説明

面接触状況の計測装置と計測方法

【課題】導電性を備えた部材が他の部材と面接触して用いられる場合の面接触状況の新たな計測手法を提供する。
【解決手段】面接触状況計測器100は、アクリルプレート110と導電プレート120との間に、面接触状況の測定対象(例えばガス拡散層22)を挟持する。アクリルプレート110は、面接触計測時において陽極となる透明電極112に発光体114を積層して備える。この発光体114は、透明電極112に接合する正孔輸送層114aと測定対象に面接触する電子輸送層114cを備え、両輸送層の間の有機エレクトロルミネッセンス発光層1114bは、正孔輸送層114aからの正孔と電子輸送層114cからの電子との結合による電界発光現象を起こす。この発光現象は、電子輸送層114cと測定対象との面接触状況に依存することから、光量計測を介して、面接触状況を計測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性を備え使用状況下で他の部材と面接触する測定対象の面接触状況を計測する装置と方法に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性を備え使用状況下で他の部材と面接触する部材としては、種々のものがある。例えば、燃料電池では、電解質の両側の電極(反応触媒層)で挟持したいわゆる膜―電極接合体に、燃料ガス・酸素含有ガスの拡散供給に用いる拡散層を面接触させている。この拡散層は、膜―電極接合体と面接触するだけでは足りず、発電単位である膜―電極接合体からの集電のため、導電性をも備えている。そして、燃料電池の特性は、膜―電極接合体としての発電性能(即ち電気化学反応の速やかな進行)のみならず、膜―電極接合体と拡散層との面接触の状況にも依存することが知られている。つまり、膜―電極接合体と拡散層との面接触におけるその面当たりの不良は、接触抵抗の増大、延いては電池性能の低下の一因となる。このため、膜−電極接合体とその両側の拡散層とをセパレータを介在させて積層した燃料電池スタックにおいては、膜―電極接合体と拡散層との面接触の確保の上から、積層方向に圧力を掛けることがなされている。
【0003】
近年では、燃料電池の特性計測を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1)。この特許文献では、膜−電極接合体の電流密度の分布を高精度で計測することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2006−234566号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、測定対象である膜−電極接合体を、拡散層単独に代える、或いは拡散層をも接合した膜−電極接合体に代えたとしても、拡散層単独での電両密度分布や拡散層をも接合した膜−電極接合体での電流密度分布を得ることに留まる。また、抵抗側定器による拡散層の測定にあっても、その測定箇所における拡散層の抵抗(バルク抵抗)を得るに留まる。よって、これら手法を取ってみても、得られた電流密度や抵抗は、膜―電極接合体と拡散層との面接触の状況を推考する指標となるものではないのが実情である。なお、感圧紙を拡散層に押し付けて拡散層と感圧紙との面接触状況を調べる手法も有りえるが、感圧紙の解像度では大まかな面接触の状況しか知ることができない。また、表面粗さ計による表面粗さ計測を行ったとしても、得られた表面粗さは、拡散層単独での表面粗さに過ぎず、拡散層を面接触させた状況での接触状況の評価指標として代用することはできない。
【0006】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決するためになされ、導電性を備えた部材が他の部材と面接触して用いられる場合の面接触状況の新たな計測手法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的の少なくとも一部を達成するために、本発明にかかる面接触状況の計測手法では、透明プレートと導電プレートとの間に使用状況下で他の部材と面接触する導電性の測定対象を挟持する。透明プレートは、薄葉状の透明電極と電界発光現象を起こす薄葉状の発光体とを該発光体が表面に位置するようにして積層して備えるので、透明プレートと導電プレートで挟持された測定対象は、一方の側で前記導電プレートに面接触し、他方の側で前記発光体に面接触する。そして、この状態で、前記導電プレートと前記透明プレートの間を押圧することで、導電性を備える測定対象を、面圧を受けて他の部材と面接触する使用状況下に置く。つまり、使用状況下における測定対象と他の部材との面接触の状況を、測定対象と発光体との面接触において発現させる。
【0008】
次いで、上記のように測定対象を挟持した前記導電プレートと前記透明プレートの前記透明電極に直流電圧を印可する。そうすると、挟持された測定対象は導電性であることから電流が流れ、発光体は、測定対象に面接触している箇所において電界発光の現象を起こして発光する。この発光の様子は流れる電流に依存することから、接触状況が悪い箇所では接触抵抗増による電流源が起き、発光光量のが低下する。そうした発光体の電界発光は、測定対象と面接触した発光体の接触面全域で起きることから、前記測定対象と前記発光体との面接触範囲における前記発光体の発光状況を前記透明プレートの側から計測する、例えばその光量を計測することで、発光体の電界発光をもたらす測定対象と発光体との面接触の状況を容易に把握できる。しかも、光量計測は、その計測機器による計測箇所の細分化が可能であると共に、ここの計測箇所での計測を高感度で行うことができることから、面接触状況を高い精度で緻密に把握(計測)できる。
【0009】
この場合、前記導電プレートと前記透明プレートの押圧に際しては、前記測定対象の使用状況下における面圧が前記測定対象に掛かるようプレート間を押圧することが好ましい。こうすれば、使用状況下における測定対象と他の部材との面接触状況の再現性が高まるので、測定対象の面接触状況計測の信頼性をより高めることができる。透明電極と導電プレートとの電圧印加に際しては、前記測定対象の使用状況下において前記測定対象に流れる電流が前記挟持した前記測定対象に流れるよう、前記導電プレートと前記透明電極に直流電圧を印加することが好ましい。こうすれば、使用状況下における測定対象での通電状況の再現性が高まるので、測定対象の面接触状況計測の信頼性をより高めることができる。
【0010】
また、光量計測に際しては、前記発光体に焦点を合わせたレンズと該レンズを通して得られる光量を計測する計測器とを、前記レンズの焦点位置が前記発光体が前記測定対象と面接触する範囲に亘って縦横に走査するよう、移動させるようにすることができる。こうすれば、光量計測箇所をより細緻に細分化できるので、測定対象の面接触の状況計測の信頼性は、より一層高まる。
【0011】
このように測定対象の面接触の況計測に用いる前記発光体を、正孔輸送層と有機エレクトロルミネッセンス発光層とを積層した有機エレクトロルミネッセンスデバイスとすることができる。こうすれば、発光体の製造および取扱の上からも簡便である。この場合、有機エレクトロルミネッセンス発光層に電子輸送層を積層することもでき、正孔輸送層が透明電極に積層していれば透明電極が陽極となるよう、透明電極と導電プレートと間に電圧を印加し、電子輸送層が透明電極に積層していれば透明電極が陰極となるよう、透明電極と導電プレートと間に電圧を印加すればよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、その実施例を図面に基づき説明する。図1は実施例での評価対象を含む燃料電池の概略構成を説明する説明図である。本実施例における燃料電池は、固体高分子型燃料電池であり、図1に示す一つの発電単位(セル)を複数積層したスタック構造を有している。この発電単位は、電解質を含む膜−電極接合体21と、膜−電極接合体21を両側から挟持してサンドイッチ構造を形成するガス拡散層22、23とを備え、このサンドイッチ構造をさらに両側からセパレータ24、25にて挟持されている。
【0013】
膜−電極接合体21は、電解質層30と、電解質層30を間に挟んでその両面に形成された一対の電極31、32とを備えている。電解質層30は、固体高分子材料、例えばフッ素系樹脂により形成されたプロトン伝導性のイオン交換膜であり、湿潤状態で良好な電気伝導性を示す。本実施例では、ナフィオン膜(デュポン社製)を使用した。電極31、32は、電気化学反応を促進する触媒、例えば、白金、或いは白金と他の金属から成る合金を備えた多孔質体であり、ガス透過性を備えた触媒電極とされている。
【0014】
ガス拡散層22、23は、ガス透過性および電子伝導性を有する部材によって構成されており、例えば、カーボンペーパーなどの炭素材料や、発泡金属、金属メッシュなどの金属部材によって形成することができる。このようなガス拡散層22、23は、電気化学反応に供されるガスを電極31、32まで供給すると共に、集電を行なう。ここで、ガス拡散層22は、セパレータ24に接するガス拡散部材33と、膜−電極接合体21に接する電極側ガス拡散部材34とを備えている。このようなガス拡散層22は、膜−電極接合体21とセパレータ24との間で、水素を含有する燃料ガスが通過するセル内燃料ガス流路を形成してガスを供給する。ガス拡散層23は、セパレータ25に接するガス拡散部材35と、膜−電極接合体21に接する電極側ガス拡散部材36とを備えている。このようなガス拡散層23は、膜−電極接合体21とセパレータ25との間で、酸素を含有する酸化ガスが通過するセル内酸化ガス流路を形成してガスを供給する。
【0015】
この場合、本実施例では、ガス拡散層22、23をセパレータ側のガス拡散部材と電極側ガス拡散部材の接合構成としたが、単一のガス拡散層とすることもできる。
【0016】
上記した電解質層30とその両側に電極31、32を有する膜−電極接合体21と、ガス拡散部材33、35および電極側ガス拡散部材34、36とは、一連の製造工程の際に別途形成され、それぞれが積層されて所定の面圧が掛かるよう接合される。つまり、ガス拡散部材33、35と電極側ガス拡散部材34、36のそれぞれ、或いは両ガス拡散部材が接合した状態のガス拡散層が、導電性を備え使用状況下で他の部材たる膜−電極接合体21やセパレータ24、25と面接触することから、本実施例での測定対象となる。ガス拡散層22、23が単一のガス拡散層とされていれば、当該単一のガス拡散層が本実施例での測定対象となる。
【0017】
上記のガス拡散層22、23において、セパレータ側のガス拡散部材33、35を電極側ガス拡散部材34、36に比べて、より硬い多孔質体によって形成することができる。ここでいう硬さとは、ガス拡散部材を構成する材料の硬さではなく、部材全体としての硬さであり、例えば圧縮弾性率によって表わすことができる。こうすることで、セルとしての形状維持にとって望ましい。
【0018】
セパレータ24、25は、電子伝導性を有する材料で形成されたガス不透過な部材であり、例えば、ステンレス鋼等の金属部材や炭素材料によって形成することができる。本実施例のセパレータ24、25は、薄板状に形成されており、ガス拡散層22、23と接する面は、凹凸のない平坦面となっているが、燃料ガス流路や酸化ガス流路を有するセパレータとすることもできる。この場合は、ガス拡散層は、セル内燃料ガス流路やセル内酸化ガス流路の役割は有さず、拡散の役割を少なくとも有するだけでよい。
【0019】
なお、図示する発電単位であるセルの外周部には、セル内燃料ガス流路およびセル内酸化ガス流路におけるガスシール性を確保するために、ガスケット等のシール部材が配設されている。また、セル外周部には、セル積層方向と平行であって燃料ガス或いは酸化ガスが流通する複数のガスマニホールドが設けられている(図示せず)。これら複数のガスマニホールドのうちの燃料ガス供給マニホールドを流れる燃料ガスは、各セルに分配され、電気化学反応に供されつつ各セル内燃料ガス流路(ガス拡散層22)内を通過し、その後、燃料ガス排出マニホールドに集合する。同様に、酸化ガス供給マニホールドを流れる酸化ガスは、各セルに分配され、電気化学反応に供されつつ各セル内酸化ガス流路(ガス拡散層23)内を通過し、その後、酸化ガス排出マニホールドに集合する。図1では、セル内燃料ガス流路における燃料ガス(H2)とセル内酸化ガス流路における酸化ガス(O2)とは並行に流れるように記載しているが、これらのガスの流れは、ガスマニホールドの配置によって、上記した並行の他、対向、直交など異なる向きに流れることとしても良い。
【0020】
燃料電池に供給される燃料ガスとしては、炭化水素系燃料を改質して得られる水素リッチガスを用いても良いし、純度の高い水素ガスを用いても良い。また、燃料電池に供給される酸化ガスとしては、例えば空気を用いることができる。
【0021】
なお、図示は省略しているが、スタック構造の内部温度を調節するために、各単セル間に、或いは所定数のセルを積層する毎に、冷媒の通過する冷媒流路を設けても良い。冷媒流路は、隣り合う単セル間において、一方のセルが備えるセパレータ24と、他方のセルが備えるセパレータ25との間に設ければよい。
【0022】
セルは、図1に示した層構成に限られるものではなく、膜−電極接合体21をその両側のセパレータで挟持し、このセパレータにおける膜−電極接合体21の側の面に、水素ガス或いは空気の供給流路を設けた構成とすることもできる。
【0023】
次に、上記した構成を有する燃料電池に含まれる部材のうち、本実施例での面接触状況計測の対象となるガス拡散部材33、35および電極側ガス拡散部材34、36の面接触状況測定について説明する。図2は本実施例の面接触状況計測器100の概略構成を示す説明図である。
【0024】
本実施例の面接触状況計測は、燃料電池の製造プロセスにおいて実施される。つまり、電池製造プロセスにおいて、電解質層30の両面に電極31、32が形成済みの膜−電極接合体21と、ガス拡散部材33と電極側ガス拡散部材34が一体となったガス拡散層22と、ガス拡散部材35と電極側ガス拡散部材36とが一体となったガス拡散層23と、セパレータ24、25とがそれぞれ準備され、ガス拡散層22とガス拡散層23を用いるに際して、この両ガス拡散層についての面接触状況を計測する。そして、この計測結果から面接触状況が良好とされたガス拡散層22とガス拡散層23とが燃料電池製造に用いられる。この場合、ガス拡散層を構成するガス拡散部材33〜36の個々の拡散部材についても面接触状況を計測するようにもできる。なお、測定対象であるガス拡散層22、23は、既述したようにカーボンペーパーなどの炭素材料や、発泡金属、金属メッシュなどの金属部材によって形成されるが、本実施例では、カーボンペーパー製のガス拡散層である。
【0025】
図2に示すように、面接触状況計測器100は、透明なアクリルプレート110と導電プレート120とを対向配置して備える。アクリルプレート110は、後述の押圧プレート132からの圧力に対する耐性を発揮できる厚みで形成され、固定ジグ130により保持されている。導電プレート120は、良導電性を有する金属(例えば、銀やアルミ)のプレートやカーボンプレート、金メッキを施したステンレスプレート等から構成され、アクリルプレート110と同様に耐性を備える。
【0026】
アクリルプレート110は、導電プレート120と対向する側に、薄葉状の透明電極112と電界発光現象を起こす薄葉状の発光体114とを積層して備え、発光体114を導電プレート120に対向させる。透明電極112は、高い可視光透過率と導電性を備えた薄膜であり、例えばインジウム-スズ酸化物(ITO:Indium-Tin-Oxide)をスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、湿式メッキ法、塗布法等の適宜な膜形成手法にてアクリルプレート110の表面に形成される。発光体114は、その拡大概略図に示すように3層構造を備え、正孔輸送層114aと有機エレクトロルミネッセンス発光層1114bと電子輸送層114cとを積層させた有機エレクトロルミネッセンスデバイスである。本実施例では、面接触状況計測時に透明電極112が陽極となることから、正孔輸送層114aが透明電極112に接合するようにされている。
【0027】
正孔輸送層114aは、例えばα−NPD(ジフェニルナフチルジアミン)や、PEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)、PEDOT−PST(ポリエチレンジオキシチオフェン−ポリスチレンサルホネート)等の正孔輸送材料をスピンコータ法や塗布法により乾燥・形成される。有機エレクトロルミネッセンス発光層1114bは、種々の低分子系有機EL発光材料や高分子系有機EL発光材料を用いて形成され、低分子系有機EL発光材料にあっては真空蒸着法のようなドライプロセスにより形成され、高分子系有機EL発光材料にあってはインクジェット法のようなウェットプロセスにより形成される。低分子系有機EL発光材料としては、例えば金属と有機分子が配位結合した金属錯体を挙げることができ、代表的にはAlq3(トリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム)、ビス(8−ヒドロキシキノリナト)亜鉛、ベリリウム錯体、弁ゾオキサゾール亜鉛錯体等を挙げることができる。一方、高分子系の有機EL材料としては、主鎖がπ共役で広がった構造のπ共役ポリマーが挙げられ、代表的にはポリフェニレンビニレン、ポリフルオレン、ポリビニルカルバゾール等を挙げることができる。電子輸送層114cは、Alq3の他、シロール構造を基本にピリジン基を導入したシロール誘導体(PySPy)等の電子輸送材料を用いて形成される。なお、これら材料は例示であり、正孔輸送層114aは有機エレクトロルミネッセンス発光層1114bに正孔を輸送する機能を発揮し、発光体114は有機エレクトロルミネッセンス発光層1114bに電子を輸送する機能を発揮するものであれば、各層の材料については適宜選択できる。
【0028】
面接触状況計測器100は、測定対象を挟持するための上記したアクリルプレート110と導電プレート120の他、押圧プレート132と、直流電圧源140と、回路開閉スイッチ142と、レンズ150と、カメラ(CCDカメラ)152と、xy平面駆動装置154と、判定装置156とを備える。押圧プレート132は、測定対象の面接触状況計測の際に、導電プレート120をアクリルプレート110の側に向けて押圧する。これにより、アクリルプレート110と導電プレート120とで挟持された測定対象(例えば、ガス拡散層22、23)は、押圧プレート132による押圧力に応じた面圧で、一方の側では発光体114の電子輸送層114cに面接触し、他方の側では導電プレート120に面接触する。なお、押圧プレート132の押圧源としては、油圧・空圧のシリンダやカム機構等の適宜な構成を採用すればよい。
【0029】
直流電圧源140は、透明電極112が陽極となるよう、回路開閉スイッチ142によりアクリルプレート110の透明電極112と導電プレート120との間に直流電圧を印加する。これにより、アクリルプレート110と導電プレート120とで挟持された測定対象(例えば、ガス拡散層22、23)には直流電流が流れ、発光体114の有機エレクトロルミネッセンス発光層1114bは、測定対象の側の電子輸送層114cから輸送された電子と、陽極の透明電極112の側の正孔輸送層114aから輸送された正孔とを受け取り、この電子と正孔との結合(再結合)による電界発光現象を起こし、発光する。
【0030】
本実施例では、測定対象たるガス拡散層22等が図1に示す燃料電池に使用されることから、この燃料電池に使用された状況下での面圧・通電特性(例えば、定常運転時における電流密度)が再現されるよう、押圧プレート132による押圧と、直流電圧源140の印加電圧を定めた。例えば、使用状況下でガス拡散層22等が1〜3MPa程度の面圧を受け、1〜2A/cm2程度の電流密度で運転されることを想定して、押圧プレート132は、測定対象たるガス拡散層22等が1〜3MPa程度の面圧を受けるよう導電プレート120を押圧する。直流電圧源140は、測定対象たるガス拡散層22等が1〜2A/cm2程度の電流密度での通電状況となるよう、透明電極112と導電プレート120との間に直流電圧を印加する。この場合、上記した値以外の面圧や電流密度とすることもできるが、上記の面圧(1〜3MPa)の半分程度以上の面圧が掛かるようにすることが好ましい。この程度の面圧であれば、発光体114と測定対象たるガス拡散層22等との面接触が確実に起きると共に、使用状況下での面接触状況と著しく相違しないと思われる。また、電流密度にあっても上記の半分程度とすれば、測定対象たるガス拡散層22等の通電が確実に起きると思われる。上限については、上記の面圧・電流密度の約1〜2割増程度が、押圧過多による測定対象の潰れ回避、電流過多による測定対象の機能低下の回避の上から望ましい。
【0031】
レンズ150は、発光体114(詳しくは有機エレクトロルミネッセンス発光層1114b)に焦点が合致するようアクリルプレート110の側に配設され、カメラ152は、レンズ150が集光した光の光量を捉え、その光量に応じた信号を判定装置156に出力する。このレンズ150とカメラ152は一体に保持され、xy平面駆動装置154により縦横に走査移動する。この走査範囲は、測定対象が発光体114と面接触する範囲とされている。判定装置156は、論理演算回路として構成されたCPUやROM、RAM、メモリと入出力インターフェイス(I/O)を用いて構成され、CPUがROMに書き込まれたプログラム(図示せず)を実行することで、カメラ152からの信号に基づいて測定対象の面接触状況を判定する。
【0032】
ここで、判定装置156による面接触状況の判定について説明する。図3は測定対象の面接触状況と本実施例での面接触測定項目としての光量との関係を概略的に示すグラフ、図4は面接触の良否判定を下す上で採用した一手法を示す説明図である。
【0033】
発光体114の発光、詳しくは有機エレクトロルミネッセンス発光層1114bの発光は、既述したように測定対象の側の電子輸送層114cから輸送された電子と、陽極の透明電極112の側の正孔輸送層114aから輸送された正孔との結合(再結合)による電界発光現象に基づくものであることから、発光量は電子および正孔の輸送状況の影響を受けて定まる。陽極の透明電極112と正孔輸送層114aとの接触・接合状況はその製造時において定まり一律と考えられることから、正孔の輸送状況は一定と仮定できる。その一方、電子の輸送状況は、測定対象たるガス拡散層22等と発光体114との接触状況、詳しくは発光体114の電子輸送層114cとの接触状況に起因する接触抵抗の大小に大きく依存し、測定対象たるガス拡散層22等と電子輸送層114cとの接触状況が良好であれば、接触抵抗減により電子の輸送は活発となり、発光光量は増大する。その一方、上記の接触状況が好ましくないと、接触抵抗増により電子の輸送は低調となり、発光光量は減少する。そうすると、接触抵抗増減をもたらす接触状況と発光光量とは、図3に示すように、接触状況が好ましいほど発光光量が増大する関係となる。よって、得られた発光光量に応じて接触不良・接触良好とを区別することができる。この接触良否を定める発光光量については、光量と接触状況(具体的には面圧)との関係、および燃料電池とした際の電池特性との関係を実験的に定め、その実験結果に基づいて規定すればよい。
【0034】
判定装置156は、カメラ152からの信号と図3のグラフから、ある測定箇所、即ち電子輸送層114cと測定対象との接触範囲をxy平面とした場合のレンズ150の合焦箇所の座標について、接触不良・接触良好を区別する。そして、判定装置156は、xy平面駆動装置154による縦横走査に伴った測定箇所変更による接触不良の発現割合、即ち接触不良に該当する発光光量であった光量不足箇所が上記接触範囲において占める割合(光量不足領域占有率)を求め、その占有率が、図4に示すように、例えば20%以下であれば接触良好と判定し、20%を上回れば接触不良と判定する。なお、良否判定に用いる上記の占有率は、燃料電池に求められる電池性能、電極サイズ等を考慮して、実験的に定めるようにでき、上記した20%の数値以外の占有率を採用することができるのは勿論である。
【0035】
接触良好と判定されたガス拡散層22等は、燃料電池の製造ラインに運び込まれ、別途用意された膜−電極接合体21とセパレータ24、25と共に積層され、図1に示すような燃料電池(セル)を構成する。この際には、適宜な手法、例えばホットプレス等により所定の面圧が掛かるようにされる。接触不良と判定されたガス拡散層22等は、新たなガス拡散層22等を製造する上での材料としてリサイクルされる。この場合、ガス拡散層22等の上記した面接触状況の計測は、総てのガス拡散層22等についての全数検査とすることができるほか、製造ロットごとのいわゆるロット検査とすることもできる。製造ロットを代表する一つのガス拡散層22において接触不良となれば、そのロットに含まれる総てのガス拡散層22を不良とするようにすることもでき、この場合には当該ロットについて全数検査、或いはいわゆる間引き検査するようにすることもできる。
【0036】
以上説明したように、面接触状況計測器100を用いた面接触接合状況の計測を行う本実施例によれば、測定対象たるガス拡散層22等をアクリルプレート110と導電プレート120で挟持することにより、このガス拡散層22等を発光体114(詳しくは電子輸送層114c)と面接触させ、その面接触の状況を発光体114(詳しくは有機エレクトロルミネッセンス発光層1114b)の電界発光現象にて良否判定する。そして、この電界発光は、電子輸送層114cに面接触したガス拡散層22等の面接触の状況に依存していることから、電界発光現象の計測、具体的には発光光量の計測により、容易にガス拡散層22等の面接触状況を捉えることができる。また、本実施例では、ガス拡散層22等の面接触範囲の全域において、発光光量に基づく接触状況把握が可能であり、発光光量測定箇所もxy平面駆動装置154による縦予行走査による細分化が可能であることから、高い精度で面接触状況を把握(計測)できる。しかも、発光光量は、カメラ152の感度を高めることでより高精度に測定できることから、高い精度で緻密に面接触状況を把握(計測)できる。
【0037】
また、カメラ152による光量計測に際しては、レンズ150を通して得られる光量を計測するようにした上で、レンズ焦点位置をガス拡散層22等の面接触範囲において縦横に走査移動させた。よって、レンズによる光量計測箇所拡大を通して計測箇所(光量計測・接触状況計測)をより細緻に細分化できるので、面接触の状況計測の信頼性をより一層高めることができる。
【0038】
また、本実施例では、押圧プレート132による押圧と直流電圧源140による電圧印加の状況を、測定対象たるガス拡散層22等が組み込まれた燃料電池における使用状況下での面圧・通電特性が再現されるように定めた。よって、測定対象たるガス拡散層22等の面接触状況計測の信頼性をより高めることができる。
【0039】
以上本発明の実施例について説明したが、本発明は上記の実施例や実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。例えば、上記の実施例では、レンズ150とその集光光量を計測するカメラ152とを用いたが、測定対象たるガス拡散層22等の接触面積に亘って一度に光量計測をして光量分布を求めるような撮像カメラを用いることもできる。また、接触不良に該当する光量不足箇所が占める割合(光量不足領域占有率)を、測定対象たるガス拡散層22等の接触良否判定に用いたが、カメラ152にて個々の計測箇所での光量値を計測箇所ごとの面接触状況の評価指標とし、この評価指標の計測範囲(ガス拡散層22等の面接触範囲)での分布を求めて、その分布結果に基づいて、ガス拡散層22としての面接触状況の良否判定を行うようにすることもできる。例えば、評価指標たる光量値が小さな箇所(計測箇所)が計測範囲において疎らに分布している場合には、その周囲は光量値が高い、即ち面接触が良好であることから、ガス拡散層22等を良品(接触良好)とし、評価指標たる光量値が小さな箇所(計測箇所)がある程度広い範囲で集合しているような場合には、当該集合箇所では電池反応(電気化学反応)の進行が進まないことから電池性能低下が予想されるとして、ガス拡散層22等を不良品(接触不良)とするようなこともできる。
【0040】
更に、個々の計測箇所で得た評価指標(光量値)を統計的処理に処して、その結果から接触状況良否を判定するようにすることもできる。例えば、光量値のバラツキ程度を示す分散を求め、この分散が小さければ面接触状況にもバラツキは小さいとして、接触良好とすることもできる。
【0041】
また、発光体114としては、正孔輸送層114aと有機エレクトロルミネッセンス発光層1114bと電子輸送層114cを積層した有機エレクトロルミネッセンスデバイスを用いたが、電子輸送層114cを省略したり、陽極(透明電極112)からの正孔注入を促進する正孔注入層を正孔輸送層114aに設けたりすることもできる。電界発光現象を起こすデバイスであれば、有機エレクトロルミネッセンスデバイスに限られるものでもない。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例での評価対象を含む燃料電池の概略構成を説明する説明図である。
【図2】本実施例の面接触状況計測器100の概略構成を示す説明図である。
【図3】測定対象の面接触状況と本実施例での面接触測定項目としての光量との関係を概略的に示すグラフである。
【図4】面接触の良否判定を下す上で採用した一手法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0043】
21…膜−電極接合体
22…ガス拡散層
23…ガス拡散層
24…セパレータ
25…セパレータ
30…電解質層
31…電極
33…ガス拡散部材
34…電極側ガス拡散部材
35…ガス拡散部材
36…電極側ガス拡散部材
110…アクリルプレート
112…透明電極
114…発光体
114a…正孔輸送層
114b…有機エレクトロルミネッセンス発光層
114c…電子輸送層
120…導電プレート
130…固定ジグ
132…押圧プレート
140…直流電圧源
142…回路開閉スイッチ
150…レンズ
152…カメラ
154…xy平面駆動装置
156…判定装置
100…面接触状況計測器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用状況下で他の部材と面接触する導電性の測定対象の面接触状況を計測する方法であって、
薄葉状の透明電極と電界発光現象を起こす薄葉状の発光体とを該発光体が表面に位置するようにして積層して備える透明プレートに、導電プレートを対向させ、該対向した前記導電プレートと前記透明プレートとの間に前記測定対象を挟持し、該挟持した測定対象を一方の側で前記導電プレートに面接触させ、他方の側で前記発光体に面接触させ、
前記測定対象を挟持した前記導電プレートと前記透明プレートの間を押圧し、
前記導電プレートと前記透明プレートの前記透明電極に直流電圧を印可し、
前記測定対象と前記発光体との面接触範囲における前記発光体の発光状況を前記透明プレートの側から計測する
面接触状況計測方法。
【請求項2】
使用状況下で他の部材と面接触する導電性の測定対象の面接触状況を計測する装置であって、
薄葉状の透明電極と電界発光現象を起こす薄葉状の発光体とを該発光体が表面に位置するようにして積層して備える透明プレートと、
該透明プレートの前記発光体と対向する導電プレートと、
前記測定対象が一方の側で前記導電プレートに面接触し他方の側で前記発光体に面接触するように、前記測定対象を挟持した前記導電プレートと前記透明プレートの間を押圧する押圧手段と、
前記導電プレートと前記透明プレートの前記透明電極に直流電圧を印可する電圧印加手段と、
前記測定対象と前記発光体との面接触範囲における前記発光体の発光状況を前記透明プレートの側から計測する発光計測手段とを備える
面接触状況計測装置。
【請求項3】
請求項1に記載の面接触状況計測装置であって、
前記発光計測手段は、
前記面接触範囲における発光光量を計測する
面接触状況計測装置。
【請求項4】
請求項3に記載の面接触状況計測装置であって、
前記発光計測手段は、
前記発光体に焦点を合わせたレンズと、
該レンズを通して得られる光量を計測する計測器と、
前記レンズの焦点位置が前記発光体が前記測定対象と面接触する範囲に亘って縦横に走査するよう、前記計測器と前記レンズとを移動させる計測箇所走査部とを備える
面接触状況計測装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4いずれかに記載の面接触状況計測装置であって、
前記押圧手段は、前記測定対象の使用状況下における面圧が前記測定対象に掛かるようプレート間を押圧し、
前記電圧印加手段は、前記測定対象の使用状況下において前記測定対象に流れる電流が前記挟持した前記測定対象に流れるよう、前記導電プレートと前記透明電極に直流電圧を印加する
面接触状況計測装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5いずれかに記載の面接触状況計測装置であって、
前記発光体は、
正孔輸送層と有機エレクトロルミネッセンス発光層とを積層した有機エレクトロルミネッセンスデバイスである
面接触状況計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−157721(P2008−157721A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345876(P2006−345876)
【出願日】平成18年12月22日(2006.12.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】