説明

非水電解質電池

【課題】正極活物質層と負極活物質層における活物質の体積変化の面内分布を抑制し、電池の充放電に伴う電池の放電容量の低下を抑制できる非水電解質電池を提供する。
【解決手段】正極活物質層12、負極活物質層22、及びこれら両活物質層12,22の間に介在される固体電解質層(SE層40)を備える。SE層40の外周縁部を含む環状の部分を外周領域40h、その外周領域40h以外の部分を中央領域40cとしたとき、外周領域40hの空隙率は、中央領域40cの空隙率よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質層、負極活物質層、およびこれら活物質層の間に介在される固体電解質層を備える非水電解質電池に関するものである。特に、本発明は、繰り返しの充放電にも放電容量が低下し難い非水電解質電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
充放電を繰り返すことを前提とした電源として、正極体と負極体とこれら電極体の間に配される電解質層とを備える非水電解質電池が利用されている。この電池に備わる電極体はさらに、集電機能を有する集電体と、活物質を含む活物質層とを備える。このような非水電解質電池のなかでも特に、正・負極体間のLiイオンの移動により充放電を行なう非水電解質電池は、小型でありながら高い放電容量を備える。
【0003】
上記非水電解質電池を作製する技術としては、例えば、特許文献1に記載のものが挙げられる。この特許文献1では、非水電解質電池の作製にあたり、正極集電体上に粉末成形体の正極活物質層を備える正極体と、負極集電体上に粉末成形体の負極活物質層を備える負極体とを別個に作製している。これら電極体はそれぞれ固体電解質層を備えており、これら正極体と負極体とを重ね合わせることで非水電解質電池を作製している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−103289号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の非水電解質電池では、電池の充放電時、各活物質層における外周縁部近傍に電流が集中し易く、この電流集中により、活物質層における活物質の体積変化に面内分布が生じるという問題がある。即ち、電池の充放電時における活物質層の外周縁部近傍の体積変化が中央部分に比べて大きいため、電池の充放電に伴って各活物質層の外周縁部近傍において各活物質層と固体電解質層との良好な接合が維持できなくなる恐れがある。そうなると、電池の充放電に伴って電池の放電容量が大幅に低下してしまう。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的の一つは、各活物質層における活物質の体積変化の面内分布を抑制し、電池の充放電に伴う電池の放電容量の低下を抑制できる非水電解質電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明の非水電解質電池は、正極活物質層、負極活物質層、及びこれら両活物質層の間に介在される固体電解質層を備える。この本発明非水電解質電池において、前記固体電解質層の外周縁部を含む環状の部分を外周領域、その外周領域以外の部分を中央領域としたとき、前記外周領域の空隙率は、前記中央領域の空隙率よりも大きいことを特徴とする。
【0008】
固体電解質層の外周縁部近傍に空隙率が大きい外周領域を設け、その外周領域におけるLiイオン伝導性を低下させることで、正負活物質層の外周縁部近傍における電流集中を緩和できる。その結果、正極活物質層および負極活物質層における活物質の体積変化の面内分布を抑制でき、電池の充放電を繰り返しても両活物質層と固体電解質層との接合を良好に維持することができる。即ち、本発明非水電解質電池は、充放電に伴って放電容量が低下し難い、サイクル特性に優れた電池となる。理論上、外周領域の空隙率と中央領域の空隙率との間に差がありさえすれば良いが、両者の差は好ましくは2〜4%である。
【0009】
ここで、外周領域(中央領域)における空隙率は、外周領域(中央領域)全体に亘って均一としても良いし、固体電解質層の径方向中心に向かうに従って漸次小さくなるようにしても良い。
【0010】
(2)本発明非水電解質電池の一形態として、前記固体電解質層を平面視したときの前記外周領域の幅は、外周領域の全周に亘ってほぼ等しいことが好ましい。
【0011】
固体電解質層の外周縁部からの幅が全周に亘ってほぼ等しい帯状の外周領域とすることで、固体電解質層を挟む両活物質層の外周縁部近傍における電流集中を効果的に緩和することができる。
【0012】
(3)本発明非水電解質電池の一形態として、前記固体電解質層を平面視したときの前記外周領域の面積割合は、50%以下であることが好ましい。
【0013】
固体電解質層に占める外周領域の面積割合を50%以下とすることで、固体電解質層に含まれる固体電解質の量を十分に確保できる。外周領域の面積割合が小さくなるほど、固体電解質層全体に含まれる固体電解質の量が増加するので、電池の放電容量は向上する。但し、正負活物質層における電流集中を効果的に緩和し、もって電池のサイクル特性を改善するという観点からすれば、外周領域の面積割合は、20%以上とすることが好ましい。ここで、固体電解質層は通常、ほぼ均一な厚さを有するため、固体電解質層に占める外周領域の面積割合と体積割合とは等しいと考えて良く、上記(3)の面積割合は体積割合と読み替えることができる。
【0014】
(4)本発明非水電解質電池の一形態として、前記外周領域の空隙率は、5%以下であることが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、外周領域全体に含まれる固体電解質の量を十分に確保でき、本発明非水電解質電池を種々の用途に使用できる電池とすることができる。
【0016】
ここで、外周領域における固体電解質層の空隙率が固体電解質層の径方向中心に向かうに従って漸次増加する構成である場合、外周領域と中央領域との境界から外周縁部までの間で、等間隔に3点以上、固体電解質層の空隙率を測定し、その平均値を外周領域の空隙率とすれば良い。また、中央領域の空隙率も同様に、外周領域と中央領域との境界から中心までの間で、等間隔に3点以上、固体電解質層の空隙率を測定し、その平均値を中央領域の空隙率とすると良い。
【0017】
(5)本発明非水電解質電池の一形態として、前記固体電解質層は、LiSとPを含む固体電解質を有することが好ましい。
【0018】
上記硫化物は、高Liイオン伝導性で、かつ低電子伝導性であるため、固体電解質層を構成する固体電解質として好適である。
【0019】
(6)本発明の非水電解質電池の一形態として、前記正極活物質層は、Co、Mn、Ni、及びFeから選択される少なくとも1種の金属とLiとを含む酸化物からなる活物質と、LiSとPとを含む固体電解質と、を有することが挙げられる。
【0020】
正極活物質層に上記活物質を含有させることで、非水電解質電池の放電容量を向上させることができる。また、正極活物質層に固体電解質を含有させることで、正極活物質層の抵抗値を下げることができ、その結果として電池の放電容量を向上させることができる。
【0021】
(7)本発明の非水電解質電池の一形態として、前記負極活物質層は、C、Si、Ge、Sn、Al、及びLiから選択される少なくとも1種の元素を含む活物質、又はTiとLiとを含む酸化物からなる活物質と、LiSとPとを含む固体電解質とを有することが挙げられる。
【0022】
負極活物質層に上記活物質を含有させることで、非水電解質電池の放電容量を向上させることができる。また、負極活物質層に固体電解質を含有させることで、負極活物質層の抵抗値を下げることができ、その結果として電池の放電容量を向上させることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明非水電解質電池の構成によれば、充放電を繰り返しても放電容量が低下し難い電池とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(A)は実施形態に係る本発明非水電解質電池の概略断面図、(B)は実施形態に係る本発明非水電解質電池の平面図である。
【図2】実施形態に係る本発明非水電解質電池における各電極体の接合前の状態を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図に基づいて、本発明の実施の形態を説明する。
【0026】
<非水電解質電池の全体構成>
図1(A)に示す非水電解質電池100は、正極集電体11、正極活物質層12、固体電解質層(SE層)40、負極活物質層22、及び負極集電体21とを備える。この非水電解質電池100のもっとも特徴とするところは、電池100に備わるSE層40が、空隙率の異なる外周領域40hと中央領域40cとに分けられることである(図1(B)を合わせて参照)。以下、各部の詳細について順次説明すると共に、製造方法の一例も示す。
【0027】
≪正極集電体≫
正極集電体11は、導電材料のみから構成されていても良いし、絶縁基板上に導電材料の膜を形成したもので構成されていても良い。後者の場合、導電材料の膜が集電体として機能する。導電材料としては、AlやNi、これらの合金、ステンレスから選択される1種が好適に利用できる。
【0028】
≪正極活物質層≫
正極活物質層12は、電池反応の主体となる正極活物質粒子を含む層である。正極活物質としては、層状岩塩型の結晶構造を有する物質、例えば、Liαβ(1−X)(αはCo,Ni,Mnから選択される1種、βはFe,Al,Ti,Cr,Zn,Mo,Bi,Co,Ni,Mnから選択される1種、α≠β、Xは0.5以上)で表わされる物質を挙げることができる。その具体例としては、LiCoOやLiNiO,LiMnO,LiNi0.5Mn0.5,LiCo0.5Fe0.5,LiCo0.5Al0.5,LiNi1/3Mn1/3Co1/3、LiNi0.8Co0.15Al0.05等を挙げることができる。その他、正極活物質として、スピネル型の結晶構造を有する物質(例えば、LiMnなど)や、オリビン型の結晶構造を有する物質(例えば、LiFePO(0<X<1))を用いることもできる。
【0029】
上記正極活物質層12は、この層12のLiイオン伝導性を改善する電解質粒子を含有していても良い。上記電解質粒子としては、例えば、LiS−Pなどの硫化物を好適に利用することができる。硫化物は、さらにPなどの酸化物を含有していても良い。その他、正極活物質層12は、導電助剤や結着剤を含んでいても良い。
【0030】
≪負極活物質層≫
負極活物質層22は、電池反応の主体となる負極活物質粒子を含む層である。負極活物質としては、C、Si、Ge、Sn、Al、Li合金、又はLiTi12などのLiを含む酸化物を利用することができる。
【0031】
上記負極活物質層22は、この層22のLiイオン伝導性を改善する電解質粒子を含有していても良い。上記電解質粒子としては、例えば、LiS−Pなどの硫化物(必要に応じて酸化物を含んでいても良い)を好適に利用することができる。その他、負極活物質層22は、導電助剤や結着剤を含んでいても良い。
【0032】
≪負極集電体≫
負極集電体21は、導電材料のみから構成されていても良いし、絶縁基板上に導電材料の膜を形成したもので構成されていても良い。後者の場合、導電材料の膜が集電体として機能する。導電材料としては、例えば、Cu、Ni、Fe、Cr、及びこれらの合金(例えば、ステンレスなど)から選択される1種が好適に利用できる。
【0033】
≪SE層≫
SE層40は、高Liイオン伝導性で、かつ低電子伝導性の固体電解質を含む層である。固体電解質としては、例えば、LiPONなどの酸化物や、LiS−P(必要に応じてPなどの酸化物を含有していても良い)を挙げることができる。特に、高Liイオン伝導性で、かつ低電子伝導性の硫化物からなる固体電解質を用いることが好ましい。SE層40を構成する固体電解質は、非晶質(アモルファス)でも良いし、結晶質でも良いが、SE層40に求められる高Liイオン伝導性、低電子伝導性の要件を満たすには、結晶質の固体電解質であることが好ましい。
【0034】
[外周領域と中央領域]
SE層40は、図1(B)の平面図に示すように、外周縁部を含む環状の外周領域40hと、外周領域40h以外の中央領域40cとに分けることができる。外周領域40hと中央領域40cの相違点は、その空隙率が異なることで、外周領域40hの空隙率は、中央領域40cの空隙率よりも大きい。
【0035】
外周領域40hは、電池の充放電時、正極活物質層12および負極活物質層22の体積変化に面内分布が生じることを緩和する。この外周領域40hのない電池を充放電すると、正極活物質層12および負極活物質層22の中央部分に比べて外周縁部近傍に電流が集中し、その外周縁部近傍における膨張収縮に比べて中央部分における膨張収縮が相対的に小さくなる。その結果、両活物質層12,22の面内において活物質の膨張収縮にばらつきが生じ、隣接するSE層40との接合が不十分になる虞がある。一方、SE層40において中央領域40cよりも空隙率の大きな外周領域40hを形成すると、外周領域40hにおけるイオン伝導性が中央領域40cに比べて相対的に低下するので、両活物質層12,22の外周縁部近傍への電流の集中を緩和でき、もって両活物質層12,22の面内における膨張収縮差を緩和できる。
【0036】
外周領域40hの幅、即ち、SE層40の外周縁部から中央領域40cとの境界部までの長さは、当該外周領域40hの全周に亘ってほぼ均一であることが好ましい。局所的に幅が狭いところがあると、その部分に電流が集中する恐れがあるからである。
【0037】
SE層40を平面視したときの外周領域40hの面積割合は、50%以下とすることが好ましい。外周領域40hの面積割合を50%以下とすることで、SE層40全体に含まれる固体電解質の量を十分に確保することができる。ここで、外周領域40hの面積割合が小さくなるほど、SE層40全体に含まれる固体電解質の量が増加するので、電池100の放電容量は向上する。但し、両活物質層12,22における電流集中を効果的に緩和し、もって電池100のサイクル特性を改善するという観点からすれば、外周領域40hの面積割合は、20%以上とすることが好ましい。
【0038】
また、外周領域40hの空隙率が大きいほど、上記電流集中を緩和することができ、もって電池100のサイクル特性を改善することができる。しかし、外周領域40hの空隙率が高くなりすぎると、SE層40全体での固体電解質の量が減少するため、電池の放電容量が小さくなる傾向にある。そのため、外周領域40hにおける空隙率は5%以下とすることが好ましい。
【0039】
上述したように、外周領域40hの面積割合と外周領域40hの空隙率を変化させることによってもたらされる電池100のサイクル特性の改善効果と放電容量の増加はトレードオフの関係にある。そのため、外周領域40hの面積割合と空隙率は、作製する電池100に求められる特性に応じて適宜調整すると良い。
【0040】
≪その他の構成≫
SE層40が硫化物の固体電解質を含むと、この硫化物の固体電解質がSE層40に隣接する正極活物質層12に含まれる酸化物の正極活物質と反応して、正極活物質層12とSE層40との界面近傍が高抵抗化し、非水電解質電池100の放電容量を低下させる虞がある。そこで、上記界面近傍の高抵抗化を抑制するために、正極活物質層12とSE層40との間に中間層(図示略)を設けても良い。
【0041】
上記中間層に用いる材料としては、非晶質のLiイオン伝導性酸化物、例えばLiNbOやLiTaOなどを利用できる。特にLiNbOは、正極活物質層12とSE層40との界面近傍の高抵抗化を効果的に抑制できる。
【0042】
<非水電解質電池の効果>
以上説明した非水電解質電池100は、充放電を繰り返しても放電容量が低下し難い、サイクル特性に優れた電池100である。それは、SE層40において外周縁部を含む外周領域40hを設けることで、両活物質層12,22の外周縁部近傍における電流集中を緩和することができるからである。各活物質層12,22における電流集中を緩和すると、電池100の充放電に伴う各活物質層12,22における活物質の体積変化の面内分布を抑制でき、各活物質層12,22とSE層40との接合状態を良好に保つことができる。その結果、本発明非水電解質電池100は、サイクル特性に優れた電池100となる。
【0043】
<非水電解質電池の製造方法>
この非水電解質電池100は、例えば、図2の説明図を参照して説明する以下の工程(A)〜(C)により作製することができる。
(A)正極体1を作製する。
(B)負極体2を作製する。
(C)正極体1と負極体2とを重ね合わせ、加圧しながら熱処理を施して、正極体1と負極体2とを接合する。
※工程A,Bの順序は入れ替え可能である。
【0044】
ここで、工程Cの加圧の際、その圧力を部分的に変えることで、SE層40に空隙率の異なる領域を形成することができる。この点については工程Cの説明に詳しく述べる。
【0045】
≪工程A:正極体の作製≫
本実施形態の正極体1は、正極集電体11の上に、正極活物質層12と正極側固体電解質層(PSE層)13を積層した構成を有する。この正極体1を作製するには、正極集電体11となる基板を用意し、その基板の上に残りの層12,13を順次形成すれば良い。正極集電体11は、正極体1と負極体2とを接合する工程Cの後に、正極活物質層12におけるPSE層13とは反対側の面に形成しても良い。
【0046】
正極活物質層12は、例えば、加圧成形法により形成することができる。その場合、正極活物質粒子からなる活物質粉末と、電解質粒子からなる電解質粉末とを含む混合粉末を用意する。そして、金型内に配置した正極集電体11上に混合粉末を配置して、加圧成形する。この加圧成形の条件は、適宜選択することができる。例えば、室温〜300℃の雰囲気下、面圧100〜400MPaで加圧成形すると良い。また、加圧成形される正極活物質粒子の平均粒径は、1〜20μmが好ましい。さらに電解質粒子を利用するのであれば、その電解質粒子の平均粒径は、0.5〜2μmが好ましい。
【0047】
正極側固体電解質層(PSE層)13は、アモルファスのLiイオン伝導体とすることが好ましい。このPSE層13は、後述する工程Cを経て結晶化し、図1(A)に示す完成した電池100のSE層40の一部となる。PSE層13に求められる特性は、結晶化したときに高Liイオン伝導性で、かつ低電子伝導性であることである。例えば、アモルファス状態にあるPSE層13が結晶化したときのLiイオン伝導性(20℃)は、10−5S/cm以上、特に、10−4S/cm以上であることが好ましい。また、結晶化したときのPSE層13の電子伝導性は、10−8S/cm以下であることが好ましい。
【0048】
PSE層13の形成には、気相法を利用することができる。気相法としては、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、レーザーアブレーション法などを利用できる。ここで、アモルファス状態のPSE層13を形成するには、膜形成時の基材(つまり、正極活物質層12)の温度が膜の結晶化温度以下になるように基材を冷却すれば良い。例えば、LiS−PでPSE層13を形成する場合、膜形成時の基材温度を150℃以下とすることが好ましい。
【0049】
≪工程B:負極体の作製≫
負極体2は、負極集電体21の上に、負極活物質層22と負極側固体電解質層(NSE層)23を積層した構成を有する。この負極体2を作製するには、負極集電体21となる基板を用意し、その基板の上に残りの層22,23を順次形成すれば良い。なお、負極集電体21は、工程Cの後に、負極活物質層22におけるNSE層23とは反対側の面に形成しても良い。
【0050】
負極活物質層22は、正極活物質層12と同様に、加圧成形法により作製することができる。例えば、負極活物質粒子からなる負極活物質粉末と、上記固体電解質粉末とを混合し、金型内に配置した負極集電体21上でこの混合粉末を加圧成形する。この加圧成形の条件は、適宜選択することができる。例えば、室温〜300℃の雰囲気下、面圧100〜400MPaで加圧成形すると良い。また、加圧成形される負極活物質粒子の平均粒径は、1〜20μmが好ましい。さらに電解質粒子を利用するのであれば、その電解質粒子の平均粒径は、0.5〜2μmが好ましい。
【0051】
負極側固体電解質層(NSE層)23は、上述したPSE層13と同様に、アモルファスのLiイオン伝導体とすることが好ましい。このNSE層23も、次の工程Cを経てSE層40の一部となる。このNSE層23と上述したPSE層13とは組成や作製方法などを同じとしておくことが好ましい。そうすることで、NSE層23とPSE層13とが次の工程Cを経ることで一層のSE層40となったときに、SE層40の厚み方向にLiイオン伝導性にばらつきが生じ難い。
【0052】
≪工程C:正極体と負極体との接合≫
次に、PSE層13とNSE層23とが互いに対向するように正極体1と負極体2とを積層して積層体を作製する。その際、PSE層13とNSE層23とを圧接させつつ熱処理を施して、アモルファス状態にあるPSE層13とNSE層23を結晶化させ、これらPSE層13とNSE層23とを一体化させる。
【0053】
工程Cにおける熱処理条件は、PSE層13とNSE層23を結晶化させることができるように選択する。熱処理温度が低すぎると、PSE層13とNSE層23が十分に結晶化せず、PSE層13とNSE層23との間に未接合の界面が多く残り、PSE層13とNSE層23とが一体化されない。逆に熱処理温度が高すぎると、PSE層13とNSE層23とが一体化しても、低Liイオン伝導性の結晶相が形成される虞がある。熱処理時間についても熱処理温度と同様に、短すぎると一体化が不十分になり、長すぎると低Liイオン伝導性の結晶相の生成を招く虞がある。具体的な熱処理条件は、PSE層13とNSE層23の組成などの影響を受けて変化するが、概ね150〜300℃×1〜60分で行なうことが好ましい。より好ましい熱処理条件は、180〜250℃×30〜60分である。
【0054】
また、工程Cでは熱処理時にPSE層13とNSE層23とを近づける方向に加圧する。この加圧は、熱処理の際にPSE層13とNSE層23とを密着させておくことで、PSE層13とNSE層23との一体化を促進するために行なうものであるだけでなく、両層13,23が一体化されてSE層40が形成されたときに、そのSE層40における空隙率を変化させるために行なうものでもある。
【0055】
加圧の圧力は、非常に小さくともPSE層13とNSE層23との一体化を促進する効果はあるものの、高くする方が当該一体化を促進し易い。但し、加圧の圧力を高くすると、正極体1と負極体2に備わる各層に割れなどの不具合が生じる虞がある。特に、粉末成形体である正極活物質層12や負極活物質層22には割れが生じ易い。PSE層13とNSE層23との一体化はあくまで熱処理により生じるものであるので、加圧の圧力は10〜20MPaで十分である。ここで、上記範囲内で加圧の圧力を高くするほど、SE層40に生じる空隙率を低くすることができる。従って、本発明の構成を達成するには、中央領域40cとなる部分では加圧の圧力を10〜20MPaの範囲で高めにし、外周領域40hとなる部分では加圧の圧力を10〜20MPaの範囲内で低め(中央領域40cの加圧の圧力よりも低め)に設定する。なお、この程度の圧力であれば、中央領域40cと外周領域40hとの間に段差は生じない。
【0056】
工程Cを行なうことにより、図1(A)に示すように、結晶化された一層のSE層40を備える非水電解質電池100が形成され、しかもそのSE層40において空隙率の異なる外周領域40hと中央領域40cが形成される。この一層のSE層40は、上述したようにPSE層13とNSE層23とを一体化させることで形成されたものでありながら、PSE層13とNSE層23との界面がほとんど残らない。そのため、このSE層40は、当該界面に起因するLiイオン伝導性の低下がなく、高Liイオン伝導性で、かつ低電子伝導性のSE層40となる。
【0057】
以上、例示した工程A〜Cを備える非水電解質電池の製造方法によれば、図1を参照して説明した本発明非水電解質電池100を作製することができる。
【0058】
<試験例>
以下の構成を備える正極体1、負極体2を用いて非水電解質電池を作製した。そして、得られた電池に対して、後述する条件にて充放電サイクル試験を行った。
【0059】
正極体1として、次の1種類を作製した。
≪正極体A≫
・正極集電体11…厚さ10μm、直径16mmのAl箔
・正極活物質層12…厚さ150μm、直径16mmのLiCoO粉末とLiS−P粉末との加圧成形体(LiCoO:LiS−P=70質量%:30質量%)
・PSE層13…厚さ5μm、直径16mmのアモルファスLiS−P膜(真空蒸着法)
【0060】
一方、負極体2として、次の1種類を作製した。
≪負極体2≫
・負極集電体21…厚さ10μm、直径16mmのステンレス箔
・負極活物質層22…厚さ150μm、直径16mmの黒鉛粉末とLiS−P粉末との加圧成形体(黒鉛:LiS−P=50質量%:50質量%)
・NSE層23…厚さ5μm、直径16mmのアモルファスLiS−P膜(真空蒸着法)
【0061】
次に、露点温度−50℃の大気中で、用意した正極体1と負極体2とを互いの固体電解質層PSE13、NSE23同士が接触するように重ね合わせ、加圧加熱処理を施すことにより、非水電解質電池(試料α〜δ)を作製した。作製した試料α〜δの相違点は以下の通りである。なお、熱処理の温度と時間は共通(190℃×30分)であった。
≪試料α≫
中心から直径12mmの範囲(中央領域40c)における加圧の圧力は16MPa、それ以外の範囲(外周領域40h)における加圧の圧力は8MPaであった。
≪試料β≫
中心から直径14mmの範囲(中央領域40c)における加圧の圧力は16MPa、それ以外の範囲(外周領域40h)における加圧の圧力は8MPaであった。
≪試料γ≫
中心から直径14mmの範囲(中央領域40c)における加圧の圧力は16MPa、それ以外の範囲(外周領域40h)における加圧の圧力は4MPaであった。
≪試料δ≫
全域にわたって加圧の圧力は16MPaであった。
【0062】
以上のようにして作製した試料α〜δの電池に対して10サイクルの充放電サイクル試験を行った。試験条件は、電流密度0.1mA/cm、カットオフ電圧3.0V−4.1Vとした。また、各試料α〜δのSE層40の断面を走査型電子顕微鏡により観察することで、各試料α〜δのSE層40の空隙率を算出した。観察条件は、異なる3視野以上の顕微鏡写真を二値化処理することで求めた。算出した空隙率を含む試料α〜δの構成と、充放電10サイクル後の容量維持率(10サイクル時の放電容量/最大放電容量)・放電容量(mAh/cm)を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
表1の結果から、SE層40が中央領域40cと外周領域40hとに分けられ、かつ中央領域40cに比べて外周領域40hの空隙率が高い試料α〜γの電池は、80%以上の良好な容量維持率を発揮した。一方、SE層40の全域に亘って空隙率が均一な試料δの電池は、70%を切る容量維持率であった。
【0065】
また、表1に示す通り、試料α〜γの放電容量を比較したとき、試料β>試料α>試料γであった。これは、SE層40全体に占める空隙率の大きさ、即ち、SE層40に含まれる電解質の多寡に一致していた。SE層40全体の空隙率は、試料γ、試料α、試料βの順に大きい。
【0066】
なお、本発明の範囲は上述の実施形態に何ら限定されることはない。即ち、上述した実施形態に記載の非水電解質電池の構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の非水電解質電池は、充放電を繰り返すことを前提とした電気機器の電源、例えば各種電子機器の電源に好適に利用できる他、ハイブリッド自動車、電気自動車の電源としての利用も期待できる。
【符号の説明】
【0068】
100 非水電解質電池
1 正極体
11 正極集電体
12 正極活物質層
13 正極側固体電解質層(PSE層)
2 負極体
21 負極集電体
22 負極活物質層
23 負極側固体電解質層(NSE層)
40 硫化物固体電解質層(SE層)
40c 中央領域 40h 外周領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質層、負極活物質層、及びこれら両活物質層の間に介在される固体電解質層を備える非水電解質電池であって、
前記固体電解質層の外周縁部を含む環状の部分を外周領域、その外周領域以外の部分を中央領域としたとき、
前記外周領域の空隙率は、前記中央領域の空隙率よりも大きいことを特徴とする非水電解質電池。
【請求項2】
前記固体電解質層を平面視したときの前記外周領域の幅は、外周領域の全周に亘ってほぼ等しいことを特徴とする請求項1に記載の非水電解質電池。
【請求項3】
前記固体電解質層を平面視したときの前記外周領域の面積割合は、50%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の非水電解質電池。
【請求項4】
前記外周領域の空隙率は、5%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の非水電解質電池。
【請求項5】
前記固体電解質層は、LiSとPを含む固体電解質を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の非水電解質電池。
【請求項6】
前記正極活物質層は、
Co、Mn、Ni、及びFeから選択される少なくとも1種の金属とLiとを含む酸化物からなる活物質と、
LiSとPとを含む固体電解質と、
を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の非水電解質電池。
【請求項7】
前記負極活物質層は、
C、Si、Ge、Sn、Al、及びLiから選択される少なくとも1種の元素を含む活物質、又はTiとLiとを含む酸化物からなる活物質と、
LiSとPとを含む固体電解質と、
を有することを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の非水電解質電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−16280(P2013−16280A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−146549(P2011−146549)
【出願日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】