説明

非熱可塑性ポリイミド繊維を含む繊維集合体を用いた断熱・吸音材

【課題】軽量であって、かつ、吸音特性に優れる断熱・吸音材料を提供する。特に、航空機の軽量化及び燃費向上に役立つ、航空機用途に最適な断熱・吸音材料を提供する。
【解決手段】少なくとも湾曲部位を有する非熱可塑性ポリイミド繊維を含み、嵩密度が1.0〜10.0kg/mの繊維集合体を用いた断熱・吸音材であり、非熱可塑性ポリイミド繊維が、少なくともピロメリット酸二無水物と4,4−ジアミノジフェニルエーテルを原料として含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は非熱可塑性ポリイミド繊維を含む繊維集合体を用いた断熱・吸音材に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の航空機の外壁に用いられる断熱・吸音用途には、低嵩密度のガラスウール繊維を袋に詰めたもの(Insulaton Blanket)が広く用いられている。ガラスウールの特徴としては、不燃であり、断熱性能に優れ、しかも、吸音特性に優れる材料であることから現在の航空機用途には広く用いられている(例えば、非特許文献1〜2、特許文献1〜2参照)。
一方で、非熱可塑性繊維と熱可塑性繊維を組み合わせて上記ガラスウールの代替製品として用いる為の材料が開発されている(例えば、特許文献3〜4参照)。
【非特許文献1】航空技術、No.581、34項〜39項(2003年)
【非特許文献2】「日本航空宇宙学会 第40回飛行機シンポジウム」267項〜270項(2002年)
【特許文献1】米国特許第6551951号明細書
【特許文献2】米国特許第6627561号明細書
【特許文献3】米国特許第6383623号明細書
【特許文献4】米国特許第6579396号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上記非特許文献1〜2にも記載があるように、航空機用途の断熱・吸音材料は難燃性の基準に適合する材料であることは少なくとも必要であり、さらに、環境に対する配慮から燃費向上のために軽量の部材であることが求められている。ところが、従来のガラスウールでは、難燃性の基準に対応できる材料ではあるがガラスの密度(2.5g/cm)がフッ素系繊維を除く高耐熱繊維と比較して重く、軽量化することが現状では難しい問題があった(例えばm−アラミド繊維では、1.38g/cm、p-アラミド繊維では、1.44g/cm、ポリイミド繊維では、1.41g/cm)。そこで、従来の難燃性基準を克服して、かつ、軽量であって、吸音特性に優れる航空機用途の断熱・吸音材料が求められている。そのために、特許文献3〜4では、非熱可塑性繊維を熱可塑性樹脂で繋ぎ合せて作製したものの報告があるが、この製造方法では、熱可塑性樹脂を使用するために耐熱性が低くなる問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記問題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、少なくとも湾曲部位を有する非熱可塑性ポリイミド繊維を含み、嵩密度が1.0〜10.0kg/mの繊維集合体を用いた断熱・吸音材を用いることにより、断熱性能、吸音性能、及び軽量化に優れる断熱・吸音材料が得られる可能性があると考え、これらの知見に基づき本発明に達したものである。本発明の断熱・吸音材料の構成を詳述すると下記の構成となる。
【0005】
すなわち、本願発明の断熱・吸音材は、少なくとも湾曲部位を有する非熱可塑性ポリイミド繊維を含み、嵩密度が1.0〜10.0kg/mの繊維集合体を用いた断熱・吸音材である。
【0006】
上記非熱可塑性ポリイミド繊維は、少なくともピロメリット酸二無水物と4,4−ジアミノジフェニルエーテルを原料として含むことが好ましい。
【0007】
また、本願発明の別の発明は、前記繊維集合体と、該繊維集合体の包装材料を用いた断熱・吸音材である。
【0008】
前記繊維集合体の包装材料は、ポリイミド樹脂、フッ素系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂の少なくとも1種類の樹脂からなることが好ましい。
【0009】
また、本願発明の別の発明は、前記断熱・吸音材を用いた航空機用途の断熱・吸音材である。
【0010】
また、本願発明の別の発明は、前記断熱・吸音材を用いた航空機である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の断熱・吸音材料は、軽量であって、吸音特性に優れるため、航空機用途に最適な断熱・吸音材料であり、航空機の軽量化、燃費向上に役立つ材料である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本願発明の非熱可塑性ポリイミド繊維からなる断熱・吸音材は、少なくとも湾曲部位を有する非熱可塑性ポリイミド繊維を含み、嵩密度が1.0〜10.0kg/mの繊維集合体を用いた断熱・吸音材である。
【0013】
このような断熱・吸音材料を作製する方法について下記に詳述する。
【0014】
本願発明における非熱可塑性とは、ポリイミド繊維の原料となるポリアミド酸溶液から25μm厚みのポリイミドフィルムを作製して、そのフィルムの動的粘度弾性挙動を測定した際に、250℃以上で貯蔵弾性率E’の変曲温度を持つものである。詳述すると、ポリイミドフィルムの製造方法は以下の通りである。すわなち、ガラス基板上に最終ポリイミドフィルムの厚みが25μmになるようにポリアミド酸溶液を塗布して、室温に冷却したオーブンに投入して、400℃になるまで6℃/分の昇温速度で昇温させる。そして、室温になるまでゆっくりと冷却を行うことでガラス基板上にポリイミドフィルムを作製することができる。動的粘弾性挙動の測定は、上記ポリイミドフィルムを引き剥がし、ポリイミドフィルムを、9mmの幅で40mm長さに切り出して、セイコー電子(株)製 DMS200の装置にセットした後に、引張りモードで、下記の測定条件で行うことができる。
【0015】
<測定条件>
プロファイル温度: 20℃〜400℃(昇温速度:3℃/分)
周波数: 5Hz
Lamp.(交流歪振幅目標値): 20μm
Fbase(測定中のテンションの最小値):0g
F0gain(測定中にテンションを交流力振幅に応じて変化させる場合の係数):3.0。
【0016】
この測定条件での測定によって、上述のプロファイル温度における貯蔵弾性率E’及び、損失弾性率E”の値がそれぞれ得られる。貯蔵弾性率の変曲点とは、急激に貯蔵弾性率が低下し始める時の温度である。図1の動的粘弾性を測定した例を用いて説明を行うと、貯蔵弾性率が変化し始めるまでの直線に対する接線50と、貯蔵弾性率が変化しはじめて変化し終わった直線に対する接線51とをひき、その交点52の温度を求める。この温度が貯蔵弾性率の変曲点となる。本願発明における非熱可塑性ポリイミド繊維とは、この変曲点の温度が250℃以上となるポリイミド繊維からなるものである。
【0017】
また、本願発明における非熱可塑性ポリイミド繊維としては、少なくともピロメリット酸二無水物と4,4−ジアミノジフェニルエーテルを原料として含むことを特徴とするポリイミド繊維であることが好ましい。少なくともピロメリット酸二無水物と4,4−ジアミノジフェニルエーテルを含むことでポリイミド繊維の耐熱性が向上する。
【0018】
本願発明においては、上記ピロメリット酸二無水物に加えて、下記の酸二無水物を併用することも可能である。
【0019】
例えば、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン二無水物、2,2−ビス[4−(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン二無水物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジベンゾエート−3,3´,4,4´−テトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’―ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3,3’,4―ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2´−ヘキサフルオロプロピリデンジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’―ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’―オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’―ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、メチルシクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4−テトラカルボキシブタン二無水物を併用することも可能である。
【0020】
中でもポリイミド繊維の耐熱性、耐薬品性を向上させる上で、併用できる酸二無水物の中でも、3,3’,4,4’―ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’―ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物を併用することが好ましい。
【0021】
尚、酸二無水物としてピロメリット酸二無水物以外の酸二無水物成分の使用量は、全酸二無水物を100モルとした場合に、70モル以下で使用することが耐熱性を損なわないので好ましい。特に好ましい使用量は、50モル以下で使用することが好ましい。
【0022】
また、本願発明においては、4,4-ジアミノジフェニルエーテルに加えて、下記のジアミンを併用することもできる。
【0023】
例えば、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、(4−アミノフェノキシフェニル)(3−アミノフェノキシフェニル)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、3,3’−ジアミノベンズアニリド、3,4’−ジアミノベンズアニリド、4,4’−ジアミノベンズアニリド、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、[4−(4−アミノフェノキシフェニル)][4−(3−アミノフェノキシフェニル)]メタン、1,1−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,1−[4−(4−アミノフェノキシフェニル)][4−(3−アミノフェノキシフェニル)]エタン、1,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エタン、1,2−[4−(4−アミノフェノキシフェニル)][4−(3−アミノフェノキシフェニル)]エタン、2,2−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−[4−(4−アミノフェノキシフェニル)][4−(3−アミノフェノキシフェニル)]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[3−(3−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−[4−(4−アミノフェノキシフェニル)][4−(3−アミノフェノキシフェニル)] −1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ケトン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ポリテトラメチレンオキシド−ジ−P−アミノベンゾエート、ポリ(テトラメチレン/3−メチルテトラメチレンエーテル)グリコールビス(4−アミノベンゾエート)、トリメチレン―ビス(4−アミノベンゾエート)、p-フェニレン−ビス(4−アミノベンゾエート)、m−フェニレン−ビス(4−アミノベンゾエート)、ビスフェノールA−ビス(4−アミノベンゾエート)を併用することも可能である。
【0024】
特に、最終的に得られるポリイミド樹脂の耐熱性や耐薬品性を向上させるためには、芳香族系のジアミンである、3,4−ジアミノジフェニルエーテル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼンを併用することが好ましい。特に、好ましくはp−フェニレンジアミンを併用することが好ましい。
【0025】
更には、側鎖にカルボキシル基や水酸基を有するジアミノ化合物として、例えば、2,4−ジアミノ安息香酸、2,5−ジアミノ安息香酸、3,5−ジアミノ安息香酸、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジカルボキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジカルボキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジカルボキシビフェニル、[ビス(4-アミノ-2-カルボキシ)フェニル]メタン、[ビス(4-アミノ-3-カルボキシ)フェニル]メタン、[ビス(3-アミノ-4-カルボキシ)フェニル]メタン、[ビス(3-アミノ-5-カルボキシ)フェニル]メタン、2,2−ビス[3−アミノ−4−カルボキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−アミノ−3−カルボキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−カルボキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−アミノ−3−カルボキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジカルボキシジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノ−4,4‘−ジカルボキシジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジカルボキシジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジカルボキシジフェニルスルフォン、2,3−ジアミノフェノール、2,4−ジアミノフェノール、2,5−ジアミノフェノール、3,5−ジアミノフェノール、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジヒドロキシビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’,5,5’−テトラヒドロキシビフェニル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス[3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル]プロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジヒドロキシジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、2,2−ビス[4−(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]プロパン、4,4’−ビス(4−アミノ−3−ヒドキシフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノ−3−ヒドロキシフェノキシ)フェニル]スルフォン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジハイドロキシジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジハイドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス[3−アミノ−4−カルボキシフェニル]プロパン、4,4’−ビス(4−アミノ−3−ヒドキシフェノキシ)ビフェニルを一部併用することもできる。
【0026】
このような側鎖にカルボキシル基や、水酸基を有するジアミノ化合物を併用することでポリイミド繊維を他の反応性樹脂(例えば、エポキシ化合物やイソシアネート化合物)で硬化させるときに、硬化しやすくなるので好ましい。また、エポキシ樹脂等の反応活性点を持たせることでエポキシ化合物やイソシアネート化合物等の架橋反応を行う樹脂により繊維間の結合ができるので繊維同士の絡み合いが増え耐熱性が向上するので好ましい。
【0027】
エポキシ化合物やイソシアネート化合物等の反応性化合物の反応方法としては、出来上がったポリイミド繊維を反応性樹脂溶液に浸漬したのち、加熱乾燥することで架橋したポリイミド繊維を得る方法や紡糸の際に反応性樹脂溶液を噴霧しながら紡糸する方法等の方法を採用することでポリイミド繊維を得ることができる。
【0028】
本願発明で、4,4−ジアミノジフェニルエーテルに併用することのできるジアミンの使用量は、全ジアミンを100モルとした場合に、80モル以下で使用することが耐熱性を損なわないので好ましい。特に好ましい使用量は、70モル以下で使用することが好ましい。また、芳香族系のジアミンと側鎖にカルボキシル基や水酸基を有するジアミノ化合物の使用割合は、適宜選定することが好ましい。特に、側鎖にカルボキシル基や水酸基を有するジアミノ化合物は、全ジアミンを100モルとした場合に、20モル以下で使用することでポリアミド酸溶液の貯蔵安定性を向上させることができるので好ましい。また、特に好ましい使用量は15モル以下である。
【0029】
本願発明のポリアミド酸溶液に用いられる有機溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ―ブチロラクトン等の有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジオキソラン等の水溶性エーテル化合物、プロピレングリコール、エチレングリコール等の水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトン等の水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリル等の水溶性ニトリル化合物等が用いられる。これらの溶媒は2種以上の混合溶媒として使用することも可能であり、特に制限されることはない。中でもN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンを用いることがポリアミド酸溶液の樹脂濃度を高くすることができるので好ましい。
【0030】
本願発明に好適に用いられるポリアミド酸溶液は、上記の酸二無水物とジアミンを上記有機溶剤中で反応させて得られるポリアミド酸溶液である。
【0031】
特に、ポリアミド酸の製造には、純度の高い酸二無水物を用いることが分子量を上げて紡糸し易いポリアミド酸溶液にする上で好ましい。本願発明で好ましい酸二無水物の純度は閉環構造を有する酸二無水物が、98%以上の高純度で含有されている物を用いることが好ましく、特に好ましくは、99%以上の高純度である。
【0032】
本願発明におけるポリアミド酸溶液の製造方法では、前記酸二無水物と前記ジアミンの使用量がそれぞれのモル数に対する比として好ましくは0.90〜1.10で制御することで本願発明の紡糸に適したポリアミド酸溶液を調整することができる。より好ましくは0.95〜1.05で反応させポリアミド酸とすることが好ましい。このような反応比率で反応ささせることでポリアミド酸からポリイミドへのイミド化の際に分子量の低下が起きず、耐熱性、耐薬品性に優れるポリイミド繊維を製造することができるので好ましい。
【0033】
ポリアミド酸溶液のポリマー濃度としては、固形分濃度として0.1〜50重量%、特に好ましくは1〜40重量%である。ポリアミド酸の重合条件としては、不活性ガス雰囲気下で−20〜60℃、好ましくは50℃以下で攪拌することで、目的とするポリアミド酸を重合することができる。
【0034】
上記ポリアミド酸溶液は、紡糸する前に、脱水剤、イミド化触媒、各種フィラー、酸化防止剤、難燃剤、消泡剤、潤滑材、着色剤等を1種あるいは2種以上、混合しておくこともできる。脱水剤としては、無水酢酸が好ましく用いられる。イミド化触媒としては、3級アミンを用いることが好ましく、より好ましいものは、ピリジン、ピコリン、イソキノリンを用いることが好ましい。
【0035】
尚、本願発明のポリアミド酸溶液は、B型粘度計で測定した場合に、23℃で300ポイズ以上10000ポイズ以下の溶液粘度を有することが紡糸したときに安定して紡糸できるので好ましい。特に好ましくは、溶液粘度は500ポイズ以上6000ポイズ以下、特に好ましい溶液粘度は1000ポイズ以上4000ポイズ以下に制御することが好ましい。
【0036】
さらに、E型粘度計もしくはB型粘度計で10回転/分で測定した場合と、2回転/分で測定した場合の粘度から下記一般式(1)を用いて算出されるチキソ指数が1.5以下であることが、紡糸繊維を気流で引き伸ばした時に安定して紡糸されやすいので好ましい。特に、チキソ指数が1.5より大きくなると溶液を気流で紡糸する際に、伸びなく紡糸できなくなるので好ましくない。また、本願発明の紡糸方法では、より好ましいチキソ指数は、1.00以上1.20以下である。このような範囲にすることで紡糸繊維をより細く紡糸することができるので好ましい。
【0037】
チキソ指数 = (2回転/分におけるポリアミド酸の粘度)/(10回転/分におけるポリアミド酸の粘度) 一般式(1)。
【0038】
<少なくとも湾曲部位を有する非熱可塑性ポリイミド繊維>
本願発明の少なくとも湾曲部位を有する非熱可塑性ポリイミド繊維について、作製した繊維の顕微鏡写真である図2を用いて説明を行う。
本願発明における湾曲部位とは、例えば、図2における白色矢印で示される部位の様に繊維が途中で湾曲した部位を意味する。より具体的には、繊維が弓なりに曲がっているものや、円を描いているものや、ループ状に螺旋をまいているもの等を意味する。また、非熱可塑性ポリイミド繊維を含む繊維集合体を構成するポリイミド繊維は、その全てが湾曲した形状を有するものである必要は無く、直線状のポリイミド繊維を含んでいてもかまわない。更には、湾曲部位を有するポリイミド繊維とは、ポリイミド繊維全体が湾曲していてもよいし、その一部のみが湾曲していてもよい。
【0039】
また、上記湾曲部位の曲率半径は、1μm以上1m以下の範囲内であることが好ましい。
このような湾曲部位を持つ繊維とすることで絡み合いながら嵩高くなり、嵩密度は小さくなる。このような繊維は、本願発明のポリイミド繊維の製造方法を適応させることにより製造することができる。
【0040】
また、このような非熱可塑性ポリイミド繊維を含む繊維集合体は、空隙率が高く、吸音性や保温性に優れることから、吸音・断熱材として用いることができる。特に、航空機用途の吸音・断熱材として使用することができる。
本願発明の少なくとも湾曲部位を有する非熱可塑性ポリイミド繊維の製造方法について下記に説明を行う。
【0041】
<紡糸方法>
本願発明の非熱可塑性ポリイミド繊維の製造方法は、上記ポリアミド酸溶液を気流にて引き取りながら紡糸し、積層してなる非熱可塑性ポリイミド繊維の製造方法を用いることで作製し得る。気流にて引き取るとは、紡糸工程において、紡糸原液を気流にて吹き飛ばしながら、引き伸ばして繊維状に成形する方法である。特に、外力として、気流を最も主要な外力として用いることで紡糸する方法である。
【0042】
詳細な製造装置を図3を用いて説明を行う。
【0043】
本願発明の非熱可塑性ポリイミド繊維の製造方法は、図3に示す気流発生装置1により発生した気流4により、紡糸口金2から吐出されたポリアミド酸溶液5を引き取ることにより表面の有機溶剤を一部除去しながら紡糸する方法である。このとき、外力として与えられた気流は、ポリアミド酸溶液を気流にて吹き飛ばしながら紡糸すると共に、気流の外力によって紡糸繊維を延伸する効果も呈する。また、気流によって紡糸された繊維は、比表面積が一度に増えることによりポリアミド酸溶液中に含まれる溶剤は、揮発することになる。
【0044】
また、ポリアミド酸溶液を紡糸する際に、気流にて引き取ると、繊維の気流接触面とその反対側の面(裏側の面)での乾燥状態に差異が生じることになる。このような乾燥状態に差異が生じることで紡糸して集めたポリアミド酸繊維の集合体を乾燥させると、乾燥に伴う収縮力の違いから繊維が湾曲することになる。このように繊維が湾曲することで最終的に得られるポリイミド繊維の嵩密度を小さくすることができるのである。
【0045】
本願発明の非熱可塑性ポリイミド繊維の繊維径は、紡糸口金2のオリフィス径及び、ポリアミド酸溶液の吐出量により制御することができる。オリフィス径が小さい程、ポリイミド繊維の繊維径を小さくすることができ、ポリアミド酸溶液の吐出量が少ない程、ポリイミド繊維の繊維径を小さくすることができる。
【0046】
本願発明の紡糸口金2のオリフィス径としては、直径0.01mm〜1.00mmの物を用いることが繊維を紡糸する際に安定的に紡糸できると共に、最終的に得られるポリイミド繊維の繊維径を100μm以下、好ましくは0.5〜50μmの範囲に制御し易くなるので好ましい。特に好ましいオリフィス径は、直径0.05mm〜0.80mmのオリフィスを用いることが好ましい。また、紡糸口金2の吐出口のオリフィス形状は、円形、楕円形、星型、アレイ型等、どのような形状でも使用することができる。特に、円形のオリフィスを用いることが紡糸繊維表面の溶剤量をコントロールし易くなるので好ましい。
【0047】
上記オリフィスに流すポリアミド酸溶液の流量は、オリフィス径と固形分濃度から適宜選定される。特に、ポリイミド繊維が太い場合には、ポリアミド酸溶液の吐出量を低下させることで100μm以下、好ましくは0.5〜50μmの繊維径に制御することができる。
【0048】
本願発明におけるポリアミド酸溶液5をひきとるための気流4は5m/秒以上400m/秒以下の風速を有していることが好ましく、特に好ましくは10m/分以上350m/秒以下であることが紡糸繊維を細くすることができるので好ましい。また、上記気流にすることで紡糸繊維の表面から効率よく溶剤を揮発させることができるので好ましい。
【0049】
上記、気流によりひきとられたポリアミド酸溶液は、捕集装置8により捕集される。捕集装置8の表面は、気流を上手く逃がすために、金網状の捕集装置11のようになっていることが好ましい。また、積層されたポリアミド酸繊維の集合体3の各繊維同士が結合しない様に、捕集装置8と紡糸口金2との距離は、1m以上が好ましく、特に2m以上であることが好ましい。捕集装置8と紡糸口金2の距離を1m以上に制御することで紡糸されたポリアミド酸繊維表面の溶剤濃度が低くなり、重なり合ったポリアミド酸繊維同士が結合することなく、それぞれ独立に存在することになる。また、ポリアミド酸繊維の嵩密度が低い集合体になるので、最終的に得られる非熱可塑性ポリイミド繊維からなる集合体の嵩密度を1.0〜10.0kg/mに制御することができる。特に、嵩密度を低くするには、捕集装置8と紡糸口金2の距離を遠くすることが好ましい。
【0050】
次いで、積層したポリアミド酸繊維の集合体3は、ベルトから引き剥がされて搬送方向6の方向に搬送される。搬送されたポリアミド酸繊維の集合体3は、インライン中或いはオフラインの加熱・乾燥装置9により残留揮発分を乾燥・除去されると共に、加熱イミド化される。また、ポリアミド酸繊維の集合体3は、端部を固定され搬送され、加熱・乾燥が実施される。或いは、搬送台上にのせられて加熱・乾燥されても良い。また、オフライン装置では、ポリアミド酸繊維の集合体3を特定の成形装置に入れて焼成することでポリイミド繊維の集合体を作製することも可能である。
【0051】
ポリアミド酸繊維の加熱・乾燥は80℃以上700℃以下の温度で、実施することが好ましく、特に好ましい温度範囲は、100℃以上600℃以下の温度で加熱・乾燥することが好ましい。このような温度範囲で加熱することで残留溶剤を完全に除去できると共に、イミド化反応を効率良く進めることができるので好ましい。また、加熱時間については、適宜選定することが好ましく、さらに、加熱炉の温度ステップは、適宜選定することが好ましい。
【0052】
ポリアミド酸繊維の集合体3は、焼成することでポリイミド繊維の集合体7となる。このポリイミド繊維の集合体7は、巻き取り装置10により巻き取られることで、ロール状のポリイミド繊維の集合体のロール12を形成することができる。
【0053】
本願発明の非熱可塑性ポリイミド繊維の繊維径は、紡糸口金のオリフィス径、紡糸気流の流速・流量およびポリアミド酸溶液の吐出量により適宜調整することができる。
【0054】
また、非熱可塑性ポリイミド繊維同士は、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ウレア樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂等のバインダー樹脂により結合されていてもよい。
【0055】
ポリイミド繊維同士の結合方法は、公知の方法を用いることができる。例えば、作製したポリイミド繊維に結合用のバインダー樹脂を含む溶液を噴霧する、或いは、上記バインダー樹脂を含む溶液に含浸させた後に、加熱・乾燥させることにより結合させることができる。
【0056】
また、紡糸の際に、上記バインダー樹脂を含む溶液を噴霧した雰囲気中を通過することにより、繊維集合体3’の状態で結合させることもできる。この場合には、繊維集合体3’を加熱・乾燥させる際に、バインダー樹脂も同様に加熱・乾燥させることができるので効率がよく、好ましい。
このようにポリイミド繊維同士を結合させることで、本願発明の特徴である低い嵩比重になりやすく、しかも、繊維同士が結合することで弾力性や、繊維の纏まりが向上するので好ましい。
【0057】
本願発明の非熱可塑性ポリイミド繊維は、高い空隙率を有するので吸音特性に優れており、特に、航空機用途の断熱・吸音材料としては好適に用いられる。また、他の用途としては例えば建築部材用途の吸音材料、車内や列車内の騒音を減らすための吸音材料、音響設備に用いられる吸音材料等の各種吸音材料に好適に用いることができる。
【0058】
また、高い空隙率を有しているので、例えば建築部材用途の断熱材料や、車のエンジンルーム内の断熱材料や、車内や列車内の断熱材料、各種高温配管を覆う断熱材料等の各種断熱材料にも好適に用いることができる。特に好適には、軽量であることから航空機用途の断熱材料として好適に用いることができる。
【0059】
また、非可塑性ポリイミド繊維でできているので、高い難燃性が求められる航空機用途の難燃カーペット代替や、難燃毛布代替等の難燃マットの用途にも広く用いることができる。
【0060】
また、特に本願発明の断熱・吸音材を航空機用途に用いる場合には、その取扱いの面から、上記の非熱可塑性ポリイミド繊維からなる繊維集合体を、該繊維集合体の包装材料で包み込んだ構造をする断熱・吸音材が好適に用いられる。
【0061】
包み込んだ構造とは、例えば、包装材料により袋を形成して、その中に入れた構造や、包装材料を接着剤により繊維集合体を挟み込む様に両面から貼り付けて包装材料/繊維集合体/包装材料といった構造や、繊維集合体に包装材料の原料となる樹脂溶液を塗布することにより表面をカバーした構造等の構造で繊維集合体を包み込むことを言う。
【0062】
特に、本願発明の包装材料は、ポリイミド樹脂、フッ素系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂の少なくとも1種類の樹脂からなることを特徴とした包装材料である。このような樹脂性の包装材料とすることで航空機用途の断熱・吸音材の重量をより軽くすることができる。
【0063】
中でも特に、ポリイミド樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂が軽量化に優れ、耐火性に優れることから好ましく用いられる。
【0064】
また、樹脂層の表面には、アルミニウム等の金属を蒸着させることにより包装材料を通して水蒸気等の通過を防ぐことができる。
【0065】
本願発明の断熱・吸音材は、航空機用途に用いた場合、軽量化に優れ、燃費の向上が図れ、しかも、難燃性・断熱性能に優れることから、航空機の火災等の際には、乗客が逃げるまでの安全性を十分に確保することができる。このような航空機を用いることで人的安全性の確保と、燃費向上、更には、環境安全性を発現することができる。
【実施例】
【0066】
以下本発明を実施例により説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【0067】
<平均繊維径>
平均繊維径の測定方法は、電子顕微鏡(日本電子データム株式会社製、JSM−6380LA)により繊維径を30本測定した。異形断面を有する繊維に関しては、繊維の最大の幅を直径として算出した。その平均値を平均繊維径とした。
【0068】
<ポリイミド樹脂の非熱可塑性の判定>
ポリアミド酸溶液を、厚みが1cmのガラス基板上に塗布して、室温から400℃まで3時間かけて乾燥し焼成を行った。出来上がったガラス基板上のポリイミドフィルムは完全に冷却した後に、水中に沈めることで剥がし獲った。このポリイミドフィルムを50℃のオーブン中で30分かけて完全に乾燥を行った。
乾燥したポリイミドフィルムを、9mm幅×40mm長さに切り出して、セイコー電子(株)製 DMS200の装置にセットした後に、引張りモードで、下記の測定条件で測定を行った。
【0069】
<測定条件>
プロファイル温度: 20℃〜400℃(昇温速度:3℃/分)
周波数: 5Hz
Lamp.(交流歪振幅目標値): 20μm
Fbase(測定中のテンションの最小値):0g
F0gain(測定中にテンションを交流力振幅に応じて変化させる場合の係数):3.0。
【0070】
この測定条件での測定によって、上述のプロファイル温度における貯蔵弾性率E’及び、損失弾性率E”の値がそれぞれ得られる。貯蔵弾性率の変曲点とは、急激に貯蔵弾性率が低下し始める時の温度である。図1の動的粘弾性を測定した例を用いて説明を行うと、貯蔵弾性率が変化し始めるまでの直線に対する接線50と、貯蔵弾性率が変化しはじめて変化し終わった直線に対する接線51とをひき、その交点52の温度を求める。この温度が貯蔵弾性率の変曲点となる。
【0071】
<垂直入射吸音率測定>
ASTM−E−1050の垂直入射吸音率試験に準じて、サンプル径φ29mm、厚み2.54cm(1インチ)、背後空気層0mm、測定周波数域500〜6300Hz(1/3オクターブバンド)の条件にて測定した。
【0072】
<嵩密度の測定方法>
得られた非熱可塑性ポリイミド繊維の集合体を10cm×10cm×2.5cmに切り出して、その重量を測定して嵩密度を測定した。
【0073】
<燃焼性試験方法>
FAR 25.856(a)に準拠した方法で測定を行った。
【0074】
(合成例1)
チッソ置換を行った2Lのガラス製セパラブルフラスコ中に、溶液を攪拌するための攪拌翼を取りつけた反応装置内で反応を行った。まず、4,4−ジアミノジフェニルエーテル(以下、4,4’-ODAと略す)91.8g(0.458モル)をN,N−ジメチルホルムアミド779gに溶解する。この溶液を40℃に保温した。この溶液中に、ピロメリット酸二無水物(以下PMDAと略す)95.0g(0.436mol)を投入して完全に溶解した。この溶液に5.0gのPMDAを66.5gのN,N−ジメチルホルムアミドに溶解した溶液を少量づつ添加して、溶液の粘度が23℃で3100ポイズになった時点で添加を止めて紡糸用の高分子樹脂溶液とした。尚、この溶液の23℃での粘度をB型粘度計で10回転/分と5回転/分の2つの回転数で溶液の粘度測定を行い、その溶液粘度からチキソ指数を求めると1.01であった。固形分濃度は18.5%であった。このポリイミド樹脂からポリイミドフィルムを作製して、貯蔵弾性率の測定を行ったところ、変曲点は360℃であり、非熱可塑性ポリイミド樹脂であることが明らかになった。
【0075】
(実施例1〜3)
合成例1で得られたポリアミド酸溶液を用いて紡糸実験を行った。紡糸実験は図3と同様の装置を用いて行った。但し、捕集装置8は固定した状態で紡糸を行い、得られたポリアミド酸繊維の集合体を下記条件で焼成することで少なくとも湾曲部位を有する非熱可塑性ポリイミド繊維を含む繊維集合体を得た。なお、表1には、非熱可塑性ポリイミド繊維の紡糸条件と評価結果を記載した。
吐出口金2のオリフィスは、円形で孔数は3の物を使用した。オリフィス径、ポリアミド酸溶液の吐出量は表1に記載の条件で吐出して紡糸を行った。紡糸口金2のオリフィスから気流発生装置1の吐出口までの距離は20cmに設置し、気流4はポリアミド酸溶液を引き取るように、ポリアミド酸溶液の吐出方向に垂直に気流があたるように設定して紡糸を行った。気流発生装置1からの風速はポリアミド酸繊維と交差するポイントでの風速を測定した結果を表1に記載する。この紡糸繊維を、2m飛行させて捕集ネット11上で捕集した。この状態で5時間捕集を行い、一部溶剤が残ったポリアミド酸繊維の集合体を得た。このポリアミド酸繊維の集合体を、捕集ネット11から取り外して、金属製の容器に入れて加熱・乾燥を行った。加熱温度は、100℃のオーブンで3分間乾燥を行い、100℃から420℃に1時間かけて除々に温度を上げた。420℃の状態で5分間焼成を行いポリイミド繊維の集合体を得た。
得られた非熱可塑性ポリイミド繊維の繊維集合体の各物性の評価を行った。その結果を表1に纏める。また、紡糸して得られた繊維集合体の電子顕微鏡写真を図4〜図6に記載する。
【0076】
【表1】

(参考例1)
現在航空機用途に使用されている低嵩密度のガラスウール製の断熱・吸音材料(Johns Manville社製、Microlite AA Premium NR、嵩密度5.5kg/m品)について同一条件で測定を行った。この製品と同等の吸音率を示せば、航空機用途の断熱・吸音材料として最適であると判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】動的粘弾性挙動の測定結果の例
【図2】本願発明のポリイミド不織布の顕微鏡写真(湾曲の説明図)
【図3】本願発明の紡糸装置の模式図
【図4】非熱可塑性ポリイミド繊維の繊維集合体(実施例1)の写真
【図5】非熱可塑性ポリイミド繊維の繊維集合体(実施例2)の写真
【図6】非熱可塑性ポリイミド繊維の繊維集合体(実施例3)の写真
【符号の説明】
【0078】
1 気流発生装置
2 紡糸口金
3 ポリアミド酸繊維の集合体
4 気流
5 ポリアミド酸溶液
6 搬送方向
7 ポリイミド繊維の集合体
8 捕集装置
9 加熱・乾燥装置
10 巻き取り装置
11 金網状の捕集装置
12 ポリイミド繊維の集合体のロール
50 貯蔵弾性率が変化し始めるまでの直線に対する接線
51 貯蔵弾性率が変化しはじめて変化し終わった直線に対する接線
52 交点(貯蔵弾性率の変曲温度)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも湾曲部位を有する非熱可塑性ポリイミド繊維を含み、嵩密度が1.0〜10.0kg/mの繊維集合体を用いた断熱・吸音材。
【請求項2】
前記非熱可塑性ポリイミド繊維が、少なくともピロメリット酸二無水物と4,4−ジアミノジフェニルエーテルを原料として含むことを特徴とする請求項1記載の断熱・吸音材。
【請求項3】
前記請求項1〜2のいずれか1項に記載の繊維集合体と、該繊維集合体の包装材料を用いた断熱・吸音材。
【請求項4】
請求項3記載の繊維集合体の包装材料が、ポリイミド樹脂、フッ素系樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトンケトン樹脂の少なくとも1種類の樹脂からなることを特徴とする請求項3に記載の断熱・吸音材。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の断熱・吸音材を用いた航空機用途の断熱・吸音材。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の断熱・吸音材を用いた航空機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−113582(P2009−113582A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−287286(P2007−287286)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】