説明

非焼成塊成鉱の製造方法

【課題】 高強度の非焼成塊成鉱を、効率良く製造することができる方法を提供すること。
【解決手段】 非焼成塊成鉱の製造方法であって、前記製造方法は、酸化鉄原料、水硬性バインダー、粘土および水を含む塊成鉱組成物を減圧しつつ押出成形することを含み、前記酸化鉄原料は、粒度が0.125mm以下である微粉酸化鉄原料を、前記酸化鉄原料の総量中に20質量%以下で含有するものであることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非焼成塊成鉱の製造方法に関するものであり、殊に高強度の非焼成塊成鉱を効率良く製造できる方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄用の高炉では、取扱い性や操業性等の観点から、粉状ではなく、粒状またはペレット状の製鉄用原料が通常用いられる。このような製鉄用原料の例として焼結鉱が挙げられる。焼結鉱は、鉄鉱石などの酸化鉄原料を主原料とし、これに粉状の石灰石や珪石などを副原料として配合し、焼結して得られるのが一般的である。
【0003】
しかしながらこのような焼結鉱の製造には、多量のエネルギーを必要とし、またCO排出量が多いなどの問題がある。さらに近年では、良質鉱石の産出量が減少してくるにつれて、品質の異なる様々な鉱石を製鉄用原料として使用する場合がある。そのため焼結性が低い鉱石を使用する場合、これを単に焼結しても意図する強度の製鉄用原料が得られ難いといった問題も生じることがある。
【0004】
一方、酸化鉄原料や副原料を焼成せずに、セメントなどのバインダーで結合させた非焼成塊成鉱が、例えば高炉用の製鉄原料として使用することも提案されている。しかしながら非焼成塊成鉱は、焼成されていないためその強度が低い。そこで特許文献1は、非焼成塊成鉱の強度を上げるため、鉄原料(焼結返鉱または焼結篩下粉)に、これより相対的に粒度の細かい鉄含有微粉(ダスト)を配合したものを、非焼成塊成鉱の製造に使用することを提案している。この特許文献1は、微粉配合量が多いほど、非焼成塊成鉱の圧潰強度が高いことを示している(特に特許文献1の図2を参照されたい)。
【0005】
また非焼成塊成鉱の製造方法では、成形した生塊成鉱を空中(湿空中)で放置して、セメントなどを硬化させる養生工程が必要とされる。しかしながら単に生塊成鉱を放置するだけでは、養生に長時間を要する。またそのような場合、生塊成鉱を放置する養生ヤードを長期間占有しておく必要がある。そこで養生時間を短縮するために、二酸化炭素ガス雰囲気中、または水蒸気および二酸化炭素を含有する加熱ガス雰囲気中で養生を行うことが提案されている(例えば特許文献2および3)。しかしながらこれらの方法では、ガス雰囲気を生じさせるための設備が必須となる。
【特許文献1】特開平7−278687号公報
【特許文献2】特開平9−71824号公報
【特許文献3】特開2000−11960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、高強度の非焼成塊成鉱を、効率良く、具体的にはより短い養生時間で製造することができる方法を提供することである。
さらに非焼成塊成鉱を製造するためにはセメントのようなバインダーなどが必要であるが、このようなバインダーなどは非焼成塊成鉱から製造する鉄鋼にとっては不純物であり、できるだけ少ない方が好ましい。また非焼成塊成鉱から製鉄を行う際の効率を上げるためにも、非焼成塊成鉱中のバインダーなどの酸化鉄原料以外のものは、少ない方が好ましい。よって本発明のさらなる目的は、バインダーなどの量がより少ない高品位で高強度の非焼成塊成鉱を効率よく製造することができる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成することができた本発明とは、非焼成塊成鉱の製造方法であって、前記製造方法は、酸化鉄原料、水硬性バインダー、粘土および水を含む塊成鉱組成物を減圧しつつ押出成形(以下、「減圧押出」と省略することがある。)することを含み、前記酸化鉄原料は、粒度が0.125mm以下である微粉酸化鉄原料を、前記酸化鉄原料の総量中に20質量%以下で含有するものであることを特徴とする。前記水硬性バインダーとして、セメントおよび/または高炉スラグを使用することができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明者が鋭意検討した結果、減圧押出による非焼成塊成鉱の製造方法では、粒度が0.125mm以下である微粉酸化鉄原料の酸化鉄原料中に占める量を減らすほど、非焼成塊成鉱の圧縮強度を向上させ得るということを見出した。このような知見に基く本発明の構成およびその効果は驚くべきことである。なぜなら通常の非焼成塊成鉱の製造では、特許文献1に示されるように、微粉の鉄原料が多いほど圧縮強度は高いと考えられるからである。このような本発明の効果が達成されるメカニズムは不明であるが、以下のように推測することができる。但し本発明は、以下の推測には限定されない。
【0009】
減圧押出によらない通常の非焼成塊成鉱の成形では、鉄原料中の微粉量が多いほど圧縮強度は向上すると考えられる。なぜなら鉄原料中の微粉量が多いほど接触面積が増大し、このことが圧縮強度の向上につながると考えられるからである。これに対して本発明の減圧押出では、鉄原料中の微粉量が少ないほど圧縮強度が向上する。これは、通常の押出成形に比べて減圧押出では、鉄原料が互いに強く接合されることによるものではないかと考えられる。このように鉄原料が互いに強く接合されると、非焼成塊成鉱には鉄原料自体の強度が反映されやすいと思われる。そのため微粉量が少ないほど、即ち粒度の大きな鉄原料が多いほど、鉄原料同士の接合部分より強いと思われる鉄原料自体の強度が反映されるという効果が増大し、それゆえに非焼成塊成鉱の圧縮強度が向上するものと考えられる。
【0010】
さらに本発明の方法によれば、減圧押出で成形した生塊成鉱の養生が短時間でも、高強度の非焼成塊成鉱が得られる。また実施例に示すように、本発明の方法によればセメントおよび粘土の配合量が、塊成鉱組成物100質量部中にそれぞれ10質量部と少量でも、高い圧縮強度の高品位塊成鉱を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の非焼成塊成鉱の製造方法は、塊成鉱組成物を減圧しつつ押出成形することを特徴の1つとする。ここで本発明における減圧とは、押出成形装置内の圧力を大気圧未満に低下させることをいい、通常、MPa絶対基準で0.085MPa以下まで減圧する。本発明において好ましい減圧度は、MPa絶対基準で0.020MPa以下、より好ましくは0.016MPa以下、さらに好ましくは0.005MPa以下である。
【0012】
押出成形には、スクリュータイプの二軸式押出成形機若しくは単軸式押出成形機、またはローラータイプの押出成形機などを使用することができる。また下記実施例では押し出された連続成形物をカッティングして円柱状の塊成鉱を得ているが、塊成鉱の形状はこれに限定されず、前記連続成形物をカッティング後、更にプレス成形するなどして、球状等の様々な形状に成形することができる。
【0013】
本発明の製造方法は、粒度が0.125mm以下である微粉酸化鉄原料の含有量が、酸化鉄原料の総量中に20質量%以下である塊成鉱組成物を使用することも特徴とする。前記酸化鉄原料としては、製鉄用原料として一般的に汎用されている鉄鉱石の他、酸化鉄を主成分として含む高炉ダストや転炉ダスト、ミルスケールなどを使用することができる。鉄鉱石としては、様々な種類のものを用いることができ、例えば赤鉄鉱(ヘマタイト、Fe23)や磁鉄鉱(マグネタイト、Fe34)、ゲーサイト(Fe23・H2O)を多く含有する褐鉄鉱系鉱石、MgO含有物質としてドロマイト鉱石を使用してもよい。また焼結性の低いマラマンバ鉱石などを使用することもできる。
【0014】
粒度が0.125mm以下の微粉含有量の調節は、例えば酸化鉄原料を篩目の大きさが0.125mmである篩にかけることによって行うことができる。この場合、例えば0.125mmの篩の下に微粉酸化鉄原料が落ちてこなくなるまで篩にかけた酸化鉄原料を使用することができる。また篩にかけている酸化鉄原料をサンプリングし、そのサンプルの粒度分布を光学式の粒度分布測定機または小型篩機などによって測定しながら、粒度が0.125mm以下である微粉含有量が20質量%以下になったものを使用することもできる。その他、微粉を有効利用するために、0.125mm以下の微粉含有量が20質量%未満になった酸化鉄原料に、微粉含有量が20質量%を越えない量で、0.125mm以下の微粉を添加したものを使用することができる。
【0015】
前記酸化鉄原料の配合量は、塊成鉱組成物の固形分100質量部中に占める比率で60質量部以上とするのがよい。酸化鉄原料の配合量が高い塊成鉱の方が、製鉄において多量の鉄鋼を効率良く製造できるからである。より好ましい酸化鉄原料の配合量は、塊成鉱組成物の固形分100質量部中に占める比率で70質量部以上である。なお酸化鉄原料の配合量の上限は、成形性を高めるために配合する粘土や硬化のために配合する水硬性バインダーの配合量を考慮して決定すればよい。
【0016】
本発明において酸化鉄原料の粒度上限は、発明として特に限定されず、実際に使用する押出成形機の構造または入手可能性などの実施上の観点から適宜決定すればよい。入手容易性などを考慮すると、粒度上限が約5mm以下のものを使用することが望ましい。
【0017】
本発明において、塊成鉱組成物の成分として粘土を使用する。粘土を配合することによって成形時の可塑性を確保でき、良好に成形加工し得るからである。本発明における粘土とは、微細な含水アルミニウムケイ酸塩物質を主体とする可塑性の強い土壌物質であって、カオリン、ハロイ石、ダイアスポア、石英、絹雲母、葉ロウ石などを主構成鉱物とするものをいうが、具体的な粘土の種類については特に限定されず、採石廃土や製陶用の廃土などを使用することができる。
【0018】
粘土の配合量は、塊成鉱組成物の固形分100質量部中に占める比率で5〜30質量部の範囲内とすることが好ましい。粘土の適正な配合量は、使用する酸化鉄原料の量やサイズにもよるが、少な過ぎると混練物が可塑性不足となって良好に成形できなくなるので、塊成鉱組成物の固形分100質量部中の5質量部以上となるよう配合するのがよい。より好ましい粘土の配合量は10質量部以上である。一方、粘土の配合量が多過ぎると、塊成鉱中の鉄分含量が少なくなり、高炉の生産性を低下させる原因になる他、塊成鉱が強度不足になる等の不具合が生じ得るので、塊成鉱組成物の固形分100質量部中の30質量部以下とすることが好ましい。より好ましくは25質量部以下である。
【0019】
本発明では、水を加えることで経時的に硬化する水硬性バインダーを使用する。水硬性バインダーとして、例えばセメントや、ベントナイト、高炉スラグなどを使用することができる。セメントとして、市販されている通常のいわゆるポルトランドセメントや、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメントの他、高炉スラグを含む高炉セメント、ポルトランドセメントにシリカが含まれるシリカセメント、フライアッシュが含まれるフライアッシュセメントやアルミナの混入したアルミナセメントなどを使用することができる。
【0020】
また水硬性バインダーの例として、SiO2、CaO、Alを主構成成分として含む高炉スラグや転炉スラグを挙げることができる。さらにベントナイトを水硬性バインダーとして使用してもよく、とくに銘柄を限定することなく、ナトリウム系のものやカルシウム系のものを使用することができる。
【0021】
これらの水硬性バインダーは、主に単独で使用されるが、必要により2種以上を併用することができる。本発明の方法の水硬性バインダーとして、好ましくはセメントおよび/または高炉スラグを使用する。水硬性バインダーの配合量は、塊成鉱に求められる強度や成形性、養生時間等を考慮しつつ適宜決定すればよいが、その際には、酸化鉄原料および粘土の配合量も併せて考慮するのがよい。
【0022】
本発明の塊成鉱組成物は、水硬性バインダーの硬化のために、水を含有する。配合する水の量は、塊成鉱組成物の含水率が、塊成鉱組成物の全質量を基準に14質量%±5質量%となるように、調整するのがよい。
【0023】
塊成鉱組成物を製造する際の成分の混合方法または混練方法および成分の添加順序には、特に限定はない。混合または混練は、一般的に使用されている方法で行えばよく、ミキサーやニーダー、二軸式または単軸式の混練機を使用することができる。しかしながら塊成鉱組成物の各成分を良好に混合するために、酸化鉄原料、粘土および水硬性バインダーをまず混合し、この混合物に水を加えて混練することが好ましい。このようにして得られた塊成鉱組成物を前記の減圧押出に付する。
【0024】
なお本発明の塊成鉱組成物は、酸化鉄原料、粘土、水硬性バインダーおよび水に加えて、他の添加剤を含んでいてもよく、例えば養生時間を調整するために無機金属元素を主体とする硬化剤などを含んでいてもよい。
【0025】
本発明による減圧押出で得られた成形物(生塊成鉱)は、養生する必要がある。ここで本発明における養生とは、水および水硬性バインダー(これには、場合により酸化鉄原料中に存在する水硬性成分も含まれる。)の反応により生塊成鉱を硬化させるために、生塊成鉱を一定時間放置することをいう。養生は、生塊成鉱を、一般的には養生ヤード、好ましくは屋内の養生ヤードで放置して行われる。生塊成鉱を放置している間に、生塊成鉱を加熱したり、あるいは二酸化炭素および/または水蒸気を供給してもよい。なお減圧押出成形で得られた生塊成鉱を、別の場所に運搬するなどの間に時間を経過させて硬化させることも、本発明にいう養生に含まれる。養生のために生塊成鉱を放置する際に、これを規則正しく配置してもよいが、生産性の観点から、多少乱雑に積み重ねてもよい。
【0026】
本発明の方法によれば、押出成形直後や養生時に成形物同士が合着する傾向が少ない。このため個々の成形物の間隔を充分に設ける必要がなく、養生ヤードの省スペース化を図ることができる。また成形物を積み重ねて養生しても、養生後の取扱作業性が極めて良好である。
【0027】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、本発明の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0028】
図1に概略的に示す通り、酸化鉄原料として表1に示す組成の鉄鉱石1(製品ペレットの篩下粉)80質量部、セメント2(普通ポルトランドセメント)10質量部および粘土3(採石廃土)10質量部を含む混合物を、コンベア4で混練機5まで運搬し、混練機5で水6を10質量部加えて、混練することにより塊成鉱組成物を得た。そして塊成鉱組成物を減圧押出成形機7に装入して、減圧(MPa絶対基準で0.016MPa)しつつ押出成形し、得られた連続成形物8をカッター9で切断して、直径約50mmで高さ約130mmの円柱状の成形物(生塊成鉱)10を得た。そして前記生塊成鉱10を屋内の養生ヤード11へ移し、常温で1日、2日、7日放置して塊成鉱を得た。このようにして得られた塊成鉱の平均圧縮強度を測定した。これらの結果も表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1に示す結果から、粒度上限が1mmおよび3mmの鉄鉱石を用いた場合のいずれでも、粒度が0.125mm以下の微粉鉄鉱石含有量が20質量%以下であるものを使用した本発明は、微粉含有量が40質量%であるものを使用した比較例と比べて、平均圧縮強度が高い非焼成塊成鉱を製造したことが示される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の1つの実施態様を概略的に示した工程図である。
【符号の説明】
【0032】
1 酸化鉄原料(鉱石)
2 セメント
3 粘土
4 コンベア
5 混練機
6 水
7 減圧押出成形機
8 連続成形物
9 カッター
10 成形物(生塊成鉱)
11 養生ヤード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非焼成塊成鉱の製造方法であって、
前記製造方法は、酸化鉄原料、水硬性バインダー、粘土および水を含む塊成鉱組成物を減圧しつつ押出成形することを含み、
前記酸化鉄原料は、粒度が0.125mm以下である微粉酸化鉄原料を、前記酸化鉄原料の総量中に20質量%以下で含有するものであることを特徴とする方法。
【請求項2】
前記水硬性バインダーとして、セメントおよび/または高炉スラグを使用する請求項1に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−322058(P2006−322058A)
【公開日】平成18年11月30日(2006.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−148576(P2005−148576)
【出願日】平成17年5月20日(2005.5.20)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】