説明

非水電解質二次電池

【課題】高い放電容量密度を得ることが可能で安価な非水電解質二次電池を提供する。
【解決手段】負極集電体として、電解法により銅が析出されることにより表面が凹凸状に形成された粗面化銅からなる例えば厚さ26μmの圧延箔を用意する。そして、負極集電体上に、スパッタ法によりゲルマニウム(Ge)を主成分として含む薄膜状の負極活物質層、またはゲルマニウムを主成分として含む粉体からなる負極活物質層を形成する。ナトリウムイオンの半径はリチウムイオンの半径よりも大きいので、ナトリウムイオンが負極活物質層内部に拡散しにくいことから、多結晶ゲルマニウム薄膜の厚さを8μm以下とし、または、一つのゲルマニウム粉体の粒径を16μm以下とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極、負極および非水電解質からなる非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高エネルギー密度の二次電池として、非水電解質を使用し、例えばリチウムイオンを正極と負極との間で移動させて充放電を行うようにした非水電解質二次電池が多く利用されている。
【0003】
このような非水電解質二次電池において、一般に正極としてニッケル酸リチウム(LiNiO)、コバルト酸リチウム(LiCoO)等の層状構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物が用いられ、負極としてリチウムの吸蔵および放出が可能な炭素材料、リチウム金属、リチウム合金等が用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、非水電解質として、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート等の有機溶媒に四フッ化ホウ酸リチウム(LiBF)、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)等の電解質塩を溶解させたものが使用されている。
【0005】
一方、最近では、リチウムイオンの代わりにナトリウムイオンを利用した非水電解質二次電池の研究が始められている(例えば、特許文献2参照)。この非水電解質二次電池の負極はナトリウムを含む金属により形成されている。ナトリウムは海水中に豊富に含まれ、ナトリウムを利用することにより低コスト化を図ることができる。
【特許文献1】特開2003−151549号公報
【特許文献2】特表2004−533706号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ナトリウムを利用した非水電解質二次電池の充放電反応は、ナトリウムイオンの溶解および析出により行われるため、充放電効率および充放電特性が良好でない。
【0007】
また、充放電を繰り返すと、非水電解質中に樹枝状の析出物(デンドライト)が生成されやすくなる。そのため、上記デンドライトにより内部短絡が発生する場合があり、十分な安全性の確保が困難である。
【0008】
さらに、ナトリウムイオンを利用した非水電解質二次電池において、リチウムイオンを吸蔵および放出することができる実用性の高い炭素を含む負極を用いた場合、この負極に対してナトリウムイオンが十分に吸蔵および放出されなく高い充放電容量密度を得ることができない。同様に、珪素を含む負極を用いた場合でも、この負極に対してはナトリウムイオンが吸蔵および放出されない。
【0009】
本発明の目的は、高い放電容量密度を得ることが可能で安価な非水電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)第1の発明に係る非水電解質二次電池は、負極活物質層を有する負極と、正極と、ナトリウムイオンを含む非水電解質とを備え、負極活物質層は、ゲルマニウムを主成分として含むとともに、8μm以下の厚さを有するものである。
【0011】
第1の発明に係る非水電解質二次電池においては、ゲルマニウムを主成分として含む8μm以下の厚さを有する負極活物質層を用いることにより、非水電解質のナトリウムイオンが負極に対して十分に吸蔵および放出される。それにより、可逆的な充放電を行うことが可能となる。
【0012】
また、負極活物質層の厚さを8μm以下とすることにより、高い放電容量密度を得ることが可能となる。
【0013】
さらに、資源的に豊富なナトリウムを用いることにより非水電解質二次電池の低コスト化を図ることができる。
【0014】
(2)負極活物質層は、スパッタ法により薄膜状に形成されてもよい。この場合、負極活物質層を負極集電体上に形成するためのスパッタ法を用いることにより、ターゲットからスパッタされたゲルマニウムはほぼ単原子の状態で負極集電体上に到達し堆積される。それにより、均一な多結晶ゲルマニウム薄膜が形成される。したがって、複数のゲルマニウム原子がクラスタ状に集合した状態で負極集電体上に到達し堆積される蒸着法よりも上記スパッタ法を用いることが好ましい。
【0015】
(3)第2の発明に係る非水電解質二次電池は、負極活物質層を有する負極と、正極と、ナトリウムイオンを含む非水電解質とを備え、負極活物質層は、16μm以下の粒径を有するゲルマニウムを主成分として含むものである。
【0016】
第2の発明に係る非水電解質二次電池においては、16μm以下の粒径を有するゲルマニウムを主成分として含む負極活物質層を用いることにより、非水電解質のナトリウムイオンが負極に対して十分に吸蔵および放出される。それにより、可逆的な充放電を行うことが可能となる。
【0017】
また、負極活物質層におけるゲルマニウムの粒径を16μm以下とすることにより、高い放電容量密度を得ることが可能となる。
【0018】
さらに、資源的に豊富なナトリウムを用いることにより非水電解質二次電池の低コスト化を図ることができる。
【0019】
(4)負極活物質層は、ゲルマニウム単体を含んでもよい。この場合、より高い放電容量密度を得ることが可能となる。
【0020】
(5)負極は、粗面化された金属集電体をさらに有し、負極活物質層は、粗面化された金属集電体上に形成されてもよい。
【0021】
この場合、表面が粗面化された金属集電体上に負極活物質層を形成すると、形成された負極活物質層の表面は、粗面化による金属集電体上の凹凸形状に対応した形状となる。
【0022】
ゲルマニウムを主成分として含み、膜厚8μm以下の上述の負極活物質層、または粒径が16μm以下のゲルマニウムを含む上述の負極活物質層を用いて充放電を行うと、負極活物質層の膨張および収縮に伴う応力が負極活物質層の凹凸部に集中し、負極活物質層内に構造変化が起こり、負極活物質層の凹凸部に切れ目が形成される。この切れ目によって充放電により発生する応力が分散される。それにより、可逆的な充放電が行われやすくなり、優れた充放電特性を得ることができる。
【0023】
(6)金属集電体の表面の算術平均粗さは、0.1μm以上10μm以下であってもよい。この場合、可逆的な充放電がより行われやすくなり、より優れた充放電特性を得ることができる。
【0024】
(7)非水電解質は、六フッ化リン酸ナトリウムを含んでもよい。この場合、非水電解質二次電池の安全性および熱安定性が向上される。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る非水電解質二次電池によれば、高い放電容量密度を得ることが可能で低コスト化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明の一実施の形態に係る非水電解質二次電池について図面を参照しながら説明する。
【0027】
本実施の形態に係る非水電解質二次電池は、作用極(負極)、対極(正極)および非水電解質により構成される。
【0028】
なお、以下に説明する各種材料および当該材料の厚さおよび濃度等は以下の記載に限定されるものではなく、適宜設定することができる。
【0029】
(1)作用極の作製
本実施の形態においては、以下のようにして作用極を作製する。
【0030】
負極集電体として、電解法により銅が析出されることにより表面が凹凸状に形成された粗面化銅からなる例えば厚さ26μmの圧延箔を用意する。
【0031】
次に、負極集電体上に、スパッタ法によりゲルマニウム(Ge)を主成分として含む薄膜状の負極活物質、またはゲルマニウムを主成分として含む粉体からなる負極活物質を形成する。
【0032】
ここで、スパッタ法により負極集電体上に多結晶ゲルマニウム薄膜からなる負極活物質を形成する方法について説明する。
【0033】
上記圧延箔からなる負極集電体上に、図1に示すスパッタリング装置を用いて、ゲルマニウム単体を以下のように堆積させる。堆積条件を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
最初に、チャンバ50内を1×10−4Paまで真空排気した後、チャンバ50内にアルゴンを導入し、チャンバ50内のガス圧力が1.7〜1.8×10−1Paになるようにガス圧力を安定させる。
【0036】
次に、チャンバ50内のガス圧力が安定した状態で、高周波電源52によりゲルマニウムのスパッタ源51に高周波電力を所定時間印加する。それにより、負極集電体上に多結晶ゲルマニウム薄膜からなる負極活物質層が形成される。
【0037】
上記のように、スパッタ法を用いる場合、ゲルマニウムはほぼ単原子の状態で負極集電体上に到達する。それにより、均一な多結晶ゲルマニウム薄膜が形成される。したがって、複数のゲルマニウム原子がクラスタ状に集合した状態で負極集電体上に到達する蒸着法よりも上記スパッタ法を用いることが好ましい。
【0038】
次に、負極集電体上にゲルマニウム粉体からなる負極活物質層を形成する方法について説明する。
【0039】
結着剤のポリフッ化ビニリデンをN−メチル−2−ピロリドンに溶かした溶液に、ゲルマニウム粉体を添加した後混練することにより負極合剤としてのスラリーを作製する。
【0040】
続いて、ドクターブレード法により、作製したスラリーを負極集電体上に塗布した後、真空中で乾燥させ、圧延ローラーにより圧延することによってゲルマニウム粉体からなる負極活物質層が形成される。
【0041】
ここで、負極集電体上に形成されたゲルマニウムの状態について図面を参照しながら説明する。ゲルマニウムの形成状態は2通りある。
【0042】
図2は、負極集電体上に形成されたゲルマニウムの状態を示す模式図である。
【0043】
図2(a)の例では、負極集電体1a上に多結晶のゲルマニウムが薄膜状に形成される。多結晶のゲルマニウム薄膜が負極活物質層1cを形成する。すなわち、図2(a)の例では、負極活物質層1cの厚さは多結晶のゲルマニウム薄膜の厚さに相当する。なお、この負極活物質層1cは上記スパッタ法により得ることができる。すなわち、負極集電体1a上に負極活物質層1cが形成される。
【0044】
ナトリウムイオンの半径はリチウムイオンの半径よりも大きいので、ナトリウムイオンが負極活物質層1c内部に拡散しにくいことから、多結晶のゲルマニウム薄膜の厚さを8μm以下とする。
【0045】
図2(b)の例では、負極集電体1a上にゲルマニウムの複数の粉体1bが密接するように形成される。複数の粉体1bの集合体が負極活物質層1eを形成する。なお、この負極活物質層1eは複数の粉体1bの塗布により得ることができる。
【0046】
ナトリウムイオンの半径はリチウムイオンの半径よりも大きいので、ナトリウムイオンが負極活物質層1e内部に拡散しにくいことから、一つの粉体1bの粒径(直径)を16μm以下とする。粉体1bの粒径を16μm以下とした理由は次の通りである。
【0047】
図2(a)に示すように、負極集電体1a上に堆積された負極活物質層1cにおいては、当該負極活物質層1cにおける負極集電体1aに接していない面側(図2(a)の上側)からナトリウムイオンは拡散する。一方、図2(b)の例の場合には、ナトリウムイオンは負極活物質層1e内の全方向から拡散し得るため、粉体1bの粒径は、負極活物質層1cの2倍の厚さである16μm以下となる。これにより、図2(b)の例においても、ナトリウムイオンが負極活物質層1c内に十分に吸蔵および放出されるという図2(a)の例における効果と同じ効果を得ることが可能となる。
【0048】
続いて、ゲルマニウムを含む負極活物質層1cまたは1eが形成された負極集電体1aを、2cm×2cmの大きさに切り取り、負極タブをこれに取り付けることにより作用極を作製する。
【0049】
上記粗面化された圧延箔における日本工業規格(JIS B 0601−1994)に定められた算術平均粗さRaは、0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。なお、算術平均粗さRaは、例えば触針式表面粗さ計により測定することができる。
【0050】
このように、表面が凹凸状に形成された負極集電体上に負極活物質層を形成すると、負極活物質層の表面は、負極集電体上の凹凸形状に対応した形状となる。
【0051】
このような膜厚8μm以下の多結晶ゲルマニウム薄膜または粒径16μm以下のゲルマニウム粉体からなる負極活物質層を用いて充放電を行うと、負極活物質層の膨張および収縮に伴う応力が負極活物質層の凹凸部に集中し、多結晶ゲルマニウム薄膜またはゲルマニウム粉体の構造変化が起こり、負極活物質層の凹凸部に切れ目が形成される。この切れ目によって充放電により発生する応力が分散される。それにより、可逆的な充放電が行われやすくなり、優れた充放電特性を得ることができる。
【0052】
(2)非水電解質の作製
非水電解質としては、非水溶媒に電解質塩を溶解させたものを用いることができる。
【0053】
非水溶媒としては、通常電池用の非水溶媒として用いられる環状炭酸エステル、鎖状炭酸エステル、エステル類、環状エーテル類、鎖状エーテル類、ニトリル類、アミド類等およびこれらの組合せからなるものが挙げられる。
【0054】
環状炭酸エステルとしては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられ、これらの水素基の一部または全部がフッ素化されているものも用いることが可能で、例えば、トリフルオロプロピレンカーボネート、フルオロエチルカーボネート等が挙げられる。
【0055】
鎖状炭酸エステルとしては、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルイソプロピルカーボネート等が挙げられ、これらの水素基の一部または全部がフッ素化されているものも用いることが可能である。
【0056】
エステル類としては、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン等が挙げられる。環状エーテル類としては、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1、3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、1,4−ジオキサン、1,3,5−トリオキサン、フラン、2−メチルフラン、1,8−シネオール、クラウンエーテル等が挙げられる。
【0057】
鎖状エーテル類としては、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、ペンチルフェニルエーテル、メトキシトルエン、ベンジルエチルエーテル、ジフェニルエーテル、ジベンジルエーテル、o−ジメトキシベンゼン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、1,1−ジメトキシメタン、1,1−ジエトキシエタン、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチル等が挙げられる。
【0058】
ニトリル類としては、アセトニトリル等が挙げられ、アミド類としては、ジメチルホルムアミド等が挙げられる。
【0059】
電解質塩としては、非水溶媒に可溶な過酸化物(NaClO等)でない安全性および熱安定性が高いものを用いる。例えば、電解質塩として、六フッ化リン酸ナトリウム(NaPF)、四フッ化ホウ酸ナトリウム(NaBF)、NaCFSO、NaBeTi等を用いることができる。なお、上記の電解質塩のうち1種を用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
本実施の形態では、非水電解質として、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比50:50の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸ナトリウムを1mol/lの濃度になるように添加したものを用いる。
【0061】
(3)非水電解質二次電池の作製
図3は、本実施の形態に係る非水電解質二次電池の試験セルの概略説明図である。
【0062】
図3に示すように、不活性雰囲気下において、上記作用極1にリードを取り付けるとともに、例えばナトリウム金属からなる対極2にリードを取り付ける。なお、ナトリウム金属からなる上記対極2の代わりに、ナトリウムイオンを吸蔵および放出することが可能な炭素材料および導電性ポリマー等の他の材料を含む対極を用いてもよい。
【0063】
次に、作用極1と対極2との間にセパレータ4を挿入し、セル容器10内に作用極1、対極2および例えばナトリウム金属からなる参照極3を配置する。そして、セル容器10内に上記非水電解質5を注入することにより試験セルを作製する。
【0064】
(4)本実施の形態における効果
図4に示すゲルマニウムとナトリウムとの2相状態図からわかるように、ゲルマニウムおよびナトリウムは合金化される。しかしながら、ゲルマニウムがナトリウムイオンを吸蔵および放出することが可能か否かについては本出願時まで知見がなかった。
【0065】
本実施の形態においては、以下の作用効果を得ることができる。
【0066】
第1に、ゲルマニウムを主成分として含む作用極1を用いることにより、ナトリウムイオンが作用極1に対して十分に吸蔵および放出される。
【0067】
第2に、上記作用極1の負極活物質層1cの厚さを8μm以下とし、または、上記作用極1の負極活物質層1eにおける粉体1bの粒径を16μm以下とすることにより、高い放電容量密度を得ることが可能となる。
【0068】
第3に、資源的に豊富なナトリウムを使用することにより非水電解質二次電池の低コスト化を図ることができる。
【実施例】
【0069】
(a)実施例1〜4の非水電解質二次電池
実施例1〜4においては、上記実施の形態に基づいて非水電解質二次電池の試験セルを作製し、作製した非水電解質二次電池の充放電特性を調べた。ここでは、負極集電体1a上に図2(a)の負極活物質層1cを形成した。
【0070】
実施例1〜4では、負極活物質層1cの厚さをそれぞれ0.5μm、1μm、6.3μmおよび8μmとした。
【0071】
作製した各試験セルにおいて、0.1mAの定電流で、参照極3を基準とする作用極1の電位が0Vに達するまで放電を行った。そして、0.1mAの定電流で、参照極3を基準とする作用極1の電位が1.5Vに達するまで充電を行うことにより充放電特性を調べた。以下、代表的に実施例1の充放電特性を示す。
【0072】
図5は、実施例1の非水電解質二次電池の充放電特性を示したグラフである。
【0073】
図5に示すように、作用極1の負極活物質1g当たりの放電容量密度が約312mAh/gとなった。これにより、良好に充放電が行われていることおよび高い放電容量密度を得られることが確認できた。
【0074】
(b)比較例の非水電解質二次電池
比較例においては、上記実施の形態に基づいて非水電解質二次電池の試験セルを作製し、作製した非水電解質二次電池の充放電特性を調べた。実施例1〜4と同様に、負極集電体1a上に図2(a)の負極活物質層1cを形成した。比較例では、負極活物質層1cの厚さを15μmとした。
【0075】
比較例の非水電解質二次電池についても上記実施例1〜4と同様に充放電試験を行った。
【0076】
(c)評価
図6は、実施例1〜4および比較例の充放電試験の結果を示すグラフである。
【0077】
図6に示すように、負極活物質層1cの厚さが8μm以下である場合(実施例1〜4)には、放電容量密度は200mAh/g以上となり、非常に高い放電容量密度が得られることが確認できた。なお、実施例1〜4の非水電解質二次電池の放電容量密度は、それぞれ312mAh/g、280mAh/g、306mAh/gおよび222mAh/gとなった。
【0078】
一方、負極活物質層1cの厚さが8μmを超える(比較例:15μm)場合には、放電容量密度は著しく低下した(比較例:28mAh/g)。
【0079】
このように、負極活物質層1cの厚さがある値を超えた場合に放電容量密度が低下する傾向を見出すことができた。
【0080】
図6の上部に示すように、ナトリウム金属の代わりにリチウム金属からなる対極2を用いた場合、すなわち、ゲルマニウムを含む作用極1にリチウムイオンが吸蔵および放出される場合には、負極活物質層1cの厚さに対する放電容量密度の変化はほとんど確認されなかった。
【0081】
ここで、リチウムイオンを利用する非水電解質二次電池に用いられる炭素負極の放電容量は、770Ah/L(=350[mAh/g]×2.2[g/cc](炭素の密度))である。
【0082】
すなわち、ナトリウムイオンを利用する非水電解質二次電池に用いられる本例のゲルマニウム負極(作用極1)の放電容量密度が、140mAh/g(≒770[Ah/L]/5.4[g/cc](ゲルマニウムの密度))以上であれば、炭素負極を用いるよりも高容量の非水電解質二次電池を実現できると言える。
【0083】
実施例1〜4のように、負極活物質層1cの厚さが8μm以下の場合において200mAh/g以上の放電容量密度を得ることができた。
【0084】
これにより、ゲルマニウムを含む作用極1を用いることによって、炭素負極を用いた場合よりも高容量な非水電解質二次電池が得られることが確認できた。
【0085】
なお、図2(b)に示した負極活物質層1eを用いた場合にも、粉体1bの粒径が16μm以下である場合に、実施例1〜4と同様に高い放電容量密度を得ることが可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る非水電解質二次電池は、携帯用電源、自動車用電源等の種々の電源として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0087】
【図1】スパッタリング装置の概略模式図である。
【図2】負極集電体上に形成されたゲルマニウムの状態を示す模式図である。
【図3】本実施の形態に係る非水電解質二次電池の試験セルの概略説明図である。
【図4】ゲルマニウムとナトリウムとの2相状態図である。
【図5】実施例1の非水電解質二次電池の充放電特性を示したグラフである。
【図6】実施例1〜4および比較例の充放電試験の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0088】
1 作用極
1a 負極集電体
1b 粉体
1c,1e 負極活物質層
2 対極
3 参照極
4 セパレータ
5 非水電解質
10 セル容器
50 チャンバ
51 スパッタ源
52 高周波電源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極活物質層を有する負極と、正極と、ナトリウムイオンを含む非水電解質とを備え、
前記負極活物質層は、ゲルマニウムを主成分として含むとともに、8μm以下の厚さを有することを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記負極活物質層は、スパッタ法により薄膜状に形成されたことを特徴とする請求項1記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
負極活物質層を有する負極と、正極と、ナトリウムイオンを含む非水電解質とを備え、
前記負極活物質層は、16μm以下の粒径を有するゲルマニウムを主成分として含むことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記負極活物質層は、ゲルマニウム単体を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記負極は、粗面化された金属集電体をさらに有し、
前記負極活物質層は、前記粗面化された金属集電体上に形成されたことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記金属集電体の表面の算術平均粗さは、0.1μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項5記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記非水電解質は、六フッ化リン酸ナトリウムを含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−4461(P2008−4461A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174758(P2006−174758)
【出願日】平成18年6月26日(2006.6.26)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】