説明

非破壊検査治具

【課題】小口径の配管のベンド部の曲率部及び直線部の探傷を容易にしかも短時間で一定の精度を確保した再現性のある非破壊検査を行うことができる非破壊検査治具を提供することである。
【解決手段】配管固定部19は配管のベンド部12の前後の直管部の外周面に当接して固定部材で固定され、探触子20を装着する探触子ホルダ21を保持した探触子ホルダ保持部22を支持部23にて配管固定部19の摺動面19aに摺動可能に支持する。そして、ガイド板25のガイドレール24は、支持部23の摺動面に沿って探触子ホルダ保持部22を配管のベンド部12の曲率部及び直線部の長手方向に案内する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、探触子を搭載して被検査体の表面を走査して被検査体を外部から非破壊検査するための非破壊検査治具に関する。
【背景技術】
【0002】
発電プラントのドレンラインなどの配管はベンド部(曲がり部)を有し、配管を流れる流体の方向を変えている。配管のベンド部は、エロージョン・コロージョンなどにより内部減肉が発生し易く、エロージョン・コロージョンが発生して内部減肉が進行すると内部流体の漏洩に至る場合がある。エロージョン・コロージョンは、腐食疲労と同じように機械的作用による侵食(erosion)と化学的作用による腐食(corrosion)との相互作用によって起きる減肉現象である。エロージョンは、流体が材料に繰り返し衝突することにより表面が機械的に損傷を受け、その一部が脱離していく現象であり、コロージョンはエロージョンに対して化学的に受ける損傷全般を指す。
【0003】
このようなエロージョン・コロージョンによる減肉現象に対して、超音波を用い配管の定点の肉厚測定による減肉管理を行っている。小口径配管のベンド部は、その曲率形状のため精度のある探傷結果を得ることが難しい。特に、小口径配管のベンド部がソケットエルボで形成されている場合には、ソケットエルボは外観形状が複雑であるので、そのベンド部の探傷はほとんど行われていない。そこで、通常は直近の直管部の検査結果にて代替えし、ベンド部の減肉の評価を行っている。また、その超音波探傷に代えて放射線透過試験が行われている。
【0004】
ここで、配管のベンド部のエルボを探傷するものとして、エルボを含む配管上に軌道を設定し、この軌道に沿って移動体を移動させ、その移動体の軌道と交差する方向に探傷アームを配置し、被検査体の被検査面に垂直な面内で回転可能に取り付けるようにしたものがある(特許文献1参照)。この探傷装置は、配管の直管とエルボとの溶接線を基準として探触子の距離を求め、エルボの探傷位置を特定しつつ探傷する。
【0005】
また、配管のベンド部を跨いで一対の取付具を配管の外周面に当接させ、その一対の取付具を固定バンドで配管に固定し、その固定部で、探触子を装着する探触子ホルダを保持した探触子ホルダ保持部を回動自在に支持して、探触子ホルダ保持部を配管のベンド部の長手方向及び周方向に回動させて、小口径の配管のベンド部に対して、容易にしかも短時間で非破壊検査を行うことができるようにしたものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭61−223510号公報
【特許文献2】特開2007−212406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、放射線透過試験(RT)による点検では、撮影を行った後にフィルムを現像して評価することになるので、撮影が不鮮明な場合や万一減肉が生じていた際の詳細測定には、再度撮影を行わなければならない。そのため、評価までに時間が掛かるだけでなく、作業員への負担も多くなる。
【0008】
また、特許文献1のものでは、装置構成が複雑で探傷アームの位置測定を行わなければならないので、小口径配管のベンド部に対して探傷することは困難でありその探傷作業にも時間がかかる。
【0009】
また、特許文献2のものでは、配管のベンド部の曲率を有する曲がり部分(曲率部)の探傷は可能であるが、配管のベンド部内の曲率を有していない部分(直線部)の探傷はできない。これは、探触子を保持した探触子ホルダ保持部は、回動支持部で回動自在に支持されているので、0°〜90°の範囲でしか摺動走査することができないからである。配管のベンド部は曲率を有する曲率部だけでなく、曲率を有していない直線部にも減肉が生じる場合があるので、配管のベンド部内の直線部の探傷も行えることが望ましい。
【0010】
本発明の目的は、小口径の配管のベンド部の曲率部及び直線部の探傷を容易にしかも短時間で一定の精度を確保した再現性のある非破壊検査を行うことができる非破壊検査治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1の発明に係わる非破壊検査治具は、配管のベンド部の前後の直管部の外周面に当接して固定部材で固定される配管固定部と、探触子を装着する探触子ホルダを保持した探触子ホルダ保持部を前記配管固定部に摺動可能に支持する支持部と、前記配管固定部に取り付けられ前記支持部の摺動面に沿って前記探触子ホルダ保持部を前記配管のベンド部の曲率部及び直線部の長手方向に案内するためのガイドレールを有したガイド板とを備えたことを特徴とする。
【0012】
請求項2の発明に係わる非破壊検査治具は、請求項1の発明において、前記探触子ホルダ保持部は、前記探触子ホルダが前記配管の外周面の周方向に摺動走査可能となるように前記探触子ホルダを保持するように構成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、探触子を保持した探触子ホルダ保持部を、ガイド板のガイドレールで配管のベンド部の曲率部及び直線部の長手方向に案内するので、配管のベンド部の曲率部だけでなく直線部の探傷も可能となる。また、非破壊検査治具を配管へ設置すれば非破壊検査治具の位置が固定され、探触子ホルダはガイド板のガイドレールで案内されるので、配管のベンド部の曲率部及び直線部の範囲において探傷を迅速に行うことができ、原子力発電所等での高線量配管の検査においては作業員の被爆量低減が望める。
【0014】
請求項2の発明によれば、探触子ホルダ保持部は、探触子ホルダを配管の外周面の周方向に摺動走査可能となるように保持しているので、配管の外周面の周方向の探傷も容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態に係わる非破壊検査治具をソケットエルボに適用した場合の構成図。
【図2】本発明の実施の形態における非破壊検査の検査対象であるソケットエルボの構造図。
【図3】図1の矢印A1方向から見た矢視図。
【図4】図2の矢印B1方向から見た矢視図。
【図5】本発明の実施の形態における配管固定部の正面図。
【図6】本発明の実施の形態におけるガイド板の正面図。
【図7】本発明の実施の形態における非破壊検査の検査対象であるソケットエルボの背側のベンド部に欠陥がない状態の断面図。
【図8】図7の断面位置での探触子ホルダ保持部の位置を変数とする検査対象の探傷画像データのデータ図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明の実施の形態に係わる非破壊検査治具をソケットエルボに適用した場合の構成図、図2は非破壊検査の検査対象であるソケットエルボの構造図、図3は図1の矢印A1方向から見た矢視図、図4は図2の矢印B1方向から見た矢視図である。
【0017】
図2において、本発明の実施の形態での非破壊検査の検査対象はソケットエルボ11であり、その検査対象部位はソケットエルボ11の背側であるとする。ソケットエルボ11は流体の流れ方向を変えるベンド部12と他の配管と連結するためのソケット部13とを有し、このソケット部13と他の配管の直管部14とは溶接部15で連結される。ソケットエルボ11のベンド部12は曲率を有する曲がり部分(曲率部)16と曲率を有していない部分(直線部)17とを有し、ベンド部12の背側の曲率部16及び直線部17が検査対象部位となる。そのベンド部12の背側の長手方向(矢印S1方向)に後述の探触子を走査して非破壊検査を行う。また、図4に示すように、ベンド部12の外周面の周方向(矢印S2方向)にも後述の探触子を走査して非破壊検査を行う。
【0018】
図1に示すように、ソケットエルボ11の外周部に非破壊検査治具18を装着する。非破壊検査治具18は、非破壊検査治具18をソケットエルボ11のソケット部13の外周面に固定するための両端部に把持部29を有した配管固定部19と、探触子20を装着した探触子ホルダ21を保持する探触子ホルダ保持部22と、探触子ホルダ保持部22を配管固定部19の摺動面19aに摺動可能に支持する支持部23と、配管固定部19の摺動面19aに沿って探触子ホルダ保持部22をソケットエルボ11のベンド部12の曲率部及び直線部の長手方向に案内するためのガイドレール24を有したガイド板25とから構成される。ガイドレール24には支持部23から突出した案内ネジ28が挿入されている。
【0019】
探触子ホルダ保持部22は、ガイド板25のガイドレール24に案内されて、ベンド部12の背側の長手方向(矢印S1方向)に移動し、その際に探触子ホルダ保持部22に取り付けられた支持部23は配管固定部19の摺動面19aを摺動する。これにより、探触子ホルダ21の探触子20がベンド部12の背側の曲率部及び直線部に接触して移動し、探触子20により探傷データを検出することになる。探触子20で検出された探傷データは図示省略の信号処理装置に入力される。
【0020】
また、案内ネジ28には、案内ネジ28の移動に伴って連動して動く連動棒30が取り付けられ、この連動棒30の他端は位置検出器31に取り付けられている。これによって、位置検出器31は探触子ホルダ保持部22の位置(探触子20の位置)を検出する。位置検出器31で検出された探触子20の位置は、前述の探傷データを入力し処理する信号処理装置に入力される。これにより、信号処理装置は、位置検出器31で検出された探触子ホルダ保持部22の位置に対応づけて検査対象の探傷データを記憶する。
【0021】
次に、図3に示すように、探触子ホルダ保持部22は扇形に形成され、その扇形部には案内孔26が設けられている。探触子ホルダ21が探触子ホルダ保持部22の案内孔26に案内されて、ソケットエルボ11のベンド部12の外周面の周方向(矢印S2方向)にも摺動走査が可能となっている。この場合、図示は省略しているが、探触子ホルダ21の摺動位置を検出する周方向位置検出器を設け、信号処理装置に周方向位置を入力して、周方向位置に対応づけて検査対象の探傷データを記憶することになる。
【0022】
また、配管固定部19はソケットエルボ11を挟むように扇形の探触子ホルダ保持部22の両側に設けられ、配管固定部19は探触子ホルダ保持部22の両端部の支持部23を摺動面19aで支持する。探触子ホルダ保持部22の両端部の支持部23には案内ネジ28が設けられ、配管固定部19に取り付けられたガイド板25のガイドレール24に挿入される。これにより、探触子ホルダ保持部22がガイドレール24に案内されてベンド部12の背側の長手方向(矢印S1方向)に走査されることになる。
【0023】
また、配管固定部19のソケットエルボ11と接触する部分には固定部材27が設けられており、この固定部材27がソケットエルボ11のベンド部12の前後の直管部の外周面に当接して配管固定部19をソケットエルボ11に固定する。
【0024】
図5は配管固定部19の正面図、図6はガイド板25の正面図である。図5に示すように、配管固定部19の両端部には、ソケットエルボ11のベンド部12の前後の直管部の外周面に当接して把持するための把持部29が設けられ、この把持部29のソケットエルボ11側(図5では背面側)に固定部材27が取り付けられる。固定部材27は、例えば吸着部材(吸盤、磁石など)で形成され、ソケットエルボ11を挟むように設けられた一対の配管固定部19の固定部材27でソケットエルボ11に吸着して固定される。配管固定部19には探触子ホルダ保持部22の支持部23が摺動する摺動面19aが形成されている。
【0025】
図6に示すように、ガイド板25の両端部には、配管固定部19に取り付けられる取付部32が設けられ、この取付部32の背面側に配管固定部19の把持部29が取り付けられる。また、ガイド板25にはガイドレール24及び位置検出器31を装着するための装着部33が設けられている。
【0026】
図7はソケットエルボ11の背側のベンド部12に欠陥がない状態の断面図、図8は図7の断面位置での探触子ホルダ保持部の位置を変数とする検査対象の探傷データのデータ図である。ソケットエルボ11のベンド部12の背側の曲率部16及び直線部17の位置は、図7に示すように、曲率部16の位置を0°〜90°で表した場合に、直線部17の位置は−α°及び90°+β°で表すことができる。図7では、α及びβが15°である場合を示している。
【0027】
直線部17では、−15°〜0°、90°〜105°の範囲で、探触子ホルダ保持部22を配管固定部19の摺動面19a上で直線的に摺動させる。この場合、探触子ホルダ保持部22は、ガイド板25のガイドレール24に案内されて、配管固定部19の摺動面19a上を直線的に摺動することになる。同様に、曲率部16では、0°〜90°の範囲で探触子ホルダ保持部22が配管固定部19の摺動面19a上を円弧状に摺動することになる。
【0028】
探触子ホルダ保持部22の探触子ホルダ21に保持された探触子20は、探触子ホルダ保持部22が配管固定部19の摺動面19a上を、−15°位置から105°位置まで移動することに伴い、ソケットエルボ11のベンド部12の−15°〜105°の範囲で探傷データを検出する。信号処理装置は、位置検出器31で検出された探触子ホルダ保持部22の位置に対応づけて、図8に示すように、探触子20で計測された探傷データを検査対象の探傷データとして記憶する。
【0029】
図8の曲線L1は、探触子ホルダ保持部22の各回動位置(−15°位置から105°位置)のベンド部12の厚さhを示す特性曲線である。−15°位置ではベンド部12の厚さはh1であり、0°位置では厚さhはh2、45°位置では厚さhはh3であり、90°位置では厚さhはh4であり、105°位置では厚さhはh5である。このように、ソケットエルボ11の背側のベンド部12が健全である場合には、ベンド部12の中央部の厚さが最も厚く両端部に行くに従って厚さhが徐々に薄くなるソケットエルボ11の元々の形状に沿った形でのベンド部12の厚さhの特性曲線が得られる。そして、本発明の実施の形態では、曲率部16位置の0°〜90°だけでなく、直線部17位置の−15°〜0°、90°〜105°の範囲の厚さも測定できる。
【0030】
以上の説明では、ソケットエルボ11のベンド部12に非破壊検査治具18を装着して探傷する場合について説明したが、BWL(Butt-Welding Type)型エルボ(突き合わせ溶接型エルボ)に適用することも可能である。
【0031】
本発明の実施の形態によれば、探触子20を装着した探触子ホルダ21を探触子ホルダ保持部22で保持し、その探触子ホルダ保持部22をガイド板25のガイドレール24で配管のベンド部12の曲率部及び直線部の長手方向に案内するので、配管のベンド部12の曲率部だけでなく直線部の探傷も可能となる。
【0032】
また、非破壊検査治具18を配管固定部19の固定部材27で配管に固定するので、非破壊検査治具18の位置が固定される。従って、ガイド板25のガイドレール24で案内される探触子ホルダ保持部22の支持部23は、安定して配管固定部19の摺動面19aを摺動できる。これにより、配管のベンド部12の曲率部及び直線部の範囲において探傷を迅速に行うことができ、原子力発電所等での高線量配管の検査においては作業員の被爆量低減が望める。また、探触子ホルダ保持部22は、探触子ホルダ21を配管の外周面の周方向にも摺動走査できるので、配管のベンド部12の広範囲に渡って探傷を行うことができる。
【符号の説明】
【0033】
11…ソケットエルボ、12…ベンド部、13…ソケット部、14…直管部、15…溶接部、16…曲率部、17…直線部、18…非破壊検査治具、19…配管固定部、20…探触子、21…探触子ホルダ、22…探触子ホルダ保持部、23…支持部、24…ガイドレール、25…ガイド板、26…案内孔、27…固定部材、28…案内ネジ、29…把持部、30…連動棒、31…位置検出器、32…取付部、33…装着部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配管のベンド部の前後の直管部の外周面に当接して固定部材で固定される配管固定部と、
探触子を装着する探触子ホルダを保持した探触子ホルダ保持部を前記配管固定部に摺動可能に支持する支持部と、
前記配管固定部に取り付けられ前記支持部の摺動面に沿って前記探触子ホルダ保持部を前記配管のベンド部の曲率部及び直線部の長手方向に案内するためのガイドレールを有したガイド板と、
を備えたことを特徴とする非破壊検査治具。
【請求項2】
前記探触子ホルダ保持部は、前記探触子ホルダが前記配管の外周面の周方向に摺動走査可能となるように前記探触子ホルダを保持するように構成されたことを特徴とする請求項1記載の非破壊検査治具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−160030(P2010−160030A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−1850(P2009−1850)
【出願日】平成21年1月7日(2009.1.7)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【Fターム(参考)】