説明

【課題】使用者の足の挿入や脱ぐ操作が行い易く、かつ、挿入した足を十分に固定できる、着脱し易く且つホールド性に優れた歩き易い靴を提供すること。
【解決手段】踵部の、少なくとも前記アッパー本体側踵部には、カウンター部が設けられ、前記固定用ベルト部は、前記舌状当接部に対して一体的に、且つその両側からそれぞれ突出するように配置され、前記固定用ベルト部のそれぞれの端部と、アッパー本体部には、係合手段が形成され、前記固定用ベルト部のそれぞれの端部は、前記カウンター部の外縁部に近接して配置され、前記固定用ベルト部のそれぞれの端部の幅方向における略中央部を相互に結んだ仮想線を、そのまま延長した場合に、この仮想線が、前記踵部における前記アッパー本体側踵部と前記靴底側踵部との境界部に達するように前記固定用ベルト部は設けられ、それぞれの前記固定用ベルト部を結んだ仮想線の領域に、足高点が配置される靴100。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者が足を挿入し易く、歩き易い靴に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、例えば運動靴のように、足を挿入した後の歩き易さ、すなわち、足のホールド性を考慮する靴については、使用者の足を挿入するための履き口等を比較的小さく形成したり、靴紐等で強く締める構造とする傾向にある。すなわち、履き口等を比較的小さく形成等すると、靴が脱げ難く、靴全体で足をホールドし易いからである。
一方、幼児用靴等のように、他人が靴を履かせたり、脱がせたりするタイプの靴では、前記運動靴と異なり、足を挿入した後のホールド性より、他人が着脱し易くするため、履き口等が比較的大きく形成される傾向にある。この場合は、使用者が足を挿入し易いが、運動靴と異なり足のホールド性に欠けるため、足が靴の中で十分に固定されず、歩行し難い靴となる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、近年、従来と異なりホールド性が良好で歩き易く、且つ履き口等が大きく足を挿入し易い靴が強く求められている。しかし、上述のようにホールド性を追求すれば履き難い靴となり、履き口等を大きく足の挿入し易さを追求すれば、ホールド性が劣り、歩き難い靴となり問題となっていた。
また、ホールド性の高さと、履き口等の大きさを共に求めると、中途半端な靴となり、歩き難く、足を挿入し難い靴となり、より問題となっていた。
そこで、履き口の一部を覆う舌片を有する靴が提案されているが、舌片による固定を重視すると、足首の動き等を阻害してしまい、また、固定を弱めると靴内で足が動いてしまう等の問題があった。
【0004】
本発明は、以上の点に鑑み、使用者の足の挿入や脱ぐ操作が行い易く、かつ、挿入した足を十分に固定できる、着脱し易く且つホールド性に優れた歩き易い靴を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的は、請求項1の発明によれば、使用者の足の足裏側を配置するための靴底部と、前記靴底部から立ち上がるように、且つ使用者の足を包むように形成されるアッパー本体部と、使用者の足の踵を配置するための踵部とを、備える靴であって、このアッパー本体部には、使用者の足を挿入するための履き口部と、前記履き口部の一部を切り欠いて爪先側方向に向かって形成されている足挿入用開口部と、前記足挿入用開口部に対応して配置される舌状当接部と、前記舌状当接部と前記足挿入用開口部に対して配置される固定用ベルト部と、を備え、前記踵部は、前記靴底部に形成される靴底側踵部と前記アッパー本体部に形成されるアッパー本体側踵部とを有し、少なくとも前記アッパー本体側踵部には、その剛性を高めるためにカウンター部が設けられ、前記固定用ベルト部は、前記舌状当接部に対して一体的に形成され、且つその両側からそれぞれ突出するように配置され、前記固定用ベルト部のそれぞれの端部と、これらに対応するアッパー本体部には、前記固定用ベルト部をアッパー本体部に着脱可能で、位置の調整可能な状態で固定するための係合手段が形成され、前記固定用ベルト部のそれぞれの端部は、前記カウンター部の外縁部に近接して配置されると共に、前記固定用ベルト部のそれぞれの端部の幅方向における略中央部を相互に結んだ仮想線を、そのまま延長した場合に、この仮想線が、前記踵部における前記アッパー本体側踵部と前記靴底側踵部との境界部又はその近傍に達するように前記固定用ベルト部は設けられ、また、前記舌状当接部の両側に配置される、それぞれの前記固定用ベルト部を結んだ仮想線の領域に、使用者の足の甲における足高点が位置するように、前記固定用ベルト部が配置される構成となっていることを特徴とする靴により達成される。
【0006】
請求項1の構成によれば、前記固定用ベルト部のそれぞれの端部の幅方向における略中央部を相互に結んだ仮想線を、そのまま延長した場合に、この仮想線が、前記踵部における前記アッパー本体側踵部と前記靴底側踵部との境界部又はその近傍に達するように前記固定用ベルト部は設けられている。
したがって、前記固定用ベルト部を通して、前記舌状当接部は使用者の足を靴の踵部の方向を中心に固定するように作用することとなる。このため、従来の靴のように使用者の足を靴底方向へのみ固定する場合に比べ格段にホールド性が向上し、靴先側に余裕を持たせるように踵方向を中心に足を固定できる為、靴の中で、足が動いてしまい、歩行し難くなることに伴う、足の運びや足の形への影響を防ぐことができる。
【0007】
また、本請求項によれば、少なくとも前記アッパー本体側踵部に、その剛性を高めるために配置されるカウンター部が設けられている。
したがって、前記カウンター部が配置されることで、靴の前記アッパー本体側踵部の剛性が高められ、靴の前記踵部に使用者の足の踵が正確にホールドされ易くなる。
すなわち、前記固定用ベルト部が上述のように使用者の足を靴の踵部方向へ固定するように作用すると、この剛性が高められた前記カウンター部を介して使用者の足の踵が前記靴の踵部に押し付けられ、より確実に足の踵が靴の踵部に固定されるので、ホールド性が著しく向上することになる。
また、前記カウンター部の剛性が高い為、前記カウンター部に沿って足を移動させやすいだけでなく、靴を装着する場合に踵部が変形する事を防ぐ等、足への靴の着脱を行いやすい。
【0008】
また、本請求項によれば、前記固定用ベルト部のそれぞれの端部は、前記カウンター部の外縁部に近接して配置されている。
したがって、固定用ベルト部が、強いカウンター部の近くに固定され、確実にホールドしているにもかかわらず、前記カウンター部と前記固定用ベルト部との間が直接固定されず、その間の剛性は高くないので、使用者の歩行時の足の変形に応じて僅かに変形可能となっている。このため、使用者が歩行に際し足を変形し易い構成となっており、歩き易い靴となっている。
これにより、使用者の足が靴の中でしっかり固定されると共に、必要に応じて屈曲も行い易いので、歩きやすい靴となる。
【0009】
さらに、本請求項によれば、前記舌状当接部の両側に配置されるそれぞれの前記固定用ベルト部を結んだ仮想線の領域に、使用者の足の甲における足高点が位置するように、前記固定用ベルト部が配置される構成となっている。
したがって、前記固定用ベルト部が、使用者の足の甲を靴底方向に押し付けてしまい、踵が固定されずに、靴の中の足のホールド性が低下するのを効果的に防ぐことができる。
すなわち、使用者の足の甲の足高点より爪先側の足の甲に前記固定用ベルト部を結んだ仮想線の領域が配置されると、この固定用ベルト部の押し付け力は足の甲側から足の裏側に向けられ、足を靴底側のみに押し付け、足を固定しようとする。これでは、足の甲の部分を押し付けるだけで、靴の中における足の動きが大きな踵部をホールドできないため、足の踵の固定ができず、足がズレ易く、歩き難くなってしまう。
また、使用者の足首側に前記固定用ベルト部を結んだ仮想線の領域が配置されると、使用者の足首を曲げる動きを妨げてしまう。
【0010】
この点、本請求項の構成では、前記固定用ベルト部が前記舌状当接部の両側に配置されるそれぞれの前記固定用ベルト部を結んだ仮想線の領域に、使用者の足の甲における足高点が配置されるので、不必要に足の甲を足裏側に押さえつけることがなく、足首の動きを妨げることなく、靴の踵部方向に向かって、足の踵部を固定することとなり、靴の中で足が動いてしまうことを防ぐことができる。
【0011】
また、本請求項の構成では、前記履き口部の一部を切り欠いて爪先側方向に向かって形成されている足挿入用開口部と、前記足挿入用開口部に対応して配置されている舌状当接部とが備えられている。
したがって、この前記足挿入用開口部を広げ、前記舌状当接部を開状態にすれば、靴の履き口部が十分の大きく開口し、使用者又は介助者が足を入れ易く、脱ぎ易い靴となる。
【0012】
しかも、舌状当接部の両側に突出するように、一体に固定ベルト部が形成されているため、固定用ベルト部の着脱のみで、舌状当接部を動かすことができ、舌状当接部の開閉や、固定用ベルト部による位置の調整に伴う、舌状当接部の当接する強さの調整を容易に行うことができると共に、左右両側に固定ベルト部が突出している事で、足の形状やサイズの違いに対応して、左右のバランスをとって装着する事ができる。
【0013】
また、前記固定用ベルト部のそれぞれの端部と、これに対応するアッパー本体部には、前記固定用ベルト部をアッパー本体部に着脱可能で、位置の調整可能な状態で固定するための係合手段が形成されている。
したがって、足の固定及び開放は、前記固定用ベルト部の端部と前記アッパー本体部との間の係合手段を操作するだけなので、紐等によって固定する場合より極めて容易に着脱ができ、更に、位置が調整できるため、足のサイズや形状の違いに対応して、靴を歪めることなく、固定することができる。
【0014】
以上により、本請求項の構成によれば、使用者が足を入れ易く、又は介助者が履かせ易い靴であると共に、靴を履いた後は、足が靴の踵部に押し付けられて固定されるので、ホールド性が良く歩きやすい靴となる。
【0015】
好ましくは、請求項2の発明によれば、請求項1の構成において、前記舌状当接部の両側に配置される、それぞれの前記固定用ベルト部を結んだ仮想線の領域における下縁部側に、使用者の足の甲における足高点が位置するように、前記固定用ベルト部が配置される構成となっていることを特徴とする靴である。
請求項2の構成によれば、足高点が前記固定用ベルトを結んだ仮想線の領域における下縁部側に位置している為、仮想線の下縁部側が、足高点を中心として踵部側に向かって足を固定するよう機能し、より確実に、足を踵部に向かって固定する事ができる。
【0016】
好ましくは、請求項3の発明によれば、請求項1又は請求項2の構成において、前記舌状当接部を前記足挿入用開口部に対応して配置した際に、その上端部が前記履き口部より高く位置するように形成されると共に、前記舌状当接部の両側に配置される、それぞれの前記固定用ベルト部を結んだ仮想線の上縁部側に、前記上端部の変形を容易にする屈曲変形部が形成されることを特徴とする靴である。
【0017】
請求項2の構成によれば、前記舌状当接部を前記足挿入用開口部に対応して配置した際に、その上端部が前記履き口部より高く位置するように形成される。
したがって、この上端部によって、より広い面積で使用者の足を包むことになるので、舌状当接部による足のホールド性、特に足首のホールド性が高まる靴となる。
一方、この上端部により、足首のホールド性は高まるが、逆に歩行に際し行われる足首の屈曲が、この上端部で妨げられることや、足首に上端部がくい込んでしまう等のおそれがある。
そこで、本請求項では、前記舌状当接部の両側に配置される、それぞれの前記固定用ベルト部を結んだ仮想線の上縁部側に、前記上端部の変形を容易にする屈曲変形部が形成されている。
この屈曲変形部の変形により、足首の形に合わせて、履き口部から離れる方向に屈曲し易くなり、上述の歩行に際し行われる足首の屈曲が妨げられることがない。しかも、積極的に屈曲変形部が変形する為に、他の舌状当接部の変形が抑えられ、舌状当接部全体による固定は影響を受けずに、確実な固定を維持する。したがって、歩行に際し、ホールド性が高く、足首が屈曲し易い靴となる。
【0018】
好ましくは、請求項4の発明によれば、請求項1乃至請求項3のいずれかの構成において、前記舌状当接部は前記足挿入用開口部の爪先側の端部又はその近傍の前記アッパー本体部に設けられた舌状当接部取り付け領域に固定されると共に、前記舌状当接部取り付け領域は、使用者の足の足指屈曲線又はその近傍の上方に相当する位置に形成される構成となっていることを特徴とする靴である。
【0019】
請求項4の構成によれば、前記舌状当接部は前記足挿入用開口部の爪先側の端部又はその近傍の前記アッパー本体部に設けられた舌状当接部取り付け領域に固定されている。
したがって、前記舌状当接部を靴の爪先側に開くことができ、使用者が前記足挿入用開口部を開き、足を挿入して履く際や脱ぐ際に、前記舌状当接部が邪魔となることがない。
また、この舌状当接部は前記アッパー本体部の舌状当接部取り付け領域に縫合等により取り付けられるが、この取り付けにより取り付け部を中心として回動する方向に、舌状当接部取り付け領域は周囲の領域に比べ脆弱部となる。
そして、この脆弱部は、同時に、使用者の足の足指屈曲線又はその近傍の上方に相当する位置となる。この足指屈曲線は、歩行に際し足が屈曲する部分である。
したがって、前記舌状当接部取り付け領域は、使用者の足の足指屈曲線又はその近傍の上方に相当する位置に形成される構成となっているので、前記舌状当接部取り付け領域が屈曲し易く、歩行し易い靴となる。
【0020】
好ましくは、請求項5の発明によれば、請求項1乃至請求項4のいずれかの構成において、前記アッパー本体部に形成された履き口部と前記足挿入用開口部とで形成される開口と、前記靴とを平面図において表した場合に、前記開口の最大長さが、前記靴の最大長さに対して45%以上に形成されていることを特徴とする靴である。
【0021】
請求項5の構成によれば、前記アッパー本体部に形成された履き口部と前記足挿入用開口部とで形成される開口と、前記靴とを平面図において表した場合に、前記開口の最大長さが、前記靴の最大長さに対して45%以上に形成されている。
したがって、従来の靴に比べ著しく前記履き口部と前記足挿入用開口部とで形成される前記開口を大きく形成することができ、履きやすい。
なお、ここで示す45%以上とは、100%でも構わないが、靴の構造を考慮すると45%乃至75%、好ましくは55%乃至75%であることが好ましい。
【0022】
好ましくは、請求項6の発明によれば、請求項1乃至請求項5のいずれかの構成において、前記靴が幼児用靴であることを特徴とする靴である。
【0023】
請求項5の構成によれば、前記靴が幼児用靴であるので、幼児等が足を入れ易く、又は介助者である母親等が履かせ易い靴であると共に、靴を履いた後は、足が靴の踵部に押し付けられて固定されるので、ホールド性が良く、幼児等にとって歩きやすく、足の成長発達を妨げる事の無い幼児用靴となる。
特に歩行初期における幼児は、歩行能力が未発達であり、靴の中で足がズレた場合に応じて、足の運びを変えられないため、転倒したり、足の運び方に影響が出てしまう等の問題が大きい。また、足指の先の動きを阻害しないために爪先側に余裕を持たせた場合には、靴の中で足がズレてしまう可能性が高まるため、足の踵を靴の踵部に固定する必要性が高い。
【0024】
好ましくは、請求項7の発明によれば、請求項1乃至請求項4の構成において、前記舌状当接部の靴幅方向中央領域に、靴の爪先側から足首側にわたって位置決め部が形成されていることを特徴とする靴である。
【0025】
請求項6の構成によれば、前記舌状当接部の靴幅方向中央領域に、靴の爪先側から足首側にわたって位置決め部が形成されている。
このため、この位置決め部により使用者若しくは介助者が舌状当接部を左右均等に配置しやすいと共に、位置決め部によって保形性が高まること等によって、前記舌状当接部の使用者の足の甲の部分に対応する部分に不必要な歪みが生ぜず、舌状当接部が確実に機能して、使用者の歩行を阻害することを未然に防ぐことができる。
【0026】
好ましくは、請求項8の発明によれば、請求項7の構成において、前記舌状当接部には剛性を有する剛性層が形成され、前記位置決め部は前記剛性層を縫合することにより形成され、前記縫合により成る縫合線が前記固定用ベルト部のそれぞれの端部の幅方向における略中央部を相互に結んだ仮想線と略垂直に交差する構成であることを特徴とする靴である。
【0027】
請求項7の構成によれば、前記舌状当接部には剛性を有する剛性層が形成され、前記位置決め部は前記剛性層を縫合することにより形成されている。
このため、舌状当接部が不用意に変形する事が無く、確実に足を固定すると共に、前記剛性層を縫合することで剛性が更に高まり、保形性が高まる構成となっている。
また、前記縫合により成る縫合線が前記固定用ベルト部のそれぞれの端部の幅方向における略中央部を相互に結んだ仮想線と略垂直に交差する構成である。
このため、靴幅方向の略中央部の前記縫合線を基準に両側の前記固定用ベルト部に向かって等しく力が働き易くなるので、精度良く前記舌状当接部を前記アッパー本体部に装着することができ装着時に靴の歪みが発生する事を防止する。
【0028】
好ましくは、請求項8の発明によれば、請求項1乃至請求項7のいずれかの構成において、前記舌状当接部に対して一体的に形成され、且つその両側からそれぞれ突出するように配置されている前記固定用ベルト部のうち、靴の内足側に配置される前記固定用ベルト部が、靴の外足側に配置される前記固定用ベルト部より短く形成されていることを特徴とする靴である。
【0029】
請求項9の構成によれば、前記固定用ベルト部のうち、靴の内足側に配置される前記固定用ベルト部が、靴の外足側に配置される前記固定用ベルト部より短く形成されている。
すなわち、人の足の骨格のうち、甲の最も高い部分は、足高点と呼ばれるが、この足高点から内足側の長さと外足側の長さは同じではなく、内足側の方が短く成っている。
このため、この足の骨格に対応して前記固定用ベルト部の内足側の長さを短く形成している。したがって、前記内足側の固定用ベルト部が長すぎて遊びが生じ、左右の靴の内足側の固定用ベルト部が相互に接触して、使用者の歩行を阻害することがない。
【発明の効果】
【0030】
以上述べたように、本発明によれば、使用者の足を挿入し易く、かつ、挿入した足を十分に固定できる、履き易く且つホールド性に優れた歩き易い靴を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、この発明の好適な実施の形態を添付図面等を参照しながら、詳細に説明する。
尚、以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。
【0032】
(第1の実施の形態)
(本発明の第1の実施の形態に係る歩行練習期の幼児用靴(以下、「幼児用靴100という」の全体構成の概略について。)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る幼児用靴100を示す概略斜視図である。
図1に示すような幼児用靴100は、月齢が経ち、幼児が1人で前に向かって歩くことができるようになり始め、足の裏全体を地面につけて足の指でバランスを取りながら歩き始める、いわゆる歩行練習期以降に用いられる幼児用靴である。
具体的には、月齢が例えば12ヶ月程度の幼児からが対象となる。この月齢の幼児は、手を離して前によちよち歩き始める月齢となる。
図1に示すように、使用者である幼児等の足の足裏側を配置するための靴底部110と、前記靴底部110から立ち上がるように、且つ幼児等の足を包むように形成されるアッパー本体部120と備えている。
【0033】
(靴底部110について)
図2は図1の幼児用靴100の中央縦断図を示す概略図である。
図2に示すように、靴底部110は、その表面側に靴底本体112が配置され、この靴底本体112の内側には中底111が形成されている。
【0034】
(靴底本体112について)
靴底本体112は、弾性部材である熱可塑性のエラストマーや合成ゴム若しくは天然ゴム等で形成されているため、歩く際の衝撃を吸収し、滑り止め効果も発揮するように構成されている。
図3は、図1の靴底本体112を示す概略底面図である。
図2及び図3に示すように、靴底本体112の爪先側には溝部112aが複数形成され、これら溝部112aは靴底本体112の幅方向に形成されている。
このため、靴底本体112が靴底本体112aの位置で靴底本体112の長さ方向に屈曲し易い構成となっている。
また、靴底本体112には、円形等の異なった複数の種類の滑り止め部112bも形成されているので、滑らずに歩行し易い構成ともなっている。
【0035】
(溝部112aと足指屈曲線等Cとの関係について)
ところで、幼児等が歩行や爪先立ちをする際には、踵を上げて足指を屈曲や背屈させる動作をよく行い、このとき、この足指の屈曲する部分が、足指屈曲線といわれている。図4は、足の骨格等を上面から示す概略説明図である。
図4に示すように、足指は親指側である第1趾から小指側である第5趾まで配置され、その各指の中足指関節及びその周辺である、図において矢印Cで示す領域に足指屈曲線又はその近傍である足指屈曲線等Cが形成される。
この足指屈曲線等Cに沿って屈曲する足の屈曲運動は歩行及び足の発育に際し、重要な動作であるため、歩行が上手くできなず、足の発育が未発達な幼児等のための靴では、この足指屈曲線等Cに沿って屈曲し易い靴であることが重要な要素となる。
【0036】
本実施の形態の幼児用靴100の靴底本体112のうち、前記足指屈曲線等Cに対応する部分には、図3に示すように溝部112aが複数、爪先側にふくらんだ曲線形状で形成されている。
したがって、幼児等が歩行に際し、足指屈曲線等Cを屈曲する際、靴底本体112の溝部112aも追従して変形、屈曲し、幼児等の歩行に際し行われる足指の屈曲を妨げない構成となっている。
なお、ここでは、屈曲しやすいよう溝部112aを形成しているが、同様に屈曲し易ければ、靴底本体112を硬い素材で構成し、溝部112aに対応した部分が軟らかい材料で形成されるようにしても良い。
【0037】
(アッパー本体部120について)
図1に示すように、前記靴底部110から立ち上がるように、且つ幼児用の足を包むように形成されるアッパー本体部120が配置されている。
このアッパー本体部120は、アッパー本体121、履き口部122、そして、足挿入用開口部123、踵部140等から形成されている。
【0038】
(アッパー本体121、履き口部122及び足挿入用開口部123について)
アッパー本体121は、全体が通気性に富んだ、柔らかい材質等で覆われ、アッパー本体121の上端部に、図1に示すように幼児等の足を挿入するための履き口122が形成されている。
図5は、図1の幼児用靴100の後述する舌片130を爪先側に開いた状態を示す概略平面図である。
図5に示すように、前記履き口部122の一部を切り欠いて爪先側方向に向かって足挿入用開口部123が略U字状に形成されている。
【0039】
この履き口部122の開口と足挿入用開口部123の開口とが連続した開口を形成するため、幼児等が足を挿入しやすい大きな開口を形成することができる。
本実施の形態では、図5に示すアッパー本体121に形成された履き口部122と足挿入用開口部123とで形成される開口と幼児用靴100とを平面図(図5)において表した場合に、前記開口の最大長さGは、例えば75mm乃至90mm程度に形成され、幼児用靴100の全長Dが例えば135mm乃至160mm程度に形成されている。
したがって、前記開口の最大長さGは前記幼児用靴の全長Dに対して45%以上という大きな開口となり、極めて足を挿入しやすく、保護者等が履かせ易く、幼児等が履き易い靴となる。
なお、この比率45%以上とは100%でも構わないが、靴の構造を考慮すると45%乃至55%、好ましくは55%乃至75%であることが好ましい。
また、図1に示すように、履き口部122の近傍にはカウンターループ160が形成され、幼児等が靴を履く際の手がかりとなるように構成されている。
【0040】
(踵部140について)
図1に示すように、幼児等の足の踵を配置するための踵部140がアッパー本体121から靴底部110にまたがっての形成されている。
この踵部140は、具体的には図2及び図6(a)に示す、靴底部110の一部に形成される靴底側踵部142と、アッパー本体121に形成されるアッパー本体側踵部であるアッパー側踵部141とで構成される。
そして、このアッパー側踵部141には、図2に示すように、その剛性を高めるためにカウンター部150が配置されている。
これは、上述のようにアッパー本体121は柔らかな素材で構成されているため、幼児等の踵を保持するには剛性が不足するからである。
【0041】
一方、靴底側踵部142は、靴底本体112が弾性部材である熱可塑性のエラストマーや合成ゴム若しくは天然ゴム等で形成されており、踵を保持するための十分な剛性を有するため、カウンター部150が配置されていないが、この靴底側踵部142にカウンター部150を配置しても構わない。
カウンター部150は、図2や図6の斜線部分に示すように、例えば側面からみて円弧状に配置され、厚さ1.2mm程度のゴムや不織布等から構成されている。
このようにアッパー側踵部141に、カウンター部150を配置することで剛性が高められ、後述するように固定ベルト133で固定された際に、幼児用靴の踵部140に幼児等の足の踵が正確にホールドされると共に、着脱を行いやすくなる。
【0042】
(舌片130について)
ところで、前記略U字状の足挿入用開口部123に対し、これを塞ぐように舌状当接部である舌片130が図1に示すように配置されている。
この舌片130は、表面がポリウレタン合皮やマイクロスウェード等の一定の剛性を有する素材で形成され、確実に固定でき、内側はポリエステルや、トリコット等の柔軟性の富む素材により構成されている。
なお、舌片130及び固定ベルト133の外周をポリエステル等でパイピングして、伸び等を抑え、更に、開く際の指かかりが良くなるように構成してもよい。
そして、舌片130は、アッパー本体121に対して固定される部分である基部131を有し、この舌片130を前記足挿入用開口部123に対して配置した場合に、履き口部122の上端より高く位置するように形成されている上端部132と、舌片130をアッパー本体121に固定するための固定用ベルト部である固定ベルト133を有している。
【0043】
(基部131について)
図1に示すように舌片130の基部131は、前記略U字状の足挿入用開口部123の爪先側の端部又はその近傍のアッパー本体121に設けられた舌状取り付け領域である縫合部124に縫合等されている。
この縫合部124によって前記舌片130を固定するため、自由端側となる舌片130の上端部132側を図5に示すように、幼児用靴100の爪先側に倒すことができ、使用者等が足挿入開口部123を図5に示すように開状態にし、足を挿入して履く際に、前記舌片130が邪魔になることがない。
したがって、幼児等が足を入れやすく履きやすい幼児用靴100となる。
また、この縫合部131は、図6に示すように図3で示す溝部112aの上方における、特に爪先側に形成されている。
【0044】
図6は図1の幼児用靴100の左側面とカウンター部を示した概略左側面図である。
靴底部110に形成されている溝部112aの配置領域は、上述のように、図3で示す幼児等の足の足指屈曲部Cが配置される部分である。
したがって、幼児等の足の足指屈曲線等Cの上方に縫合部124が形成されることになる。
ところで、この縫合部124は、縫合等によりアッパー本体121の他の部分より脆弱部となるため、縫合部124を中心として回動する方向に屈曲し易い部分となっている。
したがって、歩行に際し、幼児等が足の足指屈曲部Cを屈曲させると、その屈曲動作により、その上方にあるアッパー本体121の縫合部124も屈曲し、歩行に際し、必要な足指の屈曲を妨げない歩行し易い靴となる。
【0045】
特に、足指屈曲線Cに対応して靴底本体112の溝部112aも屈曲するので、幼児等の足指屈曲に対応して靴底部110とアッパー本体112が屈曲することになり、極めて足指屈曲線Cの位置が屈曲し易い歩行し易い幼児用靴となる。
図7は、幼児用靴100を幼児等が履いて足指を屈曲して歩行している状態を示す概略説明図である。
図7に示すように足指の屈曲に対応して靴底部110の溝部112aとアッパー本体112の縫合部124が屈曲する構成となっている。
【0046】
(固定ベルト133について)
図1に示すように、舌片130の両側には固定用ベルト部である固定ベルト133が形成されている。この2つの固定ベルト133は舌片130に対して一体的に形成され、且つその舌片130の両側からそれぞれ突出するように略対称に配置されている。
この固定ベルト133の端部である先端部の内側には、図5に示すように係合手段であるベルト側面ファスナー133aがそれぞれ形成されている。
また、このベルト側面ファスナー133aに対応して、図5に示すようにアッパー側面ファスナー121aが形成されている。
【0047】
このため、これらベルト側面ファスナー133aとアッパー側面ファスナー121aとを幼児等の母親等や幼児自身等が操作すれば容易に着脱可能で位置の調整も可能な係合手段となるように構成されている。
したがって、足の幼児用靴100に対する固定や開放は、前記固定ベルト133の先端部のベルト側面ファスナー133aとアッパー側面ファスナー121aとの間の係合状態を操作するだけなので、従来のように紐等によって固定する場合よりも極めて容易に着脱をすることができる。
また、ベルト側面ファスナー133aとアッパー側面ファスナー121aとの係合位置を調整することができるため、幼児の足のサイズや足首の太さ等の形状の違いに対応して、任意の位置に固定することができる。この時、ベルト側面ファスナー133aがアッパー側面ファスナー121aよりも大きく形成されている為、ベルト側面ファスナー133aを適切な位置に調整する事ができる。
更に、固定ベルト133は舌片130の両側に突出するように形成されているため、締める力を均等とすることができ、アッパー120を歪めることなく、固定することができる。
なお、ここでは、面ファスナー133a、121aを略長方形としているが、固定ベルト133の接合強度を強め、確実に固定できるよう、足挿入開口部123側に延伸させてもよい。
【0048】
(固定ベルト133と踵部140等との関係について)
図6に示すように固定ベルト133のそれぞれの先端部の幅方向における略中央部を相互の結んだ仮想線Hをそのまま延長した場合に、この仮想線Hが、踵部140における図2に示すアッパー側踵部141と靴底側踵部142との境界部又はその近傍に達するように固定ベルト133は配置されている。
また、この仮想線Hを延長して、図6(a)に示す載置面(床)の仮想線Kと交差する部位における角度θは、例えば30度乃至40度となっている。
したがって、幼児等が幼児用靴100を履き、図1に示すように固定ベルト133を締める。すなわち、固定ベルト133の先端部のベルト側面ファスナー133aをアッパー側面ファスナー121aと係合させると、固定ベルト133は、幼児等の足を幼児用靴100の踵部140の方向へ固定するように作用することになる。
【0049】
これにより、本実施の形態の幼児用靴100は、従来の幼児用靴のように幼児等の足を靴底部110側に略垂直方向に固定する場合に比べ格段にホールド性が向上すると共に、爪先側に足がズレてしまう事を防ぐ為、後述するように爪先側に余裕を持たせても、幼児等の歩行に伴う足指屈曲や背屈を妨げることなく、足を靴にホールドできる。また、幼児用靴100の中で足が動いてしまい、歩行し難いことに伴う、足の運びや足の形のへの影響を未然に防ぐことができるので、歩行しやすく、成長発達を妨げない幼児用靴100となる。
【0050】
なお、この固定ベルト133の固定方向は上述のように踵部140の方向であり、この踵部140には図2等に示すようにカウンター部150が配置され、踵部のうち、特にアッパー側踵部141の剛性が高められている。
このため、幼児等の足を前記固定ベルト133で幼児用靴100の踵部140方向へ固定すると、この剛性が高められたカウンター部150を介して幼児等の足の踵が幼児用靴100の踵部140に押し付けられ、より確実に足の踵が踵部140に固定されるので、幼児等の足の靴に対するホールド性が著しく向上することになる。
更に、カウンター部150に沿って、足の移動が行いやすくなると共に、特に靴を履く際にアッパー側踵部141が変形する事が無い為、靴の着脱を容易に行う事ができる。
【0051】
ところで、固定ベルト133の2つの先端部は、図6に示すように、このカウンター部150の外縁部151と近接して配置される構成となっている。
したがって、カウンター部150に固定ベルト133の2つの端部である先端部が直接、固定されない構成となっている。
したがって、この先端部とカウンター部150の外縁部151との間が直接固定されず、その間にはアッパー本体121の柔らかい素材が配置された離間部分となり、離間部分の剛性は高くないので、幼児等の歩行時に行う足指や足首の屈曲等に伴う足の変形に応じて、この柔らかい素材部分である離間部分が変形し、足に負担をかけない構成となっている。
このため、幼児等の足が幼児用靴100内でしっかり固定されると共に、必要に応じて、上述のように柔らかい素材部分である離間部分が変形するので、幼児等にとって歩きやすい靴となる。
【0052】
(舌片130と足の足高点等との関係について)
図8は人における足の骨格等の側面から見た概略説明図である。
図8に示すように人の足には矢印Bで示す部分に足高点Bと称される部分がある。
図9は、図1の幼児用靴100の平面を示す概略平面図である。
本実施の形態の幼児用靴100は、図1及び図9に示すように、2つの固定ベルト133を結んだ舌片130の中央部における上縁部側及び下縁部側の仮想線に挟まれた足高点仮想領域Iに、幼児等の足の甲における図8の足高点Bが配置されるように舌片130は構成されている。特に、足高点Bが足高点仮想領域Iにおける下縁部側に位置していることが好ましい。
したがって、固定ベルト133が、幼児等の足の甲を靴底部110方向に垂直に押し付けてしまい、踵が固定されずに、幼児用靴100の中の足のホールド性が低下するのを効果的に防ぐことができる。
【0053】
すなわち、幼児等の足の甲の足高点Bより、図1において爪先側の足の甲に2つの固定ベルト133の足高点仮想Iが配置されると、この固定ベルト133の押し付け力は、足の甲側から足の裏側に垂直方向に向けられ、足を靴底部110側のみに押し付けて、足を固定しようとする。
これでは、足の甲の部分を押し付けるだけで、幼児用靴100の中における足の動きが大きな踵の固定ができず、足全体の前後方向へのズレや、踵の上下方向へのズレ等を防ぐ事ができず、足が靴の中でズレやすく、歩き難くなってしまう。
また、幼児等の足首側に2つの固定ベルト133の下縁部側を結んだ足高点仮想領域Iが配置されると、幼児等の足首の曲げる動きを妨げてしまう。
【0054】
一方、足の屈曲を考慮して固定ベルト133の前記押し付け力を弱めると、足が靴の中で固定されず、やはり歩き難い靴となってしまう。
この点、本実施の形態の幼児用靴100では、2つの固定ベルト133を結んだ舌片130の中央部における上縁部側及び下縁部側の仮想線に挟まれた足高点仮想領域Iの内、特に下縁部側に、幼児等の足の甲における図8の足高点Bがに配置されるように舌片130及び固定ベルト133は構成されているので、幼児等の足を靴底部110方向に略垂直方向に押し付けることがなく、明確に高くなっている足高点Bから幼児用靴100の踵部140に向かって足が前後方向に移動しないよう保持し、結果的に踵の上下方向への移動も防ぐ為、幼児等の足指屈曲を妨げることなく、足を靴に固定でき、ホールド性が向上することとなる。
すなわち、固定ベルト133を結んだ仮想領域Iが、足高点Bから爪先側の足の甲に配置されるのを有効に防止できるので、より精度良く幼児の足を幼児用靴100の踵部140側に向かって保持することができ、幼児等の足のホールド性がより高まる幼児用靴100となる。
また、固定ベルト133を結んだ仮想領域Iが幼児等の足首側に配置されることも未然に防止することができるので、幼児等の足首の動きを妨げることもない。
【0055】
また、固定ベルト133は図1や図9に示すように、舌片130に対し一体的に形成され、且つその両側である左右方向にそれぞれ突出するように略対称に配置されている。
したがって、幼児等の足を固定するために固定ベルト133を操作した際、固定ベルト133の締め付け量の偏りに伴う、幼児用靴100の歪みを低減することができる。また、2つの固定ベルト133に均等に力をかけることになるため、図8の足の甲の足高点側から踵点方向に正しく力を加えることができ、幼児等の足の踵を幼児用靴100の踵部140にしっかりとホールドさせることができる。
すなわち、舌片130の両側に突出して形成されている固定ベルト133で固定するので、これら舌片130と固定ベルト133によって、しっかりとバランス良く足を靴内にホールドすることができる
【0056】
(上端部132について)
図1に示すように舌片130を前記足挿入用開口部123に対して配置した場合に、履き口部122の上端より高く位置するように上端部132が形成されている。
この上端部132によって、幼児用靴100を履いた際に、挿入開口部123によって足の前方向に隙間ができる事を防ぎ、舌片130はより広い面積で幼児等の足を包むことになるので、足の靴に対するホールド性、特に足首のホールド性が高い幼児用靴100となる。
【0057】
このように舌片130に上端部132を形成することで足のホールド性は高まるが、逆に歩行に際し行われる足首の屈曲が、この上端部132がくい込んでしまうなど妨げられるおそれがある。
例えば、図7に示すように幼児等の足首を爪先側に屈曲した際に舌片130の上端部132が幼児等の足首に当接して、足首の屈曲を妨げるおそれがある。
そこで、本実施の形態の幼児用靴100では2つの固定ベルト133の上縁部側を結んだ仮想線上に屈曲変形部であるステッチ132aが爪先側にふくらむ曲線で形成されている。
このステッチ132aは縫合等によって構成され、このステッチ132aによって上端部132はその基部側ステッチ132aを回動軸とした変形が容易になっている。
そして、このステッチ132aの変形により、図7に示すような上端部132の変形、具体的には足首の屈曲に追従した、爪先側への屈曲が生じ、歩行に際し、ホールド性が高く、足首の屈曲を妨げない、歩行しやすい幼児用靴100となる。
【0058】
(インソール200について)
図2に示すように、本実施の形態の幼児用靴100の中底111の上には、脱着可能な中敷きであるインソール200が設けられている。
図10はインソール200の概略低面図であり、図10(b)は図10(a)のA−A'線概略断面図である。
図10(a)に示すように、インソール200は幼児用靴100の中底111の形状に合わせ形成され、柔らかい材質である例えば発泡EVA樹脂や発泡ポリエチレン等により形成されている。
このインソール200の底面側には図10(a)(b)に示すように、屈曲用溝部201が例えば6本形成されている。
【0059】
この複数設けられた屈曲用溝部201は、図3の靴底本体112に形成されている溝部112aと同様の領域、すなわち、足指屈曲線等Cに対応する位置に爪先側にふくらんだ曲線で形成されている。
このようなインソール200は、靴内におけるフィット性を高めるためや、幼児等の足が幼児用靴100のサイズに比べ若干、小さい場合等にサイズを調整等するために配置される。
このようにインソール200を幼児用靴100の中底111に配置した場合でも、本実施の形態ではインソール200にも、靴底本体112の溝部112aと同様の屈曲用溝部201が同様の形状で同様の位置に設けられている。
したがって、幼児等が歩行に際し上述のように足指屈曲等を行う際、インソール200がその屈曲を妨げることなく、歩行しやすい幼児用靴100となる。
【0060】
(トウアッパー125について)
図11は、図1の幼児用靴100のトウアッパー125を靴幅方向に切断した状態を示す概略断面図である。
このトウアッパー125は、アッパー本体121の柔らかい材質の上に舌片130と同様に、例えば合成皮革等で覆うことや、カウンター150と同様な補強を行うことで他の部分より剛性が高められるように構成されている。
具体的には、このアッパー125の合成皮革等は、図1に示すその外縁部125aが、縫合部124の位置又はそれより爪先側に配置されるので、図7に示すように足指を屈曲する際に、縫合部124等の屈曲を妨げず、外縁部125aも縫合されているため、脆弱部として機能して外縁部125aを回動軸として屈曲し易い構成となっている。
一方、幼児用靴100の爪先部であるトウアッパー125自体は、爪先部を保護する為にも、他の部分より剛性を高める必要もあるので、上述のように足指の屈曲や背屈を妨げない範囲で剛性が高められている。
【0061】
また、図11に示すように、幼児用靴100のトウアッパー125の内側における高さは、幼児の足の親指が配置される部分が最も厚く、小指が配置される部分に向かって漸次薄くなるように形成されている。
すなわち、トウアッパー125の内側における親指との間の上下方向における隙間部が、他の足指と前記爪先部の内側との隙間部に比べ大きくなるように形成されている。
【0062】
このように親指と前記爪先部との間に最も隙間部が形成されているのは、幼児に多く見られる動きである歩行に際して親指の背屈を行っても、この親指の背屈動作を前記爪先部が阻害しないためである。
この親指の背屈を行うことで、歩行時における身体のバランスを保つだけでなく、足の筋の運動となり、扁平足を未然に防止し、歩行における運動機能の発達を促す事となる。
このように幼児が歩行に際して、バランスを保つため、幼児用靴100の内部で親指を背屈することが可能であるので、円滑な歩行練習ができる構成ともなっている。
【0063】
(側面皮革部126について)
図1に示すように。幼児用靴100のアッパー本体部120には、靴底部110に沿って、靴の側面に側面皮革部126が形成されている。
この側面皮革部126は、トウアッパー125と同様に合成皮革等が配置されている。
そして、この側面皮革部126の図1においてトウアッパー125の近傍には切り欠き部126aが形成され、側面皮革部126が部分的に薄く成っている。
この切り欠き部126aは、図11の小指が外側に向かって大きく広げても、小指はアッパー本体121のやわらかい材質の部分に当接し、側面皮革部126には当接しないので、幼児等が歩行に際し、アッパー本体121がやわらかいため、小指の動きを妨げず、小指を広げやすい構成となっている。
さらに、トウアッパー125についても、図11に示すように、小指が配置される部分の外側に隙間部が形成され、靴底部分110における幅となり、切り欠き部126aと合わせて、指を開く動きを妨げないよう構成されている。
【0064】
すなわち、幼児等は歩行に際し、ふらついたときに足指を広げてバランスを保とうとする。
特に小指を大きく外側に向かって広げることで、バランスを保っていることが知られている。
したがって、本実施の形態に幼児用靴100は幼児等が歩行に際しバランスをとるために親指を背屈し易く、小指を広げ易い靴となる。
更に、切り欠き部126aは、靴底本体112における溝部112aや、アッパー120における縫合部124と同様に、図4に示す足指屈曲線等Cの近傍に形成されている。
【0065】
このため、図7に示すように、歩行等によって、足指を屈曲した際に、切り欠かれたことによって、剛性が弱まっていることに伴い、屈曲しやすい。
また、図6に示す親指側も側面皮革部126を凹むように湾曲させることで、切り欠きはないものの、同様に湾曲に伴って剛性が弱まり屈曲し易くしている。
さらに、図6に示されるように、爪先部は先端に向かって反るようなトゥスプリング129が形成されており、足を引きずるように歩く傾向が見られる幼児がつまづきずらい構成とされている。
【0066】
(幼児用靴100の使用方法等について)
本実施の形態に係る幼児用靴100は、以上のように構成されているが、以下のその使用方法等について説明する。
ここでは、介護者である母親等が、子である幼児に幼児用靴100を履かせることを例に説明する。
【0067】
先ず、母親は図1に示す幼児用靴100の2つの固定ベルト133を把持し、面ファスナー133a、121aの係合を解除させる。
その後、図5の舌片130の上端部132を把持し、舌片130の縫合部124側の固定端を中心に、自由端である他の部分を靴の爪先側に倒す。この状態を示したのが図5である。
【0068】
図5に示すように履き口122と足挿入用開口部123で形成される開口の最大長さGは、幼児用靴100の全長Dに比べ、例えば約60%にも達するため、格段に大きな開口を形成することができる。
したがって、カウンター部150が剛性を有している事もあり、母親が幼児の足を挿入させやすく、履かせ易い幼児用靴100となる。
【0069】
次に、母親は上述と逆に、舌片130を図1の状態に戻し、両側に配置される2つの固定ベルト133の面ファスナー133aをアッパー本体121の面ファスナー121aと係合させ、位置を調整しながら固定する。
したがって、紐等によって固定するのと異なり母親等は容易に、幼児に幼児用靴100を履かせることができる。また、固定ベルト133の位置調整が可能なため、適当な位置に固定ベルト133を配置できるので、最適な状態で幼児に幼児用靴100を履かせることができる。
このとき、固定ベルト133は図9に示すように、左右略対称位置に配置されている。このため、固定ベルト133の締め付けすぎにより、幼児用靴100が歪むことがない。
【0070】
また、この固定ベルト133は、幼児の足の甲を靴底方向に押し付けるのではなく、踵方向に向かって固定するので、歩行の邪魔に成らずに足が靴の内部で固定される。
したがって、本実施の形態の幼児用靴100は、母親等が幼児等に履かせ易い靴であると共に、靴を履いた後は、足が幼児用靴100の踵部140に向かって固定されるので、ホールド性が高く、成長発達を妨げる事の無い歩き易い幼児用靴100となる。
特に歩行初期における幼児等は、歩行能力が未発達であり、幼児用靴の中で足の位置がズレた場合、足の運びを変えられないため、転倒したり、足の運び方に影響が出てしまう等の問題が多かった。本実施の形態の幼児用靴100では、幼児等の足の踵が幼児用靴100の踵部140にしっかりホールドされるので、靴の中で足の位置がズレ難くなる。
また、幼児等の足指の先の動きを阻害しないために靴の爪先側に余裕(隙間)を持たせた幼児用靴の場合は、特に靴の中で足の位置が前後方向にズレてしまう可能性が高まる。
【0071】
本実施の形態の幼児用靴100では、このような爪先側に隙間を敢えて配置した幼児用靴であっても、幼児等の足の踵を幼児用靴100の踵部140でしっかりホールドする構成なので、靴の中で足の位置がズレ難い幼児用靴100となっている。
【0072】
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態に係る歩行練習期の幼児用靴(以下「幼児用靴」という)300の構成のうち、上述の第1の実施の形態の幼児用靴100の構成と重複する部分は同一符号等として説明を省略し、以下、相違点を中心に説明する。
図12は、本実施の形態に係る幼児用靴300を示す概略斜視図である。
幼児用靴300は、図1と同様に靴底部310とアッパー本体部320と備えている。
【0073】
(靴底部310について)
図13は図12の幼児用靴300の中央縦断図を示す概略図である。
図13に示すように、靴底部310は、その表面側に靴底本体312が配置され、この靴底本体312の内側には中底311が形成されている。
【0074】
(履き口部322等について)
アッパー本体321は、図1のアッパー本体112と同様に、全体が通気性に富んだ、柔らかい材質等で覆われ、アッパー本体321の上端部に、図12に示すように幼児等の足を挿入するための履き口322が形成されている。
図14は、図12の履き口部322を開状態にした概略平面図である。
また、図14に示すように、足挿入用開口部323が履き口部322と連接して形成されている。
このように、履き口部322と足挿入用開口部323とが連接して形成されているため、幼児用靴100と同様に、幼児等が足を着脱しやすい大きな開口を形成可能な構成となっている。
【0075】
図12及び図13に示すように、履き口部322の開口端部322aには、その内部に緩衝手段である例えばスポンジ322bが配置されている。
このスポンジ322bは、例えばポリウレタンやEVA等の材質で形成されている。
このように履き口部322の開口端部322aにスポンジ322bが配置されることにより、履き口部322は使用者の足首に柔らかく当接するので、履き心地がよくなると共に、足首の屈曲を妨げる事が無い。
また、図15はカウンター部150等の配置状態等を示す概略図である。
【0076】
(舌片330等について)
ところで、図15に示すように、足挿入用開口部323に対応して舌状当接部である舌片330が配置されている。
この舌片330は、アッパー本体部320の足挿入用開口部323に対応して、これを塞ぐように、すなわち図12に示すように配置されると、舌片330の上端部である舌片上端部331(図15参照)が履き口部322より上方に突出するように位置している。
このため、使用者が幼児用靴300を履いた際に、舌片330、特に舌片上端部331は、使用者の足首と離間することなく、足首に沿って配置される。
すなわち、使用者の足首と舌片330との間の隙間が生じるのを未然に防止し、幼児用靴300内における足の不必要な動きを防ぐことができ、使用者が歩き易い幼児用靴300となる。
また、使用者が幼児用靴300を履いた際のフィット感が向上し、使用者の足首の屈曲部位が舌片330によって適度に固定されることになる。
【0077】
ところで、舌片330の履き口部322側(靴の内部側)である内側には、図13に示すように緩衝層である例えば緩衝部333が配置されている。
この緩衝部333は、例えばスチレンブタジエンゴム(SBR)やポリウレタン等(一例を記入してください)のスポンジが裏地等に覆われて形成されている。
また、緩衝部333の図13の外側には、剛性層である剛性部332が配置されている。
この剛性部332は、例えばキャンバスやトリコット(TC)等の芯地332bと、マイクロスウェードやポリウレタンによる合成皮革、天然皮革等よりなる表地332a等から形成されており、比較的変形しずらい強さを有している。
【0078】
このように2層に形成されている舌片330の図13における履き口部322側の剛性部332を除去することで、伸縮性を備える緩衝手段である例えばクッション部331aが形成されている。
なお、この剛性部332とクッション部331aの境界線からクッション部331aにかけてが、本実施例における屈曲変形部に該当する。
すなわち、図14及び図15に示すように舌片330の舌片上端部331の一部に例えば略半円形にクッション部331aを形成する。
【0079】
図16は、使用者の歩行状態等を示す概略説明図である。
図16に示すように、使用者が爪先立ちや歩行する際に、クッション部331aが足首の屈曲に追従して、若しくは同期して伸縮するので、舌片330が使用者の足首の動きを阻害することなく、使用者はより自然に足首を動かすことができ、歩き易い幼児用靴300となる。
すなわち、従来の靴と異なり、使用者が歩行する際に、舌片の上端部が
足首の屈曲する部位に食い込むことがない。
また、幼児用靴300を履く際においても、舌片上端部331が足首に食い込む事が無い為、しっかりと舌片330を装着する事ができる。
【0080】
また、クッション部331aは、舌片330から剛性部332の一部を除去することで形成できるので、別のクッション部を更に設ける場合に比べ、容易に設けることができ、コストダウンを図ることができる。
【0081】
図17は、図14のY−Y'線概略断面図である。
図17は図13の矢印Zで示す部分に概略拡大図でもある。
図17に示すように剛性部332は、表地332aと芯地332bとを有している。そして、この表地332aと芯地332bが強さを有しているので、剛性が強く、容易に変形等し難い構成となっている。
一方、緩衝部333は、図17に示すように、スポンジ333aが裏地333bで挟まれるように成っている。上述のように、スポンジ333aはスチレンブタジエンゴム(SBR)やポリウレタン等で形成されているので、弾力性があり伸縮性を備える構成となっている。
また、クッション部331aは、図17に示すように緩衝部333が折り返されて、端部が剛性部132の下側に位置しており、実質的に緩衝部333がクッション部331aでは二重とされているので、弾力性等がより向上する構成となっている。
【0082】
図18は、図12の概略平面図である。
上述のように、クッション部331aが構成されているので、舌片330を図14の足挿入用開口部323を塞ぐように配置すると、図18に示すように、履き口部322等の幼児用靴300の履き口は、スポンジ322bを有する開口端部322aとクッション部331aとで囲繞される。
このため使用者の足首は、図16に示すように全周にわたり開口端部322aとクッション部331aに当接するので、これら開口端部322aとクッション部331aは足首に柔らかく当接し、足首にフィットすることとなる。
また、これら開口端部322aとクッション部331aが使用者の足首に当接するので、強く舌片330を足首側に押し付けるようにしっかりと固定しても、開口端部322aのスポンジ322bとクッション部331aのスポンジ333aが変形する。
このため、確実に舌片330で当接しても、使用者の図16に示すような足首の屈曲が妨げることなく保持され、幼児用靴300の足首に対するホールド性が向上する。
特に、幼児等の骨や筋肉が未発達な使用者の場合には、成長を妨げることなく、安全に練習を行う事ができる。
【0083】
(固定ベルト135について)
図12に示すように、舌片330の両側には固定用ベルト部である固定ベルト335、335が形成されている。この2つの固定ベルト135、135は舌片330に対して一体的に形成され、且つその舌片330の両側からそれぞれアッパー本体321の内足側及び外足側に配置されている。
この固定ベルト335は、図14に示すように、舌片330の幅方向中央線から内足側の長さ(L1)が外足側の長さ(L2)より例えば5mm程度短く形成されている。この時、内足側の長さ(L1)は外足側の長さ(L2)に対して、85%乃至95%、好ましくは90%乃至95%とされている。
これは、以下の理由による。図19は、人の足の正面から見た概略骨格図である。図19に示すように、足の甲の最も高い部分は、足高点Bと呼ばれるが、図19に示すように、足高点Bから内足側の長さ(L1)と外足側の長さ(L2)との長さは同じではなく、内足側の方が短く成っている。
この骨格上の相違に対応して図14の内足側の長さ(L1)を短く形成している。
このため、従来のように内足側の固定ベルトが足の骨格の長さ(L1)より長すぎ、遊びが生じ、左右の幼児用靴300の内足側の固定ベルトが相互に接触して歩行を阻害することを未然に防ぐことができる。
【0084】
また、このように内足側の固定ベルト335を外足側の固定ベルト335より短く形成することで、舌片330を図12に示すように配置した際に、後述する舌片330の幅方向の略中央部に配置されているセンターステッチ部334(図12参照)が、上述した足高点Bに配置されるよう装着しやすい。
これにより、人の足の骨格に沿って舌片330を正しい位置に配置することができるので、舌片330による保持が精度良く行われることになる。
【0085】
(センターステッチ部334等について)
ところで、図12に示すように、舌片330の幅方向中央領域には、爪先側から足首側に向かって位置決め部である例えば、センターステッチ部334が形成されている。
図20は、図14のX−X'線概略部分断面図である。図14に示すようにセンターステッチ部334は、剛性部332の内の表地332aを芯地332bの上で折り返し、二重とした状態で縫合することで形成されている。
すなわち、この表地332aの縫合によって剛性が更に高まり保形性が高まる構成となっている。
このセンターステッチ部334の形状は、図12に示すように逆反り形状であり、図8の足の甲に形状に沿った形に形成されている。
したがって、図12の舌片330を足の甲の形状に沿って配置し、且つ保形するので、舌片330の足の甲の部分に対応する部分に不必要な歪みが生ぜず、更に、左右均等に足の甲に接する為、使用者の歩行を阻害することを未然に防ぐことができる。
【0086】
また、センターステッチ部334は、舌片330を図12のように配置した際に、図19の足高点B上に配置される。そして、2つの固定ベルト335、335をアッパー本体321にベルト側面ファスナー135a等で固定すると、図12の矢印で示すように、センターステッチ部334からベルト側面ファスナー135a等に向かって力が働く。
しかし、センターステッチ部334は剛性が高く、保形性があるので、変形しずらい。このため、足の幅方向の略中央部を基準に左右のベルト側面ファスナー135a等に向かって両側に等しく力が働くので、精度良く舌片330をアッパー本体321に装着することができる。
【0087】
更に、センターステッチ部334を視認しつつ、固定ベルト335を固定する事ができる為、センターステッチ部334が足高点B上に確実に位置させるための位置決め部としても機能する。
すなわち、固定ベルト335は、締める力を左右均等とすることができ、アッパー320を歪めることなく、固定することができる。
【0088】
(固定ベルト335と踵部140等との関係について)
図15に示すように2つの固定ベルト335、335のそれぞれの先端部の幅方向における略中央部を相互に結んだ仮想線Hをそのまま延長した場合に、上述の幼児用靴100と同様に、この仮想線Hが、踵部140における図16に示すアッパー側踵部141と靴底側踵部142との境界部又はその近傍に達するように固定ベルト335は配置されている。
【0089】
また、図12のセンターステッチ部334の縫合による縫合線334aは、図15に示すように縫合線334aが上述の仮想線Hと略垂直に交差する構成となっている。
このため、縫合線334aを基準に両側の固定ベルト335、335に向かって、図15の矢印のように等しく力が働き易くなるので、精度良く舌片330をアッパー本体321に装着することができる。
これにより、本実施の形態の幼児用靴300は、第1の実施の形態の幼児用靴100よりも、足の甲に沿った状態で、確実に舌片330を適切な位置に固定する事ができる。
また、幼児等の歩行に伴う足指や足首の屈曲や背屈を妨げることなく、足を靴にホールドできる。さらに、幼児用靴300の中で足が動いてしまい、歩行し難いことに伴う、足の運びや足の形のへの影響を未然に防ぐことができるので、歩行しやすく、成長発達を妨げることのない幼児用靴300となる。
【0090】
(第3の実施の形態)
図21は、本発明の第3の実施の形態に係る、伝え歩き期の幼児用靴400(以下、「幼児用靴400」とする)を示す概略斜視図である。
図21に示す幼児用靴400を履く、伝え歩き期の幼児は、例えば8ヶ月乃至12ヶ月の月齢の幼児であり、その歩行形態は、机等につかまり、手の力を使い、「つかまり立ち」をしながら横に移動する状態である。そして、この「つかまり立ち」の際に、背屈や爪先立ちをしたり、爪先立ちをした状態で歩こうとする特徴がある。
【0091】
本実施の形態の幼児用靴400は、他の実施の形態の幼児用靴100、300と異なり伝え歩き期用であるため、若干の異なる構成となっているが、多くの構成は他の実施の形態の幼児用靴100、300と同様である。
そのため、他の実施の形態とほぼ共通する構成については、同一符号等として説明を省略し、以下、相違点を中心に説明する。
本実施の形態では、靴底部410が幼児用靴100の靴底部310より薄く、屈曲し易く形成されている。
また、この時期の幼児の足はふくらみが大きい事もあり、舌片430には、幼児用靴300の舌片330と異なりセンターステッチ部334が形成されていない。
これは、幼児用靴400全体の剛性を低減し、比較的柔かく全体を形成することで、歩行機能が未熟な伝え歩き期の幼児が行う「つかまり立ち」等の際に行う、爪先立ち等を行い易くするためでもある。
また、クッション部431aが、舌片上端部431と略同等の幅の略三日月形状で、確実に開口端部422aと合わせて足首を囲繞できるよう構成され、他にもベルト部435の下縁部側が上側に僅かに窪むよう湾曲していている等、伝え歩き期における柔かく膨らんだ足を圧迫しない構成とされている。
【0092】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されない。さらに、上述の各実施の形態は、相互に組み合わせて構成するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明の実施の形態に係る幼児用靴を示す概略斜視図である。
【図2】図1の幼児用靴の中央縦断図を示す概略図である。
【図3】図1の靴底本体を示す概略底面図である。
【図4】図4は、足の骨格等を上面から示す概略説明図である。
【図5】図1の幼児用靴の舌片を爪先側に倒した状態を示す概略平面図である。
【図6】図1の幼児用靴の左側面とカウンター部を示した概略左側面図である。
【図7】幼児用靴を幼児等が履いて足指を屈曲して歩行している状態を示す概略説明図である。
【図8】人における足の骨格等の側面から見た概略説明図である。
【図9】図1の幼児用靴の平面を示す概略平面図である。
【図10】(a)はインソールの概略低面図であり、(b)は(a)のA−A'線概略断面図である。
【図11】図1の幼児用靴のトウアッパーを靴幅方向に切断した状態を示す概略断面図である。
【図12】本発明の第2の実施の形態に係る幼児用靴を示す概略斜視図である。
【図13】図12の幼児用靴の中央縦断図を示す概略図である。
【図14】図12の履き口部を開状態にした概略平面図である。
【図15】カウンター部の配置状態等を示す概略図である。
【図16】使用者の歩行状態等を示す概略説明図である。
【図17】図14のY−Y'線概略断面図である。
【図18】図12の概略平面図である。
【図19】人の足の正面から見た概略骨格図である。
【図20】図14のX−X'線概略部分断面図である。
【図21】本発明の第3の実施の形態に係る、伝え歩き期の幼児用靴を示す概略斜視図である。
【符号の説明】
【0094】
100、300・・・歩行練習期の幼児用靴、110、310、410・・・靴底部、111、311・・・中底、112、312・・・靴底本体、112a・・・溝部、112b・・・滑り止め部、120、320・・・アッパー本体部、121、321・・・アッパー本体、121a・・・アッパー側面ファスナー、122、322・・・履き口部、123、323・・・足挿入開口部、124・・・縫合部、125・・・トウアッパー、125a・・・外縁部、126・・・側面皮革部、126a・・・切り欠き部、129・・・トゥスプリング、130、330、430・・・舌片、131、370・・・基部、132・・・上端部、132a・・・ステッチ、133、335、435・・・固定ベルト、133a・・・ベルト側面ファスナー、140・・・踵部、141・・・アッパー側踵部、142・・・靴底側踵部、150・・・カウンター部、151・・・外縁部、160・・・カウンターループ、200・・・インソール、201・・・屈曲用溝部、322a、422a・・・開口端部、322b・・・スポンジ、331、431・・・舌片上端部、331a、431a・・・クッション部、332・・・剛性部、332a・・・表地、332b・・・芯地、333・・・緩衝部、333a・・・スポンジ、333b・・・裏地、334・・・センターステッチ部、334a・・・縫合線、371・・・縫合部、400・・・伝え歩き期の幼児用靴、B・・・足高点、C・・・足指屈曲線等、D・・・靴底の全長、E1・・・第1の線、E2・・・第2の線、F・・・足指屈曲領域、G・・・開口の最大長さ、H・・・仮想線、I・・・足高点仮想領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の足の足裏側を配置するための靴底部と、
前記靴底部から立ち上がるように、且つ使用者の足を包むように形成されるアッパー本体部と、
使用者の足の踵を配置するための踵部とを、備える靴であって、
このアッパー本体部には、使用者の足を挿入するための履き口部と、
前記履き口部の一部を切り欠いて爪先側方向に向かって形成されている足挿入用開口部と、
前記足挿入用開口部に対応して配置される舌状当接部と、
前記舌状当接部と前記足挿入用開口部に対して配置される固定用ベルト部と、を備え、
前記踵部は、前記靴底部に形成される靴底側踵部と前記アッパー本体部に形成されるアッパー本体側踵部とを有し、
少なくとも前記アッパー本体側踵部には、その剛性を高めるためにカウンター部が設けられ、
前記固定用ベルト部は、前記舌状当接部に対して一体的に形成され、且つその両側からそれぞれ突出するように配置され、
前記固定用ベルト部のそれぞれの端部と、これらに対応するアッパー本体部には、前記固定用ベルト部をアッパー本体部に着脱可能で、位置の調整可能な状態で固定するための係合手段が形成され、
前記固定用ベルト部のそれぞれの端部は、前記カウンター部の外縁部に近接して配置されると共に、
前記固定用ベルト部のそれぞれの端部の幅方向における略中央部を相互に結んだ仮想線を、そのまま延長した場合に、この仮想線が、前記踵部における前記アッパー本体側踵部と前記靴底側踵部との境界部又はその近傍に達するように前記固定用ベルト部は設けられ、
また、前記舌状当接部の両側に配置される、それぞれの前記固定用ベルト部を結んだ仮想線の領域に、使用者の足の甲における足高点が位置するように、前記固定用ベルト部が配置される構成となっていることを特徴とする靴。
【請求項2】
前記舌状当接部の両側に配置される、それぞれの前記固定用ベルト部を結んだ仮想線の領域における下縁部側に、使用者の足の甲における足高点が位置するように、前記固定用ベルト部が配置される構成となっていることを特徴とする請求項1に記載の靴。
【請求項3】
前記舌状当接部を前記足挿入用開口部に対応して配置した際に、その上端部が前記履き口部より高く位置するように形成されると共に、
前記舌状当接部の両側に配置される、それぞれの前記固定用ベルト部を結んだ仮想線の上縁部側に、前記上端部の変形を容易にする屈曲変形部が形成されることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の靴。
【請求項4】
前記舌状当接部は前記足挿入用開口部の爪先側の端部又はその近傍の前記アッパー本体部に設けられた舌状当接部取り付け領域で固定されると共に、
前記舌状当接部取り付け領域は、使用者の足の足指屈曲線又はその近傍の上方に相当する位置に形成される構成となっていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の靴。
【請求項5】
前記アッパー本体部に形成された履き口部と前記足挿入用開口部とで形成される開口と、前記靴とを平面図において表した場合に、前記開口の最大長さが、前記靴の最大長さに対して45%以上に形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の靴。
【請求項6】
前記靴が幼児用靴であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の靴。
【請求項7】
前記舌状当接部の靴幅方向中央領域に、靴の爪先側から足首側にわたって位置決め部が形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の靴。
【請求項8】
前記舌状当接部には剛性を有する剛性層が形成され、
前記位置決め部は前記剛性層を縫合することにより形成され、
前記縫合により成る縫合線が前記固定用ベルト部のそれぞれの端部の幅方向における略中央部を相互に結んだ仮想線と略垂直に交差する構成であることを特徴とする請求項7に記載の靴。
【請求項9】
前記舌状当接部に対して一体的に形成され、且つその両側からそれぞれ突出するように配置されている前記固定用ベルト部のうち、靴の内足側に配置される前記固定用ベルト部が、靴の外足側に配置される前記固定用ベルト部より短く形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の靴。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2007−105526(P2007−105526A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−18517(P2007−18517)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【分割の表示】特願2002−381725(P2002−381725)の分割
【原出願日】平成14年12月27日(2002.12.27)
【出願人】(000112288)ピジョン株式会社 (144)
【Fターム(参考)】