説明

音量制御装置

【課題】音響信号の音量の相違を低減し、著しい音量変動の発生を防止すること。
【解決手段】音量制御装置1は、入力信号の信号レベルを調整情報に基づいて調整してレベル検出信号を生成するレベル調整手段と、入力信号の信号レベルに基づいて調整情報を決定してレベル調整手段に出力するレベル判定手段と、レベル検出信号の信号レベルの変動量に基づいてアタック時間判定値を求めるアタック時間制御手段12と、アタック時間判定値に比例して補正速度を速くする補正信号をレベル検出信号から生成するレベル制御手段13と、補正信号を入力信号に乗算させる乗算手段10とを有する。レベル判定手段は、入力信号の信号レベルがT−Lowよりも低い値となる場合に信号レベルをL−Hiに維持させる調整情報をレベル検出信号に出力し、信号レベルがT−Hi以上の値となる場合に入力信号の信号レベルの調整を行わない調整情報をレベル検出信号に出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、音量制御装置に関し、より詳細には、音響信号における著しい音量変動を抑制させることが可能な音量制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、AMラジオやFMラジオなどのアナログ音源に基づく音楽や、CDやDVD等のデジタル音源に基づく音楽など、様々な記録形式で記録された様々な音源の音楽を聴くことが可能となっている。
【0003】
オーディオ装置には、様々な音源を選択するための音源選択ボタンなど(セレクタやタッチパネルなど)が設けられており、聴取者は、これらの音源選択ボタンを操作して音源を選択することによって、好みの音楽を再生することが可能となっている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−228336号公報(第3−4頁、第2図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、CDやDVD等のメディアに記録される音楽のオーディオ符号化形式は、そのメディア毎に異なるものとなっている。例えば、CDに採用されているオーディオ符号化形式は、リニアPCM(Pulse Code Modulation)であり、一方で、DVDに採用されているオーディオ符号化形式はAC−3(Audio Code number3)やDTS(Digital Theater System)等である。一般に、リニアPCMは、比較的高い音量で収録され、AC−3やDTSは、広いダイナミックレンジを確保するために、全体的に低い音量で収録されている。そのため、聴取者がCDからDVD、あるいはDVDからCDへと再生するメディアの種類(つまり、音源)を変更する場合には、所望の音量になるようにオーディオ装置の音量を再度調整する必要があった。
【0006】
また、アクション映画とクラシック映画、ロックミュージックとクラシックミュージック等のように、記録されるメディアが同じであっても、記録される音楽や映像のジャンルが異なる場合には、そのジャンルに応じて異なる音量で音楽が記録されている。このため、聴取者は、同一のメディアであってもジャンルを変える毎に、所望の音量になるようにオーディオ装置の音量を再度調整する必要があった。
【0007】
さらに、AMラジオチューナーを通して放送される音楽(音声)、FMラジオチューナーを通して放送される音楽(音声)、アナログテレビチューナーを通して放送される音楽(音声)、デジタルテレビチューナーを通して放送される音楽(音声)などは、それぞれの放送事業者毎に音量設定が異なっており、受信チャンネルを切り替えるたびにオーディオ装置の音量を調整する必要があった。
【0008】
また、近年では携帯用オーディオプレーヤーに多くの音楽データを記録させ、この携帯用オーディオプレーヤーより出力される音楽を、ヘッドフォン等を用いて聴く人たちも多く存在する。このため、例えば、車の運転時に携帯用オーディオプレーヤーに記録される音楽を、外部入力端子等を介して車載用のオーディオ装置で再生させる場合もある。このようにして音楽の再生を行う場合には、携帯用オーディオプレーヤーにおける音量調節機能と、車載用のオーディオ装置における音量調節機能との重複した音量調整が行われることになるため、所望の音量になるように再度、音量調整する必要があった。
【0009】
さらに、携帯用オーディオプレーヤーなどに記録される音楽データは、必ずしも全ての音量が統一されているとは限られない。従って、先曲の音量と次曲の音量とが一致せずに、次曲の再生時に過度に大きな音量で出力が行われてしまうおそれもあった。
【0010】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、音響信号の音量が異なる場合に音量の相違を低減させ、また、楽曲毎あるいは音源ソース毎に著しい音量変動が発生してしまうことを防止することが可能な音量制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る音量制御装置は、入力信号の信号レベルを調整情報に基づいて調整してレベル検出信号を生成するレベル調整手段と、前記入力信号の信号レベルを検出し、検出された信号レベルに基づいて前記信号レベルの調整を行うための前記調整情報を決定して前記レベル調整手段に出力するレベル判定手段と、前記レベル調整手段により信号レベルの調整が行われたレベル検出信号の信号レベルを検出し、検出された前記信号レベルが正側へ増加する場合に増加した前記信号レベルの変動量に基づいて、当該変動量に比例した値を示すアタック時間判定値を求めるアタック時間制御手段と、前記入力信号の信号レベルの補正を行う補正信号であって、前記アタック時間制御手段により求められたアタック時間判定値に比例して前記補正の処理速度を速くする補正信号を、前記レベル検出信号に基づいて生成するレベル制御手段と、該レベル制御手段により生成された前記補正信号を前記入力信号に乗算させることにより前記入力信号の信号レベルを補正する乗算手段とを有し、前記レベル判定手段は、前記入力信号の信号レベルがT−Lowよりも低い値となる場合に前記入力信号の信号レベルをL−Hiに維持させる調整情報を前記レベル調整手段に出力し、前記入力信号の信号レベルがT−Hi以上の値となる場合に前記入力信号の信号レベルの調整を行わない調整情報を前記レベル調整手段に出力する
ことを特徴とする。
但し、前記L−Hiの値と、前記T−Hiの値と、前記T−Lowの値とは予め設定され、L−Hi>T−Hi>T−Lowの関係を有する。
【0012】
本発明に係る音量制御装置では、アタック時間制御手段において、入力信号の信号レベルが正側へ増加したときの信号レベルの変動量の増加に比例したアタック時間判定値が求められ、さらに、レベル制御手段において、入力信号の信号レベルの補正を行う補正信号であって、アタック時間判定値に比例して補正の処理速度が速くなる補正信号が、レベル検出信号に基づいて生成される。このため、入力信号の信号レベルが正側へ急激に増加したときは、迅速に補正処理が行われて入力信号の信号レベルが補正(平滑化)されることになる。
【0013】
しかしながら、例えば、無音状態から急に信号レベルの高い音響信号が出力される場合のように、信号レベルの変動量の大きな出力信号が出力されると、楽曲の再生開始部分(曲はじめの部分)が過大な信号レベルで再生されてしまうおそれがあった。
【0014】
このため、入力信号の信号レベルが、無音だと判断され得る信号レベルに該当するT−Lowよりも低い値となった場合に、入力信号の信号レベルをL−Hi(但し、L−Hi>T−Low)に維持させることにより、無音部分の信号レベルを強制的に高い値に維持することができる。このため、楽曲の再生開始部分(曲はじめの部分)における信号レベルの増加量を、無音状態から再生が開始される場合に比べて押さえ込む(抑制する)ことが可能となり、再生時に過大な信号レベルで楽曲などの再生が開始されてしまうことを防止することができる。
【0015】
また、本発明に係る音量制御装置は、入力信号の信号レベルがT−Hi以上の値となる場合に、L−Hiに維持されていた入力信号の信号レベルを解放して調整を行わないようにする。このように信号レベルを解放する場合には、入力信号の信号レベルがT−Hiよりも高い値となっているため、入力信号の信号レベルをL−Hiに維持しなくても入力信号の信号レベルが急激に増加することを抑制することが可能となる。
【0016】
なお、T−Lowには、無音と判断され得る信号レベルが設定され、T−Hiには、無音であるとは断定できないが、一定時間この信号レベル以下の値を維持する場合には無音状態であると判断することが可能な信号レベルが設定される。
【0017】
また、本発明に係る音量制御装置は、入力信号の信号レベルを調整情報に基づいて調整してレベル検出信号を生成するレベル調整手段と、前記入力信号の信号レベルを検出し、検出された信号レベルに基づいて前記信号レベルの調整を行うための前記調整情報を決定して前記レベル調整手段に出力するレベル判定手段と、前記レベル調整手段により信号レベルの調整が行われたレベル検出信号の信号レベルを検出し、検出された前記信号レベルが正側へ増加する場合に増加した前記信号レベルの変動量に基づいて、当該変動量に比例した値を示すアタック時間判定値を求めるアタック時間制御手段と、前記入力信号の信号レベルの補正を行う補正信号であって、前記アタック時間制御手段により求められたアタック時間判定値に比例して前記補正の処理速度を速くする補正信号を、前記レベル検出信号に基づいて生成するレベル制御手段と、該レベル制御手段により生成された前記補正信号を前記入力信号に乗算させることにより前記入力信号の信号レベルを補正する乗算手段とを有し、前記レベル判定手段は、前記入力信号の信号レベルがT−Hiの値とT−Lowの値との間を所定時間T0だけ維持した場合に、前記入力信号の信号レベルをL−Hiに維持させる調整情報を前記レベル調整手段に出力し、前記入力信号の信号レベルがT−Hi以上の値となる場合に前記入力信号の信号レベルの調整を行わない調整情報を前記レベル調整手段に出力することを特徴とする。
但し、前記L−Hiの値と、前記T−Hiの値と、前記T−Lowの値とは予め設定され、L−Hi>T−Hi>T−Lowの関係を有する。
【0018】
本発明に係る音量制御装置においても、上述した音量制御装置と同様に、入力信号の信号レベルをL−Hiに維持させることにより、無音部分の信号レベルを強制的に高い値に維持することができる。このため、楽曲の再生開始部分(曲はじめの部分)における信号レベルの増加量を、無音状態から再生される場合に比べて押さえ込む(抑制する)ことが可能となり、再生時に過大な信号レベルで出力信号が出力(楽曲が再生)されてしまうことを抑制することができる。
【0019】
さらに、本発明に係る音量制御装置では、入力信号の信号レベルが、T−Lowよりも低い値にならない場合であっても、T−Hiの値とT−Lowの値との間を時間T0だけ維持した場合に、入力信号の信号レベルをL−Hiに維持させる。このため、信号レベルがT−Lowよりも低い値でないため無音であると判断することが困難な状態であっても、T−Hiの値とT−Lowの値との間の信号レベルが時間T0だけ継続される場合には、実質的に無音状態であると判断することにより、次曲などの再生時に過大な信号レベルで楽曲が再生されてしまうことを効果的に抑制することができる。
【0020】
さらに、上述した音量制御装置において、前記レベル制御手段は、生成された前記補正信号の信号レベルを、前記L−Hiよりも低い値に制限し、前記乗算手段は、前記L−Hiよりも低い信号レベルに制限された前記補正信号を前記入力信号に乗算させるものであってもよい。
【0021】
上述したように、本発明に係る音量制御装置では、入力信号の信号レベルをL−Hiに維持させることにより、無音部分と判断可能な部分の音量を強制的に押さえ込むことができるため、楽曲の再生開始部分(曲はじめ部分)における信号レベルの増加量を、無音状態から再生される場合に比べて抑制することが可能となり、再生時に過大な信号レベルで楽曲の再生が開始されてしまうことを抑制することができる。
【0022】
しかしながら、入力信号の信号レベルをL−Hiに維持させた状態では、補正信号の信号レベルが高い値(L−Hiの値)を維持することとなるため、乗算手段において補正信号を入力信号に乗算させる場合に、高い信号レベルの補正信号が乗算されてしまって、音量制御装置より出力される信号の信号レベルを適切に補正することが困難となるおそれがあった。
【0023】
このため、アタック時間制御手段においてアタック時間判定値が求められ、さらに、レベル制御手段において補正信号が生成された後に、補正信号の信号レベルをL−Hiよりも低い値に制限することにより、再生時に過大な信号レベルで楽曲の再生が開始されてしまうことを防止しつつ、補正信号に基づいて補正された出力信号の信号レベルを適切に調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る音量制御装置は、入力信号の信号レベルが、無音だと判断され得る信号レベルに該当するT−Lowよりも低い値となった場合に、入力信号の信号レベルをL−Hi(但し、L−Hi>T−Low)に維持させることにより、無音部分の信号レベルを強制的に高い値に維持することができる。このため、楽曲の再生開始部分(曲はじめの部分)における信号レベルの増加量を、無音状態から再生が開始される場合に比べて押さえ込む(抑制する)ことが可能となり、再生時に過大な信号レベルで楽曲などの再生が開始されてしまうことを防止することができる。
【0025】
また、本発明に係る音量制御装置は、入力信号の信号レベルがT−Hi以上の値となる場合に、L−Hiに維持されていた入力信号の信号レベルを解放して調整を行わないようにする。このように信号レベルを解放する場合には、入力信号の信号レベルがT−Hiよりも高い値となっているため、入力信号の信号レベルをL−Hiに維持しなくても入力信号の信号レベルが急激に増加することを抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施の形態に係る音量制御装置の概略構成を示したブロック図である。
【図2】実施の形態に係るレベル検出部の概略構成を示したブロック図である。
【図3】楽曲が終了して信号レベルが低減した後に、次の楽曲の再生が始まって、信号レベルが上昇する場合の制限レベルおよび実測レベル状態を示した第1の図である。
【図4】楽曲が終了して信号レベルが低減した後に、楽曲の再生が始まって、信号レベルが上昇する場合の制限レベルおよび実測レベル状態を示した第2の図である。
【図5】実施の形態に係るレベル判定部の処理内容を示したフローチャートである。
【図6】実施の形態に係るアタックリリース時間制御部の概略構成を示したブロック図である。
【図7】実施の形態に係るレベル制御部の概略構成を示したブロック図である。
【図8】(a)は、本実施の形態に係るアタックリリース係数テーブル部におけるアタック時間変換テーブルの対応関係を示し、(b)はリリース時間変換テーブルの対応関係を示した図である。
【図9】本実施の形態に係るルックアップテーブル部のレベル変換特性を示した図である。
【図10】先曲の信号レベルが減衰して無音区間が生じ、この無音区間を挟んで次曲の演奏が開始される状況における入力信号の入力レベル、出力信号の出力レベルおよびダイナミックレンジ制御信号の信号レベル(ゲイン)の変化状態を示した第1の図であって、リセット処理が行われる場合を示している。
【図11】図10においてリセット処理が行われない場合における入力信号の入力レベル、出力信号の出力レベルおよびダイナミックレンジ制御信号の信号レベル(ゲイン)の変化状態を示した図である。
【図12】先曲の信号レベルが減衰して無音区間が生じ、この無音区間を挟んで次曲の演奏が開始される状況における入力信号の入力レベル、出力信号の出力レベルおよびダイナミックレンジ制御信号の信号レベル(ゲイン)の変化状態を示した第2の図であって、リセット処理が行われる場合を示している。
【図13】図12においてリセット処理が行われない場合における入力信号の入力レベル、出力信号の出力レベルおよびダイナミックレンジ制御信号の信号レベル(ゲイン)の変化状態を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る音量制御装置の一例を、図面を用いて詳細に説明する。
【0028】
[音量制御装置]
図1は、本実施の形態に係る音量制御装置の概略構成を示したブロック図である。音量制御装置1は、入力信号の信号レベル(音量)の変化状態に対応させて、入力信号の音量の変動を低減させる役割を有している。音量制御装置1は、乗算部(乗算手段)10と、レベル検出部11と、アタックリリース時間制御部(アタック時間制御手段)12と、レベル制御部(レベル制御手段)13とを有している。
【0029】
乗算部10は、後述するレベル制御部13により出力されるダイナミックレンジ制御信号を入力信号に乗算することにより、入力信号の信号レベル(音量)を調整(補正)する役割を有している。
【0030】
[レベル検出部]
レベル検出部11は、入力信号の信号レベルにおける所定時間毎の最大値変化を検出した後に、その最大値変化に基づいて入力信号の実効値を求め、求められた実効値に基づいてレベル検出信号を生成する役割を有している。
【0031】
図2は、レベル検出部11の概略構成を示したブロック図である。レベル検出部11は、最大値検出部21と、実効値検出部22と、第1ゲインオフセット部23と、レベル判定部(レベル判定手段)24と、レベル制限部(レベル調整手段)25を有している。
【0032】
最大値検出部21は、入力信号の絶対値を算出した後に、所定時間間隔毎に最大値の検出を行って最大値検出信号を生成する。実効値検出部22は、最大値検出信号における所定時間区間毎の実効値を、所定時間区間をオーバーラップさせながら1サンプル毎に求める。第1ゲインオフセット部23は、1サンプル毎に求められた実効値のレベルオフセット処理を行う。
【0033】
実効値検出部22においてオーバーラップされた信号は、最大値検出信号に対して応答の遅れが発生してしまう一方で、なめらかな変動を備えることができるという特徴を有している。このように、なめらかな変動特性を備えた実効値の信号に基づいて実測レベルの検出信号を求めることにより、乗算部10における音量制御処理(音量変動の抑制処理)を、聴感上違和感のないものにすることが可能となる。
【0034】
レベル判定部24は、第1ゲインオフセット部23においてレベルオフセットされた信号の出力レベル(この信号の信号レベルを実測レベルとする)に基づいて、レベル制限部25に対して制限信号(本発明の調整情報に該当。)を出力する役割を有している。また、レベル制限部25は、レベル判定部24より受信した制限信号に基づいて、第1ゲインオフセット部23より出力された信号の信号レベルを抑制したレベル検出信号を生成する役割を有している。レベル制限部25により信号レベルが制限されたレベル検出信号の信号レベルを制限レベルとする。
【0035】
レベル判定部24には、制限信号を決定するためのパラメータとして、予めL−Hi、L−Low、T−Hi、T−Lowの4つの信号レベルが規定されている。各信号レベルは、0[dB]>L−Hi>L−Low>T−Hi>T−Lowの大小関係となっている。T−Lowには、無音と判断され得る信号レベルが設定され、T−Hiには、無音であるとは断定できないが、一定時間この信号レベル以下の値を維持する場合には無音状態であると判断することが可能な信号レベルが設定される。
【0036】
レベル判定部24は、レベル判定部24に入力される信号の実測レベルを測定し、信号レベルが低減してL−Lowよりも低い値になった場合に、レベル制限部25に対してレベル検出信号の信号レベル(制限レベル)をL−Lowに維持させる旨の制限信号を出力する。
【0037】
一方で、さらに実測レベルが低減してT−Lowよりも低い値となった場合、あるいは、T−Lowよりも高い値ではあるが、T−Hiよりも低い値であって、T−HiとT−Lowとの間の値を、予め規定された時間T0だけ維持した場合に、レベル判定部24は、レベル検出信号の信号レベル(制限レベル)をL−Hiに維持させる旨の制限信号を、レベル制限部25に出力する。
【0038】
なお、本実施の形態においては、レベル検出信号の信号レベルが、レベル制限部25においてL−Hiに維持される処理をリセット処理という。従って、実測レベルが低減してT−Lowよりも低い値となった場合、あるいは、T−HiとT−Lowとの間の値を、予め規定された時間T0だけ維持した場合に、レベル制限部25におけるリセット処理が開始されることになる。
【0039】
リセット処理が開始された後、実測レベルがT−Hiよりも高い値に回復され、かつ、実測レベルがL−Lowよりも低い値である場合に、レベル判定部24は、レベル制限部25に対して、レベル検出信号の信号レベル(制限レベル)をL−Lowに維持させる旨の制限信号を出力する。このように、制限レベルがL−Hiに維持された状態でなくなることにより、リセット処理が解除されることになる。
【0040】
そして、レベル判定部24は、実測レベルが、L−Lowよりも高い値となった場合に、レベル制限部25に対してレベル検出信号の信号レベルを制限させない旨の制限信号(つまり、レベル検出信号の信号レベルを制限せず(調整せず)に実測レベルとする旨の制限信号)を出力する。
【0041】
図3は、レベル制限部25において信号レベルの抑制が行われる前の信号の信号レベルである実測レベルと、レベル制限部25において信号レベルの抑制が行われたレベル検出信号の信号レベルである制限レベルと関係を経時的に例示した第1の図である。また、図4は、図3と同様に実測レベルと制限レベルとの関係を経時的に例示した第2の図である。
【0042】
図3では、実測レベルがT−Hiよりも低い値になったとき(図3において時間a1のとき)から、時間が時間T0だけ経過する前に、実測レベルがT−Lowよりも低い値に減少した場合を示している。図4では、実測レベルがT−Hiよりも低い値になった(図4の時間b1)後に、T−Lowよりも低い値には減少せず、T−Hiの値とT−Lowの値との間の信号レベルを時間T0だけ維持した(経過した)場合を示している。
【0043】
また、図3および図4は、楽曲が終了して信号レベルが無音と判断可能なレベルまで低下した後に、次の楽曲が始まり、信号レベルが上昇する場合の制限レベルおよび実測レベル状態を示している。なお、本実施の形態に係る音量制御装置1では、必ずしも図3および図4に示すような楽曲終わりだけでなく、例えば、音源がラジオからCDに切り替えられた場合などのように、音源ソースの切り替えによって一時的に出力信号の信号レベルが低下する場合においても同様の処理を行うことができる。
【0044】
図3に示す場合において、レベル判定部24は、実測レベルの検出を継続的に行う。図3の時間a0に示すように、実測レベルがL−Lowよりも低い値になった場合、レベル判定部24は、制限レベルをL−Lowに設定して、レベル制限部25に対して設定した制限レベルにレベル検出信号を制限するための制限信号を出力する。このようにして、レベル判定部24がレベル制限部25に対して制限信号を出力することにより、レベル検出信号の信号レベル(制限レベル)が、L−Lowの値に維持され、制限されることになる。
【0045】
次に、時間a2に示すように、実測レベルがT−Low以下になった場合、レベル判定部24は、制限レベルをL−Hiに設定して、レベル制限部25に対して設定した制限レベルにレベル検出信号を制限するための制限信号を出力する。このようにして、レベル判定部24がレベル制限部25に対して制限信号を出力することにより、レベル検出信号の信号レベル(制限レベル)が、リセット状態(リセット処理開始)となり、L−Hiの値に維持されることになる。
【0046】
そして、時間a3に示すように、実測レベルがT−Hiに達したことを検出した場合、レベル判定部24は、制限レベルをL−Lowに設定して、レベル制限部25に対して設定した制限レベルにレベル検出信号を制限するための制限信号を出力する。このようにして、レベル判定部24がレベル制限部25に対して制限信号を出力することにより、レベル検出信号の信号レベルが、L−Lowの値に維持され、制限されることになる。この処理により、リセット状態から解放(リセット処理解除)される。
【0047】
その後、時間a4に示すように、実測レベルがL−Lowに達したこと検出した場合、レベル判定部24は、制限レベルの設定を解除して、レベル制限部25に対してレベル検出信号の信号レベルを制限しない旨の制限信号を出力する。このようにして、レベル制限部25において、レベル検出信号の信号レベルの制限を行わないことにより、レベル検出信号の信号レベルが実測レベルの値を示すことになる。
【0048】
一方で、レベル判定部24は、図4の時間b0に示すように、実測レベルがL−Lowよりも低い値になった場合に、制限レベルをL−Lowに設定してレベル制限部25に制限信号を出力する。その後、レベル判定部24は、実測レベルがT−Hiよりも低い値になったとき(図4において時間b1のとき)に、タイマーをセットする。そして、タイマーをセットしてから(実測レベルがT−Hiよりも低い値になってから)、実測レベルがT−Lowよりも高い値であって、T−Hiよりも低い値(T−Hiの値とT−Lowの値との間の状態)を時間T0だけ維持したとき(図4において時間b2のとき)、レベル判定部24は、制限レベルをL−Hiに設定して、設定した制限レベルにレベル検出信号を制限するための制限信号を、レベル制限部25に出力する。このようにして、実測レベルがT−Hiの値とT−Lowの値との間を時間T0だけ維持した場合には、レベル検出信号の信号レベルが、リセット状態となり、L−Hiの値に維持されることになる。以降の処理は、図3と同様である。
【0049】
図5は、上述したレベル判定部24の処理内容を示したフローチャートである。レベル判定部24の処理をフローチャートに沿って説明する。
【0050】
まず、レベル判定部24は、実測レベルを検出し、実測レベルがL−Lowよりも低い値であるか否かの判断を行う(ステップS.1)。実測レベルがL−Lowよりも低い値でない場合(実測レベルがL−Low以上の値である場合:ステップS.1においてNoの場合)、レベル判定部24は、実測レベルを検出し、実測レベルがL−Lowよりも低い値であるか否かの判断処理を繰り返し行う(ステップS.1)。なお、実測レベルがL−Lowよりも低い値でない場合に、レベル判定部24が処理を終了し、新たに処理を繰り返し実行し直す構成とするものであってもよい。
【0051】
実測レベルがL−Lowよりも低い値である場合(ステップS.1においてYesの場合)、レベル判定部24は、制限レベルをL−Lowに設定して、レベル制限部25に制限信号を出力する(ステップS.2)。レベル制限部25では、受信した制限信号に基づいて、レベル検出信号の信号レベルをL−Lowに制限し、維持させる。
【0052】
その後、レベル判定部24は、実測レベルがT−Hiよりも低い値であるか否かの判断を行う(ステップS.3)。実測レベルがT−Hiよりも低い値でない場合(実測レベルがT−Hi以上の値である場合:ステップS.3においてNoの場合)、レベル判定部24は、処理を後述するステップS.9へと移行する。実測レベルがT−Hiよりも低い値である場合(ステップS.3においてYesの場合)、レベル判定部24は、タイマーをセットし、実測レベルがT−Hiより低い値になってからの時間を計測する(ステップS.4)。
【0053】
そして、レベル判定部24は、実測レベルを検出し、実測レベルがT−Lowよりも低い値であるか否かの判断を行う(ステップS.5)。実測レベルがT−Lowよりも低い値である場合(ステップS.5においてYesの場合)、レベル判定部24は、処理をステップS.11に移行して、後述するリセット処理を実行する。
【0054】
一方で、実測レベルがT−Lowよりも低い値でない場合(実測レベルがT−Low以上の値である場合:ステップS.5においてNoの場合)、レベル判定部24は、タイマーの値が時間T0よりも大きい値となったか否か(つまり、時間T0だけ経過したか否か)の判断を行う(ステップS.6)。この経過判断処理(ステップS.6)により、実測レベルが、T−Hiより低い値になってから時間T0だけ経過したか否か(実測レベルがT−HiとT−Lowとの間の値を時間Toだけ維持したか否か)の判断を行うことが可能となる。
【0055】
タイマーの値が時間T0よりも大きい値となっている場合(つまり、時間T0だけ経過している場合:ステップS.6においてYesの場合)、レベル判定部24は、処理をステップS.11に移行して、後述するリセット処理を実行する。一方で、タイマーの値が時間T0よりも大きい値となっていない場合(つまり、時間T0だけ経過していない場合:ステップS.6においてNoの場合)、レベル判定部24は、実測レベルがT−Hi以上の値であるか否かの判断処理を行う(ステップS.7)。
【0056】
実測レベルがT−Hi以上の値でない場合(実測レベルがT−Hiよりも低い値である場合:ステップS.7においてNoの場合)、レベル判定部24は、処理をステップS.5に移行して、実測レベルがT−Lowよりも低い値であるか否かの判断処理を行う(ステップS.5)。このように、ステップS.5〜ステップS.7において実測レベルが、T−Hiの値とT−Lowの値との間を維持しているか否かを判断し、維持している場合には、T−Hiよりも低い値になってから時間T0だけ時間が経過したか否かを継続して判断することになる。
【0057】
実測レベルがT−Hi以上の値である場合(ステップS.7においてYesの場合)、レベル判定部24はタイマーをストップする(ステップS.8)。そして、タイマーをストップした後に(ステップS.8)、または、ステップS.3の処理において、実測レベルがT−Hiよりも低い値でないと判断された場合(実測レベルがT−Hi以上の値である場合:ステップS.3においてNoの場合)、さらには、後述するリセット処理が終了した場合(ステップS.14の処理を行った後)、レベル判定部24は、実測レベルがL−Low以上の値であるか否かの判断を行う(ステップS.9)。
【0058】
実測レベルがL−Low以上の値でない場合(ステップS.9においてNoの場合)、レベル判定部24は、処理をステップS.3に戻して、上述した処理を繰り返し実行する。一方で、実測レベルがL−Low以上の値である場合(ステップS.9においてYesの場合)、レベル判定部24は、制限レベルの設定を解除する制限信号を設定して、レベル制限部25に制限信号を出力する(ステップS.10)。レベル制限部25では、受信した制限信号により、レベル検出信号の信号レベルの制限を解除する。この制限レベルの解除により、レベル制限部25より出力されるレベル検出信号の信号レベルが実測レベルと同じレベルとなる。
【0059】
その後、レベル判定部24は、実測レベルを検出し、実測レベルがL−Lowよりも低い値であるか否かの判断処理を繰り返し行う(ステップS.1)。なお、制限レベルを解除(ステップS.10)した後に、レベル判定部24が処理を終了し、新たに処理を繰り返し実行し直す構成とするものであってもよい。
【0060】
次に、リセット処理におけるレベル判定部24の処理について説明する。
【0061】
ステップS.5において、実測レベルがT−Lowよりも低い値となった場合(ステップS.5においてYesの場合)、あるいは、ステップS.6において、タイマーの値が時間T0より大きい(時間T0だけ経過した)場合(ステップS.6においてYesの場合)、レベル判定部24は、タイマーをストップし(ステップS.11)、制限レベルをL−Hiに設定して、レベル制限部25に制限信号を出力する(ステップS.12)。レベル制限部25では、受信した制限信号に基づいて、レベル検出信号の信号レベルをL−Hiに制限し、維持させる。このようにレベル検出信号の信号レベルがL−Hiに維持されることによりリセット処理が開始された状態となる。
【0062】
その後、レベル判定部24は、実測レベルを検出し、実測レベルがT−Hi以上の値であるか否かの判断を行う(ステップS.13)。実測レベルがT−Hi以上の値でない場合(ステップS.13においてNoの場合)、レベル判定部24は、ステップS.12の処理を繰り返し実行することにより、リセット状態を維持する。
【0063】
一方で、実測レベルがT−Hi以上の値である場合(ステップS.13においてYesの場合)、レベル判定部24は、制限レベルをL−Lowに設定して、レベル制限部25に制限信号を出力する(ステップS.14)。レベル制限部25では、受信した制限信号に基づいて、レベル検出信号の信号レベルを、L−Lowに制限し、維持させる。この処理により、レベル検出信号が、L−HiからL−Lowに変更され、リセット状態が解除されることになる。その後、レベル判定部24は、処理をステップS.9に移行して、ステップS.9以降の処理を上述したように実行する。
【0064】
このように、レベル判定部24が実測レベルを検出し、実測レベルがT−Lowよりも低い値になった場合(ステップS.5においてYesの場合)、あるいは、実測レベルがT−HiとT−Lowとの間を時間T0だけ維持した場合(ステップS.6においてYesの場合)に、意図的にレベル制限部25において入力信号の信号レベルをL−Hiの値に維持する処理を行う(ステップS.12)。このため、先曲の終了後に無音部分を挟んで次曲の再生が開始される場合や、音源ソースが切り替えられて無音部分を挟んで新たな音源ソースの信号が再生される場合のように、無音部分によって一時的に信号レベルが大きく低下した後に信号レベルが大きく増大するような場面であっても、無音時に信号レベルがL−Hiの値に維持されるので、レベル検出信号の信号レベルが短時間に大きく変動(増大)してしまうことを抑制することが可能となる。
【0065】
従って、レベル検出部11のレベル判定部24およびレベル制限部25において、レベル検出部11より出力されるレベル検出信号の信号レベルの変動量を抑制することにより、前の楽曲が終了した後で次の楽曲の出力が開始された場合などにおいて、出力信号の信号レベルが一時的に大きな信号レベルに達してしまうことを抑制することが可能となる。
【0066】
なお、本実施の形態におけるレベル検出部11において、制限レベルをL−Lowに制限し維持する目的は、一般的に、入力信号における不要なレベル変動を排除し、安定した音量制御を行うためである。しかしながら、制限レベルをL−Hiに制限し維持する場合には、L−Lowよりも高い値に制限レベルを設定することにより、実質的に信号レベル(音量)の押さえ込みを行い、通常の音量制御を中断することを意味することになる。従って、無音部分に該当する場合(実測レベルがT−Lowの値より低い場合、およびT−HiとT−Lowとの間の値を時間T0だけ維持する場合)には、通常の音量制御を中断することにより、無音後の出力信号の信号レベルが、過大な信号レベルまで増大してしまうことを抑制することが可能となる。
【0067】
[アタックリリース時間制御部]
アタックリリース時間制御部12は、レベル検出信号における信号レベル(音量)の変化状態(音量の上昇および低下)に基づいて、アタック時間判定値(補正時間に関する情報)およびリリース時間判定値(補正時間に関する情報)を求める役割を有している。
【0068】
図6は、アタックリリース時間制御部12の概略構成を示したブロック図である。アタックリリース時間制御部12は、デシベル変換部32と、HPF部33と、第2ゲインオフセット部34と、アタック最大値ホールド部35と、リリース最大値ホールド部36とを有している。
【0069】
デシベル変換部32では、レベル検出部11により出力されたレベル検出信号を、リニア信号からデシベルに変換する。HPF部33は、1次のIIR型の高域通過フィルタであり、デシベルに変換された信号を微分することによって信号の変化量検出を行う。
【0070】
第2ゲインオフセット部34は、アタック最大値ホールド部35およびリリース最大値ホールド部36において時間判定を行うための所定のゲインオフセット量を求めてゲインの低減処理を行う。そして、アタック最大値ホールド部35は、入力される信号のうち正側へ増加する信号、すなわちアタック信号を所定時間ホールドすることにより(アタック信号の変動量を所定時間だけ維持(固定)することにより)アタック時間判定値を求め、求められたアタック時間判定値をレベル制御部13に出力する。
【0071】
また、リリース最大値ホールド部36は、入力される信号のうち負側へ増加する(つまり低減する)信号、すなわちリリース信号を所定時間ホールドすることにより(リリース信号の変動量を所定時間だけ維持(固定)することにより)リリース時間判定値を求め、求められたリリース時間判定値をレベル制御部13に出力する。
【0072】
このように、アタックリリース時間制御部12では、信号レベルの変化に応じた時間判定値(アタック時間判定値およびリリース時間判定値)を求めることができるため、信号レベルが急激に大きくなったときには、大きなアタック時間判定値がレベル制御部13に出力され、信号レベルが急激に小さくなったときには、大きなリリース時間判定値がレベル制御部13に出力されることになる。
【0073】
なお、上述したように、アタックリリース時間制御部12に入力されるレベル検出信号は、レベル判定部24およびレベル制限部25において、信号レベルがT−Lowより低い場合、あるいは、T−HiとT−Lowとの間を時間T0だけ維持する場合に、レベル制限部25によりリセット処理が行われて、信号レベルがL−Hiに維持される処理が行われる。
【0074】
このようにして、楽曲と楽曲の間や、音源ソースの切り替えの間のように、一時的に無音部分が発生して信号レベルが大きく低下する場合であっても、レベル制限部25により信号レベルがL−Hiに維持されるため、アタックリリース時間制御部12において、次の楽曲の開始時や、音源ソースの切り替え直後などに、大きなアタック時間判定値や大きなリリース時間判定値が出力されることを抑制することができる。
【0075】
[レベル制御部]
レベル制御部13は、アタックリリース時間制御部12において求められたアタック時間判定値およびリリース時間判定値などを利用することにより、入力信号の音量変動(信号レベル変動)を抑制(低減)させるためのダイナミックレンジ制御信号を生成する役割を有している。
【0076】
図7は、レベル制御部13の概略構成を示したブロック図である。レベル制御部13は、図7に示すように、アタックリリースフィルタ部42と、アタックリリース係数テーブル部43と、ルックアップテーブル部44とを有している。
【0077】
アタックリリース係数テーブル部43は、図8(a)に示す対応関係のような、アタック時間判定値の値に基づいて決定されるアタック時間(補正時間)が示されたアタック時間変換テーブルと、図8(b)に示す対応関係のような、リリース時間判定値の値に基づいて決定されるリリース時間(補正時間)が示されたリリース時間変換テーブルとを備えている。アタックリリース係数テーブル部43は、アタックリリース時間制御部12より入力されるアタック時間判定値を用い、アタック時間変換テーブルに基づいてアタック時間を決定し、また、アタックリリース時間制御部12より入力されるリリース時間判定値を用い、リリース時間変換テーブルに基づいてリリース時間を決定する。
【0078】
アタック時間変換テーブルは、図8(a)に示すように、アタック時間判定値が大きい値であればあるほど、アタック時間が小さくなるように設定されているため、音源より入力される入力信号の音量変化量(信号レベルの変化量)が大きくなると、音量制御の応答速度(補正の処理速度)が速くなり、音源より入力される入力信号の音量変化量が小さくなると、音量制御の応答速度(補正の処理速度)が遅くなる。これにより、音源からの入力信号における信号レベルの変動状態に応じて制御速度(補正の処理速度)が変化し、急激な音量変化や緩やかな音量変化においても聴感上で違和感のない最適な制御を行うことが可能となる。この特徴は、図8(b)に示すリリース時間変換テーブルに関しても同様であり、入力信号における信号レベルの変動状態に応じて制御速度(補正の処理速度)が変化し、急激な音量変化や緩やかな音量変化においても聴感上で違和感のない最適な制御を行うことが可能となる。
【0079】
なお、図8(a)に示すアタック時間変換テーブルおよび図8(b)に示すリリース時間変換テーブルにおいては、それぞれタイプA〜タイプCで示された3種類の時間変換テーブルが示されている。タイプAは全体的に制御速度を遅くしたものであり、タイプCは制御速度を速くしたものであり、タイプBはタイプAとタイプCとの中間の制御速度にしたものである。このような複数種類の時間変換テーブルを用いることにより、聴取者が嗜好に応じて時間変換テーブルを選択する構成にしたり、圧縮された音楽ファイルのヘッダーファイル情報等を読み取り、ヘッダーファイル情報から音楽ファイルのジャンル情報に応じて時間変換テーブルを変更(選択)する構成としたりすることが可能となる。
【0080】
例えば、音源のジャンルがロックのような変動が激しい楽曲である場合には、制御速度が速い時間変換テーブルを選択して応答を良くすることでロックのリズム・テンポを損なうことがなくなり、クラシックのようにダイナミックレンジが広く、比較的緩やかに変動する楽曲である場合には、制御速度が遅い時間変換テーブルを選択して急激な音の押さえ込みを低減することによりクラッシックらしい特徴を生かして音量制御を行うことが可能となる。
【0081】
アタックリリースフィルタ部42は、アタックリリース係数テーブル部43より取得したアタック時間とリリース時間とに応じた応答速度になるように、レベル検出信号にフィルタリング処理を行い、信号を平滑化する処理(音量変動の抑制処理)を行う。
【0082】
ルックアップテーブル部44は、アタックリリースフィルタ部42におけるフィルタリング処理により平滑化された信号(アタックリリース出力信号)の信号レベル変換を行う。さらに、ルックアップテーブル部44は、アタックリリース出力信号のサンプリングレートの変換処理を行うことにより、音源より入力された入力信号と同じサンプリングレートになるように制御タイミングの調整を行い、ダイナミックレンジ制御信号として、乗算部10へと出力する。
【0083】
図9は、ルックアップテーブル部44におけるレベル変換特性を示した図である。図9に示すレベル変換特性のグラフでは、−14dBよりも大きな入力信号(アタックリリースフィルタ部42において平滑化されたされた信号)に対して、出力信号(ルックアップテーブル部44において出力される信号:ダイナミックレンジ制御信号)が−14dBに抑えられるように設定が行われてからレベル変換処理が行われる。
【0084】
図9に示すレベル変換特性に基づいて抑制される出力信号の信号レベルの値は、ターゲットレベルと呼ばれ、図9においては、一例として−14dBの設定がされている。図9に示すターゲットレベルの値(−14dBの値)は、一例であって−14dBには限定されない。ターゲットレベルは、上述したL−LowとL−Hiとの間の信号レベルが設定される。ターゲットレベルの設定により、乗算部10に出力されるダイナミックレンジ制御信号の信号レベルを抑制することが可能となる。この信号レベルの抑制により、乗算部10において乗算処理された信号の均一化を図ることができ、さらに、音量が聴感上ふらふらしないような信号レベルを確保することが可能となる。
【0085】
また、ターゲットレベルの信号レベルは、L−LowとL−Hiとの間の値となっている。このため、リセット処理により信号レベルがL−Hiに設定されてしまった場合には、本来の信号レベルよりも高い信号レベルの設定がされてしまっているので、ターゲットレベルに信号レベルを抑制しなければ、乗算部10において高い信号レベルからなるダイナミックレンジ制御信号が乗算されてしまうことになる。一方で、リセット処理により信号レベルをL−Hiに設定しなければ、先曲の終了後であって次曲が始まる際などに、はじめの信号レベルが急激に高くなってしまうおそれがある。
【0086】
このため、レベル検出部11のレベル判定部24およびレベル制限部25においてリセット処理を行って、信号レベルをL−Hiに維持することにより、楽曲と楽曲の間に無音部分が存在する場合や、音源ソースの切り替えの間のように無音部分が存在する場合、無音部分で一時的に信号レベルが大きく低下し、その後に次曲が再生される場合であっても、出力される信号の信号レベルが急激に高くなってしまうことを防止することができる。さらに、ルックアップテーブル部44で信号レベルをターゲットレベルに抑制することにより、高い信号レベル(L−Hi)に基づくダイナミックレンジ制御信号が、乗算部10で入力信号に乗算されてしまうことを防止することが可能となる。
【0087】
なお、ルックアップテーブル部44から出力される信号(ダイナミックレンジ制御信号)は、アタック時間判定値やリリース時間判定値が小さい場合に、アタック時間やリリース時間が長くなり、非常に緩やかな制御信号となる。このため、アタック時間判定値やリリース時間判定値が小さい場合には、音の変動感は聴感上ほとんど発生しない。
【0088】
次に、本実施の形態に係る音量制御装置1において、レベル判定部24およびレベル制限部25によるリセット処理が行われる場合と行われない場合との出力信号の信号レベル変化を説明する。図10〜図13は、乗算部10に入力される入力信号の信号レベル(レベル検出部11の実測レベルに相当する信号。但し、ゲインオフセットは0dBである。以下、入力レベルとする)と、レベル制御部13より出力されるダイナミックレンジ制御信号の信号レベル(以下、ゲインとする)と、乗算部10において入力信号にダイナミックレンジ制御信号が乗算された(適用された)後の信号の信号レベル(以下、出力レベルとする)との時間変化を示した図である。
【0089】
より詳細には、入力レベルがT−Hi以下の値になってから、時間T0だけ経過する前に入力レベルがT−Low以下になった場合であって、リセット処理がレベル検出部11において行われた場合の信号レベル変化が図10に示されており、リセット処理が行われない場合の信号レベル変化が図11に示されている。
【0090】
また、入力レベルがT−Hi以下の値になってから時間T0だけ経過するまでの間に、入力レベルがT−Low以下にならず、T−HiとT−Lowとの間の信号レベルを時間T0だけ維持した場合であって、リセット処理がレベル検出部11において行われた場合の信号レベル変化が図12に示されており、リセット処理が行われない場合の信号レベル変化が図13に示されている。
【0091】
なお、図10〜図13では、CD(コンパクトディスク)の聴取時などにおいて先曲の信号レベルが減衰して無音区間が生じ、この無音区間を挟んで次曲の演奏が開始される状況における信号レベル変化を示している。また、図10〜図13に示す場合において、ターゲットの信号レベルは−14dB、T−Lowは−75dB、T−Hiは−55dB、L−Lowは−40dB、L−Hiは−7dB、時間T0は1秒に設定されている。
【0092】
図10に示すように、先曲(音源1)の信号レベルが低下して入力レベルが減衰すると、入力レベルの低下に伴ってダイナミックレンジ制御信号のゲインが0dBへと向かい、入力レベルがT−Lowよりも低い値となったときから、ΔT時間後に、リセット処理が開始される。ここで、ΔT時間は、実際の音量制御装置1の処理に伴って生ずる遅延時間であり、例えば、アタック最大値ホールド部35におけるアタック信号の所定時間ホールド処理およびリリース最大値ホールド部36におけるリリース信号の所定時間ホールド処理などにより生ずる遅延時間などが影響したものである。
【0093】
また、リセット処理において、L−Hiは、−7dBに設定されているが、ターゲットレベルが−14dBに設定されているので、ターゲットレベルに信号レベルを抑制するためのダイナミックレンジ制御信号のゲインは、リセット処理開始時に−7dBとなる。さらに、リセット処理において、レベル検出部11においてレベル検出信号の信号レベルがL−Hi(=−7dB)に制限された状態となる。
【0094】
このような状態において次曲の再生が開始されると、入力信号の実測レベルが上昇してリセット処理が解除される。このとき、レベル検出部11においてレベル検出信号の信号レベルがL−Hi(=−7dB)に制限された状態から、次曲の再生が開始されるため、次曲の音量レベルが大きい場合であっても、急激に大きな信号レベルで再生されてしまうことを防止することが可能となる。
【0095】
一方で、図11では、図10においてリセット処理が行われない場合を示している。先曲(音源1)の終了とともに、ダイナミックレンジ制御信号のゲインが0dBに向かい、その状態から次曲の再生が開始されると同時に信号レベルの押さえ込みがレベル制御部13において実行されるため(次曲が再生される前の無音部分においては、信号レベルの押さえ込みが行われていないため)、次曲の信号レベルが大きい場合などにおいては、急激に大きな信号レベルで、曲はじめの再生が開始されてしまうおそれが生ずる。
【0096】
図12に示す音源2では、入力信号の入力レベルがT−Hiよりも低い値に低下した後に、入力レベルがT−Lowよりも低い値にならない。このため、先曲が終了し、入力レベルがT−HiとT−Lowとの間を時間T0だけ維持した後(より詳細には、時間T0+ΔT経過後)に、リセット処理が開始され、次曲の再生が開始されて入力信号の信号レベルがT−Hiよりも高い値になった場合に、リセット処理が解除される。図12に示す場合においても図10に示す場合と同様に、リセット処理中に、レベル制御部13でL−Hi(−7dB)の制限が掛けられており、ターゲットレベルに信号レベルを抑制するために、ダイナミックレンジ制御信号のゲインは、−7dBとなる。
【0097】
図13では、図12においてリセット処理が行われない場合を示している。先曲(音源2)の終了とともに、ダイナミックレンジ制御信号のゲインが0dBに向かい、その状態から次曲の再生が開始されると同時に信号レベルの押さえ込みがレベル制御部13において実行されるため(次曲が再生される前の無音部分においては、信号レベルの押さえ込みが行われないため)、次曲の信号レベルが大きい場合などにおいては、急激に大きな信号レベルで、曲はじめの再生が開始されてしまうおそれが生ずる。
【0098】
以上説明したように、本実施の形態に係る音量制御装置1では、アタックリリース時間制御部12において、レベル検出信号の信号レベル変化に応じた時間判定値(アタック時間判定値およびリリース時間判定値)を求め、レベル制御部13において求められたアタック時間判定値およびリリース時間判定値などを利用することにより、入力信号の音量変動を抑制(低減)させるためのダイナミックレンジ制御信号を生成する。このダイナミックレンジ制御信号は、音源より入力される入力信号の音量変化量が大きくなると、音量制御の応答速度が速くなり、音源より入力される入力信号の音量変化量が小さくなると、音量制御の応答速度が遅くなるように信号値が決定される。
【0099】
しかしながら、楽曲と楽曲との間に無音部分が存在したり、音源ソースの切り替えが行われるタイミングにおいて無音部分により信号レベルが低下した後に、急激に信号レベルが増加すると、再生開始時に過大な信号レベルで次の曲の再生や、新しい音源ソースの再生が行われてしまうおそれがあった。
【0100】
本実施の形態に係る音量制御装置1では、レベル検出部11においてレベル判定部24およびレベル制限部25を設けて、入力される信号の信号レベルがT−Low以下の値となった場合、あるいは、T−HiとT−Lowとの間を時間T0だけ維持した場合に、信号レベルをターゲットレベルよりも高い信号レベルであるL−Hiに維持するので、次曲の開始時や音源ソースの切り替え後などにおいて、入力信号の音量変化量が大きくなってしまうことを抑制することができ、過大な信号レベルで再生処理が行われてしまうことを効果的に抑制することが可能となる。
【0101】
さらに、ルックアップテーブル部44において、乗算部10において乗算されるダイナミックレンジ制御信号の信号レベルをターゲットレベルに抑制することにより、L−Hiの値に増大された信号レベルのダイナミックレンジ制御信号が、入力信号に乗算されてしまうことを抑制することが可能となる。このように信号レベルを、ターゲットレベルに抑制することにより、音量制御装置1より出力される出力信号の音量(信号レベル)の均一化を図ることが可能になるとともに、音量のふらつきを抑制することが可能となる。
【0102】
以上、本発明に係る音量制御装置について、一例を示して詳細に説明を行ったが、本発明に係る音量制御装置は、上述した実施の形態には限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0103】
本実施の形態に示した音量制御装置1では、入力信号に基づいて求められるアタック時間判定値およびリリース時間判定値に基づいて補正信号の調整を行う制御装置を例示して説明したが、例えば、国際公開第2010/005034号において開示された発明のように、入力信号を長時間だけ最大値ホールドさせて長時間の信号レベル変化を検出した第1変化信号(第1最大値ホールド信号)に基づいて、アタック時間判定値およびリリース時間判定値を求めて、迅速な信号レベルの変動量に対応する補正信号の調整を行うとともに、入力信号を短時間だけ最大値ホールドさせて短時間の信号レベル変化を示す第2変化信号(第2最大値ホールド信号)を用いて緩やかな信号レベルの変動量に対応する補正信号の調整を行う音量制御装置においても、本発明に係る音量制御装置の構成を応用することが可能である。
【0104】
国際公開第2010/005034号に開示された音量制御装置に対して、第1変化信号および第2変化信号の信号レベルがT−Lowより低い値となった場合や、T−HiとT−Lowとの間の信号レベルと時間T0だけ維持した場合に、リセット処理により信号レベルをL−Hiに設定・維持する構成を採用することにより、本実施の形態と同様の効果を奏することが可能である。
【符号の説明】
【0105】
1 …音量制御装置
10 …乗算部(乗算手段)
11 …レベル検出部
12 …アタックリリース時間制御部(アタック時間制御手段)
13 …レベル制御部(レベル制御手段)
21 …最大値検出部
22 …実効値検出部
23 …第1ゲインオフセット部
24 …レベル判定部(レベル判定手段)
25 …レベル制限部(レベル調整手段)
32 …デシベル変換部
33 …HPF部
34 …第2ゲインオフセット部
35 …アタック最大値ホールド部
36 …リリース最大値ホールド部
42 …アタックリリースフィルタ部
43 …アタックリリース係数テーブル部
44 …ルックアップテーブル部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力信号の信号レベルを調整情報に基づいて調整してレベル検出信号を生成するレベル調整手段と、
前記入力信号の信号レベルを検出し、検出された信号レベルに基づいて前記信号レベルの調整を行うための前記調整情報を決定して前記レベル調整手段に出力するレベル判定手段と、
前記レベル調整手段により信号レベルの調整が行われたレベル検出信号の信号レベルを検出し、検出された前記信号レベルが正側へ増加する場合に増加した前記信号レベルの変動量に基づいて、当該変動量に比例した値を示すアタック時間判定値を求めるアタック時間制御手段と、
前記入力信号の信号レベルの補正を行う補正信号であって、前記アタック時間制御手段により求められたアタック時間判定値に比例して前記補正の処理速度を速くする補正信号を、前記レベル検出信号に基づいて生成するレベル制御手段と、
該レベル制御手段により生成された前記補正信号を前記入力信号に乗算させることにより前記入力信号の信号レベルを補正する乗算手段と
を有し、
前記レベル判定手段は、
前記入力信号の信号レベルがT−Lowよりも低い値となる場合に前記入力信号の信号レベルをL−Hiに維持させる調整情報を前記レベル調整手段に出力し、
前記入力信号の信号レベルがT−Hi以上の値となる場合に前記入力信号の信号レベルの調整を行わない調整情報を前記レベル調整手段に出力する
ことを特徴とする音量制御装置。
但し、前記L−Hiの値と、前記T−Hiの値と、前記T−Lowの値とは予め設定され、L−Hi>T−Hi>T−Lowの関係を有する。
【請求項2】
入力信号の信号レベルを調整情報に基づいて調整してレベル検出信号を生成するレベル調整手段と、
前記入力信号の信号レベルを検出し、検出された信号レベルに基づいて前記信号レベルの調整を行うための前記調整情報を決定して前記レベル調整手段に出力するレベル判定手段と、
前記レベル調整手段により信号レベルの調整が行われたレベル検出信号の信号レベルを検出し、検出された前記信号レベルが正側へ増加する場合に増加した前記信号レベルの変動量に基づいて、当該変動量に比例した値を示すアタック時間判定値を求めるアタック時間制御手段と、
前記入力信号の信号レベルの補正を行う補正信号であって、前記アタック時間制御手段により求められたアタック時間判定値に比例して前記補正の処理速度を速くする補正信号を、前記レベル検出信号に基づいて生成するレベル制御手段と、
該レベル制御手段により生成された前記補正信号を前記入力信号に乗算させることにより前記入力信号の信号レベルを補正する乗算手段と
を有し、
前記レベル判定手段は、
前記入力信号の信号レベルがT−Hiの値とT−Lowの値との間を所定時間T0だけ維持した場合に、前記入力信号の信号レベルをL−Hiに維持させる調整情報を前記レベル調整手段に出力し、
前記入力信号の信号レベルがT−Hi以上の値となる場合に前記入力信号の信号レベルの調整を行わない調整情報を前記レベル調整手段に出力する
ことを特徴とする音量制御装置。
但し、前記L−Hiの値と、前記T−Hiの値と、前記T−Lowの値とは予め設定され、L−Hi>T−Hi>T−Lowの関係を有する。
【請求項3】
前記レベル制御手段は、生成された前記補正信号の信号レベルを、前記L−Hiよりも低い値に制限し、
前記乗算手段は、前記L−Hiよりも低い信号レベルに制限された前記補正信号を前記入力信号に乗算させる
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の音量制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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