説明

非水電解質二次電池用集電体及びそれを用いた電極

【課題】耐酸化性及び耐電解液性を有し、多孔度が大きく、工業的生産に適した非水電解質二次電池用の集電体及びこの集電体を用いた正極を提供すること。
【解決手段】三次元網目状構造を有する金属多孔体からなる電池用集電体であって、該金属多孔体が、少なくともニッケルとスズとを含む合金からなることを特徴とする非水電解質二次電池用集電体。前記電池用集電体のスズの含有率は1質量%以上、40質量%であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な非水電解質二次電池用の集電体及び正極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン電池に代表される非水電解質二次電池が、高エネルギー密度を有する等の理由から、広く普及している。このようなリチウムイオン電池には、正極−負極間にリチウムイオンを移動させて充放電を行う原理が利用されており、正極材料としてLiCoO2、LiM24等が、負極材料としてリチウムイオンの吸蔵及び放出が可能な炭素材料が、セパレータとして微孔性薄膜が、電解液としてLiBF4、LiPF6等のリチウム塩を溶解した有機溶媒がそれぞれ使用されている。
【0003】
特に正極材料に関しては、LiCoO2が主流であり、広く実用化されている。また、LiMn24についても、資源枯渇問題や価格問題が大きく解決できるため、その実用化が始まっている。
【0004】
しかし、これらの打料においても、今後の課題として、さらなる放電容量の向上が求められている。また、LiMn24においては、電池温度の上昇によりMnが電解液中に溶解するという問題もある。さらに、これらの材料の他に、LiNiO2なども開発されているが、放電容量及び電圧ともに低く、より一層の改良が必要である。
【0005】
ところで、リチウムイオン電池において、正極材料や負極材料を付着させる集電体(支持体)として、一般的にアルミ箔のような金属箔を用いている。しかしながら、金属箔は二次元構造であり活物質の担持や充填密度の点で多孔体に比べて劣っている。すなわち、金属箔は、活物質を包み込むように保持する事ができないため、活物質の膨張収縮を抑えることができず充填量を少なくしなければ寿命が持たない。また、集電体と活物質の距離が長くなるため、集電体から離れたところでの活物質の利用率が小さく、容量密度も小さくなる。また金属箔をパンチングメタル、スクリーン、エキスバンドメタル等の多孔体の形状で用いることが行われているが、これも実質的には二次元構造であり、大幅な容量密度の向上は期待できない。
【0006】
また、高出力、高容量、長寿命化等を目的として、集電体を発泡体や不織布状などの三次元多孔質体等の形状として用いることが数多く提案されている(特許文献1〜4参照)。
例えば、特許文献1には、正極集電体として、表面がアルミニウム、合金又はステンレススチールからなる三次元網状多孔体が開示されている。
特許文献2には、有孔性ポリマーが均一に活物質層間と活物質表面に備わった電極合剤と集電体としてのアルミニウム、銅、亜鉛、鉄などの金属、またはポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマー、あるいはこれらの混合物からなる三次元多孔体とを一体化して電極とすることが開示されている。
特許文歓3には、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、亜鉛、タングステン、ビスマス、アンチモンの単体若しくは合金、又はステンレス合金からなる多孔質集電体上に電極活物質薄膜層が形成されてなる電極が開示されている。
特許文献4には、正極集電体として、発泡アルミニウム、発泡ニッケル等を用いることが開示されている。
【0007】
ところで、二次電池全般として、高出力化及び高容量化させるために、集電体は、二次元構造体よりも多孔度が大きい三次元構造体を採用することが望まれている。特に正極集電体については、高い充放電電圧のもとでは電解質により酸化されやすくなるため、耐酸化性及び耐電解液性も求められている。
しかし、下記のような理由で、リチウム系非水電解質二次電池については、耐酸化性及び耐電解液性を有し、多孔度が大きく、さらには、工業的生産に適した正極集電体は提供されていない。
【0008】
すなわち、集電体の多孔度を大きくするためには、一般的にニッケル多孔体に代表されるように、多孔質の有機樹脂表面にめっき処理し、必要に応じて有機樹脂を焼却除去することが行われる。しかしながら、ニッケル多孔体は、リチウム系非水電解質二次電池では、酸化されやすく、電解質液中に溶解してしまい、長期の充放電で十分な充電ができなくなる。
【0009】
一方、現在の正極集電体の主材料であるアルミニウムにおいては、めっき処理するには、非常に高温の溶融塩状態で処理する必要があるため、有機樹脂を被めっき体として使用することができず、有機樹脂表面にめっき処理することは困難である。よって、アルミニウムからなる多孔体集電体は現在提供されていない。
【0010】
また、ステンレススチールも正極集電体の材料として広く使用されているが、このステンレススチールもアルミニウムと同様の理由から、有機樹脂表面にめっき処理することにより、多孔度の大きい集電体とすることは困難である。
【0011】
なお、ステンレススチールについては、粉末状にして有機樹脂多孔体に塗着して焼結することにより、多孔体を得る方法が提供されている。
しかしながら、ステンレススチール粉末は非常に高価である。また、粉末が付着した有機樹脂多孔体は焼却除去されるため、強度が衰えてしまい使用に耐えないという問題がある。
【0012】
したがって、耐酸化性及び耐電解液性を有し、多孔度が大きく、工業的生産に適した集電体、さらには、この集電体を用いて得られる正極の提供が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平11−233151号公報
【特許文献2】特開2000−195522号公報
【特許文献3】特開2005−078991号公報
【特許文献4】特開2006−032144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は、耐酸化性及び耐電解液性を有し、多孔度が大きく、工業的生産に適した非水電解質二次電池用の集電体及びこの集電体を用いた正極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記問題点に鑑み、鋭意研究を重ねた結果、集電体として、三次元網目状構造を有する金属多孔体からなる非水電解質二次電池用集電体であって、該金属多孔体が、少なくともニッケルとスズとを含む合金からなる集電体を用いることによって上記課題を解決することができることを見出して本発明に至った。
すなわち、本発明は、以下に記載するとおりの非水電解質二次電池用集電体及びこれを用いた正極に係るものである。
【0016】
(1)三次元網目状構造を有する金属多孔体からなる電池用集電体であって、
該金属多孔体が、少なくともニッケルとスズとを含む合金からなることを特徴とする非水電解質二次電池用集電体。
(2)前記スズの含有率が1質量%以上、40質量%以下であることを特徴とする上記(1)に記載の非水電解質二次電池用集電体。
(3)前記金属多孔体が、成分として10質量%以下のリンを更に含むことを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の非水電解質二次電池用集電体。
(4)前記金属多孔体を、液中で電解酸化処理することにより耐食性を向上させたことを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の非水電解質二次電池用集電体。
(5)前記金属多孔体の平均孔径が20μm以上、900μm以下であることを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の非水電解質二次電池用集電体。
(6)前記金属多孔体の多孔度が80%以上、97%以下であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の非水電解質二次電池用集電体。
(7)前記金属多孔体の金属目付量が200g/m2以上、1000g/m2以下であることを特徴とする上記(1)〜(6)のいずれかに記載の非水電解質二次電池用集電体。
(8)上記(1)〜(7)のいずれかに記載の集電体に正極活物質を充填してなる非水電解質二次電池用の正極。
(9)前記活物質としてオリビン型リン酸リチウムを含むことを特徴とする上記(8)に記載の非水電解質二次電池用の正極。
(10)前記オリビン型リン酸リチウムがリン酸鉄リチウムであることを特徴とする上記(9)に記載の非水電解質二次電池用の正極。
(11)前記活物質としてリチウム複合金属酸化物を含むことを特徴とする上記(8)〜(10)のいずれかに記載の非水電解質二次電池用の正極。
(12)前記リチウム複合金属酸化物におけるリチウム以外の金属がコバルト、マンガン及びニッケルからなる群から選択された少なくとも一種であることを特徴とする上記(11)に記載の非水電解質二次電池用の正極。
(13)三次元網目状構造を有するニッケル多孔体に、少なくともスズを含む金属を被覆する工程と、
その後に熱処理を行ってスズを前記ニッケル多孔体中にまで拡散させる工程と、
を有することを特徴とする、少なくともニッケルとスズを含む合金からなる非水電解質二次電池用集電体の製造方法。
(14)前記三次元網目状構造を有するニッケル多孔体が、発泡状樹脂に導電処理及び電解ニッケルめっき処理をこの順に施して発泡状樹脂表面にニッケル被覆層を形成したのち、樹脂を除去する処理を施すことによって得られた三次元網目状構造を有するニッケル多孔体であることを特徴とする上記(13)に記載の非水電解質二次電池用集電体の製造方法。
(15)前記三次元網目状構造を有するニッケル多孔体が、発泡状樹脂に導電処理及び電解ニッケルめっき処理をこの順に施して発泡状樹脂表面にニッケル被覆層を形成したのち、樹脂を焼却除去し、次いで還元性雰囲気中で熱処理してニッケルを還元処理することによって得られた三次元網目状構造を有するニッケル多孔体であることを特徴とする上記(13)に記載の非水電解質二次電池用集電体の製造方法。
(16)上記(13)〜(15)のいずれかに記載の製造方法によって得られた非水電解質二次電池用集電体に正極活物質を充填することを特徴とする非水電解質二次電池用の正極の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の非水電解質二次電池用正極によれば、集電体が三次元網目状構造を有し、少なくともニッケルとスズとを含む合金からなるため耐酸化性、耐電解液性、多孔性を有し、さらに強度に優れるため、リチウムイオン電池等の非水電解質二次電池を高出力化・高容量化及び高寿命化させることができる。また、材料が安価であり、製造も容易であるため、工業的生産に適している。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の非水電解質二次電池用集電体の表面外観の一例を示す写真である。
【図2】図1の拡大写真である。
【図3】本発明の非水電解質二次電池用集電体の骨格中にスズが均一に拡散していることを確認したデータを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る非水電解質二次電池用集電体は、三次元網目状構造を有する金属多孔体からなる非水電解質二次電池用集電体であって、該金属多孔体が、少なくともニッケルとスズとを含む合金からなることを特徴とする。金属多孔体が少なくともニッケルとスズとを含む合金であることにより、本発明の非水電解質二次電池用集電体は耐電解性、耐食性に優れるようになる。更に、ニッケルとスズとを含む合金は電気抵抗が小さいため、集電性能に優れた非水電解質二次電池用集電体を提供することができる。
【0020】
また、一般に、金属多孔体の表面には、金属多孔体の骨格の断面等による微小な硬い突起が存在するため、集電体や電極として使用した場合に、該微小突起がセパレータと密に接触した際にセパレータを突き破って短絡するという問題が生じる場合がある。しかしながら本発明の非水電解質二次電池用集電体は、ニッケルとスズとを含む合金からなるため、従来の金属多孔体に比べて圧縮強度が比較的小さい。このため、非水電解質二次電池用集電体、非水電解質二次電池用電極を作製する際の圧縮工程を経ることにより、集電体や電極の表面上の微小突起が押しつぶされ、短絡を抑制することができるという効果がある。
【0021】
更に、上記の少なくともニッケルとスズとを含む合金からなる金属多孔体は、後述するようにめっき法によって作製することができる。このため、製造コストを抑えることができ、安価に提供することができる。
【0022】
上記金属多孔体におけるスズの含有率は、1質量%以上であることにより、耐電解性、耐食性の効果が充分に発揮されるが、金属多孔体中にニッケルとスズとの金属間化合物が生成しない範囲であることが好ましい。具体的には、上記金属多孔体におけるスズの含有率は、1質量以上%、40質量%以下であるか、43質量%以上、56質量%以下であるか、61質量%以上、72%質量以下であるか、73質量%以上、99質量%以下であることが好ましい。該スズの含有率は15質量%以上、25質量%以下であることが更に好ましい。これにより、ニッケルとスズを含む合金からなる金属多孔体の、耐電解性、耐食性、耐熱性、及び強度を向上させることができる。
【0023】
また、上記の金属多孔体は、成分として10質量%以下のリンを更に含むことが好ましい。これにより、金属多孔体の耐電解性、耐食性がより向上する。しかしながらリンを多量に含み過ぎると耐熱性が低下するため、前記金属多孔体におけるリンの含有率は10質量%以下であることが好ましい。
【0024】
また、上記金属多孔体は、液中で電解酸化処理することにより耐食性を向上させたものであることが好ましい。これにより更に耐電解性、耐食性が向上した金属多孔を得ることができる。
該電解酸化処理は、例えば、リニアスイープボルタンメトリー法により行うことができる。すなわち、サンプルに対して一度広い範囲で電位をかけて電流値が高い電位を調べ、その後、電流の高かった電位を電流が充分小さくなるまで印加していくことにより処理することができる。
【0025】
本発明の非水電解質二次電池用集電体の製造方法は、三次元網目状構造を有するニッケル多孔体に、少なくともスズを含む金属を被覆する工程と、その後に熱処理を行ってスズを前記ニッケル多孔体中にまで拡散させる工程と、を有することを特徴とする。
例えば、次のようにして本発明の非水電解質二次電池用集電体を作製することができる。
まず、発泡状樹脂の表面にニッケル被覆層を形成したのち、基材である樹脂を除去し、次いで必要に応じて還元性雰囲気中で加熱処理してニッケルを還元して発泡状ニッケルを得る。次いで該発泡状ニッケルに少なくともスズを含む金属を被覆し、その後に加熱処理を行ってスズを発泡状ニッケル中にまで拡散させることにより少なくともニッケルとスズとを含む合金からなる非水電解質二次電池用集電体を得る。
【0026】
また、他にも、発泡状樹脂の表面を導電化処理した後に、ニッケル被覆層を形成し、続けてスズめっきを行い、最後に熱処理を行って発泡状樹脂の除去とスズの拡散を行うことによっても本発明の非水電解質二次電池用集電体を得ることができる。
更に、発泡状樹脂を導電化処理した後にスズをめっきし、続いてニッケルをめっきし、そして再度スズをめっきするという方法も可能である。その後に、樹脂の除去工程、スズの拡散工程、還元工程を経ることにより本発明の非水電解質二次電池用集電体を得ることができる。
更に別の方法では、本発明の非水電解質二次電池用集電体は、発泡状樹脂を導電化処理し、該多孔体にニッケル−スズ合金めっきをすることによっても作製することができる。
【0027】
発泡状樹脂の表面にニッケル被覆層を形成するには、公知のニッケル被覆方法を採用することができ、このような方法としては例えば、電解めっき法、無電解めっき法、スパッタリング法等が挙げられる。これらの被覆方法は単独で用いてもよく、複数の被覆方法を組み合わせて用いても良い。
生産性、コストの観点からは、まず、無電解めっき法又はスパッタリング法によって発泡状樹脂表面を導電処理し、次いで、これに電解めっき法によって所望の目付量までニッケルめっきする方法を採用することが好ましい。
【0028】
例えば、ニッケル被覆層を形成する方法として電解めっき法を採用する場合には、発泡状樹脂表面に導電処理、電解ニッケルめっき処理を順次行った後、当該樹脂を除去し、次いで必要に応じて還元性雰囲気中で加熱処理してニッケルを還元することにより発泡状ニッケルを得る。そして、続いて、該発泡状ニッケルに少なくともスズを含む金属を被覆し、その後に加熱処理を行ってスズを発泡状ニッケル中にまで拡散させることによりニッケルとスズとを含む合金からなる集電体を得る。
【0029】
また、本発明の非水電解質二次電池用正極は、前記の集電体に、正極括物質を充填することにより得られる。この特徴を有することにより、本発明の非水電解質二次電池は高出力、高容量及び高寿命といった良好な電池性能を有する。
以下、本発明について詳述する。
【0030】
[発泡状樹脂]
三次元網目状構造を有する金属多孔体としては、例えば、市販の発泡状ニッケルを用いることができるが、該発泡状ニッケルを、発泡状樹脂を用いて製造する場合には以下に記載するような発泡状樹脂を用いることができる。
発泡状樹脂は、多孔性のものであればよく公知又は市販のものを使用でき、例えば、発泡ウレタン、発泡スチレン等が挙げられる。これらの中でも、特に多孔度が大きい観点から、発泡ウレタンが好ましい。
【0031】
発泡状樹脂の多孔度は限定的でなく、通常80%以上、97%以下程度であり、好ましくは90%以上、96%以下程度である。
また、発泡状樹脂の平均孔径は、通常20μm以上、900μm以下程度であり、好ましくは30μm以上、700μm以下程度、より好ましくは100μm以上、500μm以下程度である。なお、本発明における平均孔径は、バブルポイント法で測定することにより求められる。
発泡状樹脂の厚みは限定的でなく、非水電解質二次電極の用途等に応じて適宜決定されるが、通常200μm以上、5000μm以下程度であり、好ましくは300μm以上、3000μm以下程度、より好ましくは400μm以上、2000μm以下程度とすればよい。
【0032】
[集電体]
以下では、発泡状樹脂に導電処理、電解めっき処理、発泡状樹脂の除去処理、還元処理、スズめっき処理、熱処理を順次施すことによって集電体を作製する方法について詳述する。
【0033】
(導電処理)
導電処理は、発泡状樹脂の表面に導電性を有する層を設けることができる処理である限り特に制限はない。導電性を有する層(導電被覆層)を構成する材料としては、例えば、ニッケル、チタン、ステンレススチール等の金属の他、黒鉛等が挙げられる。これらの中でも特にニッケルが好ましい。
導電処理の具体例としては、例えば、ニッケルを用いる場合は、無電解めっき処理、スパッタリング処理等が好ましく挙げられる。また、チタン、ステンレススチール等の金属、黒鉛などの材料を用いる場合は、これら材料の微粉末にバインダを加えて得られる混合物を、発泡状樹脂に塗着する処理が好ましく挙げられる。の場合のバインダとしては、後述する活物質ペーストと同じものが採用できる。
【0034】
ニッケルを用いた無電解めっき処理としては、例えば、還元剤として次亜リン骸ナトリウムを含有した硫酸ニッケル水溶液等の公知の無電解ニッケルめっき浴に発泡状樹脂を浸漬すればよい。必要に応じて、めっき浴浸漬前に、発泡状樹脂を微量のパラジウムイオンを含む活性化液(カニゼン社製の洗浄液)等に浸漬し、洗浄してもよい。
【0035】
ニッケルを用いたスパッタリング処理(ニッケルスバッタリング処理)としては、ニッケルをターゲットとする限り限定的でなく、常法に従って行えばよい。例えば、基板ホルダーに発泡状樹脂を取り付けた後、不活性ガスを導入しながら、ホルダーとターゲット(ニッケル)との問に直流電圧を印加することにより、イオン化した不活性ガスをニッケルに衝突させて、吹き飛ばしたニッケル粒子を発泡状樹脂表面に堆積すればよい。
【0036】
(電解めっき処理)
次に、上記のようにして導電被覆層を形成した発泡状樹脂に電解ニッケルめっき処理を施す。
電解ニッケルめっき処理は、常法に従って行えばよい。電解ニッケルめっき処理に用いるめっき浴としては、公知又は市販のものを使用することができ、例えば、ワット浴、塩化浴、スルフアミン酸浴等が挙げられる。
前記の無電解メッキやスパッタリングにより表面に導電層を形成された発泡樹脂をメッキ浴に浸し、発泡樹脂を陰極に、ニッケル対極板を陽極に接続して直流或いはパルス断続電流を通電させることにより、導電層上に、さらにニッケルの被覆を形成することができる。
【0037】
導電被覆層及び電解めっき層の目付量(付着量)は特に制限されない。導電被覆層は発泡状樹脂表面に連続的に形成されていればよく、電解ニッケルめっき層は導電被覆層が露出しない程度に当該導電被覆層上に形成されていればよい。
導電被覆層の目付量は限定的でなく、通常5g/m2以上、15g/m2以下程度であり、好ましくは7g/m2以上、10g/m2以下程度とすればよい。
電解ニッケルめっき層の目付量は限定的でないが、好ましくは200g/m2以上、1000g/m2以下であり、より好ましくは250g/m2以上、700g/m2以下である。
また、導電被覆層、電解ニッケルめっき層の目付量の合計量としては、好ましくは200g/m2以上、1000g/m2以下であり、より好ましくは250g/m2以上、700g/m2以下である。
なお、導電性処理がニッケルを用いる場合、当該導電性処理及び電解ニッケル処理によって形成されるニッケル被覆層の総目付量が上記の数値範囲となるようにすればよい。合計量がこの範囲を下回ると、集電体の強度が衰えるおそれがある。また、合計量がこの範囲を上回ると、正極活物質の充填量が減少したり、コスト的に不利となる。
【0038】
(発泡状樹脂除去処理、還元処理)
次いで、上記により得られた導電被覆層/ニッケルめっき層形成発泡状樹脂中の発泡状樹脂成分を除去する。除去方法は限定的でないが、焼却により除去することが好ましい。具体的には、例えば600℃程度以上の大気等の酸化性雰囲気下で加熱すればよい。また、水素等の還元性雰囲気中750℃程度以上で加熱してもよい。これにより、導電被覆層、電解ニッケルめっき層からなる発泡状ニッケルが得られる。なお、発泡樹脂除去処理によってニッケル多孔体が酸化されている場合には得られた多孔体を還元性雰囲気下で加熱処理してニッケルを還元する。
【0039】
(スズめっき工程)
上記で得た発泡状ニッケルに、少なくともスズを含む合金を被覆する工程は、例えば、次のようにして行うことができる。すなわち、硫酸浴としてを、硫酸第一スズ 55g/L、硫酸 100g/L、クレゾールスルホン酸 100g/L、ゼラチン 2g/L、βナフトール 1g/Lの組成のめっき浴を用意し、陰極電流密度を2A/dm2、陽極電流密度を1A/dm2以下とし、温度を20℃、攪拌(陰極揺動)を2m/分とすることでスズめっきを行うことができる。
【0040】
スズめっきの目付量は、金属多孔体の最終的な金属組成において、ニッケルの含有率が60質量%以上、99質量%以下、スズの含有率が1質量%以上、40質量%以下となるように調整することが好ましい。また、スズの含有率が、43質量%以上、56質量%以下となるか、61質量%以上、72%質量以下となるか、73質量%以上、99質量%以下となるように調整することも好ましい。更に、スズの含有率が15質量%以上、25質量%以下となるように調整することが最も好ましい。これにより、ニッケルとスズを含む合金からなる金属多孔体の、耐電解性、耐食性、耐熱性、及び強度を向上させることができる。
【0041】
また、スズめっきの密着性を向上させるため、直前にストライクニッケルめっきを行って、金属多孔体を洗浄し、乾燥させずに濡れたままスズめっき液に投入することが望ましい。これによりめっき層の密着性を高めることができる。
ストライクニッケルめっきの条件は、例えば、次のようにすることができる。すなわち、ウッドストライクニッケル浴として、塩化ニッケル 240g/L、塩酸(比重1.18程度のもの)125ml/Lの組成のものを用意し、温度を室温にして、陽極にニッケルまたはカーボンを用いることで行うことができる。
【0042】
以上のめっき手順をまとめると、エースクリーンによる脱脂(陰極電解脱脂5ASD×1分)、湯洗、水洗、酸活性(塩酸浸漬1分)、ウッドストライクニッケルめっき処理(5〜10ASD×1分)、洗浄して乾燥させずにスズめっきへ処理、水洗・乾燥、となる。
【0043】
(めっき時のめっき液の循環)
発泡状樹脂のような多孔体基材へのめっきは、一般的に内部へ均一にめっきすることが難しい。内部の未着を防いだり、内部と外部のめっき付着量の差を低減したりするために、めっき液を循環させることが好ましい。循環の方法としては、ポンプを使用したり、めっき槽内部にファンを設置したりするなどの方法がある。また、これらの方法を用いて基材にめっき液を吹き付けたり、吸引口に基材を隣接させたりすると、基材内部にめっき液の流れができやすくなって効果的である。
【0044】
(熱処理)
スズめっき後、そのままでは金属多孔体の表面に耐食性の低いニッケルが露出していることがあるため、熱処理を行ってスズ成分を拡散させることが必要である。スズの拡散は不活性雰囲気(減圧や、窒素・アルゴンなど)あるいは還元雰囲気(水素)で行うことができる。
この熱処理工程ではスズ成分をニッケルめっき層中に充分に拡散させて、金属多孔体骨格の表側と内側のスズの濃度比が、表側濃度/内側濃度が2/1以上、1/2以下の範囲になるようにすることが好ましい。より好ましくは3/2以上、2/3以下であり、更に好ましくは4/3以上、3/4以下であり、最も好ましくは均一に拡散させることである。
【0045】
熱処理温度は、低すぎると拡散に時間がかかり、高すぎると軟化して自重で多孔体構造を損なう可能性があるため、300℃以上、1100℃以下の範囲で行うことが好ましい。但し、スズ濃度が40質量%以上のときは850℃を上限とする必要がある。より好ましくは400℃以上、800℃以下であり、更に好ましくは500℃以上、700℃以下である。
【0046】
(ニッケル−スズ合金めっき)
上記では多孔体基材にニッケルめっきを施し、その後にスズめっきをして熱処理により合金化する手法について説明したが、上記多孔体基材に導電化処理を施した後に、ニッケル−スズ合金めっきを施すことも可能である。この場合のニッケル−スズ合金めっき液の組成は、金属多孔体の最終的な金属組成において、ニッケルの含有率が60質量%以上、99質量%以下、スズの含有率が1質量%以上、40質量%以下となるように調整することが好ましい。また、スズの含有率が、43質量%以上、56質量%以下となるか、61質量%以上、72%質量以下となるか、73質量%以上、99質量%以下となるように調整することも好ましい。更に、スズの含有率が15質量%以上、25質量%以下となるように調整することが最も好ましい。これにより、ニッケルとスズを含む合金からなる金属多孔体の、耐電解性、耐食性、耐熱性、及び強度を向上させることができる。
そして、ニッケル−スズ合金めっきを形成した後に、多孔体基材の除去し、次いで還元性雰囲気下で加熱処理して金属を還元することにより、金属多孔体が得られる。
【0047】
(金属目付量)
最終的な金属多孔体における導電被覆層、ニッケル、スズの合計の金属目付量としては、好ましくは200g/m2以上、1000g/m2以下である。より好ましくは250g/m2以上、700g/m2以下であり、更に好ましくは300g/m2以上、500g/m2以下である。合計量が200g/m2を下回ると、集電体の強度が衰えるおそれがある。また、合計量が1000g/m2を上回ると、分極性材料の充填量が減少し、またコスト的にも不利となる。
【0048】
(平均孔径)
本発明の非水電解質二次電池用集電体は、平均孔径が通常20μm以上、900μm以下程度であり、好ましくは30μm以上、700μm以下程度、より好ましくは100μm以上、500μm以下程度である。
(多孔度)
本発明の非水電解質二次電池用集電体は、多孔度が80%以上、97%以下であることが好ましく、90%以上、96%以下であることがより好ましい。
【0049】
(金属多孔体の組成の確認)
誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma:ICP)を利用した定量測定を行い、含有元素の質量%を求めることができる。
【0050】
(スズの拡散確認)
金属多孔体について、断面からのエネルギー分散型X線分析(Energy Dispersive X-ray spectroscopy:EDX)測定を行い、骨格表側と骨格内側のスペクトルを比較することにより、スズの拡散状態を確認することができる。
【0051】
[正極]
本発明の非水電解質二次電池用の正極は、上記本発明の非水電解質二次電池用集電体に、正極活物質を充填することにより得られる。本発明の正極は、上記集電体が大きな多孔度を有しているため、より多くの正極活物質を充填することが可能となる。また、多孔体中の空隙に正極活物質を包み込める構造であるため、正極活物質と集電体とを結合させるためのバインダ等(絶縁体)の含量を少なくすることができる。これらにより、電池を高出力化・高容量化させることができる。また、上記集電体は耐電解液性及び耐酸化性をも有しているため、電池を高寿命化させることもできる。
【0052】
本発明の正極は、上記集電体に正極活物質が充填されてなるものであり、例えば、正極活物質を含むペーストを圧入法等の公知の方法により、上記集電体に充填すればよい。
圧入法としては、例えば、正極活物質ペースト中に上記集電体を浸漬し、必要に応じて減圧する方法、正極活物質ペーストを集電体の一方面からポンプで加圧しながら充填する方法等が挙げられる。
正極活物質の充填量は限定的でなく、製造する非水電解質二次電池の用途、目的等に応じて適宜決定すればよいが、集電体1cm2当たり、通常10mg以上、500mg以下程度、好ましくは30mg以上、300mg以下程度とすればよい。また、集電体に金属多孔体を用いる場合に高容量な電極を作製することができ、その場合は活物質の充填量を100mg以上とすることが好ましい。
【0053】
正極活物質ペーストは、正極活物質及び溶媒を含有していればよく、その配合割合は限定的でない。溶媒としては限定的でなく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、水等が挙げられる。特に、バインダとしてポリフッ化ビニリデンを用いる場合は溶媒としてN−メチル−2−ピロリドンを用いればよく、バインダとしてポリテトラフルオロエチレン、ポリビニルアルコール、カルポキシメチルセルロース等を用いる場合は溶媒として水を用いればよい。
本発明の正極は、正極活物質ペーストを充填後に必要に応じて、乾燥処理を施すことにより、ペースト中の溶媒が除去されていてもよい。
【0054】
正極活物質としては、非水電解質二次電池に使用できるものであれば特に制限されずLiCoO2、LiMn24、LiNiO2等の公知の材料を用いることができるが、本発明では、特にオリビン型リン酸リチウム(LiMPO4)を用いることが好ましい。オリビン型リン酸リチウムを構成する金属成分Mとしては、例えば、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、クロム(Cr)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)等からなる群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、特に鉄が好ましい、すなわち、オリビン型リン酸鉄リチウムが好ましい。なお、このオリビン型リン酸鉄リチウムは、鉄の一部がMn、Cr、Cu、Ni、Zn、Al等の他の金属で置換されていてもよい。
【0055】
また、本発明では、正極活物質として、公知又は市販のリチウム複合金属酸化物(LiM’Ox)(但し、1≦X≦4である。)も使用できる。このようなリチウム複合金属酸化物M’としては、例えば、Co、Mn及びNi等からなる群から選択された少なくとも1種の金属が挙げられる
【0056】
集電体に充填する物質として、正極活物質の他、例えば、導電助剤、バインダ等の公知の添加剤を含んでいてもよい。
導電助剤としては、公知又は市販のものを使用できるが、例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等が好ましい。導電助剤の含有量は、上記正極活物質100質量部に対して、通常10質量部以下であり、好ましくは0.5質量部以上、5質量部以下程度である。これにより、電池の放電容量等を向上させることができる。
【0057】
バインダとしては、公知又は市販のものを使用できる。例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(pp)、エチレン−プロピレン共重合体、スチレンブタジェンゴム(SBR)、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)等が挙げられる。これらの中でも、PVDF等が好ましい。これにより、正極活物質と集電体との結着強度を向上させることができる。
バインダの添加量は、バインダの種類等に応じて適宜決定されるが、正極活物質100質量部に対して、通常、0.1質量部以上、10質量部以下程度である。この範囲とすることにより、電気抵抗の増加及び放電容量の低下を防ぎながら、結着強度を向上させることができる。
【0058】
本発明の正極は、さらに必要に応じて、上記ペーストを充填後、ローラプレス機等により加圧することにより、圧縮成形されていてもよい。
圧縮前後の厚さは限定的でないが、圧縮前の厚さは通常200μm以上、5000μm以下程度であり、好ましくは300μm以上、3000μm以下程度、より好ましくは400μm以上、2000μm以下程度とすればよい。また、圧縮成形後の厚みは通常100μm以上、3000μm以下程度、より好ましくは150μm以上、2000μm以下程度、より好ましくは200μm以上、1000μm以下程度とすればよい。
【実施例】
【0059】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより一層詳述する。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
[実施例1]
(集電体の作製)
発泡状樹脂として、発泡ウレタン樹脂シート(市販品、平均孔径90μm、厚さ1.4mm、多孔度96%)を用いた。
この発泡ウレタン樹脂シートにターゲットとしてニッケルを用いてスパッタリング処理を行うことにより、発泡ウレタン樹脂シートの表面に導電被覆層(ニッケル層)を形成させた。導電被覆層の目付量は10g/m2であった。
【0061】
次いで、得られた導電被覆層形成発泡ウレタン樹脂に電解めっき処理を施した。電解ニッケルめっき浴としては、ワット浴(硫酸ニッケル330g/L、塩化ニッケル50g/L、硼酸40g/L)を用いた。対極には、ニッケル片を入れたチタンバスケットを使用した。電着条件は浴温60℃、電流密度30A/dm2とした。
電解ニッケルめっき層の目付量は導電被覆層及び電解ニッケルめっき層によって形成された被覆層の合計量で200g/m2となるようにした。
【0062】
電解めっき後の発泡構造体を大気中800℃で加熱処理してウレタン樹脂を焼却除去し、次いで水素ガス雰囲気中で1000℃に加熱してニッケルを還元処理することにより発泡状ニッケルを得た。得られた発泡状ニッケルは平均孔径80μm、厚さ1.2mm、多孔度95%であった。
【0063】
上記で作製した目付け200g/m2のニッケル多孔体に、目付け2g/m2のスズめっきを施し、熱処理によってスズを拡散させ、ニッケル99質量%、スズ1質量%の組成の非水電解質二次電池用集電体Aを得た。
図1及び図2に非水電解質二次電池用集電体の外観写真を示す。なお、図2は電子顕微鏡により300倍に拡大して観察した写真である。
【0064】
スズめっきのめっき液としては、水1000gに対し、硫酸第一スズ55g/L、硫酸100g/L、クレゾールスルホン酸100g/L、ゼラチン2g/L、βナフトール1g/Lの組成としたものを使用した。また、めっき浴の浴温は20℃とし、陽極電流密度は1A/dm2とした。めっき液は陰極揺動により2m/分となるように攪拌した。
熱処理工程では、還元(水素)雰囲気で、550℃、10分の熱処理を行った。
EDXスペクトル比較では、集電体の表側・内側に差異はなく、スズは満遍なく拡散していることが確かめられた。
【0065】
[実施例2]
ニッケル多孔体へのスズめっきの目付けを59.7g/m2となるようにした以外は実施例1と同様にして非水電解質二次電池用集電体を作製した。これにより、Snの含有量が23質量%のニッケルスズ合金の非水電解質二次電池用集電体Bが得られた。
EDXスペクトル比較では図3に示すように、集電体の表側・内側に差異はなく、スズは満遍なく拡散していることが確かめられた。
【0066】
[実施例3]
ニッケル多孔体へのスズめっきの目付けを133g/m2となるようにした以外は実施例1と同様にして非水電解質二次電池用集電体を作製した。これにより、Snの含有量が40質量%のニッケルスズ合金の非水電解質二次電池用集電体Cが得られた。
EDXスペクトル比較では、集電体の表側・内側に差異はなく、スズは満遍なく拡散していることが確かめられた。
【0067】
[実施例4]
ニッケル多孔体へのスズめっきの目付けを216.7g/m2となるようにした以外は実施例1と同様にして非水電解質二次電池用集電体を作製した。これにより、Snの含有量が52質量%のニッケルスズ合金の非水電解質二次電池用集電体Dが得られた。
EDXスペクトル比較では表側・内側に差異はなく、スズは満遍なく拡散していることが確かめられた。
【0068】
[実施例5]
実施例2と同様に、スズめっきの目付けを59.7g/m2となるようにして、Snの含有量が23質量%のニッケルスズ合金の集電体を作製した。さらに、濃度1mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液中で0.2V vs SHEの電位を15分間印加することにより非水電解質二次電池用集電体Eを得た。
EDXスペクトル比較では表側・内側に差異はなく、スズは満遍なく拡散していることが確かめられた。
【0069】
(正極の作製)
正極活物質としてLiCoO2粉末100質量部に、導電助剤としてケッチェンブラックを5質量部、バインダとしてポリフッ化ビニリデンを5質量部になるように加えて混合し、バインダの溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン40質量部を加えて正極活物質ペーストを作製した。
一方、集電体はローラプレス機を用いて調厚し、その厚さを500μmに調節した。
【0070】
ペーストの充填を圧入法によって行ったところ、正極活物質の充填量は集電体Aが59mg/cm2であり、集電体Bが60mg/cm2であり、集電体Cが60mg/cm2であり、集電体Dが60mg/cm2であり、集電体Eが61mg/cm2になった。
次いで、これら集電体A〜Eを、乾燥機で100℃、1時間乾燥させて溶媒を除去した後、直径500ミリのローラプレス機(スリット:150μm)で加圧した。加圧後の厚さはそれぞれ集電体Aが258μm、集電体Bが260μm、集電体Cが260μm、集電体Dが259μm、集電体Eが260μmであった。
その後に、さらに減圧下140℃で12時間乾燥することにより、実施例1〜5の正極A〜Eを得た。
【0071】
[比較例1]
実施例1と同様に、導電処理後の発泡ウレタンにニッケルめっきを施し、熱処理によってウレタンを除去して、ニッケル多孔体からなる非水電解質二次電池用集電体Fを作製した。
そして、実施例1と同様に正極活物質を59mg/cm2充填し、加圧後の厚さが264μmとなるようにして電極Fを作製した。
【0072】
[比較例2]〜[比較例4]
集電体として、アルミニウム箔(市販品、厚さ20μm)を用いた。
この場合に、実施例で作製した正極活物質ペーストをドクターブレード法により塗着したが、接着強度が不十分であるため、正極活質が十分にアルミニウム箔に接着できなかった。
そこで、ポリフッ化ビニリデンを10質量部にした以外は実施例で作製したのと同様の正極活物質ペーストを作製した。このペーストをドクターブレード法により、アルミニウム箔の両面に塗着し、乾燥及び加圧することにより、比較例2〜4の正極G、H、Iを作製した。
正極活物質の塗着量は、正極Gで10mg/cm2、正極Hで16mg/cm2、正極Iでは21mg/cm2であった。また、これら正極の厚みは、それぞれ正極Gが63μm、正極Hが120μm、正極Iが177μmであった。
【0073】
[比較例5]
実施例1と同様に導電処理後の発泡ウレタンにニッケル電気めっきを施し、熱処理によってウレタンを除去したのち、スズめっきを行った。実施例1とは異なり、スズめっき後の熱処理工程を行わずに非水電解質二次電池用集電体Jを得た。
そして、実施例1と同様に正極活物質を61mg/cm2充填し、加圧後の厚さが263μmとなるようにして電極Jを作製した。
【0074】
[電池の作製及び試験]
実施例1〜5及び比較例1〜5の各正極A〜Jを5cm×5cmに裁断して、電池A〜E(実施例の電極A〜Eを使用)及び電池F〜J(比較例の各集電体F〜Jを使用)を作製した。集電のため、活物質の一部を取り除き、露出した集電体部分にアルミニウムのタブを溶接した。
なお、負極としては、正極に比べて十分容量が大きいリチウム金属をニッケルメッシュに圧着したもの用いた。電解液として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒(容量比で5:5)にLiPF6を1.0mol/l溶解させた非水電解液を用い、セパレータとして、微多孔質ポリオレフィン膜(厚さ20μm、多孔度55%)を用い、電槽として、アルミラミネート膜を用いた。
【0075】
これら電池A〜Jを0.2Cの電流で4.2Vまで充電し、0.2Cの放電電流で2.5Vまで放電させる充放電サイクルを10回繰返して化成とした。次いで、各電池を周囲温度25℃として0.2Cで4.2Vまで充電し、0.5C、1C及び1.5Cで終止電圧2.5Vまでの放電を行った。実測値から求めた活物質単位重量当たりの容量を表1に示す。
また、0.2Cで4.2Vまでの充電、0.5Cで3Vまでの放電を周囲温度25℃で行った。このときの初期容量に対する200サイクルでの容量維持率を表1に併記する。
比較例5の正極を用いて作製した電池JJについては3サイクルで、比較例1の正極を用いて作製した電池FFについては1サイクルから電圧が上がらず充電ができなくなったため表1には数値を記載していない。電圧が上がらないことから、電池反応以外に電流が使われており、集電体の溶出や酸化が疑われる。
【0076】
【表1】

【0077】
[評価]
表1から明らかなように、本発明の電池A〜Eは、比較例の電池F〜Jよりも容量密度及び容量維持率が優れていることが分かった。これにより、本発明の正極を使用すれば、非水電解質二次電池を高出力化・高容量化及び高寿命化できることが分かる。アルミ箔集電体の比較例2〜4に比べて高率放電での容量が高いのは、集電体が電極の厚さ方向にも三次元的に存在するため、集電性能が高いためと考えられる。特に比較例4で0.5C放電の容量が小さく、アルミ箔では厚い活物質層に対し集電性能に限界があることを示している。
また、比較例1及び5の結果から、多孔構造の集電体であってもスズを含有していなかったり、ニッケルとスズが合金化されていなかったりする場合には耐酸化性が不足し、電池用電極として不適であることが分かった。
【0078】
なお、本発明の電池A〜Eにおいて、充放電サイクルの繰返しでも容量密度の低下が少ない理由は、本発明の正極活物質が、比較例の電池G〜Iのように二次元構造の集電体表面に塗着したものでなく、耐酸化性に優れた集電体に包まれているためであり、これにより、正極材料(正極活物質、導電助剤及びバインダ)の膨れによる電気抵抗の増大を抑えていると考えられる。
【0079】
以上のことから、本発明の少なくともニッケルとスズとを含む合金の金属多孔体からなる集電体に、正極活物質を充填してなる本発明の正極を非水電解質二次電池用の正極とすることにより、本発明の効果が発揮されることが明らかである。
なお、本発明を実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、上記の実施の形態に対して種々の変更を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の集電体は耐酸化性、耐電解液性、多孔性を有し、これに正極活物質を充填して得られる正極を非水電解質二次電池用の正極として用いることにより、非水電解質二次電池を高出力、高容量及び長寿命のものとすることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三次元網目状構造を有する金属多孔体からなる電池用集電体であって、
該金属多孔体が、少なくともニッケルとスズとを含む合金からなることを特徴とする非水電解質二次電池用集電体。
【請求項2】
前記スズの含有率が1質量%以上、40質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池用集電体。
【請求項3】
前記金属多孔体が、成分として10質量%以下のリンを更に含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用集電体。
【請求項4】
前記金属多孔体を、液中で電解酸化処理することにより耐食性を向上させたことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池用集電体。
【請求項5】
前記金属多孔体の平均孔径が20μm以上、900μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池用集電体。
【請求項6】
前記金属多孔体の多孔度が80%以上、97%以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解質二次電池用集電体。
【請求項7】
前記金属多孔体の金属目付量が200g/m2以上、1000g/m2以下であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の非水電解質二次電池用集電体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の集電体に正極活物質を充填してなる非水電解質二次電池用の正極。
【請求項9】
前記活物質としてオリビン型リン酸リチウムを含むことを特徴とする請求項8に記載の非水電解質二次電池用の正極。
【請求項10】
前記オリビン型リン酸リチウムがリン酸鉄リチウムであることを特徴とする請求項9に記載の非水電解質二次電池用の正極。
【請求項11】
前記活物質としてリチウム複合金属酸化物を含むことを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の非水電解質二次電池用の正極。
【請求項12】
前記リチウム複合金属酸化物におけるリチウム以外の金属がコバルト、マンガン及びニッケルからなる群から選択された少なくとも一種であることを特徴とする請求項11に記載の非水電解質二次電池用の正極。
【請求項13】
三次元網目状構造を有するニッケル多孔体に、少なくともスズを含む金属を被覆する工程と、
その後に熱処理を行ってスズを前記ニッケル多孔体中にまで拡散させる工程と、
を有することを特徴とする、少なくともニッケルとスズを含む合金からなる非水電解質二次電池用集電体の製造方法。
【請求項14】
前記三次元網目状構造を有するニッケル多孔体が、発泡状樹脂に導電処理及び電解ニッケルめっき処理をこの順に施して発泡状樹脂表面にニッケル被覆層を形成したのち、樹脂を除去する処理を施すことによって得られた三次元網目状構造を有するニッケル多孔体であることを特徴とする請求項13に記載の非水電解質二次電池用集電体の製造方法。
【請求項15】
前記三次元網目状構造を有するニッケル多孔体が、発泡状樹脂に導電処理及び電解ニッケルめっき処理をこの順に施して発泡状樹脂表面にニッケル被覆層を形成したのち、樹脂を焼却除去し、次いで還元性雰囲気中で熱処理してニッケルを還元処理することによって得られた三次元網目状構造を有するニッケル多孔体であることを特徴とする請求項13に記載の非水電解質二次電池用集電体の製造方法。
【請求項16】
請求項13〜15のいずれかに記載の製造方法によって得られた非水電解質二次電池用集電体に正極活物質を充填することを特徴とする非水電解質二次電池用の正極の製造方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−8540(P2013−8540A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−140149(P2011−140149)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】