説明

非水電解質二次電池

【課題】 高い体積容量密度が得られる非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】 正極としては、リチウムを吸蔵および放出可能なリチウム金属、リチウム合金および黒鉛等の炭素材料等が用いられる。負極は、集電体および活物質を含む。負極の集電体は、炭素を含む繊維からなり、この炭素を含む繊維によって形成された空孔(空隙)に負極の活物質である炭素が充填される。負極の活物質を保持するために、上記空孔の大きさは、1μm〜50μmであることが好ましく、3μm〜30μmであることがより好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、負極および非水電解質からなる非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高エネルギー密度の二次電池として、非水電解質を使用し、リチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電を行うようにした非水電解質二次電池が利用されている。
【0003】
このような非水電解質二次電池において、一般に正極としてコバルト酸リチウム(LiCoO2 )等のリチウム遷移金属複合酸化物が用いられ、負極としてリチウムの吸蔵および放出が可能な炭素材料、リチウム金属、リチウム合金等が用いられている。また非水電解質として、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート等の有機溶媒に四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF4 )、六フッ化リン酸リチウム(LiPF6 )等の電解質塩を溶解させたものが使用されている。
【0004】
近年、このような非水電解質二次電池が様々な携帯用機器の電源等として使用されているが、携帯機器の多機能化による消費電力の増加に伴って、さらに高いエネルギー密度の非水電解質二次電池が要望されている。
【0005】
負極の集電体としては、導電性に優れていること、薄膜であることおよび電気化学的に安定であることが必要である。そこで、負極の集電体として銅箔が用いられており、負極の活物質として黒鉛およびアセチレンブラック等の炭素材料が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−311429号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、負極の集電体として用いられる銅箔は、直接充放電に関与しないものであるとともに、1立方センチメートル当たりの重量が8.96gと非常に重い。この銅箔は、正極活物質、非水溶媒としての電解液および非水電解質二次電池の外装缶に次いで重い部品である。
【0007】
正極活物質および電解液の量は、非水電解質二次電池の容量に直接的に関与するため減らすことは困難である。また、外装缶の厚さを薄くすると非水電解質二次電池の信頼性が低下する可能性がある。
【0008】
本発明の目的は、高い体積容量密度が得られる非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る非水電解質二次電池は、リチウムを吸蔵および放出可能であるとともに集電体を含む負極と、リチウムを吸蔵および放出可能な正極と、非水電解質とを備え、負極の集電体は、炭素を含む繊維により構成されるものである。
【0010】
本発明に係る非水電解質二次電池においては、負極の集電体が炭素を含む繊維により構成されることにより、炭素を含む繊維自体が活物質として働くとともに、炭素を含む繊維の空孔内に活物質を充填することも可能となる。それにより、高い体積容量密度が得られる。また、炭素を含む繊維は金属に比べて軽量であるので、負極の軽量化が図れる。
【0011】
負極は、活物質をさらに備え、炭素を含む繊維により形成される空孔内に活物質が充填されてもよい。それにより、より高い体積容量密度が得られる。
【0012】
負極における活物質の充填密度が1.66g/ml以上であってもよい。それにより、金属からなる集電体を用いた場合に比べて高い体積容量密度が得られる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い体積容量密度が得られるとともに集電体の軽量化が図れる。また、集電体自体も充放電に関与させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本実施の形態に係る非水電解質二次電池について説明する。
【0015】
本実施の形態に係る非水電解質二次電池は、負極、正極および非水電解質により構成される。
【0016】
正極としては、リチウム(Li)を吸蔵および放出可能なリチウム金属、リチウム合金および黒鉛等の炭素材料等が用いられる。
【0017】
正極の結着剤としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアセテート、ポリメタクリレート、ポリアクリレート、ポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、スチレン−ブタジエンラバーまたはカルボキシメチルセルロース等から選択される少なくとも一種を用いることができる。
【0018】
結着剤の添加量が多いと、正極に含まれる活物質の割合が小さくなるため高い容量が得られなくなる。したがって、結着剤の添加量は、正極全体の0.1〜30重量%の範囲とし、好ましくは0.1〜20重量%の範囲とし、より好ましくは0.1〜10重量%の範囲とする。
【0019】
負極は、集電体および活物質(以下、負極用活物質と呼ぶ)を含む。負極の集電体は、炭素を含む繊維(以下、単に炭素繊維と呼ぶ)からなり、この炭素繊維によって形成された空孔(空隙)に負極用活物質である炭素が充填されている。なお、本実施の形態では、負極の集電体として、炭素繊維紙(炭素繊維シート)を用いる。
【0020】
負極の集電体に求められる条件には、負極用活物質との間で電子が円滑に移動できること、すなわち導電率が優れていること、電気化学的に安定していることおよび体積が小さく低重量であること等が挙げられる。
【0021】
本実施の形態における非水電解質の非水溶媒の例としては、通常、電池用非水溶媒として用いられる環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、ニトリル類またはアミド類等が挙げられ、これらの中から選択される少なくとも1種を用いることができる。
【0022】
環状炭酸エステルの例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネートまたはブチレンカーボネート等が挙げられ、これらの水素基の一部または全部がフッ素化されているトリフルオロプロピレンカーボネートまたはフルオロエチルカーボネート等も挙げられる。
【0023】
鎖状炭酸エステルの例としては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネートまたはメチルイソプロピルカーボネート等が挙げられ、これらの水素の一部または全部がフッ素化されているものも挙げられる。
【0024】
エステル類の例としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチルまたはγ−ブチロラクトン等が挙げられる。
【0025】
環状エーテル類の例としては、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン、フラン、2−メチルフラン、1,8−シネオールまたはクラウンエーテル等が挙げられる。
【0026】
鎖状エーテル類の例としては、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o−ジメトキシベンゼン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1−ジメトキシメタン、1,1−ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテルまたはテトラエチレングリコールジメチル等が挙げられる。
【0027】
ニトリル類の例としてはアセトニトリル等が挙げられ、アミド類としてはジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0028】
非水電解質の非水溶媒に加えるリチウム塩の例としては、従来の非水電解質二次電池において電解質として一般に使用されているものを用いることができ、例えば、LiBF4 ,LiPF6 ,LiCF3 SO3 ,LiAsF6 ,LiN(Cl 21+1SO2 )(Cm 2m+1SO2 )(ただし、l、mは1以上の整数)、LiC(Cp 2p+1SO2 )(Cq 2q+1SO2 )(Cr 2r+1SO2 )(ただし、p、q、rは1以上の整数)から選択される少なくとも1種を用いることができ、あるいは2種以上を組み合せて用いてもよい。なお、上記のリチウム塩は、上記の非水溶媒に0.1〜1.5mol/l、好ましくは0.5〜1.5mol/lの濃度で溶解されて用いられる。
【0029】
本実施の形態では、負極の集電体として炭素繊維からなる炭素繊維紙を用い、この炭素繊維によって形成された空孔に負極用活物質として例えば以下に示すものを充填する。
【0030】
すなわち、炭素繊維紙にしみ込ませることが可能な負極用活物質であればよい。例えば、天然黒鉛または人造黒鉛等の易黒鉛化炭素、カーボンブラックまたは非晶質炭素等の難黒鉛化炭素、リチウム−アルミニウム合金、酸化第二鉄(Fe2 3 )または酸化タングステン(WO2 )等の酸化物、錫化合物、シリコン系材料、ゲルマニウム系材料、Li7 MnN4 またはLi3 FeN2 等の窒化物等を負極用活物質として用いることができる。
【0031】
このように、本実施の形態においては、負極の集電体が炭素を含む繊維により構成されることにより、炭素を含む繊維自体が負極用活物質として働くとともに、炭素を含む繊維の空孔内に負極用活物質を充填することも可能となる。それにより、高い体積容量密度が得られる。
【0032】
ただし、上記のような負極用活物質を炭素繊維紙にしみ込ませるためには、負極用活物質が炭素繊維紙を構成する炭素繊維間に浸入可能な粒径を有することが必要となる。
【0033】
また、負極の集電体として、8.96g/cm3 の密度を有するとともに負極用活物質である炭素の約4倍の重量を有する銅箔を用いずに、炭素繊維紙を用いることにより著しい軽量化を図ることができる。
【0034】
さらに、負極の集電体としてリチウムを吸蔵および放出可能な炭素繊維を含む炭素繊維紙を用いることにより、リチウムを吸蔵および放出できない材料を集電体として用いた場合よりも、より高い体積容量密度を得ることができる。
【0035】
なお、負極用活物質を保持するために、上記空孔の大きさは、1μm〜50μmであることが好ましく、3μm〜30μmであることがより好ましい。
【実施例】
【0036】
以下、実施例の非水電解質二次電池について説明する。なお、本発明における非水電解質二次電池は、下記の実施例に示したものに限定されず、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものである。
【0037】
図1は、後述の予備実験、実施例および比較例において作製した試験セルの概略説明図である。
【0038】
図1に示すように、不活性雰囲気下において、負極1に炭素電極を使用した。また、対極2にはリチウム金属電極を用い、参照極3としてリチウム金属を用い、セル容器10内に非水電解質5を注液した。なお、負極1と対極2との間にはセパレータ4が介挿されている。本例では、対極2にリチウム金属を用いたが、本来の非水電解質二次電池においては、上記対極2が正極として用いられる。
【0039】
(予備実験)
炭素繊維紙のみを2×2cmの大きさに切り出したものを負極1とした。なお、炭素繊維紙の空孔率は96.4%である。なお、空孔率とは、炭素繊維紙の中で空孔が占める割合である。
【0040】
非水電解質5としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒に、溶質としての六フッ化リン酸リチウムを1mol/lの割合で溶解させたものを用いた。なお、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの体積比は、50:50である。
【0041】
図2は、予備実験で作製した試験セルの放電特性を示したグラフである。
【0042】
図2に示すように、62mAh/gの放電容量密度(質量放電容量密度)(電極当たりの体積放電容量密度:4.9mAh/ml)を得ることができた。
【0043】
(実施例)
本実施例では、以下に示すように負極1を作製した。
【0044】
負極用活物質としての4μmの粒径を有する鱗片状の黒鉛と、結着剤としてのスチレン−ブタジエンラバーと、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースとをそれぞれ重量比98:1:1で混合することにより合剤を作製した。そして、この合剤に純水を加えることによりスラリーを作製した。
【0045】
負極1の集電体としての炭素繊維紙に対して、作製した上記スラリーを十分にしみ込ませ乾燥させた後、2×2cmの大きさに切り出しものを負極1とした。
【0046】
負極1の重量は136mgであった。なお、本実施例で用いた炭素繊維紙の空孔率は96.4%であり、炭素繊維紙のみの放電容量密度は62mAh/g(電極当たりの体積放電容量密度:4.9mAh/ml)であった。また、集電体を含めた負極1における負極用活物質の充填密度は1.66g/mlであった。
【0047】
上記のように作製した負極1と、リチウム金属からなる対極2および参照極3とを用い、図1に示す構成の試験セルを作製した。
【0048】
非水電解質5としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒に、溶質としての六フッ化リン酸リチウムを1mol/lの割合で溶解させたものを用いた。なお、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの体積比は、50:50である。
【0049】
図3は、実施例で作製した試験セルの放電特性を示したグラフである。
【0050】
図3に示すように、278.5mAh/gの放電容量密度(電極当たりの体積放電容量密度:462.8mAh/ml)を得ることができた。
【0051】
図4は、走査型電子顕微鏡(SEM)による炭素繊維紙表面の拡大写真である。
【0052】
図4に示すように、負極用活物質の粒径は30μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましいことがわかった。
【0053】
(比較例)
本比較例では、以下に示すように負極1を作製した。
【0054】
負極用活物質としての4μmの粒径を有する鱗片状の黒鉛と、結着剤としてのスチレン−ブタジエンラバーと、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースとをそれぞれ重量比98:1:1で混合することにより合剤を作製した。そして、この合剤に純水を加えることによりスラリーを作製した。
【0055】
負極1の集電体である2×2cmの銅箔に対して、作製した上記スラリーを塗布したものを負極1とした。なお、銅箔は、11μmの厚さを有する。
【0056】
負極1の重量は48.6mgであり、集電体を含めた負極1における負極用活物質の充填密度は1.16g/mlであった。
【0057】
上記のように作製した負極1と、リチウム金属からなる対極2および参照極3とを用い、図1に示す構成の試験セルを作製した。
【0058】
非水電解質5としては、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの混合溶媒に、溶質としての六フッ化リン酸リチウムを1mol/lの割合で溶解させたものを用いた。なお、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとの体積比は、50:50である。
【0059】
図5は、比較例で作製した試験セルの放電特性を示したグラフである。
【0060】
図5に示すように、212.9mAh/gの放電容量密度(電極当たりの体積放電容量密度:251.6mAh/ml)を得ることができた。
【0061】
(評価)
負極の集電体として金属(例えば、銅箔)からなる集電体の代わりに、リチウムを吸蔵および放出可能で、負極用活物質の高充填化が可能な炭素繊維紙を用いることにより、負極の集電体として銅箔を用いた場合に比べ、電極当たりの体積放電容量密度を約1.8倍も増加させることができた。
【0062】
また、この体積放電容量密度(mAh/ml)を質量放電容量密度(mAh/g)に換算すると、上記増加分は、炭素繊維紙の放電容量密度(62mAh/g)とほぼ同等の質量放電容量密度となる。これにより、負極用活物質だけでなく集電体自体も充放電に関与することがわかった。
【0063】
さらに、実施例において炭素繊維紙の炭素繊維間の空孔に負極用活物質を充填させた。それにより、比較例における1.16g/mlの負極用活物質の充填密度を大幅に上まわる1.66g/mlの充填密度を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明に係る非水電解質二次電池は、携帯用電源、自動車用電源等の種々の電源として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】予備実験、実施例および比較例において作製した試験セルの概略説明図である。
【図2】予備実験で作製した試験セルの放電特性を示したグラフである。
【図3】実施例で作製した試験セルの放電特性を示したグラフである。
【図4】走査型電子顕微鏡による炭素繊維紙表面の拡大写真である。
【図5】比較例で作製した試験セルの放電特性を示したグラフである。
【符号の説明】
【0066】
1 負極
2 対極
3 参照極
4 セパレータ
5 非水電解質
10 セル容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムを吸蔵および放出可能であるとともに集電体を含む負極と、リチウムを吸蔵および放出可能な正極と、非水電解質とを備え、
前記負極の集電体は、炭素を含む繊維により構成されることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記負極は、活物質をさらに備え、
前記炭素を含む繊維により形成される空孔内に前記活物質が充填されたことを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記負極における前記活物質の充填密度が1.66g/ml以上であることを特徴とする請求項1または2記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−164810(P2006−164810A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−356169(P2004−356169)
【出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】