部として本発明の正極活物質とすればよく、他の構成は特に限定されない。
即ち、本発明の非水電解質二次電池は、本発明の正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、またはリチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物からなる負極活物質と、負極集電体とを有する負極とを具備する非水電解質二次電池である。
【0134】
以下、本発明の非水電解質二次電池について、リチウムイオン二次電池を例に挙げて説明する。
【0135】
負極集電体としては、例えば、銅、ニッケルが挙げられる。
【0136】
負極活物質としては、リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料またはリチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物を使用することができる。リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料としては、例えば、グラファイト,黒鉛等の炭素材料が挙げられる。リチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物としては、例えば、酸化スズ、酸化チタン等の酸化物が挙げられる。
【0137】
電解液としては、作動電圧で変質したり、分解したりしない化合物であれば特に限定されない。
溶媒としては、例えば、ジメトキシエタン,ジエトキシエタン,エチレンカーボネート,プロピレンカーボネート,ジメチルカーボネート,ジエチルカーボネート,エチルメチルカーボネート,メチルホルメート,γ−ブチロラクトン,2−メチルテトラヒドロフラン,ジメチルスルホキシド,スルホラン等の有機溶媒が挙げられる。これらは単独でまたは2種類以上を混合して用いることができる。
【0138】
電解質としては、例えば、過塩素酸リチウム,四フッ化ホウ酸リチウム,四フッ化リン酸リチウム,トリフルオロメタン酸リチウム等のリチウム塩が挙げられる。
上述した溶媒とリチウム塩とを混合して電解液とする。ここで、ゲル化剤等を添加し、ゲル状として使用してもよい。また、吸湿性ポリマーに吸収させて使用してもよい。
更に、無機系または有機系のリチウムイオンの導電性を有する固体電解質を使用してもよい。
【0139】
セパレーターとしては、例えば、ポリエチレン製、ポリプロピレン製等の多孔性膜等が挙げられる。
【0140】
結着剤としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミドアクリル樹脂等が挙げられる。
【0141】
本発明の正極活物質と、上述した負極活物質、電解液、セパレーターおよび結
着剤を用いて、定法に従い、リチウムイオン二次電池とすることができる。
これにより従来達成できなかった優れた電池特性が実現できる。
【0142】
本発明の正極活物質を用いて正極を製造する好ましい方法を以下に説明する。
本発明の正極活物質の粉末に、アセチレンブラック、黒鉛等のカーボン系導電剤、結着剤および結着剤の溶媒または分散媒とを混合することにより正極合剤を調製する。得られた正極合剤をスラリーまたは混練物とし、アルミニウム箔等の集電体に塗布し、または担持させ、プレス圧延して正極活物質層を集電体に形成させる。
図4は、正極の模式的な断面図である。図4に示されているように、正極13は、正極活物質6を結着剤5により集電体12上に保持させてなる。
【0143】
本発明の正極活物質は、導電剤粉末との混合性に優れ、電池の内部抵抗が小さいと考えられる。したがって、充放電特性、特に放電容量に優れる。
また、本発明の正極活物質は、結着剤と混練するときも、流動性に優れ、また、結着剤の高分子と絡まりやすく、優れた結着性を有する。
更に、本発明の正極活物質は、粗大粒子を含まず、球状であるため、作製した正極の塗膜面の表面が平滑性に優れたものになる。このため、正極板の塗膜面は結着性に優れ、剥がれにくくなる。また、表面が平滑で充放電に伴う塗膜面表面のリチウムイオンの出入りが均一に行われるため、サイクル特性において顕著な改善がみられる。
【0144】
リチウムイオン二次電池の形状は、特に限定されず、円筒型、コイン型、角型、ラミネート型等とすることができる。
図5は、円筒型電池の模式的な断面図である。図5に示されるように、円筒型電池20においては、集電体12上に正極活物質層を形成させた正極13と、集電体12上に負極活物質層を形成させた負極11とがセパレーター14を介して、繰り返し積層されている。
図6は、コイン型電池の模式的な部分断面図である。図6に示されるように、コイン型電池30においては、集電体12上に正極活物質層を形成させた正極13と、負極11とが、セパレーター14を介して、積層されている。
図7は、角型電池の模式的な斜視図である。図7に示されるように、角型電池40においては、集電体12上に正極活物質層を形成させた正極13と、集電体12上に負極活物質層を形成させた負極11とが、セパレーター14を介して、繰り返し積層されている。
【0145】
本発明の正極活物質を用いた非水電解質二次電池の別の態様を以下に示す。
正極、負極、セパレーターおよび非水電解質を有する非水電解質二次電池であって、下記Iを正極の正極活物質として、下記IIを負極の負極活物質として用いる非水電解質二次電池を得ることができる。
I:上述した本発明の正極活物質。
II:リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料またはリチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物からなる非水電解質二次電池用負極活物質。
この非水電解質二次電池は、過放電特性、サイクル特性および負荷特性に優れる。
【0146】
本発明の正極活物質を用いた非水電解質二次電池の用途は特に限定されない。例えばノートパソコン、ペン入力パソコン、ポケットパソコン、ノート型ワープロ、ポケットワープロ、電子ブックプレーヤ、携帯電話、コードレスフォン子機、電子手帳、電卓、液晶テレビ、電気シェーバ、電動工具、電子翻訳機、自動車電話、携帯プリンタ、トランシーバ、ページャ、ハンディターミナル、携帯コピー、音声入力機器、メモリカード、バックアップ電源、テープレコーダ、ラジオ、ヘッドホンステレオ、ハンディクリーナ、ポータブルコンパクトディスク(CD)プレーヤ、ビデオムービ、ナビゲーションシステム等の機器の電源として用いることができる。
また、照明機器、エアコン、テレビ、ステレオ、温水器、冷蔵庫、オーブン電子レンジ、食器洗浄器、洗濯機、乾燥器、ゲーム機器、玩具、ロードコンディショナ、医療機器、自動車、電気自動車、ゴルフカート、電動カート、電力貯蔵システム等の電源として用いることができる。
さらに、用途は、民生用に限定されず、軍需用または宇宙用とすることもできる。
【実施例】
【0147】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限られるものではない。
【0148】
1.正極活物質の作製
〔実施例1〕
四酸化三コバルトと、炭酸リチウムを混合し、得られた混合物を約600℃で約24時間焼成した。得られた焼成物を遊星ボールミルにて30時間粉砕して、本発明の正極活物質を得た。
得られた正極活物質をX線回折装置(RINT2500V、理学電気社製)で測定したところ、非結晶質な部分を有するコバルト酸リチウムであり、(003)結晶性は95Åであった。
なお、上記(003)結晶性の値は、理学製焼結シリコン(311)面の結晶性が1130Åのときの値を示す。
【0149】
〔実施例2〕
四酸化三コバルトと、炭酸リチウムを混合し、得られた混合物を約600℃で約24時間焼成した。得られた焼成物を遊星ボールミルにて10時間粉砕して、本発明の正極活物質を得た。
得られた正極活物質をX線回折装置(RINT2500V、理学電気社製)で測定したところ、非結晶質な部分を有するコバルト酸リチウムであり、(003)結晶性は208Åであった。
なお、上記(003)結晶性の値は、理学製焼結シリコン(311)面の結晶性が1130Åのときの値を示す。
【0150】
〔比較例1〕
四酸化三コバルトと、炭酸リチウムを混合し、得られた混合物を約600℃で約24時間焼成して正極活物質を得た。
得られた正極活物質をX線回折装置(RINT2500V、理学電気社製)で測定したところ、非結晶質な部分を有さないコバルト酸リチウムであり、(003)結晶性は、554Åであった。
なお、上記(003)結晶性の値は、理学製焼結シリコン(311)面の結晶性が1130Åのときの値を示す。
【0151】
2.正極活物質の電池特性
上記で得られた各正極活物質を用いて、試験用二次電池を作製して、以下のようにして評価した。
【0152】
試験用二次電池は以下のように作製した。
正極活物質の粉末60重量部と、導電剤となる炭素粉末20重量部と、ポリフッ化ビニリデンのノルマルメチルピロリドン溶液(ポリフッ化ビニリデン量として20重量部)とを混練してペーストを調製し、これを正極集電体に塗布し乾燥させて正極板とした。得られた正極板を用い、負極がリチウム金属である試験用二次電池を作製した。
【0153】
(1)不可逆容量
充電電位4.3V、放電電位2.75V、電流密度0.2mA/cmの条件で、初期充電容量と初期放電容量を測定し、初期充電容量と初期放電容量の差を不可逆容量とした。不可逆容量が大きいほど、過放電特性に優れている。
【0154】
結果を表1に示す。
表1から明らかなように、本発明の正極活物質は、比較例の正極活物質に比べて不可逆容量が大きく、過放電特性に優れていることがわかる。
【0155】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明の非水電解質二次電池用正極活物質は、非水電解質二次電池に利用することができる。本発明の非水電解質二次電池の製造方法により非水電解質二次電池を製造することができる。
本発明の非水電解質二次電池は、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルカメラ等のモバイル機器および電気自動車用バッテリー等の電源等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0157】
【図1】図1は、リチウムイオン二次電池の充放電サイクル時の正極および負極の電位の変化を模式的に示すグラフである。
【図2】図2は、層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造を示す模式図である。
【図3】図3は、スピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物の結晶構造を示す模式図である。
【図4】図4は、正極の模式的な断面図である。
【図5】図5は、円筒型電池の模式的な断面図である。
【図6】図6は、コイン型電池の模式的な部分断面図である。
【図7】図7は、角型電池の模式的な斜視図である。
【符号の説明】
【0158】
1 3aサイト
2 6cサイト
3 3bサイト
4 結着剤
5 正極活物質
6 8aサイト
7 32eサイト
8 16dサイト
11 負極
12 集電体
13 正極
14 セパレーター
20 円筒型電池
30 コイン型電池
40 角型電池


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、非結晶質な部分を有し、
(003)結晶性は、0Åより大きく1000Å以下である、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物および/またはリチウムニッケル複合酸化物である請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項3】
少なくともスピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、非結晶質な部分を有し、
(400)結晶性は、0Åより大きく1000Å以下である、非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項4】
前記リチウム遷移金属複合酸化物は、リチウムマンガン複合酸化物である請求項3に記載の非水電解質二次電池用正極活物質。
【請求項5】
少なくともスピネル構造および/または層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第一の活物質と、非結晶質な部分を有し、(003)結晶性が、0Åより大きく1000Å以下である、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第二の活物質と、正極集電体とを有する正極と、
リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、またはリチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物からなる負極活物質と、負極集電体とを有する負極と、を具備する非水電解質二次電池。
【請求項6】
少なくともスピネル構造および/または層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第一の活物質と、非結晶質な部分を有し、(400)結晶性が、0Åより大きく1000Å以下である、少なくともスピネル構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する第二の活物質と、正極集電体とを有する正極と、
リチウムイオンを吸蔵放出可能な炭素材料、またはリチウムイオンを吸蔵放出可能な化合物からなる負極活物質と、負極集電体とを有する負極と、を具備する非水電解質二次電池。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−4631(P2006−4631A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176321(P2004−176321)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000226057)日亜化学工業株式会社 (993)
【Fターム(参考)】