説明

非鉄金属用溶解炉及び非鉄金属の溶解方法

【課題】溶湯を循環させるための装置が場所を取らず、しかも投入した非鉄金属を沈めるための装置も場所を取らない非鉄金属用溶解炉及び非鉄金属の溶解方法を提供する。
【解決手段】溶湯を加熱する溶解室31を備え、溶湯を内部で循環させるとともに溶湯に投入された非鉄金属を溶解する非鉄金属用溶解炉30であって、溶解室31において溶湯に浸漬され、水平方向に所定間隔を開けて対向する少なくとも一対の電極33と、溶解室31の上方又は下方のうち少なくとも一方に配置され、一対の電極33間を流れる電流に対して略垂直に交差する磁界を生じさせる磁石34と、を備え、溶湯に推力を与えるとともに、さらに一対の電極33に接続され、一対の電極33間を流れる電流を脈流とする整流器35を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウム合金等の非鉄金属を、各種鋳造製品の製造に使用すべく溶解するための非鉄金属用溶解炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム合金等の非鉄金属を一旦溶解することで各種鋳造製品が製造されており、石油などの化石燃料を用いたバーナからの放射火炎によって溶湯を加熱し非鉄金属を溶解する非鉄金属用溶解炉が開示されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3871646号公報
【0004】
特許文献1に記載の発明に係る非鉄金属用溶解炉は、図7及び図8に示すように、溶解室11内の溶湯をバーナ12の火炎放射によって加熱し、溶湯内に投入された非鉄金属を溶解する。また、ポンプ等の循環装置13によって溶湯を非鉄金属用溶解炉10内で循環させることで、非鉄金属を溶解し易くし、溶解時間の短縮を図っている。
【0005】
しかし、バーナ12を用いた非鉄金属用溶解炉10では、輻射、又は熱伝導率の小さい空気を介した間接的な加熱であるので、熱効率が悪いといった問題がある。
このため、より高温で溶湯を加熱することが考えられるが、高温にすることで溶湯内に酸化物が生成され易くなり、品質が低下してしまうという問題が新たに発生する。
また、高温で加熱しなくても、非鉄金属は空気を多く含んでいる酸化物によって既にその表面が覆われていることが多いので、非鉄金属を溶湯に投入しても沈み難い。その結果、非鉄金属が溶解し難いので、機械的に非鉄金属を溶湯内に押し込まなければならないといった問題もある。
【0006】
その改善策の一つとして電気ヒーターを利用した非鉄金属用溶解炉があり、本出願人は、それに関して既に特許出願を行っている(特願2008−266892)。
この非鉄金属用溶解炉は、図9及び図10に示すように、浸漬管に入れられた電気ヒーター22が加熱室21の溶湯に浸漬されており、空気を介さず電気ヒーター22で溶湯を加熱する。つまり、電気ヒーター22で発生した熱を効率よく溶湯に伝えることができるので、必要以上に電気ヒーター22の温度を上げることがなく、酸化物が生成され難い。
したがって、この非鉄金属用溶解炉20は、体積に対し表面積が大きく酸化物が生成され易い微細な非鉄金属を溶解することに適している。
【0007】
また、溶湯を漏斗状の渦巻き部24にポンプ23で供給することで、溶湯が渦巻き部24を上から下へ流れるときに渦巻き部24内で渦を発生させるとともに、溶湯を非鉄金属用溶解炉20内で循環させている。この渦巻き部24内の渦によって、投入された非鉄金属は速やかに溶湯中に分散するので、非鉄金属を溶解し易くするために、機械的に非鉄金属を溶湯内に押し込まなくてよい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の非鉄金属用溶解炉10,20はいずれも、溶湯を非鉄金属用溶解炉10,20内で循環させるために、大型の循環装置13,23が必要であり、この循環装置13,23が場所を取ってしまうといった問題がある。
また、非鉄金属を溶湯に沈めるために、非鉄金属を機械的に溶湯に押し込む装置や、渦巻き部24が必要で、それらも循環装置13,23と同様に場所を取ってしまうとともに溶湯中に空気を巻き込んでしまう。
【0009】
そこで、本発明の目的とするところは、溶湯を循環させるための装置が場所を取らず、しかも投入した非鉄金属を沈めるための装置も場所を取らない非鉄金属用溶解炉及び非鉄金属の溶解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の非鉄金属用溶解炉(30)は、溶湯を加熱する溶解室(31)を備え、溶湯を内部で循環させるとともに溶湯に投入された非鉄金属を溶解する非鉄金属用溶解炉(30)であって、前記溶解室(31)において溶湯に浸漬され、水平方向に所定間隔を開けて対向する少なくとも一対の電極(33)と、前記溶解室(31)の上方又は下方のうち少なくとも一方に配置され、前記一対の電極(33)間を流れる電流に対して略垂直に交差する磁界を生じさせる磁石(34)と、を備え、前記溶湯に推力を与えることを特徴とする。
【0011】
また、請求項2に記載の非鉄金属用溶解炉(30)は、前記一対の電極(33)に接続され、前記一対の電極(33)間を流れる電流を脈流とする整流器(35)を備えることを特徴とする。
【0012】
また、請求項3に記載の非鉄金属用溶解炉(30)は、前記電極(33)の下端を露出させた状態で、電極(33)の下部から溶湯の表面に露出する部位までの表面を、溶湯からの侵食を防止する保護材(36)で覆うことを特徴とする。
【0013】
また、請求項4に記載の非鉄金属用溶解炉(30)は、前記電極(33)の下端を細く形成したことを特徴とする。
【0014】
また、請求項5に記載の非鉄金属用溶解炉(30)は、前記磁石(34)の上下位置を調節可能にする位置調節機構(37)を備えることを特徴とする。
【0015】
また、請求項6に記載の非鉄金属用溶解炉(30)は、前記溶解室(31)の略中央部に炉床(30a)から溶湯の表面より上方に露出する柱体(31a)を立設して前記溶解室(31)に一つの周回する流路(31b)とするとともに、前記流路(31b)の幅方向両端に前記一対の電極(33)を配置したことを特徴とする。
【0016】
また、請求項7に記載の非鉄金属の溶解方法は、溶湯を加熱する溶解室(31)を備え、溶湯を内部で循環させるとともに溶湯に非鉄金属を投入する非鉄金属用溶解炉(30)における非鉄金属の溶解方法であって、前記溶解室(31)において溶湯に浸漬され、左右に所定間隔を開けて対向する少なくとも一対の電極(33)間に電流を流すことで前記一対の電極(33)を発熱させて溶湯を加熱させ、溶湯内の非鉄金属を加熱するとともに、前記溶解室(31)の上方又は下方のうち少なくとも一方に配置された磁石(34)で、前記一対の電極(33)間を流れる電流に対して略垂直に磁界を生じさせ、電流と磁界とが交差する箇所の溶湯にフレミングの左手の法則による電磁力を前後方向に作用させることで溶湯を循環させることを特徴とする。
【0017】
また、請求項8に記載の非鉄金属の溶解方法は、前記一対の電極(33)間を流れる電流を脈流として、溶湯を微小振動させることによって非鉄金属に付着している気体を非鉄金属から遊離させ、非鉄金属表面の熱伝達率を大きくするとともに非鉄金属を沈み易くしたことを特徴とする。
【0018】
ここで、上記括弧内の記号は、図面および後述する発明を実施するための形態に掲載された対応要素または対応事項を示す。
【発明の効果】
【0019】
本発明の請求項1に記載の非鉄金属用溶解炉によれば、溶解室において溶湯に浸漬され、水平方向に所定間隔を開けて対向する少なくとも一対の電極と、溶解室の上方又は下方のうち少なくとも一方に配置され、一対の電極間を流れる電流に対して略垂直に交差する磁界を生じさせる磁石と、を備えるので、電流と磁界とが交差する箇所にフレミングの左手の法則による電磁力が発生し、溶湯に推力が与えられる。
そして、一対の電極は、それらの間を流れる電流によって自ら発熱し、溶湯に熱を与える。
つまり、溶湯を循環させるための装置は、溶解室内にあり熱源を兼ねた電極、及び溶解室の上方又は下方に配置された磁石であるので、場所を取らない。よって、これとは別個の循環装置が必要であっても、電極と磁石により溶湯に推力が与えられているので、従来よりも小型の循環装置で十分であり、場所を取らない。
さらに、電極間を流れる電流が大きくかつ磁石の磁束密度が高ければ、発生する電磁力が大きくなり、電磁力のみで溶湯を循環させることができるので、電極及び磁石以外の循環装置は必要なく、スペースの節約となる。
【0020】
また、請求項2に記載の非鉄金属用溶解炉によれば、請求項1に記載の発明の作用効果に加え、一対の電極に接続され、一対の電極間を流れる電流を脈流とする整流器を備えるので、電流を流すことで溶湯を微小振動させることができる。これにより、非鉄金属に付着した空気を非鉄金属から遊離させることができるので、非鉄金属の沈殿が促進される。また、非鉄金属同士が絡み合って沈み難い場合であっても、微小振動によってその絡み合いが解けるので、非鉄金属が沈み易くなる。したがって、非鉄金属を効率よく溶解することができるので、溶解速度が上がる。
また、非鉄金属が沈んだとしても、溶湯中の非鉄金属の表面に空気が残存する場合があるが、溶湯の微小振動によってその残存空気も非鉄金属から遊離させることができるので、非鉄金属表面には熱伝導率の小さい空気がほとんど残らず、その結果、非鉄金属表面の熱伝達率を大きくすることができる。
さらに、微小振動によって溶湯内に溶け込んだ空気も溶湯から除去できるので、溶湯の熱伝導率も大きくすることができる。
ここで、非鉄金属を溶湯に沈めるために従来用いていた装置(例えば渦巻き部)よりも整流器は小型あり、しかも電極は熱源と循環装置を兼ねているので、溶湯に投入した非鉄金属を沈めるための装置である整流器及び電極は場所を取らない。
【0021】
また、請求項3に記載の非鉄金属用溶解炉によれば、請求項1又は2に記載の発明の作用効果に加え、電極の下端を露出させているので、主に電極の下端間に電流が流れ、電極間の電流密度が上がる。よって、単位面積あたりの電磁力が大きくなるので、溶湯循環の効率がよい。
また、電極の下部から溶湯の表面に露出する部位までの表面を保護材で覆うので、電極の大部分を溶湯による侵食から保護できる。
【0022】
また、請求項4に記載の非鉄金属用溶解炉によれば、請求項1乃至3に記載の発明の作用効果に加え、電極の下端を細く形成したので、電極の下端での電流密度が上がり、この部分における発熱量が大きくなる。つまり、直接溶湯に触れている部分の発熱量が大きくなるので、熱効率がよい。
【0023】
また、請求項5に記載の非鉄金属用溶解炉によれば、請求項1乃至4に記載の発明の作用効果に加え、磁石の上下位置を調節可能にする位置調節機構を備えるので、電流と交差する箇所の磁束密度を独立して調節することができる。つまり、電流に作用する部分の磁束密度を高くしたいときには磁石を電流から遠ざけることができ、電流に作用する部分の磁束密度を低くしたいときには磁石を電流に近づけることができる。このように、溶湯に作用する電磁力の強さを調整できるので、溶湯温度制御と独立して溶湯の循環速度を制御可能である。
【0024】
また、請求項6に記載の非鉄金属用溶解炉によれば、請求項1乃至5に記載の発明の作用効果に加え、溶解室の略中央部に炉床から溶湯の表面より上方に露出する柱体を立設して溶解室に一つの周回する流路とするとともに、流路の幅方向両端に一対の電極を配置したので、流路に沿った大きな流れを作ることができる。よって、溶解室内で溶湯の淀む部分が発生し難いので、溶湯の品質が均一になる。
【0025】
また、請求項7に記載の非鉄金属の溶解方法によれば、溶解室において溶湯に浸漬され、左右に所定間隔を開けて対向する少なくとも一対の電極間に電流を流すことで一対の電極を発熱させて溶湯を加熱させ、溶湯内の非鉄金属を加熱するとともに、溶解室の上方又は下方のうち少なくとも一方に配置された磁石で、一対の電極間を流れる電流に対して略垂直に磁界を生じさせ、電流と磁界とが交差する箇所の溶湯にフレミングの左手の法則による電磁力が前後方向に作用させることで循環させるので、場所を取らずに非鉄金属を循環させることができる。つまり、電極によって溶湯を加熱し、さらにその電極と磁石によって溶湯を循環させているので、スペースの節約になる。
【0026】
また、請求項8に記載の非鉄金属の溶解方法によれば、請求項7に記載の発明の作用効果に加え、一対の電極間を流れる電流を脈流として、溶湯を微小振動させることによって非鉄金属に付着している気体を非鉄金属から遊離させ、非鉄金属表面の熱伝達率を大きくするとともに非鉄金属を沈み易くしたので、場所を取らずに非鉄金属を溶湯に沈めることができる。すなわち、溶湯に投入した非鉄金属を沈めるための装置である電極は熱源と循環装置を兼ねているので、非鉄金属を溶湯に沈めるために場所を取るものではない。
【0027】
なお、ここでいう非鉄金属とは固体の非鉄金属を、溶湯とは非鉄金属が溶解したものをそれぞれ意味する。
ここで、上述した特許文献1には循環装置が記載されているが、本発明の非鉄金属用溶解炉のように、その循環装置が一対の電極と磁石である点は全く記載されていないし、フレミングの左手の法則による電磁力を作用させる非鉄金属の溶解方法についても記載されていない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る非鉄金属用溶解炉を示す平面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る非鉄金属用溶解炉を示す、図1のB−B線断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る非鉄金属用溶解炉を示す要部拡大断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る非鉄金属用溶解炉を示す要部拡大断面図である。
【図5】本発明のさらに他の実施形態に係る非鉄金属用溶解炉を示す要部拡大断面図である。
【図6】本発明のさらに他の実施形態に係る非鉄金属用溶解炉を示す要部拡大断面図である。
【図7】従来例に係る非鉄金属用溶解炉を示す平面図である。
【図8】図7に示す非鉄金属用溶解炉の正面図である。
【図9】他の従来例に係る非鉄金属用溶解炉を示す平面図である。
【図10】他の従来例に係る非鉄金属用溶解炉を示す、図9のA−A線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1乃至図3を参照して、本発明の実施形態に係る非鉄金属用溶解炉30及び非鉄金属の溶解方法を説明する。
本実施形態に係る非鉄金属用溶解炉30は、アルミニウム合金等の非鉄金属を、ダイカスト鋳造等の鋳造製品を製造するために溶解するものである。
この非鉄金属用溶解炉30は、溶湯を溜める室として溶解室31と、保持室32とを備え、溶解室31に主に電極33と、磁石34と、整流器35と、を有する。
【0030】
溶解室31は、溶湯を加熱する室であって、溶湯に投入された非鉄金属(インゴットや切粉)が溶湯の熱によって溶解される。
溶解室31の略中央部には、炉床30aから溶湯の表面より上方に露出する柱体31aを立設しており、溶解室31に一つの周回する流路31bとしている。
【0031】
保持室32は、溶解室31と隣接し、堰38によって隔てられている。そして、溶解室31の容量を超えた溶湯が、フィルター39で濾過され堰38をオーバーフローして保持室32に供給される。
【0032】
電極33は、少なくとも一対(ここでは二対)、水平方向にそれぞれ所定間隔を開けて対向するように溶解室31において溶湯に浸漬される。詳しくは、図1及び図2に示すように、一方の一対の電極33a,33bが流路31bの所定位置の幅方向両端に配置されている。そして、柱体31aに対して一方の電極33a,33bと反対の位置に、他方の一対の電極33c,33dが流路31bの幅方向両端に配置されている。ここで、いずれも内周側(柱体31a側)の電極33b,33cを正極とし、外周側の電極33a,33dを負極とした。
なお、電極33は銅等の金属よりも比抵抗の大きい炭素又は炭素化合物からなる。
【0033】
また、電極33の下端を露出させた状態で、電極33の下部から溶湯の表面に露出する部位までの表面を、溶湯からの侵食を防止する保護材36で覆っている。この保護材36は窒化珪素等からなり、窒化珪素は電極33の材質である炭素又は炭素化合物よりも比抵抗及び熱伝導率が大きい。
さらに、保護材36で覆われていない電極33の下端を、保護材36で覆われた部分よりも細く形成した。
そして、電極33間を流れる電流によって電極33が発熱し、溶湯に熱を与える熱源となる。
また、溶解室31の溶湯温度を熱電対(図示しない)と温度調節計(図示しない)でモニタし、その溶湯温度に応じて電極33間に流れる電流量(すなわち発熱量)を制御し、溶湯温度を所望の温度としている。
また、溶湯にはその他に、接地電極40も浸漬しており、アースされている。
【0034】
磁石34は、電極33間を流れる電流に対して略垂直に交差する磁界を生じさせるように、電極33間の上方の蓋30bに取付けられて配置される。ここでは電極33が二対あるので、それぞれの電極33間に磁界を作用させるように磁石34が二つ配置されている。
また、いずれの磁石34とも上方をN極、下方をS極としている。したがって、各電極33間における磁界の向きは下から上となる。
この磁石34は永久磁石又は電磁石のいずれであってもよい。
【0035】
整流器35は、スイッチング制御ユニット41を介してそれぞれの電極33に接続され、それぞれ一対の電極33間を流れる電流を脈流とする。整流器35で脈流となった電流は、スイッチング制御ユニット41によって周波数を0.5〜100Hzに制御され、また波形、振幅等も制御される。このように制御された電流が各電極33間を流れる。
また、整流器35の電源側には、感電防止のために絶縁トランス42が取付けられている。
なお、このような整流器35は一般に普及しており、非鉄金属を溶湯に沈めるために従来用いていた渦巻き部24よりも小型である。
【0036】
このように構成された非鉄金属用溶解炉30において、電流を流すことで電極33が発熱し、溶湯を加熱する。
そして、電極33間を流れる電流に対して略垂直に磁界を生じさせ、電流と磁界とが交差する箇所の溶湯にフレミングの左手の法則による電磁力を前後方向に作用させることで溶湯が溶解室31内を循環する。
つまり、一方の一対の電極33a,33b側においては、図3に示すように、電流は紙面の右から左に流れ、磁界の向きは下から上であるので、フレミングの左手の法則によって電磁力が紙面手前から奥に働く。また、他方の一対の電極33c,33d側においては、電流が左から右、磁界は下から上であるので、電磁力が紙面奥から手前に働く。
したがって、溶解室31全体の溶湯の流れは、図1に示すように時計回りとなる。
【0037】
また、脈流である電流が流れることで溶湯が微小振動し、非鉄金属に付着している気体が非鉄金属から遊離する。これによって、非鉄金属表面の熱伝達率が大きくなるとともに非鉄金属が溶湯中に沈む。
【0038】
以上のように構成された非鉄金属用溶解炉30によれば、電極33と磁石34によって溶湯を循環させることができるので、従来のような大型の循環装置13,23が不要である。電極33と磁石34は従来の循環装置13,23よりも小型であることに加え、電極33は熱源を兼ねており、しかも磁石34は非鉄金属用溶解炉30の蓋30bに取付けられているので、溶湯を循環させても電極33と磁石34は場所を取るものではない。
【0039】
また、溶湯を微小振動させているので、非鉄金属に付着した空気を非鉄金属から遊離させることができ、非鉄金属の沈殿が促進される。また、非鉄金属同士が絡み合って沈み難い場合であっても、微小振動によってその絡み合いが解けるので、非鉄金属が沈み易くなる。したがって、非鉄金属を効率よく溶解することができるので、溶解速度が上がる。
また、従来のように渦で巻き込む等して非鉄金属を溶湯内に沈めたとしても、溶湯中の非鉄金属の表面に空気が残存する場合があるが、溶湯の微小振動によってその残存空気も非鉄金属から遊離させることができるので、非鉄金属表面には熱伝導率の小さい空気がほとんど残らず、その結果、非鉄金属表面の熱伝達率を大きくすることができる。よって、溶解の効率が上がる。
さらに、微小振動によって溶湯内に溶け込んだ空気も溶湯から除去できるので、溶湯の熱伝導率も大きくすることができる。
ここで、非鉄金属を溶湯に沈めるために従来用いていた渦巻き部24等よりも整流器35は小型あり、しかも電極33は熱源と循環装置を兼ねているので、溶湯に投入した非鉄金属を沈めるための装置である整流器35及び電極33は場所を取らない。
【0040】
また、従来の浸漬管等に電極33を入れることなく、電極33を直接溶湯に浸漬しているので、熱伝導率の小さい空気や他の固体等を介さず溶湯を加熱することができ、熱効率がよい。なお、電極33は保護材36で覆われているが、保護材36の熱伝導率は電極33の熱伝導率より大きいので、保護材36による熱損失は従来の浸漬管による熱損失よりも小さい。
また、電極33の下端を露出させているので、主に電極33の下端間に電流が流れ、電極33間の電流密度が上がる。よって、単位面積あたりの電磁力が大きくなるので、溶湯循環の効率がよい。
【0041】
また、電極33の下部から溶湯の表面に露出する部位までの表面を保護材36で覆うので、電極33の大部分を溶湯による侵食から保護できる。
また、電極33の下端を細く形成したので、電極33の下端での電流密度が上がり、この部分における発熱量が大きくなる。つまり、直接溶湯に触れている部分の発熱量が大きくなるので、より熱効率がよい。
【0042】
さらに、溶解室31の略中央部に炉床30aから溶湯の表面より上方に露出する柱体31aを立設して溶解室31に一つの周回する流路31bとするとともに、流路31bの幅方向両端に一対の電極33を配置したので、流路31bに沿った大きな流れを作ることができる。よって、溶解室31内で溶湯の淀む部分が発生し難いので、溶湯の品質が均一になる。
【0043】
また、堰38をオーバーフローさせて溶湯を保持室32に供給しているので、溶解室31の溶湯の表面の高さをほぼ一定に保つことができる。これにより、電極33の発熱している部分が常に溶湯に浸漬されることになるので、電極33の熱を最大限溶湯に与えることができるとともに、保持室32に溜める溶湯の量を必要最小限にすることができる。
【0044】
なお、磁石34を非鉄金属用溶解炉30の蓋30bに取付けたが、これに限られるものではなく、図4に示すように、溶解室31の下方に配置してもよい。このとき、ステンレス板43を炉床30aと磁石34との間に挟む。
また、溶解室31の上方及び下方のいずれにも磁石34を配置してもよい。このとき、電極33間の磁界の向きが一方向になるように上下の磁石34を配置する必要がある。
【0045】
また、整流器35によって電流を脈流としたが、電流を脈流とする手段はこれに限られるものではない。さらに、電流を脈流としなくてもよく、この場合であっても溶湯を溶解室31内で循環させることは可能である。
また、保護材36で電極33の表面を覆ったが、電極33が対侵食性に優れるものであれば、保護材36は必要ない。
【0046】
さらに、電極33の下端を細く形成したが、これに限られるものではなく、図5に示すように、電極33の下端も保護材36で覆われた部分と同じ太さであってもよい。
【0047】
また、磁石34を溶解室31の蓋に固定したが、図6に示すように、炉床30a側に、例えば上裁された磁石34の上下位置をシリンダ44aで調節可能にする位置調節機構44を備えてもよい。
ここで、磁石34を降下させて電極33間に流れる電流から磁石34を遠ざけると、電流に作用する部分の磁束密度が低くなるので、推力となる電磁力が小さくなり、溶湯の循環速度が下がる。一方、磁石34を上昇させて電極33間に流れる電流に磁石34を近づけると、電流に作用する部分の磁束密度が高くなるので、推力となる電磁力が大きくなり、溶湯の循環速度が上がる。このように位置調節機構44を備えていれば、溶湯温度制御と独立して溶湯の循環速度を制御可能である。
また、溶解室31の上方に磁石34を配置したときであっても、位置調節機構44を設けてもよい。
【0048】
また、循環装置として電極33と磁石34のみを用いたが、発生する電磁力が溶湯を循環させるための推力として不足していれば、ポンプ等の従来用いていた別個の循環装置を補助的に用いてもよい。この場合、小型のポンプ等で十分であるので、場所を取るものではない。
また、溶解室31に柱体31aを立設したが、これに限られるものではなく、溶解室31内で溶湯が循環すればよい。
【0049】
また、非鉄金属用溶解炉30は溶解室31と保持室32とを備えるとしたが、溶湯を加熱する溶解室31があれば、他の用途の室がいくつあってもよい。
また、電流の向きや磁石34の向きはこれに限られるものではなく、溶湯が円滑に循環すればよい。
【符号の説明】
【0050】
10 非鉄金属用溶解炉
11 溶解室
12 バーナ
13 循環装置
20 非鉄金属用溶解炉
21 加熱室
22 電気ヒーター
23 ポンプ(循環装置)
24 渦巻き部
30 非鉄金属用溶解炉
30a 炉床
30b 蓋
31 溶解室
31a 柱体
31b 流路
32 保持室
33 電極
33a 電極
33b 電極
33c 電極
33d 電極
34 磁石
35 整流器
36 保護材
37 位置調節機構
38 堰
39 フィルター
40 接地電極
41 スイッチング制御ユニット
42 絶縁トランス
43 ステンレス板
44 位置調節機構
44a シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯を加熱する溶解室を備え、溶湯を内部で循環させるとともに溶湯に投入された非鉄金属を溶解する非鉄金属用溶解炉であって、
前記溶解室において溶湯に浸漬され、水平方向に所定間隔を開けて対向する少なくとも一対の電極と、
前記溶解室の上方又は下方のうち少なくとも一方に配置され、前記一対の電極間を流れる電流に対して略垂直に交差する磁界を生じさせる磁石と、を備え、
前記溶湯に推力を与えることを特徴とする非鉄金属用溶解炉。
【請求項2】
前記一対の電極に接続され、前記一対の電極間を流れる電流を脈流とする整流器を備えることを特徴とする請求項1に記載の非鉄金属用溶解炉。
【請求項3】
前記電極の下端を露出させた状態で、電極の下部から溶湯の表面に露出する部位までの表面を、溶湯からの侵食を防止する保護材で覆うことを特徴とする請求項1又は2に記載の非鉄金属用溶解炉。
【請求項4】
前記電極の下端を細く形成したことを特徴とする請求項1乃至3のうちいずれか一つに記載の非鉄金属用溶解炉。
【請求項5】
前記磁石の上下位置を調節可能にする位置調節機構を備えることを特徴とする請求項1乃至4のうちいずれか一つに記載の非鉄金属用溶解炉。
【請求項6】
前記溶解室の略中央部に炉床から溶湯の表面より上方に露出する柱体を立設して前記溶解室に一つの周回する流路とするとともに、
前記流路の幅方向両端に前記一対の電極を配置したことを特徴とする請求項1乃至5のうちいずれか一つに記載の非鉄金属用溶解炉。
【請求項7】
溶湯を加熱する溶解室を備え、溶湯を内部で循環させるとともに溶湯に非鉄金属を投入する非鉄金属用溶解炉における非鉄金属の溶解方法であって、
前記溶解室において溶湯に浸漬され、左右に所定間隔を開けて対向する少なくとも一対の電極間に電流を流すことで前記一対の電極を発熱させて溶湯を加熱させ、溶湯内の非鉄金属を加熱するとともに、
前記溶解室の上方又は下方のうち少なくとも一方に配置された磁石で、前記一対の電極間を流れる電流に対して略垂直に磁界を生じさせ、電流と磁界とが交差する箇所の溶湯にフレミングの左手の法則による電磁力を前後方向に作用させることで溶湯を循環させることを特徴とする非鉄金属の溶解方法。
【請求項8】
前記一対の電極間を流れる電流を脈流として、溶湯を微小振動させることによって非鉄金属に付着している気体を非鉄金属から遊離させ、非鉄金属表面の熱伝達率を大きくするとともに非鉄金属を沈み易くしたことを特徴とする請求項7に記載の非鉄金属の溶解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−237056(P2011−237056A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−106540(P2010−106540)
【出願日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【出願人】(592017002)三建産業株式会社 (23)
【Fターム(参考)】