説明

非水電解質電池

【課題】充放電サイクル特性に優れる非水電解質電池を提供する。
【解決手段】正極活物質層12、負極活物質層22、及びこれら活物質層12,22の間に配される固体電解質層3を備える非水電解質電池100であって、正極活物質層12及び負極活物質層22の少なくとも一方は、ポリテトラフルオロエチレンとポリフッ化ビニリデンとの共重合体を含むバインダーを含有し、固体電解質層3との接触面において、バインダーによって形成される突起部を有する。そして、接触面の表面粗さRzは2μm以上である。活物質層と固体電解質層との接触面に、バインダーによる突起部を設けることで、両者の密着性を向上して接合を維持することができ、充放電サイクルに優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気機器等の電源に利用される非水電解質電池に関する。特に、充放電サイクル特性に優れる非水電解質電池に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯機器といった比較的小型の電気機器の電源に非水電解質電池が利用されている。非水電解質電池の代表例として、正・負極体間でのリチウムイオンの授受反応を利用したリチウム電池やリチウムイオン二次電池(以下、単にリチウムイオン電池と呼ぶ)が挙げられる。
【0003】
このリチウムイオン電池は、正極体と負極体とこれら電極体の間に配される電解質層とを備える。各電極体はさらに、集電機能を有する集電体と、活物質を含む活物質層とを備える。そして、正極体と負極体との間で電解質層を介してリチウム(Li)イオンが移動することによって充放電を行う方式の二次電池である。また近年では、有機電解液に代えて無機固体電解質を用いた全固体型電池が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献1には、正極集電体上に粉末成形体の正極層(正極活物質層)を備える一方のユニット(正極体)と、負極集電体上に粉末成形体の負極層(負極活物質層)を備える他方ユニット(負極体)が開示されている。これら電極体はそれぞれ固体電解質層を備えており、これら固体電解質層を重ね合わせてプレスすることで非水電解質電池が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008‐103289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来の非水電解質電池に対しては、充放電サイクル特性の更なる向上が求められている。非水電解質電池で充放電を繰り返すと、正極活物質層あるいは負極活物質層において膨張・収縮が起こり、この体積変化により、当該活物質層と固体電解質層との接合界面で良好な接合を維持することが難しくなる。充放電に伴い、固体電解質層が活物質層から剥離したり、両者の接合が途切れてしまうと、充放電に寄与し得る各活物質層の実効面積が減少し、充放電サイクルの劣化等の問題が生じる。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、充放電を繰り返しても、活物質層と固体電解質層との接合を維持することができ、充放電サイクル特性に優れる非水電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、活物質層と固体電解質層との接合界面において、両者を密着させる突起部を設けることで、上記目的を達成する。
【0009】
(1)本発明の非水電解質電池は、正極活物質層、負極活物質層、及びこれら活物質層の間に配される固体電解質層を備える。上記正極活物質層及び上記負極活物質層の少なくとも一方は、ポリテトラフルオロエチレンとポリフッ化ビニリデンとの共重合体を含むバインダーを含有し、上記固体電解質層との接触面において、上記バインダーによって形成される突起部を有する。そして、上記接触面の表面粗さRz(JIS B0601 01の最大高さRz)が2μm以上であることを特徴とする。
【0010】
この構成によれば、正極活物質層及び負極活物質層の少なくとも一方の活物質層が、固体電解質層との接触面において、バインダーによる突起部を有することで、両者の接触面積が大きくなると共に、アンカー効果によって両者の密着性が向上する。よって、充放電により活物質層が膨張・収縮した場合においても、固体電解質層が活物質層から剥離することを抑制でき、両者の接合を維持することができる。この突起部に起因して、上記接触面の表面粗さRzが2μm以上であることで、両者の間で高い密着性を得ることができる。
【0011】
バインダーが、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とポリフッ化ビニリデン(PVDF)との共重合体を含むことで、PTFEとPVDFの各利点をバランスよく引き出すことができる。PVDF自体は、分散性に優れるため、活物質層内で凝集し難く、活物質層の内部抵抗を低減することができ、イオン伝導及び電子伝導のパスを十分に確保することができる。また、PVDFは、融点が低いため、過度に高温にしなくても溶融され易い。一方、PTFE自体は、耐熱性に優れるため、活物質層の成形性を向上させることができる。
【0012】
ここで、本発明の非水電解質電池が備える突起部は、後述する実施形態で詳述するが、バインダーを含有する活物質層を金型で熱間プレス成形する際に形成される。具体的には、この成形時、バインダーが溶融し、その状態で成形体を金型から取り出すと、溶融したバインダーが金型に付着し、引張られることで突起部が形成される。
【0013】
そのため、このバインダーの構成材料としてPVDFを用いることで、PTFEのみをバインダーとする場合に比べて、熱間プレス時の温度を低くすることができ、活物質層内の他の構成材料に対して熱による影響を及ぼすことを防止できる。また、バインダーの構成材料としてPTFEを用いることで、PVDFのみをバインダーとする場合に比べて高い成形性を得ることができる。よって、PTFEとPVDFとを共重合させることによって、両者の上記各利点を引き出すことができ、活物質層は、成形性に優れ、かつ所望の突起部を有することができる。
【0014】
(2)本発明の非水電解質電池の一形態として、上記ポリテトラフルオロエチレンとポリフッ化ビニリデンとの共重合比が、モル比で10:90〜40:60であることが挙げられる。
【0015】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを共重合させることで、バインダーの融点は、PVDFの融点(約170℃)超PTFEの融点(約327℃)未満とすることができる。このバインダーの融点は、PTFEとPVDFとの共重合比に由来する。上記共重合体中のPVDFの重合割合が少なくなる(PTFEの重合割合が多くなる)と、バインダーの融点は、PTFEの融点に近づき、上記共重合体中のPVDFの重合割合が多くなる(PTFEの重合割合が少なくなる)と、バインダーの融点はPVDFの融点に近づくと考えられる。
【0016】
共重合体中のPVDFの重合割合が少なくなると、バインダーの融点が高くなるため、突起部が形成され難くなる。突起部を形成するためには、熱間プレス時の温度を該バインダーの融点超とする必要があるが、このバインダーの融点が高すぎる場合、活物質層内の他の構成材料に対して熱による影響を及ぼす虞がある。一方、共重合体中のPVDFの重合割合が多くなると、バインダーの融点は低くなるため、突起部を形成し易くなるが、活物質層の成形性の低下を招く虞がある。
【0017】
(3)本発明の非水電解質電池の一形態として、上記正極活物質層は、Co,Mn,Ni,及びFeから選択される少なくとも1種の元素とLiとを含む酸化物からなる活物質を含有することが挙げられる。
【0018】
正極活物質層に上記活物質を含有させることで、非水電解質電池の放電容量を向上させることができる。
【0019】
(4)本発明の非水電解質電池の一形態として、上記固体電解質層は、少なくともLi2SとP2S5とを含む固体電解質を含有することが挙げられる。
【0020】
固体電解質層に上記固体電解質を含有させることで、Liイオン伝導性を高めることができ、非水電解質電池の放電容量を向上させることができる。
【0021】
(5)本発明の非水電解質電池の一形態として、上記負極活物質層は、C,Si,Ge,Sn,Al,及びLiから選択される少なくとも1種の元素を含む活物質、又は少なくともTiとLiとを含む酸化物からなる活物質を含有することが挙げられる。
【0022】
負極活物質層に上記活物質を含有させることで、非水電解質電池の放電容量を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の非水電解質電池は、活物質層が、固体電解質層との接触面において、バインダーによる突起部(表面粗さRzが2μm以上)を有することで、両者の密着性を向上して接合を維持することができ、充放電サイクル特性に優れる。特に、バインダーがPTFEとPVDFとの共重合体を含むことで、活物質層は、成形性に優れ、かつ所望の突起部を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1(A)は、実施形態に係る非水電解質電池の縦断面図であり、図1(B)は、(A)に示す非水電解質電池の組立て前の状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図1を参照して、本発明の非水電解質電池の実施形態を説明する。本発明の非水電解質電池100は、正極体1、負極体2、及び両電極体1,2の間に配される固体電解質層3を備える。更に、正極体1は正極集電体11と正極活物質層12とを備え、負極体2は負極集電体21と負極活物質層22とを備える。本発明の特徴とするところは、正極活物質層12及び負極活物質層22の少なくとも一方において、特定のバインダーを含有し、このバインダーによって形成される突起部を有することにある。以下、この非水電解質電池100の各構成を詳細に説明する。本実施形態では、上記バインダーは正極活物質層12及び負極活物質層22共に含有している場合を述べる。
【0026】
≪正極体≫
[基本構成]
(正極集電体)
正極集電体11となる基板は、導電材料のみから構成されていてもよいし、絶縁基板上に導電材料の膜を形成したもので構成されていてもよい。後者の場合、導電材料の膜が集電体として機能する。導電材料としては、AlやNi、これらの合金、ステンレスから選択される1種が好適に利用できる。
【0027】
(正極活物質層)
正極活物質層12は、電池反応の主体となる正極活物質粒子を含む粉末を加圧成形することで得られる層である。正極活物質としては、層状岩塩型の結晶構造を有する物質、例えば、LiαXβ(1-X)O2(αはCo,Ni,Mnから選択される1種、βはFe,Al,Ti,Cr,Zn,Mo,Biから選択される1種、Xは0.5以上)で表わされる物質を挙げることができる。その具体例としては、LiCoO2やLiNiO2,LiMnO2,LiCo0.5Fe0.5O2,LiCo0.5Al0.5O2等を挙げることができる。その他、正極活物質として、スピネル型の結晶構造を有する物質(例えば、LiMn2O4等)や、オリビン型の結晶構造を有する物質(例えば、LiXFePO4(0<X<1))を用いることもできる。この正極活物質粒子の好ましい平均粒径は、1〜20μmである。
【0028】
正極活物質層12は、この層12内でイオンの伝導を媒介し、イオン伝導性を改善する固体電解質粒子を含有してもよい。この固体電解質粒子としては、例えば、Li2S-P2S5系、Li2S-SiS2系、Li2S-B2S3系等の硫化物を好適に利用することができる。この固体電解質粒子の好ましい平均粒径は、0.5〜2μmである。
【0029】
正極活物質層12が上記正極活物質粒子及び上記固体電解質粒子を含有する場合、これらの各混合割合は、正極活物質層12全体に対する正極活物質粒子の割合が少なくなると、電池容量の低下を招く虞がある。一方、正極活物質層12全体に対する正極活物質粒子の割合が多くなり過ぎると、相対的に固体電解質粒子の割合が少なくなり、正極活物質層12内でのイオンの伝導を媒介し難くなり内部抵抗の増加を招く虞がある。そのため、正極活物質層12における正極活物質粒子及び固体電解質粒子の好ましい混合比は、体積比で40:60〜90:10であり、より好ましくは、体積比で50:50〜80:20である。
【0030】
正極活物質層12は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とポリフッ化ビニリデン(PVDF)との共重合体を含むバインダーを含有する。このバインダーは、正極活物質層12と後述する固体電解質層3との接触面において、突起部を形成するために必要である。この突起部は、正極活物質層12を熱間プレス成形で形成する(後述の正極体の製造方法参照)際に形成される。PTFEとPVDFとの共重合体を形成する重合法としては、従来公知の種々の重合方法を採用することができる。この重合方法としては、例えば、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法、溶液重合法等が挙げられる。重合には、従来公知の種々の重合開始剤、重合触媒等を使用することができる。また重合法に応じて溶媒、分散媒、分散安定剤、乳化剤等の種々の添加剤を使用することもできる。
【0031】
PTFEとPVDFとの共重合体において、共重合体中のPVDFの重合割合が少なくなると、バインダーの融点が高くなるため、バインダーが溶融し難くなり、突起部が形成され難くなる。突起部を形成するためには、熱間プレス時の温度をバインダーの融点超とする必要があるが、このバインダーの融点が高すぎる場合、正極活物質層12内の他の構成材料に対して熱による影響を及ぼす虞がある。例えば、正極活物質層12が固体電解質粒子を含有する場合、PTFEの融点近傍の温度で熱間プレス成形すると、固体電解質粒子のイオン伝導性が低下する虞がある。一方、共重合体中のPVDFの重合割合が多くなると、正極活物質層12の成形性の低下を招く虞がある。そのため、共重合体中のPTFEとPVDFとの好ましい共重合比は、モル比で10:90〜40:60であることが好ましく、モル比で20:80〜30:70であることがより好ましい。上記共重合比のバインダーを含有する正極活物質層12は、成形性に優れ、かつ所望の突起部を有する。この共重合比は、上記重合方法において、PTFEとPVDFとの粉末を混合する際の混合比によって決まる。PTFEとPVDFとが共重合された共重合体の粒子の好ましい平均粒径は、1〜20μmである。
【0032】
上記バインダーは、正極活物質層12全体に対する割合が多くなると、相対的に正極活物質粒子及び固体電解質粒子の割合が少なくなり、正極活物質層12内において内部抵抗の増加を招く虞がある。よって、正極活物質層12全体に対するバインダーの混合割合は、1〜10体積%であることが好ましい。
【0033】
正極活物質層12は、必要に応じて導電助剤を含有してもよい。導電助剤としては、例えば、アセチレンブラック(AB)やケッチェンブラック(KB)といったカーボンブラック等が挙げられる。
【0034】
〈突起部〉
正極活物質層12において、後述する固体電解質層3(正極側固体電解質層(PSE層)13)との接触面には、上記バインダーによって形成される突起部を有する。この突起部の形成方法については、後の正極体の製造方法において詳述する。この突起部によって、上記接触面の表面粗さRz(JIS B0601 01の最大高さRz)が2μm以上となる。この突起部を有することで、正極活物質層12とPSE層13の接触面積が大きくなると共に、アンカー効果によって両者の密着性が向上する。表面粗さRzは、大きい程密着性はよいが、PSE層13の厚みよりも大きくなると、該PSE層13の面積が減少し、電池の実効面積が減少する虞がある。よって、表面粗さRzの上限は、5μmが好ましく、3μmがより好ましい。
【0035】
(正極側固体電解質層)
正極側固体電解質層(PSE層)13は、固体電解質で構成されており、イオン伝導性の高い硫化物系固体電解質で構成されていることが好ましい。硫化物固体電解質としては、Li2S-P2S5系、Li2S-SiS2系、Li2S-B2S3系等が挙げられ、更にP2O5やLi3PO4が添加されてもよい。上記正極活物質層12に固体電解質粒子を含有する場合、この固体電解質粒子と同じ材質であってもよい。その他、LiPON等の酸化物系固体電解質で構成してもよい。このPSE層13(図1(B)参照)は、負極体2と接合して非水電解質電池100を製造したときに、固体電解質層(SE層)3(図1(A)参照)の一部となる。
【0036】
[その他]
(中間層)
上記正極活物質層12とPSE層13の材質によっては、正極活物質層12とPSE層13との間に中間層(図示せず)を有していてもよい。中間層は、正極活物質に酸化物、PSE層に固体状の硫化物系を用いた場合に必要となるものであって、正極活物質層12とPSE層13との間の高抵抗化を抑制する層である。PSE層13に含まれる硫化物系固体電解質と、正極活物質層12に含まれる酸化物系の正極活物質とが反応して、高抵抗層が形成されることがある。中間層を設けることで、この高抵抗層の形成を抑制し、充放電に伴う電池の放電容量の低下を抑制できる。中間層に用いる材料としては、非晶質のLiイオン伝導性酸化物、例えば、LiNbO3やLiTaO3等を利用できる。特にLiNbO3は、正極活物質層12とPSE層13との界面近傍の高抵抗化を効果的に抑制できる。
【0037】
[正極体の製造方法]
上記構成を備える正極体1は、代表的には、正極集電体11と正極活物質層12の成形体の形成⇒正極側固体電解質層(PSE層)13の形成という工程により製造することができる。
【0038】
まず、正極集電体11と正極活物質層12の成形体を形成する。正極活物質層12の構成材料(ここでは、正極活物質、固体電解質、PTFEとPVDFとの共重合体からなるバインダー)をボールミル等で混合して正極合材を作製する。成形体用の金型として、例えば、正極集電体11が収納でき、上方に開口部を有する容器状の下金型と、下金型の開口部に対して蓋となる上金型とを用いる。下金型内に正極集電体11を配置し、その上から上記正極合材を充填し、上金型で蓋をする。これをプレス圧力200〜600MPa、プレス温度180〜300℃×プレス時間5〜30分で熱間プレス成形する。正極活物質層12が硫化物系の固体電解質粒子を含有する場合、上記プレス温度は、その固体電解質粒子の結晶化温度よりも低温とすることが好ましい。この熱間プレス時の温度が、バインダーの融点(PVDFの融点超PTFEの融点未満)超であるため、バインダーの一部(PVDFに由来する部分)が溶融する。このバインダーの一部が溶融した状態で、正極集電体11と正極活物質層12の成形体を金型から取り出す。このとき、溶融したバインダーは上金型との接触面に付着しており、上金型を取り外す際に、バインダーがこの上金型に引張られて突起部となる部分が形成される。その後、バインダーが硬化することで突起部が形成される。
【0039】
上記突起部の高さや個数、つまり正極活物質層12の正極側固体電解質層(PSE層)13との接触面の表面粗さRzは、熱間プレス時の温度によって変えることができる。上記温度が高いと、バインダーは溶融し易く柔らかくなるため、上金型により引張られるバインダー量が多くなるため、突起部が高く形成され易く、表面粗さRzは大きくなる。一方、上記温度が低いと、バインダーは溶融し難く比較的硬いため、上金型により引張られるバインダー量は少なく、表面粗さRzは小さくなる。また、表面粗さRzは、バインダー粒子の平均粒径の大きさによって変えることもできる。上記平均粒径が大きいと、上金型により引張られる個々の粒子の面積が大きくなるため、突起部が高く形成され易く、表面粗さRzは大きくなる。一方、上記平均粒径が小さいと、上金型により引張られる個々の粒子の面積が小さく、表面粗さRzは小さくなる。
【0040】
次に、上記成形体(正極集電体11と正極活物質層12)の突起部が形成された面に、PSE層13を形成する。この形成方法として、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法等を利用できる。PSE層13の正極活物質層12との接触面には、突起部が形成されているので、両者の接触面積が大きくなると共に、アンカー効果によって、この突起部にPSE層の蒸着面が入り込み、両者の密着性がよくなる。
【0041】
≪負極体≫
[基本構成]
(負極集電体)
負極集電体21となる基板は、導電材料のみから構成されていてもよいし、絶縁基板上に導電材料の膜を形成したもので構成されていてもよい。後者の場合、導電材料が集電体として機能する。導電材料としては、例えば、Cu,Ni,Fe,Cr及びこれらの合金(例えば、ステンレス等)から選択される1種が好適に利用できる。
【0042】
(負極活物質層)
負極活物質層22は、電池反応の主体となる負極活物質粒子を含む粉末を加圧成形することで得られる層である。負極活物質としては、C,Si,Ge,Sn,Al,Li合金、またはLi4Ti5O12等のLiを含む酸化物を利用することができる。この負極活物質粒子の好ましい平均粒径は、1〜20μmである。
【0043】
負極活物質層22は、この層22内でイオンの伝導を媒介し、イオン伝導性を改善する固体電解質粒子を含有してもよい。この固体電解質粒子としては、例えば、Li2S-P2S5系、Li2S-SiS2系、Li2S-B2S3系等の硫化物を好適に利用することができる。この固体電解質粒子の好ましい平均粒径は、0.5〜2μmである。また、負極活物質層22における負極活物質粒子及び固体電解質粒子の好ましい混合比は、体積比で40:60〜90:10であり、より好ましくは、体積比で50:50〜80:20である。
【0044】
負極活物質層22は、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)とポリフッ化ビニリデン(PVDF)との共重合体を含むバインダーを含有する。このバインダーの共重合方法や共重合比等については、上記正極活物質層12に含有するバインダーと同様である。このバインダーによって、負極活物質層22において、後述する負極側固体電解質層(NSE層)23との接触面に突起部を有し、表面粗さRzが2μm以上となる。この突起部に関しても、正極活物質層12の突起部と同様である。
【0045】
(負極側固体電解質層)
負極側固体電解質層(NSE層)23(図1(B)参照)は、上述したPSE層13と同様であり、正極体1と接合して非水電解質電池100を製造したときに、固体電解質層(SE層)3(図1(A)参照)の一部となる。このNSE層23は、PSE層13と組成や製造方法等を同じとしておくことが好ましい。これは、NSE層23とPSE層13とを接合してSE層3としたとき、SE層3の厚み方向にイオン伝導性にばらつきが生じないようにするためである。
【0046】
[その他]
(界面層)
界面層は、上記負極活物質層22とNSE層23との接合を確保する役割を果たす層である。界面層の材料としては、周期律表第14族元素(特に、Si)を利用することができる。界面層を実質的にSiで構成すると、放電特性に優れた電池とすることができる。
【0047】
[負極体の製造方法]
上記構成を備える負極体2は、代表的には、負極集電体21と負極活物質層22の成形体の形成⇒負極側固体電解質層(NSE層)23の形成という工程により製造することができる。負極体2は、正極体1の製造方法と同様の方法で製造できる。
【0048】
≪非水電解質電池≫
[非水電解質電池の製造方法]
製造した正極体1と負極体2とにおいて、PSE層13とNSE層23とが互いに対向するように両者を積層して(図1(B)参照)、非水電解質電池100(図1(A)参照)を製造する。その際、上記積層方向にプレス圧力8〜16MPa、プレス温度180〜250℃×プレス時間30〜60分で熱間プレス成形することで、PSE層13とNSE層23とを融着し一体化させる。
【0049】
≪試験例≫
本発明の非水電解質電池を作製し、その電池性能を評価した。
【0050】
LiCoO2の粉末(体積分布中心粒径D50=10μm)とLi2S-P2S5系固体電解質の粉末(D50=1μm)とバインダー(D50=10μm)とを、質量比で67:29:4の割合で、50rpmで2時間かけてボールミルで混合して正極合材を作製した。バインダーには、PTFEとPVDFとの共重合体を用いた。このPTFEとPVDFとの共重合比はモル比で25:75である。成形用の金型として、上方に開口部を有する容器状の下金型と、下金型の開口部に対して蓋となる上金型とを用いた。まず、下金型内に正極集電体となるAl箔(厚さ10μm)を配置し、その上に上記正極合材を充填し、上金型で蓋をする。これをプレス圧力360MPa、プレス温度200℃×プレス時間20分で熱間プレス成形する。このとき、バインダーの一部(PVDFに由来する部分)が溶融しており、この溶融状態で、上金型を取り外す。溶融したバインダーは、上金型に引張られて突起部となる部分が形成され、その後、そのバインダーを硬化することで突起部が形成される。得られた成形体(直径16mmの円形状)は、正極集電体(Al箔)の上に正極活物質層(LiCoO2+Li2S-P2S5系固体電解質の成形体)が形成されている。正極活物質層の厚さは150μmであった。また、正極活物質層の表面をレーザ顕微鏡(波長405nm青色レーザ光源)を用いて測定したところ、上記表面の表面粗さRzは2μmであった。上記成形体の正極活物質層の上に、真空蒸着法を用いてLi2S‐P2S5系固体電解質を成膜して、正極側固体電解質層(厚さ5μm)を形成し、正極体を得た。
【0051】
グラファイトの粉末(D50=10μm)とLi2S-P2S5系固体電解質の粉末(D50=1μm)とバインダー(D50=10μm)とを、質量比で47:47:6の割合で、50rpmで2時間かけてボールミルで混合して負極合材を作製した。バインダーには、PTFEとPVDFとの共重合体を用いた。このPTFEとPVDFとの共重合比はモル比で25:75である。上記成形用の金型を用いて、まず、下金型内に負極集電体となるステンレス箔(厚さ10μm)を配置し、その上に上記負極合材を充填し、上金型で蓋をする。これをプレス圧力360MPa、プレス温度200℃×プレス時間20分で熱間プレス成形する。このとき、バインダーの一部(PVDFに由来する部分)が溶融しており、この溶融状態で、上金型を取り外す。溶融したバインダーは、上金型に引張られて突起部となる部分が形成され、その後、そのバインダーを硬化することで突起部が形成される。得られた成形体(直径16mmの円形状)は、負極集電体(ステンレス箔)の上に負極活物質層(グラファイト+Li2S-P2S5系固体電解質の成形体)が形成されている。負極活物質層の厚さは150μmであった。また、負極活物質層の表面をレーザ顕微鏡(波長405nm青色レーザ光源)を用いて測定したところ、上記表面の表面粗さRzは2μmであった。上記成形体の負極活物質層の上に、真空蒸着法を用いてLi2S‐P2S5系固体電解質を成膜して、負極側固体電解質層(厚さ5μm)を形成し、負極体を得た。
【0052】
露点温度-50℃の大気中で、上記の正極体と負極体に形成した各固体電解質層同士が対向するように両電極体を積層し、その積層方向にプレス圧力16MPa、プレス温度190℃×プレス時間30分で加圧加熱処理を施すことで、上記各固体電解質層同士を融着し両電極体を接合し、非水電解質電池を作製した。
【0053】
以上のようにして作製した非水電解質電池を充放電試験用セルに組み込み、これを試料No.1とした。
【0054】
正極体及び負極体において、各電極活物質層を構成する材料の混合比を変更して各電極体を作製した以外は、試料No.1と同様にして非水電解質電池を作製した。まず、正極体について、正極活物質層は、LiCoO2の粉末とLi2S-P2S5系固体電解質の粉末とバインダーとを、質量比で69:29:2の割合で形成した。このとき、正極活物質層の固体電解質層との接触面の表面粗さRzは2μmであった。次に、負極体について、負極活物質層は、グラファイトの粉末とLi2S-P2S5系固体電解質の粉末とバインダーとを、質量比で48:48:4の割合で形成した。このとき、負極活物質層の固体電解質層との接触面の表面粗さRzは2μmであった。この非水電解質電池を充放電試験用セルに組み込み、これを試料No.2とした。
【0055】
また、正極体について、正極活物質層は、LiCoO2の粉末とLi2S-P2S5系固体電解質の粉末とバインダーとを、質量比で69:30:1の割合で形成した。このとき、正極活物質層の固体電解質層との接触面の表面粗さRzは2μmであった。次に、負極体について、負極活物質層は、グラファイトの粉末とLi2S-P2S5系固体電解質の粉末とバインダーとを、質量比で49:49:2の割合で形成した。このとき、負極活物質層の固体電解質層との接触面の表面粗さRzは2μmであった。この非水電解質電池を充放電試験用セルに組み込み、これを試料No.3とした。
【0056】
更に、正極体について、正極活物質層は、LiCoO2の粉末とLi2S-P2S5系固体電解質の粉末とバインダーとを、質量比で70:30:0の割合で形成した。つまり、正極活物質層内にはバインダーが含有されていない。このとき、正極活物質層の固体電解質層との接触面の表面粗さRzは1μmであった。次に、負極体について、負極活物質層は、グラファイトの粉末とLi2S-P2S5系固体電解質の粉末とバインダーとを、質量比で50:50:0の割合で形成した。つまり、負極活物質層内にもバインダーが含有されていない。このとき、負極活物質層の固体電解質層との接触面の表面粗さRzは1μmであった。この非水電解質電池を充放電試験用セルに組み込み、これを試料No.4とした。
【0057】
[電池の評価]
試料No.1〜4の非水電解質電池について、10サイクルの充放電サイクル試験を行った。試験条件は、電流密度0.05mA/cm2、カットオフ電圧3.0〜4.1Vとした。各電池の充放電10サイクル後の容量維持率(=10サイクル時の放電容量/最大放電容量)を調べた。
【0058】
その結果、各試料の10サイクル後の容量維持率は、試料No.1は83%、試料No.2は82%、試料No.3は83%、試料No.4は68%であった。つまり、活物質層と固体電解質層との接触面の表面粗さRzが2μmであった試料No.1〜3は、10サイクル後の容量維持率が80%以上という良好な充放電サイクル特性が得られることがわかった。
【0059】
以上の結果から、活物質層にPTFEとPVDFとの共重合体からなるバインダーを含有し、活物質層と固体電解質層との接触面の表面粗さRzを2μmとすることで、両者の密着性が向上し、充放電に伴い活物質層が体積変化しても両者の接合を維持することができ、充放電サイクルに優れると考えられる。
【0060】
上述した実施形態は、本発明の要旨を逸脱することなく、適宜変更することが可能であり、本発明の範囲は上述した構成に限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明の非水電解質電池は、種々の電気機器の電源としての非水電解質電池に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
100 非水電解質電池
1 正極体
11 正極集電体 12 正極活物質層 13 正極側固体電解質層(PSE層)
2 負極体
21 負極集電体 22 負極活物質層 23 負極側固体電解質層(NSE層)
3 固体電解質層(SE層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層、負極活物質層、及びこれら活物質層の間に配される固体電解質層を備える非水電解質電池であって、
前記正極活物質層及び前記負極活物質層の少なくとも一方は、
ポリテトラフルオロエチレンとポリフッ化ビニリデンとの共重合体を含むバインダーを含有し、
前記固体電解質層との接触面において、前記バインダーによって形成される突起部を有し、
前記接触面の表面粗さRzが2μm以上であることを特徴とする非水電解質電池。
【請求項2】
前記ポリテトラフルオロエチレンとポリフッ化ビニリデンとの共重合比が、モル比で10:90〜40:60であることを特徴とする請求項1に記載の非水電解質電池。
【請求項3】
前記正極活物質層は、Co,Mn,Ni,及びFeから選択される少なくとも1種の元素とLiとを含む酸化物からなる活物質を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の非水電解質電池。
【請求項4】
前記固体電解質層は、少なくともLi2SとP2S5とを含む固体電解質を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水電解質電池。
【請求項5】
前記負極活物質層は、C,Si,Ge,Sn,Al,及びLiから選択される少なくとも1種の元素を含む活物質、又は少なくともTiとLiとを含む酸化物からなる活物質を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水電解質電池。

【図1】
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【公開番号】特開2012−221749(P2012−221749A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86536(P2011−86536)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】