説明

非組み込み型且つ非複製型組換えレンチウイルス、その調製および使用

本発明は、非組み込み型且つ非複製型組換えレンチウイルスおよび、特にインビトロ、エクスビボまたはインビボで遺伝子を導入するための組成物を調製するためのその使用に関する。本発明は、任意の哺乳動物器官、例えば肝臓、筋肉、膵臓又は中枢神経系(眼球を含む)組織または細胞において遺伝子を導入するため、ならびに特に、例えば眼球を含む中枢神経系の障害などの障害または病理を処置するために有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非組み込み型且つ非複製型組換えレンチウイルスおよび特にインビトロ、エクスビボまたはインビボで遺伝子を導入するための組成物を調製するためのその使用を説明する。本発明は、任意の哺乳動物器官において、例えば肝臓、筋肉、膵臓又は中枢神経系(眼球を含む)組織もしくは細胞において遺伝子を導入するため、および特に、例えば眼球を含む中枢神経系の障害などの障害または病理を処置するために有用である。
【0002】
特に実験(例えば研究)および治療分野において神経系における遺伝子の導入(transfer)のための多数の用途がある。従って、この導入は、標識化、毒性、品質の研究、病理学的モデルの構築、欠損の復活、治療産物の発現(例えば、タンパク質、RNAs等)等を行うことを可能とすることができる。
【0003】
ウイルスベクター(レトロウイルス、AAV、アデノウイルス等)の使用、プラスミドの注入、細胞移植、カプセル化された細胞の移植などのこの導入のための種々のアプローチが先行技術で考察された。これらのアプローチの各々は、効率、安全性、工業的使用、選択性、安定性等の点で利点および欠点を有する。従ってウイルスベクターの使用は、ウイルスの自然感染性に関係した導入効率の点で有利である。
【0004】
これに関して、オンコレトロウイルスに由来する多数のレトロウイルスベクターは、導入遺伝子の標的細胞のゲノムへの組み込みを可能とするが、これらのベクターは分裂細胞に形質導入することができるのみである。この制限は、エクスビボでの遺伝子の導入またはその細胞が有糸分裂的に活性である器官にそれらの使用を制限する。
【0005】
この障害を克服するために、レンチウイルスに由来するベクターの使用が考慮された。現在開発された他のウイルスベクターに比べて、レンチウイルスベクターは産生の容易さおよびそれらの生物学の増加した知見を含むいくつかの実際の利点を与える。これらのベクターは、実験的遺伝子治療プロトコールの枠内で遺伝子を導入するために広く使用される。それらは、多数の細胞型、特に中枢神経系の休止細胞に有効に形質導入することを可能とする。実際に、レンチウイルスは、有糸分裂的に活性ではない細胞のゲノムに組み込むことができる複雑なレトロウイルスである。これらのレンチウイルスの例は、HIV−1、HIV−2、SIV、FIV、BIV、VISNA、CAEVおよびEIAVウイルスである。しかしながら、レトロウイルス、特にレンチウイルスの使用に関連した1つの欠点は、特に、それらが挿入突然変異誘発の潜在的危険を有することにある。なぜならば、それらは形質導入された細胞のクロマチンに組み込まれ、そして明らかに優先的にコード配列に組み込まれるからである。今日まで、この欠点は、インビボで遺伝子を導入するためのこの型のベクターの利用を制限してきた。
【0006】
現時点で臨床的にこれらのベクターの使用に対する主な障害である挿入突然変異誘発の危険を減少させる目的で、本発明者は非組み込み型且つ非複製型レンチウイルスベクターを開発した。従って、この新規な世代のレンチウイルスベクターの非組み込み型の性質は、特に遺伝子治療のバイオセーフティーに関して相当な進歩である。このベクターは、例えば、分裂しない細胞における導入遺伝子または他の核酸の安定な発現のため、または他のトランスフェクションの他の方法に抵抗性もしくは他のベクターによる形質導入の方法にすら抵抗性の分裂細胞における遺伝子の一過性発現のために使用することができる。
【0007】
非組み込み型ベクターは先行技術で知られており、それらの最も普及しているのはアデノウイルスベクターおよびヘルペスベクターである。しかしながら、これらのタイプのベクターについて、すべての複製汚染物を含まないバッチを得ることを可能とする産生方法は現時点ではない。組み込み型ベクターの内、AAVベクターは相対的に低頻度(約10%)でしか組み込まれないけれども、AAVベクターは、それにクローニングされうる導入遺伝子のサイズおよびAAVベクターがそれらの挿入部位で引き起こす突然変異により制限される。
【0008】
従って本発明は、先行技術の問題に対する解決を与え、そして神経系において遺伝子を導入するための新規なツールおよびベクターを与える。
【0009】
本発明は、特に非複製型且つ非組み込み型組換えレンチウイルスの完成に関する。
【0010】
一般に、本発明のレンチウイルスは、突然変異したインテグラーゼおよび特定の組換えゲノムを含む。さらに好ましくは、本発明に従うレンチウイルスは、(i)LTR5’レンチウイルス配列とLTR3’レンチウイルス配列との間にレンチウイルス包膜化psi配列(encapsidation psi sequence)、RNA核外移行エレメント、導入遺伝子および場合によりプロモーターおよび/またはRNAの核内移行を促進する配列を含む組換えゲノム、ならびに(ii)該組換えゲノムの宿主細胞のゲノムへの組み込みを阻止する突然変異したインテグラーゼを含む。本発明の1つの特定の態様では、組換えゲノムは、例えば配列5’LTR−psi−RRE−cPPT CTS−導入遺伝子−LTR3’を含む。
【0011】
本発明の他の目的は、本発明に従うレンチウイルスおよび薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物(ワクチン組成物を含む)に関する。
【0012】
本発明は、特定の細胞の集団における標的遺伝子のインビトロ、エクスビボおよびインビボ導入のための方法および組成物に関し、そして障害、例えば眼系を含む中枢神経系の障害の処置にも関する。
【0013】
本発明の他の目的は、哺乳動物細胞(好ましくはヒト)、好ましくは被験体の中枢神経系(眼球を含む)からの細胞にインビトロ、エクスビボまたはインビボで遺伝子を導入するための組成物を調製するための、上記した非組み込み型且つ非複製型レンチウイルスの使用に関する。
【0014】
本発明の目的は、適切なトランス相補性機能(transcomplementation)の存在下に、特に上記した修飾されたインテグラーゼをコードするレンチウイルスpol領域の存在下に上記したごとき組換えゲノムを含むベクタープラスミドの細胞内への導入を含む、上記した非複製型且つ非組み込み型レンチウイルスを産生する方法でもある。この方法は、異なるトランス相補性およびエンベローププラスミドの一過性トランスフェクションにより行うことができ、または補助ウイルスの存在下におよび/または1以上の相補性タンパク質を発現する細胞系において行うことができる。
【0015】
本発明は、インテグラーゼの組み込み機能の損失を誘導する突然変異を含む好ましくはレンチウイルスインテグラーゼを安定な方法で発現する細胞の系統にも関する。突然変異は、本発明の意味では、インテグラーゼのいくらかの塩基の点突然変異および/またはミクロ欠失に相当することができる。それは、好ましくは、インテグラーゼの塩基性領域、C末端領域(例えば、C末端の塩基性領域)および/または触媒部位に影響を与える1つ以上の点突然変異に相当し、該突然変異したインテグラーゼは組み込み機能を欠いている。
【0016】
従って、本発明の1つの特定の目的は、
a)いかなるpsi包膜化シグナルも欠いておりそしてレンチウイルスgag配列および組み込み機能のないインテグラーゼをコードする突然変異したレンチウイルスpol配列を含み、場合によりvif、nef、vpuおよび/またはvprなどのアクセサリー遺伝子を欠失しているトランス相補性プラスミド、
b)プロモーター−env−PolyA配列を含むエンベローププラスミド、および
c)レンチウイルスLTR5’配列とLTR3’配列との間にレンチウイルス包膜化psi配列、RNA核外移行エレメント、導入遺伝子および場合によりプロモーターおよび/またはRNAの核内移行を促進する配列を含む組換えゲノム、ならびに該ゲノムの宿主細胞のゲノムへの組み込みを阻止する突然変異したインテグラーゼを含み、レンチウイルスのいかなるコード配列も欠いているレンチウイルスベクタープラスミド、
を含む非組み込み型且つ非複製型レンチウイルスベクター系を使用する細胞のトランスフェクション、および
産生したレンチウイルスの回収、
を含む非複製型且つ非組み込み型組換えレンチウイルスを調製する方法に関する。
【0017】
発明の詳細な説明
本発明は、任意の哺乳動物細胞、特にヒト細胞への遺伝子の導入を可能とする非組み込み型且つ非複製型組換えレンチウイルスを記載する。これらは、分裂細胞又は休止細胞、肝臓、膵臓、筋肉、心臓等の中枢器官又は末梢器官に属する細胞であることができる。本発明の1つの特定の目的は、神経系(眼球系を含む)におけるおよび特にニューロン、アストロサイト型グリア細胞および網膜細胞におけるならびに癌腫瘍における遺伝子の導入に関する。これらのレンチウイルスベクターは、特に神経系内での核酸配列のインビボ導入および発現のために有用である。
【0018】
ベクターの一般的構造
他のレトロウイルスと同様に、レンチウイルスは、2つのLTR(長い末端反復)配列によりフランキングされたgag、polおよびenv遺伝子を有する。これらの遺伝子の各々は、単一の前駆体ポリペプチドの形態で最初に発現される多数のタンパク質をコードする。gag遺伝子は内部構造タンパク質(キャプシドおよびヌクレオキャプシド)をコードする。pol遺伝子は、逆転写酵素、インテグラーゼおよびプロテアーゼをコードする。env遺伝子は、ウイルスエンベロープ糖タンパク質をコードする。さらに、レンチウイルスゲノムは、パッケージされるウイルスゲノムRNAの核外移行の責任を担うシス作用性RRE(Rev応答エレメント)エレメントを含有する。LTR5’およびLTR3’配列は、ウイルスRNAsの転写およびポリアデニル化を促進するのに役立つ。LTRは、ウイルス複製に必要な他のシス作用性配列のすべてを含有する。ゲノムの逆転写のために必要な配列(RNAtプライマーの連結部位)および粒子におけるウイルスRNAの包膜化のために必要な配列(Ψ部位)は、LTR5’に隣接している。包膜化のため(または感染性ビリオン中にレトロウイルスRNAをパッケージするため)に必要な配列がウイルスゲノムに存在しないならば、ゲノムRNAは能動的にパッケージされないであろう。さらに、レンチウイルスゲノムは、vif、vpr、vpu、nef、TAT、REVなどのアクセサリー遺伝子を含む。
【0019】
遺伝子導入用途のためのレンチウイルスベクターの構造は、例えば、特許US5,665,577、EP386,882、US5,981,276、US6,013,516または特許出願WO99/58701およびWO002/097104に記載されている。これらのベクターは、欠陥のあるレンチウイルスゲノム、即ち、gag、polおよびenv遺伝子の少なくとも1つが不活性化されているかまたは欠失している欠陥のあるレンチウイルスゲノムを含む。
【0020】
本発明に従うレンチウイルスベクターは、非複製型且つ非組み込み型組換えレンチウイルスであり、即ち、それは自己複製できずそして形質導入された細胞への特異的組み込みができない。さらに詳しくは、本発明は、LTR5’レンチウイルス配列とLTR3’レンチウイルス配列との間にレンチウイルス包膜化psi配列およびRNA核外移行エレメント、導入遺伝子および場合によりプロモーターおよび/またはRNAの核内移行を促進する配列を含む組換えゲノム、ならびに該組換えゲノムの宿主細胞ゲノムへの組み込みを阻止する突然変異したインテグラーゼを含む、非複製型且つ非組み込み型組換えレンチウイルスに関する。本発明に従うレンチウイルスは、例えば、配列5’LTR−psi−RRE−cPPT CTS−導入遺伝子−LTR3’を含む。
【0021】
本発明の1つの特定の目的は、レンチウイルスのゲノムがいかなるコード化レンチウイルス配列も有利に欠いているレンチウイルスに関する。
【0022】
本発明のレンチウイルスの1つの重要な特徴は、それらが修飾されたインテグラーゼを含むということである。本発明は、導入遺伝子の発現のための有効な条件において、非複製型組換えレンチウイルスであって、その組み込みの性質が変えられている非複製型組換えレンチウイルスを産生することが可能であることを始めて証明する。修飾されたインテグラーゼの存在は、本発明のウイルスを産生するために、組み込み機能のないインテグラーゼを産生するような、しかし細胞形質導入のときベクターサイクルの前の段階に実質的ななんらの効果も及ぼさない(いわゆるクラス1突然変異)修飾されたpol配列の使用から生じる。従って、得られるベクターは、有利には、インテグラーゼの突然変異が核に向けてのゲノムの進行を妨害しない限りにおいて、またはその後に環状化することができる(環の形成)線状DNAゲノムの形態においてそのレトロ転写を妨害しない限りにおいて、エピソーム表現型を有する。本発明の意味において、クラス1突然変異は、好ましくは、インテグラーゼの塩基性領域、C末端領域(好ましくはC末端領域の塩基性領域)および/または触媒部位をコードする核酸部分に影響を与える1つ以上の点突然変異からなる。点突然変異は、好ましくはインテグラーゼのコードされた配列において、アミノ酸の他のアミノ酸による置換に相当する。この突然変異は、好ましくは、それがインテグラーゼを組み込み非機能性にするという意味で非保存性である。このような突然変異は、好ましくは、インテグラーゼの他の機能、例えば核に向けてのベクターの進行に関与する機能を保存しながら、組み込み機能のないインテグラーゼを産生する突然変異体から選ばれる。HIV−1に影響を与えそして組み込み機能のないインテグラーゼを得ることを可能とする突然変異の例は下記の突然変異:
H12N、H12C、H16C、H16V、S81R、D41A、K42A、H51A、Q53C、D55V、D64E、D64V、E69A、K71A、E85A、E87A、D116N、D116I、D116A、N120G、N120I、N120E、E152G、E152A、D−35−E、K156E、K156A、E157A、K159E、K159A、K160A、R166A、D167A、E170A、H171A、K173A、K186Q、K186T(C末端塩基性領域のL領域)、K188T、E198A、R199C、R199T、R199A、D202A、K211A、Q214L(C末端塩基性領域のQ領域に属する214および216)、Q216L、Q221L、W235F、W235E、K236S、K236A、K246A、G247W、D253A、R262A、R263A(C末端塩基性領域のN領域)およびK264Hである。
【0023】
触媒部位に影響を与える突然変異は、好ましくは、HIV−1に関して、インテグラーゼのアミノ酸64、116および/または152に関する。このレンチウイルスのC末端部分に影響を与える突然変異は、有利には、AAHによる262RRKモチーフの置換、Q領域における置換(Q214Lおよび/またはQ216L)、L領域における置換(K186)および/またはL領域における置換から選ばれる。好ましい突然変異は、AAHによる262RRKモチーフの置換からなる。
【0024】
本発明のレンチウイルスは、典型的には、配列5’LTR−psi−RRE−cPPT CTS−(プロモーター)−導入遺伝子−LTR3’を有する組換えゲノムを含む。導入遺伝子は、典型的にはプロモーターの制御下に置かれる。1つおよび/または他をcPPT CTSエレメントの上流に配置することもできる。
【0025】
従って、組換えゲノムは、包膜化および形質導入のために有用なシス作用性ウイルス配列を含む。有利には、それは、あるレンチウイルス配列、特に
− ゲノムの包膜化のために必要な配列(レンチウイルス起源のpsi配列);
− RNA核外移行エレメント、を保存するのみである。後者は、有利には、レンチウイルスゲノム、特にVIH、例えばVIH−1のREV応答エレメント(「REV応答エレメント」のためのRRE配列)(RRE配列は、ウイルスRNA上に存在し、REV調節エレメントと相互作用する)、メイソン−ファイザーモンキーウイルスのCTE[構成的輸送エレメント(“Constitutive Transport Element”)」、SIV、HIV−2またはFIVの核外移行システムまたはあらゆる他のレトロウイルスの同等なエレメント(例えばSIV、HIV2またはFIVの核外移行システム);
RNAの核内移行を促進する配列、例えば逆転写ベクターゲノムの有効な核内移行を可能とするflap配列[cPPT−CTS領域(セントラルポリプリントラクト−セントラルターミネーション配列(central polypurine tract−central termination sequence));Charneau et al., Journal of Virology, May 1992; WO 01/27304];および
− パッケージされたベクターRNAの転写に介在する、場合により修飾されたLTR5’および3’、
から選ばれる。
【0026】
組換えゲノムは、好ましくは、レンチウイルスコード配列のすべて、特にgag、polおよびenv配列をコードするウイルス遺伝子、ならびにvif、vpr、vpuおよびnefアクセサリー遺伝子を欠失している。トランス相補性プラスミドは、好ましくは、tatおよびrev遺伝子を保存している。ベクタープラスミドは、有利には、導入遺伝子の発現およびベクターの安全性を改良するためにU3エンハンサー配列を欠失したLTR3’(WO099/31251)を含むことができる。
【0027】
インテグラーゼ突然変異に加えて、他の標的を場合により突然変異させることができる:DNA線状ゲノムの端部に位置するatt配列。これらの配列を突然変異させるならば、ゲノムに対するインテグラーゼの作用は、もはや正しくは起こらず、もはや組み込みは起こりえない。それ自体線状DNAの形態で存在するゲノムは環状化することができる。
【0028】
本発明のベクターおよびプラスミドは、異なる種に属するレンチウイルス、特にHIV−1、HIV−2、SIV、FIV、BIV、VISNA、CAEVおよびEIAVから調製することができる。特に好ましい血清型は、HIV、特にHIV−1、FIV、EIAVおよびSIVである。
【0029】
導入遺伝子の配列は、選ばれたプロモーターおよび/またはエンハンサーならびに該導入遺伝子の良好な発現に必要な転写調節エレメント、転写後調節エレメントおよび翻訳後調節エレメントの制御下に置くことができる。
【0030】
本発明の意味では、用語「導入遺伝子」は、一般に、いかなるコード核酸又は非コード核酸も示す。これは、例えば酵素認識配列(特異的組み込み部位、タンパク質に対する特定のアフィニティーを示す部位等)の如き非コード配列であることができる。これは、好ましくは、与えられたポリペプチドをコードする配列またはそのように活性であるRNAである。それは、特にDNAc、DNAg、合成DNA、RNA、例えば干渉RNA、リボザイム等または後者の組合せであることができる。典型的には、導入遺伝子は、所望の発現産物をコードする配列を含むDNAである。さらに、導入遺伝子は、1つ以上の転写終結領域、典型的にはポリアデニル化シグナルを含むことができる。
【0031】
導入遺伝子は、触媒核酸(干渉、アンチセンス、リボザイム)、自殺核酸(例えば毒素をコードする)または生物学的に活性なペプチド、例えば成長因子、栄養因子、抗血管形成誘導因子、ホルモン、サイトカイン、抗体、受容体、分化因子、コロニー刺激因子、抗癌剤、酵素、神経伝達物質もしくはその前駆体等をコードする核酸から選ぶことができる。
【0032】
本発明の1つの特定の態様に従えば、導入遺伝子は、例えば下記の栄養因子:CNTF、NGF、NT3、NT4、FGF、PDGF、GDNF等、あるいは抗血管形成誘導因子または欠損した代謝活性を回復するかもしくは特定の代謝機能を与える酵素、例えばTH、AADC、GTPC、β−グルクロニダーゼ等をコードする。
【0033】
本発明の他の特定の態様に従えば、導入遺伝子は、例えば、優勢遺伝的疾患に関与するまたは機能獲得(function gain)により誘導される疾患、例えば神経変性疾患に関与する突然変異したタンパク質、例えば突然変異したSOD(筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic Lateral Sclerosis)、APP、tau、プレセニリンまたはBACE(アルツハイマー病)タンパク質、α−シヌクレイン(パーキンソン病)またはハンチントン(ハンチントン病)の発現を特異的に阻害することを可能とする干渉性RNAs(RNAi)をコードする。
【0034】
導入遺伝子は、典型的には、導入遺伝子に対して相同性であるかまたは異種であることができる転写プロモーター、例えば細胞、ウイルス、合成、キメラプロモーター等の制御下に置かれる。使用されるプロモーターは、2または3RNAポリメラーゼ等に依存して、構成的であるかまたは調節型であり、弱いか又は強い、組織特異的または遍在的であることができる。典型的には、CMV、RSV LTR、TKなどのウイルスプロモーター、または好ましくはPGK、Rho、EF1αなどの細胞プロモーターが使用される。特異的組織プロモーターを使用することができる。これらは、例えば場合により修飾されている、ENO、GFAP、NSEプロモーター、RNAポリメラーゼIIIプロモーター、例えばU6またはH1プロモーター等であることができる。導入遺伝子発現を指向するために使用されるプロモーターは、例えばCMV、TK、またはRSV LTR遺伝子のプロモーターから選ばれるウイルスプロモーターであることができる。
【0035】
エンベローププラスミドに存在するプロモーターおよび/またはベクタープラスミドに存在するプロモーターは、同一であるか又は異なっておりそして細胞またはウイルスプロモーターである。
【0036】
非組み込み型且つ非複製型レンチウイルスベクターの産生
本発明に従うレンチウイルスベクターは、安定な系統において一過性トランスフェクションによりおよび/またはヘルパーウイルスにより種々の方法で調製することができる。
【0037】
本発明に従う方法は、特に好ましい態様に従えば、最小3つのプラスミド(図1参照):
a)いかなるpsi包膜化シグナルも欠いており、レンチウイルスgag配列および組み込み機能のないインテグラーゼをコードする突然変異したレンチウイルスpol配列を含み、場合によりvif、nef、vpuおよび/またはvprアクセサリー遺伝子を欠失しているトランス相補性プラスミド、
b)プロモーター−env−PolyA配列を含むエンベローププラスミド、および
c) 場合によりLTR3’のプロモーター領域又はLTR3’のU3エンハンサー配列を欠失しており、そしてレンチウイルスのLTR5’配列とLTR3’配列との間にレンチウイルス包膜化psi配列、RNA核外移行エレメント(好ましくは、HIV RREまたは任意の他のレトロウイルスからの同等なエレメント)、導入遺伝子および場合によりプロモーターおよび/またはRNAの核内移行を促進する配列(例えばcPPT CTS配列)を含む組換えゲノム、ならびに該ゲノムの宿主細胞のゲノムへの組み込みを阻止する突然変異したインテグラーゼ、を含むレンチウイルスベクタープラスミドであって、レンチウイルスのいかなるコード配列も欠いているレンチウイルスベクタープラスミド、
を組合せて組換えビリオンまたは組換えレンチウイルスを産生すること、および
レンチウイルス産物の回収、
を提唱する。
【0038】
有利には、使用される3つのプラスミドは、組換えを可能とするのに十分ないかなる相同性配列も含まない。gag、polおよびenvコード核酸は、有利には先行技術でおよびデータベースで入手可能なウイルス遺伝子の配列から慣用の技術に従って調製されたおよび実施例で説明されたDNAcであることができる。
【0039】
トランス相補性プラスミドは、gagおよびpolレンチウイルスタンパク質をコードする核酸を提供する。これらのタンパク質は、レンチウイルスに由来しており、好ましくはVIH−1に由来する。このプラスミドは、いかなる包膜化配列、エンベロープコード配列、アクセサリー遺伝子も欠いており、そして有利にはレンチウイルスLTRsも欠いている。この理由で、gagおよびpolタンパク質をコードする配列は、異種プロモーター、例えば細胞、ウイルスのプロモーター等の制御下に置かれ、これらのプロモーターは、構成型であるか調節型であることができ、弱いか又は強力であることができる。これは、好ましくは、CMV−Δpsi−gag−pol−PolyA配列を含むトランス相補性プラスミドである。このプラスミドは、エンビロープ糖タンパク質は別として、空のビリオンの形成のために必要なすべてのタンパク質の発現を可能とする。トランス相補性プラスミドは、有利にはTATおよびREV遺伝子を含むことができる。さらに、トランス相補性プラスミドは、WPRE、APP 5’UTR、TAU 3’UTRおよびクロマチンインシュレーション配列、例えばMAR(マトリックス付着領域(Matrix Attachment Region))、SAR(スカフォールド付着領域(Scaffold Attachment Region))、scsおよびscs’(特異的クロマチン構造(Special Chromatin Structure)等から選ばれる転写調節エレメントを含むこともできる。有利には、それは、vif、vpr、vpuおよび/またはnefアクセサリー遺伝子を欠いている。gagおよびpol遺伝子ならびにTATおよびREV遺伝子は、場合により分離された異なるプラスミドにより担われることもできる。この場合に、いくつかのトランス相補性プラスミドを使用し、各プラスミドは1以上の該タンパク質をコードする。
【0040】
トランス相補性プラスミドのpol配列における突然変異は、いくつかの塩基の1つ以上のミクロ欠失、好ましくは、上記したとおり、コードされたインテグラーゼ配列の塩基性領域、C末端領域(例えば、C末端領域の塩基性領域)および/または触媒領域に影響を与える1つ以上の点突然変異からなる。
【0041】
エンベローププラスミドは、選ばれたエンベロープ(env)糖タンパク質の産生を可能とする核酸を与える。それは、いかなるpsi包膜化シグナル、gagまたはpolコード配列も欠いており、そしてレンチウイルスLTRsも欠いている。それはプロモーター−env−PolyA配列を含む。
【0042】
先行技術に述べられたシュードタイプVIH−1ベクター(例えば他のウイルスに由来するまたは細胞起源の、従って修飾された向性(tropism)を有する、野生型エンビロープとは異なるエンビロープを含む)は、水泡性口内炎ウイルス(VSV)のエンベロープ糖タンパク質を含む。このエンベロープは、超遠心に対する抵抗性および非常に広い向性などの有利な特徴を有する。他のエンビロープ、例えば古典的レトロウイルスのエンビロープ(両種指向性および同種指向性MLVレトロウイルスまたはVIHgp120、しかし多くの他のウイルスも)と違って、VSV糖タンパク質は、超遠心後に不安定ではない。これは、ウイルス上清を濃縮しそして高い感染レベルを得ることを可能とする。さらに、このエンベロープは、特にインビトロでビリオンに非常に広い向性を与え、非常に多くの細胞型の感染を可能とする。このエンベロープの受容体は、異なるタイプの多数の細胞の表面に存在するホスファチジルセリンモチーフであろう。
【0043】
水泡性口内炎ウイルスのエンベロープ(env)糖タンパク質(VSV−G)は、本発明の枠内で有利に使用されるが、ある細胞集団を最前に標的化するために任意の他のシュードタイプ(pseudotype)を使用することができる。従ってエンベロープタンパク質は、任意のエンベロープされたウイルスからの任意のエンベロープ糖タンパク質、例えばラブドウイルスエンベロープタンパク質、さらに好ましくは狂犬病ウイルス(lyssavirus)、およびなおさらに好ましくは、狂犬病ウイルス(rabies virus):狂犬病(Rabies)(RAB)、デューベンヘイジ(Duvenhague)(DUV)、ヨーロピアンバット1型(European bat 1)(EB−1)、ヨーロピアンバット2型(European bat 2)(EB−2)、コトンカン(Konton)(KOT)、ラゴスバット(Lagos bat)(LB)、オボジアング(Obodhiang)(OBD)、ロシャンボー(Rochambeau)(RBU)の血清群のウイルスのエンベロープタンパク質、モコラウイルス(MOK)の血清群からのウイルスのエンビロープタンパク質およびこれらのエンビロープの任意のキメラ組成物から選ぶことができる。狂犬病およびモコラウイルスは特に好ましい。実際それらは神経系に対して非常に特異的な、動物における向性を有する(WO02/097104)。さらに、この型のエンベロープは、細胞の標的化、特にアストロサイト型のグリア細胞の標的化を可能とする。
【0044】
好ましい態様では、本発明は、例えば狂犬病またはモコラウイルスエンビロープを有するシュードタイプのVIH−1型のレンチウイルスベクターを使用する。
【0045】
本発明のベクタープラスミドは、LTR5’とLTR3’との間にpsiエレメント、PRE(又は他のレトロウイルスの同等のエレメント)、導入遺伝子および場合によりプロモーターおよび/またはflap配列、cPPT CTSを含む組換え核酸を含む。それは、例えば、配列5’LTR−psi−RRE−cPPT CTS−(プロモーター−)導入遺伝子−LTR3’を含むことができる。導入遺伝子の配列は、プロモーターおよび/またはエンハンサーの制御下に、ならびにこの遺伝子の良好な発現のために必要なすべての転写調節エレメント、転写後調節エレメントおよび形質導入後調節エレメントの制御下にベクタープラスミドの範囲内に場合により配置される。このプラスミドは、良好な形質導入プロセスのために必要なシス作用性ウイルス配列を含む。元のウイルスから、それはゲノムの包膜化のために必要なある配列(レンチウイルス起源のpsi配列)、場合により逆転写ベクターゲノムの有効な核内移行を可能とするflap配列(cPPT−CTS領域)およびパッケージされる前にベクターRNAの転写を可能とする内在性LTR5’(integral LTR5’)を保存するのみである。さらに、このベクターは、場合によりLTR3’U3エンハンサー配列を欠失していてもよい(WO99/31251)。さらに、それは、元のウイルス遺伝子のすべて、特にgag、polおよびenv 配列をコードするウイルス遺伝子を欠失しておりそしてベクターの安全性を改良するためにアクセサリー遺伝子(vif、nef、vprおよび/またはvpu)を欠失している。
【0046】
本発明の1つの特定の態様では、線状ゲノムの端部に位置しているatt配列は、さらに有利に突然変異しており、そして場合によりインテグラーゼがゲノムに作用するのをより困難にするように欠失される。
【0047】
gagおよびpolの発現、エンベロープタンパク質の発現、ベクターゲノムmRNAおよび導入遺伝子の発現をそれぞれ促進するために、トランス相補性プラスミド、エンベローププラスミドおよびベクタープラスミドにおいて使用されるプロモーターは、有利には、遍在性プロモーター又は特異的プロモーター、例えばCMV、TK、RSV LTRウイルスプロモーターおよびRNAポリメラーゼIIIプロモーター、例えばU6又はH1プロモーターから選ばれる同一の又は異なるプロモーターである。
【0048】
本発明に従うレンチウイルスは、ネイティブ感染性ウイルスを構成するある遺伝子が抑制されそして標的細胞に導入されるべき有益な核酸配列により置き換えられるように、遺伝子的に修飾される。細胞膜へのウイルスの融合に続いて、該ウイルスは、その核酸を細胞に注入する。このようにして導入された遺伝子物質は、次いで転写されそして場合により宿主細胞内でタンパク質に翻訳される。
【0049】
本発明に従う好ましいベクター系は、
a)いかなるpsi包膜化シグナルも欠いており、そしてレンチウイルスのgag配列および組み込み機能のない、(インテグラーゼのコードされた配列におけるC末端領域の塩基性領域における)AAHによる262RRKモチーフの置換を含むインテグラーゼをコードする突然変異したレンチウイルスpol配列を含み、vif、nef、vpuおよび/またはvprなどのいかなるアクセサリー遺伝子も欠失している、トランス相補性プラスミド、
b)好ましくはウイルスプロモーターを含みそしてVSV−Gエンベロープ、さらに好ましくはCMV−VSV−G−PolyA配列をコードする上記したエンベローププラスミド、および
c)場合によりLTR3’のプロモーター領域またはLTR3’のU3エンハンサー配列を欠いており、LTR5’とLTR3’との間にpsiエレメント、PRE、導入遺伝子および場合によりプロモーターおよび/またはflap配列、cPPT CTSを含み、レンチウイルス(例えばHIV−1)の遺伝子のすべてを欠いているレンチウイルスベクタープラスミド
を含む。
【0050】
非組み込み型の且つ複製に欠陥のある組換えウイルスの産生のために、上記したプラスミドをコンピテント細胞に導入することができ、そして産生されたウイルスを回収する。使用される細胞は、任意のコンピテント細胞、特に哺乳動物、例えば動物またはヒトからの特に真核細胞 であることができる。それらは体細胞または胚細胞、幹細胞又は分化した細胞であることができる。例えば、293細胞、繊維芽細胞、肝細胞、筋肉(骨格、心臓、平滑、血管等)細胞、神経細胞(ニューロン、グリア、アストロサイト)、上皮、腎、眼細胞等を挙げることができる。それらは植物細胞、酵母または真核細胞であることもできる。それらはSV40 T抗原により形質転換された細胞であることもできる。
【0051】
従って、本発明は、コンピテント細胞の集団を上記したプラスミドの組合せによりトランスフェクションしそして産生されたベクターを回収することを含む、非組み込み型且つ非複製型組換えレンチウイルスを調製するための方法に基づいている。
【0052】
従って、本発明は、
a)いかなるpsi包膜化シグナルも欠いており、そしてgag配列および/または例えばコードされたインテグラーゼ配列の塩基性領域および/またはC末端領域におけるAAHによる262RRKモチーフの置換を可能とするクラス1突然変異を含むpol配列を含み、vif、nef、vpuおよび/またはvprなどのいかなるアクセサリー遺伝子も欠いている、少なくとも1つのトランス相補性プラスミド、
b)(例えばVSV−G)−PolyA(例えばCMV−)エンベローププロモーター配列を含むエンベローププラスミド、
c)場合によりLTR3’のU3エンハンサー配列を欠失しており、5’LTRと3’’LTRとの間にpsiエレメント、PRE、導入遺伝子および場合によりプロモーターおよび/またはflap配列、cPPT CTSを含み、レンチウイルス(例えばHIV−1)のコード配列を欠失しているベクタープラスミド、
を含む上記した非組み込み型且つ非複製型レンチウイルスベクター系によるコンピテント細胞のトランスフェクション、および
レンチウイルス産物の回収、
を含む、導入遺伝子のインビボ発現を可能とする非組み込み型且つ非複製型レンチウイルスを産生するための特に有利な方法に関する。
【0053】
本発明のレンチウイルスは、上記したとおり、1つ以上のgag、envおよびインテグラーゼ上で突然変異したpolタンパク質を産生する包膜化細胞の系統から調製することもできる。
【0054】
この理由で、1つの特定の態様では、本発明の方法は、選ばれたenvタンパク質を発現する細胞の系統におけるちょうど2つのプラスミド(ベクタープラスミドおよびトランス相補性プラスミド)のトランスフェクションを含む。この系統を調製するために使用される細胞は、例えば、上記したコンピテント細胞である。
【0055】
他の態様に従えば、使用される系統は、envタンパク質、gagタンパク質および/またはレンチウイルスpolタンパク質も発現し、後者はクラス1突然変異を含む。この場合に、この方法は、単にベクタープラスミドのトランスフェクションを含む。
【0056】
上記したとおり、産生されるレンチウイルスは、好ましくは、VIH−1、VIH−2、SIV、FIV、BIV、VISNA、CAEVまたはEIAVウイルスに由来する。
【0057】
細胞系の中でも、特に非常に組換え可能であることで知られているニワトリリンパ腫から樹立されたDT40系統およびCos7系統(SV40抗原により不死化されたサル腎臓からの細胞)を優れていると認めることができる。細胞系は、HCT116、DLD1(結腸癌から採取された細胞から樹立されたヒト系統)、LF1(ヒト胚肺繊維芽細胞)、LL1(ヒト胚皮膚繊維芽細胞)、TK6(ヒトリンパ芽球系統)、HaCaT(ヒト角化細胞)、U937(ヒト単球)、HCT15、SW480、Colo320、Co115、EB、Hb1100、Rat−1、PC12(ラットホトクロモサイトーマ(rat photochromocytoma)等の系統であることもできる。この非網羅的リストは例として与えられる。当業者に知られている他の系統を選ぶことができそしてその側としてなんらの特定の努力なしに本発明の枠内で使用することができる。
【0058】
本発明の方法を実施するために、プラスミドを問題の細胞型に適合した当業者に知られている任意の技術により細胞に導入することができる。一般に、細胞およびベクター系を、細胞へのベクター系またはプラスミドの導入を可能とするのに十分な期間の時間適当な装置(プレート、ボックス、チューブ、ポケット等)中で接触させる。典型的には、ベクター系またはプラスミドは、リン酸カルシウム沈殿、エレクトロポレーションによりまたは脂質、ポリマー、リポソームおよびペプチド等などのトランスフェクションを促進する1以上の化合物を使用することにより細胞に導入される。リン酸カルシウム沈殿が好ましい。細胞は任意の適合した培地、例えばRPMI、DMEM、ウシ胎児血清の不存在下に培養を可能とする特定の培地等の中で培養される。
【0059】
本発明の1つの特定の目的は、レンチウイルスインテグラーゼであって、塩基性領域、そのC末端領域(例えばC末端領域の塩基性領域)および/またはその触媒部位に影響を与える1つ以上の突然変異を含み、組み込み機能を欠いているレンチウイルスインテグラーゼを安定な方式で発現する細胞の系統、および非組み込み型且つ非複製型組換えレンチウイルスのインビトロ調製のためのこの型の細胞系の使用にも関する。
【0060】
従って、本発明の1つの目的は、本方法を実施することにより得られる細胞およびヒトまたは動物における治療、ワクチンまたは外科的処置方法を実施するために使用される細胞組成物を調製するための本発明に従う細胞、細胞の系統又は細胞集団の使用に関する。
【0061】
本発明は、上記した如きベクターを含む、インビトロまたはエクスビボで細胞のゲノムを修飾するための方法を実施するためのキットにも関する。
【0062】
用途
本発明に従うウイルスおよび系統は、例えば、好ましくは分裂しない細胞における導入遺伝子または他の核酸の発現のため、あるいは他のベクターによる他のトランスフェクションに対してまたは形質導入法に対してすら抵抗性分裂細胞の遺伝子の一過性発現のために使用することができる。
【0063】
驚くべきことに、本願は、この方法で得られるレンチウイルスベクターは、例えば網膜細胞、アストロサイト、他のグリア細胞又はニューロンなどの異なる細胞型に形質導入することができることを示す。本発明のベクターにより標的化されうる神経細胞の他の亜集団は、例えば、ミクログリア細胞、上皮細胞またはオリゴデンドロサイトである。目における遺伝子の導入に関する1つの特定の用途において、本発明のベクターは、例えば色素上皮細胞への選択的導入を可能とするようにモコラエンベロープでのシュードタイプ化されうる。
【0064】
この非組み込み型且つ非複製型レンチウイルスベクターは、遺伝子導入の安全性および有効性を改良するためであり:インテグラーゼを突然変異させることにより、該ベクターは標的細胞のゲノムにもはや組み込まれず、従って挿入突然変異誘発の危険を排除する。さらに、ベクターへのflap配列(cPPT−CTS)の可能な挿入はDNAゲノムの核内移行を実質的に改良することができ、分裂終了細胞において安定な、そして繁殖している細胞において一過性の、導入遺伝子の強い発現を可能とする。
【0065】
本発明の非組み込み型レンチウイルスベクターの可能な用途はいくつかの型がありそして下記の用途を含む:
−遺伝子治療、即ち、任意の哺乳動物細胞、特にヒト細胞における遺伝子導入を含む。これらは、分裂細胞もしくは休止細胞、中枢器官もしくは末梢器官、例えば肝臓、膵臓、筋肉、心臓などに属する細胞であることができる。それは、好ましくは、例えば神経変性病理または網膜の疾患の処置の枠内で、休止細胞(分裂しない)における、特に中枢神経系の細胞における、特に脳、骨髄および眼球の細胞における遺伝子の導入、および一過性発現のための分裂細胞への遺伝子の導入(例えば、抗腫瘍自殺ストラテジー、脊髄の損傷を処置するための軸索拒絶ストラテジー)である。
遺伝子治療は、タンパク質、例えば神経栄養因子、酵素、転写因子、受容体等の発現を可能とすることができる。さらに、それは「オリゴヌクレオチド」ストラテジー(アンチセンスまたは干渉RNAs、リボザイム等)の実施を可能とする。
−細胞治療、即ち、移植前に選ばれた行き先に向けて細胞を方向付けるための前駆細胞における分化因子の発現、または細胞が有利な因子を発現するように細胞のエクスビボ形質導入、それに続く該細胞の移植。
【0066】
本発明の1つの特定の目的は、例えば、インビトロ、エクスビボまたはインビボで被験体の中枢神経系(眼球を含む)への遺伝子の導入用の組成物を調製するための本発明に従う非組み込み型且つ非複製型レンチウイルスの使用に関する。
【0067】
本発明の他の特定の目的は、中枢器官又は末梢器官に影響を与える疾患、例えば神経系(眼球を含む)の疾患の処置のための組成物を調製するためのこの型のレンチウイルスの使用に関する。
【0068】
本発明に従う非組み込み型且つ非複製型レンチウイルスは、それらが含有する導入遺伝子に従って、例えば、神経変性疾患、および特にアルツハイマー病、パーキンソン病、ハンチントン病、SLAもしくはSMA、加齢黄斑変性症(age−related macular degeneration)(DMLA)、眼変性(ocular degeneration)もしくは中枢神経系の損傷(例えば卒中、癲癇、脊髄の病変もしくは損傷等)、中枢神経系に影響を与える疾患(ムコ多糖症等)、グリオブラストーマもしくはアストロサイトーマ、神経系に影響を与える代謝疾患(ムコ多糖症、シャルコ−マリー(Charcot−marie)等)または眼球に影響を与える疾患(DMLA、色素網膜炎(pigment retinitis)、緑内障等)を処置するための医薬組成物を製造するために使用することができる。
【0069】
本発明の1つの特定の態様に従えば、非組み込み型且つ非複製型組換えレンチウイルスは、色素網膜炎を処置するための医薬組成物を製造するために使用される。用語「色素網膜炎」は、アポトーシスによる桿体(rods)および錐状体(cones)(網膜の神経細胞)の進行性変性により特徴付けられる眼障害の雑多なグループを示すのに使用される。3000毎に1個体の発生率で、これは失明の主要な原因である。色素上皮および光受容体の細胞の形質導入は、この型の病理に対して決定的に有益である。遺伝子置換ストラテジーは、光受容体または色素上皮の形質導入を必要とするが、これに対して神経保護ストラテジーは色素上皮の形質導入から利益を得ることができる。実際に、この方法の利点は、それが神経細胞を修飾しないで、色素上皮のみを修飾し、それは次いで拡散性栄養因子、例えばGDNFを合成しそして保護されるべき光受容体を取り囲んでいる区域においてそれを分泌するということである。
【0070】
本発明の他の目的は、神経系の細胞におけるいくつかの核酸を導入しそして発現する目的でのいくつかのレンチウイルスの組み合わせた使用である。組み合わせた使用は異なるウイルスの逐次投与または同時投与を含むことができる。
【0071】
上記したとおり、本発明は、神経細胞における多数の核酸、例えば、触媒核酸(干渉、アンチセンス、リボザイム等)、成長因子、栄養因子、サイトカイン、コロニー刺激因子、抗癌剤、毒素、酵素、神経伝達物質またはそれらの前駆体等をコードする核酸の輸送および発現を可能とすることができる。
【0072】
本発明に従うレンチウイルスを含有する医薬組成物は、適切なエンビロープ糖タンパク質の助けによりシャュードタイプのレンチウイルスベクターの特定の向性に依存して大脳内にまたは全身的に患者に投与することができる。従って、これは大脳内投与、例えば、線条体内投与、海馬もしくは黒質への投与、静脈内、動脈内、硝子体内(intra−vitreal)投与であることができ、又は網膜下空間(subretinal space)等に投与することができる。好ましい注射方法は、大脳内注射および網膜下空間への注射である。
【0073】
組成物は、10〜1010、典型的には10〜10の形質導入のための有効粒子のレベル、(ベクターストック(vector stock)の逐次希釈による細胞形質導入により決定されたレベル)または約10〜1013コピーのゲノム当量で[ベクターのRNAゲノムでの定量的逆転写PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)またはベクターのRNAゲノムと会合したDNA鎖での定量的PCRにより決定されたレベル]有利に投与される。このレンチウイルスは、場合により同系アルブミンなどの安定剤または任意の他の安定化タンパク質、グリセロール等ならびにポリブレンまたはDEAEデキストラン等などの補助因子(aduvant factors)と一緒にして、任意の適合した溶液、例えば塩類溶液、等張性溶液、緩衝液中でコンディショニングされうる(conditioned)。
【0074】
本発明の他の利点は、下記の実施例においてさらに詳細に説明される。これらの実施例は説明のためであり限定するものではないとみなすべきである。
【0075】
実験の部
最初に、レンチウイルスベクター(p8.91 INWTおよびp8.91 INNプラスミド)を産生するために使用されるトランス相補性プラスミドにおいて突然変異したまたは突然変異していないインテグラーゼ配列(ヘマグルチニンと融合した)を使用した。次いで、ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)の早発ウイルスプロモーターの制御下にグリーン蛍光タンパク質(GFP)を発現しそして正常な(INWT CMV GFPベクター)もしくは突然変異した(INN CMV GFP)インテグラーゼを有するVIH−1に由来するベクターのストックを産生した。神経細胞内のGFP導入遺伝子の発現を操作するためのINN CMV GFPベクターの効率に関する研究を最後に行い、始めインビトロ、次いでインビボで行った。
【0076】
インビトロベクターの特徴付け
インビトロGFP導入遺伝子の発現
非組み込み型レンチウイルスベクターの、細胞系に形質導入しそしてそこで導入遺伝子を発現する能力を評価するために、293T、HeLaおよびMT4細胞を種々の容量のINWT CMV GFPおよびINN CMV GFPベクターの存在下にインキュベーションした。INWT CMV GFP組み込み型ベクターによる形質導入の72時間後に、ある百分率の細胞がGFPを発現する(FACSによる分析)。同じようにして、GFP+細胞がINN CMV GFPベクターによる形質導入の72時間後にFACSにより証明された(図2)。この最初の結果は、そのインテグラーゼが不活性化されているベクターの良好な形質導入有効性を示唆する。
【0077】
偽形質導入(pseudotransduction)の分析
レンチウイルスベクターのストックを、それらの産生期間中、プラスミドDNA、特にpTrip CMV GFPベクタープラスミドによりおよびトランスフェクションされた細胞におけるこの同じプラスミドから産生されたGFPタンパク質により汚染させる。これらの2つのエレメントは、GFPがレトロ転写されたベクターゲノムの発現に由来しない偽のポジティブ細胞を発生させることができる。したがって、これらのGFP+細胞は形質導入されていなくて、「偽形質導入されている」。
【0078】
GFP+細胞が偽形質導入機構から生じていないことを証明するために、293T細胞は、任意のアジド−デオキシチミジン(AZT)の存在下又は不存在下に、逆転写酵素(RT)阻害剤の助けにより形質導入された。実際、AZTによる処理は、GFPが細胞の形質導入から生じる場合に、GFPの発現を阻害する。従って、AZTの存在下に観察されたGFP+細胞の百分率は、偽形質導入の百分率に相当するだけである。20の感染多重度(MOI)で293T細胞を形質導入した後に、INWT CMV GFP組み込み型ベクターでGFP+細胞40.7%(±1.5)が観察されそしてINN CMV GFP非組み込み型ベクターで28.0%(±1.9)が観察される。10μM AZTの存在下においては、形質導入された細胞の百分率は、それぞれ5.8%(±0.1)および4.9%(±0.4)に低下する(図3)。従って、RTの阻害は、INWT CMV GFP組み込み型ベクターによる形質導入の後であろうと、INN CMV GFPベクターによる形質導入の後であろうと、GFP+細胞の百分率を減少させることを可能とする。従って、任意の逆転写酵素阻害剤の不存在下に観察されるGFP+細胞の大部分は、2つの型のベクターにより有効に形質導入されておりそして偽形質導入機構からは生じない。
【0079】
分裂細胞における発現の安定性
突然変異したIN−HANインテグラーゼを有する粒子のエピソーム性格を証明するために、GFPの発現を異なるHela、293TおよびMT4細胞系における形質導入の後の15日まで分析した。細胞を、5のMOIで、突然変異体INN CMV GFPベクターにより、組み込み型INWT CMV GFP対照によりまたは非組み込み型CMV GFPアデノウイルス対照により形質導入させた。形質導入された細胞の各バッチを12〜15日間増幅しそして72時間毎にFACSにより分析した。最後の細胞を回収する24時間前に、これらのいくらかを5mM酪酸ナトリウムで処理して、GFPの発現に対するハイポアセチル化の可能な影響を評価した。得られた結果は、図4に示される。
【0080】
時間に対して、GFPを発現する293TまたはMT4細胞の百分率は、これらがINWT CMV GFP組み込み型対照ベクターで形質導入されたとき相対的に安定であり、この百分率は293T細胞において評価された最後の点に僅かに下がる(図4)。しかしながら、実験の終わりにおける酪酸ナトリウムによる細胞の処理は、293T GFP+細胞の百分率を最初に測定したレベルに戻すことを可能とし、これは導入遺伝子の発現を支配するプロモーターの再活性化を示唆し、そして分析された細胞の集団に組み込まれたベクターの時間に対する安定性を示す。非組み込み型アデノウイルス対照ベクターで形質導入された細胞では、ポジティブ細胞の百分率は、形質導入の15日後相殺されるように引き続く分裂期間中有意に低下する。この場合に、形質導入の15日後の酪酸ナトリウム処理は、GFP+細胞の最初の百分率を再確立することを可能としない(図4B)。この結果は、細胞分裂期間中アデノウイルスゲノムの漸進的な希釈により説明される。染色体外エレメントとして、ベクターゲノムは、細胞サイクル期間中細胞のゲノムDNAのように複製されない。従って、各有糸分裂と共にベクターゲノムのコピーは、2つの娘細胞の1つにのみ伝達され、これは理論的に各細胞サイクルで導入遺伝子を発現する細胞の百分率を2で割ることになる。
【0081】
突然変異体インテグラーゼを有するベクターにより形質導入された細胞における発現は、アデノウイルスベクターによるトランスフェクション後に観察されるプロフィルに極めて類似したプロフィルを示す。実際、GFP+細胞の百分率は、時間に対して減少し(図4)そして酪酸ナトリウムで細胞を処理することにより最初のレベルに戻すことができない。この結果は、アデノウイルスベクターによる形質導入の場合におけると同じく、INN CMV GFPベクターのゲノムは、各細胞分裂によって逐次希釈により最初に形質導入された細胞から排除されることを示唆する。
【0082】
休止細胞におけるGFP導入遺伝子の発現の安定性
時間に対するGFP+細胞の百分率の減少は、形質導入された細胞の核におけるベクターゲノムの不安定性およびそれらの分解を反映することもできる。この仮定を立証するために、GFP導入遺伝子の発現を2つの型のベクターによるニューロン細胞の形質導入後に研究した。実際、初代ニューロン(胚ラット皮質)は培養において分裂しない。GFPの発現は、INN CMV GFPベクターによるこれらの細胞の形質導入後の少なくとも16日間は持続する(図5Aおよび5B)。考慮された異なる時間におけるWTベクターにより形質導入された免疫反応性細胞の百分率と、Nベクターで得られた百分率との間に有意な差は観察できなかった(反復した測定において2因子ANOVA、p=0.9321)。追加の実験は、導入遺伝子の発現は形質導入後25日まで持続することを示すことを可能とした(図5C)。
【0083】
従って、エピソーム形態は、形質導入された細胞の核において相対的に安定であり、そして休止細胞において少なくとも25日間導入遺伝子の発現を可能とする。この結果は、分解によるよりはむしろ各有糸分裂によるエピソームベクターゲノムの希釈により分裂細胞における時間に対するGFPの発現の減少の仮定を支持する。
【0084】
インビボでのGFP導入遺伝子の発現
マウス線条体における発現
インビボで細胞に形質導入することにおけるインテグラーゼ欠損レンチウイルスベクターの有効性を決定するためおよびGFP導入遺伝子の発現を可能とするために、INN CMV GFPベクターを、マウス線条体に注射した。この注射の10日後に、GFP発現を証明することができた。この発現は、注射に続く少なくとも1ヶ月の期間持続する。この結果は、SNC細胞における導入遺伝子の発現を可能としそして維持することにおける非組み込み型ベクターの有効性を確認する(図6)。形質導入された細胞の表現型を同定するために、一方ではGFP/GFAP免疫組織蛍光(グリア細胞繊維性酸性タンパク質、アストロサイトマーカー)および他方ではGFP/NeuN(ニューロンマーカー)による共標識化を隣接切片で実施した。共焦点顕微鏡によるスライドの分析の後に、GFP のGFAPマーカーとの大部分の共局在(colocalisation)(図7A)およびGFP のNeuNマーカーとの非常に僅かな共局在(図7B)を観察することができた。これらの結果は、VSVエンベロープでシュードタイプ化されたインビボでのINN CMV GFPベクターは、好ましくはアストロサイト細胞に形質導入することを示唆する。
【0085】
網膜における発現
非組み込み型レンチウイルスベクターの網膜の色素上皮細胞に形質導入する能力を評価した。このために、ベクターの網膜下注射をラットおよびイヌにおいて実施した。予備的結果は、ラットにおいて少なくとも9週間そしてイヌにおいて3ヶ月間GFPの発現を示す(図8)。これらの2つのシステムにおける発現の安定性の評価は続行されている。本発明者により以前に得られた結果は、レンチウイルスベクターは、ラットにおける網膜下注射後に、本質的に色素上皮細胞に形質導入することを示す。
【0086】
目を綿密に検査することによりあるイヌでは低いレベルの毒性が観察された。この毒性は、注射された用量とは無関係であり、そしてベクター自体についてもそうであり、そして注射の時点で外科的行為により誘導されると思われる。より広範な組織学的分析は、この刺激をより明白に理解することを可能とするであろう。
【0087】
動物モデルにおける治療導入遺伝子の発現
臨床的適用のための非組み込み型レンチウイルスベクターの使用、治療導入遺伝子を発現することにおける該ベクターの有効性を立証する目的で、グリア由来の神経栄養因子(GDNF)を、色素網膜炎により特徴付けられたモデル、RD10ラットにおける網膜下注射後に試験した。表現「色素網膜炎(RP)」は、桿体および錐状体(網膜の神経細胞)のアポトーシスによる、進行性変性により特徴付けられる眼障害の雑多なグループを示す。3000に1つの個体の発生率で、これは失明の主要な原因である。色素上皮細胞および光受容体の形質導入は、この型の病理においてきわめて有益である。遺伝子置換ストラテジーは、光受容体又は色素上皮の形質導入を必要とするが、これに対して神経保護のストラテジーは、色素上皮の形質導入から利益を得ることができる。実際、この方法は、それが神経細胞を修飾しないで、色素上皮のみを修飾し、これは次いで拡散性栄養因子、例えばGDNFを合成し、そしてそれを保護されるべき光受容体を取り囲んでいる区域に分泌するであろうという利益を有する。
【0088】
実験室で行われた実験は、組み込み型レンチウイルスベクターが正常なマウスにおける網膜下注射によって色素上皮の細胞に形質導入するのに有効であることを示す。
【0089】
上記した結果は、げっ歯類および大きな動物において中枢神経系(脳および網膜)においてインビトロ、エクスビボおよびインビボで導入遺伝子の発現を可能とすることができる本発明に従う非組み込み型レンチウイルスベクターの有効性および治療的潜在力を示す。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】3つのプラスミド:ヒトサイトメガロウイルス(hCMV)プロモーターの制御下のGFP導入遺伝子およびセントラルflap配列[核内輸送に介入するセントラルポリプリントラクト−セントラルターミネーション配列(cPPT−CTS)]、REV調節エレメントと相互作用するRRE(REV応答配列)およびpsi包膜化配列(Ψ)、プロモーター配列を欠失した(ΔU3)LTR3’のU3領域を有するベクタープラスミド;CMVプロモーターの制御下にVIH−1の複製サイクルの早発フェイズ(precocious phases)のために必要なタンパク質(GAGおよびPOL)、調節エレメント(TAT、REV)を発現しそしてΨ配列を欠失したトランス相補性プラスミド;CMVプロモーターの制御下に水泡性口内炎ウイルス(VSV−G)のエンベロープ糖タンパク質を発現するエンベローププラスミド、のトランスフェクションによりレンチウイルスベクターを産生するためのシステム。
【図2】非組み込み型レンチウイルスベクターによる細胞系(293TおよびHela)の形質導入後に得られたGFPの発現。百分率形質導入は、種々の用量(ウエル当たりマイクロリットルの容積)のINwt CMV GFP組み込み型およびIN CMV GFP非組み込み型レンチウイルスベクターの存在下に細胞のインキュベーションの72時間後にFACSにより決定される。
【図3】AZTによる細胞の処理後のINwt CMV GFP組み込み型およびIN CMV GFP非組み込み型レンチウイルスベクターによる形質導入の抑制。百分率形質導入は、ベクター単独およびベクターとAZT10μMの存在下に293T細胞の72時間のインキュベーションの後にFACSにより決定される。
【図4A】INwt CMV GFP組み込み型およびIN CMV GFP非組み込み型レンチウイルスベクターによる細胞系(293TおよびMT4)の形質導入後の時間の期間中のGFPの発現。GFP細胞の百分率は、形質導入(MOI 5)の3日、6日、9日および12もしくは15日後にFACSにより決定された(A:293T、B:MT4)。「but」と記載された点については、細胞は分析の24時間前に5mM酪酸ナトリウム処理を受けた。
【図4B】INwt CMV GFP組み込み型およびIN CMV GFP非組み込み型レンチウイルスベクターによる細胞系(293TおよびMT4)の形質導入後の時間の期間中のGFPの発現。GFP細胞の百分率は、形質導入(MOI 5)の3日、6日、9日および12もしくは15日後にFACSにより決定された(A:293T、B:MT4)。「but」と記載された点については、細胞は分析の24時間前に5mM酪酸ナトリウム処理を受けた。
【図5A】INwt CMV GFP組み込み型またはIN CMV GFP非組み込み型レンチウイルスベクターによる形質導入後にラット皮質から採取された初代胚ニューロン(primary embryonic neurons)におけるGFPの発現。 A:対照(形質導入されていない)ニューロン、組み込み型(INwt)ベクターにより形質導入されたニューロン、または非組み込み型(IN)ベクターにより形質導入されたニューロンにおける発現の、形質導入の3、9および16日後における免疫細胞化学分析(20倍拡大)。
【図5B】INwt CMV GFP組み込み型またはIN CMV GFP非組み込み型レンチウイルスベクターによる形質導入後にラット皮質から採取された初代胚ニューロン(primary embryonic neurons)におけるGFPの発現。 B:INWTおよび INグループにおける皮質ニューロンの百分率形質導入。測定は、三重に(in triplicate)行われそして平均±標準誤差(ESM)として表された。
【図5C】INwt CMV GFP組み込み型またはIN CMV GFP非組み込み型レンチウイルスベクターによる形質導入後にラット皮質から採取された初代胚ニューロン(primary embryonic neurons)におけるGFPの発現。 C:対照(形質導入されていない)ニューロン、組み込み型(INwt)ベクターにより形質導入されたニューロンまたは非組み込み型(IN)ベクターにより形質導入されたニューロンにおける発現の、形質導入の3、15よび25日後における免疫細胞蛍光分析(10倍拡大)。
【図6】マウス線条体への注射後のインビボでのGFPの発現。マウス線条体におけるIN CMV GFP(A)またはINWT CMV GFP(B)ベクターの定位的注射(streotactic injection)の10日後に脳を取り出し、クライオスタットを使用して20μm厚さの切り方で切断しそして免疫組織化学に従って分析してGFP. cc:ベンチ体(callous body)、str:線条体、の存在を示した。拡大率(2.5倍、5倍又は20倍)は各写真上に示される。
【図7A】マウス線条体への注射後のインビボでのGFPの発現。マウス線条体へのINN CMV GFPベクターの定位的注射の10日後に脳を取り出し、クライオスタットを使用して20μm厚さの切り方で切断しそして共焦点顕微鏡による免疫組織蛍光に従って分析した。 A:CFP/GFAP 共標識:GFPを発現するアストロサイト(拡大率40倍)
【図7B】マウス線条体への注射後のインビボでのGFPの発現。マウス線条体へのINN CMV GFPベクターの定位的注射の10日後に脳を取り出し、クライオスタットを使用して20μm厚さの切り方で切断しそして共焦点顕微鏡による免疫組織蛍光に従って分析した。 B:GFP/NeuN共標識:GFPを発現するニューロン(拡大率16倍)
【図8】INN CMV GFP非組み込み型レンチウイルスベクターのp24、66ngの網膜下注射の後にラットにおけるインビボでのGFPの発現。網膜上の蛍光顕微鏡法による写真(2.5倍)は、注射の2週間後に平坦になった。 B:INN CMV GFP非組み込み型レンチウイルスベクターのp24、2.5μgの網膜下注射の後にイヌにおけるインビボでのGFPの発現。注射の1月後のvigil犬における蛍光における血管造影法。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
LTR5’レンチウイルス配列とLTR3’レンチウイルス配列との間にレンチウイルス包膜化psi配列、RNA核外移行エレメント、導入遺伝子および場合によりプロモーターおよび/またはRNAの核内移行を促進する配列を含む組換えゲノム、ならびに該組換えゲノムの宿主細胞のゲノムへの組み込みを阻止する突然変異したインテグラーゼを含む、非複製型且つ非組み込み型組換えレンチウイルス。
【請求項2】
該レンチウイルスがVIH−1、VIH−2、SIV、FIV、EIAV、BIV、VISNAおよびCAEVから選ばれることを特徴とする、請求項1に記載のレンチウイルス。
【請求項3】
インテグラーゼの突然変異が1つ以上の点突然変異からなることを特徴とする、請求項1または2に記載のレンチウイルス。
【請求項4】
点突然変異が、インテグラーゼの塩基性領域、C末端領域および/または触媒部位に影響を与えることを特徴とする、請求項3に記載のレンチウイルス。
【請求項5】
塩基性領域および/またはC末端領域に影響を与える点突然変異が、AAHモチーフによる262RRKモチーフの置換であることを特徴とする、請求項4に記載のVIH−1レンチウイルス。
【請求項6】
触媒部位に影響を与える点突然変異が、64、116および/または152アミノ酸突然変異からに選ばれることを特徴とする、請求項4に記載のVIH−1レンチウイルス。
【請求項7】
前記ゲノムがいかなるコード化レンチウイルス配列も欠いていることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載のレンチウイルス。
【請求項8】
RNA核外移行エレメントが、VIH−1のREV応答エレメント(RRE配列)を含むことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載のレンチウイルス。
【請求項9】
RNAの核内移行を促進する配列がcPPT CTSであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のレンチウイルス。
【請求項10】
導入遺伝子が、触媒核酸(干渉、アンチセンス、リボザイム)、自殺核酸または、生物学的に活性なポリペプチド、例えば、成長因子、栄養因子、ホルモン、サイトカイン、抗体、受容体、分化因子、コロニー刺激因子、抗癌剤、毒素、酵素、神経伝達物質またはその前駆体をコードする核酸であることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載のレンチウイルス。
【請求項11】
レンチウイルスインテグラーゼであって、そのC末端領域および/またはその触媒部位に影響を与える1つ以上の点突然変異を含み、いかなる組み込み機能も欠いているレンチウイルスインテグラーゼを安定な方式で発現する細胞系。
【請求項12】
非組み込み型且つ非複製型組換えレンチウイルスをインビトロで調製するための、請求項11に記載の細胞系の使用。
【請求項13】
a.いかなるpsi包膜化シグナルも欠いており、そしてレンチウイルスgag配列および組み込み機能のないインテグラーゼをコードする突然変異したレンチウイルスpol配列を含み、場合によりvif、nef、vpuおよび/またはvprアクセサリー遺伝子を欠失しているトランス相補性プラスミド、
b.プロモーター−env−PolyA配列を含むエンベローププラスミド、および
c.LTR5’配列とLTR3’配列との間にレンチウイルス包膜化psi配列、RNA核外移行エレメント、導入遺伝子、および場合によりプロモーターおよび/またはRNAの核内移行を促進する配列を含む組換えゲノム、ならびに該ゲノムの宿主細胞のゲノムへの組み込みを阻止する突然変異したインテグラーゼを含み、レンチウイルスのいかなるコード配列も欠いているレンチウイルスベクタープラスミド、
を含む非組み込み型且つ非複製型レンチウイルスを得ることを可能とするベクター系による細胞のトランスフェクション、および
産生したレンチウイルスの回収、
を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載のレンチウイルスを調製する方法。
【請求項14】
トランス相補性プラスミドにおけるpol配列における突然変異が、コードされたインテグラーゼの配列の塩基性領域、C末端領域および/または触媒部位に影響を与える1つ以上の点突然変異からなることを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
トランス相補性プラスミドが、WPRE、APP5’UTR、TAU3’UTR、インシュレーティング配列から選ばれる転写調節エレメントをさらに含むことを特徴とする、請求項13または14に記載の方法。
【請求項16】
エンベローププラスミドのエンベロープタンパク質が、VSV−G、狂犬病ウイルス:狂犬病(RAB)、デューベンヘージ(DUV)、ヨーロピアンバット1型(EB−1)、ヨーロピアンバット2型(EB−2)、コトンカン(KOT)、ラゴスバット(LB)、オボジアング(OBD)、ロシャンボー(RBU)の血清群のウイルスのエンベロープタンパク質、モコラウイルス(MOK)の血清群のウイルスのエンベロープタンパク質およびこれらのエンベロープの任意のキメラ組成物から選ばれることを特徴とする、請求項13〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
エンベローププラスミドに存在するプロモーターおよび/またはベクタープラスミドに存在するプロモーターが、同一であるかまたは異なっており、そして細胞またはウイルスプロモーターであることを特徴とする、請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
使用されるプロモーターが、PGK、RhoおよびEF1αプロモーターから選ばれる細胞プロモーターであることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
使用されるプロモーターが、CMV、TK、RSV LTR遺伝子のプロモーターから選ばれるウイルスプロモーターおよびRNAポリメラーゼIIIのU6またはH1プロモーターであることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
レンチウイルスベクタープラスミドが、プロモーター領域又はLTR3’U3エンハンサー配列を欠いていることを特徴とする、請求項13〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
インビトロ、エクスビボまたはインビボで被験体の中枢神経系に遺伝子を導入するための組成物を調製するための請求項1〜10のいずれか1項に記載の非組み込み型且つ非複製型レンチウイルスの使用。
【請求項22】
神経系(眼球を含む)の疾患の処置のための組成物を調製するための請求項21に記載の使用。
【請求項23】
神経変性疾患(パーキンソン病、ハンチントン病、アルツハイマー病、SLA、SMA、DMLA等)、中枢神経系の損傷(脊髄の損傷、卒中等)、神経系に影響を与える代謝疾患(ムコ多糖症、シャルコ−マリー、等)、または眼球に影響を与える疾患(色素網膜炎、緑内障等)の処置のための請求項22に記載の使用。
【請求項24】
請求項1〜10のいずれかに記載のレンチウイルスおよび薬学的に許容される賦形剤を含む医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図6】
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【図8】
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【図5A】
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【図5B】
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【図5C】
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【図7A】
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【図7B】
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【公表番号】特表2008−503230(P2008−503230A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−517365(P2007−517365)
【出願日】平成17年6月24日(2005.6.24)
【国際出願番号】PCT/FR2005/001604
【国際公開番号】WO2006/010834
【国際公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【出願人】(595040744)サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク (88)
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
【Fターム(参考)】