説明

音源方向推定装置

【課題】瞬間的なノイズに対する誤検出を低減し、かつ、演算量を低減することが可能な音源方向推定装置を提供すること。
【解決手段】音源方向推定装置20では、音源で生じた音を入力し音を電気信号に変換する複数のマイクロフォン1〜4と、複数のマイクロフォン1〜4によって変換された電気信号に基づいて、音源の方向を時間的に連続して推定して、時系列の音源方向角度を出力する音源方向演算部26と、最新の所定数の時系列の音源方向角度を基に、複数の角度範囲毎の音源方向の推定の頻度を示すヒストグラムを算出するヒストグラム登録部28と、ヒストグラムにおいて頻度が最大の角度範囲を基にして、音源の方向を決定する音源方向再演算部29と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音源方向推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1〜4に示されるように、テレビ会議システム等に適用される音源の方向を決定するシステムであって、マイクロフォンから入力された信号を基に発言者の方向を検出してカメラをその方向に回転させるように制御するシステムが知られている。これらのシステムでは、算出した方向に撮像装置が向けられるようカメラの角度を制御することで、発言者を撮像できるようにしている。
【0003】
このようなシステムでは、音声と共に集音されたノイズの影響をいかに低減するかが問題となる。下記特許文献4では、マイクロフォンによって生成された音声信号を周波数成分に分解し、周波数成分毎の音声パワーに対応する度数を、位相毎の分布に加算して、最も大きい加算値が位置する位相を基に音源の方向を検出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3672320号
【特許文献2】特開平5−244587号公報
【特許文献3】特許第3555151号
【特許文献4】特開2009−86055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献4に記載された方法では、瞬間的に発生するノイズに対する誤検出を防止することは困難である。具体的には、瞬間的なノイズを含んだ音声データにおいては、そのノイズレベルが発言者の音声レベルを超える場合があるため、周波数成分毎に位相の度数分布を取ったとしても、音源方向の誤検出を防止することはできない。また、上記特許文献4に記載された方法では、音源方向の演算タイミング毎に度数分布を集計する必要があるために演算量が多くなり、演算速度が低下する傾向にある。
【0006】
そこで、本発明は、かかる課題に鑑みて為されたものであり、瞬間的なノイズに対する誤検出を低減し、かつ、演算量を低減することが可能な音源方向推定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る音源方向推定装置は、音源で生じた音を入力し音を電気信号に変換する複数のマイクロフォンと、複数のマイクロフォンによって変換された電気信号に基づいて、音源の方向を時間的に連続して推定して、時系列の音源方向角度を出力する音源方向推定手段と、最新の所定数の時系列の音源方向角度を基に、複数の角度範囲毎の音源方向の推定の頻度を示す度数分布を算出する度数分布算出手段と、度数分布において頻度が最大の角度範囲を基にして、音源の方向を決定する音源方向決定手段と、を備える。
【0008】
本発明に係る音源方向推定装置によれば、複数のマイクロフォンのそれぞれから出力された電気信号に基づいて音源の方向が時間的に連続して推定されることにより、時系列の音源方向角度が出力され、これらの音源方向角度を基に複数の角度範囲毎の度数分布が算出され、度数が最大の角度範囲を基に音源の方向が決定される。従って、瞬間的なノイズに影響されることなく、連続的に音声を発する音源の方向が音源方向として決定されやすくなるので、算出される音源方向角度の精度が向上する。また、時系列の演算結果を基に度数分布が計算されるので、演算量が増大することもなく、演算速度の高速化が図れる。
【0009】
ここで、音源方向決定手段は、度数分布において最大の頻度と所定の閾値とを比較した結果、該頻度が大きいと判定された場合に、最大の頻度に対応する角度範囲を基にして、音源の方向を決定する、ことが好適である。
【0010】
このような構成によれば、無音状態での音源方向の誤検出を防止することができる。
【0011】
また、音源方向決定手段は、最大の頻度に対応する角度範囲と該角度範囲の近傍の角度範囲とに含まれる音源方向角度の推定結果を用いて、音源の方向を決定する、ことも好適である。
【0012】
このような構成によれば、音源方向の推定結果に対して平均化等の処理を加えることで、算出される音源方向の精度をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、瞬間的なノイズに対する誤検出を低減し、かつ、演算量を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態に係る音源方向推定装置が適用されたテレビ会議用カメラの斜視図である。
【図2】図2(a)は図1のテレビ会議用カメラにおける開口を含む位置の断面図であり、図2(b)は図2(a)中の筒状体の軸線方向から見た側面図である。
【図3】図1のテレビ会議用カメラの機能構成を示すブロック図である。
【図4】筒状体の軸線に対して音源の方向がなす角度を示す模式図である。
【図5】図3のヒストグラム登録部が生成するヒストグラムの一例を示すグラフである。
【図6】図1のテレビ会議用カメラの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る音源方向推定装置について図面を参照しながら説明する。以下の説明では、音源方向推定装置がテレビ会議用カメラに適用される場合について説明する。
【0016】
図1〜図3に示すように、テレビ会議用カメラAは、例えばテレビ会議に参加する複数の参加者により囲まれた位置に設置されて、発言する参加者(以下、「発言者」という)の方向を推定してその方向へカメラ35を向けることにより、発言者の映像を取得するものである。テレビ会議用カメラAは、ネットワークを介して相手方のテレビ会議システムと通信可能になっている。
【0017】
テレビ会議用カメラAは、テーブル等に載置される直径約10cmの略円筒形状で樹脂製の第1筺体10aと、第1筺体10aの軸線に沿って鉛直方向に配置された軸(図示せず)を介して第1筺体10aの上側に取り付けられ、その軸を中心として第1筺体10aに対して回転可能な略直方体形状で樹脂製の第2筺体10bとを有している。カメラ35は、第2筺体10b内に収納されている。
【0018】
第1筺体10aの側面には、同じ高さで周方向に90°ずつ離間する位置に4つの円形の開口11〜14が形成されている。各開口11〜14は、テレビ会議用カメラAの周囲で発せられた発言者の音声を第1筺体10a内に取り込むための穴であり、内径が約8mmになっている。
【0019】
第1筺体10aの内面側には、各開口11〜14から第1筺体10a内に向けて第1筺体10aの半径方向に延びる円筒形状の4本の筒状体16〜19が固定されている。各筒状体16〜19の内径は約8mmであり、各開口11〜14の内周面と各筒状体16〜19の内壁面とは略面一になっている。各筒状体16〜19は、これらの内部に直径約8mmの円柱形上の伝搬路B1〜B4を形成している。すなわち、各伝搬路B1〜B4は、各開口11〜14から第1筺体10a内に向けて第1筺体10aの半径方向に水平に延びるように形成されている。なお、各開口11〜14は、第1筺体10aの外壁に形成された穴を意味しており、各開口11〜14には、各筒状体16〜19及び各伝搬路B1〜B4は含まれない。
【0020】
更に、第1筺体10aの中心側に位置する各筒状体16〜19の端部には、前面が各開口11〜14に平行になるようにして円柱形状の4個のマイクロフォン(以下、「マイク」という)1〜4が埋設されている。各マイク1〜4は、例えば直径約7mm、厚さ約4mmの、前面側でのみ集音可能な無指向性のエレクトリックコンデンサマイクである。各マイク1〜4は、直径約5mmの円形のダイヤフラムからなる振動板1a〜4aを内蔵している。各開口11〜14から各マイク1〜4の前面までの最短距離は約10mmであり、各開口11〜14の内径よりも長くなっている。また、上記したように、伝搬路B1〜B4の内径(断面)は、振動板1a〜4aよりも大きくなっている(図2参照)。これにより、伝搬路B1〜B4を通る音は振動板1a〜4aに確実に伝達されるようになっている。各マイク1〜4と各筒状体16〜19の内壁面との間には、スペーサ(図示せず)が配設されている。
【0021】
このような構成により、テレビ会議用カメラAでは、会議における発言者の音声が開口11〜14及び伝搬路B1〜B4を通じてマイク1〜4に入力される仕組みとなっている。そして、マイク1〜4に入力される音声により振動板1a〜4aが振動させられ、この振動に応じて音声が電気信号に変換され、電気信号がマイク1〜4からアンプ5〜8へ出力される(図3参照)。なお、マイク1〜4の背面側の内部空間Sには第1筺体10aの外部の音が伝搬しない構成になっている。
【0022】
図3に示すように、テレビ会議用カメラAは、マイク1〜4に入力された音声に基づいて所定の処理を施すことにより、発言者の方向を推定する機能を備えている。具体的には、テレビ会議用カメラAは、各マイク1〜4から出力された電気信号を入力し、入力した電気信号を増幅させる4個のアンプ5〜8と、各アンプ5〜8によって増幅された各電気信号における所定範囲の周波数成分を通過させるバンドパスフィルタ(以下、「BPF」という)21〜24と、各BPF21〜24を通過した各周波数成分をアナログーデジタル(Analog−Digital)変換するAD変換部25と、AD変換部25でデジタル変換された各周波数成分を用いて音源の方向を推定する音源方向演算部(音源方向推定手段)26、音源方向登録部27、ヒストグラム登録部(度数分布算出手段)28、及び音源方向再演算部(音源方向決定手段)29とを備えている。
【0023】
アンプ5〜8は、マイク1〜4に各々接続されており、各マイク1〜4から出力された電気信号を増幅回路により増幅させる。各アンプ5〜8は、増幅させた電気信号を各BPF21〜24に出力する。
【0024】
各BPF21〜24は、各アンプ5〜8から出力された電気信号を入力し、入力した電気信号のうち、例えば2.5kHz以下及び6.5kHz以上の周波数成分を遮断することにより、2.5kHz〜6.5kHzの範囲の周波数成分を通過させる。各BPF21〜24によって通過させられる周波数の範囲は、可聴域内にある所定の範囲とされる。各BPF21〜24は、2.5kHz以下の周波数成分を遮断するハイパスフィルタと、6.5kHz以上の周波数成分を遮断するローパスフィルタとを組み合わせることにより構成される。
【0025】
AD変換部25は、各BPF21〜24を通過した各周波数成分をアナログ信号からデジタル信号に変換する。AD変換部25は、BPF21〜24のいずれから出力された周波数成分であるかを識別する機能を有してもよいし、各アンプ5〜8に対応して複数設けられてもよい。AD変換部25は、デジタル信号に変換した周波数成分を生成し、その周波数成分がマイク1〜4のいずれに対応する周波数成分であるかを示す信号と共にその周波数成分を音源方向演算部26に出力する。
【0026】
音源方向演算部26、音源方向登録部27、ヒストグラム登録部28、及び音源方向再演算部29は、例えばCPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等により構成されている。音源方向演算部26、音源方向登録部27、ヒストグラム登録部28、及び音源方向再演算部29は、AD変換部25から出力された周波数成分に基づいて発言者の方向を演算することにより、発言者の方向を推定する。
【0027】
具体的には、音源方向演算部26は、AD変換部25から出力された各周波数成分に基づいて、各マイク1〜4に対応する周波数成分の出力値(音の大きさ)を比較することにより、音声が発せられた音源の方向を演算する。音源方向演算部26での音源の方向の演算処理としては、公知の技術を用いることができる。テレビ会議用カメラAにおける音源の方向は、第1筺体10aの周方向の所定位置(例えば開口11の中心位置)を基準として、第1筺体10aの上方から見た場合に時計回りを正とした角度(0°〜360°)(以下、「音源方向角度」という。)で表される。音源方向演算部26による音源の方向の演算は、所定時間毎に連続して、例えば40ミリ秒毎に連続して実行され、その結果生成された時系列の音源方向角度が、逐次音源方向登録部27に渡される。
【0028】
前述したように、マイク1〜4は、開口11〜14から第1筺体10a内に所定長(例えば約10mm)入り込んだ位置に埋設されているため、周波数が高い音ほど、マイク1〜4に達する音は回折により減衰する。例えば、図4に示すように、マイク1の中心と開口11の中心とを結ぶ方向線(すなわち筒状体16の軸線)に対して音源の位置する方向が角度θだけずれていると、周波数の高い音は、角度θずれている分減衰してマイク1に達する。そして、各BPF21〜24により2.5kHz以上の周波数成分が通過させられるため、角度の影響を受けた出力値が音源方向演算部26に入力され、各マイク1〜4に対応する出力値の比較により、音源方向演算部26における音源の方向の演算が精度良く行われる。
【0029】
音源方向登録部27は、音源方向演算部26から渡された時系列の音源方向角度を、最新の所定数分だけ記憶する部分である。例えば、音源方向登録部27は、リングバッファを含んで構成されており、音源方向角度に関する最新の20回分の演算結果を記憶する機能を有する。
【0030】
ヒストグラム登録部28は、音源方向登録部27から最新の所定数の音源方向角度を読み出し、その音源方向角度を基に、0度〜360度の角度範囲を所定角度間隔で分割した複数の角度範囲毎に、音源方向の推定頻度を示すヒストグラム(度数分布)を算出する。例えば、ヒストグラム登録部28は、音源方向を20°間隔で18段階の角度範囲に分割し、これらの角度範囲毎に度数を計数したヒストグラムを生成する。図5には、ヒストグラム登録部28によって算出されたヒストグラムの一例を示している。同図に示すヒストグラムにおいては、例えば、角度範囲“20度〜40度”に対応する度数“1”、角度範囲“60度〜80度”に対応する度数“2”、角度範囲“80度〜100度”に対応する度数“6”、角度範囲“100度〜120度”に対応する度数“4”・・・が算出されている。また、ヒストグラム登録部28は、生成したヒストグラムを音源方向再演算部29に出力する。
【0031】
音源方向再演算部29は、ヒストグラム登録部28から出力されたヒストグラムを入力し、入力したヒストグラムの中で度数が最大である角度範囲を特定する。併せて、音源方向再演算部29は、特定した最大度数と所定の閾値(例えば、“5”)とを比較し、最大度数が閾値よりも大きいか否かを判定する。
【0032】
そして、音源方向再演算部29は、最大度数が閾値よりも大きい場合に、最大度数に対応する角度範囲を基に音源方向角度を決定する。すなわち、音源方向再演算部29は、ピーク位置の角度範囲に属する音源方向演算部26による角度推定結果と、この角度範囲の近傍の角度範囲に属する音源方向演算部26による角度推定結果とに基づいて角度平均値を算出することにより、音源の方向を再演算する。例えば、図5の例によれば、閾値“5”よりも大きい最大度数“6”を有する角度範囲として“80度〜100度”を特定し、その角度範囲の近傍の前後の2つの角度範囲“60度〜80度”,“100度〜120度”を特定する。さらに、音源方向再演算部29は、特定した3つの角度範囲に属する全ての角度推定結果を音源方向登録部27から読み出し、それらの平均値を音源の方向として決定する。これにより、ノイズによって度数がカウントされた音源とは関連の無い角度範囲(例えば、角度範囲“180度〜200度”、“240度〜260度”、“260度〜280度”等)は、音源方向の演算結果に影響を与えなくなる。ここで、音源方向再演算部29は、最大度数に対応する角度範囲の近傍の角度範囲を選択する際には、前後の4つの角度範囲を選択してもよく、選択する角度範囲の個数は適宜変更されてよい。さらに、音源方向再演算部29は、決定した音源の方向を発言者の方向としてモータ制御部31に出力する。
【0033】
こうして、音源方向演算部26、音源方向登録部27、ヒストグラム登録部28、及び音源方向再演算部29による音源の方向の演算処理が行われ、発言者の方向が推定される。図1及び図3に示すように、テレビ会議用カメラAでは、第1筺体10a、開口11〜14、筒状体16〜19、マイク1〜4、アンプ5〜8、BPF21〜24、AD変換部25、音源方向演算部26、音源方向登録部27、ヒストグラム登録部28、及び音源方向再演算部29を備えて音源方向推定装置20が構成されている。
【0034】
更に、図3に示すように、テレビ会議用カメラAは、音源方向推定装置20によって推定された音源の方向へカメラ35を向け、カメラ35により発言者の映像を取得する機能を備えている。具体的には、テレビ会議用カメラAは、音源方向再演算部29から出力された音源の方向に基づいてモータ駆動部32を制御するモータ制御部31と、モータ制御部31により制御されてモータ33を駆動させるモータ駆動部32と、モータ駆動部32により駆動させられてカメラ回転機構34に回転力を与えるモータ33と、モータ33に連結されて回転により第2筺体10bと共にカメラ35を旋回させるカメラ回転機構34と、映像を取得するカメラ35と、カメラ35より取得された映像の映像データを映像処理する映像処理部36と、映像処理部36により処理された映像データを転送するデータ転送部37と、データ転送部37により転送された映像データをネットワークに送信するネットワーク通信部38とを備えている。
【0035】
次に、このようなテレビ会議用カメラAにおける動作について説明する。図6は、テレビ会議用カメラAによるカメラの回転制御時の動作を示すフローチャートである。
【0036】
まず、マイク1〜4によって発言者の発した音声が電気信号に変換され、それぞれ、AMP5〜8、BPF21〜24、及びAD変換部25を経由して、所定の周波数範囲の周波数成分として音源方向演算部26に入力される(ステップS101)。次に、音源方向演算部26により、4つのマイク1〜4に対応する周波数成分を基に、音源の方向が音源方向角度として算出される(ステップS102)。そして、時系列で算出された音源方向角度は、最新の所定数分だけ音源方向登録部27に記憶される(ステップS103)。
【0037】
その後、ヒストグラム登録部28は、音源方向登録部27から、最新の所定数分の音源方向角度を読み出す(ステップS104)。次に、ヒストグラム登録部28は、読み出した音源方向角度を基に、20度間隔の複数の角度範囲毎に推定頻度を計数することによってヒストグラムを生成し、音源方向再演算部29は、そのヒストグラムを基に、最大頻度を有する角度範囲を検出する(ステップS105)。さらに、音源方向再演算部29は、検出した最大頻度が予め定めた閾値を超えているか否かを判定する(ステップS106)。判定の結果、検出した最大頻度が予め定めた閾値を超えていない場合には(ステップS106;NO)、次回のカメラの回転制御処理のタイミングまで処理を中断する。
【0038】
一方、音源方向再演算部29は、検出した最大頻度が予め定めた閾値を超えている場合には(ステップS106;YES)、最大頻度に対応する角度範囲及びその角度範囲近傍の角度範囲を特定する(ステップS107)。その後、音源方向再演算部29は、特定した角度範囲に含まれる音源方向角度の演算結果を音源方向登録部27から読み出し、それらの演算結果の平均値を音源の方向として算出してモータ制御部31に出力する(ステップS108)。
【0039】
モータ制御部31は、音源方向推定装置20から入力された音源方向角度を基に現在のカメラ回転機構34の角度からの移動量を算出し(ステップS109)、その移動量を基にモータ駆動部32を制御してモータ33を駆動させ、カメラ35が音源方向角度を示す方向へ向くように、カメラ回転機構34によってカメラ35を第2筺体10bと共に旋回させる(ステップS110)。
【0040】
その後、カメラ35は、前方の映像を取得し、取得した映像を示す映像データを生成する。カメラ35は、生成した映像データを映像処理部36に出力する。映像処理部36は、カメラ35から出力された映像データを入力し、入力した映像データに映像処理を施し、映像処理後の映像データをデータ転送部37に出力する。データ転送部37は、映像処理部36から出力された映像データを入力し、入力した映像データをネットワーク通信部38に転送する。そして、ネットワーク通信部38は、データ転送部37から転送された映像データをネットワークを介して相手方のテレビ会議システムに送信する。
【0041】
本実施形態の音源方向推定装置20によれば、複数のマイク1〜4のそれぞれから出力された電気信号に基づいて音源の方向が時間的に連続して推定されることにより、時系列の音源方向角度が出力され、これらの音源方向角度を基に複数の角度範囲毎のヒストグラムが算出され、度数が最大の角度範囲を基に音源の方向が決定される。従って、瞬間的なノイズに影響されることなく、連続的に音声を発する音源の方向が音源方向として決定されやすくなるので、算出される音源方向角度の精度が向上する。また、時系列の演算結果を基に度数分布が計算されるので、フーリエ変換等により分解された周波数成分毎に度数分布を算出するのに比して演算量が増大することもなく、演算速度の高速化が図れる。
【0042】
また、ヒストグラムにおける最大頻度と所定の閾値とを比較し、所定の閾値を超える最大頻度に対応する角度範囲を基にして、音源の方向を決定するので、無音状態での音源方向の誤検出を防止することができる。例えば、発言者が無言の状態でのノイズによる音源方向の誤推定を防止でき、カメラの回転方向が安定しないといった事態を防ぐことができる。
【0043】
また、最大頻度に対応する角度範囲と該角度範囲の近傍の角度範囲とに含まれる音源方向角度の推定結果を用いて、音源の方向を決定するので、音源方向の推定結果に対して平均化等の処理を加えることで、算出される音源方向の精度をさらに向上させることができる。さらに、演算時間の短縮のためにヒストグラムを生成する角度間隔を広げた場合であっても、音源方向の推定精度をある程度維持することができる。
【0044】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではない。
【0045】
上記実施形態では、音源方向再演算部29が、特定した角度範囲に属する全ての角度推定結果を音源方向登録部27から読み出し、それらの平均値を音源方向として決定していたが、他の実施形態として、角度推定結果を音源方向登録部27から読み出すこと無しに、音源方向を決定するように処理してもよい。このような形態は、特定した角度範囲が複数の場合に適用できる。具体的には、音源方向再演算部29’は、複数の角度範囲を特定した後、角度推定結果を音源方向登録部27から読み出さずに、特定した複数の角度範囲における各々の中央値と、それに対応する度数とから、それらの角度平均値を算出し、その算出結果を音源方向としてモータ制御部31に出力する。なお、この他の実施形態におけるテレビ会議用カメラA’における動作は、図6のステップS108の処理のみが上述した実施形態と異なる。
【0046】
また、上記実施形態では、4個のマイク1〜4が設けられる場合について説明したが、マイクの設置個数は2又は3個であってもよく、5個以上であってもよい。また、BPF21〜24によって通過させられる周波数の範囲は、マイクの特性に応じて可聴域内の範囲で適宜設定することができる。このように可聴域内の範囲とすることで、人によって聴くことのできるあらゆる周波数の音源に音源方向推定装置を適用することができ、音源方向推定装置としての汎用性が高められる。
【0047】
更にまた、上記実施形態では、音源方向推定装置20がテレビ会議用カメラAに適用される場合について説明したが、複数のマイクを備えて音源の方向を推定し、推定した音源の方向を利用する装置であればこれに限られない。例えば、本発明の音源方向推定装置は、異常音を検知して、その異常音が発生した音源の方向を映す監視カメラ等にも適用できる。
【符号の説明】
【0048】
1〜4…マイクロフォン、20…音源方向推定装置、26…音源方向演算部(音源方向推定手段)、27…音源方向登録部、28…ヒストグラム登録部(度数分布算出手段)、29…音源方向再演算部(音源方向決定手段)、A…テレビ会議用カメラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音源で生じた音を入力し前記音を電気信号に変換する複数のマイクロフォンと、
前記複数のマイクロフォンによって変換された前記電気信号に基づいて、前記音源の方向を時間的に連続して推定して、時系列の音源方向角度を出力する音源方向推定手段と、
最新の所定数の前記時系列の音源方向角度を基に、複数の角度範囲毎の音源方向の推定の頻度を示す度数分布を算出する度数分布算出手段と、
前記度数分布において前記頻度が最大の前記角度範囲を基にして、前記音源の方向を決定する音源方向決定手段と、
を備えることを特徴とする音源方向推定装置。
【請求項2】
前記音源方向決定手段は、前記度数分布において最大の前記頻度と所定の閾値とを比較した結果、該頻度が大きいと判定された場合に、前記最大の頻度に対応する前記角度範囲を基にして、前記音源の方向を決定する、
ことを特徴とする請求項1記載の音源方向推定装置。
【請求項3】
前記音源方向決定手段は、前記最大の頻度に対応する角度範囲と該角度範囲の近傍の角度範囲とに含まれる前記音源方向角度の推定結果を用いて、前記音源の方向を決定する、ことを特徴とする請求項1又は2記載の音源方向推定装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−232237(P2011−232237A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−103966(P2010−103966)
【出願日】平成22年4月28日(2010.4.28)
【出願人】(000001225)日本電産コパル株式会社 (755)
【Fターム(参考)】