説明

非破壊硬さ評価方法、非破壊硬さ評価装置および非破壊硬さ評価に用いられる硬さ測定装置

【課題】X線回折を用いて、物体の表層の硬さの状態を非破壊で評価することができる方法を提供する。
【解決手段】マスター部品に対してX線回折を行い回折X線に基づく回折線幅を測定し、同回折線幅とマスター部品表面の硬度との関係を規定するデータベースと、同硬度と硬化層深さの関係を規定するマスターカーブを取得する。次に、検体である焼入量産品に対して前記と同様のX線回折を行い回折線幅を取得する。そして、前記データベース、マスターカーブおよび前記検体に係る回折線幅を用いて、検体表層の硬度および硬化層深さを推定し、同推定値に基づいて焼入量産品の表層の硬さの状態を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物体の表層の硬さの状態を非破壊で評価できる非破壊硬さ評価方法、非破壊硬さ評価装置および非破壊硬さ評価に用いられる硬さ測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
バイクや自動車のドライブギアなどの歯車部品は、過酷な環境下で使用されるため、歯部表面などを高周波焼入などの表面硬化処理によって硬化層を形成し、歯車の硬度だけでなく、耐摩耗性や疲労寿命などを向上させている。各種のシャフト部品などでも同様なことが行われている。しかし、表面の硬化状態を部品の外観のみから判断することは困難で、従来は、焼入れなどの表面硬化処理を施した部品を切出して断面硬度を測定し、硬化層深さ(硬度分布)を把握する抜取り破壊検査を行わなければならなかった。しかし、抜取り破壊検査では、一旦生産ラインを中断しなければならないことや全数保証できないなど多くの問題があった。
【0003】
そこで、特許文献1に見るような焼入硬度測定装置が発明されているが、これによっても必ずしも十分満足する結果は得られておらず、また、硬化層深さについては計測できないものであった。他方、特許文献2には、X線回折法による硬組織における結晶の配向性を分析する方法の発明等が開示されているが、物体表面の硬度や硬化層深さなどの硬さの状態を評価するものではなかった。
【特許文献1】特開2003−139745公報
【特許文献2】特開2003−121390公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで、本発明は、X線が材料を構成する結晶の格子面間で回折するX線回折現象を利用して、物体の表面に対してX線を入射し、回折線のX線回折パターンと特定の回折面の回折線幅を計測することなどにより、同表面の硬さの状態を非破壊で評価できる方法、装置およびこれらの評価に用いられる硬さ測定装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、請求項1に記載の非破壊硬さ評価方法は、物体の表層の硬さの状態を非破壊で評価する非破壊硬さ評価方法において、評価の基準となる硬さの状態を有する基準物体の表面に対してX線回折を行い、同基準物体の表面から回折された回折X線に基づく硬さ基準情報を取得する硬さ基準情報取得ステップと、評価の対象となる検体の表面に対してX線回折を行い、同検体の表面から回折された回折X線に基づく回折X線情報を取得する回折X線情報取得ステップと、硬さ基準情報取得ステップにて取得された硬さ基準情報と回折X線情報取得ステップにて取得された回折X線情報とを用いて、検体の表層の硬さの状態を評価する硬さ状態評価ステップとを含むことを特徴とする。
【0006】
また、請求項2に記載の非破壊硬さ評価方法は、請求項1に記載の非破壊硬さ評価方法において、硬さ基準情報は、基準物体の表面における前記X線の回折状態と同表面における硬度との関係を表す情報を含み、回折X線情報は、検体の表面におけるX線の回折状態を表す情報を含み、硬さ状態評価ステップは、硬さ基準情報取得ステップにて取得された硬さ基準情報と回折X線情報取得ステップにて取得された回折X線情報とを用いて、検体の表面の硬度を特定する硬度特定ステップを含み、硬度特定ステップにて特定された硬度を用いて、検体の表層の硬さの状態を評価するものである。
【0007】
また、請求項3に記載の非破壊硬さ評価方法は、請求項1または請求項2に記載の非破壊硬さ評価方法において、硬さ基準情報は、基準物体の表面におけるX線の回折状態と同表面下の深さ方向における硬度分布との関係を表す情報を含み、回折X線情報は、検体の表面におけるX線の回折状態を表す情報を含み、硬さ状態評価ステップは、硬さ基準情報取得ステップにて取得された硬さ基準情報と回折X線情報取得ステップにて取得された回折X線情報とを用いて、検体の表面下の硬度分布を特定する硬度分布特定ステップを含み、硬度分布特定ステップにて特定された硬度分布を用いて、検体の表層の硬さの状態を評価するものである。
【0008】
また、請求項4に記載の非破壊硬さ評価方法は、請求項3に記載の非破壊硬さ評価方法において、さらに、硬さ基準情報取得ステップは、基準物体の表面におけるX線の回折状態と同表面下の深さ方向における硬度分布との関係を表す硬さ基準情報を、基準物体の表面における複数の回折面ごとに取得し、硬度分布特定ステップは、硬さ基準情報取得ステップにて取得された前記複数の回折面ごとの各硬さ基準情報のうちの少なくとも1つの硬さ基準情報と、回折X線情報取得ステップにて取得された回折X線情報とを用いて、検体の表面下の硬度分布を仮特定する仮特定ステップと、仮特定ステップにて仮特定された硬度分布に応じて、硬さ基準情報取得ステップにて取得された前記複数の硬さ基準情報のうちの1つの硬さ基準情報を選択する硬さ基準情報選択ステップとを含み、硬さ基準情報選択ステップにて選択された硬さ基準情報を用いて、検体の表面下の硬度分布を特定するものである。
【0009】
また、請求項5に記載の非破壊硬さ評価方法は、請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載の非破壊硬さ評価方法において、回折X線情報取得ステップは、検体の表面における互いに異なる複数の位置ごとにそれぞれ回折X線情報を取得し、硬さ状態評価ステップは、硬さ基準情報取得ステップにて取得された硬さ基準情報と回折X線情報取得ステップにて取得された複数の回折X線情報とを用いて、検体の表層の硬さの状態を評価するものである。
【0010】
また、請求項6に記載の非破壊硬さ評価方法は、請求項3ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載の非破壊硬さ評価方法において、物体の表層を硬化させる表面硬化処理を施した検体に対してX線回折を行い、基準の回折線幅と表面硬度との関係および深さと硬度との関係から、検体の表面硬度と硬化層深さとを推測することを特徴として成るものである。
【0011】
また、請求項7に記載の非破壊硬さ評価方法は、請求項3ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載の非破壊硬さ評価方法において、物体の表層を硬化させる表面硬化処理を施した基準物体に対してX線回折を行って回折線幅と表面硬度との関係基準および破壊試験を行って深さと硬度との関係基準とを予め求めておき、表面硬化処理を施した検体に対してX線回折を行い、その結果を回折線幅と表面硬度との関係基準と対照させて検体の表面硬度を推測すると共に、該推測表面硬度を深さと硬度との関係基準と対照させて検体の硬化層深さを推測することを特徴として成るものである。
【0012】
また、請求項8に記載の非破壊硬さ評価方法は、請求項6または請求項7に記載の非破壊硬さ評価方法において、基準の組織以外の結晶相が形成された場合をX線回折の対象となる物体に含まれる組織の各結晶相の複数の回折面から回折される回折X線の回折強度の角度依存性を表すX線回折パターンとの非類似性から判断することを特徴として成るものである。
【0013】
また、請求項9に記載の非破壊硬さ評価方法は、請求項6ないし請求項8のうちのいずれか1つに記載の非破壊硬さ評価方法において、少なくともマルテンサイト相とフェライト相とが存在する前記検体を評価することを特徴として成るものである。
【0014】
また、請求項10に記載の非破壊硬さ評価方法は、請求項6または請求項7に記載の非破壊硬さ評価方法において、表面硬化処理を施した基準物体に対してX線回折を行って回折線幅と表面硬度との関係基準を予め求めておくに当たって、回折線幅は特定の回折面におけるものを用いることを特徴として成るものである。
【0015】
また、請求項11に記載の非破壊硬さ評価方法は、請求項6または請求項7に記載の非破壊硬さ評価方法において、表面硬化処理を施した基準物体に対してX線回折を行って回折線幅と表面硬度との関係基準を予め求めておくに当たって、回折線幅は幾つかの回折面におけるそれぞれの最高値と最低値間にわたり規格化したものを用いることを特徴として成るものである。
【0016】
また、請求項12に記載の非破壊硬さ評価方法は、請求項6または請求項7に記載の非破壊硬さ評価方法において、2/5値幅の回折線幅を指標として検体の表面硬度を推測することを特徴として成るものである。
【0017】
また、請求項13に記載の非破壊硬さ評価方法は、請求項6または請求項7に記載の非破壊硬さ評価方法において、X線としてCr−Kα線または白色X線を用いることを特徴として成るものである。
【0018】
また、請求項14に記載の非破壊硬さ評価方法は、請求項6または請求項7に記載の非破壊硬さ評価方法において、X線の照射領域をコリメータにて絞ることを特徴として成るものである。
【0019】
また、請求項15に記載の非破壊硬さ評価方法は、請求項14に記載の非破壊硬さ評価方法において、X線の照射面積が0.008〜5.0mmであることを特徴として成るものである。
【0020】
また、請求項16に記載の非破壊硬さ評価方法は、請求項1に記載の非破壊硬さ評価方法において、硬さ基準情報および回折X線情報は、前記X線回折の対象となる物体に含まれる組織の各結晶相の複数の回折面から回折される回折X線の回折強度の角度依存性を表す回折パターンをそれぞれ含み、硬さ状態評価ステップは、硬さ基準情報取得ステップにて取得された硬さ基準情報における回折パターンと回折X線情報取得ステップにて取得された回折X線情報における回折パターンとを比較する比較ステップを含み、比較ステップによる比較結果に基づいて検体の表層の硬さの状態を評価するものである。
【0021】
また、請求項17に記載の非破壊硬さ評価方法は、請求項2ないし請求項15のうちのいずれか1つに記載の非破壊硬さ評価方法において、さらに、硬さ基準情報および回折X線情報は、前記X線回折の対象となる物体に含まれる組織の各結晶相の複数の回折面から回折される回折X線の回折強度の角度依存性を表す回折パターンをそれぞれ含み、硬さ状態評価ステップは、硬さ基準情報取得ステップにて取得された硬さ基準情報における回折パターンと回折X線情報取得ステップにて取得された回折X線情報における回折パターンとを比較する比較ステップと、比較ステップによる比較結果に応じて、さらに、硬さ基準情報取得ステップにて取得された硬さ基準情報と回折X線情報取得ステップにて取得された回折X線情報とを用いて、検体の表層の硬さの状態を評価するものである。
【0022】
なお、本発明は方法の発明として実施できるばかりでなく、装置の発明としても実施できるものである。
【0023】
例えば、請求項23に記載の表面硬化処理品の非破壊硬さ評価装置は、X線回折を行う計測装置と、該計測装置からの信号を取込んで所定のデータ処理を行う計測信号取込部と、物体の表層を硬化させる表面硬化処理を施した前記基準物体の回折線幅と表面硬度との関係基準および深さと硬度との関係基準を記憶している関係基準記憶部と、該関係基準記憶部からの関係基準と前記計測信号取込部からの計測値とにより、前記表面硬化処理を施した前記検体の表面硬度と硬度分布とを推測する評価部とを有することを特徴としてなるものである。
【0024】
さらに、本発明は、物体の表層の硬さの状態を非破壊で評価する際に利用される硬さ測定装置の発明としても実施できるものである。
【0025】
すなわち、請求項26に記載の硬さ測定装置は、評価の基準となる硬さの状態を有する基準物体の表面に対してX線回折を行い、同基準物体の表面から回折された回折X線に基づく硬さ基準情報を取得する硬さ基準情報取得手段と、評価の対象となる検体の表面に対してX線回折を行い、同検体の表面から回折された回折X線に基づく回折X線情報を取得する回折X線情報取得手段と、硬さ基準情報取得手段にて取得された硬さ基準情報と回折X線情報取得手段にて取得された回折X線情報とを用いて、検体の表層の硬さの状態を表す硬さ情報を生成する硬さ情報生成手段と、硬さ情報生成手段にて生成された硬さ情報を表示する情報表示手段とを備えることを特徴とする。
【0026】
請求項1に記載の発明によれば、検体の表層の硬さの状態を評価するための基準、すなわち、硬さ基準情報を基準物体をX線回折することにより取得している。そして、評価対象である検体の表面を同様にX線回折することにより回折X線情報を取得し、取得した回折X線情報と硬さ基準情報とを用いて検体表層の硬さの状態を評価する。この場合、例えば、回折X線情報と硬さ基準情報との相違に着目して検体表層の硬さの状態を評価することができる。また、回折X線情報と硬さ基準情報とを用いて検体表層の硬さの状態を推定し、同推定結果に基づいて検体表層の硬さの状態を評価することもできる。すなわち、本発明によれば、X線回折を用いることにより非破壊で検体の硬さの状態を評価することができる。
【0027】
また、請求項2に記載の発明によれば、基準物体表面のX線の回折状態に対する同表面における表面硬度の関係を硬さ基準情報としている。例えば、X線の回折状態を表す情報として前記回折パターンを採用でき、同回折パターンにおける回折線幅と硬度との関係を規定する変換テーブル(データベース)または関数・近似式などを硬さ基準情報とすることができる。この場合、硬度は、基準物体の表面を実際に測定した値を用いればよい。そして、回折X線情報を硬さ基準情報と同様の回折パターンにおける回折線幅とする。これによれば、検体から取得した回折X線情報、すなわち、検体から取得した回折線幅から同検体表面の硬度を推定することができる。そして、この推定値に基づいて検体の硬さの状態を評価することができる。
【0028】
また、請求項3に記載の発明によれば、基準物体表面におけるX線の回折状態に対する同表面下の硬度分布の関係を硬さ基準情報としている。例えば、基準物体における表面の硬度および同表面下における深さ方向の硬度分布(硬度変化)を測定し、表面硬度に対する硬度分布(硬度変化)の関係を表す情報、例えば、変換テーブル(データベース)または関数・近似式などを硬さ基準情報とする。また、前記と同様にして、基準物体における前記回折線幅と硬度との関係も求める。これにより、検体から取得した回折X線情報、すなわち、回折線幅から同検体表面の硬度を推定するとともに、同推定値に基づいて検体表面の硬度分布を推定することができる。そして、この硬度分布の推定値に基づいて検体の硬さの状態を評価することができる。なお、この場合、検体から取得した回折X線情報から同検体表面の硬度も推定することができるため、これらの硬度および硬度分布に基づいて検体の硬さの状態を評価することもできる。
【0029】
また、請求項4に記載の発明によれば、基準物体の表面における複数の回折面ごとに硬さ基準情報をそれぞれ取得している。そして、複数の硬さ基準情報のうちの少なくとも1つの硬さ基準情報を適用して検体の硬度分布を仮に特定し、この仮に特定した硬度分布に応じて再度、硬さ基準情報を選択して検体の硬度分布を推定している。すなわち、回折面ごとに硬さ基準情報の特性・傾向が異なる場合、例えば、前記回折線幅に対する硬度分布(実測値)の精度が回折面ごとに異なる場合、仮に特定した硬度分布に基づいて実際の硬度分布を予測し、同予測した硬度分布に適した精度を有する回折面の硬さ基準情報を用いて、再度硬度分布を特定する。これにより、より精度良く硬度分布を特定することができる。
【0030】
また、請求項5に記載の発明によれば、検体における互いに異なる複数の位置から回折X情報を取得している。この場合、取得した各回折X線情報を用いて各取得位置ごとの硬さの状態、具体的には、表面硬度や硬度分布を特定することができる。すなわち、1つの回折X線情報に基づいて検体表面の硬さの状態を評価する場合に比べて、より精度良く硬さの状態を評価することができる。また、硬度分布を特定する場合、互いに異なる複数の位置に基づく回折X線情報を取得することにより、検体表層の硬度分布を3次元的に特定することができ、より精度良く硬さの状態を評価することができる。
【0031】
また、請求項6に記載の発明によれば、表面硬化処理が適正に行われたか否かを判断し得ると共に、硬化層の表面硬度と共に表面下に残留する硬化層深さを非破壊で評価することができる。すなわち、表面硬化処理が基準とおり適正に行われ、目的の硬化組織が形成されたか否かは、検体のX線回折パターンを基準のX線回折パターンと照合することにより、その非類似性により判断することができる。硬化層の表面硬度は、硬化層表面から回折される特定あるいは幾つかの回折面のX線回折線幅を計測することにより評価でき、また、表面下に残留する硬化層深さは、基準とおり適正な表面硬化処理を施したときの深さ方向の硬度分布と照合することにより、十分な深さの硬化層が残留していることを確認することができる。これらの結果、部品を切断したり、破壊させることなく、全数部品の検査も可能となる。
【0032】
特に、請求項7に記載の発明によれば、表面硬化処理を施した基準物体の実測値を基準とした評価ができ、実際を反映する。
【0033】
また、請求項8に記載の発明によれば、目的外の硬化組織が形成されてしまった検体を、表面硬度や硬化層深さを評価する前に、予め、対象外とすることができる。
【0034】
また、請求項9に記載の発明によれば、鋼材における実際を反映した表面硬度や硬化層深さとして推測することができる。
【0035】
また、請求項10に記載の発明によれば、指標として適切な回折面における回折線幅と表面硬度の関係基準を用いることができる。
【0036】
また、請求項11に記載の発明によれば、各回折面におけるバラツキを規格化した回折線幅と表面硬度の関係基準を用いることができる。
【0037】
また、請求項12に記載の発明によれば、半値幅を測定できない場合に対処することができる。
【0038】
また、請求項13に記載の発明によれば、X線としてCr−Kα線を用いると、回折線幅変化の測定精度が高くて、好ましい非破壊硬さ評価を行うことができる。また、X線として白色X線を用いた場合でも、Cr−Kα線、すなわち特性X線を用いた場合と同様に精度良く非破壊硬さ評価を行うことができる。
【0039】
また、請求項14に記載の発明によれば、空間分解能、トータル精度および測定時間を調節することができる。
【0040】
また、請求項15に記載の発明によれば、空間分解能、トータル精度および測定時間のバランスが適した状態で非破壊硬さ評価を行うことができる。
【0041】
また、請求項16に記載に記載の発明によれば、硬さ基準情報および回折X線情報を回折X線における回折強度の角度依存性を表す回折パターンとし、硬さ基準情報に対する回折X線情報の相違に基づいて検体表層の硬さの状態を評価している。これにより、検体表面の硬さの状態が基準物体に対してどの程度相違するのか、または類似するのかを簡単に確認することができ、この相違または類似性に基づいて検体の硬さの状態を評価することができる。
【0042】
また、請求項17に記載の発明によれば、前記基準物体および検体に基づく各回折パターンの比較結果に応じて検体表面の硬度を特定している。すなわち、両回折パターンの比較により検体表面の硬さの状態が基準物体表面の硬さの状態に近似する場合(所定の許容範囲内の場合)にのみ、検体表面の硬度の特定をすることができる。これにより、基準物体表面の硬さの状態と近似しない検体表面の硬度特定処理を回避でき、検体表面の硬度特定処理の効率を向上させることができる。特に、検体の数が多い場合に有効である。
【0043】
また、請求項23に記載の発明によれば、検体を破壊することなく、表面硬化処理品の表面硬さと硬化層深さとを推測することのできる装置として提供することができる。
【0044】
また、請求項26に記載の発明によれば、X線回折を用いて基準物体から硬さ基準情報を取得するとともに検体から回折X線情報を取得し、これらの取得した硬さ基準情報と回折X線情報とを用いて硬さ情報を表示させている。そして、硬さ状態の評価を行う者は、表示された硬さ情報に基づいて同硬さの状態を評価することができる。すなわち、本発明によれば、X線回折を用いることにより非破壊で検体の硬さの状態を評価することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
本発明を実施するための最良の形態は、以下の実施例に述べるものをその一つとするとともに、更にその技術思想内において改良し得る種々の手法をも含むものである。
【0046】
本発明の表面硬化処理品の非破壊硬さ評価方法すなわち非破壊検査の流れと評価の概略手順は、図14(a)および図14(b)に示すが、その前に、X線回折線幅から表面硬化処理品の表面硬度および硬化層深さが推測できる点、並びに、そもそもX線回折パターンから目的の硬化組織が形成されたことを判断できることについて説明する。
【0047】
以下、表面硬化処理および表面硬化処理品として炭素鋼に対して高周波焼入れを行った検証実験を例に説明する。この検証実験の供試材としては、S48C炭素鋼のドライブギアを用いた。そして、実験には、図1(a)に示すドライブギアの歯底近傍から切出した直方体試験片を用いた。試験片寸法は、幅5.6mm×歯幅15.8 mm×高さ10.8mmである。ドライブギア歯部は、ガス軟窒化後、900℃の高周波焼入、300℃の焼戻しを行った。表1は、供試材の高周波焼入前の組成成分を示す。なお、試験片上面に図1(b)に示す直交座標系xyzを定義した。
【表1】

【0048】
X線的性質を測定する前に、切出し試験片の側面(xz平面)と歯底面(xy平面)に対して硬度測定を行い、歯車側面と歯底面の半径方向(歯底からクランクシャフト軸方向)の硬度分布を測定した。硬度測定は、微小硬度計(HM-122,アカシ製)により行った。実験は、まず、一定の硬度に熱処理した供試材と同じ組成成分のS48C試験片を用いて硬度測定条件を決定した後、高周波焼入した直方体試験片のビッカース硬度を0.5mm間隔でマッピング測定した。次に、直方体試験片側面のz方向の硬度分布から、歯底面を逐次研磨する材料除去量Δzを決定し、研磨面のX線的性質を測定後、硬度分布を測定した。なお、試験荷重の保持時間は15秒とし、材料除去はエメリー紙による機械研磨後、約20μm電解研磨して仕上げ面とした。なお、機械研磨には、#80,#180,#320,#600,#1500,#8000の6種類のエメリー紙を用いた。また、電解研磨は、過塩素酸とエタノールを混合した電解液により行った。
【0049】
X線的性質として回折線幅に注目し、研磨面のフェライト相またはマルテンサイト相の回折線強度分布を測定して回折線幅を求めた。回折強度は、微小部X線回折装置(RINT2100,理学電機製)により測定した。実験はCr−Kα線を用いて、φ1.0 mm、または、φ0.1 mmのピンホールコリメータでX線をマイクロビーム化し、照射位置の回折線強度を湾曲型PSPC (Position sensitive proportional counter)により測定した。表2に主なX線回折条件を示す。なお、コリメータ径φ1.0 mmでは回折面ごとに計測時間を変えた。また、φ0.1 mmではΦ軸揺動を行い、110面と211面のみ測定した。なお、Φ軸はX線の照射中心に対して物体表面内を回転する軸として定義した。
【表2】

【0050】
歯車試験片の硬度分布を測定する前に、硬度HV325に熱処理したS48Cを用いて試験荷重P=9.8×10-2~9.8Nの荷重条件でビッカース硬度を測定し、測定条件を検討した。その結果、硬度測定値が安定する荷重条件はP≧4.9Nであった。そこで、切出し試験片の歯底面を逐次研磨し、研磨面の硬度分布を測定するため、圧痕深さはできるだけ浅い方が良いので、以下の硬度測定はすべてP=4.9Nで行った。
【0051】
図2は、ドライブギア側面(xz平面)の硬度分布を示す。また、図3は焼入れ後の代表的な組織写真を示す.0≦z≦1.5mmでは、図3(a)に示すように高周波焼入による焼入組織(マルテンサイト組織)が観察され、その領域での硬度の平均値はHV640±20であった。一方、z≧6.0mmでは、図3(d)に示すように焼入前組織(フェライト+パーライト組織)が観察され、硬度はほぼ一定値(HV303±13)を示し、その値は焼入前の歯車の硬度と一致した。また、1.5≦z≦6.0mmでは、図3(b)や図3(c)に示すように焼入組織と焼入前組織が混在した中間組織が観察され、zの増加とともに硬度は減少した。すなわち、検証実験における基準物体の側面の硬化組織は0≦z≦6.0mmまで形成されていた。そこで、0≦z≦1.5 mmでは、材料除去量をΔz=0.5
mmに設定した。また、1.5≦z≦5.0 mmでは、Δz=0.3 mmに設定し、歯底面から逐次研磨除去したときの回折線幅と硬度分布を測定した。
【0052】
図4は、z=1.5 mmにおける歯底面(xy平面)と平行な面での硬度分布を示す。z=0 mmでは測定面内の組織はすべて焼入組織を示し、ほぼ一定の硬度を示したのに対して、z=1.5 mmでは歯幅中央付近で焼入組織と焼入前組織が混在した中間組織が現れ、硬度低下が生じている。歯車の高周波焼入では、一般に、側面や歯先表面に焼きが入りやすいが、歯の内部や歯幅中央部では焼きが入り難いため、中央付近の硬度が低下した。一方、図5は、z=3.3 mmにおける歯底面(xy平面)と平行な面での硬度分布を示す。図5からわかるように歯車側面の硬度はまだ400~450と高く、側面近傍に硬化層が一部残留しているが、歯幅中央部では硬化層はほとんど除去されていることがわかる。
【0053】
図6は、焼入前後の歯底表面から測定したX線回折パターンを示す。焼入前の回折パターンは、焼入前組織のフェライト相からの110面と200面、211面の3つの回折線が現れているのに対して、焼入後の回折パターンは、焼入組織のマルテンサイト相からの回折線が現れ、回折線幅が広がっていることがわかる。同様の傾向は、Cu−Kα線を用いた場合でも観察できるが、Cr−Kα線による回折線は、バックグラウンドが低く、S/N比も高いことから、回折線幅変化の測定精度が高くて、好ましい。勿論、これらに限られることもない。なお、回折線幅としては一般に半値幅を採用することが多いが、焼入前組織のフェライト相からの回折強度分布がKα1線とKα2線の重畳によりスプリットし、半値幅を測定できない場合があることを考慮して、回折強度分布からKα2線を分離しない状態で回折線幅が測定できる2/5値幅を採用するのが望ましい。以下、各回折線の2/5値幅をWと定義して説明するが、これに限らず、回折線幅が測定できる条件であれば半値幅やその他の回折線幅で良いことは勿論である。
【0054】
以上の結果から、歯底面を逐次除去した研磨面にマイクロビーム化したX線を照射し、照射位置の回折線幅を測定するとともにビッカース硬度を測定して、回折線幅と硬度の関係を実験的に求めた。なお、φ1.0 mmおよびφ0.1 mmのX線照射領域とビッカース圧痕は、図7に示すような位置関係にある。そこで、コリメータ径φ1.0 mmで測定した照射位置の硬度は、次式のように、図7に示す照射中心と周囲4点の平均値とした。
【数1】

【0055】
図8は、コリメータ径φ1.0 mmによる2/5値幅Wとビッカース硬度HVの関係を示す。図8より、2/5値幅Wと硬度HVの関係は、ほぼ比例関係を示すことがわかる。そこで、表3に示す焼入組織のマルテンサイト相の最大回折線幅Wmaxと最大硬度HVmaxを1、焼入前組織のフェライト相の最小回折線幅Wminと最小硬度HVminを0として縦軸と横軸をそれぞれ次式のように規格化し、硬度と回折線幅の関係を再整理した。
【表3】

【数2】

【数3】

【0056】
その結果を図9に示す。また、図10は、3つの回折面に対し、W'とHV'の関係をそれぞれプロットした結果を示す。なお、各点の硬度HV'は、数式1で求めたHVを規格化した値でプロットし、その点での硬度誤差をエラーバーで示した。エラーバーが大きいほどX線照射内の硬度変化が大きいことを示している。ここで,各回折面の回折線幅W'と硬度HV'の関係をHV'={W'}Cで近似した結果、次式のような関係を得た(図中の実線)。
【数4】

【数5】

【数6】

【0057】
焼入組織と焼入前組織が混在した中間組織では、照射領域内の硬度のばらつきが認められるが、上式の近似曲線に良く乗っていることがわかる。よって、照射位置の硬度HVは、数式4または数式5、数式6を数式3に代入することにより、
【数7】

【数8】

【数9】

で表され、φ1.0 mmのコリメータでマイクロビーム化したX線で高周波焼入鋼の回折線幅Wを測定することにより非破壊で求めることができる。
【0058】
図11は、コリメータ径φ0.1 mmによる2/5値幅Wとビッカース硬度HVの関係を示す。なお、φ0.1 mmの測定では、図7に示すように、照射領域と圧痕面積はほぼ等しい。よって、横軸の硬度は、照射位置の硬度HV0とした。図より、2/5値幅Wと硬度HVの関係は、φ1.0 mmの場合と同様に、ほぼ比例関係を示すことがわかる。
【0059】
そこで、前述と同様に、表3に示す焼入組織のマルテンサイト相のWmaxとHVmaxを1,焼入前組織のフェライト相のWminとHVminを0として規格化した結果を図12に示す。また、図13は、2つの回折面に対し、W'とHV'の関係をそれぞれプロットした結果を示す。なお、図中のエラーバーは照射位置周りの4点の硬度から求めた硬度誤差である。図より、回折線幅W'と硬度HV'の関係は、前述の場合と同様に、110面は数式4で、211面は数式6で表された。一方、コリメータ径を小さくして照射領域を小さくすると、歯底面内の硬度変化が激しい中間組織での評価においては、照射位置の硬度を反映して回折線幅W'と硬度HV'の関係精度は良くなると予想していたが、前述の結果と比較すると、逆にばらつきは大きくなった。すなわち、φ0.1 mmの測定では、空間分解能が高くなる反面、図3の組織写真からわかるように回折に預かる粒子数が大きく減少するため、回折線幅の測定精度はφ1.0 mmと比較すると低い。そのため、φ0.1 mmでは、数式4または数式6の実線に対するばらつきが、φ1.0 mmの結果よりも大きくなったと考えられる。なお、本実験のX線による照射位置と硬度測定点の設定誤差は、それぞれ±10μm以下と±1.0μm程度であり、X線照射位置の設定誤差による硬度のばらつきはほとんど無視できると考えられる。しかし、実際の生産ラインで、φ0.1 mmのX線よる非破壊評価を行うと、X線照射位置の設定誤差内に著しい硬度変化が存在する場合は注意する必要があり、その得失を考慮して、適宜、X線の照射領域を絞るなど行うのが望ましい。
【0060】
以上で、高周波焼入したドライブギアの硬度は、マイクロビーム化したX線で回折線幅Wを測定することにより非破壊評価できることがわかった。一方、焼入状態の判断には、表面硬度の他に、硬化層深さの評価が必要である。本発明では、X線による回折線幅と硬度の関係を利用し、検査対象部品の最適な表面硬化処理での硬度分布から、表面硬化処理品の表面硬度と硬化層深さを非破壊で検査する方法であり、この非破壊検査の流れと評価手順を示す図14(a)、図14(b)について説明する。なお、前述と同様に、表面硬化処理として高周波焼入れしたものとして説明する。
【0061】
まず、対象材料と部品を決定し、最適な焼入処理を施したマスター部品の硬化層組織を観察し、表面硬度と硬度分布を確認すべき検査位置を決める。たとえば、先の実験で用いたドライブギアでは、図14(b)に示したような歯底中央部などが検査位置となる。次に、対象部品の回折線幅と硬度の関係(図8または図9)を実験的に求め、数式7や数式8、数式9のような関係基準たるデータベースを構築する。また、マスター部品の検査位置での深さ方向の硬度分布を測定し、硬化層の関係基準たるマスターカーブとする。なお,硬化層深さは焼入条件や検査位置により異なるので、検査位置に対応したマスターカーブ(後述する図17参照)が必要となる。
【0062】
次に,検体たる実際の焼入量産部品(表面硬化処理品)にX線を照射し、回折線幅W(a)を測定し,マスター部品のデータベースから検査位置の表面硬度HV(b)を評価する。ついで、硬化層のマスターカーブからHV(b)に対応する深さZ(c)を求め、検査位置の表面下に残留する硬化層深さZ'(d)を評価する。なお、X線法では同時に検査位置の回折パターンを確認できるので、熱処理の不具合などにより生じる異相(残留オーステナイトなど)の発生に伴う硬度低下部品を非破壊で除去することができる。すなわち、マスター部品におけるX線回折パターンとの非類似性から評価対象外と判断するのである。なお、回折線幅と表面硬度との関係基準たるデータベースと、深さと硬度との関係基準たるマスターカーブ(硬度分布)とから、回折線幅と硬化層深さとを直接関係を付け、回折線幅から直接的に硬化層深さを推測するようにしても勿論良く、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更可能である。
【0063】
なお、実際の歯車部品では、焼入処理後に歯部表面を研磨などの機械加工により除去して出荷するため、マスター部品の硬化層深さに満たない量産部品が発生する危険性が高い。そこで、図15に示すように、切出し試験片の歯底中央部近傍のA点を検査位置と仮定し、歯底面を任意に研磨除去した別の試験片に対して回折線幅を測定して表面下の残留硬化層深さを予測し、その後機械研磨により焼入前組織が観察されるまでの深さを実測して本手法の妥当性を再確認しつつ、これを以下に説明する実施例とした。なお、検査位置によるマスターカーブの違いを見るためにB点を定義した。
【実施例】
【0064】
図16は、数式7と数式8、数式9から予測したドライブギア硬化層の回折線幅と硬度の関係を示す。図より、一定の硬度変化に対する回折線幅の変化量は、高角度側の211面が最も高く、200面、110面と低角度になるほど小さくなる。回折線幅による硬度評価もX線残留応力測定と同様に、高角度側の回折角を選択するほど微小な硬度変化を精度良く捉えられることを示している。次に、図17は、歯底中央部近傍のA点と歯車側面近傍のB点における歯車軸方向の硬度分布を示す。なお、図中の実線と点線は実験値の補間曲線で、これらの曲線を検査位置における硬化層のマスターカーブとした。検査位置Aでは、z≧3.6 mmで高周波焼入による焼入組織がほぼ観察されなくなり、焼入前組織の硬度と一致した。
【0065】
図18は、回折線幅Wに対する検査位置Aの試験片表面下に残留する硬化層深さz'を示す。図中の3つの曲線が110,200,211面の回折線幅に対する予測値で、図16と図17から求めた。なお、図の各点(○,▲,■印)は、歯底面を任意に研磨除去した別の試験片の検査位置Aで測定した回折線幅と、その表面下に残留する硬化層深さの実測値をプロットした結果である。図より、各関係基準たるデータベースとマスターカーブとから予測される硬化層深さと実験値はほぼ一致し、本発明方法により焼入部品の表面硬度や表面下に残留する硬化層深さを非破壊で評価でき、焼入状態の非破壊検査に適用できることが確かめられた。なお、図の211面の結果からもわかるように、高角側の回折面を用いた方が、表面硬度や硬化層深さの予測精度が高くなり、好ましい。
【0066】
なお、先の検証実験と実施例では、高周波焼入によるマルテンサイト組織の発生に伴う硬化層の焼入状態を非破壊評価する方法を説明したが、マルテンサイト組織以外の異相が発生した場合や浸炭など焼入れ処理とは異なる表面硬化処理を施した場合、焼入面の酸化層や窒化層を除去しない場合等には、硬化層の組織や回折線幅と硬度の関係が異なる可能性もない訳ではないが、それらの場合でも、前述と同様の検証を行って同様の結果が得られる場合には、同様に本発明を適用できるのは勿論である。すなわち、本発明は、高周波焼入品だけでなく、水焼入品や浸炭処理品等の表面硬化処理品に対しても同様に施用できるものである。
【0067】
図19は、本発明の表面硬化処理品の非破壊硬さ評価装置を機能的側面から捉え、機能構成を概略的に表したブロック図であり、1は、X線回折を行う計測装置であり、ピンホールコリメータ、湾曲型PSPC (Position sensitive proportional counter)、検体試験片の固定具などから成り、前述の市販の微小部X線回折装置(RINT2100,理学電機製)などを利用することができる。2は、計測装置1からの信号を取込んで所定のデータ処理を行う計測信号取込部であり、前述した回折線幅(2/5値幅W)などを演算して出力する。3は、表面硬化処理の基準物体の回折線幅と表面硬度との関係基準および深さと硬度との関係基準を記憶している関係基準記憶部であり、具体的には前述のデータベースやマスターカーブなどをデータとして記憶している。なお、これらデータを記憶させたり、一連の評価動作を指示したりする為に、図示しないが、入力部を備える。4は、関係基準記憶部3からの関係基準たるデータベースやマスターカーブと計測信号取込部2からの演算値とにより、前述の流れと評価手順に従い検体の表面硬度と硬化層深さとを推測する評価部である。5は、評価部4より得られた検体の表面硬度と硬化層深さをディスプレイに表示する表示部である。勿論、この表示部5での表示を印刷する為の印刷部を備えるようにしても良い。そこで、計測装置1の検体固定具に検体試験片を固定し、X線回折パターンを測定すれば、前述の流れと評価手順に従い、計測信号取込部2、関係基準記憶部3、評価部4において連携演算等が行われ、演算結果たる表面硬度と硬化層深さとが表示部5に表示されることとなる。そこで、検体試験片の固定や取替も自動で行えば、全自動にて表面硬化処理品の非破壊硬さ評価を行うことができるようになり、部品の全数検査も可能となる。
【0068】
ここで、前記実施例と本願発明との対応関係について念のため確認しておく。まず、前記実施例において、最適な焼入れ処理を施したマスター部品が本願発明に係る基準物体に相当する。そして、このマスター部品に基づいて回折線幅と硬度との関係を規定したデータベースが、基準物体の表面におけるX線の回折状態と同表面における硬度との関係を表す情報であり、本願発明に係る硬さ基準情報に相当する。また、このデータベースと、硬度と硬化層深さ(硬度分布)との関係を表したマスターカーブ(図14(b),図17参照)とが、基準物体の表面におけるX線の回折状態と同表面下の深さ方向における硬度分布との関係を表す情報であり、本願発明に係る硬さ基準情報に相当する。なお、前記実施例にも記したように、回折線幅と硬化層とを直接関連付けたマスターカーブ(図14(b),図18参照)も本願発明に係る硬さ基準情報に相当する。そして、これらのデータベースおよびマスターカーブを取得するためにマスター部品に対してX線回折の行う行為が、本願発明に係る硬さ基準情報取得ステップに相当する。
【0069】
一方、前記実施例において、前記マスター部品と同様の焼入処理(表面硬化処理)を施した焼入量産品が、本願発明に係る検体に相当する。そして、この焼入量産部品(表面硬化処理品)に対してX線回折を行うことにより取得された回折線幅W(a)が、基準物体の表面におけるX線の回折状態を表す情報であり、本願発明に係る回折X線情報に相当する。すなわち、この回折線幅W(a)を取得する行為が、本願発明に係る回折X線情報取得ステップに相当する。
【0070】
また、前記取得したデータベース、マスターカーブおよび回折線幅W(a)を用いて焼入量産部品の表面硬度および硬化層深さ、すなわち、焼入量産部品の表層の硬さの状態を評価する行為が、本発明に係る硬さ状態評価ステップに相当する。より具体的には、前記データベースおよび回折線幅W(a)を用いて焼入量産部品の表面硬度を特定する行為が、本願発明に係る硬度特定ステップに相当し、前記データベース、マスターカーブおよび回折線幅W(a)を用いて焼入量産部品の表面下の硬度分布を特定する行為が、本願発明に係る硬度分布特定ステップに相当する。
【0071】
また、前記実施例において、計測装置1、計測信号取込部2および関係基準記憶部3が、本願発明に係る硬さ基準情報取得手段に相当するとともに、これらのうち計測装置1および計測信号取込部2が回折X線情報取得手段に相当する。そして、前記実施例における評価部4が、本願発明に係る硬さ状態評価手段に相当する。この評価部4は、前記データベースおよび回折線幅W(a)を用いて焼入量産部品の表面硬度を特定する硬度特定手段と、同データベース、マスターカーブおよび回折線幅W(a)を用いて焼入量産部品の表面下の硬度分布を特定する硬度分布特定手段とを備えている。
【0072】
さらに、本発明の実施にあたっては、前記実施例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0073】
前記実施例においては、高周波焼入処理による表面硬化処理を施した歯車部品(ドライブギア)における表面硬化層の表面の硬度および硬化層深さ(硬度分布)の評価について本発明を適用した例を説明したが、当然、これに限定されるものではない。すなわち、X線回折により、回折X線に特徴が現れる対象物であれば、歯車部品に限られず、その他の対象物、例えば、軸部材、ねじ部材、金型部材、さらには、金属以外の物質、例えば、セラミックス、石材、ヒトや動物の骨などの生体材料、結晶化ガラス材など結晶材料全般に広く適用できる。
【0074】
また、対象物における硬さ状態を評価する部分を硬化させる処理の種類も、前記実施例に示した処理以外の処理の熱処理であってもよいし、熱処理以外の処理、例えば、コーティング処理やピーニング処理、さらには、対象物の硬化を目的とした研削や切削加工などであってもよい。さらに、表面硬化処理などの硬化処理を施した対象物に限定されるものでもない。すなわち、硬化処理を施していない対象物の硬さ状態の評価にも適用できる。この場合、硬化層深さに代えて深さに対する硬度の分布、すなわち硬度分布および/または表面硬度を用いて対象物の硬さの状態を評価することができる。これらによっても、前記実施例と同様の効果が期待できる。
【0075】
また、前記実施例においては、表面硬化処理を施した歯車部品におけるフェライト相およびマルテンサイト相に着目して表面の硬度および硬化層深さを評価したが、当然、これに限定されるものではない。すなわち、前記したように、X線回折により、回折X線に特徴が現れる結晶組織であれば、フェライト相およびマルテンサイト相以外の相・組織であっても、前記実施例と同様の効果が期待できる。
【0076】
また、前記実施例においては、X線として特性X線であるCr−Kα線を用いたが、X線回折により、回折X線に特徴が現れるX線であれば他の特性X線または特性X線以外のX線、例えば、白色X線を用いても良い。これによっても、前記実施例と同様の効果が期待できる。
【0077】
また、前記実施例においては、回折面として110面、200面および211面に着目して表面の硬度および硬化層深さを評価したが、当然、これに限定されるものではない。すなわち、X線回折により、回折X線に特徴が現れる回折面であれば、110面、200面および211面以外の回折面であっても、前記実施例と同様の効果が期待できる。
【0078】
また、前記実施例においては、歯車部品における表層の硬度と硬化層深さ(硬度分布)とを評価したが、どちらか一方を評価するように構成してもよい。また、物体表層の硬度および硬化層深さ(硬度分布)以外の指標・評価基準により物体表層の硬さの状態を評価するようにしてもよい。これによっても、前記実施例と同様の効果が期待できる。
【0079】
また、前記実施例においては、硬さ基準情報および回折X線情報におけるX線の回折状態を表す情報として、X線回折の対象となる物体に含まれる組織の各結晶相の複数の回折面から回折される回折X線の回折強度の角度依存性を表す回折パターンにおける回折線幅を用いたが、物体表面から回折されたX線の状態を表す情報でれば、これに限定されるものではない。例えば、回折パターンにおける回折強度の最大値や他の回折面との強度比などを用いてもよい。これによっても、前記実施例と同様の効果が期待できる。
【0080】
なお、前記実施例においては、硬さ基準情報であるデータベースおよびマスターカーブを取得した後、回折X線情報である回折線幅を取得するように構成したが、回折X線情報である回折線幅を先に取得した後、硬さ基準情報であるデータベースおよびマスターカーブを取得するように構成してもよい。既に取得されている回折X線情報に対して、その後取得した硬さ基準情報を用いても、前記と同様の効果が期待できる。
【0081】
また、前記実施例においては、回折X線情報、具体的には、回折線幅から硬化層深さを特定する際、回折角の大きい211面でのマスターカーブを用いることを推奨した。これは、前記図18に示すように、硬化層深さに対する回折線幅の変化の割合が、回折角の大きい211面が他の回折角(110面,200面)より大きいため、硬化層深さを精度よく特定することができるためである。しかし、211面における硬化層の深さの予測線に対する実測値のバラツキは、他の回折面(110面,200面)に比べて大きい。特に、硬化層深さが2mm以上での実測値のバラツキが大きい。したがって、硬化層深さの量に応じて硬化層深さを特定するマスターカーブを適宜選択するようにするとよい。
【0082】
具体的には、回折線幅と硬化層深さとの関係を表すマスターカーブ(硬さ基準情報)を複数の回折面ごとに生成する。例えば、200面および211面の2つの回折面ごとに生成する。次に、検体から取得した回折線幅(回折X線情報)と、前記2つの回折面ごとの各マスターカーブとを用いて、それぞれ硬化層深さを仮に特定する。そして、仮に特定した2つの硬化層深さの量に応じて一方の硬化層深さを選択し硬化層深さを特定する。例えば、2つの硬化層深さの平均値を計算し、同平均値が2mm以上である場合には200面の回折面によるマスターカーブに基づく硬化層深さを選択する。一方、前記平均値が2mm未満の場合には211面の回折面によるマスターカーブに基づく硬化層深さを選択する。すなわち、硬化層深さが厚い場合には低角の回折面に基づくマスターカーブを用い、硬化層深さが浅い場合には高角の回折面に基づくマスターカーブを用いるようにする。これによれば、より精度良く硬化層深さを特定することができる。なお、仮特定する硬化層深さは、200面または211面のどちらか一方のマスターカーブを用いて仮特定するようにしてもよい。
【0083】
また、前記図18に示すように、硬化層深さが2.5mm以上の場合、硬化層深さに対する回折線幅の変化の割合が極めて小さい。これは、硬化層深さが2.5mm以上の場合、特定される硬化層深さの精度が低いことを意味する。したがって、このような場合、検体表面における互いに異なる複数の位置で回折線幅(すなわち、回折X線情報)を取得するとよい。具体的には、回折線幅を取得する検体表面上の位置を、図20に示すように、1つの平面P内における硬化層深さの異なる位置P1,P2とする。この場合、硬化層深さの深さ方向の異なる位置は、硬化層深さを特定する精度が悪化する深さ(前記実施例では硬化層深さが2.5mm以上)とするとよい。これによれば、硬化層が厚い場合であっても、より精度良く硬化層深さを特定することができる。なお、図20において、歯車部品の表層における表面硬化処理が施された部分を明暗の階調変化によって表している。
【0084】
また、このように検体表面における互いに異なる複数の位置で回折X線情報を取得する方法は、硬化層が厚い場合にのみ適用されるものではない。硬化層が厚い場合以外であっても、互いに異なる位置(同一平面に限定されない)で回折X線情報を取得し、取得した複数の回折X線情報に基づいて硬化層深さを特定するようにすれば、特定される硬化層深さの精度を向上させることができる。この場合、特定された複数の硬化層深さの平均値や硬化層深さの度数分布を計算して最大度数の硬化層深さを用いるようにすればよい。これによれば、精度良く硬化層深さを特定することができるとともに、検体表層の硬度分布を3次元的に特定することもできる。
【0085】
また、前記実施例においては、歯車部品(ドライブギア)の表面の硬度および硬化層深さに基づいて同歯車部品の硬さの状態を評価、具体的には表面硬化処理の良否判定を行うようにした。しかし、歯車部品に対してX線回折を行う場合、前記したように、検査位置において回折パターン(図6参照)を取得することができ、この回折パターンを用いて歯車部品の硬さの状態を評価することもできる。
【0086】
具体的には、マスター部品となる歯車部品の回折パターンを硬さ基準情報として取得するとともに、検体となる歯車部品の回折パターンを回折X線情報として取得する。この場合、硬さ基準情報は、歯車部品に対する表面硬化処理前であっても表面硬化処理後であってもよい。そして、これら2つの回折パターンを比較し、マスター部品となる歯車部品の回折パターンに対する検体となる歯車部品の回折パターンの相違または類似性に基づいて歯車部品の硬さの状態を評価する。
【0087】
例えば、前記実施例と同様に、2つの回折パターンにおける各110面、200面および211面の各回折線幅の相違または類似性を用いて歯車部品の硬さの状態の評価を行うことができる。また、検体となる歯車部品に残留オーステナイト相が存在する場合、Cr−Kα線においては回折パターン上における回折角80°および130°付近の回折X線強度が上昇する。したがって、110面、200面および211面以外での回折X線強度の相違または類似性を用いて歯車部品の硬さの状態の評価を行うことができる。すなわち、基準物体の有する相に基づく回折パターンと検体の有する相に基づく回折パターンとの相違または類似性から検体の硬さの状態を評価することができる。これらの場合、基準物体からの回折パターンの取得は、前記実施例における回折線幅と硬度との関係を規定するデータベースなどを取得する作業に比べて簡単である。また、検体から取得された回折パターンは、前記実施例のように表面硬度の計算に用いられることなく直接、前記基準物体の回折パターンとの比較に用いられる。このため、前記実施例に比べて簡単に検体(歯車部品)の硬さ状態を評価することができる。
【0088】
また、前記回折パターンの比較結果に応じて、さらに、歯車部品の表面の硬度および硬化層深さを特定して硬さ状態を評価することもできる。すなわち、検体である歯車部品の硬さの状態を評価する場合、まず、前記回折パターンの比較によって歯車部品の硬さの状態を1次評価する。そして、この1次評価によって良好と判定された歯車部品に対して前記実施例と同様な手順にて歯車部品の表面の硬度と硬化層深さを特定し評価する2次評価を行う。これによれば、前記実施例のように、検体が量産部品である場合、1次評価をパスした検体にのみ2次評価を行うことになる。すなわち、すべての検体について2次評価を行う必要がないため、検体の硬さ評価処理の効率を向上させることができる。
【0089】
なお、この場合、歯車部品の硬さの状態を評価する非破壊硬さ評価装置は、回折パターンを取得するための回折X線検出器と回折線幅を取得するための回折X線検出器とが必要となる。この場合、1つの回折X線検出器によって回折パターンおよび回折線幅を取得することも可能であるが、回折パターンを取得するための回折X線検出器と回折線幅を取得するための回折X線検出器とをそれぞれ用意することが好ましい。具体的には、回折パターンを取得するための回折X線検出器よりも角度分解能が高い回折X線検出器を回折線幅を取得するための回折X線検出器として用いるようにする。
【0090】
例えば、回折パターンを取得するための回折X線検出器として、受光素子を円弧状に1列に配置した湾曲型の回折X線検出器を用いる。一方、回折線幅を取得するための回折X線検出器として、前記湾曲型の回折X線検出器における受光素子が配置された長さよりも短い長さの範囲に受光素子を直線状に配置した直線型の回折X線検出器を用いる。これによれば、1つの回折X線検出器によって回折パターンおよび回折線幅を取得する場合に比べて、より効率的かつ高精度に回折パターンおよび回折線幅を取得することができる。
【0091】
また、前記実施例は、物体の表層の硬さの状態を非破壊で評価する非破壊硬さ評価方法について説明した。しかし、本発明は、非破壊硬さ評価方法を実現する装置の発明としても成立するものである。また、本発明は、物体の表層の硬さの状態を非破壊で評価する際に利用され、前記表層の硬さの状態を表す情報を表示する硬さ測定装置の発明としても成立するものである。
【0092】
この硬さ測定装置は、硬さ基準情報(例えば、回折線幅と硬度との関係を規定したデータベース)を取得する硬さ基準情報取得手段、および回折X線情報(例えば、回折線幅)を取得する回折X線情報取得手段を備えているとともに、前記硬さ基準情報と回折X線情報とを用いて検体の硬さの状態を表す情報(例えば、検体の表面の硬度)を生成する情報生成手段、およびこの検体の硬さの状態を表す情報を表示する情報表示手段(例えば、液晶ディスプレイ)を備えている。すなわち、この硬さ測定装置は、硬さ基準情報と回折X線情報とに基づく検体の硬度を表す情報を表示する装置である。したがって、検体の硬さの状態の評価は、情報表示手段に表示された情報に基づいて人間が行う。これによっても、前記実施例と同様に、検体表層の硬さの状態を非破壊で評価することができる。
【0093】
また、前記実施例においては、照射するX線の直径、すなわちコリメータ径はφ1.0mm,φ0.1mmとしたが、当然、これに限定されるものではない。このコリメータ径は、X線を照射する対象物の結晶組織の大きさによって適宜決定されるものである。すなわち、X線が照射される領域に複数の結晶粒が存在するような大きさ(直径)とすることが望ましい。一般的には、照射面積が0.008〜5.0mmの範囲となるようにコリメータ径を設定するので好適であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1(a)】本発明の原理の適否を検証する為に用いた試験片のドライブギアにおける位置関係を示すドライブギアの一部平面図(写真)である。
【図1(b)】同試験片の上面に定義した直交座標系を示す試験片の斜視図である。
【図2】同試験片の側面(xz平面)における硬度分布を示すグラフである。
【図3(a)】ドライブギアにおける焼入れ後の代表的な組織の顕微鏡写真である。
【図3(b)】ドライブギアにおける焼入組織と焼入前組織が混在した組織の顕微鏡写真である。
【図3(c)】ドライブギアにおける焼入組織と焼入前組織が混在した、より深部の組織の顕微鏡写真である。
【図3(d)】ドライブギアにおける焼入れ前の組織の顕微鏡写真である。
【図4】同試験片のz=1.5mmにおける歯底面(xy平面)と平行な面における硬度分布を示す立体グラフである。
【図5】同試験片のz=3.3mmにおける歯底面(xy平面)と平行な面における硬度分布を示す立体グラフである。
【図6】焼入前後の歯底表面から測定したX線回折パターンを示すグラフである。
【図7】コリメータ径φ1.0 mmおよびφ0.1 mmのときのX線の照射領域とビッカース圧痕の位置関係を併せて示す平面図である。
【図8】コリメータ径φ1.0 mmによる回折線幅(2/5値幅W)と硬度(ビッカース硬度HV)の関係を示すグラフである。
【図9】コリメータ径φ1.0 mmによる3つの回折面における回折線幅と硬度との関係を再整理してプロットしたグラフである。
【図10(a)】コリメータ径φ1.0 mmによる110回折面について回折線幅と硬度との関係をプロットした結果を示す。
【図10(b)】コリメータ径φ1.0 mmによる200回折面について回折線幅と硬度との関係をプロットした結果を示す。
【図10(c)】コリメータ径φ1.0 mmによる211回折面について回折線幅と硬度との関係をプロットした結果を示す。
【図11】コリメータ径φ0.1 mmによる回折線幅(2/5値幅W)と硬度(ビッカース硬度HV)の関係を示すグラフである。
【図12】コリメータ径φ0.1 mmによる2つの回折面における回折線幅と硬度との関係を再整理してプロットしたグラフである。
【図13(a)】コリメータ径φ0.1 mmによる110回折面について回折線幅と硬度との関係をプロットした結果を示す。
【図13(b)】コリメータ径φ0.1 mmによる211回折面について回折線幅と硬度との関係をプロットした結果を示す。
【図14(a)】非破壊検査の流れと評価手順を示す概略フローチャートである。
【図14(b)】非破壊検査の流れと評価手順を利用する関係グラフなどともに複合的に示す概要図である。
【図15(a)】本発明の妥当性を再確認する為の試験片と検査位置を示す斜視図である。
【図15(b)】本発明の妥当性を再確認する為に、歯底面を任意に研磨除去した別の試験片に対して回折線幅を測定して硬化層深さを推測することを示す斜視図である。
【図16】関係基準たるドライブギア硬化層の回折線幅と硬度との関係を示すグラフである。
【図17】関係基準たる検査位置Aでの深さ方向の硬度分布を示すグラフである。
【図18】回折線幅Wに対する検査位置Aでの試験片表面下に残留する硬化層深さz'を示すグラフである。
【図19】本発明の表面硬化処理品の非破壊硬さ評価装置を機能的側面から捉え、機能構成を概略的に表したブロック図である。
【図20】歯車部品における複数の検査位置から回折X線情報を取得する場合の検査位置を示す説明図である。
【符号の説明】
【0095】
1…計測装置、2…計測信号取込部、3…関係基準記憶部、4…評価部、5…表示部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物体の表層の硬さの状態を非破壊で評価する非破壊硬さ評価方法において、
前記評価の基準となる硬さの状態を有する基準物体の表面に対してX線回折を行い、同基準物体の表面から回折された回折X線に基づく硬さ基準情報を取得する硬さ基準情報取得ステップと、
前記評価の対象となる検体の表面に対して前記X線回折を行い、同検体の表面から回折された回折X線に基づく回折X線情報を取得する回折X線情報取得ステップと、
前記硬さ基準情報取得ステップにて取得された硬さ基準情報と前記回折X線情報取得ステップにて取得された回折X線情報とを用いて、前記検体の表層の硬さの状態を評価する硬さ状態評価ステップとを含むことを特徴とする非破壊硬さ評価方法。
【請求項2】
請求項1に記載の非破壊硬さ評価方法において、
前記硬さ基準情報は、前記基準物体の表面における前記X線の回折状態と同表面における硬度との関係を表す情報を含み、
前記回折X線情報は、前記検体の表面における前記X線の回折状態を表す情報を含み、
前記硬さ状態評価ステップは、
前記硬さ基準情報取得ステップにて取得された硬さ基準情報と前記回折X線情報取得ステップにて取得された回折X線情報とを用いて、前記検体の表面の硬度を特定する硬度特定ステップを含み、
前記硬度特定ステップにて特定された硬度を用いて、前記検体の表層の硬さの状態を評価する非破壊硬さ評価方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の非破壊硬さ評価方法において、
前記硬さ基準情報は、前記基準物体の表面における前記X線の回折状態と同表面下の深さ方向における硬度分布との関係を表す情報を含み、
前記回折X線情報は、前記検体の表面における前記X線の回折状態を表す情報を含み、
前記硬さ状態評価ステップは、
前記硬さ基準情報取得ステップにて取得された硬さ基準情報と前記回折X線情報取得ステップにて取得された回折X線情報とを用いて、前記検体の表面下の硬度分布を特定する硬度分布特定ステップを含み、
前記硬度分布特定ステップにて特定された硬度分布を用いて、前記検体の表層の硬さの状態を評価する非破壊硬さ評価方法。
【請求項4】
請求項3に記載の非破壊硬さ評価方法において、さらに、
前記硬さ基準情報取得ステップは、前記基準物体の表面における前記X線の回折状態と同表面下の深さ方向における前記硬度分布との関係を表す前記硬さ基準情報を、前記基準物体の表面における複数の回折面ごとに取得し、
前記硬度分布特定ステップは、
前記硬さ基準情報取得ステップにて取得された前記複数の回折面ごとの各硬さ基準情報のうちの少なくとも1つの硬さ基準情報と、前記回折X線情報取得ステップにて取得された回折X線情報とを用いて、前記検体の表面下の硬度分布を仮特定する仮特定ステップと、
前記仮特定ステップにて仮特定された前記硬度分布に応じて、前記硬さ基準情報取得ステップにて取得された前記複数の硬さ基準情報のうちの1つの硬さ基準情報を選択する硬さ基準情報選択ステップとを含み、
前記硬さ基準情報選択ステップにて選択された硬さ基準情報を用いて、前記検体の表面下の硬度分布を特定する非破壊硬さ評価方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のうちのいずれか1つに記載の非破壊硬さ評価方法において、
前記回折X線情報取得ステップは、前記検体の表面における互いに異なる複数の位置ごとにそれぞれ前記回折X線情報を取得し、
前記硬さ状態評価ステップは、前記硬さ基準情報取得ステップにて取得された硬さ基準情報と前記回折X線情報取得ステップにて取得された複数の回折X線情報とを用いて、前記検体の表層の硬さの状態を評価する非破壊硬さ評価方法。
【請求項6】
請求項3ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載の非破壊硬さ評価方法において、
物体の表層を硬化させる表面硬化処理を施した前記検体に対して前記X線回折を行い、基準の回折線幅と表面硬度との関係および深さと硬度との関係から、前記検体の表面硬度と硬化層深さとを推測することを特徴とする非破壊硬さ評価方法。
【請求項7】
請求項3ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載の非破壊硬さ評価方法において、
物体の表層を硬化させる表面硬化処理を施した基準物体に対してX線回折を行って回折線幅と表面硬度との関係基準および破壊試験を行って深さと硬度との関係基準を予め求めておき、前記表面硬化処理を施した前記検体に対してX線回折を行い、その結果を回折線幅と表面硬度との関係基準と対照させて前記検体の表面硬度を推測すると共に、該推測表面硬度を深さと硬度との関係基準と対照させて前記検体の硬化層深さを推測することを特徴とする非破壊硬さ評価方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載の非破壊硬さ評価方法において、
基準の組織以外の結晶相が形成された場合をX線回折の対象となる物体に含まれる組織の各結晶相の複数の回折面から回折される回折X線の回折強度の角度依存性を表すX線回折パターンとの非類似性から判断することを特徴とする非破壊硬さ評価方法。
【請求項9】
請求項6ないし請求項8のうちのいずれか1つに記載の非破壊硬さ評価方法において、
少なくともマルテンサイト相とフェライト相とが存在する前記検体を評価することを特徴とする非破壊硬さ評価方法。
【請求項10】
請求項6または請求項7に記載の非破壊硬さ評価方法において、
前記表面硬化処理を施した前記基準物体に対してX線回折を行って回折線幅と表面硬度との関係基準を予め求めておくに当たって、回折線幅は特定の回折面におけるものを用いることを特徴とする非破壊硬さ評価方法。
【請求項11】
請求項6または請求項7に記載の非破壊硬さ評価方法において、
前記表面硬化処理を施した基準物体に対してX線回折を行って回折線幅と表面硬度との関係基準を予め求めておくに当たって、回折線幅は幾つかの回折面におけるそれぞれの最高値と最低値間にわたり規格化したものを用いることを特徴とする非破壊硬さ評価方法。
【請求項12】
請求項6または請求項7に記載の非破壊硬さ評価方法において、
2/5値幅の回折線幅を指標として前記検体の表面硬度を推測することを特徴とする非破壊硬さ評価方法。
【請求項13】
請求項6または請求項7に記載の非破壊硬さ評価方法において、
X線としてCr−Kα線または白色X線を用いることを特徴とする非破壊硬さ評価方法。
【請求項14】
請求項6または請求項7に記載の非破壊硬さ評価方法において、
X線の照射領域をコリメータにて絞ることを特徴とする非破壊硬さ評価方法。
【請求項15】
請求項14に記載の非破壊硬さ評価方法において、X線の照射面積が0.008〜5.0mmであることを特徴とする非破壊硬さ評価方法。
【請求項16】
請求項1に記載の非破壊硬さ評価方法において、
前記硬さ基準情報および前記回折X線情報は、前記X線回折の対象となる物体に含まれる組織の各結晶相の複数の回折面から回折される回折X線の回折強度の角度依存性を表す回折パターンをそれぞれ含み、
前記硬さ状態評価ステップは、
前記硬さ基準情報取得ステップにて取得された硬さ基準情報における前記回折パターンと前記回折X線情報取得ステップにて取得された回折X線情報における前記回折パターンとを比較する比較ステップを含み、
前記比較ステップによる比較結果に基づいて前記検体の表層の硬さの状態を評価する非破壊硬さ評価方法。
【請求項17】
請求項2ないし請求項15のうちのいずれか1つに記載の非破壊硬さ評価方法において、さらに、
前記硬さ基準情報および前記回折X線情報は、前記X線回折の対象となる物体に含まれる組織の各結晶相の複数の回折面から回折される回折X線の回折強度の角度依存性を表す回折パターンをそれぞれ含み、
前記硬さ状態評価ステップは、
前記硬さ基準情報取得ステップにて取得された硬さ基準情報における前記回折パターンと前記回折X線情報取得ステップにて取得された回折X線情報における前記回折パターンとを比較する比較ステップと、
前記比較ステップによる比較結果に応じて、さらに、前記硬さ基準情報取得ステップにて取得された硬さ基準情報と前記回折X線情報取得ステップにて取得された回折X線情報とを用いて、前記検体の表層の硬さの状態を評価する非破壊硬さ評価方法。
【請求項18】
物体の表層の硬さの状態を非破壊で評価する非破壊硬さ評価装置において、
前記評価の基準となる硬さの状態を有する基準物体の表面に対してX線回折を行い、同基準物体の表面から回折された回折X線に基づく硬さ基準情報を取得する硬さ基準情報取得手段と、
前記評価の対象となる検体の表面に対して前記X線回折を行い、同検体の表面から回折された回折X線に基づく回折X線情報を取得する回折X線情報取得手段と、
前記硬さ基準情報取得手段にて取得された硬さ基準情報と前記回折X線情報取得手段にて取得された回折X線情報とを用いて、前記検体の表層の硬さの状態を評価する硬さ状態評価手段とを備えることを特徴とする非破壊硬さ評価装置。
【請求項19】
請求項18に記載の非破壊硬さ評価装置において、
前記硬さ基準情報は、前記基準物体の表面における前記X線の回折状態と同表面における硬度との関係を表す情報を含み、
前記回折X線情報は、前記検体の表面における前記X線の回折状態を表す情報を含み、
前記硬さ状態評価手段は、
前記硬さ基準情報取得手段にて取得された硬さ基準情報と前記回折X線情報取得手段にて取得された回折X線情報とを用いて、前記検体の表面の硬度を特定する硬度特定手段を備え、
前記硬度特定手段にて特定された硬度を用いて、前記検体の表層の硬さの状態を評価する非破壊硬さ評価装置。
【請求項20】
請求項18または請求項19に記載の非破壊硬さ評価装置において、
前記硬さ基準情報は、前記基準物体の表面における前記X線の回折状態と同表面下の深さ方向における硬度分布との関係を表す情報を含み、
前記回折X線情報は、前記検体の表面における前記X線の回折状態を表す情報を含み、
前記硬さ状態評価手段は、
前記硬さ基準情報取得手段にて取得された硬さ基準情報と前記回折X線情報取得手段にて取得された回折X線情報とを用いて、前記検体の表面下の硬度分布を特定する硬度分布特定手段を備え、
前記硬度分布特定手段にて特定された硬度分布を用いて、前記検体の表層の硬さの状態を評価する非破壊硬さ評価装置。
【請求項21】
請求項20に記載の非破壊硬さ評価装置において、さらに、
前記硬さ基準情報取得手段は、前記基準物体の表面における前記X線の回折状態と同表面下の深さ方向における前記硬度分布との関係を表す前記硬さ基準情報を、前記基準物体の表面における複数の回折面ごとに取得し、
前記硬度分布特定手段は、
前記硬さ基準情報取得手段にて取得された前記複数の回折面ごとの各硬さ基準情報のうちの少なくとも1つの硬さ基準情報と、前記回折X線情報取得手段にて取得された回折X線情報とを用いて、前記検体の表面下の硬度分布を仮特定する仮特定手段と、
前記仮特定手段にて仮特定された前記硬度分布に応じて、前記硬さ基準情報取得手段にて取得された前記複数の硬さ基準情報のうちの1つの硬さ基準情報を選択する硬さ基準情報選択手段とを備え、
前記硬さ基準情報選択手段にて選択された硬さ基準情報を用いて、前記検体の表面下の硬度分布を特定する非破壊硬さ評価装置。
【請求項22】
請求項18ないし請求項21のうちのいずれか1つに記載の非破壊硬さ評価方法において、
前記回折X線情報取得手段は、前記検体の表面における互いに異なる複数の位置ごとにそれぞれ前記回折X線情報を取得し、
前記硬さ状態評価手段は、前記硬さ基準情報取得手段にて取得された硬さ基準情報と前記回折X線情報取得手段にて取得された複数の回折X線情報とを用いて、前記検体の表層の硬さの状態を評価する非破壊硬さ評価装置。
【請求項23】
請求項20ないし請求項22のうちのいずれか1つに記載の非破壊硬さ評価装置において、X線回折を行う計測装置と、該計測装置からの信号を取込んで所定のデータ処理を行う計測信号取込部と、物体の表層を硬化させる表面硬化処理を施した前記基準物体の回折線幅と表面硬度との関係基準および深さと硬度との関係基準を記憶している関係基準記憶部と、該関係基準記憶部からの関係基準と前記計測信号取込部からの計測値とにより、前記表面硬化処理を施した前記検体の表面硬度と硬度分布とを推測する評価部とを有することを特徴とする非破壊硬さ評価装置。
【請求項24】
請求項18に記載の非破壊硬さ評価装置において、
前記硬さ基準情報および前記回折X線情報は、前記X線回折の対象となる物体に含まれる組織の各結晶相の複数の回折面から回折される回折X線の回折強度の角度依存性を表す回折パターンをそれぞれ含み、
前記硬さ状態評価手段は、
前記硬さ基準情報取得手段にて取得された硬さ基準情報における前記回折パターンと前記回折X線情報取得手段にて取得された回折X線情報における前記回折パターンとを比較する比較手段を備え、
前記比較手段による比較結果に基づいて前記検体の表層の硬さの状態を評価する非破壊硬さ評価装置。
【請求項25】
請求項19ないし請求項23のうちのいずれか1つに記載の非破壊硬さ評価装置において、さらに、
前記硬さ基準情報および前記回折X線情報は、前記X線回折の対象となる物体に含まれる組織の各結晶相の複数の回折面から回折される回折X線の回折強度の角度依存性を表す回折パターンをそれぞれ含み、
前記硬さ状態評価手段は、
前記硬さ基準情報取得手段にて取得された硬さ基準情報における前記回折パターンと前記回折X線情報取得手段にて取得された回折X線情報における前記回折パターンとを比較する比較手段と、
前記比較手段による比較結果に応じて、さらに、前記硬さ基準情報取得手段にて取得された硬さ基準情報と前記回折X線情報取得手段にて取得された回折X線情報とを用いて、前記検体の表層の硬さの状態を評価する非破壊硬さ評価装置。
【請求項26】
物体の表層の硬さの状態を非破壊で評価する際に利用され、前記表層の硬さの状態を表す情報を表示する硬さ測定装置において、
前記評価の基準となる硬さの状態を有する基準物体の表面に対してX線回折を行い、同基準物体の表面から回折された回折X線に基づく硬さ基準情報を取得する硬さ基準情報取得手段と、
前記評価の対象となる検体の表面に対して前記X線回折を行い、同検体の表面から回折された回折X線に基づく回折X線情報を取得する回折X線情報取得手段と、
前記硬さ基準情報取得手段にて取得された硬さ基準情報と前記回折X線情報取得手段にて取得された回折X線情報とを用いて、前記検体の表層の硬さの状態を表す硬さ情報を生成する硬さ情報生成手段と、
前記硬さ情報生成手段にて生成された硬さ情報を表示する情報表示手段とを備えることを特徴とする硬さ測定装置。

【図19】
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【図1(a)】
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【図1(b)】
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【図2】
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【図3(a)】
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【図3(b)】
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【図3(c)】
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【図3(d)】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10(a)】
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【図10(b)】
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【図10(c)】
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【図11】
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【図12】
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【図13(a)】
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【図13(b)】
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【図14(a)】
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【図14(b)】
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【図15(a)】
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【図15(b)】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図20】
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【公開番号】特開2007−271600(P2007−271600A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−270971(P2006−270971)
【出願日】平成18年10月2日(2006.10.2)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年9月8日 社団法人日本材料学会主催の「第40回X線材料強度に関するシンポジウム」において文書をもって発表
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【Fターム(参考)】