説明

靴底補修剤

【課題】 靴のソールやヒールを補修するための靴底補修剤で、溶剤揮散の問題がなく、短時間に硬化可能で、しかも硬化に伴う変形収縮もほどんどなく、また一度の補修作業で所望の形状に補修可能な補修剤を提供する。
【解決手段】 末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー及び/又はポリイソシアネート化合物と潜在性硬化剤とを主成分とする一液型熱硬化性組成物からなる靴底補修剤であり、溶剤系の靴底補修剤のように硬化時に揮散する溶剤の臭気、引火など安全衛生面の問題や、溶剤の揮散による補修部分の硬化物の肉やせもなく、一度の補修作業で痛んだ靴底部分を所望の形状に補修でき、かつ加熱により短時間で硬化し、しかも加熱前は粘度の上昇はほとんどなく表面被膜も形成されにくいため、ヘラにも表面乾燥した被膜が付着することがなく、補修表面を平滑に綺麗に仕上げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴のソールやヒール等の摩耗した部分、損傷した部分、又は欠損した部分等を補修するための靴底補修剤に関する。
【背景技術】
【0002】
靴底、主にヒール部分の補修方法としては、ヒールの周りに型枠(型取りプレート)を取り付け、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の二液反応型、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエチレン等の高温溶液、ゴムラテックス、ゴム溶液等の補修剤を注型し、常温で自然乾燥ないし硬化させるか、加熱により硬化させる方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。前記靴底補修剤として、合成ゴムに溶剤を溶解した常温硬化型の材料が市販されており、例えば、a.天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム等のジエン系合成ゴム等ゴムと、b.ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、炭酸アンモニウム、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、タルク、カーボンブラック、ウィスカ、酸化鉄、雲母、シリカ、二酸化チタン、酸化亜鉛、ガラス繊維、カーボン繊維等の補強剤と、ベンゼン、キシレン、トルエン、n−ヘキサン等の炭化水素溶剤を35〜65wt%、好ましくは40〜60wt%含有する靴底補修剤が提案されている(特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開昭52−76149号公報
【特許文献2】特開2002−60552号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
前記のような従来公知の靴底補修剤は、常温乾燥ないし硬化型であり、靴底の補修部分に塗布又は型枠で形成した注型型に注入し、常温で放置して乾燥硬化させることで痛んだ靴底部分を補修することができる。しかし、前記のような溶剤系の常温硬化型補修剤では、硬化時に揮発する溶剤臭が嫌われるだけでなく、溶剤の揮散は安全衛生面でも問題がある。また、乾燥硬化にまでに時間がかかるうえに、乾燥硬化に伴って補修剤中の溶剤が揮散することで補修部分(成形体、肉盛り部分)が収縮変形(肉やせ)しやすく、一度の補修作業では思い通りの形状に補修(復元)できず、補修作業を繰り返す必要がある、といった課題が残っている。
【0004】
本発明は上記のような従来の靴底補修剤における課題を解決し、硬化時の溶剤揮散による安全衛生の問題がなく、また短時間に硬化可能であり、しかも硬化に伴う変形収縮もほどんどなく、一度の作業で所望の形状に補修(復元)可能な靴底補修剤を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る靴底補修剤は、上記の目的を達成するために、末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー及び/又はポリイソシアネート化合物と潜在性硬化剤とを主成分とする一液型熱硬化性組成物からなることを特徴とする。この靴底補修剤を用いた靴底の補修方法は、先ず、本発明の靴底補修剤を、靴底の磨り減ったり欠けたりして痛んだ部分(補修部分)に塗布又は注入して所望の形状に注型(肉盛り)する。次いで前記補修剤で成形した部分(肉盛り部分)を、好ましくは加熱液槽に浸漬して加熱する。この加熱により、潜在性硬化剤が活性化し、末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー及び/又はポリイソシアネート化合物が付加重合して硬化する。
【0006】
前記潜在性硬化剤としてはアミン化合物を不活化したものを用いることが好ましい。アミン化合物を不活化した潜在性硬化剤としては、固形アミン化合物の表面に粉体を固着させて不活性化したもの(本発明では、「粉体コーティングアミン」という。)、アミン化合物にハロゲン化硼素を付加した錯体(本発明では、「潜在性硬化触媒錯体」という。)、又はアミン化合物を重合性二重結合を有するフェノール類のホモポリマー若しくはコポリマーでブロックしたもの(本発明では、「ブロックアミン」という。)を用いることができる。
【0007】
固形アミン化合物の表面に粉体を固着させて不活性化した潜在性硬化剤(粉体コーティングアミン)は、イソシアネート成分である末端活性イソシアネート基含有ウレタンブレポリマーやイソシアネート化合物に安定状態で容易に分散して優れた貯蔵安定性を得ることができ、加熱硬化に際しては、表面被覆された固形アミン化合物が加熱溶融によって、活性アミノ基を生成し、組成物が硬化を起こす。
【0008】
また、アミン化合物にハロゲン化硼素を付加した錯体からなる潜在性硬化剤は、低温時には優れた安定性を示すとともに、加熱によって活性化して組成物を硬化させる。
【0009】
更に、アミン化合物を重合性二重結合を有するフェノール類のホモポリマー若しくはコポリマーでブロックした潜在性硬化剤(ブロックアミン)は、室温でも空気中の水分によって組成物を湿気硬化させるが、その硬化速度は非常にゆっくりで安定しており、加熱により容易に解離して組成物を短時間で硬化させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の靴底補修剤は、溶剤を殆ど含んではおらず、従来の溶剤系の靴底補修剤のように硬化時に揮散する溶剤の臭気、引火など安全衛生面の問題や、溶剤の揮散による硬化物(成形品)の収縮変形(肉やせ)の問題もなく、一度の補修作業で痛んだ靴底部分を所望の形状に補修(元の形状に復元)することでき、しかも加熱により短時間で硬化することから、従来の常温硬化の補修剤のように数時間〜数日間の長期にわたって乾燥硬化させる必要もない。更に、従来の常温硬化型の補修剤の場合には、靴底への塗布、注入、注型時、経時的に粘度が上昇するとともに、その表面は溶剤が揮散して短時間のうちに乾燥して被膜が形成されやすく、ヘラなどで補修部分の表面形状を整える際にヘラに補修剤の被膜が付着して表面があばた状になり、綺麗な表面状態に仕上げることが難しいという問題があった。これらに対し、本発明の靴底補修剤の場合には、熱をかける前は粘度の上昇はほとんどなく、表面被膜も形成されにくいため、ヘラにも表面乾燥した被膜が付着することがなく、表面を平滑に綺麗に仕上げることができる。
【0011】
潜在性硬化剤としてアミン化合物を用いると、硬化物が適度に硬くなり、また接着性、摩耗性に優れ、補修部分は耐久性に優れる。
【0012】
本発明の補修剤を用いた靴底の補修方法は、靴底の補修部分に型枠により形成した注型型に前記靴底補修剤を塗布、注入、注型し、次いで加熱液槽に浸漬して前記靴底補修剤を硬化させた後、型枠を取り外すというものであり、特に磨り減った靴のヒール部分の補修に好適に使用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明に係る靴底補修剤は、末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー及び/又はポリイソシアネート化合物と、潜在性硬化剤とを主成分とし、必要に応じて、耐磨耗性向上補強剤、充填剤、触媒、染顔料、吸水剤、老化防止剤、酸化防止剤、可塑剤等適宜適量配合する一液型熱硬化性組成物からなる。
【0014】
前記末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーとポリイソシアネート化合物について説明する(以下、これらをまとめて「イソシアネート成分」という。)。本発明で用いるイソシアネート成分については、特に制限はなく、例えば特許第3131224号公報に開示されている加熱硬化性組成物のものを使用することができる。
【0015】
先ず、本発明で使用する末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー(以下、「末端NCO含有プレポリマー」という。)は、通常のポリオール成分に過剰量のポリイソシアネート化合物を例えばOH/NCOの当量比が1/1.2〜3.5となるように反応させることにより製造することができる。反応は、必要に応じて、例えばジブチル錫ジラウレート等の有機錫系触媒、オクチル酸ビスマス等のビスマス系触媒、1,4−ジアザ[2.2.2]ビシクロオクタン等の三級アミン系触媒等の反応触媒の存在下、通常常温乃至60〜90℃で1〜7時間の条件で行う。得られる末端NCO含有プレポリマーは通常、末端NCO含有量0.5〜5重量%、粘度5000〜500000cps/20℃程度に設定される。
【0016】
前記ポリオール成分としては、例えば水、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ショ糖等の多価アルコールにプロピレンオキサイド又はプロピレンオキサイドとエチレンオキサイド等のアルキレンオキサイドとを付加重合したポリエーテルポリオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール及びこれらのオリゴグリコール類;ブチレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール類;ポリカプロラクトンポリオール類;ポリエチレンアジペート等のポリエステルポリオール類;ポリブタジエンポリオール類;ヒマシ油等のヒドロキシル基を有する高級脂肪酸エステル類;ポリエーテルボリオール類又はポリエステルポリオール類にビニルモノマーをグラフト化したポリマーポリオール類等が挙げられる。
【0017】
また、前記ポリイソシアネート化合物としては、芳香族、脂肪族又は脂環族に属する任意のものが使用される。例えばトリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ナフチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、粗製TDI、クルードMDI、ポリメチレン・ボリフェニルイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、これらのイソシアヌレート化物、カルボジイミド化物、ビューレット化物等が挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物を使用してもよい。
【0018】
本発明においては、イソシアネート成分として、前記末端NCO含有プレポリマーや、前記ポリイソシアネート化合物をそれぞれ単独で使用してもよいし、またこれらを併用混合して使用する。特に、末端NCO含有プレポリマーとポリイソシアネート化合物との混合は、1/2から10/1の割合で併用するのが望ましい。1/2よりポリイソシアネート化合物が増えると、硬化物が硬く脆弱になる傾向にあり、10/1より末端NCO含有プレポリマーが増えると、硬化物が硬度が低下する傾向になり、靴底の特性に好ましくない。なお、末端NCOプレポリマーの分子設計、物性設計によりポリイソシアネート化合物の併用割合は任意に設計混合される。
【0019】
次に、本発明で使用する潜在性硬化剤について説明する。この潜在性硬化剤は、常温では不活性であり、加熱することにより活性化し、本発明の一液型熱硬化性組成物が硬化する。本発明では、潜在性硬化剤として、固形アミン化合物の表面に粉体を固着させて不活性化した粉体コーティングアミン、アミン化合物にハロゲン化硼素を付加した錯体、又はポリアミン化合物を重合性二重結合を有するフェノール類のホモポリマー若しくはコポリマーでブロックしたブロックポリアミンといった、アミン化合物を不活性化したものが好適に用いられる。
【0020】
固形アミン化合物の表面に粉体を固着させて不活性化した潜在性硬化剤(粉末コーティングアミン)としては、例えば特許第3131224号公報に開示されている加熱硬化性組成物のものを使用できる。この粉末コーティングアミンに用いられる固体アミン化合物としては、融点50℃以上、150℃以下、好ましくは120℃以下の芳香族又は脂肪族に属する任意のものが使用される。例えば4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2’−ジアミノビフェニル、2,4’−ジアミノビフェニル、3,3’−ジアミノビフェニル、2,4−ジアミノフェノール、2,5−ジアミノフェノール、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,3−トリレンジアミン、2,4−トリレンジアミン、2,5−トリレンジアミン、2,6−トリレンジアミン、3,4−トリレンジアミン等の芳香族、1,12−ドデカンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,14−テトラデカンジアミン、1,16−ヘキサデカンジアミン等の脂肪族が挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物を使用することができる。これらの固形アミン化合物は、中心粒径20μm以下、好ましくは3〜15μmに調整する。20μmを越える中心粒径では、不完全反応硬化となり、所望の物性が得られない場合がある。
【0021】
上記固形アミン化合物にコーティングする粉体としては、無機系又は有機系の中から任意に使用することができる。無機系としては、酸化チタン、炭酸カルシウム、クレー、シリカ、ジルコニア、カーボン、アルミナ、タルク等、また、有機系としては、ポリ塩化ビニル、ポリアクリル樹脂、ポリスチレン、ポリエチレン等が挙げられ、これらの1種又は2種以上の混合物を使用することができる。使用量は、固形アミン化合物と粉体の重量比が1/0.001〜0.5、好ましくは1/0.002〜0.4となるようにする。粉体の比率が0.001未満であると、常温(貯蔵)安定性の効果が認められず、また0.5を越えても、安定性がそれ以上には改善されない。
【0022】
上記粉体コーティングアミンは、前記固形アミン化合物を所定の中心粒径範囲に粉砕しつつ、同時にこれに粉体を加えて該粉体が所定の中心粒径範囲となるように混合粉砕して、固形アミン化合物の表面に粉体を固着させるせん断摩擦式混合方式により製造される。また、予め微粉砕した固形アミン化合物を粉体と共に高速衝撃式混合攪拌機又は圧縮せん断式混合攪拌機を用いて粉体コーティングアミンとすることもでき、この方式、特に高速衝撃式混合攪拌機を用いる方法より好ましい。このように固形アミン化合物と粉体を混合粉砕することにより、静電気が発生して固形アミン化合物の表面に粉体が固着するか、又は混合撹拌機の機械力により発生する摩擦、衝撃、圧縮せん断等による発熱によって固形アミン化合物の局所的な溶融固着現象で粉体が固着するか、あるいは固形アミン化合物の表面に物理的に投錨ないし埋設固着するか、更には化学的に活性化して固着することで、固形アミン化合物の表面の活性アミノ基(NH2)が、微粉体で被覆され、不活性化された状態となると推測される。なお、固着した粉体の中心粒径は、2μm以下、好ましくは1μm以下で、2μmを越えると、固形アミン化合物の表面に固着し難くなる。
【0023】
この粉体コーティングアミンは、加熱により活性化してイソシアネート成分の硬化剤として作用するが、更に液状イソシアネート化合物と反応させて、残存する活性アミノ基を不活性化してもよい。前記液状イソシアネート化合物としては、例えばクルードMDI、p−トルエンスルホニルイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、TDI、n−オクタデシルイソシアネート等が挙げられる。液状イソシアネート化合物の割合は通常、固形アミン化合物のNH2とNCOの当量比が1/0.01〜0.5となるように選定すればよい。このような液状イソシアネート化合物による不活性化処理によって、前記粉体による被覆処理のみの場合に比べて、常温(貯蔵)安定性がより向上する。なお、上記当量比において、NCOが0.01未満であると、貯蔵安定性の所望の向上効果が得られず、また0.5を越えても貯蔵安定性の更なる改善は得られない。
【0024】
前記のように粉体による被覆処理、更には液状イソシアネート化合物による不活性化処理によって得られる粉体コーティングアミンは、硬化温度(通常、60〜100℃)で活性化され、加熱活性後に存在するNH2がイソシアネート成分のNCOとの硬化反応に関与する。従って、イソシアネート成分と、潜在性硬化剤としての粉体コーティングアミンとの配合比は、加熱活性後のNH2とNCOの当量比が1/0.5〜2.0となるように選定する。
【0025】
次に、アミン化合物にハロゲン化硼素を付加した錯体からなる潜在性硬化剤について説明する。この潜在性硬化剤としては、例えば、特許第3051415号公報に開示された潜在性硬化触媒錯体を使用することができる。前記アミノ化合物としては、アミン、アルキルヒドラジン及びイミダゾールが挙げられ、アミンとしてはオクチルジメチルアミン、ベンジルジメチルアミン、N,N−ジメチルアミン、ピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、N,N,N’,N’−テトラメチル−1,4−ブタン−ジアミン、トリイソオクチルアミン及びピペリジンが挙げられる。また、前記ハロゲン化硼素としては、トリハロゲン化硼素、更には三臭化硼素が挙げられる。潜在性硬化剤としての前記錯体は、無水溶媒、例えばヘキサン中で、前記アミン化合物と三臭化硼素とを溶解させ、強く攪拌して反応させることで製造される。本発明の靴底補修剤の一液型熱硬化性組成物において潜在性硬化剤として、前記アミン化合物をハロゲン化硼素を付加した錯体の配合量は、末端NCO含有プレポリマーおよび、またはポリイソシアネート化合物に対してNH2/NCO=0.7〜2.0で用いる。
【0026】
更に、アミン化合物を重合性二重結合を有するフェノール類のホモポリマー若しくはコポリマーでブロックした潜在性硬化剤(以下、「ブロックアミン」ともいう。)としては、例えば特許第2765587号公報に開示された一液型熱硬化性ポリウレタン組成物のものを使用することができる。この潜在性硬化剤として用いるブロックアミンは、アミン化合物を重合性二重結合を有するフェノール類のホモポリマー又はコポリマー(以下、「フェノール系ポリマー」という。)と溶融混合し、次いで冷却した後、必要に応じて粉砕機又はペイントロールで微粉砕することにより製造される。ポリアミン化合物とフェノール系ポリマーの割合(重量比)は通常、1/0.8〜4、好ましくは1/1〜3の範囲内で選定する。
【0027】
前記ポリアミン化合物としては、例えば、1,3−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノブタン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、ヘキサメチレンジアミン、N,N’−ジエチレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルブタンジアミン、1,7−ビス(ジメチルアミノ)ヘプタン、イソホロンジアミン、ビス(4−ジメチルアミノフェニル)メタン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジエチレントリアミン等が挙げられる。
【0028】
また、前記重合性二重結合を有するフェノール類としては、例えばビニル置換フェノール(o−ビニルフェノール、m−ビニルフェノール、p−ビニルフェノールなど)又はそれらのハロゲン置換誘導体;アリル置換フェノール(2−アリルフェノール、4−アリルフェノールなど);1−プロペニル置換フェノール[o−(1−プロペニル)フェノール、m−(1−プロペニル)フェノール、p−(1−プロペニル)フェノールなど]又はそれらのハロゲン置換誘導体;サリチル酸やp−ヒドロキシ安息香酸等のフェノール性水酸基含有カルボン酸の酸ハライドとヒドロキシアルキルアクリレート若しくは2−ヒドロキシエチルメタアクリレートを反応させたアクリル性不飽和基含有フェノール類が挙げられる。これらのフェノール類のホモポリマー又は他のエチレン性不飽和モノマーとのコポリマーをフェノール系ポリマーとして使用する。これらのフェノール系ポリマーはその融点が120〜180℃、好ましくは130〜160℃である。120℃未満であると、常温(貯蔵)安定性が悪くなり、また180℃を越えると、硬化速度が遅くなるだけでなく、硬化のために高温加熱が必要となる。
【0029】
潜在性硬化剤としての前記ブロックアミンの配合量は、イソシアネート成分(末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー、ポリイソシアネート化合物)に対してHN2/NCO=0.7〜1.5、好ましくは0.8〜1.3である。0.7未満又は1.5を越えると硬化性が不十分となる。
【0030】
なお、本発明に使用する一液型熱硬化性組成物は、前記イソシアネート成分及び潜在性硬化剤を主成分とするが、必要に応じて、硬化物の物性、特に耐磨耗性、耐久性を高めるため、二官能以上のエポキシ樹脂を適量添加してもよい。前記エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型,F型,AD型、フェノール型、クレゾール型、環状脂肪族系、グリシジルエステル系、グリシジルアミン系等が挙げられ、特に液状のものが好ましい。これらのエポキシ樹脂の添加によって、加熱硬化に際し、イソシアネート成分と潜在性硬化剤の反応に加えて、該エポキシ樹脂と潜在性硬化剤の反応が起こり、この三次元化反応に基づき網状構造が形成されることで、強靭な耐久物性を具備した靴底補修剤による成形体を形成することができる。この場合、エポキシ樹脂は、イソシアネート成分100重量部に対して1〜15重量部の範囲で用いる。1重量部未満であれば、エポキシ樹脂添加による効果が期待できず、また15重量部を越えると、硬化物のゴム物性が損なわれる場合がある。
【0031】
本発明に係る靴底補修剤に用いる一液型熱硬化性組成物は、前記末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー及び/又はポリイソシアネート化合物といったイソシアネート成分に潜在性硬化剤としての前記粉体コーティングアミン、潜在性硬化触媒錯体又はブロックアミンから選ばれる1種または2種以上を所定量配合することを主成分とし、更に必要に応じて、耐磨耗性向上補強剤、充填剤、触媒、染顔料、吸水剤、老化防止剤、酸化防止剤、可塑剤等適宜適量配合して調製される。この一液型熱硬化性組成物は、常温では安定で貯蔵安定性に優れるとともに、70℃以上、100℃未満の加熱温度により短時間で硬化物を形成して、靴底の補修を完了させることができる。
【0032】
更に、本発明に係る靴底補修剤においては、前記一液型熱硬化性組成物に耐摩耗性向上補強剤として珪酸アルミニウム、珪酸カルシウムなど珪酸塩、アルミナ、シリカ、カーボンブラック、カーボランダム(炭化珪素)、ウイスカー、カーボン繊維、ガラス繊維、酸化鉄など金属紛などを挙げることができる。、耐磨耗性向上補強剤は20重量%以下で用いる。20重量%を超えると靴底補修剤の塗付、注入、注型の作業性が低下し、仕上がり面を平滑にしにくい傾向になる。
【0033】
本発明の靴底補修剤の一液型熱硬化性組成物の充填剤としては、炭酸カルシウム、クレー、タルク、アクリルポリマー粉体などのプラスチック粉末、ゴム紛、珪砂、硝子枌などが挙げられる。通常5〜50重量%の範囲で用いる。5重量%未満では経済的でなく、50%重量%を超えると耐磨耗性が低下する傾向になる。
【0034】
また、その他の可塑剤としては、例えば、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジベンジルフタレート、ブチルベンジルフタレート、トリオクチルホスフェート、エポキシ系可塑剤、トルエン−スルホンアミド、クロロパラフィン、アジピン酸エステル、ヒマシ油等の可塑剤などを用いることができる。その他の添加剤として前掲の触媒の他、酸化防止剤、吸水剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、酸化防止剤等を適宜配合してもよい。また、靴底の色彩に合わせて、黒色からグレー、ゴム色、白色など所望の着色をするための染料、顔料を適宜適量用いて調色する。
【0035】
本発明に係る靴底補修剤に用いる一液型熱硬化性組成物は、前記末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー及び/又はポリイソシアネート化合物といったイソシアネート成分に潜在性硬化剤としての前記粉体コーティングアミン、潜在性硬化触媒錯体又はブロックアミンを所定量配合し、更に必要に応じて通常の充填剤(タルク、炭酸カルシウムなど)、可塑剤、顔料などを適量配合することにより製造される。この一液型熱硬化性組成物は、常温では安定で貯蔵安定性に優れるとともに、加熱により短時間で硬化物を形成して、靴底の補修を完了することができる。
【0036】
上記のような本発明に係る靴底補修剤を用いて靴底を補修するには、靴のソールやヒール等の摩耗した部分や欠損した部分等、補修が必要な部分に補修剤を塗布、注入、注型して肉盛りした上で、ヘラなどを用いて表面形状を整え、元の靴底の形状に成形する。例えば、磨り減ったヒールの補修の場合は、ヒールの外周に沿ってポリプロピレン等の離型性良好なプラスチックシート等からなる型枠(型取りプレート)を添着して形成した注型型に前記靴底補修剤を元のヒール形状になるように注入、注型し、ヘラなどを用いて表面形状を整える。このとき、本発明の靴底補修剤は、従来の補修剤のような溶剤の揮散がなく、また常温では殆ど硬化が進まないため表面形状を整える際に表面に被膜が形成されてヘラに付着するといったことがなく、補修部分を均質、平滑、綺麗に仕上げることができる。次いで前記肉盛りした補修剤を加熱硬化させて靴底補修剤の成形体を形成する。前記補修剤を硬化させる際の加熱方法には特に限定はなく、ヘアドライヤーを用いた熱風、オーブン、赤外線ランプ、電球、電子レンジ等を用いた方法を採用することもできるが、靴底補修剤を肉盛りした靴底部分、例えばヒール部分を加熱液槽に浸漬して硬化させる方法が簡便である。この場合に使用する加熱液としては熱湯ないし温水を用いることが、簡便かつ低コストであることから好ましい。この場合の加熱液槽の温度は特に限定されず、潜在性硬化剤の種類によっても異なるが、当然のことながら、高温なほど硬化時間は短くてすみ、また容量の大きな容器を用いれば熱容量が大きくなり高温が保たれる。例えば、靴底補修剤として前記粉体コーティングアミンを用いた一液型熱硬化性組成物の場合には、約70℃以上の熱湯ないし温水中に約5分程度浸漬することで十分に硬化する。硬化後、前記型枠を取り除けば補修作業は完了する。しかも、本発明の靴底補修剤は、溶剤を殆ど含まないことから、従来の補修剤のような収縮変形(肉やせ)がなく、一度の補修で元通りの靴底形状を再生することができる。
【0037】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。
【0038】
製造例1:末端NCO含有プレポリマーの製造
平均分子量7000のポリプロピレンエーテルトリオール73.9重量部、平均分子量3000のポリプロピレンエーテルジオール14.6重量部及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート12.5部を、オクチル酸スズの存在下、温度80℃で約2時間反応させ、末端NCO含有量3.07%、粘度30000cps/20℃の末端NCO含有プレポリマーを得た。
【0039】
製造例2:潜在性硬化剤(粉体コーティングアミン)の製造
中心粒径約8μmの1,12−ドデカンジアミン(融点71℃)76.9重量部と中心粒径約0.02μmの超微粒子酸化チタン23.1重量部を混合し、Hi−Xミキサー(日清エンジニアリング(株)製)にて複合化処理することにより、中心粒径約8μmの粉体コーティングアミン100重量部を得た。
【0040】
製造例3:一液型加熱硬化性組成物の製造
製造例1の末端NCO含有プレポリマー41.5重量部、ポリイソシアネート化合物(クルードMDI)15.4重量部、製造例2の潜在性硬化剤(粉体コーティングアミン)10.5重量部、黒色トナー23.1重量部及び充填剤(重質炭酸カルシウム)9.5重量部をケミスターラーで混合分散して、一液型加熱硬化性組成物を得た。
【0041】
実験1:硬化性
製造例3で調製した一液型加熱硬化性組成物を直径約38mm、厚さ3〜10mmの円盤状に形成し、400mlの熱水浴(初発水温100℃)中に浸漬するか、ヘアドライヤー(400W)を用いて硬化させ、硬化するまでの時間を調べた。結果を表1に示す。
【0042】
【表1】

【0043】
表1の結果から明らかなように、本発明に係る靴底補修剤の一液型熱硬化性組成物は、10mm厚に肉盛りしても4〜6分程度の短時間で硬化し、特に、加熱液槽(熱水浴)に浸漬することで、より短時間で硬化させることができる。
【0044】
実験2:靴底の補修
製造例3で調製した一液型熱硬化性組成物を、靴底補修剤として、紳士靴のヒール部分に、図1(a)、(b)に示す形状、大きさで肉盛りし、ヒール部分を約80℃の熱湯、温水400mlに5分間浸漬して硬化させた。5分後取り出したところ、補修剤は十分に硬化していた。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】(a)、(b)は、いずれも靴底補修剤の成形体の形状及び大きさを示す説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマー及び/又はポリイソシアネート化合物と潜在性硬化剤とを主成分とする一液型熱硬化性組成物からなることを特徴とする靴底補修剤。
【請求項2】
一液型熱硬化性組成物が、末端イソシアネート基含有ウレタンプレポリマーとポリイソシアネート化合物を併用したものである請求項1記載の靴底補修剤。
【請求項3】
潜在性硬化剤が、アミン化合物を不活性化したものである請求項1または2記載の靴底補修剤。
【請求項4】
潜在性硬化剤が、固形アミン化合物の表面に粉体を固着させて不活性化した粉体コーティングアミン、アミン化合物にハロゲン化硼素を付加した錯体、又はアミン化合物を重合性二重結合を有するフェノール類のホモポリマー若しくはコポリマーでブロックしたブロックアミンから選ばれる1種または2種以上である請求項3記載の靴底補修剤。
【請求項5】
一液型熱硬化性組成物が70℃以上、100℃未満で硬化するものである請求項1〜4のいずれか記載の靴底補修剤。
【請求項6】
加熱液中に浸漬して硬化させるものである請求項5記載の靴底補修剤。
【請求項7】
加熱液が熱湯ないし温水である請求項6記載の靴底補修剤。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の靴底補修剤を靴底の補修部分に塗布、注入ないし注型し、次いで加熱液槽に浸漬して前記靴底補修剤を硬化させることを特徴とする靴底補修方法。
【請求項9】
靴底の補修部分に型枠により形成した注型型に前記靴底補修剤を注入し、次いで加熱液槽に浸漬して前記靴底補修剤を硬化させた後、型枠を取り外す請求項8記載の靴底補修方法。
【請求項10】
加熱液が熱湯ないし温水である請求項8または9記載の靴底補修方法。
【請求項11】
請求項8〜10記載の靴底補修方法によって靴底を補修したことを特徴とする靴底補修靴。


【図1】
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【公開番号】特開2006−34882(P2006−34882A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223240(P2004−223240)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(305032254)サンスター技研株式会社 (97)
【Fターム(参考)】