説明

非水電解質二次電池

【課題】ニトリル基含有化合物を含む非水電解質を使用した際に、高温充電保存時の内部抵抗の増大化及びガス発生量が少なく、しかも、容量残存率が大きい非水電解質二次電池を提供すること。
【解決手段】正極活物質を含む正極極板と、負極活物質を含む負極極板と、ニトリル基含有化合物が含有されている非水電解質と、前記正極極板及び前記負極極板の間に設けられるセパレータとを備える非水電解質二次電池10であって、前記正極極板と前記セパレータの間もしくは前記負極極板と前記セパレータの間に無機粒子からなる層が形成されている。この無機粒子からなる層は正極極板の表面に形成されていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関し、特にニトリル基含有化合物を含む非水電解質を使用した際に、高温充電保存時の内部抵抗の増大化及びガス発生量が少なく、しかも、容量残存率が大きい非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
今日の携帯電話機、携帯型パーソナルコンピューター、携帯型音楽プレイヤー等の携帯型電子機器の駆動電源として、更には、ハイブリッド電気自動車(HEV)や電気自動車(EV)用の電源として、高エネルギー密度を有し、高容量であるリチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池が広く利用されている。
【0003】
これらの非水電解質二次電池の正極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能なLiCoO、LiNiO、LiNiCo1−x(x=0.01〜0.99)、LiMnO、LiMn、LiCoMnNi(x+y+z=1)又はLiFePOなどが一種単独もしくは複数種を混合して用いられている。
【0004】
このうち、特に各種電池特性が他のものに対して優れていることから、リチウムコバルト複合酸化物や異種金属元素添加リチウムコバルト複合酸化物が多く使用されている。しかしながら、コバルトは高価であると共に資源としての存在量が少ない。そのため、これらのリチウムコバルト複合酸化物や異種金属元素添加リチウムコバルト複合酸化物を非水電解質二次電池の正極活物質として使用し続けるには非水電解質二次電池の更なる高性能化が望まれている。
【0005】
一方、非水電解質二次電池は充電状態で高温条件下に保存すると正極劣化を起こしやすい。これは非水電解質二次電池を充電状態で保存すると、正極活物質上での非水電解液の酸化分解や正極活物質の遷移金属イオンの溶出が起こるためであり、しかも、高温環境下では常温環境下より非水電解液の分解や金属イオン溶出が加速するためであると考えられている。
【0006】
これに対し、下記特許文献1には、非水電解質二次電池のサイクル特性、電池容量、高温充電保存特性などの向上を目的として、非水電解質中に各種ジニトリル化合物を添加した例が示されている。また、下記特許文献2には、高温サイクル特性及び安全性の向上を図るために、非水電解質中にニトリル基含有化合物を添加すると共に、高温充電保存時の電池の膨らみ現象及び容量低下を抑制する目的で、非水電解質中にフッ素化トルエンを添加した例が示されている。
【0007】
また、下記特許文献3には、高容量で、充放電サイクル特性及び貯蔵特性に優れた非水電解質二次電池を得る目的で、非水電解質にジニトリル化合物を添加した例が示されている。また、下記特許文献4には、非水系二次電池の高温充電保存時のガスの発生を抑制し、サイクル特性を改善する目的で、構造式中に2以上4以下のニトリル基含有化合物と、2以上のフッ素原子を有するフッ素化環状カーボネート、モノフルオロリン酸塩及びジフルオロリン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物を含有する非水系電解液を用いた例が示されている。
【0008】
また、下記特許文献5には、高温(60℃)でのサイクル特性及び低電圧でのトリクル充電特性を改善することを目的として、正極活物質粒子の表面にAl、ZrO等の無機物質コーティング層を形成すると共に、非水電解液中にジニトリル化合物を添加した例が示されている。
【0009】
更に、下記特許文献6には、非水電解液の含浸性、機械的強度、透過性及び電池に用いたときの高温充電保存特性を兼ね備えたセパレータとして、ポリエチレンとポリプロピレンとを含み、二層以上の積層フィルムからなるポリオレフィン微多孔膜であって、少なくとも片側の表面層が無機粒子を含むポリプロプレン含有率が5質量%以上90質量%以下であるセパレータが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−179146号公報
【特許文献2】特表2007−538365号公報
【特許文献3】特開2008−108586号公報
【特許文献4】特開2009− 32653号公報
【特許文献5】米国特許公開2008/0118847号公報
【特許文献6】国際公開WO2006/038532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の特許文献1〜4に開示されている発明によれば、一応、ニトリル基含有化合物は、充電状態の正極活物質表面に吸着されるため、正極活物質表面を保護し、非水電解質と正極活物質との間の副反応を低減することができ、高温保存時の各種電池特性を向上する効果を有していると認められる。しかしながら、非水電解質中にニトリル基含有化合物が含まれていると、上記特許文献2及び4にも示されているように、充電状態で高温下に保存していると、ニトリル基含有化合物の一部が分解し、ガスが発生するという課題がある。しかも、発明者らの実験結果によれば、これらニトリル化合物を含有する非水電解質を用いた場合は、充電状態で高温保存後の電池では、正極活物質表面の保護膜が過剰に形成されるためと推定されるが、内部抵抗の増大化が見られた。
【0012】
また、上記特許文献5に開示されている発明のように、正極活物質粒子の表面をAl、ZrO等の無機物質コーティング層で被覆すると、これらの無機物質コーティング層は絶縁物であって電極反応に関与しないため、その分だけ電池の単位体積当たりの容量が低下してしまうと共に内部抵抗が大きくなってしまう。しかも、上記特許文献5には、ニトリル基含有化合物を添加した非水電解質を用いた際の高温充電保存時のガス発生状態については何も示されていない。
【0013】
更に、上記特許文献6には、非水電解質二次電池の高温充電保存特性を改善することができるセパレータが示されているが、このセパレータはポリエチレンとポリプロピレンとを含む二層以上の積層フィルムからなり、無機粒子はポリプロピレンが含有されているポリオレフィン微多孔膜中に分散された状態となっているため、以下で記載するような無機粒子による分解物のトラップ効果を十分に得ることができない。しかも、上記引用文献6には、ニトリル基含有化合物を添加した非水電解質を用いた際の高温充電保存時のガス発生及び内部抵抗の増大化に関しては何も示されていない。
【0014】
本発明者等は、特に正極活物質粒子の表面に無機物質コーティング層を形成することなく、ニトリル基含有化合物が添加された非水電解質を用いても、高温充電保存時の内部抵抗の増大化及びガス発生量が少なく、しかも、容量残存率が大きい非水電解質二次電池を得ることができる条件について種々検討を重ねてきた結果、正極極板及び負極極板の間に無機粒子層が形成されていると、解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったのである。
【0015】
すなわち、本発明は、特に正極活物質粒子の表面に無機物質コーティング層を形成することなく、従来から普通に使用されているニトリル基含有化合物が添加された非水電解質を用いた場合であっても、高温充電保存時の内部抵抗の増大化及びガス発生量が少なく、しかも、容量残存率が大きい非水電解質二次電池を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の非水電解質二次電池は、正極活物質を含む正極極板と、負極活物質を含む負極極板と、ニトリル基含有化合物が含有されている非水電解質と、前記正極極板及び前記負極極板の間に設けられるセパレータとを備える非水電解質二次電池であって、前記正極極板と前記セパレータの間もしくは前記負極極板と前記セパレータの間に無機粒子からなる層が形成されていることを特徴とする。
【0017】
本発明の非水電解質二次電池においては、正極極板とセパレータの間、もしくは負極極板とセパレータの間に無機粒子層を形成している。このような無機粒子層を備えていると、正極活物質の表面で生成したニトリル基含有化合物の分解物は、負極表面に達する前に無機粒子層によってトラップされるので、負極表面に達するのが抑制されるため、充電状態で高温条件下に保存した際の負極側でのガス発生を抑制することができるようになる。
【0018】
なお、無機粒子層の形成に用いる無機粒子としては、ルチル型酸化チタン(ルチル型チタニア)、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化マグネシウム(マグネシア)などを適宜選択して用いることができる。
【0019】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、前記無機粒子層は正極極板とセパレータとの間に形成されていることが好ましい。
【0020】
ニトリル基含有化合物の分解物は正極活物質の表面で形成される。そのため、本発明の非水電解質二次電池のように、ニトリル基含有化合物の分解物の発生源である正極極板の近傍に無機粒子層を形成すると、より効率的に分解物をトラップすることができるようになる。
【0021】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、前記無機粒子層は正極極板の表面に形成されていることが好ましい。
【0022】
無機粒子層をシート状セパレータの表面に形成すると、発熱が生じた場合にシート状セパレータと共に無機粒子層が収縮してしまう虞がある。それに対し、本発明の非水電解質二次電池のように、正極極板の表面に無機粒子層を形成すると、発熱が生じた場合でも無機粒子層が収縮することがないため、正極と負極が短絡しにくく、電池の安全性の観点で好ましい。
【0023】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、前記ニトリル基含有化合物は、前記非水電解質の総質量に対して0.05質量%以上5.0質量%以下の割合で含有されていることが好ましい。
【0024】
ニトリル基含有化合物の含有量は、非水電解質の総質量に対して、0.05質量%未満であるとニトリル基含有化合物添加の効果が表れず、また、5.0質量%を超えると、正極極板の表面に形成される保護被膜が分厚くなりすぎて、正極活物質へのLiイオンの挿入脱離が阻害される。そのため、本発明の非水電解質二次電池のように、ニトリル基含有化合物の含有量を非水電解質の総質量に対して0.05質量%以上5.0質量%以下の割合となるようにすると、上記効果が良好に奏されるようになる。
【0025】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、前記無機粒子の平均粒子径は1μm以下であることが好ましい。
【0026】
無機粒子の平均粒子径が1μm以下であれば、無機粒子層に形成される孔径も充分に小さくなるので、良好にニトリル基含有化合物の分解物をトラップすることができるようになる。なお、更に好ましい無機粒子の平均粒子径は、0.1〜0.8μmの範囲内のものである。また、この無機粒子は、無機粒子層の製造時のスラリー中における分散性を考慮すると、特にその表面がAlやSi、Ti等の親水性を付与し得る化合物で表面処理されているものが好ましい。
【0027】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、前記無機粒子はルチル型チタニア又はアルミナから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
ルチル型チタニア又はアルミナ粒子は、コストが安価であり、しかもリチウム金属ないしリチウムイオンと反応し難く、しかも、非水電解質二次電池内で安定に存在し得る。そのため、無機粒子層を形成する無機粒子がルチル型チタニア又はアルミナなるものを用いている本発明の非水電解質二次電池によれば、無機粒子層の劣化が少ない非水電解質二次電池が得られる。
【0029】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、前記セパレータの平均孔径は前記無機粒子層に用いられる前記無機粒子の平均粒径よりも小さいことが好ましい。
【0030】
セパレータの平均孔径が無機粒子層に用いられる無機粒子の平均粒径よりも小さいと、たとえ無機粒子の一部が剥離しても、セパレータの微多孔内に無機粒子が侵入するのを抑制し、それによる放電性能の低下を避けることができる。そのため、本発明の非水電解質二次電池によれば、電池の充放電特性の変化が少ない非水電解質二次電池が得られる。
【0031】
また、本発明の非水電解質二次電池においては、前記無機粒子層は厚みが4μm以下であることが好ましい。
【0032】
無機粒子層の厚みが薄すぎると、無機粒子層を形成することにより得られる効果が不十分となる場合があり、無機粒子層の厚みが厚すぎると、電池の負荷特性が低下したり、エネルギー密度が低下する虞がある。より好ましい無機粒子層の厚みは、0.5μm〜4μmの範囲内であり、更に好ましくは、0.5〜2μmの範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1Aは各実施例及び比較例で各種電池特性の測定に用いたラミネート形非水電解質二次電池の平面図であり、図1Bは図1Aの底面図であり、図1Cは実使用時のラミネート形非水電解質二次電池の底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための形態を実施例及び比較例を用いて詳細に説明する。ただし、以下に示す実施例は、本発明の技術思想を具体化するための非水電解質二次電池を例示するものであって、本発明をこの実施例に特定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。
【0035】
[正極極板の作製]
正極活物質としてコバルト酸リチウムと、炭素導電剤であるアセチレンブラックと、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)を、95:2.5:2.5の質量比で混合して、NMP(N−メチルピロリドン)を溶剤として混合機を用いて混合し、正極合剤スラリーを調製した。このスラリーを厚さ15μmのアルミニウム製の正極集電体の両面にドクターブレード法により塗布、乾燥して、正極集電体の両面に活物質層を形成した。その後、圧縮ローラーを用いて圧縮し、短辺の長さが50.0mmの正極極板を作製した。なお、正極極板の充填密度は、3.60g/cmとした。
【0036】
[正極極板表面への多孔質層の形成]
実施例1〜4及び比較例3では、正極極板の表面に無機粒子層を形成したものを用いるが、この無機粒子層は以下のようにして形成した。まず、溶剤として水を用い、酸化チタン(TiO、平均粒子径:0.25μm、表面処理層無、石原産業社製商品名「CR−EL」)を無機粒子として用い、分散安定剤としてカルボキシメチルセルロースCMC(ダイセル化学工業社製商品番号名「1380」)を用い、水系バインダーとして、SBR(スチレンブタジエンゴム)を用いて、無機粒子層形成のための水系スラリーを調製した。
【0037】
その際、無機粒子の固形分濃度を30質量部とし、分散安定剤を無機粒子100質量部に対して0.2質量部となるように用い、バインダーを無機粒子100質量部に対し3.8質量部となるように用いて水系スラリーを調製した。この水系スラリーを用いて、正極極板の両面上にグラビア方式で塗工し、溶媒である水を乾燥・除去して、正極極板の両面上に無機粒子層を形成した。なお、無機粒子層の片側の厚みは2μmとし、両面の合計で4μmとなるように形成した。
【0038】
[負極極板の作製]
人造黒鉛とCMC(ダイセル化学工業社製商品番号名「1380」)を純水に1質量%溶解させたものと、SBRを固形分比で98:1:1の質量比となるように、多軸分散・混練装置(プライミクス株式会社製T.K.コンビミックス)を用いて負極スラリーを作製した。次いで、厚さ8μmの銅製の負極集電体の両面にドクターブレード法により塗布後、乾燥して負極集電体の両面に活物質層を形成した。この後、圧縮ローラーを用いて圧縮し、短辺の長さが52.0mmの負極極板を作製した。なお、負極極板の充填密度は1.60g/ccになるようした。
【0039】
なお、黒鉛の電位はリチウム基準で0.1Vである。また、正極極板及び負極極板の活物質充填量は、設計基準となる正極活物質の電位(リチウム基準で4.45V)において、正極極板と負極極板の充電容量比(負極充電容量/正極充電容量)が1.1となるように調整した。
【0040】
[電解液の調製]
非水溶媒としてエチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)を体積比30:70で混合した後、電解質塩としての六フッ化燐酸リチウム(LiPF)を1M(モル/リットル)となるように溶解したものに、ニトリル基含有化合物としてピメロニトリルないしアジポニトリルを所定の添加割合となるように添加し、電解液を調製した。なお、ピメロニトリルの添加量は、実施例1及び比較例1の電池の場合は1質量%であり、実施例2の電池の場合は0.5質量%であり、実施例3の電池の場合は0.05質量%である。また、アジポニトリルの添加量は、実施例4及び比較例4の電池の場合において、1質量%とした。なお、比較例2及び3の電池ではピメロニトリル及びアジポニトリルとも無添加とした。
【0041】
[電池の作製]
電池の構成は、正極極板及び負極極板のそれぞれにリード端子を取り付け、セパレータ(ポリエチレン製:膜厚16μm、空孔率47%)を介して渦巻状に巻き取ったものをプレスして、偏平状に押し潰した巻回電極体を作製し、電池外装体としてアルミニウムラミネートを用いたものに入れて注液を行い、封止して試験用のラミネート形非水電解質二次電池とした。なお、このラミネート形非水電解質二次電池の設計容量は、充電終止電圧を4.35Vとして、850mAhである。
【0042】
このラミネート形非水電解液二次電池の構成を図1に示す。ラミネート形非水電解液二次電池10は、図1A及び図1Bに示すように、正極用リード端子11及び負極用リード端子12を有する偏平状の巻回電極体13がラミネート材からなるカップ状の成形体14内に配置されており、両側端に第1及び第2のサイドシール部15a及び15bが、上端側にトップシール部16がそれぞれ形成されている。なお、両サイド側のサイドシール部15a及び15bは、通常は図1Cに示すようには、両方共にカップ状の成形体14側に沿うように折り曲げられて使用される。
【0043】
[高温充電保存特性の測定]
上述のようにして作製された実施例1〜4及び比較例1〜4のそれぞれの電池に対して以下のようにして高温充電保存特性を測定した。まず、各電池に対して、25℃において、1It=850mAの定電流で電池電圧が4.35Vとなるまで充電し、電池電圧が4.35Vに達した後は4.35Vの定電圧で充電電流が1/50It=17mAとなるまで充電し、満充電状態の電池を得た。その後、1Itの定電流で電池電圧が3.0Vとなるまで放電したときの放電容量を測定して初期放電容量として求めた。
【0044】
次いで、初期放電容量を測定した各電池について、25℃において、再度1Itの定電流で電池電圧が4.35Vとなるまで充電し、電池電圧が4.35Vに達した後は4.35Vの定電圧で充電電流が1/50Itとなるまで充電し、満充電状態の電池を得た。この満充電状態の各電池を60℃の恒温槽内にて30日間保存した後、25℃まで放冷し、1Itの定電流で電池電圧が3.0Vとなるまで放電したときの放電容量を測定し、高温保存後の放電容量と初期放電容量との比(%)として容量残存率を求めた。この容量残存率は、高温保存時の自己放電量を調査するためのものであり、自己放電量が大きいほど容量残存率は小さくなる。
【0045】
なお、恒温槽内に保存する前後の各電池について、内部抵抗を交流法によって測定することにより高温保存前後の内部抵抗の変化量を求めると共に、電池の厚みをデジタルインジケータ(Sony社製)によって測定して電池厚みの増加率(%)を測定した。これらの結果を表1に纏めて示した。
【0046】
【表1】

【0047】
表1に示した結果から以下のことが分かる。すなわち、正極極板の表面に無機粒子層が形成されていない比較例1の電池及び比較例2の電池の測定結果を対比すると、比較例1の電池は比較例2の電池よりも容量残存率が大きいが、内部抵抗の増加及び電池の厚み増加率も大きくなっている。このことは、ニトリル基含有化合物であるピメロニトリルが正極活物質表面で保護被膜を形成し、正極活物質と非水電解液の反応を抑制するため容量残存率が向上するが、ピメロニトリルの一部の分解物が負極極板の表面で反応するため、ガスが発生し、電池厚みが増加したものであると考えられる。
【0048】
また、非水電解液中のピメロニトリルの添加量が1質量%と同一であるが、正極極板の表面に無機粒子層が形成されていない比較例1の電池及び正極極板の表面に無機粒子層が形成されている実施例1の電池の測定結果を対比すると、実施例1の電池の方が容量残存率が大きく、内部抵抗の増加率及び電池厚み増加率も小さくなっている。このことは、正極極板の表面に無機粒子層を形成すると、無機粒子層がピメロニトリルの一部の分解物をトラップし、負極極板の表面に達するのを防いだため、ガス発生が減少し、電池厚みの増加が抑制されたものと考えられる。また、電池厚み増加が抑制されたことによって、電池の内部抵抗の増加も抑制され、容量残存率が向上したものと考えられる。
【0049】
また、非水電解液中にピメロニトリルが添加されていない点では同一であるが、正極極板の表面に無機粒子層が形成されていない比較例2の電池及び正極極板の表面に無機粒子層が形成されている比較例3の電池の測定結果を対比すると、比較例3の電池の方が容量残存率が大きくなっているが、内部抵抗の増加率及び電池厚み増加率は両者共に実質的に同一となっている。このことは、正極極板の表面に無機粒子層を形成しても、電池の厚み増加の抑制効果がないことを示している。
【0050】
従って、比較例1〜3の電池の測定結果を総合的に判断すると、非水電解液中にニトリル基含有化合物を添加すること及び正極極板の表面に無機粒子層を形成することを組み合わせても、実施例1の電池のようなニトリル基含有化合物由来の電池膨れ抑制効果は容易に予測できないことは明らかである。
【0051】
また、正極極板の表面に無機粒子層が形成されており、ピメロニトリルの添加量のみが異なる実施例1〜3の電池の測定結果を対比すると、ピメロニトリルの添加量が減少していくと容量残存率の改善効果が小さくなっていることがわかる。そのため、非水電解液中のニトリル基含有化合物の添加量は0.05質量%以上であることが好ましいことが分かる。
【0052】
更に、非水電解液中のアジポニトリルの添加量が1質量%と同一であるが、正極極板の表面に無機粒子層が形成されていない比較例4の電池及び正極極板の表面に無機粒子層が形成されている実施例4の電池の測定結果を対比すると、実施例4の電池の方が容量残存率が大きく、内部抵抗の増加率及び電池厚み増加率も小さくなっている。このことは、ニトリル基含有化合物として、アジポニトリルでもピメロニトリルと同様の効果が奏されることを示している。そのため、本発明では、少なくともニトリル基含有化合物としてアジポニトリルやピメロニトリル以外のジニトリル化合物を用いても、同様の効果を奏するものと認められる。更に、アジポニトリルやピメロニトリル等の添加剤の効果は、分子中のニトリル基(シアノ基)の存在によるものであるから、一般的なニトリル基含有化合物でも同様の効果が奏されるものと認められる。
【0053】
なお、上記実施例では無機粒子層を正極極板の表面に形成した例を示したが、負極極板の表面に形成してもよい。ただし、ニトリル基含有化合物の分解物が正極極板側で形成されることを考慮すると、正極極板の表面に形成する方が良好な効果が得られる。
【0054】
また、上記各実施例及び比較例ではラミネート形非水電解液二次電池の例を示したが、これは電池内部のガスの発生量、すなわち電池膨れを容易に測定できるようにするためである。本発明は、非水電解液二次電池の電極体の形状に依存するものではないので、円筒状巻回電極体を用いた円筒形非水電解液二次電池、偏平状巻回電極体を用いた角形ないし楕円筒形非水電解液二次電池や、正極極板及び負極極板をセパレータを介して互いに積層した積層型非水電解液二次電池に対しても適用可能である。
【0055】
また、上記各実施例及び比較例では、正極活物質としてコバルト酸リチウムを用い、充電電圧が4.35V(正極電位がリチウム基準で4.45V)と高い例を示した。しかしながら、このような高い充電電圧を用いた理由は、充電電圧が高くなると正極活物質表面でのニトリル基含有化合物の反応が促進されるため、ニトリル基含有化合物の添加の効果が短時間で確認できるためである。
【0056】
そのため、本発明の非水電解液二次電池では、正極活物質として従来から普通に使用されている、リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出することが可能なLiCoO、LiNiO、LiNiCo1−x(x=0.01〜0.99)、LiMnO、LiMn、LiCoMnNi(x+y+z=1)又はLiFePO等を用いた場合においても、均しく適用可能である。
【符号の説明】
【0057】
10…ラミネート電池 11…正極用リード端子 12…負極用リード端子 13…巻回電極体 13…電極体 14…カップ状の成形体 15a…第1のサイドシール部、15b…第2のサイドシール部 16…トップシール部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極極板と、負極活物質を含む負極極板と、ニトリル基含有化合物が含有されている非水電解質と、前記正極極板及び前記負極極板の間に設けられるセパレータとを備える非水電解質二次電池であって、
前記正極極板と前記セパレータの間もしくは前記負極極板と前記セパレータの間に無機粒子からなる層が形成されていることを特徴とする非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記無機粒子層は、前記正極極板と前記セパレータとの間に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記無機粒子層は前記正極極板の表面に形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記ニトリル基含有化合物は、前記非水電解質の総質量に対して0.05質量%以上5.0質量%以下の割合で含有されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記無機粒子の平均粒子径は1μm以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記無機粒子はルチル型チタニア又はアルミナから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記セパレータの平均孔径は前記無機粒子層に用いられる前記無機粒子の平均粒径よりも小さいことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項8】
前記無機粒子層は厚みが4μm以下であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の非水電解質二次電池。

【図1】
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【公開番号】特開2011−192395(P2011−192395A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−54889(P2010−54889)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000001889)三洋電機株式会社 (18,308)
【Fターム(参考)】