説明

非沈降性耐火モルタル

【課題】混練した後に長期間保存しても塗工性が低下せず、塗工後の寸法変化率が小さく、塗工面にクラックや隙間を発生させるおそれのない非沈降性耐火モルタルを提供する。
【解決手段】本発明の非沈降性耐火モルタルは、コージライト、ムライト、アルミナ、炭化珪素などのセラミック粉末100部と、粘土鉱物0.5〜1.5部と、コロイド状酸化物溶液とを含有し、全固形成分中のCa含有率を酸化物換算で0.01〜0.5%としてチクソトロピック性を持たせたことを特徴とするものである。セラミック粉末のメジアン径を10〜50μmとすることが好ましく、塗工後の寸法変化率を小さくするために、セラミック粉末中の0.1〜5μmの粒子の含有率を1〜20%とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温で使用される炉壁面や耐火煉瓦などのセラミック表面や目地部分などに塗工される耐火性のあるモルタルに関するものであり、特に長期保管性と塗工性に優れた非沈降性耐火モルタルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般にモルタルはセメントや石灰を含む粉末原料を溶媒である水と混練したものであり、水和反応により硬化する反応を利用するものである。このため、使用の直前に水を混ぜて塗工するのが普通であり、水と混練後の塗工可能な時間は極めて短く、混練した後は直ちに使用する必要があった。
【0003】
また特許文献1に示されるように、セラミック構造体などの表面に塗工されるセメントを用いないモルタルも知られている。この特許文献1のモルタルは微細なセラミック粒子と溶媒である水とシリカゾルとから構成されているが、やはり溶媒と混練してから時間が経過すると、セラミック粒子が沈降して次第に粘度が上昇し塗工性が低下して行くため、溶媒と混練した後は速やかに塗工する必要があった。
また特許文献2に示されるような耐火モルタルでは水酸化マグネシウムの量で耐食性を発現させているが、時間が経過すると沈降や粘性が変化する問題があった。
【0004】
このように従来のモルタルは使用直前に溶媒と混練する必要があり、塗工現場での混練作業が必要であることや、長期保管ができず混練した分は使い切ってしまわねばならないなどの問題があった。
【0005】
このほか、一般に耐火モルタルは塗工後の乾燥や焼成によって収縮しやすく、塗工面に微細なクラックを発生させたり、隙間を生じたりし易いという問題があった。
【特許文献1】特開2004−231506号公報
【特許文献2】特開平3−75275号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って本発明の主な目的は、上記した従来の問題点を解決し、溶媒と混練した後に長期間保存しても塗工性が低下せず、塗工現場での混練作業を必要としない非沈降性耐火モルタルを提供することである。また本発明のその他の目的は、塗工後に乾燥・焼成したときの寸法変化率が小さく、塗工面にクラックや隙間を発生させるおそれのない非沈降性耐火モルタルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するためになされた本発明の非沈降性耐火モルタルは、セラミック粉末100部と、粘土鉱物0.5〜1.5部と、コロイド状酸化物溶液とを含有し、全固形成分中のCa含有率を酸化物換算で0.01〜0.5%(質量%)としてチクソトロピック性を持たせたことを特徴とするものである。なお本明細書において「部」は全て「質量部」を意味するものである。
【0008】
本発明においては、セラミック粉末のメジアン径を10〜50μmとすることが好ましい。また塗工後の寸法変化率を小さくするために、セラミック粉末中の0.1〜5μmの粒子の含有率を1〜20%とすることが好ましい。
【0009】
またセラミック粉末が、コージライト、ムライト、アルミナ、炭化珪素のいずれかであることが好ましい。
【0010】
さらに、初期粘度X(dPa・s)が70〜300であり、7日経過後の粘度Y(dPa・s)をY=AX+30の式で表わしたとき、Aが0.7〜0.9の範囲にあることが好ましい。
さらに、コロイド状酸化物溶液がシリカゾルまたはアルミナゾルであることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の非沈降性耐火モルタルは、セラミック粉末とコロイド状酸化物溶液であるシリカゾルとを含有するものであることは特許文献1のモルタルと同様であるが、0.5〜1.5部の粘土鉱物を含有させるとともに、全固形成分中のCa含有率を酸化物換算で0.01〜0.5%としてチクソトロピック性を持たせたことにより、使用時に振動や撹拌を加えれば直ちに流動性を回復する。このため混練後に長時間を経過しても塗工性が低下することはない。
【0012】
また本発明の非沈降性耐火モルタルは、請求項3のようにセラミック粉末中の0.1〜5μmの粒子の含有率を1〜20%とすることにより、塗工後の乾燥または焼成による寸法変化率を0.2%以下にまで小さくすることができ、塗工面にクラックや隙間を発生させることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
本発明の非沈降性耐火モルタルは、基本的にはセラミック粉末にコロイド状酸化物溶液と溶媒である水とを加えて混練したものである。セラミック粉末は耐熱性と強度を発現させるために必要な主成分であり、コージライト、ムライト、アルミナ、炭化珪素のいずれかから選択することが好ましい。本発明の耐火モルタルをコージライト製のセラミック多孔体の表面コート材として使用する場合には、熱膨張係数の一致するコージライトを選択すべきことはいうまでもない。
【0014】
これらのセラミック粉末はメジアン径が10〜50μmの範囲のものを使用する。メジアン径がこの範囲よりも小さくなると流動性が悪化するため必要となる溶媒が多くなりすぎ、また寸法変化率も大きくなって塗工面にクラックが発生し易くなる。逆にメジアン径がこの範囲よりも大きくなると流動性や長期保存後の塗工性が悪化する。なおメジアン径の測定方法はJIS R1627‐1997に規定されている。
【0015】
上記のように本発明の非沈降性耐火モルタルはセラミック粉末を主成分とするものでありセメントの水和反応を利用するものではないから、セラミック粉末間を結合するバインダー機能を発現させるために、シリカゾルのようなコロイド状酸化物溶液を使用する。シリカゾルはシリカ微粒子を水中に懸濁させた粘性液である。それ自体にも30〜90%程度の水分を含有するが、さらに水を加えて混練する。その混合比率は、セラミック粉末100部に対して、シリカゾル+水が50〜70部程度である。
【0016】
これによりセラミック粉末を主成分とする耐火モルタルを得ることができるが、それだけでは長期保存性を得ることができない。そこで本発明の非沈降性耐火モルタルは、0.5〜1.5部の粘土鉱物を含有させるとともに、全固形成分中のCa含有率を酸化物換算で0.01〜0.5%としてチクソトロピック性を持たせる。粘土鉱物は珪酸マグネシウムアルミニウムであり、0.5〜1.5部を添加することによってセラミック粉末の沈降を防止し、長期保存後の塗工性を高める。
【0017】
なお本発明では全固形成分中のCa含有率を酸化物換算で0.01〜0.5%という微量に抑制している。このためには安価な粘土などの天然原料を用いることは好ましくない。すなわち天然の粘土を使用すると耐火モルタル中のCa含有率は容易に1%を越えてしまう。またセメント系の耐火モルタルはCaOを必須成分として含むので、多量のCaを含有してしまうこととなる。
【0018】
チクソトロピック性とは力を加えると粘度が低下し、放置すると経時的に粘度が上昇する性質を意味するもので、本発明の非沈降性耐火モルタルは使用時に外力を加えて撹拌すれば、速やかに低粘性を回復することができる。このチクソトロピック性はCa含有率の多い耐火モルタルでは発揮されず、従来のCa含有率が1%を越える耐火モルタルでは発揮されない。本発明では粘土鉱物以外にはCaが混入するおそれがないので、Ca含有率を0.01〜0.5%の範囲に制御することができる。
【0019】
なお、Ca含有率を酸化物換算で0.01〜0.5%と規定したのは、これ以上となるとチクソトロピック性が低下し、また0.01%未満とするには原料の純度を高めねばならず、経済的でないためである。CaOの含有率の測定はJIS R2212‐1に準拠して行うことができる。
【0020】
このほか、本発明の耐火モルタル中には強度向上のために10部以下のセラミックファイバーを添加したり、有機質あるいは無機質のバインダーを0.1〜0.3部程度添加することが好ましい。
【0021】
上記したように、本発明の非沈降性耐火モルタルはチクソトロピック性を有するので、長期保存しても粘度の経時変化が抑制され、良好な塗工性を得ることができる。すなわち請求項5に示したように、初期粘度をX(dPa・s)、7日経過後の粘度をY(dPa・s)とすると、Xが70〜300であり、Y=AX+30の式で表わしたときの勾配Aの値が0.7〜0.9の範囲にある。なお従来の耐火モルタルでは初期粘度Xは同様であるが、勾配Aの値が1を大きく越える。
【0022】
図1と図2はこの関係を示すグラフであり、横軸を初期粘度X、縦軸を7日経過後の粘度Yとしたグラフである。耐火モルタルの粘度測定は例えばRION社製粘度計(VT-04F)3号カップ、2号ロータを用い、測定温度20℃で行う。図2の枠内がY=AX+30の式で表わしたときの勾配Aの値が0.7〜0.9の範囲を示し、この範囲を外れる耐火モルタルは例えば6ヶ月後に使用する際に塗工に適した粘度を得ることができず、良好な塗工性が得られない。
【0023】
上記の構成によって、本発明の非沈降性耐火モルタルは、溶媒と混練した後に長期間保存しても塗工性が低下せず、従って塗工現場での混練作業を必要としないとの効果を得ることができるが、さらに塗工後の寸法変化率を小さくし、塗工面にクラックや隙間を発生させるおそれをなくするためには、主成分であるセラミック粉末中の微粉量を少なくすることが必要である。
【0024】
これは、上記のような微粉のセラミック粉末は寸法変化を防止する強度部材としての機能がないためであり、塗工後の寸法変化率を0.2%以下とするためには、セラミック粉末中の0.1〜5μmの粒子の含有率を1〜20%とすることが望ましい。塗工後の寸法変化率の測定はJIS R 2207−1993に準拠し、110℃乾燥品を1000℃まで加熱して寸法変化を測定する方法で測定される。このように0.1〜5μmの粒子の含有率を1〜20%とすれば、メジアン径が10μmに近い場合にも寸法変化率を0.2%以下にできる。これにより塗工面にクラックや隙間を発生させるおそれをなくすることが可能となる。
【実施例】
【0025】
表1に示すように、セラミック粉末100部に対して、28〜32部のシリカゾルまたはアルミナゾルと、0〜7部のセラミックファイバーと、0.1〜0.2部のバインダーと、27〜30部の水とを混練し、混練直後の初期粘度X、7日経過後の粘度Y、Y=AX+30の式で表わしたときの勾配Aの値、6ヶ月後に使用した場合の塗工性、1000℃までの寸法変化率、塗工面のクラック発生数などを測定して表1中に示した。なお塗工性の評価及び塗工面のクラック発生数の評価は、コージライト製セラミック多孔体の表面に耐火モルタルを塗工して行った。
【0026】
また、請求項1の数値限定を外れる例を表2中の比較例1〜4に示し、請求項2の数値限定を外れる例を比較例5〜6に示した。さらに請求項3の数値限定を外れる例を比較例7〜8に示した。なお粘度の測定は前記したRION社製粘度計を用いて行い、メジアン径の測定はJIS R1627‐1997に準拠し、CaOの含有率の測定はJIS R2212‐1に準拠し、塗工後の寸法変化率の測定はJIS R2207−1993に準拠して行った。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
この実施例のデータに示されるように、本発明の非沈降性耐火モルタルは初期粘度と7日後粘度との差が小さく、混練後6ヶ月を経過した後の塗工性も良好である。また1000℃までの寸法変化率も小さく、塗工面のクラック発生数も少なかった。これに対して比較例1〜4は6ヶ月経過後の塗工性と塗工面のクラック発生数がともに悪く、比較例5〜6は6ヶ月経過後の塗工性と塗工面のクラック発生数がともにやや悪く、比較例7〜8は6ヶ月経過後の塗工性は良好であったが塗工面のクラック発生数が悪かった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】粘度の経時変化を示すグラフである。
【図2】請求項5の範囲を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミック粉末100部と、粘土鉱物0.5〜1.5部と、コロイド状酸化物溶液とを含有し、全固形成分中のCa含有率を酸化物換算で0.01〜0.5%としてチクソトロピック性を持たせたことを特徴とする非沈降性耐火モルタル。
【請求項2】
セラミック粉末のメジアン径を10〜50μmとしたことを特徴とする請求項1記載の非沈降性耐火モルタル。
【請求項3】
セラミック粉末中の0.1〜5μmの粒子の含有率を1〜20%としたことを特徴とする請求項2記載の非沈降性耐火モルタル。
【請求項4】
セラミック粉末が、コージライト、ムライト、アルミナ、炭化珪素のいずれかであることを特徴とする請求項1記載の非沈降性耐火モルタル。
【請求項5】
初期粘度X(dPa・s)が70〜300であり、7日経過後の粘度Y(dPa・s)をY=AX+30の式で表わしたとき、Aが0.7〜0.9の範囲にあることを特徴とする請求項1記載の非沈降性耐火モルタル。
【請求項6】
コロイド状酸化物溶液がシリカゾルまたはアルミナゾルであることを特徴とする請求項1記載の非沈降性耐火モルタル。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−137809(P2009−137809A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−317901(P2007−317901)
【出願日】平成19年12月10日(2007.12.10)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【出願人】(000237868)エヌジーケイ・アドレック株式会社 (37)
【Fターム(参考)】