説明

非水電解質二次電池

【課題】プロピレンカーボネートの分解が抑制された高容量の非水電解質二次電池を提供することを目的とする。
【解決手段】非水電解質二次電池の負極活物質として、表層部に結晶領域11と非晶質領域12とを有する黒鉛粒子10を用いる。黒鉛粒子10は、結晶領域11に、炭素六角網平面13のベーサル面15と、炭素六角網平面13の末端同士がループ状に連結した閉塞部16を有しており、閉塞部16の積層数が、実質的に、炭素六角網平面13のc軸方向において1または2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池に関し、詳しくは、非水電解質二次電池用の負極活物質の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池に代表される非水電解質二次電池の非水電解質は、非水溶媒と、非水溶媒に溶解された溶質とを含む。非水溶媒には、一般にカーボネートが用いられる。なかでも、エチレンカーボネート(EC)は、炭素材料などの負極活物質に対して不活性であり、幅広い酸化還元電位において電気化学的に安定である。このため、ECは、充放電反応の媒体として良好であるが、融点が高く、室温で固体であることから、単独で使用できない。プロピレンカーボネート(PC)は、誘電率が高く、融点が低く、幅広い酸化還元電位において電気化学的に安定であるが、負極材料が黒鉛である場合において、充電時に分解される。
【0003】
そこで、黒鉛との相互作用によるPCの分解を抑制するために、黒鉛などの炭素材料の改良が提案されている。特許文献1には、鱗片状の天然黒鉛粒子から構成され、表面にポリウロニドを基本構造とする水溶性高分子が吸着または被覆された黒鉛粒子が記載されている。特許文献2には、プロパンなどの炭化水素の熱分解物を表面に堆積させて形成された非晶質炭素層を備える炭素材料が記載されている。特許文献3には、負極材料として易黒鉛化性炭素材料が挙げられている。また、特許文献4には、炭素六角網平面の末端同士がループ状に連結され、閉塞部を生成した黒鉛粒子が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−231241号公報
【特許文献2】特開平11−31499号公報
【特許文献3】特開2007−103246号公報
【特許文献4】特開2002−75362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の黒鉛粒子は、表面の水溶性高分子層によってハイレート充放電特性が低下する。しかも、特許文献1に記載の黒鉛粒子や、特許文献2に記載の炭素材料では、表面の水溶性高分子層や非晶質炭素層が、負極作製時の圧延処理によって、あるいは充放電を繰り返すことによって剥離し、PCの分解を抑制する効果が損なわれるおそれがある。特許文献3に記載の易黒鉛化性炭素材料は、結晶性が低い材料であることから、高容量の非水電解質二次電池を得る上で不利である。
【0006】
従来の黒鉛粒子は、通常、粒子表面にエッジ面が現れている箇所が多数存在しており、隣接する炭素六角網平面間の間隙も粒子表面に多数現れている。ここで、エッジ面とは、ベーサル面に対して垂直な面をいう。PCは、黒鉛粒子のエッジ面で分解されることから、従来の黒鉛粒子では、充電時にPCを分解するという不具合が顕著に現れる。一方、図2および図6に示すように、特許文献4に記載の黒鉛粒子における閉塞部16は、典型的に3〜7層程度の炭素六角網平面によって形成される。1つの閉塞部16においては、粒子表面14に炭素六角網平面13間の間隙が現れていない。しかしながら、黒鉛粒子の表面14にエッジ面が現れている箇所が多くなるほど、隣接する閉塞部16間の間隙部18の数も多くなる。PCは、隣接する閉塞部16間の間隙部18においても分解されることから、単に閉塞部16を形成させる処理を施したとしても、黒鉛粒子とPCとの反応を抑制することは困難である。
【0007】
本発明は、上記技術的課題を解決し、PCの分解が抑制された高容量の非水電解質二次電池および負極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面の非水電解質二次電池は、負極と、正極と、セパレータと、非水電解質と、を備え、上記負極が、負極集電体と、負極集電体の表面に支持された負極活物質と、を備え、上記負極活物質が、粒子表層部に結晶領域と非晶質領域とを有する黒鉛粒子を含み、上記黒鉛粒子は、上記結晶領域にベーサル面と、炭素六角網平面の末端同士がループ状に連結した閉塞部と、を有しており、上記閉塞部の積層数は、実質的に、上記炭素六角網平面のc軸方向において1または2であり、上記非水電解質が、プロピレンカーボネートを含む非水溶媒と、上記非水溶媒に溶解された溶質と、を含む。
【0009】
この負極に負極活物質として含まれる黒鉛粒子は、結晶領域における粒子表面で、ベーサル面が現れているか、あるいは、炭素六角網平面の末端同士がループ状に連結した閉塞部が現れている。さらに、結晶領域における粒子表面に現れている閉塞部の数(積層数)は、実質的に、炭素六角網平面のc軸方向で1または2である。それゆえ、上記黒鉛粒子は、粒子表面に現れている炭素六角網平面間の間隙が、従来の黒鉛粒子に比べて極めて少なくなっており、その結果、PCに対する反応性が低く、充電時におけるPCの分解が抑制される。
【0010】
また、上記黒鉛粒子は、表層部に非晶質領域を有しており、この非晶質領域においては、PCの分解が抑制される。しかも、この非晶質領域は、粒子の表層部に形成されるものであり、もともと結晶であった領域が変化して生成されたものである。よって、黒鉛粒子自体は、単一の粒子である。このため、上記黒鉛粒子は、負極作製時に圧延処理が施されたり、充放電が繰り返されたりしても、非晶質領域が黒鉛粒子から剥離するといった事態を生じることがない。それゆえ、上記黒鉛粒子を用いることによって、PCの分解を抑制する効果が経時的に低下することを抑制できる。
【0011】
さらに、上記黒鉛粒子の結晶領域における粒子表面には、隣接する閉塞部間の間隙が現れている。このため、黒鉛粒子内へのリチウムイオンの吸蔵および黒鉛粒子からのリチウムイオンの放出が可能である。しかも、上記黒鉛粒子は、本来、結晶性の高い黒鉛粒子からなっており、粒子内部において、高い結晶性が維持されている。このため、大きな放電容量を得ることができる。
それゆえ、上記の非水電解質二次電池は、PCの分解が抑制されており、かつ、高容量である。
【0012】
上記黒鉛粒子は、鱗片状黒鉛粒子に球形化処理を施したものであることが好ましい。球形化処理を施すことによって、鱗片状黒鉛粒子の表層部において、結晶領域の一部が変化して、非晶質領域を生成する。
【0013】
上記黒鉛粒子においては、閉塞部の先端の接線が、黒鉛粒子の表面の法線と一致する。上記黒鉛粒子は、ベーサル面が結晶領域の粒子表面を形成している。さらに、このベーサル面を形成する炭素六角網平面の末端は、ループ状に連結した閉塞部を形成している。閉塞部の先端における接線は、本来、ベーサル面の法線と一致するものであることから、閉塞部の先端における接線と、黒鉛粒子の表面の法線とは、互いに一致する。
【0014】
上記黒鉛粒子は、電子スピン共鳴(ESR)分析によるスペクトルにおいて、磁場強度3350ガウスおよびその近傍に非対称なピークを有することが好ましい。この非対称なピークは、さらに好ましくは、3350ガウスおよびその近傍に中心を有し、3300ガウスおよびその近傍にショルダーを有し、ピーク中心よりも低磁場側でブロードかつ強度が小さく、ピーク中心よりも高磁場側でナローかつ強度が大きい。
【0015】
ESR分析は、粒子表面の電子状態を反映したスペクトルを与える。黒鉛のように、ベーサル面とエッジ面とが明確に分かれた構造を有している場合には、ベーサル面の不対電子が磁場中で共鳴する。このため、従来の黒鉛粒子は、ESRの信号強度が極めて大きく現れる(図4の(b)参照)。一方、非晶質炭素層が黒鉛の粒子表面を被覆している場合には、粒子表面においてベーサル面が不明確であって、不対電子の存在確率が低くなる。具体的に、比較例2において後述する複層黒鉛では、信号強度がほとんど認められない(図4の(c)参照)。
【0016】
これに対し、上記黒鉛粒子のESRスペクトルは、上述のとおり、磁場強度3350ガウスおよびその近傍に非対称なピークを有している。このピークは、ピーク中心よりも低磁場側でブロードかつ強度が小さく、ピーク中心よりも高磁場側でナローかつ強度が大きい。さらに、このピークは、ピークの中心である約3350ガウスよりも磁場強度が低い領域(概ね3300ガウス程度)において、ショルダーピークを有している。このショルダーピークは、黒鉛粒子の内部に、ベーサル面間での不対電子の共鳴構造が多く残っていることに由来すると考えられる。
【0017】
上記非水電解質二次電池において、黒鉛粒子は、嵩密度が0.4g/cm3以上0.6g/cm3以下であり、タッピング処理を1000回施したときのタップ密度が0.85g/cm3以上0.95g/cm3以下であり、BET比表面積が5m2/gを上回り6.5m2/g以下であることが好ましい。
【0018】
上記非水電解質二次電池において、黒鉛粒子は、菱面体構造を示す領域と六方晶構造を示す領域との総和に対し、菱面体晶構造を示す領域の割合が、21%以上35%以下であることが好ましい。
【0019】
黒鉛粒子の層状構造は、一般に、3層で1単位を構成する菱面体晶構造(3R)と、2層で1単位を構成する六方晶構造(2H)とを有している。従来の黒鉛粒子では、粒子中における菱面体晶構造を示す領域(3R)と、六方晶構造を示す領域(2H)との総和に対する3Rの比率[(3R)/((3R)+(2H))×100]が、概ね20%未満である。
【0020】
これに対し、上記黒鉛粒子は、粒子中に結晶領域と非晶質領域とを有しており、粒子中における3Rと2Hとの総和に対する3Rの比率(%)が上記範囲を満たしている。この黒鉛粒子は、PCに対する反応性が低く、充電時におけるPCの分解を抑制することができる。しかも、黒鉛粒子と非水電解質との過剰な反応を抑制することができ、PC以外の非水溶媒の分解やリチウム塩などの溶質の変性を抑制できる。
【0021】
上記非水電解質二次電池において、非水溶媒の総量に対してプロピレンカーボネートの占める割合が30〜60重量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、負極活物質として黒鉛粒子を用いているにもかかわらず、PCの分解を抑制することができる。また、本発明の非水電解質二次電池は、黒鉛粒子の結晶性が高いことから、高容量である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】非水電解質二次電池の負極に含まれる黒鉛粒子の外観図である。
【図2】実施形態における黒鉛粒子の粒子表層部を模式的に示す断面図である。
【図3】実施例1の黒鉛粒子の透過型電子顕微鏡(TEM)写真である。
【図4】黒鉛粒子のESRスペクトルであって、(a)は実施例に用いた黒鉛粒子のスペクトルであり、(b)は従来の黒鉛粒子のスペクトルであり、(c)は表面が非晶質炭素で被覆された黒鉛粒子のスペクトルである。
【図5】実施形態における非水電解質二次電池の一部切欠き正面図である。
【図6】従来の非水電解質二次電池に含まれる黒鉛粒子の粒子表層部を模式的に示す断面図である。
【図7】比較例2の複層黒鉛のTEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本実施形態の非水電解質二次電池において負極活物質として用いられる黒鉛粒子は、例えば、鱗片状黒鉛粒子に球形化処理を施すことによって得られる。
図1および図2を参照して、この黒鉛粒子10は、粒子表層部に結晶領域11と非晶質領域12とを有する単一の粒子である。黒鉛粒子10は、鱗片状黒鉛粒子を球形化したものであることから、炭素六角網平面13の積層構造が、粒子内で褶曲した状態となっている。また、このことにより、粒子表面14には、比較的広い範囲でベーサル面15が現れる。粒子表面14にベーサル面15が現れている部分では、PCの分解が生じない。
【0025】
黒鉛粒子10の結晶領域11における粒子表面14には、炭素六角網平面13の末端同士がループ状に連結して形成された閉塞部16も現れている。閉塞部16は、隣接する炭素六角網平面13間の間隙が閉じられた状態となっているため、この閉塞部16においても、PCの分解が生じない。粒子表面14に現れている閉塞部16の積層数は、実質的に、炭素六角網平面13のc軸方向において1または2である。
【0026】
黒鉛粒子10は、その粒子表面14に、隣接する閉塞部16間の間隙を有している。このため、この間隙において、黒鉛粒子10内へのリチウムイオンの吸蔵および黒鉛粒子10からのリチウムイオンの放出が可能である。なお、閉塞部16の間隙においては、PCの分解が生じ得る。しかしながら、粒子表面14に現れている閉塞部16間の間隙は、従来の黒鉛粒子の粒子表面に現れている炭素六角網平面13間の間隙に比べて、その数が極めて少ない。このため、黒鉛粒子10は、リチウムイオンの吸蔵および放出が可能でありながら、粒子表面でのPCの分解を著しく抑制することができる。
【0027】
また、黒鉛粒子10の粒子表層部における非晶質領域12は、鱗片状黒鉛粒子の球形化処理によって生じたものであって、炭素六角網平面13の積層体(結晶)を非晶質化したものである。黒鉛粒子10は、例えば、黒鉛粒子の表面に非晶質の層を被覆して得られる複層構造体ではない。粒子表層部の非晶質領域12は、もともと結晶領域11であった部分が球形化処理によって非晶質化したものであって、黒鉛粒子10の結晶領域11と非晶質領域12とは、一体である。それゆえ、黒鉛粒子10を含む負極に圧延処理を施したり、充放電を繰り返したりしても、非晶質領域12が黒鉛粒子10から剥離することがない。また、非晶質領域12の剥離によって粒子表面に炭素六角網平面13間の間隙が多く現れるようになり、PCに対する反応性が経時的に増大する、という不具合を生じることもない。
【0028】
本実施形態における黒鉛粒子は、例えば、球形化処理装置に鱗片状黒鉛粒子を投入し、粉砕および分級の操作を複数回繰り返すことによって、球形化されたものである。
【0029】
黒鉛粒子の体積基準の平均粒子径D50は、好ましくは、25μm以下であり、さらに好ましくは、23〜19μmである。平均粒子径D50が上記範囲を上回ると、負極内での黒鉛粒子の分散性が低下し、負極の容量の低下を招くおそれがある。
【0030】
黒鉛粒子の嵩密度は、好ましくは、0.4g/cm3以上0.6g/cm3以下であり、さらに好ましくは、0.45g/cm3以上0.55g/cm3以下である。嵩密度が上記範囲を下回ると、負極を作製する際の塗工性が低下する。逆に、嵩密度が上記範囲を上回ると、負極内での黒鉛粒子の分散性が低下し、負極の容量の低下を招くおそれがある。
【0031】
黒鉛粒子に対しタッピング処理を1000回施したときのタップ密度は、好ましくは、0.85g/cm3以上0.95g/cm3以下であり、さらに好ましくは、0.88g/cm3以上0.93g/cm3以下である。タップ密度が上記範囲を下回ると、負極を作製する際の塗工性が低下する。逆に、タップ密度が上記範囲を上回ると、負極内での黒鉛粒子の分散性が低下し、負極の容量の低下を招くおそれがある。
【0032】
黒鉛粒子のBET比表面積は、N2吸着量に基づく測定法において、好ましくは、5m2/gを上回り6.5m2/g以下であり、さらに好ましくは、5.2m2/g以上6.2m2/g以下である。BET比表面積が上記範囲を下回ると、充電時にLiを吸蔵しにくくなる(Liの受入性が低下する)。逆に、タップ密度が上記範囲を上回ると、非水電解質との反応性が高くなり、過剰なガス発生といった事態を招く。
【0033】
黒鉛粒子は、菱面体晶構造を示す領域(3R)と六方晶構造を示す領域(2H)との総和に対する3Rの比率([(3R)/((3R)+(2H))×100])が、好ましくは、21%以上35%以下であり、さらに好ましくは、25%以上31%以下である。上記比率が上記範囲を下回ると、3Rの割合が減少するため、PCの分解を抑制する効果が損なわれるおそれがある。逆に、上記比率が上記範囲を上回ると、3Rの割合が増加するため、黒鉛粒子と非水電解質とが過剰に反応して、PC以外の非水溶媒の分解やリチウム塩などの溶質の変性のおそれがある。
【0034】
黒鉛粒子のX線回折パターンにおいては、ブラッグ角(2θ)が40°〜50°の範囲において4つのピークが現れる。2θが42.3°付近および44.4°付近のピークは、順に、六方晶(2H)構造の(100)面および(101)面の回折パターンである。2θが43.3°付近および46.0°付近のピークは、順に、菱面体晶(3R)構造の(101)面および(012)面の回折パターンである。それゆえ、これらのピークの積分強度の比を求めることで、黒鉛粒子の結晶領域における2H構造と3R構造との比率を求めることができる。
【0035】
本実施形態の非水電解質二次電池における負極は、負極集電体と、この負極集電体の表面に支持された負極活物質と、を備えている。
負極集電体としては、金属箔などが挙げられる。リチウムイオン電池の負極として用いられる場合には、負極集電体として、銅箔、銅合金箔などが好ましい。銅箔は、0.2モル%以下の割合で銅以外の成分を含んでいてもよい。負極集電体は、特に電解銅箔が好ましい。
【0036】
負極活物質は、上述の黒鉛粒子を適当な分散媒に分散させて負極合剤スラリーを調製し、このスラリーを負極集電体の表面に塗布し、乾燥することによって、負極集電体の両面または片面に支持される。
【0037】
負極合剤スラリーの調製に用いられる液状成分としては、水、アルコール、N−メチル−2−ピロリドンなどが挙げられ、特に、水が好ましい。
負極合剤スラリーには、必要に応じて、水溶性高分子、結着剤などを加える。
【0038】
水溶性高分子としては、セルロース、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、これらの誘導体などが挙げられ、特に、カルボキシメチルセルロースなどのセルロースが好ましい。結着剤としては、水を分散媒とするエマルションの状態で水溶性高分子水溶液と混合するものが好ましく、特に、スチレン−ブタジエンゴムなどの、繰返し単位としてスチレン単位やブタジエン単位を分子中に含むポリマーが好ましい。負極活物質層に含まれる水溶性高分子の量は、黒鉛粒子100重量部に対し、好ましくは、0.5〜2.5重量部であり、さらに好ましくは、0.5〜1.5重量部である。
【0039】
負極集電体の表面に負極合剤スラリーを塗布した後、これを乾燥させ、圧延することによって、負極集電体の表面に負極活物質層を備えた負極が得られる。
【0040】
本実施形態の非水電解質二次電池は、負極と、正極と、セパレータと、非水電解質とを備えている。
正極としては、非水電解質二次電池に用いられる各種の正極が挙げられる。正極は、例えば、正極活物質と、カーボンブラックなどの導電剤と、ポリフッ化ビニリデンなどの結着剤と、を含む正極合剤スラリーを、アルミニウム箔などの正極芯材に塗布し、乾燥し、圧延することにより得られる。正極活物質としては、リチウム含有遷移金属複合酸化物が好ましい。リチウム含有遷移金属複合酸化物としては、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、LiMnO2、LixNiyzMe1-(y+z)2+dなどが挙げられる。式中、Mは、CoおよびMnの少なくとも1種、Meは、Al、Cr、Fe、MgおよびZnの少なくとも1種、0.98≦x≦1.10、0.3≦y≦1.0、0≦z≦0.7、0.9≦(y+z)≦1.0、−0.01≦d≦0.01である。
【0041】
セパレータとしては、ポリエチレン、ポリプロピレンなどからなる微多孔性フィルムが一般に用いられている。セパレータの厚みは、例えば10〜30μmである。
【0042】
本発明の非水電解質二次電池は、角型、円筒型、扁平型、コイン型などの各種形状に適用可能であって、電池の形状は特に限定されない。本発明の非水電解質二次電池は、PCの分解と、それに伴うガスの発生を抑制することを特徴とする。よって、ガス発生に伴う電池の膨張という不具合が顕著に現れる角型電池において、本発明の作用効果はより一層顕著に現れる。
【実施例】
【0043】
実施例1
(1)黒鉛粒子の調製
体積基準の平均粒子径D50が100μm以上である鱗片状天然黒鉛を、球形化装置に投入し、粉砕および分級の操作を複数回繰り返した。こうして得られた黒鉛粒子は、体積基準の平均粒子径D50が19μm、嵩密度が0.49g/cm3、タッピング処理を1000回施したときのタップ密度が0.9g/cm3、BET法による比表面積(N2吸着)が5.4m2/gであった。こうして得られた黒鉛粒子のTEM写真を図3に、ESRスペクトルを図4(a)に示す。
【0044】
上記黒鉛粒子のX線回折スペクトルを測定した。測定には、グラファイトモノクロメーターによって単色化されたCuKα線を使用し、測定条件は、出力30kV(200mA)、発散スリット0.5°、受光スリット0.2mm、散乱スリット0.5°とした。そして、菱面体晶構造を示す領域(3R)と六方晶構造を示す領域(2H)との総和に対する3Rの比率[(3R)/((3R)+(2H))×100]を算出した結果、29%であった。
【0045】
(2)負極の作製
カルボキシメチルセルロース(CMC)を水に溶解し、CMCの濃度が1重量%の水溶液を得た。上記黒鉛粒子100重量部と、CMC水溶液100重量部とを混合し、混合物の温度を25℃に制御しながら攪拌した。その後、混合物を120℃で5時間乾燥させ、乾燥混合物を得た。乾燥混合物において、黒鉛粒子100重量部あたりのCMC量は1.0重量部であった。
【0046】
次に、得られた乾燥混合物101重量部と、スチレン−ブタジエンゴムラテックス(SBRラテックス、ゴム固形分の平均粒径0.12μm、SBRの重量割合40重量%)0.6重量部と、CMC0.9重量部とを、適量の水と混合して、負極合剤スラリーを調製した。
【0047】
負極合剤スラリーを、電解銅箔(厚さ12μm)の両面にダイコーターを用いて塗布し、塗膜を120℃で乾燥させた。乾燥された塗膜を圧延ローラで圧延し(線圧0.25トン/cm)、厚さ160μm、活物質密度1.65g/cm3の負極活物質層を形成した。その後、負極活物質層を負極集電体とともに所定形状に裁断して、負極を得た。
【0048】
(3)正極の作製
正極活物質として、LiNi0.80Co0.15Al0.052を用いた。正極活物質100重量部に対し、ポリフッ化ビニリデン4重量部を添加し、適量のN−メチル−2−ピロリドンとともに混合して、正極合剤スラリーを調製した。正極合剤スラリーを、アルミニウム箔(厚さ20μm)の両面にダイコーターを用いて塗布し、塗膜を乾燥させた。乾燥後、塗膜を圧延して、正極活物質層を形成した。正極活物質層を正極集電体とともに所定形状に裁断して、正極を得た。
【0049】
(4)非水電解質の調製
ECと、PCと、ジエチルカーボネート(DEC)とを、重量比1:5:4で混合した。この混合溶媒にLiPF6を溶解させて、濃度が1モル/Lの非水電解質を調製した。
【0050】
(5)電池の組み立て
図5に示すような角型リチウムイオン電池1を作製した。負極と正極とを、これらの間に厚さ20μmのポリエチレン製の微多孔質フィルムからなるセパレータ(セルガード(株)製のA089(商品名))を介在させて捲回し、断面が略楕円形の電極群21を構成した。電極群21はアルミニウム製の角型の電池缶20に収容した。電池缶20は、底部と、側壁とを有し、上部は開口しており、その横断面形状は略矩形である。側壁の主要平坦部の厚みは80μmとした。その後、電池缶20と正極リード22または負極リード23との短絡を防ぐための絶縁体24を、電極群21の上部に配置した。次に、絶縁ガスケット26で囲まれた負極端子27を中央に有する矩形の封口板25を、電池缶20の開口に配置した。負極リード23は、負極端子27と接続した。正極リード22は、封口板25の下面と接続した。封口板25と負極端子27との間は、絶縁ガスケット26で絶縁されている。開口の端部と封口板25とをレーザで溶接し、電池缶20の開口を封口した。その後、封口板25の注液孔から2.5gの非水電解質を電池缶20に注入した。最後に、注液孔を封栓29で溶接により塞ぎ、高さ50mm、幅34mm、内空間の厚み約5.2mm、設計容量850mAhの角型リチウムイオン電池(以下、単に電池という)1を完成させた。
【0051】
(6)電池の評価
(i)サイクル容量維持率の評価
電池1に対し、電池の充放電サイクルを45℃で繰り返した。充放電サイクルにおいて、充電処理では、最大電流を600mA、上限電圧を4.2Vとし、定電流、定電圧充電を2時間30分行った。充電後の休止時間は、10分間とした。一方、放電処理では、放電電流を850mA、放電終止電圧を2.5Vとし、定電流放電を行った。放電後の休止時間は、10分間とした。
3サイクル目の放電容量を100%とみなし、500サイクルを経過したときの放電容量をサイクル容量維持率[%]とした。結果を表1に示す。
【0052】
(ii)電池膨れの評価
また、3サイクル目の充電後における状態と、501サイクル目の充電後における状態とで、電池1の最大平面(縦50mm、横34mm)に垂直な中央部の厚みを測定した。その電池厚みの差から、45℃での充放電サイクル経過後における電池膨れの量[mm]を求めた。結果を表1に示す。
【0053】
比較例1
黒鉛粒子として、体積基準の平均粒子径D50が16μmである鱗片状天然黒鉛を、球形化処理を施さずにそのまま使用した。この黒鉛粒子は、嵩密度が0.35g/cm3、タッピング処理を1000回施したときのタップ密度が0.8g/cm3、BET法による比表面積(N2吸着)が6.8m2/gであった。こうして得られた黒鉛粒子のESRスペクトルを図4(b)に示す。
【0054】
上記黒鉛粒子のX線回折スペクトルを測定して、3Rと2Hとの総和に対する3Rの比率を算出したところ、3Rの比率は12%であった。本黒鉛粒子は粒子内部も表層部も高結晶領域で構成されており、非晶質領域はほとんど見られなかった。
【0055】
上記黒鉛粒子を負極活物質として用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。得られた負極と、実施例1で使用したものと同じ正極、非水電解質、セパレータ、その他の電池の構成要素とを使用し、実施例1と同様にして、電池を製作した。
【0056】
比較例2
比較例1で使用した鱗片状天然黒鉛100重量部に対し、石炭系等方性ピッチ10重量部を混合し、ニーダーを用いて十分に混練した。得られた混合物に対し、アルゴン雰囲気下、1300℃で熱処理を施し、ピッチを炭素化させた。こうして、天然黒鉛粒子の表層に非晶質炭素層が形成された複層黒鉛を得た。この複層黒鉛は、嵩密度が0.70g/cm3、タッピング処理を1000回施したときのタップ密度が1.2g/cm3、BET法による比表面積(N2吸着)が2.7m2/gであった。こうして得られた複層黒鉛(黒鉛粒子)のTEM写真を図7に、ESRスペクトルを図4(c)に示す。
【0057】
複層黒鉛のX線回折スペクトルを測定して、3Rと2Hとの総和に対する3Rの比率を算出したところ、3Rの比率は16%であった。図7より、複層黒鉛の粒子内部は高結晶性領域であり、表層部は非晶質領域で被覆されていることがわかる。このことは、図4(c)のESRスペクトルからも明らかである。粒子表層部はほぼ完全に非晶質領域であることから、非晶質部の電子状態を反映したESRスペクトルにおいては、ESR信号強度がほとんど認められなかった。
【0058】
上記複層黒鉛を負極活物質として用いたこと以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。得られた負極と、実施例1で使用したものと同じ正極、非水電解質、セパレータ、その他の電池の構成要素とを使用し、実施例1と同様にして、電池を製作した。
【0059】
比較例1および2の電池について、実施例1と同様の評価を行い、サイクル容量維持率(%)と、電池膨れ量(mm)とを求めた。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
表1より明らかなように、実施例1の電池は、サイクル容量維持率が高く、電池膨れ量が極めて小さく抑制されていた。
一方、比較例1の電池は、充電および放電処理を1回行うことができたが、その後、充放電処理を行うことができなかった。電池膨れ量は、1回の充放電によって、1.5mmに達しており(*1)、膨れ量が顕著であった。比較例2の電池は、実施例1に比べてサイクル容量維持率が低かった。電池膨れ量は、ある程度抑制することができたが、実施例1の膨れ量との差は顕著であった。
【0062】
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、全ての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明の非水電解質二次電池は、リチウムイオン電池などの非水電解質二次電池として有用である。
【符号の説明】
【0064】
1 角型リチウムイオン電池、 10 黒鉛粒子、 11 結晶領域、 12 非晶質領域、 13 炭素六角網平面、 14 粒子表面、 15 ベーサル面、 16 閉塞部、 18 間隙部、 20 電池缶、 21 電極群、 22 正極リード、 23 負極リード、 24 絶縁体、 25 封口板、 26 絶縁ガスケット、 27 負極端子、 29 封栓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極と、正極と、セパレータと、非水電解質と、を備え、
前記負極が、負極集電体と、前記負極集電体の表面に支持された負極活物質と、を備え、
前記負極活物質が、粒子表層部に結晶領域と非晶質領域とを有する黒鉛粒子を含み、
前記黒鉛粒子は、前記結晶領域にベーサル面と、炭素六角網平面の末端同士がループ状に連結した閉塞部と、を有しており、
前記閉塞部の積層数は、実質的に、前記炭素六角網平面のc軸方向において1または2であり、
前記非水電解質が、プロピレンカーボネートを含む非水溶媒と、前記非水溶媒に溶解された溶質と、を含む、非水電解質二次電池。
【請求項2】
前記黒鉛粒子が、鱗片状黒鉛粒子に球形化処理を施して得られる、請求項1に記載の非水電解質二次電池。
【請求項3】
前記閉塞部の先端の接線が、前記黒鉛粒子の表面の法線と一致する、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池。
【請求項4】
前記黒鉛粒子は、電子スピン共鳴分析によるスペクトルにおいて、磁場強度3350ガウスおよびその近傍に非対称なピークを有する、請求項1〜3のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項5】
前記黒鉛粒子は、嵩密度が0.4g/cm3以上0.6g/cm3以下であり、タッピング処理を1000回施したときのタップ密度が0.85g/cm3以上0.95g/cm3以下であり、BET比表面積が5m2/gを上回り6.5m2/g以下である、請求項1〜4のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項6】
前記黒鉛粒子は、六方晶構造を示す領域と菱面体構造を示す領域との総和に対し、菱面体晶構造を示す領域の割合が、21%以上35%以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の非水電解質二次電池。
【請求項7】
前記非水溶媒の総量に対し、前記プロピレンカーボネートの占める割合が30〜60重量%である、請求項1〜6のいずれかに記載の非水電解質二次電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図3】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−34909(P2011−34909A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−182284(P2009−182284)
【出願日】平成21年8月5日(2009.8.5)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】