説明

非水電解質電池用電極、及び非水電解質電池

【課題】集電体として機能するアルミニウム多孔体の表面の酸素量が少なく、電極密度が高い非水電解質電池用電極、及びそれを備える非水電解質電池を提供する。
【解決手段】非水電解質電池用電極は、アルミニウム多孔体に活物質が充填されたものであり、アルミニウム多孔体の表面の酸素量が3.1質量%以下である。また、電極の密度が2.4g/cm3以上2.8g/cm3以下である。このアルミニウム多孔体は、連通孔を有する樹脂体1fの樹脂1表面にアルミニウム層2を形成した後、その樹脂体(アルミニウム層被膜樹脂体3)を溶融塩に浸漬した状態で、アルミニウムの標準電極電位より卑な電位をアルミニウム層2に印加しながらアルミニウムの融点以下の温度に加熱して、樹脂体1f(樹脂1)を熱分解する製造方法により、作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム多孔体に活物質が充填された非水電解質電池用電極、及びそれを備える非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質電池は、高電圧、高容量、高エネルギー密度であることから、携帯情報端末、電動車両、及び家庭用電力貯蔵装置などに使用することが検討されており、近年、研究開発が活発に行われている。非水電解質電池の代表例としては、リチウム一次電池やリチウムイオン二次電池(以下、単に「リチウム系電池」という)が挙げられる。リチウムイオン二次電池は、正極と負極とが電解質を介して対向するように構成され、その充電又は放電は、正極と負極との間をリチウムイオンが移動することにより行われる。一般的に、正極と負極には、集電体に活物質を含む合剤を担持させたものが使用されている。
【0003】
例えば正極集電体には、アルミニウムの金属箔や、三次元多孔質構造を有するアルミニウムの多孔質金属体を用いることが知られている。アルミニウムの多孔質金属体としては、アルミニウムを発泡させたアルミニウム発泡体が知られている。例えば、特許文献1には、アルミニウムを溶融させた状態で発泡剤および増粘剤を加えて攪拌することによりアルミニウム発泡体を製造する方法が開示されている。このアルミニウム発泡体は、製造方法の特性上、多数の独立気泡(閉気孔)を含んでいる。
【0004】
ところで、多孔質金属体としては、連通孔を持ち、気孔率90%以上のニッケル多孔体(例、セルメット(登録商標))が広く知られている。このニッケル多孔体は、発泡ウレタンなどの連通孔を有する発泡樹脂の骨格表面にニッケル層を形成した後、発泡樹脂を熱分解して除去し、さらにニッケルを還元処理することにより製造される。しかし、このニッケル多孔体をリチウム系電池の集電体に用いた場合、ニッケルが腐食する問題がある。例えば、ニッケル多孔体に、遷移金属酸化物を主成分とする正極活物質を含む正極合剤スラリーを充填すると、ニッケル多孔体が強アルカリ性を示す正極合剤スラリーによって腐食する。加えて、電解質として有機電解液を用いた場合は、有機電解液中で集電体のニッケル多孔体の電位が貴になった際に、ニッケル多孔体の耐電解液性が劣る問題もある。一方、多孔質金属体を構成する材料がアルミニウムであれば、リチウム系電池の集電体に使用しても、このような問題は生じない。
【0005】
そこで、ニッケル多孔体の製造方法を応用したアルミニウム多孔体の製造方法についても研究開発が行われている。例えば、特許文献2には、アルミニウム多孔体の製造方法が開示されている。この製造方法は、「三次元網目状構造を有する発泡樹脂の骨格に、メッキ法もしくは蒸着法などの気相法により、Alの融点以下で共晶合金を形成する金属の皮膜を形成する。その後、この金属皮膜を形成した発泡樹脂にAl粉末と結着剤及び有機溶剤を主成分としたペーストを含浸塗着し、次いで非酸化性雰囲気において550℃以上750℃以下の温度で熱処理をする」ものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002‐371327号公報
【特許文献2】特開平8‐170126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来のアルミニウムの多孔質金属体はいずれも、非水電解質電池用電極の集電体に用いるには適してない問題がある。
【0008】
上記アルミニウムの多孔質金属体のうちアルミニウム発泡体は、製造方法の特性上、多数の独立した気泡を有するので、発泡による表面積が拡大してもその表面全てを有効に利用することができない。つまり、独立気泡(閉気孔)の内部空間は、活物質を充填することができず、無駄な空間となる。そのため、非水電解質電池用電極の集電体に用いるには、元来適していない。
【0009】
一方、ニッケル多孔体の製造方法を応用して製造したアルミニウム多孔体は、熱処理工程において、Al粉末が金属皮膜との界面で共晶反応を起こし、Al粉末の焼結が進行する温度まで加熱する必要があるため、冷却されるまでの間にアルミニウム多孔体表面の酸化が進み、表面に酸化皮膜が形成され易い。また一旦酸化すると、融点以下の温度で還元することは困難である。したがって、従来のアルミニウム多孔体は、その表面の酸素量が多く、表面の電気抵抗が高い。そのため、表面の酸素量が多いアルミニウム多孔体を非水電解質電池用電極の集電体に用いた場合、活物質との間の電子伝導が阻害され、電池の放電特性が低下する虞がある。
【0010】
ところで、アルミニウム多孔体を集電体に用いて非水電解質電池用電極を製造する場合、電極の密度(活物質の充填密度)を高めるために、アルミニウム多孔体に活物質を充填した後、加圧成形することがある。しかし、表面の酸素量が多いアルミニウム多孔体は、脆いため、加圧成形した際に割れが生じ易い。そのため、このような多孔体を集電体に用いた場合、集電性が低下し、電池の内部抵抗が上昇する虞がある。また、表面の酸素量が多いアルミニウム多孔体は、硬いため、加圧成形した際に変形が生じ難い。そのため、このような多孔体を集電体に用いた場合、電極の密度を十分に高めることができず、また、活物質との密着性が低下する。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、集電体として機能するアルミニウム多孔体の表面の酸素量が少なく、電極密度が高い非水電解質電池用電極、及びそれを備える非水電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)本発明の非水電解質電池用電極は、アルミニウム多孔体に活物質が充填されたものであり、アルミニウム多孔体の表面の酸素量が3.1質量%以下である。また、電極の密度が2.4g/cm3以上2.8g/cm3以下であることを特徴とする。
【0013】
集電体として機能するアルミニウム多孔体の表面には活物質が接触し、電池の充放電時には多孔体と活物質との間で電子の授受が行われるため、多孔体表面の性状は電池の放電特性に影響を及ぼす。上記構成によれば、アルミニウム多孔体の表面の酸素量が3.1質量%以下であり、従来のアルミニウム多孔体に比較して表面の酸素量が少なく、多孔体表面の電気抵抗が低いので、電池の放電特性(特に、高率放電特性)を向上させることができる。ここでいう酸素量とは、アルミニウム多孔体の表面を加速電圧15kVの条件でEDX(エネルギー分散型X線分析)により定量分析した値である。なお、酸素量3.1質量%以下とは、EDXによる検出限界以下である。具体的な分析装置については、後述する。
【0014】
また、アルミニウム多孔体の表面の酸素量が3.1質量%以下であるので、表面の酸素量が多い従来のアルミニウム多孔体に比較して、多孔体に活物質を充填した後、加圧成形した際に、多孔体に割れが生じ難く、変形が生じ易い。そのため、多孔体の集電性を維持しながら、加圧成形することによって、電極密度の向上および多孔体と活物質との密着性の向上を図ることができる。
【0015】
さらに、電極の密度が2.4g/cm3以上2.8g/cm3以下であるので、電極のエネルギー密度が高い。
【0016】
(2)本発明の非水電解質電池用電極の一形態としては、アルミニウム多孔体に、さらに、固体電解質が充填されていることが挙げられる。
【0017】
非水電解質電池の電解質としては、有機電解液の他、固体電解質を用いることができ、固体電解質を用いることで、全固体型非水電解質電池を実現できる。そして、上記構成によれば、この全固体型非水電解質電池の電極に適したものとすることができる。具体的には、アルミニウム多孔体に活物質と固体電解質とが充填された電極を用いることで、電極内におけるリチウムイオンの拡散性を向上させることができ、放電特性に優れる全固体型リチウム電池を得ることができる。
【0018】
(3)上記したアルミニウム多孔体に充填される固体電解質としては、リチウム、リン、及び硫黄を含む硫化物系固体電解質であることが挙げられる。
【0019】
上記構成によれば、リチウムイオン伝導度の高い硫化物系固体電解質であるので、より放電特性に優れる全固体型リチウム電池を得ることができる。
【0020】
(4)本発明の非水電解質電池用電極の一形態としては、アルミニウム多孔体の気孔径が10μm以上50μm以下であることが挙げられる。
【0021】
上記構成によれば、全固体型非水電解質電池の電極に適したものとすることができる。アルミニウム多孔体の気孔径は、例えば5μm〜500μmの範囲で適宜設定することが挙げられる。また、多孔体の気孔径や厚さ(電極の厚さに相当)は、電池に用いられる電解質の形態(有機電解液や固体電解質)などに応じて変更することが好ましい。有機電解液の場合は、電極内部に電解液が浸透し易いように、電極の厚さに応じて気孔径を大きくすることが好ましいと考えられ、例えば50μm超、好ましくは100μm以上である。一方、固体電解質の場合は、電極と固体電解質との界面が固体同士の接合界面となり、この接合界面において電極と固体電解質との間でリチウムイオンの授受が行われるため、電極を厚くし過ぎると活物質の利用率が低下する。そこで、固体電解質の場合は、電極の厚さを例えば20μm以上200μm未満にし、多孔体の気孔径を10μm以上50μm以下とすることで、多孔体と活物質との密着性の向上と接触面積の増大を図ることができる。なお、ここでいう気孔径とは、平均気孔径であり、気孔径は、顕微鏡観察により測定した値である。
【0022】
(5)本発明の非水電解質電池用電極の一形態としては、アルミニウム多孔体の気孔率が90%以上98%以下であることが挙げられる。
【0023】
アルミニウム多孔体の気孔率は、例えば80%〜98%の範囲で適宜設定することが挙げられる。多孔体の気孔率を80%以上とすることで、活物質が充填される空間を確保し、98%以下とすることで、多孔体の骨格強度を維持して形状を保持し易い。特に、多孔体の気孔率が90%以上であれば、活物質が充填される空間を十分に確保して、電極密度の向上を図り易い。なお、ここでいう気孔率は、アルミニウム多孔体の質量と見かけの体積を求め、アルミニウム多孔体を構成するアルミニウム金属の比重からアルキメデス法を用いて測定した値である。
【0024】
(6)本発明の非水電解質電池は、上記した本発明の非水電解質電池用電極を備えることを特徴とする。
【0025】
上記構成によれば、放電特性に優れる非水電解質電池を得ることができる。特に、本発明の非水電解質電池用電極は、アルミニウム多孔体に正極活物質が充填され、電池の正極に用いることが好ましい。ここでいう非水電解質電池とは、一次電池と二次電池の両方を含み、より具体的には、例えばリチウム一次電池やリチウムイオン二次電池といったリチウム系電池が挙げられる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の非水電解質電池用電極は、集電体として機能するアルミニウム多孔体の表面の酸素量が少なく、電極密度が高いため、電池の放電特性を向上させることができる。また、本発明の非水電解質電池は、上記した本発明の非水電解質電池用電極を備えることで、放電特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】アルミニウム多孔体の製造工程を説明する模式図である。(A)は、連通孔を有する樹脂体の一部拡大断面を示す。(B)は、樹脂体を構成する樹脂の表面にアルミニウム層が形成された状態を示す。(C)は、樹脂体を熱分解して、アルミニウム層を残して樹脂を消失させたアルミニウム多孔体を示す。
【図2】溶融塩中での樹脂体の熱分解工程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。
【0029】
本発明の非水電解質電池用電極は、表面の酸素量が3.1質量%以下のアルミニウム多孔体に活物質を充填することで製造することができる。本発明の非水電解質電池用電極の製造方法を以下に説明する。
【0030】
まず、集電体となるアルミニウム多孔体は、例えば、以下の工程を備える製造方法により、作製することができる。
製造方法:連通孔を有する樹脂体の樹脂表面にアルミニウム層を形成した後、その樹脂体を溶融塩に浸漬した状態で、アルミニウムの標準電極電位より卑な電位をアルミニウム層に印加しながらアルミニウムの融点以下の温度に加熱して、樹脂体を熱分解する。
【0031】
上記アルミニウム多孔体の製造方法について、図1を参照しながら説明する。
【0032】
(連通孔を有する樹脂体)
図1(A)は、連通孔を有する樹脂体1fの一部拡大断面を示し、樹脂体1fは、樹脂1を骨格として連通孔が形成されている。連通孔を有する樹脂体としては、発泡樹脂の他、樹脂繊維からなる不織布を用いることができる。樹脂体を構成する樹脂としては、アルミニウムの融点以下の加熱温度で熱分解が可能なものであればよく、例えば、ポリウレタン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどが挙げられる。また、樹脂体の気孔径は5μm〜500μm程度、気孔率は80%〜98%程度の範囲が好ましく、最終的に得られるアルミニウム多孔体の気孔径と気孔率とは、樹脂体の気孔径と気孔率とに影響を受ける。そこで、作製するアルミニウム多孔体の気孔径と気孔率とに応じて、樹脂体の気孔径と気孔率とを決定する。
【0033】
特に、発泡ウレタンは、気孔率が高く、気孔径が均一で、気孔の連通性や熱分解性に優れることから、発泡ウレタンを樹脂体に使用することが好ましい。
【0034】
(樹脂表面へのアルミニウム層の形成)
図1(B)は、連通孔を有する樹脂体の樹脂1表面にアルミニウム層2が形成された状態(アルミニウム層被膜樹脂体3)を示す。アルミニウム層の形成方法としては、例えば、(i)真空蒸着法、スパッタリング法もしくはレーザアブレーション法などに代表される気相法(PVD)、(ii)めっき法、(iii)ペースト塗布法などが挙げられる。
【0035】
(i)気相法
真空蒸着法では、例えば、原料のアルミニウムに電子ビームを照射してアルミニウムを溶融・蒸発させ、連通孔を有する樹脂体の樹脂表面にアルミニウムを付着させることにより、アルミニウム層を形成することができる。スパッタリング法では、例えば、アルミニウムのターゲットにプラズマ照射してアルミニウムを気化させ、連通孔を有する樹脂体の樹脂表面にアルミニウムを付着させることにより、アルミニウム層を形成することができる。レーザアブレーション法では、例えば、レーザ照射によりアルミニウムを溶融・蒸発させ、連通孔を有する樹脂体の樹脂表面にアルミニウムを付着させることにより、アルミニウム層を形成することができる。
【0036】
(ii)めっき法
水溶液中でアルミニウムをめっきすることは、実用上ほとんど不可能であるため、溶融塩中でアルミニウムをめっきする溶融塩電解めっき法により、連通孔を有する樹脂体の樹脂表面にアルミニウム層を形成することができる。この場合、予め樹脂表面を導電化処理した後、溶融塩中でアルミニウムをめっきすることが好ましい。
【0037】
溶融塩電解めっきに用いる溶融塩としては、例えば、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化アルミニウム(AlCl3)などの塩を使用することができる。また、2成分以上の塩を混合し、共晶溶融塩としてもよい。共晶溶融塩とした場合、溶融温度を低下させることができる点で有利である。この溶融塩には、アルミニウムイオンが含まれている必要がある。
【0038】
溶融塩電解めっきでは、例えば、AlCl3‐XCl(X:アルカリ金属)の2成分系あるいは多成分系の塩を使用し、この塩を溶融してめっき液とし、この中に樹脂体を浸漬して電解めっきを行うことにより、樹脂表面にアルミニウムめっきを施す。また、電解めっきの前処理として、予め樹脂表面に導電化処理を施すことが好ましい。導電化処理としては、ニッケルなどの導電性金属を無電解めっきにより樹脂表面にめっきしたり、アルミニウムなどの導電性金属を真空蒸着法又はスパッタリング法により樹脂表面に被膜したり、カーボンなどの導電性粒子を含有する導電性塗料を塗布したりすることが挙げられる。
【0039】
(iii)ペースト塗布法
ペースト塗布法では、例えば、アルミニウム粉末、結着剤(バインダー)、及び有機溶剤を混合したアルミニウムペーストを用いる。そして、アルミニウムペーストを樹脂表面に塗布した後、加熱することにより、バインダーと有機溶剤とを消失させると共に、アルミニウムペーストを焼結させる。この焼結は、1回で行っても、複数回に分けて行ってもよい。例えば、アルミニウムペーストの塗布後、低温で加熱して有機溶剤を消失させた後、溶融塩に浸漬した状態で加熱することにより、樹脂体の熱分解と同時にアルミニウムペーストの焼結を行うことも可能である。また、この焼結は、非酸化性雰囲気化で行うことが好ましい。
【0040】
(溶融塩中での樹脂体の熱分解)
図1(C)は、図1(B)に示すアルミニウム層被膜樹脂体3から樹脂1を熱分解して、アルミニウム層を残して樹脂を消失させた状態(アルミニウム多孔体4)を示す。樹脂体(樹脂)の熱分解は、溶融塩に浸漬した状態で、アルミニウム層に卑な電位を印加しながらアルミニウムの融点以下の温度に加熱することにより行う。例えば、図2に示すように、樹脂表面にアルミニウム層を形成した樹脂体(即ち、アルミニウム層被膜樹脂体3)及び対極(正極)5を溶融塩6に浸漬し、アルミニウムの標準電極電位より卑な電位をアルミニウム層に印加する。溶融塩中でアルミニウム層に卑な電位を印加することで、アルミニウム層の酸化を確実に防止することができる。ここで、アルミニウム層に印加する電位は、アルミニウムの標準電極電位より卑で、かつ溶融塩のカチオンの還元電位より貴とする。また、対極には、溶融塩に対し不溶性を示すものであればよく、例えば、白金、チタンなどを用いることができる。
【0041】
そして、この状態を保ちながら、アルミニウムの融点(660℃)以下で、かつ樹脂体の熱分解温度以上に溶融塩6を加熱することで、アルミニウム層被膜樹脂体3のうち樹脂のみを消失させる。これにより、アルミニウム層を酸化させることなく、樹脂を熱分解することができるので、その結果、表面の酸素量が3.1質量%以下のアルミニウム多孔体を得ることができる。また、樹脂体を熱分解するときの加熱温度は、樹脂体を構成する樹脂の種類に応じて適宜設定すればよく、例えば500℃以上600℃以下とすることが好ましい。
【0042】
樹脂体の熱分解工程に用いる溶融塩としては、上記した溶融塩電解めっきに用いる溶融塩と同じであってもよく、例えば、塩化リチウム(LiCl)、塩化ナトリウム(NaCl)、塩化カリウム(KCl)、塩化アルミニウム(AlCl3)からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。溶融塩としては、アルミニウム層の電位が卑となるように、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のハロゲン化物の塩を使用することができる。また、溶融塩の溶融温度をアルミニウムの融点以下の温度にするために、2種類以上の塩を混合し、共晶溶融塩としてもよい。特に、アルミニウムは酸化し易く還元処理が難しいことから、樹脂体の熱分解工程においては、共晶溶融塩を使用することが有効である。
【0043】
その他、上記アルミニウム多孔体の製造方法により作製されたアルミニウム多孔体は、製造方法の特性上、中空糸状であり、この点において、特許文献1に開示されるアルミニウム発泡体と構造が異なる。そして、アルミニウム多孔体は、連通孔を有し、閉気孔を有しない、あるいは有するとしても微少である。また、アルミニウム多孔体は、純アルミニウム(アルミニウムと不可避的不純物からなるもの)で形成する他、添加元素を含有するアルミニウム合金(添加元素と残部がアルミニウムと不可避的不純物からなるもの)で形成してもよい。アルミニウム合金で形成した場合、純アルミニウムに比較して、アルミニウム多孔体の機械的特性を改善することができる。
【0044】
(アルミニウム多孔体に充填する活物質)
次に、アルミニウム多孔体に充填する活物質としては、リチウムを脱挿入できる材料を使用することができ、このような材料をアルミニウム多孔体に充填することで、リチウムイオン二次電池に適した電極を得ることができる。正極活物質の材料としては、例えば、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケル酸リチウム(LiNiO2)、ニッケルコバルト酸リチウム(LiCo0.3Ni0.7O2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、チタン酸リチウム(Li4Ti5O12)、リチウムマンガン酸化合物(LiMyMn2-yO4;M=Cr、Co、Ni)、リチウムリン酸鉄及びその化合物(LiFePO4、LiFe0.5Mn0.5PO4)であるオリビン化合物などの遷移金属酸化物が挙げられる。また、これら材料の中に含まれる遷移金属元素を、別の遷移金属元素に一部置換してもよい。
【0045】
さらに、他の正極活物質の材料としては、例えば、TiS2、V2S3、FeS、FeS2、LiMSx(MはMo、Ti、Cu、Ni、Feなどの遷移金属元素、又はSb、Sn、Pb)などの硫化物系カルコゲン化物、TiO2、Cr3O8、V2O5、MnO2などの金属酸化物を骨格としたリチウム金属が挙げられる。ここで、上記したチタン酸リチウム(Li4Ti5O12)は、負極活物質として使用することも可能である。
【0046】
(アルミニウム多孔体に充填する固体電解質)
活物質の他に、さらに、固体電解質を加えて充填してもよい。アルミニウム多孔体に活物質と固体電解質とを充填することで、全固体型非水電解質電池の電極に適したものとすることができる。ただし、アルミニウム多孔体に充填する材料のうち活物質の割合は、放電容量を確保する観点から、50質量%以上、より好ましくは70質量%以上とすることが好ましい。
【0047】
上記固体電解質には、リチウムイオン伝導度の高い硫化物系固体電解質を使用することが好ましく、このような硫化物系固体電解質としては、リチウム、リン、及び硫黄を含む硫化物系固体電解質が挙げられる。硫化物系固体電解質は、さらに、0、Al、B、Si、Geなどの元素を含有してもよい。
【0048】
このような硫化物系固体電解質は、公知の方法により得ることができる。例えば、出発原料として硫化リチウム(Li2S)及び五硫化二リン(P2S5)を用意し、Li2SとP2S5とをモル比で50:50〜80:20程度の割合で混合し、これを溶融して急冷する方法(溶融急冷法)や、これをメカニカルミリングする方法(メカニカルミリング法)が挙げられる。
【0049】
上記方法により得られる硫化物系固体電解質は、非晶質である。この非晶質の状態のまま利用することもできるが、これを加熱処理して結晶性の硫化物系固体電解質としてもよい。結晶化することで、リチウムイオン伝導度の向上が期待できる。
【0050】
(アルミニウム多孔体への活物質の充填)
活物質(活物質と固体電解質)の充填は、例えば、浸漬充填法や塗工法などの公知の方法を用いることができる。塗工法としては、例えば、ロール塗工法、アプリケーター塗工法、静電塗工法、粉体塗工法、スプレー塗工法、スプレーコーター塗工法、バーコーター塗工法、ロールコーター塗工法、ディップコーター塗工法、ドクターブレード塗工法、ワイヤーバー塗工法、ナイフコーター塗工法、ブレード塗工法、及びスクリーン印刷法などが挙げられる。
【0051】
活物質(活物質と固体電解質)を充填するときは、例えば、必要に応じて導電助剤やバインダーを加え、これに有機溶剤を混合して正極合剤スラリーを作製し、これを上記方法を用いてアルミニウム多孔体に充填する。活物質(活物質と固体電解質)の充填は、アルミニウム多孔体の酸化を防止するため、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0052】
なお、正極合剤スラリーを作製する際に用いる有機溶剤としては、アルミニウム多孔体に充填する材料(即ち、活物質、固体電解質、導電助剤、及びバインダー)に対して悪影響を及ぼさないものであれば、適宜選択することができる。このような有機溶剤としては、例えば、n‐ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボンート、ビニルエチレンカーボネート、テトラヒドロフラン、1,4‐ジオキサン、1,3‐ジオキソラン、エチレングリコール、N‐メチル‐2‐ピロリドンなどが挙げられる。
【0053】
以上のようにして製造された非水電解質電池用電極は、表面の酸素量が3.1質量%以下のアルミニウム多孔体に活物質が充填されたものである。また、このアルミニウム多孔体が連通孔を有する一方で閉気孔を有しないので、多孔体が持つ表面全てを活物質との接触に利用することができる。また、アルミニウム多孔体に活物質を充填した後、加圧成形することにより、所定の電極密度を達成することができ、かつ、多孔体と活物質との密着性を向上させることができる。
【0054】
以下、本発明の具体的な実施例を示す。
[試験例1]
(アルミニウム多孔体の作製)
樹脂体として、気孔率:約95%、気孔径:約15μm、厚さ:約100μmのポリウレタンフォーム(発泡ウレタン)を用意した。
【0055】
次に、真空蒸着法により、純アルミニウムを溶融・蒸発させ、上記樹脂体の樹脂表面にアルミニウム層を形成した。真空蒸着の条件は、真空度を1.0×10-5Pa、被膜対象である樹脂体の温度を室温にて行い、蒸発源と樹脂体との距離を300mmとした。樹脂体の樹脂表面にアルミニウム層を形成した後、樹脂表面にアルミニウム層が形成された樹脂体(アルミニウム層被膜樹脂体)をSEMにより観察したところ、アルミニウム層の厚さは3μmであった。
【0056】
上記アルミニウム層被膜樹脂体を、500℃のLiCl‐KClの共晶溶融塩に浸漬すると共に、その状態で、アルミニウム層がアルミニウムの標準電極電位に対して-1Vの卑な電位となるように、アルミニウム層に負電圧を30分間印加した。このとき、溶融塩中に気泡が発生するのが確認された。これは、ポリウレタンの熱分解によるものと推定される。
【0057】
次いで、上記工程により得られた樹脂体が熱分解された後のアルミニウムでできた骨格(アルミニウム多孔体)を、大気中で室温まで冷却した後、水洗して、表面に付着した溶融塩を除去した。以上により、アルミニウム多孔体を完成させた。
【0058】
作製したアルミニウム多孔体の気孔率は95%、気孔径は15μm、厚さは100μmであった。また、このアルミニウム多孔体をSEMにより観察したところ、孔が連通しており、閉気孔が確認されなかった。さらに、このアルミニウム多孔体の表面を15kVの加速電圧でEDXにより定量分析したところ、酸素のピークが観測されなかった。つまり、酸素が検出されなかった。したがって、アルミニウム多孔体の表面の酸素量は、EDXによる検出限界以下、即ち、3.1質量%以下であった。なお、当分析に用いた装置は、EDAX社製「EDAX Phonenix 型式:HIT22 136‐2.5」である。
【0059】
最後に、このアルミニウム多孔体から直径10mmの試料を切り取り、これをアルミニウム多孔体試料1とした。
【0060】
また、用意する樹脂体の気孔率を変更した以外は、アルミニウム多孔体試料1と同じ製造方法にて、気孔率の異なるアルミニウム多孔体試料2及び3を作製した。なお、アルミニウム多孔体試料2及び3は、それぞれ気孔率が98%及び90%であり、いずれも表面の酸素量が3.1質量%以下であった。
【0061】
さらに比較として、アルミニウム多孔体試料1とは製造方法が異なるアルミニウム多孔体も作製した。ここでは、樹脂体の樹脂表面にアルミニウム層を形成するまではアルミニウム多孔体試料1と同じ製造方法にてアルミニウム層被膜樹脂体を作製し、その後の樹脂体を熱分解する工程を変更した。具体的には、アルミニウム層被膜樹脂体を大気中550℃で熱処理することにより、樹脂体を熱分解して樹脂を消失させた。そして、気孔率:95%、気孔径:15μm、厚さ:100μmのアルミニウム多孔体を作製した。
【0062】
作製したアルミニウム多孔体の表面を15kVの加速電圧でEDXにより定量分析したところ、酸素のピークが観測され、その表面の酸素量が3.1質量%超であった。これは、樹脂体を熱処理する際に、アルミニウム多孔体の表面が酸化したことによるものと推定される。このアルミニウム多孔体から直径10mmの試料を切り取り、これをアルミニウム多孔体試料11とした。
【0063】
また、用意する樹脂体の気孔率を変更した以外は、アルミニウム多孔体試料11と同じ製造方法にて、気孔率の異なるアルミニウム多孔体試料12を作製した。なお、アルミニウム多孔体試料12は、気孔率が98%であり、表面の酸素量が3.1質量%超であった。
【0064】
作製した各アルミニウム多孔体試料(No.1〜3、11、12)の諸特性を表1に示す。
【0065】
【表1】

【0066】
(非水電解質電池用電極の製造)
上記したアルミニウム多孔体試料1に活物質と固体電解質とを充填して、全固体型リチウムイオン二次電池用正極を製造した。
【0067】
正極活物質として、平均粒径が7μmのLiCoO2粉末を用意した。また、LiCoO2粉末の表面には、静電噴霧法により、非晶質のニオブ酸リチウム(LiNbO3)の層を厚さ10nmに形成した。
【0068】
固体電解質として、組成がLi2S‐P2S5‐P2O5硫化物系固体電解質の粉末を用意した。この固体電解質粉末は、Li2SとP2S5とP2O5の各粉末をモル比で80:17:3の割合で混合し、これをメカニカルミリングすることで作製した。メカニカルミリングの条件は、遊星型ボールミルの回転数を370rpm、反応時間を20時間にて行い、反応容器には、内容積が50mlで、直径10mmのアルミナ製ボールを10個入れたアルミナ製ポットを使用した。また、メカニカルミリング法により得られた非晶質の固体電解質粉末を200℃で30分間アニール処理して結晶化させた。作製した固体電解質粉末(二次粒子)の平均粒径は5μmであった。
【0069】
上記したLiCoO2粉末と硫化物系固体電解質粉末とを質量%で70:30の割合で混合し、これを10mg秤量した。この混合粉末にジエチルカーボネートを滴下して混合し、ペースト状の正極合剤スラリーを作製した。次に、この正極合剤スラリーにアルミニウム多孔体試料1を含浸して、アルミニウム多孔体試料1に正極合剤を充填し、その後、100℃で40分間乾燥させて有機溶剤を除去した。次いで、正極合剤を充填したアルミニウム多孔体試料1を、超硬合金製の治具を用いて油圧プレスにより、500MPaの圧力を加えて加圧成形して、正極材を製造した。加圧成形後の正極材の厚さは、45μmであった。
【0070】
最後に、正極材を再度直径10mmに打ち抜き成形し、これを正極試料1とした。この正極試料1の密度(アルミニウム多孔体を含む)は、2.67g/cm3であった。
【0071】
また、使用するアルミニウム多孔体試料、又はLiCoO2粉末と硫化物系固体電解質粉末との割合を変更した以外は、正極試料1と同じ製造方法にて、正極試料2〜6及び11、12を製造した。なお、アルミニウム多孔体試料1〜3を使用した正極試料は、いずれも厚さが45μmであった。一方、アルミニウム多孔体試料11、12を使用した正極試料は、いずれも厚さが50μmであった。これは、アルミニウム多孔体試料11、12では、表面の酸素量が多いため硬く、加圧成形した際に変形が生じ難いことが原因と考えられる。
【0072】
製造した各正極試料(No.1〜6、11、12)の諸特性を表2に示す。
【0073】
次に、上記した各正極試料を用いた全固体型リチウムイオン二次電池を作製し、各正極試料を評価した。
【0074】
評価用の電池は、次のようにして作製した。内径が10mmの樹脂製のシリンダーと、このシリンダー内の軸方向に移動可能なステンレス製の上ピストン及び下ピストンとを用意した。シリンダーの下部に下ピストンを収納した状態で、シリンダーの上部開口部から正極となる正極試料を入れ、その上に固体電解質粉末(正極試料に充填したのと同じもの)を入れた。次いで、シリンダーの上部から上ピストンを挿入し、シリンダーの上下から500MPaの圧力を加えた。次に、シリンダーから上ピストンを抜き取り、固体電解質粉末の上に直径:10mm、厚さ:250μmのインジウム箔(負極)を配置した。最後に、シリンダーの上部から上ピストンを再度挿入し、シリンダーの上下から100MPaの圧力を加えることによって、評価用の電池を完成させた。上下のピストンはそれぞれ、負極端子及び正極端子として機能する。
【0075】
このような評価用の電池を各正極試料について作製し、次の評価方法により各正極試料を評価した。具体的には、それぞれの評価用の電池について、カットオフ電圧:3.0V〜4.2V、0.15mA(0.2C)の条件にて充放電サイクルを行い、そのときの初期放電容量を測定した。そして、測定した初期放電容量から正極活物質の単位質量あたりの放電容量を換算して求めた。換算した各電池の放電容量を表2に併せて示す。
【0076】
【表2】

【0077】
以上のように、アルミニウム多孔体試料1〜3を集電体に用いた正極試料1〜6は、アルミニウム多孔体試料11〜12を集電体に用いた正極試料11、12に比較して、密度が高い。また、表2の結果から、非水電解質電池の電極に利用した場合、高い放電容量が得られることが分かる。
【0078】
これには、次の理由が考えられる。(i)集電体として機能するアルミニウム多孔体表面の酸素量が3.1質量%以下と非常に少ないため、多孔体と活物質との間で電子の授受が速やかに行われる。(ii)アルミニウム多孔体表面の酸素量が少ないため、加圧成形した際に多孔体に変形が生じ易く、電極の密度が向上し、多孔体と活物質との密着性が高い。(iii)アルミニウム多孔体表面の酸素量が少ないため、加圧成形した際に多孔体に割れが生じ難く、集電性が低下することが少ない。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明の非水電解質電池用電極は、携帯情報端末、電動車両、及び家庭用電力貯蔵装置などに使用される非水電解質電池に好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0080】
1 樹脂 1f 樹脂体
2 アルミニウム層
3 アルミニウム層被膜樹脂体
4 アルミニウム多孔体
5 対極(正極)
6 溶融塩

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム多孔体に活物質が充填された非水電解質電池用電極であって、
前記アルミニウム多孔体の表面の酸素量が、3.1質量%以下であり、
当該電極の密度が、2.4g/cm3以上2.8g/cm3以下であることを特徴とする非水電解質電池用電極。
【請求項2】
前記アルミニウム多孔体に、さらに、固体電解質が充填されていることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質電池用電極。
【請求項3】
前記アルミニウム多孔体の気孔径が、10μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質電池用電極。
【請求項4】
前記アルミニウム多孔体の気孔率が、90%以上98%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解質電池用電極。
【請求項5】
前記固体電解質が、リチウム、リン、及び硫黄を含む硫化物系固体電解質であることを特徴とする請求項2に記載の非水電解質電池用電極。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の非水電解質電池用電極を備えることを特徴とする非水電解質電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−249259(P2011−249259A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−123829(P2010−123829)
【出願日】平成22年5月31日(2010.5.31)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】