説明

非水電解質二次電池

【課題】本発明は、正極活物質の電位がリチウム基準で4.3Vを超える高電圧充電することのできる非水電解質二次電池の初期容量およびサイクル特性並びに保存特性を改善することを目的とする。
【解決手段】非水電解質二次電池の非水電解質に、1,3−ジオキサンとスルホン酸エステル化合物の双方を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関し、詳しくはサイクル特性および充電保存特性を向上させた非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、携帯電話、ノートパソコン等の移動情報端末の高性能化および小型軽量化が急速に進展している。これらの端末の移動電源として、高エネルギー密度および高容量を有するリチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
近年、これらの機器のさらなる高性能化の要請に応えるべく、電池の一層の高容量化が要請されている。
【0004】
電池の高容量化を図る手段としては、正極活物質の電位がリチウム基準で4.3Vより高い電位になるまで正極を充電することにより、正極活物質の利用効率を高める方法が知られている。
【0005】
しかし、高電圧充電では、正極側で電解質が酸化分解するなどの望ましくない反応が促進されるため、サイクル特性の劣化が生じる。また、高温条件下で充電状態の電池を保存した場合、保存後の放電容量が低下したり、正極と電解液との反応により発生するガスにより電池の厚みが増加するなどの現象が起こる。
【0006】
非水電解質二次電池のサイクル特性および充電保存特性の向上のための技術として、非水電解液中にスルホン酸エステル化合物を添加することが提案されている。
【0007】
例えば下記特許文献1には、スルホン酸エステル化合物を電解質に添加することで、高電圧充電後における電池端子間の開路電圧を向上させる技術が開示されている。
【0008】
特許文献2には、1,4−ブタンジオールジメタンスルホネートなどのスルホン酸エステル化合物を電解質に添加することで、充放電容量が大きく、かつ充電状態での高温保存劣化の小さい電池を得る技術が開示されている。
【0009】
特許文献3から6には、スルホン酸エステル化合物についての記載があり、それぞれ電解液にスルホン酸エステル化合物を添加することで、非水電解質二次電池のサイクル特性等を改善する技術が開示されている。
【0010】
また、特許文献7および8には、1,3−ジオキサンを溶媒の主成分として用いることにより、非水電解質の充放電特性を改善することができることが開示されている。
【0011】
【特許文献1】特開2006−351337号公報
【特許文献2】特開2005−285630号公報
【特許文献3】国際公開WO2003/077351号公報
【特許文献4】国際公開WO2005/029631号公報
【特許文献5】特開2000−195545号公報
【特許文献6】特開2001−313071号公報
【特許文献7】特開昭63−152886号公報
【特許文献8】特開2000−40524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
リン酸鉄リチウムを正極活物質として使用した場合に、ハイレート放電におけるサイクル特性または負荷特性などの電池特性が改善される非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【0013】
本発明者らは、上記従来技術を鋭意検討した。その結果、非水電解質に1,3−ジオキサンを添加剤として加えると正極における電解液の酸化分解を抑制できる効果が得られるものの、電池の初期充電時に負極で副反応が生じて初期容量が低下することを知った。
【0014】
また、1,3−ジオキサンに代えて、1,3−ジオキサンの異性体である1,4−ジオキサンを用いると、1,3−ジオキサンを用いた場合に比べて、電池
がより大きく膨張することを知った。
【0015】
また、従来の非水電解質二次電池においては、正極活物質の電位がリチウム基準で4.3Vを超える高電圧にまで充電を行った場合、300サイクルのような高いサイクル数におけるサイクル特性の向上が不十分になることを知った。
【0016】
本発明は、これらの知見に基づいてなされた発明である。本発明の目的は、非水電解質二次電池のサイクル特性および充電保存特性、特に高電圧充電におけるサイクル特性および充電保存特性を改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するための本発明の基本構成(第1の態様)は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、非水電解質とを有する非水電解質とを含む非水電解質二次電池において、前記非水電解質が、非水溶媒と、電解質塩と、1,3−ジオキサンと、スルホン酸エステル化合物とを含む構成である。
【0018】
この基本構成によると、サイクル特性や充電保存特性に優れた非水電解質電池が得られる。この理由として次のことが考えられる。1,3−ジオキサンは負極側で副反応を生じて電池の初期容量を低下させるが、上記構成では非水電解質に、1,3−ジオキサンと共にスルホン酸エステル化合物が添加されているので、これが1,3−ジオキサンが負極で副反応を生じる前に(副反応に優先して)、スルホン酸エステル化合物由来の負極保護膜を形成する。この保護膜が、1,3−ジオキサンの副反応を抑制する。よって初期容量の低下を招くことなく、サイクル特性や充電保存特性などの特性値を改善できる。
【0019】
また、上記本発明基本構成においては、前記スルホン酸エステル化合物が、下記の化学式(1)で表されるメタンスルホン酸ペンタフルオロフェニル、(2)、(3)または(4)で表される化合物からなる群より選択される化合物とすることができる(第2の態様)。
【0020】
【化1】

【0021】
【化2】

〔ただし、R1およびR2は、それぞれ、アルキル基、ハロアルキル基、またはアリール基のいずれかであり、R3およびR4はそれぞれ水素原子またはメチル基である。また、nは1〜5の整数である。〕
【0022】
【化3】

〔ただし、R1およびR2は、それぞれ、アルキル基、ハロアルキル基、またはアリール基のいずれかであり、m及びpは1または2である。〕
【0023】
【化4】

〔ただし、R1は、アルキル基、ハロアルキル基、またはアリール基のいずれかであり、mは1または2である。〕
【0024】
また、上記本発明基本構成において、前記スルホン酸エステル化合物は、前記化学式(2)、(3)または(4)で表される化合物の少なくとも1つを含み、かつ
i)前記化学式(2)のR1およびR2が、それぞれ、炭素数が1〜6のアルキル基、または炭素数が1〜6のハロアルキル基、または炭素数が6〜12のアリール基のいずれかであり、R3およびR4が、それぞれ、水素原子またはメチル基であり、nは1〜5の整数であり、
ii)前記化学式(3)のR1およびR2が、それぞれ、炭素数が1〜6のアルキル基、または炭素数が1〜6のハロアルキル基、または炭素数が6〜12のアリール基のいずれかであり、mおよびpは1または2であり、
iii)前記化学式(4)のR1が、炭素数が1〜6のアルキル基、または炭素数が1〜6のハロアルキル基、または炭素数が6〜12のアリール基のいずれかであり、mは1または2である、
とすることができる(第3の態様)
【0025】
上記本発明基本構成にかかる非水電解質電池において、好ましくは前記スルホン酸エステル化合物が、メタンスルホン酸ペンタフルオロフェニル、1,4−ブタンジオールジメタンスルホネート、1,2-プロパンジオールジメタンスルホネート、または2−ブチン−1,4−ジオールジメタンスルホネートからなる群より選択される化合物である構成とすることができる(第4の態様)。
【0026】
第5の態様として、第1から第4の態様において、前記1,3−ジオキサンの配合量は、好ましくは前記非水電解質の全質量に対して0.3質量%以上、3質量%以下とする。
【0027】
前記非水電解質の全質量に対する1,3−ジオキサンの配合量が0.3質量%未満であると、保存後容量復帰率が低下する一方、配合量が3質量%を超えると、サイクル特性が劣化する傾向が現れる。よって非水電解質に添加する1,3−ジオキサンの量は、非水電解質の全質量に対して0.3質量%以上、3質量%以下が好ましく、この範囲であると、良好な保存後容量復帰率を保ちなが
ら一層優れたサイクル特性が得られる。
【0028】
第6の態様として、上記の非水電解質電池において、さらに好ましくは、前記1,3−ジオキサンの配合量は、前記非水電解質の全質量に対して0.5質量%以上、2質量%以下であるとすることができる。
【0029】
第7の態様として、前記非水電解質電池において、前記スルホン酸エステル化合物は、前記非水電解質の全質量に対して0.1質量%以上、3質量%以下含まれる構成とするのが好ましい。非水電解質の全質量に対してスルホン酸エステル化合物の配合量が、0.1質量%未満であると、1,3−ジオキサン添加による初期容量の低下を抑制する効果が低下する一方、3質量%を超えて配合すると、電池の保存中に電池が膨張する傾向があるからである。
【0030】
第8の態様として、前記非水電解質電池において、前記正極活物質の電位がリチウム基準で4.3Vより高く5.1V以下である構成とすることができる。
【0031】
さらに、第9の態様として、前記正極活物質が、リチウムコバルト複合酸化物と、リチウムマンガンニッケル複合酸化物とが混合されたものであり、前記リチウムコバルト複合酸化物が、ジルコニウムとマグネシウムとを含有し、前記リチウムマンガンニッケル複合酸化物が層状構造を有することができる。また、この構成において、前記正極活物質の電位をリチウム基準で4.4Vより高く4.6V以下とすることができる。
【0032】
これらの構成であると、正極活物質の電位がリチウム基準で4.3V以下で充電する従来の汎用電池に比較し高容量とでき、しかも正極安定性の高い高電圧充電耐性に優れた電池とできるので、高容量でありながらサイクル特性及び保存特性に優れた非水電解質二次電池を実現することができる。ここで正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物を用いたときは、正極活物質の電位がリチウム基準で5.1Vを超えると安定性が低下するので好ましくない。
【発明の効果】
【0033】
以上に記載した一群の本発明によると、正極活物質の電位がリチウム基準で4.3Vを超える高電圧充電されるような使用においても、初期容量が大きく、かつサイクル特性と充電保存特性にも優れた非水電解質二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
本発明の好ましい実施の形態について説明する。本発明は、非水電解質二次電池の電解質に1,3−ジオキサンとスルホン酸エステル化合物の双方を添加した点に特徴を有する電池である。
【0035】
このような本発明非水電解質二次電池は、スルホン酸エステル化合物として、下記化学式(1)〜(4)に記載のものを使用することができる。
【0036】
【化5】

【0037】
【化6】

【0038】
ここで、化学式(1)で表される化合物はメタンスルホン酸ペンタフルオロフェニルである。
【0039】
化学式(2)におけるR1およびR2は、それぞれ、アルキル基、ハロアルキル基、またはアリール基のいずれかであり、R3およびR4は、それぞれ水素原子またはメチル基であり、nは1〜5の整数である。
【0040】
また好ましくは、上記R1およびR2は、それぞれ、炭素数が1〜6のアルキル基、または炭素数が1〜6のハロアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基のいずれかであり、R3およびR4はそれぞれ水素原子またはメチル基である。nは好ましくは1〜3の整数である。
【0041】
またより好ましくは、上記R1およびR2は、それぞれ、炭素数が1〜2のメチル基またはエチル基などのアルキル基、または炭素数が1〜2のトリフルオロメチル基または2,2,2−トリフルオロエチル基などのハロアルキル基、または炭素数6〜9のフェニル基またはp−トリル基などのアリール基のいずれかであり、R3およびR4はそれぞれ水素原子またはメチル基である。また、nは好ましくは1〜3の整数、より好ましくはn=3である。
【0042】
なお、上記R1およびR2の炭素数が8以上になると、これらの基が、スルホン酸エステル化合物と、スルホン酸エステル化合物以外の非水電解質成分との反応を立体障害し易くなるために、求める効果が得られにくくなる。よって、R1およびR2の炭素数7以下とするのが好ましい。
【0043】
【化7】

【0044】
ここで上記式(3)におけるR1およびR2は、それぞれ、アルキル基、ハロアルキル基、またはアリール基のいずれかであり、m及びpは1または2である。
【0045】
また好ましくは、R1およびR2は、炭素数1〜6のアルキル基、または炭素数1〜6のハロアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基のいずれかであり、mおよびpは1または2である。
【0046】
またより好ましくは、R1およびR2は、炭素数1〜2のメチル基またはエチル基などのアルキル基、または炭素数1〜2のトリフルオロメチル基または2,2,2−トリフルオロエチル基などのハロアルキル基、または炭素数6〜9のフェニル基またはp−トリル基などのアリール基のいずれかであり、mおよびpは1または2であり、さらに好ましくはm=1およびp=1である。
【0047】
なお、R1およびR2の炭素数を7以下とするのが好ましい理由は上記と同様である。
【0048】
【化8】

【0049】
ここで化学式(4)におけるR1は、アルキル基、ハロアルキル基、またはアリール基のいずれかであり、mは1または2である。
【0050】
また好ましくは、R1は、炭素数1〜6のアルキル基、または炭素数1〜6のハロアルキル基、または炭素数6〜12のアリール基のいずれかであり、mは1または2である。
【0051】
また、より好ましくは、R1は、それぞれ、炭素数1〜2のメチル基またはエチル基などのアルキル基、または炭素数1〜2のトリフルオロメチル基または2,2,2−トリフルオロエチル基などのハロアルキル基、または炭素数6〜9のフェニル基またはp−トリル基などのアリール基のいずれかであり、mは1または2、さらに好ましくはm=1である。
【0052】
なお、上記R1の炭素数を7以下とするのが好ましい理由は上述と同様である。
【0053】
さらにまた、上記化学式(2)に示されるスルホン酸エステル化合物の好適な例は、R1およびR2がメチル基であるものである。さらに化学式(2)においてnは、n=1〜3が好ましく、化学式(2)の好適な例は、1,4−ブタンジオールジメタンスルホネートおよび、1,2-プロパンジオールジメタンスルホネートである。
【0054】
また、上記化学式(3)に示されるスルホン酸エステル化合物の好適な例は、R1およびR2がメチル基のものである。さらに化学式(3)においてm=p=1が好ましいので、化学式(3)の好適な例は、2−ブチン−1,4−ジオールジメタンスルホネートである。
【0055】
また、上記化学式(4)に示されるスルホン酸エステル化合物の好適な例としては、R1がメチル基のものである。さらに化学式(4)においてm=1が良好とされるため、化学式(4)の最良の形態はメタンスルホン酸2-プロピニルである。
【0056】
本発明で使用する正極活物質としては、リチウムを吸蔵放出することのできるリチウム化合物を用い、好ましくは、リチウムコバルト複合酸化物と、リチウムマンガンニッケル複合酸化物とを混合したものを用いる。
【0057】
上記リチウムコバルト複合酸化物としては、LiCoO2に加えてジルコニウムとマグネシウムとを含有するリチウムコバルト複合酸化物を用い、かつリチウムマンガンニッケル複合酸化物としては、層状構造を有するものを用いるのがよい。
【0058】
本発明で使用する負極活物質としては、リチウムを吸蔵・放出することが可能な炭素質材料を用いることができ、例えば人造黒鉛や天然黒鉛等の黒鉛類を用いる。
【0059】
また、非水電解質の電解質塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiN(C25SO22、LiN(CF3SO2)(C49SO2)、LiC(CF3SO33、LiC(C25SO23、LiAsF6、LiClO4、Li210Cl10、Li212Cl12など、およびこれらの混合物を用いる。これらの全電解質塩が溶解されて使用される濃度は、前記の非水溶媒に対して0.1〜2Mが好ましく、0.5〜1.5Mがより好ましい。
【0060】
非水電解質の非水溶媒については、特に制限されない。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、1,2−シクロヘキシルカーボネート、シクロペンタノン、スルホラン、3−メチルスルホラン、2,4−ジメチルスルホラン、3−メチル−1,3−オキサゾリジン−2−オン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、酢酸エチル、およびこれらの混合物を用いることができる。
【0061】
ただし、充放電効果を高めることから、好ましくはエチレンカーボネート(EC)またはプロピレンカーボネート(PC)またはビニレンカーボネート(VC)のような環状カーボネートと、ジメチルカーボネート(DMC)、メチルエチルカーボネート(MEC)またはジエチルカーボネート(DEC)のような鎖状カーボネートとを組み合わせたものを用いるのがよい。前記環状カーボネート類と鎖状カーボネート類の割合は、特に制限はされないが、環状カーボネート類:鎖状カーボネート類(質量比)が1:9〜5:5が好ましく、2:8〜4:6がより好ましい。また、鎖状カーボネートとしては、メチルエチルカーボネートのような非対称カーボネートを用いるのが好ましい。
【0062】
なお、本明細書において、1,3−ジオキサン及びスルホン酸エステル化合物は、非水溶媒および電解質塩に属さない添加剤として扱う。
【0063】
本発明で使用されるセパレータは、多孔質ポリオレフィンフィルムなどの公知の材質が使用でき、特に限定されない。
【0064】
本発明は、非水電解質の組成に特徴を有するものであり、電池の形状および用途などは限定されない。適用可能な非水電解質二次電池の形状としては、角形電池、筒形電池またはボタン形電池等を挙げることができる。
【0065】
本発明を実施するための最良の形態を、実施例に基づいてより具体的に説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することができることは勿論である。
【0066】
(実施例1)
<正極の作製>
正極活物質の成分の1つであるリチウムコバルト複合酸化物である活物質Aを次のようにして作製した。
【0067】
コバルト(Co)に対して0.15mol%のジルコニウム(Zr)と、コバルトに対して0.5mol%のマグネシウム(Mg)とを水酸化物として共沈させ、熱分解反応させて、ジルコニウム、マグネシウム含有四酸化三コバルト(Co34)を得た。
【0068】
この四酸化三コバルトと炭酸リチウムとを混合し、空気雰囲気中において850℃で24時間焼成した。これを乳鉢で平均粒径が14μmとなるまで粉砕して、ジルコニウム、マグネシウム含有リチウムコバルト複合酸化物(活物質A)を作製した。
【0069】
また、正極活物質のもう1つの成分であるリチウムマンガンニッケル複合酸化物(活物質B)を次のようにして作製した。
【0070】
炭酸リチウム(Li2CO3)と、Ni0.33Mn0.33Co0.34(OH)2で示される共沈水酸化物とを混合し、空気雰囲気中で1000℃で20時間焼成した後、焼成物を乳鉢で平均粒径が5μmとなるまで粉砕した。これにより、リチウムマンガンニッケル複合酸化物(活物質B)を作製した。この活物質Bの結晶構造をX線回折法を用いて解析したところ、層状構造を有することが確認された。
【0071】
上記した活物質Aと活物質Bとを、質量比が7:3になるように混合し正極活物質とした。この正極活物質94質量部、導電剤としての炭素粉末3質量部、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン粉末3質量部とを混合し、これをN−メチルピロリドン(NMP)溶液と混合してスラリーを調製した。このスラリーをアルミニウム製集電体の両面にドクターブレード法により塗布し、乾燥して正極集電体の両面に活物質層を形成した正極板を作製し、その後,圧縮ローラーを用いて正極板を圧縮し,短辺の長さが29.0mmの正極を作製した。
【0072】
<負極の作製>
黒鉛と、結着剤としてのスチレン−ブタジエンゴム(SBR)(スチレン:ブタジエン=1:1)とを水に分散させ、さらに増粘剤としてのカルボキシメチルセルロース(CMC)を添加してスラリーを調製した。各物質の配合比は、炭素成分:SBR:CMC=95:3:2(乾燥質量比)となるように調節した。このスラリーを銅箔の両面にドクターブレード法により塗布し、乾燥および圧縮させて短辺の長さ31.0mmの負極を作製した。
【0073】
<非水電解質の作製>
電解液としてエチレンカーボネート(EC)と、プロピレンカーボネート(PC)と、ジエチルカーボネート(DEC)と、メチルエチルカーボネート(MEC)との混合物である非水電解質溶媒(体積比 EC:PC:DEC:MEC=20:5:45:30)にLiPF6を1モル/リットルの濃度となるように溶かした後、非水電解質全質量に対して2質量%の含有率となるようにビニレンカーボネート(VC)を添加した。この時点での電解液の基本構成は、LiPF6:EC:PC:MEC:DEC:VC=
12.6:21.0:4.8:36.2:23.4:2.0(質量%)となった。
【0074】
さらに、非水電解質全質量に対して1,3−ジオキサンを1.0質量%添加し、化学式(1)のメタンスルホン酸ペンタフルオロフェニルを0.5質量%添加した。
【0075】
<電池の作製>
正極極板と負極極板との間にセパレータを介在させ、捲回して電極体とした。セパレータは、オレフィン樹脂を主体とした微多孔性セパレータを使用した。この電極体を金属製角形外装缶に収納した後、上記で作製した電解液を注液し、角形リチウムイオン二次電池(5mm×34mm×36mm、設計容量:820mAh)を完成させた。
【0076】
(実施例2)
メタンスルホン酸ペンタフルオロフェニルの添加量を非水電解質全質量に対し2.0質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0077】
(実施例3)
メタンスルホン酸ペンタフルオロフェニルの添加量を非水電解質全質量に対し3.0質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0078】
(実施例4)
メタンスルホン酸ペンタフルオロフェニルの添加量を非水電解質全質量に対し0.2質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0079】
(実施例5)
非水電解質全質量に対し1,3−ジオキサンの添加量を0.5質量%とし、メタンスルホン酸ペンタフルオロフェニルの添加量を0.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0080】
(実施例6)
非水電解質全質量に対し1,3−ジオキサンの添加量を2.0質量%とし、メタンスルホン酸ペンタフルオロフェニルの添加量を0.5質量%としたこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0081】
(実施例7)
メタンスルホン酸ペンタフルオロフェニルの代わりに、化学式(2)のスルホン酸エステル化合物の1つである1,4−ブタンジオールジメタンスルホネートを非水電解質全質量に対し0.5質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0082】
(実施例8)
メタンスルホン酸ペンタフルオロフェニルの代わりに、化学式(3)のスルホン酸エステル化合物の1つである2−ブチン−1,4−ジオールジメタンスルホネートを非水電解質全質量に対し0.5質量%添加したこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0083】
(比較例1)
1,3−ジオキサンおよびスルホン酸エステル化合物の両方を全く添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0084】
(比較例2)
メタンスルホン酸ペンタフルオロフェニルを0.5質量%添加し、1,3−ジオキサンを全く添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0085】
(比較例3)
1,4−ブタンジオールジメタンスルホネートを非水電解質全質量に対し0.5質量%添加し、1,3−ジオキサンを全く添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0086】
(比較例4)
1,3−ジオキサンを非水電解質全質量に対し1質量%添加し、スルホン酸エステル化合物を全く添加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして、非水電解質二次電池を作製した。
【0087】
上記の実施例および比較例で作製した各電池の充放電サイクル特性および高温保存性について以下のようにして測定を行った。
【0088】
<充放電サイクル特性の測定>
上記のように作製した各電池について、以下に示した条件下で充放電サイクル試験を行った。充放電サイクル試験は、全て45℃に維持された恒温槽中で行った。また電圧値は、全て電池電圧である。
【0089】
まず、角形リチウムイオン電池を1It(820mA)の定電流で充電する。電池電圧が4.38Vに達した時点で4.38V(リチウム基準の正極充電電位として約4.48V)の電圧を維持し、その定電圧のまま1/50It(16mA)になるまで充電した。その後、1It(820mA)の定電流で電池電圧が3.0Vに達するまで放電を行い、この時の放電容量を初期容量として求めた。同様の充放電を繰り返し、この一連の手順を1サイクルとした。これを100サイクルおよび300サイクル繰り返し、各サイクル後の放電容量を計測した。そして、以下の計算式に基づいて各サイクル後の容量残存率(%)を計算し、サイクル特性を示す値とした。
容量残存率(%)=(各サイクル後の放電容量/初期容量)×100
【0090】
<高温保存特性の測定>
雰囲気温度25℃において、1It(820mA)の定電流で電池電圧が4.38Vに達するまで充電した。その後、4.38Vの定電圧で電流値が1/50It(16mA)になるまで充電した。その充電された電池を60℃の恒温槽中に20日間放置し、その後25℃まで冷やし、その際の電池の厚みを測定した。
【0091】
続いて、上記の放置後の電池を放置前と同条件で充電し、1It(820mA)の定電流で電池電圧が3.0Vに達するまで放電してこの時の放電容量を測った。各電池について以下の計算式に基づいて充電状態で保存した場合における保存後容量復帰率(%)を計算し、保存特性を示す値とした。
保存後容量復帰率(%)=(充電保存後の放電容量/初期容量)×100
【0092】
メタンスルホン酸ペンタフルオロフェニルを添加した場合を表1に示し、1,4−ブタンジオールジメタンスルホネートを添加した場合を表2に示し、そして2−ブチン−1,4−ジオールジメタンスルホネートを添加した場合を表3にそれぞれ示す。
【0093】
【表1】

【0094】
比較例1と比較例2の比較から、メタンスルホン酸ペンタフルオロフェニルのみの添加では、300サイクル後の容量残存率及び保存後容量復帰率の改善が殆ど認められなかった。また、比較例1と比較例4の比較から、1,3-ジオキサンの添加により、300サイクル後容量残存率及び保存後容量復帰率が向上するが、1,3-ジオキサンのみの添加では、初期容量が低下した。他方、1,3-ジオキサン(1.0質量%)とメタンスルホン酸ペンタフルオロフェニル(0.5質量%)とを併用した実施例1は、初期容量、300サイクル後の容量残存率、保存後容量復帰率ともに良好な結果が得られた。更に1,3-ジオキサンと、メタンスルホン酸ペンタフルオロフェニルとを併用した実施例2〜6についても、実施例1と同様に良好な結果が得られた。
【0095】
すなわち、実施例1〜6の初期容量は、比較例1、2および4のそれと同等以上であり、サイクル特性は、100サイクルでは実施例1〜6と比較例2、4との間に大きな違いは見られないものの、300サイクルでは十分な差が認められた。
【0096】
ただし、メタンスルホン酸ペンタフルオロフェニルを3.0質量%添加した実施例3において、電池が膨張し電池厚みが増加する傾向が認められた。また、表1には示していないが、メタンスルホン酸ペンタフルオロフェニルなどのスルホン酸エステル化合物の添加量を0.1質量%未満とすると、1,3−ジオキサン添加による初期容量の低下を抑制する効果が低下することが確認されている。
【0097】
よって、非水電解質全質量に対するメタンスルホン酸ペンタフルオロフェニルなどのスルホン酸エステル化合物の添加量は、好ましくは0.1質量%以上、2.0質量%以下とするのがよい。
【0098】
また、1,3−ジオキサンは、非水電解質全質量に対し0.3質量%未満の添加では保存後容量復帰率が十分に改善しない一方、3質量%を超えるとサイクル特性が悪くなる傾向があることが確認されている。よって非水電解質全質量に対する1,3−ジオキサンの添加量は、好ましくは0.3質量%以上、3質量%以下とするのがよく、より好ましくは0.5質量%以上、2.0質量%以下とする。
【0099】
【表2】

【0100】
表1と同様、1,3−ジオキサンと共にスルホン酸エステル化合物の一種である1,4−ブタンジオールジメタンスルホネートを加えることにより、1,3−ジオキサンのみを添加した場合(比較例4)おける初期容量の低下を十分に回復させることができた(実施例7)。
【0101】
さらに、1,3−ジオキサンのみの添加で得られる、300cycle後の容量残存率および保存後容量復帰率の改善効果(比較例1と比較例4参照)は、1,3−ジオキサンと共に1,4−ブタンジオールジメタンスルホネートを加えることにより、さらに向上した(実施例7)。他方、1,4-ブタンジオールジメタンスルホネートのみの添加では、初期容量、300cycle後の容量残存率、保存後容量復帰率とも実質的に変化しなかった(比較例3と比較例1参照)。また、1,4−ブタンジオールジメタンスルホネートを0.5質量%添加したことにより、電池厚みが大きく増大することはなかった(比較例1と比較例3、比較例4と実施例7参照)。
【0102】
【表3】

【0103】
1,3−ジオキサンと共に、スルホン酸エステル化合物の一種である2−ブチン−1,4−ジオールジメタンスルホネートとの組合せにおいても、上記表2における場合と同様のサイクル特性および保存特性の改善の効果が認められた。また、2−ブチン−1,4−ジオールジメタンスルホネートの添加により、電池の厚みに目立った上昇はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明によると、正極活物質の電位がリチウム基準で4.3Vを超える高電圧充電において初期容量が大きく、サイクル特性および保存特性にも優れた非水電解質二次電池を提供することができる。よって本発明の産業上の利用可能性は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、非水電解質と、を備える非水電解質二次電池において、
前記非水電解質が、非水溶媒と、電解質塩と、1,3−ジオキサンと、スルホン酸エステル化合物と、を含む
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
請求項1に記載の非水電解質二次電池において、
前記スルホン酸エステル化合物が、下記の化学式(1)で表されるメタンスルホン酸ペンタフルオロフェニル、(2)、(3)または(4)で表される化合物からなる群より選択される化合物である、
ことを特徴とする非水電解質二次電池:
【化1】

【化2】

ここで、R1およびR2は、それぞれ、アルキル基、ハロアルキル基、またはアリール基のいずれかであり、R3およびR4はそれぞれ水素原子またはメチル基である。また、nは1〜5の整数である;
【化3】

ここで、R1およびR2は、それぞれ、アルキル基、ハロアルキル基、またはアリール基のいずれかであり、m及びpは1または2である;
【化4】

ここで、R1は、アルキル基、ハロアルキル基、またはアリール基のいずれかであり、mは1または2である。
【請求項3】
請求項2に記載の非水電解質二次電池において、
(i)前記スルホン酸エステル化合物は、前記化学式(2)、(3)または(4)で表される化合物の少なくとも1種を含み、
(ii)前記化学式(2)のR1およびR2は、それぞれ、炭素数が1〜6のアルキル基、または炭素数が1〜6のハロアルキル基、または炭素数が6〜12のアリール基のいずれかであり、R3およびR4はそれぞれ水素原子またはメチル基であり、nは1〜5の整数であり、
(iii)前記化学式(3)のR1およびR2は、それぞれ、炭素数が1〜6のアルキル基、または炭素数が1〜6のハロアルキル基、または炭素数が6〜12のアリール基のいずれかであり、mおよびpは1または2であり、
(iv)前記化学式(4)のR1は、炭素数が1〜6のアルキル基、または炭素数が1〜6のハロアルキル基、または炭素数が6〜12のアリール基のいずれかであり、mは1または2である、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項4】
請求項1に記載の非水電解質二次電池において、
前記スルホン酸エステル化合物が、メタンスルホン酸ペンタフルオロフェニル、1,4−ブタンジオールジメタンスルホネート、1,2−プロパンジオールジメタンスルホネート、または2−ブチン−1,4−ジオールジメタンスルホネートからなる群より選択される化合物である、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の非水電解質二次電池において、
前記1,3−ジオキサンが、前記非水電解質の全質量に対して0.3質量%以上、3質量%以下含まれる、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の非水電解質二次電池において、
前記1,3−ジオキサンが、前記非水電解質の全質量に対して0.5質量%以上、2質量%以下含まれる、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項7】
請求項1から6のいずれかに記載の非水電解質二次電池において、
前記スルホン酸エステル化合物が、前記非水電解質の全質量に対して0.1質量%以上、3質量%以下含まれる、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項8】
請求項1から7のいずれかに記載の非水電解質二次電池において、
前記正極活物質の電位がリチウム基準で4.3Vより高く5.1V以下である、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項9】
請求項1から8のいずれかに記載の非水電解質二次電池において、
前記正極活物質が、リチウムコバルト複合酸化物と、リチウムマンガンニッケル複合酸化物とが混合されたものであり、前記リチウムコバルト複合酸化物がジルコニウムとマグネシウムとを含有し、前記リチウムマンガンニッケル複合酸化物が層状構造を有する、
ことを特徴とする非水電解質二次電池。

【公開番号】特開2009−140919(P2009−140919A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291253(P2008−291253)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】