説明

非水電解質二次電池用複合活物質とそれを用いた非水電解質二次電池

【課題】従来よりも高い初期放電容量と優れたサイクル特性との両立が可能な非水電解質二次電池を与える複合活物質を提供する。
【解決手段】リチウムを吸蔵および放出可能な活物質粒子と、活物質粒子の表面から成長させたファイバとを含み、活物質粒子は、少なくともケイ素を含み、ファイバは、少なくとも炭素を含み、活物質粒子とファイバとの間に、活物質粒子とファイバとの結合力を高める密着相を有する、非水電解質二次電池用複合活物質。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に非水電解質二次電池用複合活物質に関し、詳しくは、少なくともケイ素を含む活物質粒子と、活物質粒子の表面から成長させたファイバとを含む複合活物質に関する。本発明の複合活物質は、活物質粒子とファイバとの間に、活物質粒子とファイバとの結合力を高める密着相を有する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質二次電池は、小型かつ軽量で、高エネルギー密度を有する。よって、機器のポータブル化およびコードレス化が進む中で、非水電解質二次電池の需要が高まっている。現在、非水電解質二次電池の負極活物質には、主に炭素材料(天然黒鉛、人造黒鉛など)が用いられている。黒鉛の理論容量は372mAh/gである。現在実用化されている炭素材料からなる負極活物質の容量は、黒鉛の理論容量に近くなってきている。よって、炭素材料の改良により、更なる容量の向上を実現することは非常に困難である。
【0003】
一方、リチウムと合金化可能な元素、特にSiを含む材料の容量は、黒鉛の理論容量を大きく上回る。よって、ケイ素を含む材料が、次世代の負極活物質として期待されている。しかし、ケイ素を含む材料は、リチウムの吸蔵および放出に伴う体積変化が非常に大きい。よって、電池の充放電サイクルを繰り返すと、負極活物質が膨張と収縮を繰り返し、活物質粒子間の導電ネットワークが切断される。そのため、充放電サイクルに伴う劣化が非常に大きくなる。
【0004】
そこで、活物質粒子の割れを防ぐために、活物質の結晶子サイズをナノレベルにすることが提案されている。また、ケイ素を含む材料と炭素材料とを複合化することが提案されている。更に、ケイ素と遷移金属とを合金化することが検討されている。しかし、実用的なサイクル特性を得ることは困難である。
【0005】
このような状況において、ケイ素を含む負極活物質と、カーボンナノファイバの成長を促す触媒元素と、負極活物質の表面から成長させたカーボンナノファイバとを含む複合粒子が、負極材料として提案されている。このような複合粒子を用いることにより、高い充放電容量と、優れたサイクル特性とを実現できることが見出されつつある(特許文献1参照)。
【0006】
特許文献1の複合粒子では、活物質粒子がカーボンナノファイバと化学結合しており、カーボンナノファイバ同士は互いに絡み合っている。このため、負極活物質が膨張と収縮を繰り返しても、活物質粒子同士の電気的接続は、カーボンナノファイバを通じて維持される。よって、活物質粒子間の導電ネットワークの切断は、従来よりも起こりにくくなる。また、カーボンナノファイバが、活物質粒子間に空間を確保するため、活物質粒子の体積変化に伴う応力が緩和される。
【特許文献1】特開2004−349056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の複合粒子の場合、活物質粒子がリチウムの吸蔵および放出を繰り返すと、活物質粒子の膨張と収縮に伴い、粒子表面からカーボンナノファイバが脱落する場合がある。また、ファイバと活物質粒子との結合が弱いと、複合粒子をバインダーと混合して、電極合剤ペーストを調製する際や、電極合剤ペーストを集電体に塗布して電極を形成する際に、活物質粒子の表面からファイバが脱落しやすい。脱落したファイバが電極に含まれると、サイクル特性を十分に向上させることは困難である。更に、活物質粒子の表面からファイバが脱落すると、活物質粒子とファイバとの比率が変動する。よって、電極容量を厳密に制御することが困難になる。
【0008】
ファイバは、電池容量にほとんど寄与しない。よって、電池容量を向上させるためには、負極に含まれる活物質粒子の密度を向上させることが不可欠となる。すなわち、容量を向上させる観点からは、活物質粒子とファイバとの合計に占めるファイバの体積割合は小さい方が望ましい。一方、ファイバの割合が減少すると、ファイバによって確保される空間が小さくなり、活物質粒子の体積変化に伴う応力を十分に緩和することができない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
サイクル特性を十分に向上させるには、ファイバの活物質粒子からの脱落を防ぐこと、すなわちファイバと活物質粒子とを強く結合させることが重要となる。また、電池容量の向上とサイクル特性の向上とを両立するには、活物質粒子間の空間を確保でき、導電ネットワークを確保できる範囲で、活物質粒子の表面にファイバを疎に成長させる必要がある。この場合、ファイバの活物質粒子からの脱落を防ぐことが特に重要となる。
【0010】
以上を鑑み、本発明は、第1に、リチウムを吸蔵および放出可能な活物質粒子と、活物質粒子の表面から成長させたファイバとを含み、活物質粒子は、少なくともケイ素を含み、ファイバは、少なくとも炭素を含み、活物質粒子とファイバとの間に、活物質粒子とファイバとの結合力を高める密着相を有する、非水電解質二次電池用複合活物質に関する。
【0011】
ここで、密着相は、遷移金属元素を含み、遷移金属元素は、Ti、Fe、Co、Ni、ZrおよびHfよりなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。密着相は、例えばケイ素と遷移金属元素との合金や、遷移金属元素の酸化物を含む。
【0012】
本発明は、第2に、(i)少なくともケイ素を含む活物質粒子の表面に、Ti、Fe、Co、Ni、ZrおよびHfよりなる群から選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素を付与する工程と、(ii)遷移金属元素とケイ素とを反応させて、合金を生成させる工程と、(iii)合金を担持した活物質粒子の表面から、炭素を含むファイバを成長させる工程とを含む、非水電解質二次電池用複合活物質の製造方法(方法A)に関する。
【0013】
方法Aにおいて、合金を生成させる工程(ii)は、還元雰囲気または不活性雰囲気中で、遷移金属元素を金属状態に還元してからケイ素と反応させる工程を含むことが好ましい。
【0014】
本発明は、第3に、(i)Ti、Fe、Co、Ni、ZrおよびHfよりなる群から選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素を含む化合物の蒸気を、少なくともケイ素を含む活物質粒子の表面と接触させ、活物質粒子に遷移金属元素を付与する工程、(ii)ケイ素を含む化合物の蒸気を、遷移金属元素が付与された活物質粒子の表面と接触させ、遷移金属元素とケイ素との合金を生成させる工程、(iii)合金を担持した活物質粒子の表面から、炭素を含むファイバを成長させる工程を含む、非水電解質二次電池用複合活物質の製造方法(方法B)に関する。
【0015】
方法Bにおいて、遷移金属元素を付与する工程(i)が、遷移金属元素を含む化合物の蒸気を、遷移金属元素を含む化合物が分解する温度で、活物質粒子の表面と接触させる工程を含むことが好ましく、合金を生成させる工程(ii)は、ケイ素を含む化合物の蒸気を、ケイ素を含む化合物が分解する温度で、活物質粒子の表面と接触させる工程を含むことが好ましい。
【0016】
本発明は、第4に、(i)少なくともケイ素を含む活物質粒子の表面に、Ti、Fe、Co、Ni、ZrおよびHfよりなる群から選ばれた少なくとも1種の第1の遷移金属元素を含む化合物を付与し、第1の遷移金属元素を酸化物に変化させる工程と、(ii)酸化物を担持した活物質粒子の表面に、Ti、Fe、Co、Ni、ZrおよびHfよりなる群から選ばれた少なくとも1種の第2の遷移金属元素を付与する工程と、(iii)第2の遷移金属元素を還元してから、活物質粒子の表面から、炭素を含むファイバを成長させる工程とを含む、非水電解質二次電池用複合活物質の製造方法(方法C)に関する。
【0017】
本発明は、更に、リチウムの吸蔵および放出が可能な正極、上記の複合活物質を含む負極、正極と負極との間に介在するセパレータ、ならびに非水電解質を具備する、非水電解質二次電池に関する。
【0018】
少なくともケイ素を含む活物質粒子と炭素を含むファイバとの間に、上記のような密着相を形成することで、活物質粒子とファイバとの結合が顕著に高められる。これは、ケイ素を含む活物質粒子および炭素を含むファイバの両方に対して、密着相が高い結合力を有するためと推測される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、少なくともケイ素を含む活物質粒子と炭素を含むファイバとの結合が顕著に高められる。よって、電極製造工程において、ファイバの活物質粒子からの脱落が抑制され、活物質粒子の表面と接続していないファイバが複合活物質に混入するのを防ぐことができる。また、電池の充放電過程において、活物質粒子が膨張と収縮を繰り返しても、ファイバの活物質粒子からの脱落が起こりにくい。
【0020】
以上より、本発明によれば、電極の集電性が向上し、非水電解質二次電池の初期放電容量およびサイクル特性が向上する。また、活物質粒子とファイバとの比率の変動を防止できるため、電極容量を厳密に制御することができる。
本発明は、活物質粒子の表面にファイバを疎に成長させることにより、電池容量の更なる向上とサイクル特性の向上とを両立する場合に特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明の非水電解質二次電池用複合活物質(以下、複合活物質)は、少なくともケイ素を含む活物質粒子と、活物質粒子の表面から成長させた炭素を含むファイバとを含む。活物質粒子とファイバとの間には、活物質粒子とファイバとの結合力を高める密着相が存在する。
【0022】
図1は、複合活物質の一形態を示す。図1の複合活物質10では、活物質粒子11の表面の一部に、密着相12が形成されている。炭素を含むファイバ13は、活物質粒子11の表面の密着相12が形成された領域から成長している。ファイバ13の先端(自由端)には、触媒元素からなる粒子(触媒粒子)14が担持されている。図1では触媒粒子14がファイバ13の自由端に担持されているが、触媒粒子14は活物質粒子11の表面に存在する場合もある。
【0023】
図2は、複合活物質の別の一形態を示す。図2の複合活物質20では、活物質粒子21の表面のほぼ全体に、密着相22が層状に形成されている。図2では触媒粒子24がファイバ23の自由端に担持されているが、触媒粒子24は活物質粒子21の表面に存在する場合もある。
【0024】
炭素を含むファイバは、活物質粒子間に空間を確保する役割を果たす。ファイバが形成する空間は、活物質粒子の体積変化に伴う応力を緩和する。ファイバ同士の接触や絡み合いにより、活物質粒子間の導電ネットワークも確保される。
【0025】
活物質粒子とファイバとの結合は化学結合(共有結合、イオン結合など)である。すなわち、ファイバは、活物質粒子の表面の密着相に直接結合している。よって、充放電時に活物質が大きな膨張と収縮を繰り返しても、ファイバと活物質との結合が維持されやすい。
【0026】
密着相は、Ti、Fe、Co、Ni、ZrおよびHfよりなる群から選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素を含むことが好ましい。例えば、ケイ素と遷移金属元素との合金を含む密着相や、遷移金属元素の化合物を含む密着相が好適である。このような密着相は、ケイ素を含む活物質粒子および炭素を含むファイバと強く結合する。よって、密着相は、活物質粒子とファイバとの結合を顕著に高める役割を果たす。
【0027】
ケイ素と遷移金属元素との合金としては、例えばニッケルシリサイド、鉄シリサイド、コバルトシリサイドなどが挙げられる。また、遷移金属元素の化合物としては、例えばチタン酸化物、ジルコニア酸化物、ハフニウム酸化物などが挙げられる。
【0028】
ケイ素を含む活物質は、特に限定されないが、ケイ素単体、ケイ素酸化物、ケイ素合金などが挙げられる。ケイ素酸化物には、例えばSiOx(0<x<2、好ましくは0.1<x<1.9)を用いることができる。ケイ素合金には、例えばSiと遷移金属元素とを含む合金(M−Si合金)を用いることができる。例えば、Ni−Si合金、Ti−Si合金などを用いることが好ましい。
【0029】
活物質粒子の粒径は、特に限定はされないが、0.1μm〜100μmが好ましく、1〜10μmが特に好ましい。平均粒径が0.1μmより小さくなると、活物質粒子の比表面積が大きくなり、初回充放電時の不可逆容量が大きくなることがある。平均粒径が100μmより大きくなると、充放電により、活物質粒子が粉砕されやすくなる。活物質粒子の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば(株)日機装製の「マイクロトラックFRA」)により測定することができる。この場合、体積基準の粒度分布におけるメディアン径(D50)が平均粒径となる。
【0030】
炭素を含むファイバは、カーボンナノファイバおよびカーボンナノチューブよりなる群から選ばれた少なくとも1種を含むことが好ましい。ここで、カーボンナノファイバとは、繊維状の炭素材料全般を意味し、カーボンナノチューブとは、中空で繊維状の炭素材料を意味する。カーボンナノチューブは、カーボンナノファイバの一形態に相当する。
【0031】
炭素を含むファイバの繊維長は、10nm〜1000μmが好ましく、500nm〜500μmが更に好ましい。ファイバの繊維長が10nm未満では、活物質粒子間の導電ネットワークを維持する効果などが小さくなる。繊維長が1000μmを超えると、電極の活物質密度が低下し、高いエネルギー密度が得られない場合がある。
ファイバの繊維径は1nm〜1000nmが好ましく、50nm〜300nmが更に好ましい。ただし、ファイバの一部は、電極の電子伝導性を向上させる観点から、繊維径1nm〜40nmの微細なファイバであることが好ましい。例えば、繊維径40nm以下の微細なファイバと、繊維径50nm以上の大きなファイバとを同時に含むことが好ましい。繊維径20nm以下の微細なファイバと、繊維径80nm以上の大きなファイバとを同時に含むことが更に好ましい。
【0032】
活物質粒子の表面に成長させるファイバの量は、複合活物質全体の5〜70重量%が好ましく、10〜40重量%が、更に好ましい。ファイバの量が5重量%未満では、活物質粒子間の導電ネットワークを維持する効果などが小さくなる。ファイバの量が70重量%を超えると、電極の活物質密度が低下し、高いエネルギー密度が得られない場合がある。
【0033】
ファイバの形状は、特に限定されないが、例えばチューブ状、アコーディオン状、プレート状、ヘーリング・ボーン状などが挙げられる。
【0034】
複合活物質は、例えば以下の方法A〜Cにより製造することができる。
[方法A]
方法Aは、(i)少なくともケイ素を含む活物質粒子の表面に、Ti、Fe、Co、Ni、ZrおよびHfよりなる群から選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素を付与する工程と、(ii)遷移金属元素とケイ素とを反応させて、合金を生成させる工程と、(iii)合金を担持した活物質粒子の表面から、炭素を含むファイバを成長させる工程とを有する。
【0035】
Ti、Fe、Co、Ni、ZrおよびHfよりなる群から選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素には、炭素を含むファイバの成長を促す触媒作用がある。遷移金属元素とケイ素との合金は、密着相を構成する。
【0036】
工程(i)は、例えば、遷移金属化合物の溶液と、活物質粒子とを混合する工程を含む。溶液において、遷移金属化合物の濃度は、0.01〜5重量%が好適である。遷移金属化合物には、例えば、酸化物、炭化物、硝酸塩などを用いることが好ましい。例えば硝酸ニッケル、硝酸コバルト、硝酸鉄などを用いることができる。これらのうちでは、特に、硝酸ニッケル、硝酸コバルトなどが好ましい。溶液の溶媒には、例えば、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合物などが用いられる。有機溶媒には、例えばエタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、ベンゼン、ヘキサン、テトラヒドロフランなどを用いることができる。
【0037】
次に、得られた溶液と活物質粒子とを混合する。その際、溶液の温度は、常温(例えば10〜30℃)でよい。活物質粒子と溶液との混合物は、十分に攪拌することが望ましい。
その後、活物質粒子から溶媒を除去し、遷移金属化合物を担持した活物質粒子を乾燥させる。乾燥温度は80〜120℃が好適であり、乾燥時間は15〜30分間が好適である。乾燥は、例えば大気中で行うことができる。これにより、活物質粒子の表面に、遷移金属化合物の粒子(以下、触媒粒子)が付与される。遷移金属化合物として硝酸ニッケルを用いた場合、触媒粒子として硝酸ニッケル粒子が形成される。
【0038】
活物質粒子に付与する遷移金属元素の量は、活物質粒子100重量部あたり、0.01〜10重量部であることが望ましく、0.5〜3重量部であることが、更に望ましい。遷移金属元素の量が0.01重量部未満では、炭素を含むファイバを成長させるのに長時間を要し、複合活物質の生産効率が低下する。遷移金属元素の量が10重量部を超えると、触媒粒子の凝集により、不均一で太い繊維径のファイバが成長する。そのため、電極の導電性や活物質密度が低下する。
【0039】
触媒粒子の粒径は、1nm〜1000nmが好ましく、10nm〜100nmが更に好ましい。粒径が1nm未満の触媒粒子の生成は非常に難しい。触媒粒子の粒径が1000nmを超えると、触媒粒子の大きさが極端に不均一となり、ファイバを成長させることが困難になる。
【0040】
工程(ii)は、例えば、遷移金属元素(触媒粒子)を担持した活物質粒子を還元し、その後、加熱して、触媒元素とケイ素とを反応させる工程を含む。
まず、遷移金属元素を担持した活物質粒子を、アルゴン(Ar)やヘリウム(He)を含む不活性雰囲気中に導入し、300〜400℃で、5分〜1時間加熱する。この間に、触媒粒子は酸化物に変換される。例えば硝酸ニッケル粒子は、酸化ニッケル粒子に変化する。
【0041】
その後、例えば水素ガスを含む還元雰囲気中で、遷移金属元素を担持した活物質粒子を、300〜600℃で、1分〜1時間加熱する。この間に、遷移金属元素は金属状態に還元される。例えば酸化ニッケル粒子は、金属状態のニッケル粒子に還元される。
【0042】
触媒粒子の直径、分布密度などは、触媒元素を含む塩の溶液の濃度、還元温度、活物質粒子の表面状態などに影響される。これらのパラメータを制御することにより、触媒粒子の分布密度を109〜1010個/μm2程度に制御することが好ましい。
【0043】
遷移金属元素を金属状態に還元した後、ケイ素と遷移金属元素との反応を進行させる。このときの反応温度は、活物質粒子や遷移金属元素の種類に依存する。ケイ素と遷移金属元素との反応は、金属状態の触媒粒子を担持した活物質粒子を、400〜800℃で、還元雰囲気中で加熱することにより進行する。これにより、遷移金属元素とケイ素との合金が生成する。この合金が密着相として機能する。例えば金属状態のニッケル粒子の少なくとも一部は、ケイ素と反応し、ニッケルシリサイド(例えばNi2Si)を生成する。Ni2Siは炭素を含むファイバの成長を促す触媒作用を有する。優れた触媒活性と密着相を得る観点から、Ni2Siは部分的に生成させることが好ましい。Ni2Siの生成量は、反応温度および反応時間によって制御できる。
【0044】
遷移金属元素とケイ素との反応を行わない場合、活物質粒子とファイバとの間に、密着相を形成することができない。この場合、活物質粒子の表面にファイバが密に成長する傾向があり、高容量を維持しながら活物質粒子間に必要な空間を確保することが困難になる。
【0045】
活物質粒子が酸素を多く含むケイ素酸化物からなる場合、シリサイドが生成しにくくなる。このような場合には、ケイ素酸化物を不活性雰囲気または還元雰囲気で、例えば600℃以上の温度で熱処理しておく。熱処理は、触媒粒子を活物質粒子に担持させる前に予め行っておく。この熱処理により、不均化反応が起こり、ケイ素酸化物中にケイ素単体からなるドメインと、SiO2に近い酸素量を有するケイ素酸化物からなるドメインとが分離する。ケイ素単体からなるドメインでは、シリサイドが容易に生成する。FeやCoは、Niに較べて比較的容易にケイ素と反応し、シリサイドを生成するため、上述の不均化反応を行う必要はない。
【0046】
工程(iii)は、炭素を含むファイバを成長させる工程である。炭素を含むファイバは、金属状態の遷移金属元素を担持した活物質粒子と、炭素源となる反応性ガスとを、所定温度に設定された反応装置内に導入することで進行する。ファイバは、金属状態の遷移金属元素を起点として成長する。
【0047】
反応性ガスには、炭素原子含有ガスと水素ガスとの混合ガスを用いることが好ましい。炭素原子含有ガスと水素ガスとの混合割合、トータル量は、特に限定されない。炭素原子含有ガスは、特に限定されないが、メタン、エタン、エチレン、ブタン、一酸化炭素などが用いられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。炭素を含むファイバを成長させる際の条件は、特に限定されない。ファイバの成長中、触媒粒子は金属状態であることが望ましい。
【0048】
所定の時間をかけてファイバを成長させた後、反応性ガスの導入を停止すると、ファイバの成長も停止する。その後、反応装置内の温度を常温に戻し、複合活物質を回収する。
【0049】
[方法B]
方法Bは、(i)Ti、Fe、Co、Ni、ZrおよびHfよりなる群から選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素を含む化合物の蒸気を、少なくともケイ素を含む活物質粒子の表面と接触させ、活物質粒子に遷移金属元素を付与する工程、(ii)ケイ素を含む化合物の蒸気を、遷移金属元素が付与された活物質粒子の表面と接触させ、遷移金属元素とケイ素との合金を生成させる工程、(iii)合金を担持した活物質粒子の表面から、炭素を含むファイバを成長させる工程を有する。
【0050】
工程(i)および(ii)は、CVD(Chemical Vapor Deposition)によって密着相を構成する工程である。CVDの手法は特に限定されないが、以下に例を挙げる。
工程(i)は、例えば、遷移金属化合物の蒸気を、遷移金属化合物が分解する温度で、活物質粒子の表面と接触させる工程を含む。このとき、活物質粒子100重量部あたり、0.01〜5重量部の遷移金属元素を活物質粒子に付与することが好ましい。
【0051】
遷移金属化合物には、例えばNi(TMOD)2(TMOD:テトラメチルオクタンジオン)のような有機金属化合物を用いることができる。
遷移金属化合物は、溶媒に溶解させて、溶液にしてからガス化させることが好ましい。溶液の溶媒には、トルエン、ヘキサン等を用いることができる。溶液において、遷移金属化合物の濃度は、0.05mol/L〜0.1mol/Lが好適である。
【0052】
溶液をガス化させる方法は、特に限定されないが、溶液を150〜250℃に加熱したり、超音波振動子により溶液に超音波を印加したりして行われる。溶液の蒸気を活物質粒子の表面と接触させる際、チャンバ内はアルゴン、窒素などの雰囲気であることが好ましい。チャンバ内では、活物質粒子を300〜600℃に加熱することが好ましい。その後、必要に応じて、CVDチャンバ内に水素ガスを導入し、還元雰囲気中で、遷移金属元素を金属状態に還元する。
【0053】
工程(ii)は、例えば、ケイ素を含む化合物の蒸気を、ケイ素を含む化合物が分解する温度で、活物質粒子の表面と接触させる工程を含む。このとき、活物質粒子100重量部あたり、0.01〜5重量部のケイ素を活物質粒子に付与することが好ましい。
【0054】
ケイ素を含む化合物には、様々な化合物を用いることができ、例えばシランガス(SiH4)、ジシランガス(Si26)などを用いることができる。シランガスは、金属状態の遷移金属元素と反応して、シリサイドを生成する。シランガスを活物質粒子の表面と接触させる際、チャンバ内はアルゴン、窒素などの雰囲気であることが好ましい。チャンバ内では、活物質粒子を400〜600℃に加熱することが好ましい。
【0055】
方法Bの工程(iii)は、方法Aの工程(iii)と同様である。
[方法C]
方法Cは、(i)少なくともケイ素を含む活物質粒子の表面に、Ti、Fe、Co、Ni、ZrおよびHfよりなる群から選ばれた少なくとも1種の第1の遷移金属元素を含む化合物を付与し、第1の遷移金属元素を酸化物に変化させる工程と、(ii)酸化物を担持した活物質粒子の表面に、Ti、Fe、Co、Ni、ZrおよびHfよりなる群から選ばれた少なくとも1種の第2の遷移金属元素を付与する工程と、(iii)第2の遷移金属元素を還元してから、活物質粒子の表面から、炭素を含むファイバを成長させる工程とを有する。この場合、第1の遷移金属元素に由来する酸化物が、密着相を構成する。
【0056】
工程(i)は、例えば、第1の遷移金属元素を含む化合物(以下、第1遷移金属化合物)の溶液と、活物質粒子とを混合する工程を含む。溶液において、第1遷移金属の濃度は、活物質粒子重量に対して0.01〜5重量%が好適である。第1遷移金属化合物には、様々な化合物を用いることができるが、例えば水溶性の乳酸チタンなどの有機金属化合物を用いることが好ましい。溶液の溶媒には、例えば、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合物などが用いられる。
【0057】
次に、得られた溶液と活物質粒子とを混合する。その際、溶液の温度は、常温(例えば10〜30℃)でよい。活物質粒子と溶液との混合物は、十分に攪拌することが望ましい。
その後、活物質粒子から溶媒を除去し、第1遷移金属化合物を担持した活物質粒子を乾燥させる。乾燥温度は80〜120℃が好適であり、乾燥時間は10〜60分間が好適である。乾燥は、例えば大気中で行うことができる。これにより、活物質粒子の表面に、第1遷移金属化合物が付与される。
【0058】
次に、第1遷移金属化合物を担持した活物質粒子を、空気や酸素などを含む酸化雰囲気中で、300〜600℃で、1分〜1時間加熱する。これにより、第1遷移金属化合物は酸化物に変化する。第1の遷移金属元素の酸化物は、活物質粒子100重量部あたり、0.01〜5重量部であることが好ましい。
【0059】
方法Cの工程(ii)および工程(iii)は、方法Aの工程(i)および工程(iii)と同様である。
方法Aは、図1に示したような、活物質粒子11とファイバ13との結合部付近だけに密着相12を有する複合活物質10の製造に適している。方法BおよびCは、図2に示したような、層状の密着相22を有する複合活物質20の製造に適している。
【0060】
次に、活物質粒子の表面から、炭素を含むファイバとしてカーボンナノファイバを成長させる工程の一例について、更に詳しく説明する。ただし、ファイバを成長させる方法は以下に限定されない。カーボンナノチューブなど、他のファイバを成長させる場合には、触媒、反応原料などを適宜変更すればよい。
【0061】
以上のような方法で製造された複合活物質は、活物質粒子とファイバとの間に密着相を有するため、活物質粒子とファイバとが強く結合している。例えば、水中に複合活物質を分散させ、得られた分散液に超音波エネルギーを付与しても、ファイバの脱落はほとんど認められない。密着相を有さない活物質粒子にファイバを成長させた複合活物質の場合、分散液の水面に脱落したファイバが浮遊する様子が認められる。
【0062】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0063】
本実施例では、上記の方法Aにより、図1に示すような複合活物質を製造した。図3のフロー図を参照しながら説明する。
【0064】
工程(i)
まず、関東化学(株)製の硝酸ニッケル6水和物(特級)1gをイオン交換水100gに溶解させた。得られた溶液を、平均粒径8μmの(株)高純度化学研究所製のケイ素酸化物(SiO)と混合し、室温(RT)で1時間攪拌した(S31)。その後、エバポレータ装置で混合物から水分を除去し、120℃で、30分間乾燥させた(S32)。その結果、硝酸ニッケル粒子を担持したケイ素酸化物が得られた。ケイ素酸化物に担持された硝酸ニッケル粒子中のニッケル元素の量は、ケイ素酸化物100重量部あたり0.5重量部であった。硝酸ニッケル粒子の平均粒径をSEMで観測したところ約50nmであった。
【0065】
工程(ii)
次に、硝酸ニッケルを担持したケイ素酸化物を、セラミック製反応容器内に投入し、ヘリウムガスの存在下で、反応容器内を400℃まで昇温させた。反応容器内の温度を400℃で1時間保持し、硝酸ニッケルの脱硝を行った(S33)。その結果、硝酸ニッケルは、酸化ニッケルに変化した。
【0066】
次に、反応容器内のヘリウムガスを、水素ガス20体積%とヘリウムガス80体積%との混合ガスに切り替え、反応容器内の温度を400℃で30分間保持した(S34)。この間に、酸化ニッケルは金属ニッケルに還元された。
【0067】
その後、反応容器内の温度を700℃へ上昇させ、その後、反応容器内の温度を700℃で1時間保持した(S35)。この間に、ケイ素酸化物中のケイ素とニッケルとが反応して、触媒活性を示す合金(Ni2Si)が生成した。反応容器内を室温まで冷却後、ケイ素酸化物粒子を取り出し、そのX線回折分析を行ったところ、Ni2Siの生成が確認できた。
【0068】
工程(iii)
Ni2Siを担持したケイ素酸化物粒子を、反応容器内に投入し、ヘリウムガス存在下で、反応容器内を400℃まで昇温させた。次に、ヘリウムガスを、水素ガス20体積%とエチレンガス80体積%との混合ガス(トータル流量は毎分4L)に置換した。その後、反応容器内の温度を400℃で1時間保持し、カーボンナノファイバを成長させて(S36)、複合活物質Aを得た。その後、混合ガスをヘリウムガスに置換し、室温になるまで冷却させた。
【0069】
複合活物質Aにおいて、カーボンナノファイバの繊維径は80nm、繊維長は20μmであった。カーボンナノファイバの量は、ケイ素酸化物粒子100重量部あたり25重量部(複合活物質全体の20重量%がカーボンナノファイバ)であった。カーボンナノファイバの量は、カーボンナノファイバを成長させる前後のケイ素酸化物粒子の重量変化から測定した。
【0070】
工程(iv)
複合活物質Aを100重量部と、ポリフッ化ビニリデン樹脂(PVDF)7重部と、適量のN−メチル−2−ピロリドン(NMP)とを混合し、電極合剤スラリーを調製した。得られたスラリーを厚さ15μmの銅箔の片面に塗布し、乾燥後、電極合剤を圧延して、電極Aを得た。
【実施例2】
【0071】
本実施例では、上記の方法Bにより、図2に示すような複合活物質を製造した。
工程(i)
平均粒径8μmの(株)高純度化学研究所製のケイ素酸化物(SiO)を、CVDチャンバ内にセットし、500℃に加熱した。一方、Ni(TMOD)2をトルエンに溶解させた溶液を調製した。溶液中のNi(TMOD)2の濃度は0.1mol/Lとした。
【0072】
得られた溶液を200℃でガス化させ、CVDチャンバ内に導入した。チャンバ内はアルゴン雰囲気とした。その結果、ケイ素酸化物粒子の表面にNiO膜が形成された。次に、CVDチャンバ内に水素ガスを導入し、NiO膜を有するケイ素酸化物粒子を500℃に加熱して、NiO膜を金属状態のNi膜に還元した。形成されたNi膜の量は、ケイ素酸化物100重量部あたり1重量部であった。
【0073】
工程(ii)
その後、CVDチャンバ内に、シランガスを導入し、シランガスを500℃に加熱されたNi膜を有するケイ素酸化物粒子に接触させた。その結果、シランがNi膜と反応して、Ni2Siが生成した。Ni2Siの生成は、X線回折分析により確認した。シランガスとの反応により、Ni膜を有するケイ素酸化物の重量は0.1重量%増加した。
【0074】
工程(iii)
実施例1の工程(iii)と同様の操作により、Ni2Siを担持したケイ素酸化物粒子の表面にカーボンナノファイバを成長させて、複合活物質Bを得た。カーボンナノファイバの繊維径、繊維長および生成量は、実施例1と同様であった。
【0075】
工程(iv)
複合活物質Bを用いたこと以外、実施例1と同様の操作により、電極Bを作製した。
【実施例3】
【0076】
本実施例では、上記の方法Cにより、図2に示すような複合活物質を製造した。
工程(i)
松本製薬工業(株)製のチタンラクテート(TiC6107)を水に溶解させ、活物質粒子重量に対してチタン濃度が1重量%の水溶液を調製した。得られた溶液を、平均粒径8μmの(株)高純度化学研究所製のケイ素酸化物(SiO)と混合した。この混合物を1時間攪拌後、エバポレータ装置で水分を除去し、ケイ素酸化物の表面にチタンラクテートを担持させた。
【0077】
チタンラクテートを担持したケイ素酸化物を、セラミックス製反応容器内に投入し、大気中で、反応容器内を400℃まで昇温させた。反応容器内の温度を400℃で1時間保持することにより、チタンラクテートを酸化チタン(TiO)に変化させた。ケイ素酸化物に担持されたチタン量は、ケイ素酸化物100重量部あたり1重量部であった。
【0078】
工程(ii)
関東化学(株)製の硝酸ニッケル6水和物(特級)1gをイオン交換水100gに溶解させた。得られた溶液を、酸化チタンを担持したケイ素酸化物粒子と混合し、混合物を1時間攪拌した。その後、エバポレータ装置で混合物から水分を除去し、乾燥させた。その結果、酸化チタンを担持したケイ素酸化物の表面に、更に硝酸ニッケル粒子が担持された。ケイ素酸化物に付与された硝酸ニッケル粒子中のニッケル元素の量は、ケイ素酸化物100重量部あたり1重量部であった。また、硝酸ニッケル粒子の平均粒径をSEMで観測したところ約50nmであった。
【0079】
工程(iii)
実施例1の工程(iii)と同様の操作により、酸化チタンと硝酸ニッケルとを担持したケイ素酸化物粒子の表面にカーボンナノファイバを成長させて、複合活物質Cを得た。カーボンナノファイバの繊維径、繊維長および生成量は、実施例1と同様であった。
【0080】
工程(iv)
複合活物質Cを用いたこと以外、実施例1と同様の操作により、電極Cを作製した。
【0081】
《比較例1》
本比較例では、密着相を有さない複合活物質を製造した。図4のフロー図を参照しながら説明する。
実施例1と同様に、ケイ素酸化物の表面に硝酸ニッケルを担持させた(S41〜42)。次に、硝酸ニッケルを担持したケイ素酸化物を、セラミック製反応容器内に投入し、ヘリウムガスの存在下で、反応容器内を400℃まで昇温させた。反応容器内の温度を400℃で1時間保持し、硝酸ニッケルの脱硝を行った(S43)。その結果、硝酸ニッケルは、酸化ニッケルに変化した。
【0082】
次に、反応容器内のヘリウムガスを、水素ガスとヘリウムガスとの混合ガスに切り替え、反応容器内の温度を400℃で30分間保持した(S44)。この間に、酸化ニッケルは金属ニッケルに還元された。
【0083】
次に、実施例1の工程(iii)と同様の操作により、金属ニッケルを担持したケイ素酸化物粒子の表面にカーボンナノファイバを成長させて(S45)、複合活物質Dを得た。
【0084】
本比較例では、図5に示すような複合活物質50が得られたと考えられる。複合活物質50は、活物質粒子51(ケイ素酸化物)と、活物質粒子51の表面に直接結合したファイバ53(カーボンナノファイバ)と、ファイバ53の先端に担持された触媒粒子54(金属ニッケル粒子)からなる。
【0085】
複合活物質Dを用いたこと以外、実施例1と同様の操作により、電極Dを作製した。
実施例1〜3および比較例1で作製した電極の合剤密度は0.8〜1.4g/cm3であった。
【0086】
[評価]
以下の要領で、図6に示すようなコイン型リチウムイオン二次電池60を作製した。実施例1〜3および比較例1で作製した電極を、120℃のオーブンで十分に乾燥させた後、作用電極64として用いた。対極にはリチウム金属箔65を用いた。電池容量は作用電極64で規制した。
【0087】
まず、電池缶61に作用電極64を載置して、その上に、ポリエチレン製の不織布からなるセパレータ66を被せた。セパレータ66の上から、所定量の非水電解質を注液した。非水電解質には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの体積1:1の混合溶媒にLiPF6を1.0mol/Lの濃度で溶解させたものを用いた。次に、封口板62の内面にリチウム金属箔65を圧着し、その封口板62で電池缶61の開口を塞いだ。電池缶61と封口板62との間にはガスケット63を介在させた。
【0088】
(初期放電容量)
各電池に対し、0.2Cの充電速度で0Vまで充電を行い、その後、0.2Cの放電速度で1.5Vになるまで放電を行い、初期放電容量(0.2C放電容量)を求めた。活物質重量あたりの放電容量を表1に示す。活物質重量あたりの放電容量は、作用電極の重量から、銅箔、PVDFおよびカーボンナノファイバの重量を差し引き、得られたケイ素酸化物の重量で、放電容量を除して求めた。
【0089】
(放電効率)
各電池に対し、0.2Cの充電速度で0Vまで充電を行い、その後、3.0Cの放電速度で1.5Vになるまで放電を行い、3.0C放電容量を求めた。3.0C放電容量の0.2C放電容量に対する割合(放電効率)を百分率値で表1に示す。
【0090】
(サイクル特性)
各電池に対し、0.2Cの充電速度で0Vまで充電を行い、その後、0.2Cの放電速度で1.5Vになるまで放電するサイクルを200サイクル繰り返した。200サイクル目の放電容量の初期放電容量に対する割合(容量維持率)を百分率値で表1に示す。
【0091】
(剥離度)
各複合活物質5gを、100mlの水中に分散させた。得られた分散液に、30分間、300Wの出力で、超音波を印加して、ケイ素酸化物粒子から剥離するカーボンナノファイバ量を測定した。超音波の印加終了後、静止状態で24時間放置し、溶液の上澄み部分に含まれるカーボンナノファイバを回収し、その重量を測定した。ただし、元から活物質粒子に結合していなかったカーボンファイバは、超音波処理を行う前に回収した。複合活物質5gに含まれていたカーボンナノファイバの重量に対する、剥離したカーボンナノファイバの重量の割合(剥離度)を百分率値で表1に示す。剥離度は、活物質粒子とカーボンナノファイバとの結合力に関連すると考えられる。
【0092】
【表1】

【0093】
表1が示すように、実施例1〜3の電極を用いた電池は、初期放電容量、放電効率および容量維持率が、いずれも比較例1の結果よりも優れていた。比較例1では、剥離度が50%であることから、複合活物質Dを用いて調製したスラリー中でも、カーボンナノファイバの多くが剥離し易い状態であることが想定される。比較例1のスラリー中には、カーボンナノファイバだけが凝集したと思われる大きな粒子が多く存在した。そのため、スラリーをろ過しなければ銅箔へ塗布することができなかった。比較例1では、カーボンナノファイバの剥離による集電性の劣化が原因で、放電容量、放電効率および容量維持率が低下したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明は、従来よりも高い初期放電容量と優れたサイクル特性との両立が要求される非水電解質二次電池の実現において有用である。本発明を適用可能な非水電解質二次電池は、特に限定されず、例えば円筒型、偏平型、角型、コイン型、ボタン型、シート型などの何れの形状の電池でもよい。正極、負極およびセパレータからなる極板群の形態は、捲回型でも積層型でもよい。電池の大きさは、小型携帯機器などに用いる小型でも、電気自動車等に用いる大型でもよい。本発明の非水電解質二次電池は、例えば携帯情報端末、携帯電子機器、家庭用小型電力貯蔵装置、自動二輪車、電気自動車、ハイブリッド電気自動車等の電源に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の複合活物質の一形態を示す概念図である。
【図2】本発明の複合活物質の別の一形態を示す概念図である。
【図3】本発明の複合活物質の製造プロセスの一例を示すフロー図である。
【図4】従来の複合活物質の製造プロセスの一例を示すフロー図である。
【図5】従来の複合活物質の一形態を示す概念図である。
【図6】実施例に係るコイン型リチウムイオン二次電池の縦断面図である。
【符号の説明】
【0096】
10、20、50 複合活物質
11、21、51 活物質粒子
12、22 密着相
13、23、53 ファイバ
14、24、54 触媒粒子
60 コイン型リチウムイオン二次電池
61 電池缶
62 封口板
63 ガスケット
64 作用電極
65 リチウム金属箔
66 セパレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを吸蔵および放出可能な活物質粒子と、前記活物質粒子の表面から成長させたファイバとを含み、
前記活物質粒子は、少なくともケイ素を含み、
前記ファイバは、少なくとも炭素を含み、
前記活物質粒子と前記ファイバとの間に、前記活物質粒子と前記ファイバとの結合力を高める密着相を有する、非水電解質二次電池用複合活物質。
【請求項2】
前記密着相は、遷移金属元素を含み、前記遷移金属元素は、Ti、Fe、Co、Ni、ZrおよびHfよりなる群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1記載の非水電解質二次電池用複合活物質。
【請求項3】
前記密着相は、ケイ素と前記遷移金属元素との合金を含む、請求項2記載の非水電解質二次電池用複合活物質。
【請求項4】
前記密着相は、前記遷移金属元素の酸化物を含む、請求項2記載の非水電解質二次電池用複合活物質。
【請求項5】
前記合金が、ニッケルシリサイドである、請求項3記載の非水電解質二次電池用複合活物質。
【請求項6】
前記酸化物が、チタン酸化物である、請求項4記載の非水電解質二次電池用複合活物質。
【請求項7】
前記ファイバが、カーボンナノファイバおよびカーボンナノチューブよりなる群から選ばれた少なくとも1種を含む、請求項1記載の非水電解質二次電池用複合活物質。
【請求項8】
(i)少なくともケイ素を含む活物質粒子の表面に、Ti、Fe、Co、Ni、ZrおよびHfよりなる群から選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素を付与する工程と、
(ii)前記遷移金属元素とケイ素とを反応させて、合金を生成させる工程と、
(iii)前記合金を担持した活物質粒子の表面から、炭素を含むファイバを成長させる工程とを含む、非水電解質二次電池用複合活物質の製造方法。
【請求項9】
前記合金を生成させる工程(ii)が、還元雰囲気または不活性雰囲気中で、前記遷移金属元素を金属状態に還元してからケイ素と反応させる工程を含む、請求項8記載の非水電解質二次電池用複合活物質の製造方法。
【請求項10】
(i)Ti、Fe、Co、Ni、ZrおよびHfよりなる群から選ばれた少なくとも1種の遷移金属元素を含む化合物の蒸気を、少なくともケイ素を含む活物質粒子の表面と接触させ、前記活物質粒子に前記遷移金属元素を付与する工程、
(ii)ケイ素を含む化合物の蒸気を、前記遷移金属元素が付与された活物質粒子の表面と接触させ、前記遷移金属元素とケイ素との合金を生成させる工程、
(iii)前記合金を担持した活物質粒子の表面から、炭素を含むファイバを成長させる工程を含む、非水電解質二次電池用複合活物質の製造方法。
【請求項11】
前記遷移金属元素を付与する工程(i)が、前記遷移金属元素を含む化合物の蒸気を、前記遷移金属元素を含む化合物が分解する温度で、前記活物質粒子の表面と接触させる工程を含み、前記合金を生成させる工程(ii)が、前記ケイ素を含む化合物の蒸気を、前記ケイ素を含む化合物が分解する温度で、前記活物質粒子の表面と接触させる工程を含む、請求項10記載の非水電解質二次電池用複合活物質の製造方法。
【請求項12】
(i)少なくともケイ素を含む活物質粒子の表面に、Ti、Fe、Co、Ni、ZrおよびHfよりなる群から選ばれた少なくとも1種の第1の遷移金属元素を含む化合物を付与し、前記第1の遷移金属元素を酸化物に変化させる工程と、
(ii)前記酸化物を担持した活物質粒子の表面に、Ti、Fe、Co、Ni、ZrおよびHfよりなる群から選ばれた少なくとも1種の第2の遷移金属元素を付与する工程と、
(iii)前記第2の遷移金属元素を還元してから、前記活物質粒子の表面から、炭素を含むファイバを成長させる工程とを含む、非水電解質二次電池用複合活物質の製造方法。
【請求項13】
リチウムの吸蔵および放出が可能な正極、請求項1記載の複合活物質を含む負極、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータ、ならびに非水電解質を具備する、非水電解質二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−335198(P2007−335198A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−164833(P2006−164833)
【出願日】平成18年6月14日(2006.6.14)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】