説明

非水電解質電池

【課題】一対の正極および負極あたりの完全充電状態における開回路電圧が4.25V〜4.60Vの非水電解質電池において、セパレータの機械的物性の低下を抑え、特に高温保存化での劣化を抑制し、電池特性の低下を抑制できる非水電解質電池を提供する。
【解決手段】電池缶1の内部に、帯状の正極2と負極3とがセパレータ4を介して巻回された巻回電極体20を有している。セパレータ4は、酸化防止剤を有する。これにより、セパレータ4が酸化により劣化するのを抑制できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、非水電解質電池、詳しくは、正極、負極、非水電解質およびセパレータにより構成される非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電子技術の目覚しい発達により、携帯電話やノートブックコンピューターは高度情報化社会を支える基盤技術として認識されている。これら機器の高機能化に関する研究開発は精力的に進められており、高機能化による消費電力の増加が駆動時間を短縮することが課題とされてきた。
【0003】
一定水準以上の駆動時間を確保するためには、駆動電源として用いられる二次電池の高エネルギー密度化が必須条件となるため、例えばリチウムイオン二次電池等に代表される高機能性二次電池におけるさらなる高エネルギー密度化が期待されている。
【0004】
従来のリチウムイオン二次電池では、正極にコバルト酸リチウムおよび負極には炭素材料が使用されており、作動電圧が4.2Vから2.5Vの範囲で用いられてきた。単電池において、端子電圧を4.2Vまで上げられるのは、非水電解質材料やセパレータ等の優れた電気化学的安定性によるところが大きい。
【0005】
ところで、従来の最大4.2Vで作動するリチウムイオン二次電池に用いられるコバルト酸リチウム等の正極活物質は、その理論容量に対して6割程度の容量を活用しているに過ぎず、さらに充電電圧を上げることにより、残存容量を活用することが原理的に可能である。実際、例えば特許文献1にて開示されているように、充電時の電圧を4.25V以上にすることにより、高エネルギー密度化が発現することが知られている。
【0006】
【特許文献1】国際公開第WO03/019713A1号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、4.25V以上の高電圧下においては、特に正極近傍において酸化雰囲気が強まり、電池構成材料が酸化されやすくなる。中でもセパレータは、ポリオレフィンを主原料とするため、高酸化雰囲気下では酸化分解が受けやすく、酸化分解によって分子量低下を引き起こし機械的物性の著しい低下を誘引し、破膜等が起こりやすくなる。特に、高温雰囲気下では、劣化が顕著であり、破膜によりショートが発生し電池特性の著しい低下を引き起こす。
【0008】
したがって、この発明の目的は、一対の正極および負極あたりの完全充電状態(以下、満充電状態と適宜称する)での開回路電圧が4.25V〜4.60Vの非水電解質電池において、セパレータの機械的物性の低下を抑え、特に高温保存化での劣化を抑制し、電池特性の低下を抑制できる非水電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者等は、非水電解質電池に使用されているポリオレフィン系微多孔膜は、充電電圧を4.25V以上に設定した場合、特に正極表面近傍における酸化雰囲気が強まる結果、正極と物理的に接触する非水電解質材料やセパレータが酸化分解を受けやすくなり、結果的に電池内部抵抗が増大化し、特に高温での電池特性が劣化するといった「本電池系固有の問題」が内在していることを突き止めた。
【0010】
すなわち、上述した課題を解決するために、この発明は、
正極と負極とがセパレータを介して対向配置され、
一対の正極および負極あたりの完全充電状態における開回路電圧が4.25V〜4.60Vの非水電解質電池において、
セパレータは、酸化防止剤を有すること
を特徴とする非水電解質電池である。
【0011】
この発明では、セパレータが酸化防止剤を有することで、満充電状態における開回路電圧が4.25V〜4.60Vの高充電電圧下の高酸化雰囲気下においても、セパレータを構成する原料が酸化により劣化するのを抑制する。これにより、特に高温保存下での電池特性の劣化を抑制できる。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、満充電状態における開回路電圧が4.25V〜4.60Vの非水電解質電池において、セパレ−タを構成する原料が酸化により劣化するのを抑制し、これにより、特に高温保存下での電池特性の劣化を抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
(1)第1の実施形態
(1−1)非水電解質電池の構成
以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、この発明の第1の実施形態による微多孔膜を用いた二次電池の断面構造を表している。
【0014】
この二次電池では、満充電状態における開回路電圧が、例えば、4.25V〜4.60V、4.25〜6.00Vである。この二次電池は、いわゆる円筒型といわれるものであり、ほぼ中空円柱状の電池缶1の内部に、帯状の正極2と帯状の負極3とがセパレータ4を介して巻回された巻回電極体20を有している。
【0015】
電池缶1は、例えばニッケル(Ni)のめっきがされた鉄(Fe)により構成されており、一端部が閉鎖され他端部が開放されている。電池缶1の内部には、巻回電極体20を挟むように巻回周面に対して垂直に一対の絶縁板5,6がそれぞれ配置されている。
【0016】
電池缶1の開放端部には、電池蓋7と、この電池蓋7の内側に設けられた安全弁機構8および熱感抵抗素子(Positive Temperature Coefficient;PTC素子)9とが、ガスケット10を介してかしめられることにより取り付けられており、電池缶1の内部は、密閉されている。電池蓋7は、例えば、電池缶1と同様の材料により構成されている。安全弁機構8は、熱感抵抗素子9を介して電池蓋7と電気的に接続されており、内部短絡あるいは外部からの加熱などにより電池の内圧が一定以上となった場合にディスク板11が反転して電池蓋7と巻回電極体20との電気的接続を切断するようになっている。熱感抵抗素子9は、温度が上昇すると抵抗値の増大により電流を制限し、大電流による異常な発熱を防止するものである。ガスケット10は、例えば、絶縁材料により構成されており、表面にはアスファルトが塗布されている。
【0017】
巻回電極体20は、例えば、センターピン12を中心に巻回されている。巻回電極体20の正極2にはアルミニウムなどよりなる正極リード13が接続されており、負極3にはニッケルなどよりなる負極リード14が接続されている。正極リード13は安全弁機構8に溶接されることにより電池蓋7と電気的に接続されており、負極リード14は電池缶1に溶接され電気的に接続されている。
【0018】
[正極]
図2は、図1に示した巻回電極体20の一部を拡大して表すものである。図2に示すように、正極2は、例えば、対向する一対の面を有する正極集電体2Aと、正極集電体2Aの両面に設けられた正極合剤層2Bとを有している。なお、正極集電体2Aの片面のみに正極合剤層2Bが設けられた領域を有するようにしてもよい。正極集電体2Aは、例えば、アルミニウム(Al)箔等の金属箔により構成されている。正極合剤層2Bは、例えば、正極活物質を含んでおり、必要に応じてグラファイトなどの導電剤と、ポリフッ化ビニリデンなどの結着剤とを含んでいてもよい。
【0019】
正極活物質としては、リチウムを含有する化合物、例えばリチウム酸化物、リチウム硫化物あるいはリチウムを含む層間化合物が適当であり、これらの2種以上を混合して用いてもよい。特に、エネルギー密度を高くするには、正極活物質としてLixMO2を主体とするリチウム複合酸化物を含んでいることが好ましい。なお、Mは1種類以上の遷移金属が好ましく、具体的には、コバルト(Co),ニッケル(Ni),マンガン(Mn),鉄(Fe),アルミニウム(Al),バナジウム(V)およびチタン(Ti)からなる群のうちの少なくとも1種が好ましい。また、xは、電池の充放電状態によって異なり、通常、0.05≦x≦1.10の範囲内の値である。このようなリチウム複合酸化物の具体例としては、例えば、LiaCoO2(a≒1)、LibNiO2(b≒1)あるいはLicNidCo1-d2(c≒1、0<d<1である。)が挙げられる。また、リチウム複合酸化物としては、スピネル構造を有するLieMn24(e≒1)、あるいは、オリビン構造を有するLifFePO4(f≒1)が挙げられる。
【0020】
より具体的には、以下に述べる(化1)〜(化5)で表された組成を有するリチウム遷移金属複合酸化物を用いることができる。
【0021】
(化1)
Li[LixMn(1-x-y-z)NiyM’z]O(2-a)b
(式中M’は、コバルト(Co),マンガン(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),ジルコニウム(Zr),モリブデン(Mo),スズ(Sn),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),タングステン(W)から選ばれた少なくとも一種以上の元素を表す。xは0<x≦0.2、yは0.3≦y≦0.8、zは0≦z≦0.5、aは−0.1≦a≦0.2、bは0≦b≦0.1の範囲内の値である。)
【0022】
(化2)
LicNi(1-d)M’’d(2-e)f
(式中M’’は、コバルト(Co),マンガン(Mn),マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),モリブデン(Mo),スズ(Sn),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),タングステン(W)から選ばれた少なくとも一種以上の元素を表す。cは−0.1≦c≦0.1、dは0.005≦d≦0.5、eは−0.1≦e≦0.2、fは0≦f≦0.1の範囲内の値である。)
【0023】
(化3)
LicCo(1-d)M’’’d(2-e)f
(式中M’’’は、ニッケル(Ni),マンガン(Mn),マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),モリブデン(Mo),スズ(Sn),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),タングステン(W)から選ばれた少なくとも一種以上の元素を表す。cは−0.1≦c≦0.1、dは0≦d≦0.5、eは−0.1≦e≦0.2、fは0≦f≦0.1の範囲内の値である。)
【0024】
(化4)
LisMn2-tM’’’’tuv
(式中M’’’’は、コバルト(Co),ニッケル(Ni),マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),クロム(Cr),鉄(Fe),銅(Cu),亜鉛(Zn),モリブデン(Mo),スズ(Sn),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),タングステン(W)から選ばれた少なくとも一種以上の元素を表す。sはs≧0.9、tは0.005≦t≦0.6、uは3.7≦u≦4.1、vは0≦v≦0.1の範囲内の値である。)
【0025】
また、以下に述べる(化5)で表された組成を有するリチウム遷移金属複合リン酸塩も用いることができる。
【0026】
(化5)
LiM’’’’’PO4
(式中M’’’’’は、コバルト(Co),マンガン(Mn),鉄(Fe),ニッケル(Ni),マグネシウム(Mg),アルミニウム(Al),ホウ素(B),チタン(Ti),バナジウム(V),ニオブ(Nb),銅(Cu),亜鉛(Zn),モリブデン(Mo),カルシウム(Ca),ストロンチウム(Sr),タングステン(W),ジルコニウム(Zr)から選ばれた少なくとも一種以上の元素を表す。)
【0027】
[負極]
図2に示すように、負極3は、例えば、対向する一対の面を有する負極集電体3Aと、負極集電体3Aの両面に設けられた負極合剤層3Bとを有している。なお、負極集電体3Aの片面のみに負極合剤層3Bが設けられた領域を有するようにしてもよい。負極集電体3Aは、例えば銅(Cu)箔などの金属箔により構成されている。負極合剤層3Bは、例えば、負極活物質を含んでおり、必要に応じてポリフッ化ビニリデンなどの結着剤を含んでいてもよい。
【0028】
負極活物質としては、リチウムを吸蔵および離脱することが可能な負極材料(以下、リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料と適宜称する。)を含んでいる。リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料としては、例えば、炭素材料、金属化合物、酸化物、硫化物、LiN3などのリチウム窒化物、リチウム金属、リチウムと合金を形成する金属、あるいは高分子材料などが挙げられる。
【0029】
炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維あるいは活性炭が挙げられる。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどがある。有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂等の高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいい、一部には難黒鉛化性炭素または易黒鉛化性炭素に分類されるものもある。また、高分子材料としてはポリアセチレンあるいはポリピロール等が挙げられる。
【0030】
このようなリチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料のなかでも、充放電電位が比較的リチウム金属に近いものが好ましい。負極3の充放電電位が低いほど電池の高エネルギー密度化が容易となるからである。なかでも炭素材料は、充放電時に生じる結晶構造の変化が非常に少なく、高い充放電容量を得ることができるとともに、良好なサイクル特性を得ることができるので好ましい。特に黒鉛は、電気化学当量が大きく、高いエネルギー密度を得ることができ好ましい。また、難黒鉛化性炭素は、優れたサイクル特性を得ることができるので好ましい。
【0031】
リチウムを吸蔵・離脱可能な負極材料としては、また、リチウム金属単体、リチウムと合金を形成可能な金属元素あるいは半金属元素の単体、合金または化合物が挙げられる。これらは高いエネルギー密度を得ることができるので好ましく、特に、炭素材料と共に用いるようにすれば、高エネルギー密度を得ることができると共に、優れたサイクル特性を得ることができるのでより好ましい。なお、本明細書において、合金には2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とからなるものも含める。その組織には固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物あるいはそれらのうち2種以上が共存するものがある。
【0032】
このような金属元素あるいは半金属元素としては、スズ(Sn),鉛(Pb),アルミニウム,インジウム(In),ケイ素(Si),亜鉛(Zn),アンチモン(Sb),ビスマス(Bi),カドミウム(Cd),マグネシウム(Mg),ホウ素(B),ガリウム(Ga),ゲルマニウム(Ge),ヒ素(As),銀(Ag),ジルコニウム(Zr),イットリウム(Y)またはハフニウム(Hf)が挙げられる。これらの合金あるいは化合物としては、例えば、化学式MasMbtLiu、あるいは化学式MapMcqMdrで表されるものが挙げられる。これら化学式において、Maはリチウムと合金を形成可能な金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表し、MbはリチウムおよびMa以外の金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表し、Mcは非金属元素の少なくとも1種を表し、MdはMa以外の金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を表す。また、s、t、u、p、qおよびrの値はそれぞれs>0、t≧0、u≧0、p>0、q>0、r≧0である。
【0033】
なかでも、短周期型周期表における4B族の金属元素あるいは半金属元素の単体、合金または化合物が好ましく、特に好ましいのはケイ素あるいはスズ、またはこれらの合金あるいは化合物である。これらは、結晶質のものでもアモルファスのものでもよい。
【0034】
この他、MnO2、V25、V613、NiS、MoSなど、リチウムを含まない無機化合物も、正負極のいずれかに用いることができる。
【0035】
[電解液]
電解液としては、非水溶媒に電解質塩を溶解させた非水電解液を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネートのうちの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。サイクル特性を向上させることができるからである。特に、エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとを混合して含むようにすれば、よりサイクル特性を向上させることができるので好ましい。非水溶媒としては、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートまたはメチルプロピルカーボネート等の鎖状炭酸エステルの中から、少なくとも1種を含んでいることが好ましい。サイクル特性をより向上させることができるからである。
【0036】
非水溶媒としては、さらに、2,4−ジフルオロアニソールおよびビニレンカーボネートのうちの少なくとも一方を含んでいることが好ましい。2,4−ジフルオロアニソールは放電容量を改善することができ、ビニレンカーボネートはサイクル特性をより向上させることができるからである。特に、これらを混合して含んでいれば、放電容量およびサイクル特性を共に向上させることができるのでより好ましい。
【0037】
非水溶媒としては、さらに、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、これら化合物の水素基の一部または全部をフッ素基で置換したもの、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、酢酸メチル、プロピオン酸メチル、アセトニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、3−メトキシプロピロニトリル、N,N−ジメチルフォルムアミド、N−メチルピロリジノン、N−メチルオキサゾリジノン、N,N−ジメチルイミダゾリジノン、ニトロメタン、ニトロエタン、スルホラン、ジメチルスルフォキシドあるいはリン酸トリメチル等のいずれか1種または2種以上を含んでいてもよい。
【0038】
組み合わせる電極によっては、上記非水溶媒群に含まれる物質の水素原子の一部または全部をフッ素原子で置換したものを用いることにより、電極反応の可逆性が向上する場合がある。したがって、これらの物質を適宜用いることも可能である。
【0039】
電解質塩であるリチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4、LiB(C654、LiCH3SO3、LiCF3SO3、LiN(SO2CF32、LiC(SO2CF33、LiAlCl4、LiSiF6、LiCl、LiBF2(ox)、LiBOB、あるいはLiBrが適当であり、これらのうちのいずれか1種または2種以上が混合して用いることができる。なかでも、LiPF6は、高いイオン伝導性を得ることができるとともに、サイクル特性を向上させることができるので好ましい。
【0040】
[セパレータ]
セパレータ材料としては、従来の電池に使用されてきたものを利用することが可能である。そのなかでも、ショート防止効果に優れ、且つシャットダウン効果による電池の安全性向上が可能なポリオレフィン製微孔性フィルムを使用することが特に好ましい。例えば、ポリエチレンやポリプロピレン樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0041】
セパレータ4には、酸化防止剤が担持される。具体的には、例えば、セパレータ4に、酸化防止剤が予め塗布されたものを用いることができる。また、セパレータ4の原料に、酸化防止剤を予め練り込んだものを用いることができる。
【0042】
セパレータ4に酸化防止剤が担持されることによりラジカルによる連鎖的分解反応を抑制し、セパレータ4の劣化を抑制できる。すなわち、ポリオレフィンの酸化劣化は、主鎖の水素が引き抜かれることによるラジカル発生に起因し、連鎖的反応でポリオレフィン分子鎖が次々に分解し分子量低下を引き起こす。分子量が低下したポリオレフィンは、機械的物性の著しい低下がみられ、脆化し容易に破膜する。このようなラジカルによる連鎖的分解反応を抑制するために、セパレ−タ4に酸化防止剤が担持される。
【0043】
セパレータ4の表面に、酸化防止剤を塗布する方法としては、例えば、有機溶剤に酸化防止剤を溶解させたものを、例えばディップ、スプレー等の方法で塗布し、その後有機溶剤を揮散させることで、酸化防止剤のみをセパレータ4上に設けることができる。また、セパレータ4に酸化防止剤を練りこむ方法としては、セパレータ成膜時の原料に予め酸化防止剤を添加することで、酸化防止剤をセパレータ4に担持することができる。
【0044】
セパレータ4に担持される酸化防止剤は、セパレータ表層部に選択的に存在するのが望ましいため、電解液で溶解しないものが好ましいが、セパレータ4と電極の界面の間に存在すればよく溶解していても構わない。
【0045】
また、強い酸化雰囲気下に置かれるのは、セパレータ4の正極側である点から、酸化防止剤は、正極近傍に選択的に存在することが望ましく、セパレータ表面への塗布では、正極側のみに塗布することがより効果的である。
【0046】
酸化防止剤としては、発生したラジカルを失活させるラジカル捕捉剤効果、発生したラジカルによって生じた過酸化物を分解する過酸化物効果をもつものであれば、酸化防止剤の種類には依らない。例えば、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤を用いることができる。
【0047】
より具体的には、フェノール系酸化防止剤としては、例えば、テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等を用いることができる。リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイト等を用いることができる。硫黄系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート等を用いることができる。
【0048】
また、これらの酸化防止剤は単独で用いてもよいが、同時に用いるのがより好ましい。高い相乗効果を示すからである。
【0049】
セパレータ4に対する酸化防止剤の添加量は、0.05wt%以上5wt%以下が好ましい。酸化防止剤の添加量が0.05wt%より少ないと酸化防止効果が弱いからである。酸化防止剤の添加量が5wt%より多いと、電池特性、特に初期充放電効率の低下に繋がるからである。
【0050】
セパレータ4における酸化防止剤の存在の確認は、例えば、溶剤でセパレータ4の酸化防止剤を抽出し、例えば、GCmass、液体クロマトグラフィー等で定量できる。
【0051】
(1−2)非水電解質電池の製造方法
次に、この発明の第1の実施形態による非水電解質電池の製造方法について説明する。以下、一例として円筒型の非水電解質電池を挙げて、非水電解質電池の製造方法について説明する。
【0052】
正極2は、以下に述べるようにして作製する。まず、例えば、正極活物質と、導電剤と、結着剤とを混合して正極合剤を調製し、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させて正極合剤スラリーとする。
【0053】
次に、この正極合剤スラリーを正極集電体2Aに塗布し溶剤を乾燥させた後、ロールプレス機などにより圧縮成型して正極合剤層2Bを形成し、正極2を作製する。
【0054】
負極3は、以下に述べるようにして作製する。まず、例えば、負極活物質と、結着剤とを混合して負極合剤を調製し、この負極合剤をN−メチル−2−ピロリドンなどの溶剤に分散させて負極合剤スラリーとする。
【0055】
次に、この負極合剤スラリーを負極集電体3Aに塗布し溶剤を乾燥させた後、ロールプレス機などにより圧縮成型して負極合剤層3Bを形成し、負極3を作製する。
【0056】
次に、正極集電体2Aに正極リード13を溶接などにより取り付けると共に、負極集電体3Aに負極リード14を溶接などにより取り付ける。次に、正極2と、負極3とを予め酸化防止剤が担持されたセパレータ4を介して巻回し、正極リード13の先端部を安全弁機構8に溶接すると共に、負極リード14の先端部を電池缶1に溶接して、巻回した正極2および負極3を一対の絶縁板5,6で挟み電池缶1の内部に収納する。
【0057】
次に、電解液を電池缶1の内部に注入し、電解液をセパレータ4に含浸させる。次に、電池缶1の開口端部に電池蓋7、安全弁機構8および熱感抵抗素子9を、ガスケット10を介してかしめることにより固定する。以上により、この発明の第1の実施形態による非水電解質電池が作製される。
【0058】
この発明の第1の実施形態による非水電解質電池では、充電を行うと、例えば、正極2からリチウムイオンが離脱し、電解液を介して負極3に吸蔵される。放電を行うと、例えば、負極3からリチウムイオンが離脱し、電解液を介して正極2に吸蔵される。第1の実施形態では、セパレータ4に酸化防止剤が担持され、耐酸化性が向上されているので、特に高温保存時における自己放電率の劣化が抑制され、高い信頼性が確保される。
【0059】
(2)第2の実施形態
(2−1)非水電解質電池の構成
図3は、この発明の第2の実施形態による非水電解質電池の構造を示す。図3に示すように、この非水電解質電池は、電池素子30を防湿性ラミネートフィルムからなる外装材37に収容し、電池素子30の周囲を溶着することにより封止してなる。電池素子30には、正極リード32および負極リード33が備えられ、これらのリードは、外装材37に挟まれて外部へと引き出される。正極リード32および負極リード33のそれぞれの両面には、外装材37との接着性を向上させるために樹脂片34および樹脂片35が被覆されている。
【0060】
[外装材]
外装材37は、例えば、接着層、金属層、表面保護層を順次積層した積層構造を有する。接着層は高分子フィルムからなり、この高分子フィルムを構成する材料としては、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)が挙げられる。金属層は金属箔からなり、この金属箔を構成する材料としては、例えばアルミニウム(Al)が挙げられる。また、金属箔を構成する材料としては、アルミニウム以外の金属を用いることも可能である。表面保護層を構成する材料としては、例えばナイロン(Ny)、ポリエチレンテレフタレート(PET)が挙げられる。なお、接着層側の面が、電池素子30を収納する側の収納面となる。
【0061】
[電池素子]
この電池素子30は、例えば、図4に示すように、両面にゲル電解質層45が設けられた帯状の負極43と、セパレータ44と、両面にゲル電解質層45が設けられた帯状の正極42と、セパレータ44とを積層し、長手方向に巻回されてなる巻回型の電池素子30である。
【0062】
正極42は、帯状の正極集電体42Aと、この正極集電体42Aの両面に形成された正極活物質層42Bとからなる。正極集電体42Aは、例えばアルミニウム(Al)などからなる金属箔である。
【0063】
正極42の長手方向の一端部には、例えばスポット溶接または超音波溶接で接続された正極リード32が設けられている。この正極リード32の材料としては、例えばアルミニウム等の金属を用いることができる。
【0064】
負極43は、帯状の負極集電体43Aと、この負極集電体43Aの両面に形成された負極活物質層43Bとからなる。負極集電体43Aは、例えば、銅(Cu)箔、ニッケル箔あるいはステンレス箔などの金属箔により構成されている。
【0065】
また、負極43の長手方向の一端部にも正極42と同様に、例えばスポット溶接または超音波溶接で接続された負極リード33が設けられている。この負極リード33の材料としては、例えば銅(Cu)、ニッケル(Ni)等を用いることができる。
【0066】
ゲル電解質層45以外のことは、上述の第1の実施形態と同様であるので、以下ではゲル電解質層45について説明する。
【0067】
ゲル電解質層45は、電解液と、この電解液を保持する保持体となる高分子化合物とを含み、いわゆるゲル状となっている。ゲル電解質層45は高いイオン伝導率を得ることができるとともに、電池の漏液を防止できるので好ましい。電解液の構成(すなわち液状の溶媒、電解質塩および添加剤)は、第1の実施形態と同様である。
【0068】
高分子化合物としては、例えば、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリフォスファゼン、ポリシロキサン、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、スチレン−ブタジエンゴム、ニトリル−ブタジエンゴム、ポリスチレンあるいはポリカーボネートを挙げることができる。特に電気化学的な安定性の点からは、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレンあるいはポリエチレンオキサイドが好ましい。
【0069】
(2−2)非水電解質電池の製造方法
次に、この発明の第2の実施形態による非水電解質電池の製造方法について説明する。まず、正極42および負極43のそれぞれに、溶媒と、電解質塩と、高分子化合物と、混合溶媒とを含む前駆溶液を塗布し、混合溶媒を揮発させてゲル電解質層45を形成する。なお、予め正極集電体42Aの端部に正極リード32を溶接により取り付けるとともに、負極集電体43Aの端部に負極リード33を溶接により取り付けるようにする。
【0070】
次に、ゲル電解質層45が形成された正極42と負極43とを予め酸化防止剤が担持されたセパレータ44を介して積層し積層体としたのち、この積層体をその長手方向に巻回して、巻回型の電池素子30を形成する。
【0071】
次に、ラミネートフィルムからなる外装材37を深絞り加工することで凹部36を形成し、電池素子30をこの凹部36に挿入し、外装材37の未加工部分を凹部36上部に折り返し、凹部36の外周部分を熱溶着し密封する。以上により、この発明の第2の実施形態による非水電解質電池が作製される。
【実施例】
【0072】
以下、実施例によりこの発明を具体的に説明するが、この発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0073】
【表1】

【0074】
表1は、実施例1〜実施例13および比較例1〜比較例11の二次電池の充電電圧、酸化防止剤、電解質形態、添加量、添加形態、残存維持率を示す。以下、表1を参照して、実施例1〜実施例13および比較例1〜比較例11について説明する。
【0075】
<実施例1>
正極2は、次のようにして作製した。まず、正極活物質としてコバルト酸リチウム98wt%と、導電剤として、アモルファス性炭素粉(ケッチェンブラック)0.8wt%と、結着剤として、ポリフッ化ビニリデン1.2wt%とを混合して正極合剤を調製した。
【0076】
次に、この正極合剤をN−メチル−2−ピロリドンに分散させて正極合剤スラリーを作製した後、この正極合剤スラリーを帯状アルミニウム箔よりなる正極集電体の両面に均一に塗布した。次に、得られた塗布物を温風乾燥した後、ロールプレス機で圧縮成型し、正極合剤層を形成した。次に、アルミニウム製の正極リードを溶接した。
【0077】
負極は、次のようにして作製した。まず、球状黒鉛粉末90wt%と、結着剤としてポリフッ化ビニリデン10wt%とを混合して負極合剤を調製した。次に、この負極合剤を溶剤であるN−メチル−2−ピロリドンに分散して負極合剤スラリーとした。次に、この負極合剤スラリーを帯状銅箔よりなる負極集電体の両面に均一に塗布して乾燥させ、さらに、ロールプレス機で圧縮成型して、負極合剤層を形成した。
【0078】
次に、酸化防止剤層を有するセパレータを以下に説明するように作製した。まず、ヒンダードフェノール系酸化防止剤であるテトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンとアセトンとを、質量比1:99で混合し、酸化防止剤1wt%溶液を調製した。
【0079】
次に、厚さ9μmのPE製微多孔膜をこの酸化防止剤溶液に浸漬させた後、乾燥させPE基材表面に酸化防止剤層を有するセパレータを得た。このとき酸化防止剤は、セパレータに対し1.5wt%であった。
【0080】
次に、正極および負極を作製した後、正極集電体の一端にアルミニウム製の正極リードを取り付けるとともに、負極集電体の一端にニッケル製の負極リードを取り付けた。次に、正極合剤層および負極合剤層の上に、ゲル電解質層を設けた。このゲル電解質には、マトリクスポリマとしてのポリフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレン共重合体に、電解液を保持させたものを用いた。電解液には、非水溶媒としてのエチレンカーボネート60wt%と、プロピレンカーボネート40wt%とを混合した溶媒に、電解質塩としてのLiPF6を0.8mol/kgの含有量で溶解させたものを用いた。
【0081】
次に、正極、セパレータ、負極、セパレータの順に積層し、これを渦巻き状に多数回巻回した電池素子を作製した。次に、正極リードおよび負極リードを外部に導出しつつ、電池素子をラミネートフィルムよりなる外装材に減圧封入した。以上により、実施例1の二次電池を作製した。
【0082】
容量維持率(残存維持率)の測定
実施例1では、満充電状態における開回路電圧が4.35Vとなるように充電を行い、この満充電状態の二次電池を60℃の恒温槽中20日間放置するようにして高温保存試験を行った。なお、充電は、23℃において、理論容量を2時間で放電しきる電流値で電池電圧が4.35Vに達するまで定電流充電を行った後、4.35Vの定電圧で5時間定電圧充電を行い完全充電状態とした。
【0083】
その後、理論容量を2時間で放電しきる定電流で電池電圧が3.0Vに達するまで放電を行い、このときの放電容量を残存容量とした。また、高温保存試験前の満充電状態の二次電池について、同様の条件で放電を行い、このときの放電容量を満充電容量とした。次に、残存容量と、満充電容量から、下記の式1によって、高温保存試験後の容量維持率を算出した。
(式1)
(容量維持率)=(残存容量/満充電容量)×100(%)
【0084】
<実施例2〜実施例8>
<実施例2>
実施例1と同様にして、実施例2の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.25Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0085】
<実施例3>
実施例1と同様にして、実施例3の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.30Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0086】
<実施例4>
実施例1と同様にして、実施例4の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.40Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0087】
<実施例5>
実施例1と同様にして、実施例5の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.45Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0088】
<実施例6>
実施例1と同様にして、実施例6の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.50Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0089】
<実施例7>
実施例1と同様にして、実施例7の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.55Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0090】
<実施例8>
実施例1と同様にして、実施例8の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.60Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0091】
<実施例9>
酸化防止剤として、リン系酸化防止剤であるトリス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)ホスファイトを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例9の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.35Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0092】
<実施例10>
酸化防止剤として、硫黄系酸化防止剤であるジラウリルチオジプロピオネートを用いた以外は、実施例1と同様にして、実施例10の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.35Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0093】
<実施例11>
酸化防止剤を以下に説明するようにして、セパレータに練り込んだ以外は、実施例1と同様にして、実施例11の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.35Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0094】
まず、重量平均分子量200万の超高分子量ポリエチレンと重量平均分子量70万の高密度ポリエチレンを混合してなる混合物と、溶媒である流動パラフィンとを質量比30:70で混合したものに、リン系酸化防止剤であるトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトを添加して均一に混合しスラリー状とし、これを180℃の温度で二軸混練り機を用いて溶解混練りした。なお、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトの添加量は、ポリエチレンに対して2.0wt%とした。
【0095】
次に、この混練物を0℃に冷却した金属板に挟み込み急冷し5mmのシート状とした。この急冷シートを115℃の温度で加熱プレスし、120℃の温度で3.5×3.5倍に縦横同時に二軸延伸し、ヘプタンを使用して脱溶媒処理を行った後、100℃で5分間熱処理を行いPE微多孔膜を得た。
【0096】
<実施例12>
酸化防止剤としてテトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン/トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト=2/1(質量比)で混合したものと、アセトンとを質量比1:99で混合して、酸化防止剤1wt%の溶液を調製した。この酸化防止剤は、セパレータに対し1.4wt%であった。この他は、実施例1と同様にして、実施例12の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.35Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして、高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0097】
<実施例13>
正極および負極は、実施例1と同様にして作製した。酸化防止剤層を有するセパレータは、以下に説明するようにして作製した。
【0098】
まず、テトラキス〔メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタンとアセトンとを質量比2:98で混合し、酸化防止剤2wt%溶液を調製した。次に、この溶液に厚さ20μmのPE微多孔膜を、実施例1と同様に浸漬させて、その後乾燥させた。このとき酸化防止剤は、セパレータに対し1.7wt%であった。
【0099】
このセパレータと正極と負極とを、負極、セパレータ、正極、セパレータの順に積層し、渦巻型に多数回巻回することにより、ジェリーロール型の巻回電極体を作製した。
【0100】
巻回電極体を作製した後、巻回電極体を挟み込むように、巻回電極体の周面に対して垂直に一対の絶縁板を配設し、正極の集電をとるために、アルミニウム製の正極リードの一端を正極集電体ら導出し、他端をディスク板を介して電池蓋と電気的に接続した。また、負極の集電をとるためにニッケル製の負極リードの一端を負極集電体から導出し、他端を電池缶に溶接した。また、巻回電極体を電池缶の内部に収納するとともに、電池缶の内部に電解液4.0gを減圧方式により注入した。
【0101】
電解液には、エチレンカーボネート35wt%と、ジメチルカーボネート63wt%およびビニレンカーボネート2wt%とを混合した混合溶媒を調製した。さらに、この混合溶媒に対して、LiPF6を重量モル濃度が1.5mol/kgとなるように溶解させたものを用いた。最後に、アスファルトを塗布したガスケットを介して電池缶をかしめることにより、安全弁機構、熱感抵抗素子および電池蓋を重ね合わせた状態で密閉した。以上により、実施例13の円筒型の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.35Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして、高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0102】
<比較例1>
酸化防止剤を塗布しないこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.35Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして、高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0103】
<比較例2>
比較例1と同様にして、比較例2の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.25Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして、高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0104】
<比較例3>
実施例1と同様にして、比較例3の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.2Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして、高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0105】
<比較例4>
比較例1と同様にして、比較例4の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.2Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして、高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0106】
<比較例5>
比較例1と同様にして、比較例5の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.3Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして、高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0107】
<比較例6>
比較例1と同様にして、比較例6の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.4Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして、高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0108】
<比較例7>
比較例1と同様にして、比較例7の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.45Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして、高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0109】
<比較例8>
比較例1と同様にして、比較例8の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.5Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして、高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0110】
<比較例9>
比較例1と同様にして、比較例9の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.55Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして、高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0111】
<比較例10>
比較例1と同様にして、比較例10の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.6Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして、高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0112】
<比較例11>
酸化防止剤を塗布しないこと以外は、実施例13と同様にして、比較例11の二次電池を作製した。満充電状態における開回路電圧が4.35Vとなるように充電を行った。次に、実施例1と同様にして、高温保存試験を行って、高温保存試験後の容量維持率を測定した。
【0113】
評価
表1に示すように、実施例1では、容量維持率が82%であり、比較例1では、容量維持率が60%である。実施例1は、比較例1より良好な容量維持率を示した。実施例2では、容量維持率が88%であり、比較例2では、容量維持率が60%である。実施例2は、比較例2より良好な容量維持率を示した。
【0114】
実施例3〜実施例8では、充電電圧の上昇とともに容量維持率の低下が見られるが、酸化防止剤が含有されていないもので、同じ充電電圧にしたものより、いずれも高い容量維持率を示した。
【0115】
実施例9では、容量維持率が80%であり、比較例1より良好な容量維持率を示した。実施例10では、容量維持率が80%であり、比較例1より良好な容量維持率を示した。実施例11では、容量維持率が83%であり、比較例1より良好な容量維持率を示した。実施例12では、容量維持率が84%であり、比較例1より良好な容量維持率を示した。実施例13では、容量維持率が82%であり、比較例11より良好な容量維持率を示した。
【0116】
比較例3および比較例4では、いずれも良好な容量維持率を示し、酸化防止剤を添加したものと、添加しないもので差は現れなかった。
【0117】
この発明は、上述したこの発明の実施形態に限定されるものでは無く、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。例えば、その形状においては、特に限定されない。円筒型、角型、コイン型、ボタン型等を呈するものであってもよい。
【0118】
また、第1の実施形態では、電解質として、電解液を有する非水電解質電池、第2の実施形態では、電解質として、ゲル状電解質を有する非水電解質電池について説明したがこれらに限定されるものではない。
【0119】
例えば、電解質としては、上述したものの他にイオン伝導性高分子を利用した高分子固体電解質、またはイオン伝導性無機材料を利用した無機固体電解質なども用いることも可能であり、これらを単独あるいは他の電解質と組み合わせて用いてもよい。高分子固体電解質に用いることができる高分子化合物としては、例えばポリエーテル、ポリエステル、ポリフォスファゼン、あるいはポリシロキサンなどを挙げることができる。無機固体電解質としては、例えばイオン伝導性セラミックス、イオン伝導性結晶、あるいはイオン伝導性ガラスなどを挙げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0120】
【図1】この発明の第1の実施形態による非水電解質電池の概略断面図である。
【図2】図1に示した巻回電極体の一部の拡大断面図である。
【図3】この発明の第2の実施形態による非水電解質電池の構造を示す概略図である。
【図4】図3に示した電池素子の一部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0121】
1・・・電池缶
2・・・正極
2A・・・正極集電体
2B・・・正極合剤層
3A・・・負極集電体
3B・・・負極合剤層
3・・・負極
4・・・セパレータ
5,6・・・絶縁板
7・・・電池蓋
8・・・安全弁機構
9・・・熱感抵抗素子
10・・・ガスケット
11・・・ディスク板
12・・・センターピン
13・・・正極リード
14・・・負極リード
20・・・巻回電極体
30・・・電池素子
32・・・正極リード
33・・・負極リード
34,35・・・樹脂片
35・・・負極リード
36・・・凹部
37・・・外装材
42・・・正極
42A・・・正極集電体
42B・・・正極合剤層
43・・・負極
43A・・・負極集電体
43B・・・負極合剤層
44・・・セパレータ
45・・・ゲル電解質層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と負極とがセパレータを介して対向配置され、
一対の上記正極および上記負極あたりの完全充電状態における開回路電圧が4.25V〜4.60Vの非水電解質電池において、
上記セパレータは、酸化防止剤を有すること
を特徴とする非水電解質電池。
【請求項2】
請求項1において、
上記酸化防止剤は、上記セパレータの表面に設けられたものであること
を特徴する非水電解質電池。
【請求項3】
請求項1おいて、
上記酸化防止剤は、上記セパレータ内に含有されたものであること
を特徴とする非水電解質電池。
【請求項4】
請求項1において、
上記酸化防止剤の添加量は、上記セパレータに対して、0.05wt%〜5wt%であること
を特徴とする非水電解質電池。
【請求項5】
請求項1において、
上記酸化防止剤は、ラジカル捕捉剤または過酸化物分解剤として機能するものであること
を特徴とする非水電解質電池。
【請求項6】
請求項1において、
上記酸化防止剤は、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤からなる群から少なくとも1以上選ばれたものであること
を特徴とする非水電解質電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−188776(P2007−188776A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−6253(P2006−6253)
【出願日】平成18年1月13日(2006.1.13)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】