説明

非破壊検査装置および非破壊検査方法

【課題】 多軸ロボットを用いることなく、人間の手で走査する場合や、自走式ロボットに搭載して走査する場合でも、検査対象物表面からの磁界を一定の感度で測定する。
【解決手段】 検査対象物表面からの磁界を測定し、測定磁界データを出力する磁気センサと、前記磁気センサのセンサ部の前記検査対象物表面に対する垂直位置を検出し、垂直位置データを出力する1つ以上の垂直位置検出部と、前記測定磁界データと前記垂直位置データとに基づいて、前記検査対象物表面に平行な所定の基準面における基準磁界データを算出して出力するデータ処理部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非破壊検査装置および非破壊検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検査対象物を物理的に破壊することなく、きずや欠陥などの不連続部を検出する非破壊検査技術として、検査対象物表面からの磁界(磁場)を磁気センサによって測定するものが知られている。例えば、磁気センサとして、高感度のFG(Flux-Gate:フラックスゲート)センサやMI(Magneto-Impedance:磁気インピーダンス)センサ、さらに高感度のSQUID(Superconducting QUantum Interference Device:超伝導量子干渉素子)などを用いて、検査対象物の内部や表面の不連続部に起因する漏洩磁束を測定することによって、当該不連続部を検出することができる。
【0003】
また、コイルから発生する磁界によって検査対象物に渦電流を誘導し、当該渦電流によって発生する磁界を測定して検査対象物の不連続部を検出する、渦電流探傷試験(渦流探傷試験)と呼ばれる非破壊検査方法(以下、渦電流法と称する)も一般に知られている。例えば、特許文献1では、当該渦電流法によって測定された磁界の各周波数成分の振幅を算出し、異なる周波数成分の振幅間で差分を計算することによって、磁気センサと検査対象物との距離の変化による影響を低減することができる非破壊検査装置が開示されている。
【0004】
ところで、上記のような非破壊検査装置は、固定された磁気センサのセンサ面に対して略平行に検査対象物側を移動させる走査方式のものと、固定された検査対象物表面に対して略平行に磁気センサ側を移動させる走査方式のものとに大別することができる。そして、例えば電力設備などのように、検査対象物が大型構造物である場合には、一般に、磁気センサ側の走査方式が採用される。例えば、特許文献2では、多軸ロボットを用いて磁気センサを走査することによって、磁気センサと検査対象物との距離および角度を一定に保つ非破壊検査装置・方法が開示されている。
【0005】
このようにして、電力設備などの検査対象物に対して多軸ロボットを用いて磁気センサを走査し、検査対象物表面からの磁界を一定の感度で測定することによって、検査対象物の不連続部を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−149212号公報
【特許文献2】特開2006−329632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、多軸ロボットを用いる上記の非破壊検査装置・方法では、まず多軸ロボットを設置する工程と、さらに、形状認識センサによって検査対象物の形状を計測し、当該形状に沿って磁気センサを走査させる経路や姿勢を決定する事前工程とを必要とする。特に、例えば発電所や変電所などのように、検査対象物が多軸ロボットの可動範囲より大きい場合には、多軸ロボットを設置しなおす必要があり、その都度、上記の設置工程と事前工程とに時間がかかることとなる。また、例えば送電鉄塔などのように、交通が不便な場所に検査対象物がある場合には、多軸ロボットを設置する場所を確保することが困難な場合もある。
【0008】
そのため、当該非破壊検査装置・方法は、適用範囲が多軸ロボットを設置可能な場所に制限され、また、広範囲を検査する場合には作業効率が悪くなる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した課題を解決する主たる本発明は、検査対象物表面からの磁界を測定し、測定磁界データを出力する磁気センサと、前記磁気センサのセンサ部の前記検査対象物表面に対する垂直位置を検出し、垂直位置データを出力する1つ以上の垂直位置検出部と、前記測定磁界データと前記垂直位置データとに基づいて、前記検査対象物表面に平行な所定の基準面における基準磁界データを算出して出力するデータ処理部と、を有することを特徴とする非破壊検査装置である。
【0010】
本発明の他の特徴については、添付図面及び本明細書の記載により明らかとなる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、多軸ロボットを用いることなく、人間の手で走査する場合や、自走式ロボットに搭載して走査する場合でも、検査対象物表面からの磁界を一定の感度で測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の第1実施形態における非破壊検査装置の構成を示すブロック図である。
【図2】垂直位置データに基づいて、磁気センサのセンサ面の検査対象物表面に対する傾斜角度を算出する工程の一例を説明する図である。
【図3】測定磁界データと垂直位置データおよび傾斜角度とに基づいて、基準磁界データを算出する工程の一例を説明する図である。
【図4】本発明の第2実施形態における非破壊検査装置の構成を示すブロック図である。
【図5】本発明の第3実施形態における非破壊検査装置の構成を示すブロック図である。
【図6】本発明の第4実施形態における非破壊検査装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書および添付図面の記載により、少なくとも以下の事項が明らかとなる。
【0014】
<第1実施形態>
===非破壊検査装置の構成===
以下、図1を参照して、本発明の第1の実施形態における非破壊検査装置の構成について説明する。
【0015】
図1に示されている非破壊検査装置は、検査対象物9の内部や表面の不連続部91を検出するための装置であり、走査部1、磁気センサ2、およびデータ処理部4aを含んで構成されている。また、走査部1の内部には、磁気センサ2の検出コイル21(センサ部)、および垂直位置検出部3aないし3cが配置されている。なお、検査対象物9の表面に対する検出コイル21の垂直位置を正確に検出することができるよう、検出コイル21のコイル面(センサ面)と同一平面上に垂直位置検出部3aないし3cを配置することが望ましい。
【0016】
磁気センサ2からは、測定磁界データH2が出力されている。また、垂直位置検出部3aおよび3cからそれぞれ出力される垂直位置データRaおよびRcは、いずれも垂直位置検出部3bに入力されている。さらに、垂直位置検出部3bからは、入力された垂直位置データRaおよびRcと、自身の垂直位置データRbとが合わせて出力されている。そして、データ処理部4aには、測定磁界データH2と、垂直位置データRaないしRcとが入力され、データ処理部4aから出力される基準磁界データH0は、当該非破壊検査装置から出力されている。なお、垂直位置データRaおよびRcは、データ処理部4aに直接入力されていてもよい。
【0017】
===非破壊検査装置の動作===
次に、本実施形態における非破壊検査装置の動作について説明する。なお、本実施形態において、磁気センサ2は、検査対象物9の不連続部91に起因する漏洩磁束Hを測定するのに十分な感度を有しているものとする。本実施形態では、一例として、SQUIDを用いる場合について説明する。
【0018】
走査部1は、例えば人間の手や自走式ロボットによって保持され、固定された検査対象物9の表面に対して、検出コイル21、および垂直位置検出部3aないし3cが略平行に移動する。
【0019】
磁気センサ2は、検査対象物9の表面からの磁界を検出コイル21によって検出し、検出コイル21の位置における磁界の強さまたは磁束密度に応じた測定磁界データH2を出力する。以下の説明においては、検出コイル21の位置を検出コイル21の中心Mで代表させることとする。
【0020】
垂直位置検出部3aないし3cは、それぞれ検査対象物9の表面からの距離を測定することによって、検査対象物9の表面に対する検出コイル21の垂直位置を検出し、垂直位置データRaないしRcを出力する。また、垂直位置検出部3aないし3cは、一例として、それぞれレーザ式変位センサを備える。レーザ式変位センサは、検査対象物9の表面にレーザ光を照射し、その反射光を受光することによって、検査対象物9の表面からの距離を測定することができる。
【0021】
データ処理部4aは、測定磁界データH2と垂直位置データRaないしRcとに基づいて、検査対象物9の表面に平行な所定の基準面における基準磁界データH0を算出して出力する。基準磁界データH0の算出方法は、大別して、検査対象物9の表面に対する検出コイル21のコイル面の傾斜角度θを算出する角度算出工程と、基準磁界データH0を算出するデータ補正工程とからなる。
【0022】
以下、一例として、検出コイル21、および垂直位置検出部3aないし3cの具体的な配置を示すとともに、当該配置の場合における基準磁界データH0の算出方法について、角度算出工程、データ補正工程の順に説明する。
【0023】
===角度算出工程===
まず、図2を参照して、垂直位置データRaないしRcに基づいて傾斜角度θを算出する角度算出工程について説明する。
【0024】
図2において、垂直位置検出部3aないし3cは、一例として、実線で示される正三角形ABCの頂点にそれぞれ配置されている。また、図示されていない検出コイル21は、コイル面が正三角形ABCと同一平面上にあり、中心Mが正三角形ABCの重心と一致している。
【0025】
ここで、図2に示すように、点Aを原点(0,0,0)とし、検査対象物9の表面の法線方向をZ軸とし、辺ABがXZ平面上にあるような直交座標系を設定すると、点Bおよび点Cの座標は、それぞれ(Xb,0,Zb)および(Xc,Yc,Zc)と表すことができる。なお、ZbおよびZcは、それぞれ
Zb=Rb−Ra、
Zc=Rc−Ra
となり、いずれも垂直位置データRaないしRcから求めることができる。また、図2において、短破線で示される三角形AB0C0は、正三角形ABCのXY平面への正射影を示しており、長破線で示される三角形A1B1C1は、正三角形ABCの検査対象物9の表面への正射影を示している。
【0026】
以下、点Aから点Bおよび点Cに向かうベクトルをそれぞれv_ABおよびv_ACと表すこととし、正三角形ABCの1辺の長さを2aとすると、
|v_AB|=Xb+Zb=4a
|v_AC|=Xc+Yc+Zc=4a
の関係が成立する。また、正三角形ABCの内角は、いずれも60°であるので、ベクトルv_ABおよびv_ACの内積(ドット積)を計算すると、
v_AB・v_AC=XbXc+ZbZc=2a
の関係が成立する。
【0027】
以上の関係式から、Xb、XcおよびYcは、それぞれ
Xb=4a−Zb
Xc=(2a−ZbZc)/Xb
Yc=4a−Zc−(2a−ZbZc)/Xb
と表すことができる。
【0028】
一方、正三角形ABCの法線ベクトルv_nをベクトルv_ABおよびv_ACの外積(クロス積)から求めると、
v_n=v_AB×v_AC=(−ZbYc,ZbXc−XbZc,XbYc)
となり、法線ベクトルv_nの大きさは、
|v_n|=|v_AB||v_AC|sin60°=(2√3)a
である。また、検査対象物9の表面の単位法線ベクトルは、XY平面の単位法線ベクトルv_z=(0,0,1)と等しく、傾斜角度θは、法線ベクトルv_nと単位法線ベクトルv_zとがなす角度に等しいので、両法線ベクトルの内積を計算すると、
v_n・v_z=XbYc=(2√3)acosθ
の関係が成立する。
【0029】
したがって、傾斜角度θは、
cosθ=(1/12a)[Xb(4a−Zc)−(2a−ZbZc)
=1−(Zb+Zc−ZbZc)/3a
と表すことができる。前述したように、ZbおよびZcは、垂直位置データRaないしRcから求めることができるため、垂直位置データRaないしRcに基づいて傾斜角度θを算出することができる。なお、後述するように、基準磁界データH0の算出には、cosθが用いられる。
【0030】
なお、三角形ABCが正三角形以外の場合であっても、2辺の長さおよびその間の角度から上記と同様に関係式を導くことができ、傾斜角度θを算出することができる。したがって、少なくとも3つの垂直位置検出部を用いて傾斜角度θを算出することができるため、走査部1に4つ以上の垂直位置検出部が配置されていてもよい。
【0031】
===データ補正工程===
次に、図3を参照して、測定磁界データH2と、垂直位置データRaないしRc、および傾斜角度θとに基づいて、基準磁界データH0を算出するデータ補正工程について説明する。なお、図3は、走査部1と検査対象物9との位置関係を、XY平面に平行な方向から見た図である。
【0032】
前述したように、検出コイル21のコイル面は、検査対象物9の表面に対して傾斜角度θだけ傾斜しているため、検出コイル21のコイル面が検査対象物9の表面に平行な場合に測定されるべき補正磁界H1は、
H1=H2/cosθ
となり、傾斜角度θの影響を補正することができる。
【0033】
なお、例えば0°≦θ≦20°の場合には、1≦H1/H2≦1.06であるため、傾斜角度θの補正の効果は限定的である。そして、走査部1を人間の手で走査する場合には、傾斜角度θを20°以下に保つことはさほど困難でないため、角度算出工程を省略することも可能である。この場合、代替手段として、当該非破壊検査装置から垂直位置データRaないしRcも出力し、それらの最大値および最小値の差から、検出コイル21のコイル面が検査対象物9の表面に対して傾斜し過ぎていることを検知できるようにしてもよい。
【0034】
一方、検出コイル21の中心Mは、図2に示した正三角形ABCの重心と一致するため、検査対象物9の表面から中心Mで代表される検出コイル21までの距離Rmは、
Rm=(Ra+Rb+Rc)/3
となる。また、検査対象物9の表面から所定の基準面までの距離をR0とすると、基準磁界データH0は、
H0=H1(Rm/R0
=H2(Ra+Rb+Rc)/(9R0cosθ)
と表すことができる。したがって、測定磁界データH2と、垂直位置データRaないしRc、および傾斜角度θとに基づいて、基準磁界データH0を算出することができる。
【0035】
このようにして、測定磁界データH2と垂直位置データRaないしRcとに基づいて基準磁界データH0を算出することによって、検査対象物9の表面と検出コイル21との距離Rmおよび傾斜角度θの影響を補正することができる。したがって、本実施形態の非破壊検査装置は、走査部1を人間の手や自走式ロボットによって走査する場合でも、検査対象物9の表面からの磁界を一定の感度で測定することができる。
【0036】
なお、本実施形態のように、各垂直位置検出部は、正多角形の頂点に配置し、検出コイル21は、コイル面が当該正多角形と同一平面上にあり、中心Mが当該正多角形の重心と一致するように配置することによって、走査部1の傾斜方向を考慮する必要がなく、距離Rmを各垂直位置データの算術平均として求めることができる。
【0037】
<第2実施形態>
===非破壊検査装置の構成===
以下、図4を参照して、本発明の第2の実施形態における非破壊検査装置の構成について説明する。
本実施形態の非破壊検査装置は、第1実施形態の非破壊検査装置を、特に渦電流法に好適な構成としたものであり、垂直位置検出部3aないし3cは、それぞれ渦電流式変位センサを備えている。なお、図4においては、垂直位置検出部3aないし3cのうち、それぞれ渦電流式変位センサのコイル31aないし31cのみが示されている。
【0038】
===非破壊検査装置の動作===
次に、本実施形態における非破壊検査装置の動作について説明する。
走査部1は、固定された検査対象物9の表面に対して、検出コイル21、および渦電流式変位センサのコイル31aないし31cが略平行に移動する。
【0039】
垂直位置検出部3aないし3cは、それぞれ渦電流式変位センサを用いて検査対象物9の表面からの距離を測定することによって、垂直位置データRaないしRcを出力する。渦電流式変位センサは、まず、コイルから高周波磁界を発生させ、検査対象物9の表面に渦電流を誘導する。そして、当該渦電流が発生させる磁界によって高周波磁界の変化が妨げられるため、コイルのインピーダンスの変化に基づいて、検査対象物9の表面からの距離を測定することができる。
【0040】
本実施形態の非破壊検査装置では、コイル31aないし31cの少なくとも1つから発生する交流磁界によって検査対象物9に渦電流を誘導し、磁気センサ2は、当該渦電流によって発生する磁界を検出コイル21によって検出し、測定磁界データH2を出力する。なお、当該磁界の測定に用いる交流磁界の周波数を高くすると、表皮効果によって検査対象物9の略表面のみに渦電流が誘導され、検査対象物9の表面の不連続部91を検出することができる。反対に、周波数を低くすると、表皮深さが大きくなるため、検査対象物9の内部の不連続部91を検出することができるようになる。また、当該交流磁界は、複数の周波数成分を含んでいてもよい。
【0041】
第1実施形態の非破壊検査装置と同様に、データ処理部4aは、測定磁界データH2と垂直位置データRaないしRcとに基づいて、基準磁界データH0を算出して出力する。
【0042】
このようにして、渦電流法を用いる本実施形態の非破壊検査装置において、垂直位置検出部3aないし3cがそれぞれ渦電流式変位センサを備えることによって、コイル31aないし31cの少なくとも1つから、磁界の測定に用いる交流磁界を発生させることもできる。
【0043】
<第3実施形態>
===非破壊検査装置の構成===
以下、図5を参照して、本発明の第3の実施形態における非破壊検査装置の構成について説明する。
図5に示されている非破壊検査装置は、第1実施形態の非破壊検査装置に対して、データ処理部4aの代わりにデータ処理部4bを含んで構成されている。また、走査部1の内部には、垂直位置検出部3bの代わりに垂直・水平位置検出部5が配置されている。
【0044】
第1実施形態の非破壊検査装置と同様に、磁気センサ2からは、測定磁界データH2が出力されている。また、垂直位置検出部3aおよび3cからそれぞれ出力される垂直位置データRaおよびRcは、いずれも垂直・水平位置検出部5に入力されている。さらに、垂直・水平位置検出部5からは、入力された垂直位置データRaおよびRcと、自身の垂直位置データRbおよび水平変位データ(Dx,Dy)とが合わせて出力されている。そして、データ処理部4bには、測定磁界データH2と、垂直位置データRaないしRcと、水平変位データ(Dx,Dy)とが入力され、データ処理部4bから出力される基準磁界データH0(x,y)は、当該非破壊検査装置から出力されている。なお、垂直位置データRaおよびRcは、データ処理部4bに直接入力されていてもよい。
【0045】
===非破壊検査装置の動作===
次に、本実施形態における非破壊検査装置の動作について説明する。
走査部1は、固定された検査対象物9の表面に対して、検出コイル21、垂直位置検出部3a、3c、および垂直・水平位置検出部5が略平行に移動する。
【0046】
第1実施形態の非破壊検査装置と同様に、磁気センサ2は、検査対象物9の表面からの磁界を検出コイル21によって検出し、測定磁界データH2を出力する。
【0047】
垂直位置検出部3a、3c、および垂直・水平位置検出部5は、それぞれ検査対象物9の表面からの距離を測定することによって、垂直位置データRa、Rc、およびRbを出力する。さらに、垂直・水平位置検出部5は、検査対象物9の表面に対する検出コイル21の水平位置の変位を示す水平変位データ(Dx,Dy)を出力する。
【0048】
一例として、垂直・水平位置検出部5は、3軸の変位センサを備え、検査対象物9の表面に垂直な方向の距離を垂直位置データRbとして、検査対象物9の表面に平行な方向の移動量を水平変位データ(Dx,Dy)として、それぞれ出力する。また、他の例として、垂直・水平位置検出部5は、3軸の加速度センサを備え、当該3軸の方向の移動量と前述した法線ベクトルv_nとを用いて、水平変位データ(Dx,Dy)を算出して出力する。
【0049】
データ処理部4bは、水平変位データ(Dx,Dy)に基づいて、検査対象物9の表面に対する検出コイル21の相対的な水平位置(x,y)を算出する。さらに、データ処理部4bは、基準磁界データH0を当該水平位置(x,y)と対応付け、基準磁界データH0(x,y)として出力する。
【0050】
このようにして、基準磁界データH0を、検出コイル21の相対的な水平位置(x,y)と対応付けることによって、出力される基準磁界データH0(x,y)から、検査対象物9の表面上の磁界分布図を作成することができる。
【0051】
<第4実施形態>
===非破壊検査装置の構成===
以下、図6を参照して、本発明の第4の実施形態における非破壊検査装置の構成について説明する。
本実施形態の非破壊検査装置は、第3実施形態の非破壊検査装置を、さらに望ましい構成としたものであり、垂直・水平位置検出部5は、例えばCCD(Charge Coupled Device:電荷結合素子)イメージセンサや、CMOS(Complementary Metal-Oxide Semiconductor:相補型金属酸化膜半導体)イメージセンサなどを用いたカメラ51を備えている。なお、図6においては、垂直・水平位置検出部5のうち、カメラ51のみが示されている。
【0052】
===非破壊検査装置の動作===
次に、本実施形態における非破壊検査装置の動作について説明する。
第3実施形態の非破壊検査装置と同様に、走査部1は、固定された検査対象物9の表面に対して、検出コイル21、垂直位置検出部3a、3c、および垂直・水平位置検出部5が略平行に移動する。
【0053】
第1実施形態の非破壊検査装置と同様に、磁気センサ2は、検査対象物9の表面からの磁界を検出コイル21によって検出し、測定磁界データH2を出力する。
【0054】
第3実施形態の非破壊検査装置と同様に、垂直位置検出部3a、3c、および垂直・水平位置検出部5は、それぞれ検査対象物9の表面からの距離を測定することによって、垂直位置データRa、Rc、およびRbを出力する。さらに、垂直・水平位置検出部5は、カメラ51を用いて検査対象物9の表面を撮像することによって、水平変位データを画像データImとして出力する。
【0055】
データ処理部4cは、水平変位データである画像データImに基づいて、検査対象物9の表面に対する検出コイル21の相対的な水平位置(x,y)を算出する。さらに、データ処理部4cは、基準磁界データH0および画像データImを当該水平位置(x,y)と対応付け、基準磁界データH0(x,y)および画像データIm(x,y)として出力する。
【0056】
このようにして、基準磁界データH0および画像データImを、検出コイル21の相対的な水平位置(x,y)と対応付けることによって、出力される基準磁界データH0(x,y)および画像データIm(x,y)から、検査対象物9の表面の撮像画像上に磁界分布をマッピングすることができる。
【0057】
前述したように、図1に示した非破壊検査装置において、測定磁界データH2と垂直位置データRaないしRcとに基づいて、検査対象物9の表面と検出コイル21との距離Rmの影響を補正した基準磁界データH0を算出して出力することによって、走査部1を人間の手や自走式ロボットによって走査する場合でも、検査対象物9の表面からの磁界を一定の感度で測定することができる。
【0058】
また、垂直位置データRaないしRcに基づいて、検査対象物9の表面と検出コイル21との傾斜角度θを算出することによって、さらに傾斜角度θの影響を補正した基準磁界データH0を算出して出力することができる。
【0059】
また、検出コイル21のコイル面と同一平面上の正多角形の頂点に各垂直位置検出部を配置し、中心Mが当該正多角形の重心と一致するように検出コイル21を配置することによって、走査部1の傾斜方向を考慮する必要がなく、距離Rmを各垂直位置データの算術平均として求めることができる。
さらに、当該正多角形が正三角形の場合に、必要な垂直位置検出部の個数が最小となる。
【0060】
また、図4に示した渦電流法を用いる非破壊検査装置において、垂直位置検出部3aないし3cがそれぞれ渦電流式変位センサを備えることによって、コイル31aないし31cの少なくとも1つから、磁界の測定に用いる交流磁界を発生させることができる。
【0061】
また、垂直位置検出部3aないし3cがそれぞれレーザ式変位センサを備えることによって、渦電流を誘導することができない検査対象物9の内部や表面の不連続部91を検出するための非破壊検査装置を構成することができる。
【0062】
また、図5に示した非破壊検査装置において、検査対象物9の表面に対する検出コイル21の相対的な水平位置(x,y)と対応付けられた基準磁界データH0(x,y)を出力することによって、検査対象物9の表面上の磁界分布図を作成することができる。
【0063】
また、図6に示した非破壊検査装置において、垂直・水平位置検出部5が水平変位データを画像データImとして出力するカメラ51を備え、さらに水平位置(x,y)と対応付けられた画像データIm(x,y)を出力することによって、検査対象物9の表面の撮像画像上に磁界分布をマッピングすることができる。
【0064】
また、図1、および図4ないし図6に示した非破壊検査装置を用いて、検査対象物9の表面と検出コイル21との距離Rmの影響を補正した基準磁界データH0を算出することによって、検査対象物9の表面からの磁界を一定の感度で測定し、検査対象物9の内部や表面の不連続部91を確実に検出することができる。
【0065】
また、検査対象物9の表面と検出コイル21との距離Rmおよび傾斜角度θの影響を補正した基準磁界データH0を算出することによって、例えば走査部1を自走式ロボットによって走査する場合のように、傾斜角度θを小さな値に保つことが困難な場合でも、検査対象物9の表面からの磁界を一定の感度で測定することができる。
【0066】
なお、上記実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明にはその等価物も含まれる。
【0067】
上記実施形態では、固定された検査対象物9に対して、内部に検出コイル21が配置された走査部1を移動させる走査方式の非破壊検査装置について説明したが、これに限定されるものではない。本発明の非破壊検査装置は、固定された検出コイル21に対して検査対象物9を移動させる走査方式の非破壊検査装置として用いてもよい。この場合も、同様に、検査対象物9の表面と検出コイル21との距離Rmおよび傾斜角度θの影響を補正することができる。
【0068】
上記実施形態では、検査対象物9の不連続部91に起因する漏洩磁束Hを測定するのに十分な感度を有する磁気センサ2として、SQUIDを用いる場合について説明したが、これに限定されるものではない。このような高感度の磁気センサとして、SQUID以外にFGセンサやMIセンサを用いてもよい。
【0069】
上記実施形態では、一例として、各垂直位置検出部は、レーザ式変位センサや渦電流式変位センサを用いて検査対象物9の表面からの距離を測定しているが、これに限定されるものではない。各垂直位置検出部が備える変位センサは、超音波式や接触式のものであってもよい。
【符号の説明】
【0070】
1 走査部
2 磁気センサ
3a、3b、3c 垂直位置検出部
4a、4b、4c データ処理部
5 垂直・水平位置検出部
9 検査対象物
21 検出コイル
31a、31b、31c コイル
51 カメラ
91 不連続部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物表面からの磁界を測定し、測定磁界データを出力する磁気センサと、
前記磁気センサのセンサ部の前記検査対象物表面に対する垂直位置を検出し、垂直位置データを出力する1つ以上の垂直位置検出部と、
前記測定磁界データと前記垂直位置データとに基づいて、前記検査対象物表面に平行な所定の基準面における基準磁界データを算出して出力するデータ処理部と、
を有することを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項2】
前記垂直位置検出部を3つ以上有し、
前記データ処理部は、前記垂直位置データに基づいて、前記磁気センサのセンサ面の前記検査対象物表面に対する傾斜角度をさらに算出し、前記測定磁界データと前記垂直位置データおよび前記傾斜角度とに基づいて、前記基準磁界データを算出して出力することを特徴とする請求項1に記載の非破壊検査装置。
【請求項3】
前記垂直位置検出部は、前記磁気センサのセンサ部の中心を重心とする、前記磁気センサのセンサ面と同一平面上の正多角形の頂点にそれぞれ配置されることを特徴とする請求項2に記載の非破壊検査装置。
【請求項4】
前記正多角形は、正三角形であることを特徴とする請求項3に記載の非破壊検査装置。
【請求項5】
前記垂直位置検出部は、前記検査対象物表面に渦電流を誘導する磁界をコイルから発生させ、前記コイルのインピーダンスの変化に基づいて前記垂直位置を検出する渦電流式変位センサを備え、
前記磁気センサは、前記渦電流によって発生する磁界を測定することを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかに記載の非破壊検査装置。
【請求項6】
前記垂直位置検出部は、前記検査対象物表面にレーザ光を照射し、前記検査対象物表面からの反射光を受光して前記垂直位置を検出するレーザ式変位センサを備えることを特徴とする請求項1ないし請求項4の何れかに記載の非破壊検査装置。
【請求項7】
前記磁気センサのセンサ部の前記検査対象物表面に対する水平位置の変位を示す水平変位データを出力する水平位置検出部をさらに有し、
前記データ処理部は、前記水平変位データに基づいて、前記磁気センサのセンサ部の前記検査対象物表面に対する水平位置をさらに算出し、前記基準磁界データを前記水平位置と対応付けて出力することを特徴とする請求項1ないし請求項6の何れかに記載の非破壊検査装置。
【請求項8】
前記水平位置検出部は、前記水平変位データを画像データとして出力するカメラを備え、
前記データ処理部は、前記基準磁界データおよび前記画像データを前記水平位置と対応付けて出力することを特徴とする請求項7に記載の非破壊検査装置。
【請求項9】
検査対象物表面からの磁界を磁気センサによって測定し、
前記磁気センサのセンサ部の前記検査対象物表面に対する垂直位置を1つ以上の垂直位置検出部によって検出し、
前記磁気センサによる測定磁界と前記垂直位置とに基づいて、前記検査対象物表面に平行な所定の基準面における基準磁界を算出することを特徴とする非破壊検査方法。
【請求項10】
3つ以上の前記垂直位置検出部による前記垂直位置に基づいて、前記磁気センサのセンサ面の前記検査対象物表面に対する傾斜角度をさらに算出し、
前記測定磁界と前記垂直位置および前記傾斜角度とに基づいて、前記基準磁界を算出することを特徴とする請求項9に記載の非破壊検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−281762(P2010−281762A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−136893(P2009−136893)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】