説明

非破壊検査装置及び非破壊検査方法

【課題】断熱配管検査等に適用可能であり、断熱配管外側の鋼板の変形に影響されることなく、配管本体の欠陥による真の信号が精度良くとらえられる非破壊検査装置および非破壊検査方法を提供する。
【解決手段】被検査配管の欠陥を非破壊検査する非破壊検査装置であって、前記被検査配管を挿通し、当該被検査配管に対して当該被検査配管中心軸方向に平行な磁束を発生させる複数の励磁コイルと、前記複数の励磁コイルの各々と対となるように配置され、前記複数の励磁コイルにより発生した前記被検査配管中心軸方向の磁場を検出する複数の検出コイルと、当該複数の検出コイルにおける各検出コイル間からの検出コイル信号の差を取得し、当該取得した検出コイル信号の差より前記複数の励磁コイルと同じ周波数の信号を検波するロックイン検波手段と、当該ロックイン検波手段の出力信号の信号強度と位相変化を解析する信号解析手段と、を備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼材料等でできた配管および断熱材で保温等がなされた多重配管における腐食や疲労、亀裂などの欠陥を探傷する非破壊検査装置および非破壊検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋼材の欠陥を検査する方法として、磁気を用いた渦電流探傷方法や漏洩磁束探傷方法がある。渦電流探傷方法は、測定対象に交流の磁場を印加させて、測定対象に発生する渦電流の変化をみるものである。すなわち、測定対象に交流の磁場を印加した場合、測定対象の欠陥のない部分に対して欠陥がある部分は渦電流の分布が変化するので、渦電流が作る磁場も変化することになる。この渦電流の変化をサーチコイルや、磁気抵抗素子(MR)等の磁気センサで検出することで欠陥検査が行われている。一方、漏洩磁束探傷法は、測定対象に直流あるいは交流の磁場を印加させ、欠陥部から漏れ出る磁束をサーチコイルあるいは磁気センサで検出するものである。
【0003】
磁気を用いた渦電流探傷方法や漏洩磁束探傷方法の測定対象の形状としては様々なものがあるが、鉄鋼材料でできた配管を検査する方法としては、貫通コイルや内挿コイルあるいは上置コイルによるものなどが知られている(非特許文献1参照)。特に測定対象として配管を計測するコイルの形態としては、配管をコイルの中に貫通させて計測する貫通コイルや、配管の中にコイルを挿入して検査する内挿コイルが良く知られている。例えば、一層構造の配管を検査する場合、貫通コイルがよく使われている。
【0004】
渦電流探傷方法に使われるコイルとしては、測定対象に磁場を印加するための励磁コイルと、磁場変化を検出する検出コイルとの組み合わせからなるが、これら2つのコイルの機能を一つのコイルで行う場合と、それぞれ別のコイルとして構成したもの、つまり励磁コイルと検出コイルを組み合わせて行う場合とがある。この2つの方式において、前者は自己誘導方式、後者は相互誘導方式と呼ばれている。また、自己誘導方式や相互誘導方式においても、様々な方式が知られており、標準配管と測定対象配管を同時に計測してその差を取る標準比較方式や、配管の2か所の測定を同時に行いその差をとる自己比較方式等がある。
【0005】
配管の周囲を断熱材によって保温し、さらに断熱材の外側に薄い鋼板等の金属板で覆っている2重配管構造の断熱配管は、プラント等で多く使われている。しかし、このような断熱配管の欠陥検査を行う場合、2重配管構造という複雑な構造となっているため、渦電流探傷方法の適用が困難になっている。このため2重配管構造の断熱配管の検査としては、配管の内側の腐食検査として、管の中にコイルを挿入する内挿コイルを使う検査が一般的に行われている。また、配管外側表面つまり断熱材に覆われた配管表面の腐食を検査する方法としては、配管表面を覆う断熱材をはがして目視検査等を行うことが一般的に行われている。
【0006】
断熱配管の外側から磁気を用いて検査を行った場合、断熱材によって励磁コイルと検出コイル(磁気センサ)との距離が遠くなったり、貫通コイルの場合ではコイル径が配管径よりかなり大きくなることや、断熱材外側の薄い鋼板により、欠陥による信号変化が小さくなってしまう問題がある。このため、磁気センサとして高感度な超伝導量子干渉素子SQUIDを用いるとともに、さらに環境雑音などを取り除き微弱な信号だけを取り出すために2つ以上SQUIDを用いてその差を取る方法が報告されている(特許文献1参照)。
【0007】
また、磁気センサからの信号のうち欠陥に対応した磁場信号を顕著に抽出する方法として、磁気センサの信号をロックイン検波回路により信号強度と位相に分け、さらに、それら信号強度に三角関数を掛け合わせ、当該三角関数の角度として位相と調整位相を足し合わせたものを使うことが報告されている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−132923号公報
【特許文献2】特許第4487082号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】非破壊検査技術シリーズ「渦電流探傷試験I」社団法人日本非破壊検査協会、pp.32−43
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来の断熱配管検査用の磁気探傷方法では、配管の欠陥による信号が微小なため、当該欠陥による信号が欠陥以外の部分からの信号に埋もれてしまう問題があった。また、断熱配管の外側から磁気センサで計測した場合、断熱配管の外側の鋼板は長期的に用いていると機械的に変形している場合が多いため、検出した磁気信号の変化が外側の鋼板の変形による変化なのか配管本体の欠陥による変化なのかを判断することができなかった。
【0011】
そこで、本発明は、断熱配管検査等に適用可能であり、断熱配管外側の鋼板の変形に影響されることなく、配管本体の欠陥による真の信号が精度良くとらえられる非破壊検査装置および非破壊検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために提案されたものであって、本発明の第一の形態は、
被検査配管の欠陥を非破壊検査する非破壊検査装置であって、
前記被検査配管を挿通し、当該被検査配管に対して当該被検査配管中心軸方向に平行な磁束を発生させる複数の励磁コイルと、
前記複数の励磁コイルの各々と対となるように配置され、前記複数の励磁コイルにより発生した前記被検査配管中心軸方向の磁場を検出する複数の検出コイルと、
当該複数の検出コイルにおける各検出コイル間からの検出コイル信号の差を取得し、当該取得した検出コイル信号の差より前記複数の励磁コイルと同じ周波数の信号を検波するロックイン検波手段と、
当該ロックイン検波手段の出力信号における信号強度と位相変化を解析する信号解析手段と、を備えた非破壊検査装置である。
【0013】
本発明の第2の形態は、
前記励磁コイルと、当該励磁コイルと一対となるように同軸上に形成される前記検出コイルとから構成された相互誘導コイルを2組備え、
前記2組の相互誘導コイルにおける一方の励磁コイルと他方の励磁コイルは、前記被検査配管に対して同じ方向に磁場を印加するように同じ巻き方向とするとともに、前記一方の励磁コイルと前記他方の励磁コイルを直列接続し、
前記2組の相互誘導コイルにおける一方の検出コイルと他方の検出コイルは、それぞれが逆方向の磁場を検出するように反対巻き方向とするとともに、前記一方の検出コイルと前記他方の検出コイルを直列接続した非破壊検査装置である。
【0014】
本発明の第3の形態は、
前記被検査配管は、断熱配管である非破壊検査装置である。
【0015】
本発明の第4の形態は、
前記相互誘導コイルにおける励磁コイルと検出コイルの各々のコイル円周上における所定位置で各々のコイルを分割及び接続可能な電気的接続コネクタを設けた非破壊検査装置である。
【0016】
本発明の第5の形態は、
前記断熱配管の円周上に沿うように所定の曲率を持った複数の長方形状の励磁コイルを並設し、当該並設された励磁コイルにおける前記断熱配管中心軸に平行なコイル配線部分の隣り合う同士を近接するあるいは重なり合うようにして、前記並設された励磁コイルのうち任意の励磁コイルに電流を流すための電流切換手段を設けるとともに、前記並設された励磁コイルにおける前記断熱配管円周方向に平行なコイル配線部分と近接するあるいは重なり合うように2つの検出コイルを設けた非破壊検査装置である。
【0017】
本発明の第6の形態は、
前記断熱配管を挿通可能である円筒状の円筒母材を備え、
前記円筒母材は、
当該円筒母材の一部を軸方向に沿って分割して前記断熱配管の長手方向における任意の位置に取付け可能であるとともに、前記並設された励磁コイルの長手方向両端に前記2つの検出コイルを設け、前記円筒母体の分割位置を前記電気的接続コネクタの分割及び接続可能である部分と一致するように構成した非破壊検査装置である。
【0018】
本発明の第7の形態は、
請求項1に記載の非破壊検査装置を用いて、
前記被検査配管の欠陥を非破壊検査する非破壊検査方法であって、
前記複数の励磁コイルに前記被検査配管を挿通し、前記複数の励磁コイルにより前記被検査配管に対して前記被検査配管中心軸方向に平行な磁束を発生させる工程と、
前記複数の励磁コイルにより発生した前記被検査配管中心軸方向の磁場を前記複数の検出コイルにより検出する工程と、
前記ロックイン検波手段により前記複数の検出コイルにおける各検出コイル間からの検出コイル信号の差を取得し、当該取得した検出コイル信号の差より前記複数の励磁コイルと同じ周波数の信号を検波して、前記信号解析手段に入力する工程と、
前記信号解析手段により前記ロックイン検波手段における出力信号により、当該出力信号の信号強度と位相変化を解析することで前記被検査配管の欠陥を特定する工程と、を有する非破壊検査方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明の第1の形態によれば、複数の励磁コイルにより被検査配管の所定の場所に被検査配管の中心軸方向の磁場を印加することができる。また、複数の検出コイルにより各検出コイルが配置された箇所において被検査配管から発生した信号をそれぞれ捉えることができる。各検出コイルでとらえる信号は、各検出コイルが配置された箇所における被検査配管全体の信号と欠陥による信号変化分とが一緒になったものである。このため、各検出コイル間から検出コイル信号の差を取得することにより被検査配管全体の信号を減衰させ、欠陥由来の信号を精度よく抽出することができる。また、検出コイル信号の差をロックイン検波手段によりより雑音を除去した信号強度を得ることができるとともに、位相変化を得ることができる。ロックイン検波手段からの出力信号の信号強度と位相を組み合わせることにより、欠陥による信号変化をより精度よく抽出することができる。
【0020】
本発明の第2の形態によれば、励磁コイルと検出コイルを一体化した2組の相互誘導コイルの差を取得するとともに、2つの励磁コイルは同方向に磁場を印加するので、被検査配管により大きな磁場をかけることができる。また、2つの検出コイルは互いに逆方向の磁場を検出するので被検査配管全体の信号は除去でき、欠陥による信号変化分だけを抽出することができる。
【0021】
本発明の第3の形態によれば、2重配管構造等の断熱配管を精度良く非破壊検査することができる。
【0022】
本発明の第4の形態によれば、相互誘導コイルにおける励磁コイルと検出コイルをコイル円周上における所定位置で分割及び接続可能な電気的接続コネクタを設けることにより、断熱配管を相互誘導コイルに貫通させて検査を行う場合であっても相互誘導コイルを断熱配管から適宜分離することができる。例えば、従来の貫通型の相互誘導コイルにおいては、断熱配管に相互誘導コイルを導入すべき端部がない場合、断熱配管を切り離さないと相互誘導コイルを設置することができないが、本発明の相互誘導コイルを適用することにより断熱配管のどの部分でも、相互誘導コイルを分割して断熱配管に取り付けることができる。
【0023】
本発明の第5の形態によれば、複数の励磁コイルが有する全てのコイルに対して、同時に同じ方向と同じ値の電流を流した場合、並設された励磁コイルにおける断熱配管中心軸に平行なコイル配線部分の隣り合う同士を近接するあるいは重なりあうようにしているので、隣り合うコイル間で電流の方向は逆向きになり磁場を発生しない。一方、並設された励磁コイルにおける断熱配管円周方向に平行な一側のコイル配線では電流の方向は同じ方向になり、並設された励磁コイルの一側のコイル配線全体でひとつの貫通コイルを形成することとなる。また、他側のコイル配線でも同様にひとつの貫通コイルが形成されるので、通電時に2つの貫通型の励磁コイルが形成されることになる。また、電流切換手段により、並設された励磁コイルの一部だけに電流を流すことができる。例えば、並設された励磁コイルの一部だけに電流を流す場合は、検出コイルは貫通型であるので検出コイルが検出する磁場成分は、並設された励磁コイルにおける断熱配管円周方向に平行なコイル配線の一部が作る磁場だけになる。このため、断熱配管の円周上の一部だけに磁場を印加することができるので、並設された複数の励磁コイルにおいて印加する励磁コイルを適宜切り替えることにより、例えば亀裂や穿孔などの欠陥が配管の一部にある場合、断熱配管の円周上のどの位置に欠陥があるのか場所を特定して検出することができる。
【0024】
本発明の第6の形態によれば、断熱配管を切り離さなくても、断熱配管の任意の位置に断熱配管を取り付けることができる。
【0025】
本発明の第7の形態によれば、複数の励磁コイルにより被検査配管の所定の場所に被検査配管の中心軸方向の磁場を印加することができる。また、複数の検出コイルにより各検出コイルが配置された箇所において被検査配管から発生した信号をそれぞれ捉えることができる。各検出コイルでとらえる信号は、各検出コイルが配置された箇所における被検査配管全体の信号と欠陥による信号変化分とが一緒になったものである。このため、各検出コイル間から検出コイル信号の差を取得することにより被検査配管全体の信号を減衰させ、欠陥由来の信号を精度よく抽出することができる。また、検出コイル信号の差をロックイン検波手段によりより雑音を除去した信号強度を得ることができるとともに、位相変化を得ることができる。ロックイン検波手段からの出力信号の信号強度と位相を組み合わせることにより、欠陥による信号変化をより精度よく抽出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態である非破壊検査装置の基本構成を示す概略図である。
【図2】欠陥を有する断熱配管の内部の鋼管を示す概略図である。
【図3】各点iにおけるBxi・SIN(θi+α)を求め、共通の調整位相αを140度に変化させた時の断熱配管の測定結果を示す図である。
【図4】検出部母材の円周上に長方形の4個の励磁コイルを備え、その両端に貫通型の検出コイルをひと組備えた非破壊検査装置の構成の一部を示す概略図である。
【図5】長方形励磁コイルの電流駆動の原理を示す原理図。
【図6】断熱配管を示す概略図であり、(a)は断熱配管の側面図、(b)は(a)におけるA−A矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態を、添付する図面を参照して詳細に説明する。
また、同様の用途及び機能を有する部材には同符号を付してその説明を省略する。
【実施例1】
【0028】
図1は、本発明の一実施形態である非破壊検査装置である磁束探傷装置10の基本構成を示す概略図である。
磁束探傷装置10は、被検査配管である断熱配管1(図6参照)に流れる磁束の変化を検出することにより断熱配管1の欠陥を探傷する非破壊検査装置であり、図1に示すように、検査部2、ロックイン検波手段であるロックイン検波器7、信号解析手段である信号解析装置8及び表示機構9を主に具備している。
【0029】
断熱配管1は、図6に示すように、磁束探傷装置10により検査される円筒形の被検査材であって、長さが1mであり、断熱配管1の内部には厚さ7.2mmの鋼管1aを有する。この鋼管1aの周囲は、厚さ50mmの断熱材1bで覆われており、当該断熱材1bの周囲は外筒1cとして厚さ0.3mmの溶融亜鉛鉄板で覆われている。
【0030】
検査部2は、被検査配管である断熱配管1に取り付けて磁場を印加するとともに、発生した磁場を検出する磁場印加検出手段である。検査部2は、断熱配管1を挿通可能である円筒状の円筒母材である検査部母材2−1と、当該検査部母材2−1上の長手方向一端に配置される、励磁コイル3−1と検出コイル4−1とを組合わせた第一相互誘導コイルと、前記検査部母材2−1上の長手方向他端に配置される、励磁コイル3−2と検出コイル4−2とを組合わせた第二相互誘導コイルと、発信器6と、励磁コイル用電源5と、コイル接続コネクタ11−1、11−2により主に構成される。すなわち、検査部2は、前記励磁コイル3−1、3−2と、当該励磁コイル3−1、3−2とそれぞれ一対となるように同軸上に形成される前記検出コイル4−1、4−2とから構成された相互誘導コイルを2組備え、前記2組の相互誘導コイルである第一相互誘導コイル、第二相互誘導コイルにおける一方の励磁コイル3−1と他方の励磁コイル3−2は、前記被検査配管である断熱配管1に対して同じ方向に磁場を印加するように同じ巻き方向とするとともに、前記一方の励磁コイルと前記他方の励磁コイルを直列接続し、前記2組の相互誘導コイルにおける一方の検出コイル4−1と他方の検出コイル4−2は、それぞれが逆方向の磁場を検出するように反対巻き方向とするとともに、前記一方の検出コイル4−1と前記他方の検出コイル4−2を直列接続したものである。また、第一相互誘導コイルと、第二相互誘導コイルとは、それぞれが検査部母材2−1上の両端に配設された状態で、断熱配管1の周囲に実装可能である。つまり、磁束探傷装置10では、相互誘導コイルを2組用いている。検査部2は、励磁コイル用電源5より交流電流を励磁コイル3−1、3−2に通電することで励磁コイル3−1、3−2を励磁し、当該励磁コイル3−1、3−2に検査部母材2−1を介して断熱配管1を挿通させて配置することで断熱配管1中心軸方向に(図1に示すx方向に)磁束を生じさせることができる。さらに、検査部2は、当該検査部2が有する検出コイル4−1、4−2により励磁コイル3−1、3−2の磁場印加方向(前記励磁コイル3−1、3−2の中心軸に平行な方向:x方向)と平行な方向の磁場成分を検出することができる。検査部2は、断熱配管1の周囲に外装して、断熱配管1の非破壊検査を行うことが可能である。
【0031】
検査部母材2−1は、当該検査部母材2−1の一部を検査部母材2−1軸方向に沿って分割して前記断熱配管1の長手方向における任意の位置に取付け可能である。すなわち、検査部母材2−1は、当該検査部母材2−1を断熱配管1に取り付けるために、半分に分割可能であり(図1においては上下半分に分割可能であり)、かつ断熱配管1に対して脱着可能となっている。
なお、本実施例においては、検査部母材2−1を用いた構成としているが、特に限定するものではなく、検査部母材2−1を用いないで検査部2を構成とすることもできる。
【0032】
励磁コイル3−1、3−2は、被検査配管である断熱配管1に磁場を印加する磁場印加手段である。すなわち、励磁コイル3−1、3−2は、前記断熱配管1を挿通し、当該断熱配管1に対して当該断熱配管1中心軸方向に平行な磁束を発生させる複数の励磁コイル(本実施例においては、2つの励磁コイルを使用)である。具体的には、励磁コイル3−1、3−2は、当該励磁コイル3−1、3−2が有する各コイルが同じ巻き方向になっており、励磁コイル3−1と励磁コイル3−2とは配線L1により直列に接続されている。すなわち、励磁コイル3−1、3−2は、前記検査部母材2−1の両端部に各々同じ巻き方向に巻回されている。また、励磁コイル3−1、3−2は、それぞれ励磁コイル用電源5に接続されている。
【0033】
検出コイル4−1、4−2は、被検査配管である断熱配管1に発生した磁場を検出する磁場検出手段である。すなわち、検出コイル4−1、4−2は、前記複数の励磁コイル3−1、3−2の各々と対となるように配置され、前記複数の励磁コイル3−1、3−2により発生した前記断熱配管1中心軸方向の磁場を検出する複数の検出コイル(本実施例においては、2つの検出コイルを使用)である。具体的には、検出コイル4−1、4−2は、当該検出コイル4−1、4−2が有する各コイルが逆巻き方向になっており、検出コイル4−1と検出コイル4−2とは配線L2により直列に接続されている。すなわち、検出コイル4−1、4−2は、前記検査部母材2−1の両端部に巻回された励磁コイル3−1、励磁コイル3−2の一側(図1においては左側)にそれぞれ隣接するように巻回されている。検出コイル4−1、4−2は、当該検出コイル4−1、4−2が有するコイル部分を逆向きに巻回し、かつ直列に接続するように構成することで、微分コイルを形成しており、検出コイル4−1の出力と検出コイル4−2の出力の差を検出することができる。このように検出コイル4−1、4−2により微分コイルを構成し、検出コイル4−1と検出コイル4−2の間から検出コイル信号の差を取得することにより断熱配管1全体に由来する磁場信号を減衰させ、断熱配管1が有する欠陥由来の信号を精度よく検出することができる。また、検出コイル4−1、4−2は、ロックイン検波器7に接続されており、検出コイル4−1、4−2の出力はロックイン検波器7に入力される。
なお、本実施例では、励磁コイルと検出コイルとを並行して配設し、相互誘導コイルを構成しているが、特に限定するものではなく、例えば、検出コイルの上部に励磁コイルを、あるいは励磁コイルの上部に検出コイルを配設するように構成してもかまわない。また、励磁コイル3−1と3−2を逆向きにした場合には、検出コイル4−1と4−2を同じ巻き方向にした組み合わせでもかまわない。
【0034】
発信器6は、励磁コイル3−1、3−2に流す交流電流の信号を作る手段である。
【0035】
励磁コイル用電源5は、交流電流を励磁コイル3−1、3−2に通電するための電源である。励磁コイル用電源5は、発信器6と接続されており、当該発信機6によって励磁の周波数を変更することができる。
【0036】
こうして、磁場印加検出手段である検査部2は、励磁コイル用電源5により交流電流を励磁コイル3−1、3−2に通電することで励磁コイル3−1、3−2を励磁し、当該励磁コイル3−1、3−2を検査部母材2を介して断熱配管1表面に近接させることで断熱配管1の表面と平行となるように磁束を生じさせることができる。つまり、検査部2は、励磁コイル3−1、3−2により交流磁場を所定の磁場印加方向(本実施例においては、断熱配管1中心軸方向)に印加して断熱配管1の表面と平行な磁束を発生させることができるとともに、検出コイル4−1、4−2により断熱配管1に流れる磁束の変化を検出することができる。
【0037】
コイル接続コネクタ11−1、11−2は、前記第一相互誘導コイル、前記第二相互誘導コイルにおける励磁コイル3−1、3−2と検出コイル4−1、4−2の各々のコイル円周上における所定位置で各々のコイルを分割及び接続可能な電気的接続コネクタである。すなわち、コイル接続コネクタ11−1は、当該コイル接続コネクタ11−1の両端側(図1においては、上下両端側)に励磁コイル3−1、検出コイル4−1のそれぞれを構成するコイル配線部分を分割し、当該分割部分の各端部に設けられた接続端子部(図示せず)のそれぞれを挿入して励磁コイル3−1、検出コイル4−1の各接続端子部同士を電気的に接続するための中継端子である。コイル接続コネクタ11−1は、励磁コイル3−1、検出コイル4−1の各コイル円周上におけるコイル接続コネクタ11−1が配置された位置で励磁コイル3−1、検出コイル4−1の各接続端子部をコイル接続コネクタ11−1端部から取り外して励磁コイル3−1、検出コイル4−1のそれぞれを構成するコイル配線部分を分割したり、励磁コイル3−1、検出コイル4−1の各接続端子部をコイル接続コネクタ11−1の両端に接続してコイル配線として通電可能に接続したりすることができる。また、上記コイル接続コネクタ11−1の場合と同様に、コイル接続コネクタ11−2により、励磁コイル3−2、検出コイル4−2の各コイル配線部分を分割したり接続したりすることができる。さらに、励磁コイル3−1、3−2及び検出コイル4−1、4−2コイルは、コイル接続コネクタ11−1、11−2が設けられた反対側(図1においては、2−1の後ろ側)の各コイル配線部分にも上記同様に接続端子部とコイル接続コネクタを設けることで、コイル接続コネクタ11−1、11−2と反対側に設けたコイル接続コネクタにより検出コイル4−1、4−2コイルをそれぞれ半分に分割して(図1においては上下半分に分割して)取り外すことも可能である。
【0038】
ロックイン検波器7は、2つの検出コイル4−1、4−2における各検出コイル間からの検出コイル信号の差を取得し、当該取得した検出コイル信号の差より前記2つの励磁コイル3−1、3−2と同じ周波数の信号を検波するロックイン検波手段である。すなわち、ロックイン検波器7は、前述したように微分コイルを構成する検出コイル4−1、4−2から取得した、検出コイル4−1の出力と検出コイル4−2との出力との差(出力差信号)を前記交流磁場と同じ周波数で位相が互いに直交する2つの信号に検波するロックイン検波手段である。ロックイン検波器7は、励磁コイル3−1、3−2に流された交流電流の交流周波数に同期した信号のみを検出する。つまり、ロックイン検波器7は、入力信号を励磁コイル3−1、3−2と同じ周波数で位相が互いに90度異なる2つの信号に検波する。ロックイン検波器7は、信号解析装置8に接続されている。
【0039】
信号解析装置8は、ロックイン検波器7の出力信号における信号強度と位相変化を解析する信号解析手段である。すなわち、前記検出コイル4−1、4−2から前記ロックイン検波器7を介して出力された信号の強度と当該信号の位相の変化を解析する手段である。信号解析装置8は、発信器6と接続されており、当該発信器6からの信号により励磁コイル用電源5を駆動し、当該励磁コイル用電源5に接続された励磁コイル3−1、3−2に交流電流を流すことが可能である。また、信号解析装置8は、ロックイン検波器7によって検波された信号を所定の解析方法により解析するものである。すなわち、信号解析装置8は、ロックイン検波器7により検波された2つの信号によって、所定の位置(断熱配管1上における検査部2の位置)における磁場の大きさのデータと前記位相のデータを算出し、当該位相に対して校正用の補正位相を加えたデータの正弦値あるいは余弦値を求め、前記磁場の大きさのデータと前記正弦値あるいは前記余弦値との積を求め、前記所定の位置における前記積の値を用いて欠陥を特定することができる。信号解析装置8には、表示機構9が接続されている。
また、信号解析装置8には、前記校正用の補正位相を入力する入力手段(図示せず)が接続されている。
ここで、前記校正用の補正位相とは、磁場検出手段である検出コイル4−1、4−2の校正を行う際に、当該検出コイル4−1、4−2に対して共通して適用される位相調整用の位相のことである(以下、共通の調整位相αという)。
【0040】
表示機構9は、前記信号解析装置8による解析結果を表示する表示手段である。表示機構9は、例えば、前記ロックイン検波器7を介して出力された信号と当該信号の位相の変化や前記磁場の大きさのデータと前記正弦値あるいは前記余弦値との積の値のような被検査配管である断熱配管1表面の欠陥を特定する際に必要な情報を表示することができる。
【0041】
次に、前記磁束探傷装置10に適用する磁束探傷方法を具体的に説明する。
【0042】
磁束探傷装置10に適用する磁束探傷方法は、前記被検査配管である断熱配管1の欠陥を非破壊検査する非破壊検査方法であって、前記2つの励磁コイル3−1、3−2に前記断熱配管1を挿通し、当該2つの励磁コイル3−1、3−2により前記断熱配管1中心軸方向に平行な磁束を発生させる工程と、前記2つの励磁コイル3−1、3−2により発生した前記断熱配管1中心軸方向の磁場を前記2つの検出コイル4−1、4−2により検出する工程と、前記ロックイン検波手段であるロックイン検波器7により前記2つの検出コイル4−1、4−2における各検出コイル間からの検出コイル信号の差を取得し、当該取得した検出コイル信号の差より前記2つの励磁コイル3−1、3−2と同じ周波数の信号を検波して、前記信号解析手段である信号解析装置8に入力する工程と、前記信号解析装置8により前記ロックイン検波器7の出力信号の信号強度と位相変化を解析することで前記断熱配管1の欠陥を特定する工程と、を有する。以下、各工程について具体的に説明する。
【0043】
図1に示すように、被検査材である断熱配管1を、検査部2に挿通した状態で、励磁コイル3−1、3−2には、発信器6の信号により励磁コイル用電源5を駆動することで、交流電流が流される。すなわち、励磁コイル3−1、3−2により交流磁場を所定の印加方向(本実施形態においては、矢印x方向)に印加して、前記断熱配管1のx方向に磁束が導入される。具体的には、励磁コイル3−1、3−2は、円筒状の検査部母材2−1上に並列して配置されており、当該検査部母材2−1に挿通される断熱配管1の中心方向と平行となる方向に磁束が導入される。
【0044】
一方、検出コイル4−1、4−2は、2つの励磁コイル3−1、3−2により発生した前記断熱配管1中心軸方向の磁場を検出する。すなわち、検出コイル4−1、4−2は、当該検出コイル4−1、4−2のそれぞれが有するコイルの巻き方向が逆であって、かつ直列に接続されていることにより、微分コイルを形成しており、検出コイル4−1の出力と検出コイル4−2の出力の差を検出する。ここで、例えば、断熱配管1に欠陥があると、その直上において磁束が変化し、磁場が変化する。この磁場変化を検出コイル4−1、4−2により検出する。すなわち、検出コイル4−1、4−2は、検査部母材2−1の長手方向、つまり磁束を導入した方向の磁束密度成分Bxを検出している。また、直列に接続されている検出コイル4−1と検出コイル4−2の出力(検出コイル4−1と検出コイル4−2との出力差)は、ロックイン検波器7に入力される。
【0045】
ロックイン検波器7では、2つの検出コイル4−1、4−2における各検出コイル間からの検出コイル信号の差を取得し、当該取得した検出コイル信号の差より2つの励磁コイル3−1、3−2と同じ周波数の信号を検波して、信号解析装置8に入力する。具体的には、ロックイン検波器7では、検出コイル4−1、4−2の出力が検波されて、この検波により、信号解析装置8は励磁コイル3−1、3−2に流す交流電流の信号を作っている発信器6に同期した信号だけを検出することができるのである。検波された信号は、信号解析装置8に入力される。
【0046】
信号解析装置8では、前記ロックイン検波器7の出力信号における信号強度と位相変化を解析することで前記断熱配管1の欠陥を特定する。具体的には、信号解析装置8では、ロックイン検波器7によって発信器6の信号に対する同相の信号と、90度位相がずれている信号の2つに分離して検出される。この同相信号と直交信号によって、断熱配管1における任意の計測点iでの検出コイル4−1と検出コイル4−2の差出力の信号強度Bxiと位相θiを算出することができる。そして、信号解析装置8においてBxi・SIN(θi+α)を計算し、データを表示機構9に表示する。ここで、このデータを見ながら解析処理を進め、共通の調整位相αを変化させ、最適な最終表示を行う。すなわち、この最適な最終表示を行うことにより、共通の調整位相αを任意に変化させた場合に最適な信号変化を容易に求めることができ、より正確な欠陥位置や大きさを特定することが可能となる。
なお、上述した共通の調整位相αを変化させて、欠陥位置や大きさを検出するための最適なBxi・SIN(θi+α)を求める方法としては、Bxi・SIN(θi+α)として所定の閾値を予め設定しておき、信号解析装置8が有する図示しない演算手段により所定のプログラムを実行して最適なBxi・SIN(θi+α)を自動的に求めることも可能である。
【0047】
次に、磁束探傷装置10の基本性能を示すため、被検査配管として用いた断熱配管1の内部の鋼管1aとして図2に示すように、腐食による減肉を想定して、鋼管1a表面の周方向に沿って深さの異なる溝を3か所形成したものを用いて欠陥の検査を行った。この被検査配管である断熱配管1は、断熱配管1内部の鋼管1a表面に欠陥A、欠陥B、欠陥Cを有し、欠陥A、欠陥B、欠陥Cの各溝の溝幅は10mmであり、鋼管の肉厚7.2mmに対して各欠陥の深さを順に3.6mm、1.8mm、1.1mmとしたものである。この断熱配管1に対して図1の磁束探傷装置10を用いて欠陥の検査を行った。
【0048】
図3は、磁束探傷装置10を用いて断熱配管1を測定した結果である。この測定結果は、励磁コイル3−1、3−2と検出コイル4−1、4−2を実装した検査部母材2−1に断熱配管1を挿通し、当該検査部母材2−1を断熱配管1に対して断熱配管1長手方向(図1における矢印x方向)に1mmずつ移動させながら測定を行ったものである。図3において、グラフの横軸が検査部母材2−1を断熱配管1長手方向に移動させた距離(cm)であり、縦軸が信号強度(mV)である。すなわち、図3に示す測定結果は、断熱配管1における任意の測定点である各点iにおける磁場強度(Bxi)変化と、位相θi変化を用いた解析によって得られた結果を示しており、具体的には、断熱配管1における任意の測定点である各点iにおける磁場強度Bxi・SIN(θi+α)を求め、ここで、共通の調整位相αを140度とした時の結果を示すものである。この共通の調整位相αはいったん決定されれば、各計測時に調整する必要は特になく、欠陥のない標準サンプルなどを使って非破壊検査装置を校正しておけばよい。図3の結果から溝の位置に対応した信号変化と深さに応じた信号強度変化が得られていることが確認できる。つまり、信号解析装置8では、磁場強度と位相情報を掛け合わせることによって、さらに共通の調整位相αを調整することにより欠陥による磁場変化のみが顕著に抽出できる。ここで、図3では共通の調整位相αが140度の時であるが、欠陥A、B、Cの位置に対応した信号変化(3つの下向きピーク)を確認することができる。
なお、前記共通の調整位相αとしては、磁束探傷装置10に設けられた図示しない入力手段により任意の値を信号解析装置8に入力することが可能である。
【0049】
以上により、磁束探傷装置10は、2つの励磁コイル3−1、3−2により断熱配管1の所定の場所に断熱配管1の中心軸方向の磁場を印加することができる。また、2つの検出コイル4−1、4−2により各検出コイル4−1、4−2が配置された箇所において断熱配管1から発生した信号をそれぞれ捉えることができる。各検出コイル4−1、4−2でとらえる信号は、各検出コイルが配置された箇所における断熱配管1全体の信号と欠陥により信号変化分とが一緒になったものである。このため、各検出コイル4−1、4−2間から検出コイル信号の差を取得することにより断熱配管1全体の信号を減衰させ、欠陥由来の信号を精度よく抽出することができる。また、検出コイル信号の差をロックイン検波器7によりより雑音を除去した信号強度を得ることができるとともに、位相変化を得ることができる。ロックイン検波器7からの出力信号の信号強度と位相を組み合わせることにより、欠陥による信号変化をより精度よく抽出することができる。
【0050】
また、磁束探傷装置10は、励磁コイルと検出コイルを一体化した2組の相互誘導コイル(前記第一相互誘導コイルと前記第二相互誘導コイル)の差を取得するとともに、2つの励磁コイルは同方向に磁場を印加するので、断熱配管1により大きな磁場をかけることができる。また、2つの検出コイル4−1、4−2は互いに逆方向の磁場を検出するので断熱配管1全体の信号は除去でき、欠陥による信号変化分だけを抽出することができる。こうして、断熱配管1のような2重配管構造においても精度良く非破壊検査をすることができる。
【0051】
また、磁束探傷装置10は、相互誘導コイルが有する励磁コイル3−1、3−2と検出コイル4−1、4−2をコイル円周上における所定位置で分割及び接続可能な電気的接続コネクタであるコイル接続コネクタ11−1、11−2を設けることにより、断熱配管1を相互誘導コイルに貫通させて検査を行う場合であっても相互誘導コイルを断熱配管1から適宜分離することができる。
例えば、従来の貫通型の相互誘導コイルにおいては、断熱配管に相互誘導コイルを導入すべき端部がない場合、断熱配管を切り離さないとを設置することができないが、本発明の相互誘導コイルを適用することにより断熱配管のどの部分でも、相互誘導コイルを分割して断熱配管に取り付けることができる。
【実施例2】
【0052】
次に、本発明に係る磁束探傷方法を適用する磁束探傷装置の別実施例について図4を用いて説明する。
【0053】
本実施例に係る磁束探傷装置20は、被検査配管である断熱配管1(図6参照)に流れる磁束の変化を検出することにより欠陥を探傷する非破壊検査装置であり、図4に示すように、検査部12、及び図4には図示しないが図1においてすでに示した、ロックイン検波器7、信号解析装置8及び表示機構9を主に具備している。検査部12を除いたロックイン検波器7、信号解析装置8及び表示機構9については、実施例1と同様であり、詳細な説明は省略する。
【0054】
検査部12は、被検査配管である断熱配管1に取り付けて磁場を印加するとともに発生する磁場を検出する磁場印加検出手段である。検査部12は、断熱配管1を挿通可能である円筒状の円筒母材である検査部母材2−2と、当該検査部母材2−2円周上の長手方向中央部に配設される励磁コイル13と、前記検査部母材2−2上の前記励磁コイル13の長手方向両端に近接配置される検出コイル4−3、4−4と、電気的接続コネクタであるコイル接続コネクタ15−1、15−2と、電流切換手段である励磁コイル切り替えスイッチ14と、図4には図示しない発信器6と、励磁コイル用電源5等により構成される。励磁コイル13と、検出コイル4−3、4−4とは、検査部母材2−2を介して断熱配管1の周囲に実装可能である。検査部12は、断熱配管1の周囲に外装して、断熱配管1の非破壊検査を行うことが可能である。
【0055】
検査部母材2−2は、当該検査部母材2−2の一部を検査部母材2−2軸方向に沿って分割して前記断熱配管1の任意の検査位置に取付け可能である。すなわち、検査部母材2−2は、当該検査部母材2−2を断熱配管1に取り付けるために、半分に分割可能であり(図4においては上下半分に分割可能であり)、かつ断熱配管1に対して脱着可能となっている。
【0056】
励磁コイル13は、被検査配管である断熱配管1に磁場を印加する磁場印加手段である。すなわち、励磁コイル13は、前記断熱配管1を挿通し、当該断熱配管1に対して断熱配管1中心軸方向に平行な磁束を発生させる複数の磁場印加手段である。励磁コイル13は、それぞれが長方形状である複数個の長方形励磁コイル13−1、13−2等により構成されている(本実施例では、4つの長方形励磁コイルにより形成されており、長方形励磁コイル13−1、13−2を除く残り2つは図4において検査部母材2−2の後ろ側に形成されている)。また、複数個の長方形励磁コイルは、検査部母材2−2の円周方向に沿って検査部母材2−2上に並設されている。具体的には、本実施例で示す励磁コイル13が実施例1に示す励磁コイル3−1、3−2と異なるところは、検査部母材2−2周囲に連続的に並設される励磁コイルの形状が複数の長方形状の励磁コイルからなるものであり、断熱配管1を囲うように長方形励磁コイルが所定の曲率を持っていることである。また、4つの長方形励磁コイルは隣り合うコイル同士において巻き方向が逆方向になるように構成されている。また、4つの長方形励磁コイルは、それぞれ励磁コイル切り替えスイッチ14を介して励磁コイル用電源5に接続されている。また、このように励磁コイル13を構成することで、4つの長方形励磁コイル13−1、13−2等に対して、励磁コイル用電源5により通電された場合、4つの長方形励磁コイル13−1、13−2等の長手方向両端部はお互い逆方向の電流が流れる。詳しくは後述する。
【0057】
検出コイル4−3、4−4は、断熱配管1に発生した磁場を検出する磁場検出手段である。すなわち、検出コイル4−3、4−4は、検査部母材2−2周囲に並設されている励磁コイル13の長手方向両端にそれぞれ隣接配置され、前記励磁コイル13により発生した所定方向の磁場を検出する複数の磁場検出手段(本実施例においては、2つの検出コイル4−3、4−4を使用)である。具体的には、検出コイル4−3、4−4は、当該検出コイル4−3、4−4が有する各コイルが同じ巻き方向になっており、検出コイル4−3と検出コイル4−4とは配線L3により直列に接続されている。すなわち、検出コイル4−3、4−4は、前記検査部母材2−2円周上の中央部に並設された励磁コイル13の両側(図4においては左右両側)に隣接するように巻回されている。検出コイル4−3、4−4は、当該検出コイル4−3、4−4が有するコイル部分が同じ向きに巻回し、かつ直列に接続するように構成することで、微分コイルを形成しており、検出コイル4−3の出力と検出コイル4−4の出力の差を検出することができる。
このように検出コイル4−3、4−4が有するコイル部分を同じ向きに巻回し、励磁コイル13への通電時において電流の流れが逆方向となることで励磁コイル13の長手方向両端部のコイル部分は実質的に2つコイルを形成し、検出コイル4−3、4−4により微分コイルを構成し、検出コイル4−3と検出コイル4−4の間から検出コイル信号の差を取得することにより断熱配管1全体に由来する磁場信号を減衰させ、断熱配管1が有する欠陥由来の信号を精度よく検出することができる。また、検出コイル4−3、4−4は、ロックイン検波器7に接続されており、検出コイル4−3、4−4の出力はロックイン検波器7に入力される。
なお、本実施例では、励磁コイル13の長手方向両端部と検出コイル4−3、4−4とを並行かつ近接して配設し、相互誘導コイルを構成しているが、特に限定するものではなく、例えば、検出コイル4−3、4−4の上部に励磁コイルの長手方向両端部の円周方向に平行なコイル部分を、あるいは当該コイル部分の上部に検出コイル4−3、4−4を重ねるように配設する構成としてもかまわない。
【0058】
コイル接続コネクタ15−1、15−2は、検出コイル4−3、4−4の各々のコイル円周上における所定位置で各々のコイルを分割及び接続可能な電気的接続コネクタである。すなわち、コイル接続コネクタ15−1は、当該コイル接続コネクタ15−1の両端側(図4においては、上下両端側)に検出コイル4−3を構成するコイル配線部分を分割し、当該分割部分の各端部に設けられた接続端子部(図示せず)のそれぞれを挿入して検出コイル4−3の接続端子部同士を電気的に接続するための中継端子である。コイル接続コネクタ15−1は、検出コイル4−3のコイル円周上におけるコイル接続コネクタ15−1が配置された位置で検出コイル4−3の各接続端子部をコイル接続コネクタ15−1端部から取り外して検出コイル4−3を構成するコイル配線部分を分割したり、検出コイル4−3の各接続端子部をコイル接続コネクタ15−1の両端に接続してコイル配線として通電可能に接続したりすることができる。また、上記コイル接続コネクタ15−1の場合と同様に、コイル接続コネクタ15−2により、検出コイル4−3のコイル配線部分を分割したり接続可能である。さらに、検出コイル4−3、4−4は、コイル接続コネクタ15−1、15−2が設けられた反対側(図1においては、2−2の後ろ側)の各コイル配線部分にも上記同様に接続端子部とコイル接続コネクタを設けることで、コイル接続コネクタ15−1、15−2と反対側に設けたコイル接続コネクタにより検出コイル4−3、4−4をそれぞれ半分に分割して(図4においては上下半分に分割して)取り外すことも可能である。
【0059】
また、本実施例の磁束探傷装置20は、全ての長方形励磁コイル13−1、13−2等に所定の電流を同方向に直列に流して使ったり、一つの長方形励磁コイルだけを選択して駆動させたりするための励磁コイル切り替えスイッチ14を備える。励磁コイル切り替えスイッチ14は、励磁コイル用電源5と4つの長方形励磁コイル13−1、13−2等の間に設けられている。こうして、磁束探傷装置20では、励磁コイル切り替えスイッチ14の入り切り操作によって、励磁コイル13(4つの長方形励磁コイル)全てを駆動したり、もしくは任意の長方形励磁コイルを駆動させることができる。
【0060】
このように、磁束探傷装置20は、前記断熱配管1の円周上に沿うように所定の曲率を持った複数の長方形状の長方形励磁コイル13−1、13−2等を、前記断熱配管1の円周方向に並設し、当該並設された各長方形励磁コイル13−1、13−2等における前記断熱配管1中心軸に平行なコイル配線部分同士を近接するあるいは重なり合うように配設し、前記並設された長方形励磁コイル13−1、13−2等のうち任意の長方形励磁コイル13−1、13−2等に電流を流すための電流切換手段である励磁コイル切り替えスイッチ14を設けるとともに、前記並設された各長方形励磁コイル13−1、13−2等における円周方向に平行なコイル配線部分と近接するあるいは重なり合うように2つの検出コイル4−3、4−4を設けたものである。
【0061】
さらに、磁束探傷装置20は、前記断熱配管1を挿通可能である円筒状の円筒母材である検査部母材2−2を備え、前記検査部母材2−2は、当該検査部母材2−2の一部を軸方向に沿って分割して前記断熱配管1の任意の検査位置に取付け可能であるとともに、前記検査部母材2−2の円周方向に沿って前記励磁コイル13が並設され、当該並設された励磁コイル13の長手方向両端に前記検出コイル4−3、4−4を設け、前記検査部母材2−2の分割部分を前記電気的接続コネクタであるコイル接続コネクタ15−1、15−2の分割及び接続可能である部分とを一致するように構成したものである。こうすることで、断熱配管1を切り離さなくても、断熱配管1の任意の位置に断熱配管1を取り付けることができる。
【0062】
こうして、磁場印加検出手段である検査部12は、励磁コイル用電源5により交流電流を励磁コイル13に通電することで励磁コイル13を励磁し、当該励磁コイル13を検査部母材2−2を介して断熱配管1表面に近接させることで断熱配管1の表面と平行となるように磁束を生じさせることができる。つまり、検査部12は、励磁コイル13により交流磁場を所定の磁場印加方向(本実施例においては、断熱配管1中心軸方向)に印加して断熱配管1の表面と平行な磁束を発生させることができるとともに、検出コイル4−3、4−4により断熱配管1に流れる磁束の変化を検出することができる。
【0063】
図5は、図4で示した実施例2における長方形励磁コイルの動作原理を示している。励磁コイル切り替えスイッチ14を操作して、全ての長方形励磁コイルに電流を流した時には、隣り合った、つまり断熱配管1の長手方向(x方向)に平行な辺(例えば、辺C1及び辺C2)では電流がお互いに反対方向を向くために、お互いがキャンセルされ、磁場を発生させない。一方、断熱配管1の円周方向に平行な辺(例えば、辺C3及び辺C4)では電流方向にそろっているので、実質的に実施例1における貫通型の励磁コイルと同じ作用を生じさせることができる。ここで、励磁コイル13のうち一つの長方形励磁コイルだけを、例えば長方形励磁コイル13−1だけを動作させると、断熱配管1の表面において垂直な方向に磁場を発生させることができるが、長方形励磁コイル13−1の辺のうち、円周に平行な辺(例えば、C4)の直下及びその近傍では、断熱配管1の長手方向に磁場を発生させることができる。従って、励磁コイル13のうち一つの長方形励磁コイルだけを動作させると、検出コイル4−3や検出コイル4−4の近くで、動作させた長方形励磁コイルに対応する断熱配管1の一部の部分に対して断熱配管1の長手方向に磁場を発生させることが可能となる。断熱配管1に亀裂や穿孔など一部の欠陥が発生した場合、実施例1に示す磁束探傷装置10では、長手方向(x方向)での欠陥の位置は判定することができるが、断熱配管1円周上でどの位置にあるかが判定できない。しかし、実施例2に示す磁束探傷装置20では欠陥が断熱配管1円周上のどの位置にあるかまでも判定することができる。
【0064】
以上のように、磁束探傷装置20では、複数の長方形励磁コイルが有する全てのコイルに対して、同時に同じ方向と同じ値の電流を流した場合、並設された長方形励磁コイルにおける断熱配管1中心軸に平行なコイル配線部分の隣り合う同士を近接するあるいは重なりあうようにしているので、隣り合うコイル間で電流の方向は逆向きになり磁場を発生しない。一方、並設された長方形励磁コイルにおける断熱配管1円周方向に平行な一側のコイル配線では電流の方向は同じ方向になり、並設された長方形励磁コイルの一側のコイル配線全体でひとつの貫通コイルを形成することとなる。また、他側のコイル配線でも同様にひとつの貫通コイルが形成されるので、通電時に2つの貫通型の励磁コイルが形成されることになる。また、電流切換手段である励磁コイル切り替えスイッチ14により、並設された長方形励磁コイルの一部だけに電流を流すことができる。例えば、並設された長方形励磁コイルの一部だけに電流を流す場合は、検出コイル4−3、4−4は貫通型であるので検出コイル4−3、4−4が検出する磁場成分は、並設された長方形励磁コイルにおける断熱配管1円周方向に平行なコイル配線の一部が作る磁場だけになる。このため、断熱配管1の円周上の一部だけに磁場を印加することができるので、並設された複数の長方形励磁コイルにおいて印加する長方形励磁コイルを適宜切り替えることにより、例えば亀裂や穿孔などの欠陥が配管の一部にある場合、断熱配管1の円周上のどの位置に欠陥があるのか場所を特定して検出することができる。
【0065】
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲における種々の変形例・設計変更などをその技術的範囲内に包含することは云うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、石油プラントや化学プラントなど多くのところで使われている鉄鋼配管あるいは断熱材で覆われた鉄鋼配管の表面や内部、内側にある欠陥を検出する非破壊検査装置である。従来の磁気を用いた探傷検査方法では、欠陥による信号変化が微弱なため断熱材を用いた鉄鋼配管には適応できなかったため、断熱材を取り除いて検査されていた。本発明により、鉄鋼配管単体のみならず断熱材をつけた状態での配管の表面や内部、内側にある欠陥の検査に適用できる。
【符号の説明】
【0067】
1 断熱配管
2 検査部
2−1 検査部母材
3−1 励磁コイル
3−2 励磁コイル
4−1 検出コイル
4−2 検出コイル
5 励磁コイル用電源
6 発信器
7 ロックイン検波器
8 信号解析装置
9 表示機構
10 磁束探傷装置
11−1 コイル接続コネクタ
11−2 コイル接続コネクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検査配管の欠陥を非破壊検査する非破壊検査装置であって、
前記被検査配管を挿通し、当該被検査配管に対して当該被検査配管中心軸方向に平行な磁束を発生させる複数の励磁コイルと、
前記複数の励磁コイルの各々と対となるように配置され、前記複数の励磁コイルにより発生した前記被検査配管中心軸方向の磁場を検出する複数の検出コイルと、
当該複数の検出コイルにおける各検出コイル間からの検出コイル信号の差を取得し、当該取得した検出コイル信号の差より前記複数の励磁コイルと同じ周波数の信号を検波するロックイン検波手段と、
当該ロックイン検波手段の出力信号における信号強度と位相変化を解析する信号解析手段と、を備えたことを特徴とする非破壊検査装置。
【請求項2】
前記励磁コイルと、当該励磁コイルと一対となるように同軸上に形成される前記検出コイルとから構成された相互誘導コイルを2組備え、
前記2組の相互誘導コイルにおける一方の励磁コイルと他方の励磁コイルは、前記被検査配管に対して同じ方向に磁場を印加するように同じ巻き方向とするとともに、前記一方の励磁コイルと前記他方の励磁コイルを直列接続し、
前記2組の相互誘導コイルにおける一方の検出コイルと他方の検出コイルは、それぞれが逆方向の磁場を検出するように反対巻き方向とするとともに、前記一方の検出コイルと前記他方の検出コイルを直列接続したことを特徴とする請求項1に記載の非破壊検査装置。
【請求項3】
前記被検査配管は、断熱配管であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の非破壊検査装置。
【請求項4】
前記相互誘導コイルにおける励磁コイルと検出コイルの各々のコイル円周上における所定位置で各々のコイルを分割及び接続可能な電気的接続コネクタを設けたことを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の非破壊検査装置。
【請求項5】
前記断熱配管の円周上に沿うように所定の曲率を持った複数の長方形状の励磁コイルを並設し、当該並設された励磁コイルにおける前記断熱配管中心軸に平行なコイル配線部分の隣り合う同士を近接するあるいは重なり合うようにして、前記並設された励磁コイルのうち任意の励磁コイルに電流を流すための電流切換手段を設けるとともに、前記並設された励磁コイルにおける前記断熱配管円周方向に平行なコイル配線部分と近接するあるいは重なり合うように2つの検出コイルを設けたことを特徴とする請求項1に記載の非破壊検査装置。
【請求項6】
前記断熱配管を挿通可能である円筒状の円筒母材を備え、
前記円筒母材は、
当該円筒母材の一部を軸方向に沿って分割して前記断熱配管の長手方向における任意の位置に取付け可能であるとともに、前記並設された励磁コイルの長手方向両端に前記2つの検出コイルを設け、前記円筒母体の分割位置を前記電気的接続コネクタの分割及び接続可能である部分と一致するように構成したことを特徴とする請求項5に記載の非破壊検査装置。
【請求項7】
請求項1に記載の非破壊検査装置を用いて、
前記被検査配管の欠陥を非破壊検査する非破壊検査方法であって、
前記複数の励磁コイルに前記被検査配管を挿通し、前記複数の励磁コイルにより前記被検査配管に対して前記被検査配管中心軸方向に平行な磁束を発生させる工程と、
前記複数の励磁コイルにより発生した前記被検査配管中心軸方向の磁場を前記複数の検出コイルにより検出する工程と、
前記ロックイン検波手段により前記複数の検出コイルにおける各検出コイル間からの検出コイル信号の差を取得し、当該取得した検出コイル信号の差より前記複数の励磁コイルと同じ周波数の信号を検波して、前記信号解析手段に入力する工程と、
前記信号解析手段により前記ロックイン検波手段の出力信号における信号強度と位相変化を解析することで前記被検査配管の欠陥を特定する工程と、を有することを特徴とする非破壊検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−93095(P2012−93095A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237869(P2010−237869)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【特許番号】特許第4766472号(P4766472)
【特許公報発行日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(504147243)国立大学法人 岡山大学 (444)
【Fターム(参考)】