説明

非経口栄養のための小児用アミノ酸溶液

本発明は、小児患者の非経口栄養のためのアミノ酸溶液に関する。該アミノ酸溶液は、より高濃度のグルタミン、チロシン、システインおよびタウリンを提供するが、フェニルアラニンおよびメチオニンの濃度は低い。グルタミンおよびチロシンは、オリゴペプチドの形態で提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の序文に記載のアミノ酸を含む、非経口栄養のためのアミノ酸溶液に関する。該溶液は、非経口栄養補給物として、又は他の栄養液との組み合わせによる完全非経口栄養(TPN)として、特に、未熟児、新生児、乳児及び幼児の非経口栄養に適する。本発明はまた、前記アミノ酸溶液を調製するための方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
完全栄養(complete nutrition)を経口経路または経腸経路で確保することが出来ない場合は、完全又は補助的な非経口栄養療が必要である。この場合、食物は静脈経路により摂取される。これは特に消化管閉塞が有る場合に必要である。未熟児、新生児、乳児及び幼児においては、腸の奇形又は炎症が頻繁に生ずる。その例としては、クローン病、潰瘍性大腸炎等の炎症性腸疾患;及び胃腸瘻;悪性腸疾患;短腸症候群;又は誕生時の腸の不適切な発達が挙げられる。非経口栄養はまた、周術期領域(perioperative area)において、集中治療の患者において、敗血症又は治療抵抗性の下痢の場合においても適用されうる。
【0003】
乳児及び幼児のための適切なアミノ酸溶液は、成人用のアミノ酸溶液とは、アミノ酸パターンに求められる事項において大きく相違している。体重当たりで、幼児は明らかにより多くのアミノ酸を必要とする。幼児の代謝も成人のものとは異なっている。成人にとって必須ではないと見なされる各種アミノ酸には、未熟児及び新生児、並びに幼児においては必須であると見なされるべきものがある。なぜなら、人体自ら、これらのアミノ酸を十分な量で合成できるようになるのはある年齢以上になってからだからである。他のアミノ酸は、幼児にも合成出来るが、該合成は、成人の場合と比べ低い速度で起こる。従って、成人用に作られたアミノ酸溶液が未熟児及び新生児、並びに幼児に対して用いられた場合、特定のアミノ酸の欠乏及び/又は過剰の徴候が生ずる恐れがある。これは、特にグルタミン、チロシン、システイン、タウリン、メチオニン及びフェニルアラニンのアミノ酸において当てはまる。
【0004】
アミノ酸代謝は、特に未熟児及び新生児においてまだ完全に発達しておらず、未熟な人体にとって任意の異常を補償することはより困難であるので、前記混合物のバランスは特に重要である。欠乏により起こり得る徴候を軽減し得るような、自身の一定の蓄えがまだ蓄積されていないため、未熟児及び新生児に関して、並びに必要なら幼児に関しても、正確かつ継続的な非経口栄養が特に重要であると見なされるべきである。2歳を超えて初めて子供の代謝は成人のものに近づき始める。本発明のアミノ酸溶液は、特に小児患者のニーズに適合したものであるが、代謝の病態生理学的変化によって同様の欠乏の徴候が生じ得る成人への使用も想定される。これは特に、腎疾患又は肝疾患を有する患者において当てはまる。
【0005】
従って、以下に詳細に記載する各種基準を考慮しつつ、未熟児及び新生児、並びに幼児の非経口栄養のためのアミノ酸溶液のアミノ酸パターンを再定義することが不可欠である。これに関連して、個々のアミノ酸の量が重要なだけではなく、投与の様式及び上記溶液の調製に関する良好な技術移転も重要であり、これは特に滅菌条件について当てはまる。
【0006】
EP 0 148 680 A1は、非経口栄養における小児の要求に適したアミノ酸溶液を記載している。システイン、タウリン及びチロシンのアミノ酸が準必須アミノ酸であるとされている。
【0007】
DE 2531201 A1は、非経口小児用アミノ酸溶液を用いて適切な窒素バランスを得る方法を示している。また、タンパク質加水分解物の投与と比較した、適量の遊離アミノ酸を投与する事の利点についても議論している。
【0008】
WO91/16067 A1は、小児用途に用いることが出来る、非経口栄養溶液のためのオリゴペプチドの使用について記載している。
【0009】
オリゴペプチド、特にトリプチド及びジペプチドの、非経口栄養用アミノ酸溶液への一般的な使用、およびそれに伴う溶解性及び製品安定性における有益な効果は、US 5 432 160、DE 31 08 079 C2、EP 0 087 751 A1及びEP 0 087 750 B1に記載されている。
【0010】
上述の公報においては、アミノ酸を提供するためのオリゴペプチドを使用することによって、先に報告された量とは異なる量ではあるが新生児の身体の発育により適した量の、特定のアミノ酸を投与することが可能であるとは明らかにされていない。
【特許文献1】欧州特許出願公開第0148680号明細書
【特許文献2】西独国特許出願公開第2531201号明細書
【特許文献3】国際公開第91/16067号パンフレット
【特許文献4】米国特許第5432160号明細書
【特許文献5】西独国特許第3108079号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第0087751号明細書
【特許文献7】欧州特許第0087750号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って本発明は、未熟児並びに新生児、乳児及び幼児の要求に特に適したアミノ酸パターンを有し、適切な量及び比率で必要なすべてのアミノ酸を与える、非経口栄養のためのアミノ酸溶液を提供する目的に基づく。これに関連して、十分な量のグルタミン、チロシン、システイン及びタウリンのアミノ酸を、容易に代謝可能な形態で提供し、それに伴い、グルタミン酸、フェニルアラニン及びメチオニンのアミノ酸を減少させることに特に着目する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的は、請求項1に記載のように、小児患者の非経口栄養のためのアミノ酸溶液を提供すること、および請求項13に記載の使用によって達成される。
【0013】
本発明のさらなる目的は、全ての必要なアミノ酸を適切な量及び比率で与える、完全非経口栄養の提供に関する。
【0014】
前記目的は、請求項16に記載の医薬組成物を提供すること、および請求項18に記載の使用によって達成される。
【0015】
本発明の溶液の滅菌法の最適化と関連したさらなる目的は、請求項18により達成される。
【0016】
好適な態様は、従属請求項に示される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
未熟児及び新生児の体重及び発育状態に依存するが、非経口栄養においては、体重(BW)1kgで1日当たり、100〜160mlの容量を超過すべきではない。一方、投与時の局所的な過剰濃度を回避し、他方ではこれによって体積限界を超えるようなことなしに、炭水化物、脂肪、電解質、ビタミン及び微量元素の溶液等の他の成分との混和性を確実にするために、前記アミノ酸溶液は3〜30%(w/w)タンパク質構成単位、好ましくは5〜20%(w/w)タンパク質構成単位、特に好ましくは7〜15%(w/w)タンパク質構成単位を含む。該タンパク質構成単位は、好ましくは遊離アミノ酸、ジペプチド又はトリペプチドの形態であり、5鎖長を超える鎖長のペプチド又はタンパク質の含有量は、該タンパク質構成単位の5%未満、好ましくは1%未満である。
【0018】
未熟児並びに新生児、乳児及び幼児の非経口栄養のための前記アミノ酸溶液は、成人の非経口栄養のための通常のアミノ酸溶液とは、量的な内容及びアミノ酸パターンにおいて異なっている。
【0019】
体重が一定で、タンパク質の合成及び分解の平衡がほぼ保たれている成人とは対照的に、未熟児及び新生児、並びに幼児においては、体重が急速に増加するため、合成が明らかに優位となる必要がある。この理由から、これらの患者におけるアミノ酸の1日の所要量は、体重当たりでは成人と比較して際立って増加する。小児患者の1日の全所要量を満たすための、前記アミノ酸溶液により投与されるタンパク質構成単位の1日量は、体重1kg当たり2〜4g、好ましくは2.5〜3.5gである。通常の見積もりにおいては、体重1kg当たり3gのタンパク質構成単位という量が用いられる。
【0020】
示される全てのアミノ酸は、遊離型又は前駆体の形態で提供され得る。該アミノ酸が前駆体の形態で提供される場合、記載されるアミノ酸の量は、該前駆体のアミノ酸部分だけに関するものである。全ての場合において、左旋性のアミノ酸が好ましく用いられる。
【0021】
未熟児及び新生児、並びに幼児では1日の所要量が増えるということ以外にも、各種アミノ酸が成人と比較すればゆっくりとした速度で生成及び/又は分解されるという点において、代謝が成人のものと特有の異なり方をしている。成人においては内在的に合成されるため非必須であると考えられている一部のアミノ酸は、未熟児及び新生児、並びに幼児においては内在的に十分に生成されず、従ってこれらの場合は、必須又は準必須であると考える必要がある。よって、その供給が特に重要である前記アミノ酸は、システイン、チロシン、グルタミン及びタウリンである。フェニルアラニン及びメチオニンを含む他のアミノ酸は、未熟児及び新生児、並びに幼児においてはゆっくりした速度でしか分解されない。
【0022】
グルタミンは、最も一般的に存在するアミノ酸である。グルタミンは、血漿及び筋肉に多量に存在する。グルタミンは、特に、高い有糸分裂速度を有する細胞において、不可欠であると見なされる。このような細胞には、例えばリンパ球や腸細胞といった細胞が含まれる。従って、グルタミンを適切に供給することは、とりわけ、機能的な免疫機構を保証する。さらに、グルタミンは、筋肉量を構築・維持するために重要である。新生児の身体自らは、グルタミンを十分量産生することが出来ないため、非経口栄養の際に、このアミノ酸を適切に供給することは特に重要である。このことは、プリン及びピリミジンの合成との関連においてもあてはまる。グルタミンは、これらのDNA構成要素の前駆体である。従って、グルタミンは、細胞分裂が頻繁に起こっている、未熟児及び新生児、並びに幼児の成長過程の身体において、特に重要である。これに加え、グルタミンは、抗酸化物質として重要な役割を持つグルタチオンの前駆体である。
【0023】
前記の理由から、本発明の非経口組成物は、グルタミンを、100gのアミノ酸(AA)当たり9〜30g、好ましくは11〜25g、特に好ましくは13〜20gという高い割合で含む。体重1kg当たりに用いられるグルタミンの1日量は、0.25〜0.90g、好ましくは0.3〜0.75g、特に好ましくは0.39〜0.6gである。
【0024】
成人にとって非必須であると見なされる他のアミノ酸であるチロシンは、未熟児及び新生児、並びに幼児においては、少なくともある程度は必須アミノ酸であると見なされるべきである。新生児の身体がフェニルアラニンからチロシンを合成する能力は、極めて限定的であるか、又は存在しない。前記合成に必要な酵素であるフェニルアラニン水酸化酵素の発現が不十分であることがその理由である。その結果、成人の身体と比べてフェニルアラニンの分解も、同時に減少している。チロシンは、タンパク質を構築するための構成単位としての一般的機能を有する以外に、ノルエピネフリン、ドーパミン、チロキシン、及び他のホルモン類の前駆体でもある。従って、チロシンの適切な供給は、制御されたホルモンバランス及び神経系の構造にとって極めて重要である。
【0025】
前記理由から、前記非経口組成物は、容易に代謝可能なチロシンを、100gのアミノ酸当たり1〜4g、好ましくは1.2〜3g、及び特に好ましくは1.5〜2.5gという高い割合で含む。体重1kg当たりに用いられるチロシンの1日量は、30〜120mg、好ましくは35〜90mg、特に好ましくは45〜75mgである。
【0026】
チロシン及びフェニルアラニンは、組織内への輸送経路に関して互いに競合している。従って、フェニルアラニンの量が上昇すると、チロシンの取り込みが阻害される。フェニルアラニンの分解が低減していること、そしてまた一方で、他のアミノ酸(AA)に対して芳香族アミノ酸の総量を一定に維持するため、本発明のアミノ酸溶液中のフェニルアラニンの量は減らされている。芳香族アミノ酸の総量は、100gのAA当たり7g、好ましくは100gのAA当たり6g、特に好ましくは100gのAA当たり5.6gを超過すべきではない。
前記非経口組成物は、100gのAA当たり3〜5g、好ましくは100gのAA当たり3.3〜4g、特に好ましくは100gのAA当たり3.5〜3.8gのフェニルアラニンを含む。チロシンとフェニルアラニンとの割合は、1:1〜1:3、好ましくは1:1.3〜1:2.5、特に好ましくは1:1.5〜1:2である。
【0027】
未熟児、新生児、及び幼児においては、システインスルフィン酸デカルボキシラーゼ及びシスタチオナーゼ(cystathionase)の酵素活性が低いため、硫黄転移代謝はほとんど検出出来ない。従って、メチオニンからのシステインの合成、及びシステインからのタウリンの合成は、非常に低い速度でしか起こらないか、又は全く起こらない。そのため、システイン及びタウリンは、新生児の身体にとって必須であると見なされるべきである。しかし、タウリンは、未熟児及び新生児、並びに幼児の発育において、中枢神経系、消化器系、視覚及び聴覚の発達、並びに一般的に細胞内の、特に神経細胞内のカルシウムバランスに対し、特に重要な役割を担う。同様に、システインはタンパク質の構成単位として機能することに加え、さらに酸化ストレスを阻害するための重要な役割を担うトリペプチドであるグルタチオンの前駆体としても働く。多量のタウリンは、従来の慣例的な用量と比較しても、新生児の身体に受け入れられやすいことが明らかになってきている。
【0028】
このため、前記組成物中のシステイン及びタウリンの相対量は多くなっており、一方メチオニンの量は少なくなっている。システイン、タウリン及びメチオニンの総量は、100gのAA当たり5gを超えることはないが、100gのAA当たり少なくとも2gである。
【0029】
前記組成物は、100gのAA当たり0.3〜1.5g、好ましくは100gのAA当たり0.5〜1gのシステインを含む。該組成物は、さらに、100gのAA当たり0.3〜2g、好ましくは100gのAA当たり0.7〜1.5gのタウリンを含む。
【0030】
水溶液中で、システインは遊離アミノ酸として不安定であり、特に、加熱滅菌が出来ないため、好ましくは、システインは前駆体であるN−アセチル−L−システインの形態で用いられる。他の前駆体の形態での投与、特に、オリゴペプチドの形態での投与も同様に、本発明の範囲内において可能である。
【0031】
適切な量のグルタミン及びチロシンを含んだアミノ酸溶液の調製は、安定かつ易溶性のオリゴペプチドを用いなければ不可能であった。両遊離アミノ酸の溶解性は低い。また、遊離グルタミンを使用すると加熱滅菌が出来ない。このため、これまでは、グルタミンの代替物として、グルタミン酸が用いられることが多かった。グルタミン酸及びグルタミンは、体内で代謝平衡を保っているが、内因性の相互変換は、一定の範囲でしか可能でない。従って、グルタミン酸を完全なグルタミン代替物と見なすことは出来ない。多量のグルタミン酸の投与は、興奮性の効果をもたらし、神経細胞の刺激における過活性が引き起こされ、細胞死が引き起こされ得ることが見いだされている(Barinaga(1990) Science 247:20〜22)。それに対し、過剰量のグルタミン投与は、有害ではないということが明らかとなっている。また、グルタミン酸の1日の必要量は、グルタミンの過剰摂取により確実に賄われ得る。従って、グルタミン酸が全く含まれていなくても、適切な高用量のグルタミンによってその基本的な供給量が確保されれば、適切な非経口栄養が可能である。このことから、本発明の組成物におけるグルタミン量の割合も、これまでに用いられてきた量を明確に超えるものである。
【0032】
安定性及び溶解性の問題は、グルタミンをオリゴペプチド、特にトリペプチド又はジペプチドの形態で提供することにより解決される。トリペプチドの例としては、X’−Gln−X、X’−X−Gln、及びGln−X’−Xが挙げられる。ジペプチドの例としては、Gln−X及びX−Glnが挙げられる。X及びX’は任意の天然アミノ酸であり、アラニン及びグリシンが好ましく用いられる。
【0033】
遊離アミノ酸チロシンも同様に、低い溶解性という不都合を有する。チロシンのこの低い溶解性により、従来、同一のアミノ酸パターンを保持しながら遊離チロシンを用いる際には、約10%(w/w)タンパク質構成単位(7〜15%(w/w)タンパク質構成単位)という理想濃度よりも、低い総濃度でアミノ酸溶液を調製する必要性があった。従って、非経口栄養のためのアミノ酸溶液中のチロシン含有量は、これまで、より溶解性が高いアセチルチロシンによって賄われる場合が多かった。しかし、アセチルチロシンは人体で十分に代謝されず(Magnusson 他(1989) Metabolism 38:957〜961)、このことは、特に新生児の身体において当てはまる。
【0034】
前記問題に対する好ましい解決策は、この場合もやはりチロシンをオリゴペプチド、特にトリペプチド又はジペプチドの形態で提供することにある。トリペプチドの例としては、X’−Tyr−X、X’−X−Tyr、及びTyr−X’−Xが挙げられる。ジペプチドの例としては、Tyr−X及びX−Tyrが挙げられる。X及びX’は、任意の天然アミノ酸であり、アラニン及びグリシンが好ましく用いられる。
【0035】
上述の、速やかに代謝可能なオリゴペプチドの形態で、グルタミン及びチロシンを提供することにより、高い安定性及び貯蔵性も同時に有する、加熱滅菌された完全アミノ酸溶液を調製できる。
【0036】
驚くべき事に、オリゴペプチドのより高い安定性により、通常より高い(121℃より高い)滅菌温度において、同様の滅菌効率(F0値が一定であることを示す)での加熱滅菌が可能なことが明らかになった。このため滅菌温度は、好ましくは124℃以上、特に好ましくは127℃以上である。pHは、好ましくは5〜6.5の間である。より高温が用いられる場合、加熱滅菌の保持時間を減らすことが出来る。好ましい条件下において、滅菌した産物中において、明らかにより少量の分解産物しか見いだされなかった(実施例3)。
【0037】
完全非経口栄養のために、本発明のアミノ酸溶液は、投与前に、他の非経口栄養成分と混合され、完全栄養のための全ての要求を満たす組成物とすることが出来る。成人と比べ、成長期である未熟児及び新生児、並びに幼児においては、体重当たりのカロリー必要量は増加する。新生児の身体は、80〜190kcal/kg、好ましくは90〜120kcal/kgの1日量を必要とし、1歳を超えた幼児では、この範囲は75〜90kcal/kgに低下し、より大きな子供では、この範囲よりも低くなる。これに関連して、非経口栄養療法において提供される前記アミノ酸は、タンパク質構成と必要な代謝プロセスを意図したものであることが好ましく、一般的なエネルギー摂取の役割を果たすことは意図されないことが好ましい。従って、完全非経口栄養は、タンパク質構成単位としては、約10〜20%のエネルギーを提供するのみであり、30〜60%のエネルギーは炭水化物、好ましくはグルコースにより提供され、さらに30〜50%のエネルギーは脂肪により提供される。電解質、ビタミン及び微量元素により、前記非経口栄養成分が完成する。
【0038】
安定性の問題が生じることから、アミノ酸は脂肪及び炭水化物と共に貯蔵できないことが知られている。従って、前記非経口栄養中のこれらの成分は、無菌条件下において投与の直前になってから混合される。そのため、このような投与前の混合は、特に多大な時間を要する。この問題は、例えば、EP 1396249に記載されるような、剥離可能なシールを有したマルチチャンバーバッグ(multichamber bag)により解決された。このようなシステムの使用は、本発明のNeovenの投与にも適している。
【0039】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明する。
【0040】
実施例1
本発明のアミノ酸溶液の特性を、以下の表に1000mlの容量を基準として示す。可能な量の範囲、好ましい量の範囲、好ましい1日量、及び量の具体例を示した。
【0041】
【表1】

【0042】
*L−アラニル−L−グルタミンの形態で
**グリシル−L−チロシンの形態で
AA=アミノ酸
EAA=必須アミノ酸
BCAA=分岐鎖アミノ酸
【0043】
実施例2
小児患者の完全非経口栄養のための溶液に含まれる、24時間にわたる輸液における体重1kg当たりの1日量:
【0044】
【表2】

【0045】
実施例3
200g/lのアラニル−グルタミン溶液を、121℃、124℃、及び127℃の温度で滅菌した。pHはpH5、pH5.5、及びpH6の間で変化させた。加熱滅菌の保持時間は、F0値が12〜12.5の間で落ち着くように変化させた(滅菌効率が同水準を保っていることを示す)。F0値は、滅菌効率を表すもので、121.11℃における保持時間に相当する。より高温での滅菌においては、一定のF0値を維持するように保持時間を減らした。滅菌後、ジペプチドであるアラニル−グルタミンの分解産物である、シクロ−アラニル−グルタミン及びL−ピロ−アラニル−グルタミンの量を測定した。これら分解産物の値の低さは、滅菌時の該ジペプチドの安定性を示す直接的な指標となる。分解産物に対する該値は、温度が高くなると低下した。
上記滅菌試験の結果を、以下の表に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
実施例4
非経口投与のための溶液を、剥離可能な隔壁を有する2−チャンバーバッグ(two−chamber bag)中に作成する。該バッグの一方のチャンバーには、本発明のアミノ酸溶液が含まれ、もう一方のチャンバーには、グルコース、電解質、ビタミン及び微量元素を含んだ栄養溶液が含まれる。該組成物は、特に生後1ヶ月から1歳の小児患者に適している。
【0048】
【表4】

【0049】
対応する組成物の入った容器は、様々な年齢層の患者に適切な量を提供するため、350ml、500ml、及び1000mlのサイズで提供されうる。
【0050】
実施例5
非経口投与のための溶液を、剥離可能な隔壁を有する3−チャンバーバッグ(three−chamber bag)中に作成する。該バッグの1つのチャンバーには、本発明のアミノ酸溶液が含まれ、1つのチャンバーには、グルコース、電解質、ビタミン及び微量元素を含んだ栄養溶液が含まれる。残りのチャンバーには、脂質乳剤が含まれる。該脂質乳剤は、好ましくは大豆油、中鎖脂肪酸(MCT)、オリーブ油及び魚油由来の脂肪を含む。該組成物は、特に10〜40kgの体重で、1歳を超えた小児患者に適している。しかし、より若齢の患者にも適していると一般的に推定され得る。
【0051】
【表5】

【0052】
対応する組成物の入った容器は、様々な体重クラスの患者に適切な量を提供するため、1000ml及び2000mlのサイズで提供されうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小児患者の非経口栄養のためのアミノ酸溶液であって、前記アミノ酸溶液が100gのアミノ酸当たり9〜30gのグルタミンと、100gのアミノ酸当たり0.3〜2gのタウリンと、を含むことを特徴とする該アミノ酸溶液。
【請求項2】
前記アミノ酸溶液が、100gのアミノ酸当たり1〜4gのチロシン、100gのアミノ酸当たり0.3〜1.5gのシステイン、100gのアミノ酸当たり3〜5gのフェニルアラニン、及び100gのアミノ酸当たり1〜3gのメチオニン、を含むことを特徴とする請求項1に記載のアミノ酸溶液。
【請求項3】
グルタミンがオリゴペプチドの形態で存在することを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載のアミノ酸溶液。
【請求項4】
チロシンが5アミノ酸単位以下の鎖長を有するオリゴペプチドの形態で存在することを特徴とする、請求項2または請求項3に記載のアミノ酸溶液。
【請求項5】
前記オリゴペプチドがジペプチドまたはトリペプチドであることを特徴とする、請求項3または請求項4に記載のアミノ酸溶液。
【請求項6】
グルタミンがアラニルグルタミン、グリシルグルタミンまたはそれらの混合物の形態で存在することを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載のアミノ酸溶液。
【請求項7】
チロシンがグリシルチロシン、アラニルチロシンまたはそれらの混合物の形態で存在することを特徴とする、請求項2〜請求項6のうちいずれか1項に記載のアミノ酸溶液。
【請求項8】
前記アミノ酸溶液が3g/l以下のグルタミン酸を含むことを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載のアミノ酸溶液。
【請求項9】
前記アミノ酸溶液が3〜30%(w/w)のタンパク質構成単位を含むことを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載のアミノ酸溶液。
【請求項10】
チロシンとフェニルアラニンとの割合が1:1〜1:3であることを特徴とする、請求項2〜請求項8のうちいずれか1項に記載のアミノ酸溶液。
【請求項11】
前記アミノ酸のシステイン、タウリンおよびメチオニンの総量が全アミノ酸の2〜5%であることを特徴とする、請求項2〜請求項9のうちいずれか1項に記載のアミノ酸溶液。
【請求項12】
前記アミノ酸溶液に含まれるタンパク質または5アミノ酸単位より長い鎖長を有するペプチドが1%未満であることを特徴とする、先行請求項のうちいずれか1項に記載のアミノ酸溶液。
【請求項13】
小児患者の非経口栄養のための医薬組成物の調製のための、請求項1に記載のアミノ酸溶液の使用。
【請求項14】
前記患者が腸の奇形または炎症を患っていることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
腎疾患または肝疾患を有する患者の非経口栄養のための医薬組成物の調製のための、請求項1に記載のアミノ酸溶液の使用。
【請求項16】
完全非経口栄養のための医薬組成物であって、
a)炭水化物により30〜60%のエネルギー、
b)脂肪により30〜50%のエネルギー、
c)請求項1記載のアミノ酸溶液により10〜20%のエネルギー、
を提供することを特徴とする、該医薬組成物。
【請求項17】
前記栄養組成がさらに電解質、ビタミンおよび微量元素を含むことを特徴とする、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
小児患者の治療のための非経口輸液の調製のための請求項16に記載の医薬組成物の使用であって、前記輸液が前記患者の体重1kg当たり90〜180kcalの1日量を含むことを特徴とする、該使用。
【請求項19】
100gのアミノ酸当たり7〜30gのグルタミンをオリゴペプチドの形態で含む非経口栄養のための滅菌アミノ酸溶液の調製方法であって、124℃以上の温度における加熱滅菌の工程を少なくとも含むことを特徴とする、該方法。

【公表番号】特表2009−534323(P2009−534323A)
【公表日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−505732(P2009−505732)
【出願日】平成19年3月5日(2007.3.5)
【国際出願番号】PCT/EP2007/001878
【国際公開番号】WO2007/121807
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(503334080)フレゼニウス カビ ドイチュラント ゲーエムベーハー (2)
【Fターム(参考)】